軽度発達障害のある児童への教育的支援に関する一...

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-1- 軽度発達障害のある児童への教育的支援に関する一考察 防府市立中関小学校 教諭 研究の意図 今後の特別支援教育の在り方について 終報告 (特別支援教育の在り方に関する調 )」 」) 査研究協力者会議 2003.3 以下 最終報告 によれば、LD、ADHD、高機能自閉症等 により学習や生活の面で特別な教育的支援を 必要とする児童生徒数は、通常の学級に在籍 する児童生徒の6%程度と考えられることが 示されている( 表1表1 最終報告で示された割合 6.3% 学習面か行動面で著しい困難を示す 4.5% 学習面で著しい困難を示す 2.9% 行動面で著しい困難を示す 1.2% 学習面と行動面ともに著しい困難を示す また、これら軽度発達障害のある児童生徒 については、これまでその定義、判断基準が 明らかでない等の理由から、学習や生活上の 困難を抱える子どもの早期発見、専門家等と の連携による適切な指導体制の確立等の十分 な対応が図られてきておらず、その教育的対 応が重要な課題となっている。 さらに「最終報告」の今後の特別支援教育 の体制に関するイメージ図の中でも 「義務教 育段階における特別支援教育の対象は、全学 齢児童生徒全体の約7~8%と推計」とある 。そこで、本研究では通常の学級に在 図1籍する小学生のうち、発達障害の診断を受け た児童だけでなく、その他の児童にも対象を 広げて学習面や生活面での困難な点を考えて いきたい。そのことで、それらの児童への教 育的支援の方法を探りたいと考える。 なお、最終報告でも低年齢段階からの適切 な指導が重要と言われているので 下学年 ~3年生)の児童を対象として研究を進める ことにした( 図2図2 特別な教育的支援を必要とする児童 特別な教育的支援を必要とする児 軽度発達障害のある児 図1 今後の特別支援教育の在り方 LD、ADHD等で特別に支援を 必要とする児童は通常の学級 に6%程度在籍 現状 特殊教育体制 (障害の程度等に応じ特別の場で指導) 全学齢児童生徒の約1.5% 障害のある児童生徒の教育的ニーズを的確に把握し、 柔軟に教育的支援を実施) *義務教育段階における特別支援教育の対象は全学齢児童生徒全体の約7~8%と推計 特別支援教育体制 今後の基本的な考え方

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軽度発達障害のある児童への教育的支援に関する一考察

防府市立中関小学校

教諭 八 木 純 子

1 研究の意図

今後の特別支援教育の在り方について 最「 (

終報告 (特別支援教育の在り方に関する調)」

、 「 」)査研究協力者会議 2003.3 以下 最終報告

によれば、LD、ADHD、高機能自閉症等

により学習や生活の面で特別な教育的支援を

必要とする児童生徒数は、通常の学級に在籍

する児童生徒の6%程度と考えられることが

示されている( 。表1)1

表1 最終報告で示された割合*

6.3%学習面か行動面で著しい困難を示す

4.5%学習面で著しい困難を示す

2.9%行動面で著しい困難を示す

1.2%学習面と行動面ともに著しい困難を示す

また、これら軽度発達障害のある児童生徒

については、これまでその定義、判断基準が

明らかでない等の理由から、学習や生活上の

困難を抱える子どもの早期発見、専門家等と

の連携による適切な指導体制の確立等の十分

な対応が図られてきておらず、その教育的対

応が重要な課題となっている。

さらに「最終報告」の今後の特別支援教育

の体制に関するイメージ図の中でも 「義務教、

育段階における特別支援教育の対象は、全学

齢児童生徒全体の約7~8%と推計」とある

( 。そこで、本研究では通常の学級に在図1)

籍する小学生のうち、発達障害の診断を受け

た児童だけでなく、その他の児童にも対象を

広げて学習面や生活面での困難な点を考えて

いきたい。そのことで、それらの児童への教

育的支援の方法を探りたいと考える。

なお、最終報告でも低年齢段階からの適切

な指導が重要と言われているので 下学年 1、 (

~3年生)の児童を対象として研究を進める

ことにした( 。図2)

