人物故事鏡に関する覚書き - 天理大学...人物故事鏡に関する覚書き 山本...

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はじめに 隋唐鏡の各種鏡式について順次分析している。本稿は海磯鏡 〔山本2010a〕 、盤龍鏡 〔山本2010b〕 に次ぐ第三弾で、歴史人物や伝説の一場面をあらわしたいくつかの鏡式を「人物故事鏡」と総 称して取りあげる。高士弾琴鏡、月宮鏡、榮啓奇鏡、吹簫引鳳鏡の4種である。いずれも一方 から眺めるように図像が表現されており、絵画的な印象を与えるところに共通性がある。これ ら各鏡式の名称については、表を一見すれば判るように (表の右欄参照) 、さまざまなものが使わ れ、一面ごとに違うといっても過言でないほどだ。同類に神仙をあらわした飛仙鏡・仙騎鏡や、 狩猟紋鏡、打馬毬鏡などがあるが、それらは別稿であつかう。 鏡体の呼びかたも多様であるが、まず八花形(中国では「葵花形」が一般的) 、八稜形(同じく「菱 花形」) 、円形、方形に大別し、八花形を、外縁の内側に圏線をめぐらして鏡背の内外を区分し ているか否かによって Ⅰ:内外の区分なし Ⅱ:内区・外区を区分する に分ける(八稜形などもこれに準じる) 。さらに各々を外縁の形によって A ~ C の3型式に細別し、 Ⅰ A 式、Ⅱ B 式などと呼ぶ。 A:外縁外側が八花形だが、内側が円をなす類 B:外縁の内外がともに八花形をなし、弧線が元の円周と同じ C:外縁をなす弧線が元の円周より径の小さいもの、弁間のえぐりが大きくなる 以上の分類は盤龍鏡のばあいと同様である。 八花形や八稜形の方が、外形と紋様の位置関係など、円形のものより情報量が多い。その利 点を生かして分析したい。なお、六花形・四花形(中国では「亞字形」)鏡体のものも存在するが、 それらは八花形の仲間としてあつかう。 ところで、天理大学附属天理参考館は第2節でとりあげる「月宮鏡」を一面所蔵している。 梅原末治『唐鏡大鑑』に「月兎文八稜鏡」として掲載されているものと同一物であり、この時 点では東馬三郎が所蔵しており〔梅原1945〕 、いつの日か参考館の所蔵に帰したのであろう。外 形は八稜形Ⅱ式、径21 . 6cmと月宮鏡の中で最大である。 本鏡のカラー写真を実大で掲載した『ひと・もの・こころ』は「月世界をあらわした鏡桂樹 けいじゅ 月兎 げっ と 嫦娥 じょう 八稜鏡 はち 」と名づけ、次のように解説している〔参考館1988〕 りょうきょう 円鈕を隠すように中央に1本の桂樹がそびえ、左に聖雲に乗った仙女、右に仙薬をつく兎、 右下の銹に覆われた仲に蛙が上を向いている。西王母が持っている不老不死の仙薬を盗ん だ侍女(嫦娥)が、月宮殿に逃げ込んだところ、ひき蛙(蟾蜍)にされたので、月の中で は蛙が仙薬をついている、という伝説に加えて、月の世界にある桂樹の話、また白兎を月 の化身とする信仰が交ざりあって、このように桂樹を中心に嫦娥と白兎を配し、蛙をひか 人物故事鏡に関する覚書き 山本 忠尚

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Page 1: 人物故事鏡に関する覚書き - 天理大学...人物故事鏡に関する覚書き 山本 忠尚 -˜˚- えさせるモチーフができあがり、唐鏡では背文を飾る一つのパターンとなった。わが国の

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 はじめに

 隋唐鏡の各種鏡式について順次分析している。本稿は海磯鏡〔山本2010a〕、盤龍鏡〔山本2010b〕

に次ぐ第三弾で、歴史人物や伝説の一場面をあらわしたいくつかの鏡式を「人物故事鏡」と総

称して取りあげる。高士弾琴鏡、月宮鏡、榮啓奇鏡、吹簫引鳳鏡の4種である。いずれも一方

から眺めるように図像が表現されており、絵画的な印象を与えるところに共通性がある。これ

ら各鏡式の名称については、表を一見すれば判るように(表の右欄参照)、さまざまなものが使わ

れ、一面ごとに違うといっても過言でないほどだ。同類に神仙をあらわした飛仙鏡・仙騎鏡や、

狩猟紋鏡、打馬毬鏡などがあるが、それらは別稿であつかう。

 鏡体の呼びかたも多様であるが、まず八花形(中国では「葵花形」が一般的)、八稜形(同じく「菱

花形」)、円形、方形に大別し、八花形を、外縁の内側に圏線をめぐらして鏡背の内外を区分し

ているか否かによって

  Ⅰ:内外の区分なし

  Ⅱ:内区・外区を区分する

に分ける(八稜形などもこれに準じる)。さらに各々を外縁の形によってA~ Cの3型式に細別し、

ⅠA式、ⅡB式などと呼ぶ。

  A:外縁外側が八花形だが、内側が円をなす類

  B:外縁の内外がともに八花形をなし、弧線が元の円周と同じ

  C:外縁をなす弧線が元の円周より径の小さいもの、弁間のえぐりが大きくなる

以上の分類は盤龍鏡のばあいと同様である。

 八花形や八稜形の方が、外形と紋様の位置関係など、円形のものより情報量が多い。その利

点を生かして分析したい。なお、六花形・四花形(中国では「亞字形」)鏡体のものも存在するが、

それらは八花形の仲間としてあつかう。

 ところで、天理大学附属天理参考館は第2節でとりあげる「月宮鏡」を一面所蔵している。

梅原末治『唐鏡大鑑』に「月兎文八稜鏡」として掲載されているものと同一物であり、この時

点では東馬三郎が所蔵しており〔梅原1945〕、いつの日か参考館の所蔵に帰したのであろう。外

形は八稜形Ⅱ式、径21.6cmと月宮鏡の中で最大である。

 本鏡のカラー写真を実大で掲載した『ひと・もの・こころ』は「月世界をあらわした鏡 桂 樹 けい じゅ

月 兎 げっ と

嫦 娥じょう

八 稜鏡はち

」と名づけ、次のように解説している〔参考館1988〕。りょうきょう

  円鈕を隠すように中央に1本の桂樹がそびえ、左に聖雲に乗った仙女、右に仙薬をつく兎、

右下の銹に覆われた仲に蛙が上を向いている。西王母が持っている不老不死の仙薬を盗ん

だ侍女(嫦娥)が、月宮殿に逃げ込んだところ、ひき蛙(蟾蜍)にされたので、月の中で

は蛙が仙薬をついている、という伝説に加えて、月の世界にある桂樹の話、また白兎を月

の化身とする信仰が交ざりあって、このように桂樹を中心に嫦娥と白兎を配し、蛙をひか

 

人物故事鏡に関する覚書き

山本 忠尚

Page 2: 人物故事鏡に関する覚書き - 天理大学...人物故事鏡に関する覚書き 山本 忠尚 -˜˚- えさせるモチーフができあがり、唐鏡では背文を飾る一つのパターンとなった。わが国の

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えさせるモチーフができあがり、唐鏡では背文を飾る一つのパターンとなった。わが国の

月と兎の話や図柄の源流であることは言うまでもない。円圏は満月のつもりであろう。八

稜の外郭との間に宝相華様の霊芝雲を散らしている。たしかな彫法、鮮やかな鋳出し、格

調は高い盛唐期の鏡である。

 わかりやすい、見事な解説である。しかしながら、この鏡を見るたびに疑問に思うのは、銅

鏡はふつう円形であるのに、なぜこの鏡は八稜形という特殊な形態をとっているのか、という

ことであった。先述のように、唐鏡には八花形も多い。本稿の末においてこの点についても考

察してみたい。

1 高士弾琴鏡(真子飛霜鏡)[第1図]

