福島県産農産物に対する消費者の態度と行動...東日本大震災は地震と津波によって,福島県,宮城県,岩手県を中心に甚大な被害をもたらした。各種産業への影響はいずれも非常に大きいが,第一次産業の場合,地震と津波による直接的な被害...

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21 商学論集 第 82 巻第 1 号  2013 7 論 文 福島県産農産物に対する消費者の態度と行動 ── 居住地域と子どもの成長段階が及ぼす影響 ── 中村 陽人・山口 真季・安田 俊哉 【要  旨】 福島県産農産物を念頭において購買に関係する消費者の態度や行動を調査分析した。まず福島市内で 3 つのグループインタビューを実施分析し,その結果を基にインターネット調査を行った。回答者は居住地 域(福島,岩手・宮城,東京,北関東,京阪神)と子どもの成長段階(家族の最年少者が未就学児,小学生, 中学生,高校生以上)の組み合わせからなる 20 パターンに均等に 100 名ずつ割り付けられた。購買時の 重視点(価格,産地,品質),各機関(国,都道府県,市町村,小売店)が発信する情報に対する信頼性, 情報開示に対する認識,福島県産農産物に対する安心感と購買意図をそれぞれ 7 件法のリッカート形式で 尋ね,2 元配置多変量分散分析と主効果,単純主効果の検定,1 元配置多変量分散分析と多重比較を用い て詳細を分析した。分析結果から得られた知見を基に,政府の農業政策に 3 つの提案を行った。 1 背景と目的 東日本大震災は地震と津波によって,福島県,宮城県,岩手県を中心に甚大な被害をもたらした。 各種産業への影響はいずれも非常に大きいが,第一次産業の場合,地震と津波による直接的な被害 だけでなく,震災によって引き起こされた福島第一原発事故による放射能汚染の問題が深刻である。 震災後まもなく消費者による福島県産品の買い控えが始まったとされ,卸売価格や小売価格,販売 量の低下などが当初から風評被害として大きな問題となってきた 1ここでまず風評被害の定義について確認しておく必要がある。関谷(2011)は,風評被害と言う 言葉は定義が曖昧である 2とした上で,過去に風評被害とされた事例をまとめ,以下のような定義 をしている。 1例えば,小山(2012)によれば,2011 9 月になると豪雨や台風により各産地の被害が発生したために, 全体的な卸価格は上昇しているにもかかわらず,全農福島の販売実績(数量ベース,単価ベース)を前年比 でみると,数量が増加し,価格は大きく落ち込んでいることがわかる。福島民友新聞社(2012)によれば, 桃は風評被害によって直売所や観光農園の贈答用の売り上げが低迷し,農家が市場流通を増やしたために平 均卸売価格は半値以下に下落したと報告されている。他にも,全国農業協同組合中央会(2011)の資料によ ると,福島県をはじめ,野菜等が出荷制限となった茨城県,栃木県,群馬県,千葉県においては,出荷制限 となっていない葉菜類のみならず,果菜類や根菜類にも価格及び出荷額の下落が見られたと報告されている。 290 年代後半になって使われ始めたかなり新しい言葉で,もともと学術的に,あるいは公的に定義されたも のではなくマスコミ用語である(関谷 2011)。

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中村・山口・安田 : 福島県産農産物に対する消費者の態度と行動商学論集 第 82巻第 1号  2013年 7月

【 論 文 】

福島県産農産物に対する消費者の態度と行動── 居住地域と子どもの成長段階が及ぼす影響 ──

中村 陽人・山口 真季・安田 俊哉

【要  旨】

 福島県産農産物を念頭において購買に関係する消費者の態度や行動を調査分析した。まず福島市内で 3

つのグループインタビューを実施分析し,その結果を基にインターネット調査を行った。回答者は居住地域(福島,岩手・宮城,東京,北関東,京阪神)と子どもの成長段階(家族の最年少者が未就学児,小学生,中学生,高校生以上)の組み合わせからなる 20パターンに均等に 100名ずつ割り付けられた。購買時の重視点(価格,産地,品質),各機関(国,都道府県,市町村,小売店)が発信する情報に対する信頼性,情報開示に対する認識,福島県産農産物に対する安心感と購買意図をそれぞれ 7件法のリッカート形式で尋ね,2元配置多変量分散分析と主効果,単純主効果の検定,1元配置多変量分散分析と多重比較を用いて詳細を分析した。分析結果から得られた知見を基に,政府の農業政策に 3つの提案を行った。

1 背景と目的

 東日本大震災は地震と津波によって,福島県,宮城県,岩手県を中心に甚大な被害をもたらした。各種産業への影響はいずれも非常に大きいが,第一次産業の場合,地震と津波による直接的な被害だけでなく,震災によって引き起こされた福島第一原発事故による放射能汚染の問題が深刻である。震災後まもなく消費者による福島県産品の買い控えが始まったとされ,卸売価格や小売価格,販売量の低下などが当初から風評被害として大きな問題となってきた1) 。

 ここでまず風評被害の定義について確認しておく必要がある。関谷(2011)は,風評被害と言う言葉は定義が曖昧である2)とした上で,過去に風評被害とされた事例をまとめ,以下のような定義をしている。

1) 例えば,小山(2012)によれば,2011年 9月になると豪雨や台風により各産地の被害が発生したために,全体的な卸価格は上昇しているにもかかわらず,全農福島の販売実績(数量ベース,単価ベース)を前年比でみると,数量が増加し,価格は大きく落ち込んでいることがわかる。福島民友新聞社(2012)によれば,桃は風評被害によって直売所や観光農園の贈答用の売り上げが低迷し,農家が市場流通を増やしたために平均卸売価格は半値以下に下落したと報告されている。他にも,全国農業協同組合中央会(2011)の資料によると,福島県をはじめ,野菜等が出荷制限となった茨城県,栃木県,群馬県,千葉県においては,出荷制限となっていない葉菜類のみならず,果菜類や根菜類にも価格及び出荷額の下落が見られたと報告されている。

2) 90年代後半になって使われ始めたかなり新しい言葉で,もともと学術的に,あるいは公的に定義されたものではなくマスコミ用語である(関谷 2011)。

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 風評被害とは,ある社会問題(事件・事故・環境汚染・災害・不況)が報道されることによって,

本来「安全」とされるもの(食品・商品・土地・企業)を人々が危険視し,消費,観光,取引をやめ

ることなどによって引き起こされる経済的被害のこと(関谷 2011)。

 しかし,2011年 8月に行った調査3)では,当時の買い控えが風評被害ではない可能性が非常に高いことが示唆された。上記の定義に従えば,風評被害とは,本来安全である(客観的な数値などで安全であることが明らかである)にもかかわらず,消費者がリスクを感じ購買を控えるような状態を指すわけだが,この調査では「検査結果の値が低いと感じられれば福島県産品を購入してもよい」と答えた回答者が多かった。つまり,きちんと情報が提供され,その値が受け入れられる範囲であれば消費者は購入するということであるから風評被害ではない。当時の買い控えの原因は,きちんと情報が提供されていないか,あるいは示されている値が高い(つまり危険である)と判断されていたか,のどちらかであるということである。 震災から 2年が過ぎ,前回調査に比べると状況は大きく変わった。消費者は失っていた冷静さを完全に取り戻したし,震災当初隠蔽されていた事実が次々に明るみに出た。そして様々な媒体を通じて放射能やその汚染に関する多くの情報が消費者に与えられ,消費者は 1年半前に比べれば非常に多くの知識を得た。十分とは言えないが除染活動や放射線量調査などが広く行われるようになった。また,空間放射線量の値や食物が含む放射性物質の値は大幅に下がり,少なくとも 1年半前と比べれば格段に安全性が増したと言える。しかし,福島県産品の買い控えは続いていると言われている。つまり,ようやく風評被害が始まったのである。 本格化してきた風評被害に対し,個別農家のレベルではなく「各市町村,あるいは福島県の農業政策」というレベルで長期のビジョンを持ち,それに合わせて具体的なマーケティング戦略を策定し,実行しなければならない。まず効果的なマーケティング戦略を策定するために最初に行われるべきは外部環境分析と内部環境分析である。特に市場(ここでいえば消費者)の状態をできるだけ正確に把握する必要がある。次に効果的なマーケティング戦略を実施するためには STPを明確化する必要がある。つまり,市場を細分化し(Segmentation),その中から標的市場を明らかにし(Targeting),どのように自社(ここでいえば福島県の農業)を位置づけるか(Positioning)ということを明確にしたうえで,それぞれの標的市場(消費者)にあった戦略を練るのである。 本稿の目的は,福島県産の農産物に対する消費者の意識や行動の現状を掴むために,定性的な調査(グループインタビュー)によって得られた知見を基に変数を設定し,定量的な調査によってそれらの変数の効果を検証することである。さらに調査分析で得られた知見を基に,福島県の農業政策に対する提言を行うことである。

3) 福島大学東日本大震災総合支援プロジェクトの緊急の調査研究課題。櫻田ほか(2011)「東日本大震災におけるリスク対応に関する研究 ─雇用・生産・消費の側面から─」。http://gakkei.net.fukushima-u.ac.jp/files/

