深海底鉱物資源の開発動向について -...

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109 2009.1 金属資源レポート 38 2 0 0 8 UMI 2008 深海底鉱物資源の開発動向について 第38回深海鉱業会議2008年次会議(UMI 2008)参加報告1. はじめに 2008 年 11 月 17 ~ 19 日に、UM(The University of Mississippi:米・ミシシッピ大学)において、38th Underwater Mining Institute annual conference(UMI 2008)が開催された。この会議は、海洋資源開発に携わる研究者、技術 専門家、環境・資源・政策マネージャーが参加し、海底資源に関する最新情報・アイデアの共有等を目的としてお り、当該分野における世界の第一人者が多数参加している。 今回、当会議に参加し、世界の深海底鉱物資源の開発動向について調査を行ったので、その結果の概要について 報告する。 岡本 信行 金属資源技術部 深海底技術課 担当調査役 2. UMI の概要 UMI は、1970 年に UW(University of Wisconsin: 米・ウィスコンシン大学)の Sea Grant College Program を通じて、J. Robert Moore 教授によって創設された 小規模な会合から始まったもので、以来、次第に新し い知見、技術開発、商業開発等、領域が拡大していっ た。 UMI の主催団体は国際海洋鉱物学会(IMMS:Inter- national Marine Mineral Society-現会長は高知大学 理学部臼井朗教授)で、Program Chair は 1994 年以 降、UH(University of Hawaii:米・ハワイ大学)の Dr. Charles L. Morgan 氏が努めている。 第 1 回 UMI annual conference は 1970 年に開催され、 その後、毎年、開催場所を変え、開催国の大学、研究 機関がホストを担っている。 昨年の会議(UMI 2007)は初めて日本(東京)で 開催され、JOGMEC も支援機関の一つとして、運営 にも携わった。 今年は 38 回目に当たり、開催地を UM に移し、UM の主催により、“Marine Minerals:Technological Solutions and Environmental Challenge”をテーマに開催され た。 3. UMI 2008 の概要 (1)参加者 参加者は Proceedings によると 74 名であり、参加 国は日本、米国、英国、フランス、ロシア、カナダ、 ドイツ、中国、韓国、南ア、オランダ、ポルトガル、 豪州、ニュージーランド(以下 NZ)、フィジー、ジャ マイカ、ノルウェーの 17 か国に上る。国連海洋法条 約に基づき、公海上の深海底鉱物資源の管理を行っ ている International Sea-bed Authority(国際海底機 構)の副事務局長(次期事務局長が内定)である Nii Odonton 氏も参加した。 日本からは、JOGMEC の他、IMMS 会長の臼井高 知大学教授、大阪府立大学、産業技術総合研究所及び (株)日本海洋生物研究所から計 5 名の参加があった。 (2)支援団体(Sponsoring Organization) 支援団体は、会議の会場となった UM(4 グループ) を中心に、ISA(国際海底機構)等、以下の 6 つの組 織からなる。 ・ISA(International Seabed Authority) ・UM(The University of Mississippi) ・USM(The University of Southern Mississippi) ・IMMS(International Marine Minerals Society) ・HURL(Hawaii Undersea Research Laboratory) ・MTS(The Marine Technology Society) (3)発表内容の概要 会議は、27件の口頭発表と5件のポスターセッ ションから行われた(写真 1)。全体的には、民間企 業で海底熱水鉱床の探査・開発を推進する Nautilus Minerals(本社:Vancouver)及び Neptune Minerals (本社:London)による海底熱水鉱床の開発状況に関 する関連発表を始め、環境影響、採鉱システム開発、 新たな物理探査技術等の取組み紹介が行われた他、中 国によるマンガン団塊の採鉱実験の状況、メタンハイ ドレート(日、米)等、多岐の分野にわたる発表が行 われた。 また、主催団体である IMMS からは、2001 年に策 定された海底鉱業の環境規則(Code:コード)の改 訂版について報告がなされた。 なお、口頭発表及びポスターセッションを合わせ た、分野毎の発表件数は図 1 のとおりで、例年同様、 海底熱水鉱床関連の発表が多いが、今年は特に、熱水 鉱床に関しては環境影響評価や採鉱システム関連の発 表が目立った。 695

