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大豆の小畦立て播種栽培 技術マニュアル 小畦立て播種の作業風景 右が小畦立て(左は平畦) 降雨後の湿害回避の様子 平成20年5月 岩 手 県 岩手県水田農業改革推進協議会 岩手県大豆作共励会運営事務局

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大豆の小畦立て播種栽培

技術マニュアル

小畦立て播種の作業風景

右が小畦立て(左は平畦)

降雨後の湿害回避の様子

平成20年5月

岩 手 県

岩手県水田農業改革推進協議会

岩手県大豆作共励会運営事務局

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目 次

ページ

1 はじめに

(1)岩手県における大豆生産の現状と課題 ・・・・・・・・・・・・ 1

(2)小畦立て播種栽培の主な特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

2 小畦立て播種栽培技術とは

(1)技術のねらい ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

(2)技術の基本 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

(3)技術のメリット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

3 小畦立て播種栽培の導入効果

(1)慣行平畦栽培に対する増収効果 ・・・・・・・・・・・・・・・ 7

(2)経済的な効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

4 小畦立て播種機の組み立て方法

(1)播種機の組み立て前に準備する物 ・・・・・・・・・・・・・・ 9

(2)代かき用ハローの適応機種および具体的変更内容 ・・・・・・・ 10

(3)小畦立て播種機の組み立ての手順

<ステップ1> 均平板、ロータリカバーの取り外し ・・・・・ 14

<ステップ2> マスト等の取り付け ・・・・・・・・・・・・ 15

<ステップ3> 爪配列の並べ替え ・・・・・・・・・・・・・ 16

<ステップ4> ほ場での畦立て状況の確認・調整 ・・・・・・ 17

<ステップ5> 播種ユニットの装着 ・・・・・・・・・・・・ 18

<ステップ6> ほ場における播種機の調整 ・・・・・・・・・ 19

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(4)オプション

<オプション1> 線引き用マーカー ・・・・・・・・・・・・ 21

<オプション2> チゼル爪 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

5 小畦立て播種栽培の生産技術体系

(1)生産技術体系の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

(2)前提条件等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

(3)使用上の留意点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

(4)データの入手方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

(5)生産技術体系による慣行栽培と小畦立て播種栽培の比較 ・・・・ 31

6 現地における取組事例

(1)武道大豆転作組合(盛岡市玉山区) ・・・・・・・・・・・・・ 32

(2)黒西地域農用地利用調整組合(花巻市石鳥谷町) ・・・・・・・ 33

(3)ニューアグリ土谷(奥州市江刺区) ・・・・・・・・・・・・・ 34

7 今後の課題

(1)これから確認を進める事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39

(2)改善が必要と考えられる事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

(3)その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

8 参考

(1)排水対策の基本 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41

(2)各種播種技術の紹介 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

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1 はじめに

(1)岩手県における大豆生産の現状と課題

岩手県の大豆は、水田農業における主要作物として作付面積が増加していますが、その

一方で収量は伸び悩んでいます。近年の収量が低い年をみると、台風や大雨による被害と

いった突発的で避けがたい気象災害が影響していますが、もうひとつの主な要因として、

梅雨期の長雨による出芽不良や初期生育の停滞といった湿害が問題となっています。

梅雨期の湿害の発生は年ごとの降雨状況にもよりますが、水田は畑地に比べて一般的に

水がたまりやすく、もともと湿害が発生しやすい条件にあります。近年急増した水田での

大豆生産において湿害を回避・低減し、初期生育の改善により収量の向上・安定化につな

げることは、生産者の収益性の改善や実需者が望む安定供給にとって重要かつ緊急の課題

となっています。

(年) 平成12 13 14 15 16 17 18 19

(ha) 3,570 3,950 3,850 4,150 3,990 3,920 4,070 4,470

うち水田 (ha) 1,970 2,430 2,500 2,870 2,820 2,830 3,090 3,580

(t) 6,070 6,280 5,430 4,860 4,030 4,270 5,210 4,430

(kg/10a) 170 159 141 117 101 109 128 99

出典:農林水産省「農作物統計」

作付面積

収穫量

10a当たり収量

収穫年

8 月末と 9 月上旬

に台風接近

9 月上旬に台風・

中旬に大雨・洪水

7 月中旬に長雨 6 月下旬~7 月上旬

に長雨

ここで紹介する大豆の「小畦立て(こうねたて)播種栽培」は、水田における大豆生産

で問題となっている生育初期の湿害を回避・低減することにより、大豆の多収・高品質化

を図ろうとするもので、岩手県農業研究センターが独自に開発した技術です。

この技術は、平成 17 年から現地試験ほ場の 0.3ha で開発がスタートしましたが、それと

並行して先進農家による導入が進められ、平成 19 年には 363ha と面積が拡大しています。

本県では平成 18 年に設置した「麦・大豆収益性向上対策チーム」でさらなる技術の普及を

目指しており、その一環として、この「大豆の小畦立て播種栽培技術マニュアル」を作成

したものです。

-1-

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(2)小畦立て播種栽培の主な特徴

小畦立て播種栽培の特徴については、後述の「小畦立て播種栽培技術とは」のところで

詳しく説明しますが、概要については以下のとおりです。

☺小さな畦を立てながら播種する技術です。

→毎時 2km の速度で 3~4 条の播種を行うことができます。

☺大豆に対して生育初期の湿害回避に効果があります。

→収量は 10%(最大 30%)の向上が期待できます。

☺入手しやすい機械・部品を使用できます。

→トラクタもとくに大型のものは必要ありません。

小畦立て播種栽培は、水稲の代かき作業に用いるドライブハロー等の入手しやすい機械

や部品を使って、自分で播種機を組み立てることができます。

なお、導入の際は、最寄りの農業改良普及センターへお問い合わせのうえ、できるだけ

播種期が近づく前に、機械の組み立て・調整や、ほ場での試験走行などを実施し、適正な

小畦立て播種を行うことができるように事前の確認・相談をしましょう。

-2-

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2 小畦立て播種栽培技術とは

(1)技術のねらい

水田大豆の大きな生育阻害要因である湿害を回避・軽減することを目的に、岩手県

農業研究センターで開発された技術が「小畦立て播種栽培」です。名前のとおり小さ

な畦を立てることで、慣行の平畦播種栽培より排水性を良くし、特に生育初期にあた

る梅雨期の湿害を回避することを目的としています。

(2)技術の基本

ア 畦立ての原理

ホルダー型の代かきハローの爪配列を図1のように改変し、ロータリカバー(つ

り上げるだけで対応可能な場合もあります)や最後部の均平板をはずすことで、畦

立て成形板などを使わずに、耕起作業のみで畦を立てる仕組みです。図1は、耕幅

220cm の代かきハローで、29 列(58 枚)の爪を1条あたり 9~10 列ずつ振り分け、

播種条(種を播くところ)の中心に爪が向くように、左右対称に配列させた例です。

配列本数により条間のピッチ数が決定し、それにより理論上の条間が決定します。

振り分けられた配列本数が奇数になる場合は、この図の中央畦のように中央のホル

ダーの爪2枚をそれぞれ逆方向に向かせるか、あるいは爪を2本ともはずすことに

より対応します。

10列(20本)

抜きもしくは1本ずつ逆向き装着

9列(16or18本) 10列(20本)

ピッチ(7.5cm)

9.5ピッチ分(約71cm) 9.5ピッチ分(約71cm)

図1 耕幅 220cm のホルダー型代かきハローによる3条小畦立て仕様の爪配列(例)

下の図2が、実際に小畦を立てた様子です。概ね 70cm 程度の条間の畦が形成され

ています。この原理により、一本物(折りたたみ式でない)かつホルダー型(フラ

ンジ型でない)の代かきハローであれば、ハローサイズにより、さまざまな条間・

条数で小畦を立てることが可能です。

図2 小畦立て播種仕様にした

代かきハローによる畦の

形成状況

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イ 施肥・播種機の装着

「ア 畦立ての原理」の代かきハローに施肥同時播種機を装着することで、図3

のような小畦立て施肥同時播種機が完成します。図3は、同時施肥が可能な、施肥

ホッパー付ロール式播種機を装着したものですが、目皿式の播種機なども装着可能

です。なお、代かきハローは通常のロータリアタッチと違い、播種機の装着に用い

るブラケット(図4)以外に、作業機の高低を制御する手段がないため、播種機の

嵩上げ用アタッチ(図5)が必要になります。

図3 3条小畦立て播種機 ※オプションチゼル爪装着

図4 ブラケット 図5 播種機嵩上げ用アタッチ

播種機の鎮圧輪により、畦の天板は若干下がりますが、播種後も図6のように、

畦の形状は確保されます。

図6 小畦立て播種機による畦立て・施肥同時播種作業状況

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ウ ほ場の準備

不耕起状態では、代かきハロー1回がけによる砕土率の確保は期待できないこと

から、事前のロータリ耕により、十分な砕土・整地を行っておく必要があります。

また、代かきハローは、浅耕作業が基本であるため、トラクタ車輪が極端に沈下す

るようなほ場条件では、十分な畦立てができないことから、地耐力が不足するよう

な条件では、事前の排水対策等を徹底する必要があります。

エ トラクタの適応馬力

代かきハローは、通常のロータリとは異なり、浅耕作業であることから、負荷

が少なく、トラクタの所要動力も比較的小さくて済みます。前述の 220cm 耕幅の

代かきハローを用いる場合は、30PS 程度のトラクタで十分です。また、ウのほ場

条件によっては、接地圧の小さい半装軌(セミクローラ)式トラクタの利用も効

果的です。

オ 作業性能

ほ場条件にもよりますが、2km/hr 前後の速度での作業が可能です。種子や肥料の

補給なども含めた作業能率は、1ha 当たり概ね 3~4 時間となります。また、播種に

関しても、慣行並みの精度が得られます。畦高さについては、図7のように、8~10cm

が確保でき、基準田面から 2~3cm 高度が上昇します。しかし、これらの高度上昇の

安定性を確保するためには、ほ場の均平度が重要ですので、ほ場準備時の対策が別

途必要です。

畦高さ 8~10cm

基準田面2~3cm

図7 畦の形状および基準田面からの高度

カ 排水の効果

排水の効果は、図8のように、降雨直後だと達観による観察でも顕著に判別で

き、小畦立て播種栽培で畦溝に停滞水が集中しているのがわかります。

小畦立て播種で畦溝に水が集中

→湿害発生を回避・低減

慣行平畦栽培では

株付近に停滞水

(湿害発生の原因)