25sakurada.pdf

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2 変数の設定

2.1 グループインタビューの概要

 定量調査における変数設定のための知見を得ることを目的として,グループインタビュー(以下,GIと表記することがある)4)を実施した。データの入手可能性が高く,農産物など食材の購買機会が多いと考えられることから,対象を福島市内に住む主婦に限定し,2つの基準(軸)の組み合わせからなる 4つのグループを構成した。1つ目の基準は家族構成で,家族内5)の最年少者の区分(未就学児,小学生,中学生,高校生,それ以外)をもとに 5つのセグメントにわけ,「家族に未就学児6)を含む」グループ(以下,「未就学児ありグループ」と表記)と「家族には高校生以下の子どもを含まない」グループ(以下,「子どもなしグループ」と表記)の 2グループを抽出した。幼い子どもを抱える主婦とそうでない主婦との違いが明確になるように配慮したため,最年少者が小学生,中学生,高校生である家族を除外した7)。2つ目の基準は「福島県産品に対する回避傾向の高さ」である。回避傾向は,複数回答が可能な選択式の 2問8)と自由記述式の 1問9),さらに年齢,家族構成,GIへの参加意向からなる事前調査(質問紙法によるアンケート調査)で測定した。回避傾向の高低は,「絶対に購入しない」と答えた都道府県の数が多い方から順番に回答者を並べ替え,同数の人はさらに「できれば避けたい」と答えた都道府県の数が多い人から並べ替えたリストにおいて,都道府県の数が多い方にある人ほど回避傾向が強く,都道府県の数が少ない人ほど回避傾向が弱いと判断した(原則)。ただし,自由記述部分の回答内容や記述量なども加味して総合的に判断している。未就学児ありグループ,子どもなしグループのそれぞれにおいて回避傾向の高さで順番に並べかえ,それぞれ回避傾向のより高い回答者とより低い回答者を抽出し,GIへの参加依頼を行った。

2.2 グループの作成とグループインタビューの実施

 GIは 2時間程度要することから,もともと参加者の負担感が大きな調査である。特に未就学児ありグループでは,子どもを他の人に預けるか,面倒を見ながら 2時間のインタビューに参加しな

4)  5~8人程度でグループを作り,1~2時間程度,司会のもとで,特定のテーマについて比較的自由に話し合う定性的調査手法。集団面接,フォーカス・グループなどさまざまな呼び名が使われている。

5) 基本的に食事を共にしている同居家族。 6) 小学校入学前の乳幼児。 7) 議論をより活発化させ,なおかつグループ間の違いを明確化するために,グループ内の同質性とグループ間の異質性が共に高くなるようにすべきである。なぜなら,グループ内の同質性が低いとグループ内の共通した傾向を見出しにくくなるし,発言がしにくくなることで入手できるデータの総量が減ってしまったり,意見対立が生じやすくなることで感情的な相互批判を招いたりしやすいからである。逆にグループ間の異質性が低いとグループ間の違いが見出しにくく,そもそも 2つのグループに分ける必要性が失われてしまうからである。

8)  「あなたが農産物(米,野菜,果物など)を購入する際,できれば避けたいと考えている産地として当てはまる都道府県をすべて選び,丸をつけてください。」「あなたが農作物(米,野菜,果物など)を購入する際,絶対に購入しない産地として当てはまる都道府県をすべて選び,丸を付けてください。」というもの。それぞれ 50音順で 47都道府県名を列挙し,該当する都道府県すべてに丸をつけてもらった。

9)  「あなたは農作物の安全性についてどのように考え,どのように買い物していますか。」というもの。

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ければならず,負担感はさらに大きなものとなる。加えて,事前調査の結果によって GIの参加対象者を絞る必要があり,そのためには事前調査の際に名前や連絡先などのプライベートな情報も問わなければならず,こうした負担感も大きい。このような調査参加者の負担を軽減するために,調査場所を 2か所に分けた。未就学児ありグループのアンケートは福島市内の幼稚園10)で行い,子どもなしグループは福島市内のスーパー11)とした。 未就学児ありグループでは登園時に幼稚園にて事前調査を行い,福島県産品に対する回避傾向の高い主婦と回避傾向の低い主婦をそれぞれ 12名ずつ整理番号で抽出し,幼稚園を通じて GIへの参加を依頼した。GIは日を改めて行われ,どちらも 5名ずつの参加者を得ることができた。GI当日,参加者には後園の迎え時間より 2時間早く幼稚園に集合してもらい,幼稚園内で設置した会場にて調査を実施した。 子どもなしグループは,駅前の大規模スーパーで事前調査を行った。調査参加者の負担感を軽減するために事前調査と GIを同じ日に行うこととし,事前調査終了後,素早く対象者を抽出し,スーパー入口付近に整理番号を掲示した。駅前であれば徒歩移動可能な範囲に GIを実施する会場を設

10) 回避傾向の差をできるだけ明確にするために,事前調査アンケートの実施時間(1時間程度)の中で 50名以上の回答者を得られるような大きな規模の幼稚園を選択した。福島市内では園児 200名を越える規模の幼稚園が 7つあり,この 7園から順に調査協力の依頼を行った。結果,市内最大規模の私立幼稚園の協力を得ることができた。

11) 幼稚園と同じ理由から,規模の大きなスーパーを抽出した。さらに,GIを行う会場が近くに準備できるような立地のスーパーを選択し,協力依頼を行った。結果,福島駅前の大型スーパーの協力を得ることができた。

表 1 グループインタビューの調査概要

回避傾向子どもの状況

未就学児あり 子どもなし

告知・募集調査実施の前々日に,調査目的,調査概要と参加者募集のお知らせを用紙に印刷して全保護者あてに配布。

調査実施前の 1週間,調査目的,調査概要と参加者募集の告知ポスターを,店内の掲示スペース 3か所に掲示。同時にレジ付近にポスターと同内容の縮小印刷したチラシを設置(持ち帰り自由)。

事前調査 (質問紙)

・年月日 : 2012年 5月 30日・時間 : 8 : 30-9 : 30(登園時)・場所 : 市内幼稚園 A(出入口付近)・回答者 : 70名

・年月日 : 2012年 6月 9日・時間 : 11 : 00-12 : 45・場所 : 市内スーパー (1階にある 2つの出入口付近)・回答者 : 68名

グループインタビュー

高い・年月日 : 2012年 6月 1日・時間 : 12 : 00-13 : 50・場所 : 市内幼稚園 A(教室 1)・参加者 : 5名 ・年月日 : 2012年 6月 9日

・時間 : 13 : 30-15 : 30・場所 : コラッセふくしま会議室・参加者 : 7名

低い・年月日 : 2012年 6月 1日・時間 : 12 : 00-13 : 50・場所 : 市内幼稚園 A(教室 2)・参加者 : 5名

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けることができる点,買物の同伴者が時間つぶしをできる可能性も高い点などを考慮して実施場所と実施方法を決定した。1週間前から店内に大判の告知用ポスターを 3ヶ所掲示し,さらにレジ付近に告知用のチラシを設置した。しかし事前調査の結果,GI参加可能な回答者が非常に少なく,回避傾向にはっきりとした差が出なかった。そのため回避傾向の高低では分類せず 1グループとした。 以上の結果をまとめると,「未就学児を家族に持ち,福島県産農産物の回避傾向の高い福島市在住の主婦(5名)」,「未就学児を家族に持ち,福島県産農産物の回避傾向の低い福島市在住の主婦(5

名)」,「高校生以下の子どもを家族に持たない福島市在住の主婦(7名)」の 3グループが形成された。調査概要は表 1のとおりである。

2.3 グループインタビューの結果

 GIは司会(1名),時間管理(1名),会話内容のメモ(2名)で進め,参加者の同意のもとで,ICレコーダーに会話内容を録音した。議題は,a. 農産物の購買行動状況(実際にどのような農産物を購入しているか(産地・価格・品質・他商品との比較),避けている産地の物はどこがどう変われば購入するようになるのかなど),b. 農産物の安全性に関する意識(福島県産,他県産に対する意識,どうすれば十分に安全になったと判断するのかなど),c. 食の安全や放射能関連の情報源(テレビ・雑誌・インターネット・知り合いなど),d. 情報の信頼性(どこの情報が信頼できるか,その理由,信頼できないのはどこが発信した情報か,情報源の信頼感の比較など),e. 震災前の食に対する意識(産地・価格・品質・他商品との比較などについてどう考えていたのか,有機野菜・遺伝子組み換え・農薬などに対する意識など),f. 県や国の政策に対する要望,の 6点である。 3グループでそれぞれ GIを実施後,音声データを文字起しし,得られたテキストデータから定性的(意味解釈的)分析を行った。主観的解釈に基づく分析なので厳密な意味での検証はできないし,結果を一般化することもできないが,変数設定に対して何らかの示唆を得ることを目的として行う分には非常に有益である。(1) 「回避傾向の高低」による比較

