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79- 人文研究 大阪市立大学文学部紀要 51 10 分冊 1999 79 ~90 極端反応傾向と 5 因子モデル による性格特性 との関連 さまざまな多段階尺度評定において,極端反応傾向 (ExtremeResponse Style;ERS)と呼ばれる反応スタイルが存在することが知 られている。極 端反応傾向(以下,ERSと略す)とは,項 目内容とは独立に尺度の極端な 段階を好んで選択するという,個人の反応噂好性である。 これ までの研究か ら,ERS は継時的にかなり安定 した反応傾向であることが示されており (e.g.Berg ,1953) ,その点か ら,性格特性などのような個人の内的な要因 によって規定されていると考えられている。ERS を規定す る内的要因を探 る試みは過去数多 くなされてきたが,組織的な研究の欠如 といった方法論上 の問題 (Hamilton ,1968)な どもあ って,未だ明確 な結論 は得 られ ていな い。ERS との関連が示唆 され る内的要因は,行動の一般的逸脱性,特性不 安,唆昧さに対する不耐性など多岐にわた り,また中には,権威主義的人格 ERS との関連に代表 され るように,研究者によって異なる結果が得 られて いる場合もあるというのが現状である。 本研究 は,ERS 5 因子モデルによる性格特性との関連について検討す ることを 目的と している。 5 因子モデル (Fiv&FctorModel;FFM)とは, 周知のように近年多 くの性格心理学者の支持を集めているモデルであ り,パー ソナ リテ ィ構造は5 つの基本的な性格特性 (以下,基本的性格特性 と記す) 一 外向/内向性,協調性,勤勉性,情緒安定性,知性 1- か ら構成 され て いるとするモデルである。ただ し,これ らの基本的性格特性の内容について は, 5 特性のすべてについて統一的な理解がなされているわけではなく,研 究者によってやや解釈が異なるものがある。特に 5 番 目の性格特性について 1 これ らの基本的性格特性の名称については、研究者によって異なる命名がされており、 ここでもちいた名称は村上 ・村上 (1997)によるものである。 (1029)

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ー 79 -

人文 研 究 大 阪 市 立 大 学 文 学 部 紀 要第51巻 第10分冊 1999年79貢~90貢

極端反応傾向と5因子モデルによる性格特性との関連

辻 本 英 夫

さまざまな多段階尺度評定において,極端反応傾向(ExtremeResponse

Style;ERS)と呼ばれる反応スタイルが存在することが知られている。極

端反応傾向 (以下,ERSと略す)とは,項目内容とは独立に尺度の極端な

段階を好んで選択するという,個人の反応噂好性である。これまでの研究か

ら,ERSは継時的にかなり安定 した反応傾向であることが示されており

(e.g.Berg,1953),その点から,性格特性などのような個人の内的な要因

によって規定されていると考えられている。ERSを規定する内的要因を探

る試みは過去数多くなされてきたが,組織的な研究の欠如といった方法論上

の問題 (Hamilton,1968)などもあって,未だ明確な結論は得られていな

い。ERSとの関連が示唆される内的要因は,行動の一般的逸脱性,特性不

安,唆昧さに対する不耐性など多岐にわたり,また中には,権威主義的人格

とERSとの関連に代表されるように,研究者によって異なる結果が得られて

いる場合もあるというのが現状である。

本研究は,ERSと5因子モデルによる性格特性との関連について検討す

ることを目的としている。 5因子モデル (Fiv&FctorModel;FFM)とは,

周知のように近年多くの性格心理学者の支持を集めているモデルであり,パー

ソナリティ構造は5つの基本的な性格特性 (以下,基本的性格特性と記す)

一 外向/内向性,協調性,勤勉性,情緒安定性,知性 1- から構成されて

いるとするモデルである。ただし,これらの基本的性格特性の内容について

は,5特性のすべてについて統一的な理解がなされているわけではなく,研

究者によってやや解釈が異なるものがある。特に5番目の性格特性について

1 これ らの基本的性格特性の名称については、研究者によって異なる命名がされており、

ここでもちいた名称は村上 ・村上 (1997)によるものである。

(1029)

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は,広い意味での知的能力としての 「教養 (Culture)」あるいは 「知性

