cq10 続発性リンパ浮腫に対して心理社会的介入をした場合...
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10続発性リンパ浮腫に対して心理社会的介入をした場合,介入しなかった場合と比べてQOLは改善されるか
リンパ浮腫患者に対する心理社会的介入が,リンパ浮腫の軽減につながる明確な根拠はない。また,QOL改善を示した質の高いエビデンスはない。しかし,リンパ浮腫患者はさまざまな心理社会的問題を抱えていることは明らかであり,それに対する心理社会的支援は好ましいものと考えられる。したがって,患者の意向を十分に考慮し,何らかの有効性が評価できる場合には介入を考慮してよいと考えられる。
グレードE2
背景・目的リンパ浮腫は,未治療の場合や治療が不適切な場合,患者の心理的負担,抑うつ,社
会的抑制,性生活上の問題の原因となるなど,全般的な QOL の低下につながる。そのことが患者のリンパ浮腫に対する治療意欲の低下や障害となり,ひいてはリンパ浮腫の増悪につながる可能性がある。本項ではリンパ浮腫治療における心理社会的介入の効果を検討した。
解 説リンパ浮腫による心理的影響は,浮腫の程度と期間によるところが大きい。Maunsell
らは,223 例の乳癌術後症例を対象に,手術が与えた影響と心理的ストレスの履歴について調査を行った。術後 3 ヶ月で 82%の症例が患肢に一つ以上の問題を認めた(浮腫24%,脱力 26%,可動制限 32%,硬直 40%,痛み 55%,しびれ 58%)。患肢に問題がないとした症例に対し,3 ヶ月後の心理的ストレスが出現する頻度のオッズ比は,患肢に抱える問題の数とともに上昇した(抱える問題数 1 〜 2:オッズ比 1.2,3 〜 4:オッズ比 2.3,5 〜 6:オッズ比 3.1)。また術式に関係なく,郭清例では患肢の問題をより多く訴えた 1)。
Tobin らは,乳癌術後リンパ浮腫症例 50 例と対照群 50 例に対し,精神医学的面接を行い,心理的ストレスの程度を比較検討した。その結果,リンパ浮腫症例は,より多くの不安,抑うつ,適応障害,職業上の困難,家庭・社会・性生活上の問題を抱えていることが示された 2)。
Sitzia らは,リンパ浮腫に対する保存的治療が health─related QOL(HRQOL)に及ぼす変化について,34 例に対し Nottingham Health Profi1e Part 1(NHP─1)を用いて,治療前と 4 週間後で比較した。全体的な NHP スコアは,4 週間後に有意に低下しており(p < 0.01),HRQOL の改善がみられたものの,改善された項目は身体的可動性であり(p < 0.01),浮腫の変化(体積)は NHP スコアのいずれとも相関はなく,有意に相関があった項目は皮膚の状態と痛みの程度であった(p < 0.01) 3)。
CQ推 奨
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Mirolo らは,術後の中等度または重度のリンパ浮腫症例に対して,4 週間の複合的治療〔用手的リンパドナレージ(MLD),弾性包帯,シンプル(セルフ)リンパドレナージ
(SLD),弾性着衣,運動療法など総合的なセルフケア教育〕を行い,腕の周径と体積を測 定 し て,Functional Living Index─Cancer(FLIC)と Wesley Clinic Lymphoedema Scale(WCLS)を用いて QOL を調査した。その結果,治療後には上肢の周径と体積は有意に減少し,1 ヶ月後に 40%,それ以降 50%まで減少した。FLIC のスコアは治療前86%であったが,12 ヶ月後には 91%に増加した。一方,WCLS は,治療前の 78.5%から治療直後には 66.7%に減少したが,1 ヶ月後に治療前のスコアに戻り,6 ヶ月と 12 ヶ月後に増加した 4)。
Beaulac らは,乳癌術後のリンパ浮腫症例とリンパ浮腫を認めない症例を対象に,後ろ向きコホート研究を行い,QOL の変化を検討した。早期乳癌 151 例が対象となり,上肢の体積と,Functional Assessment of Cancer Therapy─Breast(FACT─B)によるQOL の項目と,身体面,活動面,心理面,社会面,乳癌関連満足度の 5 項目を検討した。その結果,42 例(27.8%)に患肢体積の減少(> 200cm3)がみられた。リンパ浮腫群は,リンパ浮腫を認めない群に比べ,FACT─B 全体(109.1 ± 2.9 vs. 122. 7 ± 1.4,p < 0.001)と 5 項目のうち 4 項目(身体面,活動面,心理面,乳癌関連満足度)で有意にスコアが低く,QOL が低下していた 5)。
一方,Lee らは乳癌術後 1 年以上の生存者 104 例を対象に前向き研究を行い,SF36で評価した患者の QOL は,リンパ浮腫を発症した群と発症しなかった群とで有意差がなかったとしている 6)。
Cemal らは,下肢リンパ浮腫患者の QOL を評価した 6 つの試験から,リンパ浮腫患者は種々の QOL を低下させる問題を持っているものの,その評価を定量することが難しく,今後この分野での客観的な QOL 評価法の開発や,前向き研究が必要であるとした 7)。
Memorial Sloan─Kettering Cancer Center の Passik らは,乳癌患者の心理相談を行っているが,主な内容は,抑うつ,不安,心理社会的,性生活上の問題であり,リンパ浮腫患者で心理社会的介入が必要な患者に対しては,個人的またはグループに有効とされる認知行動療法,支持的あるいは洞察指向的な精神療法を組み合わせたアプローチを用いている 8)。Towers らが行ったリンパ浮腫患者に対するインタビューでは,経済的サポートの欠如した社会体制や,医療従事者や社会のリンパ浮腫に対する意識が低いことについてストレスを感じているという結果であり,今後,癌リハビリプログラムにこのような問題に対する教育を組み込むべきとしている 9)。
