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13 ごべるにくす APR. 2017 No.47 14 ごべるにくす APR. 2017 No.47 固体電解質の合成と、全固体電池の試作・評価解析技術 D Technical Report 硫化物系全固体電池作製プロセス 第1図 合成した固体電解質のイオン伝導率 第2図 硫化物系固体電解質のSEM 観察像 第3図 Li2S:P2S5=70:30at.%(粒径1µm ~ 5µm)での正極合材の内部抵抗 第5図 グローブボックス 硫化物系 固体電解質の 合成 合材混合 活物質、導電助剤 固体電解質 積層 プレス成型 硫化物系 全固体電池 Ionic conductivity / S/cm 1000/T 1.0E-01 1.0E-02 1.0E-03 1.0E-04 1.0E-05 1.0E-06 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5 アモルファス-LPS(70:30) LPS(70:30)330℃焼成 アモルファス-LPS(75:25) LGPS Li2S:P2S5 (70:30) Li2S:P2S5 (75:25) 正極の断面 SEM 像 @Li2S:P2S5=70:30at.% 第4図 SE:AB=40:5 SE:AB=40:10 活物質 導電助剤 固体電解質 SE:AB=40:15 -150000 -100000 -50000 0 0 50000 100000 150000 Z”/Ω Z’/Ω SE:AB=40:5 SE:AB=40:15 SE:AB=40:10 -80 -60 -40 -20 0 1.E-2 1.E+0 1.E+1 1.E+2 1.E+3 1.E+4 1.E+5 1.E+6 θ/degree Freq/Hz 0 50000 100000 150000 1.E-2 1.E+0 1.E+1 1.E+2 1.E+3 1.E+4 1.E+5 1.E+6 Z’/Ω Freq/Hz SE:AB=40:5 SE:AB=40:15 SE:AB=40:10 電荷移動抵抗 接触界面で電子が かかわる抵抗 -1500 -1000 -500 0 0 500 1000 1500 Z”/Ω Z’/Ω 左図の原点付近拡大図 1.E-1 1.E-1 硫化物系固体電解質の合成と、イオン伝導率の評価 当社ではLi7P3S11 (LPS(70:30))、Li3.2P0.96S4 (LPS(75:25))、 Li 10GeP2S12 (LGPS)をはじめとする硫化物系固体電解質を合 成している。硫化物系全固体電池作製プロセスを第1図に示す。 今回、Li2SとP2S5 を出発原料とし、露点-70℃以下のAr 雰囲気 中で所定のモル比(Li2S:P2S5=70:30at.%、75:25at.%)にて混合 し、遊星型ボールミルにてメカニカルミリング処理を行うことでアモ ルファスの硫化物系固体電解質(Solid Electrolyte: SE)を合成 した。得られた固体電解質粉体は 600MPa で加圧成形した後、集 電箔にAl 箔を用いた交流インピーダンス法によりイオン伝導率を 評価した。合成した2 種類の固体電解質の 25℃でのイオン伝導率 Li2S:P2S5=70:30at.%2.8×10 -4 S/cm、Li2S:P2S5=75:25at.% で 4.6×10 -4 S/cm であった(第2図)。合 成した固 体 電 解 質 の SEM 観 察 像を第 3 図 に示 す。固 体 電 解 質 の 粒 径 は、Li2S:P2S5 =70:30at.%で1µm~5µm程 度、Li2S:P2S5=75:25at.% で 5µm ~15µm 程度であった。 世界規模での自動車に対する環境規制の強化から、プラグインハイブリット自動車(PHEV)や電 気自動車(EV)の開発が加速しており、液系 LIBではさらなる高エネルギー密度化となる材料とし て、Li 過剰系やハイニッケル三元系(NCM811)などの正極材料、シリコン負極、耐高電圧電解液など の部材開発が進められている。