注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 kawaijuku guideline 2014.7・8...

19
航空宇宙工学 シリーズ 注目の学部・学科 第 26 回 現在、航空宇宙業界は世界的に活況を呈している。日本 も例外ではない。 航空機に関していえば、新興国の経済力の高まりに加え、 格安航空会社(LCC)の参入などによって、航空機の開発・ 生産への需要が今後も一層高まることが予測されているか らだ。日本航空機開発協会の調査によれば、世界の航空 旅客数は 20 年ごとに 2.5 倍のペースで幾何級数的に増 え続けている。しかもアジア・太平洋地域の伸び率が非常 に大きく、2032 年には世界シェアの 37%に達する予測 である。 現在の航空機メーカーは、アメリカのボーイング社とヨー ロッパのエアバス社が大きなシェアを占めているが、この 機会にアジアで旅客機製造産業を立ち上げることができ れば、大きなビジネスチャンスにつながる。こうした状況を にらみ、日本では三菱重工が国産ジェット旅客機 MRJ の 生産を開始した。また、自家用ビジネスジェットの分野で は本田技研の HondaJet が量産体制に入ろうとしてい る。さらに、ボーイング 787 型機では、主翼をはじめとし て機体の主要部分 35%を日本メーカーが生産している。 日本の航空機製造業は、かつてない盛り上がりを見せてい るのだ。 一方、宇宙機の分野も発展が著しい。従来、宇宙へはロ ケットで行くものだったが、今後は繰り返し使用できる飛行 機タイプの機体を使って宇宙まで行く「スペースプレーン」 (宇宙飛行機)時代の到来が予想されている。既に、英米 では民間企業が二段式スペースプレーン「スペースシップ CONTENTS p58 ……………………………………………p62 ……………………………………………p64 ……………………………………………p66 ………………………………………………p68 ……p70 ……………p72 ………………………………………p74 概説 空を飛びたいという人類の夢を 具体的なものづくりに生かす総合工学 名古屋大学 入試情報 構造力学 首都大学東京 渡辺直行 教授 空気力学 室蘭工業大学 溝端一秀 准教授 熱力学 早稲田大学 佐藤哲也 教授 教育 学生が開発した人工衛星を宇宙へ九州大学「IDEA プロジェクト」 コラム 航空宇宙工学、パイロット養成課程、 航空整備士養成課程の違い 崇城大学 卒業後の進路 ツー」の就航を発表し、宇宙旅行も提供するという。日本 でも、JAXA(宇宙航空研究開発機構)を中心にスペース プレーンの研究開発が続いている。また、世界で初めて地 球重力圏外の天体からのサンプルリターンに成功した小惑 星探査機「はやぶさ」の後継機である「はやぶさ2」も、 2014 年度の打ち上げを予定している。 このように日本では今、航空機やスペースプレーン、宇宙 探査機などの開発への機運が高まっており、こうした分野 へ人材を供給する航空宇宙工学にも、これまで以上に注目 が集まっている。 そこで、7・8月号では航空宇宙工学について学べる学部・ 学科を紹介する。その多くは工学部や理工学部に設置され ており、基本的な知識や技術は他の工学系の学科と共通し ている。ただし、航空機や宇宙機は、極めて高速で飛行す るなど極限環境で運用される機械であり、開発や製造には 非常に高度な知識や技術が要求されるほか、実際の飛行 や運用に際しては、緻密かつ大規模な管制システムを必要 とする。そのため、航空宇宙工学はそれらを全て含んだ学 問体系になっている。 Kawaijuku Guideline 2014.78 57 小型静粛超音速旅客機 CG (提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)) H-ⅡA ロケット 24 号機打ち上げ (提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

Upload: others

Post on 14-Oct-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

航空宇宙工学シリーズ   注目の学部・学科 第26回

 現在、航空宇宙業界は世界的に活況を呈している。日本も例外ではない。 航空機に関していえば、新興国の経済力の高まりに加え、格安航空会社(LCC)の参入などによって、航空機の開発・生産への需要が今後も一層高まることが予測されているからだ。日本航空機開発協会の調査によれば、世界の航空旅客数は20年ごとに2.5倍のペースで幾何級数的に増え続けている。しかもアジア・太平洋地域の伸び率が非常に大きく、2032年には世界シェアの37%に達する予測である。 現在の航空機メーカーは、アメリカのボーイング社とヨーロッパのエアバス社が大きなシェアを占めているが、この機会にアジアで旅客機製造産業を立ち上げることができれば、大きなビジネスチャンスにつながる。こうした状況をにらみ、日本では三菱重工が国産ジェット旅客機MRJの生産を開始した。また、自家用ビジネスジェットの分野では本田技研のHondaJet が量産体制に入ろうとしている。さらに、ボーイング787型機では、主翼をはじめとして機体の主要部分35%を日本メーカーが生産している。日本の航空機製造業は、かつてない盛り上がりを見せているのだ。 一方、宇宙機の分野も発展が著しい。従来、宇宙へはロケットで行くものだったが、今後は繰り返し使用できる飛行機タイプの機体を使って宇宙まで行く「スペースプレーン」(宇宙飛行機)時代の到来が予想されている。既に、英米では民間企業が二段式スペースプレーン「スペースシップ

CONTENTS

…p58

……………………………………………p62

……………………………………………p64

……………………………………………p66

………………………………………………p68

……p70

……………p72

………………………………………p74

◆概説 空を飛びたいという人類の夢を具体的なものづくりに生かす総合工学

名古屋大学

◆入試情報

◆構造力学首都大学東京 渡辺直行 教授

◆空気力学室蘭工業大学 溝端一秀 准教授

◆熱力学早稲田大学 佐藤哲也 教授

◆教育 学生が開発した人工衛星を宇宙へ-九州大学「IDEA プロジェクト」

◆コラム 航空宇宙工学、パイロット養成課程、航空整備士養成課程の違い

崇城大学

◆卒業後の進路

ツー」の就航を発表し、宇宙旅行も提供するという。日本でも、JAXA(宇宙航空研究開発機構)を中心にスペースプレーンの研究開発が続いている。また、世界で初めて地球重力圏外の天体からのサンプルリターンに成功した小惑星探査機「はやぶさ」の後継機である「はやぶさ2」も、2014年度の打ち上げを予定している。 このように日本では今、航空機やスペースプレーン、宇宙探査機などの開発への機運が高まっており、こうした分野へ人材を供給する航空宇宙工学にも、これまで以上に注目が集まっている。 そこで、7・8月号では航空宇宙工学について学べる学部・学科を紹介する。その多くは工学部や理工学部に設置されており、基本的な知識や技術は他の工学系の学科と共通している。ただし、航空機や宇宙機は、極めて高速で飛行するなど極限環境で運用される機械であり、開発や製造には非常に高度な知識や技術が要求されるほか、実際の飛行や運用に際しては、緻密かつ大規模な管制システムを必要とする。そのため、航空宇宙工学はそれらを全て含んだ学問体系になっている。

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 57

小型静粛超音速旅客機 CG(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

H-ⅡA ロケット 24 号機打ち上げ(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

Page 2: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

名古屋大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻

と思います」と、航空宇宙工学専攻長の笠原次郎教授は語る。 以下、名古屋大学での研究内容をもとに6つの研究領域を見ていく。ただし、航空機や宇宙機は極めて複雑なシステムであり、その開発にはさまざまな分野の先端科学技術を結集し、かつバランスよく調和させる必要がある。その意味で、航空宇宙工学は総合工学であり、各研究領域の協調によって成り立っていると言える。 1 流体力学 流体力学は、航空宇宙機の周りの空気の流れを解析したり、空気から受ける揚力や抵抗などを計算したりする分野だ。学問としての流体力学は水の流れも扱うが、航空宇宙工学における流体力学は主に空気を扱うため、空気力学と呼ばれることも多い。 空気の流れを解析するのに、よく知られているのが風洞実験だ。風洞内に物体を置き、そこに空気を流すことでその物体の周りの空気の流れを解析する方法だ。 「現在では、コンピュータの発達により、航空機の周囲の数値計算ができるようになってきており、数値計算と風洞実験を組み合わせたシミュレーションによる研究になってきています」(笠原教授) また、物体が空気中を高速で飛ぶと大きな音が発生する。空気騒音の解析や、衛星を音圧から守るためにロケット先端部の形状を工夫するような研究も、この領域で行われている。 2 電離気体力学 流体力学の先進的な内容を扱う研究を行っている。例えば、プラズマやレーザーを使って流体と超音速機の相互

空を飛びたいという人類の夢を具体的なものづくりに生かす総合工学概説

航空機・宇宙機の開発や運航に必要な全ての領域を集めた学問

 航空宇宙工学は、人類が大気圏や宇宙空間を利用するための技術を実用化するのに必要な学問分野が結集した総合工学である。具体的には、大気圏を飛行する航空機やヘリコプター、宇宙空間へ人や物資を送り届けるロケット、宇宙空間で運用される人工衛星や宇宙ステーションなどを開発したり、それらを確実に運用するシステムを構築したりするのに必要な知識や技術を研究開発している。 例えば、航空機なら、軽くて強度のある構造が必要だし、それを支える素材の開発も必要だ。また、十分な揚力を得られる翼や、強い推進力を持つエンジンの設計なども求められる。さらに、航空機を安全に飛行させるための運航管理技術や管制システムなども不可欠だ。人工衛星やスペースシャトル、宇宙ステーションといった宇宙機も同様である。 実際の航空宇宙工学の研究は、工学系のさまざまな学問分野で行われている。機械や電気、制御、材料などを対象とする研究者が、航空機や宇宙機に関わる研究を行えば、それは航空宇宙工学の研究になる。とはいえ、航空機と宇宙機には共通した特徴があるため、それらに対応する学問分野を集めれば、航空宇宙工学に関する研究領域のおおよその概要が見えてくる。 今回は名古屋大学工学部機械・航空工学科航空宇宙工学コースを例に、航空宇宙工学の概要を見てみよう。 「名古屋大学では、流体力学、電離気体力学、推進エネルギーシステム工学、構造力学、制御システム工学、航空宇宙機運動システム工学の6つの研究グループがあります。航空宇宙工学系統では最も伝統的な分け方であり、名称や区分の仕方で多少の差はあるにせよ、これらの学問分野は、どの大学の航空宇宙工学系もほぼ共通している

