論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 vol. j94–b no.9 図3 低結合回路の構成図...

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高度で多様化する無線通信を支えるアンテナ・伝搬技術論文特集 近接配置 2 素子小形アンテナの 2 周波数低結合化手法* 佐藤 a) 小柳 芳雄 小川 晃一 †† 高橋 応明 ††† A Method of Dual-Frequency Decoupling for Closely Spaced Two Small Antennas Hiroshi SATO a) , Yoshio KOYANAGI , Koichi OGAWA †† , and Masaharu TAKAHASHI ††† あらまし 近年の情報端末では,音楽,映像等の大容量データを安定して通信すべく,通信品質の確保,通信 容量の向上が求められており,対策として MIMOMultiple-Input Multiple-Output)技術の導入が検討され ている.MIMO では,複数のアンテナが必要になるが,これらを近接配置し,1 箇所に集約できれば,素子配置 に用いる体積減少によるデザイン性向上や,アンテナから無線部への RF 線路引回し削減による伝搬損低減のメ リットが得られる.しかし,強い素子間結合によるアンテナ効率の減少,高い相関係数によるスループット減少 の懸念がある.本論文では,近接配置した MIMO アンテナの結合除去方法として,所望周波数でのアンテナ素 子のインピーダンスに依存せずに,複数周波数同時に結合を低減する手法を提案した.基礎検討として,2 素子 モノポールアンテナ及び 2 素子メアンダアンテナを近接配置したモデルで検討を行い,低結合回路をアンテナ給 電点間に配置することで,所望 2 周波数を同時に低結合化可能であることを示した.またこの対策により,アン テナ効率向上,相関係数の低減が得られることを確認した. キーワード MIMO,アンテナ,2 周波数共用低結合回路,アンテナ効率,相関係数 1. まえがき 近年の情報端末では,音楽,映像等の大容量デー タを安定して通信すべく,通信容量向上が求められて おり,対策として MIMOMultiple-Input Multiple- Output)技術 [1] の導入が検討されている.MIMO 術を導入した情報端末においては,高スループットの 実現とともに,小形かつ高いデザイン性が同時に要求 される.そこで複数のアンテナを 1 箇所に近接配置で きれば,素子配置に用いる体積減少によるデザイン性 向上や,アンテナから無線部への RF 線路引回し削減 による伝搬損失低減のメリットが得られる.しかしな パナソニックモバイルコミュニケーションズ株式会社,横浜市 Panasonic Mobile Communications Co., Ltd., 600 Saedo-cho, Tsuzuki-ku, Yokohama-shi, 224–8539 Japan †† 富山大学,富山市 Toyama University, 3190 Gofuku, Toyama-shi, 930–8555 Japan ††† 千葉大学,千葉市 Chiba University, 1–33 Yayoi-cho, Inage-ku, Chiba-shi, 263–8522 Japan a) E-mail: [email protected] * 本論文はアンテナ・伝播研究専門委員会推薦論文である. がらアンテナ素子間結合によるアンテナ効率の減少と, 相関係数の上昇により,スループットの減少が問題と なる [2]この対策として,アンテナ間 GND EBG やスリッ トを挿入することで低結合化する方法 [3], [4] や,2 子の逆 F アンテナのショートピン同士を接続するこ とで結合を減少させる方法 [5] など,各種結合対策が 提案されている.しかしアンテナ間 GND EBG スリットを挿入する方法は,素子間にスペースが必要 であり,近接している素子では挿入が困難であったり GND 条件が限定されるなど,小形化に課題がある. 一方,平行近接した 2 素子のモノポールアンテナ間 を集中定数を介して接続し,低結合化する方法 [6], [7] が提案されている.この手法は,小形化に適した低結 合化手法であるが,移相器が必要であるとともにアン テナ素子単体で所望周波数での整合が得られている必 要があるため,1 周波数のみで有効な手法である.す なわちこの手法では,実装面積の縮小化,コスト削減 のための移相器の不使用,アンテナ素子のインピーダ ンスに限定されない低結合化実現や,低結合帯域の多 共振化,広帯域化などの課題がある. 1104 電子情報通信学会論文誌 B Vol. J94–B No. 9 pp. 1104–1113 c (社)電子情報通信学会 2011

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Page 1: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

