共鳴散乱を利用した上層大気の観測計画 - nict · vol. 15 no. 77...

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Vol. 15 No. 77 電波研究所季報 March 1969 pp.104-126 調査 UDC551. 501. 8 共鳴散乱を利用した上層大気の観測計画 皆越尚紀勢 隆義 藤間克典器 巌本 理三雄骨 五十嵐 巌暑 i E F s s 1. 緒言 地球上層の中性大気の構造に関する知識は,オーロラ Air glow などの観測を手がかりにして得られてき た。近年になって,ロケットや人工衛星などの宇宙飛し ょう体による直接測定が可能になったが,電離層の知識 に比べて,大気組成に関するデータはまだ乏しく新しい 観測方法の必要性が痛感されている。 最近,第 2 の光ともいうべき ν ーザの出現により,光 によって上層大気を観測しようとする試みが進められて いる。レーザ光は空間的コヒレソシーが非常によく遠距 離まで伝搬しても光の強さが弱まることなく上層大気を 照すことができる。 ν ーザによって照された大気は散乱 を起し密度分布などの情報を地上に送り返してくれる。 1964 Mロ‘の Fiocco はルピー・レーザからの 6943 A の光を光源として上層大気を観測し, SOkm 付近にダ スト層が存在するのを確めた ω。その後, 電波研究所 を始め多くの大学や研究機関が同じ方法で観測を行なっ ている。 光レーダ(レーザ・レーダ〉によって 20kmSOkm 付近にダスト層が見出されたことは,初期の段階での大 きな成果であり,上層大気の構造を解明する有力な助け になるだろう。 しかし, Rayleigh散乱や Mie 散乱は散乱大気を構 成している原子,分子,ダストなどの粒子密度の総和に のみ関係して起こるので,大気の組成やエネルギー状態 を解明できない不満がある。 1964 年電波研究所の広野 ω,米国 Stanford Res. Inst.Young らによって,共鳴散乱を利用した方法 が提案された。 ・通信機縛部物性応用研究室 共鳴散乱とは,被測定粒子の固有共鳴波長に一致した 光を粒子に照射すると,粒子による強い共鳴吸収が起 り,その自然放出の結果として強い散乱を起す現象であ る。粒子当りの散乱の強さは Rayleigh 散乱に比べて非 常に強いことが期待されるし共鳴散乱の波長は粒子に よって固有であり,共鳴散乱の強さは大気組成とエネル ギー状態に関係することから質量分析とエネルギー状態 (温度,縞射場,化学反応など)の知識を同時に得るこ とができる。すなわちレーザ・レーダで共鳴散乱を観測 すれば,地上から上層大気の質量分析を定常的に行なう ことが可能になる。さらに近い将来,小型化された共鳴 散乱観測装置が開発され,ロケットや人工衛星に搭載さ れれば新しい質量分析装置として活躍するだろう。 ただし,共鳴散乱の観測にはレーザ光の波長変換の技 術などいくたの問題がある。本報告では,第 2 章で観視u 方法の概要を明らかにし,第 3 章で上層大気中特に共鳴 散乱観測の対象として,適当な原子,分子の共鳴波長や 散乱断面積を計算し可能性を検討した。 4 章では観測に必要な技術の展望を行ない,観測を 可能にするため今後開拓すべき課題を明らかにした。 2. 共鳴散乱の観測方法 2.1. 観測方法 光による物質の分析は鐙光法と吸光法とに分けられ, 上層大気を観測する場合,第 1 図のようになる。分光分 析装置としての感度は蛍光法がすぐれており, Rayleigh 散乱, Mie散乱,共鳴散乱,さらに Raman散乱の観 測はこれに属する。 光を用いたレーダ方式で Rayleigh 散乱観測装置の違 いは第 2 図のように送信側において,光の波長を被測定 物質の共鳴波長に一致するよう変換しなければならない ことである。 104

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Vol. 15 No. 77 電波研究所季報 March 1969 pp.104-126

調査

UDC 551. 501. 8

共鳴散乱を利用した上層大気の観測計画

皆越尚紀勢 林

隆義 藤間克 典器 巌本

理三雄骨

五十嵐 巌暑

.‘ .

i

E

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..

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‘,

1. 緒 言

地球上層の中性大気の構造に関する知識は,オーロラ

や Air glow などの観測を手がかりにして得られてき

た。近年になって,ロケットや人工衛星などの宇宙飛し

ょう体による直接測定が可能になったが,電離層の知識

に比べて,大気組成に関するデータはまだ乏しく新しい

観測方法の必要性が痛感されている。

最近,第2の光ともいうべきνーザの出現により,光

によって上層大気を観測しようとする試みが進められて

いる。レーザ光は空間的コヒレソシーが非常によく遠距

離まで伝搬しても光の強さが弱まることなく上層大気を

照すことができる。 νーザによって照された大気は散乱

を起し密度分布などの情報を地上に送り返してくれる。

1964年Mロ‘の Fioccoはルピー・レーザからの 6943

Aの光を光源として上層大気を観測し, SOkm付近にダ

スト層が存在するのを確めたω。その後, 電波研究所

を始め多くの大学や研究機関が同じ方法で観測を行なっ

ている。

光レーダ(レーザ・レーダ〉によって 20kmとSOkm

付近にダスト層が見出されたことは,初期の段階での大

きな成果であり,上層大気の構造を解明する有力な助け

になるだろう。

しかし, Rayleigh散乱や Mie散乱は散乱大気を構

成している原子,分子,ダストなどの粒子密度の総和に

のみ関係して起こるので,大気の組成やエネルギー状態

を解明できない不満がある。

1964年電波研究所の広野ω,米国 StanfordRes.

Inst.の Young らによって,共鳴散乱を利用した方法

が提案された。

・通信機縛部物性応用研究室

共鳴散乱とは,被測定粒子の固有共鳴波長に一致した

光を粒子に照射すると,粒子による強い共鳴吸収が起

り,その自然放出の結果として強い散乱を起す現象であ

る。粒子当りの散乱の強さは Rayleigh散乱に比べて非

常に強いことが期待されるし共鳴散乱の波長は粒子に

よって固有であり,共鳴散乱の強さは大気組成とエネル

ギー状態に関係することから質量分析とエネルギー状態

(温度,縞射場,化学反応など)の知識を同時に得るこ

とができる。すなわちレーザ・レーダで共鳴散乱を観測

すれば,地上から上層大気の質量分析を定常的に行なう

ことが可能になる。さらに近い将来,小型化された共鳴

散乱観測装置が開発され,ロケットや人工衛星に搭載さ

れれば新しい質量分析装置として活躍するだろう。

ただし,共鳴散乱の観測にはレーザ光の波長変換の技

術などいくたの問題がある。本報告では,第2章で観視u

方法の概要を明らかにし,第3章で上層大気中特に共鳴

散乱観測の対象として,適当な原子,分子の共鳴波長や

散乱断面積を計算し可能性を検討した。

第4章では観測に必要な技術の展望を行ない,観測を

可能にするため今後開拓すべき課題を明らかにした。

2. 共鳴散乱の観測方法

2.1. 観測方法

光による物質の分析は鐙光法と吸光法とに分けられ,

上層大気を観測する場合,第1図のようになる。分光分

析装置としての感度は蛍光法がすぐれており,Rayleigh

散乱, Mie散乱,共鳴散乱,さらに Raman散乱の観

測はこれに属する。

光を用いたレーダ方式で Rayleigh散乱観測装置の違

いは第2図のように送信側において,光の波長を被測定

物質の共鳴波長に一致するよう変換しなければならない

ことである。

104

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Vol. 15 No. 77 March 1969

:人工江星

(l是倍、 【支信】

R吋lei:JI.議官l.)l車

105

”。nosta tic Bistatic

第1図大気の測定方法 第2図測定装置 第3図 測 定 方 式

2.2. レーダ方程式

レーザ送信光の出力 RT(Watt)を垂直に打上げたと

き,高さ hでの後方散乱による受信電力 PR(Watt)は

ここで,

.,. A島.A"R=-=..2:.ー・タ・-6~trtRT』,fiTh2

。T (str):送信ピームの拡がり

r (str-1):後方散乱係数

A& (cm2):散乱物体の面積 BrightnessArea,

AR (cm2):受信望遠鏡の関口面積

tT, tR :送受信装置の透過率

TR :大気中の伝送損失

(1)

散乱物質が大気のように分布している場合, Bright-

配 ssAreaと測定高度での送信ビームの拡がり面積は等

しくすることができる。すなわち

nTh2=A&・

また散乱物体が高さの分布を持っているので,送信光

が T 時間持続するパルス光だとすれば,送信後 t=2h/c

時亥附信する電力はま叫の体積から後方散乱光に

なる。したがって, Columm•cm 当りの散乱係数を β

(cm-1 str-1)とすれば

r=す-ctβ

(1)式から

PR=PTβ~ 旦ιtrtRTi.n 2 h2

(2)

光電子増倍管の光電面に入射した電力PRは増幅度 μ,

変換効率 q(Amp/Watt)の光電子増倍管によって

ls=/LqPR (3)

の平均陽極信号電流に変換される。

受信装置の検討は第4章において行なうが,受信信号

電力 PRが小さいときはらは内部雑音に埋もれてし

まう。この場合,光電子計数法が有利でるる。

光電子増倍管の光電面に1個の光子が入射すると 1個

の光電子が発生する(量子効率 μが1の場合〉。この電

子は増倍され μe/tの陽極電流となる。ここで, eは単

位電荷,ャは増倍管の応答時間である。

たとえば, T=lO(lOOMHz),μ=106とし i=106と

すれば i=μe/,.=1.6xIO-SAmp。1knの出力抵抗に

16mVの光電子パルスとなって現われる。

受信信号電力が弱く光電子パルスが同時に重さなって

発生する確率が少なければ,一定時間に計測した光電子

パルス数を量子効率で割れば受信光子数が求まる。

計狽lj時間 At,受信信号エネルギー W (Joule)とす

れば(2)式から

rt+4t • WR=¥t PTβ?奈川』dt. (4)