図8 降雨直後のほ場状態(平成 19 年)左:慣行平畦栽培、右:小畦立て播種栽培

また、このように、生育初期に湿害を受けるような気象条件では、早い段階か

ら分枝の発生量などの生育差がみられます(図9)。この初期の生育差は、後半の

生育にも大きく影響し、成熟期において図 10 のような状態となります。

-5-

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図9

初期の生育差

※播種 49 日後

(平成 19 年)

左:小畦立て

播種栽培

右:慣行平畦

栽培

比)慣行

平畦栽培

小畦立て播種は

初期生育が旺盛

小畦立て播種の旺盛な生育は

莢数の増加などにつながる

→収量が多収・安定化

比)慣行

平畦栽培

図 10 成熟期の様子(平成 19 年)

左:慣行平畦栽培、右:小畦立て播種栽培

キ 管理作業

播種後の管理作業は、除草剤散布や中耕・培土等を慣行栽培基準に準じて実施

します。ただし、作土層の薄い水田転換畑等では、播種時に小畦を立てることに

より、培土用量が確保しづらくなる傾向にあるため、初期の雑草管理には工夫と

細心の注意が必要です。

(3)技術のメリット

以上のように、大豆の小畦立て播種栽培技術の最大のメリットは、導入のしやすさ

にあります。水田農家では、一般的に所有している代かきハローを利用できるので、

低コストで簡単に播種機を組み立てられ、高能率で作業できることなどが特徴です。

-6-

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3 小畦立て播種栽培の導入効果

(1)慣行平畦栽培に対する増収効果

播種後の降雨状況により、慣行平畦栽培に対する小畦立て播種栽培の増収効果に違

いがみられます。表1は、3カ年のべ6試験の結果ですが、播種後 60 日間の降水量で

比較すると、平成 17 年は多雨年、平成 18 年は少雨年、平成 19 年は概ね平年並でした。

多雨年は増収効果が大きく、少雨年は小さいことが分かりますが、小畦立て播種栽培

は、慣行平畦栽培と比較して最大で 30%、平均で 11%の増収が認められます。

小畦立て 慣行平畦

所内 35.5 30.2 118 474mm(151%) 2回現地(花巻市) 36.4 28.1 130 475mm(151%) 2回所内 26.4 27.3 97 248mm( 81%) 0回現地(花巻市) 34.9 36.0 97 247mm( 79%) 0回所内 27.7 23.1 120 292mm( 92%) 1回現地(花巻市) 30.2 27.3 108 298mm( 97%) 1回

平均 31.9 28.7 111 - -

表1 慣行平畦栽培に対する小畦立て栽培の子実重(品種:ナンブシロメ)

子実重(kg/a) 子 実 重慣行対比率(%)

H17

同左期間内の多

雨条件*2出現回数年次 場所

注)*2 多雨条件:連続降雨100mm以上かつ日平均10mm以上

H19

播種後60日間の降

水量*1(対平年比

注)*1 降水量:岩手県北上市のアメダスデータ

H18

(2)経済的な効果

ア 播種機の組み立て費用等

小畦立て播種機の組み立てにかかる費用は、ベースとなる代かきハローによって

も違いますが(詳細は組み立て方法を参照)、220cm 耕幅のハロー(70cm 条間、3条

播種)を用いる場合を例に、表2に示します。播種機を除いた費用は約6~9万円

で、爪交換に要する時間は概ね2時間程度です。

表2 小畦立て播種機組み立てに必要な概算費用等

播種機装着用ヒッチ 高畦用部品 爪 費用計

K社 40,000 15,000 33,000*1 88,000 約2時間M社 40,000 15,000 0 55,000 約2時間

220cm

注)*1:ほぼ全部の爪を交換(同社製品で対応)する必要がある。

ハロー耕幅 機種組み立てに必要な費用の内訳(円) 爪交換に要

する時間

イ 播種機の種類と導入規模

実際に、既存の代かきハロー

を用いて、4条の播種機を組み

立てた例が図 11 です。複数の

サイズや栽植様式を想定して、

作業可能面積を試算したものが

表3になります。作業可能面積

(負担面積)は、1台で 13.6~

20.9ha と、水田大豆の大規模栽

培にも十分適応できます。 図 11 4条小畦立て播種機

※ハロー耕幅 300cm、条間 75cm

-7-

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作業機

播種様式 65cm3条 70cm3条 70cm4条 75cm4条作業幅 m 1.95 2.10 2.80 3.00

作業速度*1 km/h 2.0 2.0 2.0 2.0理論作業量 ha/h 0.39 0.42 0.56 0.60

圃場作業効率*2 % 60 60 60 6作業時間 h/ha 4.27 3.97 2.98 2.78

実作業率*2 % 65 65 65 61日の作業時間 h/日 8 8 8 8

作業可能日数率*3 % 74.3 74.3 74.3 74.3

作業可能日数*4 日 11.1 11.1 11.1 11.1作業可能時間 h 58.0 58.0 58.0 58.0作業可能面積(負担面積) ha 13.6 14.6 19.5 20.9注1)*1 作業速度は実測値に基づく。注2)*2 圃場作業効率、実作業率は「機械化計画のたて方(JA全農、平成10年)」による。

注4)*4 作業期間を6月1~15日の15日間とし、作業可能日数率を乗じて算出した。

表3 小畦立て播種機の作業可能面積(負担面積)

トラクタ+小畦立て播種機

注3)*3 作業可能日数率は岩手県北上市のアメダスデータを用いて「作業可能日数率算出支援     シート(岩手県)」により算出した。

0

5

ウ 経営試算

水稲 30ha・大豆 15ha の複合経営体で、大豆小畦立て播種栽培の導入により 10%

増収する前提で試算すると、所得向上は現行の収量水準 150kg/10a で 430 千円、同

200kg/10a で 554 千円です(表4、図 12)。

変動費 固定費 合計(ha) (kg/10a) (円/kg) (千円) (千円) (千円) (千円) (千円)

平畦慣行栽培 15ha 150 183 6368 2429 3842 6271 97小畦立て栽培 15ha 165 183 6779 2471 3783 6254 525注)23ページ以降に記載した生産技術体系とは、試算に使用したデータや前提条件等が異なるため、収支試算値は完全には一致しない(図12も同様)。

表4 水稲30ha、大豆15ha複合経営における小畦立て播種栽培の導入効果

所得大豆播種様式

経営費作付け面積 収量 平均単価 粗収益

図12 小畦立て栽培導入による所得シミュレーション

1886

1332

526

96

-2000

-1500

-1000

-500

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20

大豆の面積(ha)

大豆の所得(千円)

小畦220kg/10a

平畦200kg/10a

小畦165kg/10a

平畦150kg/10a 10%増収で554千円のアップ!

※グラフ内の数字は15haでの所得(千円)

10%増収で430千円のアップ!

-8-

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4 小畦立て播種機の組み立て方法

(1)播種機の組み立て前に準備する物

機械・部品 備 考

トラクタ 所要動力は、代かきハローのサイズに応じて設定(表5参照)。

ドライブハロー ホルダー型かつ一本物に限る(表5参照)。

播種機装着用

アタッチ

マスト(純正品)、播種機嵩上げ用アタッチ(図 14 参照)、

播種ユニット装着用角バー

播種機

※図 13 参照

ロール式播種機:施肥・播種ユニット(条数分)

もしくは 播種・施肥用駆動輪(1~2本)

目皿式播種機:播種ユニット(条数分)

施肥ユニット(同時施肥する場合は装着、

ただし施肥用駆動輪も必要)

その他

爪は、大きく分けて2種類(L(左)とR(右))があるため、

小畦立て播種用に並べ替えて、片方が不足した場合は、追加

で爪を入手する必要があります。

図 13 播種ユニット(左:ロール式(施肥ホッパー一体型)、右:目皿式)

3条設定 4条設定K社 20~26PS 25列 50本M社 20~24PS 26列 52本K社 22~32PS 29列 58本M社 20~28PS 29列 58本K社 24~50PS 32列 64本M社 22~40PS 32列 64本K社 28~50PS 34列 68本M社 24~42PS 34列 68本K社 32~50PS 36列 72本M社 30~52PS 37列 74本K社 32~50PS 39列 78本M社 30~54PS 41列 82本

280cm

310cm

200cm

220cm

240cm

260cm

爪総本数耕幅 メーカー 適応馬力 爪配列数

77~82 60

設定可能条間(cm)

65~68 50(狭畦)

表5 主要メーカーの代かきハローの基本仕様・適応トラクタ馬力と設定条数

注)仕様はメーカー・年式・型式により上記と異なる場合があるため確認すること

- 77~78

- 64~65

- 69~72

70~74 55(狭畦)

-9-

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図 14 播種機嵩上げ用アタッチ

(左:改良品、右:市販品)

※市販品で対応可能ですが、播種機

の高さが不足する場合には改良品が

必要です。

(2)代かき用ハローの適応機種および具体的変更内容

ア 小畦立てに適応する爪の形状と交換内容

代かき用ハローは、メーカーや型式によって爪形状が違いますが、畦立て適性が

高いのは、ホルダーからの爪の立ち上がりがまっすぐの、いわゆるストレート爪

であり、逆に、立ち上がりが斜めのスライディングカット爪は、適性が低くなりま

す(図 15)。従って、小畦立て仕様にするには、機種によって表6のような爪変更

が必要です。

図 15 爪形状

(左:ストレート爪、右:ス

ライディングカット爪)

