動学的パネルデータ分析 - keio...
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動学的パネルデータ分析
動学的パネルデータ分析
パネルデータ yit に対して、以下のようなモデルを考える。
yit = ηi + α yit–1 + β xit + εit , i =1,…,N, t =1,…,T
ここで ηi は個別効果、xit は外生変数、εit は誤差項である。
このように説明変数に被説明変数の過去の値が入ってくるようなモデルの分析は動学的パネルデータ分析と呼ばれる。
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動学的パネルデータ分析
動学的パネルデータ分析の問題点
先ほどのモデルにおいて、yit–1 が入っていない
場合の分析は静学的パネルデータ分析と呼ばれる。
動学的パネルデータ分析の問題点は、静学的パネルデータ分析で用いた推定法、すなわち 最
小二乗ダミー推定、一般化最小二乗法では、係数の一致推定ができなくなる点にある。
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最小二乗ダミー(Least square dummy variable)
推定 (固定効果モデルの推定に使用)と一般化最小二乗 (Generalized least square)法 (変量効果モデルの推定)の特性
静学的パネル 動学的パネル
T 固定、N →∞ 一致性あり 一致性なし
N→∞, T → ∞ 一致性あり 一致性あり
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パネルデータは典型的には N(個体数)が大きくて、T (観測時点数)が少ない場合が多いので T
固定、 N → ∞ の時の推定量の性質が重要。
この時、最小二乗ダミー推定も、一般化最小二乗法も一致性がない。
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この問題に対処する方法として大きく分けて
(1) これらの推定量のバイアスを修正することにより推定量の精度を上げる
(2) 動学的パネルに対しても一致性のある推定量を用いる。
の2つがある。
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動学的パネルデータ分析
動学的パネルデータの推定 (GMM 推定)
説明の簡単化のために外生変数および過去のyit の数はともに 1 つとする。
yit = ηi + α yit–1 + β xit + εit ,
(i=1,…,N, t =1,…,T)
また εit は E(εit) = 0, var(εit) = σε2 を満たし、 i 方
向 (クロスセクション方向)にも t 方向 (時系列方向) にも 独立で同分布とする。外生変数 xit は全ての誤差項 εit と独立とする。
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ここでは個別効果 ηi は確率変数として扱い
E(ηi) = 0, var(ηi) = ση2
とする。これは全ての誤差項と独立で、またクロスセクション方向に独立とする(ただし外生変数とは相関があってよい)。
E(ηi) = 0 は、もし満たされていなければ、例えばηi を個別効果の期待値からの乖離として定義しなおせばよい(その場合外生変数に定数項を入れてその期待値を推定すればよい)。
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パネルデータモデルで問題となるのは個別効果ηi の存在である。
もし個別効果がなければ(η1 = η2 = …. = ηN であれば )、推定は普通の最小二乗法を適用すればよいので簡単である。
この個別効果を消す方法として1階の階差をとるという方法がある。
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1 階階差GMM
個別効果を消すために1階の階差をとると
Δyit = α Δyit–1 + β Δxit + Δεit ,
(i =1,…,N, t =2,…,T)
となる。Holtz-Eakin, Newey, and Rosen (1988),
Arellano and Bond (1991) はこのモデルを GMM
で推定する 1 階階差GMMと呼ばれる方法を提案している。1 階階差GMMは Arellano and
Bond 推定量とも呼ばれる。11
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このモデルにおいては、説明変数 Δyit–1 に内生性がある(誤差項Δεit と相関がある)。これを見てみる
cov(Δyit–1, Δεit) = cov(yit–1 – yit–2, εit – εit–1)
= cov(yit–1 – yit–2, εit ) – cov(yit–1 – yit–2, εit–1)
= – cov(yit–1, εit–1) + cov(yit–2, εit–1)
= – cov(yit–1, εit–1)
= – cov(ηi + αyit–2 + βxit + εit–1 , εit–1)
= σε2 ≠ 0
よって操作変数を用いる必要がある。12
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時点 t における Δyit–1 の操作変数 (すなわち
(1)Δεit と無相関で(2) Δyit–1と相関している
変数)として、
yis, s ≤ t –2
を用いることができる。 これを確認する。
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まず Δεit と yis, s ≤ t –2 の共分散は
cov(Δεit , yis) = cov(εit – εit–1, yis)
= cov(εit , yis) – cov(εit–1, yis)
= 0
よってΔεit と yis s ≤ t –2は無相関となり、条件(1)
を満たす。
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また Δyit–1 は
Δyit–1 = ηi + αyit–2+ βxit–1 + εit–1 – yit–2
