神経疾患における脳波・筋電図 · 2018-02-10 · (東女医大誌第54巻第10号) 頁...

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(東女医大誌第54 巻第10 号) 917-934 昭和59 10 J 神経疾患における脳波・筋電図 東京女子医科大学脳神経センター 神経内科学教室(主任:丸山勝一教授〉 助教授小林 逸郎 (受付昭和59 8 2日〉 Electroencephalogram and Electromyogram in Neurological Disorders It suro KOBAYASHI M.D. Department of Neurology (Director:Prof.Shoichi MARUYAMA) Neurological Institute Tokyo Women's Medical Collage 23 Applicationofelectronicdevicestothe detectionofmus c1 eandnervederangement considerably improves diagnosis and interpretation of neurological disorders. Paticula r1 y because ofadvances in technology andrefinementsof apparatus electroneuromyography isnow recognized sa valuable tool for making differential diagnosis in neurology. Knowleadgeofthefundamentalsofelectrophysiologictechniquesisimportantforneurologist.The primarypurposeofthisreviewistobring into focusthe main c1 inicalapplicationsofelectrophyiologyin neurology. 1 haveincludeddataandtracingsthathadbeenstudiedinourdepartment.1 hopeandexpectthat graduate students and residents willfindthisreviewhelpfulintheirparticularareas ofstudyand prac tI ce. 目次 緒己 1 .総論 1.神経疾患における脳波・筋電図検査の意義 2. 神経疾患の病態把握や診断に用いられる筋電 図・脳波の検査とその種類 3. 脳波・筋電図検査の対象となる神経疾患 II. 各論 1.脳波 2. 事象関連電位 1)視覚誘発電位 2)聴覚誘発電位 3) 体性感覚誘発電位 3. 筋電図 1)正常筋電図 2) 異常筋電図 4. 末梢神経伝導速度 5. H波・ M.F 1) H 波の潜時 917 2) H 波回復曲線 3) 頻度抑制曲線 4) F 6. long loop reflex 7. 瞬目反射 8. 末梢神経反復刺激による誘発筋電図 9. 不随意運動 1)振戦 2) ミオクローヌス, (付)アステりクシスと ncgativemyoclonus 3) 舞踏病様運動 4) パリズム 5) アテトーゼ様運動, (イ寸〉舞踏病アテトーゼ, 錐体外路症状 6) ジストニ一様運動 7) 口ジスキネジー 8) チック 9)坐位保持不能 10) けいれん

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(東女医大誌第54巻第10号)頁 917-934 昭和59年10月J

神経疾患における脳波・筋電図

東京女子医科大学脳神経センター 神経内科学教室(主任:丸山勝一教授〉

助教授小林 逸郎

(受付昭和59年 8月2日〉

Electroencephalogram and Electromyogram in Neurological Disorders

Itsuro KOBAYASHI, M.D. Department of Neurology (Director: Prof. Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute

Tokyo Women's Medical Collage

23

Application of electronic devices to the detection of musc1e and nerve derangement considerably

improves diagnosis and interpretation of neurological disorders. Paticular1y because of advances in

technology and refinements of apparatus, electroneuromyography is now recognized日sa valuable tool for

making differential diagnosis in neurology.

Knowleadge of the fundamentals of electrophysiologic techniques is important for neurologist. The

primary purpose of this review is to bring into focus the main c1inical applications of electrophyiology in

neurology.

1 have included data and tracings that had been studied in our department. 1 hope and expect that

graduate students and residents will find this review helpful in their particular areas of study and

practIce.

目次

緒己

1 . 総論

1.神経疾患における脳波・筋電図検査の意義

2. 神経疾患の病態把握や診断に用いられる筋電

図・脳波の検査とその種類

3.脳波・筋電図検査の対象となる神経疾患

II.各論

1.脳波

2. 事象関連電位

1)視覚誘発電位

2)聴覚誘発電位

3)体性感覚誘発電位

3.筋電図

1)正常筋電図

2)異常筋電図

4.末梢神経伝導速度

5. H波・ M波 .F波

1) H波の潜時

917ー

2) H波回復曲線

3)頻度抑制曲線

4) F波

6. long loop reflex

7. 瞬目反射

8.末梢神経反復刺激による誘発筋電図

9.不随意運動

1)振戦

2) ミオクローヌス, (付)アステりクシスと

ncgative myoclonus

3)舞踏病様運動

4)パリズム

5) アテトーゼ様運動, (イ寸〉舞踏病アテトーゼ,

錐体外路症状

6)ジストニ一様運動

7) 口ジスキネジー

8) チック

9)坐位保持不能

10)けいれん

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11)連合運動

結 語

文献

緒 日

近年,神経疾患における脳波・筋電図学的検査

法の進歩はめざましいものがみられる.生理学的

検査は臨床症状の“写じ¥すなわちその病態をと

らえるのにもっぱら用いられ,機器の進歩ととも

に診断ならびに経過観察における有用性が増して

きている.

以下,脳波・筋電図の最近の知見ならびにわれ

われの教室で行なっている臨床生理学的検査を中

心に記し,その意義について述べることとする.

1.総論

1.神経疾患における脳波・筋電図検査の意義

神経疾患の診断については,ベッドサイドにお

ける臨床神経学的な手技が重要で, この手11買によ

りかなり高率に診断が可能である.通常ベットサ

イドにおける臨床神経学的手技により疾患の診断

についての印象づけがなされ, さらにそれを裏づ

けるための,あるいはさらに詳細な情報を得るた

め,あるいは疾患の病態をより明確にとらえ,治

療方針の立て方や経過観察に資するために必要な

補助検査が実施される.

脳波・筋電図はいずれも生体の電気活動を基礎

にした生理学的手法を用いた検査で,脳や神経・

筋の機能を把握しようとするものである.

2.神経疾患の病態把握や診断に用いられる筋

電図・脳波の検査とその種類

筋電図,脳波はいずれも生体の電気現象を増幅

して観察するものである.筋電図は通常針電極を

用い,筋に刺入し,運動単位の活動電位を記録す

る.得られた電位の波形,発射パターンの観察と

解析が安静時と筋収縮時には行なわれている.最

近では活動電位パターンについて,波形の種類,

振幅,周波数など種々の要素に分けてコンビュー

ターにより定量解析を自動的に行ない,疾患診断

をしようとする試みがなされている 1)

運動神経を連続刺激し,筋電図反応を観察する

誘発筋電図法があり,この方法では神経・筋接合

部を詳細に観察することができ,重症筋無力症や

その類縁疾患の診断や病態をとらえることが可能

である.実際には連続刺激による第 1発の反応を

基準にして,それと第 2反応以降のものとを比較

するもので,波形や振幅の変化が観察の対象にな

る.