耕幅 メーカー 基本爪の種類 車輪跡消し爪の種類 配列数 総本数小畦立て仕様時の使用爪

加算費用概算

K社 スライディングカット爪 土寄せ(ストレート)爪 25列 50本 土寄せ爪 35,200

M社 ストレート爪 片芯(ストレート)爪 26列 52本 ストレート爪 0*

K社 スライディングカット爪 土寄せ(ストレート)爪 29列 58本 土寄せ爪 41,600

M社 ストレート爪 片芯(ストレート)爪 29列 58本 ストレート爪 0*

K社 スライディングカット爪 土寄せ(ストレート)爪 32列 64本 土寄せ爪 46,400

M社 ストレート爪 片芯(ストレート)爪 32列 64本 ストレート爪 0*

K社 スライディングカット爪 土寄せ(ストレート)爪 34列 68本 土寄せ爪 52,800

M社 ストレート爪 片芯(ストレート)爪 34列 68本 ストレート爪 0*

K社 スライディングカット爪 土寄せ(ストレート)爪 36列 72本 土寄せ爪 52,800

M社 ストレート爪 片芯(ストレート)爪 37列 74本 ストレート爪 0*

K社 スライディングカット爪 土寄せ(ストレート)爪 39列 78本 土寄せ爪 57,600

M社 ストレート爪 片芯(ストレート)爪 41列 82本 ストレート爪 0*

表6 主要メーカーの代かきハローの装着爪の種類と小畦立て仕様の使用爪・加算費用

280cm

310cm

200cm

220cm

240cm

260cm

注1)爪の名称については、メーカーの呼称であるが一部形状を表すために便宜的な名称とした。注2)*:片芯爪もストレート爪に変えた場合には4800円程度の費用が生じる。

-10-

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イ 条毎の爪配列本数振り分けの考え方

条毎に振り分けられる配列本数により、条間のピッチ数が決定し、それにより理

論上の条間が決定します(ピッチはハローサイズにより異なりますが、1ピッチは

7.5~8.0cm 程度です)。図 16-1 に、220cm 耕幅のハローの 70cm3条小畦立て仕様に

おける、爪配列の基本パターンを示しますが、理論上の基本条間は 9.5 ピッチ(約

71cm)となります。しかし、小畦立てによってできる畦の形状はなだらかであるこ

とから、数 cm 程度播種機をオフセットすることにより、70cm の条間に設定すること

が可能です。また、条毎の配列本数の違いによる畦高さへの影響は少なく(トラク

タ車輪跡の影響が出ない前提で、9 列のところより 10 列の方が畦が高くなるという

ことはない)、ハローの配列数自体が、設定条数で割り切れることも少ないので、条

間設定(振り分ける配列本数・ピッチ数)を基本に、柔軟な振り分けをする必要が

あります。

ピッチ(7.5cm)

(約71cm)(約71cm) 9.5ピッチ分9.5ピッチ分

抜きもしくは1本ずつ逆向き装着

10列(20本) 9列(16or18本) 10列(20本)

図 16-1 220cm 耕幅のハローで 70cm3条とする爪配列の例(基本パターン、再掲)

また、図 16-2 や図 16-3 のように条毎の振り分け本数を同数にして、両端の列の

爪をはずしたり、爪自体をオフセット(トラクタの中心と中央畦の中心があわなく

なります)するなど、条間設定(振り分ける配列本数・ピッチ数)だけをとっても、

さまざまなバリエーションが考えられます。

9列(16or18本)

抜きもしくは1本ずつ逆向き装着

9列(16or18本) 9列(16or18本)

9ピッチ分(約68cm) 9ピッチ分(約68cm)

抜きもしくは1本ずつ逆向き装着 抜きもしくは1本ずつ逆向き装着抜く 抜く

図 16-2 220cm 耕幅のハローで 70cm3条とする爪配列の例(両端はずし)

9列(16or18本)

抜きもしくは1本ずつ逆向き装着

9列(16or18本) 9列(16or18本)

9ピッチ分(約68cm) 9ピッチ分(約68cm)

抜きもしくは1本ずつ逆向き装着 抜きもしくは1本ずつ逆向き装着抜く

爪自体のオフセット

図 16-3 220cm 耕幅のハローで 70cm3条とする爪配列の例(爪オフセット)

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図 16-2 の設定の場合、往復作業をする場合の合わせ目が、設定条間でなくてもい

い場合は問題ありませんが、合わせ目の条間を設定条間と同じにするには、線引き

マーカーの装着が必須です。さらに、播種機の条間設定にもよりますが、代かきハ

ローの両端の爪をはずした分(正確には、ピッチ分+ロータリのフレーム分)の2

倍の長さが、前の工程で立てた畦側にオフセットされることになります。オフセッ

ト長が長ければ、せっかく立てた隣接畦を崩し、極端な場合には播種した部分まで

干渉するという問題が発生します(条間が狭いほど厳しくなります)。従って、図

16-3 のように極端なオフセットをすると、仮に線引きマーカーを装着したとしても、

隣接畦への大きな干渉は避けられず、片方向作業しかできないことになります。

これらのことを、主要な代かきハロー別に整理したのが表7です。ただし、厳密

には、ハローの機種等によって、設定時のオフセット長(チェーンケースのサイズ

等)が違ったりするので、実機による確認が必要です。

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ウ 特殊なケース

図 17-1 と図 17-2 に、280cm 耕幅のハローの4条小畦立て仕様における爪配列の

例を2つ示します。

図 17-1 280cm・36 列のハローで 70cm4条とする爪配列の例①

図 17-2 280cm・36 列のハローで 70cm4条とする爪配列の例②

図 17-1(例①)における理論上の基本条間は、9 ピッチ分(約 70cm)で等数配列

の理想形ですが、4条仕様では、ほ場条件等によりトラクタの車輪跡の影響が強く

出る場合に、中央2本の畦が外側2本の畦より低くなってしまうことがあります。

このような場合には、図 17-2(例②)により、車輪跡付近の爪本数を増やす工夫も

必要です。この配列は偶数列なのに爪をはずしていたり、1条内の左右の列数が同

数でなかったりと変則的ですが、振り分けピッチ数の差を大きくしないようにした

ものです。具体的には、9ピッチ分(約 70cm)と 10 ピッチ分(約 78cm)で設定し

てしまうと、1ピッチ分の条間差が生じ、播種機のオフセット長が大きくなりすぎ

る問題が起きます。これを解消するために、変則的な配列をし、9 ピッチ分(約 70cm)

および 9.5 ピッチ分(約 74cm)とすることで、条間差を 0.5 ピッチ分としています。

このように、爪配列は必ずしも等配列数にしなくてもよいなど、状況に応じて柔

軟な配列が可能ですので、表7に示されている機種でも、必ずしも同じ仕様にする

必要はありませんし、表7に示されていない機種でも、十分対応は可能です。

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(3)小畦立て播種機の組み立ての手順

<ステップ 1>

均平板、ロータリカバーの取り外し

均平板

ロータリカバー

取り外した状態

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<ステップ2>

マスト、播種機嵩上げ用アタッチ、播種ユニット装着用角バーの取り付け

マスト

播種機嵩上げ用アタッチ

播種ユニット装着用角バー

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<ステップ3>

爪配列の並べ替え

設定配列のとおり爪配列を変更します。

爪配列変更の前に、標準爪配列を記録しておきましょう(スプレーなどで

マーキングするなどの工夫も必要です)。

アングルインパクトレンチなどの専用工具があれば、

爪交換は格段に速くなります。

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<ステップ4>

ほ場での畦立て状況の確認・調整

播種ユニットの装着前に、小畦が立つかどうかほ場で確認を行います。

【参考】小畦の確認

波状のなだらかな小畦が

立ちます。

小畦の大きさが揃ってい

る(高さの目安は 8~10cm)

のが良好な状態です。

小畦の高さ約 10cm の良好な例です。

【参考】良くない例

①ハローの耕深が深すぎる。

②ハローの耕深が浅すぎる。

③事前耕による砕土率が十分で

ない。

④爪の形状が小畦立てに向いて

いない。

小畦の高さが低すぎる例です。

条間やトラクタ車輪の問題などが見つかった場合は、再度爪配列などを見直します。

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<ステップ5>

播種ユニットの装着

条間 70cm で 3 条分の施肥・播種ユニット(ロール式)の例です。

播種ユニット並びに、播種・施肥用駆動輪 2 個を付けた状態です。

駆動輪の取り付け位置は、畦への干渉が少ない外側に付けても良いです。

(極端に高度の低いところ(例えば、条間中央など)に設置すると、接地

しないので気をつけましょう。)

4条の播種機にする場合などは、剛性を確保するため、ブラケットを2個

付けることをおすすめします。

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<ステップ6>

ほ場における播種機の調整

播種機駆動輪の位置と接地状況を調整。

播種ユニットの角度を調整。

播種ユニットの高さを調整。

鎮圧輪の圧力が強すぎたらバネを取る。

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これで小畦立て播種機は完成ですが、播種量や施肥量の調整も別途必要です。

