特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル....

42
特集 広告と消費者トラブル 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて− 1 特集2 消費者トラブルと広告規制の課題 5 特集3 広告の消費者行動への効果と今後の課題 9 消費者問題アラカルト フィンテックで変わる家計管理 −銀行法改正の動きを踏まえて− 12 新インターネットと上手につき合う 絵をみて分かるインターネット技術の基礎 クラウドサービス 15 賃貸住宅の基礎知識-入居から原状回復まで- 建物の明け渡しと原状回復 −借主の原状回復義務と費用負担− 17 海外ニュース <イギリス>高齢者施設への対策を速やかに 19 <香港>予防医療サービスの申し込みは慎重に <ドイツ>咳を鎮める薬はあるの? <オーストリア>ウィーンの冬の味覚「焼き栗」をテスト 消費者教育実践事例集 自分で知り、考え、行動する力を育てるために -子どもだって消費者!紙芝居やすごろくで遊びながら学ぶ- 21 明治時代の生活に学ぶ 家庭料理の誕生-求められた経済性と実用性- 私たちと経済 企業活動と経済 23 25 消費生活相談員のための割賦販売法 割賦販売法とはどのような法律か 28 暮らしの法律 近所のごみ屋敷に住民が迷惑している場合には? 暮らしの判例 紛失した携帯電話が不正使用された場合の電子マネーサービス提供業者の責任 誌上法学講座 新時代の消費者契約法を学ぶ 契約取消権(4条)(4) 32 33 36 ウェブ版 NO.682018目次 New!

Upload: others

Post on 15-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

特集 広告と消費者トラブル

特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて− 1

特集2 消費者トラブルと広告規制の課題 5

特集3 広告の消費者行動への効果と今後の課題 9

消費者問題アラカルト フィンテックで変わる家計管理

−銀行法改正の動きを踏まえて−

12

新インターネットと上手につき合う 絵をみて分かるインターネット技術の基礎 クラウドサービス 15

賃貸住宅の基礎知識-入居から原状回復まで- 建物の明け渡しと原状回復

−借主の原状回復義務と費用負担−

17

海外ニュース <イギリス>高齢者施設への対策を速やかに 19

<香港>予防医療サービスの申し込みは慎重に

<ドイツ>咳を鎮める薬はあるの?

<オーストリア>ウィーンの冬の味覚「焼き栗」をテスト

消費者教育実践事例集 自分で知り、考え、行動する力を育てるために

-子どもだって消費者!紙芝居やすごろくで遊びながら学ぶ-

21

明治時代の生活に学ぶ 家庭料理の誕生-求められた経済性と実用性-

私たちと経済 企業活動と経済

23

25

消費生活相談員のための割賦販売法

割賦販売法とはどのような法律か

28

暮らしの法律 近所のごみ屋敷に住民が迷惑している場合には?

暮らしの判例 紛失した携帯電話が不正使用された場合の電子マネーサービス提供業者の責任

誌上法学講座 新時代の消費者契約法を学ぶ 契約取消権(4条)(4)

32

33

36

ウェブ版 NO.68(2018)

目次

New!

Page 2: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

元公正取引委員会事務総長、委員。元東京経済大学現代法学部教授(競争法、景品表示法研究)糸田 省吾 Itoda Shogo 一般社団法人全国公正取引協議会連合会会長代行

1特集

消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 1

広告と消費者トラブル特集

消費者利益といえば、商品や役務(サービス)の安全が真っ先に挙げられますが、商品や役務の購買という消費者取引における消費者利益は、消費者が多種多様な商品や役務の中から品質や価格などの面で自らのニーズに合ったものを自由に選択できることにあります。そのためには多数の事業者が公正で活発な競

争の下に多様な商品や役務を供給することが不可欠ですが、競争が公正に行われるためには、商品や役務の品質や価格などの情報が消費者に正しく提供されることが前提となります。その情報が不十分、不正確ですと、そこには誤認が生じ、消費者の選択が誤ったものとなります。その結果、消費者は意に反した選択をすることによって不測の損害を受けるだけでなく、競争そのものがゆがめられてしまい、消費者は二重の意味において、利益を損なわれることになってしまいます。ですから事業者に対して誤った情報の提供を

やめさせ、正しい情報が提供されるようにしなければなりません。

消費者利益の本質はニーズに合った商品を選択できること

消費者に商品選択に必要な情報を提供する重要なツールは、もちろん容器包装における表示や各種の広告などの表示ですが、これらの表示が消費者に誤認されるものでないようにするため、不当景品類及び不当表示防止法(以下、景表法)が存在します。この法律では、商品や役務を供給する事業者が、品質などの内容や価格などの取引条件について、事実に反するなど消費者に誤認される表示で、消費者の自主的で合理的な選択を阻害するおそれのあるものを不当表示として禁止しています。不当表示に対してはこれの排除、再発の防止などを命ずる行政処分を行うこととされています。

2013年の秋頃、全国各地でホテルやレストランなどのメニューなどで食材の偽装表示が横行していたことが大きな社会問題となりました。例えば、メニューには「芝エビ」の料理と表示されていますが、実際には芝エビよりも安い「バナメイエビ」を使ったものであることが問題となりました。消費者は料理の見た目からは「芝

誤認表示を排除する景表法

メニューの偽装表示を契機に景表法を改正

Page 3: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 2

特集 広告と消費者トラブル

消費者の誤認防止のためのコンプライアンス特集1

エビ」かどうか判断がつかず、よほどの通でもない限り、食べてみても「芝エビ」でないとは分かりません。結局「芝エビ」と表示しているから「芝エビ」の料理だと思ってしまいます。ステーキの牛肉のブランド表示も同じです。この種の問題を防止するためには、結局のと

ころ事業者に正しい表示をさせ、偽装表示、誤認表示は絶対にしないようにさせるしか方策はありません。消費者は、実態を知るには表示に頼るしか方法がないのです。こういった誤認表示の排除を徹底するために

は景表法の規制をいっそう強化する必要があるとして、2014年に2回にわたって景表法の改正が行われました。その内容は、①不当表示に対して厳罰をもって処するために制裁として課徴金の納付を命ずる制度の導入、②事業者に対して、景表法違反が行われることのないように、表示や景品つき販売についての社内の管理体制(いわゆるコンプライアンス体制)の整備の義務づけ、③景表法違反に対して全国各地における監視、取り締りを強化するために都道府県知事に対する行政処分権限の付与、です。

新規に導入された課徴金制度は、不当表示を行った事業者に対して、「課徴金対象期間」における不当表示に係

かかる商品や役務の売上高の3%

相当額を課徴金として国庫へ納付すべきことを命ずるものですが、事業者が十全のコンプライアンス体制をとっている場合には、課徴金が免除、減額されるしくみになっています。① 「相当の注意」を怠らないことによる課徴金の免除事業者が自己の行った表示が不当表示に該当

することを知らず、かつ、知らないことについて相当の注意を怠った者でないと認められるときは、課徴金は免除されます。相当の注意を怠った者でないとは、例えば、景表法が義務づける

課徴金の免除、減額とコンプライアンス

社内の管理体制が具体的に構築されている場合などがこれに該当すると考えられ、コンプライアンスの徹底が意味を持ちます。② 誤認解消措置による課徴金対象期間の 縮減課徴金対象期間は、不当表示を行っていた期

間に、不当表示をやめても消費者の誤認状態が残るのでその残存期間を6月としてこれを加えた期間をいいます。この6月の期間は、事業者が消費者誤認を解消する措置をとれば短縮されます。したがって、仮に不当表示が行われたとしても、事業者がコンプライアンスのもとに不当表示を早期に発見して直ちに取りやめ、かつ、誤認解消措置をとれば、課徴金額は縮減されることになります。③自主申告による課徴金の減額事業者が不当表示を行った場合でも、その事

実を内閣総理大臣(消費者庁)に報告したときは、課徴金額の50%相当額が減額されます。ただし、調査を受け課徴金納付命令があるべきことを予知して報告した場合は対象外ですが、これもコンプライアンスの徹底による不当表示の早期発見によって可能となります。

コンプライアンスは、一般に「法令の遵じゅん守しゅ」と

言われますが、法律に禁止規定があれば、違反しないように法律を守り、違反した場合の行政処分等のリスクを回避する、ということでコンプライアンス意識がおのずと生ずるものであり、法律で禁止規定とは別にコンプライアンスが義務づけられるものではありません。にもかかわらず、景表法が法改正をしてあえてコンプライアンス体制の構築を義務づけたのは、メニュー偽装表示事件で見たように消費者にとって選択に必要な情報は表示に依存する度合いが極めて大きく、誤認表示などは絶対に排除しなければならないからです。

異例のコンプライアンス義務づけ

Page 4: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 3

特集 広告と消費者トラブル

消費者の誤認防止のためのコンプライアンス特集1

コンプライアンスの対象の誤認表示については、注意する点があります。景表法で禁止する不当表示のうち、商品や役務の品質など内容に関するものは「優良誤認表示」といいますが、これは、商品や役務の内容が事実に反して著しく「優良」であると誤認される表示と規定されているからです。ですが、ここでいう「優良」とは、必ずしも、科学的、物理的、栄養学的などの点で優れていることだけを意味するのではなく、また食べてみてうまいかどうかで判断するものでもないのです。要すれば、消費者が商品を選択する際に考慮する事柄についての表示が事実に反していれば、「優良誤認表示」と解釈されます。また、「著しく」優良と規定されていますが、

ここでいう「著しく」とは、消費者が誤認するおそれがあることを意味し、必ずしも事実に反する度合いが大きいとか、極端であるといった場合だけを意味するものではありません。このほか、「打消し表示」問題がしばしば取り

上げられています。消費者に訴求する強調表示に仮に例外があるときは、その旨を分かりやすく表示しないと不当表示となるというものですが、健康食品などにみられる「個人の感想」表示はこの観点から留意する必要があります*1。

景表法についてのコンプライアンスの意義は、単なる「法令の遵守」だけではありません。それは、消費財を供給する事業者にとって最も大事にしなければならない消費者を欺いて商品選択の判断を誤らせ、意に反して商品を購入させるようなことはあってはならないことですから、誤認表示の防止は法律による規制以前の要請であり、法律で禁止されているからやめるというだけではないのです。逆に、法規制を過剰に意

「優良誤認表示」の留意点

景表法に特有のコンプライアンス

識するあまり広告宣伝活動が萎縮してしまっては消費財企業としての体をなさず、かえって消費者にとって分かりやすい情報の提供が制約されるといったマイナス面もあります。また、表示広告活動は事業者にとって重要な

競争手段ですから、ある事業者が消費者に誤認される表示広告によって売上を伸ばしたとしたら、他の事業者も対抗上これに追随することになって業界全体に消費者誤認の表示広告が横行し、しかも誤認の度合いはエスカレートしていきます。その結果、個々の事業者にとって売上は増加しないのに表示広告のコストは上昇し、やめようとしても他の事業者がやっている限り競争上不利になるからやめられないというジレンマに陥ってしまいます。かくして業界は、アンフェアな競争が蔓

まん延えんし、不毛な表示広告活動

を続けながら消費者の信頼を失っていきます。

①トップのやる気 コンプライアンスは、これが不存在、不徹底

の場合は、消費財企業としての経営政策の基盤を喪失してしまいますから、経営のトップが最大の関心と責任を持って取り組むべきものであり、トップのやる気が大前提です。②社内方針の整合性従業員に対して業績の向上を厳しく求めなが

ら、景表法の遵守を命ずるだけでは、有効なコンプライアンスにはなりません。従業員は自らの業績を上げたいがために、会社のためという口実のもとに、容易には発覚しないであろうということで景表法違反を行うことによって増収増益を図ろうとする誘惑にかられるからです。大事なのは、「景表法の遵守を大前提に」、業績の向上を求めるのでなければなりません。景表法を遵守したがために増収増益が実現できなかったとしたら、それは経営政策の問題であっ

コンプライアンスの要よう

諦てい

*1 �消費者庁「打消し表示に関する実態調査報告書」(2017年7月14日)。本報告書では幅広い年代の消費者を対象とした意識調査を行ったうえで景表法上の考え方を整理している。� �http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_170907_0002.pdf

Page 5: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 4

特集 広告と消費者トラブル

消費者の誤認防止のためのコンプライアンス特集1

て、営業など現場の責任ではないのです。③信頼される法務部門事業者内で表示広告の原案を一元的に管理し、

景表法上問題がないかどうかを事前にチェックする体制が必要なことは、景表法の改正で導入された管理体制の整備の義務づけの指針にもみられるとおりですが、チェックする機構は通常はいわゆる法務部門でしょう。これは可能な限りトップに直結するなど営業などの現場から独立した中立的な存在であるべきです。大事なのは、法務部門は営業や広告宣伝部門などからの相談に適切に対応すべきであり、景表法上の相談を受けたときに、慎重のあまり誤想防衛、過剰防衛に陥ってはなりません。仮に、相談案件に問題があるとしたら、単に否定するのではなく、問題が解消されるような代替案を作るなど、現場から信頼されるよき相談相手であるべきです。

「公正競争規約」は、景表法第31条の規定に基づいて、事業者や事業者団体が、内閣総理大臣(消費者庁)および公正取引委員会の認定を受けて、表示または景品類について、消費者の自主的で合理的な選択および事業者間の公正な競争を確保するために設定する自主ルールです*2。不当表示の防止についていえば、次のような機能を担っています。①事業者間で消費者に誤認される表示はしないことを申し合わせることにより、業界に蔓

まん延えんす

るおそれのある不当表示を排除する②どのような表示が不当表示になるか個別商品の特性を踏まえて具体的に定めることにより、事業者が景表法違反かどうかを判断しやすくなる③事業者によって判断がまちまちになりがちな

公正競争規約は最良のコンプライアンス

商品の定義や規格基準、抽象的な用語(「天然」「純粋」「特撰」など)の意味を統一することによって誤認表示を防止しやすくする④公正競争規約に違反する表示広告がないか絶えず監視し、違反に対してはその排除、再発防止などを命ずる⑤これらの公正競争規約の運用業務の遂行のため、参加事業者で構成する公正取引協議会を置く事業者は、公正競争規約に従って表示をすれ

ば景表法に違反することはなく、また、消費者も公正競争規約に従った表示であることが分かれば、その表示を信頼し安心して商品選択をすることができます。したがって、公正競争規約に従った表示であることを消費者に分かってもらう必要がありますが、その方法として、商品の容器に「公正マーク」を付したり、公正競争規約に参加している事業者であることを示す「会員証」を店舗に掲示するなどしています。要すれば、公正競争規約は、景表法違反を防

止するための極めて効果的なツールですから、これが消費者庁や都道府県による景表法の執行の一翼を担っているといっても過言ではありません。公正競争規約なくしては景表法の執行は万全を期しがたいのです*3。

事業者にとってコンプライアンスは、景表法の遵守に加え、消費者の信頼を獲得すると同時に、アンフェアな競争を排して消費財産業の健全な発展に役立つものであります。その構築に際しては、消費者意識を正しく理解するうえでも消費者との対話が有効であり、一方、消費者も公正競争規約の場などに積極的に参加することが期待されます。

最後に

*2 �公正競争規約は、公正競争規約に参加する事業者によって構成される公正取引協議会によって運用されている。全国公正取引協議会連合会ホームページ参照�http://www.jfftc.org/rule_kiyaku/index.html

*3 �2014年景表法改正案を決定した参議院消費者問題に関する特別委員会の附帯決議において、政府に対して、「全ての不当表示を行政機関のみで監視することは困難であることに鑑み、不当表示の未然防止を図るための手段として、事業者自らが表示の自主ルールの設定を可能とする公正競争規約制度のより一層の普及を促進すること」を求めている。