論 文 高度で多様化する無線通信を支えるアンテナ・伝搬技術論文特集

近接配置 2素子小形アンテナの 2周波数低結合化手法*

佐藤 浩†a) 小柳 芳雄† 小川 晃一†† 高橋 応明†††

A Method of Dual-Frequency Decoupling for Closely Spaced Two Small

Antennas∗

Hiroshi SATO†a), Yoshio KOYANAGI†, Koichi OGAWA††,and Masaharu TAKAHASHI†††

あらまし 近年の情報端末では,音楽,映像等の大容量データを安定して通信すべく,通信品質の確保,通信容量の向上が求められており,対策として MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術の導入が検討されている.MIMOでは,複数のアンテナが必要になるが,これらを近接配置し,1箇所に集約できれば,素子配置に用いる体積減少によるデザイン性向上や,アンテナから無線部への RF 線路引回し削減による伝搬損低減のメリットが得られる.しかし,強い素子間結合によるアンテナ効率の減少,高い相関係数によるスループット減少の懸念がある.本論文では,近接配置した MIMO アンテナの結合除去方法として,所望周波数でのアンテナ素子のインピーダンスに依存せずに,複数周波数同時に結合を低減する手法を提案した.基礎検討として,2 素子モノポールアンテナ及び 2素子メアンダアンテナを近接配置したモデルで検討を行い,低結合回路をアンテナ給電点間に配置することで,所望 2 周波数を同時に低結合化可能であることを示した.またこの対策により,アンテナ効率向上,相関係数の低減が得られることを確認した.

キーワード MIMO,アンテナ,2 周波数共用低結合回路,アンテナ効率,相関係数

1. ま え が き

近年の情報端末では,音楽,映像等の大容量デー

タを安定して通信すべく,通信容量向上が求められて

おり,対策としてMIMO(Multiple-Input Multiple-

Output)技術 [1]の導入が検討されている.MIMO技

術を導入した情報端末においては,高スループットの

実現とともに,小形かつ高いデザイン性が同時に要求

される.そこで複数のアンテナを 1箇所に近接配置で

きれば,素子配置に用いる体積減少によるデザイン性

向上や,アンテナから無線部への RF線路引回し削減

による伝搬損失低減のメリットが得られる.しかしな

†パナソニックモバイルコミュニケーションズ株式会社,横浜市Panasonic Mobile Communications Co., Ltd., 600 Saedo-cho,

Tsuzuki-ku, Yokohama-shi, 224–8539 Japan††富山大学,富山市

Toyama University, 3190 Gofuku, Toyama-shi, 930–8555

Japan†††千葉大学,千葉市

Chiba University, 1–33 Yayoi-cho, Inage-ku, Chiba-shi,

263–8522 Japan

a) E-mail: [email protected]

* 本論文はアンテナ・伝播研究専門委員会推薦論文である.

がらアンテナ素子間結合によるアンテナ効率の減少と,

相関係数の上昇により,スループットの減少が問題と

なる [2].

この対策として,アンテナ間GNDにEBGやスリッ

トを挿入することで低結合化する方法 [3], [4]や,2素

子の逆 F アンテナのショートピン同士を接続するこ

とで結合を減少させる方法 [5] など,各種結合対策が

提案されている.しかしアンテナ間 GNDに EBGや

スリットを挿入する方法は,素子間にスペースが必要

であり,近接している素子では挿入が困難であったり

GND条件が限定されるなど,小形化に課題がある.

一方,平行近接した 2素子のモノポールアンテナ間

を集中定数を介して接続し,低結合化する方法 [6], [7]

が提案されている.この手法は,小形化に適した低結

合化手法であるが,移相器が必要であるとともにアン

テナ素子単体で所望周波数での整合が得られている必

要があるため,1周波数のみで有効な手法である.す

なわちこの手法では,実装面積の縮小化,コスト削減

のための移相器の不使用,アンテナ素子のインピーダ

ンスに限定されない低結合化実現や,低結合帯域の多

共振化,広帯域化などの課題がある.

1104 電子情報通信学会論文誌 B Vol. J94–B No. 9 pp. 1104–1113 c©(社)電子情報通信学会 2011

Page 2: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

論文/近接配置 2 素子小形アンテナの 2 周波数低結合化手法

本論文では,近接配置したMIMO用アンテナの結

合除去方法として,移相器を使用せず給電点間に集中

定数で構成する低結合回路を配置する.これにより所

望周波数でのアンテナ素子のインピーダンスに依存せ

ずに複数周波数同時に結合を低減する手法を提案する.

本手法では,素子間が強結合である 2素子モノポー

ルアンテナを近接配置したモデルに対し,インダクタ

とキャパシタの並列回路で構成する低結合回路を給電

点間に配置している.このことで,2周波数同時に結

合が低減され,アンテナ効率向上及び相関係数の低減

を実現している.

更に,結合によるアンテナ効率の各種損失要因と各

損失量の分析を行い,更なるアンテナ効率向上方法を

示すとともに,その効果を確認している.

最後に,本手法を,電気的に小形な 2素子メアンダ

アンテナに対して適用し,2周波数での低結合化が端

末用内蔵アンテナでも適用可能であることを確認して

いる.このことは,本結合対策手法が各種のアンテナ

形式にも有効であることを示唆している.

2. 2素子モノポールアンテナの 2周波数での低結合化

2. 1 解析モデル

本論文では,1.5 GHz及び 2.5 GHzの 2周波数に対

応した 2 × 2 MIMO通信を想定している.

