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芸術科学会論文誌 Vol. 6 No. 4 pp. 207 - 214 マイクロホンベースの風速センサの開発と 実世界の風に揺らぐ樹木のリアルタイムアニメーションへの応用 菅野研一 * 千葉則茂 ** * 岩手県立産業技術短期大学校 ** 岩手大学 E-mail: [email protected] , [email protected] マイクロホンを利用した簡便でローコストな風速センサを開発した.本論文では,このセンサの原理につい て,すなわちマイクロホンが風を受けたときに発生する雑音から,その他の音の影響を除去し,風速を求める 方法を提案する.また,このセンサの,実世界の風に合わせて揺らぐ樹木のリアルタイムアニメーションシステ ムへの応用例を示し,その有効性を示す. Development of a Microphone-based Wind Velocity Sensor and Its Application to Real-time Animation of a Tree Swaying in Real World Wind Ken-ichi Kanno* Norishige Chiba** *Iwate Industrial Technology Junior College **Iwate University E-mail: [email protected] , [email protected] We developed a simple and low cost wind velocity sensor based on a small microphone. In this paper, we first present the mechanism of the sensor, i.e., how to find the wind velocity from the output wind noise of a microphone by successfully suppressing the influence of other sounds existing in the environment. Then, we demonstrate the effectiveness of the sensor by showing the application to the real-time animation of a tree swaying in real wind. 1. はじめに 実世界との高度な整合性を有する複合現実感(MRシステムの構築には,風などの実世界の自然現象に応 じて動作するアニメーションシステムの開発が重要であ る.本研究では,このような利用環境を想定し,樹木の 枝葉の風による揺らぎ運動を例にとり,実世界の風にリ アルタイムに応じて動作する仮想樹木のアニメーション 1 風による樹木の揺らぎのアニメーションの 1 シーン 207

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Page 1: Development of a Microphone-based Wind Velocity …...芸術科学会論文誌 Vol. 6 No. 4 pp. 207 - 214 3. 風雑音から風速への変換 前章の実験をもとに式(1)の演算処理を施し,風速を

芸術科学会論文誌 Vol. 6 No. 4 pp. 207 - 214

マイクロホンベースの風速センサの開発と

実世界の風に揺らぐ樹木のリアルタイムアニメーションへの応用

菅野研一* 千葉則茂**

*岩手県立産業技術短期大学校 **岩手大学

E-mail: [email protected] , [email protected]

マイクロホンを利用した簡便でローコストな風速センサを開発した.本論文では,このセンサの原理につい

て,すなわちマイクロホンが風を受けたときに発生する雑音から,その他の音の影響を除去し,風速を求める

方法を提案する.また,このセンサの,実世界の風に合わせて揺らぐ樹木のリアルタイムアニメーションシステ

ムへの応用例を示し,その有効性を示す.

Development of a Microphone-based Wind Velocity Sensor and

Its Application to Real-time Animation of a Tree Swaying in Real World Wind

Ken-ichi Kanno* Norishige Chiba**

*Iwate Industrial Technology Junior College **Iwate University

E-mail: [email protected] , [email protected]

We developed a simple and low cost wind velocity sensor based on a small microphone. In this paper, we

first present the mechanism of the sensor, i.e., how to find the wind velocity from the output wind noise of a

microphone by successfully suppressing the influence of other sounds existing in the environment. Then, we

demonstrate the effectiveness of the sensor by showing the application to the real-time animation of a tree

swaying in real wind.

1. はじめに

実世界との高度な整合性を有する複合現実感(MR)

システムの構築には,風などの実世界の自然現象に応

じて動作するアニメーションシステムの開発が重要であ

る.本研究では,このような利用環境を想定し,樹木の

枝葉の風による揺らぎ運動を例にとり,実世界の風にリ

アルタイムに応じて動作する仮想樹木のアニメーション

図1 風による樹木の揺らぎのアニメーションの 1 シーン

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システムの開発を行っている.アニメーションシステムと

しては,文献[1,2]で提案されている効率的な樹木の揺

らぎアニメーション技術を用いる.図1にアニメーション

からのフレームを示す.

