直接投資受入動向 - jbic...一方、2009...

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4 直接投資受入動向 37 直接投資受入動向 外国直接投資(FDI)受入動向 アジア通貨危機から民主化への移行にかけての 1998 年から 2004 年の期間、インドネシアへの 外国直接投資(FDI)は低迷していた。しかし、その後の政治の安定化や堅調な経済成長、 FTA 進に象徴される対外開放政策への期待を反映し、自動車や電気電子分野を中心に FDI は増加に転 じた。2008 年の世界金融危機の影響で 2009 年の FDI 純流入額は前年を大きく下回ったものの、 同年以外は、 2014 年(218 億ドル)まで増加基調で推移した。 2015 年および 2016 年の両年は FDI の純流入は大幅に減少し、2015 年は 198 憶ドル、次いで 2016 年は 45 億ドルと過去 10 年間の最 低水準に落ち込んだ。その後、 2017 年には 205 億ドルに回復し、 2018 年も 200 億ドルと好調を維 持している実行ベースは 2017 年に 322 億ドルと過去最高を記録し、2018 年も 293 億ドルと好調 である。 尚、図表 4-1 の外国直接投資受入状況の統計値は図表 4-3 の「業種別にみた直接投資受入状況(実 行ベース)」の投資額と異なっているが、これは図表 4-1 がインドネシアからの投資の引き上げを 相殺したネットベース(純流入)のデータであるのに対し、図表 4-3 はインドネシアへの直接投 資のグロスベースの統計であるためである。 図表 4-1 インドネシアの外国直接投資受入状況(国際収支ベース) (出所)世界銀行、インドネシア中央銀行より作成 1.1 1.5 1.8 2.0 2.1 4.3 6.2 4.7 -0.2 -1.9 -4.6 -3.0 0.1 -0.6 1.9 8.3 4.9 6.9 9.3 4.9 15.3 20.6 21.2 23.3 25.1 19.8 4.5 20.5 20.0 -5 0 5 10 15 20 25 30 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 10億ドル) FDI 純流入額

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Page 1: 直接投資受入動向 - JBIC...一方、2009 年以降の直接投資(実行ベース)の推移をみると、2009~2010 年は世界金融危機の 影響で年間の投資金額は10

第 4 章 直接投資受入動向

37

直接投資受入動向

外国直接投資(FDI)受入動向

アジア通貨危機から民主化への移行にかけての 1998 年から 2004 年の期間、インドネシアへの

外国直接投資(FDI)は低迷していた。しかし、その後の政治の安定化や堅調な経済成長、FTA 推

進に象徴される対外開放政策への期待を反映し、自動車や電気電子分野を中心に FDI は増加に転

じた。2008 年の世界金融危機の影響で 2009 年の FDI 純流入額は前年を大きく下回ったものの、

同年以外は、2014 年(218 億ドル)まで増加基調で推移した。2015 年および 2016 年の両年は FDIの純流入は大幅に減少し、2015 年は 198 憶ドル、次いで 2016 年は 45 億ドルと過去 10 年間の最

低水準に落ち込んだ。その後、2017 年には 205 億ドルに回復し、2018 年も 200 億ドルと好調を維

持している実行ベースは 2017 年に 322 億ドルと過去最高を記録し、2018 年も 293 億ドルと好調

である。

尚、図表 4-1 の外国直接投資受入状況の統計値は図表 4-3 の「業種別にみた直接投資受入状況(実

行ベース)」の投資額と異なっているが、これは図表 4-1 がインドネシアからの投資の引き上げを

相殺したネットベース(純流入)のデータであるのに対し、図表 4-3 はインドネシアへの直接投

資のグロスベースの統計であるためである。

図表 4-1 インドネシアの外国直接投資受入状況(国際収支ベース)

(出所)世界銀行、インドネシア中央銀行より作成

1.1 1.5 1.8 2.0 2.1

4.3

6.2

4.7

-0.2 -1.9

-4.6

-3.0

0.1

-0.6

1.9

8.3

4.9

6.9

9.3

4.9

15.3

20.6 21.2

23.3

25.1

19.8

4.5

20.5 20.0

-5

0

5

10

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20

25

30

90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18

(10億ドル)

FDI 純流入額

Page 2: 直接投資受入動向 - JBIC...一方、2009 年以降の直接投資(実行ベース)の推移をみると、2009~2010 年は世界金融危機の 影響で年間の投資金額は10

