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02 報告 8 Kスーパーハイビジョンの試験放送が2016年8月に開始された。当所では2020年に開 催される東京五輪やその先を見据えて,さらなる高品質な映像を提供できるフレーム周 波数120Hzに対応したフルスペック8Kスーパーハイビジョンの制作機器の研究開発を進めて いる。これまでに,8K/120Hzに対応した制作機器として,圧縮記録装置,ブランキングスイッ チャー,波形モニター,17インチ小型ディスプレー,カラーグレーディング装置,120Hz対 応タイムコード装置を新たに開発した。また,フルスペック8K/120Hz映像信号を転送速度 144Gbpsで 伝 送 する イン ターフェース(U-SDI:Ultrahigh-definition Signal/Data Interface)により,これらの制作機器を光ケーブル1本で接続できるようにしたフルスペック 8K制作検証システムを構築した。このシステムを用いて,8K/120Hz映像の記録再生,切り 替え,表示までの動作を実証した。さらに,新たに開発した120Hz対応のタイムコード装置 を接続して,これらの制作機器が従来の60Hz制作機器と互換性を保ちながら動作すること を確認し,現行のハイビジョン制作から8K/120Hz制作へスムーズに移行できる見通しを得 ることができた。 8 K Super Hi-Vision test broadcasting commenced in Japan in August 2016. We have been researching a full-featured 8K Super Hi-vision production system with a 120-Hz frame frequency towards shooting and presenting higher quality productions such as of the Tokyo Olympic Games in 2020. In this paper, we report on developing various pieces of 8K/120-Hz equipment including a compressed recorder, a blanking switcher, a waveform monitor, a 17-inch compact liquid crystal display, a color-grading system, and a high-frame-rate 120-Hz time-code generator/reader. We have also constructed a test production system, which connects to the developed equipment through an ultrahigh definition signal/data interface (U-SDI) on a single optical cable with a video data rate of 144Gbps. We verified playback of full-featured 8K/120-Hz video signals on the test system. We also verified its compatibility with 60-Hz TV systems and confirmed the feasibility of smoothly migrating from the conventional HD and 8K/60-Hz TV systems to the 8K/120-Hz system. フルスペック8Kスーパーハイビジョンに 向けた制作機器の開発 小出大一  米内 淳  池田善敬  林田哲哉  瀧口吉郎  西田幸博 Development of Full-Featured 8K Program Production System Daiichi KOIDE, Jun YONAI, Yoshitaka IKEDA, Tetsuya HAYASHIDA, Yoshiro TAKIGUCHI and Yukihiro NISHIDA ABSTRACT 18 NHK技研 R&D No.162 2017. 3

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02報 告

8 Kスーパーハイビジョンの試験放送が2016年8月に開始された。当所では2020年に開催される東京五輪やその先を見据えて,さらなる高品質な映像を提供できるフレーム周

波数120Hzに対応したフルスペック8Kスーパーハイビジョンの制作機器の研究開発を進めている。これまでに,8K/120Hzに対応した制作機器として,圧縮記録装置,ブランキングスイッチャー,波形モニター,17インチ小型ディスプレー,カラーグレーディング装置,120Hz対応タイムコード装置を新たに開発した。また,フルスペック8K/120Hz映像信号を転送速度144Gbpsで 伝 送 するインターフェース(U-SDI:Ultrahigh-definition Signal/Data Interface)により,これらの制作機器を光ケーブル1本で接続できるようにしたフルスペック8K制作検証システムを構築した。このシステムを用いて,8K/120Hz映像の記録再生,切り替え,表示までの動作を実証した。さらに,新たに開発した120Hz対応のタイムコード装置を接続して,これらの制作機器が従来の60Hz制作機器と互換性を保ちながら動作することを確認し,現行のハイビジョン制作から8K/120Hz制作へスムーズに移行できる見通しを得ることができた。