MRシステムなどのアプリケーションシステムでは,風

速センサに限らず種々のセンサが必要となり,また

HMDなどのように人体に装着されることも想定されるた

め,小型・軽量であることが望ましいと考えられる.また,

普及型のエンターテイメント用途も考慮するとコストの低

さも重要な要素となる.これに対して,現状の風速計は

測定器として製造され,高い精度が重要視されているた

め,サイズが大きいものや,コストが高いものとなってい

る.

本研究では,ポータブルなMRシステムのような利用

環境に適するものとして,小型マイクによる簡便な風セ

ンサの開発を進めている.マイクロホンが風を受けると

低周波域を中心に大きな雑音(以下,風雑音という)を

発することはよく知られている.風雑音は通常の用途に

とってはやはり雑音であるため,風雑音を取り除く方法

は広く研究されている.しかし,風雑音を積極的に解析

し,風速測定等に役立てようという研究は限られている.

H.Bass らによる研究 [3] では 3つのマイクロホンアレ

イを用いて,それらの相互相関係数から風速を求める

方法が提案されているが,一辺が数十cm程度の正三

角形の各頂点にマイクロホンを配置する必要がある.藤

田らの研究[4]では,1つのマイクロホンを用い,予め蓄

積した高次の相関情報を活用し風速を推定する手法を

提案している.

一方,マイクロホンに発生する風雑音の周波数パワ

ースペクトルについて,文献[5]では「風速10m/s 以下

の場合,風速の2乗から3乗に比例して増加し,低音域

に大きく分布する.またそれ以上では風切音により中~

高域成分を含むようになる.」と述べられており,およそ

40Hz以上の帯域について調査している.

また,マイクロホンを風センサとして利用した製品とし

ては携帯ゲームなどに例がある.ただし,これらは風と

いうより息を吹きかけたことをトリガにキャラクタの振る舞

いを変化させるといった大きな瞬発的な変動を利用した

使い方をしている.また,風に反応する電子風鈴の電子

工作キット[6] の例では3~4Hz 以下の,可聴範囲外に

発生する雑音を検出し,閾値を超えると発振器をトリガ

して鳴らすというもので,いずれも風の強弱の変動の検

出・利用には至っていない.

これらの例からも推察されるように,風雑音について

20Hz以下の成分(以下,超低周波という)を含むスペク

トル分布等の特徴を調べることにより,風速を計測でき

ることが期待できる.しかし,風により発生する超低周波

の雑音は流体と音響にわたる領域であり,充分には研

究されていない.

本研究では,風速と風雑音のレベルの関係を調べ,

風雑音から風速を求め,実世界の風の強弱に合わせて

揺らぐ樹木のCGシステムを開発することができたので以

下に報告する.

2. マイクの風雑音

風雑音のエネルギーや周波数スペクトルを調べるた

め,図2 に示すように参照用風速計の近傍にマイクロホ

ンを置き, 送風機で実際に風を当て雑音出力を観測し

た.風速1m/s から 6m/s について1m/sずつ変化させ

て観測した結果を図3に示す.この結果から風雑音につ

いて, 以下のような特徴が見られる.

(1) 風速が2倍になると雑音出力が約 15dB 大き

くなる.

(2) 風速が大きくなるにつれ, 超低周波の出力が

飽和する傾向が見られ, かわって周波数の高い成分へ

分布が広がる.

これらのことから, 超低周波成分だけを利用すれば,

風の有無の検出は可能であるが, 数m/s までにわたる

風速を測定するには 4kHz 程度までの帯域について,

雑音出力を観測する必要がある.風速が 2 倍になるご

とに風雑音が 15dB 増加するということは, 風速の約

2.485乗に比例し出力電圧が増加することとなり , 式

(1) において k=2.485 とすることにより雑音出力電圧

Vout から風速 Swind が求められる.

koutwind gVVS /1

0 ))(( ×−= (1)

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3. 風雑音から風速への変換

前章の実験をもとに式(1)の演算処理を施し,風速を

表示するシステムを作成した.一般的に入手可能なオ

ーディオインタフェースに対応できるよう,標本化周波

数44.1kHz,量子化ビット数16bit とした.100msごとに

4096点取り出し,窓関数をかけてFFT処理をおこない,

10回分の平均をとり1秒ごとに数値で表示させたものを

読み取った.風センサに送風機の風を当て,風速 1m/s,

2m/s,3m/s,4m/s および 5m/s のときのシステムの風

速表示を読み取った結果を図4 に示す.風速の表示

値が変動するのでその範囲をグレーの帯で表した.

