生直後より高度の心拡大を認めたエプスタイン奇形9例の検討jspccs.jp/wp-content/uploads/j1003_380.pdf日本小児循環器学会雑誌...

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日本小児循環器学会雑誌 10巻3号 380~385頁(1994年) 生直後より高度の心拡大を認めたエプスタイン奇形9例の検討 (平成6年2月15日受付) (平成6年7月1日受理) 1)倉敷中央病院心臓病センター小児科,2伺 豊原 啓子* 馬渡 田中 陸男1) 神崎 心臓血管外科,*現 英夫1) 馬場 義雄2) key words:エプスタイン奇形,肺動脈閉鎖, PGEI,三尖弁閉鎖術 庄原赤十字病院小児科 清1) 生後早期より症状が現われ,胸部X線の心胸比が75%以上のエプスタイン奇形9例について検討し た.手術を行う前に心不全で死亡したのが2例であった.手術を施行したのが6例であった.内科的治 療に抵抗し,1カ月以内に手術を施行したのが5例であった.重症肺動脈弁狭窄の1例は,生後3日目 にBrock手術を行い著明な臨床症状の改善を認め,5年後にCarpentier+Hardy手術を 完了した.初期の2例は,Brock手術及びGlenn手術を施行した.最近の症例では,右室機能の比較 良い1例に右室流出路パッチ拡大+Hardy手術,右室機能の悪い1例には三尖弁閉鎖術(Starnes を施行したが,4例とも死亡した.新生児期をのりきり,5ヵ月目に三尖弁置換術を施行した1例も死 亡した.PGE1を使用していた1例は,動脈管バルーン閉塞による右室造影で,右室から肺動脈への血流 を証明できたので,PGE1を中止し,全身状態の改善を認めた. 生後早期より症状が現われ,内科的治療に抵抗するエプスタイン奇形は一貫した治療方針,手術術式 も決まっておらず,その予後も不良である.また,内科的管理では,PGE1の使用により,かえって状態 の悪化する例もあり,注意が必要であった.どの時点で手術にふみきるか,どのような手術術式を選択 するかは,肺動脈閉鎖の有無,三尖弁の形態と機能,右室機能及び肺血管抵抗が重要なポイントと考え られるが,その評価方法について今後検討する必要があるものと考えられた. はじめに エプスタイン奇形は,幅広い臨床像を呈する先天性 心疾患である1}2).有意な三尖弁閉鎖不全を認める例 は,徐々に進行する心不全が学童期~青年期に明らか となり,手術が必要になる.しかし,生直後より心不 全,心拡大を呈する群の予後は極めて不良である.今 回我々は,生後早期より症状が現われ,胸部X線の心 胸比が75%以上のエプスタイン奇形9例を経験したの で,管理及び治療について検討し報告する. 1983~1992年の10年間で,生直後より高度の心拡大 を認めたエプスタイン奇形9例を経験し,最近の症例 別刷請求先:(〒727)広島県庄原市西本町2丁目7 10 庄原赤十字病院小児科 豊原 啓子 から順に表1に示した.在胎32~41週,出生時体重 2,236~3,200g,全例生直後より心雑音,またはチア ノーゼを認めた.表1に示す肺動脈閉鎖は解剖学的閉 鎖であり,機能的閉鎖は含めなかった.表2に肺動脈 閉鎖の証明方法を示した.表1に示したように肺動脈 閉鎖の症例は手術施行例も含めて,全例死亡した.治 療は,動脈管を開存させ,肺血流を確保する目的で7 例にプロスタグランディンEl(PGE1),またはリポプ ロスタグランディンEl(lipoPGE1)を点滴静注し が,3例は肺動脈閉鎖なしと証明した時点で中止した. 肺血管抵抗を低下させる目的で2例に血管拡張剤を使 用したが,症状の改善は得られなかった.症例3,9 は手術を行う前に心不全で死亡した.表3に手術を施 行した6例の手術術式を示す.内科的治療の限界と考 え,1カ月以内に姑息術をおこなったのが5例であっ Presented by Medical*Online

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日本小児循環器学会雑誌 10巻3号 380~385頁(1994年)