図 1 に示す平行近接した 2 素子モノポールアンテ

ナを,きょう体 GND 上部中央に配置する.きょう

体 GND 部は 100 × 50mm,片面銅で厚さ 0.8 mm

の FR-4 板で構成し,26 × 1.4 mm のアンテナ 2 素

子を最近接部分が 4.6 mmとなる間隔で平行に配置す

る.GND~アンテナ素子間の 2 箇所に整合回路を配

置した給電点を設ける.電磁界シミュレータは CST

社MW-studio [8]を使用し解析を行った.

図 2 に S パラメータのシミュレーション結果及び

実測結果を示す.インダクタ,キャパシタは村田製作

所 LQG15,GRM15 シリーズを用いた.図 2 (a) は

図 1 の素子 2 を削除し,素子 1 と整合回路のみの状

態,図 2 (b)は 2素子と整合回路のみで低結合対策を

行っていない状態での Sパラメータである.いずれも

2周波数で S11 が −10 dB以下であり,整合を確保で

きていることが確認できる.

低結合対策を実施していない 2 素子では,アンテ

ナ素子が近接配置しているため,図 2 (b)の状態での

結合が 1.5 GHz で −1.9 dB,2.5 GHz で −4.4 dB と

図 1 GND 板上 2 素子モノポールアンテナFig. 1 2-element monopole antenna on the GND

plane.

(a) 1 素子モノポールアンテナ

(b) 2 素子モノポールアンテナ(低結合対策なし)

図 2 S パラメータFig. 2 S-parameter.

強い.このため,アンテナ効率は,低結合対策を行っ

ていない 2 素子を 1 素子と比較すると,1.5 GHz で

6.7 dB,2.5 GHzで 5.0 dBの劣化が生じる.アンテナ

効率に関しては 3. 1 で詳細に示す.そこで,既に検

討されている単一周波数での低結合化手法 [6] を拡張

し,複数周波数同時に低結合化が可能な低結合回路を

導出し,アンテナ効率の改善を図る.

2. 2 単一周波数での低結合化手法

2 素子平行近接モノポールアンテナに対し,1 周波

数で低結合化を行った文献 [6] の,低結合回路の構成

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Page 3: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

電子情報通信学会論文誌 2011/9 Vol. J94–B No. 9

図 3 低結合回路の構成図Fig. 3 Decoupling circuit.

図を図 3に示す.

振幅 α,位相差 φ で結合しているアンテナ 2 素子

を観測面 1©で表す.アンテナ素子後段に位相量 θ を

与える移相器を 2箇所に追加し,観測面 2©で表す.更に移相器の後段にアンテナ間を接続するサセプタンス

jB を配置し,観測面 3©で表す.ここでは特に,サセプタンス jB を低結合回路と総称する.最終段 2箇所

に整合回路を配置し,観測面 4©で表す.また簡単化のため,構造,回路定数は左右対称とし,アンテナ,移

相器は 50 Ω 整合が得られているとの仮定のもと,低

結合回路 jB の導出を行う.

文献 [6]では,マイクロストリップ線路で構成される

移相器により,結合の振幅 α を変化させずに,所望の

位相量 θ を得るため,アンテナ素子と移相器を共に特

性インピーダンス 50 Ω で設計している.そのため観

測面 1©で不整合は発生しない.結合による位相量は φ

で,移相器 1個の位相量は θ のため,観測面 2©での位相差は φ +2θ となり,Sパラメータは式 (1)となる.

[S 2©]=

[S 2©11 S 2©12

S 2©21 S 2©22

]=

[0 αe−j(φ+2θ)

αe−j(φ+2θ) 0

]

(1)

観測面 3©での結合は,式 (1)と低結合回路 jB をそ

れぞれ Y行列に変換し和として表し,式 (2)を導出す

る.ここで Y0 は特性インピーダンスの逆数を表す.

Y 3©21 = Y 3©12 = Y0

[−2αe−j(φ+2θ)

1−α2e−j2(φ+2θ)

]−jB (2)

また S12 を Y行列で表すと式 (3)となる.

S 3©21 = S 3©12 =−2Y 3©21Y0

Y 20 +2Y 3©11Y0+(Y 3©11)2−(Y 3©21)2

(3)

低結合化するには,式 (3)を S 3©21 = S 3©12 = 0 と

すること,つまり分子を 0 とするため Y 3©21 = 0 と

なる移相器の位相量 θ と低結合回路の定数 B を導出

する.

移相器の位相量は θ であるが,式 (2) の (φ + 2θ)

が ±π/2 となるとき,式 (2)の [ ]内は純虚数となり,

その虚数を相殺する jB を用いることで式 (2)は 0と

なる.よって S 3©21 = S 3©12 = 0 となり結合は除去さ

れる.つまり低結合となる移相器 θ の条件は式 (4)と

なる.

φ + 2θ = ±π/2 ⇒ θ = (±π/2 − φ)/2 (4)

低結合回路の定数 B であるが,式 (2) に式 (4) を

代入し,低結合となる B の条件は式 (5) となる.ま

た条件式 (5)で導出した B が正の場合はキャパシタ,

負の場合はインダクタを配置する.