名称 「伯牙弾琴鏡」あるいは「真子飛霜鏡」と呼ぶばあいが多い。しかし、琴を膝にのせて弾

じている人物を伯牙と同定できたわけではない。伯牙とは春秋時代の琴の名手のことを指して

いるようだが、どのような故事にのっとるのか不明なのである。また、表で明らかなように、

「真子飛霜」という銘があるのは約三分の一に過ぎず、全体を「伯牙弾琴鏡」あるいは「真子

第1図 高士弾琴鏡 1. 上海博物館 2. ギャラッシー 3. 上海博物館 4. 大阪大谷大学資料館

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飛霜鏡」と称するのは妥当ではない。一方、下で示す銘文の頭を採って「鳳凰双鏡」と称する

こともあるが、この銘文を有するのも約三分の一ほどなので、やはり全体を指す語としてはふ

さわしくない。

 秋山進午は、次の榮啓期鏡と併せて「高士祥瑞文鏡」と命名したが〔秋山1995〕、自らが指摘し

ているように、前者は道教の、後者は儒教の故事を踏まえており、別にあつかうべきである。

ここでは「高士弾琴鏡」と呼ぶことにする。

外形と鈕 八花形ⅠAとⅡAが圧倒的に多く、両者の割合は3:2。円形が6面、六花形ⅠAが

3面、方形2面、亜字形1面がある。八稜形は1面しか探せなかった。全体的傾向として、八

花形以外は少ないと判断できよう。

 外区があってそこに銘を有するⅡA・Ⅱ Bは、そのぶんだけⅠAに比べて面径が大きく、

すべてが径20cmを超える。また、「真子飛霜」銘を有する類も次に大きく、ほとんどが20cm超

である。

 鈕の形態としては亀をかたどったものがほとんどで、ごく少数半球形(表では円)があるが、

ほかの要素との対応関係は認められない。

図像の構成 中心をなす鈕の上下・左右にそれぞれ独立した意匠を配する。基本的なものは以

下の如くで、それぞれの意匠にいくつかのヴァリエーションがある。

 《上》山岳の嶺々と雲の上から半分顔を覗かせた日あるいは月、その下に四角に囲った「真子

飛霜」銘から成る。銘がないばあい、その箇所に鶴が飛ぶもの15例と何もないもの9例の二様

がある。

 半分だけ顔を覗かせた日あるいは月には、

半円の下端が雲に隠れているものと、半円全

体が見え中央に珠点を置いたもの、置かない

ものとがある。雲の形もまた違っており、こ

れら細部の違いによってA~Dの4種に分

類する[第2図]。八花形ⅠAで「真子飛霜」

の銘を有するものはAないしB、ⅡAすな

わち外区に「鳳凰双鏡」の銘帯をもち、しか

も鈕の上が空白のばあいはD、鈕の上に鶴が

飛ぶ類はC、というような対応関係が認めら

れる。

 《左》竹林を背に琴を弾ずる高士(伯牙)、そ

の背景には竹4本と筍3本があらわされる。

前に方几がある。方几の上には筆、筆插、円

硯、書巻などがのる。琴を弾ずる高士は場面

の左に居るのが普通だが、左右が逆転したも

のが4例だけある。また、琴を膝上に水平に

置くばあいと膝から床へ斜めに置くばあいと

があり、斜めは比較的少ないがⅠA式だけに

第2図 高士弾琴鏡「山岳と雲」の分類

A

B

C

D

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存在する。

 《右》鳥と双樹、鳥は雁ではなく鳳凰であろう。基本的に片足をあげ、岩の上に片足で立つが、

両足で立つものが5例存在する。片足のばあいは見返りの姿勢だが、両足のものは正面を向く。

八花形ⅡAで「真子」銘も鶴もない類に限る。樹は2本、その葉は普通の樹木の様態であるが、

珠点のような表現のものがある。

 《下》池中に蓮が1本生え、鈕へと伸びる。亀は蓮葉の中央に上向きに乗る。下部にあらわさ

れた池と岩にはA・B・Cの3種がある[第3図]。池Aは八花形ⅠAのみに存在し、しかも

4個ある岩の頭がすべて左向きである。これに対して、池Bは八花形ⅡA、すなわち「鳳凰双

鏡」銘をもつものと対応し、そのばあい岩頭は右向きである。池CはⅠA・ⅡAの双方にあ

るが、鈕の上すなわち「真子飛霜」のあるべきところに鶴が飛ぶ類と対応する。岩頭は右向き。

銘文:「真子飛霜」の銘は鈕の上部に田の字に凸線で区切った区画の中に1字ずつ配する。この

銘を有するのは、先述のように12例に過ぎない。

 真子と飛霜については多様なとらえ方がある。ひとつは銭�『浣花拝石軒鏡銘集』の「真子

当是人名、飛霜当是操名、但遍検書伝及琴譜諸書、皆不可得、古人制器原欲以流伝後世、其人

不作此鏡、則湮没無聞矣。」とする説。坐っているのが真子、弾いている曲名が飛霜であるとい

言うのだ。馮雲鵬『金石索』は「真子不詳、或取修真煉造之意、如南真夫人及真子之類、飛霜

疑即元霜、裴航遇云翹夫人、與詩云元霜搗尽見云英。」と解した。ほかにも真子を楊貴妃とする

説や、飛霜を名月、すなわち鏡の代称とする説もある。一方、朱江は真子は孝真子の簡称、飛

霜は古琴曲で、十二操の一「履霜操」の別称であり、西周代に野に放逐された尹伯奇が琴を弾

じているとする〔朱1981〕。『隋唐文化』の解説もこれを踏襲する〔隋唐文化1990〕。どうやら最後

の説に信憑性があるようだ。

 なお、真子飛霜ではなく長方形の枠内に「侯瑾之」

と記した例がある。大英博物館と故宮博物院(北京)が

所蔵する2面で、どちらも方鏡である。銘がBタイプ

の山雲の一部を隠し、池はCタイプ。侯瑾之のいわれ

は不明である。

 真子飛霜のほか、八花形・円形の双方に外区に「鳳

凰雙鏡」以下の銘帯を持つものが14面ある。40字の銘文

は画面の頂部から始まり、時計回りに篆書体で陽鋳す

る。どの鏡でも内容は同じだが、最後に「�」が加わ

り41字になったものがある(湖南衡陽出土鏡)。�は工匠

名であるという。

  鳳凰雙鏡南金装、陰陽各為配、日月恒相會、白玉

  芙蓉匣、翠羽瓊瑤帯、同心人、心相親、照心照膽

  保千春。(�)。

 法隆寺献納宝物の「高士宴楽紋嵌螺鈿鏡」は異例の

存在で、まず、径が28.2cmときわめて大きく、鈕の上

には六角形あるいは八角形の建物があり、左右に柵で

第3図 高士弾琴鏡「池と岩」の分類

A

B

C

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囲んだ竹藪がある。下部には琴ではなく阮咸を弾く人物がおり、その前に酒食を傍らに阮咸の

響きに耳を傾ける別の人物が座っている。銘文も上とは違い、「独有幽棲地山亭暗女蘿澗清長低

篠池開、半巻荷野花朝瞑落盤根歳月多停杯無賞慰、峡鳥自経過」とある。これは南北朝末期の

詩人、江総の詩「夏日還山庭」であるという〔献納宝物1996〕。別扱いするべきものであろう。

出土地 出土地がわかるのは少数であるが、湖北、湖南、江蘇、浙江、安徽、江西といった南

方地域が多く、中原地域では陜西西安数例と河南・河北がそれぞれ1例ある。

2 月宮鏡[第4図]