 福島県産品に対する回避傾向の高低による違いの主な特徴として 4点指摘することができる。1

点目は,回避傾向の高い人は情報探索を積極的に行っているのに対し,回避傾向の低い人は情報収集に対して受け身であった。特にインターネットの利用状況はかなり差があった。つまり,回避傾向の高い人ほどパソコンを使いこなし,多くの情報を積極的に集めているのに対し,情報を集められない人は身近にいる人の意見などに合わせて行動している人が多いということである。2点目は,回避傾向の高い人の方が自分の意見に自信を持っており,「こういう理由で危険だから福島県産品は買わないようにしている」といった積極的な理由で行動していた。逆に回避傾向の低い人で強い主張を持っている人がほとんどおらず,「流通しているものは安全だと信じたい」や「あまり考えても精神的につらいので,考えないようにしている」など消極的な理由で行動している人が多かった。3点目は,福島県産品に対する回避傾向の高い人は北関東など福島近県に対する厳しい評価を持っていた。北関東などでは全域の放射線量が高いにもかかわらず,検査や除染活動が福島に比べて圧倒的に遅れている。さらに,放射能汚染に対する意識の低さもある。そのため福島近県産品を

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福島県産品と同程度か,あるいはそれ以上に危険であると認識していた。4点目は,回避傾向の低い人には産地のことを考えることから生じるストレスを避けたいと考えている人が多かった。生じた認知的不協和12)を低減させるために,売られているものは安全なものであると自分に言い聞かせて納得させたり,意識的に情報を集めないようにしたり,福島近県の悪い状況を調べたりしていると考えられる。(2) 「未就学児あり/子どもなし」の比較

 子どもに関して指摘できる特徴は,子どもなしの主婦は福島県産の農産物を買うにしても買わないにしてもその選択にそれほど悩んでいないのに対し,未就学児を抱える主婦は回避傾向にかかわらずかなり悩んでいた。また,放射線の低線量が大人に与える影響は大きくない(ほとんどない)が,子どもに与える影響は大きいと考えている人が非常に多かった。これは子どもの有無にかかわらずみられる傾向で,結局,幼い子どものいる家族はその子どものために福島県産の農産物を避けようとすることが多いし,子どもがいなかったり,成人していたりする家族では福島県産の農産物に対してそれほど気にしないという大きな状況の違いが生じている。(3) 共通する特徴

 共通する特徴として 5点指摘することができる。1点目は,大人に対しては放射線の被害はほとんどないが,子どもに対しては存在すると考える人が大多数であるということである。回避傾向が高い人でも,もし子どもがいなければほぼ気にしないという人が非常に多かった。逆に,60代以上の人であっても,孫との同居者は農産物の産地に気を使っていた。30代以上の大人で自分の健康を理由に福島県産品を回避する人は少数であると思われる。2点目はグループ内のリーダー的存在の人の意見にかなり左右される人(フォロワー)が多いということである。インターネットなどを使った能動的な情報収集ができない人や,多くの情報を処理できず,いわゆる情報過負荷に陥っている人は,日ごろ行動を共にすることが多い友人,同僚,家族などの準拠集団の中で,知識を持つ人の意見に同調する傾向が高いようであった。とりわけ回避傾向の高低のところでも述べたように,回避傾向の高い人の方が情報収集力や情報発信力が高いことから,リーダーは回避傾向の高い人が多く,フォロワーはそれに追随することが多かった。実際に,グループインタビューを実施している 1,2時間の間でも福島県産を回避すべきとする立場の意見にグループメンバーが引っ張られやすかった。3点目は,会津産は安全であると考える人が非常に多いということである。会津産と会津以外の福島県産は完全に分けて考えている人が多かった。4点目は,国や県など政府に対する不信感が非常に根深いということである。政府に対する批判は参加者全員から多かれ少なかれ挙げられ,批判が始まると議論が非常に活発化した。政府に対する不信感の原因になっているのは,情報の隠ぺい,見解や方針の一貫性のなさ,除染や補償などの対応の遅れ,という 3点である。特に,情報隠ぺいに対する批判は非常に強かった。事故当初隠された情報が後になってから明らかに

12) 認知心理学における著名な理論で Festinger(1957)によって提唱された。詳細は省略するが,例えば社会心理学の標準的なテキストである池上・遠藤(2008)では「Festinger(1957)は,自己や自己をとりまく環境に関するあらゆる認知を視野に入れ,それらの間に生ずる矛盾や食い違いを認知的不協和と呼んだ。そして,認知的不協和の生起は不快な緊張状態をもたらすため,人はこれを低減しようとして認知要素の一方を変化させたり,新たな認知要素を加えたりすると主張した」と説明されている。

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中村・山口・安田 : 福島県産農産物に対する消費者の態度と行動

なることが多く,現在でも政府はいろいろな情報を隠していると考えている主婦が大多数であった。また政府に対する信頼感が低いために,政府がどのような取り組みをしているかをよく知らない(知りたくない,知る必要がないと考えている)人,あるいはやっている取り組み自体を信じない人が非常に多かった。5点目は,検査方法に対する不満が多く,一品一品の測定結果が店頭ですぐに見ることができるような体制を整えてくれれば安心できると考えていた。

2.4 グループインタビューの示唆

 グループインタビューの結果から,定量調査へ向けた 5つの視点が得られた。まず 1点目は,未就学児ありグループと子どもなしグループでは差がありそうである,ということである。よって,どの成長段階にある子どもを持っているかによって,福島県産農産物に対する態度や行動にさまざまな違いが出てくる可能性が高いと考えられる。2点目は居住地の違いによって福島県産農産物に対する購買意図に差があるかを確認する必要がある,ということである。福島県産の農産物しか選べないような環境にある場合と複数の産地の農産物から選択できるような環境にある場合とで比較すれば,当然前者では認知的不協和が発生しやすくなる。福島県産を買いたくないけれど,買うしかない状況になっているからである。実際に「福島県産に対する不安は強いものの,検査体制が十分に整っていない近県産(特に北関東産)に比べれば,福島県産の方がむしろ安心できる」という意見が多かったことからも,認知的不協和を低減させようとする認知の働きが影響を及ぼしている可能性が高いと考えられる。また,震災による甚大な被害があった地域とそうでない地域を比べると,連帯感や親近感の影響が現れる可能性が考えられる。これらの要因によって居住地の違いで購買意図に差が出ると考えられる。3点目は,居住地の違いによって政府に対する信頼感に差があるかを確認する必要がある,ということである。福島市民は国に対しても福島県に対しても,福島市に対しても,発信される情報は信頼できないとする意見が非常に多かった。また,それと連動してか,政府の取り組みや情報開示に対する不満も強かった。国や県に対する信頼を失ったきっかけとなったのは震災後の一連の対応で,特に放射性物質の拡散範囲の予測システムである SPEEDIの結果が隠されていたこと,食品中の放射性物質の基準値が変更されたこと,安全宣言を出した後で基準値を超える放射性物質が検出され出荷停止となったことが大きく影響したようである。震災の被害や放射能汚染の被害の大きな地域の方が,これらの失政に対してより厳しい目を向けている可能性が高いと考えられる。また,震災や放射能汚染の被害の大きな地域であれば,国の取り組みだけでなく,県や市のレベルでの取り組みに対する必要性が高く,同時にその取り組みに対する評価も厳格になると考えられる。よって地域によっては,信頼感も国に対するものと,県に対するものと,市に対するものとで大きく異なる場合もあれば,さほど差がない可能性も考えられる。4点目は,政府などに対する信頼感や情報開示の在り方,購買意図などの構成概念間の因果関係を明らかにする必要があるということである。そして,5点目は消費者にはタイプがあり,自分で情報を調べて行動している人もいれば,周りの人の行動を模倣しているだけの人もいる可能性が高く,消費者タイプの違いと福島県産農産物に対する態度や行動との関係を明らかにする必要があるということである。特に 4点目と 5点目は風評被害に対して具体的な政策を考える上で非常に重要な知見を含むと考えられるが,本稿ではまずその前段階である 1点目,2点目,3点目について扱い,4点目,5

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点目については別稿に譲ることとする。

2.5 説明変数の設定

 GIの結果をもとに,本稿では「居住地域」と「家族内の最年少者の成長段階(以下,「子どもの成長段階」)と表記」を説明変数として,分析を進めていく。この 2変数は比較的明確に市場を分けやすく,かつそれぞれにアクセスしやすい(つまり施策が行いやすい)という点から,マーケティング戦略の基礎となる STPを進めやすいという利点もある。(1) 居住地域

