中国経済情報基礎概要調査報告書 - 競輪とオートレースの補助事業 · 2007....

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16-CICC-A01 平成16年度 中国経済情報基礎概要調査報告書 平成17年3月 財団法人 国際情報化協力センター

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Page 1: 中国経済情報基礎概要調査報告書 - 競輪とオートレースの補助事業 · 2007. 9. 26. · 第1章 中国経済の動向 Ⅰ.中国一般情勢 2004 年の胡-温体制動向

16-CICC-A01

平成16年度

中国経済情報基礎概要調査報告書

平成17年3月

財団法人 国際情報化協力センター

Page 2: 中国経済情報基礎概要調査報告書 - 競輪とオートレースの補助事業 · 2007. 9. 26. · 第1章 中国経済の動向 Ⅰ.中国一般情勢 2004 年の胡-温体制動向

財団法人 国際情報化協力センター(略称CICC)では、情報化を推進しようとする

海外諸国に対して、その促進を支援、協力することを目的として、各種の情報化協力事業

を実施してまいりました。

特に当財団が重点としている国の一つである中国に関しては、平成10年7月に設置し

た(財)日中経済協会内CICC北京事務所において、急速に発展する中国電子情報通信

産業の動向等について積極的に調査活動を行っていますが、2002年(平成14年)の

中国のWTO(世界貿易機構)加盟による中国IT産業への外資企業の参入競争が激しく

なる中で、欧米外資企業に対抗すべく我が国の対中国IT戦略を策定するためには、北京

事務所の調査活動が益々重要になってきております。

このような状況の中で、中国のITに関する政策動向や市場動向を的確に判断するため

の指標として、中国の政治体制をはじめ経済情勢動向や中長期的な国家経済計画といった

中国国内の経済全般についての概況、また対外的な貿易、投資、国際収支といった対外経

済概況、その他地域経済発展状況や日中経済関係等の動向をも併せて把握しておくことが

重要となってきております。

この報告書は、日本自転車振興会からの補助金を受け、毎年大きな成長を続けている中

国経済の動向等について調査を実施し、その結果を取り纏めたものであります。

本調査の実施にあたってご支援、ご協力を頂いた皆様に深く感謝申し上げますとともに、

この報告書が関係の方々に活用され、情報化協力事業の円滑な推進に資することとなれば

幸いです。

平成17年3月

財団法人 国際情報化協力センター

理 事 長 佐 々 木 元

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目 次

第1章 中国経済の動向

Ⅰ.中国一般情勢················································ 1

(1)行政方針················································ 1

(2)社会の安定性············································ 2

(3)行政手腕················································ 3

(4)情報公開················································ 3

(5)反汚職運動·············································· 3

(6)投資政策················································ 4

(7)財政政策················································ 5

(8)通貨政策················································ 5

(9)外交政策················································ 6

Ⅱ.2004 年マクロ経済 ··········································· 6

(1)2004 年中国マクロ経済発展状況 ··························· 6

(2)2004 年中国産業界の動向 ································ 10

Ⅲ.地域経済発展状況··········································· 14

(1)中国 6 都市の総合経済力比較····························· 14

(2)中国 6 都市の産業構造比較······························· 15

(3)中国 6 都市の就業可能人口比較··························· 15

(4)中国 6 都市の労働コスト比較····························· 16

(5)中国 6 都市の科学研究能力比較··························· 16

(6)中国 6 都市の消費市場比較······························· 17

(7)中国 6 都市の物価コスト上昇率比較······················· 17

(8)中国 6 都市の FDI(対外直接投資)比較 ··················· 18

第2章 IT 関連産業の動向

Ⅰ.日本と中国における ICT の定義······························· 19

(1)中国 ICT と日本 ICT 分野の区分··························· 19

(2)中国と日本の ICT 分野分類対照表························· 20

Ⅱ.中国 ICT 分野の対外開放状況································· 21

Ⅲ.中国 ICT 製造分野における成功例····························· 22

第3章 中国 ICT 産業政策

Ⅰ.中国 ICT 関連 5大産業重大ニュース··························· 45

Ⅱ.中国 ICT 関連 5大産業の政策変化····························· 48

Ⅲ.中国 ICT 関連 5大産業が国際競争において直面した主な問題····· 53

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第4章 中国 ICT 分野における日本

Ⅰ.中国及び欧米 ICT 企業との比較······························· 57

(1)日本 ICT 企業と中国及び欧米 ICT 企業との課題比較········· 57

(2)中国人から見た日本 ICT ブランドに対する問題点··········· 59

Ⅱ.課題解決のための提案······································· 61

<参考資料>

中国 ICT 関連主要ベンダー概要

民族系企業:

・中興(通信)·············································· 64

・金蝶(ソフト)············································ 69

・TCL(通信・家電)······································ 75

・北大方正(ソフト)········································ 82

外資系企業:

・シスコシステムズ(通信)·································· 89

・エリクソン(通信)········································ 94

・東軟(ソフト)············································ 99

・マイクロソフト(ソフト)································· 107

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第 1 章 中国経済の動向

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第 1 章 中国経済の動向

Ⅰ.中国一般情勢 2004 年の胡-温体制動向

2003 年 3 月第 10 期全国人民代表大会第 1 回会議(全人代)において胡錦涛国家主席-

温家宝首相の新しい指導体制に移行して 2年目の 2004年は中国政府の政策に大きな変化が

起きた一年といえる。即ち、これまで経済にのみ大きな比重を置くスタンスから、経済発

展に加え国民の生活保障、社会の安定をも重視する「親民」の姿勢が強調され、あきらか

な変化が見られたことである。

1.内政 憲法改正も、2004 年 3 月の新指導体制発足後初の全人代(第 2 回会議)にて行われ、「三

つの代表」の思想、私有財産制、人権の尊重と保障等が盛り込まれた。 内政面において新指導体制は、基本的には江沢民政権の方針を踏襲しつつ、

i) 党、政府活動内容の公表など政治の透明性向上 ii) 農村問題、失業対策、地域格差解消など社会的弱者対策の重視 iii) 頻繁な地方視察、饗応などを廃止(反腐敗)し実務を重視

といった独自色も打ち出しており着実な政策運営との評価を得ている。 2.外交 全方位外交を踏襲して、更に積極的な展開を進めている。G8 との関係構築、上海協力機

構、ASEAN+3, APEC など近隣諸国にとどまらず国際的な枠組みへの取り組みがみられる。 2004 年の胡国家主席の外遊も欧州拡大 EU、中南米、アフリカと多岐に亘っている。 米国との関係も 4 月のチェイニー副大統領訪中のほか閣僚クラス訪中が続き「建設的協

力関係」を確認した良好な関係に推移している。 日中関係については小泉総理靖国神社参拝への不満等により所謂「政冷」で、課題が累

積しているが、本件は本稿の趣旨ではないのでここでは詳述しない。 3.関係事例研究(9 事例)

上述した 2004 年の変化を事例をあげて考察する。

(1)行政方針:経済強調路線から市民生活の安定を重視する姿勢へ

代表事例:阜陽粉ミルク事件

2004 年安徽省阜陽で、悪質な粉ミルクが市場に出回った結果、多くの乳幼児が栄養不良、

成長不良、免疫力低下に陥り、10 の省、区、市にわたって 229 人の乳幼児が栄養失調、12

人の乳幼児が死亡した。マスコミの報道後、事件を重く見た政府は、国務院の下の国家食

品薬品監督管理局と公安、監察、衛生、品質検査、工商等の部門から成る調査チームを組

織し、事実究明と原因分析にあたらせた。併せて阜陽市に 1 歳以下の嬰児 4 万 9,000 人に

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対して無料で身体検査を行うように指示した。また、嬰児を亡くした家庭には慰問金と手

紙を送り、入院した嬰児に対しては医療費を免除した。この事件の処理の終了後、国務院

は全国の地方政府に、悪質ミルク製造販売企業を厳しく取り締まるよう要求した。結果、

差押えられた粉ミルクは 10 万袋以上、不合格粉ミルク販売事件として 39 件が立件され、

47 人が拘留、59 人が留置、31 人が逮捕、203 人が審問を受けた。また国家質検総局は 54

件の悪質粉ミルク製造業者の「ブラックリスト」を公表した。

阜陽市粉ミルク事件収束後、中国政府は現在の食品安全状況は市民生活に大きな不安を

与えていると認識し、この粉ミルク事件をきっかけに、全国の食品安全システム作りに乗

り出した。先ごろ以下の 3 項目の措置を実施した。

①大慶等の 5 都市と穀類等 3 つの業種において食品安全信用システムを設立。試験的運

用を通じて法律による食品メーカーの管理方法を探る。

②食品安全の法システムを整備し、食品衛生法の概念を修正。併せて、農産物品質安全

法の審査とブタ屠殺管理条例を修正。

③食品衛生安全管理システムを設立。『食品安全監管信息発布暫行辧法(食品安全管理情

報公表暫定施行法)』を制定し、食品安全情報員制度、情報通報制度、責任制度、調整

機構を設け、乳製品と野菜類において情報公開を試行。

国家の強力な推進と重要視の結果、2004 年前 3 期において取り締まった食品の違法犯罪

行為は約 28 万件、金額にして 10 億元と、中国の食品安全状況は大きな改善を見せた。中

国消費者協会が先ごろ公表した全国の苦情統計によると、2004 年における食品に関する苦

情は前年に比べて 4.3%減少した。

(2)社会の安定性:下層市民の社会保障政策

代表事例:重慶農民工未払い賃金請求事件

中国は人口 70%以上が農民によって占められるが、一人当たりの耕地面積は小さく、また

農産物の価格が低いため、農民は生活レベルを上げるには都市での出稼ぎ労働に頼らざる

を得ない。中国の集約型労働はこのようなコストの安い出稼ぎ農民(農民工)を雇うのだ

が、農民工は法律的に保護されていないため、労働後賃金を受け取れないというケースが

少なくない。温家宝首相は 2003 年 10 月重慶を視察した際、農民・熊徳明氏の訴えを聞き

自ら未払い賃金の請求を行った。これにより中国政府は農民工の待遇問題を重く見はじめ、

また全国でも一斉に農民工の賃金のピンはね・未払い・遅延を許さない気風が高まった。

2004 年 3 月、温家宝総理は第 423 号国務院令に署名し『労働保障監察条例(労働保障監

察条例)』を発表、農民への未払い賃金は 2006 年までにすべて清算するよう要求した。『労

働保障監察条例』第 26 条の規定によって、賃金のピンはねや理由もなしの賃金未払い、ま

たは支払いの遅延、現地の 低賃金標準を下回る、法に従った経済保障なしに労働契約を

破棄する等の行為が雇用側にあった場合、労働保障行政部門により支払いを命じられ、期

限を過ぎても支払わない雇用主に対しては、支払い金額の 0.5 倍から同額以下を賠償金と

して労働者に支払わなければならないとされた。

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新『労働保障監察条例』の執行により、農民の利益は強力な保護を得る事になった。2004

年の未払い賃金に関する調査によると、未払い・遅延賃金の一人当たりの額は 3 分の 2 ま

でに減少した。大部分の悪意的または長期の農民工賃金未払い行為に歯止めがかかったと

言える。

政府は以前から強調していた「一部の人を先に豊かに」という改革路線を修正し、生活

に障害や困難のある下層市民の生活、就職、医療、教育問題への注目を強調し、社会保障

を提供して社会の安定を図る政策を採るようになったのである。

(3)行政手腕:安全性及び事故等の事後処理を重視

代表事例:中国石油川東北天然ガス田有毒ガス噴出大事故の処理

2003 年 12 月 23 日、中国石油川東北天然ガス田にて不適当な操作からガス爆発事故を引

き起こし、硫化水素中毒で 243 人が死亡、2,142 人が入院、6 万 5,000 人が緊急避難、直接

経済損失は 6,432.31 万元に上った。事故発生後、温家宝首相は国務院常務会議を開き、安

全生産と交通の安全は市民の生命に関わるものとして政府の各機関の注意を喚起した。こ

れを受けて、中央政府では 2004 年初め、重慶市開県川東北天然ガス田の「12·23」ガス爆発

大事故の調査終了後、中国石油総公司呉耀文総経理を解任、中国石油と保険会社による補

償以外に国家財政から現地の村民に 5,000 万元の特別補償を提供した。事故発生後、中国

政府は安全生産に関して責任制度を確立、ある幹部の責任範囲内で一旦重大な人身事故が

発生した場合、その幹部は辞職して責任をとらなければならないという規定を制定した。

同時に国務院は安全監査チームを組織し、各地の安全責任制と安全対策の実施状況を監督、

検査を実施した。また、国家安全生産監督管理局は炭鉱に対して『国有煤砿瓦斯管理規定

(国営炭鉱ガス管理規定)』『国有煤砿瓦斯治理安全監察規定(国営炭鉱ガス管理安全監察

規定)』を制定した。

このような措置の実施後、2004 年全国の炭鉱死亡事故は 2003 年に比べて 504 件、死亡者

も 407 人減少、その他同種の鉱業関係事故も 2003 年より 38 件、死亡者は 195 人減少した。

(4)情報公開:情報公開の法制化

例えば、北京市は『北京市道路交通法実施条例』を制定し、2004 年 9 月北京市人大常委

会にて北京交通法実施条例の公聴会を開催した。こうした公聴会制度の完全法制化ととも

に、案件審理公開等も制度化されている。

(5)反汚職運動:国営企業民営化に付随する腐敗問題を重視

2004 年、香港中文大学咸郎平教授は、中国富豪が生まれる過程と国営企業の私有化に状

況の研究を通じて、中国の「スター」私有企業は汚職によって不法に国有資産を乗っ取り私

腹を肥やしていると指摘、国営企業の MBO(マネジメント・バイ・アウト=経営陣による企

業買収)をやめるように呼びかけ、中央政府からの大きな注目を集め論争を引き起こした。

中国経済界全体の討論の末、中国国有資産委員会は 終的に咸郎平教授の主張を認め、

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2004 年下半期に大型国営企業と国営株式会社における MBO 方式の停止を決定した。

(6)投資政策:マクロ経済調整政策の強化と新たな経済成長方式の模索

具体的に以下の 2 方面にこれらの投資政策が認められる。

①投資の急速増加抑制と有効的なデフレ阻止

投資に依存した経済の高度成長モデルが中国経済に資金不足とデフレ率上昇をもたらす

のを恐れ、政府は 2004 年上半期から行政、経済、法律等の手段を総合的に用い、投資に対

してマクロ調整を実施した。農業、金融、投資、土地、炭鉱、電気、郵便等に一連の調整

措置を取り、また原材料や不動産等の方面への投資を強制的に抑制する政策をとった。主

な政策は以下の通りである。

●2004 年 4 月 30 日に公布された『国務院関于深化改革、厳格土地管理的決定(改革の強

化と土地管理厳格化に関する国務院決定)』による土地管理措置の徹底実行。農業地の

建設用地への転用を一時的に禁止。

●一部の中央政府の指示に従わない官吏の罷免。

●中央銀行および国営銀行に、投資案件への貸し付けに対する厳格な審査と融資額の減少

を要求。

代表事例:鉄本プロジェクト中止事件

鉄本公司は中国江蘇省の民営鉄鋼会社で、経済成長がもたらした大量の鉄鋼需要に対応

するため、2003 年数百億元を投資して新鉄鋼工場の建設を決めた。投資規模の大きさから

中央政府のマクロ調整政策に阻まれる事を恐れ、鉄本公司は江蘇省政府との関係を利用し

て、中央政府の許可を得ないまま 200 ヘクタールの農地を徴用し地方銀行から融資を受け

た。中央政府がこの情報を得た後、国務院による厳格な調査が行われ、その結果鉄本公司

はプロジェクト停止を命じられ破産に追い込まれた。この事件は全国に大きな衝撃を与え

るものとなった。

鉄本事件発生後、国務院温家宝総理は国務院常務会議を開き、中央政府の経済調整政策

に従わない地方政府の懲罰を行った。江蘇省に厳格な処罰を指示した結果、江蘇省委員会、

省政府、銀行業監督管理委員会は事件に関係した 8 人の政府と銀行の関係責任者をそれぞ

れ職務処罰、鉄本プロジェクトが所在する江蘇省常州市人民大会常務委員会顧黒郎副主任

と楊中市委宦祥保書記を罷免、投資プロジェクトの審査批准を担当した江蘇省発展改革委

員会秦雁副主任の職務を解任、鉄本プロジェクトに資金を提供した中国銀行常州支店王健

国支店長の職務を解任した。この事件を警告と受け止めた各地方政府は、二度と中央政府

のマクロ経済調整政策に逆らわなくなったため、国務院の投資政策は容易に実行できるよ

うになった。

②以前より提唱されていた「西部大開発」「東北旧工業基地の振興」にめぼしい成果が得られ

ず、2004 年政府は「中部振興」を新しい経済成長の目玉として打ち出した。

国務院温家宝総理は 2004 年 3 月に作成した『政府工作報告(政府活動報告)』の中で、

地域の協調的発展の促進が、中国近代化を進める上で重要な戦略課題であると述べた。さ

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らに中部地区の発展促進は、地域の協調的発展の重要な一面であるとも主張した。中部地

区が持つ地理的経済的長所を活かし、農業の近代化、農産物生産基地の建設、基礎設備の

建設に力を入れ、競争力のある製造業とハイテク産業を興し、改革解放と発展の歩みを加

速化し工業化と都市化を目指す。温家宝総理は、東部地区の発展促進は国家の財力、物資

力、科学技術力強化に繋がり、中西部地区発展を援助するものとなるだろうと述べた。そ

の特色を活かし産業構造を改善して、より一層開かれた経済を目指すには、まず一定の条

件を持つ地域から基本的近代化の実現を試みる。東・中・西部地区がさまざまな提携関係

を強化し、協調し合いともに豊かな社会を目指すべきだとも述べた。

同報告書の提出後、中国の河南、湖北等中部の省は次々と地方会議を開き、それぞれ中

央政府がこれらの地域を上記の中部振興政策実施の中心地域にするよう希望を表明した。

これをめぐる確執ががまだ引き続いているため、国務院は未だに中部振興政策を具体的に

打ち出せていない。

(7)財政政策:工業・サービス業重視から農業重視路線への移行

2004 年、中国政府は再び農業問題を経済改革の重要な問題に位置付けた。農村への食糧

援助や農業税の免除・軽減、及び優良品種、農業機器購入の補助等の措置をとり、農民の

積極性を促し、彼らの改革における不公平な待遇への不満を打ち消そうとした。2004 年末

までに、農民の収入増加率は 51%の新記録を達成し、10 年来初めて都市住民の収入増加率

を上回った。

(8)通貨政策:利率変動等の市場の原則による金融調整と人民元切り上げ要請の拒否

2004 年、中央銀行は、政府の投資増加抑制のマクロ経済調整政策に対応し、市場が決定

した利率によって通貨の流通量を調整するとした。各金融機関への融資比率を長期にわた

る固定制から変動制へ移行させ、各金融機関の資本状況に応じて預金準備率を決める制度

(差別預金準備率制)を打ち出した。これにより全体の預金準備率が上昇した。2004 年 10

月 29 日、9 年ぶりに金利が上げられ、期間一年の貸し出し金利は 0.27%上昇した。金融機

関への融資基準金利を上げた後、人民元融資利率の変動幅の緩和と預金利率を下げる事を

許可し、通貨の信用融資が増加するのを抑えた。このような通貨政策を通じて、中国上層

部の政策に、過去の行政手段を通じて市場をコントロールする方法から、市場の原理に経

済調整をゆだねる方法への転換が認められる。

人民元為替相場:2004 年アメリカと日本が、人民元のレートの低さがもたらす中国輸出

品の低コスト化を解消するために、中国に人民元の変動相場制実施を再三要求したが、中

国側は、FDI(海外直接投資)の中の国際的な投機目的資金が急速に増加するのを懸念し、人

民元変動相場制を実施すれば金融危機を招く恐れがあるとして、切り上げに断固として反

対、ドルに対する固定相場制を維持した。

2004 年ドルの歯止めのかからない値下がりの下、人民元も国際的に更に値を下げた。そ

のため輸出が増加して貿易黒字は更に拡大を見せ、2004 年末国家外貨準備高は 6,099 億ド

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ル、前年に比べて 2,067 億ドル増加した。

(9)外交政策:国際的影響力の拡大

政府は自国の経済発展に伴う強国化が他国の脅威とはならないことを強調しているが、

アメリカと共同で展開した反テロ運動を機に、中国はアジア地区への影響力拡大を続けた。

とりわけ ASEAN 加盟国との外交関係を重視し、2004 年 11 月広西省で中国-ASEAN 博覧会を

開き、カンボジア、ラオス、ミャンマー等各国首脳も参加し盛況に終わった。

Ⅱ.2004 年のマクロ経済 マクロ経済の発展と産業界の動向

(1)2004 年中国マクロ経済発展状況

2003 年以来、中国は 5年続いたデフレ期を終え、新たな経済成長期に入った。2004 年度

の中国統計データは 2005 年 3 月に正式発表されるため、本調査で使用する 2004 年の統計

データは中国国家統計局の内部統計データである。2004 年、中国政府は 2003 年からの投資

による経済発展のモデルを変えるため、投資総額を規制する政策を実施し、消費を抑え、

応用技術を活用する事で環境保護に役立つ新しい産業構成を試みた。中国国務院は 2004 年

度経済成長速度が 10%以内に収まる事を望んでいる。2004 年の中国マクロ経済実質成長率

は 10%をはるかに上回っているが、国務院からの指令により、中国国家統計局は統計デー

タに対して政治的な修正を加えざるを得ず、このため 2004 年の GDP 成長率は 9.5%となっ

た。2004 年中国経済の基本状況は以下の通りである。

①2004 年中国マクロ経済発展状況

経済の全体情勢から見て、2004 年の中国経済は急速な成長を保っており、GDP は 13 兆

6,515 億元で前年比成長率は 9.5%となった。そのうち、第 1 期から 4 期の GDP 成長率はそ

れぞれ 9.8%、9.6%、9.1%、9.5%と比較的安定しており、大きな変動はない。財政収入

は急速に成長し、1 月から 11 月の前年度同月より 4,656 億元の増収であった。2004 年の都

指標 単位 2003年 2004年政府による

調整

GDP 億元 117251.9 136515 ——

GDP成長率 % 14.6 16.4 9.5

インフレーション率 % 4 3.9 ——

財政収入 億元 21715.25 24000 ——

財政収入成長率 % 14.9 10.5 ——

都市部住民の年間平均収入 元 9061.22 9422 ——

農村部住民の年間平均収入 元 1936.01 2936 ——

※ -は調整がないことを表す

2004年中国マクロ経済発展状況

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市部住民の可処分所得は 9,422 元と、前年比成長率は 7.7%に達した。一方、農村住民一人

当りの純収入は 2,936 元、その成長率は 6.8%で、1997 年以来成長率の も高い年となっ

た。経済が急速に成長する中で、インフレーション率は 4%以下に保たれ、総合的な経済状

況は良好であると言える。

②2004 年中国経済成長の分析

2004 年の投資、消費、貯蓄の 3 方面より見ると、経済成長を促す 大の原動力は投資で

ある事がわかる。しかし、政策による制限の下、投資の増加速度は減速しており、固定資

産投資の成長速度も下向きである。1期で 43%、上半期で 28.6%、1~3期において 27.7%

成長している。年間固定資産投資額は7兆 73 億元、成長率 25.8%で、前年比から 1.9 ポイ

ントの減少である。また、都市部の固定資産投資額は5兆8,620億元に上り、成長率は27.6%

で、また農村部の成長率 17.4%であった。マクロ調整により、投資構成は改善されている。

例えば第 1次産業投資額は前年度の 19.6%減少から 20.3%の成長率に転じ、一方、第 2、

3 次産業はそれぞれ 38.3%、21.6%の成長率に抑えられ、前年よりそれぞれ 8、0.5 ポイン

ト減少している。また、2003 年、成長率の高かった非金属鉱物製品業は前年より 38.5%の

減少、黒色金属採掘及び精錬業及び圧延加工業の投資額は前年より 43.5%の減少となった。

一方、農業、エネルギー業の投資は増加している。

中国において急速に投資が増加している中、外資による投資も重要な原動力となってい

る。2004 年の 1 年間で、外資企業による中国投資の成長率は 13%に達し、2003 年の成長速

度を大幅に上回った。

2003 年と比べ、2004 年の成長を促した主な要素は中国の消費である。年間消費小売総額

は 5 兆 3,950 億元と、前年比 13.3%の成長を見せた。価格の影響を除いた実際の成長率は

10.2%で、GDP の成長率を上回っている。政府による消費促進政策の効果の現れである。消

費が急速に成長を続ける中、住民消費価格は前年比 3.9%上昇し、上昇幅は前年比で 2.7 ポ

イント上昇している。住民の消費価格の上昇は主に前年度の物価上昇の影響を受けている。

指標 単位 2003年 2004年政府による

調整

製品小売総額 億元 45842 53950 -

製品小売総額成長率 % 9.1 18 -

平均物価指数 % 103 103.9 -

固定資産投資 億元 55566.61 70073 -

固定資産成長率 % 27.7 26.1 25.8

FDI総量 億ドル 535.05 606 -

FDI成長率 % 1.44 13.3 -

銀行貯蓄総額 億元 208056 240525 -

銀行貯蓄総量とGDPの割合 % 177.44 176.2 -

※ -は調整がないことを表す

2004年中国経済成長動力の分析

7

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食品価格は 9.9%、商品小売価格は 2.8%上昇し、また国内需要及び国際原油価格の大幅

上昇の影響を受け、原材料、燃料等第 1 次製品の購買価格が上昇している。

消費及び投資が大幅に成長しているにも関わらず、貯蓄総量の成長が早く、また融資は

政策上の制限を受け、2004 年度の貨幣供給量は予想を下回る事から、インフレーションの

圧力はさほど大きくないと言える。

2004 年末、都市部及び農村部住民による人民元預金額は 11 兆 9,555 億元に上り、前年末

と比べ 1 兆 5,929 億元も増加した。また銀行預金総額は 24 兆 525 億元と、前年比 15.6%の

増加であった。12 月末、全ての金融機関の融資金額(人民元及び外貨含む)は 18 万 9,000

億元で、前年末と比べ 14.4%の成長率であった。うち、人民元は 17 万 7,000 元で、前年度

より 2 万 2,600 億元増加し、成長率は 14.5%で、貯蓄成長率を下回っている。

③2004 年中国経済成長率の産業構成の分析

2004 年度の第 1、第 3 次産業の成長は比較的速い。第 1 次産業は 2 兆 744 億元の増加、

成長率 6.3%で、第 2 次産業は 7 兆 2,387 億元の増加、成長率 11.1%、また第 3 次産業は 4

兆 3,384 億元の増加、成長率 8.3%であった。中でも食糧の高収穫率が経済の好調を主に支

えている。年間食糧生産量は前年比 9%の成長率で、1999 年以来 5 年連続下降という局面

を打破したのである。同時に、第 3 次産業は小売卸売取引業及び飲食業、交通運輸郵政業、

その他のサービス業は比較的成長が速く、これら業界の成長により成長率を 1%上昇させて

いる。また、全 4 期における GDP 成長率は再び上昇を始めたのである。

第2次産業の生産高も大きく伸びている。年間工業増加額は6兆2,815億元、前年比11.5%

の成長を遂げた。年間売上高 500 万元以上の企業による総生産高の成長は 16.7%と、前年

を若干下回る形となった。これら企業の総生産高において、重工業の成長が 18.2%、軽工

業が 14.7%で、マイクロコンピュータ、携帯電話、空調設備等の主要消費電子製品の年間

成長率はそれぞれ 30%を超えている。自動車の年間生産量は 520 万台、その成長率は 14%

に達した。

工業の成長は原材料やエネルギーの消費によるものである。工業が 11.5%の成長を遂げ

たのと同時に、2004 年の原炭消費量及び発電量はそれぞれ 15%、14.9%増加した。維鉄、粗

鋼、綱材の消費増加率はそれぞれ 24.1%、23.2%、23.5%の増加で、中国製造業が未だに発展

途上の段階にある事を表していると言える。

2003年 2004年 2003年 2004年 2003年 2004年

産業GDP 億元 17092.1 20744 61274.1 72387 38885.7 43384

GDPに占める割合 % 15% 15% 52% 53% 33% 32%

GDP成長率 % 6% 21% 16% 18% 8% 12%

政府による調整成長率 % —— 6.3 —— 11.1 —— 8.3

※ -は調整がないことを表す

2004年中国産業構成の変化状況

指標 単位第1産業 第2産業 第3産業

8

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④2004 年中国経済成長における資源の有効利用状況の分析

2004 年及び 2003 年の経済成長データから比較して、2004 年における中国マクロ調整は

経済構造に一定の調整作用を及ぼしている事がわかる。エネルギー消費量は GDP 成長を下

回り、エネルギー利用率は向上した。GDP 成長の過程において も明確なのはセメントの消

費量が減少した事である。中国政府の不動産及び建設業の縮小に対するコントロールが成

功したと言える。同時に、鉄鋼の需要量が GDP 成長速度を上回っており、中国の経済成長

が未だ製造業に大きく依存している事がわかる。

エネルギー需要問題を解決するため、中国政府は 2004 年、石油戦略備蓄システムの設立

を決定した。

⑤2004 年中国経済発展の主な問題点

2004 年、中国経済は急速な成長を保ったが、一方で矛盾や問題に直面している。

国内経済の主な問題として、農民の増収が困難である事、食糧の生産及び需要バランス

の悪化、都市部の厳しい就業状況、市民の収入格差の広がり、投資規模の偏り、部分的業

界及び地域への盲目的な投資、低技術製品の生産拡大現象、資源供給の矛盾、石炭・電力・

石油の不足、物価の上昇、インフレの進行等がある。

国際経済問題として、中国の対外経済発展における国際競争が熾烈化しており、中国の

低価格輸出に対する反発が高まっている。

⑥2004 年の経済発展状況を基礎とした 2005 年度経済動向の予測

中国国家統計局は 2004 年中国経済状況から見て、2005 年の GDP はやはり急速な成長を続

けると思われるが、農業政策の効果により減少している。ガス・電力・石油の不足状態の

改善は難しく、人民元の切り上げ時期は物価不安定要素が多いために、中国経済全体の成

長速度は抑制されるであろう。2005 年 1 月、中国中央財経工作会議にてマクロ経済政策が

確定され、2005 年より貨幣政策及び財政政策が実施される。鉄鋼、セメント、電力等と関

わりの深い業界に対する投資を制限し、固定資産投資の増加を抑制しつつ、一定の柔軟性

を保ちながら投資を規制する。

経済成長の中で消費への要求が強まり、住宅、通信及び自動車等は 2004 年の動向が継続

指標 単位 2003年 2004年 増減率(%)

GDP 億元 117251.9 136515 16.4

固定資産投資 億元 55566.61 70073 26.1

鉄鋼消耗量 億トン 2.22 2.6 17.1

セメント消耗量 億トン 8.62 8.2 -4.9

石炭消耗量 億トン 16.78 19.35 15.3

GDP成長の資源需要に対する合理性の分析

9

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する見込みである。

(2)2004 年中国産業界の動向

中国経済が急速に発展した 2004 年、中国産業界の発展は以下のような動向を見せた。

①「世界の工場」としての役割を強める

ICT 産業から見ると、コンピュータ、ディスプレイ、携帯電話、交換機等の製品分野にお

いて、中国の生産量は世界でもトップに位置している。世界中のパソコン 3 台のうち 1 台

が中国製の部品を採用している事になる。日本市場にて販売されているパソコンの半数が

中国製で、またアメリカ DELL や IBM 等が日本で販売しているパソコンのほとんどが中国製

である。2004 年、日本が中国より輸入したパソコンは既に 500 万台を突破し、3 年前の約

10 倍にまで増加した。日本市場のほとんどを占めている。中国のカラーテレビの年間生産

量は 6,000 万台を超えており、世界の生産量の 3 分の 1 を占める。これら産業は 2004 年、

世界 ICT 製品関連市場におけるシェアを着実に伸ばし、より多くのグローバル企業が中国

に海外製造拠点を建設する結果となったのである。

②中国企業海外進出の強化が国際的な注目を集める

中国市場で成功を勝ち取った中国企業は、中国におけるグローバル企業との競争だけで

は飽き足らなくなり、国際市場に参入し世界規模での競争を展開しようとしている。 も

早い時期に国際市場に参入した中国企業のほとんどは国内の資源を独占している大型国営

企業で、世界各地へ石油、天然ガス、各種鉱産資源、鉄鋼製造、電力等の資源を供給する

事に主に重点を置いた。2004 年、自動車、カラーテレビ等の各種消費製造産業も国際市場

へ参入を開始したのである。

ケース1 CHERY 自動車による国際市場参入

CHERY とは中国の民営企業カーブランドで、社名を奇瑞汽車有限公司という。1997 年に

設立し、現在の自動車年間生産量は 15 万台、中国第 8 位の自動車メーカーである。自社ブ

ランドを有する中国自動車メーカー3 社のうち、 も実力を有する企業である。自動車国際

ブランドがこぞって中国の大型国営自動車メーカーと合弁企業を設立し、中国市場シェア

を大きく占める中、CHERY は自社開発した自動車と、その自社ブランドにより国際市場へと

参入したのである。2004 年、CHERY は世界 23 カ国から CKD 輸出契約を受注している。その

製品は「風雲」、「旗雲」、「QQ」、「東方之子」等、CHERY 自社にて開発したブランドである。

2001 年 10 月、CHERY は中東への輸出を実現した。2003 年 8 月には、イランと CKD 提携プロ

ジェクトを締結、1,200 台以上の自動車を輸出した。これは中国の自動車輸出総量の 90%

を占めた。2004 年 10 月までに、CHERY はイラン等の国々と CKD 及び現地組立方式による提

携を結び、中東地区への 8,000 台以上の自動車輸出を実現した。これは中国の自動車輸出

総量の 80%以上を占めている。2004 年 11 月、CHERY はマレーシア企業の ALADO 社との技術

譲渡及び自動車輸出契約を結び、東南アジア市場への参入を果たしたのである。そして 2004

10

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年末、CHERY は更にアメリカ Visionary Vehicles 社と輸出契約を交わし、アメリカ市場へ

の参入を実現した。2007 年までに 5 タイプ、計 27 万台をアメリカへ輸出する予定である。

ケース2 LENOVO による IBM パソコン部門の吸収合併

中国聯想集団(以下、LENOVO)は 2003 年、国際ブランドへと発展するための計画を打ち

出したが、なかなか合理的な実施方法が定まらずにいた。2004 年 12 月 8 日、ついに LENOVO

はアメリカ IBM と合併合意書を交わした。契約内容は、LENOVO が IBM のパーソナルコンピ

ュータ部門(PCD)を買収するというもので、買収した資産には IBM のノートパソコン、デ

スクトップパソコン、及びそれに関連する全業務、またユーザーや販売ルートまでも含ん

でいた。“Think”ブランドに関する特許、IBM シンセン合弁企業(X シリーズの生産ライン

は含まず)、日本の神奈川県大和市及びアメリカノースカロライナに所有する R&D センター

も含め、取引総額は 12 億 5,000 万ドルといわれる。買収の完了後、統一して LENOVO ブラ

ンド名が使用される。海外マーケットにおいては、特に欧米市場では、LENOVO は既存の IBM

の販売ルート及び製造能力を利用し、LENOVO ブランドは世界第 3 位のパソコンメーカーと

なるべく、DELL 及びhpとの競争体制に入ったのである。

ケース3 中国通信設備メーカーの海外市場への参入

中国通信製品製造業は自国市場で成功を収め、既に大きな発展、技術向上を実現した。

2004 年、海外輸出は中国携帯電話産業の中心となり、2004 年第 1 期には波導(BIRD)が 60

万台を、中興(ZTE)が 20 万台以上を輸出し、TCL の海外販売量は 28 万台に上った。通信

設備業において、ZTE の製品は既に 13 カ国に参入しており、国際市場での販売額は倍以上

へと成長を遂げ、契約金額は 6.1 億ドルに上る。将来の 5~6 年間で、ZTE は海外販売によ

る収入が 100 億ドルを突破する事を目指しているという。

ケース4 中国通信キャリアの国外市場への参入

2004 年、中国網通(CNC)は、10 億ドルで香港電訊盈科の株式 20%を買収したと発表し

た。この取引により、CNC は電訊盈科の第 2 の株主となり、中国の通信キャリアによる初め

ての大規模な海外進出を実現したのである。

③アンチ・ダンピング措置から知的所有権へ

中国が WTO へ加盟した後、中国と外国との産業競争はアンチ・ダンピングが主体となっ

た。例えば中国カラーテレビに対するアメリカのアンチ・ダンピング措置は、アメリカ市

場参入への大きな障害となった。しかし、中国企業が WTO 規則を理解するに連れ、輸出製

品がハイテク製品へと移行し、産業競争は技術及び特許侵害等による訴訟が主体となって

きた。

ケース 1 中国 DVD メーカーと国際 6C 聯盟による特許紛争

中国電子音響工業協会及び動態図像専門家組織と、国際 6C 聯盟組織による MPEGLV に関

11

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する特許訴訟は 2004 年に終了した。協議への 終的な署名はされていないが、特許使用料