名称 「月宮鏡」と称することが多いが、嫦娥、桂樹を加えることもある。嫦娥についてはいく

つかの文献に登場し、「恒娥」とも呼ばれたことが判る。

『淮南子』覧冥訓「翠請不死之薬于西王母、恒娥窃之、奔月宮。」

『漢書』天文志 「嫦娥窃翠不死薬、奔月、及之為蟾蜍。」

『張衡』霊憲  「翠請不死之薬于西王母、恒娥窃之以奔月、将往赦筮之于有黄、有黄占

之曰:吉。翩翩帰妹、独将西行、逢天晦芒、母�母恐、后且大昌。恒娥遂托身于月、

是為蟾蜍。」

外形 高士弾琴鏡とは違って八稜形Ⅱ式が多く、19面と過半を占める。そのばあい、外縁の稜に

対応する外区の広くなった箇所に飛雲紋あるいは蝶+花枝を配する。その割合はほぼ五分と五

第4図 月宮鏡 1. 上海博物館 2. 上海博物館 3. 上海博物館 4. 浙江江山県出土

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分。次いで円形が11面あり、八花形ⅠA式はわずか2例あるだけで、後述のように特異な存在

である。

図像の構成 原則として、中央に大きく一株の桂樹が葉を茂らせ、鈕は木の瘤のように幹の上

端に取りつく。瘤というより縦縞の様は一見瓜を思わせる。葉の下に仙薬を搗く月兎、対面し

て嫦娥と思われる仙女を配し、そのどちらかの下に蟾蜍がいる。

 別のデザインでは、桂樹が脇に退き、仙女が「大吉」と書いた短冊形の札(牌)を掲げる。こ

のばあい、鈕は亀形、その下に「水」の文字、さらに下に池面をあらわす。

 嫦娥と月兎が桂樹の左右に配されるのであるが、嫦娥が左にくることが多い。蟾蜍は兎の下

部にいるのが普通だが、まれに嫦娥の下にあらわされることもある。嫦娥が「大吉」と記した

札を掲げる6例においては、嫦娥と月兎がともに左におり、蟾蜍のみが右にいる。兎の手は杵

に触れていない。

 兎の姿勢には、両脚を地につけ直立するもの「両」と、片方の脚を上げて一本脚でたつもの

「片」がある。「大吉」のグループでは、兎は腰を落として杵から手を離している。

銘 上海博物館が所蔵する八花形の1面は、内区に小さく月宮をあらわし、その周囲に圏線で

区画した銘帯を3重に巡らせる。156字の長文である。

(外)揚府呂氏者、其先出于呂公望、封于齋八百年、与周衰興、後為権臣田皃所簒、子孫

 流迸家子淮揚焉、君氣高志精罕知者、心如明鏡、曰得其精焉。常云秦王之鏡、照

(中)膽照心、此蓋有神、非良工所得。吾毎見古鏡�佳者、吾今所制、但恨不得、停之多

 年、若停之一、二百年、亦可毛髪無陰矣。�州刺史杜元志、好

(内)奇賞鑒之士、吾今為之造此鏡、亦吾子此一生�思。開元十年五月五日鋳成、東平邵

 呂神賢之詞。

きわめて異例な存在である上、銘は「開元十年(722)」という年号を含むので、贋物説が提起

されたこともあったが、断定することはできない。もうひとつの八花形である西安西郊小土門

出土品もかなり変わった意匠で、円鈕、桂樹の両脇に男女の仙人が坐り何物かを捧げている。

桂樹の左右に龍虎を配したものもある。

桂樹の分類 葉の向きに

よって、A:上向き、B:

下向きの2種に大別でき、

双方はさらに葉の数に

よってA2とA3、B3

と B5に細分できる[第

5図]。A2の3点は直径

が20cmを超える大型鏡

であり、かつ嫦娥が左、

兎と蟾蜍が右に位置する。

嫦娥が「大吉」の札を掲

げる類は径18cm以上と

次に大型で、桂樹がB3第5図 月宮鏡「桂樹」の分類

A3

A2

B5

B3

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である、などいくつかの対応関係を抽出することができる。

出土地 伯牙弾琴鏡とほぼ同じ傾向が見とれる。

3 榮啓奇鏡(三楽鏡)[第6図]

名称 すべて鏡背の上段中央に3行に分けて「榮�竒/問曰�/孔夫子」の銘を有するので、

本来は「榮啓奇問孔子鏡」と称すべきだが、縮めて「榮啓奇鏡」と呼ぼう。「�」は啓、「竒」

は奇、「�」は答の異態字である。榮啓奇は孔子と同時代の隠者、東晋・南朝で尊崇され、顧�

之など有名画家の好む画材となった(実物は残っていない)。『列子』天瑞篇は次のように記す。蘇

哲の訳による〔蘇2007〕。なお、『列子』は榮啓奇を「榮啓期」と記すが、鏡銘の方を優先した

い。

孔子が泰山に遊歴した折に、�という都市国家の郊外で、鹿の皮をまとい、紐を帯とし、

歩きながら琴を弾き、歌っている楽しい老人榮啓期に出会った。孔子がその楽しみとする

所を問うと、「世の中の万物のうち人間が最も尊崇であり、人と生まれたことが一番目の楽

しみ、人間社会では男尊女卑、男と生まれたことが二番目の楽しみ、多くの人が生まれて、

間もなく襁褓で亡くなるのに、私は九十歳まで生きられ、長寿を全うしたことが三番目の

楽しみである」と答えた。

 「三楽鏡」という別称はこれに由来し、こちらを採用したばあいの方が多い。左で杖を持ち腕

を伸ばしているのが孔子、右で琴を提げているのが栄啓奇である。

外形 八花形ⅠAが多く三分の二を占め、残りは六花形2と円形6である。直径13~12cmが多

く、小型の鏡である。『中国銅鏡図典』に掲載された鏡の解説に18.5cmとあるが、これは誤り

であろう(表で「図典」としたこの書は誤りが多く、出土地や所蔵者を掲げていないので、使いにくい)。

図像の構成 三段から成る。各々の鏡でほとんど差異がない。

  《上》罫線で囲い、三行に分けて先述の銘を配する

  《中》左に孔子、龍頭の杖を持ち、左手を前に突き出し、指を2本立てる。右に榮啓奇、身

に鹿裘をまとい、手に琴を提げる(弾いてはいない)

  《下》鈕はすべて円形、鈕の下に柳樹が立つ

出土地 陜西、河南、山東、河北からの出土が知られ、南からの出土例はない。

 岡崎敬によると、フィンランド国立博物館が所蔵するタールグレン・コレクションの中に1

せい

第6図 榮啓奇鏡と吹簫引鳳鏡1. 和泉市久保惣記念美術館 2. 故宮博物院(北京) 3. 泉屋博古館

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点の「栄啓奇八花鏡」がある。白銅質で、半分の破片であり、復原径12.7cm。鈕はこわれてい

る。イェニセイ河中流域のミヌシンスクで出土したもので、アバカン博物館にはソン Son で出

土した同形同大の完形品(径12.7cm、現在破砕)があり、これらは西安東郊の王家墳第1号から出

土した完形品(径12.7cm、表では12.5cm)と同笵である可能性がある、という〔岡崎1987〕。たしか

に良く似ているが、三者に共通して細部に崩れが目立つので、いずれも原型鏡からの踏み返し

であろうか。ただし、ミヌシンスク鏡と王家墳鏡とでは八花を形成する外縁の切れ込みの位置

は合致しない。紋様部の蝋型を鏡体に貼り付ける際にズレたものと思われるので、蝋型成型の

可能性が強い。いずれにしろ、唐鏡がこの地まで移動したことは確かである。

4 吹簫引鳳鏡[第6図]

