コケ植栽による屋上緑化システムの熱的性能に関する研究 (...
TRANSCRIPT
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コケ植栽による屋上緑化システムの熱的性能に関する研究
(第 4 報)長短波放射量と蒸散量測定実験
Study on the Thermal Characteristics of Rooftop Greening System of Moss planting
(Part4)Measurement of Quantity of Solar Radiation and Thermal Radiation and Evapotranspiration
学生会員 ○馬 蓉 蓉(明治大学) 正会員 加治屋 亮一(明治大学)
正 会 員 酒井 孝司(明治大学) 正会員 臼倉 拓人(田島ルーフィング株式会社)
Rongrong MA *1 Ryoichi KAJIYA*
1 Koji SAKAI*
1 Takuto USUKURA *
2
*1
Meiji University *2 Tajima Roofing Inc
This paper presents some experimental of results measurement with quantity of solar radiation and thermal radiation and
quantity of evapotranspiration of a moss planting system and examined an effect of environment improvement of roof-top
green planting system by moss planting.
はじめに
既報 1),2) 3)では、コケ植栽による屋上緑化システムの測
定実験を行い、焼け込み防止・照り返し防止効果がある
ことを確認した。また、蒸発散実験により、コケ植栽の
蒸発散能力が優れており、冷却効果があることを示した。
本報では、長短波放射量、蒸発散量について測定実験
を行い、コケ植栽による屋上緑化システムの熱環境改善
効果について検証を行ったので報告する。
1.長短波放射量測定実験
1.1 実験概要
屋上緑化システムのヒートアイランド現象の軽減効果、
日射の照り返し防止効果を検証するために、長短波放射
計により短波放射量(全天日射量と測定対称面反射日射
量:0.3~3μm)と長波放射量(大気放射量と測定対称
面放射量:5~50μm)を測定した。図-1に長短波放射
量実験の概要を示す。長短波放射センサーは測定対象面
上 500mm に設置した。表-1 に同実験に用いた測定機
器の主な仕様を示す。図 2に長短波放射計及び測定項目
を示す。
1.2 実験結果
夏季(2006/09/20~22)について検討する。図-3 に
気象概況、図-4に長短波放射量測定データ、図-5に測
定対象面の反射日射量と表面放射量を示す。なお、図-4
中の日射反射率(以下、アルベド)は、
(アルベド)=(測定対象面反射日射量)/(全天日射量)
で算出したものを図示した。
長短波放射計
日射計
温湿度計
屋上緑化システム
コンクリートスラブ
500mm
500mm
図-1 長短波放射量測定実験の概要
反射日射量
全天日射量
日射計
表面放射量
大気放射量
赤外放射計
図-2 長短波放射計の測定項目
表-1 長短波放射量測定実験時の測定機器
名称(型番) メーカー 主な仕様
温度熱電対
(0.32×12PT-G=r)(株)江藤電気 T型,ビニル被覆,素線径0.32mm
温湿度温湿度プローブ
(HMP45A/HMP46D)VAISALA(株)
湿度計:HUMICAP180高分子薄膜センサ
温度計:厚膜抵抗センサ(pt100,pt1000)
日射量日射計
(PCM-03A)(株)プリード 測定範囲:0.3~2.8µm
長波放射量短波放射量
長短波放射計(MR-50)
英弘精機(株)長波放射範囲:0.3~3µm
短波放射範囲:5~50µm
測定項目
測定機器
-
温湿度と全天日射量
0102030405060708090
1000:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
温度
[℃] 湿度
[%]
01002003004005006007008009001000
日射量[W
/㎡]
気温 湿度 日射量
図-3 気象概況(2006/09/20~09/22)
コンクリートスラブ
01002003004005006007008009001000
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
放射量[W
/㎡]
00.020.040.060.080.10.120.140.160.180.2
アルベド
日射量 反射日射量 大気放射量 表面放射量 アルベド
屋上緑化システム