(Intellect)」,新規刺激に対する受容性を表す 「経験への開放性 (Openness

toExperience)」,現実からの逸脱を楽しむ 「遊戯性 (Playfulness)」など

に意見が分かれている。

5因子モデルによる基本的性格特性とERSとの関連を調べた研究として

は,辻本 (1998b)が唯一のものである。辻本 (1998も)は,主要5因子性

格検査 (村上 ・村上,1997)の尺度得点と,2つのERS測定尺度一語反応検

査 (WRY)および知覚反応検査 (PRY)-の2種頬のERS測定測度一極端

反応数と偏差得点-との相関を調べている。その結果,語反応検査の極端反

応数 ・偏差得点と主要 5因子性格検査のA尺度 (協調性)との間に負の有意

な相関が兄い出された。しかしながら,有意とはいえ,得られた相関係数の

値は-0.21(極端反応数)および-0.18(偏差得点)という低い値であり,

また知覚反応検査においては有意な相関が得られていないことから,協調性

とERSの間に関連があると結論づけることは留保されている。

このように,5因子モデルによる基本的性格特性とERSとの間に関連が

あるのか香かは,現在のところ明らかではない。何よりも,両者の関連を検

討した研究がほとんどなされていないというのが現状である。従来,性格特

性とERSとの関連についての研究は,ERSと関連のありそうな性格特性を

個別に取り上げて検討するという形で行われてきた。5因子モデルのような

統一的なパーソナリティ理解の枠組みと関連付けて検討する試みは,いくつ

かの例外 (Zuckerman,Norton,&Sprague,1958;Borgatta&Glass,

1961;Biggs&Das,1973;辻本,1996;辻本,1998b)を除いて,ほとん

どなされて来なかった。このことが,先に述べたような,ERSとの関連が

示唆される内的要因が多岐にわたるといった混乱の一因となっているように

思われる。 したがって,ERSと関連する性格特性を単に特定しようとする

だけではなく,統一的なパーソナリティ理解の枠組みの中に,性格特性とE

RSとの関係を位置づけていく必要がある。その意味で,5因子モデルによ

る基本的性格特性ないしはそれらを構成する下位特性が,ERSに対して関

連をもつのかどうかを検討していくことは,有効な方法の 1つであろう。

本研究では,辻 (1998)らの5因子性格検査 (FFPQ)をもちいて,ERS

と5因子モデルによる基本的性格特性との関連について調べる。同時に,村

上 ・村上 (1997)の主要5因子性格検査を併用し,両性格検査で測定される

性格特性の相違という観点からも,ERSと性格特性との関連について検討

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を加えたい。村上 ・村上 (1997)の主要 5因子性格検査は,Goldberg

(1992)の5因子モデルを基盤として構成されており,この検査で測定され

る基本的性格特性の解釈については,外向性 (Extraversion),協調性

(Agreeableness),勤勉性 (Conscientiousness),情緒安定性 (Emotional

Stability),知性 (Intelligence)といった,5因子モデル研究を主導する米

国での主流的な解釈が採用されている。研究者間で意見が分かれる第5因子

については,経験を広く取り入れてそれを適切に処理する能力 (洞察力,分

析力,思考力)と解されている。他方,FFPQは,外向性一内向性,愛着

性一分離性,統制性一自然性,情動性,遊戯性一現実性の5つの基本的特性

尺度2と25の下位尺度3から構成され,日本人の視点を導入 して独自な拡充が

行われている点に特色がある。特に,「現実性一遊戯性」と命名されている

第5因子は,非日常的経験を自由に楽 しめるか否かにかかわる特性とされ,

単に経験に開かれているというだけでなく,非日常的経験に対する積極性 ・

肯定性という点が重視されており,主要5因子性格検査の 「知性」とはかな

り異なる性格づけがなされている。

方 法

被験者および手続

大阪市立大学総合教育科目 「性格心理学入門」の授業時間内に,語反応検

査,知覚反応検査,主要5因子性格検査,FFPQ(5因子性格検査)の4種

頬の検査を実施 した。授業の都合上4回にわけて実施 したため,表 1に示す

ように,それぞれの実施 日および有効被験者数は異なっている。また,各検

表 1 有効被験者数および実施日

検査名 被験者数 実施日

語反応検査 (WRT)

知覚反応検査 (PRT)

5因子性格検査 (FFPQ)主要5因子性格検査

183(男 111、女 72)

185(男 119、女 66)

185(男 111、女 74)

177(男 108、女 69)

1998/10/16

1998/10/23

1998/ll/13

1998/11/27

2FFPQでは 「超特性」尺度と呼ばれている。

3FFPQでは 「要素特性」尺度と呼ばれている。

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査得点間の相関分析においては,相関をとる変数の組み合わせによって有効