Page 6: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

大阪弁護士会消費者保護委員会委員長、日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員、内閣府消費者委員会食品表示部会委員(元)、『Q&A消費者からみた改正民法(第2版)』(共著、民事法研究会、2018年)

石川 直基 Ishikawa Naoki 弁護士

2特集

消費者トラブルと広告規制の課題

2018.3 5

特集 広告と消費者トラブル

本稿では、インターネットや携帯電話、スマートフォンでのウェブ広告による消費者トラブルの具体的な事例をもとに、現状の規制の進展と課題について検討します。

⑴具体的な事例独立行政法人国民生活センター(以下、国セ

ン)は、2016年6月16日、消費者がホームページやSNS等で「健康に良い」「ダイエット効果あり」や「有名女優も使用」とうたう広告を見て、商品を通常価格より安く購入したところ、実際は定期購入契約だったというトラブルが急増しているとして、注意喚起をしました。

具体的な相談として、①サプリメントを初回お試し価格で購入、体に合わず解約を申し出たが、定期購入だとして拒否された ②通信販売で一度限りのつもりでお試し価格500円の健康食品を注文したところ、2回目が届いたので、解約したいが電話がつながらない、などの例が紹介されています。事例からみる問題点として、❶定期購入である旨の表示が分かりにくい ❷解約はできない旨の表示が分かりにくいなどの点が指摘されています。定期購入をめぐる相談が減少しないことから、2017年11月16日に国センは、2度目の注意喚起を行いました。⑵規制の進展●景品表示法の規制

ネット通販の定期購入問題

こうしたなか、消費者庁は、2017年7月、「打消し表示に関する実態調査報告書」*1を公表しました。

その中で、ウェブ広告において強調表示と打消し表示*2が1スクロール以上離れている場合には、一般消費者は打消し表示に気づかなかったり、気づいても当該打消し表示が別の画面に表示された強調表示に対する打消し表示であると認識できない場合があり、「こうした表示方法により、商品・サービスの内容や取引条件について実際のもの等よりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるときは、景品表示法上問題となるおそれがある」と指摘しています(同報告書51ページ)。●特定商取引法の規制

さらに、特定商取引法の2016年6月改正、2017年12月1日施行に合わせてなされた政省令の改正に伴い、通信販売の広告事項について、定期購入の場合は「定期購入であること」「金額」「契約期間」「その他の販売条件」について明記することが追加されました(施行規則第8条第7号)。

また、特定商取引法第14条の主務大臣の指示処分の対象となる「顧客の意に反して売買契約若しくは役務提供契約の申込みをさせようとする行為」が施行規則第16条第1項に定められ、「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係

かかるガ

*1 http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_170907_0002.pdf*2  事業者が、自己の販売する商品・サービスを一般消費者に訴求する方法として、断定的表現や目立つ表現などを使って、品質等の内容や価格等の

取引条件を強調した表示を「強調表示」といい、この強調表示からは一般消費者が通常は予期できない事項であって、一般消費者が商品・サービスを選択するに当たって重要な考慮要素となるものに関する表示を「打消し表示」という

Page 7: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 6

特集 広告と消費者トラブル

消費者トラブルと広告規制の課題特集2

イドライン」(以下、通販ガイドライン)で、その具体的な内容を示していましたが、今回の法改正、施行規則改正に伴い、通販ガイドラインに「Ⅱ いわゆる定期購入契約の場合」が新設されました。例えば、定期購入に関し、申込みの最終段階の画面上において、定期購入契約の主な内容がすべて表示されず、またはその一部が容易に認識できないほど離れた場所に表示されており、これを確認および訂正するための手段

(「注文内容を確認する」などのボタンの設定や、「ブラウザの戻るボタンで前に戻ることができる」旨の説明)も提供されていない場合は、指示対象になるとしています。

今回の特定商取引法の改正、通販ガイドライン改定により、定期購入であることを知らずに契約を締結してしまうことを防止することが期待できます。⑶規制の課題●景品表示法違反と民事効

しかし、定期購入である旨が分かりにくいウェブ広告が景品表示法に違反する不当表示であるとしても、事業者に行政処分が課されるだけであり、不当表示により締結された契約を取り消す規定は、景品表示法にはなく、一般消費者の代金支払い義務はそのままであるため、民事上の救済手段が十分ではありません。●特定商取引法違反と民事効

また特定商取引法違反の場合も、事業者に指示処分が課されるだけであり、通信販売には不利益事実の不告知等による取消権は規定されておらず、一般消費者の代金支払い義務はそのままで、民事上の救済手段が十分ではありません。●消費者契約法の取消し

本来、定期購入であることや中途解約不可を条件として、初回無料や初回だけお試し価格というサービスを受けられるにもかかわらず、定期購入の条件や、中途解約ができないことを知

らずに契約を締結したことによるトラブルであり、消費者契約法第4条第2項の不利益事実の不告知による取消しの適用が考えられます。

問題は、ウェブ画面上では、定期購入が条件であるといった不利益事実が表示はされており、スクロールすれば見ることができることです。

しかし、消費生活センターへの相談件数が相当数あることからすれば、ウェブ画面の表示方法そのものに問題があると考えられ、不利益事実の告知がされていないことと同じであると評価できる場合があると考えられます。特に、強調表示と打消し表示が1スクロール以上離れていたり、通販ガイドラインにあるように最終画面に契約内容を明示する等の処置がされていない場合は、不利益事実の不告知であると評価できるのではないでしょうか。さらにこの場合、

「故意に告げなかった」と事実認定することも可能と考えられます。

このように、定期購入問題については、不利益事実の不告知により契約を取り消すことが可能と考えられます。もっとも、現行法の規定ぶりでは取消しができないと解釈できる余地があるので、不利益事実の不告知の規定の改正は引き続き検討するべきでしょう*3。

⑴具体的な事例ステルスマーケティング(以下、ステマ)は、

消費者に気づかれずに宣伝広告行為を行うことであり、芸能人等影響力を持つ人が、事業者から報酬を得ていることを明示せず、あるいは事業関係者が消費者を装い、商品・サービスを高評価する方法がとられています。

2012年1月に、飲食店の口コミサイトにおいて、事業関係者が消費者を装い、口コミで特定の店を高評価していたことが発覚し、大きな問題となりました。

ステルスマーケティング

*3  2018年3月2日付けで第196回通常国会に提出された「消費者契約法の一部を改正する法律案」では、不利益事実の不告知の規定の「故意」要件について「故意又は重大な過失」と改正する案が提案されている。

Page 8: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 7

特集 広告と消費者トラブル

消費者トラブルと広告規制の課題特集2

また、同年12月、ペニーオークションというオークションのサイトをブロガーとして有名な芸能人らが第三者的に高評価していたが、実際には、サイト運営事業者からブロガーに利益供与があったことが発覚し、問題となりました。

最近は、大手検索エンジンのニュース掲載ページで、ユーザーのコメント欄が閲覧できるようになっていますが、その欄に商品・サービスを推奨する個人的なコメントが散見され、ステマと考えられます。また、ある動画サイトでは、動画投稿者たちがたくさんのゲームや商品を紹介しており、子どもたちが熱中して閲覧している状況ですが、これらの商品等がメーカーから無償で提供されている場合は、ステマと言えます。

近時の動画投稿サイトにおける子どもたちへの影響力からすれば、適切なステマの規制が必要な状況です。⑵規制の進展

消費者庁の「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」*4(2011年10月28日策定、同2012年5月9日一部改定)(以下、本留意事項)では、口コミサイトに関する景品表示法上の留意事項として「商品・サービスを供給する事業者が、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させる場合には、当該事業者は、当該口コミ情報の対象となった商品・ サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする必要がある」と指摘しています。これは、現行の景品表示法の優良誤認表示、有利誤認表示の対象が商品・サービスの内容・取引条件に限定されているためです。

しかしステマは商品・サービスの内容の真偽

というより、宣伝広告ではないように装い実際は宣伝広告を行っていること自体が、消費者を欺く欺

ぎ瞞まん

的な行為であり、違法というべきです。本留意事項は、この点についてまで規制を及

ぼすことは想定されておらず、またステマを規制する法改正の動きは今のところありません。⑶規制の課題

諸外国では、ステマについての規制が既に存在しています*5。わが国においても、規制が必要であることは明らかでしょう。

この点で参考となるのが、日本弁護士連合会の2017年2月16日付「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」です。同意見書は、次のように提言しています。

「不当景品類及び不当表示防止法第5条第3号に基づく内閣総理大臣の指定に、下記の指定を追加すべきである。

        記商品又は役務を推奨する表示であって次のい

ずれかに該当するもの1 事業者が自ら表示しているにもかかわら

ず、第三者が表示しているかのように誤認させるもの

2 事業者が第三者をして表示を行わせるに当たり、金銭の支払その他の経済的利益を提供しているにもかかわらず、その事実を表示しないもの。ただし、表示の内容又は態様からみて金銭の支払その他の経済的利益が提供されていることが明らかな場合を除く。」

このようなステマに関する新たな指定告知が定められれば、ステマによる被害防止に資することになるでしょう。

⑴具体的な事例国センによると、2012年以降毎年1,000

美容医療サービスの広告

*4  http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120509premiums_2.pdf*5  アメリカにおける連邦取引委員会(FTC)の「広告における推薦及び証言の使用に関するガイドライン」(2009年12月)(本留意事項5ページ注釈

4参照)。EUにおける不公正取引行為指令(unfair commercial practices directive 2005/29/EC)

Page 9: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 8

特集 広告と消費者トラブル

消費者トラブルと広告規制の課題特集2

件を超える美容医療サービスの広告に対する相談があり、美しくなりたいという願望をくすぐる「プチ整形」「レーザー脱毛」「豊胸」「脂肪吸引」等に関する広告が、雑誌やテレビ、チラシなどで目につくとされています。⑵規制の進展

美容医療サービスで、これまで、最も問題であったのは、医療法上の広告は、誘因性、特定性、一般人による認知性が必要であるところ、インターネットによるクリニック等からの情報提供には、一般人による認知性がないので広告には当たらないとして、医療法等の広告禁止規制が及んでおらず(医療広告ガイドライン*6)、医療機関ホームページガイドライン*7に基づく自主的な取り組みの促進等しか行われていなかったことでした。

しかし、美容医療サービスの広告に対する相談が増加している状況において、内閣府消費者委員会から「美容医療サービスに係るホームページ及び事前説明・同意に関する建議(2015年7月)」により、 医療機関のホームページを医療法上の「広告」に含めて規制の対象とすることなどが建議され、厚生労働省は、2016年の「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」での検討を経て、広告禁止事項の一部を解除する規定を設けるとともに、医療機関のホームページも医療法上の広告に該当するとし、虚偽・誇大広告の禁止規定をウェブ広告にも及ぼすことができるよう医療法の改正を行いました(医療法等の一部を改正する法律は2017年6月14日公布され、広告規制に関する規定の施行日は、公布の日から1年を超えない範囲において政令で定められます)。⑶規制の課題

医療法上、ウェブ広告が広告規制の対象になることにより、また、監視体制の強化により、

虚偽誇大広告による被害の減少は期待できます。しかし、美容医療サービスでは、広告を見て、

営業所たるクリニックを訪問し、そこで、高額な契約を締結させられる相談が目立ちます。

このような方法で契約を締結させられた場合、医療法上の広告規制違反による契約の取消規定はありません。消費者契約法第4条第3項の困惑による取消しが考えられますが、文言解釈として、難しい側面があり、この点も、法改正の検討が必要と考えられます。

なお、2017年改正特定商取引法施行後は、特定継続的役務提供の要件に該当すれば、特定の美容医療サービスについてはクーリング・オフが可能になりました。

以上、定期購入問題や美容医療サービスのウェブ広告など、行政上の規制が少しずつ進んでいることが分かりました。他方、民事上の救済に資する契約取消しに関する法改正は進んでいません。

従来の規制は特定商取引法の規制のあり方が典型ですが、広告規制と勧誘規制という区別をして、後者にのみ取消権を認めています。

しかし、適格消費者団体によるクロレラチラシ配布差止請求事件に関する最高裁平成29年1月24日判決は、消費者契約法の解釈ではありますが、チラシの配布が不特定多数の消費者に向けたものであっても勧誘に当たらないとはいえないと判示しています*8。

広告と勧誘という画一的な区別をするのではなく、広告の契約締結への影響力を踏まえて、不当な広告によって締結された契約の取消しが可能となる法改正(消費者契約法だけでなく、特定商取引法、景品表示法を含めて)を検討すべきでしょう。

まとめ

*6  医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針(平成19年3月30日医政発第0330014号医政局長通知)

*7  医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針(平成24年9月28日医政発第0928第1号医政局長通知)*8  ウェブ版「国民生活」2017年6月号「暮らしの判例」 http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201706_14.pdf

Page 10: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

博士(商学)。日本広告学会 副会長(2007年~現任)。主著に『統合広告論』(ミネルヴァ書房、2014年)、『広告コミュニケーション研究ハンドブック』(共編著 有斐閣ブックス、2015年)

水野 由多加 Mizuno Yutaka 関西大学 社会学部 教授

3特集

広告の消費者行動への効果と今後の課題

2018.3 9

特集 広告と消費者トラブル

広告の消費者行動への効果は、広告の送り手側(広告主、メディア、広告会社など)の知識としても「商品名を覚えてもらう」「製品属性を理解してもらう」「ブランドへの好意を高める」「買ってみたくなってもらう」などということだ、と単純化されていました。本誌の読者の多くの方々もAIDMA(アイドマ。広告宣伝に対する消費者の心理のプロセスを示した略語)とかAISAS(エイサス、アイサス等。AIDMAに対比されるものとして日本の広告会社等により提唱されたモデル)といった符丁をご存知なのではないかと思いますが、これらの用語は(一方向に変化する心理変容モデルという)いくつかあるバリエーションです。要は、モノが買われるためには、名前を覚えたり、関心を持ったり、その製品を理解してから、調べたり、好きになって、欲しくなるのだ、という単純な順序関係を言っているわけです。多くの人には、広告は「商品名を覚えさせる

もの」「買いたくさせるもの」というふうに思われていることもその最も単純な通念です。しかし、認知心理学や記憶研究などの進展に

よって今日では、広告効果はそのような単純なものであるとは(少なくとも専門としている人は)考えていません。例えば、商品名は知られていなくとも買われるときには買われるし、製品属性の理解などまったくなくとも売れている感じがすれば手の出ることもあります。逆に、名

「広告効果」の今日的な理解とは 前も中身も百も承知でも、かつては買っていたが、このところ買わないモノもたくさんあるでしょう。そこへ口コミが容易に見られるスマートフォン(以下、スマホ)の普及、ネットショッピングの一般化、といった消費情報の増大や入手経路の複雑化が重なりました。21世紀の「広告の消費者行動への効果」は単純には語りにくいところがあるのです。広告に引き寄せて考えれば、商品名を正確に

覚えていなくとも、「広告タレント」だけは何となく知っていたり、見知ったマークが付いていたりするだけで、もうそのこと自体が「広告効果である」と認識されます。あるいは、「見たことがある」その程度の記憶の状態も「広告効果である」といえます。従来からの「商品名を覚えてもらう」「製品属性を理解してもらう」といった類の考え方からすれば「不完全な」「正確ではない」「部分的・断片的な」記憶の痕跡でも、広告効果であると考えられるのです。ことは価格帯の安い自動販売機の飲料でも、

テレビショッピングで買われるサプリメントでも、メーカー名(つまりはメーカーブランドであり、見知っている感じがするかどうか)で売れ行きはまったく違います。逆に数千万円という一生に一度の買い物である戸建て住宅においても、住宅展示場では、見知った会社のモデルハウス以外にはなかなか入りません。前者は「即時の評価反応」、後者は「熟慮時の評価反応」とも分類可能ですが、いずれも「記憶が思い出されやすく好ましい状態で保持されているか」と