生直後より高度の心拡大を認めたエプスタイン奇形9例の検討

(平成6年2月15日受付)

(平成6年7月1日受理)

1)倉敷中央病院心臓病センター小児科,2伺

      豊原 啓子* 馬渡

      田中 陸男1) 神崎

心臓血管外科,*現

英夫1) 馬場

義雄2)

key words:エプスタイン奇形,肺動脈閉鎖, PGEI,三尖弁閉鎖術

庄原赤十字病院小児科

清1)

                      要  旨

 生後早期より症状が現われ,胸部X線の心胸比が75%以上のエプスタイン奇形9例について検討し

た.手術を行う前に心不全で死亡したのが2例であった.手術を施行したのが6例であった.内科的治

療に抵抗し,1カ月以内に手術を施行したのが5例であった.重症肺動脈弁狭窄の1例は,生後3日目

にBrock手術を行い著明な臨床症状の改善を認め,5年後にCarpentier+Hardy手術を行い根治術を

完了した.初期の2例は,Brock手術及びGlenn手術を施行した.最近の症例では,右室機能の比較的

良い1例に右室流出路パッチ拡大+Hardy手術,右室機能の悪い1例には三尖弁閉鎖術(Starnes法)

を施行したが,4例とも死亡した.新生児期をのりきり,5ヵ月目に三尖弁置換術を施行した1例も死

亡した.PGE1を使用していた1例は,動脈管バルーン閉塞による右室造影で,右室から肺動脈への血流

を証明できたので,PGE1を中止し,全身状態の改善を認めた.

 生後早期より症状が現われ,内科的治療に抵抗するエプスタイン奇形は一貫した治療方針,手術術式

も決まっておらず,その予後も不良である.また,内科的管理では,PGE1の使用により,かえって状態

の悪化する例もあり,注意が必要であった.どの時点で手術にふみきるか,どのような手術術式を選択

するかは,肺動脈閉鎖の有無,三尖弁の形態と機能,右室機能及び肺血管抵抗が重要なポイントと考え

られるが,その評価方法について今後検討する必要があるものと考えられた.

         はじめに

 エプスタイン奇形は,幅広い臨床像を呈する先天性

心疾患である1}2).有意な三尖弁閉鎖不全を認める例

は,徐々に進行する心不全が学童期~青年期に明らか

となり,手術が必要になる.しかし,生直後より心不

全,心拡大を呈する群の予後は極めて不良である.今

回我々は,生後早期より症状が現われ,胸部X線の心

胸比が75%以上のエプスタイン奇形9例を経験したの

で,管理及び治療について検討し報告する.

         対  象

 1983~1992年の10年間で,生直後より高度の心拡大

を認めたエプスタイン奇形9例を経験し,最近の症例

別刷請求先:(〒727)広島県庄原市西本町2丁目7

      10     庄原赤十字病院小児科   豊原 啓子

から順に表1に示した.在胎32~41週,出生時体重

2,236~3,200g,全例生直後より心雑音,またはチア

ノーゼを認めた.表1に示す肺動脈閉鎖は解剖学的閉

鎖であり,機能的閉鎖は含めなかった.表2に肺動脈

閉鎖の証明方法を示した.表1に示したように肺動脈

閉鎖の症例は手術施行例も含めて,全例死亡した.治

療は,動脈管を開存させ,肺血流を確保する目的で7

例にプロスタグランディンEl(PGE1),またはリポプ

ロスタグランディンEl(lipoPGE1)を点滴静注した

が,3例は肺動脈閉鎖なしと証明した時点で中止した.