運動神経伝導速度は誘発筋電図を用い,筋活動

電位の潜時を指標として測定されるもので, この

方法は障害をある程度客観的にとらえることがで

き,ニューロパチー,神経根障害,脊髄障害など

の鑑別に応用されているベ運動神経伝導速度と

同様に,感覚神経伝導速度の測定も行なわれてし、

る.この測定には,順行性刺激による方法と逆行

性刺激による方法があり,またこのほかに脊髄反

射や大脳誘発電位を用い,感覚神経伝導速度を測

定することが行なわれている幻.

最近ではこれら粗大電極を用いて測定する方法

のほかに,微小電極を用い,徴小神経電図法が可

能となり,感覚神経線維の種類に応じ,伝導速度

障害の程度を知ることができるようになった叫.

特殊な導出電極を用いることにより単一筋線維

の活動を分離して記録することができるようにな

り, single fiber EMGとして臨床応用が行なわれ

ている.この方法によって測定される jitter現象

には各神経,筋疾患により違いがあるので,病態

の把握や診断に役立っている.また, single fiber

EMGでは電極刺入によって記録できる筋線維密

度を測定でき,運動ニューロン疾患や末梢神経障

害,筋ジストロフィー症などでは増大し,診断に

有用とされている5)

躍の叩打による筋の収縮性活動電位を記録した

T波や,支配神経を刺激し反射性の活動電位を記

録したH波は,神経疾患の病態の解析や診断にも

広く応用されている6) 最近, H波回復曲線の解

析, F波, C-responseなど各種神経疾患に応用さ

れ,病態,病期をとらえるのに有用であるとの報

告がなされている.これらについては,当神経内

科学教室の知見を各論で述べてみたい.

針電極による筋活動電位の導出は細かし、変化を

検出するには有用であるが,筋全体の活動を知る

ためにはむしろ微細すぎて分りにくい.このよう

な目的にはむしろ表面電極を活用した方法を用い

918-

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れば,多数の筋について広汎に活動電位を同時記

録することができるため筋活動の協同的な動きを

とらえ,不随意運動や筋緊張異常の病態を知るの

に極めて有用である.実施にあたっては脳波計を

用い,筋活動電位を導出する.脳波は自発性活動

電位を細胞外から集合電位として記録したもの

で,通常頭皮上から電極を種々の位置において導

出される.導出された脳波については,周波数,

振幅, i立相,波形,量や持続,反応や変化など種々

の要素に分けて観察されている.これらそれぞれ

についてもパターンとして,定性的に判定されて

いるが,最近ではこれらのものについての定量的

分析も行われている.自発脳波の分析としては相

関分析や周波数分析が行なわれている幻

脳波は周波数によつて種々のものに分けられて

いるが,通常周波数を δ,fJ, α,α2,βの5帯域に

分けその出現率の形で表現されている.賦活の方

法としては過呼吸,睡眠,光,音刺激,メジマイ

ド,メトラゾールなどの薬物投与など種々のもの

がある.これらの賦活により異常波が出現したり,

増加したりするので,病態の把握,診断に有用で

ある 7)

通常の頭皮上電極と鼻咽頭内の電極を組み合わ

せて用いることによって側頭葉病変の診断に有用

な鼻咽頭誘導法もある7)

また脳波異常を検出したり,他の臨床所見との

対比をより詳細に検討するため終夜脳波記録の方

法がとられている.終夜脳波記録は夜間における

睡眠の分析や,自律神経活動やホルモン分泌との

関連について研究がなされて,多くの興味ある知

見が得られている8)

脳の電気現象を応用した臨床的な検索のもう一

つの方向には,感覚刺激や運動刺激を与え,それ

に対応する脳の電気反応の状況を導出する体性感

覚誘発電位,視覚誘発電位,聴覚誘発電位,運動

関連脳電位など種々のものがあり,臨床症状に応

じてそれぞれ区別して実施される9)

3.脳波・筋電図検査の対象となる神経疾患、

通常の脳波検査は,てんかん,脳血管障害,脳

腫蕩,脳膿蕩,各種の脳炎,中枢神経の変性疾患,

頭部外傷,中枢神経の中毒性障害,各種の内分泌

25

代謝性疾患,謬原病など多くの疾患で実施されて

いる.ここにあげた疾患をまとめると,中枢神経

ことに脳の各種の疾患すべてが対象となるが,こ

の中でも検査実施の緊急度は疾患により異なる.

脳波検査が最も重要な疾患はてんかんである.

てんかんでは病歴聴取が重要で,通常,ベッドサ

イドでの神経学的検査では他覚的所見に乏しい.

しかし,脳波では異常を呈することが多く,しか

もてんかんの種類によって特徴的な脳波所見を呈

するので診断に有用である.すなわち,特異な波

形の出現,発作波の出現頻度,持続,異常波の出

現部位,異常波の出現条件ことに誘発条件などの

各要素を組合わせて観察することにより,てんか

んの大発作,精神運動発作,ジャクソン型発作,

小発作, 自律発作, ミオクローヌスてんかんなど

を診断しうる.また,てんかんでは経過に応じて

脳波検査をくり返すことにより,子後の判定にも

有用であり,薬物治療に対しても重要な参考とな

る7)

脳血管障害では脳機能を把握するうえで脳波は

重要な指標となる.脳幹の出血,梗塞ではそれぞ

れαー昏睡, β・昏睡がみられ,鑑別診断上脳波の役

割は大きい.脳動脈硬化症ではび慢性 α波の出現

で,脳波上の特異性もみられる 10)

脳腫療では脳血管障害と類似したパターンを呈

するが,経過と共に悪化する.双極導出法による

位相逆転により,脳腫蕩の部位診断が可能であ

る7)

脳炎では意識障害の程度や病変の広がりなどの

診断に有用である.脳炎の中でも特殊な型例えば

亜急性硬化性全脳脳炎では周期性異常波 CPSD)

がみられ特異的とされているが, PSDはCreutz-

f巴ldt-Jakob病でもみられる.