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深海底鉱物資源の開発動向について-第 38 回深海鉱業会議 2008 年次会議(UMI 2008)参加報告-

1. はじめに2008 年 11 月 17 ~ 19 日に、UM(The University of Mississippi:米・ミシシッピ大学)において、38th Underwater

Mining Institute annual conference(UMI 2008)が開催された。この会議は、海洋資源開発に携わる研究者、技術専門家、環境・資源・政策マネージャーが参加し、海底資源に関する最新情報・アイデアの共有等を目的としており、当該分野における世界の第一人者が多数参加している。

今回、当会議に参加し、世界の深海底鉱物資源の開発動向について調査を行ったので、その結果の概要について報告する。

岡本 信行金属資源技術部 深海底技術課 担当調査役

2. UMI の概要UMI は、1970 年に UW(University of Wisconsin:

米・ウィスコンシン大学)の Sea Grant College Programを通じて、J. Robert Moore 教授によって創設された小規模な会合から始まったもので、以来、次第に新しい知見、技術開発、商業開発等、領域が拡大していった。

UMI の主催団体は国際海洋鉱物学会(IMMS:Inter-national Marine Mineral Society-現会長は高知大学理学部臼井朗教授)で、Program Chair は 1994 年以降、UH(University of Hawaii:米・ハワイ大学)のDr. Charles L. Morgan 氏が努めている。

第1回UMI annual conferenceは1970年に開催され、その後、毎年、開催場所を変え、開催国の大学、研究機関がホストを担っている。

昨年の会議(UMI 2007)は初めて日本(東京)で開催され、JOGMEC も支援機関の一つとして、運営にも携わった。

今年は 38 回目に当たり、開催地を UM に移し、UMの主催により、“Marine Minerals:Technological Solutions and Environmental Challenge”をテーマに開催された。

3. UMI 2008 の概要(1)参加者

参加者は Proceedings によると 74 名であり、参加国は日本、米国、英国、フランス、ロシア、カナダ、ドイツ、中国、韓国、南ア、オランダ、ポルトガル、豪州、ニュージーランド(以下 NZ)、フィジー、ジャマイカ、ノルウェーの 17 か国に上る。国連海洋法条約に基づき、公海上の深海底鉱物資源の管理を行っている International Sea-bed Authority(国際海底機構)の副事務局長(次期事務局長が内定)である Nii Odonton 氏も参加した。

日本からは、JOGMEC の他、IMMS 会長の臼井高知大学教授、大阪府立大学、産業技術総合研究所及び

(株)日本海洋生物研究所から計 5 名の参加があった。

(2)支援団体(Sponsoring Organization)支援団体は、会議の会場となった UM(4 グループ)

を中心に、ISA(国際海底機構)等、以下の 6 つの組織からなる。

・ISA(International Seabed Authority)・UM(The University of Mississippi)・USM(The University of Southern Mississippi)・IMMS(International Marine Minerals Society)・HURL(Hawaii Undersea Research Laboratory)・MTS(The Marine Technology Society)

(3)発表内容の概要会議は、27 件の口頭発表と 5 件のポスターセッ

ションから行われた(写真 1)。全体的には、民間企業で海底熱水鉱床の探査・開発を推進する Nautilus Minerals(本社:Vancouver)及び Neptune Minerals

(本社:London)による海底熱水鉱床の開発状況に関する関連発表を始め、環境影響、採鉱システム開発、新たな物理探査技術等の取組み紹介が行われた他、中国によるマンガン団塊の採鉱実験の状況、メタンハイドレート(日、米)等、多岐の分野にわたる発表が行われた。

また、主催団体である IMMS からは、2001 年に策定された海底鉱業の環境規則(Code:コード)の改訂版について報告がなされた。

なお、口頭発表及びポスターセッションを合わせた、分野毎の発表件数は図 1 のとおりで、例年同様、海底熱水鉱床関連の発表が多いが、今年は特に、熱水鉱床に関しては環境影響評価や採鉱システム関連の発表が目立った。

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図 1. カテゴリー別発表内容写真 1. 会議風景(口頭発表)

