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The world leader in serving science 分科会2-B ICP-MSの分析ノウハウ 干渉回避のための最新テクニック エレメンタルセミナー2018 サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社

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The world leader in serving science

分科会2-B ICP-MSの分析ノウハウ 干渉回避のための最新テクニック エレメンタルセミナー2018 サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社

2

日常ICP-MSの運用時に発生する事例 感度が出ない 安定性が悪い バックグラウンドが高い 定量結果 ⇒ 高いまたは低い/認証値と一致しない/添加回収率が低いまたは高い もっと高感度に測定したい/結果の信頼性を高めたい これらを解決するために・・・

ICP-MSの分析で直面する事例

3

日頃の測定でICP-MSの性能を十分発揮するために押さえておきたいポイント ① 装置コンディションの維持・管理 ② 汚染管理 ③ 非スペクトル干渉 ④ スペクトル干渉 これらの項目について、汚染管理の重要性から干渉対策まで、ICP-MSの実運用に役立つ着目すべきポイントをご紹介します。 シングル四重極ICP-MS、トリプル四重極ICP-MS、二重収束型ICP-MSで得られるデータの特長や信頼性についても解説します。 明日から実践できるテクニックを揃えました。ぜひ、この機会をお見逃しなく。

本講演の内容

4

ICP-MSの特長と他の無機元素分析法との比較

※測定濃度範囲は測定元素・波長に依存

ICP-MS分析 ICP発光分析 原子吸光分析 フレーム 電気加熱

試料形態 溶液 溶液(固体) 溶液 溶液

サンプル導入法 ネブライザー ネブライザー 水素化物

ネブライザー 水素化物 液体注入

分析対象 多元素 多元素 単元素 単元素 測定可能元素数 > 80元素 72元素以上 67元素 46元素

測定可能濃度範囲 sub ng/L~ 数100 mg/L μg/L ~% sub mg/L~

数10 mg/L sub μg/L~μg/L

検量線の直線範囲 9桁 5桁~8桁 2桁 2桁

主な定量法

検量線 標準添加法 内標準法

同位体希釈法

検量線 標準添加法 内標準法

検量線 標準添加法

検量線 標準添加法

試料の上限塩濃度 0.2 %程度 20%(スラリー) 5%程度 20%(スラリー) 必要試料量 0.1~1 mL 1~5 mL 1~5 mL <0.1 mL

留意すべき干渉 スペクトル干渉 マトリックス干渉

分光干渉 イオン化干渉

化学干渉 イオン化干渉 化学干渉

1試料の分析時間 2分 1.5~2分 30秒 6分 1日当たりの試料数 > 250 >250 2000 <100

5

ICP-MSの測定で誤分析を引き起こす要因

設備の不良 ・排気、ガス圧、空調などの不良 装置のコンディション不良・汚染

前処理 ・汚染 ・濃度変化(揮発損失や沈殿) ・分解・抽出・希釈

物理干渉

イオン化干渉・マトリックス干渉

スペクトル干渉

マス軸・検出器などの校正が適切に行われていない

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日常ICP-MSの運用時に発生する事例 感度が出ない 安定性が悪い バックグラウンドが高い 定量結果 ⇒ 高いまたは低い/認証値と一致しない/添加回収率が低いまたは高い もっと高感度に測定したい/結果の信頼性を高めたい

ICP-MSの分析で直面する事例

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試料導入系を確認する

・ネブライザーに詰まりはないか ・霧が安定して噴霧されているか

・チャンバーの壁面に液だまりがついてドレインへの排出が不定期になってないか

・サンプルライン ・標準ライン のチューブが劣化していないか

・サンプルはスムーズに吸い上がっているか、気泡が混入してないか

・インジェクター部につまりはないか

8

インターフェースコーンの状態を確認する

インターフェースコーンにはサンプルに起因するマトリックスが堆積する オリフィス部 穴径が汚れでつまっていないか 劣化によって穴が大きくなっていないか 形状が変化してないか

9

設備の確認

設備不良 装置への影響 データへの影響

アルゴンガスの供給圧が不安定

プラズマガス・ネブライザーガス流量の不安定化 安定性不良

コリジョンリアクションガスの供給圧が不安定

コリジョン・リアクションガス流量の不安定化 安定性不良

温度・湿度の乱高下 マス軸のずれ 安定性不良・感度不良

機器の校正 データへの影響

検出器の校正(電圧) 感度不良

検出器の校正(クロス校正) 検量線の直線性・測定データのずれ

マス軸の校正 安定性不良・感度不良

装置のチューニング 安定性不良・感度不良・干渉の影響大

10

コリジョン・リアクションガスのパージ

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

3.00

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12時間(min)

