小学生におけるsaq能力およびbssc運動遂行能力の発達と男女...

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Hokkaido University of Education Title �SAQ�BSSCAuthor(s) �, �; �, �; �, Citation �. �, 68(2): 579-586 Issue Date 2018-02 URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9644 Rights

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Hokkaido University of Education

Title 小学生におけるSAQ能力およびBSSC運動遂行能力の発達と男女差について

Author(s) 志手, 典之; 奥田, 知靖; 森田, 憲輝

Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 68(2): 579-586

Issue Date 2018-02

URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9644

Rights

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北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号� 平�成�30�年�2�月Journal�of�Hokkaido�University�of�Education�(Education)�Vol.�68.�No.2� February,�2018

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小学生におけるSAQ能力およびBSSC運動遂行能力の発達と男女差について

志手 典之・奥田 知靖*・森田 憲輝**

北海道教育大学岩見沢校体力学研究室*北海道教育大学岩見沢校ゲーム分析論研究室**北海道教育大学岩見沢校健康体力医学研究室

Development�and�Sex�Difference�of�SAQ�Ability�and�BSSC�Movement�Ability�in�School�Children

SHIDE�Noriyuki,�OKUDA�Tomoyasu*�and�MORITA�Noriteru**

Department�of�Physical�Fitness�Science,�Iwamizawa�Campus,�Hokkaido�University�of�Education�*Department�of�Game�Performance�Analysis,�Iwamizawa�Campus,�Hokkaido�University�of�Education

**Department�of�Medical�Science�in�Health�and�Fitness,�Iwamizawa�Campus,�Hokkaido�University�of�Education

概 要

 本研究では,小学校1~6年生の男女児童におけるSAQ能力およびBSSC運動遂行能力の発達と男女差について検討することを目的とした。対象は,北海道岩見沢市内のA小学校1~6年生の男女298名であった。SAQ能力の評価では,光電管システムを用いたN�Challengeによって,反応・スプリント走・右ターン・ミニハードル走・左ターン・スラローム走・総合の各タイムを計測した。BSSC運動遂行能力の評価では,5回の連続ジャンプを行わせ,接地時間と滞空時間を測定し,RJ指数を算出した。N�Challengeにおける各項目は,男女ともに,低学年の時期にタイムの短縮が認められた。また,リバウンドジャンプ時における滞空時間とRJ指数は,男女ともに中学年時に発達が顕著となった。男女差について見てみると,SAQ能力では早い時期にその出現が認められるのに対して,BSSC運動遂行能力では6年生だけに認められた。

キーワード:小学生,SAQ能力,BSSC運動の遂行能力,発達,男女差

Ⅰ 緒 言

 これまでに,子ども達の運動能力については,様々な角度から研究が行われている。運動の基本

である走・跳・投運動を用いた研究が数多く見られ,運動能力の発達の指標として用いられている。毎年度,文部科学省が「全国体力・運動能力,運動習慣調査」を実施しているが,昭和60年度と平

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志手 典之・奥田 知靖・森田 憲輝

成27年度の調査結果を比較すると,子ども達の体力水準は依然として低い状況にあることが報告されている(文部科学省,2015)。森(2009)は,現代の子ども達は,体格は向上しているものの体力は低下しており,その直接的な原因は「運動経験の不足」であると述べている。 幼児期から児童期にかけての神経系の発達は著しく,この時期はプレ・ゴールデンエイジ(5~8歳頃)やゴールデンエイジ(9~12歳頃)と呼ばれ,様々な遊びや運動経験を通して,巧緻性・敏捷性・平衡性・協応性といった能力が向上する時期である。その中でも,敏捷性は「動作開始の素早さ」,「動作切り替えの素早さ」,「動作の速さ」の3つの要素から構成されている。一般的に敏捷テストとしては反復横跳びが用いられているが,測定時間が20秒と比較的長いため,敏捷性の能力を単独で評価しているとは言えず,敏捷性の因子に加え持久性など,他の因子が混在する可能性が指摘されている(永田ほか,1967;酒巻ほか,1974)。また,多様な動きを獲得すべき児童期において,単一の運動様式による評価では,子ども達の運動能力を有効に測定できるとは言えないことから,奥田ほか(2015)は多機能な運動能力を簡便に評価できる新規テスト「N�Challenge」を開発し,小学生低学年児童に対する有用性を報告している。さらに,「動作の切り替えの素早さ」という観点から,リバウンドジャンプによる跳躍時のパワー発揮を評価することの有用性も報告されている(遠藤ほか,2007)。 本研究は小学生の男女児童を対象に,奥田ほか(2015) が 開 発 し たN�Challengeを 用 いSAQ(Speed,Agility,Quickness)能力を評価するとともに,リバウンドジャンプによるBSSC(Ballistic�Stretch-Shortening�Cycle)運動遂行能力を評価し,それらの能力の発達および男女差を検討することを目的とした。