図2 特別な教育的支援を必要とする児童

特別な教育的支援を必要とする児童

軽度発達障害のある児童

図1 今後の特別支援教育の在り方

LD、ADHD等で特別に支援を必要とする児童は通常の学級に6%程度在籍

現状

特殊教育体制 (障害の程度等に応じ特別の場で指導)

全学齢児童生徒の約1.5%

(障害のある児童生徒の教育的ニーズを的確に把握し、  柔軟に教育的支援を実施)

*義務教育段階における特別支援教育の対象は全学齢児童生徒全体の約7~8%と推計推

特別支援教育体制

今後の基本的な考え方

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2 研究の内容

(1) 児童の学習や生活上での困難な点

「最終報告」の中の「通常の学級に在籍す

る特別な教育的支援を必要とする児童生徒に

関する全国実態調査」で 「知的発達に遅れは、

ないものの、学習面か行動面で著しい困難を

持っていると担任教師が回答した児童生徒の

割合」は、 のとおりである。学習面や行表1

動面で困難を示す児童は、児童の側から言う

と「学習面や行動面で困っている状態」であ

る。つまり児童は困り感を持っているのであ

る。児童は困り感を感じつつ学校生活を送っ

ているものと考える( 。図3)

図3 困り感

佐藤(2003)は、困り感について次のように

述べている 授業参観や 学級担任による 気。「 、 『

になる』子どものチェックから、担任の目か

ら見て『気になる』子どもがたくさんおり、

多い所では、クラスの2割以上に達した 『気。

になる』子どもの中には、発達障害が疑われ

、 、る子ども 家庭的なしんどさを抱える子ども

教室を居場所にできなくなり始めた子どもな

ど様々な子どもがいて、教師との関わりを求

めていた。どの子にも同じように手をかけて

やりたいという担任の思いが伝わってきた。

担任が『気になる』という子どものほとん

どは、一斉授業のときに、周りの子どもと同

じように活動することがなかなかできないも

のの、ちょっとそばについていてやれば、そ

れなりに頑張って授業についてくる子どもで

教師

困難を持っているな

困ってるよ

児童

ある。このような子どもは、子どもの側から

『 』すると学校生活の諸々の場面で 困っている

子どもだと言えないだろうか。障害のある子

どもに限らず、教室に『気になる』子どもが

、 『 』いた場合 まずはそうした子どもの 困り感*2を担任は感じ取ってやる必要がある 」。

この困り感への支援は、どのようであれば

よいのだろうか。佐藤(2003)は、 のよう図4

な教育モデルを提唱して、困り感への支援の

在り方を述べている。

担任は、まず、児童の困り感を感じ取らな

ければならない。児童の中には、自分が困っ

。ていることをうまく表現できない児童もいる

だから、教師が気付いていく必要がある。支

援はそこから始まるのである。

また、困り感の中には気付きやすいものと

気付きにくいものがある。軽度発達障害が要

、 、因となっている困り感のうちでも 立ち歩き

エスケープ、人間関係のトラブル、パニック

などには気付きやすいが、自分が困っている

、ことをうまく表現できない児童もいることや

困っていることにすら気付いていない児童も

いることを念頭に置いて児童の困り感を感じ

取っていく必要がある。

困り感を感じ取ったら、児童が学習・生活

上、どう困っているのかを詳しく把握し、ど

のような支援が有効か見立てる。そして、実

際に支援を実行していくのである。

児童の困り感をしっかりと受け止め、より

適切な教育的支援の内容や方法を見立ててい

くには、何がその困り感の要因になっている

のかという視点が必要だと考える。そうした

上で、適切な教育的支援を行っていかなけれ

ばならない。

*2図4 教育モデル

困り感 見立て 教育的支援

(学習・生活上どう困っているか)