8 K Super Hi-Vision test broadcasting commenced in Japan in August 2016. We have been researching a full-featured 8K Super Hi-vision

production system with a 120-Hz frame frequency towards shooting and presenting higher quality productions such as of the Tokyo Olympic Games in 2020. In this paper, we report on developing various pieces of 8K/120-Hz equipment including a compressed recorder, a blanking switcher, a waveform monitor, a 17-inch compact liquid crystal display, a color-grading system, and a high-frame-rate 120-Hz time-code generator/reader. We have also constructed a test production system, which connects to the developed equipment through an ultrahigh definition signal/data interface (U-SDI) on a single optical cable with a video data rate of 144Gbps. We verified playback of full-featured 8K/120-Hz video signals on the test system. We also verified its compatibility with 60-Hz TV systems and confirmed the feasibility of smoothly migrating from the conventional HD and 8K/60-Hz TV systems to the 8K/120-Hz system.

フルスペック8Kスーパーハイビジョンに向けた制作機器の開発小出大一  米内 淳  池田善敬  林田哲哉  瀧口吉郎  西田幸博

Development of Full-Featured 8K Program Production SystemDaiichi KOIDE, Jun YONAI, Yoshitaka IKEDA, Tetsuya HAYASHIDA, Yoshiro TAKIGUCHI and Yukihiro NISHIDA

要 約

ABSTRACT

18 NHK技研 R&D ■ No.162 2017. 3

Page 2: Development of Full-Featured 8K Program …報告 02 8Kスーパーハイビジョンの試験放送が2016年8月に開始された。当所では2020年に開 催される東京五輪やその先を見据えて,さらなる高品質な

報告 02報告 02

1.はじめに

8Kスーパーハイビジョン(以下,8K)の試験放送が2016年8月1日に開始され,2018年の実用放送開始に向けてオールジャパンでの取り組みが進められている。当所では,その先を見据えた「フルスペック8K」を実現するための研究開発を進めている。フルスペック8Kは,120Hzのフレーム周波数や広色域に対応するとともに,被写体の暗部から高輝度部の広い範囲をより忠実に再現するために,高ダイナミックレンジ(HDR:High Dynamic Range)を採用している。

本稿では,フルスペック8K信号と伝送インターフェースについて説明するとともに,新たに開発したフルスペック8K用の制作機器について述べる。

2.フルスペック8K信号と伝送インターフェース

超高精細度テレビジョン(UHDTV:Ultra High Definition Television)用の映 像フォーマットについては,ITU-R

(International Telecommunication Union – Radiocommunication Sector),SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers),ARIB(Association of Radio Industries and Businesses:電波産業会)などの標準化機関で規格化がなされている1)~4)。各規格の主な共通部分を1表に示す。この中で,画素数が7,680×4,320,サンプリングビット数が各色12ビット,フレーム周波数が120Hzまたは120/1.001Hz(本稿では120Hzと総称する),色域がITU-R勧告BT. 2020に準拠した広色域,そして高ダイナミックレンジ(HDR)に対応した映像フォーマット(1表に下線で示す)を「フルスペック8K」と呼ぶ。この映像フォーマットは,2次元映像によるテレビジョンとして,放送局側にとっては映像表現の可能性を広げ,視聴者側にとってはこれまでにない映像体験をもたらすフォーマットであると考えられる5)6)。すでに開始している8K試験放送では,フレーム周波数は60/1.001Hzとなっているが,当所では本格普及期におけるフルスペック化を目指して研究を進めている。

フルスペック8K信号のデータ転送速度は144Gbpsに及ぶが,これを1本のケーブルで伝送するために,複数の10Gbps光信号にマッピングし,多芯のマルチモード光ファイバーで 伝 送 するインターフェース(U-SDI:Ultrahigh-definition Signal/Data Interface)を開発し,規格化を行った7)~9)。U-SDIケーブルは,実用性を考慮して,従来のHD-SDI同軸ケーブルとほぼ同じ太さと強度で,コネクターも従来とほぼ同じサイズであり(1図),100m程度の信号伝送が可能である。