相対感度

238U16O

238U

208Pb

111Cd

7Li

59Co

• コリジョン・リアクションガスラインが十分パージされていないと本来の干渉除去性能が発揮出来ない • ガスボンベから装置までの配管が長い場合長期的に装置の運用を止めていた場合 などには、測定前に十分なパージを行う必要がある。またはガス純化フィルターを使用する。

パージ時間無しでHeガスを流しはじめてからの各元素の感度変化

11

• 試料マトリックスや酸起因による汚れの蓄積が装置パフォーマンスの低下を招く ⇒感度の低下 ⇒イオン強度値のドリフト

イオンレンズの汚れによる感度・精度の低下

引出電極 軸ずらしレンズ イオンレンズ

サンプリングコーン スキマーコーン

+

+

CRC 交流電圧

M+ プラズマ

12

装置の校正・性能確認

装置のチェック項目 チェック内容

マス軸 マス軸の校正

検出器 クロス校正 電圧の最適化

感度 Li、Co、In、U(その他Y、Tlなど)

酸化物生成比率 CeO/Ce

二価イオン生成比率 Ba++/Ba Ce++/Ce

安定性 10min

バックグラウンドノイズ m/z 4.5、220.7など

干渉除去性能 (コリジョン・リアクションモード、Coldプラズマモード)

Co/ClO(塩酸含有チューニング液) ArArのカウント値 Co/ArO

13

装置コンディションの維持・管理

Qtegraであれば、日々の装置状態管理のために必要不可欠な オートチューニングの結果やパフォーマンスレポートがすべて記録として残る

14

• 他社90度偏向レンズよりフォーカスポイントが多い=イオンロスが少なく高感度 • 真空部のユーザーメンテナンスが不要、最短の装置ダウンタイム • 試料導入部、インターフェイス部のメンテナンス・交換も容易に実施可能

iCAP RQ 抜群のメンテナンス性と装置パフォーマンスの持続

大気圧部

真空部

イオンレンズ

CRC

検出器

質量分離部 四重極

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日常ICP-MSの運用時に発生する事例 感度が出ない 安定性が悪い バックグラウンドが高い 定量結果 ⇒ 高いまたは低い/認証値と一致しない/添加回収率が低いまたは高い もっと高感度に測定したい/結果の信頼性を高めたい

ICP-MSの分析で直面する事例

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• 要求される分析精度を担保するには、以下の外部要因を考慮し対策する必要がある

• サンプル前処理ならびに装置設置環境 • 水、酸などの試薬純度 • サンプル調製および保存などに用いる器具の洗浄度 • 装置(導入系の洗浄度、測定試料の影響によるメモリー)

バックグラウンドの要因

濃度

イオン強

度値

(cp

s)

バックグラウンドの要因 ①測定元素以外の要因 ・装置ノイズ ・スペクトル干渉 ②測定元素そのもの ・装置導入系の汚染 ・ガス中の不純物 ・試薬、水、溶媒 ・作業環境、操作による汚染

BEC

Std-2 検量線

Std-1

Std-0

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汚染管理 なぜICP-MSは汚染管理が重要か

• 固体試料中の1 ppmを定量したい場合

ICP-MS ICP発光 固体直接分析

前処理の例 酸分解・溶液化 酸分解・溶液化 加工、成形

装置へ導入するマトリックス濃度の例

1,000倍希釈 (0.1%)

100倍希釈 (1%)

直接導入 (100%)

必要感度 (最低必要な感度) 1 ppb 10 ppb 1 ppm

汚染管理が必要なレベル 0.1 ppb 1 ppb 0.1 ppm

高い感度を追及するほど汚染管理が重要

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汚染の原因はどこから?