 放射能汚染の状況は地域によって大きく異なり,これらの違いにより,消費者の購買行動・購買意識に差があると考えられる。居住地域は,「福島県」,「岩手県・宮城県」,「東京都」,「北関東(茨城県・栃木県・群馬県)」,「京阪神(京都府・大阪府・兵庫県)」の 5水準に分類した。 本稿は福島県の立場から農業政策を考えていくことになるので,福島県はこの要因における基準となる必須の水準である。福島県はどの都道府県よりも放射能の問題と対峙していかなければならず,放射能の問題から逃げられないことが多いと考えられる。例えば福島県産農産物をできるだけ回避したい消費者がいたとしても,福島県内は他の都道府県に比べて福島県産品をより多く扱っているため,避けきれない場合が多いと考えられる。このような状態は認知的不協和の状態を発生させるため,同時にその不協和を低減させようと認知の修正13)が行われる可能性が高い。よって,福島県内の消費者の放射能に対する考え方が,比較的安全サイドによった評価になっている可能性が高いと考えられる。 岩手県・宮城県は,福島県と同様,東北地方かつ地震・津波の影響を大きく受けた。また,地理的に近く同じ東北地方に含まれるために福島県に対する親近感を持つ消費者は多いと考えられる。その一方で,福島県産農産物が多く流通している地域でもあることから,福島県産農産物に対して過敏になっている可能性も考えられる。東北地方には秋田県,山形県も含まれるが,これら日本海側の地域は比較的地震や津波,放射能汚染の被害が少なかった。また,青森県の太平洋側では津波の被害はあったものの,農産物の出荷制限はきのこ類のみであり,比較的放射能汚染の影響は低かった。よって,青森,秋田,山形の各県は対象から外した。 東京都は日本最大の市場であり,福島県産農産物にとっても大きなターゲット市場である。福島県産農産物も多く出回るが他県産も出回っており,東京都の消費者は多くの選択肢が与えられている。また,地震の直接的な被害や世田谷区のホットスポット,金町浄水場で水道水から暫定基準値以上の放射性ヨウ素検出などの影響があるため震災そのものについて当事者であるという意識があるものと見られる。さらに,東京都は人口や情報が一極集中している地域でもあるために,放射能関係の様々な団体が発足し活動している。これらの要因から東京都の消費者の購買行動・購買意識には何らかの特徴が表れると考えられる。 北関東は福島県の隣県で空間の放射線量は高く,出荷制限,摂取制限などの放射能汚染の影響を

13) 本当は避けたいが避けるのが難しいとなると精神的に大きなストレスを受けることになる。そこで,「放射能は危険だが,喫煙の方がもっと死亡率が高い。だから放射能はそれほど気にする必要はない。」などのように,自分の状況を少しでも正当化し心的なストレスを低減させようとする。

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大きく受けている地域である。しかしながら,この地域の放射線量が高いということが認知されたのは比較的時間がたってからのことであり,福島県に比べると線量の割に問題意識は低いようである。グループインタビューでも福島県産農産物の回避傾向が高い人たちからは,隣県(特に北関東)の除染状況や検査体制は不十分であり,福島県産と同等かそれ以上に安全性が疑わしいという意見が多かった。またその原因が放射能汚染に対する意識の低さからにあるという指摘があった。 京阪神は地理的に福島県から離れており直接的な放射能汚染の影響がない地域である。また,もともと市場に出回る福島県産品が少ないことから,消費者はより客観的に安全性の判断が可能であると考えられる。九州四国中国北海道といった,あまり直接的な影響がない地域の代表という位置づけになる。(2) 家族内の最年少者の成長段階(子どもの成長段階)

 本稿では,子どもの成長段階を説明変数として取り上げた。小さな子どもに対する放射性物質による汚染の影響は大人より大きいと言われ,国の放射能汚染の対策は重点的に子どもに充てられている。また,家族内における最年少者の成長段階を基準に消費者は食品を購買すると考えられる。これらのことから,子どもの有無や子どもの年齢の違いで福島県産農産物の購買行動・購買意識に差が表れると考えられる。グループインタビューでは差が出やすいようにより極端な設定(未就学児ありの場合と子どもなしの場合)を行ったところ,大人についてはさほど影響がないが子どもについては何かしら影響があるという共通認識があることがわかった。違いは成長段階のどのあたりまでを放射能汚染の影響が大きい段階と判断するかである。そこで成長段階を,「妊婦・未就学児」,「小学生」,「中学生」,「高校生以上・子どもなし」という 4水準に分類した。妊婦や未就学児に対しては,上述したとおり放射能汚染の影響が高いことから,食品に対して神経質になっている可能性が高いと考えられる。また,妊婦はすでにお腹の中に子どもがいる状態なので東京電力の損害賠償においても 18歳以下の子どもと同様の補償がなされている。小学生,中学生,高校生以上の分類は福島県の政策を基準とした。福島県では,放射線量低減化対策パンフレットを未就学児用,小学生用,中学生用を作成してはいるが,高校生用はない。また,県民健康管理調査では,年齢区分により検査項目が異なっている。ここでは,0歳~6歳(就学前乳幼児)/ 7歳~15歳(小学校 1

年生~中学 3年生)/ 16歳以上となっている。県民健康管理調査 「こころの健康度・生活習慣に関する調査」 においても,調査区分・対象者が就学前乳幼児/小学生/中学生/高校生以上となっている。福島県内では市町村が小中学生や未就学児,妊婦らにバッジ式積算線量計を配布した。以上より,福島県の放射性物質に対する政策は,主に妊婦・未就学児/小学生/中学生に向けられていることがわかる。高校生は健康調査において大人と同等に区分されているために大学生や大人とはわけないこととした。このように高校生をほぼ大人とみなす考え方はグループインタビューでも複数の回答者から聞かれたため,この設定は妥当な設定であると考えられる。

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2.6 被説明変数の設定

(1) 購買重視点

 食品を購入する際に 3つの観点(価格,産地,品質)について,それぞれどれだけ重視しているかを比較する。3つともに平均値は高くなることが予想されるが,その重要度の関係によって現状の厳しさが明らかになる。3点の差がない場合,あるいは産地が他よりも重要視されている場合には,福島県産品に対する回避傾向が強い可能性が高く,福島県産農産物にとっては非常に厳しい状況であると言わざるを得ない。また価格がほかに比べて高い場合も,価格を下げれば売ることはできるが,値下げは同時にブランド価値の損失を意味するため,今後の福島県の農業に長期的に負の影響をもたらすことになる可能性が高い。逆に,品質が高いのであれば付加価値をつけて他県産と競争できる可能性が大きいと考えることができる。(2) 情報の信頼性

 風評被害の大きな原因の一つとして情報に対する信頼感の欠如が考えられる。いくら安全だという情報が流されても,情報発信源や出された情報そのものに対する不信感があると,仮に安全であるという正しい情報であっても消費者はそのまま受け入れない。そればかりか,だまそうと嘘の情報を流している,などとわざと結果を捻じ曲げて受け取られてしまう場合すら少なくない。現在政府に対する消費者の不信感が非常に強いと言われているが,政府と一口に言っても,国のレベルなのか,都道府県のレベルなのか,市町村のレベルなのか,それらすべてを含むのか明確でない。よって,情報を発信する機関として国,都道府県,市町村を別々に設定し比較する。さらに,政府に対する信頼感の程度をつかみやすくするために,政府以外の他機関として小売店についても問う。結果によっては,今後情報の発信源を変えていく必要があるかもしれない。(3) 情報開示に対する認識(情報開示)

 グループインタビューにおいても情報不足の指摘は非常に多く,情報が故意に隠されていると感じている消費者が多いようであった。そこで,実際に情報開示に対する消費者の認識を確認する必要がある。もし情報開示が不十分であるという結果となれば,さらに,実際に政府がどのようなメディアを通じて,どのような情報をどれだけ流しているのかを把握することで,情報開示の認識を改善していくことができる。つまり,もし情報が実際に足りないのであれば,情報を増やしていけばいいし,情報が発信されているにもかかわらず,情報が消費者に届いていないのであれば,情報の内容とメディアの選び方について効果的な組み合わせを調べればよい。また,情報が理解しづらいために情報開示がなされていない(情報が故意に隠されている)と感じられているのであれば,情報提供の仕方について効果的な方法を探る必要がある。(4) 福島県産農産物に対する安心感(安心感)

 福島県産農産物に対する安心感を直接問うことで,居住地域や子どもの成長段階の違いによる比較を通じて今後,販売や広報の対象となる顧客のセグメントを見つけることができる。(5) 福島県産農産物に対する購買意図(購買意図)

 購買意図に関しても,安心感と同様である。特に購買意図は結果変数として,他の変数との因果関係について今後明らかにしていくために必須の項目である。

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3 方   法

3.1 調査の概要

 仮説の検証を行うために質問紙法によるインターネット調査を実施し,データ収集を行った。インターネット調査の概要は以下のとおりである。

  期間 : 2012年 11月 2~5日  機関 : 楽天リサーチ株式会社  対象 : 20~69歳の男女 2,000名

 調査対象者は,仮説の設定に基づき,「居住地域」と「子どもの成長段階」の 2要因を軸に割り付けた。「居住地域」 は福島県/岩手県・宮城県/東京都/北関東(茨城県・栃木県・群馬県)/京阪神(京都府・大阪府・兵庫県)の 5水準,「子どもの成長段階」は妊婦・未就学児/小学生/中学生/高校生以上・子どもなしの 4水準からなり,これら 2要因の組み合わせ(20パターン)に対し,それぞれ均等に 100サンプルずつ割り付けた(計 2,000サンプル)。つまり福島県に住む未就学児を持つ人も,群馬県に住む子どもなしの人も 100人ずつになっているということである。なお,割り付け条件に年齢と性別を加えなかったのは,食事は基本的に家族単位で作られ消費されることから,食に関わる購買意識や行動についても家族内で相当程度共通していると考えられるからである。つまり性別や年齢の違いよりも世帯間の意識や行動の特性の差の方が,はるかに強く購買意識や購買行動を説明すると考えたからである。 質問項目は 7件法からなるリッカート尺度(1 : 全くそう思わない,2 : そう思わない,3 : あまりそう思わない,4 : どちらともいえない,5 : ややそう思う,6 : そう思う,7 : 非常にそう思う)の 75項目と複数選択式の 2項目,自由記述式 3項目の計 80項目で構成された。なお,性別,年齢,居住地については調査パネルの基本情報として回答データに紐づけられている。これらの項目のうち本稿の分析で用いた項目は,表 3のとおりである。