インドネシアの投資環境

38

国別受入動向

インドネシア投資調整庁(BKPM)の統計に基づき、海外からインドネシアへの外国直接投資

額(実行ベース)を投資国別にみると、2018 年の最大投資国はシンガポールで、次いで日本、中

国となっている(図表 4-2)。日本は輸送機器(四輪・二輪・同部品)分野を中心に 2013 年の最大

投資国であったが、2014 年以降は同分野の投資一巡を受け、最大投資国の座を他国に譲っている。

例えば、2015 年にはマレーシアがアクシアタ・グループによる第 4 世代(4G)通信サービス関連

で投資を大幅に伸ばし、日本を上回った。中国の拡大も顕著で、2015 年までは数億ドルであったの

が、2016 年に 267 億ドルに急増し、2018 年も 238 億ドルと好調を維持している。今後もインフラ

分野等を含めた投資規模の増加が予想されている。

2009 年から 2018 年の 10 年間の累計投資額は、2,497 億ドルに達している。このうち日本から

の投資額は 310 憶ドルで、全体の 12%を占め、投資国別内訳ではシンガポールの 598 億ドルに次

ぐ第 2 位である。シンガポールからの投資の多くはインドネシア資本の資金還流や、日系を含む

各国企業の在シンガポールアジア統括拠点によるインドネシア投資と考えられており、これらを

勘案すれば、日本が実質的なインドネシアへの最大の投資国と言える。

図表 4-2 インドネシアの直接投資受入状況(国別、実行ベース)

(出所)インドネシア投資調整庁(BKPM)、CEIC より作成

シンガポール,

31.4%

日本, 16.9%

中国, 8.1%

香港, 6.9%マレーシア,

6.1%

韓国, 5.5%

米国, 4.2%

バージン諸島,

3.6%

オランダ, 3.2%

オーストラリア,

2.0%その他, 12.3%

2018年

293億ドル

シンガポール,

24.0%

日本, 12.4%

オランダ, 6.0%

韓国, 5.4%米国, 5.1%マレーシア,

4.6%

中国, 4.3%

香港, 3.8%

バージン諸島,

3.4%

英国, 2.6%

その他, 28.6%

2009~2018年

累計

2,497億ドル

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第 4 章 直接投資受入動向

39

業種別受入動向

BKPM 統計による 1990 年以降のインドネシアへの外国直接投資の業種別内訳の推移は図表 4-3の通りである。累計(1990~2018 年)では製造業が全体の 52%を占めている。製造業では、食品

(構成比 12%)や化学・医薬産業(同 10%)、ゴム・プラスチック(同 8%)が中心であるが、

近年は自動車産業も伸びている。2018 年単年では製造業が全体の 43%を占め、その内訳は化学・

医薬 8%、食品 7%、紙・印刷 3%等となっている。非製造業では、鉱業が 14%、運輸・倉庫・通

信業が 12%等となっている。

図表 4-3 業種別にみた直接投資受入状況(実行ベース)

(出所)インドネシア投資調整庁(BKPM)、CEIC より作成

日本からインドネシアへの直接投資

日本企業のインドネシア進出が本格化したのは 1960 年代に入ってからである。1960~1970 年

代は繊維と家電メーカーの進出が多く、1967 年の外国投資法で外資への優遇措置が規定された後、

進出に拍車がかかった。プラザ合意後の 1980 年代半ば以降は、インドネシア国内向けの自動車や

輸出向けの家電など製造業を中心に幅広い分野で直接投資が積極的に行われた。さらに 1994 年に

は外資規制が緩和されたことを契機に日系資本 100%での進出が増加した。しかし、1998 年のア

ジア通貨危機時にはインドネシア向け投資が引き揚げられ、2004 年までインドネシアへの純投資

はマイナスで推移した。

一方、2009 年以降の直接投資(実行ベース)の推移をみると、2009~2010 年は世界金融危機の

影響で年間の投資金額は 10 億ドル未満であったが、インドネシア経済の底堅い成長を背景に日本

からの投資は増え、2012~2015 年は年間 25 億ドル程度となった(2013 年は 47 億ドル)。更に 2016~2018 年には同 50 億ドル前後となる等、基調としては増加傾向にある(図表 4-4)。

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公益業・サービス業(左軸) 製造業(左軸) 農林水産業・鉱業(左軸) 製造業の比率(右軸)

(億ドル)

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インドネシアの投資環境

40

図表 4-4 日本からインドネシアへの直接投資流入推移(実行ベース)

(出所)インドネシア投資調整庁(BKPM)、CEIC より作成

日系企業のインドネシアに対する関心は、一時期に比べれば低下しているものの、依然として

高いと言える。2018 年 11 月に国際協力銀行が発表した『わが国製造業企業の海外事業展開に関

する調査報告―2018 年度海外直接投資アンケート調査結果(第 30 回)』では、インドネシアは、

中国、インド、タイ、ベトナムに続いて有望事業展開先国の第 5 位(得票率 30.4%)にランクさ

れている。2013 年の同調査でインドネシアの得票率は 44.9%と第 1 位だったが、順位は徐々に下

がっている。しかし、2018 年度調査でインドネシアを支持する回答企業の約 8 割(75.6%)が有

望理由として「現地マーケットの今後の成長性」を指摘しており、また第 2 位が「現地マーケッ

トの現状規模」(44.9%)と、引き続きインドネシアのマーケットが大きな魅力と捉えられている

ことが分かる。他方、インドネシアを有望としなかった理由で最も多かったのは「既に一定規模

の事業を行っておりこれ以上事業展開は考えていない」で、得票率は 33.6%であった。

7.1 7.1

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24.6

47.1

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2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

(億ドル)