探査技術, 5

クラスト, 3 採鉱システム, 3

環境, 6

熱水, 5メタンハイドレート, 6

その他, 2

マンガン団塊, 3

4. 深海底鉱物資源の開発動向について今回の会議では、海底熱水鉱床を取巻く周辺の民間

企業の活動が目立ったことから、特に海底熱水鉱床の動向に焦点を絞って報告したい。

(1)Nautilus Minerals の発表同社 CEO の Stephen Rogers 氏と Environmental Ma-

nager の Samantha Smith 氏から PNG 沖の海底熱水鉱床の生産開始に向けた取組みと環境影響評価の概要報告がなされた。また、採鉱システムのイメージ動画も紹介された。①同社の取組み状況の概要

Nautilus Minerals は、1997 年に世界で初めて PNG政府から同国沖の Manus(マヌス)海盆に探査鉱区を取得したことで世界の注目を浴びた。

その後は、金属価格の低迷が続き、目立った活動はなかったが、2005 年後半以降、金属価格の高騰を背景に、資源メジャー(現在の株主比率-Gazmetal

(ロシア最大の鉄鉱石生産会社):21%、Teck:6.8%、Anglo American:11.1%)等からの出資支援を受け、2006 年初頭以降、掘削船や有索遠隔探査機(Remotely Operated Vehicle:ROV)、海底電磁法等の探査活動を活発化させた。また、生産に向けての取組みを並行して着手し、採鉱システムの開発や環境影響評価を実施し、現時点での生産開始目標を 2010 年第 4 四半期として公表している(2008 年 12 月現在)。

同社は、約 266.6 百万 US $(2008 年 9 月現在)の資金を保有しており、約 52 万 km2 の鉱区を保有・申請していること、高品位の銅、金、亜鉛を伴う多くの海底熱水鉱床の有望エリアを捕捉している点を会議でアピールした。②主要プロジェクト-Solwara 1 プロジェクト

PNG 政府から付与された探査鉱区のうち、最も探査を活発に行い、開発対象として海域は陸地から20km 以内で、同国 Rabaul(ラバウル)の 50km 北方の Bismarck(ビスマルク)海に位置する Solwara 1地区で、水深が 1,600m、範囲は 0.112km2 である(図2)。

これまで、同地区を中心に、ROV による高解像度海底地形マッピング、海底サンプリング、ボーリング、海底電磁探査等を実施しており、特に本会議でも、電磁探査法の有効性について開発企業担当者から発表が行われた。こうした一連の探査を踏まえ、Solwara 1 地区を対象とした鉱量評価が行われ、概測資源量(Indicated Mineral Resources)をカットオフ品位Cu 4%で87万t(平均品位:Cu 6.8%、Au 4.8g/t、Ag 23g/t、Zn 0.4%)、予測資源量(Inferred Mineral Re-sources)で 130 万 t(平均品位:Cu 7.5%、Au 7.2g/t、Ag 37g/t、Zn 0.84%)と公表している(図 3)。また、

図 2. Solwara 1 地区位置図(UMI 2008 発表資料)

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同鉱床は同水域で西へ延びていることや、鉱徴をボーリング実施孔数の 38%で捕捉していることも発表された。

同社は、Solwara 1 の生産開始のため、2008 年 9 月、PNG 政府鉱山局に採鉱リース権の付与申請(Mining Lease Application)を行った。③同社の価値(Our Values)

会議において、同社の価値を社会的受容性(Society Acceptance)、環境責任(Environmental Responsibi-lity)、安全(Safe)の 3 つであることが強調された。④事業展開

会議の発表によると、同社では Phase 1 と Phase 2の 2 つの Phase に事業展開を考えている。

Phase 1 では、Solwara 1 での海底熱水鉱床の生産、海洋での機器操作、鉱石の海上輸送、非在来型鉱物資源の採鉱システムの構築、Phase 2 に向けた支援先の模索である。

Phase 2 では、世界初の浮遊選鉱プラントの設計と建設、採掘から機器操作までのトータルシステムの活用、地熱の利用といった展開を考えている。

現在は、Phase 1 の終了段階とのことである。⑤採鉱システムの開発

同社が現在進めている採鉱システムの概念は図 4 に示すとおりであり、海底掘削機器、ライザー及び揚鉱システム、採掘支援船からなる。

図 3. Solwara 1 地区の探査成果図及び鉱量評価結果(UMI 2008 発表資料)