播種の事前に、早めに調整・確認をしておくことがポイントです。

小畦立て播種栽培技術については、農機メーカーの助言を得て開発しましたが、

代かきハローの爪配列の改変やカバーの取り外しなどによる作業は、メーカーが

推奨するものではありませんので、十分注意して行ってください。

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(4)オプション

<オプション1>

線引き用マーカー

線引き用マーカーは、条間の合わせ目の精度を高めるためには必要な部品です。自

作や他製品の転用など、さまざまな対応方法があります。代かき作業など負荷の比較

的かからない作業と違い、畑地作業を想定しなければなりませんので、接地部分(き

ちんと線が引けること)や取り付け位置などの強度に注意する必要があります。

代かきハローの両サイドに線引き用マーカーを装着した状態

線引きマーカーの取り付け位置の例

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<オプション2>

チゼル爪

畦間の排水対策として、チゼル爪などを取り付け作用させることで、さらにプラス

の排水効果があります。耕深や取り付け本数などによっても違いますが、負荷のかか

る作業ですので、取り付け位置の強度の確保がとても重要です。下図に、トラクタ車

輪の溝消し用部品を転用したチゼル爪の装着例を載せていますが、使用可能な部品の

種類や取り付け方法がいくつかあると思われます。①できるだけ代かきハローに近い

位置に付ける、②5cm×5cm 角バーなどの強度の強いものに装着する、③代かきハロー

のマストからの継ぎ手を極力少なくするなどに注意し、フレームが曲がるといった故

障が生じないようにする必要があります。

小畦立て播種機に装着したチゼル爪

チゼル爪に用いる部品の例(部品名:トラックルーズナ) 装着した状態

チゼル装着用角バー

実際の作用深

15~20cm

また、オプション部品は、使用者の責任において装着・作業を行ってください。

前述の費用には参入していません。

線引き用マーカーやチゼル爪などのオプション部品の取り付け経費については、

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5 小畦立て播種栽培の生産技術体系

(1)生産技術体系の概要

今回、岩手県農業研究センターが開発した、大豆の「小畦立て播種栽培」技術を導

入した、生産技術体系を作成しました。また、水田経営所得安定対策の導入に伴い、

平成 17 年に作成した大豆の生産技術体系における販売単価、助成金単価、流通経費の

見直しを行うとともに、平成 19 年度税制改正により減価償却資産の残存価格が廃止さ

れたことに伴い、農業施設費及び農業機械費の計算方法を見直した生産技術体系も併

せて作成しました(表 18)。

技術体系は、地域の条件や経営体の実情等によって大きく変化するといった性質が

あります。そのため、より地域・経営体の実態に即した経営シミュレーションを行う

ためには、本データを試算・営農計画作成にそのまま適用するのではなく、適宜修正

することが必要です。登録されている技術体系データ及び栽培技術の内容、病害虫・

雑草防除基準や施肥基準等の情報を参考にし、作業時期や収量、単価、使用資材・機

械、技術の内容等を適宜修正したうえで、地域や経営体の実情に応じた試算・営農計

画作成を行ってください。

表 18 新たに作成した技術体系データ

区分 技 術 体 系 名収量(㎏/10a)

販売単価(円/㎏)

助成金(円/10a)

粗収益(円/10a)

変動費(円/10a)

限界利益(粗収益-変動費)

(円/10a)

労働時間(hr/10a)

大豆(ナンブシロメ,水田転作,小畦立,7ha規模,北上川中・下流域) 250 112.0 38,969 66,964 23,903 43,061 4.08

大豆(ナンブシロメ,水田転作,小畦立,15ha規模,北上川中・下流域) 250 112.0 38,969 66,964 23,878 43,086 4.03

大豆(ナンブシロメ,水田転作,7ha規模,北上川中・下流域) 225 112.0 38,969 64,164 23,517 40,648 4.02

大豆(ナンブシロメ,水田転作,15ha規模,北上川中・下流域) 225 112.0 38,969 64,164 23,493 40,671 4.00

小畦立

慣行

(2)前提条件等

ア 生産技術体系作成の基本的な考え方

生産技術体系作成にあたっての前提条件は、「認定農業者等の主要な担い手を対象

に、当該作物に関し一定の栽培技術・経験をもった者が、地域の栽培指針等に即し

て適時・適切な栽培管理を行った時に実現しうる技術、経営両面において合理的な

技術体系」とし、この前提条件に基づき、作型、栽培様式、想定規模、主要な作業

機械、収量水準、対象地域等を決定しています。

イ 費用項目の設定

費用項目は、生産費調査(農業経営調査報告)の費目分類表を基に設定していま

すが、粗収益(販売額)から農業所得を算出するため、生産費調査では設定されて

いない流通経費(取扱手数料、運賃等)についても設定しました。

ウ 収量の設定

小畦立て播種栽培の収量は、慣行(225kg/10a)の約 10%増として 250kg/10a に

設定しました。

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エ 単価の設定

関係資料や聞き取り調査等を基に設定しました。以下に、代表的な項目の設定方

法を示します。

(ア)販売単価

岩手県産大豆(中粒)の入札価格実績(平成 17・18 年産の平均値)により設定

しました(112 円/kg)。((社)日本特産農産物協会資料)

(イ)その他収益(助成金)

a 水田経営所得安定対策

・固定払い

主要産地(奥州市)における単価(14,550 円/10a)に設定しました。

・成績払い

主産物のうち中粒1等が 20%、中粒2等が 80%として単価を設定しました

(47 円/kg)。具体的には以下の式により算出しています。

[成績払い]=銘柄等大豆1等の単価×0.2+銘柄等大豆2等の単価×0.8

・収入減少補てん積立金(控除)

積立金基準収入額(岩手県)の 2.25%(340 円/10a)とし、その他収益から

控除しています。

b 産地づくり交付金

産地づくり交付金については、助成内容・単価・条件等が各地域の水田農業

推進協議会により異なり、標準化することが困難なことから、その他収益には

含めていません。

しかし、産地づくり交付金の中のひとつである新需給システム定着交付金の

予算は通常の産地づくり交付金とは別枠となっており、各地域の水田農業推進

協議会が定めた作物別単価等に加え、諸条件を満たせば交付され、県内でも交

付されている例が多いことから、13,000 円/10a(地域によって単価は異なる)

をその他収益に加えています。

(ウ)流通経費

JA全農いわて及び主要産地の農協の資料や聞き取り調査等に基づき、農協系

統販売における標準的な流通経費(運賃、保管料、手数料、包装資材費、販売対

策費等)を設定しました。

(エ)購入(調達)単価

a 資材(種苗、肥料、農薬、諸材料など)

カタログ、JA注文表等の資料や聞き取り調査等を基に、一般的な小売価格

を設定しました。

b 農業機械、施設

「農畜水産業固定資産評価標準(農林水産省 2000)」の全国標準価格、「農業

機械・施設便覧(日本農業機械化協会 2003)」、「最新農業機械・施設ガイドブ

ック(日本農業機械化協会 2000)」、機械メーカーのカタログなどの平均小売価

格等を参考に、全国標準価格を設定しました。

c その他費用

実勢価格や関係資料等を基に設定しました。

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オ 機械・施設償却費の算出

農業機械費及び農業施設費は、以下の式により算出しています。

(ア)農業機械費

[農業機械費]

=標準価格×年間固定費率×使用数量×使用割合

=標準価格×(償却係数+修理係数+車庫係数)×使用数量×使用割合

=標準価格×(1/耐用年数+修理係数+車庫係数)×使用数量×使用割合

(イ)農業施設費

[農業施設費]

=標準価格×年間固定費率×使用数量×使用割合

=標準価格×(償却係数+修理係数)×使用数量×使用割合

=標準価格×(1/耐用年数+修理係数)×使用数量×使用割合

(ウ)耐用年数及び使用割合

a 耐用年数

生産技術体系では、償却費の算出に当たり、「農畜水産業固定資産評価標準」

による「法定耐用年数」と「実耐用年数」の2つの耐用年数を適用し、それぞ

れによる計算結果を併記しています。

「実耐用年数」とは、実際の農業経営では、機械・施設を法定耐用年数で廃

棄することが少ない実態を考慮し、「法定耐用年数」の5割増しの年数を実際の

農業経営における耐用年数として適用したものです。

b 使用割合

生産技術体系毎の機械費用は、作目の経営規模や複合部門との使用割合によ

って大きく異なることから、本来は、営農計画を策定した後に経営体としての

償却費を計上すべき性格のものです。技術体系データファイルに規定値として

登録している機械の使用割合は、生産技術体系の作目毎の収益性を概観するた

め、望ましい経営規模や複合作目の経営規模を想定しながら、機械の使用割合

を設定しています。

例えば、水稲 15ha 体系、大豆 7ha の体系では、ともに「トラクタ(50ps)」

が使用されていますが、「水稲 15ha+大豆 7ha、経営面積 22ha」の営農計画を

想定し、それぞれの面積割合に応じて、トラクタの使用割合を水稲では 68.2%

(=15ha/22ha)、大豆では 31.8%(=7ha/22ha)と設定しています。

このように、機械の使用割合は、想定規模や複合作目の規模によって異なる

ので、想定する経営体の実態に合わせて修正してください。

カ 複数年の利用が可能な資材費

諸材料(農業用ビニール等)、小農具(スコップ等)など、複数年にわたって利用

可能な資材については、使用年数を見積もり、購入価格を使用年数で除した数値を

その資材費として計上しています。具体的な計算方法は以下の式により算出してい

ます。

[資材費](諸材料費、小農具費等)

=標準価格/包装単位×使用数量/使用年数

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(3)使用上の留意点

生産技術体系は、経営試算や営農計画の作成を行う際に、必要となる指標値を算出

することを目的として作成したものです。具体的には、前提条件に基づいて県の標準

的・代表的な技術体系として組み立てを行い、作業別・旬別労働時間や使用資材・機

械、収益、費用等を積算したものです。このため、任意の地域(経営)において適用

可能な技術内容として、必ずしも保証・奨励しているものではありません。

実際の農業経営における技術体系は、同じ作目であっても、地域・気象条件や経営

体の実情により、栽培時期、病害虫防除・施肥体系、機械装備等が異なっています。

このため、より実態に即した経営シミュレーションを行うためには、収録されている

技術体系データファイルや積算内訳表をよく確認したうえで、必要に応じて既定値を

修正して利用してください。

なお、実際の営農にあたっては、最新の県病害虫・雑草防除指針や施肥基準、技術

指導指針等により技術内容を十分確認してください(特にも、農薬の使用にあたって

は、ラベルの表示を読み使用基準を遵守してください)。

(4)データの入手方法

技術体系データは、県の資源サーバー「\\K000008\f_農研セン公\企画管理部\農業

経営研究室\研究成果\平成 20 年度」に保存していますので、県機関の方はそちらから

データを入手することが可能です。農協等関係機関や農家の方でデータを入手したい

場合は、県農業研究センターもしくはお近くの普及センターにおたずねください。

次ページ以降に、小畦立て播種栽培の技術体系の出力例を示しましたので、

参考にしてください。

・27~28 ページ:7ha 規模を想定した「技術体系表」及び「収支総括表」

・29~30 ページ:15ha 規模を想定した「技術体系表」及び「収支総括表」

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 大豆(ナンブシロメ,水田転作,小畦立て7ha)

  技術体系表(想定規模)