に関する商談の余地はもはや少なく、今後中国の DVD メーカーは、 終的には既存の特許

使用料に加え、特許権を有する各企業に対して更に 1 台当たり 2.5 ドルから 22 ドルもの特

許使用料を支払う事となる。これは DVD 機能に関する特許における 後の項目となる。し

かしこれはコア技術とまでは言えず、価格競争の激しい中国 DVD メーカーには受け入れ難

い判決である。中国の DVD 年産量は 6,000 万台、うち輸出は 4,500 万台から 5,000 万台に

上る。1 年間の特許使用料は 7 億 2,000 元の計算である。この特許使用料のために、もとは

100 社あった DVD メーカーが 2004 年には 20 社余りに減少した。これにより、特許使用料の

圧力を減らすべく、一部の DVD メーカーは香港の無錫多媒体有限公司に委託してアメリカ

で訴訟を起こした。しかしながらどのような判決が下されるかは予想し難い。

ケース 2 SISVEL S.P.A が中国に対し MP3 特許使用料を要求

2004 年下半期より、欧州の特許使用料徴収企業である SISVEL S.P.A が、中国の MP3 技術

に関わる生産メーカーから 1 台当たり 2 ドルの特許使用料の支払いを要求するようになっ

た。MP3 以外にも、MP3 機能を持つ DVD 等の AV 製品が徴収対象になっており、特許使用料

未払いの製品は既にイタリア、ドイツの税関にて差し止められている。同時に、2005 年 1

月 1 日よりその他関連製品も特許使用料の支払を義務付ける事を発表した。現在、世界 310

社ほどが SISVEL S.P.A 社に特許使用料を支払っており、その中には宏基、上海パイオニア

電子、上海 SHARP、シンセン科普時代数碼、シンセン易方科技等 26 社の中国企業が含まれ

ているという。

ケース 3 INTEL の中国ソフト企業に対する訴訟

2004 年 12 月、INTEL はシンセン市中級人民法院(中級人民裁判所)にて、シンセンの民

営企業であるシンセン市東進通訊技術股フェン有限公司の INTEL 社 SR5.1.1 ソフト「Intel

Header files」の無断複製及び発行に対し、著作権侵害で起訴した。INTEL はシンセン東進

に対し、コンピュータソフトの著作権侵害の賠償として 796 万ドルを要求した。この賠償

金額は中国ソフト業界における訴訟の 高額であり、注目を集めた。2005 年 1 月 20 日、シ

ンセン法院は INTEL の提供した証拠を下に、シンセン東進の関連製品及び資料を没収し、

現在調査を進めている。

④銀行業に対する改革の強化

外資銀行に対する開放政策に伴い、2004 年、中国銀行業に対してこの 3 年以来 も急速

に改革が実施された。国営独資の中国銀行と中国建設銀行は既に財務システム及び構造の

再編を完了し、交通銀行及び浙商銀行は管理構造の再編を行った。2004 年、中国の銀行 21

行は銀行監督会の要求に基づき、8%資本充足率を達成した。このため、S&P 社は中国銀行

業の外貨評価を BBB から BBB+へと格上げしたのである。

12

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⑤中国自動車業の市場成長速度の低下

中国自動車製造業は、2000 年より 3年間にわたり 50%以上の成長率を保ってきた。既に

中国経済の重要な支柱産業の一つとなっている。2002 年、自動車製造業界が市場需要に追

いつかず、生産能力を大幅に拡大した。しかし 2004 年に入り、中国市場における需要はに

ぶり、11%もの過剰生産を生み出す結果となった。これは自動車製造業に大きな影響を与

えた。

⑥株式市場における情報監督システム

各国の株式市場における中国の上場企業の虚偽情報問題に対し、厳しい監督審査が始ま

った。これにより、一部の国外上場する大型中国企業が処罰を受ける事になった。

ケース 1 シンガポール政府による中国航油の取引損害の発覚

シンガポール上場企業の中国航油股フェン公司は、中国政府による大型国営企業-中国航空

油料公司に直属する。親会社の独占的な航空機燃料の輸入特権を利用した利益は多大であ

った。2003 年、中国上場企業上位 100 社において第 47 位となると同時に、中国政府による

国営企業の海外市場開拓におけるランキングで、同企業 CEO である陳氏は『アジア経済の

新リーダー』と評された。2004 年、上場企業の情報公開規定が履行されていない状況にお

いて、中国航油股フェン公司はシンガポールで石油デリバティブ(金融派生商品)の投機を行

い、5.5 億ドルの損失を出したのである。シンガポール証券管理部門の調査によってこの事

実が発覚し、中国航油股フェン公司は倒産の危機に陥った。CEO もシンガポールで逮捕され、

現在中国政府及びシンガポール政府は同企業の前途について協議を続けている。

ケース 2 香港廉潔公署(ICAC)による創維集団董事長の逮捕

創維集団(スカイワース)は香港で上場した中国民営企業である。主にテレビ、DVD 等の

家庭用 AV 製品を製造販売する、家電業界の大手企業である。2004 年、虚偽の財務報告をし

たために、香港の株主を騙したとして、香港廉潔公署が黄宏生企業董事長を逮捕するに至

った。現在も取り調べが続けられている。

⑦中国株式市場の 3 年連続下降による民営 大手金融機関の倒産

ケース1 徳隆集団の倒産

徳隆集団は中国 大の民営金融投資会社であった。中国国内上場企業 3 社、及び 200 社

に及ぶ各種メーカーを傘下に置く。多くの証券会社、信託会社、地方商業銀行等の株式を

有し、総資産は 300 億元を超える。2003 年度中国上場企業上位 100 社中第 61 位である。2004

年、株価が長期にわたり値下がり、徳隆集団の資産は縮小し、加えて中国政府による政策

により銀行融資が停止され、徳隆集団は倒産に至った。それに伴い中国の多くの民営投資

会社が倒産し、国内金融システムに大きなダメージを与えた。

13

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⑧中国沿岸部における低コスト労働力不足による生産コストの上昇

近年来の国際的低価格競争は、大量の低コストの労働力によるものである。東部沿岸地

域における住民の収入は上昇を続ける一方で、工場労働者の収入は 10 年間変化していない。

2004 年、農業及び工業労働者の利益を確保する政策措置が中国政府により強調されるに連

れ、アメリカは中国輸出製品の製造工場で働く労働者の福利が規定を満たされている事を

要求するようになった。これにより、中国沿岸地域の工場による生産コストが上昇を始め

たのである。一方、珠江デルタ地帯では低賃金の労働者達がより賃金の高い地域へと移動

するため、労働力不足の現象に陥っている。

Ⅲ.地域経済発展状況 主要地域の経済発展

2004 年、中国の各地域における経済発展は目覚しい成果を得ている。山東半島の各都市

は経済発展に湧いており、西部大開発と東北旧工業基地振興も計画どおりに実施されてい

る。特に京津冀(北京・天津・河北)地域、長江デルタ地帯、珠江デルタ地帯の三大経済

地域の一体化政策は全面的に推し進められており、更にその競争力の向上と経済的地位を

強化している。日本の中国各地域に対する注目度に基づき、北京、上海、広州、大連、西

安、重慶をそれぞれの地域の代表的な都市として挙げ、各地域の経済発展情況について述

べる。

(なお、2004 年の統計データがまだ発表されていないため、本項では 2004 年末発表の各都

市の 2003 年統計データをもとにして、6 つの主要都市の経済状況を比較研究していく)

(1)中国 6 都市の総合経済力比較

3612

940

2250

6251

3467

1633

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

北京 上海 広州 大連 西安 重慶都市

GDP(億元)

中国6都市の経済状況

6 都市の比較を通してみると、上海の経済力は明らかに他の都市を上回っている。北京と

広州が依然として 2 位と 3 位につけているが、上海とはかなりの水を開けられている。一

14

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方、西部地域の都市の経済力は明らかに東部地域に大きく差をつけられており、6 都市の中

で西北に位置する西安の経済力が も低くなっている。

(2)中国 6 都市の産業構成比較

中国6都市の産業構成

1445

3126

444974

1494782

447

929704

1869

3025

2218

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

北京 上海 広州 大連 西安 重慶都市

GDP(億元)

第3次産業

第2次産業

6 都市の第 2 次、第 3 次産業構造の比較情況から見ると、北京、広州はサービス業が主と

なっており、製造業が経済的に占める割合は比較的少ない。上海、西安、重慶及び大連で

は製造業の比重がいくらか高くなっているが、サービス業との差は大きくなく、経済構造

が製造業を主とする形態からサービス業を主とする都市型経済形態へと転換していると見

られる。

(3)中国 6 都市の就業可能人口比較

中国6都市の就業可能人口

703808

538

145

403

1726

0

500

1000

1500

2000

北京 上海 広州 大連 西安 重慶 都市

就業人口(万人)

15

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日本における高齢化に伴う労働力不足の情況と異なり、中国の大部分の地域では労働力

が豊富にある。その中でも重慶は 3,000 万の人口を有しており、人口の も多い都市とい

うだけではなく中国で も労働力が豊富な都市とも言える。また、労働コストも 6 都市中

も低い。大連は人口が比較的少ないため、6都市中労働力は も少なくなっている。

(4)中国 6 都市の労働コスト比較

中国6都市の労働力コスト

24045

13504 12425

22160

17561

28273

0

5000

10000

15000

20000

25000

30000

北京 上海 広州 大連 西安 重慶 都市

人民元/年

中国 6 都市の中での労働コスト分布情況と就業可能人口はいくらか相応していないとこ

ろがあり、広州が も高く、次いで北京となっている。東部の沿海都市に比べると、西部

にある西安と重慶の労働コストが比較的低い。

(5)中国 6 都市の科学研究能力比較

中国6都市の科学研究能力

257326

104712

61566

178875

81153

31584

0

50000

100000

150000

200000

250000

300000

北京 上海 広州 大連 西安 重慶都市

科学研究従事者数(人)

科学研究人材の総数から見ると、北京は中国で も科学研究能力を備えた都市であり、

また 6 都市の中で も科学研究発展の可能性を有している都市とも言える。先進的な科学

16

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研究の利を持つ事から、北京は既に中国で 大の科学研究中心的都市となっており、135 社

もの大手グローバル企業が北京に研究開発センターを構えている。上海の研究開発センタ

ーの数が 40 にも満たない事から見ても、北京の科学研究能力は明らかに優勢である。大連

は大学と研究機関の数が比較的少ないため、6都市の中では科学研究能力が も低い。

(6)中国 6 都市の消費市場比較

中国6都市の消費市場比較

1917

2221

1494

568440

836

0

500

1000

1500

2000

2500

北京 上海 広州 大連 西安 重慶 都市

小売総額(億元)

上海は中国で も経済力を有する都市であるだけでなく、 大の消費市場を抱える都市

でもある。その他の都市の市場消費能力は、基本的にそれぞれの経済力に対応しており、

西安は 6 都市の中で経済力が も低いだけでなく、やはり消費能力も 低となっている。

(7)中国 6 都市の物価コスト上昇率比較

中国6都市の物価コスト上昇率

99

97.4

100

99.5

98.2

97.7

96

96.5

97

97.5

98

98.5

99

99.5

100

100.5

北京 上海 広州 大連 西安 重慶都市

物価指数(%)

西安と重慶の消費総量は高くないが、商品の需給関係の問題により、物価指数が 6 都市

の中で も高くなっている。その中でも西安の物価コストの上昇率は も高く、広州は

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も低い。

(8)中国 6 都市の FDI(対外直接投資)比較

中国6都市のFDI比較

39.6

16

30.6

2.6

21.5

5.7

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

北京 上海 広州 大連 西安 重慶都市

FDI(億ドル)

6 都市の FDI 情況比較を通して見ると、上海と広州が も多く対外直接投資(以下、FDI)

を受けており、大連の FDI は北京の水準に迫っているが、西部に位置する重慶と西安はと

もに低い。FDI の情況に対応して、上海と広州の経済の FDI 依存度は他のどの都市よりも高

くなっており、上海の経済成長率において外資への依存度は 70%にも達する。

現在、中国に直接行われている国外企業の投資の 85%以上が東部の沿海地域に集中して

いる。1983 年から 2002 年の間に、各地域で実際に国外企業を通してなされた直接投資及び

その他の投資の中で東部地域はその 87.84%を占めている。中部地域は 9.09%、西部地域

は 3.07%で、つまり中西部地域はわずか 12.16%を占めるに過ぎない。中国では実質的に

投入されている国外からの投資の 70%以上が長江デルタ、珠江デルタ地帯及び環渤海湾地

域の 3 大コア地域に集中している。

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第2章 IT 関連産業の動向

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第2章 IT 関連産業の動向 IT 関連企業の動きのケーススタデイ

Ⅰ.日本と中国における ICT の定義

本章以下において中国 IT 関連産業について調査分析結果を報告していくが、まず「IT」という名称については中国において一般的に使用されている「ICT」を使用している。さら

に今回調査の中で中国における「ICT」の範疇定義、分類が、日本のそれと完全には一致し

ていない事が明らかになってきた。 本稿ではまず日本と中国におけるそれぞれの ICT の定義を比較した上で、今回の研究対

象分野を確定した。 (1)中国 ICT と日本 ICT 分野の区別

ネットワ

ークデー

タサービ

ス業

半導体製造業

ITデジタル製品製造業

通信運営業

通信設備製造業

ソフトウェ

ア業

半導体

デジタル家電(以下の家電は含ま

ず:

冷蔵庫、エアコン、洗濯機)

パソコン製造

デジタルネット

サービス

非電信ISP、ICP

ソフトウェア

通信ソフト

通信幹線ネット

電信サービス

通信設備製造

電信サービス(電信運営、付加価値サ

ービスISP、ICP)

通信分野(通信基礎幹線ネットワー

ク、通信端末、

及び関連ソフトウェアとサービス)

情報処理(コンピュター/サーバーなど関

連するハードウェア、ソフトウェア及びサ

ービス)

中国

日本

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(2)中国と日本の ICT 分野分類対照表

日本政府分類 中国政府分類

大分類 中分類 小分類 小分類 中分類 大分類

郵便業

電信電話業 移動体通信業

通信業

電気通信付帯 サービス業

通信運営業

郵電通信

サービス業

ソフトウェア 製造業

ソフトウェア

製造業 情報 サービス業 情報処理・提供

サービス業 相互ネットワーク付帯

サービス業

ネットワーク データ

サービス業

情報 サービス業

ICT

サービス業

公共放送業 民間放送業 放送業 有線放送業

情報通信業

(ICT)

映像・音声・文字情報製造業

放送業 メディア サービス業

電子部品、デバイス製造業 電子部品と

デバイス製造業

通信設備製造

電子設備製造業

電子と 通信設備

製造業

工業 (ICT 分野)

製造業

情報通信機器製造業

家電製造業 (デジタルテレビ、AV)

電気機械製

造業 工業

(非 ICT 分野)

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Ⅱ.中国 ICT 分野の対外開放状況

中国 ICT 分野の対外開放状況

中国業界/項目 外資進出の可否 日本から進出した代表的ケース

通信運営 × ——

通信設備製造 ○ 天津 NEC の交換設備

ネットワークデータサービス ISP 領域

以外なら許可

4-LINK の中国での

3D設計通信教育事業の展開

IT 製品とデジタル製品製造 ○ 広州における CANON の DC 生産

半導体 ○ 首鋼 NEC

ソフトウェア ○ 日立軟件上海公司

家電 ○ 広東での JVC

家庭映画館設備の生産

×は外資進出不可を意味する。○は対外開放を意味する。

中国 ICT 分野の業界分類は日本と異なり、政策策定部門や管理対象も異なる。外資の中

国 ICT 分野進出における現状を正確に反映するため、今回の調査は中国の業界分類に基づ

いて進めた。外資は中国の情報通信分野に進出できないため、家電分野に含まれる ICT に

関する内容は比較的少ない。よって今回の日本及びその他の外資企業の中国 ICT 分野進出

に関する研究は、中国における以下 5 つの産業を調査対象とした。即ち、ネットワークデ

ータサービス(ICT とその他のネットワーク利用サービスを含む)、電子設備製造(パソコ

ン、ネットワーク端末、デジタル製品)、ソフトウェア製造、通信設備製造、電子部品製造

(半導体 IC)である。

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Ⅲ.中国 ICT 製造分野における成功例

今回の研究では、ICT 製品製造、情報通信製品製造、IC 設備製造、IC 製造、ソフトウェ

ア製造分野における成功例 8 ケースを挙げて分析する。内訳は欧米企業 3 ケース、中国企

業 3 ケース、日本企業 2 ケースとなる。それぞれのケースの実情と今後の課題は、以下の

表のように要約できる。

長期的発展

モデル

市場ニーズに適した製品

開発能力

市場ユーザー

の定義

低コスト

宣伝方法

ブランドイメージ

パートナー

販売ルート

政府関係

アフターサービス

資金

1

華旗によるMP3とモバイルメモリ市場シェアの獲得

IT製品製造分野

● ● ● ●

2

長城計算機シンセン股フェン有限公司によるIP-TVの発展

IT製品製造分野

● ● ● ● ●

3BOE、中国TFT-LCD市場に参入

IT製品製造分野

● ● ● ●

4東電電子、中国半導体装置分野で市場拡大へ

IC設備製造

● ● ● ● ● ●

5

エプソン、中国インクジェットプリンタ市場を独占

IT製品製造分野

● ● ● ● ● ●

6

マイクロソフト海賊版対策を変更、中国で独占的地位を固める

ソフト開発

● ● ● ● ●

7

ノキア、製品改革と販売戦略転換で中国携帯市場シェアアップ

通信設備製造

● ● ● ● ●

8

INTEL中国WAPI標準を採用せずCentrinoチップの販売を確保

IC製造 ● ● ●

中国

日本

欧米

中国、日本、欧米ICT企業のケースにおける課題総括

NO

企業別国

ケース名 ICT分野

直面する課題

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ケース1 〈華旗〉による MP3 とモバイルメモリ市場シェアの獲得

(1)企業紹介 北京華旗資訊数碼科技有限公司(以下、華旗と称す)は 1993 年に北京市中関村に設立し

たハイテク企業である。〈華旗〉は連続 10 年安定した売上高 60%の成長率を保っており、

北アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア等の地域にも販売している。従業員数は 1,200 人余

り、高品質のハード・ソフトウェア製品の研究開発に携わるエンジニア 200 人を含む。中

国国内のセールスシステムは全国範囲に及ぶ。

ISO9001 や UKAS を取得しており、また北京、シンセンに R&D センター、デザインセンタ

ーを有する。同社の製品も中国国家経済貿易委員会から「国家重点新製品賞」を多数受賞

している。

〈華旗〉は中国では有名なコンピュータブランド「愛国者(aigo)」のメーカーで、コン

ピュータの外部ケース、メモリ、デジタル、ネットワーク、新事業の 5 大分野を中心に業

務を行っている。企業ユーザー、個人ユーザー、DIY ユーザー向けの外部ケースには CRT、

LCD ディスプレイ端末、キーボード等の関連製品も含まれる。業界、企業ユーザー向けのメ

モリにはフラッシュディスク等、オフィス向け、個人エンターテイメント等のデジタル業

務には MP3、ブルートゥース無線通信等、オンラインアクセスや企業ユーザー向けのネット

ワーク業務には光ファイバー交換機、インテリジェント交換機、IP ルータ、無線ネットワ

ーク等が含まれる。先端科学技術製品を新興する新事業にはフラット型パソコン、e-ビジ

ネス、デジタルセキュリティ等が含まれる。

(2)ICT 市場進出の背景

1993 年、〈華旗〉は中関村に 1 軒の店舗を構え、店内には机 1 台があるのみで、代理販売

製品(パソコン本体とキーボード)も 1 タイプしかなかった。〈華旗〉の創始者馮軍氏は当

初中関村で製品販売を行っており、「馮 5 元」と呼ばれていた。これは、利益が 5 元出るな

らその値段で売るという意味である。

初めの 3 年間は、〈華旗〉は中関村の電子市場で商売を行い、キーボードやディスプレイ

の代理販売を行っていた。ローエンドユーザーを対象にした商売であったが、なかなか良

好で、代理販売する製品に「小太陽」というブランド名を付けた。こうして中関村では「小

太陽」ブランドのキーボード等のパソコン関連製品が有名になり、ついにはある程度の市

場シェアを持つようになった。更に製品を拡充し、安定した実力と強力なパートナーを得

た。こうして 4 年も経たないうちに代理店から自社ブランドを有するまでに成長したので

ある。

1996 年、同社はディスプレイの国際ブランド「MAG」製品の代理を始め、同時に自社ブラ

ンド「愛国者」製品も発売した。こうして、同社の業界における位置付けは全面的に向上

した。1996 年から 2000 年までの 4年間、馮軍氏の「代理と自社ブランドの共同発展」の思

想の下、全国に 20 社余りの会社を設立し、その名は 200 都市以上に知れ渡った。また、DIY

分野で「愛国者」は良質、安価のブランドとして確立した。2000 年、〈華旗〉は当初関心度

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の低かったモバイルメモリ市場に目を付け、「愛国者」ブランドのモバイルメモリを発売し

た。その後 3 年の間、大成功を収めている。

(3)〈華旗〉の MP3 とモバイルメモリ市場進出戦略

MP3 とモバイルメモリ市場にスムーズに進出し、且つ迅速に市場シェアを獲得するため、

華旗は下記の段階を踏んでいった。

①これまでディスプレイの販売ルートを基礎に、3,000 社以上の販売店ネットワークを全

国に構築し、高額なバックマージンにより販売店を激励し、販売店との共同の利益獲得

及び発展のチャンスを生み出してきた。

②SONY と提携し、SONY 製品の代理店として、国際ブランドとその経験を利用した販売を

行った。

③MP3 及びモバイルメモリの研究開発チームを構成し、中国消費者の流行を把握し、外観

や機能の設計を工夫した事で、自社ブランドのヒット商品が生まれた。

④「自主科(学)技(術)、自由生活」を理念に、全国に宣伝し、「愛国者」のブランドイ

メージを樹立した。

⑤2003 年までに、〈華旗〉は北京、南京、広州、上海、成都、杭州、武漢、福州、瀋陽、

済南、西安、ウルムチ、重慶、シンセン、鄭州、ハルピン、長春等の都市に分社を設立、

或いはプラットフォームを設置した。400 社以上の「愛国者」専売店、3000 社余りの販

売店が約 200 都市のユーザーをカバーし、また全国 30 の省(市)、自治区、直轄市にセ

ールスシステムとサービスネットワークを構築した。

〈華旗〉は自社の市場での位置付けを固めるため、アフターサービス体制の確立を重視し

た。北京にサービスセンター、コールセンター、ネットワークサポートセンターを有する。 また各大都市に相継いでサービスセンターを設置した。それと同時に、同社は厳格な審

査をパスした各地の販売店に「愛国者」のサービス体制に加入する事を要請した。こうし

て、サービスネットワークは全国範囲に及んだ。つまりユーザーは製品をどこで購入して

も、全国統一のサービスを適時受けられるのである。 (4)〈華旗〉製品の位置付け 〈華旗〉は「愛国者」のモバイルメモリ製品を高品質、低価格と位置付けし、ユーザー

に安心感、満足感を与えている。 (5)ブランドイメージ、成果及び業績 愛国者モバイルメモリ製品の販売量は 3 年連続中国トップの座を奪った。中でも「愛国

者」の「迷你王」は中国フラッシュメモリ市場の 30%のシェアを誇り、「存儲王」は USB ハ

ードディスク市場シェアの 40%を占めた。こうして中国モバイルメモリ業界の急速な発展

をもたらし、国際市場を先駆ける ICT 製品ブランドとなった。また「愛国者」は MP3 市場

参入後、僅か 1 年で 16.6%のシェアを獲得し、国内市場シェア 1 位となった。この分野の

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独占状態を 3 年、4 年続けていた韓国ブランドを遥か後方に引き離し、IT 消費類電子製品

分野の数多くの国際競合他社に先駆けたブランドとなった。ディスプレイやその他の外部

設備製品については、一貫して国内市場上位に立っている。このように、〈華旗〉は中国 IT

業界のコア企業に成長し、「中国パソコン企業上位 100 社」にランキングされた。また CCID

からは「中国モバイルメモリ製品市場本年度成功企業」、「中国 MP3 市場本年度 も成長し

た企業」と評価された。

(6)今後直面する問題

〈華旗〉は中国 MP3 市場と中国モバイルメモリ市場のシェアを獲得し、現在世界クラス

の企業になろうと国際市場への進出に力を入れている。この目標を達成するため、同社は

まずミドルエンド、或いはローエンドのブランドイメージを改善する必要がある。そのた

め、hp、IBM、DELL に提供する OME 生産を通し、生産規模や品質を向上する。「愛国者」

の MP3 の 5 万台の販売量は韓国ブランドを遥かに追い抜き、中国ブランドの高品質且つ低

価格な製品に優位性がある事が示されている。中国も数多くのユーザーに普遍的に受け入

れられる製品を設計する事ができ、韓国ブランドを越える外観設計が可能である。〈華旗〉

の今後の発展戦略は、中国市場を安定した拠点とし、高品質、優良価格の製品により国際

市場を開拓するものである。

ケース2 長城計算機シンセン股フェン有限公司による IP-TV の発展

(1)企業紹介

中国長城計算機シンセン股フェン有限公司(以下、長城)は、国内 大のコンピュータシス

テム開発メーカーであると同時に、 大の OEM サプライヤーの1つでもある。コンピュー

タ部品の製造、コンピュータ及びネットワーク設備の製造、ブロードバンドネットワーク、

e-ビジネス、応用ソリューション等のネットワーク情報技術と、アプリケーションサービ

スを一体とした A 株上場企業である。

主要製品は、長城コンピュータを中心とし、ネットワークサーバー、ネットワーク接続

製品、各種ソフトウェア、デジタルハイビジョンテレビ、デジタルエレクトロニクス、ポ

ータブルコンピュータ、メモリ等がある。

(2)デジタルテレビ市場参入の背景

現在中国は世界 大のカラーテレビ生産国であり、消費国でもある。中国国家広播電影

電視総局(以下、広電総局)の発布する『広播影視技術科技“十五”計画及び 2010 年展望

計画』の規定に基づき、全面的にデジタル化及びネットワーク化を推進し、今後 5~10 年

の事業発展及び科学技術創造の主要業務とし、且つデジタル化発展のロードマップを打ち

出した。また、2003 年に地上波デジタルテレビ標準を制定し、都市部にてデジタルテレビ

放送を開始する。2005 年には衛星放送を全てデジタル化し、2010 年までに現在の地上波テ

レビをデジタル化する事で、デジタル受信器を普及させる。そして 2015 年には、中国テレ

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ビ放送は全面的にデジタル化を実現する。広電総局の“十五”計画(第十回五ヵ年計画)

において、中国デジタルテレビユーザーは 2004 年には 1,000 万に、2005 年には 3,000 万世

帯に達する計画である。現在中国では約 2 億 1,000 万台のアナログテレビがデジタルテレ

ビへ移行しているとされ、その市場規模は数万億元に達すると見られる。また、カラーテ

レビの数量が毎年 10%ずつ増加する場合、これだけでも約 2,500 億元に上る事になる。今

後 10 年のデジタルテレビ産業は、中国の関連企業に 15,000 億元の売上高及び 1,000 億元

の利益をもたらす事になる。

デジタルテレビ産業の前途は明るいが、2004 年、全国で 100 近いデジタルテレビチャン

ネルが開通した一方で、デジタルテレビのユーザー数は 120 万世帯ほどであり、元来の計

画の 1,000 万世帯とはほど遠い。デジタルテレビ産業の発展は緩慢である事がわかる。

中国デジタルテレビは現在、テレビ放送業界に依存して発展しており、既に下記のよう

な問題点に直面している。

①国家標準制定の遅れ

中国では早くからデジタル衛星放送標準及びデジタル有線テレビ標準が確定していた

が、デジタルテレビ産業化を促進する上で も重要なデジタル地上波テレビ標準がまだ確

定していない。広電総局のロードマップによると、2003 年末に発布される予定であった

が、上海交通大学と清華大学が開発した 2 つの方式を検討中であり、標準が確定するには

まだ時間がかかりそうである。

②『条件受信(本体及びカードの分離)』政策問題が招いた STB 価格の高騰

アナログテレビでデジタルテレビを受信する事ができるセットトップボックス(以下

STB)の価格が高騰し、約 1,000 元までに上り、消費者にとってデジタルテレビは受け入

れ難いものとなっている。現在、『条件受信』政策はまだ公表する事ができず、現行の「本

体 1、カード 1」方法は、設備供給に大きな影響を及ぼす。例えば設備企業は、ユーザー

数 10 万世帯に満たない地方市場に対し、巨額な投資による製品開発を希望しないため、

STB の大量生産が実現せず、価格も下がらないのである。

③コンテンツの欠如

『中国数字電視報告(中国デジタルテレビ報告)』によると、コンテンツの豊富さがユ

ーザーにデジタルテレビを選択させる主要な要素であると認識しているテレビ放送機関

は 55.1%(103 社)に上った。視聴者の購買理由の調査結果が更にこの点を証明している。

視聴者の選択の理由として、「多くのチャンネル」「より早く且つ精彩な番組を見る事が

できる」「高画質の番組」等が挙げられた。これらの調査結果からもわかるように、放送

内容のクオリティが 終的にデジタルテレビ市場を左右する事になるであろう。そのため、

コンテンツサービスの強化がデジタルテレビの発展に多くのチャンスをもたらす事にな

る。

しかし、現在中国の番組制作能力は低く、多くの番組は海外から導入しており、デジタ

ルテレビの番組リソースはまだ少ない。このためデジタルテレビユーザーが有料番組を受

け入れるのは難しく、各地におけるデジタルテレビの導入において大きな影響を及ぼして

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いる。

(3)長城の製品戦略

映画・テレビ放送分野におけるデジタルテレビの発展が大きな難題を抱える一方で、中

国のブロードバンド IP ユーザー数は成長を続けている。中国信息産業部のデータによれば、

2004 年 1 月のブロードバンド加入者は 1,186.3 万世帯で、2004 年 10 月には 2,172.4 万世

帯に上り、その成長率は 83.12%に達した。また、2005 年末までに 4,210 万世帯に、2008 年

末までに 8,630 万世帯に達すると予測されている。LCD、大画面 CRT、PDP、DLP 等のモニタ

ーが一般家庭市場に参入を始めている。このような状況の下、IP-TV のユーザーは破竹の勢

いで成長を続けている。2004 年、中国の IP-TV のユーザーは既に 219 万世帯に達し、デジ

タルテレビのユーザー数を大きく上回った。IP-TV は既に中国デジタルテレビの主要な発展

モデルとなったのである。

中国 IP-TV 市場が迅速に発展する一方で、専門設備の製造が遅れているのが現状である。

長城は、関連政策及び産業に対して研究し、且つ中国デジタルテレビ市場全体の環境につ

いても調査を行い、市場参入への意向を明確にした。即ち、製品の特徴及びコア技術をつ

かみ、多角度から市場に参入する。まず、過渡的な IP-STB から入り、同時に PC-TV 市場を

発展させ、 終的には端末受信製品市場へ参入する。現在、長城は既に IP 技術 STB 製品の

研究開発に巨額な資金をを投資している。このような戦略は IP-TV における利益獲得のた

めではない。長城はネットワーク経営業者ではなく、IP-TV 経営市場をコントロールし難い

ため、IP-TV 製品の製造は 終的には自社のパソコン端末製品の販売をサポートするための

ものである。

(4)長城のブランド及び宣伝戦略

長城は中国の主要 IT 設備メーカーであり、製造は長城の強みである。長城は自社のコア

技術及び設計開発の優位性を利用してエンコーダ、デコーダ標準 H264 を結合し、中国市場

において低価格の STB 製品を打ち出す事を決定した。一般のテレビ及びネットワーク利用

家庭がデジタルテレビの番組を楽しむ事ができるという点が、長城パソコン端末の販売を

促している。

PC-TV において、長城は自社製品の特色を生かし、パソコン及びノートパソコンの娯楽音

響機能を強化し、パソコンと TV を一体化した。これら製品はプライベートな独立空間を求

める若者を対象としている。その端末の違いにより、様々な製品を作り出す事が可能であ

る。

①家庭用パソコン販売促進のため、IP-TV を利用し、娯楽性の濃い音響機能を強化した。

PCI カードを搭載する事により、電信ネットワークを通じてデジタル信号を受信し、デ

ジタルテレビ番組を視聴する事が可能となる。

②ノートパソコン販売促進のため、携帯娯楽性の機能を強化。PCMCIA カードの搭載によ

り、ノートパソコンを使用すると同時に、デジタルテレビ番組を受信する事が可能とな

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る。

(5)現在の市場における成果及び業績

現在、長城の IP-STB 及び PC-TV 製品は、まだ研究開発段階にあると言える。製品プラン

の商業化までは一定の時間が必要であるが、長城はより速い実現を目指し、既に富士通等

の日本企業と提携している。エンコーダ・デコーダチップの購買を通して、多くの競合相

手が参入する前に自社ブランドのローエンド製品を打ち出し、市場シェアを大幅に伸ばす。

(6)今後直面する問題

製造能力が高い一方で、研究開発能力はそれほど高くない。IP-TV 市場において競争力を

保持するためには、長期的なパートナーを持つべきだと言える。

ケース3 BOE の中国 TFT-LCD 市場への参入

(1)BOE の概況

京東方科技集団股フェン有限公司(中国語通称「京東方」、英語通称「BOE」。以下、BOE)は

1993 年 4 月に設立された。総資産額は 67 億 8,000 万元。パネル部品と関連電子精密部品材

料、パネルと関連 AV 製品、モバイルデジタル製品と ICT サービス等を経営の柱とした北京

国営の上場企業である。

BOE は中国北部 大のパネル生産拠点であり、主要製品には以下のものがある。

①TFT-LCD。BOE は中国 大の TFT-LCD メーカーである。

②VFD、STN-LCD、OLDE 等を含む小型フラットディスプレイ部品。STN-LCD の生産販売量は

世界第 5 位、VFD は世界第 3 位である。

③CRT パネル、TFT 液晶ディスプレイ、TFT 液晶テレビ、PDP テレビ等を含むパネル/フラ

ットテレビ。BOE は世界第 2 のディスプレイメーカーである。

④パネル製品関連の精密電子部品及び材料。

⑤デジタル製品と関連サービス(ノートパソコン、ネットワークパソコン、インテリジェ

ントカードシステム及び機器、LED 大画面ディスプレイシステム等)