図4. Nautilus Mineralsの採鉱システム概念図(UMI 2008発表資料)

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海底採掘機は、長さ 15m、幅 13m、高さ 8m で、最大生産量は 6,000t/日で、海底パイプライン敷設機器をベースに設計されており、現在採掘及び集鉱試運転が行われ、2009 年に組立て及びテストを予定している。

ライザー及び揚鉱システムについては、油田掘削技術を活用し 116 百万 US $で、当該分野では世界的リーダー格である Technip USA 社との契約をしている。スラリー揚鉱ポンプは、2008 年 6 月、GE Hydril 社と

の供給契約をし、5 個のチャンバーポンプからなる 2つのモジュールを手当する予定で、操作が容易で、容量的に十分なものであるとしている。

採鉱支援船については、North Sea Shipping Holding社と 5 年間のチャーター契約(5 年間の追加契約をオプション)をし、全長 160m、400t クレーン、ダイナミック・ポジショニング・システムを備え、現在トルコ共和国 Tuzia で製作中であり(写真 2)、起工後は北スペインの Vogo で擬装される予定である。

⑥環境影響評価同社が実施した環境影響評価の目的は、環境特性

の把握、影響予測(Potential Impact)、影響低減化(Mitigation)である。その際に、地域の利害関係者(Local Stockholder)、世界の専門家の協力を得て、具体的には国際的非営利団体、人類学者、コンサルタント等を交え、ワークショップを開催したとのことである。

環境ベースライン調査は、2007 年から 2008 年の間に、30 日間の調査航海を 2 航海実施し、550 以上の生物試料、堆積物、採水等を行い、20,000 に及ぶ海底観察を観測した(写真 3)。

採取データは、地形、生物(DNA, 底生生物)海洋、堆積速度(24 か月)、地化学、騒音や照度、水質、流向流速モデリング、ビデオ等多岐に及ぶ。

Scripps Institution of Oceanography (SIO:米国ス クリップス海洋研究所)や Toronto 大学等、15 以上の調査機関及びコンサルタントの協力を得つつ、ROV等を活用して調査を実施した。

その結果、海面及び海底での影響予測手法を確立す

ると共に、揚鉱排水を 8 ミクロンのフィルターにより、海底面 25~75m に排水することで、安全が確保できるとしている。

現在、同社は、PNG 政府に対し、環境許可申請を行っている。⑦まとめ

同社の活動概要について、同社 CEO による発表で以下のとおり総括されている。

◦海底塊状硫化鉱(Seafloor Massive Sulfides:SMS)鉱床を対象に世界で最初に電磁探査法を実用化

◦SMS 鉱床を対象に遠隔操作ドリルリグを使った掘削を実施

◦Solwara 1 での環境ベースライン調査の完了◦採鉱システム(掘削、ライザー、採鉱支援船)の

開発のための 3 つの契約を締結◦PNG 海域で 2 つの新たな鉱化帯を発見(Solowara

9、10)◦PNG 政府に対し鉱業リース権の申請及び環境影

響ステートメントの提出

写真 2. 採鉱支援船の建造風景(UMI 2008 発表資料)

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写真 3. 環境ベースライン調査状況と採取生物(UMI 2008 発表資料)

(2)Neptune Minerals の発表同社 CEO の Simon McDonald 氏と New Zealand Office

の Campbell J. McKenzie 氏から NZ 北方沖の海底熱水鉱床の生産開始に向けた取組みと環境影響評価の概要報告がなされた。また、同社が抱える課題等も紹介された。

特に、採鉱システムについては、Technip 社から提案された採鉱イメージの動画も紹介された。①同社の取組み状況の概要

同社は、1999 年に現 CEO である Simon McDonald氏によって設立され、その後、Nautilus Minerals と同様、目立った活動はなかったが、2005 年に NZ 沖に同国政府から探査鉱区を取得し、同年後半には掘削船による探査活動を本格化させた。

