病原体ゲノムの薬剤耐性シグネチャーモジュール...タンパク質 (pbp) ※...

1
: mecA, mecR1, mecI を持つ菌 : mecA, mecR1 を持つ菌 : mecA を持つ菌 病原体ゲノムの薬剤耐性シグネチャーモジュール 田辺麻央 1,2 、矢野亜津子 2 、金久實 1,2 モジュールとは http://www.kegg.jp/kegg/module.html KEGG MODULE データベースにある KEGG module は、 KEGG Orthology (KO) グループの識別子である K 番号 のセットで表現され、 それらの中でも特に Signature module は、ひとつのまとまった機能を示すものであ る。ゲノムに含まれる Signature module を知ること により、その生物種のフェノタイプを推定することが 可能となる。 病原体ゲノムから薬剤耐性に関わるフェノタイプの有無 を推定するため、シグネチャーモジュールの定義を行う。 さらに、全ゲノム配列が決定された KEGG 生物種につい て、これらのモジュールが含まれるかどうかを検証し、  モジュールと耐性菌の生物種分布との対応づけを行う。 ( 1 京都大学化学研究所、 2 NPO バイオインフォマティクス・ジャパン ) Genome Gene set Annotated gene set Phenotype Gene finding Signature modules 病原体と抗生物質 抗生物質に対する 抗生物質による KO KEGG annotation 薬剤の標的分子 薬剤の能動排出 Pump 薬剤の 抗生物質 βラクタム系 DNA 合成 アミノグリコシド系 グリコペプチド系 テトラサイクリン系 細胞壁合成 キノロン系 Rifampicin 細菌の代謝 Sulfonamides Trimethoprim タンパク質合成 (50S) タンパク質合成 (30S) ライド系 RNA 合成 β- ラクタム耐性 (map00312) モジュールを持つ耐性菌の生物種分布 M00625 は、 mec A 遺伝子がコードする、βラクタムに対する親和性の低い新たなPBP (ペニシリン結合 タンパク質)が産生されるまでの過程を示すものである。このモジュールを持つ菌はほぼ全て黄色ブド ウ球菌、中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) と呼ばれる菌であることが確認できた。 黄色ブド ウ球菌は、可動性の DNA 領域 staphylococcus cassette chromosome mec (SCCmec) を獲得することに より MRSA に 変化する。 SCCmec は mec gene complex (mecA およびその制御遺伝子 mecR1, mecI など から構成される)を持つが、制御遺伝子が欠落しているものも存在する。 β- ラクタム β- ラクタム耐性に関するシグネチャーモジュールの例 : M00625 Methicillin resistance ( 薬剤の標的分子の変化) : M00628 Beta-Lactam resistance, AmpC system ( 薬剤不活性化) : M00649 Multidrug resistance, efflux pump AdeABC ( 薬剤の排出) 細菌酵素による 薬剤不活性化 黄色ブドウ 多剤耐性緑膿菌 (MDRP) RND 型多剤排出ポンプ M00625 mecR1 mecI mecA mecR1 mecI mecA mecA mecR1 mecI SCCmec type V SCCmec types I & IV SCCmec types II & III mecR1 サイズの大きい SCCmec は院内感染型 MRSA(HA-MRSA) に多く、サイズの小さいものは 市中感染型 MRSA (CA-NRSA) に多く見られる。 ・マルチコンポーネント型排出タンパク質の代表格ともいえる RND 型多剤排出ポンプ が多くのグラム陰性菌において見られる。グラム陰性菌には内膜の他、外膜もあるた め、2枚の膜を貫通するこの型の輸送体により薬剤の排出が可能となっている。 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) 球菌 ・緑膿菌の中で、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノ配糖体系の3系統の抗菌薬 に対し、全て耐性を示すものを多剤耐性緑膿菌 (MDRP) という。β-ラクタマーゼ産生、 薬剤 排出機構等のモジュールを合わせ持つ緑膿菌は、MDRP である可能性が高い。 抗菌作用 耐性メカニズム 透過性低下 の変化 KEGG DRUG 例:ペニシリン V (D05411) Target: ペニシリン結合 Pathway: ペプチドグリカン の生合成 (map00550) タンパク質 (PBP) ※ 病原菌種 (species) に 含まれる菌株 (strain) の内、 モジュールを持つものが 高率で存在するような種 (species) を主として抜粋 した表 目的 mecA mecA mecA mecI マクロ トーゴーの日シンポジウム 2014 第2段階に入った ライフサイエンスデータベースの統合 会期:2014 年 10 月5日 於 : 時事通信ホール Licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 license (c)2014 田辺麻央、矢野亜津子、金久實 ( 京都大学化学研究所)

Upload: others

Post on 27-Jan-2021

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • : mecA, mecR1, mecI を持つ菌: mecA, mecR1 を持つ菌: mecA を持つ菌