2002 年の企業の売上は 85 億元、その内上記のの主要製品による収入は 45 億元である。

製品の 60%以上は海外へ輸出される。

(2)BOE、TFT-LCD 生産拡大の背景

ディスプレイ関連分野を主要業務と位置付ける企業として、BOE は TN と STN の生産能力

を有しているが、これまでディスプレイ技術の開発能力が欠如していた。プロジェクト専

門チームを結成し、TFT-LCD 及び関連技術に関する研究開発や実験の他、また相次いで多国

籍企業との技術交流を行い、研究提携により TFT-LCD 事業モデルの発展に力を入れてきた

ものの、未だ効果的な技術把握には至っていない。1997 年、BOE は冠捷(AOC)との共同出

資でディスプレイ分野に参入した。TFT-LCD ディスプレイに対する大きな需要が、BOE を

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TFT-LCD 生産に踏み切らせたのである。

BOE がディスプレイ分野に参入するのと時期を同じくして、中国市場の需要はまさに TN、

STN から TFT-LCD へと転換された。

2003 年、中国のテレビ販売量は世界シェアの 20%を占め、アメリカに次ぐ世界第 2 の市

場となった。またパソコン業界の生産高も 450 億ドルでアメリカに次いでいる。携帯電話

は 2 億機で世界第 1 位の消費市場となった。予想では 2003 年から 2007 年の間、中国のノ

ートパソコン、液晶(LCD)デスクトップディスプレイ、液晶テレビの需要はそれぞれ 31.8%、

29.8%、126.1%の複合成長率で成長すると見られており、こうした数字は中国現地企業が

各サイズの TFT-LCD シリーズ製品を発展させるのにこの上ない好機となる。このような情

況の下、BOE は TFT-LCD 生産に踏み切る決断をしたのだ。

(3)BOE が選んだ TFT-LCD 市場参入の方法

TFT-LCD 分野参入の際、下記のような 2 つの困難に直面した。

①技術開発能力の不足。TFT-LCD 技術の変化は目まぐるしく、外国から技術を購入してく

るだけでは、市場の変化にはまず追いつけない。また、技術購入はコストが高くつくた

め、BOE が本当の意味で競争力をつけるのは難しかった。

②資金不足。BOE は上場企業であるといっても、企業資産は 67 億 8,000 万元に過ぎず、

何百億元もかかる TFT-LCD 生産ラインを新しく建設するには全く不足していた。

共同出資では技術開発能力を高めていくのに満足な結果が得られない事から、BOE は新た

な道を求める必要があった。技術と生産能力を備えた国外企業を買収する事がこれらの問

題を解決する 良の方法と思われた。

当時、TFT を扱う企業は世界で 20 社ほどあった。 適なパートナーを探すために、BOE

は企業一社一社に対して詳細に研究し、またほとんどの企業に出向いて視察を行った。韓

国の HYDIS 社は韓国現代半導体株式会社(HYNIX)の子会社で、TFT-LCD ディスプレイ技術、

生産開発、生産製造と販売を専門に行っており、年間生産能力は 300 万台以上、世界シェ

アは 3.5%に達していた。ただ世界シェア 9 位の同社も近年資金繰りに苦しんでおり、HYNIX

は同社を手放す決定を下していた。BOE は協議を経て、買収方式を採用する事になった。

(4)資本運用による TFT-LCD の買収

HYNIX の持つ全てのディスプレイ技術と生産能力を手に入れるために、BOE は二度にわた

って買収を行った。 初は 2,250 万ドルを投資し、SEC 及び HYNIX との合弁会社 HYLCD を設

立し、HYNIX は STN 及び OLDE 業務による出資とした。こうして HYLCD は HYNIX の STN、OLED

生産技術及び生産能力を把握した。

次に TFT-LCD 業務を全面的に買い取った。HYNIX との協議を経て、BOE は 3 億 8,000 万ド

ルでHYDISの全ての資産とTFT-LCD業務を買収した。資金を調達するためにBOEは1億5,000

万ドルを投資して、韓国に BOE-HYDIS を設立し、同社の株式を中国工商銀行ソウル支店に

担保に入れる方法で、中国工商銀行から韓国で 1 億 9,000 万ドルの融資を得る事に成功し

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た。同時に、BOE-HYDIS は資産を抵当に入れる方法で、韓国銀行から融資を得て、4,000 万

ドルの長期手形発行権利を獲得した。2003 年、BOE は HYNIX の全てのディスプレイ事業を

買収する事に成功した。新たに事業を立ち上げるよりも小額の資金で、ついに韓国 HYNIX

及びSTN、OLDE、TFT-LCD事業、関連資産、不動産権益を買収したのである。完備されたTFT-LCD

の生産能力、核心的な技術研究開発能力、及び世界市場シェアと販売ネットワークシステ

ムを手に入れ、BOE は中国で 初に TFT-LCD のコア技術と関連部門を有した企業となり、短

期間に TFT-LCD 分野で韓国や日本との技術格差を縮める事に成功したのだ。

(5)現在の BOE の市場情勢

HYDIS 買収を通じて、BOE は中国の TFT-LCD 市場の技術、生産等の分野で優位性を発揮し

始め、独自のモデル『国外買収―国外融資―国内建設―組立て』を確立した。買収後、BOE

は国内外に 5 つの研究開発センター(北京、紹興、台北、サンフランシスコ、韓国インチ

ョン)、6 つの生産拠点(北京、福清、紹興、蘇州、シンセン、韓国インチョン)を有する

事になった。TFT 液晶ディスプレイ分野で世界トップ技術の FFS 等の特許権を有し、BOE は

ディスプレイ分野の競争で更に優位になった。現在 BOE は 2,000 余りの特許権を持ってお

り、更に毎月新たな特許権を獲得している。

BOE の ATFT-LCD 韓国工場は 3 つの生産ラインを有し、年間生産量は 350 万枚で世界市場

シェア第 9 位である。その内 17 インチパネルは世界第 3 位である。京東方 A(BOEA)の北

京工場第 5 世代 TFT-LCD 生産ラインも現在建設中であり、2005 年第一季に生産を開始する

事になっている。生産開始後の TFT-LCD の年間生産量は 1,300 万枚(17 インチパネル)と

予想され、莫大な外資を吸収し関連製品の売上、数百億元余りを生み出す事になる。BOE の

売上額の中、新製品、新技術よるものは 60%以上になる。

BOE は以下のような目標を掲げている。2010 年までにディスプレイハイテク分野で世界

レベルの企業となり、資本金を 100 億ドル以上に引き上げる。将来 5 年以内に北京に第 2、

第 3 の TFT-LCD 生産ラインを建設し、3 つの生産ラインが全て稼動した後には関連製品売上

高を 1,000 億ドルとし、新たに 2 万人の雇用機会を作り出す。建設中の北京 BOE ディスプ

レイサイエンスパークは、TFT-LCD ディスプレイを中心としてグローバルメーカーが共同参

画するディスプレイサイエンスパークとする。

ケース4 東京電子、中国半導体装置分野で市場拡大へ (1)東京電子市場参入の背景

東京電子(TEL)は 1998 年に上海で事務所を開設した。当時、中国半導体工業及びその

市場はまだ初期段階にあり、1994 年以前においては、半導体企業は北京首鋼日電と無錫華

晶の 2 企業ほどしかなかった。

1994 年から実施された「908」プロジェクト以降、一連の政策指導の下、ICT 及び家電産

業チェーンの発展に伴い、中国半導体産業は急速に成長したが、同時期に世界的には半導

体製造業は後退を見せ始めた。2001 年までに IC 製造業の全世界売上高は 30%余り激減し、

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一方中国の IC は依然 8%の成長が続いている。

半導体製造産業の中心が世界規模で中国へとシフトするにつれて、多くの国際半導体装

置メーカーが中国に支店を設立し、中国半導体市場の競争も日増しに激しくなってきてい

る。

国際市場における東京電子の 大の競合他社であり且つ半導体装置メーカー世界 大手

である米応用技術会社(以下、AMT)は、1997 年に中国に独資企業を設立している。2002

年には AMT 中国本部を上海に移転すると同時に、北京、天津、蘇州、無錫に事務所及び部

品倉庫を設置し、また上海を世界規模での技術育成拠点の一つとした。東京電子はまさに

このような状況下で、発展段階にある中国半導体産業に参入したのである。

(2)市場参入の戦略措置 2000 年初めより、徐々に半導体産業が世界規模で中国へとシフトし始め、半導体装置市

場が成熟し分業化が進むにつれて、半導体装置メーカーは薄利の段階に入ろうとしている。

東京電子は安定した発展のために、以下の戦略措置を採用している。

①中国市場の需要に応じるために、モジュール化装置製造モデルを採用し、コスト削減と

世界一流の技術を提供する事で市場を勝ち取る。

②中国のファウンドリーはその装置供給メーカーに対して付加価値サービスを求める事

から、東京電子は現在中国の顧客に対して一流の技術設備を提供すると同時に、ウェハ

ー製造装置の日常保守の提供等数多くの付加価値的アフターサービスを提供している。

③中国での投資速度を高め、顧客に現地化サービスを提供する。東京電子は 1998 年に上

海事務所を開設、2002 年 4 月には東電半導体装置上海公司を設立した。また 2003 年 4

月には東電電子(上海)有限公司を設立し、併せて設備メンテナンス、補修、デバッグ、

改良等のサービスを主とした業務を行うと同時に物流業務も展開している。

④中国で独自の販売サービスのネットワークを築く。東京電子は既に中国半導体メーカー

の地域分布をもとに、天津、蘇州、北京事務所及び北方本部を設置し、中国の顧客のた

めにクオリティの高いサービスを提供している。

⑤中国現地企業との提携強化を図り、中国で生産加工拠点と研究開発センターを設立する。

一部の半導体装置の製造と研究開発機能を中国へシフトし、中国で半導体装置の組立て

を行う。現在既に一部の業務を中国企業に委託し加工生産を行っている。

(3)東京電子が採用する市場販売戦略

①上海は中国の『シリコン・ハーバー』と言われ、多くの半導体メーカーが生産ラインを

上海に建設している。2005 年までに、中芯(SMIC)、宏力(GSMC)、華虹 NEC を合わせる

と 10 以上のチップ生産ラインが増えるものと見られる。また先頃、上海広電集団と NEC

が約 8 億 5,000 万ドルを共同投資し、国内 大の TFT-LCD パネル生産拠点を建設した。東

京電子では生産ラインの集中する上海の利を生かし、これら大手の生産ラインに設備及び

材料を提供し、中国市場開拓の拠点とする事を目指す。

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②上海を拠点とし、中国市場全体をカバーするネットワークを確立する。東電電子(上海)

は SMIC と GSMC を中国での 大の顧客とし、天津事務所はモトローラを提携相手としてい

る。また、蘇州、北京事務所はそれぞれ和艦科技、中芯環球の需要に応じるために設立さ

れた。現在上広電と NEC が共同出資する TFT 及び台湾 SMC8 インチウェハープロジェクト

の動きに合わせ、東京電子は更に上海の莘庄と松江にそれぞれ対応可能な機関を設立する。

中国北部都市のウェハー製造プロジェクトが相次いで実現するに伴い、東京電子は北方本

部(上海公司に属する)を設立し、中国でのサービスネットワークの確固たる布石を打つ。

③東京電子上海支店は初期において半導体装置関連のサービスを提供する事を主な業務と

していたが、中国半導体製造産業の成熟に伴い、主要部品の加工を切り口とし、部品の現

地生産化を実現させ、 終的には中国現地での半導体装置の組立て完成を目指す。 (4)製品ブランドと宣伝の位置付け 半導体製造のグローバル化情勢に対応するため、東京電子は企業の位置付けを日本の一

企業から世界的な半導体装置メーカー、液晶パネル装置メーカーに移行し、また製品ブラ

ンドの位置付けも一流の技術を擁する集積製造装置とする。世界のコーター/パネル装置市

場シェアの 80%を占めると同時に、東京電子は既に第 2、3 世代の 300mm ウェハー製造装置

を生産している。東京電子の宣伝理念は『自己の得意分野で世界第一を勝ち取る』である。

(5)現在の市場実績 2003 年、東京電子の世界市場シェアは 18.85%で第 2 位であり、AMT が 27.42%で第 1 位

に位置している。中国市場においても、東京電子のシェアは第 2 位ではあるが、シェアは

その世界市場比率を上回っており、AMT との差も世界市場でのシェアから見ると大幅に狭ま

っている。

東京電子は も早い時期から中国半導体産業に参入し発展してきた企業の一つであり、

中国で 初に 6 インチライン(首鋼日電)と 8 インチライン(華虹 NEC)ウェハー製造装

置を生産したメーカーである。中国 初の 12 インチ生産ラインであり、現在建設中の北京

SMIC の国際 12 インチ生産ラインも東京電子の装置を採用している。

(6)将来直面する主要課題

中国半導体設備産業発展の鍵は現地市場の把握である。現在、中国の半導体製造設備産

業はまだ相当に脆弱であるが、中国は既に世界第 3 の半導体消費市場となっている。東京

電子が将来直面する課題は、中国市場の成熟度と需要の発展に基づき、いかに中国で生産

加工拠点と研究開発センターを設立し、また一部の半導体生産設備と研究開発能力を中国

にシフトしていくかである。まずは重点部品から着手し、その他の部品の現地調達を実現

させた上で中国現地での設備組立てを目指す事になる。

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ケース5 エプソンによる中国インクジェットプリンタ市場の独占 (1)エプソン中国プリンタ市場参入の背景 エプソンは 1997 年、中国インクジェットプリンタ市場に参入した。当時、中国プリンタ

市場はインクリボン式プリンタが席巻しており、Brother が主要なブランドだった。当初、

エプソンもインクリボン式プリンタを主要製品として中国販売を始めている。その内の一

つ、1600K インクリボン式モデルは耐久性に優れる事から、中国市場においてかなりの売れ

行きを見せた。だが、エプソンは単一インクリボン式プリンタでは、耐久性等の面におい

てあらゆる企業の発展に対応しきれないとの認識を持っていた。ちょうどプリンタ技術は

インクリボン式からインクジェット式への転換期にあり、エプソンは中国市場で自社のイ

ンクジェットブランドを展開する事でしか長期にわたる成功はあり得ない事を理解してい

た。

しかし、当時インクジェットプリンタ市場では Canon が既に中国での先陣を切っており、

米hpとともに新興市場である中国インクジェットプリンタ市場を独占していた。hp、

Canon と比べると、エプソンは技術面で大きな強みを持っているわけではなかった。よって、

いかに市場に切り込みトップの位置を占めるかがエプソンの中国市場における主要課題と

なった。

(2)エプソンの中国プリンタ市場独占戦略 エプソンは中国市場参入に当り、いくつかの課題を解決する必要があった。まずコスト

削減、次に市場競争、そして中国市場でのブランド確立である。

以上 3 つの課題解決のため、エプソンは前後して以下のような対策を採った。 ①生産拠点を建設し、製品ルートを確保した上で需要に応える エプソンは中国進出に際して、まずマレーシアに工場を建設した。マレーシアを選んだ

理由は、第一に安価な原材料及び比較的低い労働コスト、運送面の利点である。次に比較

的生産環境を把握している現地から取りかかる事で、中国で早急に投資を開始するリスク

を避けると同時に、中国市場への低コストの原料供給源を確保できると考えたからである。 ②組織合理化によるコスト削減で生産効率を高める

中国市場参入後、エプソンは組織整備に取りかかった。北京に統括会社として愛普生(中

国)有限公司を設立し、中国での生産、投資、販売等全ての業務を管理させる事になった。

この公司が全ての販売及び市場戦略決定権を持ち、また日本本部に直接報告を提出するよ

うにした。 このような組織を作る事で、煩雑な組織の重なり合いをなくし、効率を高め、また実行

力を強化する事ができた。

③製品戦略を見直す事で競合相手に打ち勝ち、市場における優勢を占める 1997 年、エプソンは中国市場に参入する際、インクリボン式プリンタ市場が Brother

ブランドに独占されている現状に対し、日本で売れ行きの良い自社モデルを売り出して優

位に立つ一方で、インクジェット式プリンタの技術開発に力を入れ、低価格を売りに徐々

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に市場へインクジェット式プリンタを浸透させていった。

だがインクジェット式プリンタ市場においては、中国市場参入が比較的早かった Canon

がオフィス製品分野で長期にわたり実績を挙げており、当時主流だったモノクロインクジ

ェット式プリンタの品種も多く、市場を独占していた。エプソンにせよhp(ヒューレッ

ト・パッカード)にせよ、Canon からは売上面で引き離されている事から、エプソンはモ

ノクロインクジェット式プリンタ分野で優位に立とうとする事は避け、カラーインクジェ

ット式プリンタでインクジェット式プリンタ市場に切り込む戦略を立てた。1997 年、エ

プソンは 4機種 4 カラーのインクジェット式プリンタで市場競争に参入し、3 カラーから

4 カラーへの切り替えを 初に行ったメーカーとなった。価格面では競合他社と差をつけ

ず、性能の良さで勝負に出る事で相当の成果を挙げる事に成功した。

2000 年から、エプソンは利益率の も高いレーザープリンタ市場に進出する計画に取

りかかった。この市場はそれまでずっとhpの独壇場で、そのシェアは実に 80%にも上

り、市場が独占されている状態だった。エプソンは分析作業を経てhpのモノクロレーザ

ープリンタ Laster Jet6L は 1997 年から中国市場で 4 年の間も販売され続け、製品として

は既に新しさに欠けており、また同社はモノクロプリンタの売れ行きが好調である現状に

おいては、敢えて即座にカラーレーザープリンタを売り出すつもりはないとの認識に至っ

た。すぐに行動に移す事をモットーとしているエプソンは、レーザープリンタのような新

製品に関しては、中国市場に即座に受け入れられると判断し、またいずれのメーカーがよ

り早く売り出すかでレーザープリンタ市場シェアのトップを占める事ができると考えた。

したがってカラーレーザープリンタをhpの対抗商品として選び、2001 年にカラーレー

ザープリンタを発売した。新製品の販売に当り、エプソンは積極的に競合他社の販売ルー

トの追い落としにもかかった。競合他社から取次販売店を奪い取るため、販売店の利益を

大幅に確保したのである。これにより間もなくレーザープリンタ市場はエプソン、hpの

2 社の競合体制となり、次第にエプソンがhpの優位性を崩し始めるようになった。

④急激に変化する市場に対応し、競争戦略を見直す

市場で優勢を占めたエプソンは、中国プリンタ産業を牽引する存在となった。利益率が

も高い専門分野、全国の 1 万店以上にも上る写真スタジオでは、ほとんど全てがエプソ

ンのフォトプリンタを採用しており、また広告分野においてはその優れたプリント効果に

より多くの広告企業の指定ブランドになっている。

2003 年もエプソンはやはり中国プリンタ市場の販売量トップを占めたが、危機感を感

じ始めた。市場に参入する企業が増えるにつれ、より熾烈な競争が繰り広げられるように

なってきたのである。エプソン、Canon、LENOVO、方正、実達が次々に新機種プリンタを

販売し始めた。Canon、富士ゼロックスのそれぞれ小型の新機種、またhpが発売したウ

ォークマンサイズのインクジェットプリンタを始めとして、中国ではプリンタ市場が小型

化の流れを見せ始めると、エプソンは個人ユーザー、中小オフィスユーザー等の分野で後

退を見せた。競合他社の OKI、実達ブランドの参入はエプソンの得意分野であったインク

リボン式プリンタにおいてその市場シェアを 30%も低下させたのである。

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消費者を引き留めるためには、ただ製品の品質に依存しているだけでは十分ではないと

考えたエプソンは、全体的な戦略の見直しに入り、これまでの単に技術向上を目指す方向

から機能的な面を充実させていく戦略に切り替えることになった。新しい宣伝戦略を「デ

ジタル写真、その精密さを家庭にも」とし、消費者に「エプソン=写真」のイメージをア

ピールした。そして元々専門用途を目的として作られた製品を家庭用製品市場に取り入れ

たのである。エプソンは消費者にその新しいイメージを受け入れてもらうためには、まず

実際に使い心地を体験してもらう事が も効果的な宣伝であると考え、北京、上海にエプ

ソン写真技術館を設け、また北京、大連、広州にエプソンイメージ館を建設し、消費者に

店内でその製品を体験してもらう事ができるようにした。 ●エプソンイメージ館は各都市のパソコン製品科学技術園区域に位置させ、製品に対して

比較的高い要求を持つ消費者を主なターゲットとする。あらゆる消費者がエプソンのデ

ジタルカメラで撮影し、エプソンのフォトプリンタで高品質の写真を現像する全過程を

体験できるようにする。このように全ての過程でエプソンの製品を使用する事により、

消費者心理に強く働きかける事ができる。もし消費者が興味を示さない場合には、自社

製品のスキャナ、OHP 等の真に迫る仕上がりを体験してもらう事で生き生きとした色彩

が大自然を映し出すその高度な再現力を味わってもらう。イメージ館ではエプソンが誇

る EP-101 プリンタ等、その他の各製品も展示し、またリビングと同じような休憩室を

設け、消費者にリラックスしてもらい、自分の家で体験しているような感覚を持たせる。

更に、定期的に各種のイベントや講座を開いて多くの消費者に各レベルの相互交流の機

会を提供する。こうする事でエプソンが市場を開拓するのに有利な条件を作り出す。

●エプソン写真技術館はプロのカメラマン及びフォトデザイナーの展示発表の場とする。

ここではエプソンが長期にわたって写真及び平面芸術の展示を行う。写真展の大判の写

真は全てその場でエプソンのフォトプリンタでプリントして展示する。展示と実際に体

験してもらう事で、専門知識を持つ消費者たちのエプソン製品に対する信頼を確立する。 ⑤イメージキャラクター等の戦略で消費者にブランドイメージを植えつける

1998 年以降、エプソンは前後して香港、台湾で活躍する映画スター朱茵と大陸の新人

アイドル周迅を起用し、イメージキャラクターとしてテレビコマーシャルを作成した。同

時に大規模なカラープリント見本の発行等中国市場では斬新な手法を採用し、中国での宣

伝戦略を実行に移した。

⑥サービスの質を向上させ、消費者のブランドに対する信頼を作り出す

エプソンは中国で消費者のブランドに対する信頼度を高めるには高いサービスを提供

する事が重要と考えていた。2001 年、エプソンは「真心プラスサービス」と銘打ち、自

社ブランドに対するオプショナルサービスを開始させた。その内容は保障期間延長サービ

ス、グレードアップサービス等を含む。消費者の特殊な要望に対しては特殊な対応で応じ、

それぞれに適したオリジナルサービスを提供する事で消費者の問題を解決するようにし

た。エプソンのこうしたサービスは競合他社よりもより充実し、且つ実用的だったため、

中国の消費者達のエプソンブランドに対する信頼度を高める事に成功した。エプソンは広

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く自宅訪問修理引き取りサービスを採用し、多くの消費者が抱えていた修理の際の不便さ

を解消した。利用者は機器に故障があった際には、電話一本入れるだけでエプソンのサー

ビスセンターのエンジニアが自宅まで来て修理してくれ、あるいは故障した機器を引き取

り修理した後にまた届けてくれるのである。 エプソンの修理サービスは「一時間内特急修理」の原則を堅持しており、受付、操作プ

ロセス、部品供給等の各方面にわたり調整を行っている。特急修理専門の窓口の設置、特

急修理が可能かの正確な判断、必要な修理期間の通知、修理・部品交換の簡略化等、各方

面で措置を採り、消費者の待ち時間の短縮化を図っている。 (3)現在までに得られている成果

2000 年から現在に至るまで、エプソンは中国市場でいくつものブランドに打ち勝ち、プ

リンタ市場のトップに座り続けてきた。インターナショナルデータセンター(IDC)が発表

したデータによると、エプソンは 2003 年の市場シェアは 2 位を大きく引き離して 10%近く

も差をつけており、中国プリンタ市場の 1/3 以上のシェアを誇っている。愛普生(中国)

有限公司は 2004 年中国 ICT サービス消費者満足度調査において『打印機服務用戸満意金奨

(プリンタサービス消費者満足度金賞)』を受賞している。これは中国市場のエプソンのサ

ービスに対する高い評価を表していると言える。

ケース6 マイクロソフト海賊版対策を変更、中国で独占的地位を固める

(1)マイクロソフトの戦略変更における市場背景

25 年前、マイクロソフトは「デスク 1 台にパソコン 1 台」の構想の下、中国パソコン市

場の急速な発展に伴い、中国進出を果たした。

しかし、中国での商売において海賊版の問題は深刻であった。8,000 万ドルを投資して設

立した北京マイクロソフト研究センター付近の街頭でさえ、通常約 200 ドルの Office や

Word の海賊版が僅か 1 ドルで売られているのだ。この海賊版の蔓延により海外のソフトメ

ーカーは中国進出を躊躇する事が多かったが、マイクロソフトは大局的な戦略を立て、市

場参入に臨んだ。マイクロソフトは 短期間で他の OS やオフィス用ソフトのメーカーを打

ち負かし、中国市場を独占する事を目指したのである。この戦略に海賊版の流行は反って

有利に働いた。マイクロソフトは 90 年代に中国に進出後、 初の 3 年間は海賊版に対し、

防止するどころか寛容な態度を見せた。ビル・ゲイツ会長は「中国におけるマイクロソフ

トのソフトウェアの海賊版作成を歓迎する」とまで言ったのである。こうして同社の海賊

版ソフトは急速に普及し、中国のほとんどのパソコンにインストールされるようになった

事から、マイクロソフトのソフトウェアは中国ユーザーにとって も使用率の高いソフト

ウェアとなった。そしてこれまで中国オフィス用ソフトウェア市場のシェアを握っていた

WPS 等の中国ソフトメーカーは、徹底的な打撃を受けたのである。1995 年、マイクロソフ

トは市場競争に勝利し、OS とオフィス用ソフトウェア分野でのシェアの独占に成功した。

独占体制を固めると、マイクロソフトは以前の海賊版容認姿勢を一変させ、中国企業か

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らソフトウェアの高額な特許使用料を徴収し始めた。また、中国大手企業に対し立て続け

に法律的手段に訴える警告を出した。実際に当時中国で知名度の高かった小型家電メーカ

ーの亜都公司に対し、知的所有権に関する訴訟を起こし、150 万元の賠償金を得ている。ま

た、マイクロソフトは自社の独占的地位を利用し、パソコンメーカーに対してマイクロソ

フトのソフトウェアインストールの標準価格を引き上げる措置を採った。これによりパソ

コンメーカーは価格競争が熾烈化する中、自社利益を犠牲にせざるを得ず、このことが中

国の強烈な民族情緒を煽る結果となった。マイクロソフトの世界統一価格は発展途上国に

対して不公平だという声が挙がり、国務院科技部も「競合他社が存在しないため、ソフト

ウェアの価格が高く設定されすぎている。我々はマイクロソフトに対して何か措置を採る

ということはできないが、消費者としての選択権は持っているはずだ」と語った。こうし

て中国政府は同社の独占に対し、公然と敵意を表わにし、Linux を支持する態度を表明した

のである。そして中国オリジナルのシステム開発に投資し、更にマイクロソフトを排除し

て自国のソフトウェアを使用する事で、中国メーカーを支援した。長城、同方等の中国の

大手パソコンメーカーも Windows のインストールを拒否し、DOS や Linux 等低価格のパソコ

ン生産に移行した。つまり、マイクロソフトの海賊版対策は独占的地位を揺るがしただけ

でなく、中国社会の攻撃のターゲットとなり、市場シェアも縮小する結果を招いたのだ。

(2)マイクロソフト戦略変更方法

中国は既に世界第 2 位のパソコン市場となり、Windows にとっても第 2の市場となってい

る。しかし、法律手段、パソコン価格の調整等による海賊版対策は、決してマイクロソフ

トの問題を解決したとは言えない事を事実が証明している。マイクロソフトは中国で実際

に損失が発生しており、毎年の売上 2~3 億ドルは世界全体の収入の 1%に満たず、当初の

マイクロソフトの目標からはほど遠い。

マイクロソフト中国は 5 年間に総経理を 4 回換えたが、管理者を換えただけでは業績を

改善する事はできなかった。2003 年、マイクロソフトはようやく中国市場の特殊性を認識

し、中国戦略を改めるに至った。まずはマイクロソフトのイメージを変えるところから始

め、法律による海賊版対策から中国との共同展開に転換した。また、中国の発展とマイク

ロソフト製品と密接な関係にある国内ソフトウェア産業をサポートし、これにより中国企

業は多くの技術提供を受けた。新しい戦略は政府や商業企業等正規の価格で購入可能なユ

ーザーをターゲットにした。このような戦略変更の下、マイクロソフトは以下の措置を採

った。

①モトローラ中国の陳永正元総経理をマイクロソフト中国の総経理として迎え、彼と中国

政府の密接な関係を利用し、中国政府との交流を強化した。

②中国国民のマイクロソフトに対する強硬なイメージを改めた。

マイクロソフトは以前の法律による海賊版対策を放棄し、大手企業ユーザーを集める

事に重点を置いた。2004 年初め、陳総経理はマイクロソフトを海賊版対策によって成り

立つ会社とはさせず、また中国で正規版の普及計画を推進し、個人ユーザー向けにより

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充実したセキュリティの保証とサービスを提供する旨を語った。

③サービスの向上を重視し、ユーザーの評価を得る。

陳総経理はマイクロソフトを製品技術一辺倒から、ユーザー及び価格をより重視する

企業への転換に着手した。つまり、独占的な企業から良質な製品やサービスによりユー

ザーを獲得するソフトウェアメーカーへの移行を図ったのである。

④産学連携をサポートし、中国市場のマイクロソフト製品のリピーターを拡大する。

ブランドイメージを向上させるのと同時に、中国消費者のリピーターを増やす。2002

年から、マイクロソフトは毎年製品の無償提供を行っており、その金額は毎年 2 億 5,000

万ドルに相当する。大学 36 校にコンピュータ課程を設置し、中国の大学のハード・ソ

フトウェア開発者育成をサポートしている。また、中国国内のソフトウェアメーカーと

の全面的な協力関係を構築し、マイクロソフト本部は中国のソフトウェア技術者の研修

を受け入れ始めた。

⑤中国政府との協調関係を強化し、ソースコードを公開して政府購買市場シェアを獲得す

る。

これまで政府の購買は、中国のソフトウェア市場に巨大な影響力を及ぼしてきた。こ

の市場に新たに進出するため、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長は幾度にわたり訪中

を重ねた。2004 年、陳総経理はついにビル・ゲイツ会長を説得し、セキュリティ方面で

の懸念を解決するため、中国政府とソースコードを共有する事に同意させた。こうして、

中国政府を代表する中国信息安全産品測評認証中心(中国情報セキュリティ製品測定評

価認定センター)とソースコード計画合意を締結した。本合意は中国政府及びその指定

する機関が主導する方式でマイクロソフトWindowsのソースコードや関連技術情報を調

べる事ができるものだ。したがって、中国政府の Windows のセキュリティに対する信頼

度を増強させる事につながる。マイクロソフトは Word、Excel、PowerPoint 等の製品

の 90%のソースコードを公開し、このような友好的な態度により 終的には政府の購買

市場参入に成功した。

(3)業績

マイクロソフトはついに北京市政府彩購弁公室(北京市政府購買事務室)、北京市信息化

工作弁公室(北京市情報化業務事務室)による「コンピュータシステム、オフィス用ソフ

ト、情報セキュリティ等の正規版ソフトウェアのサプライヤー」の政府購買プロジェクト

において、競合他社の Linux を抑え、「コンピュータ OS 及びオフィス用ソフト正規版ソフ

トウェアのサプライヤー」請負プロジェクトを獲得した。つまり、北京市信息化工作弁公

室のOS及びオフィスソフトはマイクロソフト正規版を使用する事になり、その総額は2,925

万元に上ったのである。

近、マイクロソフトは政府関連企業の中軟総公司と提携し、中軟を利用してマイクロ

ソフトと中国ソフト産業との関係を更に深めている。できる限り多くの中国ソフトウェア

メーカーにマイクロソフト関連のソフトウェアを開発させ、OS やブラウザソフトウェア方

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面での独占的地位を確固たるものにしようとしている。

政府との協力の成功により、マイクロソフトにも利益がもたらされた。中国は目下正規

版の市場は政府を主としており、政府市場への参入は販売規模の迅速な拡大を意味する。

その一方で、政府の模範的役割の背後には中国の広大な市場が潜んでいる。この 2 つの面

からマイクロソフトの業績は大幅に伸びると見られ、独占的地位が保証されるであろう。

(4)今後の課題

マイクロソフトは短期間内での中国戦略が大きな成功を収めたが、海賊版の問題をいか

に解決するか、中国との友好と独占的地位のバランスを如何に維持するかが長期発展にお

ける問題である。そのため、マイクロソフトは中国でプラットフォーム「Microsoft.NET」

建設を提唱し、これにより金融、電信、政府等の分野で多くのソリューションを生み出す

事を望んでいる。更に中国のパートナー企業がアプリケーションソフトウェアを開発する

事を大々的に支援した事により、中国にもマイクロソフトを支持する環境が形成され、リ

スクから逃れる事ができた。

ケース7 ノキア、製品改革と販売戦略転換で中国携帯市場シェアアップ ノキアは 1950 年代から中国との取引を展開している。1985 年、ノキアは北京に 初の事

務所を開設し、90 年代中頃には合弁企業を設立する事により現地生産を実現させた。これ

により中国はノキアの世界的主要生産拠点に発展したのである。今世紀に入り、ノキアは

中国との 新通信技術分野における協力関係の強化を図る事で、中国情報産業の発展に確

かな地歩を築いている。

2003 年、ノキアの中国での売上は 20 億ユーロ、輸出額は 17 億ユーロである。三年連続

で外資の中国移動通信産業輸出額トップを守っており、過去 4 年間の輸出額合計は 80 億ユ

ーロに上る。2003 年末、中国投資額は 17 億ユーロに達した。

(1)ノキアが中国市場で直面する課題 世界 大手の携帯電話生産メーカーであるノキアにしてみると、世界 大の携帯電話市

場――中国市場でのシェアは当初から決して高いとは言えず、2000 年からずっとモトロー

ラの後塵を拝してきた。2003 年、中国市場でのシェアは 12.5%であり、競合他社であるモ

トローラに 5.5 ポイントの遅れをとった。

ノキア製品の 大の問題は、中国のユーザーの流行感覚を掴めない事にあった。過去、

ノキア中枢部はその頭の固さとアジア的な審美感覚への軽視から、ずっと折り畳み式携帯

電話の開発を渋ってきた。この姿勢が、携帯電話を流行の指標の一つと見る中国市場にお

いて、ノキアブランドに対する流行遅れのイメージを与える結果を招いた。中国市場の携

帯電話の需要は伸び続ける一方で、ノキアの携帯電話売上は伸び悩んだ。かつて市場を席

巻したノキアは、中国の消費者の目には頭の固い保守的なメーカーと映っていたのである。

製品開発に対する考え方以外にも、ノキアは中国現地にある大量の携帯電話メーカーと

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の販売ルート競争に直面した。中国現地メーカーは、技術面で劣る事から、外資製品との