試料秤量

分析

試料処理 測定

標準液調製

試料調製

分解

ピペット 酸

超純水 作業環境

分解容器

作業環境(人・設備など) 粉砕機

作業環境

秤量容器

薬さじ

超純水

メスフラスコなどの容器

酸(硝酸など)

標準液・分取容器

ピペット(チップ)

メスフラスコなどの容器

ガス類(純度)

装置

装置(吸引部)

超純水

作業環境(人・設備など)

作業環境(人・設備など)

汚染の要因は多岐にわたる 超純水においてもバックグラウンドは「0」ではない

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汚染の原因を特定する

要因 確認事項

超純水 注いですぐの超純水を装置に導入 装置メンテナンス

酸 開封後すぐの酸でブランク溶液を調整 酸のグレードを変更

容器 十分酸洗浄した容器で確認

前処理 操作ブランクをチェックする

装置本体 (ポンプチューブ、ネブライザー、チャンバー、トーチ、インターフェースコーン、引出電極)

マトリックス導入履歴を確認 チューブの交換、各パーツの交換、洗浄など

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装置本体 ブランクに影響を与える可能性のあるパート

トーチ(とくにインジェクター部) スプレーチャンバー

ネブライザー

ペリスタリック ポンプチューブ

サンプルプローブ

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新品のパーツは要洗浄 ポンプチューブの例

Zn Ca Na Al K Mg Ni Sn Cu Fe

交換直後 608.55 355.86 79.5 5.95 4.0 3.85 0.45 0.32 0.18 0.15

5分後 1.43 0.5 0.0 0.00 0.0 0.16 0.04 0.08 0.01 0.00

10分後 0.08 0.0 0.0 0.00 0.0 0.08 0.03 0.05 0.00 0.00

30分後 0.00 0.0 0.0 0.00 0.0 0.00 0.02 0.01 0.00 0.00

• 洗浄済みのポンプチューブから新品のポンプチューブに交換した場合の溶出濃度レベルの例

単位:μg/L

新品のポンプチューブは事前に希硝酸等の洗浄液で十分リンスし、バックグラウンドを確認してから測定する

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新品のパーツは要洗浄 ネブライザーの例

Ca Al Na Mg K Fe Ba

洗浄済みネブライザー 3.98 7.79 0.15 0.21 0.98 6.47 0.02

新品に交換直後 9932.17 1276.00 981.65 330.37 211.05 104.16 71.38

10分後 290.22 54.71 120.89 72.65 173.94 32.40 22.37

12時間後 1.76 14.09 1.07 0.74 1.87 7.20 0.03

Cu Pb Ni Cr Mn Ti Li

洗浄済みネブライザー 0.64 0.03 0.30 0.37 0.13 0.27 0.01

新品に交換直後 36.45 23.19 17.07 12.49 7.92 3.37 0.69

10分後 7.22 0.83 3.82 4.33 1.52 1.17 0.11

12時間後 0.82 0.05 0.40 0.52 0.12 0.32 0.01

• 洗浄済みのネブライザーから新品のネブライザーに交換した場合のBECの変化の例 単位:ng/L

新品のネブライザー、チャンバー、トーチは事前に酸洗浄し、バックグラウンドを事前に確認する

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装置本体 ブランクに影響を与える可能性のあるパート

• インターフェースコーン • 引出電極

引出電極: イオンを加速をつけ

て引き込む

サンプリングコーン、スキマーコーン: イオンを取り込む

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マトリックス耐性を向上させる 新しいスキマーコーンインサート

iCAP RQ/TQ ICP-MSのインターフェース部

• コーンに起因するバックグラウンドを引き込みにくくする構造

• マトリックス耐性のために最適化された温度特性

• スキマーコーンインサートを付け替えることでマトリックス耐性を調製可能

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新品のパーツは要洗浄 インターフェースコーンの例

元素 2週間洗浄後 (ng/L)

取付初日 (ng/L)

Al 16.8 91.9 Ni 8.6 22.6 Cr 0.7 1.5 Cu 3.1 13.4 P 28.5 47.4 Fe 7.4 32.5 Na 3.3 3.6 Mg 1.9 15.2 K 3 6

Ca 4.7 24.6 Li 0.2 4.3 B 27.7 204.2 Ti 0.2 1.4

Mn 0.8 1 Zn 0.8 1.8 Pb 0.1 0.3

新品のコーンは事前に洗浄し、装置に取り付けプラズマ点灯させ、しばらく洗浄液を導入してバックグラウンドを下げる

26

装置設定によるBECの変化

引出電極設定 Li Na Mg Al K

-100V 0.016 2.779 0.090 0.066 8.382

-200V 0.102 25.339 0.089 0.066 16.151

-300V 0.463 172.957 0.214 0.188 17.930

Ca Cr Fe Ni Cu

-100V 0.151 0.004 0.044 0.022 0.006

-200V 0.214 0.007 0.049 0.030 0.010

-300V 0.261 0.015 0.102 0.043 0.038

• 引出電極の設定によるBECの違いの例 単位:μg/L

引出電極で引き込み過ぎるとバックグラウンドが高くなる場合があるので注意が必要

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希釈ガス(Ar)