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佐藤(2003)は、困り感の要因には のよ図5

うに、発達障害、心理・情緒的なもの、家庭

の問題など様々なものがあると言っている。

*3図5 様々な要因による子どもの困り感

この研究では、困り感の要因のうち、軽度

発達障害に起因すると考えられる困り感に加

えて、小学校生活の上で児童の困り感の大き

な要因になっていると考えられる聴覚提示に

よる理解力の弱さに起因すると考えられる困

り感、注意機能の弱さに起因すると考えられ

る困り感を取り上げ、その支援方法を探りた

いと考える( 。図6)

図6 困り感の要因と支援

(2) 「困り感」への支援

ア 発達障害が要因となっている困り感への

支援

(ア) 軽度発達障害

発達障害は 「DSM Ⅲ Rにおいては精神、 - -

薄弱、自閉性障害、言語障害、学習障害とし

て一括され、その共通特徴は認知的・言語的

家庭の問題 心理的・情緒的問題

言葉の問題(外国人支援)

人権・差別の問題

発達障害の問題

人権

言葉

家庭

聴覚提示による理解力

発達障害

注意機能

困り感

支援

情緒・心理

様々 な要因

その他

・運動的・社会的技能の獲得の障害と規定さ

れている。つまり、発達障害児は通常の環境

では、知的能力や言語能力や運動能力や社会*4的能力を獲得できないことを特徴とする 」。

また、子どもに固有の精神医学的障害で通

常、幼児期・小児期または青年期に初めて診

断される障害とされる。そして、発達障害の

主なものとして、知的障害、広汎性発達障害

(自閉症 、高機能広汎性発達障害(アスペル)

)、 ( )、ガー症候群・高機能自閉症 学習障害 LD

注意欠陥/多動性障害(ADHD)などがあ

る( 。図7)

発達障害のうち、軽度発達障害は、知的障

害が「軽度」で、精神遅滞(IQ70以下でな

い)とされるものである。

安達(2003)は、軽度発達障害について次の

ように言っている 「軽度発達障害とは、知的。

水準がIQ70前後から標準、または標準以上

でありながら LD 学習障害 ADHD 注、 ( )、 (

意欠陥/多動性障害 、HFPDD(高機能自)

閉症、アスペルガー障害、特定不能の広汎性

発達障害の高機能群 、発達協調性運動障害と)