被験者数が異なるため,有効被験者数はその都度明記する。

極端反応傾向 (ERS)測定尺度 ・測度

極端反応傾向 (ERS)は,語反応検査 ・知覚反応検査 (辻本,1998a)を

もちいて測定した。両検査ともERS測定尺度として構成されたものであり,

唆味な刺激に対する好悪を,かなり嫌い-やや嫌い一全く中間-やや好き-

かなり好きの5段階で評定させるものである。語反応検査 (WordReaction

Test;WRT)は60個の清音 2字音節の無意味綴 りを,知覚反応検査

(PerceptualReaction Test;PRT)は同じく60個の抽象的記号 (シンボ

ル)を評定刺激とする。再検査信頼性,収束的妥当性は実用的な水準にある

(辻本,1998a)0

また,ERSの測度には極端反応数と偏差得点をもちいた。極端反応数は,

尺度の両端の段階が選択された項目の度数をERS得点とするものである。

偏差得点は,尺度の中央の段階である 「全く中間」を0点,その両隣の段階

「やや好き」「やや嫌い」を1点,両端の段階 「かなり好き」「かなり嫌い」

を2点というように項目ごとに得点化し,全60項目の項目得点の合計を求め

たものである。

性格検査

ここでもちいたFFPQ(FFPQ研究会,1998)および主要5因子性格検査

(村上 ・村上,1997)はいずれも,近年性格心理学界で主流となりつつある

5因子モデルに基づいて作成された性格検査である。FFPQは,5因子モデ

ルに基づく日本版の性格検査としては,初めて市販された検査である。項目

に対する回答方法は5段階評定である。930名の大学生の回答に基づいて標

準化がなされており,い くつかの下位尺度については値が低いものの,概ね

満足のいく信頼性の高さを示している。 また,妥当性についても十分な検討

が行われている。一方,主要5因子性格検査も,世代別に標準化が行われて

おり,信頼性 ・妥当性は十分に実用 レベルに達していると思われる。回答方

法は 「はい」「いいえ」の2件法である。なお,これらの検査の実施に際し

ては,標準的な実施手順に従った。

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極端反応傾向と5因子モデルによる性格特性との関連- 83 -

結 果

ERS測度 極端反応数と偏差得点の平均ならびに標準偏差 (SD)は,

表2に示 した通りである。また同じく表 2に示すように,極端反応数と偏差

得点間の相関は,WRTで0.84(N-183),PRTで0.89(N-185)と,辻

本 (1998a,1998b)同様,0.8を超える高い正の相関が得 られた。無相関検

定の結果はいずれも1%水準で有意であった。これらの結果から,両測度は

相互に交換可能であると結論づけてよいであろう。

表2 ERS測度の平均 ・標準偏差 ・測度間相関

尺度 ERS測度 平 均 標準偏差 測度間相関 被験者数

WRT 極端反応数 8.3 9.6 0.84

偏差得点 44.2 19.8

PRT 極端反応数 10.8 9.3 0.89

偏差得点 50.0 18.1

表3 ERS測度の尺度間相関

尺度 WRT

ERS測度 極端反応数 偏差得点 被験者数

PRT 極端反応数 0.55 0.47

偏差得点 0.49 0.51 135

また WRT-PRT間の相関に関 しては,極端反応数で0.55,偏差得点で

0.51(N-135)であり,比較的高い正の相関が得られている (表 3)。無相

関検定の結果はいずれも 1%水準で有意である。辻本 (1998a,1998b)と

比較するとやや低い値であるが,これは,本研究では,両検査を 1週間の間

隔をおいて実施 したことによると考えられる。

FFPQとの関連 本研究の主目的であるFFPQとの関連についての分析

結果は,表 4に示 した通 りである。P尺度 (遊戯性)において, 4つの

ERS測度のすべてとの間に, 1%水準で正の中程度の相関 (r-0.43,0.34,

0.30,0.27)が得られた。そこでさらに,P尺度の下位尺度 (Pl~P5)

とERS測度との相関を調べたところ,P3尺度を除くすべての下位尺度と

ERS測度の間に有意な正の相関が見られた。ただし,Pl尺度については,

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表4 ERS得点とFFPQ尺度得点の相関

FFPQ WRT(N-106) PRY(N-106)