この 2つの疾患では PSDの周期や持続期聞が異

なるので鑑別される 11)

変性疾患における脳波異常もしばしば認められ

るが,老年者に多い疾患のため背景にある脳動脈

硬化症による所見が重なって,変性疾患自体のも

のとの鑑別がむつかしいことがある 12)

内分泌代謝性の中枢神経障害では脳波異常が高

率にみられる.肝性脳症でみられる三相波は診断

919-

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-ーーーー-'

図 l 肝性脳症の脳波(三相波〉

上重要である(図1).肺性脳症では,臨床症状が

出現する以前に脳波異常があらわれるので早期に

診断し得る 13)

各種の中毒による中枢神経障害でも脳波異常が

みられるが,中毒物質による脳波特異性はみられ

ない.脳波異常とは脳機能低下,意識障害の程度

などを示す.マイナートランキライザーの使用で

は脳波が速波化するので,脳波判読上注意を要す

る14)

筋電図は運動ニューロン疾患,ニューロパチー,

ミオパチー,重症筋無力症, Eaton-Lambert症候

群などの神経,筋疾患の診断や病態把握のため広

く使用されている.ニューロパチーは筋電図異常

のほかに神経伝導速度などを組合せることにより

障害部位を推定することも可能である. ミオノ4

チーの中でも多発筋炎,進行性筋ジストロフィー

症,筋強直性ジストロフィー症などではそれぞれ

特徴的な筋電図所見を呈するので鑑別し得る.重

症筋無力症, Eaton-Lambert症候群では,先に述

べた誘発筋電図測定にて waning,waxing現象の

出現などが診断に役立つ2)5)15)

表面筋電図は,パーキンソン病,ハンチントン

舞踏病,ミオクローヌス,へミパリズム,アテトー

920

ゼ,ジストニー,アステリクシスなどの不随意運

動の診断や病態把握に役に立つ16)

11.各論

1.脳波

脳波検査の記録法,賦活法,判読・判定法のほ

か,主要な臨床病態でみられる脳波像については

成書が多数であるので紹介にとどめたい川17)

2.事象関連電位

被検者に刺激(光,音,電気など〉を与えたり,

被検にある種の運動をさせ,その際に生じる電位

を記録したものが事象関連電位である.視覚誘発

電位,聴覚誘発電位,体性感覚誘発電位,短潜時

体性感覚誘発電位などがあり,それぞれについて

われわれ神経内科学教室におけるデータを基礎と

して述べる.

1)視覚誘発電位 (visual evoked potential,

VEP), 閃光刺激法と図形逆転 (patternrever-

saI)刺激法

電極を後頭部(中心線上後頭結節より 3cm上〉

におき,基準電極は同側の耳染または両側の耳栗

を連結したものを用いる.増幅器はメデレック社

製モジュール式筋電計 MS6を用い,時定数0.3秒,

high cut 32 Hzで分析時間300msecを用いる.閃

光刺激は眼前40cm前後の所においたストロボス

コープから, 1-2秒に 1回の閃光刺激を64回与

える.刺激は両眼および単眼ずつ行なう.図形刺

激は被検者を椅子に坐らせ,あご台の上にあごを

乗せさせて頭を固定し,固視点を見つめさせ,図

形を提示する.われわれの閃光刺激による視覚誘

発電位の各成分の頂点潜時は表 1の如くである.

正常渡形を図 2に示す.臨床応用として単眼刺激

による反応を正常眼と両眼間で比較することによ

り,視神経病変の検査が可能である.多発性硬化

症,腫蕩などによる視神経圧迫の診断の応用, ヒ

ステリーや訴病による盲目の診断,および血管障

表 1 VEP(No口nalControD

41.6:t 4.4 msec

II 54.5:t 5.1

II 78.5:t 5.4

IV 91.8士17.4

V 106.0:t29.0

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uu μ'

ra nr-

n

H

U

ρ

b

ili--1111」開m川ー

WV

v;v iV l i !

lPL IIIIiil ill.VI 卜一寸I.V卜一一一一→

図3 Normal ABR

H

E

10μv

100msec

II m IV V

41.6土4.4 54.5:!:5.1 78.5土5.4 91.8:!:17.4 106.0士29.0

Norm旦1VEP 図 2

いる 2べこれらの波の絶対的な潜時は,種々の生理

学的な要因によって変動し,個体問および個体内

での変動が大きいため, I~III , III~V, I~V の各

頂点間潜時Cinterpeaklatency; IPL)を計測す

ることにより一定の値が得られる.異常の判定は,

① IPLの延長,② 1,III, V波の欠損を根拠として

いる

神経内科における ABRの臨床応用は多数の報

告にみられる通りである.ここでわれわれの報告

した一部を提示する.変性疾患における ABRの

異常はかなり高率に認められ(表 3,図 4),ABR

異常と病期・病態とがよく一致し,変性疾患にお

ける病期・病態をとらえるのに有用な検査と考え

られる24)25)

脳血管障害特に小脳・脳幹部血管障害と ABR

異常との関連についての報告がみられる.われわ

れは,軽症~中等度の小脳・脳血管障害について

検討を加えた叫22) 図 5は橋の小出血巣と ABR

害や腫蕩による視野欠損の客観的評価と経過追跡

などに応用価値がある.

2)聴覚誘発電位 (auditorybrainstem evoked

response, AB(E)R)

クリック刺激に対する聴覚路の反応で, 1971年

JewettとWillistonl8)が刺激後10cmsec以内に 7

成分をヒトの頭皮から記録した.以来 farfield誘

発電位として急速に発展し,現在では脳幹部腫

虜19),血管障害制-22)多発性硬化症m,変性疾患叫25)

などの診断,病態把握に応用されている.

われわれの ABRの記録は既報20)25)の通りであ

る.表 2,図 3に正常波形を健康成人の頂点潜時

を示す.健康成人では耳栗での陰性波を上向に表

示した場合,約10mseeの潜時の間に 7つの陰性

波(前額部での陽性波〉が得られる.このうち 1,

III, V波は全例で出現し,従来の知見によれば, 1

波は聴神経, III波は橋, V波は中脳由来とされて

表 2 N ormal Latencies of the Auditory Brain

stem Response

(20 controls)

表 3 N ormal and Abnormal ABR in SCD, ALS

and Parkinsois Disease(Cases)

ABR

Normal Abnormal

OPCA 7 5

LCCA 3 。SCD

Holmes 2 。Menzel 1 2

ALS 4 4

Parkinson's disease 24 7

Latencies to a 110 dBSL c1ick(msec)

921ー

SD*

0.14

0.17

0.29

0.34

0.30

0.24

0.36

0.30

ロlean

1.64

2.87

3.94

5.16

5.80

2.29

1.86

4.15

* : standard deviation

+ : inter.peak latency(IPL)

Wave & Wave interval+

I

II

III IV V

1 -III

III-V

I-V

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0.25μV

L

H

図4 オリープ・橋・小脳萎縮症 (OPCA)のABRと

CT

しtPONTINE HEMORRHAGE CASE S.H.53v. M. (N83-0.58)