3.フルスペック8K制作機器の開発

中継等の番組制作現場においては,撮像(カメラ),映像調整,信号切換(ルーター,スイッチャー),記録再生,信号監視(映像モニター,波形モニター(WFM:Waveform Monitor))などの映像機器から制作システムが構成され,最終段で映像信号と音声信号が多重されて,放送局への伝送装置に入力される(2図)。撮像については,2014年にフレーム周波数120Hz・広色域に対応したリファレンスカメラが開発され,2016年にはHDRにも対応したフルスペック8Kカメラが開発された10) 11)。本稿では,フルスペック8Kに対応した番組制作を目指して新たに開発した,圧縮記録装置,4入力4出力信号ブランキンググスイッチャー,17インチ液晶ディスプレー,波形モニター,カラーグレーディング装置,タイムコード装置,およびそれらを接続しての動作検証について述べる。

3.1 圧縮記録装置フルスペック8Kに対応する記録装置として,U-SDI映像

入出力インターフェースを備え,圧縮した映像を可搬型のメモリーパックに記録できる8K/120Hz圧縮記録装置を試作した12)。3図と2表に,試作した装置の外観と諸元をそれぞれ示す。

メモリーパックは手のひらサイズで, 6.4TBの記録容量を持ち,8K/120Hz映像を1/8程度に圧縮した後,1つの記録媒体に45分間収録することが可能である。記録装置のメモリー制御用基板とメモリーパックの間は,複数の高速シリアルインターフェースで接続し,8チャンネルの並列記録によって転送レートを向上させている。さらに,記録するデータの単位を,映像記録に適した大きなブロックサイズにし,システム基板とメモリー制御基板の間で転送されるデータのオーバーヘッドを削減することにより, 20Gpbsの記録レートを達成している。8K/120Hz映像のデータは,拡張JPEGフォーマットにより1フレーム単位で圧縮される。圧縮IPコア(Intellectual Property Core)*1を複数のFPGA(Field-Programmable Gate Array)に実装し,分散処理を行う構成とすることで,実時間での記録再生を実現している。さらに,ジョグやスローモーションといった特殊再生動作も実現した。

3.2 ブランキングスイッチャーU-SDIに対応した4入力4出力の8K/120Hz信号ブランキ

*1 集積回路の中で機能的にまとめられた回路プログラム。

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一方,クロスポイントスイッチには,映像信号間で切り替えを行う際に,データの欠損が生じ,映像が乱れるという課題がある。これに対処するために,ルーティング部の後にAVDL部(Automatic Variable Delay Line:自動可変ライン遅延部)を設け,欠損したデータを補正する構成とした。AVDL部は,3ライン分の映像信号を蓄積するメモリーを用いて欠損したデータを補正するとともに,同期信号に合わせて最適なタイミングで映像信号を出力する機能を持つ。これにより,垂直ブランキング期間内のスイッチングポイント14)

で欠損したデータを,本来の正しいデータに置換することが可能となり,任意のタイミングで映像を切り替えても正常な映像が出力されることを確認した。

ングスイッチャーを開発した13)。ブランキングスイッチャー*2

は,カメラなどからの映像入力信号を切り替える際に,出力の映像信号に乱れのないことが求められる。4図と3表に,8K/120Hz信号ブランキングスイッチャーの外観と諸元をそれぞれ示す。また,5図に構成を示す。U-SDIは24本の光信号で構成されるが,5図のルーティング部は,それぞれの光信号を電気信号に変換し,同時に切り替え,再度光信号に戻して伝送する。

データ転送速度が144Gbpsのフルスペック8K信号のルーティング切り替え機能を一般のFPGAで構成しようとすると,高速なインターフェースを持つ高性能なデバイスが多数必要となり,装置が大型になってしまう。そこで,装置を小型化するために,通信分野で広く用いられている,データ転送速度10Gbpsの96入力96出力クロスポイントスイッチデバイスを採用した。

*2 垂直ブランキング期間内のタイミングで映像信号を切り替えるスイッチャー。

1表 UHDTV用の映像フォーマット(各規格の主な共通部分)

