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国内産および韓国産ハクサイキムチ中の乳酸菌叢の解析 誌名 誌名 近畿中国四国農業研究 = Kinki Chugoku Shikoku agricultural research ISSN ISSN 13476238 巻/号 巻/号 18 掲載ページ 掲載ページ p. 85-88 発行年月 発行年月 2011年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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国内産および韓国産ハクサイキムチ中の乳酸菌叢の解析

誌名誌名 近畿中国四国農業研究 = Kinki Chugoku Shikoku agricultural research

ISSNISSN 13476238

巻/号巻/号 18

掲載ページ掲載ページ p. 85-88

発行年月発行年月 2011年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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近畿中国四匡l農研 18 : 85 -88 (2011)

国内産および、韓国産ハクサイキムチ中の乳酸菌叢の解析

西岡 輝美 ・谷本 秀夫 ・橘田浩三 ・古川 真

大阪府環境農林水産総合研究所 583-0862羽曳野市尺度442

Analysis of Lactic Acid Microflora in Kimchi Products Made in J apan and Korea

Terumi NISHIOKA. Hideo T ANIMOTO. Koji KITSUDA and Makoto FURUKA WA

Research Institute of Environment, Agriculture and Fisheries, Osaka Prefectural Government.

Ha bikino, Osaka 583 -0862

Summary

This stlldy was conducted to elucidate the lactic acid microflora in 12 commercially produced Chinese cabbage

kimchis mad巴 in]apan and Korea.

1. Multiplex PCR assay for Leuconostoc species showed that Le. lactis existed in all the investigated products.

The existence of Le. citreum and Le. mesenteroides, Le. carnosum was found in most prodllcts. Le. gelidum

was found in three products made in Korea, though it was not found in any products made in ]apan.

2 . Multiplex PCR targ巴tedfor Lactobacillus species showed the existenc巴 ofLb. par司caseiand Lb. plantarum in

several prodllcts

3. PCR-DGGE analysis and some intense bands seqllencing showed that Lactococcus lactis and Le. m巴senteroides

existed in the products made in ]apan. and that Weissella koreensis existed in those made in Korea.

4. It was supposed that the species found in Korea products wOllld have grown in the fermentation process at

low temperature

近年の激辛ブームや健康志向の影響,さらには韓国料

理への強い関心から,韓同特有の発酵食品であるキムチ

の市場規模は約700億円にのぼり M,キムチは日本人の

日常食にとりこまれつつある 叫.これらは韓国または中

国から輸入されているほか,わが国においても生産量は

i浅支i漬責類を上回る約2幻l万tにのぽる 14吹l

i漬責物の全生産量の 2割以上を占める量でで、ある.

キムチは上述の通り発酵食品であり,乳酸菌が発酵に

重要な役割を果たす.乳酸菌はキムチを熟成させ,その

味を酸味へ導く ー方,雑菌の生育を抑える働きも果た

す16) ただし,日本で製造されているキムチの多くはハ

クサイあるいはその浅漬にタレを混ぜて製造される促成

漬物であり,殆ど熟成されていない 4. il また,韓国

(Received Oct. 28, 2010 : Accepted Dec. 6, 2010)

の製品で微生物叢が輿なり,それが風味や保存性に影響

を与えていると考えられる.実際に日本と韓国において

m・販しているキムチを比較した韓ら け は品質や官能検

査結果に差をみとめている.本報で、は国内産または韓国

産の市販のハクサイキムチを用いてmultiplexPCRおよ

びPCR-DGGEを行い,製品聞の微生物叢,なかでも乳

酸菌叢の差異を明らかにした.

なお,本研究は,農林水産省委託プロジェクト「食

品・農産物の表示の信頼'性確保と機能性解析のための基

盤技術の開発」の一部として実施した.

1 材料および方法

でキムチに用いられるハクサイは組織が便く,日本のハ 供試材料として市販のハクサイキムチ(国内産 8種類

クサイのように軟らかくないとされる 7) このような製 および、韓国産 4種類)を購入した.ハクサイキムチ中の

造法や原材料の違いによって,キムチは国内産と韓国産 微生物を分離抽出するため責液およびハクサイキムチ

平成22年10月28日受領,平成22'"ド12月 6日受理

約 3g ~こ0.85% NaC17J<i容液30mlを添加して混合後, 30

秒間の超音波処理を行った.混合溶液を i慮紙

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86 近畿中国四国農業研究第18号平成23年 3月

(Advantec No.lOU で吸引j慮、過してハクサイやトウガラ

シ等の原材料の野菜を取り除いた後遠心分離機で微生物

を集菌し, ISOPLANT (ニッポンジーン)によって

DNAを抽出した.得られたDNAは,乳酸菌をターゲツ

トとするmultiplexPCRまたはPCR-DGGEに供し,微生

物叢を検討した.

multiplex PCRでは,Leuconostoc属の菌種について

LeeらlQ)の方法に従ってプライマー 5組;Lcit. Lmes.