Lt

Rt

との関連をみたものであるが,急性期に 1V,V波

の潜時の遅延, 1PLの遅延が認められている.興

味あることは,病巣が左で,右耳刺激時に異常披

が出現している.すなわち,病巣と反対側の刺激

により異常が出現したといえる.このように他の

症例もまとめてみると表 4の如くになる.中脳で

は病巣と刺激側の一致した症例と一致しなかった

症例は相半ばであり,橋では病巣側と刺激側が一

致した症例は 6例, 一致しなかった症例 4例で

あった.小脳ではすべて病巣と刺激側が一致して

いる.また,表 5に示すように波形の分析を各部

位ごとにみると,中脳では III-V波の異常,橋で

は1-V波の異常,小脳では II-V披の異常が認

められている.以上のことは, ヒトの聴覚路を知

図 5 橋出血の ABRとCT

表 4 Patients with Abnormal Blink Reflex in Brainstem and Cerebellar Stroke(Cases)

ABR Abnormality Lateralization

Clinical Localization Number of CT Unilateral of Lesion Cases Abnormality Bilateral Total ipsilateral contralateral

Midbrain

infarct 7 5 。 4 2 2

Pons

hemorrahge 6 6 1 5 2 3

infarct 10 7 1 5 4 1

Cerebellum

hemorrhage 1 1 1 。 。 。infarct 4 4 。 2 2 。hemorrhagic infarct 1 1 。 1 l 。

Medulla

infarct 3 。 。 l l 。Total 32 24 3 18 12 6

922ー

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29

表 5 Abnormal ABRs and IPLs in Each Stroke Lesions(Cases)

Number of Abnormal Lesion Site II III IV V 1 -III* IIl-Vホ

Cases ABRs

Midbrain 7

ipsilateral 2 。 。 2 2 2 。 2

contralateral 2 。 。 2 2 2 。 2

Pons 16

ipsilateral 6 1 2 5 6 4 2 4

contralateral 4 2 3 3 3 3 3 3

Cerebellum 6

i psila teral 3 。 2 2 2 2 。 2

contralateral 。 。 。 。 。 。 。 。Medulla 3

ipsilateral 1 。 。 1 1 1 。 l

contralateral 。 。 。 。 。 。 。 。Total 32 18 3 7 15 16 14 5 14

* : inter-peak latency(]PL)

るうえで重要な所見であると考えられる.

3)体性感覚誘発電位 (somatosensoryevoked

potential, SEP)

末梢神経の電気刺激または種々の機械的刺激に

よって中枢神経系に誘発はれる電位をいう.皮質

SEPは大脳皮質で生じた誘発電位で,その早期成

分は刺激部位に対応した感覚皮質で生じるため,

対側中心後部に限局して出現する.これに対して

短潜時 SEPは体性感覚神経路の途中(大脳皮質

へ到達する前〉で生じた電位で,皮質 SEPよりも

潜時が短い.

一対の表面電極を約3cm離して,刺激しようと

LMN-RPR

N, N2 N3 N4

v

μf kd

T1illム

百両面c

図 6 正常 SEP_LMN Oeft median nerve)-RPR

Cright post Rolandic)領域. RMN Cright median

nerve)-LPR Oeft post Rolandic)領域を示す.

する末梢神経の上におく.記録は皮質 SEPでは

基準電極を両側耳菜におき,手の感覚領野からそ

れぞれ記録する.短潜時 SEPでは,基準電極を刺

激側!と反対におき, Czより記録する.分析時聞は

皮質 SEPで、200msec,短潜時 SEPで、50msecとす

る.

皮質 SEPは200msec以内にそれぞれ 4つの陽

性頂点 (P)および陰性頂点 (N)が認められる

(図 6).P,は深部起源であり ,N,はインパルスが

視床皮質路を上行してちょうど感覚皮質に達した

瞬間に相当し,Pzが皮質ニューロンの興奮(シナ

プス後電位〉を反映すると考えられている. N3ま

でが早期成分,P4以降を後期成分と呼ぶ.短潜時

a

b

図 7 短潜時 SEP(文献27)より日|用一部改変〉

-923

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30

SEPでは18msec以内に少なくとも 3つの陽性頂

点が記録される(図 7),P,は上腕神経叢を伝導す

る活動電位を反映し, P2が脊髄後索の上行性イン

パルス,P3が内側毛帯の上行性インパルスを反映

するものと考えられる 27)28)

SEPの臨床応用の報告は数多くあり,その臨床的

意義も評価されている27) われわれも脳血管障害

(脳出血および脳梗塞〉により種々の病態を示した

症例に,早期より SEPを施行し, SEPの所見と予

後について検討した29) ここに一部の症例を呈示

したい.図8は右視床出血で,当該部の SEPは平

担波(日at)を示し,対側も後期成分の出現が悪い.

図 9は橋出血例で SEPは両側ともに平担波

Cftat) ,図10は右中大脳動脈閉塞で,当該 SEPは,

ftatである,SEPの変化は感覚障害の程度と密接

な関連を認め,SEPと予後の関連は, SEPが臼at

である程予後不良であったという結論を得てい

る29)

脳血管障害のほかに多発性硬化症における潜在

性脱髄巣の検出27),末梢感覚神経伝導速度測定へ

m 川内リ山川

一~5μV

図8 視床出血の CTとSEP

吋~

w小川~-.J2μV

図9 橋出血の CTとSEP

の応用3)27) ミオクローヌスの診断27) ノミーキソン

病における変化問などが臨床応用として活用され

ている.

短潜時 SEPは,脳幹,脊髄,末梢神経の障害に

おし、てより正確に診断および病態をとらえられる

ため当該部疾患すべてに臨床応用されている27)

3,筋電図 (electromyography,EMG)

筋電図検査とは一般に針筋電図検査のことを指

し,神経伝導速度,誘発筋電図とは異にするもの

である.

EMGはー芯同心型針電極により行い,下位運

動ニューロンの各パラメ ーター (脊髄前角細胞,

末梢神経,神経筋接合部,筋線維〉の異常を定性

的に表現する.観察は筋電計のブラウン管あるい

は連続撮影装置により記録をとって行なう.音に

よっても疾患を判別可能である.針挿入時,安静

時,随意収縮時 (弱収縮,中等度,強収縮〉の3

段階に分けて行なう .

1)正常筋電図

~51'V

図10 右中大脳動脈閉塞と SEP

924ー

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挿入時Cinsertion)電極針の挿入された瞬間に

100msecぐらいの持続時間で:'1-3mVの振幅の

人工産物が出現し, これの消失と共に基線のみと

なる(電気的静止).安静時 (atrest)では電気的

静止のみで,普通はなんの波形出現もみない.し

かし次の波形が重要である.

神経電位(nervepotential) :筋中の運動神経分

校に刺入すると50μV,2-4msecの高頻度発射

(50-100Hz)が生じ,時間と共に低頻度となる.

終板雑音 (endplatenoise) : nerve potentialに

含まれるもので,低電位,数 msecの高頻度群発で

ある.