項 目 規 格

画素数(水平×垂直) 8K(7,680×4,320),4K(3,840×2,160)

フレーム周波数(Hz) 120,120/1.001,60,60/1.001

カラーサンプリング構造※1 4:4:4,4:2:2,4:2:0

映像のサンプリングビット数(bit) 12,10

三原色と基準白色(CIE1931※2)

x y

赤(R) 0.708 0.292

緑(G) 0.170 0.797

青(B) 0.131 0.046

基準白色(D65※3) 0.3127 0.3290

ダイナミックレンジ SDR,HDR

※1  色差信号の水平,垂直の画素数が輝度信号と等しいものを 4:4:4,水平方向に半分に間引いたものを 4:2:2,水平・垂直方向ともに半分に間引いたものを 4:2:0 と呼ぶ。

※2 CIE(国際照明委員会)が 1931 年に定めた色空間における座標。※3 CIE が規定する標準の白色光源。

1図 U-SDIインターフェース

(a)U-SDI ケーブルと(b)同軸ケーブルの比較 (c)U-SDIコネクターの拡大写真

(a) (b)

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2図 中継番組制作系統の概念図

映像切換

WFM

モニター

WFM

モニター

スピーカー

伝送装置

スタジオ

ポストプロダクション

映像調整カメラ

WFM

モニター映像調整カメラ

モニター記録再生 音声信号

3.3 17インチ液晶ディスプレースタジオや中継車内では,限られたスペースで複数のフル

スペック8K映像を調整したり,監視したりすることが求められる。そのため,フレーム周波数120Hzに対応した17インチサイズの小型8K液晶ディスプレーを開発した。6図と4表に,開発したディスプレーの外観と諸元をそれぞれ示す。このディスプレーは,7,680×4,320の画素数(画素密度

510ppi*3)を有し,パネルは低温ポリシリコン技術*4を用いて製作されている。コントラスト比は2,000:1,最大輝度は500cd/m2,視野角は上下左右ともに160度以上を確保して

*3 pixelperinch:1インチ当たりの画素数。

*4 多結晶性のシリコンをガラス基板上に500℃程度の低温で形成する技術。これにより,画素を駆動する薄膜トランジスターの性能が向上し,高精細なディスプレーを実現できる。

3図 8K/120Hz圧縮記録装置 4図 8K/120Hz信号ブランキングスイッチャー

2表 8K/120Hz圧縮記録装置の諸元

インターフェース U-SDI

画素数 7,680×4,320

信号フォーマット RGB 4:4:4

ビット深度 12, 10 ビット

フレーム周波数 60/1.001 Hz,120/1.001 Hz

圧縮率 1/8

最大転送速度 20 Gbps

記録媒体 固体メモリー

3表 8K/120Hz信号ブランキングスイッチャーの諸元

インターフェース U-SDI

入出力数 4入力4出力

同期信号 ブラックバースト,3値

フレーム周波数 60/1.001 Hz, 120/1.001 Hz

処理速度(レイテンシー) 3走査線時間

大きさ 430(W)×550(D)×134(H)mm(ルーターとAVDLユニット)

重量 17.4 kg (ルーター)9.6 kg (AVDLユニット)

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5図 8K/120Hz信号ブランキングスイッチャーの構成

クロ

スポ

イン

ト ス

イッ

O/E

O/E

O/E

O/E

O/E

O/E

O/E

O/E

E/O

E/O

E/O

E/O

E/O

E/O

E/O

E/O

データ補正

データ補正

データ補正

データ補正

U-SDI入力(光信号)

同期信号

操作部

ルーティング部AVDL部

U-SDI出力(光信号)

10Gbps信号(光,O)×2410Gbps信号(電気,E)×110Gbps信号(電気,E)×24同期/制御信号

制御部

クロック発生

いる。本ディスプレーは120Hzのフレーム周波数に対応しているが,広色域とHDRには対応していない。フルスペック8K制作用ディスプレーについては,要求性能や用途に合わせて,今後も継続的に性能改善が必要である。