送信エネルギ- WT (Joule)は WT=PT・T・Atは光が散乱体積を往復する時間であるから,す

CAt (cm)=Ahの聞で β は一定すれば

WR=WTβAh4ftrtRT』 (5)

(5)式の WR・WTをかゆは Pl阻止の常数, v は

光の振動数〉で割って光子の数で表わせる。 βをパラメ

ータにとり, Ah=lOkm, AR=lOOOcm2, tr,. tR=l,

Tι=1としたときの(5)式の WR/WTを第4図に示した。

同時に Rayleigh散乱のときの WR/WTを 0.3μ,

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106

』N

M

H

MW

仏,

MV

~之~

/.ff} (~m)

Rayleigh散乱光 /i=const曲線

(l:送信光波長〉 パラメータ II(cm t str-t) 透過率ttr=tn=T』=1.00高さの精度:Ah=CAt/2=10km

受信面積:An=l000cm2

0.7μ,, 0.9μ,について示した。

第4図

散乱係数をパラ

メータとしt.::.と

きの散乱距離に

よる送信電力主

受偲電力の比

2.3. 雑音

光電子計数法で,信号光電子数を Nsとすれば雑音は

光電子の Fluctuationの統計的考察からゾ百Jで表わ

されるので

_!!_=____!!_ι (6) s v Ws

背景光による光電子雑音 Nbが無視できないとき

」空一= Ns (7) N 、INs+Nb

光電子増倍管の量子効率を η として, Ns=ηWR,

Nb=ηwbから

N. -V'W;平w;;

第5図に S/N=3になるのに必要な信号光子数と背

景光子数を量子効率をパラメータにして表わした。一般

に量子効率は25%以下で近赤外では1%以下であるが,

第5図から,量子効率の悪いところでは背景光の影響が

小さし S/N=3すなわち後方散乱係数が大きく,光電

子計数値が毎回:lo個以上ならば適当な条件のもとで昼間

でも観測j可能で7あろう。

レーザ・ l〆ーダの背景光雑音は背景光のスベクトル強

度をム(Wattcm-2 A-'1 str-1),・受信望遠鏡の視野を

"

電・被研究所季報

10'‘ S/N~J

~五I I 一一一一ー」

/02 103 10 4 II"と

者l丸 Phofon量kw.

第5図 SINを一定にするために必要な信号光k外来雑光の関係

。R (str)とすれば平均背景光電力a.pb (Watt)は

P6=BiARnRtRLl.?., (9)

LI.?. は受信装置の光学的帯域幅である。

レーザ・レーダでは送信ピームの拡がりが狭く,スベ

クトルが狭いので !1.R, LI.?. を小さくすることができる。

!1.Rは !1.T まで狭くしても受信信号エネルギーを損なう

ことがない。レーザ・ピームの拡がり角 Oz(rad〕,レー

ザロットの口径を Di(cm),送信望遠鏡の口径を DT

(cm)とすれば送信ピームの拡がり角 @T (rad)は

θT=81.-£,L, .UT

すなわち

。伊=n,,=__!!_(e, • ___!!_!._ )2 a “ 4 ¥ • DT !

(10)

!1.T=!l.Rく10-sstrにすることが可能である。

背景光の光源として,太陽,太陽光の散乱,月光,月

光の散乱,星明り,夜光,オーロラなどの自然光と人工

光(水銀灯,ネオンサイシ)の散乱光がある。第6図に

0.7μ, での B』を示す。

さらに共鳴散乱の観測には観測波長で強い Airglow

などによる線幅射がある。夜間や夕方の観測ではこの線

穏射が大きな背景光雑音になると恩われる。

(8)

2.4. 伝送路損失

伝送路の透過率れは大気中の原子,分子による吸収

と大気中の原子分子および Aerosolによる散乱によっ

て決まり,吸収による減衰常数を丸(cm-1〕,散乱に

よるものをむ(cm-I)とすれば

Ti=e却〔ー2j;日挑 (11)

k4は可視および近赤外領域では H20,03 などの吸収

帯による。

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“仏)...散乱軍数βの大き

な波長を用いる。

散乱係数βは散乱断面積

T と粒子密度 N の積で

あり, Rayleigh散乱の

断面積は

(l+cos2 9),

.,L-oa 一一一明”てかA

rE

、一dr

一2一一、ノau

r‘、σ

ここで8は送信ピームの

方向と散乱方向のなす角

である。上式から断面積

は可視光領域で 10-21.のオ一死7でるる。粒子密度

は地表では No=2.5x

1019 pm-3 と大きいが,

, I

2.S

仏UV

Z

J

W

A

V

E

d

,,.,h

n

ハT3\内

1Eミミ」岬町

2.0

1969 Vol. 15 No. 77 ~March

g

F

例ー

へm

-m

u

午、守合句、ESミミSSRd

ザ|/(J

P.4 0.6 a6 /.0 1.2 j良・ 4主 υ4脅旭〉

第7園大気の吸収の縫子

fJ.2 。夜車

、‘・-=A ’flll' 4° 6' 8' 10’m・JO' 7Q'剖J

式I 晴 雄 買

第6関.外来緩光の強度

/(J

h

N=Noe-lrで減少する (H ・S回 leheight)ので

lOOkm上層での観測は困難になる。

共鳴散乱の£きの散乱断面積はいかなる値になるか,

第3章で求めよう。

( 1) FiOcco; G: and Smullin, L.D •. Nature. 199, ・p. 1275, 19回.

( 2) Hirono, M., J. Radio Res. Labs., 11, p. 251,

1964.

( 3) Northend, C. A. etc, Rev. Sci.. Inst., 37, p. 393,

1966.

( 4 ) Ishida, T.,電子通信誌, 51.p. 527, 1968.

上層大気の共鳴散乱浪長と強度

文考参第2章

これらの吸収帯の詳細な測定結果があるが,ここでは

第7図に地球大気を透過して地上に到達する太陽光がい

かに H20,03によって吸収されるかを示しておく。

上層大気の観測にはこれらの吸収帯を避けることが望

ましいが,共鳴散乱観測の場合,観測波長を任意に選ぶ

ことができないので,適当な観測点(たとえば高山〉を

選ぶことによって吸収を少なくすることが重要である。

散乱による減光むの二,三の例をあげると

Rayleigh散乱(地表〉 0.15km-I (O. 3.u)

ク ー タ 0.046 ・(0.7μ)

ク~ 0. 016 (O. 9μ)

薄もや 0.18 (lp.)

スモッグ 0.53~9.4

積雲 156. (1.06μ)

乱層雲 153 (lp.〕

この表から晴天でも10%以上の伝送損失があることがわ

カミる。

3.

3.1. 共鳴散乱物質の選定

上層大気中の原子,分子で共鳴散乱の観測に適するも

のを次のような基準で選んだ。

(1)散乱断面積 σの大きなもの,.

(2)粒子密度 N の大きいもの,a

基底状態からの遷移,

準安定状態からの遷移,

電離状態からの遷移

を考えればよい。

(3) 自然放出速度が速い。

第2章のνーダ方程式で10】mからの散乱光エネルギ

ーを計測するとして計測時聞は約70μ 鵠 Cである。共鳴

2.5. まとめ

上層大気の組成を精度よく測定するための条件として,

(1)送信電力 PT,送信エネルギー WTを大きくす

る。または繰返し時聞を短くする。第4章でνーザ発振

器の改良,波長変換技術について述べる。

(め受信望遠鏡の有効受光面積ABを広くする。しか

し, 50~印cm口径の中型望遠鏡を数台設置して電子計

算機と組合わせて処理するほうがよい。

(め受信距離主を短くする。

ロケットや人工衛星に観測装置を搭載すれば送信出力や

受信望遠鏡の口径が小さくてもよい。

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散乱の自然放出時聞はこれより短かくなければならな

L、。-い)地表近くで粒子密度 Nが小さいもの。

共鳴散乱の断面積は非常に大きいので,地表近くに多

く存在するような粒子の状態聞の遷移を選べば,減衰が

大きく上層大気の観浪uは不可能になる。

(5)共鳴散乱波長の領域を可視,近赤外に制限する。

光電子増倍管の感光範囲は可視,近赤外であるので共

鳴線の選定に制限を加えた。

以下の節において観測に適していると思われる原子,

分子の共鳴波長,散乱断面積,共鳴線の幅などを求め

。る。

3.2. 原子の散乱断面積

原子の散乱断面積 ι は Naturalbroadeningや

Doppler broadeningによって中心周波数町の前後に

ある程度の幅をもっ。さらには原子相互の衝突の影響も

あるが,われわれの目的とする上層大気は稀薄であるた

めこの衝突は考えなくてもよい。したがって原子1個あ

たりの散乱断面積のは次式で与えられるω。

-n:e2 ~ r O「・=ーーーーー『・ T ・』 -me ~ 4-n:

x (00 (~)l e一塁手dV r,.m2

J-oo (町+÷均ーゲ+(云y’ヤ

(1)

ここで

M :原子の重さ(g)

T:大気温度〔。K) (250。K と仮定〕

h :ボルツマγ常数

110:線の中心周波数〔Hz〕

c :光速度(cm/sec)

制:電子の重さ{g〕

e :電子電荷(e•S•U・3

f : Oscillator strength

r:減衰定数

いま Linestrengthを Sとすると自然放出係数は

A.1=-1-.与竺:___.S=主笠竺旦~s. c2〕れ 3hc3 仇・凶

ここで添字幅と 1はそれぞれ上と下の準位を意味し

ている。れは上の準位の統計的な重みであり電子の全

角運動を Jとすると

れ=2J包+1

であらわされる。

すると減衰定数は

(3)

電波研究所季報

I'=平A.1 (4)

で与えられる。

Oscillator strength九fは原子1個中,その遷移に寄

与する電子の数であり

J

nu

-一で

x一AY

da官一nv

qu

-n’

=一J

C凶N

U

H

W

一一昨日

匂一

3信一・

8rm

一一PJ

(5)

と表わされる。

さらに(2)式と(5)式にでてくるスベクトルの Linestr-

ength Sは次のようになる。

s一》

cu (6)

