大学発超小型人工衛星 を利用 した 情報教育 アウトリーチ 教...

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大学発超小型人工衛星を利用した 情報教育アウトリーチ教材の開発 浅井文男 奈良工業高等専門学校 情報工学科 概要 日本大学の学生チームが開発した超小型人工衛星 CubeSat/CEEDS アマチュアミッションは初等・中等教育機関の情報技術教育に活用できる 可能性を秘めている。本研究では CEEDS が送信するテレメトリ、メッセー ジ、画像データを児童や生徒が受信・解読するためのハードウェアおよび ソフトウェア教材を開発した。CEEDS から送られてくるメッセージや画像 の受信は情報技術に対する知的好奇心を喚起し、テレメトリの解読は情報 処理に対する学習意欲の向上に役立つ。開発教材の教育効果は CEEDS 1号 機を搭載したロケット打ち上げ失敗で未確認だが、今年の秋に CEEDS 2号 機が打ち上げられるのでアウトリーチ活動を実践して検証する予定である。 1.CubeSat/CEEDSとは 近年、学生がチームを編成して超小型の人 工衛星( CubeSat )を設計・開発・運用する工学 教育プロジェクトが日本や欧米の高等教育機 関で盛んになっている。すでに十数機の CubeSat が打ち上げられ、東大の XI- Ⅳと XI- Ⅴや東工大の CUTE- Ⅰは所定のミッションを 達成した今も運用が続けられている。 CEEDS は日本大学宮崎研究室の学生チームが開発し CubeSat で、1号機は昨年6月に打ち上げ られたが、ロケットの打ち上げ失敗で稼働し なかった。しかし、2号機の開発が完了し、 今年の秋に打ち上げられる予定である。 CubeSat の目的は衛星開発のトレーニング、 衛星関連技術の試験、プロジェクト管理のス キルアップなどであるが、無線通信にアマチ ュア業務の周波数帯を使用するため、無線愛 好家のための運用も実施されている。特に CEEDS の通信コンポーネントには青少年に対 する教育を意図したアマチュアミッションが 組み込まれており、以下のような多彩な方法 で子供たちから寄せられたメッセージや画像 がテレメトリとともにアマチュアバンドでブ ロードキャストされることになっている。 1)デジトーカ(音声メッセージ) 2)スロースキャンテレビジョン(SSTV) 3)パケット(テキスト)メッセージ CEEDS が送信するメッセージや画像、テレ メトリデータは市販のアマチュア無線機やワ イドバンドレシーバで受信でき、受信や解読 に必要な情報はすべて公開されている[1]。 2.ハードウェア教材の開発 本研究で開発したハードウェア教材はター ミナルノードコントローラ( TNC)と呼ばれる 装置である。TNC はパケット無線データを受 信するために必要な装置であるが、国産品の 製造・販売はすでに終了し、入手が難しくな っている。そこで、本研究では PIC と呼ばれ る安価なマイクロコントローラを使用した TNC を設計・開発した。図1に示すように、 製作した TNC をハンディトランシーバとパソ

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  • 大学発超小型人工衛星を利用した

    情報教育アウトリーチ教材の開発

    浅井文男

    奈良工業高等専門学校 情報工学科

    概要 日本大学の学生チームが開発した超小型人工衛星 CubeSat/CEEDSのアマチュアミッションは初等・中等教育機関の情報技術教育に活用できる

    可能性を秘めている。本研究では CEEDSが送信するテレメトリ、メッセージ、画像データを児童や生徒が受信・解読するためのハードウェアおよび

    ソフトウェア教材を開発した。CEEDSから送られてくるメッセージや画像の受信は情報技術に対する知的好奇心を喚起し、テレメトリの解読は情報

    処理に対する学習意欲の向上に役立つ。開発教材の教育効果は CEEDS1号機を搭載したロケット打ち上げ失敗で未確認だが、今年の秋に CEEDS2号機が打ち上げられるのでアウトリーチ活動を実践して検証する予定である。

    1.CubeSat/CEEDSとは

    近年、学生がチームを編成して超小型の人

    工衛星(CubeSat)を設計・開発・運用する工学教育プロジェクトが日本や欧米の高等教育機

    関で 盛んになっている。すでに十 数機の

    CubeSat が打ち上げられ、東大の XI-Ⅳと XI-Ⅴや東工大の CUTE-Ⅰは所定のミッションを達成した今も運用が続けられている。CEEDSは日本大学宮崎研究室の学生チームが開発し