3.4 波形モニターU-SDIで伝送するフルスペック8K信号の監視のために,

U-SDI内の複数の10Gbps光信号の物理性能や,8K映像信号,および映像信号に重畳される22.2マルチチャンネル音声信号15)やタイムコード信号16)などを観測できる8K波形モニターを開発した17)。7図と5表に,8K波形モニターの外観と諸元をそれぞれ示す。測定機能としては,各10Gbps光信号の受信電力,位相差,誤り率などの物理特性を測定することができる。また,信号の観測機能としては,ペイロードIDや音声信号の観測機能,補助データ領域におけるタイムコードなどのすべてのデータの観測機能,HDRに対応した波形表示機能を備えている。

3.5 カラーグレーディング装置フルスペック8K信号の映像補正を行うカラーグレーディン

グ*5装置を開発した18)。8図と6表に,8K/120Hzカラーグレーディング装置の外観と諸元をそれぞれ示す。本装置はU-SDIの入出力を持ち,フルスペック8K映像信号に対し,実時間で色補正,傷補正,色収差*6補正,輪郭補正(ディテール補正)を行うことができる。階調方向の映像補正については,リニアな信号空間で補正処理を行うことで,圧

縮された信号空間を持つHDR信号に対しても適切な処理ができるようにした。同時に,4K解像度や2K解像度でもモニタリングができるように,8Kからのダウンコンバート機能や切り出し機能を併せて備えた。

3.6 120Hz対応タイムコードフルスペック8Kによる番組制作に欠かせない要素技術と

して,フレーム周波数120Hzに対応する高フレームレートタイムコード(HFR TC:High-Frame Rate Time Code)を開発し,標準化を進めた19)。タイムコード*7は,主に番組制作における映像編集や,MA*8作業などにおける映像音響機器間の同期再生に用いる。

これまでのタイムコードは,フレーム周波数が現行のハイビジョン映像信号の30Hzや60Hzまでの映像にしか対応していない。HFR TCは,現行のタイムコード信号を継承しながら,現在使用していないビットを高フレーム周波数カウント用に割り当て直すことで,120Hzまで対応する。このため,現行のタイムコードに対応する装置でも,互換性を保ちながらHFR TCを読むことが可能である。

*5 映像の色の調整。

*6 光の波長の違いで生じる,レンズを通した結像の色のずれ。

*7 映像信号用の時刻情報で,1つの映像フレームに対し,1つの時刻情報が付く。

*8 編集映像に同期して,ナレーション,音楽,効果音など複数の音を付ける音声制作作業。

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たフレーム番号(0から119まで)を示す。上段のフレーム番号は,下段のフレーム番号の4分の1の値を正しく表示できており,フルスペック8K制作時に,従来の30Hz・60Hz対応の機器が混在した場合でも,フレームの互換性を確保できることを確認した。

4.�フルスペック8K制作検証システムの構築と接続実験

3章で示した制作機器をすべてU-SDIで接続し,フルスペック8K制作検証システムを構築した。11図と12図に,検証システムの構成と外観をそれぞれ示す。検証システムの構

HFR TCのラベリング*9方法,U-SDI信号への多重方法,HD-SDIを用いてHFR TCを伝送するためのインターフェースなどの開発や規格化を進めた16)。これらの検討を基に,HFR TC信号発生・読取装置を試作した20)。装置の外観を9図に示す。

HFR TCを各映像フレームに対応してラベリングし,U-SDIに重畳して伝送するために,U-SDIにHFR TC信号を重畳・分離することのできるU-SDIタイムコード多重分離装置を開発した。また,前述の圧縮記録装置もHFR TC信号の発生機能を内蔵している。これらの装置を使って, 10図(a)に示す系統によりHFR TCの動作と従来のタイムコードとの互換性を検証した。10図(a)において,圧縮記録装置で発生したHFR TCは,映像信号とともにU-SDIに重畳されて伝送され,U-SDI タイムコード多重分離装置により,HD-SDIの単独のタイムコード信号に分離される。これをHFR TC信号発生・読取装置で受信し,10図(b)に示すように,HFR TCが表示されることを確認した。10図(b)において,各写真の上段の右端2桁は現行のタイムコード読取装置で読み取ったフレーム番号(0から29まで)を示し,下段の右端3桁はHFR TC信号発生・読取装置で読み取っ