随意収縮時 Cvoluntaryeffort) :意識的に筋に

力を入れようとすると 1個の運動単位 (neuro-

muscular unit, NMU)が出現し,収縮が強くな

るにつれて,数個の NMUの活動参加がみられ

最大収縮では複雑な波形群のみられる干渉波形

Cinterference pattern)となる.波形の多くは単相

性,二相性,三相性を示し, 1-1. 5m V, 10msecで

ある.

2)異常筋電図

①針電極挿入時および安静時

針電極挿入時に伴って群発状のミオトニー電位

(myotonic potentialまたは discharge)がみら

れ,振幅,持続時間とも減衰していき(図11),ス

ピーカーによって急降下爆撃音を呈する.筋強直

症, ミオパチー,時にはニューロパチーにもみら

れる3九安静時には,線維自発電位 (fibrillation

potential)が出現し,これは50μV,1-3msecで単

相性あるいは二相性で,発射頻度は1-30Hzで最

初の振れが陽性である.陽性鋭波(positivesharp

wave)は最初の振れは陽性部分に,ついでゆっく

MYOTONIC DISCHARGE

ヘ¥!

31

りしたドーム状陰性部分を伴って,持続時聞は20

msecと大きい.振幅は100μV-2mVとまちまち

である.線維束電位 (fasciculationpotential)は

1個あるいは数個の NMUの同期した不規則な

活動電位であり,臨床上 fasciculatonをみても

EMGでの観察は困難なことが多い.反復性活動

電位(repetitiveaction potentiaI)は数個の NMU

の順序正しいすばやい繰り返しで群発する fas-

ciculationの特別型である. 2回くり返すものを

doublet, 3回のものを triplet,それ以上を multi-

pletと呼ぶ.神経圧迫時, ミオキミア,テタニー

などにみられる.

②随意収縮時

干渉波形の低下 (reduced interference

pattern)は末梢神経障害時に,最大収縮時でも干

渉波形はみられず, 1 -2個の NMUのみ出現す

る.低振幅電位(Iowamplitude potential)は,

出現する NMU数は正常であるが,振幅のみ1/2

mV以下に低下している.筋疾患時に持続時間も

数msecと短縮している.高振幅電位 (higham-

plitude potential)は3mV以上の振幅のみられる

電位であり, NMUの同期する脊髄前角障害と末

梢神経再生時にみられる.多相性電位(polyphasic

action potential)は回復中の末梢神経系におい

て,末梢神経の伝導の遅れ,筋線維内の興奮伝導

の時間的ずれにより生ずる.数~数十相の多相性

のスパイクが出現し, 20msecを超える.しかし,

振幅は1mVを越えないが,この電位は正常筋でも

20%程度はみられる.筋疾患時, 10msec以下の持

続的問であって,多相性の電位がみられる.

4.末梢神経伝導速度 (peripheralnerve con-

duction velocity, PNCV, NCV)

神経の伝導速度は神経線維の直径や,無髄などの

CASE T.I. 44ym (N82-235)

同日,y.~抑制州州側附削門川町川山内'-M'

川,¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥1¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥1日¥¥¥¥¥¥¥¥¥¥州川州¥¥¥¥¥¥¥¥¥Ii¥¥¥¥山insertion 一~lmV

100msec

図11 Myotonic Discharge

-925ー

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32

種類によって大きい差がみられる.臨床応用さら

ている NCVは大径有髄線維による最大伝導速度

である. NCVは一点で神経を刺激し他の部位の

筋または神経から反応波をとり出すもので,運動

神経伝導速度 (motor conduction velocity,

MCV)と感覚神経伝導速度 (sensoryconduction

velocity, SCV)がある.

MCVの測定原理は神経幹の近位部,遠位部の

2点をそれぞれ刺激し,末端の支配筋より誘発電

位 (M波)を導出,両者の潜時差で 2点聞の距離

を割り, m/secの単位で表わす.測定可能な神経

は2点間で刺激可能な浅在性の神経に限られる.

上肢では正中,焼骨,肢寓神経,下肢では坐骨,

大腿,腔骨, !J:JF骨神経などである.また 2点闘で

の刺激が不可能なため伝導時間として求められる

ものに顔面神経,反回喉頭神経,副神経,横隔膜

神経などがある.

SCVの測定には順向性伝導 orthodromiccon-

dactionと逆行性伝導 antidromicconductionの

2方法である.例えば正中神経では第 2指を環状

電極で刺激,それぞれ手関節部と肘部より電位を

導出,潜時差で距離を除したものが順向性伝導速

度で, m/secの単位で表わす.逆に肘部,手関節

部をそれぞれ刺激,第 2指より神経活動電位を導,

出するのが逆行性伝導速度である.SCVの測定可

能な神経は上肢では正中,尺骨,構骨神経,下肢

では腔骨,排骨,排腹神経などである.

4. H波・ M波・ F波

Ho百man32)は,下腿三頭筋に記録電極を置き内

側膝富神経を submaximalで刺激すると 2つの

誘発波が得られることを観察した.

MagladeryとMcDougaP3)は第 lのeralywave

をM波,第 2のlatewaveはHoffmanに因んで

H波と名付けた.正常者の安静肢位ではM波はい

ずれの運動神経を電気刺激しでも誘発可能である

が H波は安静非動作時で、は一般に下腿三頭筋で、

のみ導出される(図12).

Hof妊fman3

る伸展反射は単シナプス性でで、あること示E唆愛し, ま

た MaglanderyとMcDougaP3)は最大闇値以上

(supramaxamaI)の神経刺激により誘発される振

926

H

30 V

10msec

凶12 H波.刺激強度によりM波は導出されない.

幅の小さい遅い反応をF波と呼んだ.

l)H波の潜時

H波の潜時は既報34)の京日く約26msecで, Fisher

症候群では著明に延長していた叫.その他糖尿病

性やアルコール性神経障害で、潜時の遅延をみる.

2) H波回復曲線 (H-waverecovery carve)

対刺激でH波が誘発されるとその振幅は刺激の

強さにより変化する35)H波回復曲線は test(sec-

ond) reftex (H2)が conditioning(自rst)reftex

(H,)により影響される期間を検討することにあ

る H2 は5~8msec の刺激間隔では低振幅の誘発

を認める (earlyfascilitation,初期促通).刺激間

隔を増すと20mesc位まではこの H2は減少する.

20~60msec の刺激間隔では反射は完全に抑制さ

れる (eralydepression).間隔をさらに増すと

150~200msec にかけて H2 は増加回復する (sec­

ond fascilitation). 300 ~ 800msecの間で 1時的

に少しく減退するClatedepression) (図13). こ

のようにH波回復曲線の生理学的変動は α運動

ニューロンへの複雑な干渉があるためとされる.