    た CubeSat で、1号機は昨年6月に打ち上げられたが、ロケットの打ち上げ失敗で稼働し

    なかった。しかし、2号機の開発が完了し、

    今年の秋に打ち上げられる予定である。

    CubeSat の目的は衛星開発のトレーニング、衛星関連技術の試験、プロジェクト管理のス

    キルアップなどであるが、無線通信にアマチ

    ュア業務の周波数帯を使用するため、無線愛

    好家のための運用も実施されている。特に

    CEEDS の通信コンポーネントには青少年に対する教育を意図したアマチュアミッションが

    組み込まれており、以下のような多彩な方法

    で子供たちから寄せられたメッセージや画像

    がテレメトリとともにアマチュアバンドでブ

    ロードキャストされることになっている。

    1)デジトーカ(音声メッセージ)2)スロースキャンテレビジョン(SSTV)3)パケット(テキスト)メッセージCEEDS が送信するメッセージや画像、テレ

    メトリデータは市販のアマチュア無線機やワ

    イドバンドレシーバで受信でき、受信や解読

    に必要な情報はすべて公開されている[1]。

    2.ハードウェア教材の開発

    本研究で開発したハードウェア教材はター

    ミナルノードコントローラ(TNC)と呼ばれる装置である。TNC はパケット無線データを受信するために必要な装置であるが、国産品の

    製造・販売はすでに終了し、入手が難しくな

    っている。そこで、本研究では PIC と呼ばれる安価なマイクロコントローラを使用した

    TNC を設計・開発した。図1に示すように、製作した TNC をハンディトランシーバとパソ

  • 図1 開発 TNCの液晶表示器搭載モデル 図2 開発 TNCの表示器非搭載モデル

    図3 開発ソフトによるテレメトリの受信・解読(想定図)

    図4 メッセージの読み上げ(想定図)

    図5 SSTV画像の受信(想定図)

  • コンに接続すれば、CEEDS のテキストメッセージやテレメトリデータを受信できる。液晶

    表示器を搭載しているのでパソコンを接続し

    なくてもメッセージが読める。図2に示す表

    示器とモデム IC を使用しないモデルも用意しており、機能や性能は若干劣るがコンパクト

    で小中学生でも容易に製作することができる。

    3.ソフトウェア教材

    本 研究で開発したソフトウェア 教材は

    Windows アプリケーションタイプのシリアル通信端末ソフトである。開発言語は Visual C#、開発環境は Visual Studio 20005 Standard Editionを使用した。実行環境に .Net Framework 2.0を必要とするが、シリアル通信機能の実装が容

    易であり、プログラムサイズを小さくできる。

    開発ソフトは標準的な Windows アプリケーションのユーザーインターフェイスを備えて

    いるので、児童や生徒でも容易に操作できる。

    開発ソフトのおもな機能は図3に示すように

    テレメトリデータの受信と解読であるが、受

    信・解読データの編集・保存・印刷、メッセ

    ージの読み上げ、SSTV画像の受信など、SEEDSのアウトリーチ利用を図る機能も実装した。

    メッセージの読み上げ機能はマイクロソフ

    トエージェント(MS Agent)で実現している。MS Agentのコンポーネントとキャラクタのマーリン(Merlin)は Windows Xp/2000に標準で実装されているが、スピーチエンジンは追加イ

    ンストールする必要がある。図4に示すよう

    に、アイコンをクリックすると Merlinが現れ、メッセージを受信すると読み上げてくれる。

    MS Agentと異なり SSTV画像を受信するために必要な SSTV エンジンは Windows や .NetFramework には組み込まれていない。そこで図5に示すように、SSTV 専用のフリーソフト(MMSSTV)を開発ソフトのメニューから選択・起動する方法を採用した。MMSSTV を別途インストールしておかなければならないが、

    開発ソフトがコンパクトになる利点がある。

    4.アウトリーチ利用

    本研究で開発した TNC とソフトウェアを使用すれば、CW ビーコンを除く SEEDS のアマチュアミッションのすべてをアウトリーチ活

    動に利用できる。Merlin が読み上げる宇宙からのメッセージや、不思議な信号音とともに

    次第に表示されていく画像は児童や生徒の情

    報通信技術に対する興味・関心を触発し、マ

    イコン回路、データ通信、画像伝送などに対

    する学習意欲の向上に役立つものと思われる。

    テレメトリの解読結果は CSV 形式でファイルに保存できるので、表計算ソフトで開いて

    図6に示すように、太陽電池の出力電流の時

    間変化をグラフ化し、衛星の自転周期を推測

    することも可能である。敷居は少々高いがテ

    レメトリの受信・解読にチャレンジすれば、

    情報活用能力のスキルアップが期待できる。

    図6 太陽電池出力電流の経時変化(想定図)

    今年の秋に CEEDS 2号機の打ち上げが成功しアマチュアミッションが開始されれば、こ

    うしたアウトリーチ活動を実践し、開発教材

    の教育効果を評価・検証する予定である。

    本研究の一部は平成 19 年度科学研究費補助金(課題番号 19500772)と電気通信普及財団平成 18 年度研究調査助成の支援を受けている。また、ソフト開発には円子武氏の協力を得た。

    5.参考文献

    [1]日本大学 CubeSat プロジェクト Web サイト,http://cubesat.aero.cst.nihon-u.ac.jp/.

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