笠原 次郎 教授池田 忠繁 准教授坂本  登 准教授武市  昇 准教授

笠原次郎 教授

Page 3: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 59

作用を明らかにする研究では、超音速機の衝撃波をやわらげたり、超音速機の前方の空気にレーザーを照射して小さな爆発を起こすことで、空気抵抗を軽減させたりするような技術開発をしている。地上からのレーザービームによって推力を得るレーザー推進の研究も行っているほか、小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されたことでよく知られるようになったイオンエンジンよりも性能の高い推進装置である MPD 推進機(注1)の開発なども手がけている。 宇宙機が大気圏内を飛行する際にはかなり高温になるため、表面の素材が溶融・気化することで冷却する技術が使われているが、その特性を正確に計測するセンサーの開発などもこの研究領域で行われている。 3 推進エネルギーシステム工学 主にロケットエンジンやジェットエンジンなどを研究する分野で、新しいエンジン開発などに必要な研究を行っている。 笠原教授は「ロケットエンジンに使われる燃料は、デフラグレーションと呼ばれる遅い燃焼形態を利用していますが、実はどの燃料にもデトネーションと呼ばれる音速の5~8倍の速度で燃焼する極超音速の燃焼形態があります。ロケットエンジンにこの速い燃焼形態を利用できれば、より高効率で単純な仕組みのエンジンが実現する可能性があります。そこで、デトネーションロケットエンジンの基礎研究と同時に、実証研究も進めています」と語る。 宇宙機の熱制御などもこの分野である。宇宙空間では太陽面は超高温になり、反対側は極低温になるため、機体の熱のバランスを保つことが難しい。そのため、液体の蒸発と凝縮を繰り返すことで熱の循環を行うループヒートパイプの高機能化などをめざした研究も進められている。 4 構造力学 航空宇宙機の構造全般を扱う領域で、構造だけでなく、強くて軽い素材開発なども研究対象だ。例えば、最近の航空機には炭素繊維とプラスチックを合わせた複合材が使われており、ボーイング 787 の場合は複合材料の使用率が重量の約 50%にも達する。カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーを使った新しい複合材の研究などもこの領域で行われている。 池田忠繁准教授は「通常の構造物で使われている材料は、荷重を支えたり、形状を保持したりしています。さらに進んで、構造材料の周囲の環境または内部の情報を材料自らが検知し、その環境に適した形状になったり、材料

定数を自律的に変更したりするような性質を持ったスマート材料という考え方があります。また、構造材料に用いられる繊維強化プラスチックは多くの場合、直線の繊維をプラスチックに合わせて使っています。しかし、繊維で強化された材料は、繊維の角度が少し変わると強度や剛性が大きく変わります。そこで、私は、繊維強化プラスチックの繊維を曲線的に配置することで構造物の剛性が最適に分布するようにしたり、形状記憶合金などを使って周囲環境や状況に応じて最適な形状や特性になるようにした材料や構造物の研究を進めています」と語る(注2)。 5 制御システム工学 航空宇宙機は絶えずバランスを取りながら飛行しており、制御システム工学は、そうした姿勢制御や軌道制御などについて研究する領域だ。 坂本登准教授は「現在の制御におけるキーワードの1つは『非線形』です。かつての航空機は操縦桿とフラップ(注3)などが直接つながっていて、操縦桿の操作と航空機の挙動が、パイロットには感覚的に理解できました。しかし現代の航空機は、レバーによる入力が行えるジョイスティックのようなもので電気的に操作しているため、パイロットの意思とは異なる動きをすることがあり、それが原因で非常に危険な振動が発生して事故につながることがあります。私は、こうした非線形制御に関する理論やアルゴリズムを研究しており、より安全な制御システムの開発にも関わっています。かなり数学を駆使する分野です」と説明する。 6 航空宇宙機運動システム工学 これまでの5領域は、静かに飛行させる、速度を増加させる、燃費を良くする、飛行姿勢を安定させるなど、主として航空宇宙機の性能を高めるための研究であるのに対して、航空宇宙機運動システム工学は、こうして性能が良くなった宇宙航空機が、その性能を十分に発揮できるような環境づくりを考える研究領域だ。具体的には、たくさんの航空機が目的地まで安全かつ燃費良く、短時間で飛べ

坂本登 准教授

池田忠繁 准教授

(注1)MPD 推進機:MPD は、Magneto-Plasma-Dynamic の略で電磁プラズマ推進機のこと。(注2)複合材料の開発について補足すると、日本は炭素繊維など複合材料の研究が優れており、現在、炭素繊維の生産では世界シェアの約 7 割を占めている。しかし、

製造工程の中間にあたる成形加工の分野では、近年欧米との差が生じている。そのため、国レベルで研究開発に乗り出し2012 年、産学官が連携した複合材料の世界的研究開発拠点として、名古屋大学に「ナショナルコンポジットセンター」が設立された(参考資料 NCC ホームページ)。詳しくは NCC ホームページ

(http://ncc.engg.nagoya-u.ac.jp)を参照してください。(注3)フラップ:飛行機の翼に取り付けられている、揚力を高めるための装置のこと。下げ翼とも呼ばれる。

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

Page 4: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

60 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

るような仕組みを考えるような研究である。 武市昇准教授は「航空機に搭載される装置や地上の施設・設備などは、第二次世界大戦後、間もなく開発されたものが長年使われてきました。その後、航空機を操縦するためのさまざまな技術が発展しましたが、航空交通管理の世界では従来のルールが適用されており、航空機は管制官が管制しやすいように飛行しています。しかし、最近の航空機の性能を十分に発揮できるような管制に変えることができれば、現在の航空交通は飛躍的に効率的になるはずで、現在、新しい交通管理の研究を進めています。航空宇宙工学はものづくりだけでなく、それらをいかに活用して価値を高めるか、といったことも考える学問なので

す」と語る。 なお、この領域では、地上から静止衛星の軌道面までケーブルなどで伝って行くことができる「軌道エレベータ

(宇宙エレベータ)」や宇宙デブリ(宇宙ごみ)を掃除する人工衛星など、将来的に人類に貢献する新しい宇宙システムの研究なども行っている。

 航空宇宙工学系の学部・学科では、どのような教育が行われているのか。大学によっては航空宇宙工学科を独立させず、機械工学系などと一緒に大括りで募集するとこ

航空宇宙機の設計まで含め実践的な教育プログラムを展開

1年 2年 3年 4年

概論通論

機・航概論 工学概論第 1 工学倫理 工学概論第 4

宇宙機概論 工学概論第 2 生産工学概論 安全・信頼性工学 工学概論第 3 経営工学 産業と経済 特許および知的財産 職業指導

全学教育科目(理系基礎科目除く)

全学基礎科目(基礎セミナー、言語文化科目、健康・スポーツ科学)、文系基礎科目、文系教養科目、理系教養科目、全学教養科目、開放科目

数学

微分積分学Ⅰ 線形代数学Ⅰ 微分積分学Ⅱ 線形代数学Ⅱ数学 1 及び演習

(常微分方程式・ベクトル解析)

複素関数論数学 2 及び演習

(フーリエ解析・偏微分方程式)

物理力学Ⅰ 力学Ⅱ 電磁気学Ⅰ 物理学実験

解析力学及び演習 電磁気学Ⅱ

量子力学基礎 統計物理学

化学化学基礎Ⅰ 化学実験 化学基礎Ⅱ

材力 材料力学及び演習 固体力学

応用構造理論 航空機構造設計法

材料 材料科学第 1 材料科学第 2 航空宇宙材料

流れ 流体力学基礎第 1 及び演習 非圧縮性流体力学 粘性流体力学

圧縮性流体力学 計算流体力学

熱・環境熱力学及び演習 原動機要素論

伝熱工学 気体燃焼論ロケット工学第 2

運動・振動

機構学 振動学及び演習

飛行力学 ヘリコプター工学 飛行安定操縦性論 宇宙航行力学 ロケット工学第 1

制御制御工学第 1 及び演習 制御工学第 2

動的システム論 フライトコントロールシステム

空力弾性論 最適制御理論

計算機・情報 計算機ソフトウェア第 1 計算機ソフトウェア第 2

情報基礎論 数理計画法

電気・電子 電気回路工学 電磁力学

電子回路工学

加工 精密加工学 航空宇宙機工作法

計測計測基礎論 航空装備システム 信号処理

設計・製図

図学 設計基礎論 機・航設計製図第 1 航空原動機設計法 航空機基礎設計法 機・航設計製図第 2

実験・実習

機・航実験第 1 工場見学 工場実習 機・航実験第 2 工場見学

卒業研究 A 航空宇宙創造設計 卒業研究 B

注:下線付き斜体文字の科目は全学教育科目理系基礎科目、■色の科目は必修科目、■色の科目は原則として短期留学生を対象とした科目であるが受講可能。  機・航:機械・航空工学科の略

<図表1>名古屋大学工学部機械 ・ 航空工学科 航空宇宙工学コース コースツリー(2014 年度入学生用)

Page 5: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 61

ろもあるが、その場合もある段階で航空宇宙工学コースなどに専門分化していくところが多い。 カリキュラムの大きな流れは次の通りだ。まず1年次では、数学、物理、化学の基礎を徹底的に学ぶ。高度な科学技術を扱うため、これらの素養が十分に身についていないと授業についていけないからだ。2年次になると材料や熱、流れ、振動、制御など工学系としての専門教育が始まる。3・4年次では航空機や宇宙機が設計できるような航空宇宙工学の専門科目や設計科目を履修し、卒業研究につなげていく。<図表1>は名古屋大学の例だが、履修の大きな流れはどの大学もほぼ同様だ。 航空宇宙工学は、航空機や宇宙機の開発を志向しているため、極めて実践的な科目も設けている。例えば、名古屋大学では、2013 年から「航空宇宙教育プログラム」を展開。航空宇宙業界における国際競争でリーダーシップをとれる人材の育成をめざし、学部3年次以上を対象に産業界や JAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携した教育が行われている<図表2>。 「現在、世界中で約 15,000 機の航空機が飛んでいますが、20 年後には 30,000 機を超えると予想されています。非常に大きな需要があり、日本はそこに参入するだけでなく、リーダーとしての立場を担うことをめざしています。幸い中部圏は、三菱重工や川崎重工などの航空機メーカーや自動車産業が集中しており、立地的に恵まれています」(笠原教授) 航空宇宙教育プログラムでは、学部3年次から JAXAが開発した数値シミュレーションツールを取り入れた

「計算流体力学」を学ぶほか、模型を使った「プレフライト実験」や JAXA の実験機を使った「実飛行実験」などに参加する。また、産業界や JAXA の非常勤講師による集中講義もある。特に「航空機基礎設計法」や「航空宇宙創造設計」などの科目では、商品企画や要求仕様からの設計など、メーカーの設計業務を製造段階まで視野に入れながら、実際の担当者から学べる極めて実践性の高い内容である。さらに博士課程の学生には、より高度な「フロンティア宇宙開拓リーダー養成プログラム」が用意され、国際的に競争力のあるプロジェクトを率いる能力を持った人材を組織的に育成している。