現在、NZ 海域の他、PNG、ミクロネシア連邦、バヌアツに計約 28 万 km2 の探査鉱区を保有している。また、NZ では追加鉱区の申請を行っている他、マリアナ、パラオ、日本にも鉱区申請している。

また、今回の会議では図 5 を示し、海底鉱区取得面積が最も広い企業と説明していた。②探査の状況

2007 年に NZ 海域で行った調査(Kermadec 07)では、2 つの SMS を発見した。また、熱水非活動域である点や、高解像度マッピング等により高さ 13m の硫化物チムニーや長さ 180m に及ぶマウンドを発見する成果を得ており、現在、鉱業ライセンス申請手続きを検討中である。③環境調査の状況

会議では、生物学的、地化学、海洋、物理、化学的検討を NZ 水・大気研究所(NIWA)の調査船 R/V Tanga を用いて実施したとの報告に留まり、具体的

な取組みの紹介は無かった。④採鉱システム

Neptune Minerals の場合には、Nautilus Minerals が Technip USA 社と契約しているのとは異なり、Technip社(本社:Paris)から提案を受けている。

エアリフト・フレキシブル・ライザー方式による採鉱システムを採用している点が Nautilus Minerals と大きく異なる点である(図 6)。会議に参加した Technip社の技術者によると、海域特性により、提案している手法が異なるもので、PNG 海域は内湾で海象条件が緩いが、NZ 海域は外洋に面しており、波高が高いためこうしたシステムとしていると説明された。

Technip 社から提示されたシステム・コストは 501百万 US $で、採掘・揚鉱・積出し(off-take)・操業コストは 6,000t/日処理として、91US $/t であると説明された。また、同社では、10 年間、200 万 t/ 年生産した場合のコストは、建設コスト及び操業コストを含め 162US $/t との試算値が説明された(ただし運搬コスト及び選鉱コストを除く)。⑤課題

同 CEO の発表の最後に、Corporate Issues と題して、以下の課題が提示された。

◦Nautilus Minerals に 2 年程度遅れている。◦ニッチ産業として、ライセンスを持った 5 ~ 6 グ

ループの存在◦資源の下落、投資の 2 ~ 5 年の見通し◦中国、インドの購買力や投資◦巨大非鉄企業の参入-信用性◦他の海洋セクターからの投資◦専門家と企業との協力関係

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図 5. 南太平洋諸国の排他的経済水域における鉱区申請・取得図

図 6. Neptune Minerals の採鉱システム概念図(UMI2008 資料)

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(3) 採鉱システム企業によるプレゼンテーションやブース展示

今回の会議では、Technip 社の他に、世界的な海洋浚渫・採掘企業である IHC Merwede 社(オランダ)と Marine Mineral Project 社(南ア)の 2 社の参加があった。当該 2 社については、海底熱水鉱床やメタンハイドレートの開発を念頭に、ブース展示の他、プレゼンテーションまで行う等、積極的な営業活動を行っていた。

以下に 2 社の企業動向を記す。① Marine Mineral Projects 社(本社:南ア・Cape Town)

について同社は、1993 年に設立された世界的に高度な革新

技術を有する海洋エンジニアリング企業で、海底ダイヤモンド採鉱システム等の海底採掘事業の他、石油ガス、一般の海洋サービスまで広範囲に事業展開を行っている。また、同社の提供するサービスには、FS から概念設計、システム設計、操業支援まで、あらゆる範囲の事業をサポートする。現在のスタッフは 55 名となっている(表 1)。

同社の株主構成は、Solid Marine Investments (Pty) Ltd (60%)、Mvelaphanda Holdings (Pty) Ltd (40%)となっている。また、オランダ・Rotterdam にもオフィスを設けている。

またクライアントとして、De Beers Marine、Subsea 7 Ltd、Johnson Matthey Ltd、Royston CSF Pro-duction Line 等となっている。

特に、同社は、採鉱船(Mining Vessel:MV)による海中採鉱システム(Subsea Mining System)の製作実績を有し、代表的な 3 つのシステムを表 2 に示す。

