患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス...

24
各種がん 101 でんし冊子 がん 受診から診断、治療、経過観察への流れ 患者さんとご家族の明日のために 基礎知識 1.胃について............................ 2 2.胃がんとは............................ 3 3.症状 .................................... 4 4.組織型分類............................ 4 5.患者数(がん統計) ................ 4 6.発生要因............................... 5 検査 1.胃がんの検査 ......................... 6 2.検査の種類............................ 6 治療 1.病期と治療の選択.................... 9 2.内視鏡治療(内視鏡的切除) ... 14 3.手術(外科治療).................. 15 4.薬物療法(化学療法) ............ 17 5.緩和ケア/支持療法............... 18 6.転移・再発 .......................... 18 療養 1.日常生活を送る上で............... 19 2.経過観察 ............................. 19 わたしの療養手帳....................... 21

Upload: others

Post on 11-Mar-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

各種がん 101 でんし冊子

胃 E

Aがん 受診から診断、治療、経過観察への流れ

患者さんとご家族の明日のために

目 次

■基礎知識 1.胃について ............................ 2 2.胃がんとは ............................ 3 3.症状 .................................... 4 4.組織型分類 ............................ 4 5.患者数(がん統計) ................ 4 6.発生要因 ............................... 5

■検査

1.胃がんの検査 ......................... 6 2.検査の種類 ............................ 6

■治療 1.病期と治療の選択.................... 9 2.内視鏡治療(内視鏡的切除) ... 14 3.手術(外科治療).................. 15 4.薬物療法(化学療法) ............ 17 5.緩和ケア/支持療法 ............... 18 6.転移・再発 .......................... 18

■療養

1.日常生活を送る上で ............... 19 2.経過観察 ............................. 19

■わたしの療養手帳 ....................... 21

Page 2: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

2

■基礎知識

1.胃について

胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふんもんぶ)といい、中心の部分を胃体部といいます。胃の出口は幽門部(ゆうもんぶ)と呼ばれ、十二指腸へつながっています(図 1)。胃の近くにある血管の周りにはリンパ球が多く集まるリンパ節があります。

胃の壁は、内側から、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層、

漿膜と呼ばれる層になっています。 図1.胃の構造

Page 3: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

3

■基礎知識

胃の主な働きは、食べ物をある時間その中にとどめ、それを消化することです。胃は、入ってきた食べ物のかたまりをくだき、胃液や消化酵素を含む消化液と混ぜていきます。どろどろの粥(かゆ)状になった食物は、幽門部を通り少しずつ十二指腸へ送り出されていきます。

胃の入り口の噴門は、胃の中の食べ物が食道に逆流するのを防ぎ、胃の出口の

幽門は、消化された食べ物を十二指腸へ送り出す量を調節します。

2.胃がんとは

胃がんは、胃の壁の内側をおおう粘膜の細胞が何らかの原因でがん細胞となり、無秩序にふえていくことにより発生します。がんが大きくなるにしたがい、徐々に粘膜下層、固有筋層、漿膜へと外側に深く進んでいきます。がんがより深く進むと、漿膜の外側まで達して、近くにある大腸や膵臓(すいぞう)にも広がっていきます。このようにがんが周囲に広がっていくことを浸潤(しんじゅん)といいます。 胃がんでは、がん細胞がリンパ液や血液の流れに乗って、離れた臓器でとど

まってふえる転移が起こることがあります。また、漿膜の外側を越えて、おなかの中にがん細胞が散らばる腹膜播種(ふくまくはしゅ)が起こることがあります。

胃がんの中には、胃の壁を硬く厚くさせながら広がっていくタイプがあり、こ

れをスキルス胃がんといいます。早期のスキルス胃がんは内視鏡検査で見つけることが難しいことから、症状があらわれて見つかったときには進行していることが多く、治りにくいがんです。

Page 4: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

4

■基礎知識

3.症状

胃がんは、早い段階では自覚症状がほとんどなく、かなり進行しても症状がない場合があります。 代表的な症状は、胃(みぞおち)の痛み・不快感・違和感、胸やけ、吐き気、

食欲不振などです。また、胃がんから出血することによって起こる貧血や黒い便が発見のきっかけになる場合もあります。しかし、これらは胃がんだけにみられる症状ではなく、胃炎や胃潰瘍(いかいよう)の場合でも起こります。胃炎や胃潰瘍などの治療で内視鏡検査を行ったときに偶然に胃がんが見つかることもあります。