肺血管抵抗を低下させる目的で2例に血管拡張剤を使

用したが,症状の改善は得られなかった.症例3,9

は手術を行う前に心不全で死亡した.表3に手術を施

行した6例の手術術式を示す.内科的治療の限界と考

え,1カ月以内に姑息術をおこなったのが5例であっ

Presented by Medical*Online

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日小循誌 10(3),1994 38ユー(43)

表 1

症例 在胎週数 生下時体重 胸部X線(CTR(%)) 肺動脈閉鎖 治  療 手 術 転 帰

1◆ 40週⑪日 3.04⑪g 82 十 PGEI ⊥ 死

2. 39週6日 2.824g 84 一

lipo PGEI→中止ニトログリセリン

十 死

3. 41週3日 2.878g 89 十 PGE1 一 死

一4. 40週1日 3.080g 84 一 PGEI→中止 (待機中) 生

5. 35週3日 2β98g 77 一 PGEI→中止 十 死6. 39週2日 2.236g 92 一 PGEl † 生7. 39週3日 3.200g 78 ? PGEl 十 死

8. 38週6日 2.550g 81 寸

トラゾリンプラゾシン

十 死

9. 32週6日 2.343g 91 一ト } 死

表 2

症例 肺動脈閉鎖 証   明   法 転帰

1. 十 手術所見 死2. 一 UCG,アンジオでPRあり.ポンタール内服でSaO、低下 死3. 十 剖検所見 死4. 一 アンジオ:PDAバルーン閉塞のRVGでPAへのHow(十) 生5. 一 コントラストエコーでPAへのHow(十) 死6. 一 アンジォ:RVGでPAへのHow(十) 生7. 証明できず 死8. 十 剖検所見 死9. 十 剖検所見 死

UCG:心エコー図検査, PR:肺動脈弁閉鎖不全, PDA:動脈管, RVG:右室造影,

PA:肺動脈

表 3

症例

1

2

3

6

7

8

手  術  方  法

9日目 RVOT monocusp patch enlargement十Hardy

23日目 TV patch closure→hole creation十PA valvotomy

・力朋IUδ£P認r:霊㍊㌫碧しSDIv,。,、h。1。、u,e

3日目 Brock 5歳 Carpentier+Hardy(根治術)

8日目 Brock

6日目 Glenn

転  帰

 ラ     う      

晶晶晶

 8  /  4

    

讐順轟

 (      (     

品亡勤4

酸死

 備

RVOT:中隔欠損

右室流出路,TV:三尖弁, PA:肺動脈,1・S:lonesch・Shiley, VSD:心室

た.重症肺動脈弁狭窄の症例6は,生後3日目に心カ

テ・アンジオ検査を施行した.検査中から,頻回に心

房粗動をきたすようになった.このため,緊急Brock

手術を行い著明な臨床症状の改善を認め,5年後に

Carpentier3)一一5)+Hardy手術を行い,根治術を完了し

た.初期の2例は,症例7がBrock手術,症例8が

Glenn手術を,最近の症例では,右室機i能の比較的良い

症例1に右室流出路パッチ拡大+Hardy手術,右室機

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382-(44)

能の悪い症例2には三尖弁閉鎖術(Starnes法)6)を施

行したが,4例とも死亡した.症例5は,5カ月で根

治術(三尖弁置換術+右室流出路パッチ拡大術+筋性

部心室中隔欠損閉鎖術)を施行したが,死亡した.次

に,症例2,4の経過について述べる.

口本小児循環器学会雑誌 第10巻 第3号

 症例2(表4)は,生直後より,心雑音,チアノー

ゼを認め,心エコー図検査でエプスタイン奇形と診断

した.右室壁は非常に薄く,三尖弁前尖は巨大なカー

テン状で高度の三尖弁閉鎖不全を認めた.左右肺動脈

は細く,lipoPGE1の点滴を行ったが,心エコー図検査

。熾

日生  2  3心力テ

表4 症例2.経過

メフェナム酸

 ↓

6 23気管内挿管 手術lipo PGE1 1

ム酸 1ニトログリセリン

胸部x線△∩△∠ii!kii>

CTR(%) 84 87 91 84 67

SaO2 77 40→86 95 84 89

生 日 0

入院心カテ

表5 症例4.経過

4 7

気管内挿管

PGE1

胸部x線K> ぴ ∩ △心胸比(%) 87 73 65 54

PO2(mmHg) 25(毛細管血)