アルゴンガス希釈(AGD)とは…

ネブライザーガス(キャリアーガス)流量を低く設定し、霧の生成を抑制することにより、プラズマに到達する試料導入量を抑える方法。

インジェクター部まで高マトリックス試料が導入される

洗浄効率が悪くなる

メモリー効果が高くなるため、高濃度の標準液、

サンプル導入後は十分なリンスを実施する

高マトリックス試料の直接分析はメモリーに注意

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• 海水認証標準物質 NASS-6の定量結果

*Co,Uは参照値

海水の直接導入でも、妨害イオン干渉をHe-KEDモードのみの単一モードにより除去でき、迅速に分析が可能

測定元素 m/z DL (μg/L)

認証値 (μg/L)

NASS-6 (μg/L)

NASS-6 + 1μg/L

添加回収率 (%)

Co 59 0.002 0.015* 0.019 1.00 98 Ni 60 0.03 0.301±0.025 0.29 1.22 93 Cu 65 0.02 0.248±0.025 0.25 1.19 94 Zn 66 0.02 0.257±0.020 0.29 1.31 102 As 75 0.05 1.43±0.12 1.45 2.52 107 Se 78 0.3 ― 0.4 1.3 90 Mo 95 0.004 9.89±0.72 9.72 10.7 98 Cd 111 0.002 0.0311±0.0019 0.026 1.03 100 Pb 208 0.0006 0.006±0.002 0.0042 0.965 96 U 238 0.002 3* 3.05 4.11 106

環境水の分析: ICP-MSによる海水の直接導入による分析

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汚染管理・定期的なメンテナンスが必要な導入系パーツ

サンプリングコーン スキマーコーン

トーチ、チャンバー、ネブライザー ポンプチューブ

30

208PbのBEC 0.3 ng/L

多様な材料分析でも装置のダウンタイムを減らし、 効率的な分析が可能

交換する導入系

ネブライザー/チャンバー トーチ/トーチインジェクター

サンプルコーン/スキマーコーン

多種多少なマトリックスの測定でもダウンタイムは最小限 装置真空内部汚染確認 Pbマトリックス試料( Pb=1000 mg/L)を6時間導入し、導入後に導入系パーツを交換 PbのBECを確認

マトリックスが変わるときには導入系を交換する

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日常ICP-MSの運用時に発生する事例 スペックの感度が出ない 安定性が悪い バックグラウンドが高い 定量結果 ⇒ 高いまたは低い/認証値と一致しない/添加回収率が低いまたは高い もっと高感度に測定したい/結果の信頼性を高めたい

ICP-MSの分析で直面する事例

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• 低濃度域の直線性が低い

導入系の清浄度が低い

干渉が除去しきれていない

⇒汚染管理、コリジョン・リアクションの設定確認

• 検量線が反る

容器への吸着

⇒適切な濃度・種類の酸を添加する

検量線の直線性が悪い要因

33

① 物理干渉 試料の粘度、表面張力の違いによりイオン源への輸送効率が変化し、その影響により感度が変動する。

② イオン化干渉 測定試料溶液中に高濃度の共存元素が存在すると、これらの元素がイオン化される時に発生する電子によってプラズマ中の電子密度が増加し、イオン化率が変化する。

③ マトリックス干渉(空間電荷効果) 多量の元素が存在すると測定対象元素の感度が一般的に減少する。この傾向は共存元素と測定対象元素の相対原子量の差が大きいほど顕著に表れる。 その原因としては、イオンレンズ部における空間電荷効果、サンプリングコーンとスキマーコーン間で起こる原子間の衝突と拡散等が考えられる。

ICP-MSの非スペクトル干渉

ICP-MSは装置原理上、マトリックスの影響により 感度変動を生じやすいことを理解し、適切な対策をすることが必要

34

共存マトリックスによる減感、増感

•酸濃度が及ぼす元素の感度変化

酸濃度(%)