Page 11: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 10

特集 広告と消費者トラブル

広告の消費者行動への効果と今後の課題特集3

いう「記憶の状態」それ自体が、実は広告効果(の結果)と考えられるのです。こうした「部分的・断片的」であっても「記憶

の状態」を広告効果と認識することは、やはり「商品名を覚えてもらう」「製品属性を理解してもらう」のが広告効果だ、という通念とは大きく異なるものだと言えると思います。

消費者法制や消費者行政の中では、一般に「広告の表示と表現」は区別されていました。文字や数値による表示は虚偽や正確性が問えるのに対して、登場人物や風景、音楽などの表現は、法と事実に照らす行政判断になじまない、とされてきたと思います。とはいえ、その方法や場所までは定められて

いないために、「表示と表現」が実際上線引きしにくいことに言及している論文*1があります。また、近年の好ましからざる広告実践として

「個人の感想です」と書いてあるものが散見されますが、この表示があれば何を言ってもいい、というわけではなく「特定の用語、文言等の使用を一律に禁止するのではな」く、「表現、掲載された写真、イラストのみならず、ときにはコントラストを含め、表示全体で判断する」*2と、はっきりと「表現」を規制の対象に含める明言もあります。こうした消費者法制においては、不実証広告

規制や団体訴訟制度など一貫して売り手責任(広告においては送り手責任)が重く広くなっていると考えられるのです。送り手の責任を問う消費者法制や消費者行政

全体の流れでは、例えば「江戸時代にはペットボトル入りのお茶はなかったはずなのにその時

広告の一筋縄ではいかないところ

代を舞台にして広告で飲んでいるのは事実に反する」といった飲料の広告表現が問題になったり(少なくともその可能性が高まる)、シャンプーの広告で「日本の女性がはつらつとした気分になる」と言っているのに元気が出なかったとその広告がクレームの対象になったりなどがあり得ます。極端な例に思われるかもしれませんが、一連の「広告表現を送り手責任を問うかたちで規制する」とはこのようなことを指す可能性はないでしょうか。夢や可能性、また知らなかった考え方を広告

表現が提示する場合もあります。「茶匠」と呼ばれる人がこだわって作るものづくりはメイド・イン・ジャパンの倫理、シャンプーにおいては、働くすべての女性への応援歌等、忘れられがちですが、そのような大きな「希求」や「共感」も含めて「広告の消費者行動への効果」だと思われます。

練られた説明の中の文言とはいえ前述の消費者庁公表の留意事項*2で「表現、掲載された写真、イラストのみならず、ときにはコントラストも含め全体で判断」とされる景品表示法(以下、景表法)と健康増進法の禁止する広告表現とは、明らかに、送り手にとっては表現の制約、営業の制約です(憲法の職業選択の自由と資本主義、市場経済が保障するのが「営業の自由」です)。無論、問題のある広告も多く見られます。し

かし広告といえども、基本「言論の自由」である、という原則も代えがたい価値のあることと言えましょう。とはいえ、ハードディスクレコーダーの普及

今の広告実践には適切な「緊張」が不足

*1 �松本恒雄「広告をめぐる消費者問題と消費者関連法規」(『国民生活研究』2016年12月)において、広告に関連する消費者問題にどのような法律が関係しているかを概観している。

*2 �消費者庁「いわゆる健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(2013年12月24日、一部改定2015年1月13日)��http://www.caa.go.jp/representation/pdf/150113premiums_3.pdf

Page 12: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 11

特集 広告と消費者トラブル

広告の消費者行動への効果と今後の課題特集3

に伴って、録画再生視聴時のCM飛ばしは当たり前のこととなりました。何度も何度も繰り返し同じ広告が出てくるスマホ広告、ウェブ広告はもはや「見てもらいたくてやっている」と思えない状況です(実際、人間ではなくアルゴリズム=数式がやっている)。20世紀、ものによっては親しまれた広告が、ほとんど例外なく「嫌われ者」になってしまった、と言ってもいいと思われます。そこへ、広告の内容面でも「景表法」「薬機法」*3上明らかにおかしい広告もネット上はもちろん、見掛けない日がほとんどありません。そういった「社会問題としての広告」が少なからず存在し、残念ながら規制の強化を招いていることも事実でしょう。20世紀後半、マス・マーケティングがマス・

メディアと出会って、今につながる広告隆盛の社会を作りました。それが、マス・メディアとソーシャル・メディアの二大メディア時代を迎え今のスマホ片手の便利な世の中を作りました。しかし、広告においては、挿入方法、内容規制などまだまだ適切な秩序が見えてきません。それが「社会問題としての広告」を生む背景なのでしょう。20世紀、実質的に広告メディアとしてマス・メディアしかなかった時代は、それなりの問題があったとはいえ、広告主も広告メディアも参入が難しかった一方で、各種の自主規制(考査、審査、規制など)が「緊張」となり、人々の「良好な情報環境」を支えていました(今も一応支えています)。しかし、規制について知識がないか、端から

かいくぐることだけを考える事業者の横行が「参入が容易で活況を呈している」ウェブ広告業界のもう一方の側面でもあるのです。そこには「良好な情報環境を支える」ためのある種の「緊張」がそれらの事業者側には働いていません。起業が容易、参入が容易、業界秩序が未生成、

とはこのようなことでもあるのです。その際、「良好な情報環境」を支える何らかの

「緊張(相互監視でもあり、裏付けのある知識をもって秩序を求めることでもある)」が、「広告の送り手」(プロですから当然です)にはもちろん「広告の受け手」の側にも求められているのかもしれません。(消費者教育の体系において広告リテラシーについてはまだまだ十分な内容があるとは思えません)。このことは、ちょうど「消費がかつて考えら

れていたような、ただただ『放ほう埓らつ』なものではな

く、環境や資源にも配慮する責任を伴う」ように今日では性格が変化したことにも重なるのかもしれません。こういったことは(少なくとも送り手側では)まだ十分整理がついていませんが「広告にも見る責任、引き受けるリスクがある」という今まで明言されにくかったことにつながります。このように、秩序は未生成、変化の過渡期に

広告実践はあります。このことは広告研究者である私にとってもますます課題山積であると申せましょう。

*3 �医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

Page 13: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 12

フィンテックで変わる家計管理―銀行法改正の動きを踏まえて―

永沢 裕美子 Nagasawa Yumiko フォスター・フォーラム(良質な金融商品を育てる会)事務局長証券会社等で投資商品の組成等を担当した後、2004年より「良質な金融商品を育てる会(通称フォスター・フォーラム)」を主宰。金融広報中央委員会・金融経済教育推進会議委員。

サービスの中には、既存の金融規制の対象外となっているものもあります。便利なサービスやフィンテック企業を育てるためのイノベーションの推進と同時に、利用者保護をどう考えていくかが、重要な政策課題となっています。

フィンテックベンチャーが始めた金融規制の対象外のサービスの一つが、顧客と金融機関の間に介在し、顧客からの委託に基づいて金融機関の口座情報を取得し分析情報等を顧客に提供するサービスでした。近年、わが国でも急速に利用者を伸ばしている家計簿アプリ(家計管理サービス)等がこれに該当します。こうしたサービスは、顧客から口座のIDやパスワードを預かり、顧客に成り代わって銀行のシステムにアクセスをするスクレイピングという方法で行われるのが一般的でしたが、口座のIDやパスワードといった顧客の認証情報をフィンテック企業が保有することになるため、情報セキュリティや不正利用等のリスクが指摘されてきました。また、銀行はどの顧客がこうしたサービスを利用しているのか関知しないという点も利用者保護の観点から問題があります。そこで、金融庁は2016年に金融審議会の下

に金融制度ワーキング・グループを設置し、利用者保護の確保と利便性の高いサービスの育成を進めるための制度作りが審議され、次の2つの提言を含む報告書が取りまとめられました。一つは、銀行のシステムへのフィンテック企

利用者が増加している家計簿アプリ

銀行法を中心とする決済分野の規制の見直しが進められています。背景にあるのが、フィンテックへの対応です。フィンテック(FinTech)とは、インターネッ

ト関連技術を駆使して革新的な金融サービスを創り出す動きの総称で、その本質は、大量のデータの収集と分析を通じて、既存の金融サービスでは必ずしも十分ではなかった「顧客に応じたサービス」を提供するところにあると言われています。スマートフォンをはじめとする高性能モバイル機器により、消費者はいつでもインターネットにアクセスした状態となり、これが大量のデータを生み出しています。大量のデータを送信する通信技術や、データを安価に保存できるクラウド技術、保存した大量のデータを分析するビッグデータ解析技術等が基礎となり、伝統的な金融機関が独占してきた一般消費者との接点(チャネル)をインターネット関連技術によって広げ、さらにインターネットを通じて得られたデータを活用することで、大量のデータの収集と活用が可能となったことがフィンテックを後押ししています。 金融ビジネスへの参入には大資本が必要でし

たが、フィンテックによって、起業したての企業でも、革新的なサービスを開発・提供し利用者の支持を得ることができれば、一気に市場での地位を獲得することが可能になっているのです。こうしたフィンテックベンチャーが始める

決済分野の規制の見直しの背景

Page 14: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 13

を「電子決済等代行業者」と定義したうえで登録制を導入することが提言されました。この報告書を受けて、

2017年に銀行法の改正が行われました。2018年春(改正銀行法が公布された2017年6月2日から1年以内)に施行が予定されています。改正法では、銀行(信用金庫を含む)に対し、電子決済等代行業者が銀行システムに接続できるよう体制整備に努めることや、契約締結の可否に係

かか

る判断基準を策定し公表すること、合理的な理由なく接続を拒否してはならないこと等が定められています。一方、フィンテック企業については、同法施行後は無登録で電子決済等代行業に該当する業を行うことは違法となります*1。同法は、利用者保護の観点から、登録業者に対して、情報の

適切な管理や業務管理体制の整備の他に、顧客に損失が生じた場合の責任分担等を定める契約を銀行等と締結すること等を義務づけていま�す*2。また、金融庁に登録業者への立ち入り検査や、必要な場合は業務改善命令等を出す権限が与えられました。

電子決済等代行業者の提供するサービスは、

家計簿アプリ等利用上の留意点

業の接続方法についてです。前述のスクレイピングという方法から、契約を締結したうえで銀行が接続仕様をフィンテック企業に公開し接続をさせるオープンA

エーPピーIアイ(=アプリケーション・

プログラミング・インターフェイス)という方法へと移行するのが望ましく、図に示したような制度的枠組みの整備を官民挙げて急ぐべきであるという提言が行われました。もう一つは、銀行システムにアクセスするフィンテック企業

*1 �ただし、同法施行時に現に電子決済等代行業を行っている者については、施行後6カ月の猶予期間が与えられている。*2 �ただし、口座管理サービス(口座情報サービス)のみを提供する場合は、同法施行後2年を超えない範囲の政令指定日までは猶予されている。

出典:金融庁「銀行法等の一部を改正する法律案の概要」より

図 オープンAPIのしくみ

顧客

(パスワード等は提供しない)安全にシステムに接続

契約締結金融機関

金融機関

……

(顧客のパスワード等は用いず)

口座管理サービス

委託顧客

電子送金サービス

パスワード等を提供

システムに接続金融機関

顧客に成り代わってアクセス

金融機関……

(契約締結がないケースも)

顧客のパスワード

電子決済等代行業者(フィンテック企業)

電子決済等代行業者(フィンテック企業)

(情報提供の範囲が限定されない)

口座管理サービス

委託

電子送金サービス

支払・送金の指示口座情報の取得等

●情報セキュリティ等、 利用者保護上の懸念

●法的位置づけが不安定 ●連携・協働が進みにくい

!

顧客が金融機関にサービスの利用申請

接続方式の開放(オープンAPI)

支払・送金の指示口座情報の取得等

(情報提供の範囲を限定)

●登録制の導入●情報の適切な管理●業務管理体制の整備 等

●オープンAPIの体制整備に努めること●電子決済等代行業者との  •連携・協働に係る方針の策定・公表  •接続に係る基準の策定・公表

●顧客に損失が生じた場合の両者間の責任分担ルールを策定・公表

API(Application Programming Interface):他のシステムの機能やデータを安全に利用するための接続方式

背景・問題意識等フィンテック(金融×IT)の動きが世界的規模で加速

利用者保護を確保しつつ、金融機関とフィンテック企業とのオープン・イノベーション(連携・協働による革新)を進めていくための制度的枠組みを整備

現 状

制度的枠組みの整備

Page 15: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 14

のデジタル通貨を発行して、手数料の安い個人間送金を実現するための実証実験に着手したところも登場しています。決済分野のフィンテックの推進に欠かせない

のがキャッシュレス化とデジタル化です。政府は「未来投資戦略2017」において、キャッシュレス決済比率(クレジットカードやデビットカード*4による決済の比率)を2015年時点の18%から2027年6月までに4割程度にまで引き上げることを政策目標に追加し、クレジットカード利用時に交付が義務づけられている書面を電子メール等で交付することを認める等の規制緩和を措置しました。また、フィンテックを活用した消費データの共有や利活用を促進するために、クレジットカード分野のオープンAPI化*5や、レシートの電子化に向けたフォーマットの統一等の環境整備を進めています。

フィンテックの進展とともに、私たちの経済活動を裏から支えている「お金」のかたちや取引がデジタルなものへと変わっていくことは不可避の流れのように思われます。イギリス中央銀行のマーク・カーニー総裁は、2017年1月に行った講演*5の中で、行き過ぎたデジタル化による金融排除*6やプライバシーの侵害、個人データ保護に対する悪影響等のリスクを指摘しています。欧州連合(EU)では「一般データ保護規則(GDPR)」が定められ、データは個人のものであることを明確化して、データ・ポータビリティー(移行性)をはじめ、個人データを扱う管理者に義務を課す方向で調整が進んでいます。一方、わが国では議論はまだ端緒についたばかりです。

個人データの保護が課題

現時点では、複数の口座情報の統合や分析情報の提供にとどまっていますが、将来的には、フィンテック企業が利用者の意思に基づいて銀行等に対して資金移動や決済を指示できるサービスが加わることが想定されています。例えば、家計簿アプリで引落口座の残高不足が確認された場合に他の口座からの資金移動を指示したり、アプリを提供している業者がクレジットカード会社の加盟店と何らかのかたちで接続していることが前提となりますが、買い物代金の振込等がアプリ上で簡単にできるようになると言われています。さらに、取引履歴や資産状況等のデータが集まることを利用して、例えば、高価な物品を購入したことを検知して損害保険を提案したり、口座で保有している金融商品よりも手数料の安い同種商品を提案するといった乗り換えサービス等の展開も考えられているようです。消費者の間で利用者が1000万人を超えた

とも言われる*3家計簿アプリですが、その機能を生かすためには、銀行口座やクレジットカードの番号等を登録する必要があります。また、オープンAPI対応が急がれていますが、すべての金融機関やクレジットカード会社が体制整備を完了しているわけではないことにも留意が必要です。トラブルにあわないためには、セキュリティが強固なアプリを選ぶ、面倒でも利用規約をきちんと確認する、銀行口座等と同じパスワードを使ったりしない等の注意が必要です。

上記の他に、ビットコイン(仮想通貨の一種)の技術的な土台となっているブロックチェーン(分散型台帳技術)を銀行業務に利用する動きが注目を集めています。大手銀行の中には、独自

進むキャッシュレス化とデジタル化

*3 �経済産業省「クレジットカードデータ利用に係るAPI連携に関する検討会�中間報告」(2017年6月)*4 �2018年4月よりわが国でもデビットカード(銀行のキャッシュカード)でスーパー等小売店で現金の引き出しができるキャッシュアウトという

サービスが始まる。欧米で普及しているサービスで、2016年の銀行法施行規則の改正による規制緩和を受けてシステム対応が進められてきた。近くに銀行のATMがなくても現金の引き出しが可能になることから、キャッシュレス化を促すと期待する向きもある。