ここにおはその lineが属する Multipletの強さで

あり, s/X,はMultipletstrength内におけるその Line

strengthのしめる割合であり, σR2は電子配置によって

きまる定数である。

ア 2s2S正

BJd同意処

a

-単

一十

-aル

a

r-2一工

u

-mw

か-

H Liのエネ島平ー準位

~ .. ,、内た 「1長 会l 巴

ゐ,J/~_q凶豆|態 鋭ぶ. Iι-量塁i) 3/S長・11':,・

、,基底 基底

{波線f;l禁制運移)

、0l 11)工林干ー牟律 的Iのエキル平ー粕

~I ミ1

2P竹。机ヤoz ifiぇ

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Vol. 15 No. 77 March 1969

So, sfI:s はすでに表が与えられており ω , σ~ につ

いては Bateand Dam伊 ardの方法(3)によって計算す

ることができる。

こうして ι が計算できるわけであるが,いま

dvn=ヱ!!..../___ ~- 1 ’ C "V M I

a-r ・・-11-110 I 4?t’ w A110 I

(7)

とおくとスペクトルの中心波長んで

σ。__J_ι• A 』20 • 1 o-gL ·~~r コJ

(8)

が得られ,また中心からずれた位置における偽は

σu 1% l。。 e-'1' ~-- <To ---,r Jーcoa•+cu-y)2 町

=Ho(u)+aH・(u)+a2H2(u)+……

とすることができる。

Ho(u), H1(u),……は表として与えられているので

ιを求めることができるω。

第1表と第8図にいくつかの原子について結果を示す。

3.3. 分子の散乱断面積

この節では超高層に存在する主な分子についてスペグ

トル構造を検討し,散乱断面積を概算してみる。

N2

第9図は N2のエネルギー準位である。

A3L]+ と基底状態 X'L!uの聞の遷移は禁止されてい

て, A3L]争状態の Lifetimeは約 30sec<のであり,共

鳴散乱によってじゅうぶん観測にかかる Populationが

できるだろう。オーロラの中には A3L]•-X'L]9+ (Ve-

109

N/.瓦zz/

一一-b'llu12

C'H.副Lー---.-ー

S卜 戸2ー地ーiーh十由Si・t~九v包el 一一ー-a’![9

/st

第9図。 X1Z;十 N2のエネルギー準位

伊rdKaplan system)の禁止線が観測されている。 B3w;

-A3L]+ の遷移は 1st positive systemとしてよく知ら

れ,通常の N2を封入した放電管の陽光柱に現われる。

われわれはこの線を共鳴散乱に利用することができる。

地上 lOOkm付近の温度 T=250。を仮定し,振動のス

ベクトルの温度もこれに等しいと仮定すれば,電子状態

A3L]+ における各振動のエネルギー状態にある分子の数

はポルツマγ分布によって決まるものとすれば, 世”=0

にある分子の数の比は 10-•程度となるから,分子はす

べて最低の振動エネルギー状態が’=0 にあると考えて

よい。第2表に世”=0の4個のパYドについて波長お

よび Oscillatorstrength fの値を示す。(1,0)パγ

ドの f値が最大で, これを共鳴線に選ぶのが有利であ

る。

第2表 N2 1 st positive systemのバY Fの波長および遷移磁率

長 Iv'v'’C蹴ー1) fザザ’

0.0 10463-4A 8.街x104 1-4×10--s

1-0 お79.3 l.29x1os 1.52x10-s

2.0 8039.2 7.21x104 6.41 × 10--•

3.0 総56.0 l.83x104 1. 28x10-•

4.0 6171.3 l.88x1os 1.12x10-s

第 1 表

遷 移準位Fップラー単位舗4•o仁HzJ、,a,

出数寸

放即日

自係A

〕・A

A

中心波長での散乱断面i積α。【叩1•〕

f ~輪車言者向(cm•·str-り

島.

H 2s(2S ! )-3P(2p0 f) 白62.8 2.32×107 l.4Sx10-12 1.l6x10-1s 4.錦×10・Lil 2s(2S告)-2p(2p0i) 6708 3.62×10・ 6.35x10-1s 5.04xlo-•• 1.84×109

or 2pss(5S_02)-2psap( s Pal 7772 3.39×107 9.3 x10-12 7.4 x10-1s l!:24x10・5. 76xlO'r Na I 3s(2S告)-3p(2POi) 5890 l.24xlo-11 9.85X10-13 l.15X10・

Nall 2p53s(3P02)-2p53p(SS1) 3534 7.46x107 l.04xlo-12 8.27×10--14 1.92xl0・Kl 4sc•s 占)-4p(2POi) 1665 3.65x107 2.28×10--11 l.8lx10-12 0.68x10・

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110

振動スベクトルはさらに回転のスペti.-トルにより小さ

く分れてバンド構造を持つことになるが,回転の量子数

を Jとすると, J状態にある分子の数 (NJ〕は(6)

〔NJ〕 hcBτF了=百「(2J+l)e-BJ (J+l】h'!KT, (め

(N勺は準安定状態にある分子の数, B は回転のエネ

ルギーの定数である。

(1)式の中の f値は分子の場合には

I S(J’, I”3 ・・, f=fvγ. VI'’ くlQ)

S(J’J”〉は Londov-Honelmの公式で与えられるo

V’は下側の準位の多重度で g;”=2.J”+1である。 1

個の分子による実効的な散乱断面積は

Av’o 〔NJ”〕戸一一一一ーム芝L....L.・(cm2str-1) (11〕411: ぶAv’g” 〔N勺

。第10図は上の公式を使って N♂の(1.0) bandの

to

"・'' J=2tJ

/G 官f

..

17 18

。川C'OJn

60.0 7tJ.i)

第10図 N21st posi討ve(1,0) P-b回nchの散乱断面積

P-branchについて,スベタトルの中心における散乱断

.面積を計算したものであるvζこてー(9)式の中i;.T戸 2印

。K とし,スベクトルの位置は Herzbergのデータを用

い, f,Av’vの値は Nichollsm のものを使った。 J”

=8, 9 の線がパγ ドマ1平,ti~:にあたり,ニフの線の中心間隔は 0・争cm-1 で重な~;;齢、はあ見りない。重なりが大きくてスペタトルの線の形が幅広くなればレ「ザの

tu凶ngもかなりらくになる。散乱強度は T=2!5Q9J{で

は J”=8の線が最大で 2.2 x 10-1& cm2 str-1となる。

N2+

N:tの準位は第11図のような構造を持っている。共鳴

する準位としては, .1st negative system (B2:E. +-X2

・Il+),およびMeinelsystem (A211:‘-X2:E,つが適当

である。’Meinelsystemを使って共鳴散乱を観測する

方法については広野ωが詳しく述べている。 I

.l,st .nega悦vesystem の波長は第3表に示すように.

電波研究所季報

ーー一ー-CEu十{め ' ~·.

ー一一P'.恥

2トlst+8古>z.階;,,+

;:;;;.;;;: 。X'主Y 第11図 N2• の且キルギー噂位

第S表 N2+1st negative systemのバYJ'の波長および遷移確率

Band l波 長 IAv'v"い| I

0.0 3911.5 1.24x101 1.鈎x10-2

1.0 3579.3 3.42xlO• 6.5Sx10-s

2.0 3315.0 8. 26x1os l.36X10-3

3.0 創出~l!.5

4.0 2874.3

光電子増倍管の感度の大きいところにあり好都合であ

る。特に(O,0)バゾドの f値は大きく共鳴散乱に適

している。

第四図はこのく0,O):ーパγドの P-branchについて

J”=0~20の回転スペグトルの中心における散乱強度を

N♂の場合と同様の方法で計算したものである。 J”=1

の線が最強で散乱断面積は8.0 x 10-1s cm 2 str-1である。

第13図はバンドヘッド付近の散乱断面積である。この

図をみてわかるように,個々の回転スペタトノレ線はパン

ドヘッドにおいても 1本1本の線に分かれている。

10「 x10・ν,1,-tσ’

Fo

ru

・q

’・・,a 。, 4

3

制 a・・2IJ

2

J'-1

JP.0 録。 if,()

第12図 N2•1st negative (0,0) P-branchの線中心にお

ける散乱餅商積

NO, 02, 02+

I 第14図,第15図.第16図にそれぞれ02,NO, 02+の

l準位構造を示す。 02では共鳴させる適当な波長がない。

:02+勺は1stnegative system (b4:E, -→a41t'.)が使え

iる。この中では(1,0)バンドが最強で sas2Aである。

,NOでは O伊 waIl system (b4::E--a41t')が有望であ

iる。 f値の最も大きいのは(1,.0)パソドである。波長

1 aasaA.,. NO. OJ_ Oga買a_system.を使。て共鳴散乱を観

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Vol: 15 No. 77 March 1969

J.JPX!f・"c.,,.' str-1

p

2日:Jr.,\濁 .It服 .NO

第四図 N2•1st negative (0,0)のパYFへッ Fの散乱断面積

5,.

feV) Biu

一一一一一Ciu , 』'Z-;,

Schum岨 R/J./l/e

2卜.bゐ|第14図ij AtmospheiiC1 all : 02の品ネルギー

lR. Atmo. 刻,~ert'C I ¥5:, 準位()L ’”“J

(eV)/ C2ll

』トB'K-一一一一一ーがzー「一一』'I:一一一一一政ぷニ

4

2

。且ご正

千丁 1stNr・<::

-~目' x’/l,’ '

第15図NOの品ネルギー増位

第16図02+の=キルギー準位

測すLる方法については向車iJent<9>が提案している。

03

第17図は Os.のェーネルギー準位である。 D-Xの遷移

は Hartleybandと呼ばれ 3000~2200Aの聞に連続的

に広がっており,吸収断面積は 2sooA で最大で 5x

10-is‘cm2程度である(第四図〉。第4表に分子の結果を

示す。

3.4. 観測の可能性

前節において,上層大気中に存在して,共鳴散乱観測

の可能性がある原子,分子について,計算によって共鳴

111

10". 。 (cmi

c ~ f).