表 2 回答者のクロス集計表(居住地域と年齢・性別)

20代 30代 40代 50代 60代平均年齢

男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 合計

福島 4 13 63 55 138 50 56 9 12 0 400 42.9

岩手・宮城 6 14 58 54 131 70 40 11 10 6 400 42.7

東京 1 9 34 64 127 75 52 21 9 8 400 44.3

北関東 6 8 45 62 140 66 38 21 11 3 400 43.3

京阪神 3 13 49 62 128 71 50 15 6 3 400 43.2

小計 20 57 249 297 664 332 236 77 48 20

合計 77 (3.85%) 546 (27.30%) 996 (49.80%) 313 (16.50%) 68 (3.40%) 2,000

男性 1,217 (60.85%) 女性 783 (39.15%)

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3.2 分析の概要

 本稿における分析は以下の 4段階の手順で進められた。まず第 1段階は,被説明変数の中の「情報開示」「安心感」「購買意図」について,一次元性が十分得られるように注意しながらそれぞれ項目選択を行い14),選択された項目を構成概念ごとに合成して構成概念の得点を算出した。これは全

14) 確認的因子分析モデルの適合度指標のうち GFI,AGFI,CFI,TLIがすべて 0.9を上回り,RMSEAが 0.08

を下回るようなモデルとなるように,修正指数,Cronbachの α係数,構成概念ごとの探索的因子分析(最尤法)の因子負荷量を算出し変数選択を行った。なお,サンプルサイズが 500以上になると適合度検定はほぼ確実に棄却されてしまうため,適合度指標によってあてはまりを評価すべきである(狩野・三浦 2002 ;

表 3 データ分析に用いた質問項目

変数名 質問項目 出典

購買重視点 【IB】 → 項目をそれぞれ別個の変数として扱う

ib_pr (価格) 食品を購入するとき価格を重視する。

オリジナルib_pl (産地) 食品を購入するとき産地を重視する。

ib_qu (品質) 食品を購入するとき品質を重視する。

情報の信頼性 【TI】 → 項目をそれぞれ別個の変数として扱う

ti_na (国) あなたは国が発信する情報を信頼することができる。

オリジナル

ti_pr (都道府県) あなたは都道府県が発信する情報を信頼することができる。

ti_ct (市町村) あなたは市町村が発信する情報を信頼することができる。

ti_re (小売店) あなたは小売店が発信する情報を信頼することができる。

情報開示に対する認識 【DI】 → 全項目を合成して一つの変数として扱う

di_01 福島県産農産物の安全を判断するのに充分な情報が表示されている。竹西・高橋(2009)di_02 消費者は,自分の手の届くまで,福島県産農産物がどのように扱われてきたの

かの情報を得ることができる。di_03 福島県産農産物の生産・流通・加工・外食に関する情報は正確に表示されている。

福島県産農産物に対する安心感 【RE】 → 全項目を合成して一つの変数として扱う

re_01 福島県産の食品を食べることに不安を感じる。(-)オリジナルre_02 福島県産を食べることにそれほど害はないと思う。

re_03 流通されているものは大丈夫だと思う。

福島県産農産物に対する購買意図 【PI】 → 全項目を合成して一つの変数として扱う

pi_01 あなたは福島県産農産物を買おうと思う。Baker & Churchill (1977)

pi_02 あなたは福島県産農産物をお店で偶然目にしたら買おうと思う。pi_03 あなたは店内で福島県産農産物を積極的に探す。pi_04 あなたは福島県産農産物をひいき(後援・奨励)するだろう。

pi_05 あなたが福島県産農産物を購入する可能性は大いにある。Putrevu & Lord (1994)pi_06 あなたは次の機会に農産物を購入する必要があったら,福島県産農産物を購入

するだろう。

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体的な分析の前処理にあたるものである。次に第 2段階として,用意したすべての被説明変数15)について,「居住地域」「子どもの成長段階」の 2変数を説明変数として 2元配置多変量分散分析を行い,説明変数間の交互効果やそれぞれの主効果(多重比較を含む),単純主効果について吟味した。これは分析の中心となる部分で,価格に対する重視度や国の発信する方法の信頼性,情報開示に対する認識など 10種類の被説明変数を,居住地域の違いや子どもの成長段階の違いによってどの程度異なるのかを確認するものである。ただし,完全にコントロールされた実験などでない限り,回帰分析や分散分析などの一般線形モデルそのものでは因果関係を特定することはできない。よって,本研究の主目的である第 2段階の分析において,「居住地域」と「子どもの成長段階」を説明変数に設定したが,実際には説明変数と被説明変数の双方向からの説明が可能である。そこで第 3段階は,購買重視点と情報の信頼性について,居住地域と子どもの成長段階を被説明変数,購買重視点と情報の信頼性をそれぞれ説明変数とする 1元配置多変量分散分析を行い,比較した。購買重視点と情報の信頼性はそれぞれ関連のある項目を合成せずに別個に変数化しているため,これらの変数を水準と見立てて比較することが可能で,例えば福島の中で購買時に重視するポイントに違いがあるのか(価格,産地,品質のいずれをより重視しているのか),あるいは情報に対する信頼性が機関の違いによって異なるのか(国,都道府県,市町村,小売店のいずれをより信頼できると考えているのか),という視点から検討することができる。ただし,第 3段階の分析では逆方向の関係性を確認することが目的であるため,第 2段階のような交互効果などの分析は行わず,あくまで第 2

段階の分析を補完するという位置づけである。最後に第 4段階として,平均値と標準偏差について確認した。例えば居住地域や子どもの成長段階の違いによる差がなかったとしても,全体的に値が高い,あるいは低いという結果であれば,それは重要な知見となるからである。 なお被説明変数が複数ある場合には多変量分散分析がよく用いられる。多変量分散分析を用いるか,別個に分散分析を繰り返すか,という方法の違いは,「研究の背景にある理念に関するもの」と,「数理統計学上の理論に関するもの」に分類される(菅 2010)。本稿では被説明変数を全体として総括的に捉える事が目的ではないため,前者の「研究の背景にある理念という観点」からは特に多変量分散分析を用いる必要性がない。しかし,後者の「数理統計学上の理論に関する観点」から,多変量分散分析は複数の変数間の相関を考慮に入れて検定を行うことができ,その点では有効な手法である(水本 2009)ため,多変量分散分析を用いた。ただし,多変量分散分析を用いても第 1

種の誤りの確率をコントロールすることはできず,依然として検定の多重性の問題を含むため,本稿ではこちらも Bonferroniの方法16)を用いて有意確率を調整した。

浅野・鈴木・小島 2005)ことから,本稿ではサンプルサイズが 2000と大きいことを考慮し,適合度指標での評価を行った。

15)  「購買重視点」と「情報の信頼性」は測定項目を別個に扱うのでそれぞれ 3変数と 4変数,「情報開示」「安心感」「購買意図」は測定項目をそれぞれ合成して 1つとして扱うので 3変数となり,全体では合わせて 10

個の被説明変数を分析に用いた。16) 有意水準を検定回数で割った値を基準とする補正方法のこと。例えば,有意水準 5%の検定を 3回行う場合であれば .05 / 3 = .017 を基準にすることになる。本稿では結果を見やすくするために,有意水準ではなく,個々の有意確率の方を検定回数倍(10倍)するよう調整した。よって,調整後の有意確率は通常の場合と同様に .05を基準として比較することができる。なお,有意確率の方を調整する場合,調整後の有意確率が

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 分析には IBM SPSS Statistics Base 20.0,IBM SPSS Advanced Statistics 20.0, IBM SPSS Amos 20.0

を使用し,有意水準 5%で検証を行った。

4 結   果

 「情報開示」「安心感」「購買意図」に関する項目選択を行った結果,最終的な確認的因子分析の結果は図 1のとおりであった。また,このとき各構成概念の Cronbachの α係数は,情報開示(.900),安心感(.875),購買意図(.941)となりいずれも十分な信頼性が得られた。構成概念の得点は最終的に得られたそれぞれの 3項目を用いて,下位尺度得点(平均)で算出した。 次に,「購買重視点」の 3変数(項目),「情報の信頼性」の 4変数(項目)に,合成変数である「情報開示」,「安心感」,「購買意図」の 3変数を加えた計 10変数を被説明変数,「居住地域」,「子どもの成長段階」の 2変数を説明変数とする 2元配置の多変量分散分析を行った。分析にあたってデータの正規性と等分散性を確認したところ,複数の変数について逸脱が確認されたため,より頑健性があるという Pillaiの traceの値を用いて評価した。分散分析と多重比較の結果は表 4,平均と標準偏差の詳細は表 5のようになった。 結果の詳細を見ていくと,まず 10個の被説明変数をすべて考慮に入れた場合,居住地域と子どもの成長段階の間には交互効果がみられた(Pillai’s trace = .078, F (120, 19800) = 1.293, p = .017,

partial η2= .008)。また,居住地域,子どもの成長段階のいずれについても主効果がみられた(居住地域 : Pillai’s trace = .102, F (40, 7896) = 5.164, p < .01, partial η2= .025,子どもの成長段階 : Pil-

lai’s trace = .058, F (30, 5919) = 3.913, p < .01, partial η2= .019)。

1を超えてしまう場合が多く出てくるので,その場合は p=1.00 とした。

図 1 確認的因子分析の結果

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表4 

2元配置分散分析と多重比較の結果

居住地域(居)

子どもの成長段階(子)

交互効果

主効果

多重比較(「産地」と「品質」は単純主

効果の検定結果)

福島

(F)

岩・宮

I東京 T

北関東

N京阪神

K未就学

P小学生

E中学生

J高校上

H居住地域

子どもの

成長

購買

重視点

価格

M5.