*5 �“The�Promise�of�FinTech-�Something�New�Under�the�Sun?”�–�Speech�by�MarK�Carney� �https://www.bankofengland.co.uk/speech/2017/the-promise-of-fintech-something-new-under-the-sun/

*6 �スマートフォンやパソコンが使えないため、日々の暮らしに欠くことができない金融サービスを利用できなくなる層が生まれる状況

【参考文献】増島雅和/堀天子編著『FinTechの法律2017-2018』(日経BP社、2017年)�山上聰著『金融デジタルイノベーションの時代』(ダイヤモンド社、2017年)

Page 16: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 15

高橋 誠Takahashi Makoto

株式会社アンクにて、システム開発の傍ら、『Cの絵本(第2版)』(翔泳社、2016年)を始めとするIT専門書の企画、監修、執筆を行っている。

システムエンジニア

絵をみて分かるインターネット技術の基礎

クラウドサービス

インターネットのしくみについて、基礎から分かりやすく解説します。

第 回9

最近話題のクラウドという言葉は「雲」という意味です。その内容も雲をつかむようであるため、 時にインターネットと同義に扱われることもあります。今回はクラウドの基礎について取り上げます。

Webサーバやメールサーバなどを設置する方法には、大きく分けて次の3つがあります。

ユーザーは次のようなサービスを必要なときに必要なだけ利用できます。設定はブラウザ上で完結し、基本的にクラウド業者の担当者とのやりとりは発生しません。

クラウドとは

クラウドの種類

クラウドではない環境と比較することで、クラウドの特徴を理解しましょう。

クラウドはその提供するサービスの種類によっていくつかに分けられます。

●オンプレミス独自にサーバを所有し、管理する

方法です。情報を手元に置いておけるのでセ

キュリティ面で安心感がありますが、初期導入費用が高額になりがちで管理費用もかかります。

●レンタルサーバ業者が管理するサーバを間借りす

る方法です。サーバの設置や管理が不要で気軽にサーバを利用できます。いくつかのプランから性能やサービスを選択できますが、自由度はそれほど高くありません。

●クラウド業者が管理するサーバを利用する

点はレンタルサーバと同じですが、アプリとの連携機能が充実していたり、提供されるサービスの設定の自由度が高いのが特徴です。多くはユーザ数や利用したサービスの分だけ費用がかかる従量課金制です。

SaaS(Software as a Service )(読み方:サース)

Webアプリの利用やデスクトップアプリのダウンロードなどのサービスを提供します。

PaaS(Platform as a Service)(読み方:パースなど) 仮想的に構築されたサーバやデータベースなどを提供します。

IaaS(Infrastructure as a Service)(読み方:イアース、アイアースなど) インターネット回線などのインフラを提供します。

Page 17: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 16

クラウドを支える仮想化技術普通、コンピューターのメモリやディスク容量を変更するには人の手による作業が必要ですが、ソフトウェアでハードウェアを模倣することで、1つのコンピューター(ホスト)の中に仮想のコンピューター(仮想マシン)を複数作り出すことが可能になっています。仮想マシンの性能はホストからいつでも変更できます。

GoogleドライブやDropboxなど、クラウドのサービスにはさまざまなものがあります。今回は、Apple社が提供するSaaS型クラウドサービス「iCloud」を例に、実際にどんなサービスがあるのかを見てみましょう。

クラウドの提供するサービスの例

外部からではホストと仮想マシンの違いは分かりません。

● iCloud ストレージクラウド上のストレージ(保存領域)

サービスです。無料で5GB、有料なら20TBまでの領域を提供します。

●アプリとの連携iPhoneやMacで動作するメー

ル、カレンダー、連絡先、フォトライブラリ、iWork(オフィスソフト)などは、クラウドのデータと同期しています。

● iCloud.comブラウザを通してメールの送受

信やカレンダーで予定の確認ができます。アプリで書きかけのメールをブラウザ上で編集して送信することもできます。

●ファミリー共有iTunesの音楽データ、

iBooksの電子書籍、App Storeで購入したアプリなどを最大6人と共有できるサービスです。

● iCloud DriveiCloudストレージ上

のデータをケータイやタブレット、パソコンから共有できます。

●バックアップWi-Fiに接続され

ている間、iPhoneのデータを定期的にバックアップします。

クラウドという言葉はこの図のようにサーバ側を雲に見立てた図を描くところからきていると言われています。

ホスト 仮想マシン

Page 18: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 17

最終回

村川 隆生 Murakawa Takao TM不動産トラブル研究所 代表住宅業界・不動産業界で約30年勤務後、一般財団法人不動産適正取引推進機構勤務。2016年11月に退職し、現在、同機構 客員研究員。

建物の明け渡しと原状回復

−借主の原状回復義務と費用負担−

却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払いを受けることにより行われている。

最高裁は、建物賃貸借契約の性質上、借主の通常の使用に伴う損耗は発生するものであり、当然に予定されているものであるから、貸主は賃貸に当たり、それらの通常損耗による建物価値の減価分は、減価償却費や修繕費等の必要経費として賃料に含ませて回収しているとしています。つまり、通常損耗による建物価値の減少分は賃料に含まれているので、借主は、それらの損耗についての原状回復義務を負わないことを示しています。⑵原状回復ガイドラインの考え方国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルと

ガイドライン」(以下、原状回復ガイドライン)は、トラブルの未然防止の観点から現時点において妥当と考えられる一般的な基準を示したもので法律ではありませんが、原状回復を「借主の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀

き損を復旧すること」と定義して、貸主・借

主負担を次のように区分しています。

・貸主負担となるもの

①建物・設備等の経年変化による自然的な劣化・損耗等(経年変化・自然損耗)

②借主の通常使用による損耗等(通常損耗)

建物賃貸借契約が終了すると借主は賃借期間中に賃借建物に生じた損傷・汚損等(以下、損耗等)を原状に回復して建物を明け渡さなければなりません(借主の原状回復義務)。しかし、借主自ら原状回復工事を行うことは

稀まれであり、借主は必要な原状回復費用(補修費

用等)を負担して、原状回復に係かかる補修工事は

貸主が実施するのが現実の対応となっています。敷金が預託されている場合、貸主は、敷金か

ら借主負担となる原状回復費用を控除して敷金を返還し、敷金を上回る原状回復費用であるときには、追加請求をすることになります。この借主の原状回復費用の負担をめぐり貸主・借主間でトラブルが多く生じています。原状回復をめぐるトラブルの相談対応について考えます。

⑴裁判所の考え方(最高裁 平成17年12月16日判決)

 賃貸借契約は、借主による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払いを内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、借主が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化または価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償

借主の原状回復義務の法的考え方

Page 19: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 18

そのことを主張すればよく、損害を生じさせていないことを立証する必要はありません。貸主は、借主が否定するその損耗等の損害の賠償を求める場合、借主が入居中に生じさせた損害であることを立証する必要があります。借主が損害を生じさせたことの立証責任は貸主にあることを知っておきます。

貸主・借主間で原状回復費用について争いがあり精算合意がされていないにもかかわらず、保証会社が代位弁済をしたことでのトラブルがありますが、保証会社は、このトラブルが頻発したことから、原状回復費用の代位弁済については、精算合意が確認できる書面の提出を貸主に求めることでトラブル防止を図っています。

原状回復トラブル相談の対応に際して、消費生活相談員に求められること、その役割は、費用負担の要否、工事費用が適正か否か、原状回復特約の有効・無効等を判断することではありません。相談者(借主)の賃貸住宅の利用状況、明け渡し時の状況等の事実関係を確認できない中で判断することはできません。相談窓口の役割は、原状回復ガイドラインの考え方や裁判事例を紹介しながら借主の負担となる原状回復工事および費用負担の原則的な考え方について情報提供をすることです。そのうえで、相談者にとって一番良いと思われる相手方との交渉方法等の助言、提案をします。相手方との話し合いが困難な状況にあり、かつ、敷金の返還を求めたいときには、最終解決方法として少額訴訟制度が利用できる(少額訴訟制度を利用した敷金返還請求訴訟)ことの情報を提供します。

この連載も今回をもって終了となります。お読みいただきました皆様には心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

家賃保証会社の代位弁済

相談対応のあり方

・借主負担となるもの

 借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による汚損・毀損等

⑶改正民法(改正法621条)*2020年4月1日施行

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年の変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

改正民法では、このように通常損耗・自然損耗は借主に原状回復義務がないことが明確に規定されますが、これは確立された法解釈を明文化するもので新しいルールができるわけでなく、現時点における法的考え方です。⑷まとめ

 借主に原状回復義務が生じる損耗等は、善管注意義務違反等による借主の責めに帰すべきものであり、借主の責めに帰することができない事由による自然損耗、通常損耗等については、借主に原状回復義務はない。

具体的事案において借主に原状回復義務(修復費用の負担義務)があるか否かは、借主の責めに帰すべき損耗等であるか否かにより決まることになります。この基本原則を十分に理解しておくことが何にもまして大事なことです。

入居時に既に存在していた損傷・汚損にもかかわらず、修復費用を請求されているとの相談も多くみられますが、借主は、自分が生じさせた損耗等でなければ負担義務はありませんので、

貸主の立証責任

Page 20: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

文/安藤 佳子 Ando Yoshiko

2018.3 19

消費者の健康意識が高まり(香港は平均寿命世界1位)、任意の高額な健康診断や予防接種などへの出費もいとわない。苦情も急増し、2017年11月までに前年(23件)を大きく超える400件以上の相談(主に予防接種関連)がHKCC(香港消費者委員会)に寄せられた。以下、相談事例を紹介する。事例1 3回接種するワクチン(4,500香港㌦*)の2回目終了後、実施者の医療センターからワクチンの品不足で3回目ができないと言われ、効果が無くなる不安と接種のために要した経費等損失を被った。事例2 電話勧誘を受け会社Aの健診パックに申し込んだところ、後日想定の3倍の金額を請求されたうえに、会社Aの名をかたって「未利用のサービスが医療センターXに残っており、追加の健診を申し込まないとそれらが失効する」旨のメールが届いた。

何度も会社Aに連絡を取ろうと試みたが、つながらない。事例3 申し込んだ健診のほかに高額な検査(3,700香港㌦)も勧められ追加。後日、検査値が異常であるとして早急の再検査を勧められ申し込んだが、不審に思い病院で受診したところ異常なしだった。事例1では、HKCCの調停に対し医療センターが

ワクチンの手配は不可能とし、未接種分の返金に応じた。事例2では、HKCCが医療センター Xと連絡を取ったところ会社Aとの関連はないと否定したが、残りの健診サービスについての交渉に同意した。事例3では、検査しなかった分の返金で合意した。

HKCCは、予防接種や健診プランの購入に際し「必ず家族や医師に相談する」「契約書の写し・領収書を要求する」などをアドバイスしている。

●HKCC(香港消費者委員会) ホームページ https://www.consumer.org.hk/ws_en/news/press/494/vaccination-body-check.html  ほか

予防医療サービスの申し込みは慎重に香 港

孤独担当大臣が新設されるなど、急速に進む高齢社会の問題は深刻だ。イングランド・ウェールズでは現在約43万人が約11,300カ所の高齢者施設(ケアホーム)に入所しているが、地域によっては既にベッド数不足が指摘されている。しかも、2025年には65歳以上の約280万人にケアが必要になるという。

ケアホームを選ぶ際、料金・スタッフ・設備などの情報が不足しているのが現状だ。CQC(ケアの質委員会)の最新の報告では、大手の事業者でも設備やスタッフなどの質が「不可」「要改善」と評価されるところが多かった。Which?にも「介護の質、量ともに不十分で不満」「人手不足を理由に突然強制退去させられ、そのストレスが死期を早めた」「虐待を受けた」など非道な体験談が多く寄せられている。

Which?は「ケア(システム)にケアが必要、今すぐ(Care needs care now)」と銘打ったキャンペーンを行い、政府主導の対策を要求している。2017年11月にはCMA(公正取引委員会)により、持続可能性が懸念される当該市場と消費者保護の改善のため、政府による対策の必要性が報告された。このCMA報告やCQCによるベッド数不足の警告等を受け、政府は2018年夏までに「高齢者ケアの危機への提言(緑書)」を発表するとしたが、Which?は2022年には42,000人分のケアホームが不足するとしてより速やかな対策実施を要請している。

Which?は高齢者ケアのサイトを設け、各地方の民間・公営施設の探し方やCQCの格付け、費用や公的補助、契約書のチェック項目、トラブルの相談方法など、広範囲の情報を提供している。

●Which?ホームページ https://campaigns.which.co.uk/care-system/?utm_source=whichcampaigns&utm_medium=website&utm_campaign=care/●CMA ホームページ �https://www.gov.uk/government/publications/care-homes-market-study-summary-of-final-report/care-homes-market-study-summary-

of-final-report ほか

高齢者施設への対策を速やかにイギリス

* 1香港㌦=約13円

Page 21: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

文/岸 葉子 Kishi Yoko

寒さが厳しいウィーンで、冷え切った体を温めてくれるのが焼き栗である。秋から冬の終わり(3月末)にかけて、市内の200カ所近くに屋台が登場する。焼き栗のほか、焼きポテト、ポテトパンケーキも一緒に販売されることが多い。原料の栗はトルコ産、イタリア産が中心で、焼き釜の中で栗がはじけないように、皮に切れ目を入れている。

ウィーン労働者会議所は、焼き栗の品質を調べるため、民間研究機関の協力を得て、市内の屋台で販売されている商品の抜き取りテストを行った。特に人通りの多い場所に出ている38の屋台を選び、それぞれ35 〜 40個程度の焼き栗を購入した。

その結果、皮がむけない栗285個、かびの生えた栗80個、虫食い栗35個などが見つかり、5分の1以上の栗に問題があると判断された。この中で、

抜き取り品のすべてが正常だった屋台が2軒あった一方で、食べられない栗が過半数を占める屋台も3軒あった。食べられない栗が20%以上を占める屋台は、22カ所(57.9%)。だった。14の屋台で1〜6個のおまけが付いていたことから、粗悪な栗の混入について、事業者も自覚しているのではないかと同会議所は推測する。逆に、払った代金よりも栗の個数が少ない屋台が3軒あり、この事態は何としても避けなければならないと強調する。

同会議所は、おまけの栗が提供されても、質の悪い栗が完全に帳消しになるわけではないが、提供されないよりは望ましいとする。また、原料の段階から、念入りに品質をチェックするよう事業者に求めている。食べられない栗を手にした消費者には、屋台に苦情を申し出て交換してもらうよう助言する。

2018.3 20

風邪を引くと辛いのが、止まらない咳せき

である。まずは「乾いた咳」で始まり、やがて、痰

たんが絡んだ「湿っ

た咳」に移ることが多い。特に、夜間の激しい咳は身体への負担が大きいため、処方箋

せん不要の咳止め剤

で対処する消費者も少なくない。そこで、『エコ・テスト』では、処方箋不要の咳止

め剤24商品(乾いた咳用9商品、湿った咳用15商品)のテストを行った。形状は錠剤、カプセル剤、シロップ剤、発泡性錠剤等で、植物性の有効成分を配合した商品は3分の2に上った。もっとも、同誌は風邪を根本的に治す医薬品はないと考えていることから、咳の症状を緩和する効果があるのかという観点のテストとなった。効果を判定するに当たり、薬学の専門家の鑑定を参考にした。

その結果、5商品(湿った咳用4商品、乾いた咳

用1商品)が「非常に良い」または「良い」という高評価となった。このうち、湿った咳用の4商品は、サクラソウ属植物の根にタイムを組み合わせるなど、植物性の有効成分を配合した商品だった。一方、乾いた咳用の1商品は、デキストロメトルファンを配合したシロップ剤だった。なお、評価があまり高くなかった植物成分配合商品は、学術的論拠が不十分という理由だった。

同誌は、咳がひどくても必ずしも咳止め剤が必要なわけではないが、医薬品を服用したい場合は、症状に合った商品を選ぶよう助言する。また、水分を十分取るよう勧め、のど飴でも短時間なら咳の辛さを緩和できるとする。さらに、咳が3週間以上続くときは、医師の診察を受けるよう勧めている。

●エコ・テスト出版『エコ・テスト』2018年1月号 https://www.oekotest.de/gesundheit-medikamente/24-Hustenmittel-im-Test_110535_1.html

咳を鎮める薬はあるの?