2卜 H"rti匂 band -,j/'

B ~

、r。 x

二~ ·~

第17図 Osの準位;;;"'

第四図 Osの吸収

く永田.鶴岡けO>)→官

2剖加 2JP/J 3輔 A'

第 4表

分子 遜 移 遜。蹴穆磁-率1)I (;;;.2str-•) j 一~ップZ)ラ

N2 B3n-A3J.'•(t,。〉 8879 1.29x105 2x10-1s 6.9×10s

N2• B2J.'.•-X2J.'•(0,0) 3911 1.24xl07 8x10-1s 7.2x1os

02• b4J:--a4n,(1,。〉 5632 一 6.4xtos

NO b4J.'--a4n(1.0) 8683

03 D-X 2550 一 ~10・19 一一

波長や散乱断面積を求めてきた。計算の結果,共鳴散乱

の断面積は 10-12~10-1&と Rayleigh散乱に比べて 1012

倍以上大きい。しかし,共鳴散乱の幅は散乱大気の温度

を 250°Kと仮定して,約 lGHz と非常にせまく,分

子の Bandh回 dの部分でも共鳴線は重ならないことが

明らかとなった。

他方レーザの単一モードの発振スペクトルの幅は1

GHz以下であるから散乱スベクトルとの一致はなかな

か困難な仕事である。だが今後波長を掃引するとか,多

モード発振レーザ光を用いるとかにより解決の道はあ

る。

送信光と散乱断面積が周波数特性を持っているとき,

第2章の(司式は書きかえなければならなL、。

散乱粒子への入射光強度を I(Watt cm-2),スベク

トル強度を I.(Watt cm-2 Hz-I)とすれば,後方散乱

強度 I’(Wattcm-2)は

日吋~g(v, 均同

ここで g(v,110), σ(11,均〉は各々入射光および散乱

I断面積の Shapefunctionでスペタト Jレの中心" Oで一

致していIるとする。簡単のため,入射光はFlat句ectrum

であると仮定すれば

Iog(v, 11o)=l/d111・

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112

さらに

rOO I'町 +4u1/2

σ。lσ(v,町)dv=σ。lσ(v,vo)dv=σo.dv,・JO J均一4vs/2

積分範囲はIとσの重なっている領域をとればよい。

また 4v1.dv,は各々レーザ光,散乱断面積の半値幅であ

る。すなわち

l'=loN'σJ立.a’t

(13)

以上から,第2章(5)式は

" 14,, WR=WT,β0 ・←Eι ·.dh~t1tRT』4v1 h2

(14)

と書ける。

4v,:;:;;,4v1のとき .dv,/4v1毎1.

この場合,散乱の効率は最もよい。しかしレーザを単

一モードにし安定度をよくしなければならなし、。

""・《 4v1のとき .dv,/4v1《1.

レーザが多モードで発振してこるとき,たとえばガラ

スレーザでは数百 GHzの幅で発振している。他方,散

乱物質が分子でバンド構造を持っており,多数の共鳴線

からできているとしても""・は隣りあった共鳴線の間隙

と比べて 10-2も小さく, .dv,/4111《1となり観測の可能

性はかなり低くなる。

以下では 4v,:;:;;,.dv1の場合について,上層大気の原子

分子による散乱の強さから,粒子数をパラメータとして

2 4 fi 8 10 12 14 4並乎~反 (Loj/C?ll3)

第19悶大気粒子鉛直分布

電波研究所季報

受信信号光電子数を求め図に示した。計算は第2章の第

5図で, WT=ljoule,4h=10km,計数時間 70iisec,

AR=l000cm2, tT=50%, tR=10%,れは考慮にい骨1な

いとして行なった。また背景光の数値は第2章の第17図

および Airglowの実測を参考にして求めた。

受信装置の光学フィルタの幅aA, 。R=l06str とし

た。現在知られている上層大気の粒子密度を第19図に示

15

Na D必国 λ・JBfuA 1言Wr -1 Joule=JKIO句 oto,. Iミト 10持, cro園』p叫h’.str-1 . !!

ゐ弓

JO /(}Q

掃 さ

第20図 NaCl=5890A)の共鳴散乱で期待される光電子数

18 zo

しておく(11)。

以下で各原子,分子について検

討を行なう。

Na-D線

この共鳴線は基底状態からの遷

移であり,地上 80~90kmに103

cm-3程度存在するので,第20図

のようにじゅうぶん観測が可能と

思う。最近 E,層の生因との関連

でNaなどの金属イオシが注目さ

れており,ロケットなどの観測も

あるが,データが少ないので共鳴

散乱による定常的観測データは有

効であろう。

OI*

太陽紫外線 Schuman-Runge

comt. (1300~11soA)によって

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Vol. 15 No. 77 March 1969

10' • Iト、orλ冒 7774A ミミWT= I JOU ト o.s悌,句 =l/XJ()ν$1,-1 ’ミ

F、.., 、回

、ミ103Sミも、、担~ ω 。、地ミ!02

ミを

、へき皇国司

10

/L /J()

(Km)

第21図 Cl(λ=7774A)の共鳴散乱で期待される光電子数

高度 lOOkm付近の 02は解離して OIとなり, lOOkm

以上では大気の主要成分となっている。 OI の粒子密度

は 1013cm-3で, 1112A共鳴線の低エネルギー準位は

準安定状態なので栂当の粒子密度が期待される。第21図

から 102~103cm-3 あれば観測はじゅうぶ’ん可能であ

る。

OIの分布は電離層F領域の電子密度に重要な影響を

与え,また OIの分布には解離作用のほかに乱流混合,

拡散,大気運動の力学的な作用が働くので,理論的な考

察にも不備な点が多く観測の意義は大きい。

N♂ 1 st positive band

高度 lOOkm付近で N2の密度は 1013cm-3,その

10-sが N2*状態にあるとすれば,〔N2*〕=108cm-3と

なり,第22図からじゅうぶん観測可能である。しかし

N2*の観測データがないので今後さらに検討を進めなけ

ればならない。

N2+1stne伊 tiveband

ロケット観測によって, 140kmで l03cm-3,200 km

で 104cm-3程度の粒子密度が明らかになっている。第

23図からは観測は可能だろうと推定される。 N2+ 1st

negative 3914 Aの輝線スベクトルの観測で怯冬期異常

現象があり,説明として Photoelectronの流入による

電離が考えられている。電子衝突の際の N2の電離,励

起断面積(12)は第24図のようなので, N2+とともに N2*

の励起も大きいと思われる。さらに N2*• N2+を共鳴散

乱で求めることでエネルギ一流入の機構を明らかにでき

113

~

Nz叫ゐtPositive(!, 0) ii・1912,4 ,きWr= /joule= 4.Jf X 1018 Photon I~

可=0.J%, O,,"=JX!O-"伽 'slr-1 ; 曽

匂#司1010

h

、在宅

冷同巳’

/L ”’ J() ー

泌さ帯

ρv (Km)

第22図 N2単安定状態 Cl=89t2A)の共鳴散乱で

期待される光電子数

N/ !st N<J日古階足旬mu ・ ふW7-/joule司 u1011 !'lzo!.a ! ~ミ

申=l.f必, e百『fXto-"c1'1'sb f ミ

" . '"' 、、1:! I~

i三ミ

/Lーーム一一」』8 /(}{)

議 主/J(}

(Kn)

第23悶 N2イオ,,, (』=3914A)の共鳴散百Lで

調侍される光電子数

るだろう。

03 Hartley band

03は中間閣のエネルギー収支にとって, 重要な成分

であるとともに,電離層 D領域でのイオγ化学反応,

特に負イオYの生成消滅に重要な役割を果しており,ぜ

ひ観測したい分子の一つである。 03は3原子分子なの

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114

c.s

-JJ

f

a

u

a

U

A

V

AM-

11i’au

t

耳、司、、将、

』U 』叫O 』"OOi A耳目UElectroι energy ( eY) I

第24図電子との衝突による N2の励起断面積!

01 Hartley Bqnd λ= uoo.s.日Wr= /Jou/il ,.

圃 1.24x (0” P~o{on

11=2.r弘

G"-1f'0111 Str-1

\ N•IO·

s

で共鳴線の詳細な構造は

今後計算することにし

散乱断面積 σ=1Q-19cm2

str-1として第25図に観

測に必要な粒子密度を求

めた。 03の分布は 30~

60kmで 1010以上の粒

子密度があり観測が可能

と思われる。 へ .

しかしながら 03の吸 をm

収が大きいのでオゾY層旨の下部だけの測定となる ]

だろうし,不明が多い。 l ti このほかに H,He金ミ

属イオシならびに負イォ コンが観測できるかもしれ ミ

ないが,次の報告にゆず

りたい。

第g章参考文献

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Atin;ospheres oi.the

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10 ;ti き JO0「畑J

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で期待される光電子数

電波研究所季報

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1083, 1965.