酸1%

の感

度を

100と

した場

合の

対感

標準液とサンプルで酸濃度が異なる場合、とくにイオン化ポテンシャルの高い元素のイオン化効率が異なってくる場合があるため注意が必要である。内標準元素のイオン化ポテンシャルが目的元素と異なる場合には、内標準法では補正しきれない場合がある。

35

• 非スペクトル干渉による感度変化

• 酸に起因するスペクトル干渉の変化

• 酸によって導入系から溶出されるバックグラウンドが変わる

• 酸の不純物の影響

酸濃度が標準液とサンプルで異なる場合に起こること

36

共存マトリックスによる減感、増感 • 試料中に炭素を含む場合、As、Seの感度が増加する

• 生体試料を酸分解せず、希釈のみで分析する場合 • 水溶性溶媒を水希釈のみで分析する場合 など

濃度

(μg

/L)

サンプル中に有機物が含まれる場合、プラズマ中での原子化、イオン化効率が変化し、As、Se、Teなどの元素が増感するため注意が必要である。

37

非スペクトル干渉を回避する手段

対策 注意点

内標準法 目的元素とは別の元素で補正する方法であるため、誤差を生じる場合がある

マトリックスマッチング法 マトリックスの影響による感度変動やスペクトル干渉の影響は補正されるが、マトリックスマッチングに使用する試薬の不純物を考慮する必要がある

標準添加法 検量線の作製に十分な試料量が必要 酸や装置ブランクの差引が必要 スペクトル干渉の影響は回避できない

希釈 検出限界値 希釈誤差 希釈時の汚染

38

干渉が十分除去出来ていない場合

定量結果: 17.9ppb

CN, CNHの干渉が

そのまま定量結果に反映される

コリジョン・リアクションにより干渉が除去されている場合

定量結果: 0.024ppb

• 有機溶媒(ケロシン溶解液)中Alの測定 • 粘性等による感度変化を考慮し標準添加法を採用。

無添加試料の信号に干渉が重複している場合は補正できず, 正の誤差を生じる!干渉を除去しバックグラウンドを含んだ値であることを認識する必要がある!!!

標準添加法はスペクトル干渉の影響を回避できない

39

① 多原子イオン干渉 アルゴンプラズマや試料中のH、Oに起因するArO、ArOH、ArAr 試料溶解などで用いた酸(HCl、H2SO4など)に起因するClO、SO、ArCl 共存元素による酸化物イオン(共存元素質量数+16) 共存元素の二量体、アルゴンや酸との間で生成する多原子イオン

② 二価イオン干渉 当該の一価イオンの1/2のm/zの位置にスペクトルが現れる 代表例)156Gd→156Gd++(m/z=78) 酸化物同様、アルカリ土類、希土類元素が共存すると顕著に見られる

③ 同重体干渉 測定対象元素と妨害元素の原子量が近接している場合、同重体イオンによる干渉が発生する 代表例) 40Caに対する40Ar、58Niに対する58Fe

ICP-MSのスペクトル干渉

スペクトル干渉の除去/低減方法は、四重極ICP-MSと 二重収束型高分解能ICP-MSで異なる

40

• 四重極ICP-MSは分解能でスペクトル干渉を除去することができないため、CRC内でさまざまな反応とエネルギー差を利用し、スペクトル干渉を除去/低減する

• コリジョンを用いた干渉除去 • 衝突誘起解離(Collision-Induced Dissociation) • コリジョン+運動エネルギー差による分別(Kinetic Energy Discrimination:KED)

• リアクションを用いた干渉除去 • 電荷移動反応(Charge Transfer) • 水素原子移動反応(H-atom Transfer) • プロトン移動反応(Proton Transfer) • 酸化・ハロゲン化反応( Oxidization、Halogenation)

四重極ICP-MSはCRC内でスペクトル干渉を除去/低減する

四重極ICP-MSは、コリジョンとリアクションをスペクトル干渉の種類に応じて使い分ける必要がある

41

• 同位体濃度または同位体比を調べる • 測定対象元素に二つ以上の同位体が存在する場合に有効 • 測定対象元素の同位体比が天然存在比と異なる場合は、何らかのスペクトル干渉が存在する可能性が高い