Ⅱ 方 法

1�.対象者

 対象は,北海道岩見沢市にあるA小学校に在籍する男女児童298名(1年生:男子29名・女子26名,2年生:男子20名・女子32名,3年生:男子28名・女子18名,4年生:男子26名・女子22名,5年生:男子29名・女子30名,6年生:男子15名・女子23名)であった。本研究では,事前にA小学校の教諭と打合せを行うとともに,研究の趣旨を説明した後,測定を実施した。

2�.形態計測およびSAQ能力・BSSC運動遂行能

力の測定

 全ての測定は,平成27年12月24日に実施した。形態については,身長と体重を測定した。 SAQ能力の評価については,奥田ほか(2015)が開発したN�Challengeを用い(図1),光電管・タイマー・コンピュータを組み合わせた自動計測システム(ウチダシステム社製)により,反応・スプリント走・右ターン・ミニハードル走・左ターン・スラローム走・総合の各タイムを計測した.測定は2回実施し,よい方の記録を採用した。 BSSC運動遂行能力の評価については,マットスイッチ・リレー回路・コンピュータから構成されるマルチジャンプテスタ(DKH社製)を用いて,連続5回のリバウンドジャンプ時における接地時間および滞空時間を測定した。リバウンドジャンプ(RJ)指数を算出し,5回のジャンプで最もRJ指数が最も大きかったデータを採用した。この際,上肢の反動を利用しないよう両手を腰に当てた姿勢でジャンプを行わせた。また,児童には踏切時間を短くし,高く跳躍することを意識して行うように指示した。実験の概略は図2に示した通りである。なお,RJ指数は下記の算出式(図子ほか,1993;遠藤ほか,2007)を用いた。 RJ指数(m/秒)=1/8×g×滞空時間(秒)2/接地時間(秒)� g:重力加速度(9.81m/秒2)

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小学生における敏捷性能力の発達と男女差

3�.統計処理

 全ての測定結果は,平均値±標準偏差(Mean±SD)で表した。各学年間における差の有意性の検討は,一元配置の分散分析を行い,有意性が認められた項目についてTukey-Kramerの多重比較を行った。また,各学年における男女差については,Studentのt検定を行った。なお,有意水準は5%未満とした。

Ⅲ 結 果

1�.形態的要因における学年間の比較と男女差に

ついて

 各学年における身長と体重の比較を表1に示した。男女ともに,各項目において分散分析の結果は有意で,学年進行に伴う増加が認められた。男女差については,5年生の体重にのみ認められ,男子が女子に対し有意に高い値を示した(p<0.05)。

2�.N�Challengeの各タイムにおける学年間の比

較と男女差について

 各学年におけるN�Challengeの各タイムの比較を表2に示した。男女ともに,いずれの項目において分散分析の結果は有意であった。 反応時間では,男子において,3(p<0.05)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,また女子においては,2(p<0.05)・3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,5年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。 スプリント走では,男子において,2(p<0.05)・3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生