6図 8K/120Hz 17インチ液晶モニター 7図 8K波形モニター

4表 8K/120Hz 17インチ液晶モニターの諸元

インターフェース U-SDI

パネルの大きさ 17.3インチ

有効画素数 7,680×4,320

画素構造 RGBストライプ

画素密度 510 ppi

最大輝度 500 cd/m2

コントラスト比 2,000 : 1

フレーム周波数 120/1.001 Hz

5表 8K波形モニターの諸元

入力U-SDI

画素数 8K(7,680×4,320)

フレーム周波数 120/1.001 Hz60/1.001 Hz

インターフェース U-SDI

ビット深度 12 ビット

同期信号 ブラックバースト,3値

出力

U-SDI 入力に同じ

4K

フレーム周波数 60/1.001 Hz

サンプリング YCbCr※ 4:2:2

インターフェース 3G-SDI×4

大きさ 230(W)×123.8(H)×350(D)mm

重量 5.6 kg

消費電力 200 W (最大)

※ ARIB STD B56 で定義される輝度信号 Y および色差信号 Cb,Cr。

*9 各映像フレームにタイムコードを付与すること。

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8K/120Hzによる収録から切り替え・表示までの番組制作が可能であることを示すとともに,従来の60Hzシステムと互換性を保ちながら番組制作が可能であることを実証した。2016年のNHK技研公開において,本システムによる映像再生のデモンストレーションを行った(12図)。

5.まとめ

8K/120Hz制作に必要な種々の機器を開発し,これらを統合したフルスペック8K制作検証システムを構築した。開発した圧縮記録装置,ブランキングスイッチャー,波形モニター,カラーグレーディング装置,タイムコード装置を,光伝送インターフェース(U-SDI)を介して接続し,144Gbpsのフルスペック8K映像信号とタイムコードが確実に伝送され,切り替えられることを確認した。

現在の8K試験放送では,フレーム周波数60Hzで番組が制作・放送されている。スポーツなど,より速い動きを伴うコンテンツを撮影・収録し表現するには,動きぼやけを感じない高フレームレート化が必要であり,そのための撮影,伝送,圧縮,表示技術の向上が課題である。また,近年のディスプレーの高輝度化に伴い,より明暗差の大きい高ダイナミックレンジ(HDR)方式が放送に導入されつつある。カメラのフルスペック化は先行して実現され10),8K HDR制作システムの構築とライブ制作が試行されているが11) 21),今後,高解像度,広色域,高ビット深度,高フレームレート,高ダイナミックレンジに対応したフルスペック8K機器を充実させることで,より魅力あるコンテンツを提供できるようになることが期待される。

今後,2020年の東京五輪やその後に向けて,フルスペック8Kでの中継制作に必要な機器の開発や,ポストプロダクション制作に必要な機器の開発を進め,より充実した8K

築においては,既存のHDTVシステムとの一体化制作や8K機器へのスムーズな移行のための互換性についても配慮した。映像信号源としては,あらかじめ収録した8K/120Hz映像を2台の圧縮記録装置で再生し,ブランキングスイッチャーに入力して信号切り替え動作を行った。同時にフルスペック8K信号を波形モニターで観測し,17インチ液晶ディスプレーで映像を再生した。また,記録装置から発生したHFR TCがU-SDIに重畳され,ブランキングスイッチャーを通して伝送された後,U-SDIタイムコード多重分離装置を通してHFR TC信号発生・読取装置で表示されることを確認した。なお,これらの実験において,検証用コンテンツ映像はダイナミックレンジ設定がSDRの映像を信号源とした。HDRの場合のグレーディング装置による映像補正やダウンコンバート処理などについては,今後確認を行っていく予定である。