125.

215.

135.

175.

095.

145.

125.

115.

191.

0000

1.00

001.

0000

SD1.

125

1.06

81.

038

.998

1.12

81.

086

1.03

21.

028

1.14

2n.

s.n.

s.n.

s.

産地

M4.

744.

664.

654.

604.

754.

924.

634.

594.

58.0

114

(居)

P:

T<

I*, E

:T

<F**

SD1.

275

1.27

21.

287

1.24

61.

278

1.26

31.

260

1.21

21.

323

*(子)

I:J&

H<

P**

, E<

P*

, T:

E<

J*,

  

N:

J<P*

品質

M5.

135.

115.

155.

145.

175.

205.

085.

165.

12.0

061

(居)

E:

T<

N&

F*

, J:

N<

T*

SD1.

016

.968

1.11

3.9

261.

043

1.00

01.

028

.964

1.06

2**

(子)

T:

E<

J&H**

情報の

信頼性

国M

2.84

3.10

3.17

3.25

3.04

3.10

3.06

3.11

3.04

1.00

00.0

008

1.00

00(居)

F<

I*, F

<T

&N**

SD1.

295

1.29

11.

290

1.25

41.

287

1.32

71.

276

1.25

71.

301

n.s.

**

n.s.

都道

府県

M3.

073.

583.

383.

543.

253.

383.

293.

393.

391.

0000

.000

01.

0000

(居)

F<

T&

N&

I**

, K<

N*

, K<

I**

SD1.

309

1.29

41.

265

1.24

21.

254

1.31

91.

245

1.27

01.

308

n.s.

**

n.s.

市町村

M3.

323.

643.

563.

693.

403.

553.

473.

553.

521.

0000

.000

91.

0000

(居)

F<

I&N**

, K<

N*

SD1.

376

1.29

81.

261

1.26

41.

243

1.30

61.

278

1.29

91.

301

n.s.

**

n.s.

小売店

M3.

533.

643.

633.

693.

443.

573.

513.

653.

601.

0000

.128

41.

0000

SD1.

205

1.11

61.

173

1.02

91.

083

1.18

01.

139

1.04

81.

131

n.s.

n.s.

n.s.

情報開示

M3.

493.

473.

303.

483.

183.

243.

313.

513.

481.

0000

.003

9.0

045(居)

K<

I&N

&F**

SD1.

392

1.18

01.

165

1.12

81.

203

1.24

91.

184

1.21

01.

227

n.s.

**

**(子)

P<

H&

J**

, E<

J*

安心感

M4.

294.

184.

024.

163.

763.

723.

974.

254.

39.1

480

.000

0.0

000(居)

K<

N&

I&F**

SD1.

507

1.46

21.

374

1.33

31.

394

1.48

91.

392

1.33

91.

387

n.s.

**

**(子)

P<

E<

J*, P

<J&

H**

, E<

H**

購買意図

M4.

203.

783.

673.

713.

403.

363.

663.

964.

021.

0000

.000

0.0

000(居)

K<

T*

, K<

N&

I&F**

,   

K&

T&

N&

I<F**

SD1.

567

1.39

61.

322

1.24

81.

312

1.45

01.

331

1.35

81.

345

n.s.

**

**(子)

P<

E<

J&H**

注1) *

p<.0

5, **

p<.0

1注

2) 有意確率はいずれも

Bon

ferr

oniの方法による調整済みの値であり,調整によって有意確率が

1を超えたものはすべて

1.00

00と表記している。

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表5 平均値と標準偏差の詳細

居住地域

福島

岩手・宮城

東京

北関東

京阪神

子どもの成長

段階

未就学児

小学生中学生高校生

以上

未就学児

小学生中学生高校生

以上

未就

学児

小学生中学生高校生

以上

未就

学児

小学生中学生高校生

以上

未就

学児

小学生中学生高校生

以上

購買重

視点

価格

M5.

205.

134.

965.

175.

175.

375.

135.

155.

115.

075.

235.

095.

035.

145.

215.

295.

194.

905.

025.

24

SD1.

181

0.93

91.

072

1.28

01.

120

0.95

01.

002

1.18

41.

091

1.08

50.

973

1.00

60.

937

1.00

50.

998

1.04

71.

098

1.13

31.

082

1.18

2

産地

M4.

894.

984.

524.

575.

154.

614.

374.

524.

624.

374.

854.

764.

934.

594.

434.

465.

004.

614.

794.

59

SD1.

230

1.1 8

91.

344

1.28

91.

298

1.17

11.

079

1.39

61.

332

1.42

61.

175

1.16

41.

157

1.11

11.

183

1.45

91.

255

1.32

51.

209

1.29

6

品質

M5.

115.

235.

184.

985.

295.

155.

015.

005.

104.

815.

405.

285.

265.

234.

965.

115.

254.

995.

235.

23

SD1.

100

0.94

10.

914

1.09

20.

935

0.88

00.

937

1.09

21.

142

1.20

30.

995

1.02

60.

799

0.93

00.

942

1.00

40.

989

1.10

50.

983

1.08

1

情報の

信頼性

国M

2.92

2.77

2.97

2.68

2.94

3.18

3.16

3.11

3.33

3.17

3.12

3.05

3.34

3.21

3.25

3.21

2.97

2.99

3.05

3.14

SD1.

412

1.27

81.

243

1.23

81.

434

1.16

71.

2 45

1.31

01.

295

1.34

11.

192

1.32

91.

165

1.31

31.

274

1.27

41.

267

1.24

31.

336

1.31

1

都道

府県

M3.

142.

963.

103.

073.

443.

493.

723.

663.

453.

393.

373.

313.

643.

473.

503.

533.

223.

143.

253.

40

SD1.

421

1.25

51.

267

1.29

71.

466

1.14

11.

207

1.33

51.

282

1.28

61.

253

1.25

31.

177

1.25

11.

251

1.29

81.

186

1.22

31.

306

1.30

3

市町村

M3.

343.

343.

323.

283.

563.

533.

763.

723.

583.

653.

543.

463.

833.

613.

733.

593.

453.

223.

383.

56

SD1.

437

1.45

11.

325

1.30

31.

466

1.15

91.

182

1.36

41.

232

1.28

21.

267

1.27

51.

155

1.27

01.

325

1.30

31.

184

1.17

71.

354

1.24

2

小売店

M3.

523.

463.

593.

543.

513.

633.

763.

643.

643.

573.

693.

623.

633.

593.

783.

743.

543.

323.

423.

46

SD1.

359

1.25

91.

083

1.11

41.

291

1.07

90.

911

1.15

01.

210

1.15

71.

070

1.26

20.

991

1.10

21.

021

1.00

11.

019

1.08

11.

121

1.11

4

情報開示

M3.

283.

383.

613.

673.

163.

443.

703.

573.

253.

253.

393.

323.

283.

483.

543.

633.

212.

983.

313.

22

SD1.

324

1.32

91.

425

1.46

61.

319

1.03

31.

092

1.20

41.

207

1.22

71.

180

1.05

01.

202

1.03

21.

113

1.14

81.

207

1.22

31.

191

1.18

3

安心感

M4.

034.

234.

424.

493.

414.

224.

484.

623.

893.

963.

924.

333.

783.

914.

334.

613.

483.

564.

103.

92

SD1.

548

1.54

61.

406

1.50

31.

684

1.33

31.

196

1.29

91.

317

1.41

41.

362

1.37

61.

387

1.31

61.

249

1.22

41.

414

1.24

91.

410

1.42

1

購買意図

M3.

914.

074.

414.

403.

053.

794.

094.

193.

493.

653.

683.

873.

273.

543.

964.

083.

103.

253.

683.

55

SD1.

524

1.61

31.

547

1.54

71.

671

1.21

41.

189

1.16

71.

275

1.31

61.

360

1.32

81.

362

1.16

71.

203

1.08

71.

230

1.18

01.