Y0

[−2α ×±j

1 + α2

]− jB = 0 ⇒ B =

±2α

1 + α2Y0

(5)

以上の条件で結合を抑制した上で,観測面 4©では最終的に整合が得られるよう整合回路を配置する.

2. 3 複数周波数での低結合化手法

本節では,無線システムのマルチバンド化に対応す

るため,低結合化手法の帯域拡大を行う.

ここでは移相器を複数周波数で任意に調整すること

は困難であるとともに,コストと実装面積削減の観点

より,移相器を用いず,素子間に配置するサセプタン

ス jB のみで低結合化を行う.この場合,低結合化の

条件である式 (4)で定める図 3の観測面 2©での結合位相差 φ が厳密に π/2 でなくなり,式 (2)の Y 3©12 の

実部が存在する場合が生じる.

この対策として,アンテナ素子の Y12 の実部がほぼ

0とみなせる帯域を使用することで,移相器を使用せ

ずに低結合化が可能となる.また Y12 の虚部に関して

は,所望周波数で同値となるサセプタンスが得られる

低結合回路を導出し,給電点間に配置することで,複

数周波数での低結合化手法とする.

図 4 に図 1 のモデルを用いた 2 素子のみのアドミ

タンス Y12 を,図 5 (a)に Sパラメータを示す.アン

テナ素子長を調整することで,Y12 の共振を所望周波

数 1.5 GHzと 2.5 GHzの間である 1.8 GHz近傍に発

生させ,両所望周波数で Y12 の実部が 0mSに近い値

である状態を得ることで低結合化を行う.この場合,

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Page 4: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

論文/近接配置 2 素子小形アンテナの 2 周波数低結合化手法

図 4 アドミタンス Y12(2 素子のみ)Fig. 4 Admittance Y12 (2-element only).

図 5 (a)から素子単体では 2 GHzで整合が得られてい

るが,1.5 GHz,2.5 GHz では得られておらず,所望

周波数で 50 Ω 整合のアンテナを使用する文献 [7]の考

え方とは異なるアプローチである.

次に低結合回路の導出を行う.本論文の目的は 2周

波数で低結合化が実現できる低結合回路を提案するこ

とであるが,まず達成すべき結合量の目標値を明確に

する.そのため,最初に 1.5 GHz,2.5 GHzの各単一

周波数において低結合特性が得られるインダクタ値,

キャパシタ値の導出を行い,それらを用いた場合の低

結合特性を評価した.

インダクタ L とサセプタンス B,キャパシタ C と

サセプタンス B の関係は式 (6) で表せる.ω は角周

波数である.

B = − 1

ωLB = ωC (6)

式 (6)をインダクタ及びキャパシタを導出する形に

変形し式 (7)となり,単一周波数での低結合回路導出

に用いる.

L = − 1

ωBC =

B

ω(7)

図 4より,1.5 GHzの Y12 虚部は −j 12.10 mSであ

り,式 (7)よりインダクタ 8.8 nHを得た.この理想イ

ンダクタを給電点間に配置することで,図 5 (b)に示

す S12 = −31.3 dBが得られる.

同様に 2.5 GHz の Y12 虚部は +j 7.46 mS であ

り,式 (7) よりキャパシタ 0.5 pF を得た.この理

想キャパシタを給電点間に配置し,図 5 (c) に示す

S12 = −13.2 dBを得た.

1.5 GHzと 2.5 GHzの 2周波数対応低結合回路はイ

ンダクタとキャパシタの並列回路を給電点間にシリー

ズ接続することで実現する.

インダクタ L,キャパシタ C,サセプタンス B の

(a) 2 素子のみ

(b) 理想素子 8.8 nH 配置

(c) 理想素子 0.5 pF 配置

(d) 理想素子 4.1 nH//1.5 pF

村田部品 5.1 nH//1.3 pF 配置

図 5 S パラメータFig. 5 S-parameter.

関係は式 (8)で表せる.

B = ωC − 1

ωL(8)

所望周波数 1と所望周波数 2のサセプタンスを B1

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電子情報通信学会論文誌 2011/9 Vol. J94–B No. 9

と B2,角周波数を ω1,ω2 と定義する.この 2周波

数でのサセプタンス,角周波数を同時に満たす並列回

路定数インダクタ L とキャパシタ C は,式 (9)とな

り 2周波数低結合回路導出に用いる.

L =(ω2 + ω1)(ω2 − ω1)

ω1ω2(ω1B2 − ω2B1)

C =ω2B2 − ω1B1

(ω2 + ω1)(ω2 − ω1)(9)

式 (9)より低結合回路は L = 4.1 nH,C = 1.5 pF

となる.この理想素子からなる低結合回路を配置した

場合の Sパラメータを図 5 (d)に示す.S12 は 1.5 GHz

で −32.9 dB,2.5 GHz で −12.4 dB となり,いずれ

も単一周波数と同等性能の低結合化を実現している.