いずれもダイヤモンド採鉱のために製作されたもので、180 ~ 260t クローラー、300 ~ 450t ランチャー・回収システム、3 ~ 4.5Mega Watts の電力システム等を備え、4 点式定点保持システム等も備えている。例えば採鉱船“MV YA TOVIO”に搭載されたクローラータイプのシステムでは、ナミビア鉱山公社から受注し、2000 年 12 月に完成し、ダイヤモンド採掘のためのクローラー方式の採掘機、揚鉱管システム、油圧・電力・制御システムからなる。また、最新の採鉱船“PEACE IN AFRICA”に搭載されたシステムは、De Beers Marine (Pty) Ltd. からの発注により、2007年 5 月に完成し、4 点式停船システムでは大規模容量の電動または油圧駆動保持システムで、ワイヤーロープ径が 70mm、2,000m のウインチを装備する(写真4)。② IHC Merwede 社(本社:オランダ・Sliedrecht)に

ついて同社は、ドレッジ・採鉱(Dredge & Mining)、沿

岸・海洋(Offshore & Marine)、両者関連した技術・サービス(Technology & Services)の 3 つのセクターからなる従業員 3,000 人規模を有する当該分野の世界市場のリーダー的存在である。会議では、同社は 320

表 1. Marine Mineral Projects 社の業務概要製品 (Products) 提供サービス (Services)

・船舶改造・事業統合・深海掘削機器・掘削機器ランチャーや回収システム・うねり補償器(Swell Compensators)・深海パイプ敷設システム・リール駆動システム・潜航ハンドリングシステム・電動及び油圧ウインチ・デッキ設備・4 点式ダイナミック停船システム・電気システム・制御及び自動システム

・プロジェクトマネージメント・FS・開発設計・概念設計・詳細エンジニアリング・マニュファクチャリング・ソフトウエアプログラム・事業統合・機器据付・製造サポート・仲介業務(Commissioning)・マニュアル及び現場トレーニング・操業支援・アフターサービス、製品販売

表 2. Marine and Mineral Projects 社の主な海底採鉱システム

採鉱船名 PEACE IN AFRICA YATOIVO KOVAMBO

概要 ダイヤモンド掘削のための深海採掘クローラー、ランチャー&回収システム、4 点式停船システム

ダイヤモンド掘削のための深海採掘クローラー、ランチャー&回収システム

クローラー 260t 225t 180tランチャー&回収システム 600t 450t 300t

電力システム 4.5 Mega Watts 4.5 Mega Watts 3 Mega Wattsその他 中央遠隔制御シス

テム、SONAR リアルタイム 3D 認識システム

中央遠隔制御システム、SONAR リアルタイム 3D 認識システム

中央遠隔制御システム、

写真 4. クローラー式採鉱システム(写真タイトルは採鉱船名)

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年の歴史を有し、380 のバケットドレッジ、1,500 のポンプ、最大 6Mega Watts 等を誇ると紹介していた。

同社のミッションとして浚渫(dredge)やオフショアにおける技術革新を基本とした、スラリー技術及びR&D とし、対応水深の変遷も 30m から 150 ~ 200m、そして 2,000 ~ 3,000m と移ってきたと紹介された。

今後を含め採掘対象として考えているのは、海底熱水鉱床、マンガン団塊、マンガン・クラスト、ダイヤ

モンド、ガスハイドレートと説明された。また、今回の発表で特徴的だった点は海底採掘のプ

ロジェクト開発ステージを、探査から開発・生産までのフローシートで示された(図 7)。

さらに同社の調査研究部門である MTI Holland 社では、切削機器開発の一環として、採掘時の切羽の破断シミュレーションの研究成果等が紹介された。

(4)探査関連技術海底熱水鉱床の探査技術については、ボーリング

や物理探査に関する発表や紹介があった他、AUV(Autonomous Underwater Vehicle:自律型無人潜水機)及び ROV(Remotely Operated Vehicle:有索遠隔探査機)についても開発紹介があった。その概要は以下のとおり。

①海底着座式ボーリングシステムSeaf loor Geoservices 社(本社:米・Houston)は、

これまでに 3 タイプのボーリングマシン(商品名:Rovdrill)を図 8 のとおり開発している。◦Rovdrill(第一世代)