また、食事がつかえる、体重が減る、といった症状がある場合は、進行胃がん

の可能性もあります。これらのような症状があれば、検診を待たずに医療機関を受診しましょう。 4.組織型分類

がん細胞の組織型(細胞を顕微鏡で観察した外見)分類では、胃がんのほとんどを腺がんが占めています。また、腺がんは、細胞の特徴から、大きく分化型と未分化型に分けられます。一般的に、分化型は進行が緩やかで、未分化型は進行が速い傾向があるといわれています。 5.患者数(がん統計)

胃がんは、日本全国で一年間に約 135,000 人が診断されます。胃がんと診断される人は男性に多い傾向にあり、50歳ごろから増加して、70歳代でピークを迎えます。 男性で最も多く、女性では乳がん、大腸がんに次いで3番目に多いがんです 1)。

日本の胃がんの罹患率は、人口の年齢構成の移り変わりの影響を調整した場合、

男性では 2000年代前半まで減少傾向、その後は横ばいが続いています。女性では、1980年代から一貫して減少傾向にあります 2)。

Page 5: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

5

■基礎知識

6.発生要因

胃がんの発生要因としては、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染、喫煙があります。その他には、食塩・高塩分食品の摂取が、発生する危険性を高めることが報告されています 2)。

Page 6: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

6

■検査

1.胃がんの検査

胃がんが疑われると、まず、「がんであるかを確定するための検査」を行い、次に、治療の方針を決めるために、「がんの進行度(進み具合)を診断する検査」を行います。 1)がんを確定するための検査

内視鏡検査やX線検査などを行い、病変の有無や場所を調べます。内視鏡検査で胃の内部を見て、がんが疑われるところがあると、その部分をつまんで取り(生検[せいけん])、病理検査で胃がんかどうかを確定します。 2)がんの進行度を診断する検査

治療の方針を決めるためには、がんの深さや膵臓・肝臓・腸などの胃に隣り合った臓器への広がり、離れた臓器やリンパ節などへの転移を調べて胃がんの進行度を診断します。そのため、さらに、CT検査、MRI検査、PET検査などを行います。また、腹膜播種の可能性が強く疑われる場合には審査腹腔鏡が行われることがあります。 2.検査の種類 1)内視鏡検査

内視鏡を用いて胃の内部を直接見て、がんが疑われる部分(病変)の場所や、その広がり(範囲)と深さを調べる検査です(図 2)。病変をつまんで取り、病理検査をする場合もあります。 図 2.内視鏡検査の様子

Page 7: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

7

■検査

2)X線検査(バリウム検査)

バリウムをのんで、胃の形や粘膜などの状態や変化をX線写真で確認する検査です。 3)生検・病理検査

胃の内視鏡検査や腹腔鏡検査で採取した組織に「がん細胞があるか」「どのような種類のがん細胞か」などについて、顕微鏡等で調べ検査です。 4)CT検査・MRI検査

CT 検査はX線、MRI 検査は磁気を使って体の内部の断面を撮影する検査です(図 3)。離れた別の臓器やリンパ節への転移、肝臓など胃の周りの臓器への浸潤などを調べます。 図 3.CT検査の様子

5) PET検査

放射性フッ素を付加したブドウ糖液を注射し、がん細胞に取り込まれるブドウ糖の分布を撮影することで、がんの広がりを調べる検査です。リンパ節やほかの臓器への転移の有無、がんの再発の有無、治療の効果を調べるために使われることがあります。

Page 8: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

8

■検査

6)注腸検査

お尻からバリウムと空気を注入し、X線写真を撮ります。胃のすぐ近くを通っている大腸にがんが広がっていないか、腹膜播種がないかなどを調べます。 7)腫瘍マーカー検査

腫瘍マーカーとは、がんの種類により特徴的に産生される物質で、血液検査などにより測定します。この検査だけでがんの有無を確定できるものではなく、がんがあっても腫瘍マーカーの値が上昇を示さないこともありますし、逆にがんがなくても上昇を示すこともあります。