●ウィーン労働者会議所 ホームページ https://wien.arbeiterkammer.at/beratung/konsumentenschutz/essenundtrinken/AK_Test_Maroni.html

オーストリア

ドイツ

ウィーンの冬の味覚「焼き栗」をテスト

Page 22: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 21

このコーナーでは、消費者教育の実践事例を紹介します。

第 回48

滋賀県県民生活部県民活動生活課

自分で知り、考え、行動する力を育てるために−子どもだって消費者! 紙芝居やすごろくで遊びながら学ぶ−

マとし、そのほかにも、「約束やきまりを守ろう」「欲しいものと必要なものの違いに気づき、ときには我慢することを覚えよう」「困ったことがあったら身近な人に伝えよう」という内容を、ストーリーの各場面に取り入れています。⑵工夫した点子どもたちが親しみを持てるよう、ぬいぐる

みを題材にし、主人公の宝物を地元の「びわ湖で拾ったおそろいの貝がら」としました。紙芝居の裏面には、読み手向けに、各場面に

応じた消費者教育のポイントを記載しました。作成前には、どんな内容であればいいか保育

所等にヒアリングを行ったほか、試作品で実際に読み聞かせを行い、判明した改善点を盛り込み、完成としました。⑶配布状況県内の保育所や幼稚園のほか、認定子ども園

や図書館等、約500カ所に指導者用説明書とともに送付しました。

⑴ねらい「次の夏休みに山か海に遊びに行く」という設

小学校低学年向けすごろく「滋賀県消費生活ゲーム」

滋賀県では、「滋賀県消費者基本計画(消費者教育推進計画としても位置付け)」に基づいて消費者教育施策を進めています。現計画の改定に当たって、今後の消費者教育

の方向性について議論を行うなかで、「幼児期における取り組みが全体的に不足している」「ライフステージにおいてポイントになるところは手厚くする必要がある」等の意見があり、「スマートフォンを持ち始める年代」と「高齢者」にポイントを置いて、取り組みを進めることとしました。「スマートフォンを持ち始める年代」が低年齢化するなかで、幼児期から小学校低学年の子どもたちが消費者として「生きる力」を身に着け、消費者市民社会の実現につながる主体的な学びの姿勢を養うことを目的として、2016年度に「幼児向け紙芝居」と「小学校低学年向けすごろく」を作成しました*。これは、消費者庁の先駆的事業として「10歳までにはじめる消費者教育実践事業」の中で作成したものです。

⑴ねらい主人公のはると、はるが大事にしているくまの

ぬいぐるみのくぅたんをめぐる物語です(図1)。「身の回りのものを大事にしよう」をメインテー

子どもたちへの消費者教育に重点

幼児向け紙芝居「はるのたからもの」

* �「紙芝居」「すごろく」とも、希望する県内団体等への貸出しも行っている。また、県ホームページにて閲覧・ダウンロードも可能。��http://www.pref.shiga.lg.jp/c/kensei/shohi/index.html

図1 紙芝居「はるのたからもの」

Page 23: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 22

指導者用説明書とともに送付しました。

2017年度はこれらの教材を活用する機会を増やすことにより、消費者教育の場の展開を図りました。これまでの出前講座は自治会や高校等がメインでしたが、児童クラブ等ですごろくを使って実施することができました(写真1)。講師は県の職員や消費生活相談員のほか、滋賀県金融広報委員会の金融広報アドバイザーにお願いしました。エコフェア等のイベント会場で、親子連れを

対象にすごろくを行った際は、順番待ちができるほどの盛況ぶりでした。そのほか、本事業とは別に実施した若者対象

の事業において、大学生に紙芝居を使って幼稚園等で読み聞かせ活動をしてもらうことにより、教材の普及と展開を図っています(写真2)。このように、紙芝居やすごろくというツール

を手に入れたことで、今まで手薄だった子どもたちへの消費者教育の場が広がったことは大きな成果だと考えています。

今後は、幼稚園や児童クラブの指導者の皆さんに「自分でもやってみよう」と思ってもらえるよう、出前講座やイベント会場での実演を通じて積極的にPRしていきたいと考えています。ただ、県だけではマンパワーの面で限界があります。これからは、自分でもやってみたい人を広く

募るなど、担い手の増加を図り、子どもたちの「生きる力」を育めるよう頑張っていきたいと思います。

教材を活用した消費者教育の実践も

子どもたちの生きる力を育むために

定のもと、持っていきたい物を買いそろえていくすごろくです(図2)。生活と環境のつながりや、製品の安全な使い方、お金の使い方などについて、楽しみながら学びます。⑵工夫した点すごろく盤のマスには、消費生活に身近な内

容を多く取り入れています。例えば「買いものをするときにねだんをちゃんとかくにんしているよ」「かぞくのスマートフォンをかってにさわってしまった!」などです。また、「やることカード」のマスでは「やるこ

とカード」(図3)を引き、カードの指示どおりにできたら(例えば「ごはんはいつも、のこさずに食べているかな?」など)お金カードがもらえます。「買いものカード」のマスでは「買いものカード」(図4)を引き、カードに書かれた商品を買うかを自分で決めます。これにより「お金は働いてこそ手に入れることができる」「お金を貯めておくことで、必要なときに必要なものを買うことができる」ということが自然に身に着くよう工夫しました。⑶配布状況県内の放課後児童クラブ等(約300カ所)に、

写真1 すごろくのようす図3 図4やることカードの一例 買いものカードの一例

写真2 紙芝居の読み聞かせのようす

図2 すごろく「滋賀県消費生活ゲーム」

Page 24: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 23

第 回

家庭料理の誕生―求められた経済性と実用性―

4

東四柳 祥子 Higashiyotsuyanagi Shoko 梅花女子大学食文化学部准教授専門は比較食文化論。著書に、『近代料理書の世界』(共著、ドメス出版、2008年)、『日本の食文化史年表』(共編、吉川弘文館、2011年)など。一般社団法人日本家政学会食文化研究部会常任委員、一般社団法人和食文化国民会議幹事、日本郵便「和の食文化」記念切手の監修・助言。

べきとの考えを創出しました。これを受け、明治の早い時期より、「家庭は女性の領域」と主張する出版物が増加。家内領域の指揮が求められた女性たちは、家庭の「和楽」を守る「主婦」として、使用人たちのお手本となる立ち居振る舞いが期待されることとなりました。なお家庭の「和楽」が求められた背景には、明

治新政府がスローガンとして打ち出した「富国強兵」を実現するという目的がありました。国家を構成する重要な要素ともいえる家庭。経済的にも、情緒的にも安定した家庭を維持することこそが、「主婦」たちに求められた報国への大切な役割だったのです。実際こうした「国家は家庭の集合体」という考えは、都市部のみならず、地方への波及も期待され、農村女性を対象とした家政書や料理書においても、その理解を促す動きがみられました。一方で家庭における女性の役割は、同時期の

西洋諸国の家政書や料理書の中でもしきりに説かれていることからも、西洋の思想に範を求め、受容された考えであったことが認められます。さらに「父」や「夫」の疲労を慰めるためにも、特に毎日の飲食と「家内の愛敬」が肝要であるとの視点も説かれるようになり、食材の良否や相場を把握し、おいしく経済的で、家族の健康を考えた料理の提供こそが、「主婦」の大切な責務であるとの主張が本格化していくこととなりました。

誰の心にもきっと家庭料理にまつわるすてきな思い出があるのではないでしょうか。実は明治時代こそ、家庭料理文化が誕生した画期。その研究熱の高まりとともに多くの料理書が出版され、習得をめざすための講習会や割

かっ烹ぽう学校も

方々で開かれました。また福澤諭吉が、自ら創刊した『時事新報』において、日本初の料理記事「何にしようね」の連載を開始したのも、明治26年(1893年)のこと。毎日のおかず作りに悩む女性たちのニーズに応えるかのように、連日さまざまなレシピが掲載されました。一方、家庭料理を指南する料理書は、江戸時

代ではほとんど確認できません。江戸時代の料理書は、実用性よりむしろ遊び心が満載の趣味本的なものや料理人向けに出版された専門書の類いがほとんどで、女性の読み物としての性格は持ち合わせていませんでした。そこで今回は、明治時代に成立する家庭向け

料理書誕生の歴史に着眼し、家庭料理の発達・改良を切望した執筆者たちの想いをたどることをめざします。家庭料理発祥のドラマを、皆さんと一緒に紐

ひも解いてみたいと思います。

明治時代に成立した資本主義経済の発達は、「男は外、女は内」といった性別役割分業を規定し、家内領域は女性の手腕によって管理される

「家庭=女性」観の発生

平成30年(2018年)は、明治元年(1868年)から起算して満150年に当たることから、政府では、「明治150年」関連施策を推進しています。その一環として本誌では、明治時代を生きた人々の暮らしを振り返り、現代の暮らしを展望します。�http://www.kantei.go.jp/jp/singi/meiji150/portal/

Page 25: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 24

さて、ここで注意したいのは、明治前期の想定読者は、実践することの必要性よりむしろ使用人を指導するための知識の習得が求められた上流層の「指導型主婦」を対象としていたことです。しかし、次第に使用人任せで調理に見向きも

しない「指導型主婦」を戒める主張もみられるようになり、台所仕事の関与の有無にかかわらず、出来るだけ若いうちから料理法の習得を促す家庭向け料理書の出版も盛んになっていきます。さらに明治の終わりになると、勃興する新中

間層の台頭により、自ら調理の実践に携わることが求められた「実践型主婦」を読者対象とし始める動きが顕在化します。まさにこうした読者層の転換こそ、料理書の実用性をさらに高め、誰もが親しみを感じるおふくろの味を生み出す原動力となっていったのではないでしょうか。近代社会の産物として成立した家庭料理。家

庭料理という新ジャンル確立の陰には、単に家族の食欲を満足させるだけでなく、国家に奉仕できるとの一途な想いが反映されていました。家族を、そして国家の安泰を切に願う料理書執筆者たちの努力の軌跡の上に、家庭料理誕生の物語が始まったのです。

「指導型主婦」から「実践型主婦」へ

こうした台所管理を重視する主張の高まりに伴い、家庭の経済と家族の健康管理に適した調理法を伝える家庭向け料理書が、明治中期以降、出版されるようになります。なお家庭向け料理書の序文には、調理法の基礎習得のみならず、来客を手料理でもてなすことができれば、料理屋の仕出しに頼らずにすみ、家庭の経済に寄与することができるとの見解もみえはじめます。また子どもの発育や高齢者の健康状態に斟

しん酌しゃくし

た調理に励み、家族の未病に努めることもまた「主婦」の役目であると説く料理書も著述され、消化の良さや滋養を考慮し、年齢に合った食事作りの必要を語る執筆者の活躍もみられました。一方家庭向け料理書には、ひらがなを多用し、

詳細な図解を加えるなどの工夫を盛りこみ、分かりやすさを追求したこだわりも示されています。さらにこれまでの非実用的な料理書を批判し、何度も試作や「実験」を重ね、調理法を編み出したと語る女性執筆者の声や、バラエティのある家庭料理の提供こそ、連日の料理屋通いで家庭を顧りみない夫の心をつなぎ留める手立てになると説く文筆家のユニークな所論なども確認され、実用性と経済性がことのほか重視されていた状況も理解されます。さらに日清戦争(1894-5年)、日露戦争

(1904-5年)の頃になると、ますます家庭料理研究の必要性が強調されました。なかでも不衛生な台所管理が家庭の不和を招く原因になるとの考えも主張されるようになり、調理の際には、垢あかがたまりやすい爪は切ること、髪が入らない

ように気をつけること、手洗いやうがいを欠かさぬことなどの注意も喚起されました。またアメリカに範を求め、効率的な台所構造を紹介する主張も登場し、衛生的な家庭料理のあり方を模索する女子教育者たちの活躍もみられました。

家庭向け料理書の萌ほう

芽が 図 理想とされた一家団欒

らんの風景

出典:福田琴月『衛生と衣食住』(博文館、1911年)※味の素食の文化センター所蔵

Page 26: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 25

企業活動と経済第 回3

生活者の視点から、市場経済の基礎や金融のしくみを分かりやすく解説します

川元 由喜子 Kawamoto Yukiko 経済に強いママを増やす会主宰1985年日興證券(株)入社、1987~1992年ニューヨーク勤務。1995~2003年HSBC投信投資顧問(株)。2009~2016年ありがとう投信(株)。2010年より「経済に強いママを増やす会」主宰。草の根金融教育活動に注力。

産設備に投資したりということは、すべて生産の拡大につながります。これが、企業の重要な働きです。得られた利益を新たな生産の拡大のために投資し、それが経済を成長させるのです。昨今「企業の内部留保」がよく話題になったり

批判されたりしていますが、それは景気がなかなか良くならないのは「企業が得た利益を内部に貯め込んで、生産の拡大のために使っていないからではないのか」という批判なのです。この議論は一部誤解されている面もあり、またさまざまな意見のあるところですので、ここでこれ以上述べることはしませんが、企業の好業績は景気の好循環を生む原動力であるからこそ出てくる議論なのです。

ではここで、企業はどうやってできているのか、自分で会社を起こすつもりになって見てみましょう。例えば、あなたはお菓子を製造して売る会社を始めることにしたとします。すると製造設備やお菓子の材料が必要になりますね。まずは自分で貯めてきたお金を取り崩して、必要なものを買いそろえようと考えます。これが、事業を始めるための「出資」です。出資されたお金が「資本」で、あなたは会社の創業者であり「出資者=オーナー」となるわけです。しかし製造設備もそろえるとなると、かなり

の資金が必要になりますから、自分の貯金だけでは足りません。そこであなたはお金を借りようと考えます。親戚や友人に借りてもいいでしょ

企業の成り立ち

連載の第1回目に、「経済」を形成しているのは私たち消費者だ、というお話をしましたが、消費者と並んで経済を形作っている大きな経済主体が「企業」です。消費者は文字どおり、生産されたものやサービスに対価を払って消費することで経済に参加していますし、企業は提供するべき物やサービスを生産します。企業の働きは、生産することだけにとどまり

ません。生産活動のために、働き手を雇用します。普通は誰でも、生きていくために働かなくてはなりませんから、企業が十分な雇用を生むことは、経済以前に社会にとって大変重要です。さらに働く人々は、皆消費者でもありますから、企業の生産活動が、雇用を通じて消費の良し悪しにかかわってきます。雇用数が増えたり給与の額が増えたりすれば、それによって消費が拡大し、増える消費に対応して生産が増え、そのためにまた新たな雇用が生まれる、という好循環が生じるでしょう。アベノミクス以降、企業が売り上げや利益を

拡大している割に消費が増えない、と言われてきました。それは給与が十分に上がっていないせいではないかという考えから、景気対策の一環として給与水準に口を挟む、という政治の動きに繋

つながっているのです。

前述したように、売り上げや利益が増えれば雇用数を増やす、という選択もあり得ます。それは生産量を増やすという選択でもあります。雇用だけではなく、仕入れ量を増やしたり、生

企業の役割

Page 27: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 26

ばなりません。負債が多過ぎると思えば、返済に充てることもできます。もっとたくさん製品を生産しようと思えば、生産設備に投資することもできます。より多くの人を雇うこともできるでしょう。利益が出ると、こうして会社は大きくなりま