図1 N�Challengeの概略

図2 リバウンドジャンプの測定の概略

表1 各学年における形態的特徴の比較

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志手 典之・奥田 知靖・森田 憲輝

(p<0.01)が1年生に対し,5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。女子においては,3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,4(p<0.05)・5年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。 右ターンでは,男子において,3(p<0.05)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,また女子においては,3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,5(p<0.05)・6年生(p<0.05)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。 ハードル走では,男子において,2(p<0.01)・3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年�生(p<0.01)が1年生に対し,3(p<0.05)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。女子においては,3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が 1 年 生 に 対 し,3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。 左ターンでは,男子において,3(p<0.05)・4(p<0.05)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,女子においては,5年生が1(p<0.01)・2年生(p<0.05)に対し有意に速いタイムを示した。 スラローム走では,男子において,3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年

生に対し,5年生(p<0.05)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。女子においては,2(p<0 . 0 5)・3(p<0 . 0 1)・4(p<0 . 0 1)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,5年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。 総合タイムでは,男子において,2(p<0.05)・3(p<0.05)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,5年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。女子においては,2(p<0.05)・3(p<0.01)・4(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し,5年生(p<0.01)が2年生に対し有意に速いタイムを示した。 次に,各項目における男女差について見てみると,いずれの項目においても男子が女子に対し速いタイムを示す傾向が認められた。反応時間においては,1(p<0.05)・2(p<0.05)・4(p<0.05)・5年生(p<0.05)で男子が女子に対し有意に速いタイムを示した。スプリント走においては6年生(p<0.01),右ターンでは5年生(p<0.05)で,男子が女子に対して有意に速いタイムを示した。ハードル走においては,2年生以上で男子が女子に対して有意に速いタイムを示した(2年生:p<0.01・3年生:p<0.05・4年生:p<0.01・5年生:p<0.01・6年生:p<0.01)。左ターンでは5(p<0.05)・6年生(p<0.05)で男子が女子に対して

表2 各学年におけるN�Challengeの各タイムの比較

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小学生における敏捷性能力の発達と男女差

有意に速いタイムを示した。スラローム走では1(p<0.05)・3(p<0.01)・5年生(p<0.05)において,総合タイムでは,2年生以上で男子が女子に対して有意に速いタイムを示した(2年生:p<0.05・3年生:p<0.05・4年生:p<0.05・5年生:p<0.01・6年生:p<0.05)。

3�.リバウンドジャンプによる跳躍動作時の各パラ

メータにおける学年間の比較と男女差について

 各学年におけるリバウンドジャンプによる跳躍動作時の各パラメータの比較を表3に示した。男女ともに,いずれの項目において分散分析の結果は有意であった。 接地時間では,男子において,5年生が1(p<0.01)�・2(p<0.05)・3年生(p<0.01)に対し, 6年生が3年生(p<0.01)に対し,有意に遅かった。また,女子にいては, 6年生が1(p<0.01)・2(p<0.05)�・3年生(p<0.01)に対し有意に遅い接地時間を示した。

 滞空時間では,男子において, 3(p<0.01)・4(p<0.05)・5(p<0.01)・6年生(p<0.01)が1年生に対し, 6年生が2(p<0.01)・4年生(p<0.05)に対し有意に高い値を示した。女子においては, 3(p<0.01)・5(p<0.01)・6年生(p<0.05)が1年生に対し, 5年生(p<0.01)が2年生に対し有意に長い滞空時間を示した。 RJ指数では,男子において, 3(p<0.05)・6年生(p<0.05)が1年生に対し,女子において, 3(p<0.01)・5年生(p<0.05)が1年生に対し有意に高い値を示した。 各パラメータにおける男女差について見てみると,6年生の滞空時間(p<0.05)とRJ指数(p<0.01)において,男子が女子の値を有意に上回った。