Lcar. Lgel, Llacを用いた.またLactobacillus属について,

Songら13)の方法に従って,プライマー16種を用いて 2

段階のPCRによって菌種を調べた.この際,Leuconostoc

属検出用のプライマー 3組 (Lcit, Lmes. Lcar) を用い

て乳酸菌の検出に最適なmultiplexPCRの鋳型DNA量を

検討し,最も多くのバンドが検出された DI¥A量30

ng/30~d .反応i夜で乳酸菌叢の比較を行った.

PCR-DGGEはLopezら川が乳酸菌種の識別に有効であ

ると報告しているプライマ-WLAB1,WLAB2を用い,

太養寺ら 1;;) の条件に従ってPCRを行った後, 8%アク

リルアミド, 30 -70%変成剤濃度勾配ゲルで,570

Cに

て4.5時間200V定圧で泳動を行った.得られた特徴的な

バンドは,塩基配列を解読しBLASTサーチによる相同

性検索によって菌極を推定した.

2 結果および考察

問内産 8種類および、韓国産 4種類の各市販キムチから

得られた DNAから各製品中の Leuconostoc属,

LactobacilIus属の菌種を調べた.その結果,Leucollostoc

属では,Le. citreum, Le. mesenteroides, Le. carnosum

が多くの調査製品でみられた(第 1図). Le. geJidumに

ついては囲内産製品ではバンドがみられなかったのに対

し,韓国産製品では 1製品を除きバンドが確認された

(第 2図).また,Le. Jactisは部l斎した全ての製品で存在

を示すバンドがみられた(第 2図). KimとChun8)は,

韓国の主要なメーカー 5社が製造するキムチ中の微生物

叢 を 調 査 し , よくみられる菌種の 1つと して Le.

geJidumを挙げている.本試験の結果は,この結果と 一

致するものであった.Le. geJidumは,真空包装された

牛肉から分離され,低温での増殖が可能であることが報

告されている 12) 韓国で商業的に製造されているキムチ

は一般に低温で熟成されている発酵製品で、あり 3),前述

のように多くが促成漬物である国内産製品と異なる.こ

れらのことが本試験での結果に大きく影響しており,

Le. gelidumは韓国産キムチの特徴的な乳酸菌の一つで

あると考えられた.

LactobaciJJus属では 1段階自のPCRで'350bpと

M jl J2 .J3 j4 J5 J6 J7 j8 Kl 1<2 1<3 1<4 M

1298bp

1150bp

318bp

第 1[~I Leucollostoc属検出用プライマーセット (Lcit,

Lmes, Lcar) を用いた市販ハクサイキムチの

multiplex PCR結果

]1-J8 囲内産製品 K1-K4 韓国産製品 M

100-bp DNA ladder

1298bp (Lcit) ; Leuconostoc citreum, 1150bp

(Lmes) ; Leuconostoc mesenteroides. 318bp

(Lcar) ; Leuconostoc carnosum

M J1 J2 J3 J4 J5 J6 .J7 J8 1<.1 K2 K3 K4 M

1290bp

742bp

第 2図 Leuconostoc属検,:1:',用プライマーセット (Lgel,

Llac)を用いた市販ハクサイキムチの

multiplex PCR結果

]1-]8 :国内産製品 K1-K4 :韓国産製品 M :

lOO-bp DNA ladder

1290bp (Lg巴J); Leuconostoc gelidum. 742bp

(Llac) ; Leuconostoc !actis

400bpのバンドがみられた 8製品で 2段階目のPCRを行

い 1製品でLb.paracasei, 7製品でLb.pJantarumの

存在が推定された(データ未掲載). LactobacilIus属は

Leuconostoc属と同様にキムチの発酵に重要な働きを果

たしており,なかでもLb.pJantarumはLε mesenteroides

と同じくキムチ中に存在する主な嫌気性菌の 1つとされ

る 1) このため,Lb. pJantarumは今回の調査製品中の

多くでキムチの発酵に関与していると考えられた.ただ

し,LactobaciJJus属においてLeuconostoc属のような国

内産,韓国産製品で、の一定の傾向はみられなかった.こ

れには,本試験で行ったmultiplexPCRで対象としてい

ないLb.brevis等のLactobaciJJus属がキムチに多数存在

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西岡・谷本・橋間・古111:国内iWおよび韓国産ハクサイ キムチ中の乳酸IMi叢の解析 87

すること 2. 8)が影響している可能性がある.今後さら

なる検討が必要である.