4. 観測装置の検討

4.1. レーザ光源

共鳴散乱を用いた大気観測レーダの光源として必要な

条件には

(1)単色性,指向性がよいこと,

(の出力が大きいこと, o

(3)高速繰返し送信が可能であること,

い)波長が大気による吸収が少なく,検出器の高感度

領域にあること,

(5)共鳴波長に同調可能なこと,

(ゆ単色性が優れていること,

(η 波長が安定であること

が挙げられる。(1)~(4)は普通の光レーダとして要求され

る条件で,(め~(ηは共鳴散乱の光源とし:c要求されるも

のである。ロケットや人工衛星に搭載して観測する場合

には,小型軽量であるじとが重要な条件になる。(ゅの単

色性というのは,共鳴散乱を能率よく起ーさせるための条

件で,光レーダとして要求されるよりも,きびしい.こと

を意味する。共鳴波長を探しデータを能率よくとるた

めには,波長が安定でなければならぬことはいうまでも

ないが,安定性と同調可能な性質は相反するところがあ

り,両者をともkこ満足させることがむずかしい場合もあ

る。

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Vol. 15 No. 77 March 1969

第5表 νーザの現状とその性能の大要

:-;下之と|気体日|固体日tt町時

発援周波数個 rCHz) 1~103 100~1011 1010~1012 ,、

発振モード数 1-10 10~く103 10向 1012

指向性 8(radian) 10-s~<l0-4 10-2~10・s 10-1

〈議W力出) 連続的

10-s~10-4 10”S~10 10・s-1

(…カ的〉 ご10・ 1os-1or くせん頭出 1os-1011 I 1~103

(1ね0・~1t.,,) .' 輝度温度 TWK) 1017~1025 T I 10•~1010

115

GHz/s以下にで、きるので,発振波長の安定化をくふうす

れば,現在のνーザ技術でもじゅうぶん実用できる。

レーザの現状とその性能の大要を第5表に,代表的な

レーザを第6表に示歩。

国体νーザは大出カパルスが容易に得られるのが特徴

である。発振スペクトル幅はかなり広い。これはレーザ

物質の鐙光スベクトル幅が広いζとや,発振中の温度上

昇のため,普通の共振器では非常に多くの軸モードが発

援するためであるdモードセνタタを使った単色化の

方法は,特にジャイアントパルス発振に有効で,数 GH

レーザは,一般に単色性,指向性がよく,大出力のパ • z/s以下にできる。

ルス発振が可能なので,普通の光レーダとしては最適で ルピ-~ーザと CaF‘2: ny2+レーザは,温度によつ

あるが,波長が固定されているので,一般の共鳴散乱の てスペタトルがシフトする。特にルピーの蛍光は第26図

光源としては使えなし、。しかし,発振波長と共鳴線がほ I に示すように 30~300°Kの範囲で sAもシフトするの

とんど一致しているものには,周囲条件(温度,磁界な で,温度調整による同調は有用である。ガラスレーザの

ど)や共振器のパラメータを変えることで微向調でき, スペクトルはかなり広い(50~t30A)ので, モードセ

モードセVPションによって,発振スベクトル幡を数 νクタを用いて徴問調できる。

第6表 レーザ発振器の現状(発表されているレーザ発振のうち主要なものをあげる〉

1. 固体レーザ

母体!?ォ引発問長!平高|動作!レーザ遷移| 特 色

A120a era+

Ba タラウ INd3+

γガラス |

Li-Mg-Al

SiOa

ガラス

CaW04

YaAls012

CaF2

Nd3+

Nd3+

Nd3+

Dy2+

ua+

Tm3+

Hoa+

* R.T.:室温

0.6943 (R1) R.T. バルス

0.6929 (R2) R.T. ,,~,レス

0.6934 (R1) 77 cw O. 7041 (N1) 77 -'~II〆7-

O. 7009 (N2) 77 -'~lv7'

1.06

R.1

1.06 77 -'~/v;7..

1.015 77 ,,~,レ7-

0.3125 77 パIレス

>1.95 77 .-~1v7'

I ~: ~:~:~ ~: ~::~ 1-:.~. I江|236 20 パルス

77 cw 26130 R.T. パルス

257 三二900 cw 224 77 パFレス

1.1153 20 パルス

27 cw 2092 77 ,,~,レス

2E(E)-4A2

2E(2A)-4A2

4F a11-4I1112

2E(E)ー1A2

4Fa12-4Fu12

2Fs12-2F712

6P712-8S1112

SI7-Sis

4Fa12-4I1112

4Fa12-4Iu12

SI1-SI3

4Iu12-4I912

2Fs12-2F712

SI7-SI3

Qスーパスイイタ1ッGあチW法りのに1より尖4ル頭ス出を力得1 MW~ 巨大, ることができる

|最……(附)同時発振が可能

常温で連続発振容易

H20による吸収がない

磁界により発振周波数の調整が可能

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116 電波研究所季報

2. 気体レーザ

発振〔μm波〕 長 励起方法 特 色タトル数

Ne He-Ne 0.5939~3.3913 28 衝突による励起伝達 最初の気体レーザ(1961)

Cs Cs 3.20, 7.18 2 光ポY ピング

Ne Ne 1.153~34.55 >lOO 電子衝突による励起 遠赤外に多数の発振線がある

Xe Xe 2.0261, 3.5080, 5.5754 33 同 上

Xe Xe-He 2.0261~1.85 23

電γ子の励衝同同起突によ上上るイオAr+ Ar 0.4545~0.5287 11 l利融ぴ批開発振可Hg•・ Hg-He 0.5677~1. 0583 4 0-2 02 0.3748~0.6721 6 向 上 大電圧大電流のパルス放電によo-3 02 0.3755, 0.3760, 0.5593 3 向 上 り発振c1-2 Cl2 0.5218, 0.5221, 0.5392 3 同上

Ne+ Ne 0.2358 向上 最短発振波長

CN- HCN 774 最長発振波長

N2 N2 1.2347~0.86邸 28 電の子励起衝向突によ上る分子)大電圧大電流パーより励起

co co 0.5591~0.6614 20

C02 N:rHe-C02 10.6 53 衝突による励起伝達 大出力,単一モードで発振

H20 H20 118.6 同 上 ク ,,,,

3. 半導体レーザ

物 発振〔μm波〕 長 |輔君|温(°K~l動 特 色

GaAs 0.8330~0.8360 0.2~30 4.2 パルス

InAs

lnP

Ga(As1・xPx)

re-SiC

4. 液体レーザ

種類母材

Methanol

Methanol

ゐ!ethanol

Methanol

Ethanol

Acetone

Dimethylformaide

Pyridine

Benzonitrile

Methanol

f 、

o:s4~0.85 0.2~30 77

0.900 1注.5 R.T.

0.853 ~5 77

3.15 <35~70 77

3.11~3.12 ~10 4.2

0.907 ~0.5 70

0.905 20

0.65~0.84 20~12 77

0.456 I <s R.T.

発 光

3, 3'-Diethylthiatricarbocyanine bromide

3,3」Diethylthiadicarbocyanineiodide

パルス

パJレス

cw

パJレス

cw

パJレス

cw

パルス

cw

最も一般的な半導体レーザ出力大

磁界により発振波長変化

レーザ波長(μ〉

l, l'-Diethyl-1-cyano 2, 2'-dic釘加cyaninetetrafiuoroborate

1, 1’ーDiethyl-1-nitro-4,4-diαrfocyanine tetrafiuoroforate

0.835

0.731

0.740

0.796 |巨大レーザ(ルピー〉

0.8051 向 上

向上

向上

向上

向上1,1’』Diethyl『・/'-acetoxy-2,2’-dieぽ・bocy姐 inetetrafiuoraborate Rbodamin B, G, 6G

)でポンプする0.8141

|〈数 MWの出力〉0.815'

0.821

0.822

0.797

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Vol.15 No. 77 March 1969 117

Dimethylammonium salt of tetrakis europium-ortho-chloro-benzoyl佐ifluoroacetonateEu (O-Cl-BTFA)4DMA

SeQCl2Nd3+

0.6119 常温で動作するキレート・レーザ

1.06

A

U

A

U

A

U

A

V

A

ν

6

0

4

8

2

J

3

2

for 2/J-伽 lon9Ru6y (l'.Ji/)=士= 0.124伽ーf

SepC•田副

==0.067A 7"Iト了

60電費 - ...