名称 「王子喬吹簫引鳳鏡」あるいは「王子晉吹簫引鳳鏡」などと呼ばれるが、長いので「吹簫

引鳳鏡」と略称する。『列仙伝』によると、王子喬は周の霊王の太子で、姓は姫、名を晉という。

簫を吹くことを好み、鳳が鳴くような音を奏でた、という。

外形 総数5面を見つけたのみで、どのような傾向があるか定かではない。八花形ⅠA式が3、

ⅡBが1、円形1である。

図像の構成 上に一叢の竹、鈕の左に坐して簫を奏でる男性、右に飛翔する鳳鳥をあらわす。

下に山岳。山東鄒城の1面には鈕の上方に「光」字を鋳出してある。

5 小結

 以上のように、それぞれの鏡式には、基本的に同種の紋様や銘文があらわされているが、細

部には差異が存在した。製作工房が違うのか、あるいは時期差なのか、榮啓奇鏡と吹簫引鳳鏡

にはさしたる個体差がないので、高士弾琴鏡と月宮鏡についてまとめてみよう。

外形 高士弾琴鏡は八花形が多いのに対して、月宮鏡には八稜形が多く、円形がそれに次ぎ、

八花形は2例あるに過ぎない。同様のことは対鳥・対獣鏡と鳥獣旋回鏡についても言える。前

者は八花形が圧倒的に多く、後者は逆に八稜形が多数を占めるのである(これらの鏡種については

別稿であつかう予定である)。鏡背紋に応じて鏡体の形を選択したのであろう。出土地にさしたる差

異は見いだし難いので、時期差と捉えるべきかもしれない。

亀鈕 鈕には半球状の円鈕と亀形をした亀鈕、さらに少ないながら獣が伏した形の獣鈕とがあ

る。高士弾琴鏡は圧倒的に亀鈕が多く、そのばあい開花蓮華の座を採用している。月宮鏡には、

樹木の幹の一部が瘤のようにふくれ、そこを鈕にしたものが多いが。亀鈕もわずかながら存在

する。そのばあい嫦娥は「大吉」の牌を持ち、兎は蹲踞して杵から手を離し、桂樹はB3式、

そしてその下に「水」字と池を伴う。この類には特殊な用途があったか、あるいは特定の工房

の製作にかかると想定できよう。

紋様 高士弾琴鏡のばあい、「真子」銘を有するものにはⅠA式・ⅡA式および円形の3者が

ほぼ同じ数存在する。山雲・真子飛霜・鳳凰双鏡銘・池などの対応関係を瞥見する限り、「真

子」グループと「なし」グループ、そして「鶴」グループに三分して捉えることができよう。

この差が何に由来するのか、あるいは工房の違いをあらわしているのかも知れない。

 月宮鏡は八稜形と円形の2群に分けることができ、さらに八稜形は外区紋様の違いによって

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飛雲グループと蝶花グループに分かれる。前者は瘤鈕にして桂樹A2・B5、後者は先述の亀