す。バランスシート上では、利益はまず現金として流れ込み、その後、それが商品になったり設備になったりするのです。そして資産の全体が大きくなった分、バランスシートの右側では資本の部分が大きくなります。事業によって利益が出て、資本の部分が増えていくことが、会社の真の成長なのです。そしてこれこそが、経済成長の原動力なのです。

言うまでもなく、私たちの生活は、企業の活動から大きな影響を受けています。朝から晩まで企業のお世話になっていると言ってもいいほどです。日ごろ口にする加工食品、着ている服、乗っている車、使っているデジタル機器、買い物する小売店舗、荷物を運んでくる運送業者……何を見ても、ほとんど企業が提供しているものです。そして多くの人は、企業で労働者と

「良き市民」としての企業

うが、銀行などの金融機関で貸してもらうこともできます。借りたお金は「債務」で、貸してくれる人や銀行は「債権者」ということになります。生産設備や調達した原材料、販売する前の商

品などは、この会社の財産です。こうした財産(資産)と、それに見合う資金をどこから調達しているか、並べて表したものをバランスシート(貸借対照表)(図1)と呼び、会社の経営状態を見るために利用されます。さて、この会社がお菓子を作り始め、できた

製品を販売するようになりました。しばらくして無事に決算を迎え、年間の成果が出ました。ごく単純に表せば、売り上げた金額から、生産にかかった原材料費や諸経費を差し引いて、利益が計算されます(図2)。たくさん生産しても売れ残ってしまったり、売り上げが多くても経費を使い過ぎてしまったりすれば、利益が出ないこともあるわけです。幸いにして利益が出たならば、ようやく会社は現金を手にすることになります。この現金は、会社の財産になりますから、先

ほど示したバランスシートに加わることになります。財産をどのように使うかは、会社の経営者であるあなたが決めてよいのですが、会社のお金ですから、会社の経営のために使わなけれ

図1 企業のバランスシート

資産の部 負債・資本の部

現 金負 債

原材料・商品の在庫

資 本設備・備品

利 益

損 失

出資(自分のお金)

融資(借りる)

図2 企業の売り上げと利益

売上高

原材料費

諸経費

利益

売上高に占める原材料費

人件費、消耗品費、減価償却費、租税公課など

売上高から原材料費や諸経費を引いていくと最後に利益が残る

Page 28: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 27

もうまく折り合っていくことが、企業が持続的に成長し、長く存続していくためには必要です。その考え方を表したものが「コーポレート・ガバナンス」なのです。また、平和・人権といった普遍的な価値を守

ること、地球環境の保全に留意すること等々、企業が守るべき規範はさらに広がりを見せています。なにやら企業はずいぶんと多くの事を要求されて大変だ、という印象を受けるかもしれませんが、これらはごく普通に私たち「個人」が守っている社会規範であると考えればよいのではないでしょうか。会社というのは「法人」という人です。生身の人間ではありませんが、言わばバーチャルな人間ですから、普通の人と同じように、良き市民であるべきだ、ということなのです。今、企業の評価をめぐる世界の潮流は、環境

(environment)、社会(social)、ガバナンス(governance)の頭文字をとった「ESG」に向かっています(図3)。ESGの条件を満たした企業、良き市民と認められるような企業が、結局長い目で見ると、成長し続けられるのだという考え方です。企業には、こうしたさまざまな価値を守りながら、「利益を上げる」という元来の使命を果たしていくことが求められているのです。

して働いてもいます。これほど深く私たちの生活に関わっている企業が、正しく経営されているのか、企業としての役割を果たしているのか、社会全体が関心を持つのは、考えてみれば自然なことかもしれません。消費者としての視点から企業の作る製品を評

価する、という活動は、既に長い歴史がありますが、昨今の「企業のあり方」を巡る議論は、製品の評価にはとどまりません。例えば、アベノミクスが始まった頃、その成長戦略の中に「コーポレート・ガバナンス改革」が取り入れられました。「コーポレート・ガバナンス」というのは非常に多岐にわたる議論を含むテーマですが、ごく簡潔に表現すれば「企業が正しく経営されていること」と言ってよいでしょう。その中でアベノミクスが重視したのは「経済成長の牽

けん引いん

役である企業の生産性を高めるには、企業が正しく、効率よく経営されなくてはならない」という考え方でした。経済を成長させ社会を豊かにすることは、言わば企業の使命です。そのことを企業の経営者自身が忘れているのではないか、という問いかけでもあったように思います。もちろん効率を上げることだけが「正しく経

営すること」ではありません。法や社会のルールを遵

じゅん守しゅすることや決められた手順を守ること、

従業員を大切にすることなど、一見効率が良くないように見えても、不正を防ぎ、社会全体と

図3 ESGへの取り組みの例

E(環境)

・温室効果ガスの排出制限・廃棄物の適正な処理・水質保全

S(社会)

・人権の尊重・差別の否定・プライバシーの保護・健全な職場環境

G(ガバナンス)

・法令や規則の遵守・公正な経営組織の運営・リスク管理

Page 29: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 28

新連載

池本 誠司 Ikemoto Seiji 弁護士日本弁護士連合会消費者問題対策委員会幹事、内閣府消費者委員会委員、経済産業省産業構造審議会割賦販売小委員会委員、適格消費者団体埼玉消費者被害をなくす会理事長、国民生活センター客員講師、明治大学法科大学院非常勤講師など。著書に『割賦販売法(クレサラ叢書 解説編)』

(共著、勁草書房、2011年)ほか。

消費生活相談員のための

割賦販売法 割賦販売法とはどのような法律か

第 回1

うクレジット産業育成を主な目的としていました。包括信用購入あっせん(「包括クレジット」。当時の名称は「総合割賦購入あっせん」、当時はチケット方式が主流だった)の加盟店がクレジット会社から確実に立替金を受領できるように、包括クレジット会社に対する登録制を導入するとともに、割賦払いによる契約条件をめぐる消費者トラブルの防止のために、書面交付義務や契約条件規制を設けました。

その後、クレジットを利用した訪問販売によるトラブルが多発したことから、1972(昭和47)年改正により、わが国で初めてクーリング・オフ制度が導入されました。また、クレジットを利用した販売業者の倒産により商品引き渡しが受けられないのにクレジット会社からの請求が残るというトラブルが多発したことから、1984(昭和59)年改正により、個別信用購入あっせん(「個別クレジット」。当時の名称は「個品割賦購入あっせん」)を規定するとともに抗弁対抗制度*が導入され、消費者保護法としての性格が明確になりました。さらに、個別クレジットを利用する訪問販売

業者が消費者の支払い能力を無視して次々販売を行うトラブルや、ココ山岡事件、ダンシング事件など個別クレジットを利用した悪質業者の大

クレジットトラブルと主な法改正の経緯

クレジットを利用した取引に関するトラブルは、販売業者との契約関係とクレジット会社との契約関係を同時に適切に解決することが求められます。以前は個別クレジットを利用した訪問販売のトラブルが多発し、近年はクレジットカード決済を伴うインターネット取引のトラブルが増加して、2016(平成28)年改正が行われ、2018(平成30)年6月1日に施行されます。難解な割賦販売法の要点を理解し活用するポイントを、13回にわたって分かりやすく解説します。

日常の消費生活においては、店舗で商品を購入するときその代金を現金で支払い、商品をその場で受け取る「現金取引」が一般的です。これに対し、代金を後払いにする取引を広義のクレジット契約(販売信用)といいます。クレジット契約は、消費者にとっては手持ちの現金なしで買い物ができる便利さがあり、販売業者にとっては高額商品の販売促進になるメリットがあります。他方で、消費者は代金支払いの負担感がなく高額の買い物をしがちとなるデメリットがあり、販売業者は代金回収リスクを考慮せずに無理な販売活動に及ぶおそれがあります。割賦販売法(以下、割販法)が1961(昭和36)

年に制定された当初は、「割賦販売等の取引を公正にし事業の健全な発展を図る」(法1条)とい

割賦販売法の趣旨、目的

* �「商品が引き渡されない」など、販売業者に対して生じている事由をもって、消費者がクレジット会社への支払いを拒むことができるしくみのこと。詳細は次回以降解説する。

Page 30: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 29

消費生活相談員のための割賦販売法

年6月施行)により、クレジットカード決済について、アクワイアラー(加盟店契約会社)および決済代行会社に対する登録制・加盟店調査義務等が導入されました。アクワイアラー等に対する義務づけはマンスリークリア取引も適用対象としている点が注目されますが、イシュアー(カード発行会社)についてはマンスリークリア取引の適用がないままである点で、被害防止・救済の実効性が上がるか否か注視する必要があります(詳細は次回以降、解説します)。

割賦払い取引を行う事業主体の違いにより、販売業者自身が割賦払いを受ける「割賦販売」(図1)と、販売業者とは別の事業者が登場する「信用購入あっせん」と「ローン提携販売」(図2)があります(表2)。

適用対象

規模被害が繰り返されたことから、2008(平成20)年改正により、個別信用購入あっせん業者(個別クレジット会社)に対して登録制、加盟店調査義務、契約取消し等の厳しい規制が導入されました。個別クレジット被害の増大が社会問題化し法改正の議論が始まった2007年から2016年までの10年間に消費生活センターに寄せられた苦情相談の推移をみると、個別クレジットの相談件数が69,348件から20,206件に減少するという効果が表れています(表1)。他方で、近年はインターネット取引において

クレジットカード決済が多用されており、これに伴う消費者トラブルが増加し、包括クレジットとマンスリークリア取引(翌月一括払い)の苦情相談件数を合計すると、22,330件から65,743件と約3倍に増加しています(表1)。そこで、2016(平成28)年12月改正(2018

契約類型 支払条件 購入商品

割賦販売(自社割賦)(法2条1項)

割賦販売2カ月以上かつ3回以上の分割払い、リボルビング払い 政令指定商品・役務・権利前払式割賦販売

ローン提携販売(法2条2項) ローン提携販売

信用購入あっせん(法2条3項、法2条4項)

包括信用購入あっせん 2カ月を超える後払い(ボーナス一括払いを含む)、リボルビング払い 原則、すべての商品・役務、政令指定の権利

個別信用購入あっせん 2カ月を超える後払い

前払式特定取引(法2条6項) 前払式特定取引 2カ月以上かつ3回以上の分割払い 政令指定の役務

割賦販売法の適用対象表2

2007H19

2008H20

2009H21

2010H22

2011H23

2012H24

2013H25

2014H26

2015H27

2016H28

総相談件数 861,780 768,650 723,816 706,417 683,378 644,150 693,261 687,339 651,202 602,157

販売信用 110,014 88,732 83,629 76,953 74,696 73,663 84,039 90,260 94,284 98,281

自社割賦販売 5,093 5,870 6,587 7,645 7,160 6,972 7,304 6,895 6,451 5,724

包括クレジット 13,102 14,383 18,196 21,753 21,099 18,744 19,735 19,181 19,519 18,909

個別クレジット 69,348 45,387 33,761 28,640 22,768 20,303 21,130 21,170 21,186 20,206

翌月一括払い 9,228 9,523 11,080 13,220 18,402 22,171 29,994 36,704 40,663 46,834

ローン提携販売 6,592 7,184 7,911 330 449 691 963 665 418 100

「消費生活年報2017」16ページの表7を基に筆者作成。※「総相談件数」は、支払方法について「不明・無関係」を含まない。※割賦販売法2010(平成20)年改正に伴い、2010年度受付分から販売信用の内訳について区分の変更あり。「翌月一括払い」は、改正前はボーナス�一括払いを含み、改正後は2カ月内払い。「ローン提携販売」の定義から個別式を外す。

年度別にみた支払方法別相談件数表1年度

支払方法

図1 割賦販売(自社割賦)のイメージ

消費者 販売業者商品の販売

代金の後払い

図2ローン提携販売のイメージ

債務保証

商品の販売カードの交付

借入金の分割返済

金融機関等 販売業者

保証契約

金銭消費貸借契約

売買契約等保証委託契約

消費者

金銭の借り入れ

Page 31: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 30

消費生活相談員のための割賦販売法

り前に受領する「前払式割賦販売」と、前払代金を受領する事業者と商品・役務の提供業者が異なる三者型の「前払式特定取引」がそれです。前払式割賦販売はミシンの販売などで利用され、前払式特定取引は冠婚葬祭互助会やデパート友の会などで利用されてきました。割賦前払い取引は、事業者が倒産すると多数の消費者に損害が発生するため、事業者の財務基盤の確保を中心とした許可制や前受金保全措置が導入されています。つまり、割販法は、割賦払い要件は共通して

いますが、後払い取引と前払い取引の両方を規制対象とするユニークな法律です。

割賦販売とは、販売業者が、①代金を2カ月以上かつ3回以上の割賦払いまたはリボルビング払いで受領する定めにより、②政令指定商品・役務・権利を販売する取引です(図1)。「自社割賦」などといわれることもあります。販売業者自身が商品等の販売代金について割

賦払いを認める自社方式の契約であり、割賦払い特約付き販売契約が1つ存在します。法2条1項1号が包括式と個別式の両方を含む定義で、同項2号はリボルビング払いを指します。割賦販売に対しては、書面交付義務や契約条

件規制(解除の制限、損害賠償額の制限等)がありますが、第三者の与信業者は登場しないので抗弁対抗規定はありませんし、割賦払いを利用するすべての販売業者が対象となり得るため登録制等の開業規制はありません。

ローン提携販売とは、販売業者が、①あらかじめカード等を利用者に交付し、②利用者がそのカード等を利用して購入した商品代金等の支払いに充てるためにする他の与信業者から金銭を借り入れ、③割賦払いまたはリボルビング払いの支払い条件によるものを、④販売業者が購入者の借入金債務を連帯保証して、⑤指定商品・

割賦販売(法2条1項)

ローン提携販売(法2条2項)

契約方式として、あらかじめ利用限度額を設定してカード等を交付する「包括方式」(図3)と、商品購入のつど申込書の提出と審査を行う「個別方式」(図4)があります。支払方法に関して、以前は、2カ月以上かつ

3回以上の割賦払いを適用対象としていましたが、その後リボルビング払いが追加され、2008(平成20)年改正により、信用購入あっせん(三者型クレジット)については、割賦払い要件から「2カ月超後払い」に変更し、ボーナス1~2回払いが適用対象に追加されました。現行法がマンスリークリア取引を適用対象としていないのは、信用取引の性質よりも現金決済の代用手段であるとみているからです。割賦販売とローン提携販売は割賦払い要件を維持しています。購入する商品等の対象範囲について、以前は

政令指定商品・役務・権利制を採用していましたが、2008(平成20)年改正により、信用購入あっせんについては指定商品・役務制を廃止し、原則適用方式としました(指定権利制は存続)。割賦販売とローン提携販売は、指定商品・役務・権利制を存続しています。他方で、割販法は、代金の割賦前払い取引も

規制対象としています。販売業者が代金を2カ月以上かつ3回以上に分割して商品引き渡しよ

カード提示代金の後払い

包括クレジット会社 販売業者

消費者

信用調査・カード発行

商品の販売

カード会員契約、立替払契約 売買契約

代金の一括立替払い

加盟店契約

図3 包括信用購入あっせんのイメージ

図4 個別信用購入あっせんのイメージ

立替払契約

代金の後払い

売買契約

クレジット申込

個別クレジット会社 販売業者

消費者

信用調査・電話意思確認

商品の販売

代金の一括立替払い

加盟店契約

Page 32: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 31

消費生活相談員のための割賦販売法

払いまたはリボルビング払いを受ける取引です(図3)。クレジットカード決済を指しますが、マンスリークリア取引は含まれませんので、注意が必要です。クレジットカードを発行する際、与信の審査

を行うとともに利用限度額や支払条件等を定めるので、商品購入の際は個別的な審査がありません。なお、リボルビング払いとは、あらかじめ定

めた支払月額により支払いを行う方法です。クレジットカードの利用限度額の範囲内で複数回のカード決済を繰り返しても、支払月額が一定となるため返済の管理がしやすいメリットがありますが、今月の支払額はどの商品代金に当たるのか把握できず、利用限度枠を常時利用しがちとなるデメリットがあります。包括信用購入あっせんに対しては、事業者の

登録制、支払条件表示義務、書面交付義務、契約条件規制、抗弁対抗規定のほか、過剰与信防止義務、苦情の適切処理義務等の規制があります。

個別信用購入あっせんとは、個別クレジット会社が、①カード等を利用することなく、②特定の販売業者から商品等を購入するとき、③その代金相当額を販売業者に交付し、④2カ月超後払いまたはリボルビング払いを受ける取引です(図4)。クレジットカードの事前発行がなく、商品購入契約のつどクレジット申込書を提出し与信審査を受ける方式です。以前は、契約条件表示義務、契約書面交付義

務、契約条件規制、抗弁対抗規定がありましたが、開業規制や行政監督権限がありませんでした。2008(平成20)年改正により、過剰与信防止義務、加盟店調査義務、苦情の適切処理義務等の規制とともに、消費者保護の実効性確保のために登録制および行政監督権限が導入されました。

次回から包括クレジットについて解説します。

個別信用購入あっせん(法2条4項)

役務・権利を販売する取引です(図2)。販売業者以外の与信業者が登場する三者型の販売信用取引ですが、販売業者が借入金債務を連帯保証している点で、信用購入あっせんとは区別されます。ローン提携販売に対しては、書面交付義務、契

約条件規制等のほか、抗弁対抗規定が定められていますが、登録制等の開業規制はありません。ローン提携販売は、販売業者が借入金債務を

連帯保証する点で、消費者に対する代金回収リスクを販売業者が負担するしくみですので、販売業者にとっては経済的なメリットが低いため、現在ではローン提携販売は利用高がごくわずかであり、苦情相談件数もほとんどありません。

  いわゆる「提携ローン」とは?