病的状態では筋萎縮性側索硬化症例のH波回復

曲線はH2の増加(促進化〕が認められている(図

14).

3)頻度抑制曲線

日波の振幅は刺激頻度の増加につれて著明に減

少する36) 3Hz以下では抑制されないが, 4Hzで

最大振幅の30%に減少し, 15Hzでは僅かに10%

に減少する 37) 臨床面から正常人では低頻度刺激

で中等レベルの曲線を示し,高頻度刺激では低レ

ベルの曲高泉となる.

4) F波

F波はH波とは反対にM波を導出するときより

強い刺激を必要とする. F波は運動神経に su-

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33

(%)

150

100

50

1000

msec

900 800 700 600 500 400 300 200 100 50 10 20

¥¥九

一一一 --一一-

---一一

一一.-J1 mV 20msec

¥p,,---一一一一

H-reft巴xRecovery Curve,正常 control

41111F M

ぺ3

500 msec

図13

100 130 200 300 40日

H-reftex R巴coveryCurve, ALS 図14

10 20

(%)

150

100

Stim

F波の導出(安静時)

やH波反復誘発筋電図などの解釈にあたっては,

単シナプス反射である H波を生ぜ、しめるインパル

スの一部は,脳幹,小脳などの上位中枢を介する

long loop reflex ~形成して,再び運動神経細胞に

影響をあたえるのではないかと推論されてきた.

一方, Uptonら4川主短母指外転筋に等尺性収縮

をさせて正中神経を刺激した場合,三つの反応が

得られることを報告した.第一波はM波,第二波

はH波かF波で,第三波を late response CC-

response)として, cortex由来を考えた.Conrad

とAschoff4l)は等尺性収縮よりも等張性収縮での

方が日波や C-responseが出現しやすいことを報

告した.われわれも,図16に示すように,日波,

927ー

図15

&Ill--F pramaximalの刺激が適用されるとき誘発される

低振幅の電位で, M波より長い潜時を持つ(図15).

F波の波形は刺激毎に変動し易い(図15). F波の

潜時はH波よりかなり変動する.このため潜時測

定には平均加算する方法が用いられる(図15). F

波の発現機序は一般に運動神経の逆行性刺激によ

るα運動ニューロンの興奮によるものと考えら

れている 38) われわれの検討では筋萎縮性側索硬

化症例において F波の遅延を認めた.このこと

は α運動ニューロンの興奮の障害と考えられる

が,なお,今後の検討を続けてし、く予定である.

6. long loop refiex (C-response) と脊髄一脳

幹一脊髄反射 (spinobulbospinal refiex, SBS反

射)

島村らの SBS反射の報告39)以来, H波回復曲線

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34

Stim

~一一一一一一一ー一一一一一一一一一一一一一一一一

JiJ乙lmV

20門司sec

Stim

図16 等張収縮Cisotoniccontraction)による M,H波および C-responseの導出.

左:1回毎の記録,右ー加算(16回〕

C-responseを種々の変性疾患(筋萎縮性側索硬化

症,脊髄小脳変性症,パーキンソン病など〉でと

らえ,病態,病期の把握や治療に役立てたいと考

えている.また C-responseは,等尺性p 等張性収

縮を加えなくとも,安静時にミオクローヌスにて

出現することは良く知られている 42) 最近,ミオク

ローヌスを呈する疾患のなかには C-responseが

允進している群があること,その longloopとし

ては主として大脳皮質を介する transcortical

reflexとSBS反射を中心とする脳幹を経由する

反射が考えられている 42)

7.瞬目反射(Blinkreftex)

誘発筋電図の一種で,多シナプスを介した誘発

波を含む眼輪筋反射(三叉神経十顔面神経一眼輪

筋〉であり,脳幹,橋の機能障害の発見に重要な

検査である.なお,眼輪筋反射という四肢筋の反

射と同じ伸展反射のようにとられるので,現象を

そのまま瞬目あるいはまばたき反射と呼ぶことに

日本脳波筋電図学会用語集で決められている.

この反射を誘発筋電図でみると,潜時10msec

前後の早い波形 Rj と30msec前後のおそい波形

R2にわかれる.そして刺激側からは Rj,R2

(DR2) ともに出現するが,非刺激側からは R2

(CR2)のみ導出される.三叉神経知覚核は主知覚

核と脊髄路核にわかれるが, Rjは系路の短い

oligosynapticな回路で刺激側の顔面神経核にの

み伝導され, R2は長い polysynapticな回路を経

て両側の顔面神経核に伝達される(図17). われわ

れの正常値は表 6の如くでである.瞬日反射の臨

Single stim ulation record

j目

u自

RW

HH宮

av--nuAU

H

E

V

E

nanu

nu

mb

白む

のRUVE-

m

i

no

DR,

比ιR,

CR, CR,

代ーム '¥1 ¥ . ..~---.JL

....n... 20rn~日 50 川

図17 Blink refiex (瞬日反射〉

床応用は木村明十こよって数多くなされ,最近では

脳幹部腫蕩4ベ血管障害叫, Fisher症候群剖)(表7)

などの報告がみられる.

8.末梢神経反復刺激による誘発筋電図

通常正中神経あるいは尺骨神経を刺激して母指

球筋あるいは小指球筋からの活動電位を導出す

る.超闘値刺激を用い低頻度(1,3, 5, 10Hz)か

ら刺激を加えて,誘発させる電位の変化を観察す

る. 30Hzを越せば正常人でも電位の減衰をみる

ことがあるので, 20Hzが高頻度刺激の限度で,そ

れより低頻度で、電位が減衰すれば診断的意義があ

る.テンシロン(アンチレックス〕注射後減哀が

消失することが確かめられる.臨床応用には,重

症筋無力症に用いられる.