28 35 42

表 6

圧 aRV十RAmPA症例RV LV PAindex RVEDV(ml) RVEF(%) RV

1◆ 35/-2(6) 55/-1(4) 90 9.7 53.6 1.55

2. 一 5/0 45/-1(4) 1⑪2 5.2 50.0 4.75

3. 一

38/4(7) 89/1(4) 148 25.3 5].2 0.98

一4. 37/1825 32/0(7) 46/0(5)

一7.8 42.4 1.91

6. 一

60/2(3) 70/3(5)一

9.1 34.0 1.57

7. 一

59/2(10) 85/6(10) 189 5.2 82.6 1.75

8. 一

35/7(15)一

一 8.4 6L9 1.55

9. 『

15/0(3)一 一

13.6 42.6 1.80

mPA:主肺動脈, RV:右心室, LV:左心室, RVEDV:右室拡張末期容積, RVEF:右室駆出率, RA:

右心房,aRV:右房化右室

圧の()内はend diastolic pressure

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平成6年10月1日

でjet状の肺動脈弁閉鎖不全を認め,肺動脈閉鎖では

ないためlipoPGE1を中止した.生後3日目に,心カ

テ・アンジオ検査を施行した(表6).右室圧は5/0と

非常に低く,右房,及び右房化右室の著明な拡大を認

めた.造影上もjet状の肺動脈弁閉鎖不全を認め,肺動

脈への順行性の血流の増加を期待し,生後4日目,動

脈管を閉鎖する目的で,メフェナム酸(ポンタール)

の投与を行ったが直後よりSaO,は低下し,ただちに,

気管内挿管を行った.右室は圧を駆出する機能が備

わっておらず,生理的肺高血圧も残存し,肺血流の維

持には動脈管が必要と考え,lipoPGE1を再開した.肺

血管抵抗を低下させる目的で,静注用ニトログリセリ

ンも併用した.心エコー図上,肺動脈の流量は増加し

たが,胸部X線でCTRの増加,肝腫大を認め,動脈

管の流量はむしろ少ない方が良いと考え,生後10日目

にlipoPGE1を中止した.以後は状態も安定したが,心

不全及び肺血流のコントロールは困難と考え,生後23

日目に三尖弁閉鎖術(Starnes法)6)を行った(図1).

①まず,自己心膜を用いて三尖弁口を閉鎖し,冠静脈

洞は右室側に開口させた.②心房中隔欠損孔を拡大し,

③4mm Gore-texで右ブラロック・タウシッヒ短絡

(BT shunt)術を行い,④動脈管を結紮した.大動脈

②ASDenla「gement

.辞蟄

10

(DTv closure 6 pericardial patch

⑦hole creation of pericardial patch

ASD;心房中隔欠損   PDA;動脈管開存   TV;三尖弁

BT shunt;Blalock Tausslg shunt

        図1 症例2

PDA ligation

⑤pulmonary valvotomy

⑥pulmonaryvalvuloplasty

383-(45)

の遮断解除とともに,右室の拡張がみられ,右室の減

圧が必要と判断した.⑤肺動脈弁裂開術を行ったが,

高度の肺動脈弁閉鎖不全をきたし,⑥肺動脈弁形成術

及び,⑦三尖弁閉鎖自己心膜に小孔を作製した.人工

心肺から離脱できたが,術後腎不全のため腹膜灌流を

必要とした.しかし,感染及び腹腔内出血のため術後

61日目に死亡した.

 症例4(表5)も,入院後よりPGE1を使用していた

が,動脈管バルーン閉塞による右室造影で,右室から

肺動脈への血流を認めた(図2).このため,PGEIを

中止したところ,次第に血液ガス所見の改善,胸部X

線におけるCTRの縮小を認め23日目に退院した.現

在,6歳で根治術待機中である.

 表6に,心カテ・アンジオ検査を施行した8例のデー

タをまとめた.動脈管を通して,肺動脈圧が測定でき

たのは症例4の1例のみであった.次に,右室機能を

評価する目的で,右室圧,右室拡張末期容積:

RVEDV,右室駆出率:RVEF及び(右房化右室容積+

右房容積)/右室容積:(aRV+RA)/RVについて検討

した.この場合の右室とは,右房化右室を含めない.