• 定性分析により、測定対象元素の質量数からマイナス16した位置と2倍した 位置のスペクトルの存在を確認する • 天然同位体が一つしかない元素の場合にも有効

四重極型ICP-MSにおけるスペクトル干渉の見分け方

例) 元素Aの天然同位体比

M-1 M M+1 M-1 M M+1

実試料測定

干渉の可能性-高

M-16 M 2M

例)測定対象元素質量:M 酸化物の影響 二価イオンの影響

42

Heコリジョン-KEDで干渉除去の効果を高める方法

Heコリジョン-KED 設定 利点 注意点

干渉除去を追求 He流量を上げる KED値を上げる

バックグラウンド(BEC) の低減、誤分析回避

目的元素イオンの感度低下 特に低質量元素

KED 目的元素イオンも排除される =感度低下

目的元素イオン 多原子イオン 不活性ガス(He)

四重極

CRC

43

日常ICP-MSの運用時に発生する事例 感度が出ない 安定性が悪い バックグラウンドが高い 定量結果 ⇒ 高いまたは低い/認証値と一致しない/添加回収率が低いまたは高い もっと高感度に測定したい/結果の信頼性を高めたい

ICP-MSの分析で直面する事例

44

コリジョン+KED リアクション

セルガス 不活性ガス(Heなど) 反応性ガス(H2、O2、 NH3など)

利点

• ほとんどの多原子イオン干渉に同一条件で有効

• セル内で副生成物ができにくい

→ 多元素一斉分析が可能

• 特定の干渉除去性能が高い → 単元素を高感度分析する場合に有効

問題点

• 一定の感度低下がある

• 同重体干渉、二価イオンの干渉は除去できない

• リアクションに比べ感度・干渉除去性能が劣る場合がある

• 選択性が非常に高い - 目的別にガスを選ぶ必要がある (単元素分析向き)

• セル内で副生成物ができやすい

リアクションは干渉除去性能が高い! しかし、シングル四重極の場合、すべての元素イオンがCRC内に導入されるため、目的外の反応が起こり、新たな干渉副生成物イオンができるリスクがあり、マトリックス条件などで、正確な測定ができない場合がある。

四重極でのコリジョン・リアクションにおける利点・問題点

45

• Heコリジョン-KEDは多原子イオン干渉の除去/抑制に優れているが、二価イオンの干渉は除去できない

• 希土類は二価イオンを生成しやすく、試料中に含まれている際は注意すべき

Heコリジョン-KEDでは測定できないケース 二価イオン干渉

Gd二価イオンピーク

Se測定同位体 77、78、80

Gd二価イオン 76、77、78、79、80 (77.5、78.5)

78Se Heコリジョン-KED 認証値(µg/kg) 1.6

測定値(µg/kg) 15.6

DL(µg/L) 0.02

土壌の含有試験液(HCl抽出)では希土類元素が共存する。希土類元素は二価イオンを形成しやすいためGd、Nd、Smの影響を受けSe、Asの定量結果が高めになる場合がある。二価イオンの影響はコリジョン-運動エネルギー分別では除去できない。

46

• 78Se測定は、H2リアクションを選択することで40Ar38Arの干渉除去をはじめ、Gdの二価イオン干渉も効果的に抑制できる

• その他、リアクションモードが効果的なアプリケーション例

H2リアクションによる土壌中の78Se測定

78Se H2リアクション Heコリジョン-KED 認証値(mg/kg) 1.6 測定値(mg/kg) 1.61 15.6

DL(µg/L) 0.003 0.02

測定元素 m/z 干渉の要因 干渉イオン ターゲット濃度 有効なリアクションガス Mg 24 有機溶媒 CC 1 ng/L 以下 H2/He、NH3/He、H2

Al 27 有機溶媒 CN 1 ng/L 以下 NH3/He S 32 水、大気 O2 1 mg/L 以下 O2/He K 39 アルゴン ArH 10 ng/L 以下 H2/He、NH3/He、H2

Ca 40 アルゴン Ar 10 ng/L 以下 H2/He、NH3/He、H2

Cd 111 Moマトリックス MoO - O2

47

• SQ ICP-MSで主に用いられるリアクションモードは、干渉イオンに対し反応性のあるガス(H2、O2、NH3)を用いることで干渉を除去/抑制する ① 干渉イオンの質量を変える ② イオンではない中性の分子に変える

• 注意点 • 目的に応じて最適な反応ガスを選択しなければならない • リアクション単一モードでの多元素一斉分析は行えない • 複雑なマトリックス試料の場合、CRC内で次々と連鎖反応が起こる可能性があるため、測定条件の十分な検討が必要となる

SQ ICP-MSのリアクションモード

SQ ICP-MSのリアクションでは、対応できないアプリケーションも存在する

48

シングル四重極ICP-MSとトリプル四重極ICP-MSの違いは?