尺度得点 極端反応数 偏差得点 極端反応数 偏差得点

EX 0.18 0.18 -0.08 -0.ll

A 0.04 -0.04 -0.10 -0.10

C 0.03 -0.03 0.11 0.14

Em 0.08 0.09 0.08 0.06

P 0.43 … 0.34 … 0.30 … 0.27 …

Pl 0.33 … 0.30 … 0.14 0.ll

P2 0.33 … 0.30 … 0.26 … 0.31 …

P3 0.12 0.05 0.12 0.09

P4 0.42 … 0.30 … 0.23 * 0.22 *

P5 0.36 … 0.29 … 0.30 … 0.21 *

*♪<.05 = ♪<.01

WRTの極端反応数 ・偏差得点との間の相関のみが有意であり,PRTの極

端反応敷 ・偏差得点との間の相関は有意ではなかった。これ らの結果は,遊

戯性,中でも空想性 ・内的敏感性 ・奔放性が高いほどERSが強いことを示

唆 している。

ところで,FFPQ自体も5件法の多段階評定であるので,その尺度得点

も当然 ERSの影響を受けていると考えられる。そこで,項 目得点の 1と2

を1点,3を2点,4と5を3点というように3値データに変換 して尺度得

点を算出し直 し,オリジナルな尺度得点との相関を調べてみた (N-185)0

結果は,Ex尺度 (外向性)0.98,A尺度 (愛着性)0.97,C尺度 (統制性)

0.98,Em尺度 (情動性)0.98,P尺度 (逸戯性)0.96といずれも非常に高

い正の相関を示 した。また,下位尺度についても同様に,0.92-0.97(平均

0.96,SDO.01)の範囲内の高い正の相関が得 られた。このことから,少な

くとも今回行 った相関分析結果に関 しては,FFPQの尺度得点への ERSの

影響はほとんどないと言える。

●主要 5因子性格検査との関連 表 5は,主要 5因子性格検査の尺度得点と

ERS得点 (極端反応数 ・偏差得点)間の相関を示 したものである。全体的

に見て,主要 5因子性格検査の5つの尺度得点と ERS得点の間の相関は押

し並べて低い。例外的に,極端反応数 ・偏差得点ともに,FFPQの遊戯性

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極端反応傾向と5因子モデルによる性格特性との関連- 85 -

表5 ERS得点と主要5因子性格検査尺度得点の相関

性格検査 WRT(N-106) PRT(N-106)

尺度得点 極端反応数 偏差得点 極端反応数 偏差得点

E 0.16 0.13 0.01 -0.02

A 0.01 -0.12 -0.03 -0.08

C 0.00 -0.09 -0.03 0.05

N -0.06 -0.07 -0.03 -0.05

*♪<.05 …♪<.01

に対応する0尺度 (知性)との間に正の有意な相関が認められる。ただし0

尺度においても,有意な相関が得られたのはWRTにおいてのみであり,

PRTにおいては有意水準に達していない。すなわち,知性とERSとの間に

は,FFPQの遊戯性ほど明確な関連は見られないと言える。

本研究では,ERSと5因子モデルによる性格特性との間の関連について

検討した。まず,ERSとFFPQによる5つの基本的性格特性との相関分析

では,FFPQのP尺度 (現実性-遊戯性)において,4つのERS測度のす

べてについて有意な正の相関が認められ,遊戯性が高いほどERSが強いと

いう結果が得られた。辻 (1998)によれば,遊戯性とは 「日常的現実から遁

走して,非日常の世界に遊ぼうとする傾向」(p.62)で,遊戯性の高い人は,

「非日常的経験を楽しむことのできる 『遊び心』」(p.212)があり,同時に,

現実世界と非日常の世界を自由に行き来できる柔軟性を併せ持っ (p.67)

人であるとされている。

他方,ERS得点と主要 5因子性格検査の尺度得点との間では,FFPQ同

様に第5因子である0尺度 (知性)との間に正の有意な相関が認められたも

のの,有意な相関が得られたのはWRTにおいてのみであった。この結果は,

主要5因子性格検査のA尺度 (協調性)とERSとの間に負の有意な相関が

得られたという,辻本 (1998b)の結果とは一致 していない。このように両

研究で整合した結果が得られていないこと,またどちらの結果においても性

格特性との有意な相関が得 られたのはWRTに限られることを考慮すれば,

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少なくとも現段階では,主要5因子性格検査で測定される性格特性とERSと