Ⅳ 考 察

1.SAQ能力の発達と男女差について

 これまでに,敏捷性を評価するテストとしては,

表3 各学年におけるリバウンドジャンプによるBSSC運動遂行能力の比較

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志手 典之・奥田 知靖・森田 憲輝

反復横跳び,J.S.テスト(Jump�Step�Test),折り返し走(5m×4往復),シャトル・ラン,時間往復走,開閉脚跳び,バーピー・テスト,ステッピング,ジグザグ・ドリブルなど,単純な素早さ・スピードに加えて,様々な身体活動を正確に行う要素を含む方法が採用されている(磯川ほか,2007)。学校現場では,これまで旧文部省・スポーツテストおよび現文部科学省・新体力テストにおいて採用されている反復横跳びが多く用いられている。しかし,測定時間が20秒間と比較的長いため,敏捷性因子に加え持久性など他の体力因子が混在する可能性が指摘されている(永田ほか,1967;酒巻ほか,1974)。そのため,本研究では,短時間で簡易に,複数要素の敏捷性の評価が可能な新しい評価テストであるN�Challenge(奥田ほか,2015)を用いて,小学生のSAQ能力を評価した。 学年進行に伴うN�Challengeの各タイムの比較について見てみると,女子の左ターンを除く全てのタイムで,2年生または3年生以降,有意なタイムの短縮が認められた。また,3年生以降では,男女ともに,各学年間に有意な差は認められなかった。このことは,N�Challengeによって評価された小学生のSAQ能力は低学年から中学年にかけての早い時期に発達することを示していると考えられる。宮口ほか(2009)は,幼児におけるラダー運動と運動能力の関係性について検討した結果,年長児は年中児に比べて難易度の高い運動課題を正確に速く実施できることを報告している。その要因として,年中から年長にかけて運動を統括する神経系が発達し,各運動が密接に関連したことを挙げている。このことは,子ども達のSAQ能力の発達は幼少期のかなり早い時期に起こることを示唆するものである。 各学年におけるN�Challengeの各タイムの男女差について見てみると,反応・ハードル走・スラローム走・総合の各タイムで低学年から,男子が女子に対し有意に速いタイムを示した。このことは,これらの項目では,低学年の早い時期から,男子は女子に対し高い能力であったことを示して

いると考えられる。それに対して,スプリント走・左右のターンでは,高学年においてのみ男子が女子に対し有意に速いタイムを示し,単純な運動様式の直線走やターンでは,高学年期にその能力に男女差が生じるものと考えられる。以上のことから,ハードル走やスラローム走は,敏捷性の中でも「動作切り替えの素早さ」が要求され,このような運動様式では,小学校期の早い段階で男女差が生じることが示唆された。

2.BSSC運動遂行能力の発達と男女差について

 BSSC運動のパワー発揮能力を評価するために,図子ほか(1993)はリバウンドドロップジャンプによる評価方法を提案した。リバウンドドロップジャンプにおいて測定される接地時間および滞空時間は,各々,独立した要因であり,接地時間からは運動遂行時間の短縮能力を,また,滞空時間からは高い跳躍高の獲得能力を評価できることが報告されている(図子ほか,1995a,b)。本研究では,小学生におけるBSSC運動遂行能力をより安全に評価するため,リバウンドジャンプを用いた。 学年進行に伴うリバウンドジャンプ時の接地時間,滞空時間およびRJ指数の比較について見てみると,接地時間においては,男子では5年生が1・2・3年生に,6年生が3年生に対し,また,女子では6年生が1・2・3年生に対し有意に遅い値を示した。このことは,男女ともに,高学年児童において,接地時間の遅延が生じたことを示しており,運動遂行時間の短縮能力の低下が考えられる。滞空時間においては3・4・5・6年生が1年生に,6年生が2・4年生に対し,また,女子では3・5・6年生が1年生に,5年生が2年生に対し有意に高い値を示した。また,中学年,高学年では,男女ともに各学年間に有意な滞空時間の差は認められなかった。このことは,男女ともに,中学年時に高い跳躍高の獲得能力が増大することを示していると考えられる。RJ指数においては,男子では3・6年生が1年生に対し,女子では3・5年生が1年生に対し有意に高い値を