= ηi + (α –1) yit–2+ βxit–1 + εit–1
であるので、この式に yiu = ηi + αyiu–1 + βxiu +
εiu , u = t –2, t –3 ,…, s +1 を代入していくと Δyit–1
は yis に依存していることがわかる。
よって Δyit –1 と yis, s ≤ t –2 は相関があり、条件(2)を満たす。
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これらの操作変数に対して、
E[yisΔεit] = E[yis (Δyit – αΔyit–1 – βΔXit] = 0,
t =2,…,T, s = 0, …, t –2,
というモーメント条件が得られる。また外生変数は誤差項と無相関なのでその階差はそのまま操作変数として使える。よって
E[ΔxisΔεit] = E[Δxis (Δyit – αΔyit–1 – βΔxit] = 0,
t =2,…,T, s = 1,…,T,
というモーメント条件も得られる。
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1 階階差 GMM はこれらのモーメント条件を クロスセクション方向の標本平均で置き換えたものを用いて GMM目的関数を定義して未知パラメーターをGMM推定する方法である。
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1階階差GMM推定量の短所
1 階階差GMM推定量は α → 1、あるいはση
2/σε2 → ∞ の時に操作変数 yis と 説明変数
Δyit –1 との相関が 0 に近づく、すなわち 弱い操作変数の問題が生じる。
この問題は後述するレベルGMM推定量およびシステムGMM推定量によってある程度解決できる。
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レベルGMM推定量
再び先ほどのモデル
yit = α yit–1 + β xit + ηi + εit ,
を考える。ここで個別効果と誤差項をまとめて
yit = α yit–1 + β xit + uit ,
とする。 uit = ηi + εit である。
Arellano and Bover (1995) によって提案されたレベルGMM推定量ではこのモデルに対してyit –1 の操作変数を用いてGMM推定する。
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レベルGMM推定量において yit –1 の操作変数は誤差項 uit と無相関である必要がある。
誤差項 uit は 個別効果 ηi を含んでいるので、操作変数は ηi と無相関でなくてはならない。
そのような操作変数としては1階階差をとって ηi
を消去した Δyis , s= t –1, …, 1が考えられる。
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モーメント条件は
E(Δyisuit) = 0 , t = T, …,1, s = t –1,…,1
および
E(xisuit ) = 0, t =T,…,1, s = T,…,1
である。
レベルGMM推定ではこれらのモーメント条件を用いてGMM推定する。
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レベルGMM推定量の長所
1 階階差GMMと異なり、α→1 の場合に弱い操作変数の問題が生じない。
レベルGMM推定量の短所
1 階階差推定量と同様 ση2/σε
2 が大きい場合に弱い操作変数の問題が生じる。
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システムGMM推定量
Arellano and Bover (1995), Blundell and Bond
(1998) では1階階差GMM推定量とレベルGMM
推定量を合わせたシステムGMM推定量を提案している。
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システムGMM推定量は、1階階差回帰式とレベル回帰式の2つ
Δyit = α Δyit–1 + β Δxit + Δεit ,
yit = α yit–1 + β xit + uit
を合わせたモデル
に対する(前述のような操作変数を用い)GMM
推定量である。
it
it
it
it
it
it
it
it
ux
x
y
y
y
y
1
1
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システムGMM推定量の長所
大標本においては 1 階階差GMM推定量、レベルGMM推定量よりも効率的である。また1階階差GMM推定量と違い α → 1 の時にも弱い操作変数の問題が生じない。
システムGMM推定量の短所
レベルGMM同様、 ση2/σε
2が大きいときに弱い操作変数の問題が生じる。
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1階階差GMM、レベルGMM、システムGMMの特徴をまとめると以下のようになる。
ただし大標本ではシステムGMM推定量が最も効率的である。ただし有限標本では異なりえる。
1階階差GMM レベルGMM システムGMM
αについての弱い操作変数の問題
あり なし なし
ση2/σε
2についての弱い操作変数の問題
あり あり あり
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誤差項の系列相関の検定
これら3つのGMMが一致性を持つための条件の1つとして、誤差項は系列相関をもたないというものがあった。
誤差項の系列相関の検定によく用いられるのはArellano and Bond (1991) によって提案された方法である。
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Arellano-Bond 検定 (mj検定ともよばれる)
Arellano-Bond は(1階階差モデルの)誤差項の推定値を用いて、(1階階差モデルの)誤差項の系列相関の有無を検定する統計量を提案した。
帰無仮説
H0: 1次の自己相関がない
を検定する統計量は m1検定、帰無仮説
H0: 2次の自己相関がない
を検定する統計量は m2 検定と呼ばれる。28