の間には明確な関連は認められないと言えよう。

FFPQと主要5因子性格検査は,いずれも5因子モデルに基づく性格検

査ではあるが,前述したように,基本的性格特性としてどういう特性 (因子)

を考えるのかという点で,両検査の作成者の考え方に相違があると思われる。

したがって,両検査が同一の特性を測定しているとは言いきれない点がある。

特に5番目の因子である遊戯性ないしは知性については,それぞれの検査作

成者の意図する内容は,かなり異なっているように思われる。そこで,両検

査の対応する尺度間の相関を求めてみた (N-137)。結果は,外向性0.78,

愛着性と協調性0.64,統制性と勤勉性0.75,情動性と情緒安定性-0.73,遊

戯性と知性0.30であった。また,無相関検定の結果はいずれも1%で有意で

あった。相関係数の値の大きさから判断する限り,遊戯性 (知性)を除く4

尺度に関しては,各因子の呼称はかなり異なるとはいえ,両検査が測定しよ

うとしている性格特性はほぼ同じものであると考えてよいであろう。しかし

ながら,FFPQの遊戯性と主要5因子性格検査の知性については0.3程度の

相関関係 しか認められず,関連はあるものの,同一の性格特性とはみなしに

くい。この第5因子は,一般に,知的 ・創造的な認知活動に関係する因子である

とみなされているが,知的能力にかかわる側面と創造性にかかわる側面との

どちらを重視するかという点で,研究者間に大きな違いがみられる。主要5

因子性格検査では,「知性」という命名からもうかがえるように,知的な認

知活動にかかわる特性としてとらえられている。実際,「知性」を測定する

項目 (村上 ・村上,1997,Tablel)を見ても,洞察力や分析力あるいは教

養などにかかわる項目が多く,理性的 ・分析的 ・合理的な判断力の測定といっ

た点に比重がおかれているように考えられる。それに対して,FFPQの遊

戯性は,思考の柔軟性,好奇心,空想的といった創造的な認知活動にかかわ

る性格的側面に焦点がおかれており,非現実的な経験を積極的 ・肯定的に受

容する姿勢,場合によっては現実からの遊離といった傾向を表すものと解釈

できる。両検査で測定している性格特性のこのような違いが,ここでのERS

との関連についての分析結果の違いにも反映していると考えられる。

本研究の結果は ERSと遊戯性との関連を示唆するものであった。しかし

ながら,遊戯性との相関はそれほど高いものではないので,「遊び心」を本

質とするFFPQの遊戯性そのものがERSを規定しているとは考えにくく,

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梅端反応傾向と5因子モデルによる性格特性との関連- 87 -