  「提携ローン」とは、法律上の定義があるものではなく、クレジット業界で作られた取引形態です。クレジット会社が自己資金で立替払いをするのではなく、金融機関が代金相当額を融資して販売業者に交付するに当たり、クレジット会社が保証会社として介在するという契約です。購入者が何らかの事情で支払い不履行を起こした場合は、クレジット会社が保証債務により代位弁済し、クレジット会社から消費者に対し「求償金請求」を行うというしくみです。販売業者が借入金債務を連帯保証するしくみではないので、ローン提携販売ではなく個別信用購入あっせんに該当します。

包括信用購入あっせんとは、包括クレジット会社が、①あらかじめカード等を利用者に交付し、②利用者がそのカード等を利用して、特定の販売業者から商品等を購入するとき、③その代金相当額を販売業者に交付し、④2カ月超後

Q A&Q

A

包括信用購入あっせん(法2条3項)

Page 33: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 32

菅原 修 Sugawara Shu 弁護士。第一東京弁護士会、子ども法委員会所属。一般民事事件、夫婦・子どもの問題、相続問題等の家事事件、企業法務、刑事事件などを広く手がける。協力:萩谷 雅和(萩谷法律事務所)

近所のごみ屋敷に住民が迷惑している場合には?

相談者の気持ち

近所の戸建て住宅から悪臭が発生していて、とても困っています。高齢者が一人で暮らしているようですが、いわゆる「ごみ屋敷」の状態です。どこに相談したらよいでしょうか。

まずは自治体に相談するべきですが、自治体の対応にも限界があります。ごみ屋敷は、相談内容に

あるような悪臭被害のほかにも、病害虫の大量発生、火災発生など、近隣に深刻な被害を及ぼすことがあり、近年大きな社会問題の一つとなっています。相談者のような一住民が個人でごみ屋敷問題に対応することは難しいため、自治体に対応してもらいたいと考えることは自然な流れです。しかし、自治体であれば容易に対応できるというわけではなく、自治体もごみ屋敷問題への対応に苦慮しているのが現実です。ごみ屋敷問題への対応が難しい理由はいくつ

かあります。中でも最も重要なのは、「ごみ」と「財産」が、基本的に所有者の価値判断によって区別されるということです。所有者にとって財産なのであれば、他人がごみであると判断し、勝手に処分等をすることは原則として許されません。とはいえ、ごみ屋敷状態にあることで他人に迷惑がかかり、上記のような被害が生じている場合には、例外的に、所有者の意思を無視してでも処分等をする必要があります。ここで問題となるのが、ごみ屋敷問題に対応するための根拠法令の有無です(地方自治法14条2項によれば「普通地方公共団体は、義務を課し、又

は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない」とされています)。現状では、ごみ屋敷問題に対応するための法律が存在しないため、自治体が勝手にごみの処分等をする場合には、条例を制定しなければなりません。条例を制定していない自治体では、口頭でごみの処分等をお願いするなどの対応しかできないのです。ここ数年、条例を制定する自治体も少しずつ

増えてきています。条例の内容は自治体によってさまざまですが、例えば、東京都足立区は「足立区生活環境の保全に関する条例」を制定して近隣住民等からの相談・苦情を受け付けており、現場確認・調査、ごみ屋敷の所有者等に対する指導・勧告、ごみ屋敷状態の解消措置命令、当該命令に従わない場合の氏名等の公表や代執行(自治体がごみの処分等を行い、後日所有者から費用を徴収すること)というしくみを整えています。また、ごみの処分等の費用を一部負担するなどの金銭的支援制度も用意されています。ごみ屋敷問題は、住人の高齢化による身体機

能や認知機能の低下が原因となっているケースもあり、根本的な解決を図るための支援制度(医療・介護、生活困窮を担当する部署との連携等)の整備が課題となっています。

第 回70

Page 34: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 33

判例暮らしの

消費者問題にかかわる判例を分かりやすく解説します

国民生活センター 相談情報部

度バーとタクシー会社に問い合わせたが、見つからなかった。そのため、14日午前11時頃、本件携帯電話の電話会社であるAに連絡し、通信サービスを停止するとともに、警察署に遺失届を提出した。ところが、同月15日から2013年1月9日までの間、何者かが本件携帯電話を利用して151回にわたり電子マネーを291万9000円分購入していた。

2012年11月20日発行の本件クレジットカードの利用明細書には、同月15日に3回にわたり計4万円の本件電子マネーがチャージされた旨の記載があるが、Xは、前記利用明細書

Xは、Y2が提供する、携帯電話に電子マネーを記録して使用できるサービスを利用し、Y1発行のクレジットカードを利用してその電子マネーを購入していた。

Xは、2012年11月13日午後9時頃、本件携帯電話の電子マネーを用いてタクシー料金を支払った。その後、午後11時頃までバーで飲食した後、a駅の自動改札を通過しようとして本件携帯電話がないことに気づいた。そこで、Xは、当日前記バーに連絡し、翌14日朝に再

事案の概要

紛失した携帯電話が不正使用された場合の電子マネーサービス提供業者の責任

本件は、スマートフォン(以下、携帯電話)を紛失したことにより約290万円分の電子

マネーを不正使用された消費者が、クレジットカード会社と電子マネーサービス提供業

者に対して、不当利得返還請求等をした事例である。

裁判所は、電子マネーサービス提供業者が、会員に対して携帯電話の紛失時に取るべ

き措置をホームページで周知していなかったことについての注意義務違反を認め、同業

者に対し約225万円の支払いを命じた(過失相殺3割)。

事業者は携帯電話紛失時に消費者のとるべき行動を告知すべき、とした点において意

義のある判決である。

( 東京高裁平成 29 年1月 18 日判決、

『金融法務事情』2069号74ページ掲載)

原告・控訴人:X(消費者)被告・被控訴人:�Y1(クレジットカード会社)、�

�Y2(電子マネーサービス提供業者)関係者:A(携帯電話会社)

Page 35: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 34

暮らしの判例ているものといえる。しかし、これらによる安全性の確保にまったく問題がないとまではいえず、登録携帯電話の紛失等に伴い第三者が本件サービスを不正に利用するおそれが皆無とはいえないことは十分に想定し得るところである。また、認定事実および本件登録会員規約、本件利用約款および当時のホームページの記載内容によれば、本件サービスは、登録携帯電話について携帯電話会社との通信サービス契約を停止または解除しても利用することができないことはなく、Y2は、そのことを認識していたと認められる。他方、携帯電話は、携帯電話会社が提供する通信サービスを利用することを前提に、新たな機能の追加、データの更新等が可能となるとの認識が一般的であるといえる。本件サービスにおけるチャージについても、同様の認識が一般的であると推認されるから、登録会員の中に、登録携帯電話の紛失等が生じても、携帯電話の通信サービスの利用を停止すれば、少なくとも新たにチャージされることはないと考える者が現れ得ることは、特に想定困難であるとはいえない。

こうした事情に加え、本件サービスの技術的専門性をも考慮すれば、本件サービスを提供するY2においては、登録携帯電話の紛失等が生じた場合に、本件サービスの不正利用を防止するため、登録会員がとるべき措置について適切に約款等で規定し、これを周知する注意義務があると認めるのが相当である。

ところが、Y2は、2012年11月当時、オートチャージの利用を設定していない登録携帯電話を紛失等した場合について、Y2への通知そのほかの何らかの手続きを必須とする旨の記載をそのホームページにしておらず、また、本件登録会員規約にも本件利用約款にも、Y2に通知することを要するとする旨の定めやその他の手続きに関する定めを置いていなかった。登録携帯電話の紛失等が生じたときに登録会員がとるべき措置として最も簡明で確実であるのは、紛失等した登録携帯電話による本件サービスの

が届いてこれを確認した時点においては、本件携帯電話の不正使用による本件電子マネーのチャージに気づかなかった。しかし、同年12月20日発行の利用明細書に記載された明細の大部分が本件電子マネーのチャージだったことから、Xは、不正使用に気づき、2013年1月10日、Y2に連絡して電子マネーサービスの利用停止措置をとった。Y1から前記電子マネーの購入に係

かかるクレジットカード利用代金の請求

を受けたXは、Y1に対し、前記不正使用に係る代金を請求しないよう申し入れた。しかし、Y1がこれを拒絶したため、Xは、いわゆるブラックリストに登載されることを回避するために、2013年2月18日、Y1に請求額を振り込み、これにより、前記不正使用に係る代金291万9000円の支払いを終えた。

Xは、主位的に、Yらが前記291万9000円について不当利得している旨主張し、不当利得返還請求権に基づき、Yら各自に対して、291万円と遅延損害金の支払いを求めた。また、予備的に、Yらには前記電子マネーの不正購入についてそれぞれ注意義務違反がある旨主張し、共同不法行為に基づき、Yらに対して、連帯して上記291万9000円に弁護士費用相当額29万1000円を加えた321万円と遅延損害金の支払いを求めた。

原審でXの請求が認められなかったためXが控訴したのが本件である。

裁判所は、次のように判断してY2に約225万円と遅延損害金の支払いを命じた。●クレジットカード会社(Y1)に対する請求は

棄却。●電子マネーサービス提供業者(Y2)に対する

請求について登録携帯電話による本件サービスの利用にお

いては、登録携帯電話の画面ロック機能のほか、本件サービスの利用のために登録会員が登録したパスワードによって、その安全性が確保され

理 由

Page 36: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 35

暮らしの判例決の前記の指摘は妥当なものと考えられる。

ただし、3割の過失相殺をしている。その理由として ⑴利用明細が送付された際に直ちに確認して不正使用に気づき電子マネーサービス提供業者への手続きをしていれば被害の拡大は防止できたこと、⑵本件の元々の発端は、紛失等に十分注意すべき本件携帯電話をXが無くしたことによるものであることなどの2点を指摘している。⑴については「受領後直ちに内容を確認すべき義務があったとまではいえないが、Xがより早くこれを確認していれば、多少なりとも被害の拡大は防止することができたといえる」としている。

携帯電話の紛失は日常生活でもしばしば起こることであり、また利用明細を確認する習慣のない消費者も少なくないように思われる。本判決は、携帯電話を紛失した際には携帯電話会社だけでなく電子マネーサービス提供業者にも紛失届を出す必要があること、また利用明細は必ず確認するようにすべきことが、消費者啓発には重要であるという点についても示している。

本件訴訟提起後、ホームページの表示は改められた。したがって、同様の被害にあったとしても消費者が本判決と同様の救済が受けられるわけではない点に留意する必要がある。

なお、消費者は携帯電話を紛失した際には通信事業者に届け出をして通信を停止すれば、すべての機能を停止できると認識している場合が少なくない。そこで、携帯電話会社には、消費者が紛失届を出した場合には、通信契約以外の契約を利用している場合(本件のような電子マネーの利用だけでなく、さまざまなオプションも含めて)には、個別の契約相手にも紛失の届け出とサービスの停止手続きをするよう助言することを望みたい。

利用を停止することといえるが、そのためには、登録携帯電話の紛失等をY2が認識する必要があるといえる。しかし、その契機となるY2への通知について、特段の規定も周知もされず、また、その他の安全確保の措置が規定ないし周知されていたことをうかがわせる証拠もない。

加えて、当時のホームページには、紛失等した登録携帯電話の事業者との通信サービスを停止もしくは解約すれば、本件電子マネーの新たなチャージを防止することができるという認識が誤りであることを示唆する記載は見当たらず、本件登録会員規約や本件利用約款に、その趣旨が明確に規定されているともいえない。

上記の事情を考慮すれば、少なくとも、2012年11月当時におけるオートチャージの利用の設定がされていない登録携帯電話の紛失等について、Y2には、上記注意義務の違反があると認めるのが相当である。

本件は携帯電話に電子マネーをチャージできるサービスを利用していた消費者が携帯電話を紛失し、携帯電話会社と警察に届け出をしたものの、電子マネーサービス提供業者には届け出をしなかったため、紛失の届け出と携帯電話の使用停止手続後も151回にわたり(紛失後に不正使用した人物がオートチャージの手続きを取っていた)合計291万9000円もの不正使用をされてしまったという事案である。

判決では、電子マネーサービス提供業者が、消費者に対して、携帯電話会社に紛失届と使用停止の手続きをしただけでは電子マネーの不正使用を停止できないこと、電子マネーサービス提供業者にも同様の届け出が必要であることをまったく告知していなかった点に過失があるものとして不法行為による損害賠償を命じた。その前提として、一般消費者の認識は、携帯電話を紛失した場合には携帯電話会社に紛失届と使用停止の手続きを取ればすべての不正使用を防止できるというものであると指摘している。判

解 説

東京地裁平成28年8月30日判決(本件原審判決、『金融法務事情』2069号86ページ)

参考判例

Page 37: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 36

誌上法学講座 新時代の消費者契約法を学ぶ

第 回

契約取消権(4条)(4)

6

宮下 修一 Miyashita Shuichi 中央大学法科大学院教授博士(法学)。専門は民法・消費者法。消費者庁「消費者契約法の運用状況に関する検討会」委員等を歴任。

から、立法化は見送られることになりました。ただ、その後も「つけ込み型不当勧誘」の立法

の必要性がしばしば説かれ、具体的な立法提言もしばしばなされてきました。このような状況を受けて、内閣府消費者委員会に設置された消費者契約法専門調査会では、「合理的な判断をすることができない事情を利用した契約の締結」がなされた場合に契約取消権を付与することの是非について議論が続けられてきたのです*1。

消費者契約法専門調査会における議論の結果、合理的な判断をすることができない事情を利用して締結された契約の効力を否定する規定を設ける必要性があること自体については意見の一致をみました。しかし、「合理的な判断をすることができない事情」という消費者側の主観的事情を要件とすることについては、抽象的で不明確であるという強い批判がなされました。そこで、2015年に公表された同専門調査会