348

1.41

3

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中村・山口・安田 : 福島県産農産物に対する消費者の態度と行動

 そこで,それぞれの被説明変数ごとに居住地域と子どもの成長段階を説明変数とする 2元配置分散分析を行い,交互効果と主効果(あるいは単純主効果)の検証を行った。さらに必要に応じて多重比較も行った。なお検定の多重性を考慮し,すべて Bonferroniの方法で補正を行った。以下,有意確率は補正済みの値を示した。

4.1 購買重視点

 価格,産地,品質をそれぞれ被説明変数とする 2元配置分散分析を行った結果,価格については交互効果,主効果ともに非有意となったが,産地と品質については交互効果が有意となった(産地 : F (12, 1980) = 2.727, p = .011, partial η2= .016,品質 : F (12, 1980) = 2.873, p = .006, partial

η2= .017)。 次に,主効果が有意であった産地と品質について単純主効果の検定を行った。産地の重視度を比較すると,未就学児で有意な差が見られたのは,東京(M = 4.62, SD = 1.332)<岩手・宮城(M

= 5.15, SD = 1.298)であった。同様に小学生では,東京(M = 4.37, SD = 1.426)<福島(M = 4.98,

SD = 1.189)で有意な差が見られた。一方,岩手・宮城では,小学生(M = 4.61, SD = 1.171),中学生(M = 4.37, SD = 1.079),高校生以上(M = 4.52, SD = 1.396)はいずれも未就学児(M = 5.15,

SD = 1.298)に比べて値が有意に低かった。品質の重視度を比較すると,小学生において東京(M

= 4.81, SD = 1.203)は北関東(M = 5.23, SD = 0.930)と福島(M = 5.23, SD = 0.941)より有意に値が低かった。中学生においては北関東(M = 4.96, SD = 0.942)<東京(M = 5.40, SD = 0.995)であった。一方,東京では小学生(M = 4.81, SD = 1.203)より中学生(M = 5.40, SD = 0.995)と高校生以上(M = 5.28, SD = 1.026)の値が有意に高かった。 さらに,それぞれの居住地域を被説明変数,購買重視点(価格・産地・品質の対応ある 3水準)を説明変数とする 1元配置多変量分散分析を行ったところ,すべての居住地域を含めた購買重視点は有意に異なることが明らかになった(Pillai’s trace = .139, F (2, 1994) = 161.069, p < .01, partial

η2= .139)。そこで居住地域ごとに購買重視点を多重比較(Bonferroniの方法)したところ,すべての地域において産地よりも価格と品質を有意に重視していることが明らかとなった(p < .001)。また,それぞれの子どもの成長段階を被説明変数,購買重視点(価格・産地・品質の対応ある 3水準)を説明変数とする 1元配置多変量分散分析を行ったところ,すべての成長段階を含めた購買重視点は有意に異なることが明らかになった(Pillai’s trace = .140, F (2, 1995) = 162.358, p < .01, par-

tial η2= .140)。そこで子どもの成長段階ごとに購買重視点を多重比較(Bonferroniの方法)したところ,すべての成長段階において産地よりも価格と品質を有意に重視していることが明らかとなった(p < .01)。 最後に平均値と標準偏差について全体を確認した。平均値については「どちらでもない」を表す評価値 4と比べると,価格,産地,品質ともに 4を上回り,中でも価格と品質はすべて 5を上回った。標準偏差については価格や品質に比べると産地のばらつきが大きかった。特に,福島から離れた東京,京阪神では小学生でのばらつきが大きいのに対し,福島の近県である岩手・宮城や北関東では高校生でのばらつきが大きかった。価格は居住地域や子どもの成長段階にかかわらず,安定して高かった。

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商  学  論  集 第 82巻第 1号

38― ―

4.2 情報の信頼性

 各機関(国,都道府県,市町村,小売店)の発信する情報の信頼性をそれぞれ被説明変数とする2元配置分散分析を行った結果,いずれも交互効果は非有意であった。説明変数ごとの主効果は,国,都道府県,市町村すべて同様で居住地域は有意だった(国 : F (4, 1980) = 6.027, p = .001, partial

η2= .012,都道府県 : F (4, 1980) = 10.791, p < .001, partial η2= .021,市町村 : F (4, 1980) = 5.946,

p = .001, partial η2= .012)が,子どもの成長段階は非有意であった。また,小売店については居住地域,子どもの成長段階ともに非有意となった。そこで,主効果が有意であった国,都道府県,市町村が発信する情報の信頼性について,多重比較(Bonferroniの方法)により居住地域間の差異を検証した。国の発信情報に対する信頼性は,岩手・宮城(M = 3.10, SD = 1.291),東京(M = 3.17,

SD = 1.290),北関東(M = 3.25, SD = 1.254)に比べて福島(M = 2.84, SD = 1.295)が有意に低かった。都道府県の発信情報に対する信頼性も国と同様に,岩手・宮城(M = 3.58, SD = 1.294),東京(M = 3.38, SD = 1.265),北関東(M = 3.54, SD = 1.242)に比べて福島(M = 3.07, SD = 1.309)が有意に低かった。さらに北関東や岩手・宮城に比べて京阪神(M = 3.25, SD = 1.254)も有意に低い値となった。市町村の発信情報に対する信頼性は,岩手・宮城(M = 3.64, SD = 1.298),北関東(M = 3.69, SD = 1.264)に比べて福島(M = 3.32, SD = 1.376)が低い値となった。さらに北関東に比べて京阪神(M = 3.40, SD = 1.243)も有意に低い値となった。 次に,それぞれの居住地域を被説明変数,情報の信頼性(国・都道府県・市町村・小売店の対応ある 4水準)を説明変数とする 1元配置多変量分散分析を行ったところ,すべての居住地域を含めた情報の信頼性は有意に異なることが明らかになった(Pillai’s trace = .216, F (3, 1993) = 183.406,

p < .001, partial η2= .216)。そこで居住地域ごとに購買重視点を多重比較(Bonferroniの方法)したところ,いずれの居住地域においても国の値はほかに比べて有意に低かった(p < .001)。岩手・宮城以外は,国よりも都道府県が有意に高く,さらに都道府県よりも市町村や小売店が有意に高い結果となった(p < .05)。一方,岩手・宮城では都道府県と市町村,小売店の間に有意な差は見られなかった。 また,それぞれの子どもの成長段階を被説明変数,情報の信頼性(国・都道府県・市町村・小売店の対応ある 4水準)を説明変数とする 1元配置多変量分散分析を行ったところ,すべての成長段階を含めた情報の信頼性は有意に異なることが明らかになった(Pillai’s trace = .215, F (3, 1994) =

182.509, p < .001, partial η2= .215)。そこで子どもの成長段階ごとに情報の信頼性を多重比較(Bon-

ferroniの方法)したところ,いずれの成長段階においても,国より都道府県が有意に高く,都道府県より市町村と小売店が有意に高いことが明らかとなった(p < .01)。 最後に平均値と標準偏差について全体を確認した。「どちらでもない」を表す評価値 4と比べると,いずれの機関においても 4を下回り,特に国に対する信頼は 1ポイントほど低かった。また,居住地域の中では福島,子どもの成長段階の中では未就学児がいずれにおいても最もばらつきが大きいことが分かった。

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中村・山口・安田 : 福島県産農産物に対する消費者の態度と行動

4.3 情報開示に対する認識(情報開示)

 情報開示に対する認識を被説明変数とする 2元配置分散分析を行った結果,交互効果は非有意であったが,主効果については居住地域(F (4, 1980) = 5.155, p = .004, partial η2= .010),子どもの成長段階(F (3, 1980) = 6.014, p = .004, partial η2= .009)のいずれも有意となった。情報開示に対する認識について居住地域の違いで多重比較(Bonferroniの方法)を行ったところ,京阪神に比べ,岩手・宮城,北関東,福島が有意に高い値となった(p < .01)。同様に,子どもの成長段階の違いにおいても多重比較を行った結果,中学生が未就学児や小学生よりも有意に高く,高校生も未就学児より有意に高いことが分かった(p < .05)。 平均値と標準偏差について全体を確認すると,居住地域の違いや子どもの成長段階の違いによらず,いずれも平均値は 4を下回った。また居住地域の中では福島,子どもの成長段階の中では未就学児のばらつきがほかに比べて大きいことがわかった。

4.4 福島県産農産物に対する安心感(安心感)

 福島県産農産物に対する安心感を被説明変数とする 2元配置分散分析を行った結果,交互効果は非有意であったが,主効果については居住地域(F (4, 1980) = 8.531, p < .001, partial η2= .017),子どもの成長段階(F (3, 1980) = 23.337, p < .001, partial η2= .034)のいずれも有意となった。福島県産農産物に対する安心感について居住地域の違いで多重比較(Bonferroniの方法)を行ったところ,京阪神に比べ,北関東,岩手・宮城,福島が有意に高い値となった(p < .01)。同様に,子どもの成長段階の違いにおいても多重比較を行った結果,未就学児より小学生が有意に高く,さらに小学生よりも中学生や高校生が有意に高いことが分かった(p < .05)。 平均値と標準偏差について全体を確認すると,福島県は回答のばらつきが非常に大きかったものの,全体として子どもの成長段階によらず平均値は 4を上回り安心感が高めであった。居住地域であれば,福島から離れるほど安心感が下がり,家族の最年少者が中学生以上であれば安心感は概ね4を超えた。また居住地域の中では福島,子どもの成長段階の中では未就学児の回答のばらつきがほかに比べて大きいことがわかった。

4.5 福島県産農産物に対する購買意図(購買意図)

 福島県産農産物に対する購買意図を被説明変数とする 2元配置分散分析を行った結果,交互効果は非有意であったが,主効果については居住地域(F (4, 1980) = 18.292, p < .001, partial η2=