ERSと関連があるのは遊戯性の1側面であることが推測される。ERSが遊

戯性のどの側面に関連 しているのかという点に関して,遊戯性の下位尺度で

ある芸術無関心一関心との間には有意な相関が得られなかったという結果が,

推測の1つの手がかりとなるように思われる。遊戯性という解釈には,単に

非現実的な経験に開かれている傾向ということにとどまらず,非現実的な経

験の受容に対する積極性 ・肯定性一辻(1998)の言葉で言えば,「『非日常的

な経験』を積極的に 『追求し創造する』」(p.62)という側面が強調されて

おり,成熟した望ましい特性としてとらえられている。下位尺度として芸術

への関心が含まれていることは,遊戯性のそのような特徴を端的に表してい

る。したがって,今回,ERSと芸術無関心一関心という下位尺度との間に

有意な相関が得られなかったという結果は,ERSが,遊戯性のこの積極性・

肯定性といった面とは関連していないことを示しているのではないだろうか。

ERSは単に非現実的な経験を受容しうる傾向,言いかえれば現実にとらわ

れない傾向といった側面を反映しているのではないか,という推測が可能で

あると思われる。

ERSと非現実的な経験を受容しうる傾向との関連については,非現実的

経験の受容を,伝統的な考え方や常識的あるいは規範的な行動といったもの

にとらわれずに行動することと考えれば,次のように説明することができる。

極端反応は尺度の極端な段階への反応を好む傾向であり,言い換えれば,何

に対しても態度を明確に強く表明しようとする傾向である。このような白黒

をはっきりさせようとする態度や行動は,わが国のような身内集団の和を特

に重視する文化においては,往々にして,和を乱す極端な言動として反発さ

れることが多く,その種の態度 ・行動の抑制は暗黙の規範として多くの人に

受けとめられていると考えることができる。すなわち,遊戯性の高い人はそ

のような規範にとらわれずに自由に行動できる人であり,それ故に,物事に

対して自分の態度を自由に表明でき,それが多段階尺度評定において,ERS

として反映されるのではないだろうか。いずれにしても,ERSが遊戯性の

どのような側面に関連しているのかは,本研究の結果のみからは明確ではな

く,今後さらに検討を加えていく必要がある。

本研究では,ERSとFFPQの遊戯性との間に正の相関が認められたが,

ここでの結果とは対照的に,遊戯性の対極にある現実性とERSとの関連を

示唆する指摘が,辻 (1998)によってなされていることに触れておく必要が

あるだろう。現実性とは,辻 (1998,p.67)によれば,「唆味で不確実なも

(1037)

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のを拒否し,感傷におぼれることなく,現実的で確実な行動をとろうとする」

傾向であり,権威主義,独断主義,硬直性 (rigidity),唆昧さへの耐性の欠

如 (intoleranceorambiguity)といった特性と関連する特性であるとされ

ている。4辻が現実性と関連するとして挙げているこれらの特性は,これま

でにERSの規定要因の候補として特に有力視されてきた性格特性の 1つで

もある (Hamilton,1968)。 したがって,これらの性格特性が真にERSの規

定要因であるとすれば,そして同時に辻の指摘が正 しければ,ERSと遊戯

性一現実性との間には負の関連が見られることが予想される。しかしながら,

本研究では逆に正の相関が得られたわけである。ただ,辻の上記の指摘には

根拠となるデータが示されておらず,また,たとえば権威主義とERSとの

関連については,正の相関があるとするもの (Mogar,1960),負の相関が

あるとするもの (Zuckerman,Norton,& Sprague,1958),相関がないと

するもの (Peak,Muney,&Clay,1960;White&Harvey,1965)とい

う3様の報告がなされているといったように,ERS,遊戯性一現実性,権威

主義 ・独断主義 ・硬直性 ・唆昧さへの耐性の欠如の3着問の関係は必ずしも

明らかではない。今後,権威主義 ・独断主義 ・硬直性 ・唆昧さへの耐性といっ

た特性とERSあるいは現実性との関係をも視野に含めて,ERSと遊戯性一

現実性との関連について検討を重ねていくことが重要な課題の1つとなろう。

さらに,今回取り上げた FFPQと主要5因子性格検査以外の5因子モデ

ルに基づく性格検査を採用 して,これらの検査で測定される基本的性格特性

とERSとの関連を調べることも重要であろう。5因子モデルに基づく日本

版性格検査としては,FFPQと主要5因子性格検査の他に,ACLに基づく

BFS(和田,1996),NEO-PトRの日本版 (下仲 ・中里 ・権藤 ・高山,1999)

などが発表されている。今回ERSとFFPQの間で関連が示された第5因子

の内容については,BFS,NEO-PトRともに経験への開放性としており,

FFPQや主要 5因子性格検査とは異なる解釈を採用 している。また,BFS

では経験への開放性を主体としながらも,知的側面をも含めた特性としてい

るのに対し,NEO-PトRでは純粋に経験への開放性と解 しており,両検査

の間にも微妙な解釈の違いがある。これらの検査で測定される基本的性格特

性,特に第5因子とERSとの関連について検討していくことは,ERSを規

定する性格特性について,新たな知見を提供 してくれるものと期待できる。

4 もっとも辻 (1998)は、これらの特性は現実性と同一の特性というわけではなく、現

実性と統制性や情緒不安定などとの複合的特性と考えるべきであるとしている。

(1038)

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極端反応傾向と5因子モデルによる性格特性との関連- 89

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要 約

多段階尺度評定において尺度の極端な段階を好んで選択する極端反応傾向と,5

因子モデルに基づく性格特性との関連を検討するために,極端反応傾向測定尺度で

ある語反応検査(WRT)・知覚反応検査(PRT)の極端反応傾向得点と,FFPQ(5因子

性格検査)および主要5因子性格検査の尺度得点について,相関分析を行った。その

結果,FFPQの遊戯性一現実性尺度と極端反応傾向得点の間に,統計的に有意な正の

相関が兄い出された。遊戯性特性と極端反応傾向の間の関連について考察するとと

もに,両者の相関の程度は中程度であること,また,権威主義 ・硬直性といった特

性とERSとの関連についての過去の研究結果と必ずしも一致 した結果ではないこと

から,今後のさらなる検討の必要性を指摘した。

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