競争に際しては販売ルート確保に力を入れる事が一般的であり、農村部や地方都市に直接

販売ルートを積極的に開拓していく。ノキアが採用したのは代理販売制度であり、多くの

代理販売業者がその販売ルートを大都市に集中させている事から、地方に参入する事が難

しく、大きな市場を失う事になった。 市場シェアの落ち込みが止まらない現実に対し、ノキアも次々と対応措置を採ってきた。

しかし中国市場に対する理解度の低さから、いずれの層にも受け入れられる「万民型携帯

電話」の開発に固執し、更に製品販売対策として低価格を打ち出す措置を採ってしまった。

この対応措置はノキアの市場シェアを上げるどころか、反って利益低下を招く事になり、

競合他社であるモトローラとの差に更に開きを与える事になった。 調査会社 Gartner によれば、2004 年第 1 期のノキアの世界携帯電話市場に占めるシェア

は 34.6%から 28.9%に低下した。第 2 期には携帯電話売上高は同期比で 13%下がり、利益

は39%も急落した。第3期の携帯電話売上高は更に13%低下、純利益も更に20%下がった。

このような状況の下、世界市場の中で自らの地位を安定させるため、ノキアは世界的規

模の組織再編に取りかかった。中国の戦略的地位を大幅に引き上げ、中国をノキアの重要

な生産開発の拠点とするだけでなく、主要顧客及び市場運営の上での 5 大戦略市場の一つ

としたのである。現地で受け入れられる携帯電話の開発、販売ルートの見直しを通じて中

国市場を勝ち取り、ノキアの世界市場のシェアを引き上げる事を狙ったのである。

(2)新たな戦略と実施過程

市場シェアを効果的に引き上げるために、ノキアは以下のように中国での戦略を全面的

に見直した。

①中国の関連会社 4 社を 1 つの組織に統一し、ノキア中国公司が統一管理を行う。

元モトローラ中国勤務の何慶源氏を中国地域の総管理者に任命した。こうした措置は

ノキアに競合他社の経験に学ぶ機会を与え、中国での統一管理をスムーズに進める事を

実現した。結果として情報のフィード・バックと実施効率を高める事に繋がった。

この大規模再編は 2003 年 3 月から始められた。ノキアの決定は中国にある合弁関連

企業 4 社――北京首信諾基亜移動通信公司、北京諾基亜航星通信系統公司、東莞諾基亜

移動電話公司、諾基亜(蘇州)電信公司を新たに北京の諾基亜(中国)投資公司に編成

し直し、これら 4 地域の会社を子会社化する事であった。編成作業は 2004 年 10 月に終

わり、ここに中国 大の移動通信メーカーが誕生し、ノキアのアジア太平洋地域におけ

る 大の生産拠点となったのである。

②北京研究開発センターの位置付けを、ノキアのグローバルな携帯電話研究開発センター

とし、中国市場が求める携帯電話機種の迅速な開発を可能とする。

この位置付けの見直しにより、北京研究開発センターはノキアの四大携帯電話製品開

発センターの 1 つとなり、ノキアの世界における携帯電話販売量の 40%の機種がこのセ

ンターで開発されるようになったのである。

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③中国各地の地方政府との関係強化を図る事で、政府購入市場を勝ち取り、また将来にお

ける中国での 3G 携帯電話市場参入の資格を手に入れる。

モトローラは中国に独資企業を持っており、これまで中国政府との関係をかなり重視

してきたが、一方ノキアは中国での市場開拓においては常に共同出資相手をパートナー

としてきた。3G に関し、モトローラはそれまで培ってきた政府との関係によって、外国

企業としては も早くに信息産業部の発給した19枚の CDMA営業許可証の1枚を手に入

れる事ができたが、ノキアは営業資格をなかなか勝ち取る事ができなかった。ノキア中

国の全面的な組織再編後、ノキアは中国政府との関係を強化し、共同出資のパートナ

ー・中信の助力の下、ついに CDMA 携帯電話の生産許可証発給を受ける事ができたので

ある。

同時に、ノキアは地方政府との関係強化を通じて中国政府購買市場におけるシェアを

高める事に成功した。2004 年、諾基亜(中国)投資有限公司と北京正通網絡通信有限公

司は契約を交わし、北京市のデジタルサイトに 5 万人分の TETRA 端末を提供した。これ

はこれまでの全アジア市場において 大規模の TETRA 端末提供契約であり、この契約を

通じてノキアはまた一歩TETRAネットワークと端末のトップ提供メーカーの地位を固め

る事に成功した。この契約に基づき、ノキアは先進的な 8,000MHz の中国語機能搭載の

THR850、THR880 携帯電話、及び TMR880 固定電話を提供する事が可能になった。

2004 年下半期から、ノキアは遅れたイメージを改めようと、ノキアブランドとしては世

界で初めてのモデルとなる折り畳み式携帯電話を設計し、中国市場に売り出した。また「万

民型携帯電話」の位置付けを放棄し、ブランドのモード性と個性の強さを宣伝の前面に出

すと同時に、各層の消費者たちそれぞれ適したシリーズを売り出した。広告ブランドの位

置付けは「高品質、高耐久性」から「ファッションの先端」へと転換した。このような広

告の位置付けと製品の組み合わせは、瞬く間に中国の消費者の関心を再び呼び戻す事とな

り、販売量は短期間で大きな伸びを見せるようになった。

(3)現在の業績 組織再編、製品とブランドイメージの見直しを経て、ノキアの 2004 年の中国携帯電話市

場シェアは 13%から 15.5%に上昇し、モトローラ及び中国現地メーカーを上回った。3 年

ぶりに再び中国市場シェアトップメーカーに返り咲いたのである。

(4)これからの課題と戦略 現在、情報産業は世界的に低迷を続けているが、中国の移動通信市場情勢は上向きであ

る。ノキアはグローバルに発展する戦略の上で、中国を 重要市場と位置付けている。中

国が世界 大の携帯電話市場としてユーザーが 1 億 8,000 万人を超えたといっても、携帯

電話普及率はまだわずか 13.86%に過ぎない。現在、中国の携帯電話ユーザー数は月平均

500 万人のペースで増えており、これはフィンランドの総人口に相当する。このような市場

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をめぐって、世界中の携帯電話メーカーと中国現地メーカーが熾烈な競争を繰り広げてお

り、ノキアは絶えず変化する中国消費者の需要を把握して製品及びサービスを開発してい

く必要があった。そのため、販売戦略を「万民型携帯電話」から「オーダーメイド型携帯

電話」へ転換し、またモバイル通信の各市場で影響力を持つ指導者達との関係強化に努め

たのだ。

ケース8 INTEL 中国 WAPI 標準を採用せず Centrino チップの販売を確保

(1)INTEL 中国無線 LAN 市場参入の状況

中国 ICT 関係者は 2002 年を中国無線 LAN の年と位置付けている。無線 LAN はその機密性

と耐干渉性の高さ、設置や保守の容易さから、移動式オフィスの実現を可能にするものと

大いに期待されている。2001 年、信息産業部は 5.8GHz周波数を割り当て、無線 LAN 等の

新進無線技術応用化の支援を表明した。同年、CNC(中国網通)は既に北京、上海、深圳、

広州等ビジネスの盛んな地域に「無限伴旅」の名の無線 LAN 参入サービスを開始しており、

アクセスポイントは 40 ヶ所に達する。2002 年、中国無線 LAN の市場規模は 9,000 万元に達

し、ユーザーは 2 万 5,000 人、そのうち企業が 1 万 5,000、個人が 1 万、2003 年の市場規

模は 2 億元、ユーザー約 10 万人、2004 年の市場規模は 3 億 2,000 万元、2005 年は年間成

長率 4.5%の 4 億 2,000 万元に達するものと予測されている。

先進国と同じく急速な勢いで発展する中国無線 LAN 市場に対して、INTEL はノートパソコ

ン用ハードウェアプラットフォーム Centrino の販売によってシェアを確保する戦略を立て

た。そのため同社は中国市場に数億元の広告費を投入し、無線 LAN 応用化を進める事によ

り Centrino の優良性をアピールした。同時に CNC に出資し、共同で無線 LAN の普及と応用

化を進め、また CUTC (中国聯通)と共同で「汎用バケット無線システム(GPRS)+無線 LAN」

をセットにした無線データシステムの展開を図った。

多方面からのルートと企業提携を通して、INTEL の Centrino 搭載ノートパソコンは徐々

に中国無線 LAN 市場の主流製品となり、2002 年末の 5 億ドルから 2003 年末の 20 億ドルへ

と販売量も着実に伸び続けた。

(2)INTEL の中国無線 LAN 市場シェア確保における問題点

INTEL がまさに中国無線 LAN 市場でのシェアを伸ばしつつある時に、中国信息産業部は無

線 LAN の WAPI 標準化を発表した。2003 年 5 月 12 日、中国ブロードバンド無線 IP 標準組織

によって起草された国家標準 2 項目が、国家標準化管理委員会から正式に公表された。こ

れらの標準は外資企業を除外して制定したため、国際標準が導入されておらず、その上 2004

年 6 月までに強制実施するというものであった。つまり、Centrino 及びそれを搭載するノ

ートパソコンの販売を続けるには、INTEL は中国政府が制定した標準を採用している企業に

WAPI 使用料を支払った上で、更に Centrino の改変に新たに投資しなければ、2004 年 6 月

以降中国市場から撤退せざるを得ない事を意味する。これは、決して INTEL の受け入れら

れるものではない。

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中国政府がこのように強制的に WAPI 標準を制定した背景には、国内の情報セキュリティ

の意味だけでなく、中国企業の無線 LAN に関する知的所有権の欠如から、市場に参入する

際に外資企業の特許使用料による妨害に遭う事を恐れたためである。実際、中国の DVD メ

ーカーは毎年 6C に 30 億元の特許使用料を納めるている。こうして INTEL は独自に対応策

を立てなければならなくなった。

(3)INTEL の問題解決方法

この問題に対し INTEL は以下の方法を採った。

①中国機関との関係強化 無線 LAN 標準制定初期に、INTEL 中国地区広報部劉婕氏は、INTEL は既に中国政府及び

関係機関に積極的に働きかけており、できるだけ早い進展を望むとの声明を発表した。

INTEL は各方面を通じて中国政府と交渉し、中国政府の意向に基づく、且つ国際標準に

沿った中国 WAPI 標準制定を求めたが、中国政府はこれを拒否。また一方で、INTEL は無

線 LAN 標準に合致する中国企業との提携パートナーを求めた結果、中興通訊と将来3G モ

バイル通信、無線 LAN 等いくつかの重要な分野において提携を結ぶに至った。また、

CMCC(中国移動)、CNC とも提携を結び共同で無線 LAN 業務にあたる事となった。

②Wi-Fi アライアンス、中国政府に圧力

中国政府との交渉に失敗した INTEL は Wi-Fi 標準化組織、Wi-Fi アライアンスにおける

その国際的地位を利用し、Wi-Fi アライアンスの名義で、技術面の遅れにより中国の WAPI

標準は採用し難い、との考えを表明した。また同時に Wi-Fi アライアンスに中国に対する

IC 出荷の制裁警告を出させた。アメリカ無線 LAN 国際標準を制定したポール・ニコリッ

チ氏は李忠海中国標準化管理局局長と王旭東信息産業部部長に送った E-mail の中で、「新

標準の強制は、モバイル製品市場に大きな打撃を与え、世界の市場を二分する事になるだ

ろう。その上ユーザーが製品購入する際に選択範囲が限られるため無線 LAN 設備コスト増

加につながる」と警告を発した。その後 Wi-Fi アライアンス議長のイートン氏は、もし中

国側が譲歩しないのであれば Wi-FiIC メーカーは将来中国への IC 販売を見合わせるとの

声明を発表した。しかし中国政府は、中国市場が各メーカーにとって大きな誘惑である事

を承知しており、この種の制裁は実施に至らないものと見て強硬な姿勢を崩していない。

③アメリカ政府への支援要請

幾度にもわたる交渉にかかわらず成果が得られないため、INTEL はアメリカ政府に望み

を託した。中国が半導体業界に補助金交付による保護政策を採っている事を理由に WTO 規

則違反の訴訟を起こすように求めた。アメリカ政府は中国政府との交渉において、関税に

関する一連の条件を提出し、両国間の半導体貿易への協力と保護政策の緩和を求め、中国

の無線 LAN 標準修正を交渉条件のトップに挙げた。

アメリカ政府は「中国の無線 LAN 国家標準制定は温家宝総理の『二国間の貿易問題は、

双方の協力関係拡大により解決するのが 善である』の主張に反する」と指摘し、中国政

府が総理の談話に基づく事を強く求めた。同時に中国が公表した「強制的標準」は WTO 規則

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違反であると表明して中国政府に WAPI 標準問題への再考を促し、強硬政策を改めるよう

強く要求した。

政府間交渉の結果、アメリカ政府の貿易制裁圧力の下に、中国政府は中国 IC メーカー

への輸出補助金政策を取り消しただけでなく、WLAN 中国標準制定の無制限延期という譲

歩をせざるを得なかった。INTEL は 終的に勝利を収め、Centrino の中国における販売の

継続を取り付けた。

2004 年における INTEL の Centrino 搭載パソコンの中国販売上高は 30 億ドルに達した。

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第3章 中国 ICT 産業政策

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第 3 章 中国 ICT 産業政策 産業政策の変化 Ⅰ.中国 ICT 関連 5 大産業重大ニュース

2004 年、中国 ICT 産業は 2003 年に引き続き、依然として急速な成長を続けている。この

1 年間、中国 ICT 市場は 18%、294 ドルの成長を遂げ、アジア太平洋地域(日本を含まず)

の ICT 市場の 35%を占めるようになった。アジア太平洋地域(日本を含まず)ICT 市場の

2004 年における成長率は 11%であるため、中国 ICT 市場の成長速度はアジア太平洋地域の

成長よりも 1.5 倍以上も早い計算になる。

2004 年の中国 ICT 分野の対外開放率は更に高まり、台湾企業の突出した業績以外にも、

中国市場には BOE、LENOVO 等の国際的競争力を備えた中国大陸の企業が現れ始めた。これ

らの企業はこれまで中国市場の主なシェアを占めてきた欧米や日本企業と激しい競争を繰

り広げ、中国 ICT 市場競争の局面に更なる変化をもたらした。以下に中国 ICT 市場におけ

る変化の基本的な特徴を挙げてゆく。なお、ここで挙げる ICT 関連 5 大産業とは冒頭でも

述べたように、即ちネットワークデータサービス(ICT とその他のネットワーク利用サービ

スを含む)、電子設備製造(パソコン、ネットワーク端末、デジタル製品)、ソフトウェア

製造、通信設備製造、電子部品製造(半導体 IC)を指す。

(1)中国企業が国際競争への参入を重視し始める

代表事例と関連ニュース:LENOVO が IBM のパソコン事業を買収、世界第 3 位のパソコ

ンメーカーに

2004 年 12 月 8 日、LENOVO の IBM パソコン事業部(PCD)買収に関し、双方が合意書を交

わした。今回の合意により、LENOVO は強力なブランド名と豊富な製品、先進開発技術を擁

する国際企業へと転換を遂げる事になった。

《要点》

◎今回の買収劇により年商約 120 億ドルの世界第三位パソコンメーカーが誕生した(2003

年度の業績に基づいて計算)

◎LENOVO が買収した IBM 資産は以下の通りである。

● ノートパソコン・デスクトップパソコン関連事業

● 顧客、代理店、取次販売店及び直営店

● ノートパソコン Think Pad ブランド名及び関連専売特許、IBM シンセン合弁会社(X

シリーズ生産ラインは含まない)、大和市(日本神奈川県)及びローリー(アメリカ

ノースカロライナ州)にある研究開発センター

◎買収額は 12 億 5,000 万ドルとなる。LENOVO は IBM に対し 6 億 5,000 万ドルの現金、残

りの 6 億ドルは新株発行で支払う。

◎IBM は LENOVO の 19%の株券を保有する事になり、LENOVO と IBM は世界的なパソコン販

売サービスと融資分野で長期的な戦略パートナー関係を結ぶ事になる。

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◎LENOVO はニューヨークに本部を設置し、北京及びローリーに主要運営拠点を置く。買

収後、LENOVO は中国を主な生産拠点とし、社員は 19,500 人となる(内訳:IBM 約 9,500

人、LENOVO 約 10,000 人)。

(2)アメリカの技術封鎖を打ち破り、国際的 先端生産ラインの整備に着手

代表事例と関連ニュース:中芯国際、中国で 90NM サイズの IC 生産

中芯国際(以下、SMIC)は 2000 年に設立した。本部は上海にあり、3つの IC 生産工場を

擁する。この他、4 つ目の工場となる 8 インチ工場を既に天津で買収しており、また北京の

12 インチ工場も 2004 年 7 月に既に操業を始めている。2003 年 5 月には、雑誌『半導体国

際』の『2003 年 優秀半導体工場』の受賞を果たした。SMIC は工業用 IC を専門に扱って

おり、0.13 ミクロンから 0.35 ミクロンの制作設計を請け負っている。

2004 年 10 月 28 日、SMIC は、北京工場はアメリカ政府の反対に屈せず、90nm 生産ライン

の建設を決定し、また既に TI との 90nm チップの契約生産に合意したと発表した。

SMIC の張汝京総裁兼主席執行長は、徳集儀器との 90nm の応用設計 IC 装置の契約生産に

署名した事を発表した。但し 2004 年 4 季に関連機械が到着する関係もあり、90nm チップを

応用した IC 装置のの試作生産は 2005 年 1 期からとなる。

(3)政府による ICT 市場主導能力が弱まる

代表事例と関連ニュース:2004 年中国デジタルテレビ市場、伸び悩む

2004 年より、セットトップボックス(以下、STB)をめぐる状況は、プロバイダー企業の

資金制限やデジタルテレビの内容による影響から、ゆっくりと停滞に向かっている。また、

STB の統一基準が未だ定まらない事から、生産企業側が様子見の態度をとっている事もあり、

デジタルテレビの売れ行きは抑えられている。国内外の電子産業大手企業が次々と中国デ

ジタルテレビ市場で攻勢に出、この莫大な利益を手に入れようとしているが、 新の統計

データによると今年の中国デジタルテレビ利用者は、120 万人前後に止まり、予想を 1,000

万人も下回っている。

アナログテレビをめぐる状況が日増しに飽和状態に近づきつつある今、テレビのデジタ

ル化は電子メーカー、放送産業にとってチャンスである。世界各国では既にそれぞれのデ

ジタルテレビ化の具体的な計画が立てられている。アメリカは 2006 年にはアナログテレビ

サービスを停止し、ヨーロッパ諸国は 2010 年に停止する。日本は 2006 年にデジタルテレ

ビの全国化を実現するとして、2011 年にはアナログテレビサービスの停止を計画している。

2004 年に入り、中国のデジタルテレビは急速な成長を見せ始め、国家広播電影電子総局

(以下、国家広電総局)は 2004 年を「デジタル発展年」と定め、信息産業部も一連のデジ

タル振興政策を打ち出した。現在までに 100 近くのデジタルテレビチャンネルが開局して

いる。

だが、未だ制定されない国家標準の問題が中国デジタルテレビの発展の上で大きな障害

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となっている。国家デジタルテレビ標準は複雑な標準システムを含んでおり、中国ではか

なり早い時期からデジタル衛星標準とデジタル有線標準を制定しているが、デジタルテレ

ビ産業化の大きな鍵を握る地上放送標準に関しては未だ制定されていない。国家広電総局

の計画によれば地上標準は去年末に出されるはずであったが、 新の報道によると 1 年先

延ばしされ、更に遅れる可能性もあるという。

標準制定に関係する筋の人物によれば、標準案として選ばれた清華大学案と上海交通大

学案に対し、どちらを採るか判断が難しいという。技術面での優劣以外に、地上波標準の

背後に控えている莫大な経済利益も今に至るまで基準が遅々として制定されない理由の一

つでもあるようだ。

(4)中国政府 徴税政策に替えて技術標準の制定により自国 ICT 企業の保護を開始

代表事例と関連ニュース:米中半導体交渉合意へ 中国、税還付撤廃

2004 年 3 月、アメリカ政府は中国の半導体税制問題について、WTO に正式に提訴した。

それまで 10 ヶ月間にわたり米中両国は中国の半導体税制問題をめぐって争ってきたが、ア

メリカがついに提訴に踏み切ったのである。今回の両国間の争議は中国国務院が発布した

『鼓励軟件産業和集成電路産業発展的若干政策(ソフトウェア産業育成及び IC 産業発展に

関する若干の政策)』に端を発している。この規定は 2000 年 6 月から 2010 年末までの期間、

IC 製品にかかる付加価値税(17%)の実税負担が 6%を超える部分については即課税即還付

措置が採られるというものである。還付された部分を企業の IC の研究開発や生産拡大のた

めに使用できるようにする事を目的とする。2002 年、中国国務院 51 号案ではさらに踏み込

み、一部のチップメーカーに対して実税負担が 3%を超えた分については、即課税即還付政

策の対象になる事を新たに規定に加えた。

前述の税還付規定に対し、アメリカ半導体協会(SIA)を始めとする 6 つの電子産業協会

は異議を申し立てた。協会側はこの措置は公平とはいえず、世界貿易機関の規則に反して

いるとしている。2004 年 7 月、中国常駐 WTO 代表団の孫振宇大使と米国常駐 WTO 代表団の

ライナー・デイリー(Linrer Deily)大使は、ジュネーブで『中美関于中国集成電路増値

税問題的諒解備忘録(米中両国間における中国 IC 付加価値税問題に関する覚書き)』を取

り交わし、中国は 2004 年 11 月 1 日までに、国産 IC 製品の付加価値税に対する即課税即還

付規定を撤廃することになった。2005 年 4 月 1 日から正式に施行されるが、合意書の調印

がなされる以前に前述の優遇政策を受けていた企業及び製品は、2005 年 4 月 1 日までは引

き続き即課税即還付政策の優遇を受ける事ができる。この他、中国側は 2004 年 9 月 1 日以

前に国内で設計、海外加工を経た逆輸入 IC 製品について付加価値税還付政策の撤廃を宣言

し、2004 年 10 月 1 日正式に実施された。

今回の米中協議に基づき、中国は以降半導体新製品と製造業に対し、付加価値税還付問

題に関する検証は行わず、また中国本土で設計したチップには税還付措置を採らない事に

なった。さらに、2005 年 4 月より、中国全企業に対し、付加価値税の還付を停止する。

また、両国の WAPI 標準をめぐる確執については、協議を経て和解に達した。中国側は無

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期限に WAPI 標準の適用実施を遅らせる事になっている。

(5)まもなく 3G 移動通信市場が動き出す

代表事例と関連ニュース:中国、2005 年上半期中に 3G 移動通信に 4 つの営業許可証を発給

3G は全世界で順調に普及し、既に 50 カ国を超える国々で使用されており、約 100 社のプ

ロバイダーが CDMA2000/EV–DO、WCDMA サービスを開通している。

2004 年、信息産業部が主催する第 2 回目の中国国内 3G 設備テストが行われたところ、民

族ベンダーである華為、中興の設備は既に成熟段階に入っており、中国が提案し3G 国際標

準のひとつとなった TD-SCDMA の産業化も順調との結果が出た。したがって、中国国内で 3G

営業許可証発給の機は熟しており、2005 年年内には発給されるものと見られる。

中国国内では現在 GSM/GPRS、CDMA1X ネットワークが利用されており、また政府が 3G で

の TD-SCDMA 標準の普及を目指している事を考え合わせると、将来中国では 3 つ以上の仕様

のシステムが共存する可能性がある。

大企業による独占や過剰競争を避けるために、発行される 3G 営業許可証は 3~4 通にな

ると見られる。営業許可を受ける可能性のあるプロバイダーは CNC(中国網通)、CMCC(中

国移動)、CUTC(中国聯通)、中国電信(CTC)。なお、2 社合わせて 1 通の営業許可証を取得

する事もありうる。

中国信息産業部は既に CMCC、CUTC、CTC、CNC に対してそれぞれ使用率、標準及び市場展

開計画を含む 3G の展開状況報告を提出するように求めている。信息産業部はこれらのプロ

バイダーの報告書をもとに、3G 営業許可発行計画を策定し国務院に提議することになる。

Ⅱ.2004 年中国 ICT 関連 5 大産業の政策変化

(1)政府管理部門、更に通信産業市場化を進める方向へ

政府の独占市場であった情報通信産業に市場競争原理を取り入れるために、政府は既に

2004 年までの間に通信企業の組織再編と CNC、CMCC、CUTC 等の企業の海外進出事業等を達

成させた。2004 年は更に情報通信産業分野の市場の環境を整えるために、政府は以下の新

政策を発表した。

●通信料金管理方法の改革の推進

中国の情報通信産業は政府によって独占的に価格を決められてきた。2004 年 1 月 13 日、

王旭東信息産業部部長は全国信息産業工作会議で通信料金管理方法の改革を積極的に進め

ていき、 終的には市場原理を導入し、各社が価格を決定する方法を採用する必要がある

との認識を示した。

王旭東は通信料金改革の具体的なロードマップを示す事はしていない。政府による料金

設定を撤廃した後、独占企業が料金を高く設定する懸念を打ち消すためにも、現段階では

政府が必要管理措置を強化する必要があるとしている。また、経済調節の重きを従来の国

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営企業とユーザーの関係に置く形態から、企業間の競争関係を主とした調節システムに移

していくともしている。2005 年の関連計画の中において、信息産業部は公平且つ公正、効

果的で秩序のある競争環境を作り出す事を重要としている。

CMCC と CUTC がモバイル通信分野において、また CNC と中国鉄通が固定通信分野において

繰り広げていると伝えられる価格競争に関しては、信息産業部はその原因を「中国国内で

はまだ効果的な情報通信管理方法がない」上に、国内情報通信企業もまだ客観的なコスト

計算システムを持っていないためと分析した。したがって政府部門が現在の価格競争が妥

当なものかどうかの判断を下すのは、ある程度困難を伴うとの認識を示した。関係筋によ

ると、国務院で審議されている『電信法(電子通信法)』草案には注目を集めている情報通

信料金問題に対して、政府が取り決めた公定価格、指導価格から漸次市場価格へと移行す

る措置が採られるという。『電信法』草案により、将来情報通信の価格決定に関する法規制

は緩和されると見られる。

●情報通信分野に対する立法措置と行政規制から法規制への切り替え

2004 年信息産業部は電信法を制定し、併せて電信法(審議草稿)を当初の予定通り国務

院審議に報告し、立案申請した。

●第 3 世代モバイル通信(3G)のロードマップ公布 信息産業部は 3G 終計画の公布時

期を明言

以前、政府の主管部門は 3G に対して「過度に冷静」な態度を採り続け、既に聞き慣れた

「近代化を推し進めつつ、試行を重ねる。市場を育て、発展を重んじる」という決り文句

を繰り返すだけだった。

2004 年、王旭東信息産業部部長が全国信息産業工作会議において「中国は既に第 3 世代

モバイル通信技術を導入する準備ができており、信息産業部は今年中に関係部門とともに

適時 3G に関する戦略意見書を提出する事になっっている」と述べた。注目すべきは、今ま

で一貫して繰り返してきた上記の方針の前半部が削られた事である。王旭東部長は「『市場

を育て、発展を重んじる』という原則に基づき、関連市場を業務、資金、管理政策の面で

整備し、電気通信改革を更に進め、公平で合理的な競争環境を準備するようにする。そし

て全ての産業の総合的発展を推し進め、統一的な計画を練り上げた上で実施し、それらを

調整しながら進めていく」と述べた。

中国次世代ネットワークの試験的実施が成功した事に基づいて、3G の推進計画もついに

終的な実行段階に入ったのである。

だが、信息産業部の 3G 推進に対する態度はやはり慎重であり、機が熟すまでは無闇に計

画を推し進めようとするつもりはないだろう。同時に、3G に対する研究開発支援にも力を

入れており、信息産業部の 2004 年度における電子情報通信企業への 5 億元の支援資金のう

ち、国産 TD-SCDMA 標準制定に再び 高額の 7,200 万元が割り当てられている。

(2)国内企業の海外進出が国家対外貿易戦略及び政策の枠組みに入れられ、産業構造に

重大な変化がもたらした

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政府はこれまで国内企業の海外進出に支持を表明してきたが、実質的な政策を打ち出し

たのはこれが初めてである。2004 年、信息産業と商務部の両部門は共同プロジェクトを立

ち上げ、企業の海外進出を国家対外貿易戦略及び政策の中に組み入れた。融資、クレジッ

ト保険の奨励、国際決算等の支援政策を打ち出して海外進出への環境を整えた。同時に、

信息産業部は更に詳細な計画を立て、中東、ラテンアメリカ、アフリカ市場で実質的な成

果を上げる事をプロジェクトの重点とした。即ち、APEC、中央アジアの国々と情報通信分

野での協力を深める事や、メコン河流域の高速情報ネットワーク整備を迅速に進めていく

事、また中央アジアの国々と情報通信企業との提携を推進していく事である。

(3)知的所有権保護政策の進展

国務院は、まず知的所有権保護政策に関する部署を設け、関連政策の指導と計画案配を

任せ、重要な案件を監督させた。政策実施に関する統一部署の下、中国では既に各部門共

通の知的所有権施行に関する協力体制が出来上がっており、政策実行に当り連携と協力関

係が強化されたと言える。政策実行担当部署は、全国の知的所有権に関する浸透及び育成

政策に対して更に具体的な部署を設け、関連政策に著しい成果を収める事ができた。

次に、国務院は 2004 年 9 月から 2005 年 8 月にわたって国家知的所有権保護政策担当部

署を全国各組織の知的所有権特別実行プロジェクトの先頭に立たせた。非公式の統計によ

れば、この実行プロジェクトが動き出してから 2 ヶ月の間に、全国の公安機関が起訴した

知的所有権侵犯による案件は 1,000 件余り、関連額は 5 億 5,000 万元に上る。全国工商部

門の取り締まりの対象となった商標権侵犯案件は 9,800 件余り、没収された商標マークは

1,000 万件余りとなった。

また、年末には計画通り知的所有権侵犯に関する刑事犯罪の司法解釈が公表された。司

法解釈を起草するに当たっては、中国外商投資企業協会、EU 委員会、中国商業ソフトウェ

ア連盟、アメリカ映画協会、中国アメリカ商会、アメリカ情報産業機構等の関連協会及び

部門の意見を採り入れた。新しく制定された司法解釈では、量刑基準を明確にし、大幅に

刑事責任の垣根を引き下げる事になった。この司法解釈の出現により、知的所有権の刑事

司法保護が強化され、効果的に知的所有権侵犯犯罪を取り締まる事ができるようになった

のである。市場経済秩序を守り、中国の知的所有権の法的保護を強化していくのに確実な

基礎を築いたと言えるだろう。

そして、関係国と知的所有権に関する交流や理解を深める事においても引き続き力を入

れている。2004 年に開かれた美中商業貿易連合委員会議(米中商業貿易連合委員会議)の

期間中、米中両国は知的所有権問題に関して共通の認識に達し、知的所有権プロジェクト

を設立させ両国の連携を推し進める事になった。中国・EU の知的所有権に関する 初の会

議は北京で開催され、双方が会議要綱に署名し、知的所有権に関する協力とこれからの政

策計画に対するさしあたっての合意に達した。また、昨年 10 月、中国は『世界海関組織知

識産権保護地区論壇(世界税関組織知的所有権保護地域会議)』の開催を成功させ国際的に

積極的な役割を果たした。この他にも、商務部、知的所有権保護政策担当部署とその関連

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部門及び海外投資企業との間に定期的な意思疎通確保のための連携機関を設け、外国の知

的所有権所有者に対して意見を表明する場を提供する事になった。

(4)外資の電気通信産業への参入拡大

長期にわたり、中国の電気通信政策は一貫して国外資本による電気通信業務運営と電気

通信ネットワーク構築の権利を許可してこなかった。だが中国電信と聯通公司の子会社が

国外で上場したのに伴い、中国電気通信市場も国外企業に対して一部開放される事になっ

た。

中国がWTO加盟協議の際に承諾した条件に基づき、2003年 1月 11日からまず北京、上海、

広州の 3 都市で外資企業が基礎的電気通信業務に着手した。 も利益率の高い分野なだけ

に、固定通信、モバイル通信、衛星通信等に及ぶ基礎電気通信は、その経営資質に対し中

国側は厳しい審査基準を設けてきた。2004 年 12 月 11 日より、外資企業による中国国内及

び国際基礎電気通信業務における合弁企業の設立が許可された。外資企業による投資比率

は 25%まで可能とされ、2006 年には 35%、2007 年には 49%にまで上げられる。また、地

域の制限も取り払われる。しかし実際には、中国政府は WTO 加盟条件の一部を想定して 2002

年から既に国外投資者に対して無線付加価値サービス分野の地域制限を取り払っていたの

である。移動音声及びデータシステム合弁企業において、国外企業は 49%以下の市場割り

当てを有する権利を持ち、また地域制限を考慮する必要は全くなくなる。この他、国外投

資者は上海、広州及び北京において合弁会社を設立し固定電話業務の運営をする事も許可

されているが、投資比率は 25%を超える事ができない。

だが実際のところ、中国市場の持つ巨大な潜在力に期待して、既に多くの国外企業が早

くから密かに中国の電気通信市場に進出しており、その中には Vodafone、ATT、BT、日本テ

レコム等の国際的な電気通信企業もかなり含まれている。例えば、2002 年には FT が既に北

京中関村で独資研究開発センターを設立し、今後の中国電気通信市場への進出に布石を打

っている。また、オーストラリアの電気通信企業 Telstra は 2008 年北京オリンピック及び

無線付加価値サービスのを契機として中国電気通信市場進出を計画している。

(5)WTO の原則に基づいた過去の国内企業発展のための課税政策に対する見直し

2000 年 6 月、中国政府は『ソフトウェア産業育成及び IC 産業発展に関する政策』を公布

した。この規定は 2000 年 6 月から 2010 年末までの期間、IC 製品にかかる付加価値税(17%)

の実税負担が 6%を超える部分については即課税即還付措置が採られるというものである。

還付された部分を企業の IC の研究開発や生産拡大のために使用できるようにする事を目的

とする。2002 年、中国国務院 51 号案ではさらに踏み込み、一部のチップメーカーに対して

実税負担が 3%を超えた分については、即課税即還付政策の対象になる事を新たに規定に加

えた。

2004 年、アメリカを始めとする WTO 加盟国は中国の IC 製品国内販売付加価値税還付等の

政策に対して異議を呈した。何度にもわたる協議の末、中国とアメリカを始めとする WTO

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加盟国は合意に達し、中国国内で設計され国外加工を経た IC 製品輸入の際にかかる付加価