01002003004005006007008009001000
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
放射量
[W/㎡
]
00.020.040.060.080.10.120.140.160.180.2
アルベド
日射量 反射日射量 大気放射量 表面放射量 アルベド
図-4 長短波放射量測定データ(2006/09/20~09/22)
反射日射量
0102030405060708090100110120130140
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
放射量
[W/㎡
]
屋上緑化システム表面 コンクリートスラブ表面
表面放射量
360380400420440460480500520540560580600620
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
放射量
[W/㎡
]
屋上緑化システム表面 コンクリートスラブ表面
図-5 反射日射量・表面放射量(2006/09/20~09/22)
また、日の出・日の入りの時刻は日射の入射角が小さ
くなり、各表面のアルベドが正確に測定できないために、
図には 8:00~16:00までの値を表示した。
アルベドは、晴天日(20日)において、コケ植栽表面
で約 0.15、コンクリートスラブ表面で約 0.10となり、約
0.05の差が生じた。
9/20
9/20
9/21 9/22
9/20
9/21 9/22
9/21 9/22
9/20 9/21 9/22 9/20 9/21 9/22
-
反射日射量は、日射のある 20日の終日と 21日の午前
中はコケ植栽表面の方がコンクリートスラブ表面より高
い値を示したが、曇りがちな 21日午後、22日の両日に
おいても差は少ないがコケ植栽表面の方が高く、20 日
12:00で最大差の 37.5W/m2となった。
表面放射量は、20日の日中はコケ植栽表面の方がコン
クリートスラブ表面より低い値を示したが、21日、22
日の両日はほぼ同様な値となった。
これは、2日前の 18日に 38mm/日の降雨があり、20
日はコケ植栽システムが保水状態であったのに対し、以
後の 2日間(21日、22日)は乾燥状態に近づいたため
と考えられる。また、夜間においてはコケ緑化システム
の方が低い値を示し、最大で 32.7W/m2の差となった。
2.蒸発散実験
2.1 実験概要
コケ植栽の蒸発散作用による周辺環境の冷却効果を検
証するため、コケ有とコケ無の試験体を用いて、蒸発散
作用による試験体の質量変化と温度変化、蒸発散作用に
影響すると思われる気象データの測定を行った。図-6
に蒸発散実験の概要図を示す。蒸発散量を直接測定する
事は困難であるため、水を含ませた試験体を電子天秤に
乗せ、減少した質量を蒸発散量とした。なお、トレイ下
部の排水用の穴はシリコンで塞ぎ、蒸発散以外の水分の
流出を抑えた。さらに、側面からの熱の流出入を防ぐた
め、トレイの側面を押出法ポリスチレンフォーム保温板
で囲った。また、蒸発散に伴う温度比較を行うため、各
試験体表面及びトレイ下部に温度測定点を設けた。周辺
環境のデータは屋上緑化システムの気象データを採用し
た。また、試験体と電子天秤への風の影響を抑えるため、
周囲は傾斜を設けた風防で囲った。表2に、実験に使用
した電子天秤の主な仕様を示す。
表-2 蒸発散実験時の測定機器
名称(型番) メーカー 主な仕様
質量電子天秤
(GP-20KR)(株)エー・アンド・デイ
ひょう量:21kg 目量:1g使用範囲:5~21kg 補助表示:0.1g
測定項目測定機器
::::ロックウール ::::生コケ
::::トレイ ::::温度測定点
図-6 蒸発散実験の概要図
2.2 実験結果
図-7に夏季(2006/09/20)と冬季(2006/12/04)にお
ける蒸発散実験測定データ(気象概況、試験体の体積含
水率及び蒸発量、試験体温度変化)と、図-8に飽差と蒸
発量の関係を、図-9夏季の蒸発量と外気気候の相関を示
す。蒸発量の測定精度を確認するために、飽差と蒸発量
の関係を調べたところ夏季、冬季においてコケ有り、コ
ケ無し共に相関係数 R=0.97以上と高い相関が得られた。
蒸発量と外気気候の関係においては、日射量との相関
が最も高く、相関係数はコケ有りでR=0.936、コケ無し
でR=0.946となった。次に湿度との相関が高く、相関係
数はコケ有りでR=0.922、コケ無しでR=0.931となっ
た。気温とは、相関係数はコケ有りでR=0.848、コケ無
しでR=0.868と良い相関が見られた。
蒸発量と風速の相関関係は、まったく見られなかった。
これは、風速の測定を試験体の直上ではなく、高さ 2.5m
に設置した屋上緑化システムの風速計のデータを使用し
たためと思われる。
温湿度・日射量
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