第一世代と位置付け、浅部の鉱物資源探査用として設計されており、土壌用には不向きであるとされて

図 7. IHC Merwede 社のプロジェクト開発フローシート

図 8. Rovdrill のシステムイメージ

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いる。本機器は、2006 年に 8 か月間の開発期間を経て完成したもので、水深 3,000m、最大掘進長は 18m、コア径は 55.6mm(標準)である。Nautilus Minerals社が PNG 沖で 2007 年 6 月から 9 月にかけて実施したボーリングは、当該機器を使用したもので、111 孔のボーリング、平均掘削長 9.8m、最大掘削長 18.2m、平均コア回収率 72%であった。本システムは、サンプリングや海底ビデオ観察で用いる遠隔探査機(ROV)の通信、油圧、電力システムを利用するものである。◦Rovdrill-m シリーズ(第二世代)

Rovdrill の発展型であり、操作性の向上や掘削長を伸ばしているもので、ワイヤーライン工法を採用し、スペックによって m50 と m80 がある。

m50 は、掘進長を 55m とし、コア径は 2.75 インチ(69.85mm)と第一世代に比べて大きい。また、m80は、掘削長を標準 80m、最大 160m とし、コア径はm50 よりさらに大きい 3 インチ(76.2mm)としている。いずれも第一世代同様、ROV の油圧、電力システム等を利用している。

特にこの m シリーズは掘削専用船に代替するものとして位置付けている。②物理探査

海底電磁探査法及び海底重力探査の適用について、それぞれ Ocean Floor Geophysics 社(カナダ)の Eric Jackson 氏から口頭発表があった。

海底電磁探査の適用性について、同氏から Nautilus Minerals が保有する PNG 海域の鉱区においてプロトタイプで行った 2007 年の電磁探査結果と 2008 年調査で使用する新たな Mark Ⅱの紹介が行われた。本電磁探査法の役割は広域探査や概査評価であり、本システムは ROV にアタッチしてセットするもので、100 日という短期間でプロトタイプを開発し、分解能は 20mであり、結果としても電磁探査はボーリング結果と調和することを確認し、海底熱水鉱床探査に使える手法と説明された。また、Mark Ⅱは、ノイズレシオの改良やコンパクトな ROV でも活用可能とし、2008 年 2

月からテストを行っている。また、海底重力探査については、エアボーン重力探

査技術を応用し、水深 3,000m 海域において、6km のケーブルを用いて観測するもので、感度は 0.36mgal を達成しているが、重力計本体の安定性が課題としている。具体的には一般に用いられる重力計である GT-2A を改良し、海底重力計(GT-2U)として開発したものである。③ AUV 及び ROV の開発状況

近年、海洋調査の主流になりつつある自律型無人潜水機(AUV)や有索遠隔探査機(ROV)の開発状況についても発表があった。

一つは、NOAA(米国海洋大気局)の海中調査プログ ラ ム(Undersea Research Program) の 一 環 と して、UM と USM によって設立された NUST (National Institute for Undersea Science and Technology:国立海中科学技術研究所)によって開発された AUV(Eagle Ray Deepwater AUV)について報告があった。AUV Eagle Ray の主要な仕様を表 3 に示し、調査風景を写真 5 に示す。主要動力源は 11 個のリチウムイオン電池で、一度の潜航で 12km2 の調査を可能とし、20フィートコンテナに搭載できるとしている。また、揚収が容易なのも特徴に挙げている。マルチビーム音響測深システムでは、120 度、111 本ビームにより、高解像度マッピングが可能であるとしている。また、2009 年には SBP(サブボトムプロファイラー)も搭載する予定としている。

表 3. AUV Eagle Ray の仕様項  目 仕  様

サイズ重量最大水深調査速度最大速度潜航時間ナビゲーション搭載観測機器

5.1m × 0.69m 径882kg2,200m1.75m/s2.5m/s30 時間Inertial Navigation System (INS)-海中部CTD(Conductivity, Temperature, Depth)測定器マルチビーム音響測深システム