栽培様式 作業技術

機械 人力

基肥施肥 基肥運搬 基肥運搬 5/下~6/中 トラック(4t、クレーン付) 1 0.67 0.67

基肥施肥 基肥施肥 5/下~6/中トラクタ(50ps)+ブロードキャス

タ(600L)1 4.49 4.49 大豆2号バラ3500kg

耕起 ロータリー耕 6/上~6/中 トラクタ(50ps)+ロータリ(2m) 1 66.08 66.08

排水対策 明渠施工 6/上~6/中トラクタ(50ps)+溝掘機(溝深30cm)

1 2.18 2.18

種子消毒 種子粉衣 6/上~6/中 1 0.83大豆種子245kg,粉衣用ノマート25 980g

播種アタッチメント取付

アタッチメント取付 6/上~6/中 1 2.00

播種 播種(小畦立) 6/上~6/中トラクタ(50ps)+播種機(点播、4条)+小畦立用アタッチメント

1 32.00 32.00

アタッチメント取外

アタッチメント取外 6/上~6/中 1 2.00

除草剤散布 除草剤散布 6/上~6/中 乗用管理機 1 12.37 12.37 エコトップ乳剤35l

中耕・培土 中耕・培土 7/中~7/下トラクタ(50ps)+中耕培土機(3連)

1 36.75 36.75

病害虫防除 アブラムシ防除 7/上~7/中 乗用管理機 1 12.37 12.37 スミチオン乳剤7000ml

紫斑病・マメシンクイガ防除

8/下 乗用管理機 1 15.63 15.63スミチオン乳剤12600ml,トップジンM水和剤8400g

収穫 コンバイン刈り 10/下~11/上普通型コンバイン(152cm、グレインタンク付)

1 34.20 34.20

運搬 運搬 10/下~11/上 トラック(4t、クレーン付) 1 2.00 2.00 フレコン11枚

乾燥調製 乾燥 10/下~11/中平型静置式乾燥機(1.8t)

1 150.00 11.50電気(三相200V)18.1148kWh

選別・選粒 10/下~11/中 選別選粒機 1 39.38

計量・袋詰 10/下~11/中 大豆自動計量機 1 39.38 39.38

出荷 出荷物積込 11/下モーターコンベア+フォークリフト(0.9t)

2 4.30 8.60

出荷物運搬 出荷物運搬 11/下 トラック(4t、クレーン付) 1 2.50 2.50

合計 2 454.3 285.5

項目1 項目2 栽培技術の内容 使用機械名

技術上の留意事項作業時期

(旬)

作業項目

組作業人数

時間(hour) 投入資材

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  収支総括表

10a当り収量 250 旬 労働時間 10a当

販売単価 111.98 1/上 0.00 0.00

副産物価額 0 1/中 0.00 0.00

その他収益 38,969 1/下 0.00 0.00

粗収益 4,687,460 66,964 2/上 0.00 0.00

2/中 0.00 0.00

費目 想定規模当 10a当 2/下 0.00 0.00

種苗費 163,354 2,334 3/上 0.00 0.00

肥料費 262,675 3,753 3/中 0.00 0.00

農薬費 218,918 3,127 3/下 0.00 0.00

光熱動力費 154,408 2,206 4/上 0.00 0.00

諸材料費 15,004 214 4/中 0.00 0.00土地改良及び水利費 506,520 7,236 4/下 0.00 0.00

賃借料及び料金 0 0 5/上 0.00 0.00

小農具費 0 0 5/中 0.00 0.00

成園費 0 0 5/下 1.72 0.02

もと畜費 0 0 6/上 60.45 0.86

種付け料 0 0 6/中 60.45 0.86

飼料費 0 0 6/下 0.00 0.00

敷料費 0 0 7/上 6.18 0.09

獣医師料及び医薬品費 0 0 7/中 24.56 0.35

流通経費 253,882 3,627 7/下 18.38 0.26

共済費 98,420 1,406 8/上 0.00 0.00

変動費計 1,673,181 23,903 8/中 0.00 0.00

利益係数(粗収益-変動費) 3,014,279 43,061 8/下 15.63 0.229/上 0.00 0.00

【参考1】 9/中 0.00 0.00

固定費1(法定耐用年数法) 3,395,525 48,508 9/下 0.00 0.00

農業施設費 0 0 10/上 0.00 0.00

農業機械費 3,395,525 48,508 10/中 0.00 0.00

固定費2(実耐用年数法) 2,474,228 35,346 10/下 35.06 0.50

農業施設費 0 0 11/上 35.06 0.50

農業機械費 2,474,228 35,346 11/中 16.96 0.24

【参考2】 11/下 11.10 0.16

所得1(法定耐用年数法) -381,246 -5,446

-1,335

-2,803,839

-630,716

12/上 0.00 0.00

所得2(実耐用年数法) 540,051 7,715 12/中 0.00 0.0012/下 0.00 0.00

所得1の労働生産性(時給1) 計 285.54 4.08

時給1×2100hr

1名当たり可能所得

所得2の労働生産性(時給2) 1,891

時給2×2100hr 3,971,755

1名当たり可能所得 893,436

1日当たり最大労働可能時間 10

旬あたり最大労働可能時間 100

旬あたり最大必要労働時間 60.45

-28-

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 大豆(ナンブシロメ,水田転作,小畦立て15ha)

  技術体系表(想定規模)

栽培様式 作業技術

機械 人力

基肥施肥 基肥運搬 基肥運搬 5/下~6/中 トラック(4t、クレーン付) 1 1.00 1.00

基肥施肥 基肥施肥 5/下~6/中トラクタ(50ps)+ブロードキャス

タ(600L)1 9.63 9.63 大豆2号バラ7500kg

耕起 ロータリー耕 6/上~6/中 トラクタ(50ps)+ロータリ(2m) 1 141.60 141.60

排水対策 明渠施工 6/上~6/中トラクタ(50ps)+溝掘機(溝深30cm)

1 4.67 4.67

種子消毒 種子粉衣 6/上~6/中 1 1.77大豆種子525kg,粉衣用ノマート25 2100g

播種アタッチメント取付

播種 6/上~6/中 1 2.00

播種 播種(小畦立) 6/上~6/中トラクタ(50ps)+播種機(点播、4条)+小畦立用アタッチメント

1 68.00 68.00

アタッチメント取外

播種 6/上~6/中 1 2.00

除草剤散布 除草剤散布 6/上~6/中 乗用管理機 1 26.50 26.50 エコトップ乳剤75l

中耕・培土 中耕・培土 7/中~7/下トラクタ(50ps)+中耕培土機(3連)

1 78.75 78.75

病害虫防除 アブラムシ防除 7/上~7/中 乗用管理機 1 26.50 26.50スミチオン乳剤15000ml

紫斑病・マメシンクイガ防除

8/下 乗用管理機 1 33.50 33.50スミチオン乳剤27000ml,トップジンM水和剤18000g

収穫 コンバイン刈り 10/下~11/上普通型コンバイン(152cm、グレインタンク付)

1 73.29 73.29

運搬 運搬 10/下~11/上 トラック(4t、クレーン付) 1 4.00 4.00 フレコン24枚

乾燥調製 乾燥 10/下~11/中平型静置式乾燥機(1.8t)

1 300.00 23.00電気(三相200V)36.57kWh

選別・選粒 10/下~11/中 選別選粒機 1 84.38

計量・袋詰 10/下~11/中 大豆自動計量機 1 84.38 84.38

出荷 出荷物積込 11/下モーターコンベア+フォークリフト(0.9t)

2 9.22 18.44

出荷物運搬 出荷物運搬 11/下 トラック(4t、クレーン付) 1 2.50 5.50

合計 2 947.9 604.5

使用機械名

技術上の留意事項組作

業人数

時間(hour) 投入資材作業時期(旬)

項目1 項目2 栽培技術の内容

作業項目

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  収支総括表

10a当り収量 250 旬 労働時間 10a当

販売単価 111.98 1/上 0.00 0.00

副産物価額 0 1/中 0.00 0.00

その他収益 38,969 1/下 0.00 0.00

粗収益 10,044,557 66,964 2/上 0.00 0.00

2/中 0.00 0.00

費目 想定規模当 10a当 2/下 0.00 0.00

種苗費 350,044 2,334 3/上 0.00 0.00

肥料費 562,875 3,753 3/中 0.00 0.00

農薬費 469,110 3,127 3/下 0.00 0.00

光熱動力費 326,556 2,177 4/上 0.00 0.00

諸材料費 32,736 218 4/中 0.00 0.00土地改良及び水利費 1,085,400 7,236 4/下 0.00 0.00

賃借料及び料金 0 0 5/上 0.00 0.00

小農具費 0 0 5/中 0.00 0.00

成園費 0 0 5/下 3.54 0.02

もと畜費 0 0 6/上 126.81 0.85

種付け料 0 0 6/中 126.81 0.85

飼料費 0 0 6/下 0.00 0.00

敷料費 0 0 7/上 13.25 0.09

獣医師料及び医薬品費 0 0 7/中 52.63 0.35

流通経費 544,033 3,627 7/下 39.38 0.26

共済費 210,900 1,406 8/上 0.00 0.00

変動費計 3,581,654 23,878 8/中 0.00 0.00

利益係数(粗収益-変動費) 6,462,903 43,086 8/下 33.50 0.229/上 0.00 0.00

【参考1】 9/中 0.00 0.00

固定費1(法定耐用年数法) 3,467,660 23,118 9/下 0.00 0.00

農業施設費 0 0 10/上 0.00 0.00

農業機械費 3,467,660 23,118 10/中 0.00 0.00

固定費2(実耐用年数法) 2,527,613 16,851 10/下 74.44 0.50

農業施設費 0 0 11/上 74.44 0.50

農業機械費 2,527,613 16,851 11/中 35.79 0.24

【参考2】 11/下 23.94 0.16

所得1(法定耐用年数法) 2,995,242 19,968 12/上 0.00 0.00

所得2(実耐用年数法) 3,935,289 26,235 12/中 0.00 0.0012/下 0.00 0.00

所得1の労働生産性(時給1) 4,955 計 604.53 4.03

時給1×2100hr 10,404,844

1名当たり可能所得 2,361,958

所得2の労働生産性(時給2) 6,510

時給2×2100hr 13,670,369

1名当たり可能所得 3,103,251

1日当たり最大労働可能時間 10

旬あたり最大労働可能時間 100

旬あたり最大必要労働時間 126.81

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(5)生産技術体系による慣行栽培と小畦立て播種栽培の比較