値税実税負担が 6%を超える分について採られていた即課税即還付措置を 2004 年 9 月 1 日

から停止する事になった。2005 年 4 月 1 日より、国内にて生産された IC 製品の販売付加価

値税の実税負担に対する課税還付政策は停止される。合意書の調印がなされる以前に前述

の優遇政策を受けていた企業及び製品は、2005 年 4 月 1 日までは引き続き即課税即還付政

策の優遇を受ける事ができる。この他、中国側は 2004 年 9 月 1 日以前に国内で設計、海外

加工を経た逆輸入 IC 製品について付加価値税還付政策の撤廃を宣言し、2004 年 10 月 1 日

正式に実施された。

これにより、中国は半導体新製品と製造業に対し付加価値税還付問題に関する検証を以

降は行わず、また中国本土で設計したチップには税還付措置を採らない事になった。2005

年 4 月より、中国全企業に対し付加価値税の還付を停止する。しかし中国が採り続けてい

る IC 産業発展育成政策の環境が変化したわけではない。まず IC 製品付加価値税の即課税

即還付政策以外に、国令〔2000〕18 号案件及びその補足が規定しているその他の各政策措

置は引き続き実施される。また中国国家発展改革委員会が半導体基金を牽引していく――

即ち 18 号案件の税還付に替わる政策が新たに出てくる事が予想される。これから発布され

る政策の主要点は、政府が財政費用を通じて専門の基金を設け、毎年支給され半導体産業

支援に使われるという事にある。また、この政策の下では合弁企業も含めてどこの国にお

いて設立された半導体企業であろうと、全て相応の融資を受ける事ができる。これは中国

政府が国内 IC 企業支援政策に対し、非常に固い決心を抱いている事を意味している。

また、2003 年に政府は引き続き国家による補助金制度を採り続け、電子設備産業に対す

る支援に力を入れている。国産電子設備を購入する企業に対して税優遇政策を採り、電子

設備企業の技術改善を重点的に支援しており、新たな国産設備と生産ラインを積極的に開

発している。設備国産化の傾向は更に一歩前進し、品質、オートメーション化水準、生産

効率の向上が実現し、需要を満足させるだけの力をつけるようになった。

他にも、政府は『情報化によって工業化を推し進め、垣根のない発展を実現する』と再

三にわたって強調し、国営の経営管理(ERP)企業は 10%の減税措置を受ける事ができる政

策を採択した。

(6)輸出信用国家保証及び輸出税還付等の措置で企業の輸出を支援

中国政府は出口信用保険公司を設立し、専門に輸出信用保険業務を請け負う事にした。財

政部が登録資本金全額とリスク担保を提供し、同社は国営、民営企業及び外資企業向けに

貨物、技術、サービスと労務輸出をサポートする。具体的な業務は為替リスク保障、輸出

融資サポート、買手資格調査、海外投資担保等である。2004 年、中国出口信用保険公司の

業務を通じて中国企業が得た銀行貿易融資総額は 50 億ドルを超えており、短期プロジェク

トだけでも 10 億ドル前後となっている。

例えば、中国南方匯通世華微硬盤有限公司は 2004 年 1 月 28 日、中国出口信用保険公司

と全面的な契約を交わし、後者は南方匯通世華微硬盤有限公司に 5,000 万ドルを超える輸

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出信用資金を提供した。こうした措置は政府がマイクロハードディスク産業への支援に力

を投じている事を表している。輸出信用保証を通して南方匯通世華微硬盤有限公司が抱え

ていた資金難を解決し、輸出に伴うリスクを分散させ、同社の海外市場進出を促進する事

が可能となった。

(7)中国の知的所有権標準制定の着手に伴う困難

自国企業が現在急速に発展中の ICT 市場で優勢を占めるのを支援するために、中国政府

は標準制定を主な手段として採り始めた。例えば WIFI 市場で独自の WAPI を制定し、2004

年 6 月に強制的に実施を求めたが、これに対し Intel は強い反発を見せた。3 月 11 日、中

国国内の一部メディアは、Intel が「非常に強い姿勢で」中国の無線 LAN-WAPI の安全標準

を受け入れ難いと表明し、英特尓中国がすぐさま「Intel は WAPI に対して前向きな姿勢で

いる。ただ、技術的な理由によって暫くの間はこの技術標準を受け入れる事ができないと

いうだけだ」という声明を発表した等と伝えた。Intel が「暫くの間受け入れる事はできな

い」理由は多々ある。例えば「自社の知的所有権が損害を被る事を恐れている」事や、中

国企業が暗号化技術に高額費用を徴収する可能性がある、中国が独自の技術標準を制定す

る事は産業界の衝突を招く等である。この問題はアメリカ政府の介入するところとなった。

3 月 2 日、パウエルアメリカ国務省長官、エバンス商務省長官及びホワイトハウス貿易代表

が連名の書簡を中国政府に送り、非 WAPI 標準無線 LAN 製品輸入規定の取り消し或いは延期

を求めた。これにより WAPI の実施は無期限に延期される事になった。

(8)デジタルテレビ標準に関する政策は 終段階へ

2004 年、中国はデジタルテレビ標準において重要な進展があった。現在、デジタルテレ

ビに関する国家標準の制定が 終調整段階に入り、信息産業部は関係部門とともにデジタ

ルテレビ国家標準の制定に向けて調整を進めている。

地上波デジタルテレビ標準はデジタルテレビの も重要な標準である。国家広播電影電

視総局(以下、広電総局)のロードマップによれば、地上波標準は 2003 年末に公表される

予定だったが、一年延期された後、再度延期を見た。広電総局関係者によれば、中国政府

は国内テレビ局に対して 2008 年の北京オリンピックをデジタル放送する事を求めているた

め、視聴者に正式にオリンピックデジタル放送を提供する前に相応の経験を積んでおくに

は、関連技術及び標準は 2006 年までにはテスト運営に入らなければならないとの事である。

したがって 2005 年には中国地上波デジタルテレビ放送標準が制定されるものと見られる。

Ⅲ.2004 年中国 ICT 関連 5 大産業が国際競争において直面した主な問題

(1)低価格競争による各国の中国製造業へのアンチ・ダンピング訴訟

中国経済の発展に伴い、中国電子製品の輸出もまさに黄金期を迎えた。現在、電子製品

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は中国年間輸出総額の 1/7 以上を占め既に主要な輸出製品の一つとなった。電子製品は国

際経済において発展の著しい分野であるが、中国は参入に当たり多くの製品を低コスト生

産による低価格を競争力としたため、各国からのアンチ・ダンピング(AD)提訴や調査を

次々と受ける結果となった。2004 年、中国は合計 96 件の AD 提訴を受け、これで過去から

の総数は 559 件、関係総額は 3,500 億ドルに達した。

ケース アメリカの中国カラーテレビに対する AD 訴訟裁決

2004 年 5 月、一年近く続いたアメリカの中国へのカラーテレビ AD 提訴に、ようやく決着

がついた。アメリカ国際貿易委員会(ITC)はワシントンにて 終弁論の後行われた投票の

結果、5 対 0の票差で中国カラーテレビ業界への「クロ」の裁決を下した。これにより中国製

カラーテレビのアメリカにおけるダンピングが確定し、中国製輸出テレビがアメリカのテ

レビ製造業者に損害を与えたと認定された。アメリカへの輸出テレビの 90%以上を占める

中国4社のうち、ダンピング課税率は長虹が 高の26.37%、続いてTCL21.25%、康佳9.69%、

厦華 5.22%と認定された。その他の提訴に応じた企業へは平均 22.94%、提訴に応じなか

った企業へは一律 78.45%の課税を決定した。中国のカラーテレビ製造業は利益が少ないた

め、AD 課税 10%を越えた時点でアメリカへの輸出は基本的に絶たれた事になる。今後 5 年、

アメリカが中国製カラーテレビを輸入する際の関税が全体で 30%上れば、中国のカラーテ

レビ輸出業者は大きな打撃をこうむる事になる。中国商務部は、長期にわたり中国カラー

テレビは高・中・低クラス等の製品開発をおこなっていない、国外(アメリカ、EC 等)か

らダンピングの“誤解”を受けやすい、また中国企業は国外で低価格販売戦略を採ってい

る、の理由から AD 提訴を受けやすいとの見解を示した。一方、年間約 2,000 万台のアメリ

カ市場の四分の一近く、つまりもともと日本のソニーやヨーロッパの RCA が占めていたシ

ェアを、中国企業が奪ったためこれらの国の反感を買い、中国への AD 提訴へと至ったので

ある。

(2)頻発する知的財産権争議

中国 ICT 企業の世界市場進出に脅威を感じた国際大企業は、技術的な有利さを競争力と

する事を重視し、中国企業に対する知的財産権の保護をいっそう強化した。2004 年中国企

業は更に多くの国際企業からの知的財産権提訴に見舞われた。

ケース1 DVD 特許ライセンス使用料をめぐる案件

2002 年、6C 聯盟(日立、パナソニック、東芝、三菱電機、JVC、タイム・ワーナー)

は中国 DVD メーカーを特許権侵害で訴え、その結果 2004 年より中国メーカーは毎年 DVD を

1 台生産するごとに 6C 聯盟に対して 4.5 ドルの特許使用料を支払わなければならなくなっ

た。2004 年中国側は既に 30 億元を賠償し、今後更に 200 億元支払わなければならない。

ケース2 TSMC、SMIC を訴える

2003 年 12 月、台湾積体電路製造(TSMC)は北カリフォルニア連邦地方裁判所に、上海中

芯国際集成電路製造(SMIC)を 5 件の特許侵害で訴え、特許の使用禁止と賠償金および関

連費用の支払いを請求した。2004 年 8 月、TSMI は再びアメリカ国際貿易委員会(ITC)に

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SMIC が 8 件の特許侵害、また不正な手段で企業秘密を侵害したとして提訴し、337 項目の

調査を依頼した。

SMIC はこれに応じ、両社は 2004 年末上海にて『侵犯専利与不当使用商業秘密(特許権侵

害及び商業秘密の不正使用)』の訴訟案件に関して和解という形で合意に達した。この合意

によると、SMIC は 初の 5 年間は毎年 3,000 万ドル、 後の 1 年は 2,500 万ドル、6 年間

で計 1.75 億ドルの特許ライセンス料を支払う事になった。

(3)独自の標準により自国企業の保護を図るが全体的には失敗

中国政府は自国の企業が国外企業に比べて技術的に劣勢であると十分認識しており、そ

のため中国独自の技術標準システムによって自国企業を国外企業の知的財産権訴訟から守

ろうと考えた。また、国外企業は自身の中国における利益を守るため、自社の技術標準を

中国国家標準に組み入れようとした。2004 年中国 ICT 産業市場における中国標準と国際標

準の攻防は、総体的に見て国際標準の勝利に終わったと言える。

ケース 中国 DTV 標準確定難航する

中国のテレビ保有量は 3 億 7,000 万台を越え、年間生産量も 4,000 万台を越える世界第 1

位のテレビ大国である。中国広播電視管理部門は、2008 年デジタルテレビによる北京オリ

ンピックの放送、2015 年デジタルテレビの普及に合わせアナログ放送の停止を計画してい

る。アナログテレビからデジタルテレビへの切り替えは、さまざまな電子情報産業に影響

を及ぼす。毎年 4,000 万台のデジタルテレビへの更新があるとすると、IC の年間生産額は

数百億元にのぼり、全体で数千億元の市場を生み出す事になる。グローバル規模で計算す

ると、デジタルテレビは数万億ドルものビジネスチャンスを生み出すものとなる。

そのため、90 年代初めから主な先進国は、アナログテレビから次世代高精細テレビ(HDTV)

への切り替えという巨大プロジェクトを立ち上げ、とりわけヨーロッパ、アメリカ及び日

本の電子情報分野グローバル企業は、デジタルテレビの標準制定、IC や機器の研究開発に

巨費を投じ、膨大な中国市場に狙いをつけた。

アナログテレビからデジタルテレビへの転換には、信号のデジタル化が必要で、それに

はまずデジタルテレビ放送標準の制定が必要である。デジタルテレビの放送形態には地上

波、有線、衛星の 3 種がある。2000 年にヨーロッパの DVB-S 標準を衛星放送の標準として

使用する事が確定したが、有線放送標準については、当時国内市場が形成されたばかりで

まだ産業化できる成熟した技術がなく、独自の標準を制定する事ができなかったため、中

国広電総局はヨーロッパの有線放送標準 DVB-C を業界標準として使用した。わずか 3 年間

でヨーロッパの DVB-C 標準は瞬く間に中国各都市に広まり、客観的に既に「事実上標準」と

認められた。よって、2004 年末、中国政府はヨーロッパの有線放送標準 DVB-C を国家業界

標準と認定した。これらは、衛星放送と有線放送の標準に関して、中国は完全にヨーロッ

パに技術依存しているという事が分かる。

しかし、地上波放送に関して中国は独自の標準をもって自国の産業を保護する考えであ

ったが、市場の要求に押され国内十数の都市でヨーロッパ DVB-T 標準の試用をはじめた。

55

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これにより、ヨーロッパ標準仕様のデジタルテレビ製品が前途有望な中国市場への参入を

開始したのである。これは中国国内の注目を集め、後に清華大学では DMB-T システム標準

を独自開発及び特許申請し、その使用権を国家に提供した。

一方、グローバル大企業は上海交通大学がヨーロッパ標準に基づいて作成した中国独特

の標準を支持している。2 つの標準のどちらを採択するかによって産業化の過程に及ぼす影

響が異なるため中国政府は決断しかねており、国家標準制定の遅れの原因となっている。

標準の決定が遅れれば、大多数の国内メーカーは国際的に承認されているヨーロッパ仕様

のデジタルテレビの生産へと向かう事になるであろう。

(4)中国オリジナルブランドによる科学技術競争力の未形成

中国 ICT オリジナルブランド製品は、基本的に低価格競争に依存しており、研究開発は

専ら外観に注がれている。開発された技術を産業化する能力に欠けており、国際的なブラ

ンドと長期にわたって競争する実力はない。

ケース 中国ブランドノートパソコンの市場状況

2004年、ノートパソコン販売量は30%の増加率を保ち、そのうちパーソナルタイプは50%

を超す成長率を示した。そのため多くのメーカーが注目を集め、瞬く間に 10 タイプ以上の

中国ブランドノーパソコンが誕生した。これらは、「邦甲」や「頂星」のように価格は安い

が、外観だけ自社でデザインし、共通パーツを購入して組み立てただけのものであった。

製造技術、デザインともにレベルが低いため品質が悪く、かえってコストを上げる事とな

った。「邦甲」のノートパソコンは発売まもなく、大量の返品、修理及び消費者からのクレ

ームが相次ぎ、さらにはマスコミの間でも大きく取り上げられた。

中国企業もこの問題を認識しており、現状の改善に力を尽くした。 近、海爾(以下、

Haier)ブランドの台湾にて委託生産されたノートパソコン 550 台がフランスで発売された。

これは中国企業の独自ブランドが国際市場に進出した先例となった。Haier のノートパソコ

ンの輸出成功は、十分な科学技術力があった事が重要な要素となった。

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第4章 中国 ICT 分野における日本

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第4章 中国 ICT 分野における日本 日系 ICT 企業の役割と課題

I.中国及び欧米 ICT 企業との比較

(1)日本 ICT 企業と中国及び欧米 ICT 企業との課題比較

中国 ICT 市場の消費者、管理機関及び販売企業への訪問調査を通じて、日本、中国及び

欧米の ICT 企業の印象、直面する課題を以下の通り総括した。

中国ICT市場において日本、中国及び欧米企業が直面する問題

企業戦略制定能力

製品開発能力

市場開発能力

市場確立能力

長期的な経

営方向

長期的な収

益モデル

外観

設計

原理

設計

応用

設計

パート

ナー

販売

方法

宣伝

方法

適応

製品

ブランド

イメージ

政府

関係

変化への

対応

資本

手段

中国現地

管理

アフター

サービス

市場ネット

ワーク

機能

設計

中国ICT市場の各種問題点 各種企業の経営上の問題点

中国企業が頻繁に直面する問題

欧米企業が中国で頻繁に直面する問題

日本企業が中国で頻繁に直面する問題

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中国及び欧米、日本の ICT 企業は異なる企業文化を持ち、これら 3 種の企業は中国 ICT

市場における特徴がそれぞれ異なる。

①戦略の把握及び製品の研究開発能力が中国 ICT 企業の普遍的な課題である。

現在、中国 ICT 企業は経営規模が比較的小さく、資金の確保やブランド確立の段階にあ

る。そのため企業は短期的な利益力を重視しがちで、長期的に必要な技術能力、戦略等の

課題に対する投資が少ない。これにより、技術の研究開発、戦略に対する把握は国外企業

と比べて明らかに欠如しており、外資企業を模倣する方法が主である。また中国市場での

競争では、変化への対応能力、政府との関係構築及び販売ルートの確立において勝敗が決

まる事が多い。

②欧米企業は中国 ICT 業界を支配しているとは言え、中国市場に適した製品をタイムリー

に開発できるかどうかが欧米企業の課題である。

●中国 ICT 業界のほとんどの標準は欧米のものである。

●中国 ICT 業界の主要な収益モデルは欧米企業の模倣である。

●中国 ICT 業界の関連政府管理部門には多くの欧米留学経験者がおり、欧米企業との間

に密接な関係が築かれている。

●欧米企業は中国にて頻繁にイベントを行い、各種メディアを利用してブランドを宣伝

し、中国消費者の欧米ブランドに対するイメージを高めている。

●欧米政府、特にアメリカ、ドイツ、フランス政府は、政府の力を利用し、中国におい

て各国の ICT 産業及び製品の宣伝活動を行っている。文化交流会、関連機関による ICT

産業発展のトップ会談、政府名義による中国 ICT 業界の大型国際会議への参加、政府

間による ICT 製品販売の取引会談等が行われている。これら活動はしばしば行われ、

欧米ICT企業及びそのブランドの中国における権威的なイメージの確立に繋がってい

る。

欧米企業は管理の現地化を強調し、多くの企業が中国人による管理方法を採っているが、

技術開発は欧米ユーザー向けにサービスを行っており、中国人の消費習慣とはほど遠いと

いうのが現状である。そのため、多くの欧米企業は製品が中国市場に適さないという状況

に直面する事もしばしばであり、この点が欧米 ICT 企業の 大の課題であると言える。

③管理職ばかりが多く、政府との密接な関係に欠け、市場変化への反応が鈍い点が日本

ICT 企業の課題である。

欧米企業が中国全体を統括管理しているのに比べ、多くの日本企業は中国における管理

が散漫している。情報管理ルートが多く、新しい情報への反応が鈍い。そのため中国市場

の変化に対する処理が遅れている。時にはそれが中国の消費者に傲慢なイメージさえ与え

る。一方、日本 ICT 企業は日本政府による支持が弱く、中国政府との関係は欧米企業に及

ばない。それに加え、過去の戦争の歴史が日本ブランドに対するイメージに影響を与えて

いる事も否定できない。

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(2)中国人から見た日本 ICT ブランドに対する問題点

巨大なビジネスチャンスを潜め、且つ競争の激化する中国 IT 市場において、日本ブラン

ドは常に中国、欧米、韓国ブランドによる挑戦を受けている。日本ブランドは中国デジタ

ルカメラ市場の先頭を走ってきたが、2003 年に入ると状況が変わり始めた。中国ブランド

である LENOVO、金拍得麗、DEC 中恒訊視、明基、方正、京東方(BOE)、アメリカのコダッ

ク、韓国のサムソン等の製品が日本ブランドを揺るがすようになったのである。こうして

市場は日本ブランドにとって不利な方向へと変化していった。

メディアによれば、日本 IT 企業の 2004 年上半期業績報告では利益増加であるとしてい

るが、それはアメリカや韓国の IT 企業には遠く及ばない。例えば、韓国サムソンの 2004

年度上半期(4~9 月)の純利益は 5 兆 8 億ウォン、即ち 52 億ドルに上り、その金額は同年

の日本家電メーカー49 社の純利益高とほぼ同等である。国務院商務部の統計資料によれば、

日本家電ブランドの中国市場シェアは現在では 15%にまで落ち込み、韓国やアメリカに対

抗できない状況である。

サムソン、LG 等の韓国企業が中国市場で重きを成すにつれ、大型販売店も日本ブランド

のデジタル製品を主要製品として扱わなくなった。蘇寧電器(電化製品の大型チェーン店)

副総経理の孫衛民氏は、「現在の消費者は日本の家電製品に対して 80 年代のような崇拝的

な心理を持っていないし、これからもないであろう。韓国、欧米及び一部の中国ブランド

と比べ、日本ブランドは劣勢である。しばらくの間は日本ブランドが先導する事はないで

あろう」という。

消費者、政府管理部門、ICT 製品の販売店に対し、日本 ICT ブランドと中国及び欧米ブラ

ンドに対する見解を調査した。

①中国人から見た日本 ICT ブランドの中国市場での位置付け

上記結果から見て、日本 ICT ブランドは既に中国市場において精巧な製品イメージが形

成されており、且つその技術、市場動向の把握及び販売能力においては、中国人の普遍的

な賛同を得ていると言える。

項目 優位性 消費者 政府人員 販売店

外観が良く、多機能。中国の消費者に適している

● ● ●

応用設計に長けている ● ● ●

高品質、耐久性が良い ◎ ◎ ●

市場動向を把握している ○ ◎ ◎

販売モデルの多様性 ◎ ○ ◎

説明:●賛同者数は多い ◎賛同者数は一般 ○賛同者数は少ない

製品開発及び製造

市場開発能力

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②中国人から見た日本 ICT ブランドの中国市場での問題点

日本の ICT ブランドの中国市場における問題点は、宣伝方法、政府とのコネクション作

り、変化への対処能力等に集中した。これは日本 ICT 企業が中国での管理体制を調整する

必要がある事、またフレキシブルな管理能力を身につける必要がある事を示している。一

方で、日本政府の支持が少ないために、中国国民から日本ブランド製品に対する賛同を得

られない事も重大な問題である。

●経営理念において、日本 ICT 企業は製品の品質管理を重視し、利益率をそれほど重視し

ていなかった。もちろん品質は第一であるが、低価格の「Made in China」製品に打撃を

受け、さらには高技術、安定、信頼性、実用性の強い欧米ブランドには到底敵うはずがな

かった。LG の経営陣は「中国の格安電子レンジ(「格蘭仕」ブランドを指す)は韓国製

品の輸出単価より 30%も安い」という。多くのデータが証明しているように、低額で信

頼性の高い製品が中国市場に も適しており、日本製品のような高機能、高技術、高品質、

高額な製品は競争には食い込めないのだ。このため、中国市場においては高価格・利益不

足という状況に陥ってしまったのである。

●ブランドの宣伝に関して、欧米企業と比べ、日本企業は中国政府及び民間とのコミュニ

ケーションが不足している。例えば東芝は、欠陥の発覚したノートパソコンに対してアメ

リカの消費者が 10 億元の賠償を求めた訴訟の際に、中国の消費者に対しても同様に対応

できるかという質問に対し、「東芝の製品品質に問題はなく、且つ中国とアメリカの法律

は異なる事から、中国の消費者に対して賠償する事はあり得ない」と回答した。これは中

国国民を刺激しただけでなく、日本製品に対する反感を生じさせ、日本メーカーに打撃を

与える事となった。

中国発展研究基金及び零点研究集団は 2004 年 3 月、『国外資本の中国社会における浸

項目 問題点 消費者 政府人員 販売店

中国人に受け入れられる宣伝方法に欠ける

● ○ ○

パートナーの選定に保守的である ○ ◎ ●

販売戦略が臨機応変ではない ◎ ○ ●

中国政府と密接な関係がない ◎ ● ◎

中国人が親近感を覚えるブランドイメージを確立できていない

● ◎ ◎

傲慢で、特に中国人からのクレームに対する対応が遅い

◎ ○ ○

中国従業員に適した管理方法に欠ける ○ ○ ◎

欧米企業と比べ、日本は品質の悪い製品のみを中国に販売している

● ● ◎

説明:●賛成する ◎どちらでもない ○賛成しない

市場開発能力

市場シェアを保つ能力

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透度の研究報告-中国人から見る外国資本』という報告を作成した。外資企業の浸透度の

ランキングでは、アメリカ企業が 17.44 ポイント、欧州企業が 16.11 ポイント、日本企業

は僅か 9.03 ポイントであった。 ●製品の販売モデルにおいて、中国ブランドは卸売販売及び代理販売の結合モデルが主で

あり、また販売ルートは全国を覆い、中国大陸のいずれの都市へでも製品を届ける事がで

きる。一方、アメリカのブランドは多ルート分散販売体制を重視し、1 つの地域で複数レ

ベルの代理店を持ち、且つバックマージン等金融上の優遇措置を採っている。日本ブラン

ドの販売方法は単一的で、主に専売代理店によるルート販売を行う。このモデルは、アフ

ターサービスを強化できるが、販売の範囲は狭まる。 ●市場の変化に対する対処能力について、日本ブランドは欧米及び韓国ブランドに及ばな

い。中国の政策変化において、例えばサムソンの戦略は「臨機応変」であり、中国での投

資においては中国政府の政策に応じて行動する事を強調してきた。一方、日本企業は政策

の変化を充分に理解する事ができず、且つコア技術へのこだわりを強調してきた。現在、

一部の日本企業ではこの問題に対する意識が芽生え始めており、松下電器は中国の政策を

グローバル化発展のポイントとしている。しかし、この点は多くの日本企業が未だ実行に

移せていない。

●欧米企業と比べ、日本企業は自国政府のサポートが少ない。例えば 2004 年 1 月、中国 5

大通信企業はワシントンにてアメリカ企業と 11 項目の情報産業設備の購買契約を結んだ。

その契約金額は 23.2 億ドルと言われる。これは中国及びアメリカ両政府による政治的協

力の結果である。一方の日本企業は、このような政府による政治的なサポートを受けられ

ず、 高の技術を持っているにも関わらず、市場に成果を残す事ができないのである。例

えば、投資総額が数百億ドルといわれた北京-上海間高速鉄道プロジェクトでも、日本は

新幹線の製造を落札できず、その他設備等もほとんどがドイツやフランスにより落札され

た。この事実は日本 ICT 企業が中国市場に溶け込む事が困難である重要な原因でもあるこ

とを示唆している。

II.課題解決のための提案 新しい提携関係構築へ

日本 ICT 企業が中国において直面する課題に対し、欧米企業及び中国企業の成功例を参

考にし、下記のように提案する。

●日本 ICT 企業は共同歩調をとり、まず関係日本政府機関を説得し、政府主導ベースでの

中国 ICT 業界管理機関との交流を図る。中国政府上層との交流は、日本 ICT 企業が中国政

府との密接な関係を築く上での重要なサポートとなる。

●中国 ICT 分野において、日本 ICT 企業は中国の知識所有権保護政策が手薄な事に対して

の不満を言うだけの態度を改めるべきである。むしろ、可能なれば政府関係機関との協調

の下、積極的に中国 ICT 標準制定に参画し、自社の標準、日本発の仕様が反映されるべく

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活動すべきである。この実績を以って中国市場参入の基本戦略とし、技術優性維持を期す

べきである。

●本社を含めた事業の管理体制を変える必要がある。現地法人経営陣、幹部への権限委譲

を進め、さらに強力な支援体制を構築し、自社製品をグローバルレベルで協調管理してい

く必要がある。その体制の中で、中国における統一した対応システムを確立し、中国市場

の変化への対応の効率、スピードを上げることが急務である。

●市場-現地法人―本社を結ぶ情報ルートを構築し、中国の関連情報を迅速に共有認識し

戦略に反映する体制が重要である。鍵となるのは仲介する中国人、中国企業であるが、一

部既に企業幹部、政府幹部となっている留学生、訓練生などの人脈活用も考えられるであ

ろう。

●能力ある中国人マネージメントの採用を更に進め、中国市場にスタンスをおいた製品開

発、ブランド設計、広報宣伝を実行、管理する。このためには、自社の中国戦略において

如何なるローカルスタッフを採用・登用していくのかの明確な基準、方針の策定が必要で

ある。更に技術開発スタッフにおいては、日中両国が共有できる技術能力検定・資格基準

制度構築なども一案かもしれない。

●中国のイベント事業に積極的に参加する。更に、例えば欧米企業が活発に進めている産

学協同を通じての中国の大学や教育機関への投資(研究開発費支援など)、共同開発(開

発委託)なども考えられる。中国社会の中に溶け込んでいるという日本企業のイメージを

創造し、引いてはブランドイメージ改善などの効用を生むと考える。

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<参考資料>

中国 ICT 関連主要ベンダー概要

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中国 IT 関連市場において、日系企業に対する評価は欧米企業、民族企業と較べ必ずしも

高いとはいえず、一部企業を除き業績面でも苦戦を強いられている。中国 IT 市場において

「成功企業」との評価を得ている IT 企業に焦点をあて、その事業戦略(市場・製品・開発)、

体制、業績等の調査およびその分析結果を報告する。 本資料では下記8社の会社概要、分析を含んでいる。

民族系企業:中興(通信)、TCL(通信・家電)、東軟(ソフト)、金蝶(ソフト)

北大方正(ソフト) 外資系企業:シスコシステムズ(通信)、エリクソン(通信)、マイクロソフト(ソフト)

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①中興 1.企業の基本情報

名称 ZTE 中興

種類 国有上場会社

所在地 深圳市南山区高新技術産業園科技南路中興通訊大厦

業務範囲 中国通信設備製造業の開拓者であり、総合電信設備・サービスを提供する。無線製品・

ネットワーク製品・端末機(携帯電話機)の三大系列があり、各種通信網総合ソリューシ

ョンを世界的に提供するとともに、事業特化型・全天候・全方向の優れたサービスを提供

すると同時に、段階的に国際市場を開拓する。

主要製品

リスト

次世代ネットワーク・データ通信・交換システム・接続システム・光通信・移動通信・

ビデオシステム・電源システム・インテリジェントネットワーク・付加価値サービス・監

視測定システム・IC製品・携帯電話機(GSM・CDMA・PCS)

主力製品の

市場シェア

中興通信の製品ラインは長く、現在移動通信、NGN などの分野でわりに大きな市場シ

ェアを占め、例えば小霊通(中国版PHS)設備シェアは40%に達している。国内 3.5

GHzブロードバンド無線接続市場では、中興通訊が安定してトップシェアを保ってい

る。中興の未来戦略は CDMA2000、ソフト交換、NGN などの方に重んじて、同時に付加

価値のある業務とサービスも発展の重点でもある。

主要取引先 主に電信会社。現在電力・政府・教育事業等の情報化分野を積極的に開拓中

Year 2002 2003 2004*

Total Revenue

(100 millions RMB) 168 200 240

*2004 年については中興社の見込み値 2.企業の製品戦略 (1)製品および技術の研究開発方針 ほかの通信設備製造メーカーと比べると、中興の製品ラインはわりに長いといえるが、

長ければより多くの収益をもたらすというわけではない。 PHS業務の売り上げが中興全体の中での割合はあまり大きすぎるため、中国電信と中

国網通がPHSネットワークへの投入減少に従い、中興は製品構造の調整を必要し、長め

の製品ラインを保持する一方で中核製品を打ち出し、リスクを低減するとともに競争力を

つける。中興の製品構成の調整は下図を参照のこと。

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<中興 製品構成図>

将来の製品・業務構成では、移動通信(主に3G)・携帯端末機・交換システム(主に

(2)開発研究体制 高等教育機関や科学研究機関が密集し、情報技術が普及している深圳・南京・上海・北

京・西安・重慶・成都などに研究所を設け、現地の研究機関との提携で産・学・研の連合

体を結成し、技術開発に役立てている。また国内外で人材を募集し「精鋭路線」を実施、

優れた人材を獲得している。国際技術提携を展開し海外の先進技術を導入、世界最新技術

を製品開発に活用し、製品の拡充と開発力を増強し世界水準を保つ。 研究開発管理のひとつである資金保証制度については、年間売上額の10%以上を研究

費に充てている。

次世代ネットワーク

データ通信

交換システム

接続システム

光通信

移動通信

ビデオシステム

電源システム

インテリジェント網

付加価値サービス

監視測定システム

IC 製品

携帯電話機

移動通信

(主に3G)

データ通信

IC 製品

次世代ネットワ

ーク

接続システム

光通信 携帯端末機

インテリジェン

トネットワーク

交換システム

(主にソフトス

イッチ)

ビデオシステム

付加価値サービ

その他

既存製品・業務構成 将来の製品・業務構成 時間軸

製品重要度

企業運営サポート

管理機構 人的資源 市場提携 資本運営

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さらに製品管理制度では、製品開発をシステム設計・開発・測定試験の三部門に分けて

製品担当経理(責任者)を設置。市場のニーズに密着した製品開発事業を行い研究開発管

理の有効性を強化するとともに、製品担当経理には開発過程の全責任を負わせる。

部門 所在地 設立 主な機能と研究内容

南京研究所 南京 1993 年 3 月

主にデータ通信製品の研究開発を従事し、すでに ZXJ10 大型交換シス

テム・データネットワーク・ネットワーク付加価値業務のコア設備を

開発し、国家「863」計画の重点項目研究も担当している。現在はデ

ータネットワーク・有線ネットワーク・IC ネットワーク・ネットワー

ク課金・ソフトスイッチなど五大系列の各種製品を扱う。

北京研究所 北京 1998 年 10 月 主にデータ転送製品の研究開発に従事し、高密度波長分割多重方式シ

ステム・新型光伝送システム製品の研究開発を行った。

上海第一研究

所 上海 1997 年 7 月

移動通信システムの研究。中でも自主開発した GSM 移動通信システ

ム ZXG10 が国内外で広く採用された。国産移動通信網規格と最適化

ソフト PlanMaster が各地のネットワーク建設に応用されている。国

産 GSM ダブルバンド対応携帯・カード分離型 CDMA 携帯・PHS 端

末を開発。現在はWCDMAの3G製品ZXW10の開発に取組んでいる。

深圳 TI‐ZTE

連合実験室 深圳 1998 年 9 月

DPS 技術の追跡・導入・開発を担当し、DSP 育成・推進を行う。

(3)国内外企業との技術提携

提携先 提携分野 提携内容

マイクロソフト中国

電信事業の情報化建設とデ

ジタル化の応用

中興通訊が「中興通訊―マイクロソフト ソフトウェア技術実

験室」を設立し、マイクロソフト社のソフトウェアプラットフ

ォーム分野の先進技術・製品と中興通訊の豊富な通信製品群を

利用し、各種通信製品分野で提携を行う。具体的には3G や

NGN を視野に入れたデータサービス業務の総合サービスプラ

ットフォーム・広帯域マルチメディアサービスソリューショ

ン、.Net 技術と Windows プラットフォームに基づく新世代

OSS/BSS システム、マイクロソフトの技術に基づく電信業務

の経営分析システム、電信ハイエンド応用とコア応用システ

ム、インテリジェント携帯電話と3G携帯電話など。

レッドバック・ネット

ワークス

SMS 製品代理販売 中興通訊がレッドバック社の SMS シリーズユーザーの管理シ

ステムを、中興ブランドを使い全アジアで推進・販売し、また

インストールや顧客サポートを行う。

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アクセンチュア

電信運営サポートシステム 南京中興軟創科技公司がソフトとメンテナンスサービスを提

供し、アクセンチュア社がシステムインテグレーションサービ

スを提供。電信業務サポートシステム分野で提携を行う。

上海華虹 NEC 電子

ウエハー加工と ASIC サー

ビス

華虹 NEC が中興通訊にチップ設計相談サービス全般およびチ

ップ加工サービスを提供し、中興通訊のチップ開発プロジェク

トに優先的に参加する。

3.企業の市場戦略 (1)発展の歴史と成功要因の分析

時期 発展の背景 段階の特徴(企業の競争に

おける主な優位点) 具体的成功戦略

1985-1992 年

創業期

外憂:国内市場は海外大手

通信メーカーの独擅場

内患:資金力や技術開発力

が不足

悪条件下での厳しい創業と

勇気ある革新が求められ、

国内通信産業としての基礎

を固めた時期

1.加工貿易による安定し

た資金繰り

2.自主開発で企業発展の

技術的基礎が固まる

3.新製品が農村電話市場

に出回り、通信産業進出

のきっかけとなる

1.小合資企業として創業し、加工貿易

事業の展開で技術開発資金を調達。

2.政府の協力により、事業を進めなが

ら研究を続けデジタルプログラミン

グ交換機を開発。会社としての足場

と市場を得た。

3.全国の農村電話市場で「農村電話改

革デジタルプログラミング交換機市

場のさきがけ」となり、企業発展の

チャンスをつかむ

1993-1996 年

小走りで「多様

化」と「差別化」

戦略を実施

国有資産の維持・増加とい

う圧力を受ける一方で、華

為などライバル企業の急速

な勃興にも直面する。安定

した技術に基づく製品ライ

ンの拡大と突出した中核製

品が求められた。

1.製品ラインの拡充で収

益源が拡大

2.「差別化」戦略では華為

と異なり、CDMA・P

CS・ビデオシステム等

を重視し、戦略プロセス

と制度で保障する

3.ターゲット市場を農村

電話から国内網・市内電

話に拡大

1.低価格戦略

2.市場拡大ではメディアへの広報は少

なく、業界内のみ。

3.顧客の範囲は狭くて、主に電信業に

限る

4.アフターサービスは、「顧客満足度の

向上」を全業務のトップに掲げる

5.販売はずっと原則直販とし、代理店

は主に端末製品を取り扱う。

6.電力・政府・教育などの分野に積極

的に開拓

1997 年-現在

中興は多元化によるリスク

分散という発展戦略を調整

1.柱となる中核製品を移

動通信と決定付ける

1.交換機の輸出を足がかりに、多元化

した製品の全面輸出を行う。

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国際的総合大

通信企業への

飛躍

し、国内外市場での協調発

展、国際的通信企業となる

ことを目標にする。

2.柔軟な市場戦略を実施

し、海外市場に進出

3.研究開発・販売・ブラン

ド構築・人材蓄積・管理

など、総合的に配置

2.事務所設立により、海外で集中的に

新市場を開拓。

3.発展途上国の通信事業に成熟した技

術の製品・ソリューションを提供し、

当該地域でのカバーエリアを拡大。

先進国では主に現地通信会社と緊密

な協力を展開

4.資本運営を強化し、海外での二度に

わたる上場により国際的な影響力を

拡大

(2)現在実行中の重点市場戦略 中興の今後の市場発展戦略では、具体的な核心的競争製品を対象として、中興は対応する

発展構想をそれぞれ打ち出した。移動通信の分野では CDMA2000 を重点的に発展させ、WCDMA

を補助としており、これも華為とは異なっている。携帯電話クライアント市場では、コア

戦略をチャネル面に集中させ、良好な通信キャリアの直接調達と代理チャネルを確立する

ことによって携帯電話クライアント市場で安定的な地位を占めることとする。ソフトスイ

ッチの分野では、研究開発への投入を拡大、通信キャリア企業との積極的な協力を重視し、

市場のリーディング企業になることを目指す。光通信分野では、国内の産業市場と海外市

場の市場開拓に集中する。上述のいくつかの主要製品と業務の他に、映像通信システム、

インターフェイスシステムなどでの優位性はあまり目立っておらず、注目の度合いも小さ

い。

4.成功戦略の総括と将来の市場発展情勢 中興の成功戦略を総合的に考えると、(1)国有資産の維持・増加圧力のもと、市場の変

化と市場競争における自身の立場に応じてタイムリーに市場戦略を調整し、差別化競争で

市場の波に乗った(2)上場会社の利益回収については、多元化競争から中核製品中心へ

の転換で経営リスクを低減し、移動通信(主に3G)・携帯端末機・交換システム(主にソ

フトスイッチ)・光通信の各分野での競争力を高めた(3)国有企業が受ける政策面・経営

等の優遇政策を十分に活用するとともに、高等教育機関や現地の研究機関との密接な連携

で産・学・研連合体を構築し、技術の現地化という優勢を得た、の3点が挙げられる。現

在中興は国際市場において世界通信設備分野で注目される重要な通信機器メーカーとなっ

た。

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②金蝶(King Dee)