胃がんでは腫瘍マーカーとして CEA や CA19-9 などが使われます。主に、手

術後の再発や薬物療法の効果判定の参考に使われます。

8)審査腹腔鏡

おなかに小さな穴を開け、腹腔鏡と呼ばれる細い内視鏡によりおなかの中を直接観察する検査です。一般的に全身麻酔をして検査は行われます。腹膜播種の有無は画像検査のみではわかりにくいため、腹膜播種の正確な診断が必要な場合に行うことがあります。この検査では、がんが疑われる部位を生検したり、腹水を採取したりすることによって、がんの有無を病理検査により確認します。

Page 9: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

9

■治療

1.病期と治療の選択

治療方法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討します。 がんの進行の程度は、「病期(ステージ)」として分類し、ローマ数字を使っ

て表記することが一般的です。胃がんでは、早期から進行につれて I期~IVに分類します。

1)病期(ステージ)

胃がんの病期は、次の TNMの 3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決めます。

Tカテゴリー:がんの深さの程度(深達度[図 4]) Nカテゴリー:リンパ節への転移の有無 Mカテゴリー:遠くの臓器への転移(遠隔転移)の有無

Page 10: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

10

■治療

図 4.胃がんの深達度

日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第 15版(2017年 10月)」(金原出版)より作成

がんの深さが粘膜および粘膜下層にとどまるものを「早期胃がん」、粘膜下層より深いものを「進行胃がん」といいます。

Page 11: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

11

■治療

胃がんの治療方針を決めるためのがんの病期は、次の 2つの分類があります。

(1)臨床分類 画像診断や生検、審査腹腔鏡などの結果に基づいて、がんの広がりを推定

し、治療方針を決めるときに使う分類です(表 1)。 表 1.胃がんの臨床分類

日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第 15版(2017年 10月)」(金原出版)より作成

Page 12: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

12

■治療

(2)病理分類 手術で切除した病変を病理診断し、実際のがんの広がりを評価した分類で

す。病理分類は臨床分類と異なる場合があります。病理分類は病気の見通しを立てたり、術後補助化学療法が必要かどうかを判断したりするときなどに使われます(表 2)。

表 2.胃がんの病理分類

日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約第 15版(2017年 10月)」(金原出版)より作成

2)治療の選択

胃がんの治療法には、内視鏡治療、手術、薬物療法などがあります。 治療法は、標準治療に基づいて、患者さんの体の状態や年齢、希望なども含め

て検討し、担当医と共に決めていきます。 図 5は、胃がんに対する治療方法を示したものです。担当医と治療方針につい

て話し合うときの参考にしてください。それぞれの治療方法は、P17以降をご覧ください。

Page 13: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

13

■治療

図 5.胃がんの治療の選択

日本胃癌学会編「胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂(第5版)」(金原出版)より作成

Page 14: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

14

■治療

2.内視鏡治療(内視鏡的切除)

胃内視鏡を使って胃の内側からがんを切除する(切り取る)方法です。がんが粘膜層にとどまっており、原則リンパ節転移の可能性がごく低い早期のがんで、一度に切除できると考えられる場合に行われることがあります。 内視鏡治療でがんが確実に取りきれたかどうかは、病理診断で確認します。リ

ンパ節への転移の可能性も考えながら、次の治療について決めていきます。がんが確実に取りきれてリンパ節転移の可能性が極めて低い場合(根治度 A、B)には、経過を観察します。がんが内視鏡治療では取りきれなかった、あるいは取りきれているが、深さが粘膜下層まで達しているなどの理由でリンパ節転移の可能性がある場合(根治度 C)は、後日、追加で手術が必要となります。

1)内視鏡治療の方法

切除の方法には、高周波のナイフで切り取る内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や輪状のワイヤーをかけてがんを切り取る内視鏡的粘膜切除術(EMR)があります。病変の大きさや部位、悪性度、潰瘍などがあるかにより治療方法を選びます。近年は、治療の適応の拡大や技術的な進歩により、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が普及しています。