いった発達障害を抱えている状態を言う。そ

の発達障害の重症度がきわめて高い場合もあ

るから 『軽度の発達障害』という解釈はまっ、

たくの間違いである。ここでの『軽度』とは

あくまでも知的障害の程度を指しているだけ

である。上記の発達障害はすべて中枢神経系

(脳)の何らかの障害が原因であり、親の育

て方などで起こるものではない。しかし、人

図7 軽度発達障害

学習障害

ADHD

軽度の自閉症

軽度の知的障害

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生最早期から障害の影響があるために、発達

の道筋が歪められる可能性はある。故に、早

期からの適切な支援によって二次的に起こる

発達上の諸問題をできる限り回避することが*5必要である 」。

以上のように、知的障害が軽度であるが中

枢神経系の何らかの障害が原因で、通常の環

境では知的能力や言語能力や運動能力や社会

的能力を獲得できないという軽度発達障害の

特性を十分に理解して適切な支援をしていく

ことが困り感の軽減につながると考える。

(イ) 軽度発達障害が要因となっている困り感

、 、佐藤(2003)は 発達障害のある子どもには

。行動上・発達上に共通した特徴が認められる

そしてそれが、子どもの学習場面や生活場面

である程度典型的な「困り感」を子どもにも

たらすと言っている。そして 「同じことをし、

たい。でも、できない困り感」と「絶えず不

安ととまどいを感じている困り感」を取り上

げている。

(ウ) 発達障害のある児童の困り感を軽減する

ための支援

最終報告での、ADHD、LD、高機能自

。閉症等の指導と支援の方法を にまとめた図8

それを受けて、軽度発達障害のある児童への

支援方法を探り、通常の学級における支援の

手だてを考え、実践した。

①担任による支援

まず、担任による支援としては、困り感を

抱える児童との信頼関係を結ぶことと学級集

。 、団を育てることが大切である そうした上で

クラスの仲間の中での育ちを保障していくこ

とが、該当児童の成長にもその他の児童の成

長にもつながっていくのである。

a児童との信頼関係を結ぶ

自分は、大事にされているんだという実感

子 ど も と の 信 頼 関 係 を 結 ぶ 学 級 集 団 を 育 て る

困 っ て い る こ と に適 切 な 配 慮 を す る

ク ラ ス の 仲 間 で の育 ち を 保 障 す る

大 事 に さ れ て い る 実 感 を 持 た せ る

本 当 は 授 業 に 参 加 し た

う ま く で き な い も ど か し さ 同 じ こ と を し た い 、さ り と て 無 理 は で き な い

A D H D

L D

発 達 障 害 に 共 通 す る 困 り 感

同 じ こ と を し た い 。   で も 、 で き な い 。絶 え ず 不 安 と と ま ど い を 感 じ て い る 。( 相 手 の こ と を 理 解 す る こ と に か か わ る ハ ン デ ィ を 感 じ て い る ) ・ 相 手 の 気 持 ち や 意 図 が 読 み と れ な い ・ こ と ば の 意 味 に と ま ど う

学 級 担 任 に      よ る 支 援

補 助 者 が 加 わ っ た個 別 支 援

・ 能 動 的 な 学 習・ 課 題 を ス モ ー ル ス テ ッ プ に す る・ 即 時 フ ィ ー ド バ ッ ク す る・ 繰 り 返 し 行 う・ 視 覚 優 位 型 指 導 、 聴 覚 優 位 型 指 導・ 継 時 処 理 優 位 型 指 導 、 同 時 処 理 優 位 型 指 導

集 中 時 間 の 配 慮・ 指 導 目 標 を 絞 る・ 多 感 覚 に 訴 え る 指 示 や 提 示・ 課 題 の 見 通 し を 知 ら せ る・ 短 い 言 葉 で 個 別 的 な 指 示 を す る( 受 け 入 れ や す い 情 報 提 示 、具 体 的 で 理 解 し や す い 情 報 提 示 )

・ 短 い 言 葉 で 個 別 的 な 指 示 を す る( 受 け 入 れ や す い 情 報 提 示 、具 体 的 で 理 解 し や す い 情 報 提 示 )・ 環 境 の 構 造 化 の ア イ デ ア を 取 り 入 れ る こ と( 見 通 し が も て る 工 夫 や 、ケ ー ス に よ っ て は 個 別 的 な 指 導 がで き る 刺 激 の 少 な い コ ー ナ ー や 部 屋 の 活 用 等 )