生産技術体系による試算(表 19)では、小畦立て播種栽培は慣行と比較して収量が

増加することから、10a当たり粗収益では約 2,800 円の増加が期待できます。

一方、経費や労働時間は大きく変わらないため、10a当たり所得では約 2,350 円、

1時間当たり所得では約 550 円の増加が期待できます。

表 19 慣行栽培と小畦立て播種栽培の比較

(単位:円/10a)

慣行 小畦立て 差 慣行 小畦立て 差(A) (B) (A)-(B) (C) (D) (C)-(D)225 250 25 225 250 25

112.0 112.0 - 112.0 112.0 -38,969 38,969 - 38,969 38,969 -64,164 66,964 2,799 64,164 66,964 2,799

種苗費 2,334 2,334 - 2,334 2,334 -肥料費 3,753 3,753 - 3,753 3,753 -農薬費 3,127 3,127 - 3,127 3,127 -光熱動力費 2,183 2,206 23 2,155 2,177 22諸材料費 214 214 - 218 218 -土地改良及び水利費 7,236 7,236 - 7,236 7,236 -流通経費 3,264 3,627 363 3,264 3,627 363共済費 1,406 1,406 - 1,406 1,406 -変動費計 23,517 23,903 386 23,493 23,878 384

40,648 43,061 2,413 40,671 43,086 2,415固定費 35,266 35,346 80 16,813 16,851 38所得 5,382 7,715 2,333 23,858 26,235 2,378労働時間(hr/10a) 4.02 4.08 0.06 4.00 4.03 0.03労働生産性(円/hr) 1,338 1,891 553 5,959 6,510 551

粗収益

変動費

注)固定費には「実耐用年数」による償却費を計上している。

収量(㎏/10a)

7ha規模 15ha規模項 目

利益係数(粗収益-変動費)

参考

販売単価(円/kg)助成金

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6 現地における取組事例

(1)武道大豆転作組合(盛岡市玉山区)

代 表 者 氏 名 竹田浩久 所 在 地 盛岡市玉山区芋田

構 成 農 家 数 23 戸(オペレータ 5 名) 大豆面積 11.0ha

大 豆 品 種

(H19) ナンブシロメ 大豆単収

(H15)163kg/10a

(H19)200kg/10a

1・2 等比率

(H18) 73.6%

所 有 機 械 施肥播種機2台 乗用防除機1台 汎用コンバイン1台

(溝堀機1台) (培土機1台)

平均作業時間 3.2hr/10a(H17)

キ ー ワ ー ド 小畦立て播種栽培、省力化、土作り

○技術の改善への取り組み

・連作障害回避と肥料効果をねらって、粒状の発酵鶏ふんを利用している。

・湿害回避のため、バックホーによる排水溝や溝掘機によるほ場内明渠、サブソイラ

による弾丸暗渠・心土破砕を行い、排水対策を実施している。

・クリーンシーダを用いた施肥・播種同時作業により労働時間の軽減を図っている。

・ブームスプレヤを用いた除草剤散布および病害虫防除により省力化を図っている。

・組合員全員を対象とした先進地事例視察を積極的に行い技術の習得に努めている。

<平成 19 年産大豆の作業体系(排水対策~播種)>

(H19 春)発酵鶏ふん散布 → 額縁・ほ場内明渠、弾丸暗渠

→ プラウ耕 → 施肥播種【小畦立て播種栽培】

10/17(H19)の様子

6/22(H19)の様子

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(2)黒西地域農用地利用調整組合(花巻市石鳥谷町)

代 表 者 氏 名 晴山文佳 所 在 地 花巻市石鳥谷町黒沼

構 成 農 家 数 59 戸(オペレータ 10 名) 大豆面積 18.9ha

大 豆 品 種

(H19)

ナンブシロメ、

黒千石等 大豆単収

(H16) 47kg/10a

(H18)150kg/10a

1・2 等比率

(H18) 67.6%

所 有 機 械 施肥播種機2台 乗用防除機2台 汎用コンバイン1台

溝堀機1台 えだまめ収穫機・出荷調製機

平均作業時間 11.0hr/10a(H18)

キ ー ワ ー ド 小畦立て播種栽培、重粘土、えだまめ

○技術の改善への取り組み

・湿害回避のため、溝堀機を利用してほ場の周囲に排水溝を設置し、排水対策を実施

している。

・平成 17 年度から湿害対策として、小畦立て播種栽培を大豆全面積で実施している。

・除草対策として 1 年のブロックローテーションを実施し、また除草剤の畦間散布の

実施により除草作業の省力化を図っている。

<平成 19 年産大豆の作業体系(排水対策~播種)>

(H19 春)額縁明渠 → ロータリ耕 → 施肥播種【小畦立て播種栽培】

7/20(H18)の様子

8/25(H18)の様子

10/31(H18)収穫

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(3)ニューアグリ土谷(奥州市江刺区)

代 表 者 氏 名 小松與志夫 所 在 地 奥州市江刺区田原字御免

構 成 農 家 数 28 戸(オペレータ 4 名) 大豆面積 14.8ha

大 豆 品 種

(H19) リュウホウ 大豆単収

(H17)180kg/10a

(H19)243kg/10a

1・2 等比率

(H19) 94.3%

所 有 機 械 播種機(小畦立て用ハローシーダ)他

その他は基本的に江刺大豆組合、土谷営農組合の共同利用機を活用

平均作業時間 8.8hr/10a(H19)

キ ー ワ ー ド 小畦立て播種栽培(チゼル爪装着)、リュウホウ、契約栽培

○技術の改善への取り組み

・排水対策は、額縁明渠、弾丸暗渠を全ほ

場で実施し、降雨後はほ場を見回るなど

きめ細かい対応を行っている。

・小畦立て播種栽培は平成 18 年に 5.26ha

(全体の 78%)で開始。中古の機械を活用

し、チゼル爪を装着するなど工夫を加え

19 年は全面積に拡大している。

・実需の望む「リュウホウ」は生育旺盛で

当初は倒伏をみた経緯がある。18 年から

は播種量を徹底的に見直し、小畦立ての

取り組みと相まって、257kg/10a(H18)、

243kg/10a(H19)と 2 年連続で多収を実現 高さ 8~10cmの小畦とチゼル溝

した。

<平成 19 年産大豆の作業体系(排水対策~播種)>

(H18 秋)堆肥散布 → 秋耕 → (H19 春)額縁明渠・弾丸暗渠

→ 土改材散布 → ロータリ耕 → 施肥播種【小畦立て(チゼル爪装着)】

7/8(H19)の様子 8/7(H19)の様子

※「平成 19 年度岩手県大豆作共励会」最優秀賞(岩手県知事賞)受賞事例

本事例に関する技術の改善への取り組みの詳細を次ページから記載しました。

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○「平成 19 年度岩手県大豆作共励会」最優秀賞(岩手県知事賞)受賞事例

以下のような技術対策の取り組みにより、単収は 18 年、19 年産連続で 240kg/10a以

上と、県の平均単収の 128kg/10a(18 年産)、99kg/10a(19 年産)と比べても大幅な高

単収を実現している。また、上位等級比率は、18 年、19 年産ともに 90%以上と地域の

上位等級比率 61%(18 年産)と比べても高品質を実現している。

【多収化への取り組み】

①湿害軽減対策

当地域の耕地土壌は細粒灰色低地土~細粒グライ土に属し、肥沃で地力は高いが、

重粘質で排水性が劣り、湿田が多い点が特徴である。従って、大豆作では当初から

湿害との闘いの連続であったが、基本対策の徹底と小畦立て播種栽培等の新技術の

積極的な導入により、これを克服してきた。

具体的には、岩手県農業研究センターで開発された「小畦立て播種栽培技術」を、

平成 18 年から実践し、平成 19 年産では全面積の 14.8haに拡大し、20 年産で作付面

積を増やす予定のほ場も、小畦立て播種を実践する予定である。さらに、細いチゼル

爪を装着し、播種時に深さ 10cm程度の作溝を行うことによって、表面排水が速やかに

なり、大豆の初期生育が確保できる。また、作業能率は、組作業で播種前に耕起する

ことにより、1 日当たり 3ha程度の播種が可能となり、播種作業は 7 日程度で終了す

ることから、適期播種が可能となっている。なお、特に土壌条件が悪いほ場では、北

陸の重粘土壌でも単収向上に効果のある(独)中央農業総合研究センターで開発され

た「耕うん同時畝立て播種」技術の導入も検討している。

ほ場の団地化を進め、現在は 5~6haの団地が 2 か所となっており、ほぼ 80%以上

の団地化率となっていることにより、隣接田からの水浸透を軽減している。また、湿

田が多いことから、本暗渠に加え、周囲溝、弾丸暗渠、小畦立て、チゼル作溝をほぼ

全面積に施工することにより、徹底的な営農排水を実施している。特に、降雨時・降

雨後は、ほ場の見回りを行い、周囲溝が崩れている場合は速やかに修復して排水に努

めるなど、きめ細かな排水対策を実施し、表面滞水は最小限に抑えている。

なお、弾丸暗渠は復田時に田植機の車輪が落ちないよう、左右から斜めに施工して

いる。地表にたまる水は、チゼル爪の溝から弾丸暗渠へと流れ、次いで周囲溝に流出

または本暗渠に浸透するように、それぞれの施工深を段階付ける工夫を行っている。

これにより、滞水しやすい枕地も湿害がほとんどなく、ほ場全体の生育はほぼ均一

となっている。

②土づくり・肥培管理

江刺市は、繁殖牛の飼育が盛んであり、牛堆肥等の有機物資源を容易に入手できる。

当組織では、大豆が地力窒素を要求する作物であることを認識しており、水稲・大豆

輪作でも、長い目で見れば地力の維持が重要と考えていることから、稲わら全量すき

込みに加え、水稲・大豆ともに地場産の良質堆肥(「江刺大地みのり」)を施用し、地

力の維持増進に努めている。なお、稲わらすき込みと堆肥の投入時期は秋施用を徹底

し、堆肥は 10a当たり 400kgを基本に施用している。

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また、土壌診断結果を活用した施肥改善にも取り組んでおり、平成 19 年はリン酸