シングル四重極ICP-MS (Thermo Scientific™ iCAP™ RQ ICP-MS)

トリプル四重極ICP-MS (Thermo Scientific iCAP TQ ICP-MS )

トリプル四重極ではコリジョン・リアクションセルの前にも四重極が設置されている

49

トリプル四重極ICP-MSの利点

トリプル四重極ICP-MS (Thermo Scientific iCAP TQ ICP-MS )

コリジョン・リアクションセルの前に四重極が設置されており、目的イオンおよび同じ質量をもつ干渉イオンだけを通過させることが出来る

セル内で副生成物が出来るリスクを下げることが出来る

マスシフト法を有効に利用出来る

50

同重体干渉はHeコリジョン-KEDでは除去・抑制できない

114

48Ti+

シングル四重極ICP-MS : He-KEDモード 生体試料(尿など)中のTiを測定する場合、CaやPOHの干渉があり、Tiの正確な測定は困難 47Tiは48Tiと比べて存在比率が低いため、感度が低下してしまう

48

48Ca+

31P16O1H+

51

114

シングル四重極ICP-MS: NH3モード(リアクションガスとしてNH3 を使用) →Ti がNH3との反応で生成する114[TiNH (NH3)3]

+ を測定することにより干渉は避けられる

48

114[TiNH (NH3)3]+ 48Ca+

31P16O1H+

シングル四重極でリアクション法を用いる場合

52

シングル四重極では対応しきれないケースが存在する

114

シングル四重極ICP-MS: NH3モード(リアクションガスとしてNH3 を使用) →Ti がNH3との反応で生成する114[TiNH (NH3)3]

+を測定することにより干渉は避けられる 問題点: シングル四重極型は114[TiNH (NH3)3]

+と同じ質量数のものを除去できないため、 これが存在すると、干渉となる。

48

114Cd+

48Ca+

31P16O1H+

114[TiNH (NH3)3]+

53

トリプル四重極は、生体試料中のTiを正確に定量することが可能

114

トリプル四重極ICP-MS : NH3モード(リアクションガスとしてNH3 を使用) →Ti がNH3と反応してクラスターイオン114[TiNH (NH3)3]

+ を生成する 114[TiNH (NH3)3]

+ を測定すれば48Ca+や31P16O1H+の干渉は避けられる Q1で114[TiNH (NH3)3]

+と同じ質量数のもの(114Cd+)は排除される ⇓ 正確な定量が可能

48

48Ca+

31P16O1H+

114[TiNH (NH3)3]+

54

例:二価イオンの干渉除去能力にどの程度差が出るのか?

測定モード シングル四重極 He-KED

シングル四重極 H2

トリプル四重極O2 (AsO)

Nd 1 µg/L 0.010 0.008 <0.001

Sm 1 µg/L 0.014 0.010 <0.001

土壌含有試験模擬試料 (Nd 300 µg/L + Sm 50 µg/L) 3.7 2.9 <0.001

Asに対するNd、Sm(二価イオン)の干渉 単位:µg/L

下表のとおり、シングル四重極では除去・抑制できない干渉が トリプル四重極では完全に除去できる →干渉を除去できなければ、精度を望むことはできない

55

トリプル四重極ICP-MSのリアクション法が有効な測定例

対象元素 マトリックス 干渉イオン トリプル四重極ICP-MSのリアクション条件 P 有機溶媒 COH3、NOH O2(マスシフト)

P Si SIH、NOH O2(マスシフト)

Si 有機溶媒 CO、NN H2(マスシフト)

Ca 超純水 Ar H2(オンマス)

Ti H2SO4 SO NH3(マスシフト)

Ti Si SiOH O2(マスシフト)

Cr H2SO4 SO、SOH O2(マスシフト)

Cr HCl ClOH O2(マスシフト)

V HCl ClO NH3(オンマス)

Ge HCl ArCl、Cl2 NH3(オンマス)

As HCl ArCl O2(マスシフト)

As 希土類元素 Nd++、Sm++、Zr O2(マスシフト)

As Co CoO O2(マスシフト)

Se 希土類元素 Gd++、Dy++ O2(マスシフト)