A D H D  L D

    高 機 能 自 閉 症

補 助 者 が加 わ っ た個 別 支 援学 級 担 任 に

よ る 支 援

高 機 能 自 閉 症

図8 軽度発達障害のある児童への支援方法

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を持たせ、この先生なら必ず味方になってく

。れるという信頼関係を結ぶことが重要である

日々の、その時々の困り感に適切な配慮を

し、手だてを講じることが信頼感を得ること

につながる。パニックになったときは、そば

に寄り添って、じっくり話を聞くなどの配慮

が有効である。

b学級集団を育てる

やる気のある意欲的な集団に育てることと

該当児童に対する肯定的な理解を深めるこが

大切である。

やる気のある意欲的な集団であれば、発達

障害のある児童の困り感をプラス思考でとら

えることができる。温かく包み込む方向に向

かうことができる。たとえ、パニックになっ

たり、離席があったりしても、落ち着いて学

習に取り組むことができる。

また、該当児童に対する肯定的な理解を深

めることについてであるが、発達障害のある

子どもの困り感はどの子でも多かれ少なかれ

体験したことのある困り感である。

例えば 「同じことをしたい。でも、できな、

い困り感」では、運動会でのダンスがうまく

踊れない、楽器がうまく演奏できない、他の

友達は算数セットの片付けが終わっているの

に自分は手間取っているなどである。

また 「絶えず不安ととまどいを感じている、

困り感」では、算数の問題がよくわからなく

て先生に質問されたらどうしようかと算数の

時間中ずっと不安な思いをする、運動会の練

習でどこに並ぶのかよく分からなくてとまど

信頼関係を結ぶ

学級集団を育てる

クラスの仲間での育ちを保障

ゆとりのある柔軟な指導計画を立てる

個人のよさを生かす

クラスでの承認感を持たせる

う、ルールがよく分からないまま遊びに参加

して友達に文句を言われて困るなどである。

このように、児童の身近には共感できる例が

いくらでもある。だから、いつもこんな思い

をしていることを分かって欲しいというよう

なことを話題にして、該当児童に対する肯定

的な理解を深めていくことが可能である。

cクラスの仲間での育ちを保障する授業実践

算数科での授業実践を例に述べる。柔軟性

のある指導計画を立て、個人のよさを生かす

こと、クラスでの承認感を持たせることをポ

イントにした支援を行った( 。図9)

指導案の一部を下に示す。

まず 「こだわり」による困り感への対応を、

算数科学習指導案(一部)

1 単元名 計算の順序

2 単元について

乗法の結合法則を扱うことによって、乗法

の理解を深めるとともに、変量に着目して解

決する思考法のよさに気付くことのできる単

元である。乗法の順思考を組み合わせた3要

素2段階の問題のうち□×a×bの型の問題

を扱うがこれを解くには次の2種類の方法が

ある。①((□×a)×b) ②(□×(a

×b))

3 指導にあたって

何倍の何倍かを考える時に、大きさや高さ

の変化がイメージしやすく、児童の関心も高

い○○(キャラクター名)を登場させる。こ

れにより、3要素の関係がより具体的にとら

えられ、何倍の何倍という抽象的な考え方に

気付きやすくなると考えた。

4 単元計画

全(4時間+1時間)

第1次…2時間

第2次…2時間

※第1次と第2次合わせて4時間であるが、

児童の困り感へ柔軟に対応できるようゆと

りの1時間を設ける。図9 クラスの仲間での育ちを保障

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考えた。

(省略 も省略)図11

dユニバーサルデザインの利用

障害のある子どものために考案された指導

法は、その他の多くの児童の困り感の軽減に

も非常に役立つと言われている。例えば 「わ、

かりやすい指示を出す 「授業に見通しを持」、

たせる」などのユニバーサルデザインの利用

である。

授業に見通しを持たせるために、次のよう

な支援を行った。担任は授業の始めに、1時

間の流れを示す。例えば 「今日は、まず、1、

番目にひらがなの『ふ』を勉強して、2番目

に『ほ』を勉強するよ 」というように黒板に。

1時間の流れを示していく( 。当初、1図11)