O乞 C--1:.0 2 4 6 8 10

Shift手rom42・'Kfluoresce庇ce,A

第26図温度によるルビー共鳴線の波長変化

気体レーザの特徴は,発振線が複数で,各発振線のス

ベクトノレは安定で幅が狭いことである。したがってプリ

ズムを共振器中に置いたりして,単一線スベクトノレをと

り出すことができ,適当なモードセレクタを用いて単一

モード発振の可能性も大きい。スベクトルが安定で中高が

狭いということは,一方ではそれだけ同調範囲が狭いこ

とを意味する。共鳴散乱の同調なしの光源として,被測

定成分と同種の分子またはイオYを用いたパルス気体レ

ーザを用いる提案(I) もあり, N2.N2+, OIの検出には

可能性がある。

半導体レーザは,発光効率が高く,小形軽量なので,

ロケットや人工衛星に搭載するレーダとして将来が大い

に期待される。単一素子では出力が小さいので,多数の

素子を並べて,同時に動作させて大出力を取り出すこと

が行なわれている。スベクトルは温度,圧力,電流,磁

界などで変化するので,広範囲に向調が可能である。発

振スベクトル幅はかなり広し最も鋭い GaAsでも常温

で 100A程度もある。発光部が数 μの層なので,回折

により広がりが20~30度にも及ぶが,光学系を用いれば

実用上さしっかえない。素子の現状では極低温への冷却

が望ましく,小形軽量という特徴が必ずしも生かされ

ず,素子の寿命が確立されていないなど多くの問題があ

るが,これは逐次解決されつつあり,実用になるのもそ

んなに遠い将来ではないだろう。

最近いろいろの有機色素溶液による各種の波長のレー

ザ発振が報告ω されている。これは波長分布が広し

その波長をかなり連続的に変えられるのが特徴である。

固体レーザ光で励起する場合,数MWのピーク出力で,

数十nsのパルス発振が可能である。発振のスベタトル幅

は相当広く数百Aにも及ぶ。発振波長は色素の濃度や,

共振器のパラメータを考えて同調でき,反射鏡にプリズ

ムや回折格子を用いると,数百 Aにわたって連続的に

同調できスベクトル幅も狭くなる。レーザ物質が液体な

ので,発振波長が不安定なことが難点である。

以上のことから,固体および気体レーザは一般の共鳴

散乱を用いたレーダの光源としては使えないが,発振波

長の安定化をくふうすれば,現在のレーダ技術でもじゅ

うぶん実用できる。パルス動作の半導体で・は必ずしも冷

却は必要でないので,普通の近距離光レーダとして実用

されており,素子の製作技術や発振技術が進み,単色性

の優れた発振が得られるようになれば,共鳴散乱を用い

た近距離光レーダとしても活躍することは間違いない。

4.2. 誘導ラマン効果によ:fl光の波長変換

(1) はじめに

分子における原子聞の結合は静的なものでなく,動的

であって各原子は振動している。たとえば2原子分子は

第27図のように伸縮運動をしている。したがって分子の

物理的な諸定数はその振動数叫で変化している。そこ

へ振動数曲。の光が入射してくると光に関する諸定数は

叫で変化しているので,入射光は叫で一種の変調を受

けて印。士叫なる側帯波を生ずる。この現象をラマン効

果という(第28図〕。

下側帯波をストークス線,上側帯波を反ストークス線

と呼ぶが,一般にはストータス線のほうが反ストークス

線よりもはるかに強く生ずる。

この性質を利用すれば光の波長を変換することができ

る。レーザのようなコヒーレンスのすぐれた単色光を入

射すればストークス線由。ー叫と入射光"' O とのビート

叫による分子の強制振動もコヒーレントになりストー

クス線はますます強くなるであろう。第29圏に分子振動

が急速に成長する様子を示した。しかもレーザ光をラマ

す二y 同γ“Jo

第Zl図分子運動

2えストザス繰ω。+Wrω。ω。-wr

ヌトー7ス為長第28図ラマy効果の突験

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118

入射光

却でdト子宇反動ぶ主上がる

第淘図

A ト-!17'線の成長

線円以川叫す

1

量,dma

J

V

Mo。の

f

Z

0

・か

roou

ν」

入射光o;君事L、ヒ主

第30図

入府光の強さi}-;.ある一主催左越主たヒさ 自己収束作用

第7表ヲマy,;.-フトの観測例

物 ヲマy,;.-フト(cm-I)質

ベYゼY C&H6 句

a

,Maa

--naaa宅

側2

O

N

E

Z目白

y

H

G

Y

y

レユ

1-プロムナフタ H:/

ピHジY CsHsN

13邸

鈎2土2

Vタロヘキサy CaH12

方解石 CaCOs

2852土1

1075

2171

4155 水素 H2

ンセル内に強くしぼってやるとき,その光の強さがある

値を越えると第so図に示すように,非線形効果によって

光は拡がることなく細いフイラメ Y ト状になってすす

み,ストークス線も急激に強くなる。これらの諸現象を

通常のイγコヒーレント徴弱光によるラマγ効果と区別

して誘導ラマン効果という。第7表に誘導ラマγ効果の

観測j例を示す(3)。

(の理論のあらまし

(a)分子振動ω

任意の分子振動はその分子構造によって決まるいくつ

かの独立な基本振動に分解できる。その基本振動の中に

ラマγ活性のものとがある。どのような型のものがラマ

γ活性となるだろうか。

まず分極を P,分極率を a,電界を E とすれば

電波研究所季報

~=aE く1)

と表わされる。ここで分子振動によって aが叫の周

波数で変化しているので平衡位置 Xoのところで展開し

その一次項までをとると

a=a:(お)+(~~-);04X

・=a:(Xo)+(者)為A側叫t, (2)

ただし X は分子内の座標である。

入射光を

合りaM 式内。

ω

、lp

s

句件

。vat

nLW

E

Z

E

材表で

(3)

P= {a(Xo)+ f ~)..,. A cos叫t)Eocos酎ot、0.4.I AO

=a(Xo cos 血0t+l(~主.) Acos 2¥aX/Xi 0

+ま(長)為Acos(曲。ー叫)t・ (4)

この第1項は周波数変化を受けない項であって Rayl-

eigh散乱に相当し,第2,第3項がそれぞれ反ストー

クス線,ストータス線に相当している。周波数変換の効

果が生ずすためには第2,第S項が消えないことが必要

である。このため分極率 aについては

(者)x=Xo*0 (5)

が要請される。

これを満足するのは各原子が分子構造の対称心に対称

な運動をする振動である。たとえば C02分子は炭素原

子Cを中心にして左右伺) -0 ..。ー

に酸素原子がならぶ直

線型の構造をもってお(b)『『O ・ーー。 り,第31図に示すよう

に三つの振動型があCC) る。このうちラマγ効

果を生ずるのは対称、振第31図炭酸ガ7'の基本振動

動(a)だけである。

(b)誘導ヲマン効果ω

(4)式で与えられる分極により生ずるストークス線,反

ストーグス線の電力は

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Vol.15 No. 77 March 1969

P-1=A·~ICE0 ・ E_1)2+(Eo ・ E_1)印'、

(Eo・E1)x cos (2ko-k-1-k1)

市ー仇}),

P1=-A·~竺!._ I (Eo・E_1)2+(品・E-1)白'、

(Eo・E1)x cos (2ko-k-1-k1)

山 一l判 1)〕

で与えられる。ここで Aはラマソ物質によってできる

定数であり, E,k, aは電界,波数ベクトル,位相を

表わし,添字 0,-1, 1はそれぞれ入射光,ストーグ

ス線,反ストータス線を示している。いま話を簡単にす

るため上式で入射光とストークス線のみがあるときは

E1=0として

P_1=A ・~竺L ・(Eo ・ E_1)2"'•

となり入射光とストークス線自身の強さに比例して増幅

される。そのため入射光の強さがある一定値(スレショ

8 スレ』

言。Jレ

え4単

告24玉

主ov o I 2 J 4

い'j.f)X/IJ2 (01n-'J

ピーム断面積は(叫ωわ)の順に小さくしてある

第32図ピームの太き,ラマYセルの

長さと旦νV" Jレドの関係

ルド)を越えるとスト

ークス線はひとりでに

成長してゆくと考えら

れる。実験日制ま,こ 4//////,77,7//~///.ノJ,,,i.l 「一一寸日のスレショルドと入射 ""-1' I Li I ’ ' ピームの太さおよびラ ~9,4 ルト ;rt : とヲマ沌Jレ ~t~

ルの長さとの関 溶液主主・ズ

係は第32図のような結 第お悶ラマ ,, vーザの例

(b)

<Cl

果が得られているω。

これをみると

(1)入射ピームの太

さが細いほどスレ

ショルドが低くな

る。

(2) ラマンセルの長さが長いほどスレショルドが低く

なる

ということができる。また第30図に示したような自己収

束作用が生ずるために必要な入射光の強さは

2

Rd一!

n一向

1

一6rs、、一C

一一一P

で与えられている∞。ここで均は屈折率の電界依存

度”=no+n~E2+…・・・の係数均を示す。第8表にこの

臨界値の例を示した。

119

第B表 自己収束作用に必要な入射電力

(6)

物 質 λ 射電力(MW)

二硫化炭素 CS2 0.2

ベYゼy Ce He 0.25

水 H20 1

空気 (1気庄〉 80

(100気圧〉 0.8

ガラ7o 4

方解石 CaCO a 4

ザ・ファイ7 20

(7)

(3)方法

制 1例として第33図のようなものが考えられる。す

なわち回転プリズムと可飽和吸収剤タリプトシアニンの

併用によるジャイアントパルスのνーザ光をレンズによ

ってラマγセル内にしぼってやり,ここで誘導ラマン効

果を生じさせる。セルから出てきた Rayleigh光と反ス

トークス線とを干渉フィルタにより除去し,ストーグス

線のみをとりだす。この場合ジャイアントパルスのピー

クとパルス時間幅が問題になる。ピークが大きいほどラ

マン出力は大きくなるのは当然であるが,時間幅があま

り短いとラマン出力がじゅうぶん成長しなくなると考え

られる。

(8)

(b) ラマシ物質を適当に選択した後,共鳴波長に正確

にあわせる finetuningはルピー・レーザ側で行なう。

すなわちルピーの発振波長は先に4.1で示したように,

温度によって変化するので,温度調節により tuningを

行なうことができる。

に) ラマジセルから出てきたストークス線は入射光よ

りもピームの拡がりが大きい。しかし誘導ラマジ光はコ

ヒーレγ トであって波面はそろっているので,レンズで

修正して平行ピームにできるであろう。

い)誘導ラマソ光の特徴

以上のようにして得られた誘導ラマシ光の特徴を略す

ると,

(a)入射光の強さがあるスレショルドを越えてから急

に生ずる。

ω 指向性が鋭い。入射光と相互に作用しあいながら

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120

成長してゆくので,入射光の方向から大きくはずれるこ

とはない。ただラマン物質として液体を使用する場合が

多いので,ラマγ光は入射光ほど指向性はよくない。し

かしラマン物質として気体を用いるときは密度が小きい

ため散乱が少なくなり,指向性はよくなると考えられる

が出力は小さくなる。

(C) スベクトルが鋭い。これはスベクトルの中心が増

幅作用を最も強くうけて場偏されてゆくにつれてますま

すエネルギーが中心に集中して半値幅が狭くなると考え

られる。

(@ 自然ラマY光に比して出力が非常に大きい。 10~

20%の変換効率とみてよい。なお第9表に N♂, N2+,

NO*, H, Kの共鳴波長とルピーνーザ光を入射光とし

た場合にラマγ光が共鳴波長に合致する物質を示した。

第9義各種物質の共鳴波長~,レピー νーザを使った

場合の対応するヲマY物質

選質物

Nゾl A3.E.•• BS.Eg

Nジ I X2.Eg+→A2n.

m c nue

、,JtAAU、JMwnω S(6 r、4A4( sr

HBh eEI FVQ一WE--

0必ωU 60噌目企

~~ AHunhu・03

mm

NO・l a4n1-+b4.E- I 8730~8応0I CHaCl (鈎55)

CHaCOH (1716)

H I 2s(2S告)-3p(2PD! ) 65筋 CeHe j8489 7 Yチ見ト-{I~

K I 4s(2S ! )-4p(2PD ! ) 7665 1-プロムナフタリ y(1368)

4.3. 光パラメトリvク発振

(1)概説

光パラメトリック効果は,角周波数が血和由仰向と

の三つの光が周波数条件

均=血.+叫

の関係を満たすときi媒質の二次の非線形分

極を介して相互に作用し合う現象である。こ

れを利用すれば,非線形分極の大きい物質に

強い光〈ポγピシグ光町〉をあてて,適当

な共振器系を構成すれば,周波数の異る二つ

の光(信号制a,アイドラ光的〉を発振させ

ることができる。共振器系のパラメータを変

えることにより,印.."'•は条件(め式の範囲内

で連続的に変えることができる。

句,印a,的の電力 Pp,P,, P;の聞には

P,/Pp=ー印,/c.ip,P;/Pp=ー,.,,;,均 (10)

の関係があり,出p→ω.または町→的への変

(9)