造影上右室壁が薄く,圧を駆出する機能が備わってい

ないと考えられたのが,症例2,3,9の3例であっ

た.このうち,症例2,9の2例の右室圧は低値であっ

た.また,症例3,9の2例は他の例よりもRVEDV

が大きく,この2例とも手術することなく,急激な経

II

づ鷲鷲⊇

    齢

   辮

撫灘纏

灘麟図2 症例4.動脈管バルーン閉塞による右室造影.

 右室から肺動脈への血流を認める.PA:肺動脈,

 RVOT:右室流出路, RV:右心室

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384-(46)

過で死亡した.他の5例は比較的右室機能が良い印象

をうけた.しかし,右室機能の善し悪しは,RVEDVや

RVEF等で比較しても有意な指標は得られず,心エ

コー図検査における,三尖弁付着部位の偏位や三尖弁

閉鎖不全の程度などの三尖弁の形態と機能,アンジオ

所見から得られる印象などと考え合わせる必要があっ

た.

          考  察

 生後早期より症状が現われるエプスタイン奇形は,

Watsonらの報告によれば,死亡率は50~75%と予後

不良である7).また,内科的治療に抵抗する症例に対す

る姑息術の成績も不良である8)9).我々は,10年間で生

直後より高度の心拡大を認めたエプスタイン奇形9例

を経験した.内科的治療を行うに際し,①解剖学的肺

動脈閉鎖の有無を知ること,及び②右室及び三尖弁の

機能を評価することの2点が重要であると考えられ

た.このため,我々は心エコー図検査のみならず,状

態が許せば可能なかぎり心カテ・アンジオ検査を行う

ことにしている.動脈管バルーン閉塞右室造影で右室

から肺動脈への順行性血流が認められれば,症例4の

ように,PGE1を中止した方が症状の改善を得られる

場合もある.症例6も,状態が悪化したため,緊急で

Brock手術を施行したが,余裕があればまずPGE1を

中止すべきだったかもしれない.但し症例2のように,

右室及び三尖弁機能の良くない症例では,動脈管を閉

鎖しても,肺動脈への順行性血流が得られず,内科的

治療に限界があり,手術に踏み切らざるを得ない場合

がある.Starnesらは,このような症例に対して,将来

はFontan手術に備えるため,自己心膜による三尖弁

閉鎖術を5例に施行し成功している6).我々も症例2

に対して,同様の手術を行った.問題点としては,冠

静脈洞からの血液が右室を充満し,右室収縮力と肺血

管抵抗の問題から,右室から肺動脈への順行性血流が

得られなかったことが挙げられる.人工心肺からは離

脱できており,最初から積極的に右室流出路形成術を

試みた方が良かったのかもしれない.右室機能の悪い

例の治療及び手術には,なお多くの問題点が認められ

た.

 また,症例3,9は手術に至らず死亡した.これら

の症例のような最も重症な型において,心カテ・アン

ジオ検査では,RV圧は低く,RVEDVは大きい傾向に

あった.右室は,出生前から三尖弁閉鎖不全が高度な

ために,圧負荷がかからず,圧力ポンプとしての訓練

が不十分なために,収縮機能が低下し,しかも過大な

日本小児循環器学会雑誌 第10巻 第3号

容量負荷がかかった状態にあると考えられる.この右

室の状態を,胎児エコー検査で評価できれば,出生直

後の治療に結びつけることができると考えられた.

 解剖学的肺動脈閉鎖を合併していた症例は,右室機

能の善し悪しにかかわらず,全例死亡した.太田らは,

5例の新生児エプタイン奇形を経験したが,肺動脈閉

鎖を合併した症例は予後不良であったと述べてい

る1°).解剖学的肺動脈閉鎖の合併は,リスクファクター

と考えられた.

 右室機能の良い例では,我々の場合手術成績は良く

なく,治療及び手術方法に何らかの工夫を行えば,も

う少し救命率があがるのではないかと考えられた.

          結  語

 生後早期より症状が現われたエプスタイン奇形9例

を経験したが,それぞれに反省すべき点があり,これ

らをふまえて今後の症例を管理する必要があると考え

られた.