 航空宇宙工学が対象としているのは、空を飛び、宇宙へと飛び出す機械だ。鳥のように空を飛びたいと願った人類は、ライト兄弟の初飛行から約1世紀の間に、音速の3倍で飛行する航空機を実用化し、月面に人類を送り、宇宙空間で長期間生活できる宇宙ステーションを持つまでになった。 最後に、先生方に航空宇宙工学の魅力を語ってもらった。 「航空宇宙工学は『空を飛びたい』という人類の根源的な夢に支えられています。どんなにきつい仕事だとしても、好きであれば頑張ることができるはず。空や宇宙への憧れを感じているなら、ぜひ航空宇宙工学の世界を追究してほしいと思います」(笠原教授) 「航空宇宙という具体的な大きな夢やフロンティア精神を持った人々と議論をしたり、ものを作ったりできること以上の喜びはありません。将来の航空宇宙機の設計図は君たちの中にあります。一緒にそれを実現しよう!」(池田准教授) 「数学科の出身ですが、数学のアプローチで空や宇宙に行けるという意外なつながりに惹かれています。数学を突き詰めれば飛行機が飛び、宇宙機が飛ぶのというのは興味深いですね」(坂本准教授) 「航空宇宙工学は、常に航空機や衛星など具体的な応用先を想定しながら勉強と研究ができます。しかも人類規模、地球規模のエンジニアリングなので、壮大な目標を抱ける点が大きな魅力だと思います」(武市准教授)

根底にあるのは大空への夢それを実現できる喜びが原動力に

<図表2>航空宇宙教育プログラムにおける産学官連携体制

(名古屋大学航空宇宙教育プログラム 2013 年度実施報告書より)

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

Page 6: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

62 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

教科6科目)と高知工科大のB方式(3教科3科目)を

除き、他は全て理科2科目が必要な7科目型=理型であ

る。注目の「基礎を付した理科」を認めているのは、室

蘭工業大と高知工科大A方式のみであり、他はすべて「基

礎を付さない理科」を指定している。また、学科の特質上、

11大学中5大学は物理を必須科目として指定している。

 一方、後期日程では前・中期日程に比べて科目数を減

らす大学が多い。後期日程を実施する6大学中、前・後

期日程とも理型で行うのは室蘭工業大と九州大の2大学

のみであり、他は地歴公民を課さない4教科6科目や、

さらに国語も課さない3教科4~5科目となっている。

 航空宇宙工学は工学系でも人気系統 工学部の他学科より難易度は高め

 <表3>は大学のボーダー得点率の一覧である。一般

に工学系は大学数が多く、難易度も幅広い。航空宇宙工

学系についても東京大理科一類の89%から室蘭工業大夜

間主の50%まで幅広いが、特徴として言えることは、航

空宇宙工学系は工学系の中で人気系統であり、同じ大学

の工学部他学科の平均ボーダー得点率と比較すると数%

ほど高いことだ。後期日程を実施している大学では、いず

れも前期日程に比べボーダーラインは高めになってい

る。

 <表4>は前期日程の2次ランクの高い順にしたも

のである。これを見ると、2次試験の難易度と2次試

験科目にある種の相関があることがわかる。つまり、

難易度が高いほど、2次試験科目数が多い。最難関

の東京大は国語を含めた4教科5科目の出題だが、続

く東京工業大から広島大までは(化学を課さない首都

大学東京を除き)英・数・物・化の3教科4科目で、

 機械系学科の中で航空宇宙工学も学べる大学は多いが、

航空宇宙工学を専門に扱う学科やコース・専攻を設けて

いる大学は非常に少ない。河合塾の分類では、国公立大

で11大学(国立8、公立3)、私立大で9大学である。

 前・中期日程では理科2科目が必要な理型 理科の基礎科目で受験できるのは2大学のみ

 <表1>は、国公立11大学の一覧である。東京都には

3大学が集中しているものの、その他の地区は、1地区

に1~2大学しかない。入試日程は大阪府立大が中期日

程で行うほか、前期日程のみの実施が東北大、東京大、

東京工業大、名古屋大の4大学で、その他の大学は前・

後期日程での実施である。なお、入学時から航空宇宙工

学を選択できるのは首都大学東京のみであり、その他の

大学は一括募集、類募集を行うか、もしくは機械系学科

として入試を行い、進級時に航空宇宙工学系の学科・コ

ース・専攻を選択する。

 <表2>は 2015 年度新課程センター試験で課される

科目の一覧である。前・中期日程では、首都大学東京(4

<表2> 2015 年度新課程センター試験科目

入試情報

<表3> 2015 年度入試センター予想ボーダー得点率(%)

<表1>航空宇宙工学科・コース・専攻を設置している国公立大大学 学部 学科/コース・専攻等 前期 後期 中期

室蘭工業 工(昼・夜)機械航空創造系学科/航空宇宙システム工学コース ○ ○東北 工 機械知能・航空工学科/航空宇宙コース ○首都大学東京 システムデザイン 航空宇宙システム工学コース ○ ○東京 工 【理科一類】航空宇宙工学科 ○東京工業 工 【第4類】機械宇宙学科 ○名古屋 工 機械・航空工学科/航空宇宙工学コース ○大阪府立 工 機械系学類-航空宇宙工学課程 ○広島 工 第四類(建設・環境系)/輸送機器環境工学プログラム ○ ○高知工科 システム工 【学部一括】航空宇宙工学専攻 ○ ○九州 工 機械航空工学科/航空宇宙工学コース ○ ○九州工業 工 機械知能工学科/宇宙工学コース ○ ○※ 赤字は一般入試の募集の単位を表す

大学 日程 センター試験科目室蘭工業(昼・夜)前・後 理型【英 ※ L、国、物】《数2》《物化生基、化、生⇒1》《地公》東北 前 理型【英 ※ L、数AB、国】《理2》《地歴B、倫政⇒1》首都大学東京 前・後 4-6 【英 ※ L、数AB、国、物】《化、生⇒1》東京 前 理型【英、数AB、国】《理2》《地歴B、倫政⇒1》東京工業 前 理型【英 ※ L、数AB、国】《理2》《地歴B、現社、倫政⇒1》名古屋 前 理型【英 ※ L、数AB、国、物、化】《地歴B、倫政⇒1》大阪府立 中 理型【英 ※ L、数AB、国】《物、化、生⇒2》《地公》

広島 前 理型【英 ※ L、数AB、国】《理2》《地歴B、倫政⇒1》後 (3-5)【英 ※ L、数AB、物】《化、生⇒1》

高知工科前(A 方式)理型【英 ※ L、数AB、国】《物化生基、物、化、生⇒2》《地公》#理は同一名称科目の選択不可前(B 方式) 3-3 《英 ※ L、数、国、理、地公⇒3》後 (3-4)【英 ※ L、数AB】《物、化、生⇒1》

九州 前・後 理型【英 ※ L、数AB、国、物、化】《地歴B、倫政⇒1》

九州工業 前 理型【英 ※ L、数AB、国、物、化】《地歴B、倫政⇒1》後 (4-6)【英 ※ L、数AB、国、物、化】

※ 学部・学科名は省略(表1参照) ※ 科目名の「理」は、基礎を付さない物・化・生・地を表す※ 科目名の「物化生基」は、基礎を付した物・化・生から2科目セットを表す ※ 教科科目数で(  )が付いているのは、後期日程のみ7科目以下で受験できる学科

大学名 前期(他学科平均) 後期室蘭工業(昼) 57 (56.0) 66室蘭工業(夜) 50 (50.0) 59東北 79 (78.8) -首都大学東京 75 (72.0) 83東京 89 - -東京工業 83 - -名古屋 80 (76.8) -大阪府立 81 (79.5) -広島 71 - 86高知工科(A) 56 - 70高知工科(B) 70 -九州 79 (77.0) 87九州工業 70 (68.2) 76※ 学部・学科名は省略(表1参照)

表中のボーダーラインは 2014 年5月現在のもの

Page 7: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 63

数学は数学Ⅲ・数学Bまで、理科は全範囲と、科目だけ

でなく数学、理科の範囲まで完全に一致している。九州

工業大からは、2次試験の偏差値が下がるとともに、英語、

理科がなくなり、科目負担も軽くなっている。後期日程

を実施する大学は、センター試験と同様に、前期日程と

比べると科目数は少なく、難易度は高くなる傾向がある。

 私立大で航空宇宙工学の学科・専攻があるのは9大学 首都圏の大学と九州地区の大学に集中

 航空宇宙工学を専門に学べる私立大は<表5>の9大学

で、首都圏と種子島宇宙センターに近い九州に集中してい

る。入試の募集単位は、他学科と合わせた学系募集を行う

のが早稲田大で、残りの8大学中6大学は入学時に航空宇

宙工学科・コース・専攻を選択できる。日本文理大と第一

工業大は、航空宇宙工学系学科に入学するが、進級時に航

空宇宙工学を学ぶコースと、整備士やパイロット養成のコ

ースを選択する。2014年度の入試方式は、早稲田大のみ

一般入試1回の実施だが、他の大学は、センター利用入試、

センター一般併用入試、一般入試などを組合せ5回前後の

入試を行った大学が多い。最多は日本文理大の10回である。

 続いてセンター利用入試について見ていくが、国公立大

とは異なり、私立大では新課程入試科目が完全には公表さ

れていないため、ここでは2014年度入試における教科科

目数で見ていく<表6>。センター利用入試を実施してい

ない早稲田大を除く8大学中、半数の4大学が3科目を課

し、残りは4科目と2科目が半々である。教科の特徴とし

ては第一工業大を除く7大学が数学または物理を必須とし

ている。ボーダー得点率は40%から76%まで幅広い。なお、

新課程理科の対応科目を公表している6大学のうち、金沢

工業大、崇城大を除く4大学が「基礎を付した理科」の利

用を認めていない。

 最後に一般入試科目とボーダー偏差値を確認しておこう。

<表7>は、2015年度入試科目を公表している場合はそ

の科目を、未公表の場合は2014年度の出題科目を元に、

各大学のメインとなる一般入試方式の入試科目を一覧にし

たものである。ボーダー偏差値の高い順に並べてみると、

国公立大と同様に入試難易度の高い大学ほど科目数が多

い。私立大最難関の早稲田大が理科2科目+英・数の3教

科試験。そのあと、理科1科目+英・数の3科目入試の大

学と続く。ボーダー偏差値 35.0 以下の大学は、2教科な

いし1教科で受験できる。なお、新課程理科の出題範囲を

公表している大学は全て全範囲からの出題である。(理科の科目の公表は6月6日現在)

