阪市⽴⼤学 学院 都市経営研究科 都市 - osaka city …...10時~...

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1 阪市⽴⼤学院 都市経営研究科 都市政コース ワークショップⅡ 「参加型まちづくりの実践と課題」 【講師】田中晃代(近畿大学総合社会学部 準教授 環境・まちづくり系専攻) 時】平成 31 年 14)午後6時30分〜【会場】梅サテライト 106 号教室 【司会】水上啓吾(都市経営研究科準教授) 議事録担当;山本泰範(M18AB512) 1. まちづくりの歴史 (1)第 1 世代 1970 年代初頭 環境悪化による住民反対運動や歴史的町並みの保全(馬籠・妻籠地区) (2)第 2 世代 1980 年代後半 地域固有の創造的なテ-マや課題の解決を図る (例)豊中市まちづくり条例 アドバイザ-を派遣し、住民の自主性を損なわないよう 3 分の 2 の助成 (3)第 3 世代 1990 年代以降 講師紹介 近畿大学総合社会学部準教授、環境・まちづくり系専攻 大阪工業大学大学院建築学修士課程修了後、大阪大学大学院博士課程で学び 博士(工学)を取得。 1999 年 4 月~2002 年 3 月まで豊中市嘱託職員として 勤務し、2001 年 4 月~2004 年 3 月まで京都大学大学院社会健康医学系博士課 程に在籍し単位取得退学。 2008 年 4 月~2010 年 3 月まで豊中市嘱託職員として再度勤務した後、2010 年 4 月から近畿大学総合社会学部に勤務し、講師、准教授として勤務中。 はじめに「まちづくり分野における情報交流の「場」はどのようにデザインしていくの がいいのか。」 結論・・・情報交流の「場」の参加者意向や姿勢に着目して分析考察をした結果、ま ちづくり分野における「場」の機能には、「発想機能」、「実行機能」、「専 門機能」が存在。 ・「専門機能」と「発想機能」は相互に関連が深くまた、共に「まちへの 愛着」が深く、また、「専門機能」は、建設的な意見を促し活動を活性 化するファシリテーション機能のパス係数が高い(0.8) ・「発想機能」としては、地域ニ-ズを掘り起こす活動がパス係数が高い (0.7) ・「実行機能」としては、まちの情報を効果的に発信する活動や事業企画・ 実施のための活動パス係数が高い(0.6)が、活動資金獲得の取組につ いてはパス係数が低い(0.3)

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⼤阪市⽴⼤学⼤学院都市経営研究科都市⾏政コースワークショップⅡ「参加型まちづくりの実践と課題」

【講師】田中晃代⽒(近畿大学総合社会学部 準教授 環境・まちづくり系専攻)【⽇時】平成 31 年 1⽉4⽇(⾦)午後6時30分〜【会場】梅⽥サテライト 106 号教室【司会】水上啓吾(都市経営研究科準教授) 議事録担当;山本泰範(M18AB512)

1. まちづくりの歴史

(1)第 1 世代 1970 年代初頭

環境悪化による住民反対運動や歴史的町並みの保全(馬籠・妻籠地区)