これら多くの研究において,リンパ浮腫は,心理社会的問題を増加させることを示唆しているが,そのリスクを軽減させるための介入方法については,まだ科学的な知見は得られていない。そして,心理社会的介入がリンパ浮腫の軽減につながるエビデンスは現時点では示されていない。人的資源の問題,費用対効果の問題を含めて考えると,リンパ浮腫に対する心理社会的介入は,有効性が評価できる場合において考慮すべきであると考えられる。
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リンパ浮腫患者に対する心理社会的支援は,患者にとっては好ましいものと考えられるため,今後この分野において,正確な QOL 評価や介入に関する質の高い研究の実施が望まれる。
検索式・参考にした二次資料文献の検索は,CQ に含まれる用語および関連用語をキーワードとして,1)〜 2)の
手続きで行った。 1) 1980年から2013年7月までに出版された英語の医学論文を PubMedによって検索
した。検索語は,「lymphedema AND(psychosocial support OR psychotherapy OR psychological treatment OR social support OR psychosocial problems)」とした。該当した199編のうち,以下の基準に当てはまる論文を抽出した。
【適格基準】① リンパ浮腫患者における診断・治療に関する原著論文,臨床試験,メタアナ
リシス② Primary endpointが QOL,身体的苦痛,精神的苦痛,生活への影響,あるい
は実態調査【除外基準】
① 対象が小児に限定されているもの② Primary endpointが非臨床的指標のもの(サイトカイン,栄養学的指標,免疫
学的指標など)③ 対象が終末期患者(例えば,生命予後が6ヶ月以下など)に限定されているもの④ Full─length paperのある同一著者による短報⑤ ガイドライン,レビュー論文
2) 二次資料として,CochraneLibrary,UpToDate,Clinical Evidenceを参照した。
以上の手順で,本 CQ に関係する文献 9 編を得た。
文 献
1) Maunsell E, Brisson J, Deschênes L. Arm problems and psychological distress after surgery for breast cancer. Can J Surg. 1993;36(4):315─20.
2) Tobin MB, Lacey HJ, Meyer L, et al. The psychological morbidity of breast cancer─related arm swelling. Psychological morbidity of lymphoedema. Cancer. 1993;72(11):3248─52.
3) Sitzia J, Sobrido L. Measurement of health─related quality of life of patients receiving conserva-tive treatment for limb lymphoedema using the Nottingham Health Profile. Qual Life Res. 1997;6(5):373─84.
4) Mirolo BR, Bunce IH, Chapman M, et al. Psychosocial benefits of postmastectomy lymphedema therapy. Cancer Nurs. 1995;18(3):197─205.
5) Beaulac SM, McNair LA, Scott TE, et al. Lymphedema and quality of life in survivors of early─stage breast cancer. Arch Surg. 2002;137(11):1253─7.
6) Lee SH, Min YS, Park HY, et al. Health─related quality of life in breast cancer patients with lymphedema who survived more than one year after surgery. J Breast Cancer. 2012;15(4):449─53.
7) Cemal Y, Jewell S, Albornoz CR, et al. Systematic review of quality of life and patient reported
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outcomes in patients with oncologic related lower extremity lymphedema. Lymphat Res Biol. 2013;11(1):14─9.
8) Passik S, Newman M, Brennan M, et al. Psychiatric consultation for women undergoing rehabili-tation for upper─extremity lymphedema following breast cancer treatment. J Pain Symptom Manage. 1993;8(4):226─33.
9) Towers A, Carnevale FA, Baker ME. The psychosocial effects of cancer─related lymphedema. J Palliat Care. 2008;24(3):134─43.