Cd Mo MoO O2(オンマス)

シングル四重極よりは高性能な測定が可能であるが、モード(オンマス or マスシフト)、 ガス種、ガス流量などのパラメーターを最適化することは必要不可欠

56

二重収束型高分解能ICP-MSの装置構成

トーチ

チャンバー

ネブライザー サンプリングコーン

スキマーコーン

スリット

磁場

電場 検出器

イオンレンズ

磁場型二重収束質量分析計=高分解能型 ・磁場および電場セクターを用いてイオンをその質量に応じて分離する ・イオンの持つ運動エネルギーを電場により選別する ・スリットの幅により質量分解能を調整することができる

(補足)イオンの初期方向の広がりとエネルギーの広がりの二つを収束できるので二重収束と呼ぶ

57

二重収束型高分解能ICP-MSは分解能でスペクトル干渉を分離する

• 分解能:質量分析計が近接した2本のスペクトルを分離できる限界の能力 • 四重極ICP-MSの分解能は300程度であるのに対し、二重収束型高分解能ICP-MSは最高分解能R=10,000の設定ができる

四重極ICP-MSによる

56Feと40Ar16Oのスペクトルピーク

二重収束型高分解能ICP-MSによる 56Feと40Ar16Oのスペクトルピーク (分解能4,000)

56Fe

40Ar16O 56Fe

40Ar16O

56Feと40Ar16Oを分離するために必要な理論分解能=56Fe質量/(56Fe-40Ar16Oの質量差) m/Δm =55.9349/(55.93494-55.95729)= 2,503 (分解能R=4,000で分離可能)

58

各種ICP-MSでの測定条件比較 硫酸液性試料中の極微量を測定する場合

• トリプル四重極ICP-MS:コリジョン・リアクションセルガスおよび測定モード、 プラズマ出力設定が必須

• 二重収束型高分解能ICP-MS:分解能(スリット)のみ

測定対象元素 トリプル四重極ICP-MS 二重収束型高分解能ICP-MS Plasma condition CRC gas mode Plasma condition Resolution

27Al Cold NH3 On mass Hot MR 31P Hot O2+H2 Mass shift Hot MR or HR 39K Cold NH3 On mass Hot HR

40 / 44Ca Cold NH3 On mass Hot MR 47 / 48Ti Hot NH3 Mass shift Hot HR

51V Hot NH3 On mass Hot MR 52Cr Cold NH3 On mass Hot MR 55Mn Cold NH3 On mass Hot MR 56Fe Cold NH3 On mass Hot MR or HR 59Co Cold NH3 On mass Hot MR 58Ni Cold NH3 On mass Hot MR 63Cu Cold NH3 On mass Hot MR 68Zn Hot NH3 Mass shift Hot HR 75As Hot O2 Mass shift Hot HR

その他 Hot or Cold Non-gas He On mass Hot LR or MR

トリプル四重極での測定では元素ごとにガスとモードの設定が必要

59

二重収束型高分解能ICP-MSだから実現できること

• ピークプロファイルを確認することで、得られている信号が測定対象元素なのか、それとも干渉なのかが視覚的に確認できる (四重極型ICP-MSではピークの分離ができず、干渉か否かの確認不可)

• 高濃度硫酸やフッ化水素酸、Siマトリックス試料の測定でも煩雑なパラメーター設定が必要なく、信頼性の高い正確なデータを誰でも取得することが可能 (四重極では測定モードやガスの種類などを選択する上に、ガスごとのチューニング条件最適化をしなければ高感度分析は実現できない)

• 38% HF中のP測定では、 PのBEC< 30 ng/L を実現

• 多元素の極微量分析でも元素により切り替わるのは分解能(スリット)のみであるため、四重極では必要不可欠なコリジョン・リアクションセルガスの置換時間が不要

二重収束型高分解能ICP-MSもトリプル四重極ICP-MSも、高感度であることは当然であり常識 簡単、迅速かつ正確なデータ取得を求められる場面ではThermo Scientific ELEMENT 2™が最適

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まとめ

ICP-MSで正確な分析を行うためには • 装置・設備のコンディションを管理する

• 汚染要因を理解し、適切な汚染管理を実施する

• 非スペクトル干渉を理解し、感度変化を適切に補正する/適切な試料導入法を選択する

• スペクトル干渉を理解し、干渉を避けるために必要な干渉除去を選択する/装置の選択を行う