一方で、リチウムイオン電池のエネルギー密度は、250Wh/kg が限 界とも言われており *1) 、さらなる高エネルギー密度化を目指して、革新型電池の開発が盛んに行わ れている。 革新型電池の一つである全固体リチウムイオン二次電池は、従来の有機溶媒に代わりリチウムイ オン伝導性を示す固体電解質を使用することで高エネルギー密度、広い動作温度範囲をえることが できる。固体電解質材料は、硫化物系固体電解質と酸化物系固体電解質に大別されるが、高イオン 伝導率、活物質 / 固体電解質界面の形成の容易さから、硫化物系固体電解質を使用した硫化物系全 固体電池の開発が盛んである。 当社は、硫化物系全固体電池の評価解析を行うために、硫化物系固体電解質の合成、全固体電池 の試作、抵抗解析を行ってきた。 *2)~*6) 本稿では、全固体電池における電極構造と電池の内部抵抗挙動に着目し、電極構造の制御と交流 インピーダンスを用いた内部抵抗解析事例を紹介する。 技術本部 材料ソリューション事業部 エレクトロニクス技術部 D D-1 硫化物系全固体電池の試作と内部抵抗測定 平均粒径10µmのLi (Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2 (NMC)を正極活物 質とし、導電助剤としてアセチレンブラック、合成したアモルファス固 体電解質を混合して正極合材を作製した。活物質と固体電解質の 重量比は60:40wt.%に固定し、固体電解質と導電助剤の割合が 40:5wt.%、40:10wt.%、40:15wt.%となるように調整した。 作製した正極を、固体電解質層を挟んで対極の金属 Inと対抗 させ、600MPa で加圧成形することで、評価用の正極ハーフセルを 作製した。正極合材の断面 SEM 観察像を第4図に示す。合材中の 導電助剤(AB)の量が増えるにつれて固体電解質 / 固体電解質界 面や固体電解質/活物質界面に導電助剤が多く存在する様子が 見られ、過剰な導電助剤が Li イオンの伝導パスを切断することが 示唆された。 作製したセルは、70℃の恒温槽中で0.1C(0.86mAh/cm 2 )に て定電流充電を行った。内部抵抗の評価には交流インピーダンス 法を用いた。OCV(開回路電圧)に対し、振幅 30mVを重畳させた 交流電圧を1MHzから10mHzまで印可し、応答電流から内部抵 抗を求めた。 D-2 全固体電池の電極構造と内部抵抗の関係 全固体電池は液系 LIBと異なり、すべて固体で構成されるため、 優れた特性をえるためには、高イオン伝導率の固体電解質、活物 質 / 固体電解質接触界面での反応層の抑制、電子伝導経路、イオ ン伝導経路を考慮した最適な電極構造が必要である *7~*9) 当社は交流インピーダンス法を用いて全固体電池における「接 触界面で電子がかかわる抵抗」と「活物質 / 固体電解質界面での 電荷移動抵抗」がそれぞれ kHz オーダー、Hz オーダーに位相遅れ を有する反応であることを明らかにし、電極構造と内部抵抗との関 係を調査してきた *2)~*4) 。ここで用いた交流インピーダンス法とは、 周波数変調した微弱電圧(電流)を電池に印可し、応答電流(電 圧)の振幅、位相差から時定数の異なる反応素過程を分離する手 法であり、電池内部の抵抗成分を分離・解析するのに非常に有用 である *10)~*16) 第5図にLi2S:P2S5=70:30at.%を用いたセルでの、内部抵抗測 定結果を示す。固体電解質 : 導電助剤 =40:5wt.% の系では「接触 界面で電子がかかわる抵抗」と「活物質 / 固体電解質界面での電 荷移動抵抗」が顕著に大きく、導電助剤が不足した電極構造で あった。また、固体電解質 : 導電助剤 =40:15wt.% の系でも同様に 「接触界面で電子がかかわる抵抗」と「活物質 / 固体電解質界面で の電荷移動抵抗」にかかわる抵抗が顕著に大きく、こちらは導電助 剤が過剰であり、Li イオン電導パスを阻害する電極構造であった。 今回の粒径 1µm~5µm 程度の固体電解質を使用した正極では 固体電解質 : 導電助剤 =40:10wt.% が最も内部抵抗が小さく、最 適な電極構造であった。 D-3 あ ち は たかし 阿知波 敬 Technical Report 固体電解質合成と、 全固体電池試作・評価解析技術