Page 15: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

15

■治療

3.手術(外科治療)

遠隔転移がない胃がんで、内視鏡治療による切除が難しい場合には、手術による治療が推奨されています。手術では、がんと胃の一部またはすべてを取り除きます。同時に胃の周囲のリンパ節を取り除くリンパ節郭清(かくせい)や、食物の通り道をつくり直す再建手術(消化管再建)も行います。おなかを 20cmほど切開する開腹手術と、小さい穴を開けて専用の器具で手術を行う腹腔鏡下(ふくくうきょうか)手術があります。腹腔鏡下手術が長期的にみて有効かについてはまだ十分わかっていないので、この手術を検討するときは、担当医とよくご相談してください。

1)手術の方法

(1)胃切除 切除する胃の範囲は、がんのある部位と病期(ステージ)の両方から決め

ます。胃の切除範囲によっていくつかの方法があり、代表的なものは、胃全摘術、幽門側胃切除術、幽門保存胃切除術、噴門側胃切除術です(図 6)。

図 6.胃切除の方法

Page 16: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

16

■治療

(2)リンパ節郭清 胃切除の際に、胃とともに胃の周囲にあるリンパ節を切除します。胃のす

ぐそばのリンパ節と、胃から少し離れたリンパ節を合わせて切除する「D2リンパ節郭清」が標準的に行われます。早期がんでは郭清するリンパ節の範囲を狭くした手術を行います(D1または D1+郭清)。

(3)消化管再建 消化管再建とは、胃の切除手術の際に、胃や腸などの消化管を縫い合わせ

てつなぎ、新しく食べ物の通り道をつくり直すことです。再建の方法は、いくつかの種類があり、胃の切除範囲などによって決めていきます。

(4)周辺臓器の合併切除 胃の周囲には、肝臓、横隔膜、膵臓、胆のう、横行結腸などの臓器があり

ます。これらの臓器にがんが広がっている場合、胃の切除と同時に、がんが浸潤している臓器の一部を切除することがあります。これを合併切除といいます。手術の範囲は広くなりますが、がんを完全に切除することを目指して行います。

2)手術に伴う合併症とその対策

胃がんの手術に伴う主な合併症として、縫合不全(ほうごうふぜん)、膵液漏(すいえきろう)、腹腔内腫瘍、肺塞栓(はいそくせん)などがあります。気になることがあれば、担当の医師や看護師にご相談ください。

Page 17: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

17

■治療

4.薬物療法(化学療法)

がんや全身の状態により、さまざまな薬を単独または組み合わせて使います。

1)胃がんの薬物療法で使われる薬

胃がんの薬物療法に使う薬には、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬そして免疫チェックポイント阻害薬があります。 2)胃がんの薬物療法の種類

胃がんの薬物療法には、大きく分けて「手術によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法」と再発の予防を目的とする「術後補助化学療法」があります。

(1)手術によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法 遠隔転移がある場合など、手術によりがんを取りきることが難しい場合や、

がんが再発した場合に行います。薬だけでがんを完全に治すことは困難ですが、がんの進行を抑えることにより、生存期間が延長したり、症状を和らげたりすることがわかっています。患者さんのがんの状況や臓器の機能、化学療法に伴う想定される副作用、点滴の必要性、入院の必要性や通院頻度などについて担当医と患者さんで話し合って、どのような薬を使うかを決めていきます。

(2)術後補助化学療法 手術でがんを切除できた場合でも、目に見えないようなごく小さなながん

が残っていて、のちに再発することがあります。こうした小さながんによる再発を予防する目的で行われる化学療法を術後補助化学療法といいます。手術後の患者さんの全身状態やがんの進行度を考慮しながら、TS-1のみあるいはほかの薬とともに使う方法を検討します。

Page 18: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

18

■治療

●副作用について 細胞障害性抗がん薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも障害を与えます。このために、治療による副作用が出てくることがあります。副作用は、血液細胞の数、肝機能や腎機能など検査でわかるものと、口内炎、吐き気、脱毛、下痢など自分でわかるものがあります。副作用の有無や程度は人によりさまざまです。最近は副作用を予防する薬も開発され、特に吐き気や嘔吐に対しては以前と比べて多くの人に予防ができるようになってきました。 副作用の症状や対処について、担当の医師や薬剤師・看護師よりよく説明を受けましょう。