以上のように,開発したフルスペック8K制作機器を接続した統合システムを構築し,検証実験を行うことで,

8図 8K/120Hzカラーグレーディング装置

6表 8K/120Hzカラーグレーディング装置の諸元

インターフェース

入力 U-SDI×1

出力U-SDI×1, 4K(3G-SDI×4),HDTV(3G-SDI×1)

機能

映像補正 色,傷(点,線),色収差,ディテール

ダウンコンバート

解像度(8K, 4K, 2K),フレーム周波数(120P, 60P, 60i),色域(BT.2020, BT.709)

処理速度(レイテンシー) 1 フレーム以下

大きさ 430(W)×350(D)×88(H)mm (本体)

9図  高フレームレート(120Hz)タイムコード(HFR TC) 発生・読取装置

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10図  高フレームレート(120Hz) タイムコードと従来(30Hz)のタイムコード

12図 フルスペック8K(120Hz)制作検証システム

11図  フルスペック8K(120Hz)制作検証システムの構成(フルスペック8K制作システムとHDTVシステムとの互換性の検証)

U-SDIタイムコード多重分離装置

120Hzタイムコード信号発生(内蔵)

U-SDI(120Hzタイム  コード重畳伝送)

U-SDI(8K映像信号)

HD-SDI (タイムコード信号)

8K/120Hz圧縮記録装置

現行30Hzタイムコード

読取装置

120Hzタイムコード

読取装置

(a)互換性検証のための系統図  (b)表示比較 (各写真の上段:従来の30Hzタイムコード, 下段:120Hzタイムコード)

現行30Hzタイムコード

読取装置120Hz

タイムコード読取装置

フレーム番号(現行の 

 4倍の値)

フルスペック8K HDTV

ブランキングスイッチャー記録装置

従来記録装置

120HzTC表示

従来30HzTC表示

色調整

波形モニター

8Kモニター

HDモニター

解像度フレームレート変換

色域変換

IP同期

(a)フルスペック8K制作システムの接続 (b)HDTVシステム

U-SDI

8K/120Hz映像

記録装置

U-SDI

U-SDI HD-SDI

U-SDI

U-SDI カラーグレーディング装置

色域変換装置

8K/120Hz映像

120HzTC発生

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T. Hayashida, T. Soeno, J. Yonai, A. Iwasaki, Y. Ikeda, D. Koide, T. Yamashita, Y. Takiguchi, E. Miyashita and Y. Nishida:“Development of an 8K Production System with 120Hz Frame Frequency,” SMPTE 2016 Annual Technical Conference and Exhibition (2016)

放送サービスを視聴者に提供できるようさらに研究を進めていく。

本稿は,SMPTE 2016 Annual Technical Conference and Exhibitionに掲載された以下の原稿を基に加筆・修正し,再構成したものである。

1) Rec. ITU-RBT.2020-1,“ParameterValuesforUltra-HighDefinitionTelevisionSystemsforProductionandInternationalProgrammeExchange”(2014)

2) SMPTEST2036-1-2014,“UltraHighDefinitionTelevision–ImageParameterValuesforProgramProduction”(2014)

3) 電波産業会:“超高精細度テレビジョン方式スタジオ規格(1.1版),” ARIBSTD-B56(2015)

4) Rec.ITU-RBT.2100-0,“ImageParameterValuesforHighDynamicRangeTelevisionforUseinProductionandInternationalProgrammeExchange”(2016)

5) K.Masaoka,Y.Nishida,M.Sugawara,E.NakasuandY.Nojiri:“SensationofRealnessfromHigh-Resolution ImagesofRealObjects,” IEEETrans.Broadcast.,Vol.59,No.1,pp.72-83(2013)

6) M.Emoto,Y.KusakabeandM.Sugawara:“High-frame-rateMotionPictureQualityandIndependenceofViewingDistance,” J.DisplayTechnology,Vol.10,No.8,pp.635-641(2014)

7) 電波産業会:“超高精細度テレビジョン信号スタジオ機器間インタフェース規格(1.1版),” ARIBSTD-B58(2015)