1.企業の基本情報

名称 金蝶(King Dee)国際ソフトウエア集団有限公司

種類 大型上場ハイテク企業

所在地 深圳市深南大道ハイテク技術産業パーク W1-B4

業務範囲 企業情報システムソリューションサプライヤー

主要製品

リスト

ソフトウエア-金蝶 K/3、金蝶 KIS、金蝶 EAS、金蝶 BOS、金蝶 Apusic

業界ソリューション-電子、機械、化工、医薬、小売、不動産

業界を超えたソリューション-スタンダード財務ソリューション、グループ財務ソリュ

ーション、生産製造ソリューション、物流ソリューション、ヒューマンリソースソリュ

ーション、顧客リレーションソリューション、OAなど

サービスとトレーニング-実施サービス、CSP サービス、顧客開発サービス、オーダー

メイドサービス

主力製品の

市場シェア

国内の ERP ソフトの 10%の市場シェアを占める。金蝶 Apusic アプリケーションサーバ

ーミドルウエアの市場シェアは 10~15%

主要取引先 電子、機械、化工、医薬、小売、不動産

Year 2001 2002 2003 Sale Revenue

(100 millions RMB) 1.8 2.9 3.6

2.企業の製品戦略 (1)製品と技術の研究開発の方向 中国企業の情報化市場のニーズに対応して、金蝶は金蝶ソフト、業界ソリューション、ITサービスの 3 大業務モジュールを開発した。 金蝶ソフトは金蝶 K/3、金蝶 KIS、金蝶 EAS、金蝶 BOS、金蝶 Apusic シリーズ製品を

中心としている。 金蝶 K/3 は企業業績管理(BPM)を核心的な設計構想とし、戦略企業の管理の特徴に基

づいて、多層の戦略企業管理アプリケーションフレームを構築している。豊富なツールと

方法を有機的に統合することによって戦略企業管理の全過程で必要な政策決定情報を提供、

戦略実行過程の問題をリアルタイムで発見・解決し、企業が迅速に反応することを助け、

企業の戦略の実現を保障する。金蝶の K/3 システムは 3 層に分けることができる。

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実行レイヤー-企業の日常業務の処理機能を提供 管理レイヤー-全面的なビジネス分析と合理化の機能を提供 トップレイヤー-企業戦略管理と戦略計画の各種のツールと方法を提供

上から下へと戦略計画と分解の過程で、企業戦略の有効でスピーディーな実行を確保す

る。下から上へと、データに基づいて比較、修正を行うことによって、戦略実行過程に存

在する問題を発見し、戦略目標に対してリアルタイムに調整を行い、企業のスピーディー

な反応を確保し、戦略実行を更に有効的にさせる。 金蝶 BOS(ビジネスオペレーティングシステム)は先進的なモデル駆動型アーキテクチャ

ーを使用したソフトウエアプラットフォームで、日ごとに増加するアプリケーションの複

雑さと速い開発、実施における問題を解決しアプリケーションソフト製品の汎用性とユー

ザーの個性化ニーズを有機的に統合させ、企業の異なる発展段階の管理と政策決定の、組

織結合と業務フォローの調整に対するニーズを満足させる。金蝶 BOS の基礎に基づいて、

金蝶 K/3 BOS を開発した。金蝶 K/3 BOS は金蝶サービスの K/3 製品開発におけるビジネス

オペレーティングシステムであり、K/3 システムフレームは金蝶 K/3 BOS の上で、最大の価

値は中国企業の急速な成長のニーズに基づき、顧客業務フローのスピーディーな決定とダ

イナミックな調整をサポートする。同時に金蝶 BOS もスピーディーな二次開発プラットフ

ォームである。K/3 BOS のプラットフォーム化応用に基づいて、業界の特色に完全に基づい

企業業績管理(BPM)

目標管理 業務計画 企 画 計 画

管理 予算管理 業務再編 投資・経費

関係管理

ビジネスインテリジェンス(BI)

目標管理 構造分析 財務分析 ORM 分析 HR 分析

業務運営管理(ERPⅡ)

仕入れ 在庫 製造 販売 顧客

財務 ヒューマンリソース

基礎情報 OA ナレッジマネージメント

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た帳票やフロー、報告書の全体の定義プロセスをスピーディーに完成し、医薬、不動産、

自動車といった異なる業界の特殊なニーズに適応することが可能である。

金蝶業界ソリューションは電子情報、機械製造、プラスチック化工、医薬、食品、小売

チェーン、鉄鋼、金融、自動車、たばこといった分野に関連し、業界の異なる特質向けに、

用友は対応する業界ソリューションを提供している。電子情報業界を例にとる。電子業界

企業のアプリケーション面での各階層のニーズを充分考慮し、金蝶電子業界ソリューショ

ンは先進技術を最大限利用したのみならず、信頼できる製品となっており、顧客にコンサ

ルティング、顧客化開発、実施、オンラインサービス、運用メンテナンス、技術サポート、

定期検査などの情報化の全過程でのニーズをカバーする全体的なソリューションを顧客に

提供している。先進的な企業業績管理構想とツールに融合し、精密化された生産管理シス

テム、4 階層のプランを提供し(主生産計画(MPS)、資材所要量計画(MRP)、ラフカット能

力計画(RCCP)、能力計画(CRP))、戦略層、管理層から執行層にいたる全面的な一体化ソ

リューションを提供している。企業の全面的な計画に基づいて、基礎業務の管理からグル

ープ一体化のアプリケーションなどの各種の異なるレベルのアプリケーションにいたるま

で、絶えず増加を続ける主体的管理のニーズに伴って、ユーザーの情報化管理水準の向上

と企業自身の成長を促進する。

管理ソフト企業の先駆けとして、「顧客の成功をサポートする」という理念の下、顧客向

けにステップに沿ったサービス計画を推進した。現在金蝶公司は顧客向けに管理コンサル

ティング、トレーニングサービス、実施サービス、CSP サービス、オーダーメイドサービス、

顧客化開発といった多くのサービス製品を提供しており、顧客は自由に選択することがで

きる。

(2)開発研究体制

金蝶ソフトウエア製品の研究開発は主に金蝶 K/3 子グループ、金蝶 KIS 子グループ、金

蝶 EAS 子グループがそれぞれソフトウエアの研究開発費用を負担し、ソフトウエアの研究

開発費用は毎年平均で 8-10%となっている。

金蝶が技術研究開発向けに専門に中央研究院を設立、国際的に一流の専門家を集め、

Window 版の財務ソフトを開発した。3 層構造に基づく ERP 製品を開発。ミドルウエアを開

発。同院では北京研究開発センターが現在製作中の DRP 製品を深圳研究開発センターの ERP

製品、CRM 製品、上海研究開発センター製作の KM 製品、完備された製品アプリケーション

システムを形成する。

(3)国外企業との技術協力

IBM 中国有限公司と製品やサービス、ソリューションなどの分野でより緊密な協力を展開

し、各自の優位性を充分発揮し、中国企業の日増しに複雑になる管理情報化のニーズを満

たすために、双方が連合して金蝶管理ソフトと IBM ハードウエアの基礎フレームを統合す

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る情報化管理のツールである「e 蝶宝箱」シリーズ製品を発売する。同シリーズ製品は異な

る企業の独特の業務ニーズを満足させる、完全に整合された管理情報化ソリューションで

あり、ユーザーに金蝶と IBM の両方の優れたサービスを享受させるものである。

騰訊科技(深圳)有限公司(「騰訊公司」と略称)と業務提携合意の達成に成功。双方は

ショートメッセージ付加価値サービス業務で緊密に協力し、金蝶の顧客向けに共同でより

多くの良質なサービスを提供する。

有名な情報化管理コンサルティングサービス企業の AMT 社と業務提携関係を結び、双方

の優位性を発揮して、情報化過程にある国内企業向けに専門のトレーニングやサービスな

どを提供する業務を共同でで行う。

中青旅尚洋電子技術有限公司と連盟・協力合意書を調印し、コンサルティングや技術、

実施、サービスなどの多くの階層で前面的に協力を行い、多くの保険業界の顧客向けによ

り全面的な業界ソリューションを提供する。

3.企業の市場戦略

(1)企業の発展過程とその成功要因の分析

金蝶ソフトウエア(中国)有限公司は 1993 年 8 月 8 日に設立。金蝶の創設者の徐少春氏

が招商局の蛇口社会保険公司と中国系米国籍趙西燕氏と共同で投資して設立した、企業管

理と e-ビジネスアプリケーションのサプライヤーである。20 年以上にわたる発展を経て、

同社は現在 46 社の販売、サービスを主体とする支社・支店組織と 600 店以上の代理商を擁

し、華東、華南、南西、深セン、東北、西北、華北の 7 大地区に広がっており、販売・サ

ービスサポートネットワークは香港、マカオを含む 221 都市と地区をカバーし、2,300 人の

従業員がいる(そのうち技術スタッフが 70%を占めている)。ユーザー数は 10 万以上に達

し、用友と共に「南の金蝶、北の用友」と称されている。金蝶の発展を研究することは、

国内で創業している企業にとって大きな意義がある。

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時期 発展の背景 段階の特徴(企業の競争

による主な優勢) 具体的成功戦略

1991-1997 年

南部市場の重要

財務ソフトサプ

ライヤー

国有企業が財務のコ

ンピュータ化を開始、

大量のビジネス上のニ

ーズが生まれ、財務管

理ソフトは注文製造か

ら汎用型へと進んだ。

こうしたニーズは、従

来の DOS プラットフォ

ームに基づいた大量の

開発財務システムに生

存空間を提供した。

1.製品の鋭い位置付け、

マイクロソフトの市場

影響力を借りて自社を

発展させた。

2.企業ユーザーを発展さ

せ、金蝶のビジネス分

野での影響力を拡大さ

せた。

1.製品では、マイクロソフト WindowsOS の市場

の将来性を見込んで、Windows プラットフォ

ームに基づいた政策決定型の財務ソフトを率

先して発売した。

2.地域では、南部の財務システム市場の見本と

なった。

3.資金面では、政府から数千万元の税還付を研

究開発に投資し、企業の研究開発経費の充足

を保障した。

1997 年-現在

財務ソフトウエ

アから ERP ソフ

トへと転換、よ

り大きな発展空

間を模索

1997 年から e―ビジ

ネスの概念が現れるに

つれ、より多くの企業

がより広汎な視点から

資金の流れに注目する

ようになり、サプライ

チェーンや生産コント

ロールなどのステップ

で全面的に企業の運営

効率を向上させること

を希望しはじめ、企業

は ERP サプライチェー

ンに向けて転換を始め

た。

1.前衛的製品の戦略を形

成し、引き続き技術革

新を行い、競争の差別

化を生み出した。

2.サービスのアウトソー

シング、製品チェーン

の協力と統合を強化。

3.組織フレームは開放的

で、中間層の管理者は

政策決定者との意思疎

通を実現し、企業が情

勢の変化に対応するの

を助けた。

1.1999 年に K/3 システムを開発、金蝶公司が財

務ソフトから ERP ソフトサプライヤーへと転

向し始めたことを表すと同時に、金蝶 BOS の

発表は、中国の現地化管理ソフトがプラット

フォーム化発展の新たな段階に入ったことを

代表している。

2.チャネル面では、39 社の販売・サービスを中

心とする支店組織と 750 社あまりのコンサル

ティング、技術、実施サービス、リセールな

どの協力パートナーがある。金蝶とユーザー

を更に親密に接触させる機会となるだろう。

3.サービスのアウトソーシングでは、製品関連

の付加価値サービスを協力パートナーに委託

して完成させる。製品とサービスの分離が中

国の管理ソフトの発展方向になるだろう。

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(2)現在重点的に実施されている市場戦略

金蝶の現在の製品戦略は「重点集中-核心アプリケーションによるブレイクスルー」で

ある。2004 年は ERP、HT でユーザーの満足度トップとなり、最近も快速ソリューション(R

apid Solution)を発表、中小企業がより短い時間、より低いコストで基本

的な財務、サプライチェーン、生産製造、ヒューマンリソース管理のニーズを実現するこ

とを助け、より多くの中小企業が金蝶の快速ソリューションを通じて、「スピーディーに設

置、スピーディーに実施、スピーディーに応用、スピーディーに効果をあげる」という目

標を実現することができるようにする。

国内のミドルウエアメーカーとは歩みを別にし、製品のタイプや成熟度はそれぞれ違っ

ているので、相互補完性が大きく、このため国内のミドルウエアメーカーと協力すること

は重要な意義がある。また金蝶のミドルウエアは成熟した製品と市場を完全によりどころ

とすることができ、この協力グループの中心となり、国外メーカーが意図する市場の独占

に反撃している。

4.成功戦略の総括と将来の市場発展情勢

金蝶の成功は(1)現有の製品に集中し、リーディング的なソリューションを作成したこ

とにあり、金蝶 BOS の基礎の上に構築したアプリケーションスイートが表す組織化、イン

テグレーション化と個性化は金蝶に差別化競争の基礎を提供した。(2)南方市場に立脚し、

ミドルウエアのミドル層顧客の数量を維持し、国際的大型ブランドや国内の中小企業との

正面からの競争を避けた。(3)サービスをアウトソーシングし、より多くの付加価値サー

ビスを協力パートナーに委託して完成させた。

金蝶のサービスアウトソーシング戦略は SAP の中国戦略と似ているところがある。金蝶

のこうしたやり方の可否は金蝶製品が広い汎用性を持つことができるかどうかによる。金

蝶には財務や ERP、OEM、KM を含む比較的完全なアプリケーションソフトのラインアップが

あり、この他に知的財産権を有するミドルウエア製品の APUSIC があるが、核心的内容とし

ての ERP 製品は買収した CASE(開思)公司によるものである。CASE の製品は J2EE に基づ

いているが、金蝶が従来持っている財務ソフトは.NET を基礎プラットフォームとしており、

この 2つの製品をどのように有効に融合させるかが金蝶が一貫して直面する問題であった。

金蝶は財務管理ソフトメーカーから ERP ソフトメーカーに転向してからまだ時期が浅く、

ERP 製品は複雑性を備えている。こうした状況下で、金蝶は相当厳しい挑戦に直面している。

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③TCL

1.企業の基本情報 名称 TCL 集団有限公司

種類 大型上場企業

所在地 本部:広東省恵州市鵞嶺南路 6号 TCL 工業大厦

組織構成

業務範囲 消耗電子製品の多くの分野におよぶ

主要製品

リスト

マルチメディア製品:DLP デジタルリアプロジェクションテレビ、LCD 液晶テレビ、デ

ジタル高精細プロジェクションテレビ、PDP プラズマテレビ、CRT 高精細テレビ、マルチ

DVD プレーヤー、ホームシアター、モニター、ビデオウオール

通信製品:携帯電話、電話機、ネットワーク交換機、ワイヤレスネットワークカード、

10/100M ネットワークカード、ブロードバンド製品

デジタル製品:パーソナルコンピューター、ビジネス用コンピューター、ノート型パ

ソコン、デジタルカメラ、MP3 プレーヤー、USB フラッシュディスク TCL「海存」

家電製品:テレビ、電気冷蔵庫、洗濯機、エアコン、電気調理器

部品製品:集積回路、チューナー、自動車用電子部品

電気製品:スイッチ、ソケット、照明器具製品、工業用空調設備

その他の製品:音響映像(AV)製品

マルチメディア電子事業本部

情報産業事業本部 TCL集団

総裁:李東生

電子照明事業本部

総務・管理部門

家庭用電器事業本部

海外事業部

通信事業本部

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主要製品の

市場シェア

デスクトップ型パーソナルコンピューターは市場シェア第 4 位。デスクトップ型ビジ

ネス用コンピューター、サーバー、ノート型パソコン、消耗デジタル製品の市場シェア

は低く、家電分野はいずれも市場シェアが高い

主要取引先 主に個人消費者

Year 2001 2002 2003 Sale Revenue

(100 millions RMB) 205 319 393

2.企業の製品戦略 (1)製品、サービス、技術研究開発についての状況

TCL 集団はマルチメディア、通信、家電、情報、電気工業、部品の 6つの産業で、いずれ

も先進的な優勢を獲得しており、関連産業の多元的経営に成功した中国電子情報企業の模

範例といえる。TCL 集団が手がける主要業務は、どの分野も市場で先進的な地位にある。

◇マルチメディア電子業務

この業務群にはカラーテレビ、ディスプレー、AV 製品、情報技術関連製品の研究、開発、

生産、販売が含まれる。カラーテレビの主要製品はアナログ信号カラーテレビ、デジタル

カラーテレビ。AV 製品の主要製品はマルチ DVD プレーヤー(DVD/SVCD/VCD)、ホームシア

ター設備、音響設備。ディスプレーの主要製品は CRT ブラウン管ディスプレー、LCD 液晶

ディスプレー。情報技術関連製品の主要製品は大画面ディスプレーシステム、モニターシ

ステム。

◇家電業務

TCL 集団はカラーテレビ業務で蓄積したブランドの優勢やサプライチェーンの管理能力、

確立した営業販売ルートなどの市場リソースを利用して、冷蔵庫、洗濯機、エアコンとい

った多種類の家電製品へ業務を広げている。TCL 集団は実用性と価格性能比によって細分

化された市場を重視し、価格性能比に優れた家電製品というブランドイメージをうち立て

ることを方針に定める。

◇情報技術業務

TCL 集団は 1982 年に情報産業に進出し、業務はパーソナルコンピューターのほか、ネッ

トワーク設備、システムインテグレーション、教育関連ソフトの開発・販売、遠隔教育、

その他の情報技術製品・サービスにおよぶ。ネットワーク設備では、主にネットワーク製

品、ネットワーク管理ソフト、料金計算システムの研究・開発・生産・販売などを手がけ

る。製品にはイーサネット交換機、ハブ、ネットワークカード、ルーター、ケーブルモデ

ム、MiniDSL、ADSL モデムなどがあり、政府機関、放送業界、中小企業、学校機関、イン

テリジェントコミュニティ、家庭向けに安定して使い勝手がよく、価格性能比に優れたエ

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ンドツーエンド・ネットワークソリューションを提供する。

◇通信業務

TCL 集団の通信業務は、固定電話、移動電話、電池などの製品におよぶ。国内トップレ

ベルの電話機メーカーとして、製品の同質化が引き起こす価格競争と利益の低下を避ける

ため、絶えず製品構造を調整し、製品ラインを収縮し、リソースを利益率が高い電話機製

品に集中させ、ナンバーディスプレーやコードレス電話の技術プラットフォームに立脚し

て、一つのコア技術で多くの機種を開発し、開発コストを抑えている。移動電話分野では

「ファッショナブル、科学技術、文化的」の設計方針をモットーとして、ファッショナブ

ルで魅力的な外観を備え、新しい科学技術を含み、文化的レベルが高く、価格性能比に優

れた個人用移動端末の提供に向けて努力している。

◇電気工業業務

TCL 集団は高級スイッチ、ソケットなどの電気工業製品の研究、開発、生産、販売を行

っている。主な製品は電気のスイッチとソケット、小型遮断機、ブレーカー、総合配線、

インテリジェントロック。このほか省エネ灯、バラスト、関連の照明器具製品の開発も行

っている。

◇部品業務

この業務にはパッケージ材料の生産と集積回路の設計が含まれる。主に TCL 集団のカラ

ーテレビ、ビデオ製品、固定・移動電話、パーソナルコンピューター向けのコア製品を生

産し、部品面でのバックアップを提供する。

(2)研究開発体制

20 数年にわたる努力を経て、TCL 集団は健全な体制、弾力性のあるメカニズム、強大な

機能を備えた一連の科学技術研究開発・技術創造システムを構築した。1998 年、TCL 集団

は広東 TCL 数字信息(デジタル情報)技術研究開発センターを設立。同センターは教授、

高級エンジニア、留学経験のある博士号取得者を主要メンバーとする 1 千人余りの技術人

員と時価 1億 5 千万元相当の先進的器械、設備、ツールソフトなど 2500 台を擁し、完備し

た中間テストと環境テストの環境を備え、国の技術革新事業を担当する能力を有する。同

センターの下部組織として通信製品研究開発センター、視聴覚製品研究開発センター、情

報製品研究開発センター、家電製品研究開発センター、集積回路研究開発センターが設立

された。2000 年には、同センターは国の関連部門・委員会によって「国家級企業技術中心」

に認定された。

TCL 集団技術センターは数年間の発展期間を経て、比較的完備した管理メカニズムと運営

方法をうち立て、主要事業の工程を制定し、複合式 3 階層の研究開発機関を形成した。う

ち低層部にあたる中間試験部と生産技術部は新製品の試作と大量生産を請け負う。中間層

にあたる研究開発センターは 1~3年先の市場に対応した製品の研究開発を請け負う。上層

部にあたる中央研究部は集団の技術発展計画と年度ごとの研究開発計画を制定し、各種事

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業の申請報告を請け負うほか、集団の専利(特許・実用新案・意匠)と製品の標準管理と

ポストドクター・ワークステーションの業務管理を請け負い、国内外での技術交流事業を

展開する。

技術研究開発基地の建設を強化すると同時に、事業の経営管理推進制度や技術の株式加

入奨励制度といった、健全、高効率、実務型の科学研究開発メカニズムを段階的にうち立

て、多くの科学研究人員の技術創造に向けた主体性と積極性を十分に発揮させている。高

効率・実務型の科学研究開発制度をうち立てたことにより、TCL 集団の新製品発表ペースは

国内同業者の中で常にトップを維持することができ、また高い技術水準に到達することが

できた。

(3)海外企業との技術協力

2003 年 10 月、インテル社と協力了解覚書に調印し、「インテル-TCL3C 連合実験室」が設

立された。覚書の合意に基づき、同実験室はコンピューター、消耗電子、通信の 3 分野に

おける開発に取り組む。コンピューター分野では、コンピューターと家電の融合したコン

ピュータープラットフォームに取り組み、中国の消費者向けに新型の実用的な情報製品を

設計、開発する。消耗電子分野では、次世代のブロードバンドサービスに対応する多機能

デジタルセットトップボックスを研究、開発する。通信分野では、次世代のハイエンド携

帯電話の設計、開発に取り組む。

2004 年 8 月、フランスのトムソン社と TCL-トムソン・エレクトロニクス社(TTE)を合

弁設立した。TTE は TCL が株式を保有する世界最大のカラーテレビメーカーであり、その設

立は世界のカラーテレビ業界地図が書き換えられたことを示している。

2004 年 4 月、フランスのアルカテル社と了解覚書に調印し、携帯電話と関連製品・サー

ビスの研究開発、生産、販売を行う合弁会社・TCL アルカテル移動電話(TAMP)を共同

設立した。現在 TAMP は正式に業務を開始している。 3.企業の市場戦略

(1)企業の発展過程と成功要因の分析

TCL 集団股份有限公司は 1981 年に創業した。本部は中国南部の広東省恵州市にあり、深

センと香港の両証券取引所に上場している(深センは「TCL 集団 000100」、香港は「TCL 国

際 1070」)。創業から 23 年間、TCL 集団の発展の歩みは急速かつ安定的で力強く、特に 1990

年代から 12 年間続けて年平均 42.65%の成長率を記録し、同集団は中国で最も急速に成長

した工業メーカーの一つになった。TCL の成功の源は、妥当な戦略調整を絶えず行ったこと

にある。先を見通す戦略的視野と優れた市場操作能力によって、TCL は数度にわたる産業再

編と戦略的調整を成功させた。

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時期 発展の背景 段階的特徴 具体的な成功戦略

1981~1990 年

初期の蓄積期

国内通信分野の発展は

遅かった

1.電話機により発展資金

を大量に蓄積

2.TCL ブランドの創造

3.基本的技術力の蓄積

1.国内初の高品質按鍵式電話機を開発。広東省の省級鑑定に

合格し、国家通信網への参入を認められる

2.国内通信市場を独占したことで、TCL ブランドの育成は自然な

発展状態に任された

1990~1996 年

ブランド中心の

市場構想とネッ

トワーク主体の

経営理念

カラーテレビが出た 90

年代初め、中国のテレビ

産業は未発達だったが、

80 年代の技術導入・発展

を経た国内技術力は高か

った。市場に構造的なす

き間ニーズがあり輸入製

品は高価だったため、市

場展望が開けていた

1.計画的なブランド戦略、

全方位的な大衆的ブラ

ンドイメージの形成

2.ネットワーク主体の経営

理念

3.製品ラインの延長。電話

機の多元的発展に向け

た戦略配置を実現

1.製品:「王牌」ブランドのカラーテレビが企業の主な利益源とな

ると同時に、製品ラインを大画面カラーテレビなどの視聴覚製

品や電気工業製品などの分野に拡大した

2.中国の消費者心理を十分にくみ取り、「低価格高品質」を実現

3.市場拡大:広告(有名人広告)、販促活動、新聞発表会、寄贈

など多様な手段によってカラーテレビを広めた。各種媒体を通

じて立体的販売を実施

4.ルート構築:国内大省市で販売支社や経営部を相次ぎ設立

し、販売チームの発足を重視したことが、カラーテレビ市場の

急速な占有に大きく作用した

1996~2003 年

資 産 再 編 、 優

勢リソース集中

の戦略的調整

97 年、家電製品市場の

競争が激化し、価格競争

が絶えず勃発した。家電

市場は技術の完成度が高

く、他メーカーが多彩な競

争手段を取ったため、市

場とブランドだけに頼る

TCL の戦略は、企業の急

速な発展を支えられなくな

っていた。内部リソースの

統合とコア競争力となる優

位点の発掘が求められた

1.ブランド価値、市場ネット

ワーク、資本運営の統

合と多元化戦略の採用

2.「アポロ計画」と株式制

度改革の同時進行、リソ

ースの再編

3.集団業務構造の再編、6

大業務群の設置、将来

の発展枠組みの基本的

確定

4.ブランドの総合的イメー

ジアップ

5.海外市場発展計画の制

6.「ブランド統合経営」によ

る多ブランド経営戦略の

実現

1.価格:低価格戦略、コスト主導

2.製品:製品ラインを絶えず拡大し、特に通信分野が発展した。

移動端末製品の発展でも効果を上げた

3.研究開発:日本などのハイエンド企業との競争でローエンド製

品イメージの払拭を目指したため、製品の研究開発、技術の

グレードアップ、従来家電製品の技術力アップが絶えず要求

されるようになった

4.完全なブランド統合戦略:国内外で統一的・集中的にイメージ

を発信し、ブランド競争に勝利した

5.市場拡大:広告投資の増加、大都市での全ライン販促活動の

展開。ブランド影響力の急速な全国拡大

6.ルート構築:自前の営業販売システム、代理販売業者、大型販

売場の形成を重視。また蘇寧、大中、国美などの大型流通チ

ェーン店との良好な協力関係構築による、ルートの安定と付加

価値の保証を重視

7.サービス:健全な顧客サービス管理システムを構築。移動端末

の「真心の 8S 金鉆サービス」、コンピューターの「星光使者サ

ービス」など

2003 年~現在

「竜虎計画」

飽和に向かう国内市場

ニーズ、激化する国内外

家 電 メ ー カ ー 間 競 争 、

TCL の長年のローエンド

製品メーカーとのイメージ

に対して、飛躍式発展新

計画を提起した

1.「竜虎計画」で3~5年後

の発展目標を策定

2.世界の一体化の拡張に

ともない、中国現地化多

国籍経営からグローバ

ル多国籍経営に移行

1.「竜虎計画」:3~5 年をめどに、マルチメディア電子、移動端末

産業で世界ベスト 5 入りし(竜計画)、家電、情報、電気工業、

文化産業で国内一流企業の仲間入りする(虎計画)ことを目指

2.多ブランド世界戦略

3.各事業部が製品の特徴に基づいて多様なルートモデルを構築

した。DVD は訪問販売を導入し、デジタル本部は主に販売ル

ート代理の育成を行う

79

Page 89: 中国経済情報基礎概要調査報告書 - 競輪とオートレースの補助事業 · 2007. 9. 26. · 第1章 中国経済の動向 Ⅰ.中国一般情勢 2004 年の胡-温体制動向

(2)現在重点的に実施している市場戦略

デジタルテレビを基礎として 3C 融合へのグレードアップを目指すという判断に基づき、

また合理的な産業配置と充実した技術・製品の蓄積をよりどころとして、TCL のマルチメデ

ィア電子事業本部は 2004 年の製品戦略と市場目標において、主に 5 つの方針を採用した。

1)積極的かつ安定した製品・市場戦略を採り、市場シェアを一層拡大し、国内市場で

の指導的地位を強固にし、先進的優勢をうち立てる。

2)デジタルテレビを基礎とする 3C 融合を大いに推進しグレードアップし、次世代のデ

ジタルテレビを打ち出し、デジタル高精細・双方向の消費対象を真に実現する。

3)全方位的なプロジェクションテレビ戦略を実施し、DLP デジタルリアプロジェクショ

ンテレビ、超薄型 DLP デジタルリアプロジェクションテレビ、100P 高精細デジタル

プロジェクションテレビなどの主力製品の開発・普及を大いに推進し、プロジェク

ションテレビ産業の全面的なグレードアップを実現するとともに、国内市場でのシ

ェアをトップに引き上げる。

4)高品質液晶テレビ戦略を堅持し、整った産業サプライチェーンを積極的に構築し、

完成品の生産で世界ベスト 3 入りすることを目標とする。

5)製品戦略を結びつけ、「高品質、高技術、国際化」のブランドイメージ確立に向けた

系統的活動を推進し、TCL カラーテレビが国際ブランドとなるための着実な基礎を

うち立てる。

TCL のエアコンは品質・コストでの先進性を基礎として、競争に主体的に参加して「挑

戦者」になった。内部に対しては「1 点 2 面 33 制」を実施。「1 点」とは、品質を突破口と

して、高品質との評価を確立すること。「2 面」とは、業務ユニットごとに行うコスト計算

と、業務ユニットごとの給与の業績との連動。「33 制」とは、顧客面での発展、コスト面で

の発展、業績面での発展を指す。 4.成功戦略の総括と将来の市場発展情勢

TCL の中国国内市場における主な成功要因は、

(1)市場の構造的なすき間ニーズをとらえ、迅速に市場に切り込んだこと。

(2)消費者に直接対面するという家電市場の特徴をとらえ、市場と販売ルートの構築に工

夫を凝らし、製品が迅速に市場を確保するようにしたこと。

(3)コア製品を確立した後、企業の関連産業多元化戦略を実施し、経営リスクを分散した

同時に企業の規模も大きくしたこと。

(4)企業のブランドイメージの保護を常に重視したこと。

(5)逆行型の科学技術創造モデルを率先して実践・運営し、差異化された消費ニーズから

出発して、応用技術を開発し、産業化によって科学技術成果を促進し、基礎技術の水準

を絶えず向上させたこと。

80

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の 5 点。逆行型科学技術創造モデルとは、市場にすでに製品が出回っていること、特に海

外企業の製品が出回っていることを出発点とし、国内外の他企業が技術的優位にあるとの

基礎を踏まえた上で、さらなる創造を追求し、特に国内消費者のニーズの特徴に対応した

突破口を模索し、消費者がより満足する製品、すなわち「最良の製品」を研究、2010 年を

めどに売上規模 1500 億を達成し、世界企業ベスト 500 入りすることを目標に掲げている。

81

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④北大方正(Founder) 1.企業の基本情報

名称 方正集団

種類 国有科学技術企業

所在地 北京市海淀区成府路 298 号方正大厦

組織構成

業務範囲 ソフトウエア製品、ビジネス用品、消耗品・関連機器、ネットワーク製品、新素材、医薬品・

医療品などの分野

主要製品

リスト

ソフトウエア製品:印刷関連業務、電子出版、方正 Apabi 関連製品、地理情報システム、テ

レビ・ラジオ局向け放送関連業務、情報セキュリティ関連製品、電子政府、方正字庫、海外向

けソフトウエア製品、その他のソフトウエア

ビジネス用品:ビジネス用コンピューター、サーバー、メモリ製品、ワークステーション、

方正カラーディスプレー、方正ターミナル、方正プロジェクター、教育器材、方通情報セキュ

リティ製品

消耗品・関連機器:家庭用コンピューター、ノート型パソコン、スキャナー、デジタルカメ

ラ、プリンター、モバイルメモリ、オールインワンプリンター、MP3

産業持ち株グループ

方正集団

投資持ち株グループ

金融持ち株グループ

ソフト持ち株グループ

方正科技

ST 合成

蘇鋼集団

地方商業銀行

方正証券

武漢金融機関

方正研究院

方正数碼

方正控股

日本方正

ゲーム関連業務

方正希土

方正寛帯

82

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ネットワーク製品:ルータ、スイッチ、ネットワーク端末、モデム、メディアコンバーター、