以上より,文献 [6]のような移相器を使用せずに,素

子単体として Y12 の実部がほぼ 0 とみなせる帯域を

所望周波数として選択する.かつ所望周波数での Y12

虚部と同値のサセプタンスが得られる低結合回路を給

電点間に配置することで,複数周波数を同時に低結合

化可能であることを示した.

3. 2周波対応低結合回路の効果

3. 1 アンテナ効率

理想素子の低結合回路は,4.1 nH と 1.5 pF の並列

回路であるが,図 5 (d) で表すインダクタ,キャパシ

タに村田製作所 LQG15,GRM15 シリーズを用いた

解析では 5.1 nHと 1.3 pFにおいて 2周波数の S12 が

最小となった.

図 6 には,低結合回路使用,かつ整合回路を介し,

2 周波数で整合を得た状態での S パラメータを示す.

また,このときの回路構成を図 7に示す.本構成では,

2周波数で整合,結合ともに −10 dB以下の性能が得ら

れ,図 2 (b)に示す低結合回路なしの場合と比較し,結

合が 1.5 GHzで 10.6 dB,2.5 GHzで 7.1 dB改善した.

図 8に,アンテナ効率のシミュレーション結果及び

実測結果を示す.図 8では,図 2で Sパラメータを示

した 1素子のみの状態を細い実線で,低結合化対策を

実施していない 2素子のみの構成を破線で示す.また,

図 7の回路構成に示した 2周波数対応低結合回路を使

用して低結合化した場合の効率を太い実線で示す.

シミュレーション,実測共に,給電以外のポートは

50 Ω 終端としている.図 8より,低結合化に伴い,低

結合回路なしの 2 素子のモデルと比較し 1.5 GHz で

4.8 dB,2.5 GHz で 3.6 dB 効率が改善している.ま

た,シミュレーションでも同様な傾向となっており,

2 素子モノポールアンテナ(低結合対策あり)

図 6 S パラメータFig. 6 S-parameter.

図 7 回路構成・定数Fig. 7 Circuit constants.

図 8 アンテナ効率Fig. 8 Antenna efficiency.

解析結果の妥当性が明らかである.

なお,図 8では,低結合化しても,1素子のみと比

較して,1.5 GHz で 2.0 dB,2.5 GHz で 1.4 dB 及ば

ないため,次節ではこの要因分析と改善策について検

討を行う.

3. 2 アンテナ効率劣化の損失要因検討

低結合化によるアンテナ効率変化の要因分析と低結

合時の更なるアンテナ効率向上対策を行う.そのため,

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Page 6: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

論文/近接配置 2 素子小形アンテナの 2 周波数低結合化手法

図 9 アンテナにおける電力損失の概念図Fig. 9 Conceptual diagram of power attenuation in

antennas.

図 8でアンテナ効率を示した 1素子のみ,2素子で低

結合対策なし,2素子で低結合対策ありの 3構成に対

し,各種損失電力を電磁界シミュレーションにより導

出し,アンテナ効率への影響を確認した.

図 9 にアンテナにおける電力損失の概念図を示す.

給電ポートを Port1 とし,Port1 の有能電力を Pav,

アンテナからの放射電力を Pr,損失電力の総量を Pt

とし,アンテナ効率 η を式 (10)で定義する [9].

損失電力の算出方法を式 (11) に示す.Pm はイン

ピーダンス不整合による損失電力,Pd は結合により

Port2 の負荷で消費される電力であり,共に S パラ

メータより算出する.PΩ は整合回路と低結合回路の

抵抗成分で消費される損失電力であり,全インダクタ,

キャパシタ部品ごとに流れる電流値と抵抗成分を等価

回路導出ツール [10] より導出し算出する.Pdie は誘

電体で消費される損失電力であり,全誘電体で電界を

積分し導出する [11].FR-4の媒質定数は 1.5 GHzで

比誘電率 εr = 4.4,tan δ = 0.00733,2.5 GHz で比

誘電率 εr = 4.4,tan δ = 0.01176 とした.Pcon は

導体損により消費される損失電力であり,導体の表

面インピーダンスを算出し,導体全表面の磁界を積

分することで導出する [11].銅の媒質定数は,導電率

σ = 5.8 × 107 S/m,透磁率 μ = 4π × 10−7 H/m で

計算した.

η =Pr

Pav=

Pav − Pt

Pav

Pt = Pm + Pd + PΩ + Pdie + Pcon (10)⎧⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎪⎩

Pm = |S11|2Pav Pd = |S12|2Pav

PΩ =1

2

∑R|I|2

Pdie =1

∫|E|2dV = πf tan δ ε0εr

∫|E|2dV

Pcon =1

2RS

∫|H|2dS =

1

2

√ωμ

∫|H|2dS

(11)

表 1 アンテナ効率と各要因での損失Table 1 Antenna efficiency and loss due to each

factor.