8) SMPTEST2036-4,“UltraHighDefinitionTelevision–Multi-link10Gb/sSignal/DataInterfaceUsing12-BitWidthContainer”(2015)

9) Rec.ITU-RBT.2077-1,“Real-timeSerialDigitalInterfacesforUHDTVSignals”(2015)

10) K.Kitamura,T.Yasue,T.SoenoandH.Shimamoto:“Full-specification8KCameraSystem,” NABBroadcastEngineeringConferenceProceedings,pp.266-271(2016)

11) 船津,北村,安江,小出,島本:“ハイブリッド・ログ・ガンマ方式を適用した8K・HDRカメラ,” 映情学技報,Vol.40,No.23,BCT2016-59(2016)

12) E.MiyashitaandT.Kajiyama:“CompactCameraRecorderforSuperHi-Vision,” IEEEInternationalConferenceonConsumerElectronics (ICCE)2014Digest,pp.165-166(2014)

13) 米内,山下,西田:“フルスペック8KSHV対応ブランキングスイッチャーの開発,” 映情学年次大,22D-2(2016)

14) SMPTERP168,“DefinitionofVertical IntervalSwitchingPointforSynchronousVideoSwitching”(2009)

参考文献

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報告 02

15) 電波産業会:“超高精細度テレビジョン信号スタジオ機器間インタフェースにおけるデジタル音声規格(1.0版),” ARIBSTD-B64(2015)

16) 電波産業会:“超高精細度テレビジョン信号スタジオ機器間インタフェースにおけるタイムコードフォーマット(1.0版),” ARIBSTD-B68(2015)

17) 添野,池田,山下:“U-SDI信号解析機能を有する8K波形モニタの開発,” 映情学技報,Vol.40,No.14,BCT2016-34(2016)

18) 林田,山下:“フルスペック8KSHV対応カラーグレーディング装置の開発,” 映情学年次大,22D-1(2016)

19) SMPTEST12-3,“TimeCode forHighFrameRateSignals andFormatting in theAncillaryDataSpace”(2016)

20) 添野,白井,小出,山下:“4K・8K番組制作におけるフレーム周波数120Hz対応タイムコードの伝送方式,”映情学技報,Vol.40,No.14,BCT2016-46(2016)

21) 小出,山下,船津,白井,池田(善),西田,池田(哲):“8KHDRライブ制作~映像制作システムの構築と試行~,” 映情学技報,Vol.40,No.23,BCT2016-58(2016)

瀧たき

口ぐち

吉よし

郎ろう

1991年入局。放送技術研究所,技術局を経て,2016年から放送技術研究所において,フルスペックSHV制作システムの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部上級研究員。博士(工学)。

池いけ

田だ

善よし

敬たか

2011年入局。盛岡放送局を経て,2014年から放送技術研究所において,高ダイナミックレンジ映像システム,SHV制作システムの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部に所属。

小こ い で

出 大だい

一いち

1996年入局。放送技術局を経て,1999年から放送技術研究所において,ハイビジョン光ディスク,薄型光ディスクなどの放送用ストレージ,フルスペックSHV制作システムの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部に所属。博士(工学)。

西にし

田だ

幸ゆき

博ひろ

1985年入局。甲府放送局を経て,1988年から放送技術研究所において,ハイビジョンの伝送,映像符号化,ロボットカメラ,デジタル放送方式,スーパーハイビジョンの映像方式に関する研究,ならびにARIBやITU-Rなどでの標準化に従事。現在,ITU-R SG6議長,放送技術研究所テレビ方式研究部研究主幹。博士(工学)。

林はやし

田だ

哲てつ

哉や

1994年入局。福岡放送局を経て,1996年から放送技術研究所において,撮像素子,カメラおよびSHV制作システムの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部主任研究員。

米よ

内ない

淳じゅん

1997年入局。熊本放送局を経て,2004年から放送技術研究所において,超高速度カメラ用センサー,SHV制作システムの研究に従事。現在,放送技術研究所テレビ方式研究部に所属。

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