鈕・大吉、桂樹A3・B3にほぼ対応する。円形の桂樹はA3またはB3であり、蝶花グループ

と同じである。外形よりむしろ内部の紋様が製作地の違いを示しているのではないか。

年代 発掘調査によって出土した鏡は少なく、多くが盗掘によって骨董市場に出回ったもので

ある。したがって、年代を知る手がかりはほとんどない。上海博物館が所蔵する特殊な月宮鏡

(三重の銘文帯を有する)には「開元十年」の銘があり、722年の製作であることが判る。

八花形と八稜形の使い分け 鏡背紋の種類によって、八花形と八稜形を使い分けているように

思われる。たとえば、同じ人物故事鏡の仲間であっても、「高士弾琴鏡」は八花形28に対して八

稜形はわずかに1に過ぎず、一方「月宮鏡」は八稜形19対八花形2の割合なのである。「栄啓期

鏡」と「吹簫引鳳鏡」は八花形のみである。別種の鏡式、たとえば左右対称の「対鳥鏡」の仲

間はほとんどが八花形であるが、それに対して点対称の「鳥獣旋回鏡」は八稜形が圧倒的に多

い。

6 八花鏡・八稜鏡の成因

 古鏡を、鏡背紋の配置法によって分類すると、次の5種に分け得るであろう。

  ①同心円型―重圏鏡、内行花紋鏡、獣帯鏡など

  ②求心型・遠心型―神獣鏡、画像鏡など

  ③左右対称型(絵画的配置方式)―人物故事鏡、対鳥・対獣鏡など

  ④点対称型(回転配置方式)―鳥獣旋回鏡、卍鏡など

  ⑤上のいずれにも当てはまらない、特殊なもの

 以上をさらに鏡の外形(以下「鏡体」と呼ぶ)とのかかわりにおいて捉えると、①・②は漢代か

ら南北朝時代までの鏡に多く、基本的に円鏡である。②の求心・遠心という用語は秋山進午が

用いたもので、「鏡背文様の配置において、内・外区の人物・動物図像の頭部が鈕の方向を向い

ているものを求心配置と呼び、逆に頭部が鏡縁の方向に向いて配置されるものを遠心配置と呼

ぶ。」と定義している〔秋山1995〕。

 それに対して③・④は唐代になって新たに生み出されたもので、その多くは鏡体が八花形あ

るいは八稜形をなす。すなわち八花鏡と八稜鏡である。③は一方向から眺めるように紋様を配

置してある。絵画的配置方式とも呼べよう。④には時計回りと反時計回りとがあり、前者が圧

倒的に多い。

 八花鏡、八稜鏡とは、どちらも曲線を組みあわせた複雑な輪郭の鏡で、小林行雄は次のよう

に定義した。

  このばあいの八というのは、組みあわせた単位曲線の数をあらわし、花あるいは稜は単位

曲線の種類をあらわしている。つまり、花鏡の方は、数個の弧形があつまって、鏡の輪郭

を構成したもの、言い換えると、円鏡の円周の諸所に切りこみをつくって切りこみから切

りこみまでのあいだを、もとの円周とはちがった弧形に仕上げた鏡である。これに対して

稜鏡の方は、その切りこみのあいだをつなぐ弧線の中央に、外方に向かった突起がつくっ

てある。いわば「{ 」の形をつらねて、鏡の輪郭ができていることになる〔小林1965〕。

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(1)八花鏡・八稜鏡の成因諸説

 なぜ、唐代になって八花形あるいは八稜形という鏡体が出現したのであろうか。唐鏡を研究

する者はかなり多いが、このような設問をしたのは小林行雄と林良一だけである。小林は緯錦

からの影響を指摘し、林は円形→八角形→八花形→八稜形という系図を示している〔林1966〕。

 八花から八稜へ、という方向は妥当であろうか。一般的には、八稜鏡の方が早く出現したと

考えられており、孔祥星は、円形に加えて稜花形鏡体が出現するのが第二期前期、葵花形の出

現時期を第二期後期と捉えている〔孔1980〕。このばあい、前期は武則天の光宅元年(684)か

ら玄宗開元末年(741)まで、後期は天宝元年(742)から大歴十四年(779)までである。秋山

は、葵花形鏡の出現が開元二十六年(738)の李景由墓まで繰り上がるとしながらも、「隋唐時

代の鏡の形態が円形のものから、稜花形へ、さらに葵花形へと変化する変遷順序に筆者も異議

はない。」と断言しているのだ。しかしながら、私は林説を支持したい。

 先般、盤龍鏡について考察した際、円鏡の外縁に切れ込みを施すことによって八花鏡ⅠA式

が生み出され、これがⅠB式さらにⅠC式へと発展した可能性について触れ、八稜鏡について

は「思案中である」とした〔山本2010b〕。この点についていささか思案してみた。八花鏡成因の

一つとして、小林は緯錦の影響を指摘したが、ほかにも以下のような理由が考えられよう。

  ①純粋に外形デザインとして案出された

  ②円鏡として鋳造した後、外縁を削り、8カ所の切れ込みを創った

  ③金銀器の影響、とくに銀貼鏡のばあい

 八稜鏡のばあいは③の可能性もあるが、上とは別の仮説を検討する必要がある。

  ④対葉花団華紋の影響

 ①については検証のしようがないが、その創出にはなんらかの要因があったはずだ。②につ

いては、なぜ削ろうとしたのか、その動機によってさらに2つに分かれる。

  a)絵画的画面(一方向から見る)を造るため、上下左右の基準が必要

  b)密蝋で作った紋様部分を本体に貼り付ける際、何らかの目安が必要

 どちらのばあいも、特に八にこだわるいわれはなく、四花あるいは六花いずれでも可。③は、

先の小林行雄による緯錦影響説に近い。金銀器に八曲のものがあるからだ。八稜鏡のばあいは、

円形構図の外周に「対葉花」を外向きに8個ならべたところから始まった可能性がある。④説

である。

 ①を除き、どの仮説が妥当か検討してみよう。また、八花鏡と八稜鏡のどちらが先に登場し

たか、も問わねばならない。

(2)円鏡加工説

 これは八花鏡だけにあり得る仮説で、八稜鏡にはあてはまらない。八花形ⅠA・ⅡAは、

小林の定義のうち「もとの円周とはちがった弧形」ではなく、元の円周そのままであり、円鏡

からまずⅠAあるいはⅡAが生み出され、それがBさらにはCへと発展したと考えたらいか

がであろう(ⅡAとⅠAには外区銘文帯の有無だけの差しかない)。円鏡からいきなり八稜鏡へ展開し

たとすれば、①説を採らざるを得ない。しかも八稜鏡にはⅠ式が無く、すべてⅡ式なのだ。八

稜鏡は八花鏡ⅡC段に対応する[第7図]。

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 ⅠA・ⅡA式を造るに

は、鋳あがった円鏡の外

縁を削って8カ所に刳り

込みを施す方法と、円形

鏡体の蝋型を造り、その

外縁に刳り込みを施す方

法が想定できる。後者の

ばあいは次の蝋型説と関

わってくるので、ここで

は前者について考えてみ

よう。

 もし、鋳造後に外周を

削って8カ所の切れ込み

を入れたと仮定すると、

切れ込みの位置は一定せ

ず、微妙にズレていると

予想される。そのため、

紋様の中軸線と切れ込み

の位置関係を、とりあえ

ず八花形が多い高士弾琴

鏡について、調べてみた(表の「ズレ」欄を参照されたい)。八花鏡ⅠA式14面、ⅡA式11面、六

花ⅠA式3面が対象となる。

 ⅠA式のうち合致するのは4面、ほかの11面は2度から18度の範囲でズレがある(六花形のば

あいは当然ながらもっと大きく、25度から30度)。ⅡA式では合致するもの5面、3度から7度ズレるも

の7面がある。これらのうちズレるものに刳り込みがきわめて小さく、円鏡と見まごう類があ

るのだ。たとえば北京故宮博物院蔵の高士弾琴鏡(ⅡA、左へ3度ズレ)などである。

(3)蝋型説

 分割して蝋型を造り、貼りあわせる際、円形であるより八花・八稜形の方がやり易いと思う。

人物故事鏡に先行する鏡式として十二支紋鏡があるが、これは円鏡であり、その製作には何か

しらぎこちなさが見受けられる。過渡期の様相と捉えられるのではなかろうか。中野徹は、和

泉市久保惣記念美術館所蔵の「四神十二支文鏡」について、4点の観察結果を記した上で、次

のように考察している〔久保惣1985〕。少し長くなるが、引用させていただく。

 ①鋸歯文は、1歯1歯が高低さまざまに並び、しかも十二支の戌亥の外あたりでは3歯が上下

に層を成して重なっている。

②十二支をかこむ内外の凸帯は、円形にみだれがあり、縦枠の凸帯は、折り切った棒をはめ

こんだように、内外2帯と、あるいは下に、あるいは上におりかさなって接合されている。

 ③流雲を身辺に配した十二支の各像は、像を浮き彫りした薄板をそれぞれ切り取って貼りつ

第7図 八花形・八稜形鏡体模式図

円形

八花形� A

八稜形� B

八花形� B 八花形� C

八稜形�C 複合八稜形

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けたような様態で、地の面と像の周囲の際にわずかな段差がある。この様態は、周辺を調