<表5>航空宇宙工学科・コース・専攻を設置している私立大

大学 前期・中期日程 後期日程科目 偏差値 科目 偏差値

東京 【英 ※L、数ⅢB、国】《理2》 67.5 東京工業 【英、数ⅢB、物、化】 65.0 名古屋 【英、数ⅢB、物、化】 60.0 大阪府立 【英、数ⅢB、物、化】 60.0 東北 【英、数ⅢB、物、化】 57.5 首都大学東京 【英、数ⅢB、物】 57.5 【数ⅢB】 60.0 九州 【英、数ⅢB、物、化】 55.0 【英、数ⅢB】 62.5 広島 【英、数ⅢB、物、化】 50.0 【面】 -九州工業 【数ⅢB、物、化】 50.0 《数ⅢB、物⇒1》 52.5 高知工科 【数ⅢB】《物、化、生⇒1》 45.0 【数ⅢB】 52.5 室蘭工業(昼)【数ⅢB】 42.5 独自試験を課さない -※ 学部・学科名は省略(表1参照)※ 前期日程の2次予想ボーダー偏差値の高い順に表示

<表4> 2015 年度入試 2次試験科目と2次予想ボーダー偏差値

大学 学部 学科/コース・専攻等 センター 併用 一般 回数帝京 理工 航空宇宙工学科/航空宇宙工学コース - 前・後 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ 5東海 工 航空宇宙学科/航空宇宙学専攻 前・後 - 理・A・B 5日本 理工 航空宇宙工学科 C1・C2 CA N・A 5早稲田 基幹理工【学系Ⅱ】機械科学・航空学科 - - (一般) 1神奈川工科 工 機械工学科/航空宇宙学専攻 A・B・C - A・B 5金沢工業 工 航空システム工学科 前・後 中 前・中・後 6崇城 工 宇宙航空システム工学科/宇宙航空システム専攻 前・中・後 - 前・後 5

日本文理 工 航空宇宙工学科/航空宇宙設計コース、宇宙システムコース 1~4期 学力1期・2期

論文1期・2 期 前・後 10

第一工業 工 航空工学科/航空工学コース 前・後 - 前・後 4※ 赤字は一般入試の募集の単位を表す

<表6> 2014 年度センター利用入試教科数と 2015 年度予想ボーダー得点率(%)

大学 教科数 ボーダー 理科基礎の可否

帝京 1,2-2《英、数、国、理2⇒2》数か物を含むこと 44 認めない

東海 3-4 【英、数2、理】 68 認めない日本 2-3 【数2】《英、理⇒1》 76 認めない神奈川工科 3-3 【英、数、理】 51 認めない金沢工業 2,3-4【数2】《英、国、理2⇒2》 67 認める崇城 2,3-3【数】《英、国、理2⇒2》 48 認める日本文理 2,3-3【数】《英、数、国、理2、地公⇒2》 40 未公表第一工業 2-2 《英、数、国、理⇒2》 40 未公表※ 学部・学科名は省略(表5参照)※ 複数方式がある場合は最初に実施される方式を表示※ 早稲田大はセンター利用入試を実施していない

大学 科目 偏差値早稲田 【英、数ⅢB】《物、化、生⇒2》 62.5日本 【英、数ⅢB】《物、化⇒1》 52.5東海 【英、数ⅢB】《物、化、生⇒1》 45.0金沢工業【数ⅡB】《英、数Ⅲ、物、化、生⇒1》 45.0神奈川工科【英、数ⅢB】《物、化⇒1》 40.0

帝京 【面】《英、数ⅡA、国、物、化、生⇒2》 #数か物を含むこと 35.0

崇城 《英、数ⅡB、国、物、化、生⇒2》 35.0日本文理【数Ⅱ】《英、国、物Ⅰ、化Ⅰ⇒1》 BF第一工業《英、数Ⅱ、国、物ⅠⅡ⇒1》 BF※ 学部・学科名は省略(表5参照)※ 複数方式がある場合は募集人員の多いメインの方式を表示※ 2015 年度入試科目未公表の場合は、2014 年度入試科目を元に表示※ 理科の出題範囲未公表の日本文理大、第一工業大は昨年の範囲を記載※ 新課程理科の出題範囲を公表している6大学は、全て理科全範囲からの出題※ 2014 年度入試結果データにおいて合格率 50%のゾーンが存在しなかった大学

の募集区分については、ボーダー・フリー(BF)としている

<表7> 2015 年度一般入試科目と予想ボーダー偏差値

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

Page 8: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

64 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

は重要な部分が一部壊れても、全体としては機体の運行に支障がないように設計された構造です。例えば、航空機の主翼には2~3本の桁が通っていますが、この桁が折れれば致命的な損傷になり、墜落してしまいます。そこで、桁のどこかが損傷しても、全体に広がらないような構造になっています。 軽くすれば、強度は下がりますが、それでも信頼性は高くなければなりません。このように航空宇宙工学における構造力学は、「軽さ」と「信頼性」をキーワードとした研究を行っています。

 研究分野は多岐にわたりますが、近年は複合材料の開発やハニカム構造の研究などに力が入れられています。 特に複合材料は航空宇宙工学が最も進んでいます。複合材料は2種類以上の材料を組み合わせたもので、ベニヤ板などの合板や鉄筋コンクリートなどが代表的なものですが、軽さを追求する航空宇宙工学では、繊維強化プラスチック(FRP)が中心です。FRP は、使う繊維によって GFRP(ガラス繊維)、KFRP(ケブラー繊維)、CFRP

(カーボン繊維)など多くの種類があり、それぞれ特徴がありますが、極限まで軽さと強度を追究する航空宇宙機では CFRP(カーボン繊維)が多用されています。例えば最近就航したボーイング 787 型機には CFRP が約 50%使用されており、エンジンなどを除き、機体のほとんどが複合材料で作られています。従来の機体に比べて軽い

 ものを作るためには材料が必要です。その材料の力学的性質を研究するのが材料力学であり、その材料を使って作られた機械や構造物について、一定の形状を保ち、本来の目的を果たせるかどうかを力学的に考察するのが構造力学です。例えば、鋼管や鋼板など鋼材そのものの強度や力学的性質を調べるのは材料力学、鋼材を使って建設された橋全体の強度や特性を調べるのは構造力学ということになります。 航空宇宙工学における構造力学の研究対象は、主に航空宇宙機ですが、荷重や温度などが過酷な条件下で使用される機械ですから、その条件をクリアするような新しい高機能材料や、新素材の探究も同時に行われています。そのため航空宇宙工学では、材料力学と構造力学を明確に区別することなく、航空宇宙機の材料や構造を考える学問分野として発展しています。 航空宇宙機の構造を考える際に最も大切なことの1つは「軽さ」です。重ければ飛ばすことも難しく、多くの燃料が必要になります。たとえ飛んだとしても燃費が悪くなります。必要な強度と剛性を確保するのは当たり前ですが、その上で「軽さ」が特に重視されるのです。 もう1つは「信頼性」です。大型旅客機を考えればわかるように、構造に欠陥があれば非常に深刻な事故に直結します。そのため、航空宇宙機では信頼性を担保するために「フェイルセーフ」構造を採用しています。これ

航空宇宙工学における構造力学のキーワードは「軽さ」と「信頼性」

カーボン繊維のシートを縫い合わせた縫合複合材やセラミックを使った耐熱複合材などを研究

構造力学

 航空宇宙機は、極めて高速で飛行する機械である。大気中では非常に大きな空気からの抵抗を受け、また宇宙空間では高い宇宙放射線や百度以上もの温度変化にさらされる。そのため、機体構造も、そうした条件に耐えうるように設定しなければならず、そこでは構造力学が大きな役割を果たしている。また、航空宇宙機では、軽くて強い材料も必要なため、特に高機能な複合材料についても盛んに研究されている。

首都大学東京システムデザイン学部 航空宇宙システム工学コース渡辺 直行 教授

渡辺直行 教授

複合材料やハニカム構造の探究に加え構造と流体の連成問題なども研究

Page 9: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 65

ため燃費が高いのが特徴です。 また、CFRP を焼き固めてプラスチックを炭化させた炭素繊維強化炭素複合材などの研究や、セラミックを使った複合材料などの研究も進んでおり、航空宇宙機の材料は金属から複合材料へと大きく変わりつつあります。 一方、ハニカム構造は軽くて強度と剛性がある構造としてよく知られており、特に人工衛星の構造体にはほとんどハニカム構造が使われています。薄いアルミ板で正六角形の蜂の巣状に構成した核(コア)となる部分を、アルミの薄板ではさんだハニカムサンドイッチと呼ばれる構造で<写真>、曲げ剛性(物体が曲がったときの変化のしにくさ)が高いのが特徴です。  衛星には、太陽電池パネルや合成開口レーダー(注1)など大きな構造物が搭載されていますが、これらは宇宙空間に行ってから展開するため、地球と違って大気圧や重力がないため、ほとんど外部から力がかかりません。曲げ剛性もある程度あればいいので、ハニカムの高さを高くして薄板を薄くする方向で開発が進んでいます。薄板にはアルミよりも軽い CFRP を利用したいのですが、アルミとは熱膨張係数が異なるため、表面がへこんだり、強度が落ちたりと、不都合な現象が起きてしまいます。それを解決するための研究なども多く行われています。 最近では、構造と流体の連成問題などもよく研究されています。これはロケットの燃料タンクのゴム膜のように、燃料(流体)の挙動に応じて膜の形状(構造)が変化し、また同時に、構造の変化が流体の動きに影響を及ぼすような、流体と構造の問題を同時に考察しなければならないような問題です。コンピュータシミュレーションによる研究が中心で、未だ解決されていないテーマです。

 私の研究室は、最近、「縫合複合材」の研究に力を入れています。通常の CFRP は、硬化剤や接着剤などの添加物を混合した樹脂にカーボン繊維材料を浸し、加熱または乾燥させたプリプレグと呼ばれる薄いシートを重ねて作ります。しかし、重ねて接着してあるだけなので、層の間での剥離が起きやすいのです。 そこで、引っ張る力に対して強い耐性を持つ合成繊維の糸を使って、厚さ方向に縫い合わせたものが三次元織複合材料です。その中の1つが縫合複合材で、新しい技