5.緩和ケア/支持療法

緩和ケアとは、クオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法です。緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるものです。患者さんの希望に応じて幅広い対応をします。 なお、支持療法とは、がんそのものによる症状やがん治療に伴う副作用・合併

症・後遺症による症状を軽くするための予防、治療およびケアのことを指します。 本人にしかわからないつらさについても、積極的に医療者へ伝えましょう。

6.転移・再発

転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで成長することをいいます。 再発とは、初回の手術(内視鏡あるいは開腹手術)のときに目で見える範囲の

胃がんをすべて取り除いたあとや、術後補助化学療法を行ったあとに、治療を行った場所または離れた別の臓器やリンパ節に再び胃がんができることをいいます。

再発に対する治療は、再発した部位、その時の全身状態や前回行った治療法と

その時の効果などにより決められます。薬物療法による治療が一般的です。

Page 19: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

19

■療養

1.日常生活を送る上で

症状や、治療の状況により、日常生活の注意点は異なります。症状が重いときの対処について担当医と相談しておきましょう。

●手術後の食生活

「少量ずつ」「何回かに分けて」「よくかんで」「ゆっくり」食べることを基本として、新しい胃腸の状態に応じた食べ方に少しずつ慣れていくことが大切です。また、水分をとるときは、固形物と別の時間にすることで、固形物を腸で吸収する時間をゆっくりにすることにつながります(空ける時間の目安:30~60分)。 患者さんにより手術後の食事状況や好みは異なるため、栄養士などの医療者と自分に合った食事の方法を相談していきましょう。

2.経過観察

完治を目標とした治療が終了したあとは、全身の状態や後遺症を確認し、再発を早期に見つけるために、定期的な経過観察を行います。受診と検査の間隔は、がんの状況や治療の内容、体調の回復や後遺症の程度などによって異なります。

手術(外科治療)のあとには、回復の度合いや再発の有無を確認するために、定

期的に通院して検査を受けます。通院の頻度は個別の状況により異なりますが、少なくとも手術後 5年間は必要です。

内視鏡治療後の経過観察の方法は、病理診断の結果により異なります。年に 1

~2 回の内視鏡検査による経過観察を基本として、CT 検査などの別の画像検査をする場合もあります。

薬物療法を継続しない場合には、はじめは 1週間ごと、病状が安定してきたら 2

~3週間ごとに定期的に受診します。治療効果については、治療によりがんを取りきることが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法の場合には2~3カ月に一度、術後補助化学療法の場合には、半年ごとに CT検査などでがんの状態を確認します。

Page 20: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

20

■療養

規則正しい生活を送ることで、体調の維持や回復を図ることができます。禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動など、日常的に心がけることが大切です。

詳しい情報は「がん情報サービス」をご覧ください。

●「胃がん」参考文献

1)厚生労働省.がん登録 全国がん罹患数 2016年速報,2019年 2)日本臨床腫瘍学会編.新臨床腫瘍学 改訂第 5版.2018年,南江堂 3)日本胃癌学会編.胃癌取扱い規約 第 15版,2017年 10月,金原出版 4)日本胃癌学会編.胃癌治療ガイドライン医師用 2018年 1月改訂 第 5版,金原出版 5)日本消化器内視鏡学会・日本胃癌学会編.胃癌に対する ESD/EMRガイドライン.日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 56 (2014) No. 2 p. 310-323