その結果,ほぼ実際の風速にそった風センサの表示

が得られた.風速が大きくなるにつれ,表示が実際の風

速より大きくなる傾向が見られるが,この点についてはk

の値の調整で改善することが可能である.また,風速が

大きいほど表示の変動幅が大きくなる傾向が見られる.

参照用に使用した風速計はベーン (回転翼)の慣性が

あり,風速の周期の短い変動を拾わないのに対し,マイ

風速1m/s

風速3m/s

図3 風雑音のスペクトル分布

風速2m/s

風速4m/s

風速5m/s

風速6m/s

図2 送風機, 風速計とマイク

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クは拾うことが可能であることが原因とも考えられるし,

雑音出力の特性上,不安定さを持っている可能性もあ

4. 音声との分離

第2章で述べたとおり, 風雑音から風速を求めるには

4kHz 程度までの帯域にわたり雑音出力を測定する必

要があり, このままでは無風時でも周囲の音声を風速と

して計算し, 出力してしまう.

超低周波数成分は,通常の空間では相当に大きい

音量の音源がマイクロホン近傍にあっても,出力として

現れない.したがって, 通常は超低周波成のみを常時

観測し, 超低周波成分が発生している場合のみ, 他の

帯域を合わせて風速を計算すればある程度の音声との

分離が可能となる.さらに, 風と音声をあわせて受けた

ときの影響を最小限とするため, 超低周波成分のみか

ら, 大まかな風速を推定し, それにあわせて必要な周

波数までの帯域のみを取り出して風速を求めるようにす

ることも可能である.

特に, 風速が小さい場合に騒音の影響を大きく受け

るため, 本システムでは , 風速の概算値がおおむね

0.4m/s 未満の領域において, フィルタの遮断周波数を

4段階に変化させ, 騒音の影響を受けにくくした.それ

以上の風速においては, 4kHz 以下の帯域を用いて風

速を計算するようにした (表1).なお風速の概算値は帯

域の一部のみから求めるため, 実際の風速値より小さ

い点を考慮して遮断周波数を決定する.

風速の概算値(m/s)

遮断周波数(Hz)

<0.1 10

0.1~0.2 100

0.2~0.3 250

0.3~0.4 500

≧0.4 4k

表1 フィルタの遮断周波数

図4 実際の風速と風センサの表示

0

1

2

3

4

5

6

7

1 2 3 4 5風速計の表示値(m/s)

風センサの表示値

(m/s)

0

1

2

3

4

5

6

7

1 2 3 4 5風速計の表示値(m/s)

風センサの表示値

(m/s)

風センサの表示

参照値

5. CGシステムへの実装

5.1. 実装対象としたCGシステム

実装対象としたシステムは,枝葉の揺らぎ運動の生

成に,力学シミュレーションと統計的な手法からなるハイ

ブリッドなアプローチ[1] を用いたアニメーションシステ

ムである.また, 樹木の形状と風速から, 風きり音や, 葉

の摩擦音をリアルタイムで生成する[2]ことも可能となっ

ている.

5.2. マイクロホン

風を積極的に受けるのが目的であるので, 風防が装

備されたり, ケースに収められたりしていない, 無指向

性のエレクトレットコンデンサマイクロホンユニット (イー

ケイジャパン AP-207) を単体で使用した.他のマイク

ユニットを使用する場合でも,風速が既知である風を当

て雑音出力を測定し,k の値を校正することで使用可

能である.

5.3. サウンドインタフェース

サウンドインタフェースは10Hz 程度まで低い周波数

を扱えるものが多くある.あらかじめ超低周波に対する

周波数特性を測定し, 超低周波を遮断していないこと

を確認して使用する.ノート PC のサウンド入力ポートな

ども使用可能なものがあり, この場合, 外部に接続する

ものは小型のマイクのみとなり, きわめてコンパクトにで

きる.