術ではありませんが、糸の種類や縫い方などを工夫すれば、強度や性能が大きく変わってきます<図>。まだ実用化されていないため、実際に航空機用材料として使えるようにさまざまな側面から研究を進めています。 航空機材料の研究では、現在、損傷検知も盛んです。航空機は 10 年、15 年と使われますが、複合材料の場合は、損傷が外部からは見えず、表面をハンマーで叩いて音で検知する方法も使えません。そこで、私たちは、内部の剥離や損傷を光ファイバーセンサーで検知できる方法の開発なども手がけています。また、縫合複合材は板厚方向に入った繊維の周りで力の集中が生じて、通常の解析方法(有限要素解析法)では損傷の解析が難しいため、高い精度で解析できる手法の研究も進めています。 このほか、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同で、スペースプレーンに搭載するジェットエンジンの燃焼室に使う新しい耐熱材料として、セラミック基複合材の研究も進めています。炭素繊維強化炭素複合材の場合は、酸素があると炭素と反応して燃えてしまうため、その心配が少ないこの材料に目をつけたわけです。現在は、超高温加熱を受けた場合の熱応力(注2)と変形を解析しているほか、その確認実験なども行っています。 航空宇宙工学には流体力学や熱力学などさまざまな学問分野がありますが、最終的にものを作る際には必ず構造力学が関与してきます。航空宇宙機全体に関与していることが、航空宇宙工学における構造力学の魅力だと考えています。

より強度のある縫合複合材やセラミック基複合材の可能性を探究

<図>縫合複合材の断面

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

(注1)合成開口レーダー…人工衛星や航空機に搭載され、移動しながら送受信した電波を処理することで、大きな開口部を仮想的に備えたレーダーのこと。(注2)拘束されている物体が、熱せられたり、冷やされたりするときに加わる力のこと。拘束のない場合は、物体が膨らんだり収縮したりするなど変形

できるが、拘束している場合、熱による変形を妨げるように熱応力が発生する。

<写真>人工衛星などで使われているハニカム構造

(提供:渡辺教授)

(提供:渡辺教授)

Page 10: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

66 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

飛行のためには機体の各部分に局所的にはたらく空気力をうまく制御する必要もあります。 空力の役割は、航空宇宙機にかかる空気の力をコントロールしてスムーズな飛行を実現することにありますが、これらはすべて機体やエンジンの形状を決めることを通して行っています。興味深いのは、そうした形状は、人間の経験則でしか決められません。コンピュータは人間が考えた形状を検証することはできますが、ある性能を実現するための形状は、コンピュータだけでは設計できません。人間が考え、実験やシミュレーションを行い、最終的には実機を飛ばして確認することによって、実用可能な機体になるのです。

 空力の重要なテーマは、例えば超高速を実現するための機体や翼の形状を決めたりすることです。それらの空力性能によって、実際の機体の運動性能が決まります。 飛行能力を知るには、実機による飛行試験が欠かせません。従来は計測機器が大きく、航空機メーカーやNASA(アメリカ航空宇宙局)など有人飛行機を所有する大組織でしか実施できませんでした。しかし、最近では計測器が小型化し、ラジコンのような小さな機体にも搭載できるようになりましたので、大学でも小さな機体を使った飛行試験を実施するところが増えています。大型風洞の中でラジコン機を飛ばしたり、ジェットエンジンを搭載した小型実験機を飛ばしたりしながら、より実際に近い飛行条件での空力の研究が行えるようになって

 流体力学は、液体や気体などの連続体が物体に及ぼす力などを研究する学問分野だが、航空宇宙工学においては、航空宇宙機に対する空気の影響を考えるため、「空気力学」と呼ばれる。空気中を高速で飛行すれば、空気の流れが大きな力となって機体に作用するが、機体の形状をわずかに変更するだけで力のかかり方は大きく異なる。この空気力をうまく引き出すために、翼・機体・エンジン入り口等の形状を決めるところに、空気力学の存在意義がある。

室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究センター溝端 一秀 准教授

 航空宇宙工学は、航空宇宙機を開発するための知識や技術を統合した学問です。その目的は、「空を飛べる機体をつくること」です。ただ、空を飛べる機体を可能にするには、空気力学(空力)以外に、構造力学や推進工学、制御工学という大別して4つの分野をうまく組み合わせる必要があります。しかも、空力性能を高めようとすると、構造上の要求や、制御上の条件とぶつかることも多く、それぞれトレードオフ(背反)の関係になっています。空力だけを追究すれば、理想的な航空宇宙機ができるわけではありません。その意味で、航空宇宙工学は、4分野が互いに折り合いをつけながら最適な条件に落としこんでいく「システム統合化技術」そのものであり、それがまた航空宇宙工学の醍醐味でもあります。 ですから、空力の研究は、まずは航空宇宙機システムを成立させる4分野の1つであるという前提に立った上で、航空宇宙機と空気の流れの関係を追究していくことになります。ただ、宇宙空間では空力は無視できるため、空力が対象とするのは大気中における航空宇宙機に作用する力です。 飛行中の航空宇宙機には、大きく「推力」「抗力」「重力」

「揚力」の4つの力がはたらいています。重力は機体を落下させる力であり、エンジンの推力によって大気中を前進すると、機体を上昇させる揚力と、前進を阻む抗力が発生します。重力に対して、この推力と揚力、抗力のバランスをとることで飛行できるのです。また、安定した

構造や推進、制御とのバランスを取りながら航空宇宙機の最適な形状をデザインする

風洞実験や実機による飛行試験でデータを蓄積し超音速飛行を可能にする機体の形状を追究空気力学

溝端一秀 准教授

総合的な空力性能の知見を得るために大学でも飛行試験を通した研究が盛んに

Page 11: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 67

います。 また、最近では、空力と構造、制御とのカップリング現象を扱う研究も注目されています。高速で飛行すると、空気力によって機体がよじれる「空力弾性現象」が発生し、ついには機体が破壊することもあります。どんな条件になったら機体が壊れるのかを解明し、それを防ぐ構造を考えるために空力と構造の両方から研究しなければなりません。また、機体のよじれのため制御が難しくなったり、逆に機体のよじれを活用して小さな駆動力で機体を制御する「空力サーボ弾性現象」も発生するため、空力、構造、および制御が共に協力して克服していく必要があります。これらは、今後の重要な研究テーマとなっていくはずです。

 室蘭工業大学では 2005 年に「航空宇宙機システム研究センター」を設立し、国産超音速・極超音速航空機や国産スペースプレーン開発を先導する基盤技術の研究開発と地上・飛行実証を行っています。 現在、飛行実証のためのフライングテストベッドとして、小型超音速飛行実験機「オオワシ」の研究開発を進めています。先進的な推進器として、1段目と2段目のファンが逆回転する反転軸流ファン式ターボジェットエンジンや、ジェットエンジンとロケットエンジンの中間的な特性を持つガスジェネレーターサイクル・エアータボラム(GG-ATR)ジェットエンジンなどを開発しています。同時にそれらを搭載する小型無人機体を開発して実際に飛行試験を行うことで、超音速による無人自律飛行に必要な基盤技術を創出しようとしています。 第1世代実験機「オオワシ1号機」は、反転軸流ファン式ターボジェットエンジンを2基搭載する機体として設計しました。主に離着陸を含む低速飛行性能を検証するため、市販のジェットエンジンを搭載する全長 3.1 m、全幅 1.6 mのプロトタイプ機を製作し、2010 ~ 2011 年に白老滑空場で飛行試験をしました<写真1>。3回目のフライトで墜落してしまいましたが、各種飛行データは取得でき、薄くても低速域で高い揚力が得られるクランクトアロータイプの主翼形状も含めて、概ね良好な飛行性能があることも確認できました。 現在は、第2世代実験機「オオワシ2号機」を開発し

ています。超音速に適合した GG-ATR エンジンを1基搭載する予定で、機体サイズを 1.5 倍にしました。搭載する燃料の量によって全長は 5.8 ~ 7.8 mの間の3タイプになります。ただし、マッハ 1.1 ~ 1.5 付近で抗力が急に高まる「音速の壁」が存在するため、この速度での抗力をいかに低減するかが大きな鍵を握ります。そこで、機体の断面積の分布を調整し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の遷音速風洞や学内の超音速風洞試験設備<写真

2>を使って実験を繰り返した結果、主翼と尾翼の位置を当初の設計よりも少し前方に出した方が、抗力が低減できることがわかりました。 また、得られた空力のデータに加え、GG-ATR エンジンの性能データ、構造の設計データなどを入力し、コンピュータ上でオオワシ2号機のフライトをシミュレート(模擬計算)できる仕組みも開発しました。大樹航空宇宙実験場の滑走路から海上に飛び立ち、超音速飛行ののち帰還・着陸するといったフライトシミュレーションを繰り返すことで、飛行性能の検証を進めています。 飛行性能を実地に検証するための飛行試験も行う予定です。実寸の機体だと製作コストが莫大となるので、オオワシ1号機の 1/2 スケール、およびオオワシ 2 号機の1/3 スケールの縮小機体を製作し、比較的簡便に繰り返し飛行試験を行うことで、実際のフライトにおける空力特性、飛行特性を明らかにしてゆきます。 なお、本学は機械航空創造系学科に、2年次から選択できる「航空宇宙システム工学コース」を設置し、航空宇宙工学に関する本格的な学部教育を行っています。航空宇宙工学に興味・関心がある学生が全国から集まって、互いに切磋琢磨しつつ、「オオワシ」の研究開発や飛行試験に邁進しています。

自律的な超音速飛行を可能にする小型超音速飛行実験機「オオワシ」を開発

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

<写真2>吸い込み式超音速風洞試験設備の内部の様子

空気流速はマッハ2、3、4まで、通風時間は 12 ~15 秒間の実験ができる。全国の大学の中でもトップクラスの研究設備。

<写真1>飛行試験中の実験機「オオワシ1号機」

(写真1・2とも溝端准教授提供)

Page 12: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

68 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

航空機用エンジンにおいては、タービンの入口温度が高ければ高いほど効率が高くなり、燃費も良くなります。ところが 1,200℃を超えると、金属材料のタービンブレードは融けてしまいます。現在の航空機のタービン入口温度は 1,600 ~ 1,700℃ですが、それはタービンブレード(翼)に高温に強い単結晶材料を使ったり、ブレードに細かな溝や穴を開け、そこに空気を流すことで冷却することにより達成しています。これも熱力学の研究成果の応用です。