(2)第 2 世代 1980 年代後半

地域固有の創造的なテ-マや課題の解決を図る

(例)豊中市まちづくり条例

アドバイザ-を派遣し、住民の自主性を損なわないよう 3分の 2の助成

(3)第 3 世代 1990 年代以降

講師紹介 近畿大学総合社会学部準教授、環境・まちづくり系専攻

大阪工業大学大学院建築学修士課程修了後、大阪大学大学院博士課程で学び

博士(工学)を取得。 1999 年 4 月~2002 年 3 月まで豊中市嘱託職員として

勤務し、2001 年 4 月~2004 年 3 月まで京都大学大学院社会健康医学系博士課

程に在籍し単位取得退学。

2008 年 4 月~2010 年 3 月まで豊中市嘱託職員として再度勤務した後、2010

年 4 月から近畿大学総合社会学部に勤務し、講師、准教授として勤務中。

はじめに「まちづくり分野における情報交流の「場」はどのようにデザインしていくの

がいいのか。」

結論・・・情報交流の「場」の参加者意向や姿勢に着目して分析考察をした結果、ま

ちづくり分野における「場」の機能には、「発想機能」、「実行機能」、「専

門機能」が存在。

・「専門機能」と「発想機能」は相互に関連が深くまた、共に「まちへの

愛着」が深く、また、「専門機能」は、建設的な意見を促し活動を活性

化するファシリテーション機能のパス係数が高い(0.8)

・「発想機能」としては、地域ニ-ズを掘り起こす活動がパス係数が高い

(0.7)

・「実行機能」としては、まちの情報を効果的に発信する活動や事業企画・

実施のための活動パス係数が高い(0.6)が、活動資金獲得の取組につ

いてはパス係数が低い(0.3)

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ネットワ-ク・NPO・ボランティア・政治のかじ取りの多様化(PPP)

PFI事業の事例として京都の御池創生館がある。京都は町衆が御池中学校・複合施

設整備事業に協力し、サ-ビス購入型方式により、中学校の整備・乳幼児保育所・

老人ディサ-ビスセンタ-・在宅介護支援センタ-・オフィススペースの合築。建

設費 27 億円の軽減を図って JV で実行された。

※日本建築学会の「まちづくり教科書シリーズ第 1巻」参照

(4)第 4 世代 2000 年以降

地域分権・地域自治組織→朝来市与布土地域自治協議会

※地域自治組織とは、「自考・自行、共助・共創のまちづくり」を基本理念とし

て、地域課題はまず地域で検討・解決し、地域を将来にわたって持続可能に

していくために、住民の力で最大限に発揮できる組織で、おおむね小学校区

を単位にして、地域のさまざまな団体や事業者が参加し、それぞれの特性を

いかして連携・協働する新しい地域自治システム。朝来市与布土地域自治組

織が最も活動的で、与布土マ-ケット等を開設している。

※これより以降が田中准教授のオリジナル

(5)第 5 世代 2010 年以降

エリアリノベーション・リノベーションまちづくり・SNS の普及

「リノベーションまちづくり」とは、今あるもの(遊休不動産・公共空間)を活

かして、新しい使い方をしてまちを変えることで、民間自立型のまちづくり会

社が、遊休不動産や公共空間のリノベーションを通じて都市型産業の集積を図

り、雇用の創出やコミュニティの活性化等につなげる。

・公共工事等実施に伴い、3面張りの護岸が作られるなど「ホタルの住む川がなく

なり」河川の生物の多様性が失われている。

(5)第 6 世代のまちづくりは?