筋無力症症候群には Eaton-Lambert症候群,

甲状腺機能允進症に伴う重症筋無力症あるいはそ

928

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35

表 6 Blink Re自exN ormal Range of Latency Values

Site of Left(L) Right(R) Di百erencebetween stimulation Right and Left Sides

Side of L R R L R2 recording

R, Response R, DR2 CR2 R, DR2 CR2

lpSl- contra-lateral lateral

LaIEtlseencc〕y l| Lfearl 10-4 28.5 28.2 10.5 28.7 27.6 0.6 1.8 1.1

0.7 3.7 2.9 0.6 2.5 2.4 0.5 1.1 1.0

DR2: Direct R2, CR2: Consensual R2

表 7 Fisher症候群における BlinkReflexの経過(単位 msec)

Site of Left(L) Right(R) stimulation Direct

Side of facial

Case L R R L H-reflex nerve recording conductior

Response R, DR2 CR, R, DR2 CR2

Acute absent absent absent absent absent abs巴ntstage 30 53 48 24 39 45 3.6

Recovery 17 37 39 18 35 39 36.0 3.6 1 stage 15 35 37 12 37 37 38.0

Acute absent absent absent 17 38 absent absent 3.4 2 stage 13 34 34 14 35 35 35.5 3.4

Recovery 14 34 33 14 30 32 33.8 3.2 stage

Acute 12 30 36 17 36 34 3.6 3 stage

Recovery 12 33 33 12 34 33 26.6 3.2 stage

Acute 11 33 33 11 36 33 3.2

4 stage

Recovery 11 32 33 11 35 34 3.2

stage

Acute 18 36 39 18 39 45 3.6 stage absent absent absent absent absent absent 33.9 3.7

Recovery 14 48 48 15 absent 48 28.9 3.1 5 12 38 40 12 40 38 29.3 3.5

stage 11 31 29 11 36 34 3.4

Acute 11 41 41 11 40 40 abs巴nt

R: 3.3 6 stage L : 3.2

Recovery 11 35 36 10 36 36 27.2

R: 3.2 stage L: 3_0

DR2: Direct response. CR2: Consensual response

れに類似の症候などがあり,誘発電位にて診断が

可能な場合がある.特に Eaton-Lambert症候群

では,最初の誘発電位は著しく低く,高頻度 (50

Hz程度〉で刺激を重ねると次第に電位が高くな

る.神経終末よりのアセチルコリン遊離に問題が

あると考えられている.

9.不随意運動 (involuntarymovements)

不随意運動とは一つの筋の一部,或いは一つの

筋全体,更には一つ或いは幾つかの筋群の不随意

的な収縮によって起こる現象をいう.不随意運動

の観察には,ベッドサイドにおける直接目で観察

する方法, 16ミリ, 8ミりなどのシネおよび VTR

-929ー

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36

用いて記録,観察する方法,脳波形を用いて記録,

観察する方法などがある.

わオ Jわれは16ミリシネと脳波形を用L、て各種不

随意運動を記録している.

以下,当神経内科教室において大津が不随意運

動の代表的なものをまとめ,記録したものの一部

を紹介する.

1)振戦 (Tremor)

〔定義〕身体のある部分にみられる不随意の比較

的律動性の振動運動

〔分類〕

(1)出現様式:①静止振戦 ②体位(姿勢時〉

振戦 ③運動時振戦

(2)原因

①生理的振戦:疲労,感情的興奮,寒冷時,体

位または運動時,四肢特に上肢末梢

②本態性(家族歴〉振戦:原因不明,家族性遺

伝性(常染色体優性),一定肢位,運動時,四肢,

頭部,顔面,舌.

③老人性振戦.本態性振戦の弧発,晩発型.

④中毒性振戦:甲状腺機能尤進症,尿毒症等の

内因性疾患,アルコール,タバコ,水銀, コカイ

ン中毒,体幹,上肢末梢

⑤ Parkinsonian tremor :安静時,四肢,頭部,

下顎,舌, pill-rolling or tapping movement (黒

質〉

⑥小脳性振戦.①小脳遠心系(小脳歯状核

~上小脳脚):姿勢時

⑥小脳求心系(橋小脳路,脊髄小脳路),小脳

半球:運動時

⑦羽ばたき振戦 :0体位(振戦): Wi11son病

⑥持続的姿勢保持の障害 (asterixis):肝性昏

睡,尿毒症, CO2 narcosis,心不全等の代謝性脳症,

アレビアチン, フェノパール,テグレトール等に

よる中毒性脳症,脳血管障害

2) ミオクローヌス (myoclonus)(作田,岩田

による〉

〔定義〕 一筋または数筋が急激かっ短時間,不

随意的に収縮する現象

(1)自発性

①不規則性(狭義のミオクローヌス): Creutz-

feldt-Jakob病, Kufs病, リピドーシス等

②規則性

a)軟口蓋

b)眼球

c)咽頭

d)喉頭

e)横隔膜

f)四肢

〔責任症巣〉

Guillain-Mol1aretの三角

小脳歯状核と反対側の赤核と

オリーブ核を結ぶ三角

(2)企図,動作性

①不規則性:Lance-Adams症候群, Dyssyne-

rgia cerebellaris myoc1onica

②規則性 (skeletalmyoc1onus)

〔責任病巣)脊髄,脳幹(網様体),視床,小脳,

大脳皮質等

(付)アステリクシス (asterixis) とnegative

myoclonus

myoc1onusとは,元来突然かっ短時間の筋収縮

を示すものであり, positiveな不随意運動である.

これに対して asterixisは,一定の肢位を保って

いるときに筋緊張が突然消失し落下するもので,

negativeな運動である(図18). myoc1onusと

asterixisは異なった臨床観察から発した名称で

ある.最近, Youngら45)はactionmyoc1onusには

positiveなものと negativeなものとがあり, neg-

ative myoc1onusはasterixisと臨床上区別でき

ないとしている.島田と豊倉46)はasterixisは筋緊

張保持機構の突然かつ短時間の障害で、あるという

臨床症候学的事象として用いるべきであり,その

病因,生理学的機序,責任病巣は異なったものを

含んでいると考えている.negative nyoc1onusは

asterixisの中に含まれる一つの生理学的な型と

考えている.しかし,大沢47)はnegative myo-

c10nusは asterixisの中に含まれているものの,

、ト、、ミ:、

治、出

図18 Asterixisのシェーマ(大津49)による).

-930ー

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表 8 大津による Comparisonof asterixis & nega-

tive myoclonus

Asterixis Negative myoc1onus

brlef epdaeuE se brief pause Cpn:,c~~ded ty

surface EMG ef burst)

1111111111-11111-11111-11111 111ト111111111-1111山 111I1I11-jiil

EEG Cslowing) Cfast waves) Cseizure discharges)

PMR θ θ~⑤

Startle θ θ-EB response

SEP normal normal-high (vo!tage)

C-response 。 θ~⑥

c10nazepam G ⑦ effect

TRH ⑤ 9 effect

一部の症例では明らかに asterixisと違う生理学

的検査所見を示すことより, negative myoc1onus

とasterixisとを区別している(表 8).また,大

津48)49)はunilateralasteixisの表面筋電図学的特

徴をまとめ,局在性脳病変との関連を報告してい

る.その結果は unilateralasterixisの責任病巣と

して,反対側の大脳半球での錐体路障害が考えら

れ,それが網様体賦活系(特に下行性〉の障害に

より生じるとされる asterixisの域値を低下せし

め, asterixisが占側性に惹起されるものと推測し

ている.これらの asterixisはTRH(thyrotropin

releasing hormone)の錐体路および脳幹網様体の

賦活作用により有意に減少 (P<O.05)することを

認めている 50)

最近われわれは薬物による asterixisを経験し

た5九 L-DOPAは線状体で過剰状態となると

dyskisiaとなり種々の不随意運動を呈するが,

asterixisの報告は少なく,生理学的,生化学的に

記載したものはない.今後,脳幹,視床,大脳皮

質を中心とする生理学的検査の解明,意識との関

係,筋緊張保持機構の解明につれ, asterixisの原

因も次第に明らかになっていくものと期待され

る.