 本論文の要旨は第29回日本小児循環器学会(1993年,横

浜)にて発表した.

          文  献 1)Celermajer DS, Cullen S, SulIivan ID, Spiegel-

   halter DJ, Wyse RKH,Deanfield JE:Outcome

   in neonates with Ebstein’s anomaly. J Am Coll

   Cardiol l992;19:1041-1046

 2)Mair DD:Ebstein’s anomaly:Natural h{story

   and management. J Am Coll Cardiol 1992;19:

   1047  1048

 3)Carpentier A, Chauvaud S, Mace L:Anew

   reconstrictive operation for Ebstein’s anomaly

   of the tricuspid valve. Surgery 1988;96:96

 4)長嶋光樹,竹内靖夫,五味昭彦:Ebstein奇形に対

   するCarpentier法の1手術例.日胸外会誌   1990;3811192

 5)小川邦泰,湯浅 毅,藤田興一,矢野 洋,早瀬修

   平,城所 仁,服部龍夫,小池 明:Ebstein奇形

   に対するCarpentier法の経験.胸部外科 1992;

   45:511-514

 6)Strnes VA, Pitlick PT, Bernstein D, Gri缶n MG,

   Choy M, Shumway NE:Ebstein’s anomaly

   apPearing in the neonate:Anew surgical

   approach. J Thorac Cardiovasc Surg 1991;101:

   1082  1087

 7)Watson H: Natural history of Ebstein’s

   anomaly of tricuspid valve in childhood and

   adolescence:An international cooperative

   study of 505 cases. Br Heart J l974;36:417

   -427

 8)Barbero-Marcial M, Verginelli G, Anad M:

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平成6年10月1日 385-(47)

  Surgical treatment of Ebstein’s anomaly. J

  Thorac Cardiovasc Surg l979;78:416 422,

  1979

9)Lillehei CW, Kalbe BR, Carlson RC:Evolu一

   tion of corrective surgery for Ebstein’s anom-

   aly、 Circulation 1967;11:35-36

10)太田 明,秋田裕司,古川正強:新生児Ebstein奇

   形の5例.小児科診療 1993;7:1457-1462

Nine Cases of Ebstein’s Anomaly Who Have Remarkable Cardiac

          Enlargement During the Neonatal Period

                  Keiko Toyohara1), Hideo Mawatari1), Kiyoshi Babal),

                        Mutsuo Tanakal)and Yoshio Kanzaki2)

              1)Division of Pediatrics, Heart Institute, Kurashiki Central Hospital

        2)Division of Cardiovascuユar Surgery, Heart Institute, Kurashiki Central Hospital

   We studied nine cases of Ebstein’s anomaly who were symptomatic and had remarkable

cardiac enlargement(CTR≧75%)during the neonatal period.

   Two cases with refractory congestive heart failure died before cardiac surgery. Surgical

treatment was performed for 6 cases. It was performed during the neonatal period for 5 cases

whose conditions deteriorated despite optimum medical treatment.

   Acase of severe pulmonary stenosis underwent a Brock operation at three days old.

Subsequently, clinical conditions showed significant improvement and five years later a Car-

pentier and Hardy operation was performed successfully. Of the nine cases studied, four cases

died, during the first month. Of these four cases, one underwent Glenn’s operation. One underwent

Brock’s pulmonary valvotomy. One received a right ventricular outflow tract patch enlargement

and a Hardy operation. The remaining case underwent tricuspid valve closure(Starnes opera-

tion). The final case, which received surgical treatment, died after tricuspid valve replacemant

at five months. We suggest that PGEl sometimes deteriorates clinical conditions. In one case,

conditions showed improvement, when PGEI was stopped. An angiography of the right ventricle,

showed antegrade flow from the right ventricle to the pulmonary artery follo“アing balloon

occlusion of the ductus arteriosus.

   Ebstein’s anomaly during the neonatal period carries a high mortality rate。 The appropriate

course of surgical intervention is still difficult to determine. The timing and the method of

surgical treatment depend on pulmonary atresia, the anatomy and function of tricuspid valve, the

right verltricular function, and pulmonary arterial resistance.

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