 エンジンの燃焼についてもさまざまな研究が行われています。一般に、高温で燃焼させると燃費は良くなりますが、排ガスに NOx などの有害物質が増えます。従来の航空機用エンジンの燃焼器では、燃料と空気が接触する部分だけが高温になる拡散燃焼という形態で、その高温部分で有害物質が生成されていました。そこで、燃料と空気をあらかじめ混合させたガス(予混合ガス)を噴出させて、できるだけ平均的な燃焼温度にすることで、燃費と環境性能とのバランスをとろうという予混合燃焼の研究も行われています。ただ、予混合燃焼は安定した燃焼が難しいため、安定した燃焼を行うための研究を進めています。 こうした熱力学の研究は、すべて実験で行おうとすると膨大な費用がかかります。そのため、コンピュータを使った数値計算の手法もかなり発達しています。例えば、燃焼の研究では、初期の頃は、燃料と水素が反応してCO2 や H2O ができるといった単純なモデルでしたが、コ

 伝熱、燃焼などの熱に関わる物理現象を扱う熱力学は、航空宇宙工学を構成する重要な学問分野の1つだ。というのも、航空宇宙機では圧縮した気体を燃料の燃焼熱によって加熱し、ノズルで膨張、加速した燃焼ガスを噴出させることで、機体を前へと進ませる強い推進力を得ているからだ。また、空気中を高速で飛翔する場合は、機体を高熱から守る必要もある。そのため、超音速機やスペースプレーン(注)などに搭載する新しいエンジンや機体の開発には熱力学が大きな貢献をしている。

早稲田大学基幹理工学部 機械科学・航空学科佐藤 哲也 教授

 熱力学は、熱に関わる力学的な側面をマクロな側面から追究する学問であり、伝熱(エネルギーの移動)や燃焼、熱学(分子の運動論)などに関する研究を行います。航空宇宙工学の領域における熱力学では、主に機体とエンジンに関わる熱の問題を扱っています。 機体における主要な研究テーマの1つは「空力加熱」です。空力加熱とは、空気中を高速で機体が飛行するときに、機体の周囲の空気が減速、圧縮され、高温になる現象です。旅客機などはマッハ 0.8 ~ 0.85 程度の、比較的低速で飛行しますので、機体にそれほど大きな影響は出ませんが、宇宙機が大気圏へ再突入する場合は、例えば、はやぶさカプセルは秒速 12km(およそマッハ 35)にも達し、機体表面は1万℃の高温になります。そのため、はやぶさカプセルは、熱に強い炭素繊維強化プラスチックを表面材料に使い、昇華させて気化熱を奪うのと同時に、炭化層を形成して熱を遮断するアブレーション法と呼ばれる方法を採用し、内部を 50℃くらいに保ちました。また、空力加熱は、物体の形状によっても大きく変化します。そこで、機体を柔軟構造にして空力加熱を低減させるように変型させるような研究も行われています。 エンジンの場合も、高温への対処は大きな課題です。航空機用のエンジンは、前方から見て、圧縮機、燃焼器、タービン、ノズルから構成されています。そのうち最も高温になるのは、燃焼器のすぐ後ろにあるタービンです。

機体とエンジンの両方の分野で熱に関連するテーマを追究する

マッハ5で飛行する極超音速機への搭載をめざし予冷ターボジェットエンジンを開発熱力学

流体力学や構造力学など異分野との研究も増加

佐藤哲也 教授

(注)ロケットはロケット発射用の特別の施設(ランチャー)を必要とするが、スペースプレーン(Spaceplane)は、航空機と同じように離着陸や大気圏突入・離脱ができる宇宙船である。打ち上げ費用の削減や、発射する場所が増えることが期待されている。

Page 13: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 69

ンピュータの能力が飛躍的に向上した現在では、多くの中間生成物を考慮した複雑な反応モデルをシミュレートできるようになりました。 さらに、他の学問分野との融合も盛んになっています。燃焼、伝熱は、ガスの流動と密接につながっているため、流体力学解析と熱力学解析を組み合わせたり、あるいは構造力学や制御工学と組み合わせたシミュレーションを行ったりしています。

 私の研究室では、マッハ5で飛行する極超音速の航空宇宙機に搭載できるエンジンの開発を、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同で進めています。 出発点は宇宙輸送の大規模化と信頼性の向上です。現在、宇宙への輸送方法はロケットが主流ですが、空気がなくても作動できるロケットエンジンは燃料の他に酸化剤が必要です。その結果、全体の重量に対する燃料重量の割合が大きくなり、機体構造を軽く作る必要があります。そのため、機体を繰り返して使用することが難しく、また有人機として使用する場合の安全性確保も問題となっていました。そこで浮上してきたのが、大気を利用する空気吸い込みエンジンです。我々のグループでは、マッハ5ないし6の速度まで飛行できる航空宇宙機をめざしており、そのエンジンとして「予冷ターボジェットエンジン」を考えています。 このエンジンは、二段式スペースプレーンの1段目のエンジンとして使用されます<図1>。ロケットエンジンを搭載した宇宙機(2 段目)を乗せて地上 26km の高度まで上昇し、そこで宇宙機を打ち出した後、地球に戻ってくるシステムです。この機体は有翼機ですので、滑走路を使って離陸することができ、再使用も可能で、有人機として利用する場合の安全性も高くなります。さらに、マッハ5の極超音速旅客機として利用すれば、東京・ロサンゼルス間を2時間で結ぶこともできます。 このエンジンは、構造は航空機用のジェットエンジンと似ていますが、液体水素を燃料としており、熱交換器(予冷器)によって吸い込んだ空気を冷却している点が特徴です。マッハ5で飛行すると、空力加熱によってエンジンには 1,000℃以上の空気が入ってくるため、圧縮機が熱的にもたなくなります。そこで、液体水素を予冷器に通すことによって、流入空気を冷却させ、マッハ5でも作

動できるように設計してあります<図2>。水素を燃焼させるために、排ガスに CO2 を含んでおらず、クリーンなエンジンです。現在、地上燃焼試験による性能確認が行われ、今後は、観測用ロケットなどに搭載し、飛行実験を行うことも考えています。 ただ、技術的な課題も少なくありません。例えば、液体水素はマイナス 253℃の極低温流体であり、配管に通すとすぐに蒸発し、気体と液体が混ざった気液二相流になります。その結果、ポンプの作動が不安定になったり、流量のコントロールが難しくなったりします。現在、私の研究室では、気液二相流の伝熱特性の研究なども並行して行っています。また、予冷器のチューブ表面に吸い込んだ空気中の水分が霜となり氷着し、流路が閉塞される問題があります。そこで冷却管の形状の工夫や、メタノールガスを混入する等の解決方法を研究しています。さらに、高速飛行時に発生する衝撃波による損失を最低限にするような空気取り入れ口の研究も行っています。こうした基礎研究によって、日本でのスペースプレーンの実現に貢献していきたいと思っています。 航空宇宙機のエンジン開発は、熱力学だけではなく、流体力学、材料力学、構造力学、制御工学などと協調し、システム全体として研究しなければなりません。ある一部分だけが突出しても全体のバランスは崩れて、いいシステムはできません。そのため、研究者はいろいろな学問を幅広く勉強できますし、最終的にシステムとしての完成をめざすという点に研究の醍醐味を感じています。最先端でチャレンジングな分野ですから、新しいことに挑戦したい人に向いている分野です。

東京・ロサンゼルス間を2時間で飛行する極超音速航空機のエンジンを開発

<図2>予冷ターボジェットエンジンの仕組み

(出典:http://www.waseda.jp/sem-sato/research/index.html)

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

<図1> JAXA が開発をめざしているスペースプレーン

(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

Page 14: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

70 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

(高度)、進行方向などがわかっているものだけで約22,000 個、小さなものまで含めると数万個とも数百万個とも言われている<図表1>。しかも秒速8km もの高速で地球を周回しているため、たとえ砂粒ほどの大きさのゴミでも、衛星などに衝突すると大きな被害を及ぼす。そのため、宇宙ゴミが、宇宙のどのあたりにどのように分布しているかを知ることは非常に重要なのだ。 「IDEA プロジェクトは、砂粒サイズの宇宙ゴミ、これを総称して微小デブリと言いますが、微小デブリを計測・探知する衛星を開発し、計測したデータをもとに、どのくらいのサイズの微小デブリとどんな頻度で遭遇するかを予測するモデルを構築するというミッションを持っています。既に NASA(アメリカ航空宇宙局)とESA(欧州宇宙機関)には、それぞれデブリの予測モデルがありますが、微小デブリについては両者の差が大きく、また最新のデータが揃っていないなどの難点もあります。そこで、この IDEA 衛星で最新の微小デブリの情報を収集しようと考えたわけです」と、プロジェクトマネージャーの田﨑洸彦さんは説明する。

 IDEA 衛星は 50cm 四方の立方体型で、2面に 35cm四方のダストセンサーを搭載して微小デブリの衝突を検出する仕組みだ<図表2>。自らを微小デブリの衝突にさらすことで、情報を収集する。 設計開発は、ミッション系をはじめ、C&DH 系、姿勢決定制御系、熱構体系、デオービット系、電源系、通

 学生が作った小型衛星が、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などのロケットに搭載され、宇宙に打ち上げられている。九州大学工学部宇宙機ダイナミクス研究室でも、学生が主体となって人工衛星の開発を進める I

イ デ ア

DEAプロジェクトが進行中だ。開発中の人工衛星は宇宙ゴミの観測に大きく貢献するもので、2016 年の打ち上げをめざしている。

九州大学大学院工学研究院 航空宇宙工学部門花田 俊也 教授

宇宙機ダイナミクス研究室 修士2年田﨑 洸彦 さん

 九州大学工学部宇宙機ダイナミクス研究室では、学生が中心になって「IDEA プロジェクト」を進めている。IDEA は、In-situ Debris Environmental Awareness の略で、宇宙において(In-situ)、宇宙ゴミ(Debris、デブリ)の、環境を正しく知る(Environmental Awareness)という意味が込められている。 宇宙ゴミ(スペースデブリ)は、役目を終えたり、故障した人工衛星やロケットなどの宇宙機がそのもととなる。機能を停止した衛星のような大きなものから、宇宙機から脱落した部品、剥がれた塗装などの非常に小さなものまでさまざまだ。その大きさ、宇宙ゴミがある高さ

深刻化する宇宙ゴミを宇宙から観測する衛星を開発

<図表1>宇宙ゴミの増減

(出典:http://idea.aero.kyushu-u.ac.jp/wp-content/uploads/2012/11/fig7whi.png)