温度[℃
] 湿度
[%]
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1000
日射量
[W/㎡
]
気温 湿度 日射量
体積含水率・蒸発量
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
体積含水率
[㎥/㎥
]
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
蒸発量
[g]
コケ無体積含水率 コケ有体積含水率 コケ無蒸発量 コケ有蒸発量
表面・下部温度
-5
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
0:00
3:00
6:00
9:00
12:00
15:00
18:00
21:00
時刻
温度[℃]
コケ無表面 コケ有表面 コケ無下部 コケ有下部
図-7 蒸発散実験測定データ(左:夏季、右:冬季)
風防
電子天秤 電子天秤
コケ有 コケ無
9/20
9/20
9/20
12/4
12/4
12/4
-
y = 2.454x + 6.192
R =0.974
y = 0.343x - 0.264
R = 0.974
-202468101214161820
-4 0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40飽差[g/kg(DA)]
蒸発量[g]
コケ無 コケ有
y = 0.244x - 0.823
R = 0.978
y = 0.542x - 0.292
R =0.976
-2-1012345678910
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24飽差[g/kg(DA)]
蒸発量
[g]
コケ無 コケ有
図-8 飽差と蒸発量の関係(左:夏季、右:冬季)
気温と蒸発量
y = 1.367x - 28.837
R = 0.848
y = 1.099x - 23.182
R = 0.868
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34気温[℃]
蒸発量[g]
コケ無 コケ有
湿度と蒸発量
y = -0.256x + 17.948
R = 0.931
y = -0.322x + 22.563
R = 0.922
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
30 34 38 42 46 50 54 58 62 66 70 74 78 82 86 90湿度[%]
蒸発量
[g]
コケ無 コケ有
風速と蒸発量
y = 1.987x + 2.119
R = 0.315
y = 2.741x + 2.545
R = 0.341
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4風速[m/s]
蒸発量[g]
コケ無 コケ有
風速と蒸発量
y = 1.987x + 2.119
R = 0.315
y = 2.741x + 2.545
R = 0.341
-2
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4風速[m/s]
蒸発量[g]
コケ無 コケ有
図-9 蒸発量と外気気候の関係
3.まとめ
コケ植栽による屋上緑化のヒートアイランド現象の緩
和効果を定量的に評価するために、長短波放射量、蒸発
散量の測定実験を行い、屋上緑化システムの熱特性につ
いて検討を行った。その結果以下の知見を得た。
長短波放射量測定実験より、コケ植栽表面がコンクリ
ート表面より短波長である反射日射量が多く、ヒートア
イランド現象の緩和効果が認められる。コケ植栽表面が
コンクリート表面より長波長の表面放射量が少なく、日
射の照り返し防止効果、焼けこみ防止効果が期待できる。
蒸発散実験により、夏季、冬季ともに保水時において
コケ有りがコケ無しより蒸発散量が多く、コケ植栽屋上
緑化周りの熱改善効果が認められる。
謝辞
本研究を進めるにあたり、多くのご指導・ご協力を頂いた㈱
国際環境デザイン協会、兒玉孝則氏には多大なる感謝の意を表
します。
参考文献
1) 梅干野ら:屋上芝生植栽の熱的特性に関する実験研究
(その 1)~(その 10)、日本建築学会大会学術講演梗概集
1991-1993
2) 三坂ら:軽量・薄層型屋上緑化技術のヒートアイランド緩
和効果の定量評価に関する研究、日本建築学会技術報告集
pp195-198、2005.06
3) 臼倉ら:屋上のコケ植栽による熱的性能に関する研究
(その 1)~(その 2)、日本建築仕上学会学術講演会研究発表
論文集、pp.171-178、2004.10
4) 臼倉ら:屋上のコケ植栽による熱的性能に関する研究
(第 1報)~(第 3報)、空気調和・衛生工学会学術講演論文
集、2005-2006
9/20 12/4