本研究では超低周波に対する安定した特性を得るた

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めに, 外部に接続する方式のサウンドインタフェースの

ライン入力に, プリアンプを介してマイクを接続した (図

5).このプリアンプはイーケイジャパン PU-2103 に,低

周波の特性を改善するための小規模な改造を施したも

のである (図6).サウンドインタフェースは EDIROL

UA-3D および M-AUDIO DELTA 1010 の2機種につ

いて検証した.

5.4. ソフトウェア

5.1 の CG システムに, 第2章, 第3章で述べたソフ

トウェアを実装する.ただし, 本 CG システムは枝の質

量をシミュレートしていないため, 慣性を再現できない.

単純に実世界の風速を与えると, 風の吹き始めと停止

するとき, 枝が急激に動き始めたり, 停止するという不

自然さが残る.

元のシステムでこの不自然さを除去するために利用

している 1/fβノイズに対し風速データを乗じることで,

風速データに自然な揺らぎを持たせるようにした.風雑

音は 4096 ポイントの FFT によるフィルタ処理を行っ

ており, サンプリング周波数は 44.1kHz に設定してい

るので, 100ms ごとに風速を求めている.そのままでは

周期の短い変動を多く含むので 10 回分の移動平均

をとり.変動の平滑化と遅延を与え, 風が停止したとき

などの不自然さを抑えた (図7).移動平均の回数を変

えることにより樹木の種類や大きさにあわせ, 最適な遅

延を設定することも可能である.

使用するサウンドインタフェースによってアンプのゲイ

ンなどが変わるので, 式 (1) の V0 と g を調整できる

ようにした (図8).

図5 マイクとプリアンプ 100ms 毎に起動

ハミングウィンドウを

掛け 4096 ポイント FFT

処理する

風雑音データ読み出し

超低周波域から概算

風速求める

概算風速から遮断周波

数を決定し,風速を求

める

風速値を移動平均計算

用バッファに保存する

移動平均により平滑化

された風速を求める

終了

図7 風速測定処理フロー

C2100μC1

10μ

※2.2μ

C41500p

C510μ

Q2BC558B

Q1BC548B

R52.2k

R1100k

R322k

R22.2k

R6100k

C622μ

R4150k

R72.2k

R8100k

※220μ

※100μ

※3.3k 電源

出力

入力

SIG

GND

SIG

GND

++

C30.1μ

図6 プリアンプの回路図

※が追加された部分

図8 キャリブレーションパネル

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6. 評価

6.1. 実行結果

風センサとなるマイクロホンを,CGを表示するディス

プレイのフレームに取り付け,扇風機などで風を当てる

実験を行った(図10).これらにより発生する風の強さは,

たかだか3m/s程度であるので,CGシステムには実際の

風速を10倍して与え, 樹木の揺れは大幅に誇張してあ

る.風を当てるとリアルタイムでCGの樹木が揺らぎ,風

の強弱が変化するタイミングと揺れの対応も自然な印象

でのアニメーションが得られた.

センサの存在を知らせずに被験者に見せた場合,あ

たかも画面に風を当てるとCGの樹木がゆれているように

見えるため,意外性もあり,驚きと共に非常に好意的な

評価が得られた.当初は,樹木の揺らぎ始めや,風が

無くなった時の揺らぎの停止が瞬時であるため,一部不

自然な印象があったが,枝などの慣性を考慮し,運動

に遅延を入れることにより改善された.本システムでの

遅延時間は1秒に設定してある.遅延時間は 5.4 節で

述べた移動平均の段数により可変であり,対象となる

CG システムの特性に合わせて適切な値に変更可能で

ある.

6.2. 騒音が風速に与える影響

本センサは無風時の騒音はほぼ完全に遮断できるが,

騒音のある環境下で風を受けた場合, 騒音の影響を受

け, 実際の風速より大きな値を出力することになる.ここ

では, 騒音が風速にどれだけの影響を及ぼすか検討す

る.

まず, ある風速における風雑音と等価となる騒音を測

定により求めた.騒音源にはスピーカから白色雑音を発

生したものを用いた .その結果 , 70dB(A) の騒音が

1m/s の風による風雑音に相当することがわかった.