Page 21: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

21

■わたしの療養手帳

記入日 年 月 日 あなたの病気はどのように説明されましたか? あなたが担当医から受けた説明について、メモしておきましょう。 ●誰から ------------------------------------------------------------------------------- ●一緒に説明を聞いた人 ------------------------------------------------------------------------------- ●何のがんか(病名)、がんの部位 ------------------------------------------------------------------------------- ●どの検査結果からわかったのか 例:内視鏡検査 ------------------------------------------------------------------------------- ●がんの大きさや広がり 例:直径約3センチ ------------------------------------------------------------------------------- ●転移の有無、転移の場所 例:リンパ節への転移は不明 ------------------------------------------------------------------------------- ●病期 例:ステージ 2と考えられる ------------------------------------------------------------------------------- 記入日 年 月 日 病気についての説明は十分に理解できましたか? よくわからないことがあったら、遠慮しないでわかるまで担当医に質問してみましょう。 わからないことはメモに書き出して、次回の診察のときに持参しましょう。 ● 説明でよくわからなかったこと 例:どのくらい入院が必要か ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ●質問の例: 質問したいことはどのようなことですか? □ ○○がんと言われましたが、それは、どの検査でわかったのですか? □ 私のがんは、どのくらい進行していますか? □ 転移はありますか? どこに転移していますか?

Page 22: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

22

■わたしの療養手帳

記入日 年 月 日 持病や、のんでいる薬を書き出す 治療中の病気やのんでいる薬、気になる症状があるかどうかによって、がんの治療法も変わって きます。持病やのんでいる薬があったら、正確に書き出し、担当医に伝えましょう。 ●現在治療中の病気 例:糖尿病と高血圧 ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ●かかっている医療機関 例:Aクリニック、月に1 回、○○医師 ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ●のんでいる薬 例:朝、○○を 1錠 ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ●気になる症状 ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- 記入日 年 月 日 どのような治療法を勧められましたか? 担当医から勧められた治療法について、それぞれにどのような効果や副作用などがあるのか 書き出してみましょう。複数の治療法についての説明を受けた場合には、それぞれについて 書き出して、比べてみることが大切です。 ●治療法1 ------------------------------------------- ------------------------------------------- ●期待される効果 ------------------------------------------- ------------------------------------------- ●副作用や後遺症 ------------------------------------------- ------------------------------------------- ●その他、気になること -------------------------------------------

●治療法2 ------------------------------------------- ------------------------------------------- ●期待される効果 ------------------------------------------- ------------------------------------------- ●副作用や後遺症 ------------------------------------------- ------------------------------------------- ●その他、気になること -------------------------------------------

Page 23: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

23

■わたしの療養手帳

記入日 年 月 日 治療においてあなたが大事にしたいことは何ですか? それぞれの治療法には特徴があり、どの方法がよいかは、あなたが治療に求めることによっても 変わってきます。それを整理するために、あなたが大事にしたいことをあげて、治療法を選ぶ ときの参考にしましょう。 ●あなたが大事にしたいこと、優先したいこと 例:・体への負担が少ないこと ・通院で治療ができること ・近くの病院で治療が受けられること ・入院の期間が短いこと ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- ------------------------------------------------------------------------------- わからないことは担当医に質問してみましょう。また、家族など、あなたの大切な人に考えを聞くことで、自分の気持ちの整理になるかもしれません。 ●質問の例: 質問したいことはどのようなことですか? □ 私が受けられる治療法には、ほかにどのようなものがありますか? □ 私の状態で、標準治療*はどれですか? □ どの治療法を勧めますか?それはなぜですか? □ 治療にかかる期間と、具体的な治療スケジュールを教えてください。 □ 治療にかかる費用の目安はどのくらいですか? □ 私が受けられる臨床試験はありますか? □ 治療は外来で受けられますか?入院が必要ですか? □ どのような副作用や後遺症が予想されますか? □ 緩和ケアを受けたいのですが、どうすればよいですか? □ 痛みや吐き気、だるさなどがあるので、和らげる方法はありますか? □ 家族や家庭の生活について、相談できますか? *標準治療: 治療効果・安全性の確認が行われ、現在利用可能な最も勧められる治療のこと

Page 24: 患者さんとご家族の明日のためにがん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」 2 基礎知識 1 .胃について 胃は袋状の器官で、みぞおちの裏あたりにあります。胃の入り口を噴門部(ふ

がん情報サービス 各種がん〔101〕でんし冊子「胃がん」

24

●協力者(五十音順): 平野 秀和(国立がん研究センター中央病院 消化管内科)

深川 剛生(帝京大学医学部附属病院 上部消化管外科) 国立がん研究センターがん対策情報センター 患者・市民パネル

2019年 4月作成(101E-201904-2)