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小学生における敏捷性能力の発達と男女差

示した。上述の滞空時間と同様に,中学年,高学年の各学年間に有意なRJ指数の差は認められなかった。このことは,BSSC運動の遂行能力は中学年時に増大することを示していると考えられる。 志手・新開谷(1996)は,小学校4~6年生の男女児童におけるBSSC運動の遂行能力の経年的な増大が接地時間に差が認められなかったことから,跳躍高の増大に起因していることを報告している。また,遠藤ほか(2007)は6歳~18歳の男子を対象にリバウンドジャンプを用いた研究において,踏切時間は低年齢から一定であること,また,滞空時間においては経年的な発達が認められることを報告している。本研究において,中学年時に認められたBSSC運動遂行能力の増大は,高い跳躍高の獲得能力の増大が大きな要因であると考えられ,先行研究と一致するものであった。 各学年におけるリバウンドジャンプ時の接地時間,滞空時間およびRJ指数の男女差について見てみると,接地時間においては,全ての学年で有意な差は認められなかった。志手・新開谷(1996)は,4年生以上の小学生で,リバウンドドロップジャンプ時の接地時間に男女差が認められなかったことを報告している。これらのことから,小学生においては,運動遂行時間の短縮能力には男女差がないことを示していると考えられる。また,滞空時間とRJ指数には,6年生において有意な男女差が認められた。このことは,高学年において,高い跳躍高の獲得能力とBSSC運動遂行能力に男女差が生じるという志手・新開谷(1996)の結果と一致するものであった。6年生においては,男子は女子に対し,高い跳躍高の獲得能力とBSSC運動遂行能力に優れることが示唆された。短時間のパワー発揮の発達に関して岡川(1989)は,体重当たりのパワー出力が男子では11歳まで急激に向上し,14歳まで緩やかな発達を示すのに対し,女子では急激なパワーの向上が男子より1年早く終了し,10歳以降,発達の停滞が認められることを報告している。思春期以降に生じる脚の筋パワー発揮の男女の差異が,6年生におけるBSSC運動遂行の男女差に大きな影響を及ぼして

いると考えられる。

Ⅴ 結 論

 本研究は,小学生1~6年生の男女児童を対象に,N�ChallengeによるSAQ能力およびリバウンドジャンプによるBSSC運動遂行能力を測定し,発達と男女差について検討することを目的とした。SAQ能力の評価には,光電管測定システムによるN�Challengeを用い,反応・スプリント走・右ターン・ミニハードル走・左ターン・スラローム走・総合の各タイムを計測した。BSSC運動遂行能力の評価では,リバウンドジャンプ時における接地時間と滞空時間を測定し,RJ指数を算出した。主な結果は以下の通りである。1�.N�Challengeにおける各項目は,男女ともに,低学年の時期にタイムの短縮が認められた。2�.N�Challengeにおける各項目の男女差は,反応・ハードル走・スラローム走・総合の各タイムで低学年から,男子が女子に対し有意に速いタイムを示した。それに対して,スプリント走・左右のターンでは,高学年においてのみ男子が女子に対し有意に速いタイムを示した。3�.リバウンドジャンプ時における接地時間は,男女ともに,高学年において,遅延傾向が認められた。滞空時間とRJ指数は,男女ともに中学年時に発達が顕著となった。4�.リバウンドジャンプ時における各項目の男女差について見てみると,滞空時間とRJ指数において,6年生にだけ認められた。 以上のことから,SAQ能力においては,低学年の早い段階で,その能力が発達するとともに,男女差も出現することが示唆された。一方,BSSC運動遂行能力は,中学年時における滞空時間の発達に起因して,その能力が増大することが明らかとなった。6年生におけるBSSC運動遂行能力の男女差は,思春期以降における脚の筋パワー発揮の男女差に起因していると考えられる。

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志手 典之・奥田 知靖・森田 憲輝

謝 辞

 本研究は,文部科学省の科学研究補助金(基盤研究C 課題番号15K01497,平成27年度から平成29年度)を受けて実施されている。

参考文献

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事と着地に対する予測に着目して.体育学研究,40:29-39.

(志手 典之 岩見沢校教授) (奥田 知靖 岩見沢校准教授)(森田 憲輝 岩見沢校教授)