の報告書(以下、2015年報告書)では、できる限り客観的な要件を明確に定めて事業者の予見可能性を確保するということを前提として、「量」という客観的に算定可能な基準によって判断可能な「過量契約」がなされた場合に契約取消権を付与することが提言されました。この提言を踏まえて、2016年の消費者契約法改正(以下、

2016年改正による過量契約の規定(法4条4項)の新設

これまで3回にわたって検討してきた消費者契約法(以下、法)4条は、不当勧誘がなされた結果として締結された契約の取消しを定めた規定です。不当勧誘と一口に言ってもさまざまな形態のものがありますが、その中で、近時、特に注目を集めているのが「合理的な判断をすることができない事情を利用した契約の締結」です。消費者契約においては、判断力や知識・経験

が不足している状況、精神的に不安定な状況、緊密で頼みを断りにくい人間関係、経済的に窮迫して相手方に依存している状況など、消費者が合理的な判断をすることができない事情を利用して勧誘が行われた結果、契約が締結されるケースがしばしば存在します。このような場合には、いわば、消費者が十分な判断ができない状況に「つけ込む」かたちで不当な勧誘(「つけ込み型不当勧誘」)が行われているといえます(「状況の濫

らん用」型の不当勧誘と呼ばれることもあり

ます)。実は、「つけ込み型不当勧誘」によって契約が

締結された場合にその効力を失わせる規定を設けるべきではないかという議論は、2000年の立法前からなされていました。しかしながら、その意義が必ずしも明らかではなく、取引を著しく不安定なものとするおそれがある等の理由

合理的な判断をすることができない事情を利用した契約の締結

*1 �議論の経緯や立法提言については、宮下修一「合理的な判断をすることができない契約の締結」『法律時報』88巻12号(2016年)37~43ページ。

Page 38: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 37

誌上法学講座誌上法学講座

う「過量」が意味する内容、すなわち③と③’の要件を明らかにする必要があります。ところが、実は「過量」であるかどうかの判断は、そう簡単なことではありません。前段で「過量」であるかどうかの判断の基礎と

なるのは、③消費者契約の目的となるものの分量・回数・期間(分量等)です。消費者庁の『逐条解説』*2では、「消費者契約の目的となるもの」として挙げられている「物品、権利、役務」は例示であって、不動産や電気などの無体物もここに含まれるとされています。問題は、この「分量等」が④当該消費者にとっ

ての「通常の分量等」を超えているかどうかという判断の基準です。『逐条解説』では、「通常の分量等」がどの程度のものかは、⒜契約の目的となるものの内容・取引条件、⒝勧誘時の消費者の生活状況、⒞これについての当該消費者の認識を総合的に考慮したうえで、一般的・平均的消費者を基準として社会通念をもとに規範的に判断されるとしています。非常に分かりにくいので、順を追って丁寧に検討していきます。『逐条解説』では、⒜契約の目的となるものの

「内容」とは、性質、性能・機能・効能、重量・大きさ、用途等が考えられるとして、以下のような例が挙げられています。例えば、生鮮食品のようにすぐに消費しないと無価値になってしまうものや布団のように一人の消費者が通常必要とする量が限られているものは、当該消費者にとっての「通常の分量等」が少なくなるので過量性が認められやすくなります。これに対して、缶詰商品のように比較的長期の保存が前提とされるものや金融商品のようにその保有自体を目的として購入されるものである場合には、当該消費者にとっての「通常の分量等」が多くなるので、結果的に過量性が認められにくくなります。また、「取引条件」とは、価格、代金支払時期、景品類提供の有無等を指します。安いものだとたくさん買うことはあっても、高いものはあまり

2016年改正)で新設されたのが、過量契約取消権を定めた4条4項です。

法4条4項は、2つの内容から構成されています。まず4項前段は、1回の取引が「過量」であった契約を想定したもので、次の①~⑦をその行使の要件として定めています。事業者が、①「消費者契約」の②「勧誘」に際して、③物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの分量・回数・期間(分量等)が、④当該消費者にとっての通常の分量等(⒜契約の目的となるものの内容・取引条件+⒝勧誘時の消費者の生活状況+⒞これについての当該消費者の認識に照らして通常想定される分量等)を著しく超えることを⑤知っていた場合(=認識していた場合)において、消費者が、⑥「②」の「勧誘」によって申込みまたは承諾の意思表示を行ったこと(勧誘と意思表示の因果関係)。さらに、取消権を行使するためには、⑦取消しの意思表示をすることが必要です(民法123条)。次に4項後段は、同種のものを次々と購入さ

せられる、いわゆる「次々販売」を想定したものです。ここでは上記の①・②の要件を満たしたうえで、③’既に当該消費者契約の目的となるものと同種の契約(同種契約)を締結しており、両契約の分量等を合算したものが、当該消費者にとっての④通常の分量を著しく超えることが必要となります(⑤~⑦の要件を満たすことも必要です)。このうち、①・⑦については前回までの連載

で検討してきた内容と共通しますので、②~⑥(③’を含む)について検討することにします。

法4条4項は「過量契約」があった場合の契約取消権を定める規定ですから、まずはここでい

法4条4項の要件

「過量」性⑴―1回の契約での「過量」性判断

*2 �消費者庁「消費者契約法逐条解説」�http://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/consumer_contract_act/annotations/

Page 39: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 38

誌上法学講座誌上法学講座

ムパーティーだと考えて大量の食材を購入したところ、実はそれが開催されるのは1カ月後であったという場合には、勘違いではあってもそうした「一時的な生活の状況」が生じるのは翌日であるという認識が当該消費者にあったわけです。したがって、見た目は「通常の分量等」を超えているように見えたとしても、その範囲内であったと判断される可能性が高くなります。これに対して、認知症の高齢者がまったくホームパーティーの予定がないにもかかわらず、それがあると思い込んで大量の食材を購入した場合には、当該高齢者にはそもそもそれを必要とする「一時的な生活の状況」は存在せず、かつ、それに関する認識もないので、「通常の分量等」の判断に際して上記のような「思い込み」は考慮されません。その結果、「通常の分量等」を超えていると判断される可能性が高くなります。もっとも、『逐条解説』でも指摘されているように、実際に契約を取り消すためには後述する「事業者の認識」が必要となります。さらに、契約の取消しが認められるためには、

単に「通常の分量等」を超えているというだけではなく、「著しく」超える必要があります。もっとも『逐条解説』では、「著しく」超えているかどうかは、前述した4つの要素を考慮したうえで、一般的・平均的な消費者を基準として「社会通念」をもとに「規範的」に判断されるとされています。ここでいう「社会通念」とは、個別の消費者ではなく、一般的・平均的な消費者であればどのように行動するかという観点から判断されることになりますが、その内容は対象となる取引の形態や当事者の置かれた状況によって異なることになるでしょう。また、「規範的」とは、判断の基準が特定されておらず、個別の事情を踏まえて判断するという意味合いでとらえられます。いずれも、消費者が容易に判断できるものではなく、このままだと、実際の法適用を難しくする可能性があります。この点については、特定商取引法上の過量販売解除権との関係も踏

買わないのが「通常」でしょう。そこで、『逐条解説』では、通常は1つ100円の物品よりも10万円の物品のほうが当該消費者にとっての「通常の分量等」が少なくなり、過量性が認められやすくなると解かれています。もっとも、前記のうち「金融商品」については、

事業者が、消費者にとって本来取引可能な金額を超えた「過当取引」を行わせるケースが散見されます。したがって単に「金融商品」であるというだけで「通常の分量等」が多くなると判断することは早計であり、その「金融商品」の金額や内容を精査したうえで適正な「通常の分量等」を判断する必要があるといえるでしょう。次に、『逐条解説』では、⒝勧誘時の消費者の

生活状況とは、当該消費者の世帯構成人数、職業、交友関係、趣味・嗜

し好こう、消費性向等の日常

的な生活の状況のほか、たまたま友人や親戚が家に遊びに来るとか、お世話になった近所の知人にお礼の品を配る目的がある等の一時的な生活の状況も含まれるとされています。ここは『逐条解説』を読んでもやや分かりにく

いところですが、例えば、食材を購入する場合を例にして考えてみましょう。前半の「日常的な生活の状況」において過量であるかどうかは、当該消費者が毎日の日常生活においてどの程度の食材を購入しているかをベースに考えることになります。これに対して、後半の「一時的な生活の状況」において過量であるかどうかは、例えばホームパーティーを開催するために一度に多量の食材を購入する場合などのように、日常生活では購入しない量を購入しなければならない事情が当該消費者にあったかどうかで判断されることになります。さらに、このような判断に際して重要になる

のが、⒞これについての当該消費者の認識です。これも分かりにくいので、『逐条解説』で挙げられている事例ではないのですが、それを踏まえてもう少しかみ砕いたかたちで考えてみましょう。通常の判断力を持つ消費者が、翌日がホー

Page 40: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 39

誌上法学講座誌上法学講座

「同種契約」自体に問題がある場合には、公序良俗違反(民法90条)による無効等が認められる可能性があることを忘れてはなりません。

②「勧誘」については、連載第3回でも検討しました。ただ『逐条解説』によれば、ここでいう「勧誘」は、「過量な内容の消費者契約の締結についての勧誘」を指すものであって、結果的に過量な内容の契約であっても勧誘自体は適切な分量等の勧誘であった場合には、前記の「勧誘」には当たらないとされています。具体例として、事業者が消費者の好みに合う着物を1枚ずつ示しながら勧誘したところ、消費者が決められないから全部購入すると意思表示をした場合が挙げられています。もっとも、ここではあくまで上述した要件④

⒞の消費者の認識がポイントとなっている(消費者が通常の分量等に比べて過量であることを認識している)と考えられます。したがって、単に1枚ずつ勧めたというような勧誘の方法だけで、ここでいう「勧誘」かどうかが決められるわけではない点に留意する必要があります。

法4条4項では、「過量」性が認められるだけではなく、事業者がそれを⑤知っていた(=認識していた)ことが要件とされています。『逐条解説』によると、その理由は、取消しが認められる根拠が、消費者に合理的な判断をすることができない事情があることを、事業者が利用して契約を締結させた点にあると説明されています。また、ここでいう「知っていた」とは、一般的・平均的な消費者を基準とした規範的な評価であり、その評価の基礎となる事実を認識していたことを指すとされています。そのため、事業者が、基礎となる事実はすべて認識したうえでその評価を誤ったとしても、過量であることについて「知らなかった」(=認識していなかっ

事業者による「勧誘」

事業者の認識

まえて、後ほど再度検討したいと思います。

前述したように、「次々販売」を念頭に置いた法4条4項後段は、既に「同種契約」を締結しており、「同種契約」と新たな消費者契約の双方の分量等を合算したものを「過量」であるかどうかの判断の基礎に据えています。『逐条解説』によれば、「同種契約」であるかどうかは、過量性の判断対象となる分量等に合算されるべきかどうか、すなわち、その目的となるものの種類、性質、用途等に照らして、別の種類のものとして並行して給付を受けることが通常行われているかどうかによって判断されるとされています。ここも解説の意図が非常に読み取りにくいのですが、例えば、商品Aの売買契約と商品Bの売買契約を続けて締結したとしても、AとBが種類・性質・用途を考えるとまったく別の商品であってそれぞれ別個に購入するのが一般的(通常)であるといえるのであれば、これら2つの契約は「同種契約」とはいえないということになるのでしょう。なお、「同種」であるかどうかについて、例え

ば、シャツであってもワイシャツかポロシャツかTシャツかで区別する必要があるというように厳密にとらえるべきであるという見解も示されています。しかしここではあくまで「同種」であれば足りるのであって、厳密に種類が一致するということまでは求めるべきではありません。例えば、着物と帯は厳密にいえば種類は異なりますが、どちらも身に着ける「衣類」であるという点では種類、性質、用途は同じですから、「同種」のものと判断すべきでしょう。ところで、『逐条解説』では、取消しの対象と

なるのは、既に締結していた同種契約ではなく今回の契約で過量になる新たな消費者契約です。もっとも、法4条4項に基づく取消しの対象となるのは確かに「当該消費者契約」ですが、

「過量」性⑵�―複数契約(次々販売)での「過量」性判断

Page 41: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

2018.3 40

誌上法学講座誌上法学講座

た)と判断されることにはなりません。具体例としては、事業者が、過量であるとは認識はしていないものの、消費者にはその日に誰かが来訪するような特別な予定がないことを知りながら20人分の生鮮食品を購入するように勧誘した場合が挙げられています。もっとも、ここでいう「認識」の立証は、消費

者にとっては困難であることが予想されます。そこで、実際の法運用にあたっては、事業者の勧誘により通常の分量等を超える取引がなされた場合には、第4回の連載で検討した法4条2項の「故意」要件と同様に事業者の「認識」の存在を事実上推定する等の対応をすることが考えられます。将来的には、法文上もこのような推定を行う旨を明記すべきでしょう。

法4条4項は、さらに⑥「②」の勧誘と意思表示の因果関係を要件とします。『逐条解説』によれば、事業者が「過量」であることについて「悪意」で勧誘をしたとしても、消費者がそれによって契約を締結したわけではない場合には、前記の因果関係が否定されることになります。この点については、例えば、事業者が過去の

購入履歴を参照して過量性を認識した場合であっても、新たな消費者契約の勧誘に際して消費者に過量契約である旨を説明し、契約締結の再考を促したにもかかわらず、なお消費者が購入の意思表示をしたときは、上記の因果関係が切断されるという見解も示されています。確かに、一般論としてはそのようにいえるで

しょう。ただし、そのような場合には、消費者が実際に事業者から説明を受けて判断をすることが必要です。例えば、「同種契約をしていてもこの契約を締結します」という趣旨の記載のある文書を事業者が用意して、消費者にそのような説明を十分にしないままその記載欄のチェックをさせたり、文書に署名・押印をさせたりしたとしても、再度の購入の意思表示をし

勧誘と意思表示との因果関係

たということはできません。

ところで、法4条4項が新設される以前から、特定商取引法9条の2では同様に過量の取引がなされる場合を念頭に置いて過量販売解除権が用意されています。もっとも、過量販売解除権は、その対象範囲が、訪問販売および2016年の特定商取引法改正で追加された電話勧誘販売という2つの取引に限定されています。その意味では、2016年改正により、消費者取引一般を対象とする過量契約取消権の規定が新設されたのは、大きな意味があります。もっとも、特定商取引法のほうが有利な点も

あります。特定商取引法では、顧客は、日常生活において通常必要とされる分量等を著しく超えるという「過量」性を立証すれば、契約を解除することができます(9条の2第1項本文)。これに対して「過量」性が否定されるような「当該契約の締結を必要とする特別の事情があったとき」には解除権の行使が否定されますが、そのことは事業者が主張・立証する必要があります。ところが消費者契約法では、特定商取引法上

の「特別の事情」に当たる事情は、前記④の⒜~⒞として消費者側が主張・立証すべき要件とされています。立法に当たっては特定商取引法の規定が参照されたようですが、前記の事情の主張・立証を消費者が行わなければならないという点で、同法と異なる規律となったのは大変残念でなりません。将来的には、特定商取引法と同様のかたちに修正することが望ましいのですが、当面は、④の⒜~⒞の事情については、一定の事情を主張・立証すれば完全な主張・立証がなくても事実上の推定を及ぼす等の対応をすることが望ましいといえるでしょう。なお、過量取引以外の「つけ込み型不当勧誘」

への対応については、紙幅が尽きましたので次回の連載で検討することにします。

過量契約と特定商取引法上の過量販売解除権との関係

Page 42: 特集 広告と消費者トラブル · 2018. 3. 9. · 特集. 広告と消費者トラブル. 特集1 消費者の誤認防止のためのコンプライアンス−適正な広告表示に向けて−

編集・発行