肥料の単肥補正により、10a当たり 20kgを試行的に実施した 1haのほ場が最も多収と

なった。このことから、20 年産大豆では、引き続き土壌診断結果に基づき、リン酸

が不足しているほ場で施用改善を行う予定である。

③中耕・培土の実施

中耕培土は、以前は播種時期が早かったことから、中耕と培土をそれぞれ1回ずつ

行っていたが、梅雨期の作業が滞りがちであった。そこで、播種時期をやや遅らせ、

除草と倒伏対策を兼ねて、中耕と培土を開花期前に 1 回実施することにより、作業を

一気に実施できるよう工夫した。また。その際、中耕ロータリの爪の向きを変えて、

逆転させることにより、正転で回転させるときと土の飛びかたが変わるため、株元ま

で土をしっかり寄せることで、品種として倒伏しやすい「リュウホウ」の倒伏対策を

図っている。

④品種特性に対応した栽培管理の実践

平成 17 年より、契約先の実需者の要請に対応し、品種を「リュウホウ」に全面転

換したが、従来の「スズカリ」に比べ耐倒伏性が劣ることが問題であった。18 年産か

らは、その対策として、岩手県農業研究センターの試験研究成果をもとに、播種時期

を 6 月 20 日頃までに行い、栽植密度を密植とならないように 10a当たり 7,000 本~

10,000 本に見直した結果、倒伏を大幅に軽減させたことも、単収が大幅に向上した一

因である。

⑤病害虫防除

ほ場ごとの病害虫の発生状況をきめ細かく確認し、病害虫が発生したら、すぐに

対応する体制をとっている。特に、平成 16・17 年にジャガイモヒゲナガアブラムシ

の被害を受けたことから、ほ場をよく見回り、早期発見と早期対策に努めてきた。

被害の兆候がある場合は、隣接する特定農業団体の「土谷グリーンファーム」と連

携して対策を協議し、共同で速やかな対応に努めている。18 年はアブラムシやウコ

ンノメイガの発生動向を確認しながら適期防除を実施し、早期発見、早期対策により

被害を最小限に抑え、殺虫剤使用回数を前年より1回低減することに成功している。

また、19 年は新規登録された種子塗沫用殺虫剤(チアメトキサム水和剤)を全てのほ

場に導入することにより、アブラムシ密度を著しく低減することに成功した。一方で

生育後期の殺虫剤散布をさらに1回低減し、薬剤の使用回数を増やさず効率的な防除

が実現できた。

⑥雑草対策

多収化及び高品質化を図るうえで、雑草対策を重視している。播種前に雑草が残る

ほ場では、非選択性の茎葉処理除草剤を使用し、播種直後は全面積に広葉・イネ科対

象の土壌処理除草剤を使用している。土壌処理除草剤の散布に際しては、薬剤の効果

を十分に引き出すため、丁寧な砕土を心掛けている。生育期には雑草の種類に応じて、

イネ科雑草茎葉処理除草剤又はベンタゾン液剤を散布している。

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また、土壌処理除草剤は乳剤を使用しているが、土壌が乾燥している場合は、使用