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Page 1: D 固体電解質 全固体電池 合成 試作・評価解析技術 と、 D-2-1000-500 0 0 500 1000 1500 Z”/Ω Zʼ/Ω 左図の原点付近拡大図 1.E-1 硫化物系固体電解質の合成と、イオン伝導率の評価

13 ごべるにくす APR. 2017 No.47 14ごべるにくす APR. 2017 No.47

固体電解質の合成と、全固体電池の試作・評価解析技術 DTechnical Report

硫化物系全固体電池作製プロセス第1図

合成した固体電解質のイオン伝導率第2図

硫化物系固体電解質のSEM観察像第3図

Li2S:P2S5=70:30at.%(粒径1µm~ 5µm)での正極合材の内部抵抗第5図

グローブボックス硫化物系固体電解質の

合成

合材混合

(活物質、導電助剤)固体電解質積層

プレス成型硫化物系全固体電池

Ionic conductivity / S/cm

1000/T

1.0E-01

1.0E-02

1.0E-03

1.0E-04

1.0E-05

1.0E-062.7 2.9 3.1 3.3 3.5

アモルファス-LPS(70:30)

LPS(70:30)330℃焼成

アモルファス-LPS(75:25)

LGPS

Li2S:P2S5(70:30) Li2S:P2S5(75:25)

正極の断面SEM像@Li2S:P2S5=70:30at.%第4図

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活物質 導電助剤

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電荷移動抵抗 接触界面で電子がかかわる抵抗

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左図の原点付近拡大図

1.E-1

1.E-1

硫化物系固体電解質の合成と、イオン伝導率の評価

 当社ではLi7P3S11(LPS(70:30))、Li3.2P0.96S4(LPS(75:25))、Li10GeP2S12(LGPS)をはじめとする硫化物系固体電解質を合成している。硫化物系全固体電池作製プロセスを第1図に示す。

今回、Li2SとP2S5を出発原料とし、露点-70℃以下のAr雰囲気中で所定のモル比(Li2S:P2S5=70:30at.%、75:25at.%)にて混合し、遊星型ボールミルにてメカニカルミリング処理を行うことでアモルファスの硫化物系固体電解質(Solid Electrolyte: SE)を合成した。得られた固体電解質粉体は600MPaで加圧成形した後、集電箔にAl箔を用いた交流インピーダンス法によりイオン伝導率を評価した。合成した2種類の固体電解質の25℃でのイオン伝導率はLi2S:P2S5=70:30at.%で2.8×10-4S/cm、Li2S:P2S5=75:25at.%で4.6×10-4S/cmであった(第2図)。合成した固体電解質のSEM観察像を第3図に示す。固体電解質の粒径は、Li2S:P2S5=70:30at.%で1µm~5µm程度、Li2S:P2S5=75:25at.%で5µm~15µm程度であった。

 世界規模での自動車に対する環境規制の強化から、プラグインハイブリット自動車(PHEV)や電気自動車(EV)の開発が加速しており、液系LIBではさらなる高エネルギー密度化となる材料として、Li過剰系やハイニッケル三元系(NCM811)などの正極材料、シリコン負極、耐高電圧電解液などの部材開発が進められている。一方で、リチウムイオン電池のエネルギー密度は、250Wh/kgが限界とも言われており*1)、さらなる高エネルギー密度化を目指して、革新型電池の開発が盛んに行われている。 革新型電池の一つである全固体リチウムイオン二次電池は、従来の有機溶媒に代わりリチウムイオン伝導性を示す固体電解質を使用することで高エネルギー密度、広い動作温度範囲をえることができる。固体電解質材料は、硫化物系固体電解質と酸化物系固体電解質に大別されるが、高イオン伝導率、活物質/固体電解質界面の形成の容易さから、硫化物系固体電解質を使用した硫化物系全固体電池の開発が盛んである。 当社は、硫化物系全固体電池の評価解析を行うために、硫化物系固体電解質の合成、全固体電池の試作、抵抗解析を行ってきた。*2)~*6)