    病原体ゲノムの薬剤耐性シグネチャーモジュール

    ○田辺麻央1,2、矢野亜津子2、金久實1,2

    モジュールとは

    http://www.kegg.jp/kegg/module.html

    KEGG MODULE データベースにある KEGG module は、

    KEGG Orthology (KO) グループの識別子である K 番号

    のセットで表現され、 それらの中でも特に Signature

    module は、ひとつのまとまった機能を示すものであ

    る。ゲノムに含まれる Signature module を知ること

    により、その生物種のフェノタイプを推定することが

    可能となる。

    病原体ゲノムから薬剤耐性に関わるフェノタイプの有無

    を推定するため、シグネチャーモジュールの定義を行う。

    さらに、全ゲノム配列が決定された KEGG 生物種につい

    て、これらのモジュールが含まれるかどうかを検証し、 

    モジュールと耐性菌の生物種分布との対応づけを行う。

    (1 京都大学化学研究所、2NPO バイオインフォマティクス・ジャパン )

    Genome

    Gene set

    Annotated gene set

    Phenotype

    Gene finding

    Signature modules

    病原体と抗生物質抗生物質に対する抗生物質による

    KO

    KEGG annotation

    薬剤の標的分子

    薬剤の能動排出

    Pump 薬剤の

    抗生物質

    βラクタム系

    DNA合成

    アミノグリコシド系

    グリコペプチド系

    テトラサイクリン系

    細胞壁合成

    キノロン系

    Rifampicin

    細菌の代謝

    SulfonamidesTrimethoprim

    タンパク質合成 (50S) タンパク質合成 (30S)

    ライド系

    RNA合成

    β-ラクタム耐性 (map00312)

    モジュールを持つ耐性菌の生物種分布

    M00625 は、 mec A 遺伝子がコードする、βラクタムに対する親和性の低い新たな PBP ( ペニシリン結合

    タンパク質)が産生されるまでの過程を示すものである。このモジュールを持つ菌はほぼ全て黄色ブド

    ウ球菌、中でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) と呼ばれる菌であることが確認できた。 黄色ブド

    ウ球菌は、可動性の DNA 領域 staphylococcus cassette chromosome mec (SCCmec) を獲得することに

    より MRSA に 変化する。 SCCmec は mec gene complex (mecA およびその制御遺伝子 mecR1, mecI など

    から構成される)を持つが、制御遺伝子が欠落しているものも存在する。

    β- ラクタム

    β-ラクタム耐性に関するシグネチャーモジュールの例: M00625 Methicillin resistance ( 薬剤の標的分子の変化)

    : M00628 Beta-Lactam resistance, AmpC system ( 薬剤不活性化): M00649 Multidrug resistance, efflux pump AdeABC ( 薬剤の排出)

    細菌酵素による

    薬剤不活性化

    黄色ブドウ

    多剤耐性緑膿菌 (MDRP)

    RND 型多剤排出ポンプ

    M00625

    mecR1

    mecI

    mecA

    mecR1 mecI

    mecA

    mecAmecR1 mecI

    SCCmec type V

    SCCmec types I & IV

    SCCmec types II & IIImecR1

    サイズの大きい SCCmec は院内感染型 MRSA(HA-MRSA) に多く、サイズの小さいものは

    市中感染型 MRSA (CA-NRSA) に多く見られる。

    ・マルチコンポーネント型排出タンパク質の代表格ともいえる RND 型多剤排出ポンプ

    が多くのグラム陰性菌において見られる。グラム陰性菌には内膜の他、外膜もあるた

    め、2枚の膜を貫通するこの型の輸送体により薬剤の排出が可能となっている。

    メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA)

    球菌

    ・緑膿菌の中で、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノ配糖体系の3系統の抗菌薬

    に対し、全て耐性を示すものを多剤耐性緑膿菌 (MDRP) という。β- ラクタマーゼ産生、 薬剤

    排出機構等のモジュールを合わせ持つ緑膿菌は、MDRP である可能性が高い。

    抗菌作用 耐性メカニズム

    透過性低下

    の変化

    KEGG DRUG例:ペニシリン V (D05411)Target: ペニシリン結合

    Pathway: ペプチドグリカンの生合成 (map00550)

    タンパク質 (PBP)

    ※ 病原菌種 (species) に

    含まれる菌株 (strain) の内、

    モジュールを持つものが

    高率で存在するような種

    (species) を主として抜粋

    した表

    目的

    mecA

    mecA

    mecA

    mecI

    マクロ

    トーゴーの日シンポジウム 2014

    第2段階に入った ライフサイエンスデータベースの統合

    会期:2014 年 10 月5日 於 : 時事通信ホール

    Licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 license (c)2014

    田辺麻央、矢野亜津子、金久實 ( 京都大学化学研究所)