学生が開発した人工衛星を宇宙へ──九州大学「IDEAプロジェクト」教育

ミッション系をはじめ、7つの系に分かれて開発

2005年以降、新たな打ち上げも爆発もないと仮定しても、宇宙ゴミは増加していく。

Page 15: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 71

信系、地上局系の8つの系に分かれて進めている。系ごとに主担当の学生が決まっており、田﨑さんはミッション系の主担当も兼任する。ただし、研究室のプロジェクトのため、人手の必要な計測や試験などには、博士課程を除く研究室の全学生が何らかの形で貢献する。 ミッション系は、ダストセンサーを使ってどんなデータが得られるかといった、衛星のミッションに関わる分野を担当する。田﨑さんは「ミッション系では、宇宙機の破砕などで微小デブリが発生したとして、衝突した微小デブリを解析することで、破砕が起こった軌道を推定できる研究等を行っています」と語る。 他の系を簡単に紹介すると、C&DH(Command & Data Handling)系はダストセンサーから得られた情報の処理や他の搭載機器の稼働状態の監視を担当し、姿勢決定制御系はデブリの衝突の可能性が最も高くなる方向にダストセンサーを向けるような衛星の姿勢制御を担当する。熱構体系は、打ち上げの振動や宇宙空間の熱環境に耐えられるような筐

きょう

体た い

(機械や機器を入れた箱状のもの)を考え、デオービット系は、IDEA 衛星がミッション期間を終えた後に大気圏に落ちて燃え尽きるための仕組みを開発する。電源系は、ダストセンサーや他の機器に電力を供給するシステムを開発し、通信系と地上局系は、地上から衛星を管理したり情報を送信したりする機能を担当する。 「週に1回は学生ミーティングを行い、各系の進捗状況や今後の予定を報告することで、全員がプロジェクト全体の流れを把握できるようにしています。また月に1回は、花田教授や博士課程の学生も交えて全体ミーティングを行います。さらに2カ月に1度は、筐体製造などで協力してくれる NPO 法人 e-SET(北部九州地区の製造業団体)のメンバーともミーティングを行い、加工側の視点からのアドバイスをいただいています」(田﨑さん)。 設計と解析は学生、実際のものづくりは地元の製造業の団体という分業体制の中で開発が進められている。

 IDEA 衛星は、2016 年に JAXA が打ち上げる気候変動観測衛星 GCOM-C1 のロケットに相乗りさせる計画で開発を進めている。現在は、2分の1サイズのプレ試験

モデルを使って振動試験や衝撃試験、真空試験などを行っているところだ。今後も実験等で課題が見つかれば計画を見直し、最終的な打ち上げへと進めていく。 IDEA プロジェクトの教育効果について花田教授は

「航空宇宙工学の理論は、現実とどうつながっているのか、イメージしにくい面があるのですが、実際に衛星を開発することで、理論の理解が深まり、研究活動へのモチベーションも高まります。その意味で、極めて質の高い実践教育になっていると思います」と語る。 田﨑さんも「航空宇宙工学は総合工学であり、衛星も1つのシステムとして捉える必要があります。また、プロジェクトマネージャーとして、プロジェクト全体に目を向けながらスケジュールを組み立てていかなければならないことで、全体を見通して物事を先へと進めていくマネジメント力がついた気がします」と話す。 とはいえ、学生の研究プロジェクトであることによる悩みも多い。例えば予算だ。大学からは学内共同利用研究として若干の研究費が出るものの、衛星開発に見合う金額ではない。「この衛星の必要性をなかなか理解してもらえず、資金集めには苦労しています」(花田教授) また、学生プロジェクトの宿命として1年ごとにメンバーが入れ替わる。 「そのため、学部卒業時、または修士課程修了時に活動を離れるメンバーの知識や技術の伝承がスムーズにいかないことも課題の1つです。加えて、研究室に配属されてからだと長くて3年間程度の活動期間となるため、今後は学部1年生からプロジェクトに参加する学生を募り、プロジェクトのキーパーソンになるような人材を育成していく必要性も感じています」(田﨑さん)

全体を見通す力を育てる衛星開発プロジェクト

IDEA プロジェクトの詳しい内容については、IDEA プロジェクトのホームページ(http://idea.aero.kyushu-u.ac.jp)を参照してください。

<図表2> IDEA 衛星の完成予想図

(出典:http://idea.aero.kyushu-u.ac.jp/wp-content/uploads/2012/12/ideainslide.png)

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

Page 16: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

72 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

コラム

 LCC(格安航空会社)の参入や、アジア・アフリカなどの経済発展などに伴い、世界規模でパイロット不足が深刻化している。日本でも団塊の世代の大量退職を控えて、パイロット養成が急務になっている。そのため、近年、パイロット養成課程を設置する私立大学が増えてきた。ここでは崇城大学を例に、一般的な航空宇宙工学を学ぶ宇宙航空システム専攻との違いについて触れながら、パイロット養成課程である航空操縦学専攻と、日本で唯一「指定航空従事者養成施設」の指定を受けている航空整備学専攻の教育内容について紹介しよう。

 これまで日本の主要航空会社では、パイロットは航空大学校の卒業生や、それぞれの会社で養成してきた人の割合が多くを占めてきた。しかし、2010 年度以降は、<図

表>にある、「その他」が急速に伸びている。その増加分を占めているのが、崇城大学をはじめとする私立大学におけるパイロット養成課程である。 このうち崇城大学工学部では、航空宇宙工学を学ぶ宇宙航空システム専攻、パイロットを育成する航空操縦学専攻、航空整備士を育成する航空整備学専攻からなる宇宙航空システム工学科を設置している。宇宙航空システ

ム専攻と航空操縦学専攻は1年次ほぼ同じカリキュラムで、英語や数学、物理、情報処理などのほか、工学の基礎科目や、航空宇宙工学の概論などを中心に学ぶ。2年次になると、航空操縦学専攻は後期から、阿蘇くまもと空港に隣接する空港キャンパスに移る。全員が寮生活を送りながら、各種操縦士技能証明(以下、総称してパイロット免許)取得をめざす。 宇宙航空システム専攻では、開講する授業科目を『設計 ・ 開発領域』と『運航 ・ 支援領域』とに分けている。これは、将来、自分が進むべき道に向けての学習体系を示すもので、学生のキャリアパス形成の一助としている。このうち、『設計・開発領域』では、「一般空気力学・高速空気力学」「構造・材料工学」「制御工学・航空機力学」

「熱力学・推進工学」などに関する科目を履修し、航空機やロケット、衛星など航空宇宙機の設計 ・ 開発に携わるエンジニアをめざしている。 一方、『運航 ・ 支援領域』では、「工学系の教育だけでなく、航空業界に関する科目も用意しています。例えば、航空機の運航管理や管制官などをめざす学生のために、航空操縦学専攻の『航空気象学』『航空法規』などの科目を宇宙航空システム専攻の学生にも開講し、航空会社経験者による『航空運輸概論』などの科目を設置することで、他の大学の航空宇宙工学科との差別化を図っています」と宇宙航空システム工学科の白石和彦学科長は語る。 大学で航空機を所有しているため、阿蘇くまもと空港キャンパスで実機を使った「航空機性能運動・実習」や「航空機整備・実習」等の科目を履修できる点も特色だ。

祟城大学工学部宇宙航空システム工学科

航空宇宙工学、パイロット養成課程、航空整備士養成課程の違い

航空業界を強く意識した宇宙航空システム専攻

白石和彦 教授 大里裕治 教授 渡辺武憲 教授

(崇城大学 学科ガイド 2014 p.34 より)

<図表>我が国の主要航空会社の操縦士供給源

0

100

200

400

300

500

63

41 53

177

3433

4

75

83

106

0

218

23 11 14 425

113

77

8576

249

185

114

5689

87

1245

0

0 20 0

0

0

166135 136 142

652610 28

4 12 8 9457 51 51 44 41 12

2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度

■航空大学校新卒 ■航空大学校既卒 ■防衛省民間活用 ■自社養成■専門 FEの職変  ■外国人 ■その他* *航空機使用事業、大学操縦コース

我が国の主要航空会社の操縦士供給源「数字でみる航空 2013 年」(国交省監修)より抜粋作成

Page 17: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 73

(注)航空操縦学専攻で取得できる免許(国家資格)は、単発自家用操縦士技能証明(単発とはエンジンが1つの航空機のこと。自家用の小型飛行機の操縦、ただし無償)、単発事業用操縦士技能証明(有償の飛行で例えば遊覧飛行や報道などの航空機、航空会社の副操縦士)、双発限定変更技能証明・計器飛行証明(双発とはエンジンが2つある航空機のこと。自家用と事業用操縦士免許に付加する計器飛行の証明。この免許がないと有視界飛行に限定される)。

 一方、航空操縦学専攻と航空整備学専攻は、資格取得のための職業教育の性格が色濃い。教育内容は国土交通省の規則によって細かく定められている。 航空操縦学専攻は、大学としては日本で初めて「航空機使用事業所」の認定を受けた。海外を含めた学外の小型機専用訓練施設等に学生の教育を委託することなく、学内の施設と教員だけで訓練ができる。しかも、阿蘇くまもと空港では、民間機の離発着の間を縫って訓練を行うため、管制官とのやりとりや的確な状況判断など、パイロットに必要な素養を自然に身につけることが可能だ。 パイロット免許は、具体的には「単発自家用操縦士技能証明」「単発事業用操縦士技能証明」「双発限定変更技能証明・計器飛行証明」(注)の3種類だ。これらを全て取得することが航空会社への受験資格になる。免許取得には、座学とフライト実習を積み重ね、必要な飛行時間を満たした上で、学科試験と、国土交通省の試験官による実地試験に合格しなければならない。ただ、フライト実習は双発・計器飛行証明の取得まで約 250 時間に及ぶものの、大学の単位としては卒業研究の単位分にしか換算していない。通常の授業時間は、大部分がフライト実習等に充てられるため、大学卒業に必要な単位数は、長期休暇の期間中に集中講義等を受けて取得している。 航空整備学専攻は、4年制大学としては日本初でかつ唯一、国土交通省の「指定航空従事者養成施設」の指定を受けており、本来なら国土交通省の試験官のもとで行われる実地試験が免除され、学内で行われる技能検定だけで「二等航空整備士」の資格が取得できる。訓練期間は空港キャンパスでの3年間で、座学を含めて 2,500 時間の整備実習が課されている。基本的な締め付け作業や機械計測、電気計測などを経て、実機を使った機体やエンジン、装備品の点検整備などを行い、最終的なレベル審

査によって資格認定が行われる。 「二等航空整備士は主に専門学校で養成されています。本学では航空整備士資格に加えて『学士』も取得できるため、卒業後のキャリアを考える上で大きなメリットになると思っています。大学4年間と専門学校3年間の学習内容を4年間で学ぶようなものですから、相当の勉強量になります」と大里裕治教授(指定航空従事者養成施設長)は語る。