整してはあるが、内の四神像についても同様である。

 ④鈕座が地の面から浮きあがり、あたかも半田着けしたような状態を示す。

 以上の4点は、造型の一段階において、完成時と同様に陽刻され、分断された部分を貼りあ

わせて文飾を構成したことを示唆しており、たとえば蝋を用いて型ぬきしたり、裁断したりし

た部分を型面に貼りあわせるというような造型法が考えられる。四神や十二支の像、流雲文に

は、以上の操作を終えた上で、刻線が加えられている。

 このように型面に文飾部分を貼りつけたと見える痕跡は、海獣葡萄鏡に先立つ、いわゆる走

獣文鏡にも残されている。時とともに貼合の技術と周囲の調整が向上してはいるが、後の八稜

あるいは八花鏡などまで同様の方法がとられたものと思われる。

 需要が多くなって次に採った方法が「踏み返し」である。

(4)緯錦説

 緯錦は、機の複雑な操作によって、左右にも上下にも対称な図柄を織り出すことを可能にし

た。法隆寺の「四騎獅子狩紋錦」がその代表例である。八花・八稜鏡の鏡背紋にも左右対称構

図が多く採用されており、緯錦の影響も考えねばならない。小林行雄は、緯錦の登場が左右・

上下に対称な紋様を唐代の工芸界全般に流行させる動因になり、このような紋様構成法は、鏡

背紋ばかりでなく、漆器や磚にも影響を与えた、と考えた〔小林1965〕。この小林の指摘は、紋

様の構成原理に関しては正鵠を射ている、と評価できるが、八花や八稜形が採用されたことの

説明にはならない。団華紋や対鳥紋などにはあてはまるが、左右非対称の絵画的配置のばあい

には無理がある。また、鳥獣が点対称に配された「旋回鏡」の仲間はこの対象からはずれてし

まうことになる。

 魅力に富んだ仮説であるが、さらなる検証が必要であろう。

(5)金銀器影響説

 金銀器の影響も考慮せねばならない。ひとつは八曲杯の存在、これと八花・八稜とは無関係

であろうか。大型の銀盤は基本的に六曲なので、対象からはずれる。ストックホルムのMuseum

of Far Eastern Antiquities が所蔵する「鳳鳥金獅紋三足盤」は八曲で鏡のⅡC式に相当する

外形をなし、内区の紋様は旋回型の双鳥瑞獣紋である。この銀盤は年代的に鏡と併行すると思

われ、銀器が先か鏡が先かの判定をまずおこなう要がある。しかも八花鏡のばあい、A式が先

行しB・C式がそれを襲ったとすると、この仮説は成り立たないことになる。

 もうひとつは金銀器と銀貼鏡とに共通する施紋法、鎚蝶と鏨彫りの技法である。銀貼鏡は、

銀板に鎚蝶によって紋様を打ち出し、さらに鏨彫りで細部の加工を施し、それを鏡背に貼り付

けて作る。鍍金を施すことが多く、時には紋様部分のみ鍍金して、地の銀色と対比させること

によって装飾効果を増そうとしたものもある。

 八花・八稜形の銀貼鏡がほぼ時を同じくして、盛唐に至って出現したが、消滅したのはかな

り速く、ごく短期間だけ盛行したと考えられている。まず銀貼鏡が出現し、その影響を受けて

八花・八稜形の銅鏡が造られるようになった可能性はあろう。

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(6)対葉花団華紋説

 先に触れたように、八稜鏡については八花形とは別な成因を考慮せねばならない。円形構図

をなす主紋(いわゆるローゼット)の外周に対葉花を8個並べると八稜形になるのだ。

 このような8葉の「対葉花団華紋」は8世紀はじめ頃に成立し、永泰公主墓・懿徳太子墓な

どの壁画や石槨を飾っている(4葉のものは若干古く、670年の史訶耽墓に見える)。高松塚古墳出土の

飾金具もこの仲間である〔袁・山本2008〕。陶器、特に皿の内面装飾にも多く、金銀器の鋺など

の器種にも同類の紋様が採用されている。

 それらの外形は単純な八稜鏡より、稜が二段になった「複合八稜形」に近い。

 おわりに

 唐代の鏡工人たちがなぜ八花形や八稜形を採用したのか。この疑問に答えるには、盤龍鏡・

人物故事鏡の分析だけでは足りない。次回には最も点数の多い「対鳥鏡」を取りあげるので、

その際にもう一度挑戦してみたい。

参考文献

秋山1995 秋山進午「隋唐式鏡綜論」『泉屋博古館紀要』第11巻��泉屋博古館

梅原1945 梅原末治『唐鏡大観』京都帝国大学文学部考古学資料叢刊第3冊 美術書院 

袁・山本2008 袁香・山本忠尚「対葉花紋の研究」『古事 天理大学考古学・民俗学研究室紀要』第13冊

岡崎1987 岡崎敬「シベリア発見の唐鏡について」『中国の考古学 隋唐篇』同朋社

久保惣1985 和泉市久保惣記念美術館『和泉市久保惣記念美術館 蔵鏡図録』和泉市久保惣記念美術館

献納宝物1996 東京国立博物館『法隆寺献納宝物』東京国立博物館特別展カタログ 

孔1980  孔祥星「隋唐銅鏡的類型與分期」『中国考古学会第一年次論文集』文物出版社

小林1965 小林行雄『古鏡』学生社

参考館1988 天理大学・天理教道友社『ひとものこころ 隋唐の文物』天理教道友社 1988

隋唐文化1990 陜西省博物館『隋唐文化』学林出版社

朱1981�� 朱江「也来談談揚州出土的唐代銅鏡」『文博通訊』1981年第4期

蘇2007  蘇哲『魏晋南北朝壁画墓の世界』白帝社

林1966  林良一『シルクロードと正倉院』日本の美術6��平凡社

山本2010� 山本忠尚「海磯鏡に関する覚え書き」『古事』天理大学考古学・民俗学研究室紀要第14冊

山本2010� 山本忠尚「盤龍鏡に関する覚え書き」『坪井清足先生卒寿記念論文集―埋文行政と研究のはざま

で―』  坪井清足先生の卒寿をお祝いする会

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名 称出 典池 / 岩鳳凰高士 / 琴鈕 / 座山雲ズレ銘 文外縁型銘 / 鶴径出土地または所蔵者

真子飛霜銅鏡文物 93-2A/ 左左片脚見返右 / 斜亀 / 蓮A―なし狭円形真子24浙江寧海

蓮池伯牙弾琴文八花縁鏡唐鏡大観 62A/ 左左片脚見返右 / 斜亀 / 蓮A左 4 。なし狭八花形ⅠA真子22.9東馬三郎

白牙弾琴八花鏡古鏡聚英 3-1A/ 左左片脚見返右 / 斜円 / 蓮A左 3 。なし狭八花形ⅠA真子16.3高橋泰郎

真子飛霜葵花鏡練形神冶 92B/ 右右片脚見返左 / 水平円/なしB右 18 。なし広八花形ⅠA真子18.5上海博物館 a

真子飛霜鏡鄂州銅鏡 265B/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮B右 2 。なし狭八花形ⅠA真子18.3湖北鄂州鄂鋼工地

真子飛霜鏡浙江出土 119B/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮B右 4 。鳳凰双鏡狭八花形ⅡA真子24浙江衢州市文管委

真子飛霜銘葵花鏡六安出土 175B/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮B合致鳳凰双鏡広八花形ⅡA真子21.5安徽六安市文物局

白牙弾琴八花鏡欧米挿 19B/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮B合致鳳凰双鏡狭八花形ⅡA真子21.3ギャラッスィー

真子飛霜高士弾琴紋鏡久保惣新 95B/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮B―鳳凰双鏡狭円形真子20.3久保惣美術館

包銀真子飛霜鏡六安出土 174B/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮D―鳳凰双鏡狭円形真子20.2安徽六安(寿県博物館)

蓮池伯牙弾琴文八花縁鏡唐鏡大観 61B/ 右右両脚正面左 / 水平亀 / 蓮D左 3 。鳳凰双鏡広八花形ⅡAなし22.4黒川古文化研究所 a

鳳凰双鏡葵花鏡練形神冶 91B/ 右右両脚正面左 / 水平亀 / 蓮D右 4 。鳳凰双鏡狭八花形ⅡAなし21.7上海博物館 b

竹林弾琴鏡故宮蔵鏡 106B/ 右右両脚正面左 / 水平亀 / 蓮D左 3 。鳳凰双鏡狭八花形ⅡAなし21.5故宮博物院(北京)a

亀鈕鏡文物 86-4B/ 右右両脚正面左 / 水平亀 / 蓮D合致鳳凰双鏡狭八花形ⅡAなし21.4湖南常徳三湘酒廠

鳳凰伯牙弾琴図八花鏡黒川 53B/ 右右両脚正面左 / 水平亀 / 蓮D合致鳳凰双鏡狭八花形ⅡAなし21.0黒川古文化研究所 b

なし尊古齊B/ 右右両脚正面左 / 水平亀 / 蓮D右 6 。鳳凰双鏡狭八花形ⅡAなし不明尊古齊

真子飛霜紋銅鏡隋唐文化 27特殊右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮D合致鳳凰双鏡狭八花形ⅡBなし30陜西西安韓森寨

伯牙弾琴鏡出光 125C/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮C右 7 。鳳凰双鏡狭八花形ⅡA鶴18.8出光美術館

鳳凰双鏡考古 92-11C/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮C右 7 。鳳凰双鏡狭八花形ⅡA鶴18.3湖南衡陽水口山二廠

伯牙弾琴鏡大和文華 37C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C合致鳳凰双鏡狭八花形ⅡA鶴18.0大和文華館

真子飛霜鏡九江出土 69C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C右 3 。なし広八花形ⅠA鶴16.3江西九江徳安

真子飛霜鏡岩窟 496C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C?なし広八花形ⅠA鶴16.1陜西

真子飛霜鏡賞玩 177C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C合致なし広八花形ⅠA鶴16.1不明

蓮池弾琴鏡大谷Ⅴ 66C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C左 11 。なし広八花形ⅠA鶴16.0大阪大谷大学資料館

真子飛霜銅鏡文物 81-2C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C右 7 。なし広八花形ⅠA鶴16江蘇宝應紅衛公社

真子飛霜鏡中原文物 02-6C/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮C合致なし広八花形ⅠA鶴22河南新鄭薛店鎮

伯牙弾琴八花鏡唐鏡 65C/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮C合致なし広八花形ⅠA鶴16.1泉屋博古館

葵花形高士鏡偃師杏園 133C/ 右右?左 / 水平亀 / 蓮不明左 5 。なし広八花形ⅠA鶴16河南偃師杏園YMH3

真子飛霜葵花鏡六安出土 176C/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮C右 7 。なし広八花形ⅠA鶴16安徽六安(舒城県文管委)