時間の流れを五つの計画で示すことも考えた

が、児童にもわかりやすく、担任にも負担に

ならないように、三つの計画で流れを示すこ

とにした。

担任は、内容を示すことと併せて時計で時

間配分も示す。担任が、学習内容を順に板書

する時、該当児童以外もその方を向いて、真

剣に見ていることが観察された。軽度発達障

、害のある児童のために始めたことであったが

他の児童も黒板に示された計画と時計を見比

べながら、見通しをもって学習を進めている

様子が観察された。

図11 見通しを持たせるための支援

②補助者が加わった支援

授業に見通しを持たせるとき、個別にもっ

と具体的な計画を示したり、評価しながら進

。めていくと児童は安心して授業に取り組める

は個別に補助者が支援するためのカー図12

ドの例である。1時間の流れを担任が示した

ら、補助者は個人の様子を見ながら個別の目

標と時間配分を設定する 「短い針の11から2。

までは頑張る。できたら自由帳ができるから

頑張ろう 」などと計画を立てていく。他の児。

童より細かいステップと「ごほうび」的なも

のを取り入れて励ましていく。ごほうびは、

大好きな自由帳へのお絵かきなどにした。課

題が達成できたら、補助者がシールを貼って

評価を目に見える形にする。課題達成に至る

までにも頑張っていたら、シールを貼って励

ますという支援も効果的である。

図12 補助者が個別支援するためのカード

イ 聴覚提示による文章の理解力の弱さが要

因となっている困り感への支援

(ア) 聴覚提示による文章の理解力の弱さが要

因となっている困り感

小学校の生活では口頭で説明されたり、指

示が出されたりすることが多い。聴覚提示に

よる文章の理解力の弱い児童にとっては、た

いへんな困り感となっていると考えられる。

そこで、児童の聴覚提示による文章の理解

の特徴を明らかにすることで適切な支援方法

が探れるのではないかと考え、理解度テスト

を使って児童の聴覚提示による文章理解の力

の実態を調べることにした。

(イ) 聴覚提示による文章を理解する力の測定

方法

理解度テスト(八木 2000)は、Bloom(19

56)の理解度レベルを参考にして作成した問

題であり、理解度を測る問題を作成して実施

1 0月 4 日 1 じか ん め

1 1 ~ 21

3~ 5

6~ 8

じ ゆ う ち ょ う

じ ゆ う ち ょ う

よ くが ま ん し たね

1の ス テ ップで の課 題 達 成 シー ル

途 中 で の 励 ま しや 賞 賛 の こ とば

 時 間 配 分課 題 途 中 で の 賞 賛の シー ル

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し、小学生の「聞く力」つまり「聴覚提示に

よる文章理解の力」の実態を明らかにするこ

。 、とを目的としたものである 熊谷ら(1994)は

大学生を対象に行った文章理解の研究で、理

解の水準について次のように述べている。

理解の水準には、様々なものがある。

Bloomは、次のような6水準の認知領域水準

の考えを提唱している。これらはレベルが上

がるほど高度な処理作用を必要とする。

・レベル1「知識 knowledge :事実に関す」

ること。ここで定義される「知識」は、個別

的なものや一般的なものの想起、方法やプロ

セスの想起、パターンや構造ならびに背景の

想起を含む。このような想起は、ただ単に心

の中に適切な材料を思い浮かべるといった程

度のものでよい。記憶という心理的プロセス

を最も反映するものである。

・レベル2「理解 comprehension :(1)変換」

(2)解釈(3)外挿:コミュニケーションから意

味を汲み取ること。これは、広い意味での理

解の最も低いレベルのものであり、伝えられ

たことが分かり、他の素材と関係付けること

なく、あるいは暗示的な意味を汲み取ること

なしに伝えられた素材や観念を利用する。

・レベル3「応用 application :情報や原」

理を用いて問題解決を図ること。特定の具体

的状況において、抽象概念を用いること。一

般的な観念、手続き上の規則、一般化された

方法などの利用の形をとる。また、記憶して

、おいて利用しなければならない技術的な原理

理論、観念もある。

・レベル4「分析 analysis :一つのコミュ」

ニケーションを構成要素あるいは部分に分解

し、諸観念の相対的階層性や表明された観念

相互の関係などを明らかにすること。このよ

うな分析によって、コミュニケーション自体