 本稿では、全固体電池における電極構造と電池の内部抵抗挙動に着目し、電極構造の制御と交流インピーダンスを用いた内部抵抗解析事例を紹介する。

技術本部材料ソリューション事業部エレクトロニクス技術部

D

D-1

硫化物系全固体電池の試作と内部抵抗測定

 平均粒径10µmのLi(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2(NMC)を正極活物質とし、導電助剤としてアセチレンブラック、合成したアモルファス固体電解質を混合して正極合材を作製した。活物質と固体電解質の重量比は60:40wt.%に固定し、固体電解質と導電助剤の割合が40:5wt.%、40:10wt.%、40:15wt.%となるように調整した。 作製した正極を、固体電解質層を挟んで対極の金属Inと対抗させ、600MPaで加圧成形することで、評価用の正極ハーフセルを作製した。正極合材の断面SEM観察像を第4図に示す。合材中の導電助剤(AB)の量が増えるにつれて固体電解質/固体電解質界面や固体電解質/活物質界面に導電助剤が多く存在する様子が見られ、過剰な導電助剤がLiイオンの伝導パスを切断することが示唆された。 作製したセルは、70℃の恒温槽中で0.1C(0.86mAh/cm2)にて定電流充電を行った。内部抵抗の評価には交流インピーダンス法を用いた。OCV(開回路電圧)に対し、振幅30mVを重畳させた交流電圧を1MHzから10mHzまで印可し、応答電流から内部抵抗を求めた。

D-2

全固体電池の電極構造と内部抵抗の関係

 全固体電池は液系LIBと異なり、すべて固体で構成されるため、優れた特性をえるためには、高イオン伝導率の固体電解質、活物質/固体電解質接触界面での反応層の抑制、電子伝導経路、イオン伝導経路を考慮した最適な電極構造が必要である*7~*9)。 当社は交流インピーダンス法を用いて全固体電池における「接触界面で電子がかかわる抵抗」と「活物質/固体電解質界面での電荷移動抵抗」がそれぞれkHzオーダー、Hzオーダーに位相遅れを有する反応であることを明らかにし、電極構造と内部抵抗との関係を調査してきた*2)~*4)。ここで用いた交流インピーダンス法とは、周波数変調した微弱電圧(電流)を電池に印可し、応答電流(電圧)の振幅、位相差から時定数の異なる反応素過程を分離する手法であり、電池内部の抵抗成分を分離・解析するのに非常に有用

である*10)~*16)。 第5図にLi2S:P2S5=70:30at.%を用いたセルでの、内部抵抗測定結果を示す。固体電解質:導電助剤=40:5wt.%の系では「接触界面で電子がかかわる抵抗」と「活物質/固体電解質界面での電荷移動抵抗」が顕著に大きく、導電助剤が不足した電極構造であった。また、固体電解質:導電助剤=40:15wt.%の系でも同様に「接触界面で電子がかかわる抵抗」と「活物質/固体電解質界面での電荷移動抵抗」にかかわる抵抗が顕著に大きく、こちらは導電助剤が過剰であり、Liイオン電導パスを阻害する電極構造であった。今回の粒径1µm~5µm程度の固体電解質を使用した正極では固体電解質:導電助剤=40:10wt.%が最も内部抵抗が小さく、最適な電極構造であった。

D-3

あ ち は たかし

阿知波 敬

TechnicalReport

固体電解質の合成と、全固体電池の試作・評価解析技術

Page 2: D 固体電解質 全固体電池 合成 試作・評価解析技術 と、 D-2-1000-500 0 0 500 1000 1500 Z”/Ω Zʼ/Ω 左図の原点付近拡大図 1.E-1 硫化物系固体電解質の合成と、イオン伝導率の評価

15 16ごべるにくす APR. 2017 No.47 ごべるにくす APR. 2017 No.47

固体電解質の合成と、全固体電池の試作・評価解析技術 DTechnical Report固体電解質の合成と、全固体電池の試作・評価解析技術DTechnical Report

電極構造の三次元観察、構成部材解析上図:全構成分 下図:活物質、導電助剤を抽出

第9図 電子伝導パス可視化(合材層深さ方向) 第10図

Li2S:P2S5=75:25at.%(粒径5µm~15µm)での正極合材の内部抵抗

第6図

最適な導電助剤の配置第7図

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電荷移動抵抗 接触界面で電子がかかわる抵抗

SE:AB=40:5

SE:AB=40:15SE:AB=40:10

構造最適化による内部抵抗低減第8図

:活物質:空孔(活物質内部) :空孔(活物質外部)

:電解質 :導電助剤

構造最適化前 構造最適化前構造最適化後 構造最適化後

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Z”/Ω

Z’/Ω

構造最適化 後構造最適化 前 Z”