方正ネットワークケーブル

新素材:塩化希土、炭酸希土、酸化希土、水酸化セリウム、希土金属

主力製品の

市場シェア

レーザー写植機の市場シェアは 80%以上

主要取引先 教育関係、企業、事業機関の事務部門

Year 2001 2002 2003 Sale Revenue

(100 millions RMB) 105 145 200

2.企業の製品戦略 (1)製品、サービス、技術研究開発についての状況 方正集団は文字情報の処理、デジタル媒体、金融数学・情報システム、通信技術、希土、

新素材、地理情報、インターネット技術・ネットワークセキュリティ、パーソナルコンピ

ューター(PC)、ディスプレー技術などの各分野における研究開発で、一貫して国内外の先

端レベルにあり、多くの分野で競争力を備えた一定規模の産業グループを形成している。

情報通信(IT)ソフトウエア関連業務では、方正は独自に開発した 3 つのコア技術を擁

する。(1)レーザー写真植字技術:中国語の写真植字分野では、世界の中国語市場を独占。

日本語写植システムも日本市場に進出した。(2)デジタル版権保護技術:これに基づく電

子書籍システム「方正 EBook」はすでに利益を上げており、今後の発展の余地は非常に大き

い。(3)ネットワークセキュリティ技術:これまでに国務院、各部・委員会、軍隊、公安

システムなどで応用されている。――このほか、方正連宇公司の LAS-CDMA 技術も、将来の

3G 標準化競争の重点である。方正の IT ソフトウエア技術に基づく主な製品は次の通り。

製品グループ・シリーズ 内 容

印刷業務関連製品グループ 印刷工程管理、プレ印刷製品管理、アウトプット製品シリーズ、印刷設

備シリーズ

電子出版関連製品グループ 新聞業務関連のシステムインテグレーション、商業印刷システム、印刷

管理シリーズ製品、技術サービス業務

方正 Apabi 製品グループ デジタル図書館、ネットワーク出版(EBook)、電子政府、情報セキュリ

ティ保障

放送業務関連製品グループ デジタル放送・制御システム、デジタル放送コンテンツ制作、テレビ・

ラジオ向け情報管理プラットフォーム、メディア資産管理システム

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方正情報関連製品グループ スキャナー、デジタルカメラ、プリンター、モバイルメモリ、オール

インワンプリンター、MP3

電子政府、行政事務シリーズ 電子公文書伝送関連製品、電子公文書公布関連製品

電子報告書応用関連製品、安全認証と文書保護

方正字庫ユーザー デザイナー・個人ユーザー、商業印刷、OEM メーカー、民族言語

IT ハードウエア関連業務では、方正は PC の製造規模を拡大すると同時に、川上の中核

的製品に進出している。(1)PC を中心としたインテグレーションと端末製品:これらの

製品は利益率は低いが販売量が多く、キャッシュフローをもたらす。現在、アジア最大の

IT 設備製造基地を建設中で、年産 600 万台、生産額 250 億元を見込んでいる。(2)プリ

ント基板:珠海多層線路板廠を買収し、今後 2~3 年をめどに売上を 30 億元とする見通し。

プリント基板は販売量は少ないが利益率は約 15%と高い。(3)シリコンゲルマニウムチ

ップ:2005 年に生産を開始し、売上 2 億ドルを見込む。シリコンゲルマニウムチップは技

術レベルが高いため、利益率は約 50%に達する。――金融、製薬、鉄鋼などの伝統的産業

では、方正は 2008 年以降まで事業プランを立てている。方正のハードウエア技術に基づく

主な製品は次の通り。

製品の種類 製品シリーズ

家庭用コンピューター

超値液晶電脳シリーズ、卓越伝奇シリーズ、卓越影音王シリーズ、卓越新鋭

シリーズ

飛越 6000A シリーズ、方正 PC 伴侶

デジタルカメラ 方正 DCSmartA3 デジタルカメラ

プリンター モノクロレーザープリンターシリーズ、カラーレーザープリンターシリー

ズ、カラーインクジェットプリンターシリーズ

EBOOK EBOOK312

ノートパソコン 頤和ノートパソコン、佳和ノートパソコン

ネットワーク端末 NT300 シリーズ、NT400 シリーズ

新素材の分野では、方正には北京大学が開発したミクロ乳化技術を利用して研究開発し

た「方拓(NANO)」ブランドの燃料添加剤がある。これは微量加えることで動力を大幅

に増加させ、燃費を著しく低下させ、エンジンの性能を目立って向上させ、排気ガス中の

有害物質の放出を 2 倍ほど減少させることのできる、全く新しいコンセプトを備えた第 4世代の環境保護型燃料添加剤で、国家環境保護総局自動車排汚監控中心、北京市環境保護

監測中心、北京市科学技術委員会が実施した測定・鑑定に相次いで合格した。

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(2)研究開発体制 方正集団は中国初の技術創造モデル企業 6 社の一つとして、電子出版新技術国家工程研

究中心、文字信息処理技術国家重点実験室、希土材料化学・応用国家重点実験室の協力を

あおいで、自社の企業技術中心を設立した。企業技術中心には、方正技術研究院、方正科

技研発中心、方正信息技術研究所、方正信息産品研究所、方正希土科技研究所、方正連宇

通信技術研究所などがある。

部門 所在地 設立時期 主な職能と研究内容

方正技術

研究院 北京 1995 年

方正集団の高級技術コンサルティング・研究開発機関とし

て、高い総合力と業界の手厚い支援を背景に、これまでに「方

正奥思」「方正博思」「方正博思政務資源庫」「方正博通」「方正

呈思」「方正迪思」「方正鋭思」「方正智思」「方正政通」などの

独自の知的財産権を備える優れた製品を生みだし、メディアや

政府機関などに幅広く応用されている。世界最大の中国語電子

出版システムの研究開発基地および世界で最も主要な多言語

電子出版システムの開発研究基地の一つに成長した。

主な研究開発分野は、新聞業務関連情報、デジタルメディア、

インターネット技術、クロスメディア出版、情報セキュリティ

保護技術、ネットワーク出版、地理情報システム

連宇通信 北京 1999 年

中国人科学者が発明した新規格「LAS-CDMA」(Large Area

Synchronized CDMA)技術をバックに、ベンチャー投資から発

展して産業資本との連携を実現し、世界の移動通信分野で輝き

を放っている

方正希土科技

研究院 北京 70 年代

主な研究分野は(1)抽出システムソフトウエア設計と工業

オートメーション化の研究(2)希土新素材の研究。

(3)海外企業との技術協力 世界最大の軌道交通向け自動料金収受システム「AFC」(Automatic Fare Collection)の提

供メーカーである日本のオムロン株式会社と、同システムを中核とする長期の協力関係を

構築している。方正集団の優れたコンピューターソフトウエア・システムインテグレーシ

ョン能力とオムロンの自動制御技術、特に AFC システムにおける強大な研究開発能力と豊

富なシステム建設の経験を生かして、共同で中国の AFCシステム市場を開拓するとともに、

こうした協力関係を日本を含むその他の市場へと徐々に広げていく。

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3.企業の市場戦略

(1)企業の発展過程と成功要因の分析

北大方正集団は中国の改革開放以後に勃興した有名ハイテク企業であり、1986 年に北京

大学の投資により設立された。上海、深セン、マレーシア、香港の各証券取引所で株式上

場している企業 6 社のほか、国内外に 20 数社の独資・合資企業を擁する。従業員は約 1 万

5 千人。中国初の技術創造モデル企業の 6 社の一つであり、国有大型企業グループ 500 グル

ープの一つである。創造の継続が、方正の発展の原動力である。設立以来、方正集団は一

貫して「科学技術と文明の創造」を理念・目的として受け継ぎ、「方方正正做人、実実在

在做事」(誠実な社風と着実な事業)の精神を堅持し、トップレベルの技術と足下の市場

とを結びつけ、企業・大学・研究機関が一体となった特色ある道を歩んできた。方正はメ

ディア・IT、電子書籍出版、デジタル放送などの分野で、一連の先端技術と製品を開発し、

中国情報産業の継続的な進歩を推進している。方正の発展過程の考察を通じて、その成功

の要因をはっきりと見いだすことができる。

86

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時期 発展の背景 段階の特徴(企業の競争

における主な優位点) 具体的成功戦略

1986~2001 年

単 一 技 術 が 独

占 的 に 発 展 し

た時期

国 の 支 持 の 下

で、王選教授のレ

ーザー写真植字技

術が国内の漢字植

字市場の空白を埋

め、産業化の進展

を促した

1.レーザー写植技術が市

場で独占的地位を獲得

した

2.北京大学の技術研究開

発力に依存

3.適切な市場の拡大

4.独自の知的財産権を完

全に備えた企業が、業界

における地位を固めた

5.国の企業技術センター

として、政府資金援助

1.方正集団の前身である北大新技術公司はレーザー写植シ

ステムの市場運営に乗りだし、技術的優位をバックに、こ

の分野で多くの海外企業を迅速にうち破り、1990 年代に

は市場でほぼ独占的な地位を確立した

2.「技工貿モデル」の発展方針を堅持し、技術を第一

義に置き、トップレベル技術を通じて広範な市場

を開拓し、より多くの技術の応用分野を模索した

3.方正集団で 5 つ星を獲得した技術研究機関・チー

ムには、国家重点実験室、国家工程技術中心、博

士・碩士(修士)研究生点、中国科学院院士、工

程院院士などがあり、企業集団を形成した

2001~2003 年

専 門 分 野 の 基

礎 の 上 に 多 元

的 な 発 展 を 遂

げた時期

レーザー写植と

いうコア技術によ

って市場でほぼ独

占的な地位を獲得

した後、方正集団

には長期間、新た

な飛躍的進展がな

かった。市場の発

展空間には限界が

あるため、1990 年

代末には発展が行

き詰まりをみせた

1.自主的研究開発力

2.伝統的産業が収益の安

定した基幹的産業に発

3.各子会社の専門分野を

背景にした、方正集団の

多様化戦略

4.国有・民営の運営メカニ

ズムが、企業の結集力を

増強し、従業員の積極性

を十分に発揮させた

5.安定かつ着実な企業イ

メージ活用

1.いくつかの産業では、産業発展に向けた一連のコ

ア技術を選び、それ以外の産業では、コア技術は

ないが、管理・販売などで企業のコア競争力を創

出。こうして進出した全産業で専門分野を確立し、

グループ全体が多元的になった。

2.買収・合弁などを通じて金融や鉄鋼などの産業へ

迅速に手を広げた。

3.民間のメカニズムを基礎に、企業と大学が同時発

展する良好なメカニズムをうち立てた

4.市場の拡大では、記者会見や販売促進活動などの

方法を通じて、企業イメージ・文化を宣伝した

2004 年~現在

産 業 の 統 合 と

国 際 化 計 画 の

時期

国内 IT 市場の競

争が激化し、方正

はその中で常に二

番手企業の位置に

あった。多元的な

発展戦略が企業リ

ソースの過度の分

散を招き、企業の

発展にマイナスに

なった

1.産業の統合では 2 つの

「明確化」を際だたせ

た。管理システムの明確

化と産業構造の明確化

の 2 点

2.方正集団ソフトウエア

業務のグローバル化計

画「Founder Inside」

1.管理では「制御権は上に、経営権は下に」との原

則や「財務・投資管理・人事・ブランド管理・内

部コントロールの一元化」を通じ、高効率で制御

可能な集中的一元管理システムを実現

2.ソフトを国際化の先兵と見なし、それ以外の技術

的優位にない業務(PC など)は国際化計画のリス

トに入れていない。ソフト・グローバル化戦略の

実施は漸進的な戦略だ。産業化の特徴を最もよく

備え、市場進出の可能性が最も高い「RIP」を先兵

として、国際市場のニーズを理解し、その上で他

製品を順次国際市場に投入していく

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(2)現在重点的に実施している市場戦略

2004 年は方正集団にとって業務と資産の統合年だ。全体プランでは、国内を出て、国際

資本市場に参入し、海外で上場する企業群を構築することを目指す。日本方正、方正連宇、

珠海多層は、方正集団が最も力を入れている 3 事業だ。2004 年 8 月、方正集団は華欧国際

証券有限責任公司および台湾の金鼎企業集団とそれぞれ「財務顧問契約」を締結した。こ

れは方正が海外の投資銀行と戦略的協力合意関係を構築したことを示している。このこと

は方正集団が傘下の子会社を海外資本市場で上場させ資金調達するのにプラスになると同

時に、方正集団と海外金融機関との関係が戦略的協力という新たな段階に発展したことを

示している。海外投資銀行との戦略的協力を通じて、方正集団の巨大で複雑な海外上場プ

ランが徐々に明らかになってきた。海外戦略の顧問は「われわれは一連の良質な資産を徐々

に着実に国際資本市場に投入することを構想し、計画している。現在、海外上場の可能性

が最も高いのは日本方正と LAS-CDMA 事業だ。 4.成功戦略の総括と将来の市場発展情勢 方正の主な成功要因は(1)新技術により全く新しい市場を創出したこと。方正集団は一

貫して「技工貿モデル」の発展方針を堅持し、技術を第一義に置き、先端技術を通じて広

範な市場を開拓し、より多くの技術の応用分野を模索した。(2)一貫して大学と密接な協

力関係を維持し、絶えざる科学研究力の確保を保証した。しかし方正の市場における運営

力はあまり理想的ではなかった。

方正の将来の発展方向は、デジタルコンテンツを中核として、収集・加工・放送・保存・

再利用の技術と製品、および関連サービスを開発し、ユーザーがいつでもどこでも身近に

ある情報設備を利用して、必要なデジタルコンテンツを簡単に入手できるようにすること

である。具体には主に次の 4 点。

1)Apabi DRM 技術を基礎として、新しい応用プランを打ち出す。

2)デジタル資産管理のソフトウエアプラットフォームを打ち出す。方正はデジタル資

産管理ソフトウエアプラットフォームを打ち出して、これらコンテンツのよりよい

保存、管理、利用に向けて、有利な環境を創出していく。

3)デジタル印刷システムと関連サービスを打ち出す。社会の発展につれて少部数のス

ピード印刷への需要がますます高まり、方正はいくつかのデジタル印刷製品を打ち

出し、製品ラインをより完成させていく。

4)ブロードバンド無線通信分野に進出する。方正は LAS-CDMA 技術を選択して無線通

信分野に進出する。LAS-CDMA 技術は優位点が明確で、かつ知的財産権の大部分が中

国に属している。

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⑤シスコシステムズ 1.企業の基本情報

名称 Cisco Systems, Inc

種類 大型外資企業(中国に全額出資会社および合弁会社を設立)

所在地 北京市東城区長安街1号 東方広場東方経貿城東一弁公楼19・20・21階

業務範囲 インターネット設備世界トップメーカー。ネットワークハードウェア・インターネット

オペレーションシステムソフト(IOS)・ネットワークの設計や実施など専門技術サポー

トが中心。また提携先との協力でネットワーク保守・最適化などの技術サポートや専門ト

レーニングサービスを行う

主要製品

リスト

アクセスサーバー・CiscoWorks2000・端末サーバー・コンテンツのネットワーク設備

とソフト・カスタマーケアソフト

クライアント設備・ゲートウェイとコントローラー・ハブ・コネクタ・IOS・双方向ネ

ットワーク管理ソフト・インターフェイスカード・モジュール・モデム・ネットワーク管

理設備・ネットワーク管理ソフト・光ファイバープラットフォーム・IP 電話システム・

ルーター・セキュリティモジュール

交換機・VPN 設備・ビデオ・ビデオネットワークソフト・無線製品・ネットワークメ

モリー

主力製品の

市場シェア

ルーターと交換機をはじめとするデータ通信製品。華為の挑戦を受け、中国でのルータ

ー・交換機のシェアは急速に低下、80%以上だったのが現在 60‐40%に

ネットワークセキュリティ管理ソフトのシェアは 5~6%

中国事業が世界全事業に占める割合は 5~8%

主要取引先 電信・電力・郵便・金融・教育・税関など

Year 2002 FYear* 2003 F Y 2004 (E) F Y Global Sale Revenue

(100 millions USD) 189 189 220

*シスコ社会計年は 7 月―8 月 2.企業の製品戦略 (1)製品および技術の研究開発方針

シスコはIPネットワーク創建者として同事業では絶対的リーダーである。今後のネッ

トワークの主流が IP となることは確かで、シスコはその主導者としての地位を守る戦略だ。

イーサネットスイッチやルーターなど柱となる既存製品をバックに、データ音声通信・メ

モリー・無線・セキュリティの四大産業に注力する他、光通信ネットワークやビデオシス

テムなどIPネットワークの全体ソリューション体系を構成する各関連製品ラインアップ

を整える。

89

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<シスコの製品構成>

<シスコの戦略>

(2)

IP ネットワーク

イーサネッ

ト・スイッチ

ルータ

メモリー

セキュリティ 無線

音声 電信市場 中小企業・

家庭市場

ブランド戦略の優位性

事業の細分化

ニーズの細分化

販売ルートの細分化

製品の細分化

トップ渉外の優位性

販売競争の優位性

製品技術の優位性

技術標準での先行

市場の細分化

人的資源の優位性

企業管理の優位性

資本運営の優位性

市場での絶対的リード

90

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(2)研究開発体制 シスコの中国における各事業を統括しているのは、シスコシステムズ(中国)ネットワー

ク技術有限公司である。北京のネットワーク技術実験室では国内のネットワーク技術機関

向けに、ネットワークソリューションの性能テスト・ATMブロードバンドスイッチの性

能テスト・ギガルーター光ファイバー伝送やバーチャルLANの性能評価テストなどを提

供している。シスコの世界三大実験室の一つであり、アジアでは最大級のネットワーク実

験室である。 (3)海外企業との技術提携 2000 年 9 月 カナダのデジタル映像技術会社ピクストリームを 3 億 6900 万ドルで買収

2001 年 7 月 VPNネットワーク技術会社のアレグロ・システムズを 1 億 8100 万ドルで買収

2002 年 5 月 ドイツのソフト会社ハマーヘッドを 1 億 7300 万ドルで買収

2002 年 5 月 マサチューセッツ州のイーサネット転換ソリューション提供会社ナバロを 8500 万ドルで

買収

2002 年 8 月 高性能分布式ネットワークサービスと高拡張性ルーターソフト技術の開発会社 AYR ネッ

トワークスを 1 億 1300 万ドルで買収合併

2002 年 8 月 インテリジェントメモリースイッチ開発会社のアンディアモ・システムを買収

2002 年 11 月 ネットワークセキュリティソフト開発会社サイオニックを 1200 万ドルで買収

2003 年 3 月 インターネット電話ソフト製作会社シグナルワークスを 1350 万ドルで買収

2003 年 3 月 ホームネットワーク市場に強みを持つリンクシス社を 5 億ドルで買収

2004 年 4 月 エリクソンと戦略的連盟協議を締結。共同で電信会社向けに、既存ネットワーク上での新

業務・サービスの速やかな提供を可能にする多業務ネットワーク総合ソリューションを設

計・集成・提供し、伝統的な電信業務からIPネットワークへの転換を加速する。電信ネ

ットワークの発展状況に合わせた革新である

シスコは中国での業務推進が主にルートの開拓に頼り、協力パートナー関係を結ぶとき

に非常に特色ある。それは総代理体系、認証協力パートナー体系、戦略的提携パートナー

体系と育成協力パートナー体系の四種類である。 3.企業の市場戦略 (1)発展の歴史と成功要因の分析 シスコは世界のネットワーク・アプリケーションのリーダーとして、中国独自の文化を

絶えず取り入れて販売・技術サポートチームを発展・強化し、販売パートナー・業界団体・

コミュニティ・政府などとの連携を深めることで中国事業は着実な発展を続け、現在では

アジア太平洋地域事業の中核となっている。中国での二十年にわたる成長の歴史は、安定

成長期と戦略調整期の二段階に分けられる。

91

Page 101: 中国経済情報基礎概要調査報告書 - 競輪とオートレースの補助事業 · 2007. 9. 26. · 第1章 中国経済の動向 Ⅰ.中国一般情勢 2004 年の胡-温体制動向

時期 発展の背景 段階の特徴(企業の競争

における主な優位点) 具体的成功戦略

1994‐2001 年

安定成長期

シスコは世界のネット

ワーク・アプリケーショ

ン業界のリーダーとし

て、タイムリーに中国市

場に進出した

1.技術標準での先行。シェアの

絶対的優位性を利用し技術

標準を制定、市場独占に向

け堅固な基礎を固める

2.上層部攻略。中国政府を重視

し市場でのトップセールス

を行うことで、中国進出時

の政策面での障壁を取り除

くとともに、後から参入す

る他社に「政策技術障壁」

を設ける効果もある

3.販売面での優位性も成功の

鍵である。販売ルートを構

築する際に、サービストレ

ーニングや代理販売を認証

制にすることで、代理店の

技術・サービス面での競争

力を向上させた

1.IPデータネットワークでは、シス

コの技術標準が業界スタンダード

となっている

2.価格戦略は市場の絶対的リーダー

として、「高価格・高性能・ハイエ

ンド路線+重点法人顧客への機動

的価格設定」を採用。高価格戦略は

製品に対するユーザーの信頼度を

示すものだが、中国企業との競争で

は「低価格戦略」を重視せざるを得

ない

3.市場拡大は上層路線を重視。ブラン

ド力はシスコの市場戦略の重要コ

ンセプトである

4.サービス戦略は「トレーニング+認

証」

5.販売面での特徴は認証制による各

代理店の体系付けである

2001 年‐現在

戦略調整

開放と融合の新た

な時期に

市場トップシェアのル

ーターと交換機の需要は

引き続き増加している

が、その成長余地は限ら

れている。事業革新を強

調するのは、ルーター市

場の不利な局面を転換す

るためである。また中国

市場を米・英・日に続く

高度成長市場としている

1.持続的な技術革新に重点を

置く。製品技術の整理を行

い、データ通信分野での絶

対的優位性を保つ

2.サービス重視。ハイグレード

なサービスを通じて安定し

たハイエンド顧客をつかむ

3.市場競争が激化するなか、国

内外メーカーに有力な反撃

を行う

4.販売ルート強化。協力関係を

さらに安定した有効なもの

へと発展させる

1.中国エリアでハイテク事業を行い、

未来ある新技術市場をサポートす

ることで、新技術の研究開発と応用

の橋渡しをする。シスコが近々売り

出す新事業に高い成長性があると

思わせることは、次の発展を後押し

する効果がある

2.販売ルート建設では「魚を与えるの

でなく、漁のやり方を教える」をモ

ットーに、製品・サービスパック・

技術サポート・ネットトレーニン

グ・経営資源・販促活動などのサポ

ートを提供し、提携先が業界トップ

の能力と競争優位性を持てるよう

指導する。現在シスコ中国は提携パ

ートナーの販売協力で週ごとの在

庫削減に成功している

92

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(2)現在実行中の重点市場戦略 シスコは北京または上海への研究開発センター設立を検討しており、実現すればシスコ

中国の製品開発面での自立が可能になる。研究対象は3G分野の予定。現在シスコは国内

3Gテストプロジェクトにも製品を提供しているが、信号発射という狭い分野に限られて

いる。国内通信企業との合弁会社を一社も持たないため、中国3G市場への参与にはどう

しても限りがある。3Gその他の製品や技術にさらに力を入れなければ、中国3Gという

美味しいケーキにはありつけない。またシスコ中国では売上伝票 1 枚ごとに本部の確認が

必要なうえ、顧客の要望に応じた商品のオーダーメイドや二次開発ができないなど、国内

外他社に比べ柔軟性を大いに欠いている。さらに同社が高い利益を求めるあまり、製品価

格は同業他社に比べ非常に高い。現在シスコの苦境の原因となっているこうした状況を、

研究開発センターの設立で緩和できるかもしれない。 4.成功戦略の総括と将来の市場発展情勢 シスコはインターネットの大発展により急成長した。シスコが中国で成功するための前

提条件は、成長産業とともに発展することだ。また成功要因としてその強大な市場運営法

があり、顧客ソリューション・戦略併合・戦略連盟などが成功の鍵である。 シスコオンライン連携(CCO,Cisco Connection Online)は顧客戦略の要である。

CCO システムにより支出を大幅に削減するとともに、タイムリーなサービスで顧客満足度

をアップする。戦略併合は IT システムを通じて顧客とのエンドツーエンドの関係を築くも

ので、組織文化の構築と組織行動の調整で最短時間内での新旧システム統合を可能にする。

戦略連盟はシスコの販売パートナー認証計画を体現するものだ。パートナーがサービスや

ソリューションを提供する際、近頃急速に増え続ける顧客の付加価値サービスへのニーズ

を満たし、「双方納得」を実現できるような確かな業務モデルを構築できるようシスコが支

援することで、安定した販売ルートの構築を目指すものだ。 シスコの技術革新は市場の今後の発展分野に狙いを定めており、過去にはこだわらない。

そのため、シスコはまたセキュリティ・光伝送・IP 電話・ホームネットワーク・無線・メ

モリーの六大市場に力を入れている。

93

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⑥エリクソン 1.企業の基本情報

名称 愛立信公司(エリクソン)

種類 大型外資企業(全額出資会社および合弁会社)

所在地 北京市朝陽区光華路 漢威大厦

組織構成 (下の図を参照)

業務範囲 移動通信とインターネットを結合した移動インターネット業務およびその関連業務に発

展の重点を置く

主要製品

リスト

電信ソリューション・企業ソリューション・端末機が三大主要業務。

電信ソリューション:移動通信システム・多業務ネットワーク・サービス・3G

企業ソリューション:音声通話・アプリケーション・データ・無線移動ビジネスシステム

端末機:ソニーエリクソンでの移動端末機の研究開発および生産

主力製品の

市場シェア

GSM 35-40%、GPRS 40%以上、CDMA 15%

主要取引先 主に中国移動・中国聯通、一部の固定電話会社にもネットワークソリューションを提供

Year 2002 2003 2004(E)

Global Sale Revenue (100 millions USD)

180 163.6 175

注:中国市場は総売上の9%で、第 1 位の米国市場 14%に次ぐ。(2003 年)

エリクソン組織図

エリクソン中国

エリクソン中国

研究開発総院

合弁会社

(10 社)

北京エリクソン通信システム有限公司

北京エリクソン移動通信有限公司

南京エリクソン熊猫通信有限公司

広東エリクソン科技有限公司

上海エリクソン-新泰電子有限公司

重慶エリクソン科技有限公司

重慶エリクソン通信有限公司

大連エリクソン短距離無線接続技術公司

黒竜江エリクソン科技有限公司

エリクソン浪潮無線科技有限公司

エリクソン通信ソフトウェア研究開発(上海)公司

エリクソン企業コンサルタント(上海)有限公司

大連エリクソン通信有限公司

エリクソン(中国)有限公司

全額出資会社

(4社)

事務所

(26 ヶ所)

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2.企業の製品戦略 (1)製品および技術の研究開発方針 エリクソンは業務発展の中でずっと「さらなる向上」を戦略にしている。通信設備市場

での競争がますます激化し電信会社の投資が減速する今日、突出した中核技術や製品に特

化しそれを極めることが市場での権益確保につながる。 エリクソンの得意分野は移動通信であり、3G戦略ではWCDMAに重点を置いて世界

最大の3G設備メーカーを目指す。またCDMA2000でも相当の実力をもち、CDM

A市場では世界第三位だ。中国の3G政策は中国独自の国際技術標準と国内通信メーカー

の発展を重視しているため、エリクソンはCDMAシステムを全て中国で生産し、世界中

に輸出するとの宣言をタイムリーに行った。政府の政策と意向に合致するこの戦略は、同

社の中国での発展促進に大いに役立った。 エリクソンの多業務ネットワーク(エンジンソリューション)分野での世界シェアは3

5%で、またNGNでも技術開発力・製品供給力ともに強みをもつ。2002年3月の中

国電信による第一回NGNテスト網プロジェクトでも、その強力なエンジンソリューショ

ンが採用され、中国の電信会社による次世代ネットワーク建設でトップの座についた。ブ

ロードバンド接続はモバイルインターネットを主とし、各種の移動・無線ブロードバンド

製品やソリューションを提供している。 (2)研究開発体制 エリクソンは技術を基本とする企業で、毎年売上高の20%を研究開発費に投じている。

年間1千件もの特許技術申請を行い、特に第三世代移動通信システムでは1万件以上の特

許権を保有する。また世界に1万3千以上のWCDMA基地局を設けており、その契約数

は世界一だ。 中国はエリクソンにとって最も重要な市場であり、中国への投資を引き続き拡大すると

表明している。中国においては実際の投資額は計画に及ばないものの業務拡大を続けてい

る。それにしても、中国での研究開発投資は毎年50%増える。 表 中国におけるエリクソンの研究開発投資状況 単位:億ドル

单位:亿美元

0.70.88

1.1

1.37

1.71

2.1

0

0.5

1

1.5

2

2.5

2000 2001 2002 2003 2004 2005

95

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エリクソンは戦略調整において世界の研究開発機関の整頓を進めている。2002年5

月、同社は北京に中国研究院を設立し、中国での開発センターを6ヵ所として現地開発を

強化した。研究院および各地研究センターの人員は技術・技術管理あわせて1800人に

のぼり、総従業員数の40%を占める。おもな研究テーマは3G技術・ネットワーク・移

動システム・モバイルインターネット応用などで、移動通信分野では中核ネットワーク・

システム・プラットフォーム開発・端末技術など、各業務の鍵となる技術を扱っている。

特に3G技術では、成熟したWCDMAおよびCDMA2000システムを持ち、その移

動中核ネットワークの先進的技術は中国の移動通信市場に大いに貢献している。 この他にエリクソンは合弁企業にも研究機関を設け、あるいは中国の有名大学や学術機

関と合同で研究開発を行っている。また移動通信の応用ではIT・コンピューターの有名

メーカーと協力関係を結ぶ。さらにモバイルインターネットのパートナー計画を世界的に

推進しており、中国ではエリクソン北京・成都・珠海移動マルチメディア開放実験室、深

圳モバイルインターネット応用開発センター、上海モバイルインターネット応用測定試験

センターなどを設立し、中国の応用開発会社に無料でハードや開発プラットフォームを提

供している。 (3)国内外企業との技術提携 エリクソンが中国市場での提携動向と戦略についての分析は次の通りである。

案 件 提携モデル 戦略の分析

2003 年 6 月、エリクソン・華為・NEC・ノーテル

ネットワークス・シーメンスが、無線基地局内部インタ

ーフェイスの汎用規格制定を目的とする事業提携組織

――CPRI(汎用公共無線インターフェイス)を共同

で設立

技術提携 技術協力を強化して業界技術規格の確立を推進

し、技術応用のリーダー的地位を得るとともに、

開発コストを引き下げさらに大きな市場を獲得す

2003 年 6 月、エリクソン(中国)と亜信科技が、既

存2Gと今後の3Gネットワーク技術に関連する電信

ソフトウェア分野での戦略的提携の覚書に調印

市場提携 提携を強化し優位性を補完する。エリクソンは

システムメーカーとして、亜信科技の強大なシス

テムインテグレーション力・ソフト開発管理力と

結合することで、中国の移動通信会社により良い

サービスを提供し、さらなる市場の開拓が可能に

なる

2002 年 10 月、エリクソン・北京中関村青年科技創業

投資公司・清華科技創業投資公司・中国火炬高新技術産

業投資公司が、中国のモバイルインターネット産業の健

全で速やかな発展を促進するために、中国無線投資フォ

ーラムを設立。エリクソンは技術および市場発展の顧問

となる

分散型連盟

産業提携

移動通信分野での技術優位と先見性により、中

国モバイルインターネット技術の産業化を推進

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2002 年 1 月、エリクソンと大連大顕集団の共同投資

で、近距離無線技術規格(ブルートゥース)技術の「大

連エリクソン短距離無線連接技術有限公司」を設立

合弁会社設

立による緊

密な提携

技術面での優位性と生産のスケールメリットの

結合。中国本土でエリクソンの技術を製品化する

ための主流方式

総括:上記の例からも、エリクソンは中国で、有力かつ信用のある企業を選んで自身のモバイルインターネット技術の優勢

と有機的に結び付け相互補完するという、かなり慎重な提携戦略を行っていることがわかる。中核技術の移転では、通

常全額出資会社または合弁会社を設立する。

3.企業の市場戦略 (1)発展の歴史と成功要因の分析 エリクソンは百二十年以上の歴史を持ち、百年以上の風雨の中で常に勝利を得てきた。

その中核的競争理念はふたつある。まず技術面でのリード。先端技術・品質第一が不敗の

前提条件である。次に顧客至上主義。その顧客サービスのモットーは「売った先には必ず

サービスもする」であり、「自発的サービス」である。エリクソンは現地に根付いた生産・

供給・研究開発・養成体系を強化し続けた。現在では生産供給でも技術開発の面でも、中

国の世界中核地域としての地位はますます際立ってきた。

時期 発展の背景 段階の特徴(企業の競争

における主な優位点) 具体的成功戦略

1994 年以前

市場の探索期

外資の中でかなり早い

時期に中国市場に参入す

る企業のひとつ

中国通信市場の発展に注目

し続け、着実に中国投資を拡

大。外資として良好なイメー

ジを形成

1.電話機・交換機を中国市場進出の手

がかりとする

2.単独取引に始まり、北京・上海・広

州への事務所設置、中国有限公司の

設立と、漸次発展を拡大し後日の発

展の基礎を築く

1994‐2001 年

高度成長

移動通信業界ト

ップの地位を築

中国通信産業市場の高

速成長と政策環境の改善

に伴い、中国市場は当社

のグロバール化の重要な

一部になる。エリクソン

は研究開発・生産・製造

の各分野で中国企業の良

きパートナーとなり、移

動通信分野の業界トップ

にのぼりつめた

1.現地化でずば抜けた実績。現

地化プロセスの検討・実

施・管理監督により、生産・

研究開発・人材の全方面で

中国に根を下ろす

2.企業サプライチェーン管理

の強化。低コストという優

位性を活かし、中国をグロ

ーバルサプライチェーンの

重要な構成要素として取り

こむ

1.サービスでは「サービスバリューリ

ンクの向上」という経営戦略に基づ

き、専門機関「中国サービス部」を

設置。ネットワーク建設の鍵となる

サービス(構築・運営・引渡し)か

らシステムインテグレーションに

至るまでのサービスを用意しユー

ザーに全面提供する

2.設備機器とシステムソリューショ

ンは直販方式。一方携帯電話機は代

理店方式を採用し、「買取+卸+集

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3.技術移転と技術革新の結合

を重視し、中国における研

究開発レベルを全面的に向

上させる

4.会社上層部による渉外に力

を入れ、強い支持力を持つ

パートナーシップを保つ

中販売」という体制をとる

3.中国市場での経験を活かし、地方政

府や電信会社と密接な関係を維持。

電信会社のネットワーク企画や建

設計画に直接参与する場合もある

2001 年-現在

戦略調整

持続可能な発展

に尽力

中国を企業発展の基地

に据える。特に 2001 年

に世界中の電信企業が経

験した「冬の時代」以後、

中国の中心的地位はます

ます際立ち、戦略調整期

においても、その持続可

能な発展に注力している

1.移動通信分野の研究開発に

注力

2.主力事業への集中

3.規模の調整

4.コスト管理計画を積極的に

推進

1.移動通信技術の優位性を強化し、一

連の調整と改革により研究開発に

注力

2.主力事業への集中。サービス・シス

テム・技術ライセンス・端末の四つ

を中核事業として明確に打ち出す。

3.規模の調整。同社が実施する「効率

計画」は、企業内部への調整やリス

トラを通じて経営効率を高め、コス

ト管理や節減を有効に行う

(2)現在実行中の重点市場戦略 エリクソン中国の2004年の主な課題は主力事業への集中で、主力製品のシェアを拡

大するとともに、構造改革で経営効率を高める。 4.成功戦略の総括と将来の市場発展情勢 エリクソンにとって中国は、アメリカに次ぐ世界最大の市場である。中国における従業