3)舞踏病様運動 (choreiformmovement)

-931

37

〔定義〕不規則な目的のない,非対称性の運動,

踊っているような奇妙な不随意運動.顔面,四肢.

〔分類〕

(1) Sydenham舞踏病(小舞踏病,急性舞踏病〉

学童(5~15歳),女児に多い. リウマチ熱の既

往,数日~数カ月で全治.

(2) Huntington舞踏病(慢性舞踏病〉

中年以降,知能低下,家族性,常染色体優性遺

伝,尾状核萎縮.

(3) chorea acanthocytosis

(4) chorea gravidarum

(5) SLE

(6) フェノチアジン系の majortranquilizer

(7) Benedikt症候群,視床症候群

(8)老人性舞踏病

〔責任病巣JH untington舞踏病.尾状核,被設

CSydenham舞踏病.予後良好のため不明〉

4)パリズム (ballism,Ballismus)

〔定義〕舞踏病様運動の A 種,より急速,粗大,

持続性,四肢近位部.

上下肢を投出すような激しい運動,多く一側多

くは中年以降,血管障害.

〔責任病巣〕反対側視床下核 (Luys体〉

5)アテトーゼ様運動 (athetoidmovement)

〔定義〕舞踏病様運動よりもゆっくりで持続的,

主として手指,舌.一定の姿勢を維持しようとし

てもたえず、ゆっくりと,くねるような不随意運動.

常同的,上肢の伸展一回内,屈曲一回外,手指の

屈曲一伸展の繰り返し,虫がはうような運動, 口

とがらし,舌の挺出.

〔分類〕

(1)両側性・先天性,核黄痘, fetal ence-

phalitis,分娩時異常, Little病

(2)片側性

①先天性

②後天性:脳血管障害,外傷後

③ Wilson病, フェノチアジン系薬剤

(付)舞踏病アテトーゼ:錐体外路症状

〔責任病巣〕大脳基底核,特に尾状核,被殻淡蒼

球(大理石状態),片側性では反対側.

6)ジストニ一様運動 (dystonicmovement)

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38

〔定義〕ゆっくりと,ねじるような奇妙な不随意

運動.躯幹,四肢近位部,頭部に著しい奇妙な姿

勢,運動.

〔分類〕

(1)捻転ジストニー(変形性筋ジストニー〉

①先天性:線条体特に被殻

②後天性・肝レンズ核変性症,脳炎後パーキン

ソニズム,脳腫蕩

(2)産性斜頚:20~40歳代,頚部の不随意運動

により,頭をー側に廻す運動を反復

①先天性

②後天性.捻転ジストニーのー型

③心因(ヒステリー〉性

④職業性

〔責任病巣〕線条体,特に被穀.

7)口ジスキネジー (oraldyskinesia)

〔定義〕舌, 口唇を中心とした不随意運動,舌捻

型,舌挺出型,阻しゃく型, 口唇型.

〔分類〕

(1)特発性

(2)薬物性

①遅発性ジスキネジー:向精神薬,特にクロー

ルプロマジン等フェノチアジン系

②抗パーキンソン剤

(3)錐体外路系疾患の部分症状

〔責任病巣〕脳内ドーパミンニューロン系

①黒質新線条体 DA路

②中脳一皮質下辺縁系 DA路

8)チック(tics)

〔定義〕顔・頚部,肩などに路起こる比較的急激

に繰り返して起こる不随意運動,一定の筋群の一

見目的をもったようにみえる運動.意志にて抑制

可,再現可.

〔分類〕

(1)機能性〔単純性): 12歳以前の小児

(2) Gilles de la Tourette症候群:多発性,全

身性,汚言,反響語

(3)器質的病変に伴うチック:脳炎後,血管障

害, CO中毒

(4)薬物中毒性チック:L-DOPA,メトクロプ

ラミド,フェノチアジン系

〔責任病巣〕大脳基底核,心因性

9)坐イ立保持不能 (akathisia)

〔定義〕下肢が落着かず 2~ 3分以上じっと坐っ

ていられない現象

〔分類〕

(1)ノミーキンソン病,薬物性ノζーキンソン症候

(2)精神的要因

10)けいれん(痩寧) (spasm, cramp)

(1) spasm

〔定義〕色々な筋の収縮

f間代性けいれん〔分類J1

L緊張性けいれん

一 ( Chvostek徴候

アタニ-l Trousseau徴候

片側顔面崖李

眼験産李

注視けいれん

(2) cramp

〔定義〕痛みを伴う強直性の筋けいれん

〔分類〕

“こむら返りふくらはぎ:正常人,筋疲労時.

妊娠後期,熱性クランプ.

糖尿病,脚気,間欠性肢行,テタニー,高カリ

ウム血性周期性四肢麻癖,先天性ミオ卜ニー,筋

緊張性ジストロフィー,先天性パラミオトニー,

変形性筋ジストニー, Wilson病, Parkinson病,

ALS,粘液水腫ミオパチー,尿毒症などの中毒性

ニューロパチー,多発性硬化症,頚髄圧迫,多発

筋炎,多発性パラミオクローヌス, Stiffman症候

群, McArdle病,全身こむら返り病,書庫等の職

業性けいれん.

11)連合運動 (associated movement,

syncinesie)

〔定義〕身体のある部位の随意運動に伴って,他

部に一定の型をもって不随意運動の起こるもの.

932-

〔分類〕

(1)四肢にみららるもの

①産性(広汎性〉連合運動

②模倣性 ⑧対側性,⑥同側性

③協調性

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(2)眼,顔面,下顎にみられるもの

〔責任病巣〕

(1)①, (1)一②③, (1)一③…錐体路障害

(1)②⑥…深部感覚障害(内側毛帯系の上行線

維路障害〉

企士 言霊Ili口 口口

神経疾患における脳波,筋電図につき,総論,

各論に分けて解説した.特に各論においては,当

神経内科において日常行なっている検査,新しい

知見などを混ぜ、て論じた.神経疾患における生理

学的検査は日進月歩であり,今後更に進んだ臨床

研究が必要となるであろう.

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