真子飛霜鏡文物 79-7C/ 右右?左 /亀 / 蓮C?なし広八花形ⅠA鶴16江蘇楊州�江

真子飛霜鏡鄂州銅鏡 300C/ 右右片脚見返左 / 水平亀 / 蓮C左 11 。なし広八花形ⅠA鶴15.6湖北鄂州

真子飛霜鏡文物 90-6C/ 右右片脚見返左 / 斜? / 蓮C左 11 。なし広八花形ⅠA鶴15.2江西瑞昌流庄郷

真子飛霜鏡浙江出土彩 16C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C右 30 。なし広六花形ⅠA鶴16.3浙江衢州銅山坑水庫

真子飛霜鏡千鏡堂 252C/ 右右片脚見返左 / 斜亀C右 30 。なし広六花形ⅠA鶴15.8千鏡堂(江蘇丹陽)

真子飛霜鏡歴代銅鏡 154C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C右 25 。なし狭六花形ⅠA鶴15.7河北龍関採集

白牙弾琴鏡古鏡聚英 13-2C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮C―鳳凰双鏡―円形鶴17.4愛知幡豆(諸陵寮)

蓮池白牙弾琴文鏡唐鏡大観 63下山 / なし右片脚見返左 / 水平円なし―なし―円形なし不明シカゴ美術館

真子飛霜鏡西安精華 112特殊 / 右右片脚見返左 / 水平円 / 蓮特殊―なし―亜字形真子17.3陜西西安新城区

真子飛霜鏡九江出土 68特殊 / なし左片脚正面右 /亀なし―なし―八稜形なし17.2江西九江(九江市博)

蓮池白牙弾琴文方鏡世界美術 177C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮B―なし―方形侯瑾之17.7大英博物館

侯瑾之銘方鏡故宮銅鏡 71C/ 右右片脚見返左 / 斜亀 / 蓮B―なし―方形侯瑾之14.6故宮博物院(北京)b

1 高士弾琴鏡(真子飛霜鏡)

人物故事鏡一覧

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2 月宮鏡

名称出典水池 / 桂樹兎脚 / 蟾蜍嫦娥 / 雲鈕外 区型 式径出土地または所蔵者

桂樹月兎嫦娥八稜鏡ひともの 71なし /A2右両 / 右左 / 雲瘤飛雲八稜形ⅡB21.6天理参考館

月兎八稜鏡貫前神社 1なし /A2右両 / 右左 / 雲瘤飛雲八稜形ⅡB20.7貫前神社(群馬)

月宮鏡陜西出土 120なし /A2右両 / 右左 / 雲瘤飛雲八稜形ⅡB20.5陜西西安出土

月宮月宮鏡鏡浙江出土彩 19なし /B5左両 / 左右 / なし瘤飛雲八稜形ⅡB15浙江衢州

月宮鏡考古 95-2なし /B5左両 / 左右 / なし?飛雲八稜形ⅡB15江蘇揚州�江揚寿郷

月兎八稜形唐鏡 69なし /B5左両 / 左右 / なし瘤飛雲八稜形ⅡB14.9泉屋博古館

月宮菱花鏡練形神冶 94なし /B5左両 / 左右 / なし瘤飛雲八稜形ⅡB14.8上海博物館

月宮鏡文物 86-10なし /B5左両 / 左右 / なし瘤飛雲八稜形ⅡB14.8安徽潜山(潜山県文管所)

月宮嫦娥鏡岩窟 499なし /B5左両 / 左右 / なし瘤飛雲八稜形ⅡB14.6内蒙古綏遠

月宮鏡九江出土 67なし /B5左両 / 左右 / なし瘤飛雲八稜形ⅡB14.5江西九江金属廠(九江市博物館)

月桂八稜鑑欧米 72-2なし /A3左両 / 右右 / 雲瘤蝶+花枝八稜形ⅡB14.4フリアー

月兎八稜鏡隋唐の美術255なし /A3右片 / 左左 / なし瘤蝶+花枝八稜形ⅡB12.1ユーモルフォポロス

嫦娥月兎鏡大谷Ⅴ 67なし /A3右片 / 左左 / なし瘤蝶+花枝八稜形ⅡB12.0大阪大谷大学資料館

月宮鏡図典 626あり /B3左 / 右左 ( 大吉 )亀蝶+花枝八稜形ⅡB19.7不 明

仙女玉兎紋鏡故宮銅鏡 58あり /B3左 / 右左(大吉)/なし亀蝶+花枝八稜形ⅡB19.1故宮博物院(北京)

月宮葵花鏡練形神冶 95あり /B3左 / 右左(大吉)/なし亀蝶+花枝八稜形ⅡB19上海博物館

月兎紋八稜鏡唐鏡大観 72下あり /B3左 / 右左(大吉)/なし亀蝶+花枝八稜形ⅡBシカゴ美術館

月宮文鏡故宮特展 128あり /B3左 / 右左(大吉)/なし亀蝶+花枝八稜形ⅡB18.2故宮博物院(台北)

嫦娥奔月鏡陳介祺 176あり /B3左 / 右左 ( 大吉 )亀蝶+花枝八稜形ⅡB17.6陳介祺

嫦娥桂樹鏡浙江選集 45なし /A3右片 / 無左 / 雲瘤―円形14.5浙江

月宮故事鏡歴代銅鏡 151なし /A3? / 下左 / 雲瘤―円形14.3河北張家口

月宮嬋娟鏡西安精華 111なし /B3左片 / 右右 / なし瘤―円形14.1陜西西安逢湖区電容器廠

月宮鏡浙江出土 120なし /B3左両 / 右右 / なし瘤―円形13.9浙江江山源口郷

月兎文鏡唐鏡 68なし /B3左片 / 右右 / なし瘤―円形13.8五島美術館

月兎文鏡唐鏡大観 72上なし /B3左片 / 右右 / なし瘤―円形12.6ビッドウェル a

桂樹月兎文鏡久保惣蔵鏡 83なし /A3右両 / 下左 / 雲瘤―円形12.1久保惣記念美術館

月宮嫦娥鏡岩窟 498なし /A3右 / 下左 / 雲瘤―円形11.6不 明

月兎四神文鏡唐鏡大観 70下なし /B3右 / 鈕左 / なし蛙雲+四神円形16ビッドウェル b

月宮龍虎鏡岩窟 500なし /A3右両 / 左龍虎瘤銘文円形17.7伝河南出土

月宮鏡陜西出土 121なし /B3兎無2仙人 / 雲円―八花形ⅠA13.3陜西西安小土門出土

月宮葵花鏡練形神冶 93なし /A右両 / 下なし獣銘文 3圏八花形Ⅱ A16.1上海博物館

3 榮啓奇鏡(三楽鏡)

名称出典型式銘径出土地または所蔵者

三楽鏡岩窟 495八花形Ⅰ A榮啓奇13.0山東

三楽鏡西安郊区 37八花形Ⅰ A榮啓奇13陜西西安郊区 216 号墓

榮�奇葵花鏡青銅器全集 162八花形Ⅰ A榮啓奇12.9河南洛陽北郊出土

榮�奇問孔子葵花鏡大全 1290八花形Ⅰ A榮啓奇12.9陜西西安(陜西省博物館)