 このように、航空操縦学専攻と航空整備学専攻のカリキュラムは、宇宙航空システム専攻とはかなり異なっている。 「パイロットは航空整備士やキャビンアテンダント、運航管理者、機内清掃の人など多くの人と協働することが不可欠です。航空整備士も大型機になれば何人ものチームで作業を行います。寮での集団生活はこうしたチームワークの力を確実に養ってくれますし、人間的な成長も促してくれます。最終的に多数の命を預かる航空会社のパイロットに求められるのは、豊かな人間性や常識、的確な判断力、卓越したコミュニケーション能力などです。ですからパイロット養成においては、他学部も含めた幅広い人間的な交流や教養教育が必須です」と元航空会社社長の経験を持つ渡辺武憲教授(航空機操縦訓練本部長)は説明する。 なお、宇宙航空システム工学科では、英語教育にも力を入れている。航空宇宙機の設計開発では、ボーイングやエアバスなど海外のメーカーとの調整はもちろん英語、パイロットは管制官との会話を全て英語で行い、航空整備士は膨大な英文マニュアルを読みこなさなければならないなど、航空業界では英語運用能力が必須だからだ。崇城大学では「SILC(Sojo International Learning Center)」を完備し、英語のネイティブ講師によるコミュニケーション重視の英語教育を全学的に行うことで、エンジニアやパイロット、航空整備士に必要な語学力を育成している。 宇宙航空システム専攻や航空整備学専攻の卒業生は、航空業界だけでなく製造業全般への就職も多い。航空操縦学専攻には、スカイマークや AIR DO への推薦枠があるものの、採用時期の関係で卒業時に就職先が決まらない場合もある。そのため、大学に残って採用試験に向けた準備やシミュレータなどで技量を維持することができる研究生制度を用意し、卒業生全員の就職をめざしている。

自前の施設だけで資格が取得できる航空操縦学専攻と航空整備学専攻

航空会社のパイロットに求められるのは豊かな教養に支えられた幅広い人間性

阿蘇くまもと空港に隣接する空港キャンパス

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

Page 18: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

74 Kawaijuku Guideline 2014.7・8

注目の学部・学科 航空宇宙工学

は就職者の割合が高く、大学院進学率が低い系統と見ることができる<図表1・2>。 ただし、国公立大と私立大で状況が大きく異なる。国立大の場合、工学全体の進学率 63%に対して「航空工学」では 71%に達しており、公立大の場合も、工学部全体の 45%に対して 76%と高い。つまり国公立大を見ると、航空宇宙工学は修士課程進学を前提とした系統であることがわかる。 一方、私立大の場合は、就職する人の割合が工学全体の割合を上回っている。<図表3>の人数を見ると「航

空工学」の卒業者の約8割は私立大出身者であるため、「航空工学」全体の就職率は私立大の状況に引っ張られて高くなっているのだ。 河合塾と朝日新聞が共同で実施している「ひらく 日本の大学」調査(2013 年度)でも、回答のあった航空宇宙工学を設置する大学のうち、例えば国公立大の進学率は、東京工業大学 96%、九州大学 89%、東北大学 88%、名古屋大学 86%、大阪府立大学 79%などと高いが、私立大は学士課程卒業後就職する人が多く、大学院進学率は3割以下となっている<図表4>。 とはいえ、航空宇宙工学は、学科・コース・専攻として設置している大学も多くなく、募集定員が少ない。そのため卒業者の実数も少なくなっており<図表3>、数人の変化で大きく割合が変化することに留意しておきたい。

 修士課程修了後の進路についてはどうだろうか。学校基本調査によれば、航空工学の博士課程への進学率は8%と、工学部全体の6%を上回ってい

 航空宇宙工学は、基本的には航空宇宙機の開発・設計を行うエンジニアを育成する系統であり、航空機メーカーや関連部品メーカーへの就職が期待される。ただし学部卒業段階では機械工学系と同様に製造業を中心に幅広い業種に就職している。大学院まで進むと企業との研究成果を生かして、開発職や研究職として就職する場合も少なくない。

 文部科学省の学校基本調査では、航空宇宙工学は「航空工学」として分類されている。P62 の「入試情報」のコーナーにあったように、もともと「航空工学」に分類される大学・学部・学科はあまり多くない。 2013 年度の学校基本調査の結果を見ると、「航空工学」の卒業者の 24%は大学院に進学している。工学全体の大学院進学率が 36%なので、「航空工学」は工学の中で

<図表1>学士課程-「工学全体」卒業後の進路(2013 年度)

国公立大は大学院進学率が7割私立大は製造業中心に幅広く就職卒業後の

進路

■進学者 ■就職者(正規) ■就職者(非正規) ■専門学校・外国の学校等■一時的な仕事 ■左記以外の者 ■不詳・死亡

24% 61% 5% 2%7%

76% 19% 2%2%

14% 70% 6% 8%2%

71% 11% 16%2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

全体

国立

公立

私立

■進学者 ■就職者(正規) ■就職者(非正規) ■専門学校・外国の学校等■一時的な仕事 ■左記以外の者 ■不詳・死亡

36% 52% 8%

45% 48% 6%

19% 65%2%11%

63% 31% 5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

全体

国立

公立

私立

2%

<図表 2 >学士課程-「航空工学」卒業後の進路(2013 年度)

■進学者 ■就職者(正規) ■就職者(非正規) ■専門学校・外国の学校等■一時的な仕事 ■左記以外の者 ■不詳・死亡

24% 61% 5% 2%7%

76% 19% 2%2%

14% 70% 6% 8%2%

71% 11% 16%2%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

全体

国立

公立

私立

■進学者 ■就職者(正規) ■就職者(非正規) ■専門学校・外国の学校等■一時的な仕事 ■左記以外の者 ■不詳・死亡

36% 52% 8%

45% 48% 6%

19% 65%2%11%

63% 31% 5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

全体

国立

公立

私立

2%

国公立大では73%の卒業生が大学院に進学

国立大では修士課程の1割が博士課程に進学

(文部科学省学校基本調査より)

(文部科学省学校基本調査より)

Page 19: 注目の学部・学科 航空宇宙工学 · 2020. 3. 31. · 58 Kawaijuku Guideline 2014.7・8 注目の学部・学科 航空宇宙工学 名古屋大学大学院工学研究科

Kawaijuku Guideline 2014.7・8 75

る。特に修士課程修了者数の 71%を占める国立大では博士課程進学率は 10%と、工学の中でも高くなっている。航空宇宙工学は、極めて高度な知識や技術が要求される学問分野だけに、学究への意欲が高いことがうかがえる。

 航空宇宙工学系の学科を卒業した学生は、航空宇宙機の関連メーカーをはじめ、各種製造業への就職が中心のようだ。航空宇宙工学は、工学の中でも航空宇宙機という機械を扱うという意味で、機械工学系と同じような就

修士課程を修了すれば航空宇宙業界への就職が有利に

コラム

崇城大学

教育

九州大学

概説

名古屋大学

入試情報

構造力学

首都大学東京

空気力学

室蘭工業大学

熱力学

早稲田大学

卒業後の進路

職先と考えていい。また、航空機の技術的な学習を通して航空機を取り巻く産業そのものに興味が移り、エンジニアとしてではなく航空会社への就職を希望したり、パイロットをめざす学生もいる。 修士課程を修了すれば、航空宇宙業界への就職という希望が叶うことも多い。企業や JAXA(宇宙航空研究開発機構)などと共同でプロジェクト研究を行っている大学も多く、そうしたプロジェクトを通じて関わった企業との間にパイプができるからだ。ただし、もともと修士課程修了者全員が航空宇宙業界への就職を希望しているわけではない。航空宇宙業界は、自動車業界や電機関係の業界などと比べて、産業規模が大きくないことも

あって、自動車業界など他業種への就職を希望する学生も少なくないからだ。大学にもよるが、航空宇宙産業への就職実績は概ね3割程度であり、学んだことと直結した仕事に就ける割合としては高い方だと言える。 なお、航空宇宙工学はものづくりに加えて、システム統合化技術を学ぶという側面も強い。そのため、大きなシステムのオペレーションを伴う分野、例えば、大きな電力を扱うような電力業界などへ進出する例もある。

<図表3>学士課程「工学」「航空工学」の卒業後の進路(2013 年度)

系統 設置者 全体 進学者就職者 専門学校・

外国の学校等

一時的な仕事

左記以外の者 不詳・死亡

(正規) (非正規)

工学

全体 86,313 31,156 45,007 707 991 894 7,100 458 国立 31,480 19,729 9,855 84 204 42 1,421 145 公立 3,620 1,621 1,725 26 20 16 204 8 私立 51,213 9,806 33,427 597 767 836 5,475 305

航空工学

全体 593 140 362 28 11 2 40 10 国立 56 40 6 0 0 0 1 9 公立 42 32 8 0 1 0 1 0 私立 495 68 348 28 10 2 38 1

<図表4>「ひらく 日本の大学」(2013 年度)調査より 卒業後の進路

室蘭工業大学工学部機械航空創造系学科

東北大学工学部機械知能・航空工学科

東京工業大学工学部機械宇宙学科

名古屋大学工学部機械・航空工学科

九州大学工学部機械航空工学科

九州工業大学工学部機械知能工学科

大阪府立大学工学部航空宇宙工学科

帝京大学理工学部航空宇宙学科

東海大学工学部航空宇宙学科

日本大学理工学部航空宇宙工学科

神奈川工科大学工学部機械工学科

金沢工業大学工学部航空システム工学科

崇城大学工学部宇宙航空システム工学科

日本文理大学工学部航空宇宙工学科

■進学者数  ■正規の職員等 ■正規の職員等でない者■専門学校・外国の学校等 ■一時的な仕事■左記以外のもの ■不詳・死亡

0% 20% 40% 60% 80% 100%

国立

公立

私立

0% 20% 40% 60% 80% 100%

■進学者等 ■就職者(正規・非正規) ■一時的な仕事・左記以外 ■不詳・死亡

51% 44% 5%

88% 3% 7%

96% 4%

86% 14%

89% 8% 3%

68% 31%

79% 19% 2%

21% 54% 23% 3%

22% 69% 9%

27% 64% 9%

15% 69% 16%

11% 85% 3%

2% 95% 4%

5% 91% 4%

8% 89% 3%

10% 85% 4%

3% 98%

98% 2%

(朝日新聞 × 河合塾共同調査より)※ 進学者等には専門学校入学者を含む

(人)

(文部科学省学校基本調査より)