電波研究所季報

換効率の理論的限界が周波数の比で与えられる。これは

Manley-Roweの関係式と呼ばれ,非線形リアタタ γス

によって結合された周波数成分によって,より一般的に

成り立つ重要な関係である。

町, h 副tの伝搬ベクトルを kp,k., k;とすると,

発振条件から

kp=k.+k, (11)

が満たされるとき,発振のしきい値が最小になることが

わかる。帥式の関係は位相整合条件と呼ばれ,非線形光

学現象を能率よく起させるための重要な条件である。

光パラメトリッタ発振は(9)式と帥式を同時に満足する

ような周波数でのみ実現可能で,逆にこれを利用すれ

ば,広範囲の連続可変周波数の光発振器をつくることが

できる。

光パラメトリック発振を実現させるには,非線形定数

が大きく,広範囲の周波数帯域で吸収のない物質が必要

である。現在まで開発された代表的な非線形結晶とその

特性を第10表に示す。

ポンピング光源としては,出力が大きしできるだけ

コヒーレYトな光源が必要であり,レーザ光あるいはそ

の第2高調波(SH)が最適である。 SHは第10表に掲げ

た非線形結晶を使って発生させることができ,その変換

効率は KDPや ADP では 10%程度であるが,最近

BNNで, 100%の変換が実現されている。

位相整合の方法には次のようなものがある。第34図に

示すように,回aと的の光に対して,独立な共振器を構

成し,二つの共振器の方向を適当に選ぶことでω式を満

足させることができる(Crosトtype共振器法〉。非線形

結晶が単軸結品の場合には,三つの光の偏向を適当に選

び,伝搬方向を結晶の光学軸に対して適当な角度を選べ

第 10 表

非線形結晶 |非線形定制定波長〉|透過渡賊|義務総|文献

KH2PO• (KDP) dae*=l.00(1.06μ) 0.45~1.08µ 10%(1. 06ρ〉 ~申

NH4H2P04 CADP) ds♂=0.鈎土0.00(1.06) 0.41~1.08 h曲

LiNbOa ds1事=11.9土1.7(1. 06) 0.4~5 20 (1.06) (11)

Te dsi=(l.27士~/)×10-5 5 ~25 0. 006(10. 6) 。時帥esu(10.

Se du=(l.9士\~) xl0-7 0.8 ωω esu(lO.

AgaAsSs da1 *=30(1.15) 0.6~13 。申

KeLi4NbOa da1事=19.3土4(1.06) 0.4~5 。時

Ba2NaNbs01s (BNN) da2事=41.S土4(1.67) 0.4~5 100 (1.06) (11)

d-HIOs du”=20-¥t5(1. 06) 0.4~1.3 ω

*KDPの dae=(3土1)x 10-e esu (1. 15) c 1 >を 1~ したkきの相対値柿水晶の du帥=0.82土0.04(1.06)《2>を1としたときの相対値

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Vol.15 No. 77 March 1969

盈量

第34図位相整合方法の1例

ばω式を満足させることが

できる(複屈折法〕。その

他,屈折率の混度依存性

や,横方向電場による線形

電気光学効果を利用して位

相整合する方法もある。

(め光パヲメトリック発

振技術の現状と問題

レーザ出現の当初から,

理論的検討は数多く行なわれたが,実験的困難が大きか

ったため,実現されたのは比較的最近である。発振に成

功した当初はパルス光で LiNbOaをポンピγグして行

なわれていたが, 1967年 LiNbOa に比べ,可視光に強

く非線形定数も数倍大きい非線形結品 BNNが開発さ

れ,待望の連続発振が実現された。第11表に,現在まで

報告されたパラメトリッタ発振とその特性を簡単にまと

めておく。パラメトリック発振技術の当面の問題とし

て,変換効率の改善,向調技術の改良,パルス動作で・は

大出力化,連続動作では発振の安定化などがある。

(3)光パラメトリッタ発振光の性質と応用

パラメト Pッタ発振光はその原理から明らかなよう

に,次のような基本的性質をもっている。

(a) コヒーレγス,単色性,指向性がよい。

(b) 出力が比較的大きい。

(C) 周波数が広範囲にわたって連続可変である。

これらの性質から,パラメトリッタ発振器の将来はレ

ーザによって出現した新しい光の応用を,さらに飛躍的

に発展させることはいうまでもない。もちろんその一つ

に,共鳴散乱を用いた大気観測レーダの光源としての応

用も含まれる。ただパラメトリック発振がやっと可能に

なったという現時点で,実用上の問題をうんぬんするの

はまだ早いように恩われる。

4.4. 光検出と問題点

(1)概略

紫外線から近赤外領域での光計測を考えるとき,最も

低雑音,高感度,高利得であるものは,現在のところは

121

光電子増倍管(以下 P.M.と略す〉に優るものは見当ら

ない。したがって光検出素子として,この P.M.を用

いることを主に考える。入射光に対する P.M.の出力

は,入射光に比例したDC成分と電子放出などのゆらぎ

によるショット雑音成分(AC成分〉などを含んでいる。

光入射がしだいに徴弱になると, P.M.の光電陰極面か

らの電子放出は,時間的に個々に分離されてパルスが観

。測されるようになる。この状態を Singleelectron

event<2Blと呼んでいる。これら DC成分, AC成分,

Single electron eventを利用した光検出が可能なわけ

である。以下これらの方式,性質,問題点を示すことに

する。

(2)光検出の現状

(a)光電子増倍管の特性,検出素子 P.M.でいちば

ん問題になる雑音成分を大別すると,次のものが挙げら

れる。

( i) P. M.自体の暗電流,

(五) P. M.自体のショット雑音,

(iii) 背景光雑音。

微弱光では暗電流が主要な雑音成分(暗雑音)とな

り, P.M.の等価雑音入力(ENI)は,これでほとんど

決められてしまう。暗雑音(29】臼ω の主な原因は次のも

のである。

(i)光電陰極面からの熱電子放出,

(ii)電界放出電子。

中でも( i)の熱電子によるものが最も大きい。熱電

子による暗電流は,室温で~10-ISA,約 40。c~こ冷却す

s 11;地電面

(a)全電流,(b)ダイノー F

のみの暗電流. や)光電陰

極函からの暗電流による分

第お図

暗電流パル旦の波高密度分

第12表光電陰湿函の種類および波長による等価雑音入力(E.N.I.)の変化

光電陰極薗 Equivalent Noise luput. (E.N.l)

型〈材質〉 |よm誌|(聖職〉日~I 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 1.0 1.1

S-1 (Ag-0・Cs) 44 10-10 10-6 W 0.05 0.15 0.05 0.03 0.03 0.1 0.14

S-5 (Sb・Cs) 10 2.5×10-11 10-1•w 0.1 0.07 0.07 0.1 1

S-20 (Sb・Na必 Cs) 23 4x10-1s 10-12w 2.5 0.5 0.25 0.25 0.25 0.63 2.5 2 5

S-20 (Sb・Ne・K・Cs) 44 1.5x10-1• 10-13v 0.46 0.27 0.26 0.28 0.47 1 7.5

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HMM

11

ポ ユノ ピ ソ グ J‘-フ- メ ト リ ツ タ発振 文年

源|波(船長|動 作|出力パワー| ビーム特性 語線電|同調法|誤審著題意|波長幅|長;ti出議誌一|豪華光 献

CaW04: Nd3+ 0.53μ. ジャイアシ 6.7kW 2mmφ 0.97~1.15μ. single 3x 10-3 15W 1965 トパルス LiNb03 温度調整 c三o二;:ir;ent 0.2% 。。

レーザの SH (160GHz) (G.P.) (O. 2MN/cm2) 2~3xlo-3rad (O. 07μ.) rad (0.984μ.)

Nd3+レーザ 30~35 0.96~1.18 1966 0.53 G.P. 7~8’ KDP 複屈折法 三三1.5’ 5x103 0.03 帥

• SH MW/cm2 (0.22)

Nd3+レーザ 0.13~1.93 1966 0.53 G.P. lOOkW LiNb03 温度調整 103 1

の SH (1. 20)

CaW04: Nd3+ 0.68~2.3() 1967 0.53 G.P. 50kW LiNb03 複屈折法 50 0.1 伺

レーザの SH (1.68)

3xl03kW 復号屈気光折案法

1~1.08 single 1967 ルピーレーザ光 0.69 G.P. 4mmφ LiNb03 component 38xl03 1 倒

(2~町/cm2) 2.27~1.95 ζo.25A

YAlG: Nd 0.53 300MW 1968 c.w. BNN 温度整調 0.98~1.06 3×10-3 1 制

レーザの SH ( 5 GHz) (臨界値 45MW)

270kW 印 x103 22 1968 fレーピレーザ光 0.69 G.P. 2mmφ LiNb03 複屈折法 帥

630kW 41×103 6

Ndガラスレー lOkW 1. Sx 103 1968 0.53 G.P. LiNb03 36 制

ザの SH (臨界値 5kW) (0.96)

アルゴンイオン 1.15W 0.68~0.705 1968 0.5145 G.W. L剖b03混度調整 3cm-1 1. 5x10-3 0.13 制

νーザ (臨界値 410MW) 2.11~1. 90

表第

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Vol.15 No. 77 March 1969

1.0

量子効 。/

0.000/

|引法;J[>(,r"(汁

Au

0 0.2 o.4 fJ.6 0.3 10 12

(メ4冊 j

第36図陰極面材料の波長特性

ると~10-17Aと小さくできる。しかし陰極

面材料によっては冷却で・相対感度の減少(31)

(32)が起こるので,注意しなければならな

い。この倍電流ノミノレスの波高分布を第35図に

示す。め)の波高は一般に(C)に比して小さい。

(c)は波高大でPoi鎚on分布になっている。こ

れらの発生機構はし、まだ不明のところが多

い。しかしこの特性から適当な波高値以下は

波高弁別器で取り去ることにより入射光によ

る陰極菌からの電子のみを取り出すようにす

ることも考えられる。

また光電面積類によって雑音発生量も具

( D. C :哲氏)

(SDじ方式)

数者L

物・本

(占AL方式)