・FacetoFace の関係を大切にしたまちづくり

・多様な人材が参加する情報交流の「場」のデザイン

<第 5の権力>

立法、司法、行政、及び国民に対して同等の影響力を持つ報道機関は、4

つめの権力とされる。オンラインでつながった個人が「第 5の権力」を手に

する未来である。誰でも入手できる携帯端末を通じてインターネットに接続

する力を獲得した個人は、情報受発信の面で、これまで考えられなかった大

きな力を手に入れようとしている。情報技術を手にした個人によって、アイ

デンティティー、プライバシー、国家、革命、テロリズム、戦争といった、

深刻かつ大きな問題がどう変化するのかが議論される。予想される変化は、

いずれも我々を戸惑わせるものばかりだ。一般市民もアイデンティティーの

盗難やプライバシーの喪失といった、これまで真剣に考える必要のなかった

リスクにさらされる。

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① 調査対象の交流の場の概要

交流の場 開始年度 継続年 場所 頻度 時間帯 場の設置目的

粉浜シャベリバ 2014 2 年 喫茶店 月 1

19 時~ 若手世代のまちづくりを促

すつながりとおしゃべりの

北千里地域交流会 2003 15 年 商店街会

議室

月 1

回 19 時~ 商店街振興事業の一つであ

り、教育機関との連携あり

じょいなす☆なっぴ

-

2012 5 年 喫茶店 月 1

回 18 時~ 東住吉区を元気にしようと

思う人なら誰でも参加可能

つながりカフェ 2006 11 年 市民活動

センタ-

月 1

回 18 時 30

分~ 「いつでもだれでもよって

こ交流会」NPO 自主事業

東成井戸端会議 2008 9 年 区役所ロ

ビ-

月 1

回 10 時~ 市職員の提案、地域行事や

活動についての井戸端会議

此花ブランドラウン

ドテ-ブル

2013 5 年 区民ホ-

月 1

回 19 時~ 区役所事業、区全体で応援

できるブランドを育てる場

京橋しゃべり場 2015 2 年 企業内 月 1

回 19 時 30

分~ 地域資源の発掘と活用によ

るイベントの実施

猪名川町松尾台井戸

端会議

2017 3回限

地域集会

月 1

回 19 時~ 松尾台校区まちづくり協議

会主体の事業

いくのまちカフェ 2016 1年 移動 月 1

回 10 時~ 「生野区のまちづくりに参

加したい」等の支援事業

南港シャベリバ 2014 3年 団地集会

月 1

回 19 時~ マエムキな人・若手世代に

よるゆる-い井戸端会議

② 「場」の類型による分類

「場」の類型 該当する交流の「場」

Ⅰ型:実効性・テ-マ性なし 粉浜シャベリバ、つながりカフェ、東成井戸端会議

松尾台井戸端会議、南港シャベリバ

Ⅱ型:実効性・テ-マ性あり じょいなす☆なっぴ-、此花ブランドラウンドテ-

ブル、京橋しゃべり場

Ⅲ型:実効性はあるがテ-マ性なし 北千里地域交流会、いくのまちカフェ

③ 「場」への世代別参加者の状況

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④ 参加者の性別等の状況

○参加頻度としては、月 1 回程度が最も多く、参加者の日頃の活動内容としては、「地域活性化活動」が最も多く、次いで多いのが「自治会・町内会活動」であり、

地域活動の目的としては、「地域への愛着」「景観や土地利用への関心」「活動

や人材をつなぐ」が多い。

○数量化Ⅲ類によるポジショニングマップ

熟年層を中心とした地域コミュニティ・働き盛りの層を中心としたエリアマネジ

メント活動グル-プ・何も活動していないグル-プに分類できる。

〇樹形図分析

10歳代, 10%

20歳代, 20%

30歳代, 21%

40歳代, 26%

50歳代, 21%

60歳代, 15%

70歳代, 7%

男性, 66%

⼥性, 34%

参加者の性別

○参加者は、男性が 66%を占め、市域の区域内からの参加が 53%をしめている。

市域・区域内, 53%

市域・区域外, 34%

不明, 13%

地域別参加者の状況

○40 歳代の参加者が最も多い

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〇インタ-ネット調査(2018 年月調査)

・まちづくり活動への参加状況や意向についての調査結果は以下の通り。

(1) 活動や人材をつなげる活動

(2) コミュニティ・ビジネスなど起業に関する活動や支援

(3) まちの将来ビジョンを考える活動

(4) まちの情報を動画や SNS などを利用して効果的に発信

(5) まちの景観や土地利用への関心

(6) グラウンドファンディングや助成金申請等活動資金獲得の活動

(7) 事業企画を考え実施するための活動

(8) 地域ニ-ズを掘り起こす活動

(9) 建設的意見を促し、活動を活性化して実行力を高める活動(追加)

(10) いろいろな要素を統合・調整して 1つにまとめる活動(追加)(11) 参加している情報交流の場のある地域への愛着

2 共分散構造分析(MIMIC モデル)