PCR-DGGEを行った結果,国内産製品韓国産製品

で異なる特徴的なバンドパターンがみられた(第 3図).

各製品に特徴的にみられたバンドのうち a~h につい

て塩基配列を決定し相同性検索を行った.その結果,

囲内産のキムチで特徴的な Iの位置のバンド(a. b)

はLactococcuslactis. IIのf立置のバン ド (d. e) は

Le. mesenteroidesと相向性が高かった(それぞ~'l98 -

99% (a. b). 99% (d. 巴)) .また,韓国産のキム

チで特徴的な. 1に近いWの位置にみられたバンド (c)

の塩基配列は.Weissella ci bariaと最も相向性が高く

(98%). 国内産でみられたLa.lactisとは具なるものと考

えられた.さらに韓国産製品の全てでみられた皿の位置

YEEEム

TEi

YEE24

第 3I~I PCR-DGGEによる市販ハクサイキムチの乳酸

菌叢の解析

Jl-J8 国内産製品 K1-K4 :韓国産製品

M:マーカー

I-N:特徴的なバンドパターン

a-h 相同性検索に用いたバンド

第1表 PCR-DGGEによって得られた各バンドの相同

性検索結果

DGGE Closest relative

Sequence Band No homology (%)

a Lactococcus Jactis 98

b Lactococcus Jactis 99

C FVeisseJla cibaria 98

d Lellconostoc mesenteroides 99

e Lellconostoc mesenteroides 99

Weissella koreensis 99

g Weissella koreensis 100

Weissella koreensis 100

のバンド U.g. h) は. Weisse1Ja koreensisと相向

性が高かった (99-100% (f. g. h)) (第 l表).

KimとChun8)は,韓国の主要メーカーのキムチを調査

し,調査製品のいずれにおいても We.koreensisがみら

れ,このうち 3社の製品では本菌が優占種であったと報

告している.本試験では,これらと同様の結果が得られ

た.We. koreensisは. -lOC. pH4.3以下の低温,酸性

条件下での増殖が可能であることが報告されている け.

このことから,低温で熟成が進められる韓国のキムチ 3)

で'Le.gelidumと同様に We.lwreensisが特徴的にみられ

たと考えられた.

ただし. PCR-DGGEで囲内産のキムチに特徴的と考

えられたLe.mesenteroidesは. multiplex PCRでは囲内

産,韓国産を問わず,多くの製品で存在が推定された菌

1重である.様々な菌穏:をターゲ ットとするPCR-DGGE

では群集構造の差異や増幅のバイアスなどによって検出

が難しかったのかもしれない.このため. PCR-DGGE

において国内産のキムチで特徴的なLa.lactisや斡国産の

製品で、特徴的な We.koreensisについても,それぞれを

ターゲットとするPCRなどによって詳細!な検討が必要と

考えられた.

IV 以上から,市販のハクサイキムチには,多くが促成I責

111 物とされる囲内産の製品も含め,様々な種類の乳酸閣が

存在する ことが確認された.また,今後の詳細な検討が

必要であるが,国内jまと韓国産では菌叢が異なり,特に

韓国産製品では低温での熟成によって増加すると考えら

れる特徴的な菌種が存在することが示唆された.

3 摘 要

囲内産または稼国産の市販のハクサイキムチ12種類

を用いて乳酸菌叢を調査した.

1. Leuconostoc属を対象とするmultiplexPCRの結

果,調査した全ての製品で、Le.lactisの存在を示すバンド

がみられた.また.Le. citreum. Le. mesenteroides.

Le. carnosumが多くの調査製品でみられた .Le.

gelidumについては国内産製品ではバンドがみられなか

ったのに対 し,韓国産 3製品でバンドが確認された.

2. Lactobacillus属を対象とするmultiplexPCRでは,

Lb. paracaseiやLb.plantarumの存在が推定された.

3. PCR-DGGEの結果,囲内産製品,韓国産製品の

それぞれで異なる特徴的なバンドがみられた.園内産製

品に特徴的なバンドは LactococcuslactisやLe.

mesenteroidesと,また韓国産キムチで特徴的なバンド

はWeissellakoreensisと相向性がI高かった.

4.特に韓国産製品で特徴的にみられた菌種は低温で

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88 近畿中国四国農業研究第18号 平成23年3月

の熟成によって増加した可能性が示唆された.

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