(a) 1.5GHz

(b) 2.5GHz

表 1に,片ポートを励振させた場合のアンテナ効率

の実測値,シミュレーションより求めたアンテナ効率

値,シミュレーションを用いて,図 9の Port1の有能

電力 Pav を 1 Wと仮定した場合の各要因による損失

電力を,(a) 1.5 GHz,(b) 2.5 GHzに示す.

シミュレーションにより,放射界の全立体角に渡る

積分から求めたアンテナ効率値と,式 (10),(11)より

算出したアンテナ効率値の一致を確認している.また

アンテナ効率の実測値とシミュレーション値の差分は

微小であることから,実測値における損失要因内訳に

対しても,ほぼ同様の傾向が想定される.

いずれのアンテナ構成及び周波数帯においても,S11

が −10 dB以下の整合状態のため,Pm は 0.1 W以下

と低く,また整合回路で発生する PΩ も 0.1 W程度と

低いことが確認できる.

2素子で低結合対策なしでは,アンテナ素子間の強

結合により,Pd が約 0.38~0.64 Wとなり,アンテナ

効率劣化の主因である.一方,2素子で低結合対策あ

りは,Pd が 0.08 W以下に抑えられているものの,低

結合回路による損失 PΩ が 0.1~0.18 W程度,誘電体

損 Pdie が 0.13~0.16 W程度発生しており,これら二

つの損失が主要な効率劣化要因となっている.そこで

本論文では,アンテナ効率向上のためこれら二つの損

失について考察する.

図 10 は,低結合回路使用時に基板誘電体 FR-4 の

tan δ を変化させた場合の 1.5 GHzと 2.5 GHzでの誘

1109

Page 7: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

電子情報通信学会論文誌 2011/9 Vol. J94–B No. 9

図 10 tan δ と誘電体損 Pdie

Fig. 10 tan δ and dielectric loss Pdie .

(a) 低結合対策なし (b) 低結合対策あり

図 11 電流分布(1.5GHz)Fig. 11 Current distribution. (1.5GHz)

電体損 Pdie を示す.また図中の � と◆のシンボルはFR-4本来の tan δ での PΩ を示している.本論文で

は基板材料として tan δ が約 0.01程度の比較的損失が

大きい FR-4 を用いた.しかし,tan δ が約 0.001 程

度のより低損失なフッ素樹脂などの基板材料を用いる

ことで,誘電体損の低減が可能であることが図より明

らかである.この検討に基づき以下では,低結合回路

の損失 PΩ の低減化についてより詳細な考察を加えた.

3. 3 低結合対策時のアンテナ効率改善策

図 11に (a) 2素子で低結合対策なしと,(b) 2素子で

低結合対策ありにおいて,それぞれ左ポートに 1.5 GHz

正弦波を印加した場合の電流分布を示す.(b)では,低

結合化により右ポートへの電流流入抑圧が確認できる.

一方,低結合回路には大きな電流が流れている.すな

わち,特に低結合回路に抵抗分が存在する場合,低結

合回路でのオーム損失が多く発生する.2素子で低結

合対策ありが 1素子のみのアンテナ効率に及ばない理

由は,低結合回路のオーム損失が原因である.そこで,

低結合化時の更なるアンテナ効率向上策として,低結

合回路の抵抗値を下げる対策を行う.

表 2 インダクタ・キャパシタの等価回路と電気定数Table 2 Equivalent circuit and Electric constant.

(a) インダクタ 5.1 nH

(b) キャパシタ 1.3 pF

図 12 インダクタの抵抗値とオーム損失 PΩ

Fig. 12 Inductor’s resistance and ohmic loss PΩ.

表 2に図 8での低結合回路で用いた,インダクタ:

村田製作所製 LQG15シリーズ 5.1 nH,キャパシタ:

村田製作所製 GRM15 シリーズ 1.3 pF の等価回路,

定数を示す.値は 2GHzのものである.

アンテナ効率の改善方法として,低結合回路に用い

たインダクタ 5.1 nH を,より低抵抗なものに交換す

る.図 12 にインダクタの抵抗値を変化させた場合の

1.5 GHz と 2.5 GHz でのインダクタで発生するオー

ム損失 PΩ を示す.低抵抗なインダクタの使用によ

り,インダクタのオーム損失 PΩ の減少が確認され

る.今回,インダクタを村田製作所製 LQG15シリー

ズから,村田製作所製 LQW15 シリーズに交換する.

図中の●と � のシンボルは両インダクタのオーム損失 PΩ を示す.抵抗値が 1.09 Ω から 0.65 Ω に低減す

ることで PΩ も減少し,アンテナ効率は 1.5 GHz で

0.3 dB,2.5 GHzで 0.2 dB上昇することが確認でき,

低抵抗な低結合回路を採用することのアンテナ効率改

善効果が期待できる.更に図 12より 2.5 GHzに比べ

て 1.5 GHz では抵抗低減の効果が顕著である.例え

ば,抵抗値を 0.2 Ωに低減することで PΩ は 0.05 Wと

なり,1.5 GHz におけるアンテナ効率は元の LQG15

シリーズから 0.6 dB の向上が期待できることが分

かった.