風速と等価なエネルギーを持つ騒音がマイクに与え

られた場合, 騒音が無い場合に比べてマイクが出力す

るエネルギーは 2 倍になるが, これは出力が 3dB 大

きくなることになる.風速の誤差として考えると, 風速が

2 倍になるごとに風雑音が 15dB 増加することから,

153

2 ≒1.15 となり, 15%程度の誤差が発生すると見込ま

れる.実際に風速 1m/s において, 70dB(A) の騒音下

と静寂な環境下での風速値を比較したところ, 騒音下

での値が 10%から15% 大きく, 計算値とほぼ一致した.

この程度の誤差であれば, CG システムへの応用として

は表示が著しく不自然になるほどのものではない.

15% の誤差を生じさせる騒音は当然, 観測している

風速によって変化し, 図9 のようになると考えられる.こ

のことから 風速 0.5m/s 以上の領域において, 静かな

事務室程度の環境 (50dB(A))であれば必要な精度が

得られる.図9 の直線より上の領域は, 風雑音より騒音

のエネルギーが大きいことを意味し, 誤差は急激に増

大し, 風センサとしての機能は失われる.

0

20

40

60

80

100

120

0.5 1 2 4

風速 (m/s)

騒音

(dB

A)

図9 風速センサの実用域

7. まとめと今後の展開

マイクロホンベースの風速センサを開発し,実世界の

風に応じて動作するアニメーションシステムを開発し,

複合現実感などへの応用について良好な感触を得た.

今後の課題としては,

(1) 風向も検出できるセンサへの拡張

(2) 風速と樹木の揺らぎアニメーションとの関係の調

査に基づく樹木の揺らぎアニメーションとの整合性の向

(3) 風に揺らぐ樹木の実映像とのリアルタイム合成に

よる整合性に関する詳細な検討

(4) 映像解析による風速のソフトセンサなどとの組み

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合わせによる,広範囲な地点についての測定の可能な

風センサの開発などがあげられる.

参考文献

[1] S.Ota, M.Tamura, T.Fujimoto, K.Muraoka and

N.Chiba, A Hybrid Method for Real-Time Animation of

Trees Swaying in Wind Fields, The Visual Computer,

Vol.20, No.10, pp.613-623, 2004

[2] K.Matsuyama, T.Fujimoto, K.Muraoka and N,Chiba,

Generation of Tree Movement Sound Effects, The

Journal of Computer Animation and Virtual Worlds, Vol

16, No.5, pp.531-545, 2005

[3] H. Bass, R. Raspet and J. Messer:”Experimental

determination of wind speed and direction using three

microphone array”, J. Acoust. Soc. Am., 97(1),

pp695-696, 1995.

[4] 藤田幸史, 太田光雄, 高桑誠明: 高次相関情報を

活用した風雑音からの風速計測法, 第43回システム制

御情報学会研究発表講演会, pp283-284, 1999

[5] 中島平太郎: オーディオ工学, pp40-41, 実教出版,

1973

[6] そよかぜふうりん KPS-3202 組み立て説明書, イ

ーケイ・ジャパン

菅野 研一

昭59年 金沢工業大学情

報処理工学科卒, 昭59~平2

(株)田村電機製作所 (現,サ

クサ(株)) 勤務,平2岩手県立

宮古短期大学 (平10年から

岩手県立大学宮古短期大学

部) 経営情報学科助手,平11

年~現在岩手県立産業技術短期大学校講師, 平13

岩手大学大学院工学研究科博士前期課程情報工学専

攻終了 (工学修士),現在岩手大学大学院工学研究科

博士後期課程電子情報工学専攻在学.情報処理学会

会員.

千葉 則茂

昭50岩手大学工学部電気

工学科卒.昭50~53(株)日

本ビジネスコンサルタント (現,

(株)日立情報システムズ) 勤

務,昭59東北大学大学院博

士課程情報工学専攻修了(工

学博士),以降,東北大学工

学部助手,仙台電波高専情報工学科助教授,岩手大

学工学部情報工学科助教授を経て,平3同教授.コン

ピュータグラフィックスに関する研究に従事.電子情報

通信学会,情報処理学会,IEEE,ACM,などの会員.

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(4) (5) (6)

(7) (8) (9)

(10) (11) (12)

図10 CGシステムに実装し,実際に作動中の風速センサ

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