致苦し吻臥

( SSPじ方式〕

散ーきL物-!*-

る。第12表に光電面積類による ENIの変化の様子を示

す。第3.6図には光電面積類による分光感度特性(量子効

率で表わした〉を示しておく。

(紛 光検出方式としは,検出素子からの出力の各成分

のどれを主に用いるかで,

(i) DC法;DC成分を利用する。

(ii) AC法;検出回路の周波数帯域が狭いと光電子

のショット雑音などは出力DC成分の変動,すなわち

雑音となり, ENIを決める要素となるが,検出回路

の帯域幅を大にすると,雑音分とみられたものがパル

ス状になる。このパルスはその数,波高など帯域備に

よらなくなる。この雑音とみられた変動(ゆらぎ〉の

大きさが入射信号の大きさに関係する事実を利用す

る。すなわち AC成分を利用する。

(iii) Single photoelectron counting 法; Single

electron eventの範囲で、そのパルスをカウントする。

123

第37図各方式プロック図 cs:参照光源)

以上の(i)(ii) (iii)の方法に入射光を断続するチョ

ップと Lockin Amp.を組合わせた同期検波の方式を

同時に使用する組合わせが考えられている。以上を分類

すると,第13表(40)のようになる。第37図に各方式のプ

ロック図を示す。

アナログ方式;特に S即, SACC33l方式では背景雑音

が信号より大きいが,信号自体も大きい場合,またチョ

ップ周波数が高く取れる場合に有利である。 AC方式で

は,最小検知電流 I,,.が直線的に ITに効くので,陰

極面冷却で ITの減少は,微弱光検出に他の方式より有

効に作用する。第38図に PaoC34>らの行なった AC法

と DC法, SDC法の例jを挙げておく。明らかに AC法

の S/Nが優れていることがわかる。

ディジタル方式;この方式はドリフトの影響を受けに

くく,積分時間が長くとれることが最大の利点である。

またアナログ法に比し波高弁別レベルを適当にすれば

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電波研究所季報124

第臼表検出方式の分類

SDC. SAC. SSPCの最初の S=Synchronous(同期)の意 SBC.田PCの後の SPC=Singlephot田 l民 troncounting e:単位電荷 B:広帯域 Ampの帯域幅 μ:PMの雑音指数 b:低域迎波穂の帯域情 Is Z背景光による陰極電流

Ir :熱電子による陰極電流 ns z背景光による光電子パル見の割合 nr:熱電子バル見の割合 le:計数時間

ディジタル量検出法グ量検出法ロ7 ナ

Sin. le elec廿onpulseなる確率 95%のとき/SくO.leB

SSPC

光電子,りレ見成分

SPC

IsくeBμIs> eBμ

I~孟tc

一同一向J耳4 l子Ua+h)/J(ls+ゐ〉2y'ebμ v'Is+Ir 雲、lebμ 、Ils+ Ir

SAC

A. C 成分

AC SDC

D. C 成 分

DC

有効信号強度

最小検知信号電流

Ism またはバル見

Nsm

/,f

ミ奇車、v’ZF月q

nv ’’

FU

4

(崎 AC成分法

(b) DC成分法

(叫同期検波法

出力電流約 10-eA

第38図

AC成分法, DC成分

法.同期検波法の相違

州円

電I! I 正I(Q) ¥ Cb) i

『 L ~ 一一育一一両「

L一一__!_一一」O. / ,f /(} iJ 2() 2J J() 40

→ー・雑音計数牟, →→一信号喜十数孝一一司ti!~十教法の!;:;岬'.<! of mertt

一一・周期検波法のf;μmof剖 erlt

第39図同期検波法主同期計数法の波高分布

による Figureof meritの相違

れたところがある。 SSPC法の実験結果によると,信号

光による光電パルス数 S=l.lsec-1(入力 10-11w),

雑音による光電子パルス数 N=33.5sec-1 のとき, 12

分の計測時間で S/N=3.6に改善され, 30分で雑音阻

止能力 32dB,雑音に対し 1/1600の信号光を検出でき

た。以上 P.M.を用いた光検出法には,入射光強度,

背景光,測定時間,使用目的などにより,最適と思われ

るものを選ばねばならない。極微弱検出には, •SAC ま

たは SSPC法が最も有望である。

(3)光検出の問題点

デイジタル方式すなわち光電子計数法で

計数分布を実験的に求め,この分布の形により,その光

の性質またその光の伝搬途中の様子が推測できるであろ

う。伝搬途中の散乱などによる性質を知るためには,光

源となる光の性質,また検出素子の性質もじゅうぶん知

る必要がある。最近レーザ光の統計的性質の研究実験が

数多くだされその性質について多くのことがわかってき

た(37)(38)【39)。計測時聞をT,光の周波数の半値幅の逆

数(コヒーレシト時間〉 η とするとレーザ光の計数分布

の変化は

S/Nは,予想、(35) されたほどよくならなかったが, 10

倍ほどはよくなることが報告されている。また第6表の

有効信号強度からわかるように, DC成分法より AC成

分法は小さいとき有効であり,ディジタル法ではじゅう

ぶん Singleelectron eventになっているような信号強

度のとき,すなわち AC成分法と同程度またはそれ以

下のときに有効である。カウント数のバラツキ P1は,

パルス発生の確率を Poisson分布と仮定すると,

つn=Wm(11)/h11,

ザ:カウンタのゲート時間, n:lsecの光電子パルス

平均, w,:入射電力,可: P.M.の量子効率,時T が非

常に大きくできれば, P1を小にできる。耐~1 でも統

計的に処理することにより計数精度が上がる。 W;が大

になると叫が大となり, パルスを数え落す誤差を生ず

る。パルス発生確率を同様に Poisson分布とすると,

このときの計数精度 P2は,

P2=exp{一面/B),

B:カウYタを含む全体の帯域幅,したがって B を

大にすれば P2を大にできる特徴がある。第39図は

Arecchi <36>らの行なった SDC法, SSPC法の波高分

布による Figureof merit と雑音計数率,信号計数率

などを示す。ある波高値では .SSPCが SDCにより優

P1=l/、1--;;;,

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Vol.15 No. 77 March 1969

(i) T《 Tcで分数は n〔l+n〕,

(ii) T》 Ta で長〔l+n;(oo)/T〕・

(i〕の分数は第1項は Poisson分布の分散に一致,こ

れは光が完全に独立粒子と考えたときのゆらぎ,第2項

は光の波動性からくるゆらぎ,このような分数をもっ分

布は Bose-Einstein分布といわれるもので,振幅が

Gauss分布をしている波である。また(ii〕の分数の第

2項はレーザ光以外では一般に非常に小さい。したがっ

てこの計数分布は Poisson分布から第2項の分だけず

れた分布になる。このように T と η の大小,また光

の性質,たとえばレーザでは単一モード発振か多モード

発振かで,またモード間結合がどれほどであるか,発振

が thresholdよりじゅうぶん高いところで行なわれて

いるかどうかなどで計数分布も異ってくる。このように

光源の性質がさらに詳しく判明すればこれを光源として

用い,ある物体などの散乱光の計数分布などの測定か

ら,散乱体の性質も明らかになるであろうことが期待で

きる。検出素子としての主流はいまのところ P.M.で

あるが,これとても微小測光に当っては次のような問題

に直面している。

(1)暗雑音を減少すること,

(2)量子効率の増大をはかること,

(3)再現性(安定化〉を高める,

(4)波長領域の拡大(特に長波領域),

(5) ダイナミッタレシジの鉱大。

(1)の暗雑音の機構の解明が行なわれれば,その影響の

軽減も可能になるであろう。光電子と熱電子の波高弁別

での雑音軽減は初め予想されたほどでなく,その両者の

初速度分布を確かめることは有用な情報を与えると恩わ

れる。 P.M.のほかには固体素子の有効利用であるが,

これらの研究開発はまだ手をつけられ始めたばかりであ

る。国体素子すなわち内部光電効果には,光起電力効

果,デンバー効果,光電磁効果などがあり,紫外,可視そ

して赤外など分光感度もいろいろの物質がある。光伝導

物質などでは量子効率約1と P.M.の約10~30%に比

し入射光はすべてのキャリヤに変換される。したがっ

てなんらかの方法で, S/N比の高い増倍過程がみつか

れば, Singlephoton検出に使用できるが,今後の研究

に待たねばならない。

光検出方式としては,極微弱光検出では,アナログ法

で ENIに近い信号(10-10A ぐらしうを測定するより

もデジタル法によるほうが技術的にはるかにらくであ

る。また計数方式と外部回路と確率現象の関係を明らか

にすることにより,情報の抽出がより多く可能になるで

あろう。また得られたデータは電子計算機に直結して,

125

その分布の形や,平均,分数など,刻々判明するような

システムが必要になるであろう。またいままでの殻にと

らわれず,新しい方式の研究開発が期待される。

以上光の直接検波法についての問題を取ら上げてみた

が,このほかに光混合による検出方式,また量子移相を

利用したもの,量子増幅器を直接検波の前に用いる方法

など,レーザの安定化,向調可能なレーザ発振などの開

発が待たれるのである。

第4章参章文献

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5. 結 言

上層大気の原子分子の共鳴スペクトル構造と散乱断面

積の詳しい検討の結果, Na,0, N2, N2+, NO, 03な

どで共鳴散乱の観測が可能なことが明らかになった。

しかし観測を成功させるには, νーザ光の安定発振,

レーザ光の波長変換など,これから解決しなければなら

ない多くの問題が指摘された。また共鳴散乱の性質につ

いても計算から得られた多くのパラメータを室内実験で

確かめてゆかねばならない。

ここ 1, 2年の聞に, Rayleigh散乱や Raman散乱

を利用した分光分析の研究,開発が盛んであり,共鳴散

乱を利用した分光分析方法の開発も重要と思われる。特

に今回は検討しなかったが,小型軽量の共鳴散乱観測装

置はロケットや人工衛星搭載用質量分析装置として期待

される。さらにレーザ光の波長変換技術は光通信を始

め,レーザ応用の分野に寄与するところ大と信ずる。

最後に本稿をまとめるにあたり,終始こ、指導いただい

た通信機器部・川上部長並びに適切な助言をいただいた

電波部・松浦主任研究官に感謝します。

1111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111 I I