1110

Page 8: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

論文/近接配置 2 素子小形アンテナの 2 周波数低結合化手法

図 13 相 関 係 数Fig. 13 Correlation coefficient.

3. 4 相 関 係 数

移動環境下では伝搬経路が複雑に変化するので,平

均化の意味で,一様な到来波分布の場合の相関係数で

評価する.

アンテナ効率とともにMIMO通信の性能指標とな

る相関係数は,アンテナ指向性の類似性を表す指標で

あり,一般に全立体角の振幅・位相指向性から算出され

る [12]が,Sパラメータからも算出可能である [13].

ρe =|S∗

11S12+S∗21S22|2

{1−(|S11|2+|S21|2)}{1−(|S22|2+|S12|2)}(12)

低結合回路の有無による相関係数を図 13に示す.

図 13 より低結合回路を付加することで,相関係数

が 1.5 GHz で 0.24 から 0.03 に,2.5 GHz で 0.49 か

ら 0.01 に改善し,2 周波数において低相関化が確認

できる.これは提案の低結合回路を用いることで,S

パラメータは図 2 (b)から図 6へと整合を得られた状

態で低結合化できる.このため,式 (12)で S11,S22,

S12,S21 の絶対値が小さいこと,つまり反射かつ結

合が低い状態が得られ,分子に対し分母が大きくなる

からである.

2× 2 MIMO通信を想定した場合,低相関化により

第 2固有値が改善し,スループットの向上が見込める.

3. 5 放射指向性

図 2 (b) で S パラメータを示した低結合対策なし

と,図 6 の低結合対策ありにおける指向性を,図 14

に xy 面,図 15に yz 面を示す.指向性は図 1の給電

点 1に励振し,図 13の相関係数が特に低相関化された

2.5 GHzを示す.モデルは対称構造のため,給電点 2

を励振した状態の指向性は,図の左右対称形状となる.

低結合対策により,利得向上が得られるとともに垂

直成分指向性のピークが逆方向を向く,アンテナ間で

(a) 低結合化対策なし (b) 低結合化対策あり

図 14 2.5GHz xy 面指向性(+5~−25 dBi)Fig. 14 Radiation pattern. (xy plane)

(a) 低結合化対策なし (b) 低結合化対策あり

図 15 2.5GHz yz 面指向性(+5~−25 dBi)Fig. 15 Radiation pattern. (yz plane)

より異なった指向性となり,このことが低結合対策に

よる低相関化の要因と考えられる.

4. 低結合化手法の他アンテナ形状への適用

4. 1 2素子メアンダアンテナ

低結合化の効果確認として,図 1の 2素子モノポー

ルアンテナを用いたが,更に本提案の低結合化手法の

適用範囲確認のため,文献 [14]の 2素子メアンダアン

テナへの適用を確認する.このアンテナは電気的に小

形であり,携帯端末への実装上有利である.

図 16 にアンテナ構成を示す.厚さ 0.8 mm,幅

50mm,長さ 87mmの片面銅板 FR-4を GNDとし,

幅 22mm,長さ 23 mm,素子幅・間隔 1 mm のメア

ンダ 2素子を最近接距離 6 mmにて平行かつ対称に配

置する.

アンテナ素子単体の Sパラメータを図 17に,Y12 パ

ラメータの実測値を図 18 に示す.本構成では素子単

体で整合が得られ,かつ Y12 の実部が約 0 mS,虚部

が正である 670 MHzと,整合は得られていないが,同

じく Y12 の実部が約 0mS,虚部が負である 510 MHz

の 2周波数で低結合化検討を行う.

1111

Page 9: 論文...電子情報通信学会論文誌2011/9 Vol. J94–B No.9 図3 低結合回路の構成図 Fig.3 Decoupling circuit. 図を図3 に示す. 振幅α,位相差φ で結合しているアンテナ2

電子情報通信学会論文誌 2011/9 Vol. J94–B No. 9

図 16 2 素子メアンダアンテナの構成Fig. 16 2-element meander line antenna.

図 17 S パラメータFig. 17 S parameter.

図 18 Y パラメータ (Y12)

Fig. 18 Y parameter. (Y12)

4. 2 2周波数低結合回路,整合回路の設計

図 18 より,アンテナ単体の Y12 は 510MHz で

−0.04 − j 3.31 mS,670MHz で −3.03 + j 19.52 mS

である.低結合回路は,2素子モノポールアンテナ同

様,インダクタとキャパシタの並列回路を給電点間に

シリーズ接続することを想定し,式 (9)から理想素子

C = 12.4 pF,L = 7.2 nH を導出した.更に実測に

おいて 2 周波数で S12 が最小となるよう低結合回路

を選択し,村田製作所 GRM15,LQG15 シリーズの

12 pFと 7.5 nHを配置した.