三楽鏡賞玩 151八花形Ⅰ A榮啓奇12.9不 明

三楽鏡中原文物 09-3八花形Ⅰ A榮啓奇12.8陜西霊宝市文管所

三楽八花鏡久保惣 84八花形Ⅰ A榮啓奇12.8久保惣記念美術館

三楽鏡岩窟 494八花形Ⅰ A榮啓奇12.8山東済寧

三楽鏡歴代銅鏡 153八花形Ⅰ A榮啓奇12.8河北保定採集

孔子栄啓奇八花鏡守屋 36八花形Ⅰ A榮啓奇12.7京都国立博物館

なし岡崎 93八花形Ⅰ A榮啓奇12.7シベリア・ミヌシンスク

三楽鏡陜西出土 117八花形Ⅰ A榮啓奇12.5陜西西安王家墳 1号墓

孔子榮啓奇問答鏡桃華盒 49下八花形Ⅰ A榮啓奇12.5不明

孔子榮啓奇画像鏡考古與文物 87-4八花形Ⅰ A榮啓奇11.8河南洛陽

三楽鏡西安精華 113六花形Ⅰ A榮啓奇12.8陜西西安逢湖区熱電廠

三楽鏡考古與文物 93-1六花形Ⅰ A榮啓奇12.7宝鶏市博物館

三楽鏡故宮特展 130円形榮啓奇12.2故宮博物院(台北)

榮�奇(期)鏡故宮銅鏡 72円形榮啓奇12.1故宮博物院(北京)

榮�奇鏡練形神冶 96円形榮啓奇12上海博物館

三楽鏡陳介祺 175円形榮啓奇12陳介祺

三楽鏡図典 637円形榮啓奇12不明

なし尊古齊円形榮啓奇不明尊古齊

孔子遇榮�期鏡洛陽出土 87円形榮啓奇11.8河南洛陽

Page 16: 人物故事鏡に関する覚書き - 天理大学...人物故事鏡に関する覚書き 山本 忠尚 -˜˚- えさせるモチーフができあがり、唐鏡では背文を飾る一つのパターンとなった。わが国の

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参考文献(表で取りあげたもの、日本語読み五十音順)

出光    出光美術館『中国古代の美術』出光美術館 1978

偃師杏園  中国社会科学院考古研究所『偃師杏園唐墓』科学出版社 2001

大谷V   大谷女子大学資料館『収蔵品図録Ⅴ―鏡鑑2―』大谷女子大学資料館 1999

岡崎    岡崎敬「シベリア発見の唐鏡について」『中国の考古学 隋唐篇』同朋社 1987

欧米    梅原末治『欧米に於ける支那古鏡』刀江書院 1931

鄂州銅鏡  鄂州市博物館『鄂州銅鏡』中国文学出版社 2002

岩窟    田中琢・岡村秀典訳『岩窟蔵鏡』同朋社出版��1989(梁上椿『岩窟蔵鏡』1940�42の翻訳)

久保惣   和泉市久保惣記念美術館『和泉市久保惣記念美術館蔵鏡図録』和泉市久保惣記念美術館 1985

久保惣新  和泉市久保惣記念美術館『和泉市久保惣記念美術館新収蔵品図録』和泉市久保惣記念美術館 

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黒川    黒川古文化研究所『所蔵品選集 青銅の鏡―中国―』黒川古文化研究所 2004

九江出土  九江市博物館・呉水存『九江出土銅鏡』文物出版社 1993

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考古95‐2 �李則斌「揚州新近出土的一批文物」『考古』1995年第2期

考古與文物87‐4 米士誡・蘇健「洛陽蔵鏡述論」『考古與文物』1987年第4期

考古與文物93‐1 高次若「宝鶏市博物館蔵唐鏡精粋」『考古與文物』1993年第1期

故宮蔵鏡  郭玉海『故宮蔵鏡』紫禁城出版社 1996

故宮銅鏡  何林『故宮収蔵 �応該知道的200件銅鏡』紫禁城出版社 2007

故宮特展  国立故宮博物院編輯委員会『故宮銅鏡特展図録』国立故宮博物院 1986

古鏡聚英  後藤守一『古鏡聚英 下篇』東京堂出版 1977(初版は大塚巧芸社 1935)

賞玩    姚江波・邱東聯『中国歴代銅鏡賞玩』湖南美術出版社 2006

隋唐の美術 大阪市立美術館『隋唐の美術』平凡社 1978

隋唐文化  陜西省博物館『隋唐文化』学林出版社 1990

青銅器全集 段書安編『銅鏡』中国青銅器全集16 文物出版社 1998

西安郊区  中国科学院考古研究所『西安郊区隋唐墓』科学出版社 1966

西安精華  西安市文物保護考古所『西安文物精華 銅鏡』世界図書出版公司 2008

世界美術  曽布川寛他編『世界美術大全集 東洋編3』小学館 2000

浙江出土  王子倫『浙江出土銅鏡』文物出版社 1987

浙江選集  王子倫『浙江出土銅鏡』中国古典芸術出版社 1958

泉屋博古  泉屋博古館『泉屋博古 鏡鑑編』泉屋博古館 2004

4 吹簫引鳳鏡

名称出典地紋外縁型式径出土地または所蔵者

吹簫飛鳳八花鏡泉屋博古 148八花形Ⅰ A13.2泉屋博古館

王子晋吹笙引鳳画像葵花鏡大全 1291八花形Ⅰ A12.9陜西安康(陜西省博物館)

王子喬吹簫引鳳葵花鏡青銅器全集 161八花形Ⅰ A12.9河南洛陽

吹笙引鳳紋鏡文物 97-7花鳥八花形Ⅱ B18山東鄒城

游仙舞鳳文鏡唐鏡大観 70上海磯なし円形14ドッドウェル

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千鏡堂   陳鳳九『丹陽銅鏡青瓷博物館 千鏡堂』文物出版社 2007

陜西出土  陜西省文物管理委員会編『陜西省出土銅鏡』文物出版社 1958

尊古齊   黄濬『尊古齊古鏡集景』上海古蹟出版社 1990

大全    馬承源『文物精華大全 青銅巻』商務印書館・上海辞書出版社 1994

中原文物02‐6 李宏昌「河南新鄭清理一座唐墓」『中原文物』2002年第6期

中原文物09‐3 胡小平「霊宝市文物管理所所蔵部分銅鏡」『中原文物』2009年第3期

陳介祺   陳介祺『齊吉金録』神州国光社 1918

図典    孔祥星『中国銅鏡図典』文物出版社 1992

桃華�   富岡益太郎『桃華�古鏡図録』 1924

唐鏡    泉屋博古館『唐鏡』泉屋博古館 2006

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貫前神社  奈良文化財研究所飛鳥資料館『貫前神社蔵鏡図録』東アジア金属工芸史の研究8 奈良文化財

研究所飛鳥資料館 2006

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文物79‐7 �周欣・周長源「揚州出土的唐代銅鏡」『文物』1979年第7期

文物81‐2 �陸書香「江蘇宝應出土唐代真子飛霜銅鏡」『文物』1981年第2期

文物86‐4 �劉廉銀「常徳地区収集的孫呉和唐代銅鏡」『文物』1986年第4期

文物86‐10 �余本愛「潜山県発現唐代月宮鏡」『文物』1986年第10期

文物90‐6 �劉礼純「介紹瑞昌博物館蔵七星十二宮鏡等古代銅鏡」『文物』1990年第6期

文物93‐2 �滕延振・石世鎮「浙江寧海発現一件真子飛霜銅鏡」『文物』1993年第2期

文物97‐7 �胡新立・王軍「山東鄒城古代銅鏡選粋」『文物』1997年第7期

守屋    京都国立博物館『守屋孝蔵蒐集 漢鏡と隋唐鏡図録』京都国立博物館 1971

大和文華  奈良文化財研究所飛鳥資料館『大和文華館蔵鏡図録』東アジア金属工芸史の研究7 奈良文化

財研究所飛鳥資料館 2005

歴代銅鏡  河北省文物研究所『歴代銅鏡紋飾』河北美術出版社 1996

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六安出土  安徽省文物考古研究所・六安市文物局『六安出土銅鏡』文物出版社 2008