/Ωθ / degree

Freq/Hz

Freq/Hz

構造最適化 後構造最適化 前

電荷移動抵抗 接触界面で電子がかかわる抵抗

1.E+31.E+0

 第6図にLi2S:P2S5=75:25at.%を用いたセルでの、内部抵抗測定結果を示す。固体電解質:導電助剤=40:10wt.%、40:15wt.%の系では「接触界面で電子がかかわる抵抗」と「活物質/固体電解質界面での電荷移動抵抗」が顕著に大きく、いずれも導電助剤が過剰であり、Liイオン電導パスを阻害する電極構造であった。今回の粒径5µm~15µm程度の固体電解質を使用した正極では固体電解質:導電助剤=40:5wt.%が最も内部抵抗が小さく、理想的な電極構造であった。

 以上の検討により、同じ配合比であっても、固体電解質の粒径によっては最適な配合比が異なることが示された。つまり、内部抵抗を低減する最適な構造設計のためには、導電助剤の量のみではなく、固体電解質/固体電解質界面、固体電解質/活物質界面の導電助剤の配置をコントロールする必要があることが明らかとなった。最適な導電助剤の配置を第7図に示す。

全固体電池の合材層最適化

 上記の合材設計指針に基づき、正極合材層を作製、全固体電池を試作し、内部抵抗の評価を実施した。内部抵抗の測定結果を第8図に示す。構造最適化前(正極NMC:固体電解質:導電助剤=60:40:5wt.%、負極グラファイト:固体電解質=50:50wt.%、成形圧300MPa)と比較して、構造最適化後は(正極NMC:固体電解質:導電助剤=60:40:10wt.%、負極グラファイト:固体電解質=73:27wt.%、成形圧600MPa)内部抵抗が低減しており、周波

数域から電子にかかわる抵抗が低下している。FIB-SEMにより電極合材層の三次元構造観察を行い、構成部材ごとに画像解析した結果を第9図に、電子伝導パスを可視化した図を第10図に示す。構造最適化したセルでは、電子伝導ネットワークが増加している。このように導電助剤を最適配置することで、電子伝導ネットワークを形成し、内部抵抗を低減することができる。

D-4

 全固体電池の特性の向上には、高イオン伝導の固体電解質、活物質/固体電解質接触界面での反応層の抑制、電子伝導経路、イオン伝導経路を考慮した最適な電極構造が必要である。今回は電子伝導経路を考慮した最適な電極構造に着目し解析を行った。その結果、合材中の電子伝導経路の形成が、内部抵抗低減に大きく寄与することを示した。構造最適化には、内部抵抗の解析、実電極構造の観察、導電パスの可視化の複合解析を行い、合材作製プロセスへフィードバックすることが必要である。 当社は、硫化物系固体電解質の取り扱いに必要な低露点作業環境の整備および合成に必要な遊星型ボールミル、熱処理炉といった設備の充実、全固体電池の試作技術や評価解析技術の高度化を進めている。これらの試作評価・解析技術により、全固体電池の開発に貢献できるよう努めたい。

*1) 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構. NEDO二次電池技術開発ロードマップ 2013(Battery RM2013)*2) 阿知波敬、他:第55回電池討論会要旨集,3F17(2014) *3) 阿知波敬、他:第56回電池討論会要旨集,2F05(2015)*4) 阿知波敬、他:第57回電池討論会要旨集,3G08(2016) *5) 岡本嘉紀、他:第56回電池討論会要旨集,2F04(2015)*6) 岡本嘉紀、他:第57回電池討論会要旨集,3G07(2016) *7) A. Hayashi et al., 5, 111(2003)*8) N. Kamaya et al., 10, 682(2011) *9) N. Ohta et al., 18, 2226(2006)*10) 坪田隆之、他:第52回電池討論会要旨集,4H13(2011) *11) 坪田隆之、他:第53回電池討論会要旨集,1A19(2012)*12) 西内万聡、他:第53回電池討論会要旨集,1A20(2012) *13) 坪田隆之、他:第54回電池討論会要旨集,2B17(2013)*14) 坪田隆之、他:第55回電池討論会要旨集,3F15(2014) *15) 西内万聡、他:第55回電池討論会要旨集,3F14(2014)*16) 阿知波敬、他:第49回日本電子材料技術協会秋期講演大会講演概要集、4(2012)

参考文献

活物質 固体電解質(SE):Liイオン伝導経路導電助剤:電子伝導経路

導電助剤 不足 最適構造 導電助剤 過剰

*電子伝導経路不足*未反応活物質増加

*活物質/SE有効接触面積低下*嵩高い導電助剤にて、 構成圧力がかかりにくい

Nature Mater.,Electrochem. Commun.,

Adv. Mater.,