.036),子どもの成長段階(F (3, 1980) = 25.338, p < .001, partial η2= .037)のいずれも有意となった。福島県産農産物に対する購買意図について居住地域の違いで多重比較(Bonferroniの方法)を行ったところ,東京,北関東,岩手・宮城はいずれも京阪神より有意に高く,福島はそれら 3地域よりさらに有意に高い値となった(p < .05)。同様に,子どもの成長段階の違いにおいても多重比較を行った結果,未就学児よりも小学生が有意に高く,さらに小学生よりも中学生と高校生が有意に高いことが分かった(p < .01)。 平均値と標準偏差について全体を確認すると,居住地域では概ね 4を下回ったが,福島のみ 4を

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商  学  論  集 第 82巻第 1号

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上回った。子どもの成長段階では中学生と高校生がおよそ 4となり,未就学児や小学生は 4を下回った。また居住地域の中では福島,子どもの成長段階の中では未就学児のばらつきがほかに比べて大きいことがわかった。

5 考   察

5.1 得られた知見

 購買重視点について明らかとなったのは,消費者は購買時に価格,産地,品質のいずれも考慮しているが,その中では産地より価格や品質を特に重視しているということである。産地に対する不安や危険意識があっても農産物の品質(大きさや鮮度など)に対して価格に値ごろ感があれば,購入される可能性が高いことがわかる。また,産地は居住地域や子どもの成長段階によるばらつきが大きく,特に福島から離れた地域では家族の最年少者が小学生の場合に,また福島の近県では最年少者が高校生以上の場合に,それぞればらつきが大きいことがわかった。 各機関の発信する情報に対する信頼性について明らかとなったのは,居住地域や家族の最年少者の成長段階の違いにかかわらず,各機関の発信する情報に対する信頼性が低いということである。特に市町村よりは都道府県,都道府県よりは国と,概ね政府の単位が大きくなればなるほど信頼性が下がり,中でも国の発信する情報に対する信頼感が非常に低い。また,福島県以外の地域では市町村と小売店で有意な差は見られないが,福島県では小売店より市町村の方が有意に低いということがわかった。つまり福島県では市町村レベルであっても不信感が根強いことがわかる。 情報開示に対する認識について明らかとなったのは,居住地域や子どもの成長段階にかかわらず,情報開示が十分なされていないと感じている消費者が多いということである。中でも岩手・宮城,北関東,福島など震災や放射能汚染の被害が大きかった地域より,京阪神など福島と遠い地域の人の方が情報開示に対する不満が大きく,未就学児や小学生を家族に含む消費者の方がそうでない消費者よりも情報開示に対する不満が大きい。 福島県産農産物に対する安心感について明らかとなったのは,福島は子どもの成長段階によらず安心感が高めで,福島から遠ざかるにつれて安心感も下がっている。また,家族内に未就学児や小学生を抱える家族は安心感が低く,中学生以上であれば特に不安が大きいということもない。 福島県産農産物に対する購買意図について明らかとなったのは,東京,北関東,岩手・宮城はいずれも京阪神より有意に高く,福島はそれら 3地域よりさらに購買意図が高いことである。同様に,子どもの成長段階の違いにおいても,未就学児よりも小学生が有意に高く,さらに小学生よりも中学生と高校生が有意に高い。福島であれば子どもの成長段階に限らず購買意図が特に低いとは言えない。岩手・宮城,北関東などの福島近県では,未就学児や小学生を持つ消費者の購入はあまり見込めないが,中学生以上であれば購買意図が特に低いとは言えない。東京や京阪神は総じて福島県産に対する購買意図が低い。 福島県産農産物に対する安心感や購買意図において,居住地域や子どもの成長段階によらず,全体的に回答のばらつきが多く,中でも福島在住者や家族に未就学児を含む消費者の回答は,他に比べて特にばらつきが大きい。つまり,消費者によって意識や行動に大きな違いが見られるというこ

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中村・山口・安田 : 福島県産農産物に対する消費者の態度と行動

とである。

5.2 提言

 調査分析から得られた知見を基に,今後の福島県の農業政策について 3つの提言をすることができる。まず第 1点目は,できるだけ値引きに頼らない販売を心がけることである。調査分析の結果,産地以上に価格と品質が重要であることが明らかになった。安ければ買う消費者がいるということであるが,安易に値引きを行うとそれによって福島県産の持つブランド価値が傷つくことになる。一度傷ついたブランド価値を上げていくのは容易ではないため,今後の福島県の農業にとって致命的なダメージを与えかねない。したがって,ただ値引きを行うのではなく,品質に対する値ごろ感を上げることが重要である。つまり価格を下げるのではなく,同じ価格でより質の高い農産物を提供することを考えるということである。また,販売先についても当面の間はより福島県に近いところに絞っていく必要がある。福島県またはその隣県に比べると,東京や京阪神など離れた地域で福島県産品に対する安心感や購買意図が低い。そのため,そういった地域で販売するためにはさらなる値引きが必要になり,それはブランド価値を傷つけることになってしまう。 第 2点目は,情報開示を効果的に進めていくことである。情報開示に対する認識は居住地域にかかわらず総じて低く,これが福島県産の農産物や政府に対する不信感にまでつながっている可能性が非常に高いので,風評被害への対処という意味でも重要である。情報開示に対する認識が低い原因として次の 3つの可能性が考えられ,原因によって対処策も異なる。1つ目は実際に情報開示が行われておらず,多くの情報が隠されている場合,2つ目は情報開示が行われているのに,消費者にうまく伝わっていない場合,3つ目は情報開示しているのに,消費者がその情報を避けたり,情報として認めていない場合である。1つ目の場合は,情報開示に対する消費者の認識が低いことで被る被害の大きさを政府が正しく認識し,積極的に公開を進めていけばよい。2つ目は情報提供の在り方を変える必要がある。ただ漠然とインターネットで検査結果を羅列しているだけではほとんどの消費者に届かない。情報提供を行う際には,ターゲットとなる消費者を明確にし,その消費者タイプに合わせたメディアを用いて,消費者タイプに合わせた情報を発信する必要があるということである。こういった意識を強く持つ必要がある。3つ目は情報発信を行う機関に対する不信感が強く関係している。国や都道府県が発信する情報は消費者にとって信頼できない情報となってしまっている。そのため国や都道府県が情報発信を行っているうちは,有益な情報として消費者に届くことは難しい。政府発信に対する情報の信頼性は総じて非常に低いが,それでも国が発信するのであれば都道府県が発信した方がよいし,都道府県が発信するよりは市町村のレベルで発信した方がよい。また,福島県から離れれば離れるほど情報開示に対する認識が低くなっていることから,県内向けだけでなく,県外に向けても積極的に情報発信していく必要がある。 第 3点目は,風評被害に対する取り組みと信頼回復のための取り組みを切り分けてそれぞれ進めていくということである。現在,国や都道府県の政府に対する消費者の不信感は非常に強い。そのため,国や都道府県の取り組みはすぐに穿った見方がなされ,素直に受け入れられない。中長期的な視点から言えば,信頼回復を本格的に進めていかなければならないことは当然であるが,信頼回復には非常に時間がかかる。一方で風評被害は待ったなしに福島県などの第一次産業に大きな被害

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商  学  論  集 第 82巻第 1号

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を与え続けている。よって,風評被害に対しては少しでも早く効果的な対応を行っていくことが求められている。ゆえに,風評被害への具体的な取り組みや検査結果の公表は,国や県ではなく,市町村が前面に出て行うべきである。あるいは,小売店やマスコミ,研究機関,NPOとの連携で進めていくべきである。一方で,国や県は地域を回り,地域住民との直接的なコミュニケーションを取る機会を増やし,少しずつ信頼回復を図っていくことが重要である。政権交代は政府の信頼を得る大きな機会ではあるが,あくまで機会であり,根本的な解決にはなりえない。その機会を活かして地道に信頼回復に向けた活動を続けていかなければ,結局政府に対する大きな不信感は残ったままである。

5.3 課題と今後の展望

 本稿の残された課題として 4点指摘することができる。まず第 1点目は質問項目の精緻化である。事前調査を行うことができなかったために,質問項目の表現や各項目の回答のばらつきなどについて不十分なところが多い。よって,質問項目の精緻化を進めていく必要がある。第 2点目は今後も継続的に調査を行い,経時的な変化についても検証すべきであるということである。福島県の持つブランド価値について中長期的な視点から戦略を練っていくために必要となるデータである。また例えば調査実施時点から見ると国家レベルでは政権交代があり,政府に対する指示率は大きく上昇している。このような出来事が,消費者の政府や福島県産の農産物に対する認識に及ぼす影響は非常に大きいと考えられ,その影響力の大きさもきちんと把握していく必要がある。第 3点目は,効果的な消費者タイプの分類を進めるということである。本稿では居住地域と子どもの成長段階という軸で消費者を切り分けたが,同一カテゴリ内でも回答のばらつきがかなり大きく,より効果的なセグメンテーションの必要性がある。さらに第 4点目として,それぞれのセグメントに対してより効果的な情報発信のあり方を明らかにしていく必要がある。

付   記

 本稿で示されたグループインタビューは福島県農林水産部農林企画課との共同調査「県産農林水産物の消費動向調査」の一環として行われたものである。また,インターネット調査は平成 24年度福島大学学長裁量経費(改革促進経費)「研究課題 : 消費者の意識・行動に基づく福島県産農産物のブランド価値向上のためのマーケティング戦略構築」による助成を受けたものである。

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