共分散構造分析とは、

直接観測できない潜在変数(心理学や社会学でいう「構成概念」を数学的に表現

したもの)を導入し、その潜在変数と観測変数との間の因果関係を同定すること

により社会現象や自然現象を理解するための統計的アプローチ。因子分析と多

重回帰分析(パス解析)の拡張。

① 第 1モデル

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② 第 2モデル

③ 第 3モデル

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④ まとめ 「場」のデザイン分析結果

【質疑応答】

田中准教授 ① 「場」の3つのモデルから、それぞれの機能同士の関連性について話し合って、モデルの妥当性について検証してください。

また、妥当であると判断できなければ新たなモデルを作成して下さい。

② 機能の参加者の能力を考えた場合、今後、まちづくりの新たな機能として考えられる力は何でしょうか。

③ まちづくり以外の場の機能との違いは何でしょうか。以上について、各班でとりまとめ、報告者・ファシリテ-タ-を決めて

報告しなさい。

情報交流の「場」の参加者意向や姿勢に着目して分析考察をした結果、まちづ

くり分野における「場」の機能には、「発想機能」、「実行機能」、「専門機能」が

存在。

・「専門機能」と「発想機能」は相互に関連が深くまた、共に「まちへの愛着」

が深い

・「専門機能」としては、建設的な意見を促し、活動を活性化するパス係数が高

い(0.8)

・「発想機能」としては、地域ニ-ズを掘り起こす活動パ-スが高い(0.7)

・「実行機能」としては、町の情報を効果的に発信する活動や事業企画・実施の

ための活動パ-ス係数が高い(0.6)、しかし、活動資金獲得の取組について

はパ-ス係数が低い(0.3)

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A 班報告 ① について「場」の類型Ⅰ型・Ⅱ型・Ⅲ型の区分に応じて必要な機能には差がある

のではないかと思った。

② について 活動資金獲得(スポンサ-探し、クラウドファンディング等)を行う

ための機能が重要であると考えられる。

③ について まちづくり以外の場の方がよりテ-マ性が強い場が多いように思え

たので、テ-マ性に沿った専門性がより必要とされるように思え

た。

B 班報告 ① について「場」の「発想性」「実行性」「専門性」の上に、何らかの力が必要

と考えた。

② について盛り上げる力、コンセプト・シンボルを生み出す力が必要

③ について 合コンや大学院などは、私的な目的を持った集まりの場・まちづく

りの場はオ-プンに、公共のためを考える集まりの場

田中准教授 1.まちづくりそのもののオ-プン化については、町家を改装して「住み開

き」という自分の家でありながらパブリックにする、あるいは庭をオ-

プンガ-デンにするのは、大阪市内とその周辺の都市で進んでいる。

重要なのは、公開することにより他者とコミュニケーションをとるこ

とでオーナ-が改めて自分の所有物に対する重要性を再認識すること

である。言い換えると、まちづくりで難しいのは、「オ-ナ-の意識変

革」でありオープン化にはそうしたオーナーの意識変革の可能性あり。

2.A班からあった「情報の発信ばかりではなく、情報の収集も必要ではな

いか」という指摘に対しては、「場」は自治会・町内会の構成員だけで

なく、地域外からの来街者も参加しており、他地域のまちづくりの情報

についても収集可能である。

3.B 班からの意見で対話をしていく中で、「場」が盛り上がりを見せると

いう「場」を盛り上げる雰囲気は確かに存在すると考えるが、その雰囲

気をどう表現するのか、どう反映させるのかは今後の課題である。

4.B班からあったシンボルについては、暮らしのビジョンみたいなものが

やがてシンボルにつながると考えられるが、暮らしがワンパタンであ

るとビジョンそのものもワンパタン化するので、暮らし方そのものを

豊かなもの・魅力的なものに変えていく必要があると考える。

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