低結合回路後段の両ポートに整合回路を配置し

図 19 S パラメータ(低結合回路,整合回路配置)Fig. 19 S parameter with decoupling and matching

circuits.

た最終形態の回路構成を図 16 に,S パラメータを

図 19に示す.これより 510 MHzで S11 = −10.1 dB,

S12 =−13.2 dB,670MHzで S11 =−10.3 dB,S12 =

−13.3 dB が得られ,低結合,整合を同時に満たすこ

とが確認された.また低結合対策を行わず,整合回路

により 2周波数で S11,S22 ともに −10 dB以下とし

整合を得たものに対し,低結合対策を行った図 16 の

構成では,アンテナ効率が,510 MHzで −12.2 dBか

ら −10.8 dBと 1.4 dB上昇,670 MHzで −5.9 dBか

ら −4.1 dBと 1.8 dB上昇することを確認した.

すなわちモノポールアンテナだけでなく,メアンダ

アンテナ素子に対しても,低結合回路による 2周波数

同時の低結合化が可能であり,提案した低結合化手法

の有効性が確認された.

5. む す び

本論文では,近接して配置した結合が強い MIMO

用 2素子モノポールアンテナに関して,2周波数で動

作する低結合回路の提案を行った.

インダクタとキャパシタの並列回路で構成される

2周波数共用低結合回路を給電点間に配置した.これ

により,所望 2 周波数に対して 1.5 GHz で 10.6 dB,

2.5 GHz で 7.1 dB 結合が改善され,アンテナ効率が

1.5 GHz で 4.8 dB,2.5 GHz で 3.6 dB 改善されるこ

とを確認した.また,相関係数が低下し,1.5 GHzで

0.03,2.5 GHzで 0.01の低相関係数を得た.

また本低結合化手法を電気的小形な 2素子メアンダ

アンテナに適用し,2周波数で低結合化可能であるこ

とを確認した.

以上より,2周波数共用低結合回路の設計方法とその

妥当性を示した.また低結合回路を用いることで所望

2周波数において,低結合,高アンテナ効率,低相関

1112

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論文/近接配置 2 素子小形アンテナの 2 周波数低結合化手法

係数を同時に得ることが可能となり,高スループット

が得られるMIMO通信用アンテナが実現可能である.

今後の課題として,周波数の更なる多共振化,広帯

域化を図るとともに,伝搬環境における,本低結合手

法を用いたMIMOアンテナの性能評価が必要である.

文 献[1] I.E. Telatar, “Capacity of multi-antenna Gaussian

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Propag. Lett., vol.8, pp.1430–1433, Jan. 2009.

(平成 22 年 12 月 27 日受付,23 年 4 月 14 日再受付)

佐藤 浩 (正員)

平 10 武蔵工大・工・電子通信卒.平 12

同大大学院電気工学専攻修士課程了.現在,パナソニックモバイルコミュニケーションズ(株)主任技師.

小柳 芳雄 (正員)

平元電通大・電気通信・応用電子卒.同年松下通信工業(株)入社.以来,ディジタル携帯電話を中心とした移動無線通信機用小形アンテナ,端末用 MIMO アンテナ,人体と電磁波の相互影響の研究に従事.平 15

千葉大大学院博士後期課程了.現在,パナソニックモバイルコミュニケーションズ(株)商品開発第一センター電気設計第二グループ参事.工博.IEEE 会員.

小川 晃一 (正員)

昭 54 静岡大・工・電気卒.昭 56 同大大学院修士課程了.同年松下電器産業(株)(現パナソニック(株))入社.以来,研究開発部門において,マイクロ波・ミリ波機器,衛星通信無線システム,移動体通信用アンテナ・高周波部品の研究に従事.デンマー

ク・オールボー大学客員教授(平 17).千葉大学・非常勤講師(平 12~16)及び特任教授(平 15~平 20).兵庫県立大学・非常勤講師(平 21).富山大学・工・教授(平 22).工博(東工大).平 2 オーム技術賞.平 13 テレコムシステム技術賞受賞.平 19 ISAP2007 Paper Award 受賞.平 21本会 Best Paper

Award受賞.IEEE AP-S Kansai Chapter Chair.IEEEシニア会員.

高橋 応明 (正員:シニア会員)

平元東北大・工・電気卒.平 6 東工大大学院博士課程了.同年武蔵工大・工・電気・助手.同年講師を経て,平 12東京農工大・工・電気電子・助教授.平 16 千葉大・フロンティアメディカル工学研究開発センター・准教授.衛星放送受信用アンテナ,平面ア

ンテナ,小型アンテナ,RFID,RLSA,環境電磁工学,人体と電磁波の相互作用の研究に従事.工博.IEEE シニア会員.

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