基準に従い投下薬量はそのままに、希釈水量を上限にとり、逆に湿潤な場合は、希釈

水量を中庸~下限付近にとるなど、きめ細かく調節しながら散布作業を行っている。

なお、収穫前は手取り除草を 10a当たり 2.85 時間かけて行い、上位等級比率 94.3%

を実現しているが、労働費の縮減が課題となっている。今後、大豆の生育期に株間に

も処理できるリニュロン水和剤(平成20年1月に適用が拡大)の使用を検討しており、

雑草対策に関する最新の情報をもとに、いち早く技術改善の検討を行い、手取り除草

の手間が大幅に軽減することを期待している。この他には、(独)東北農業研究センタ

ーの指導のもと、平成 16 年から「麦類リビングマルチによる抑草技術」にも、試験的

に取り組んでいる。

【高品質化への取り組み】

①収穫

刈り取りは、基本的に共同利用の1台のコンバインで実施している。機械共同利用

の母体であり、複数の大豆生産組合で構成する江刺大豆組合との綿密な連携・調整を

図り、機械の効率的な導入・利用を基本とし、かつ作業が適期に終えられるよう努め

ている。収穫作業は、茎水分 50%以下、穀粒水分 20%以下を目安に、成熟状況をみな

がら、適期に収穫することを基本とし、茎莢の表面に水分が残っている時間帯の刈り

取りは避け、9 時 30 分から 18 時までの時間帯でコンバイン収穫を行っている。作業

時間のロスをなくすため、作業は昼休み時間帯も連続で実施しているが、それと同時

に、農作業安全には配慮が必要と認識しており、オペレータが交代で昼食・休憩をと

りながら、作業を進めている。なお、雑草は事前あるいは収穫作業時に、10a当たり

2.85 時間をかけて徹底して抜き取っているほか、コンバインの刈高さにも十分に配慮

して汚損粒を軽減している。

②乾燥・調製

乾燥及び調製は、江刺大豆組合の共同利用施設で実施し、遠赤外線乾燥機による高

い効率での乾燥や、揺動選別・色彩選別による品質管理を行っている。これにより、

1・2 等比率は 17 年 85.7%、18 年 93. 6%、19 年 94.3%と高い水準で推移しており、

上記の①も含めた努力が着実に反映されている。このような高品質化の取り組みは、

地域の大豆づくりの範となっている。

【省力化への取り組み】

①団地化

排水対策とともに、機械作業の効率化に向けて移動時間の短縮を考え、事前のほ場

作付け計画による団地化に努めており、現在は、5~6haの団地が 2 か所となっており、

ほぼ 80%以上の団地化率となっている。

②省力的な防除技術

無人ヘリ防除を栽培暦に取り入れているほか、新しく登録となった種子塗沫殺虫剤

の活用により、アブラムシ防除の省力化につなげている。

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③手取り除草の省力化の検討

ほ場の排水管理を徹底し、播種時の砕土率を高めて、除草剤の効果が発揮されるよ

うに努めている。また、大豆の生育期には、株間にも処理できる雑草茎葉兼土壌処理

(畦間・株間処理)の除草剤(平成 20 年 1 月に適用が拡大)の散布により、省力化を

検討している。また、培土は、中耕を兼ねて開花期前に 1 回の実施で済むよう、適期

播種や雑草管理を徹底している。

【新技術の導入】

関係機関との連携による先駆的な技術の導入や、最新の情報に基づく技術改善及び

独自の工夫といったことが着実に実を結んでいる。その中でも、他の地域に先駆けて、

大豆の「小畦立て播種栽培」を平成 18 年からいち早く導入した点が特筆され、その

他の基本技術を適切に組み合わせた技術の実践により、導入前の 17 年産の 180kg/10a

から、導入後の 18 年産は 257kg/10a (17 年産対比 143%)、19 年産は 243kg/10a (同

135%)と、大幅な単収の向上が実現している。

技術導入当初の岩手県(「麦・大豆収益性向上対策チーム」)による現地指導の様子

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7 今後の課題

(1)これから確認を進める事項

ア 現地適応性

小畦立て播種栽培技術を県内の水田大豆作に広く普及させていくためには、現地

での適応性を確認していかなければなりません。現在まで、透水性の比較的良好な

黒ボク土、褐色低地土などでの効果は確認していますが、グライ土、黒泥土、泥炭

土など透水性の劣る土壌タイプでの適用は未検討です。また、砕土率を確保するに

は土性も重要な判断基準ですが、粘土含量の多い重粘土壌(土性区分 HC(ハードク

レイ)など)などでは砕土率が確保しづらく、適用は難しいと考えられます。

さらに、土壌タイプや土性だけでも小畦立て播種栽培の適応性を決定することは

困難であり、地耐力や排水性なども含めた総合的なほ場条件に基づき判断すること

が必要です。また、雑草対策をはじめとする栽培管理技術についても、現地の事例

等を参考にしながら、それぞれの地域にあった技術体系を確立していくことが望ま

れています。

現地適応性を確認するには、複数地域・複数年のデータを集めていく必要がある

ので、まずは関係機関と相談しながら、個々の経験を活かして、技術の導入にどん

どん積極的にトライしていただくとともに、岩手県農業研究センターにおいても、

現地試験などを通じて情報の収集を継続していきます。

イ 排水対策

小畦立て播種栽培だけで大豆の湿害が回避できるわけではなく、降雨が速やかに

ほ場の外に排水されるためには、暗渠、補助暗渠、ほ場周囲の明渠などの排水対策

を併せて実施することが前提となります(排水対策の基本については、後述の「参

考」のところで説明します)。

排水対策の全般について、ほ場条件に適する技術の組み合わせなど体系としての

評価が必要と考えられます。

ウ 代かきハローの耐久性

小畦立て播種栽培のポイントは、代かきハローの汎用利用であることから、従来

の水田の代かき作業に加えて、より負荷のかかる畑地作業にハローを利用すること

となります。従って、爪の消耗などが早くなることが予想され、ハローの耐久性に

ついての追跡調査が必要です。

エ 代かきハローに対する負荷や作業機全体の強度

耐久性にも関連しますが、代かきハローそのものは基本的に他の作業機を後方に

装着することをあまり想定していない機械ですので、フレームの剛性やパワートレ

インの強度が不足しがちです。従って、荷重を減らすことが基本ですが、播種機の

重量などが増加する場合には、接合部の補強(例えば 4 条播種の時にはブラケット

を 2 個付けるなど)にも留意する必要があります。チゼル爪等を装着する際も同様

ですが、代かきハローに対する負荷以外に機械全体の強度も重要ですし、作業及び

ほ場条件により機械にかかる負荷も変わりますので、実用レベルの強度を今後把握

していかなければなりません。

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(2)改善が必要と考えられる事項

ア ロータリカバーや均平板の取り外し

せっかく立てた畦を崩さないために、ロータリカバーや均平板をはずして作業し

ていますが、立てた畦の表層に開口部から飛散してきた大きな土塊が乗ったりする

ことがあります。播種前の砕土率が悪い場合は問題になることが想定されるので、

開口部へのスクリーン装着などの改良が必要と思われます。なお、現地では均平板

の代わりに自作の成形板などを装着している工夫事例もみられます。

イ 駆動輪の取り付け位置

駆動輪の取り付け位置は、きちんと接地させることと畦への干渉を少なくするこ

とを両立させる必要から、改良の余地があります。外側に駆動輪を配置する方法も

ありますが、往復作業の際の隣接畦への干渉を考慮しなければなりません。また、

駆動輪を必要としない目皿式播種機の利用という手段もありますが、こちらは同時

施肥ができないという欠点があります。

ウ 耕深を制御する手段

畦立て作業をする際のオペレータの作業上の問題点として、耕深の制御があげら

れます。畦の出来具合をみながら、手動制御を基本としていますので、ある程度の

慣れが必要になります。通常にロータリに付いているような尾輪などのように耕深

の固定的な制御ができるような手段を考えていくことも必要です。

(3)その他

今後、岩手県農業研究センターでは、代かきハローをベースとした機械について、

大豆の狭畦密植栽培、麦類及び水稲直播栽培などの播種技術への汎用利用も検討する

こととしています。

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8 参考

(1)排水対策の基本

ア 排水対策の必要性

大豆栽培において、湿害は生育や収量を低下させる大きな要因です。

大豆の生育には発芽の良否が大きく影響します。湿害により低酸素条件下で発芽

不良となったものは、生育や収量が大きく低下します。また、排水不良による根の

伸長阻害と根粒の着生阻害が大豆の窒素不足を招き、生育不良の主な要因となりま

す。

一方、発芽の良好な大豆は順調な初期生育につながり、さらに茎葉を繁茂させて

いくため、雑草の繁茂を抑制することができます。また、根系の発達も良く、根粒

の着生も多くなり、根系は深くなって干ばつ抵抗性も増すと考えられます。

岩手県における大豆栽培の約8割が水田転換畑への作付けであり、湿害を回避す

るための排水対策は不可欠な技術といえます。

イ ほ場にあった排水対策

まずほ場がどんな土質であるか、どこに不透層があるかを確認しましょう。下に

水を逃がすのか、横に水を逃がすのかで対策は変わります。

①水を下に逃がせるところ(暗渠が効いているほ場)

→排水対策は暗渠に水の道をつなげるように行う(弾丸暗渠、心土破砕等)。

②水が下に逃げていないところ(暗渠が入っていないほ場、あるいは暗渠が効い

ていないほ場)

→水は横に逃がすしかない(明渠、プラウ耕等)。

ウ 具体的な排水対策

①ほ場周囲の排水溝の設置(明渠)

ほ場に小排水溝を設置し、地表水の一時貯留溝・流水路とします。この場合、

溝幅は 20~30cm、深さは 15~25cm を目安とします。

設置にあたっては、トラクタ装着式の溝掘機や自走式の専用機を利用します。

スクリューオーガ式とロータリ式がありますが、スクリューオーガ式では溝深さ

30cm の場合、適応トラクタは 16~60PS、作業速度は概ね 0.5~2.5km/hr で作業が

可能との試験例があります。

なお、機種によっては、掘削後に掘られた土が溝周囲にそのまま上げられます

ので、その後の播種作業や栽培管理に支障がないよう、平らにならしておく必要

があります。

②心土破砕・弾丸暗渠

営農的排水対策として一般的に行われているもので、機械も比較的安価です。

弾丸暗渠機は、トラクタで牽引しながらモグラ暗渠などを施工する機械です。

フレームの先端にチゼルとその後方に弾丸状のモールを装着し、地下部にモグラ

孔を設置します。

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サブソイラは、弾丸暗渠機として機能するものの他、チゼルにウイングを取り

付けたもの(パンブレーカ)などがあります。また、振動式と非振動式のものが

あります。振動式1連のものは、作業深さ 25~50cm で適応トラクタは 16~30PS、

作業速度は 2.5~6.0km/hr で作業が可能です。また、近年開発されたプラソイラ

を用いることで部分耕起を兼ねた心土破砕が期待できます。

③秋のプラウ耕起

作付前年の秋に、プラウによる耕起をサブソイラやほ場内小排水溝(明渠)の

設置などと併せて行っておくことで、表土の乾燥促進が図られ、表面排水の促進

が期待できます。プライソイラの利用も有効です。

スクリューオーガ式溝堀機 弾丸付きサブソイラ

弾丸付きサブソイラでの施工状況 秋のプラウ耕と表面排水路の確保

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(2)各種播種技術の紹介

小畦立て播種栽培は、「手軽」で「簡単」に始められる湿害回避のための播種技術と

して紹介してきましたが、どんなほ場でも導入できるわけではありません。砕土が悪

い場合や地耐力がない場合、畦が立たないことがあります。このようなほ場では、他

の播種技術の導入を検討しましょう。

播種技術の選び方としては、ドライブハローを持っている場合、まず試しに爪配列

を変えて小畦立て播種で実際に畦が立つかどうかを確認します。砕土率や地耐力の関

係で小畦立て播種が無理な場合、耕うん同時畝立て播種栽培や有芯部分耕栽培を検討

しましょう。

ここでは、3つの播種技術について、各技術の特徴を比較しながら示します。どの

技術においても事前に暗渠明渠等の基本的な排水対策を行うことが大前提です。

ア 小畦立て播種栽培(再掲)

①技術の概要

小さな畦を立てながら播種する…事前耕起を実施した後、代かきハローの爪の

向きを変えることにより 8~10cm 程度の「浅耕砕土・小畦立て」をしながら同時

に「施肥・播種」を行う。

②作業性等

ト ラ ク タ 30~40 馬力程度

作業可能面積 1.5~2.0ha/1 日(4条では 2.5~3.0ha/1 日)

事 前 耕 起 必要

③湿害回避効果

畦を立てながら播種することにより、播種後のまとまった降雨の際に畦間の溝

に水が逃げるため、出芽や初期生育を良好に保つ。ただし、後述の「耕うん同時

畝立て播種栽培」と比べると、畦の高さはやや低いことなどから湿害回避の程度

はやや劣る場合がある。

④機械・経費

代かきハローと改良費…代かきハローを使用し、改良費として 5 万から 10 万円

程度が必要。

代かきハロー 220㎝幅  

畦幅70cm

畦高さ8~10cm 

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イ 耕うん同時畝立て播種栽培

①技術の概要

事前耕起なしに砕土の良い畝を立てる…中央農業総合研究センター北陸研究セ

ンターで開発された技術。ホルダー型のアップカットロータリの爪の向きを変え

ることにより、一行程で砕土率の高い「耕うん」と 10~15cm 程度の「畝立て」を

しながら同時に「施肥・播種」を行う。

②作業性等

ト ラ ク タ 60~80 馬力程度

作業可能面積 1.5~2.0ha/1 日

事 前 耕 起 不要

③湿害回避効果

良好な砕土と畝立てを行いながら播種するため、湿害回避に対して高い効果が

期待できる。また、耕起していないほ場を一行程で耕うん・播種することから、

出芽時の土壌の過乾燥や降雨による作業遅延を回避する効果もある。重粘土への

対応も可能である。

④機械・経費

高馬力トラクタとアップカットロータリ…3条播種では 60~80 馬力程度のト

ラクタとホルダー型のアップカットロータリ(購入経費として約 110 万円)が必

要であり、2条播種でも 30~50 馬力程度のトラクタとロータリ(同約 80 万円)

が必要。

 

※2条播種の例

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アップカットロータリ(ホルダー型) 180㎝幅 

畝高さ10~15cm 

畝幅75cm 

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ウ 有芯部分耕栽培

①技術の概要

不耕起部分(芯)を残してその上に播種する…東北農業研究センターで開発さ

れた技術。事前耕起をしないでロータリ(正転・逆転どちらでも可)の一部の爪

を外して「耕うん」を行い、表層直下に不耕起部分(芯)を残した上に「播種」

(同時に「施肥」)する。不耕起部分が必要であり、水田転換初年目のみの技術と

なる。

②作業性等

ト ラ ク タ 60~80 馬力程度

作業可能面積 1.5~2.0ha/1 日

事 前 耕 起 不要(播種前は不耕起状態であることが不可欠)

③湿害回避効果

播種した真下の不耕起部分(芯)は土壌水分の変動が小さく、湿害回避の効果

は中程度であるが、生育期における乾燥害の軽減効果も期待できる。また、耕起

していないほ場を一行程で耕うん・播種することから、出芽時の土壌の過乾燥や

降雨による作業遅延を回避する効果もある。

④機械・経費

高馬力トラクタ…3条播種では 60~80 馬力程度のトラクタが必要。ほ場条件に

よってはアップカット(逆転)ロータリも必要。

 ダウンカットロータリ 160㎝幅 

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【注意】農作業安全についての再確認

農作業は焦らずあわてず、事故には十分注意しましょう。

播種機の組立て・調整時においても、ヘルメットや安全靴を着用する

など、農作業安全には十分注意しましょう。

執筆担当

1 はじめに 岩手県農林水産部農産園芸課(水田農業担当)

2 小畦立て播種栽培技術とは 岩手県農業研究センター(プロジェクト推進室)

3 小畦立て播種栽培の導入効果 〃 ( 〃 )

4 小畦立て播種機の組み立て方法 〃 ( 〃 )

5 小畦立て播種栽培の生産技術体系 〃 (農業経営研究室)

6 現地における取組事例 中央農業改良普及センター(県域普及グループ)

岩手県農林水産部農産園芸課(水田農業担当)

7 今後の課題 岩手県農業研究センター(プロジェクト推進室)

8 参考 中央農業改良普及センター(県域普及グループ)

岩手町(一方井地区) 遠野市(宮守地区)

北上市(二子地区) 北上市(南部地区)