員数は4500人超、26の事務所・合弁企業10社・全額出資企業4社を設立している。

またグローバルサプライチェーンの四大供給センターのひとつであり、世界の生産センタ

ーともなっている。一製造販売会社から、知識を基礎とし市場と科学研究をリードする大

型企業への転換の過程はすなわち、中国社会への融和の過程でもあった。 ここ2年間、エリクソンは一連の改革と調整を行っているが、通信分野の中核先端技術

への注力という発展方針は変わらず、さらにモバイルインターネットこそが同社の描く未

来図であると明言している。さまざまな施策や手段により、モバイルインターネットの中

核分野で競争力の優位性を保ち、その他の関連業務は外部委託や分離などの方法で圧縮し

てゆく方針である。3Gの研究開発は10年前から始めており、WCDMAとCDMA2

000の中核技術を保有、世界の現3G市場やまもなく始まる大規模な3G網建設では大

きな強みとなる。また将来を見据え次世代ネットワークや4Gの研究にも着手している。

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⑦東軟 1.企業の基本情報

名称 東軟集団

性質 上場ハイテク企業

所在地 瀋陽東大ソフトウエアパーク

組織構造

業務範囲 国内の有名なソフトウエアとソリューションのサプライヤーで、ソフトウエア技術を中

心として、ソフトウエアとサービス、デジタル医療、IT 教育、トレーニングを主な業務分

野とする。

主要製品

リスト

ソフトウエア製品-セキュリティー製品―ファイアウォール、VPN、IDS、セキュリティー

速達、認証センターシステム、個人セキュリティープラットフォーム。

情報管理 Neusoft.IM シリーズ―Neusoft Web\ Neusoft Mail\ Neusoft UM\Neusoft

Workflow。移動インターネット―PUSH サーバーOpenSearch インテリジェント WAP 検索エ

ンジン、Uni-VAS2000、STK に基づくショートメッセージ取引システム、SMIAS ショートメ

ッセージゲートウェイ、LSPP 位置サービスゲートウェイ。データ管理―OpenBASE マルチ

メディアリレーションデータベース管理システム、OpenBASE セキュリティーデータベース

システムなど。企業管理ソフト。E-Learning。

基礎製品-埋め込み式プラットフォーム。

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業界ソリューション、企業ソリューション。

IT サービス-IT Consulting・BPO・トレーニングコンサルティング

主力製品の

市場シェア

ネットワークセキュリティー製品の市場シェアが割合に大きく、例えば NetEye シリー

ズのファイアウォールと侵入探知システムなどのネットワークセキュリティー製品の市

場でのブランドシェアが 1 位となっている。保険市場では「東軟」は 50%のシェアを占め

ている。移動通信市場では、ショートメッセージ業務の 50%を占めている。

主要取引先 電信、金融、電力、電子行政、電力、タバコ、教育、交通などカバーする業界が比較的

広い。

Year 2001 2002 2003

Sale Revenue (100 millions RMB)

18 20.7 23

2.企業の製品戦略 (1)製品、サービスと技術の研究開発の方向 東軟はソフトウエアをコア業務とするソリューションサプライヤーとして、同社のコア

業務は主に以下の 3 つの分野にわたっている。ソフトウエアとサービス(Software &

Services)、デジタル医療製品とデジタル化病院のソリューション(Digital Medical

Products & e-Hospital Solutions)、IT 教育とトレーニング(Education & Training )で

ある。同時に東軟は自社のコア業務を中心に、全国の4つの都市で産業発展基地とサービ

スプラットフォームである東軟ソフトウエアパーク(瀋陽、大連、成都、南海)を設立、

上海、北京、北戴河などで華東、華北、河北ソフトウエア技術サポートセンターを設立し

た。

ソフトウエア

パーク名称 位 置 パークの特色

東軟ソフトウエア

パーク瀋陽パーク

瀋陽市ハイテク開

発区渾南産業区

東軟集団有限公司は基礎研究や製品開発、技術トレーニン

グ、生活サービスが一体となった多機能型ソフトウエア開

発・生産基地を建設した。1995 年 10 月、東軟ソフトウエア

パーク瀋陽パークは国家科学技術部に「国家松明計画ソフト

ウエア産業基地」と認定された。

東軟ソフトウエア

パーク大連パーク

大連ソフトウエア

パークの中心地

教学と産業、付属設備を一体化した初めてのソフトウエア

パークとして、大連の良好な投資環境と地域の独特な優位

性、パークの全面的な付属設備とサービスによって、ますま

す多くの多国籍企業が研究開発や生産、アフターサービスセ

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ンターなどがパークに移転してきており、それぞれの優位性

を充分に発揮し、経営コストを抑え、市場競争能力を向上さ

せている。

東軟ソフトウエア

パーク南海パーク

南海ソフトウエア

科技パーク内

多国籍 IT 企業が中国で経済が最も活発な珠江デルタ地域

に投資するために新しい、理想的な選択肢を提供。

東軟ソフトウエア

パーク成都パーク 成都都江堰市

中国の西部開発と情報化建設の中心都市である成都をよ

りどころとして、パークは新たな投資ブームの中でますます

多くの投資家の注目を集めている。

東軟の主な製品はソフトウエア製品、基礎技術製品、業界と企業ソリューション及び ITサービスにわたっている。 ソフトウエア製品では、ネットワークセキュリティー製品が東軟の主力製品となってい

る。2003 年初めに東軟はハイエンドネットワークセキュリティー製品市場向けの新製品

NetEye Firewall 3.2 版と NetEye IDS 2.1 版を売り出し、ユーザーのネットワーク

セキュリティーにより高い信頼性をもたらすだけではなく、ユーザーのセキュリティーを

有効的に向上させることができる。新製品を売り出すと同時に、東軟は他のメーカー向け

に NAP(Network Alert Protocol)プロトコルを開放した。これは東軟がネットワークセキ

ュリティー製品の標準化に向けて重要な一歩を踏み出したことを表している。

基礎技術製品では、NeuLinux 埋め込み式 Linux 開発プラットフォーム、NEST2000 通用型

埋め込み式システム設計プラットフォームと、Xscale をコアとする PXA250/255 開発ボード

は東軟の主力プラットフォーム製品である。NEST2000 を例にとれば、同プラットフォー

ムは PDA やハンディーPOS 機、情報家電などを含む多くの情報端末製品の設計を迅速に行

うことができ、そこから情報端末製品の生産の意向を持つメーカーに全面的なソリューシ

ョンを提供する。下の図は NEST2000 のハードウエア設計、アプリケーションソフトとソ

フトウエア開発プラットフォームの基本的なフレーム図である。

101

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業界と企業のソリューションにおいて、東軟は全面的なセキュリティーソリューション、

ブルートゥースソリューション、情報家電ソリューションを提供している。業界向けソリ

ューションは、電力や教育、金融、社会保障、保険、電信、タバコ、交通などの分野にわ

たっている。社会保障を例に取ると、東軟は社会保障の分野で全面的な社会保障分野の成

熟した技術ソリューションを有している。単一の養老保険(年金)から、「五保統一」(養

老・医療・失業・傷害・児童手当の統合されたもの)まで、公費医療から医療保険まで、

企業賃金から医療保険病院処理システムまで、労働力市場から民政最低保障まで、財政費

用徴収から銀行、税務、電信などさまざまなインターフェイスまでを含んでいる。多年に

わたる研究開発は顧客に高く評価され、自身の強大な経済や技術の実力、整った内部管理、

長期的な社会保険業界での経験をよりどころとして、東軟は中国の労働・社会保障分野で

の市場シェアで第 1 位を占め、中心都市の社会保険ユーザーは既に 100 社近くに達してい

る。 IT Consulting¥BPO¥トレーニング、コンサルティングを含む IT サービスも東軟の比較

的競争力を持つ業務形式である。現在、経験豊富なソフトウエアコンサルタント 38 人、ソ

フトウエアアナリストと設計士 79 人、ソフトウエアエンジニア 398 人がいる。また同社に

は現在専業・兼業の経験豊富な専門マネージャー、講座係、顧問 25 人がいる。東軟はネッ

トワークセキュリティー製品のセキュリティーコンサルティングとサービスシステムの構

築を強化し、チャネルパートナーに対する高度なトレーニングと認証を通じてチャネルメ

ンバーにより強力なセキュリティーサービス能力を持たせることとした。そのうち最も特

色のあるのは、独創的な「NetEye 4S ブランドサービス加盟店」という新しいサービスモ

デルを全力で作ったことだ。南京優創科技有限公司は東軟が初めて認可した「NetEye 4S

ハードウエア

基本システム

LCD タッチスクリ

ーン

Modem RS232/ RS485

システムド

ライバ

システムドラ

イバプロセス

システムドラ

イバプロセス

システムドラ

イバプロセス

リアルタイムマルチタスク OS

図形ユー

ザーイン

ターフェ

イス

埋め込み式

文書システム

TCP/IP ネットワーク

プロトコル

PPP

Java Applet 管理 埋め込み式 WebServer

応用ソフトウエア

アプリケーションプロセスインターフェイス(API)

102

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ブランドサービス加盟店」である。いわゆる「4S」には次の 2 つのレベルが含まれる。第

一は東軟がサービスの実体として指すのは情報サーベイ(survey)、ソリューションサポー

ト(solution)、製品セールス(sale)、アフターサービス(service)の四者が一体となったサー

ビスモデルで、「4S 店」のサービス内容とサービス品質に最低基準を制定している。第二は

バーチャルサービスで、つまりセルフサポート(self-support)、スピード反応(speed)、

シンプルフロー(simple)、サービススタンダート(standard)で、これによってユーザーに

対するサービスの品質を確保している。これは国内のネットワークセキュリティーメーカ

ーがミドル・ローエンド市場を固守すると同時に、ハイエンド市場へと積極的に進んでい

ることを表している。

(2)開発研究体制 東軟は毎年販売額の 7-12%を研究開発に投入している。研究開発投資の重点は社会保険、

金融、医療といった業界のアプリケーションソフトである。東軟の研究開発能力は主に東

軟発展センターに集まり、同発展センターは国家科技部が命名した第一期の国家松明計画

のソフトウエア産業基地、国家の技術革新モデルケース企業、863 計画の産業化基地の一つ

であり、国家に命名された初めてのコンピュータソフトウエア国家プロジェクト研究セン

ターでもある。東軟の備蓄しているコア技術のマルチメディア技術、データベース技術、

ネットワークセキュリティーと管理技術、ユビキタス・コンピューティング、データの発

掘、画像処理と識別技術、埋め込み式ソフトウェア・シミュレーション技術、セットプロ

グラムと協同業務技術、デジタル化医学映像技術などは基本的に東軟発展センターで研究

開発されたものである。下の表は東軟の技術研究開発の構造を表している。

OS・情報通信ネットワーク

基礎技術アーキテクチャー

電信業界

政府業界

社会保険業界

電力システム

教育業界

金融業界

製造業界

病院システム

その他

サプライチェ

ーン管理

顧客関連管理 費用計算シス

テム

財務システム ヒューマンリ

ソース管理

その他

セキュリティ

交付されたル

ート

内部管理 データの掘り

起こし

作業の流れ その他

ユーザー管理 集計技術 知識管理 ビジネス・イン

テリジェンス

支払いサービ

事務処理サー

ビス

コアパッケージとミドルウエア

業界ソリューシ

ョン

ソフトウエア

パック

ソフトウエア

モジュール

コアパッケージ

とミドルウエア

ネットワーク

OS

103

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(3)国外企業との技術協力 国外の資金や市場、資源を有効に利用して自社を発展させるのが東軟の重要な戦略であ

る。同社では日本や米国、オランダ、韓国、台湾などの国家と地域のハイテク企業と相次

いで合資・合弁の協力関係を築いてきた。 オランダのフィリップス集団とデジタル医療の分野で共同出資と協力を行っている。 日本の旺文社と教育分野で協力協定を結び、正式に IT オンライン教育の分野に参入し、

「東軟オンライン大学」を設立し、東軟の IT 教育とトレーニング業務が全面的な発展期に

入った。東軟の業務の調整から見て、大連に対する依存・重視の程度がますます大きくな

っている。 世界のデータ保護分野のリーディングカンパニーである Quantum 社(NYSE:DS)と

戦略パートナーシップを確立した。協力協定によると、Quantum 社は東軟が顧客に重点的に

推薦するデータ保護ソリューションとなるという。同協定では同時に東軟を Quantum 社の

中国市場での独占付加価値リセーラーとすることが決められている。東軟はその付加価値

代理商に業務フレームや関連のトレーニング、市場宣伝、販売及び技術サービスなどの分

野でのサポートを提供し、またその付加価値代理商に Quantum 社の提供した革新データ保

護ソリューションの設計・実施を通じてその市場競争力を強化させる。 聯想集団と共に社会保険、医療保険分野で事業を幅広く推進し、同分野のソリューショ

ンから聯想 IA フレームサーバーとストレージ製品を選定し、しかも業界ソリューションの

実施とメンテナンスを担当する。聯想はその製品に対して販売前、販売中、販売後の全面

的なサポートを行う。双方はチャネルを相互に利用し、聯想製品に基づいた東軟業界ソリ

ューションを共に広め、ユーザーによりよい価格性能比の現地化アプリケーションを提供

する。 3.企業の市場戦略

(1)企業の発展過程とその成功要因の分析 東軟集団は中国のリーディング的なソフトウエアとソリューションのサプライヤーであ

る。同社は 1991 年に東北大学で設立された。10 数年にわたる発展を経て、同社は既にソ

フトウエア技術を核心とし、ソフトウエアとサービス、デジタル医療、IT 教育とトレーニ

ングを主幹業務分野とし、ソフトウエアの研究、設計、開発、製造、販売、トレーニング

とサービスを一体化したソリューションサプライヤーとなった。

104

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時期 発展の背景 段階の特徴(企業の競争

における主な優位点) 具体的成功戦略

1991-1995年

スタート期

ソフトウエア市場の発

展は急速だったが、国産ソ

フトウエアの発展は遅く、

特に瀋陽など旧工業地帯

での発展は一層遅かった。

1.科学工業と貿易の一体化の

道を歩む。

2.産・学・研一体化の道を歩

む。

1.充分な創業資金。

2.大学経営企業の出身、東北大学をよりどころとし、研

究開発実力のある後ろ盾を持つ。

3.地方政府と良好な協力関係を持つ。

1995-2002年

ソフトウエ

アパークを

建設、全面的

な拡張期

ソフトウエア市場の競

争が激しくなった時期に、

多くの国家重点実験プロ

ジェクトを請け負い、国家

級のソフトウエア基地を

建設、同時に遼寧省から強

力なサポートを受けたた

め、企業は業界を拡張し、

ソフトウエアパーク、ひい

てはソフトウエアの研究

開発、国内・国際市場の開

拓、IT 教育と人材育成、

中小企業のインキュベー

ションを一体とした国際

協力パークを作った。

1.自然の地縁の優位性、特に

大連を日本や韓国向けの企

業交流の窓口をした。

2.多元化的、総合的な競争力

を育成。コア技術が確立さ

れていない状況下で、多く

の技術フレームによる業界

ソリューションの競争力が

突出した。

3.全国の 4 大ソフトウエアパ

ークの建設を通じて、企業

の規模の拡張を実現。

4.全力で人材を選抜

5.上場、共同出資などの多く

のチャネルが企業の融資能

力を保証。

1.市場セールスでは、東軟ブランドと東軟の経営理念の

広報が中心となっている。

2.サービス理念。「顧客第一、顧客ケア」がサービスの

主旨。「顧客が満足できるサービスを提供」。華北、東

北、華東、山東、華南、華中、西南、西北を 8 大地区

とし、バーチャル本部を設立、また対応する強大なサ

ービスサポートプラットフォームを設立した。

2002年-現在

国際化

国際業務が収入全体の

10%を占め、また日本への

輸出量が輸出全体の 90%

以上。国内の市場競争が白

熱化する環境下で、企業は

「対外進出」し、国際化の

「三段階」-国際的管理運

営モデル、国際的市場、国

際的企業体質を実現する

必要。

1.国際協力を重視、双方の優

位性を相互補完して市場を

開拓。

2.技術革新を堅持

3.企業が国際認証を受けた

後、企業の国際的イメージ

が確立された。

1.国際的な先進技術と管理方法を導入、IBM、SUN、

Motorola、ORACLE などの多くの多国籍企業と戦略パ

ートナーシップを確立。協力を通じて世界の最先端技

術を把握し、製品輸出と国際プロジェクト開発の豊富

な経験を蓄積。企業自体の成熟度を高め、利益体質確

立。

2.ターゲット市場を確定、日本をソフトウエア輸出の第

一の目標とし、日本とのソフトウエア・アウトソーシ

ング業務拡大。

3.自社が知的財産権を持つ製品開発を重視。ヘリカル

CT、MRI、カラーエコー、デジタルレントゲン、EPS

などの病院管理ソフトの研究、生産で、7 分類 30 種

近くの製品を、欧州、米国、東南アジア、中東へ輸出。

4.政府の各部門から、大きなサポート。特に遼寧省の政

府及び輸出入銀行と密接に意思疎通を行った。

105

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(2)現在重点的に実施している市場戦略 現在、東軟の国際化過程は既に急速な発展段階に入り、市場シェアは唯一の目標ではな

くなった。2003 年に東軟は「ソフトウエアから製造へ、全てを製造の細部から行う」を方

針とし、「デジタルにたよって市場シェアを増やし」と「入念に製造」をモットーとし、国

際化に向けて発展を深める過程に入った。東軟は、一方では国際協力を強化し、現有の基

礎の上に引き続き規模を拡大し、国際業務で少なくとも 50%の成長を保つとしている。ま

たもう一方では、納品の能力と従業員の能力の育成を重視する。 4.成功戦略の総括と将来の市場発展情勢

東軟の中国市場のシステムインテグレーション市場における競争で主に以下のいくつか

の点で優位性を持っている。 1)ソフトウエア分野での国内初の上場企業としてブランドの知名度を持つ。 2)企業のよりどころとしての東北大学の背景と、政府との良好な関係は、政府や教育

といった分野でのシステムインテグレーション市場の開拓に有利である。 3)主要な業界分野で徐々に自社のソリューションを形成し、自社で知的財産権を持つ

一連のソフトウエア製品を形成しつつある。 しかし東軟の「デジタルにたよって市場シェアを増やし」が過剰な拡張をもたらした後、

現在は戦略と運営管理の調整期を迎えており、東軟の 2004 年の中国システムインテグレー

ション市場での業績にある程度影響を与えている。 将来の市場では、東軟は一貫して「ソリューションが未来を推進する」ことを信じ、単

一の製品から複雑なハードウエアまで、ソリューションサプライ全体の発展傾向が日ごと

にはっきりとしてきている。ソリューションに対する要求はユーザーの最終的なニーズへ

と変化し、ますます個性化が進むソフトウエア市場で、ソフトウエア企業の提供する個性

化サービスはソリューションを核心とするサービスシステムにたよって実現するため、東

軟は将来の発展方向を「サービス+業界ソリューション」と位置付けている。

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⑧マイクロソフト

1.企業の基本情報

名称 マイクロソフト(中国)有限公司

性質 大型多国籍外資企業(中国には合資、独資企業を持つ)

所在地 北京朝陽区霄雲路 38 号盛世ビル 19 階

業務範囲 マイクロソフトのプラットフォームは必要な開発ツール、クライアントエンドアプリケー

ション、XML Web Service とサーバー製品一式を提供し、ユーザーをこのネットワーク

の世界へ誘う。

主要製品

リスト

デスクトップ製品―Windows XP 、Microsoft Office XP、Microsoft Visio 2002、Microsoft

Project 2002

埋め込み式 OS―Microsoft Windows Embedded

埋め込み式移動アプリケーションシステム-Microsoft-- Pocket PC

ハードウエア補助製品-マウス、ジョイスティック 、キーボード

企業級サーバー操作プラットフォーム—Windows Server 2003

.NET 企業級アプリケーションサーバーシリーズ-- Microsoft SQL Server、Microsoft

Exchange Server、Microsoft BizTalk Server、Microsoft Share Point Portal Server

など。

開発ツール—Microsoft Visual Studio .NET、Visual Studio .NET Enterprise Architect、

Visual Studio .NET Enterprise Developer など

主力製品の

市場シェア

ミドルウエア市場での占有率は 8%、オフィスソフト市場での占有率は 55.7%。

主要取引先 政府及び国家安全機関以外のオフィスソフトウエアプラットフォーム、個人及び家庭ユー

ザー

Year 2002 2003 2004 Total Revenue

(100 millions US$) 298 346 398

* Microsoft finance year is from the before year July 1 to next June 30.

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2.企業の製品戦略

(1)製品と技術研究開発の方向

マイクロソフトの製品は主に各種のデスクトップツールや開発ツールを含むが、そのう

ち Windows デスクトップ製品が運用効率や信頼性、安全性といった面で大きく進歩・向上

し、マイクロソフトは OS 分野で絶対的な市場の優位性を確立している。優れた製品はマイ

クロソフトの優れた研究開発手段から生まれており、「マイクロソフト社のソフト開発実

践」は一種の科学的で厳格かつ操作可能なソフトウエア研究開発過程で、業界で広く注目

されている。 Microsoft.NET はマイクロソフトが研究開発した基本ソフト技術である。その設計主旨は

人々が得た情報、情報の使用者、さまざまな情報処理システムと設備を効率的に連結する

ことである。マイクロソフトプラットフォームは必要な開発ツール、クライアントエンド

アプリケーション、XML Web Services、サーバー製品一式を提供し、ユーザーをこのネッ

トワークの世界へ誘う。

2003 年マイクロソフトは、相次いで Windows Server 2003OS と Office System オフィス

ソフトといった製品を売り出し、その中国市場での競争の優位性を更に強化した。マイク

ロソフトの他の製品のバージョンアップ版と同じく、Windows Server 2003 にも新機能がセ

ットになっている。基本的なネットワーク機能以外に、文書処理、プリント、ネットブラ

ウザや他のアプリケーションがある。マイクロソフトの Office System はオフィスソフトの

新しい 4 大内容をカバーしている。Business Information、Effective Teaming、Personal Impact、Process Management であり、強大な新機能を持ち、通信、文書の作成と共用、

情報使用と業務改善の面で全く新しいものである。

開発ツールの面では、Visual Studio .NET 2003 は全面的な開発ツールの一つで、

Microsoft Windows® と Web に向けるとともに、Microsoft .NET と接続するアプリケーショ

ンプロセスの急速な構築に使われ、開発スタッフの効率を最大限向上させる。

(2)開発研究体制

マイクロソフトの研究開発面への投入は毎年基本的に売り上げの 10-15%に達し、一貫

して開放的で自由、平等な学術的雰囲気を強調し、研究スタッフに豊富な研究リソースと

長期的なサポートを提供することを約束し、研究スタッフが長期的な視点とチャレンジ精

神を持つことを奨励している。中国でも相次いでマイクロソフト中国研究開発センター、

マイクロソフトグローバル技術サポートセンターとマイクロソフトアジア研究院の三つの

世界レベルの科学研究、製品開発、技術サポートサービス機関を設立しており、マイクロ

ソフト中国はマイクロソフト米国本部を除いて機能が最も整った子会社となっている。下

の表でマイクロソフトの各研究開発機関の具体的な状況を紹介している。

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部 門 成立時期 人員(人) 主な職能と研究分野

マイクロソフト中国

研究開発センター 1995 年 150

中国最大の外商ソフトウエア製品研究開発センター。同センターには

Windows プラットフォーム部、デスクトップアプリケーション部、中国語

技術部、Windows システムサーバー部、MSTV 製品部、プログラム開発ツ

ール製品部、家庭用・小売製品部、MSN 国際製品部及び移動設備製品部、

の合計 9 部門があり、中国市場向けに合計 230 以上のマイクロソフトの

中国語ソフトウエア製品を提供した。

マイクロソフトグロ

ーバル技術サポート

センター

1998 年 300

主に 6 大部門から構成される。マイクロソフトプラン支持部、開発サ

ポート部、ビジネスアプリケーションサポート部、システムプラットフ

ォームサポート部、協力パートナーサポート部と運営企画部。

マイクロソフトアジ

ア研究院 1998 年 170

主に以下の 5 つの分野の研究に従事する。

新世代マルチメディア。研究院には現在、ネットワークマルチメディ

アグループ、マルチメディアコンピューティンググループ、情報システ

ムと管理グループなどがそれぞれの分野で研究を行っている。次世代ユ

ーザーインターフェイス、無線及びネットワーク技術、デジタルアミュ

ーズメント技術など。

次世代ユーザーインターフェイス。研究院では現在、マルチチャネル

ユーザーインターフェイスグループ、言語技術グループ、自然言語グル

ープがそれぞれの分野で研究を行っている。

無線及びネットワーク技術。研究院では現在無線ネットワークグルー

プがこの分野で研究を行っている。

デジタルアミューズメント技術。研究院ではネットワーク図形グルー

プ、視覚コンピューティンググループ、言語グループ及び無線・ネット

ワーク技術グループがそれぞれの方向から研究を行っている。

インターネット検索とデータマイニング。データマイニング、機械学

習と知識発見などの技術と情報分析、組織、検索と可視化の過程を結合

させることを目指す。

マイクロソフトアジ

アエンジニアリング

2003 年

11 月 80

マイクロソフトアジアエンジニアリング院はマイクロソフトアジア研

究院の核心となる技術のインキュベーションに強力な保証を与える。こ

の他に、マイクロソフトアジアエンジニアリング院はまた、アジア・太

平洋地区のユーザーの「特殊な」ニーズとしてのいくつかの技術と製品

の開発を試み、同地区のユーザーのコンピュータ使用の体験を改善、向

上させる。同部門はまた国内の産業界と緊密に協力し、効率的な技術転

化の道を共同で検討する。

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(3)国内外の企業、科学研究機関との技術協力

「長城計画」は教育部とマイクロソフト社が共同で実施する、国内大学のコンピュータ

教育事業推進、コンピュータ基礎科学研究水準向上の協力プロジェクトである。「長城計画」

にはソフトウエア学院、学術交流、課程設立、人材育成、研究協力、教育シンポジウムの 6

分野にまたがっている。マイクロソフトは中国のコンピュータ教育事業に援助や寄付、コ

ンサルティング、サービスを行う。教育部は積極的にマイクロソフトと国内大学の相互協

力を助け、「長城計画」の順調かつ効果的に行われることを保障する。

・ Apple 社と協力パートナーとなり、office スイートソフトや ie ブラウザ、java アプリケ

ーション方面で協力を行い、そこから良好な協力関係を確立してゆく。IBM と Cognos

がそれぞれ自社のサーバーやデータベースとビジネスインテリジェンス製品をセット

にし、単一の、エンド・ツー・エンドのオンライン分析処理(olap)とデータウェアハ

ウジングソリューションを形成している。これによりビジネスインテリジェントをより

徹底することを保障できる。長虹と全面的戦略合意に達した。合意では、双方はメディ

ア交換式のテレビやマルチメディアエンド端末を含む情報家電で実質的な協力を行う

ことになっている。

3.企業の市場戦略

(1)企業の発展過程及びその成功要因の分析

マイクロソフトはその先進的な意識で全世界を変えた。世界最大のソフトウエア企業と、

最も価値のある企業として、マイクロソフトは自社の製品と技術を通じて人々の生活と仕

事、交流の方法を変化させ、人々に全く新しいコンピュータ体験をもたらし、個人の業務

能率を向上させ、プラットフォームとビジネスソリューションを提供し、企業がその競争

力全体を高めるのを助け、新しいデジタル家電技術と娯楽方法を開発し、移動コンピュー

ティングの発展を促進した。マイクロソフトはトップ層の人事異動と信用の危機に絶えず

直面しているものの、マイクロソフトが今日にまで発展したのはそれぞれの開発段階で当

時の市場と企業の状況に正確かつ理性的な判断を下してきたからに他ならない。

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時 期 発展の背景 主な優位点 具体的成功戦略

1992-1995 年

困難なスタ

ート時期

中国ソフトウエア産業

は生まれたばかりで、中

国人のソフトウエアにお

ける排外性は強く、製品

技術が先進的である背景

下で、市場で良好なイメ

ージを確立し、政府と密

接な協力関係を築かなけ

ればならなかった。

1.「デスクトップ」製品

から

2.主に自社の市場と販売

チャネルを発展させた

3.中国政府と良好な協力

関係を築いた

4.現地化研究を進めた

1.組織構造では、事務所から有限公司の設立まで、徐々に中国市場での組織

的な保障を整えた。

2.WIN95 の中国語版が国内市場に大きく歓迎され、デスクトップ製品は中国

で新たな局面を開いた。

3.中国政府との関係を一貫して重視し、特に米中間で知的財産権について緊

張状態となったとき、マイクロソフト中国は米国と中国の間で調整を行う

のに成功し、同時に中国市場で反海賊版ブームを巻き起こした。

4.95 年、ビル・ゲイツの中国訪問に伴って、広東省でまず市場と販売のチ

ャネルを開拓した。

1995-2003 年

発展障害期

海賊版事件がマイクロ

ソフトと中国市場の関係

に影響を与え、マイクロ

ソフトの中国市場での強

引な販売活動も中国の消

費者の反感を買った。特

に「ビーナス計画」の流

産と、政府の本土化調達

計画や IBM Linux ソフ

トの開拓によって、マイ

クロソフトの中国での事

業発展に影響を与えた。

1.デスクトップ製品から

企業級アプリケーショ

ン中心へ “ .NET”コ

ンセプトの発表は革命

的戦略。「オープンな

フレームとオープンな

プラットフォーム」へ。

2.ソフトのセット戦略

3.マイクロソフト本部の

スタッフが頻繁に訪中

し、一連の寄付活動を

通じて中国政府との関

係を改善。

4.上海を発展の足掛かり

とする。

1.製品は、安全で信頼でき、安定的、強力な機能を持つ。02 年に北京で「エ

ンタープライズ計画」を発表したが、これはマイクロソフト中国の歴史上

最大規模の企業級サービスネットワーク構築の試みであり、マイクロソフ

トのソフト製品使用によって企業ユーザーが生産率や効率、実力などを全

面的に向上させることを助けるものである。

2.研究開発の面では、マイクロソフト中国 R&D センター、マイクロソフトグ

ローバル技術サポートセンター、マイクロソフトアジア研究院の 3 つの世

界的な科学研究、製品開発と技術サービスの機関を相次いで設立し、マイ

クロソフト中国を米国本部に次いで最も機能の整った子会社へと成長さ

せた。

3.チャネル面では、「春耕計画」、「エンタープライズ計画」を通じた授権

利セーラー、チャネル販売店、プランサプライヤー、小売店などのチャネ

ル協力パートナーが 3000 社以上となり、マイクロソフト認証パートナー

が 300 社、マイクロソフト授権のコア業務ソリューション協力パートナー

も 70 社に達し、58 カ所のマイクロソフト認証高級技術トレーニングセン

ターと 400 カ所以上の授権トレーニングセンターを設立。

4.市場宣伝の面では、メディア強化・公共関係強化を強調。

5.発展地域の面では、上海を中心とし、南西市場へと進出。

2003 年-現在

イメージ再

形成、積極的

な変革

PC 市場の飽和的状況

に伴い、マイクロソフト

のウィンドウズ OS 販売

も成長重視から利益重視

に変換。またマイクロソ

フトは外部的なマルチメ

ディア、デジタル分野の

発展領域で優位性を占め

ておらず、またエリクソ

ン、ソニー、サムソン、

松下などが次世代移動電

話等の情報家電及びサー

バーの OS を共同で開発

し、大きな挑戦に直面。

1.製品では「シームレス

コンピューティング」

を発表、未来の情報消

費市場の占拠を図る。

2.中国市場の世界での地

位を強調せず、中国市

場自身の業務量を強

調。

3.SUN、Oracle と強力なパ

ートナーシップ関係を

確立すると同時に現地

企業との協力を重視。

4.政府との関係をより改

善。

1.価格面では、マイクロソフトは「タイ価格」を制定、中国での価格もさら

に調整中。

2.現地の協力パートナーとの関係、特に ISV との協力を重視。OME 分野でよ

り大型の協力パートナーを求める。

3.市場戦略面では、「精耕工程」段階に入る。コアチャネルケア、チャネル

能力強化、共同で市場を開拓、協力パートナーの満足度向上、の 4 つの重

点戦略を確立。

4.政府との関係改善では、中国政府とソースコード開放協定を結び、マイク

ロソフトが一貫して公開しなかったウィンドウズのソースコードの閲覧

を 7 社の国内組織に許可した。最近は再度巨額の資金で非営利のマイクロ

ソフト中国技術センターを設立。

5.地域発展の面では、業務・製品別に中国を 7 つの事業部に分け、7 事業部

は業績発展の 7 つの「エンジン」のように共同でマイクロソフト中国の

業績を後押しする。組織調整の目的は業績向上の強化である。

111

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(2)現在重点的に実施している市場戦略

マイクロソフトは Linux に取って代わられることも、多くの顧客との商談で Linux のた

めに過大な代価を払うことも望まない。そのためマイクロソフトは更に柔軟で現実的な価

格戦略を打ち出し、更に透明度の高い価格システムを実施しなければならない。Linux の脅

威に対応するために、マイクロソフトはアジアの多くの国家で一連の製品割引措置や低価

格版ウィンドウズの発売さえ実施した。マイクロソフトの競争は新たな段階に入った。異

なるアプリケーションとの接続の面では、同社は IBM や Linux に比べてより競争力を持つ

ことを宣伝した。 4.戦略成功の総括と将来の市場発展情勢 マイクロソフトは国際的なソフトウエアの最大手として、世界の OS 市場の大半を占めて

いるが、中国市場の発展では、民族産業保護のために政府によってもたらされる圧力まで

も含む各方面からの挑戦と圧力に遭遇している。全体的に見てマイクロソフトのトップ層

の頻繁な交代から見ても中国市場戦略の不安定性は見て取れるが、その変動においても学

ぶべき成功経験が少なくない。(1)企業全体の状況は良い状態の下で、自社がどの分野で

不足しているかを敏速に感じ取ることができ、また自社の市場戦略に対して迅速に調整を

行っている。こうした臨機応変な調整の戦略は学ぶべきである。(2)中国政府と一貫して

良好な協力関係を保ち、企業の発展を中国の情報化建設過程と結び付けている。(3)企業

イメージと企業広報の育成、確立を重視し、公益活動に参加している。 マイクロソフトの成功は、大部分がその製品戦略によるものであり、中国市場における

製品戦略を通じてその一部を垣間見ることができる。

まず、同社が採用しているのは急速な製品バージョンアップの戦略であり、ソフトウエ

ア製品のライフサイクルはムーアの法則に対応し、技術の進歩と製品のバージョンアップ

のスピードも徐々に加速しており、平均で 2-3 年で新製品を発表している。マイクロソフ

トの OS ソフトのライフサイクルもムーアの法則に一致している。新しい製品は以前の製品

の欠点を補い、またユーザーの新たなニーズを満たしている。

また製品組合せ戦略であるが、ある企業が経営する全ての製品ラインアップを組み合わ

せる方法を指しており、マイクロソフトは各種製品の組合せ戦略を総合的に採用しており、

中国の製品類型では主にビジネスソフトウエア、OS プラットフォーム、開発ツール、イン

ターネット技術、ハードウエア製品シリーズ、マッキントッシュ製品シリーズ、家庭用ゲ

ーム製品シリーズなどがある。

最後に製品のそれぞれ異なる特徴に基づいて、製品の進化戦略で「スローペース型」か

「急激な変化型」のどちらかを採用することを決定し、その市場でのリーディング的地位

を引き続いて強化している。

112