写真 5. AUV Eagle Ray の仕様

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2009.1 金属資源レポート118

深海底鉱物資源の開発動向について ―

第38回深海鉱業会議2

0

0

8年次会議(U

MI 2008

)参加報告―

海外情報紹介

また、小型船舶用 ROV についての発表があり、これは Specialty Devices Inc 社と UM の CMRET/NUSTが協力して、設計・開発されたケージ式 ROV であり、

“ハイブリッド海中 ROV”と呼んでいる。外側が鳥かごのようなケージ式になっており、その中に ROV が入る仕組みで、コンパクトにできる特徴を持つ。

外側のケージの部分は、2.11m × 2.13m × 1.85m 大、重量 840kg、その中に入る ROV は 1.62m × 1.22m ×1.05m で重量 385kg である。ROV には、5way マニュピレーターと USBL、360 度スキャン・ソナーを装備

しており、搭載機器可能重量は 10kg、潜航可能時間が 20 時間である。外側のケージと ROV 本体を繋ぐケーブル長は現状 25m であるが、より広範な範囲を活動するため最大 50m まで延長することが可能である。支援船から直径 800m 範囲の海底を自由に活動することができ、ポテンシャルとしては直径 1,200m ある。

なお、この ROV は、Mississippi Canyon Block 118におけるメタンガス・ハイドレート海底調査のために開発されたものである(図 9)。

図 9. ガスハイドレート海底観測イメージ図(Mississipi Canyon Block 118)

BBLABHSZBSCGSADRSHLAIDPPFCATAALA

Benthic Boundary Layer ArrayBase Of Hydrate Stability ZoneBattery SystemChimney Gas Sampler ArrayData Recovery SystemHorizontal Line Array(acoustic)Intergrated Data Power UnitPore Fluid Circulation ArrayThermistor ArrayAcoustic Line Array

5. まとめ今回の会議に参加した全体の印象として、これまで

の探査中心の発表内容から、海底資源採掘等の生産技術関連の発表・ブース出展が増加し、企業レベルでも開発を念頭に置始めていることが窺えた。

民間企業による海底熱水鉱床開発では、Nautilus Minerals 及び Neptune Minerals が共に 2010 年生産開始の旨公表されてきていたが、今回の会議で、Neptune Minerals は 2011 年生産開始と 1 年程度遅れる旨説明がなされた。ただし、会議での発表内容に基づけば、両社の採鉱システムを提案・製作している Technip社や造船関連企業では採鉱船の建造や採鉱システムの製作が行われているが、いずれも来年には完成する見通しである。今後、若干の採掘開始スケジュールの変更はあり得るであろうが、近い将来に実験レベルであれ採掘に着手される可能性は高いと判断される。

海底熱水鉱床やメタン・ハイドレート等、非在来型深海資源の生産を巡る動きも活発化してきており、今回の会議では、Technip 社の他、南アを拠点とする Marine Mineral Projects 社やオランダを拠点とする IHC Merwede 社も、それぞれ自社の Mining System について PR していた。Nautilus Minerals 及

び Neptune Minerals はいずれも Technip 社のシステムを採用しているが、こうした新規参入が続けば、生産設備のコスト低減は深海底鉱物資源開発費の低減にも繋がりや開発が促進されるものと期待される。

一方、探査技術に目を向けると、世界の主流は、AUV(自律型無人潜水機)、ROV(有索遠隔探査機)を活用した高レベルな探査に移行している。発表で用いられる海底地形図も、AUV で作成した高分解能地形図が基本となっている。さらに、深海底鉱物資源の鉱量評価に求められるボーリングマシンや海底電磁探査や重力探査技術の開発等も積極的に行われており、より高精度で高機能化が進んでいる。

深海底鉱物資源、特に海底熱水鉱床の開発を巡る動きは、2003 年以降、資源価格高騰を背景に、経済性を有する可能性が出てきたことから、民間企業による活動が活発化してきていたが、昨今の世界的な金融危機により資源価格が下落し、企業レベルでの資金調達が困難な状況となっている。海底熱水鉱床の生産を目指す Nautilus Minerals 及び Neptune Minerals が、今後どのような方向に向かうのか、その動向には注視していく必要がある。

(2008.12.15)

HydratesFault ZoneStrong Negative Reflectors

(Possible BHSZ)"Bright Spot"・Gas

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