を明らかにし、それがどのように構成されて

いるかを示し、その効果を説明できる。

・レベル5「総合 synthesis :より大きな」

構造をとらえること。要素や部分を結合して

一つのまとまったものを構成すること。これ

は、断片、部分要素などを操作するプロセス

と、以前には明白な形で表されていなかった

パターンや構造を構成するために、それらを

配列し、結合するプロセスを含む。

・レベル6「評価 evaluation :素材や方法」

の価値を目的に照らして判断すること、ある

いは、選択された又は記憶された基準との関

係で素材を評価することである。

ある文章課題についてこれらの認知作用の

どの水準までを解決できるかを知ることは、

その文章をどの水準で理解できているかに依

存すると考えられる。本研究でも「理解」の

視点をここにおくが このことで小学生の 聞、 「

いて話を理解する力」つまり「聴覚提示によ

る文章理解の力」を明らかにできるものと考

える。

課題となる文章は 『声とことばの会』が19、

94年に実施した小中校生の聞き取り能力に関

する調査報告の聞き取りテスト問題の5,6

年生用A問題「図書委員からのお知らせ」で

ある 「図書委員からのお知らせ」は、校内放。

送的内容で、総字数213字8文である。

理解度を測るために、予備調査をもとに次

のようなテストを用意した。

予備テストでは、当初Bloomのいうレベル1

からレベル6までを意図し、さらに、レベル

2内の細分化も試みたが、この材料文におい

ては、適切に(厳密に区分して)作成するこ

とが困難であったのでレベルⅠ、レベルⅡ、

レベルⅢの3つの水準とした。レベルⅠは、

ブルームのいうレベル1「知識」に、レベル

Ⅱはレベル2「理解」に対応し、レベルⅢは

レベル3~6の 応用 分析 総合 評「 」、「 」、「 」、「

価」に対応するものとした。問題数は、10問

で、レベルⅠとレベルⅡは3問ずつでレベル

。 、Ⅲは4問からなっている 回答は多肢選択法

再生法、正誤判断法、自由記述法からなって

いる。各問1点とした。レベルごとに正答の

合計点を求めて、それぞれのレベル得点とし

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た。

①実施方法

クラス単位で調査を行った。児童は通常の

座席に着いた状態であった。課題文は、次の

ような方法で提示した。調査者が、約1分20

秒かけて1回読み聞かせた。

②調査期間

1999年の2月~3月

③被験者

小学校4,5,6年生、162名。

4年67名、5年48名、6年47名

④課題文の提示

「これから、聞き取りのテストをします。

解答用紙を配ります。お話は1回しか言いま

せん。よく、聞いてください。お話の後、解

答用紙の質問に答えてもらいます 」と言って。

課題文を約1分20秒で調査者が1回読み聞か

せた。

⑤理解度テストの実施

課題文提示後、理解度テストを行った。課

題文提示後 「それでは、お話の質問に答えて、

ください。名前を書いてください。先生が読

むので、それに合わせて答えを書いてくださ

。」 。い の教示をして約9分40秒間で回答させた

⑥結果と考察

各問1点としてレベルごとに正答の合計点

を求めて、それぞれのレベル得点とした。各

学年のレベルごとの正解率を に示す。理表2

解レベルについては、レベル順に平均点が下

。がっており妥当な設問と言うことができよう

『 』 、声とことばの会 による調査(1994)では

話の内容を正確に聞き取る能力は、未調査の

第1学年を除き、第2学年から第5学年まで

4年 5年 6年

レベルⅠ 0.95 0.95 0.95

レベルⅡ 0.78 0.78 0.86

レベルⅢ 0.41 0.52 0.55

表2 学年別理解レベル正解率

は十分な達成状況にあると言い得る。中・高

校生においても、話されたことを正確に聞き

取る能力の達成状況は高いと言っている。一

方、(1)話された内容の中から必要な情報を選

んで、的確に聞き取る能力 (2)話された事柄

の相互関係や妥当性を判断して、批判的に聞

き取る能力 (3)話された内容について質問し

たり反論したりして新たな考えを得る能力に

ついては、達成状況が低く、学年相応の発達

の跡が見られるとは言い難く、今後重点的に

。指導することが必要と思われると言っている

この(1)(2)(3)の能力はBloomの言う認知水

準に対応するものと考えることができよう。

(1)はレベル2「理解」に、(2)(3)はレベル4

「分析」レベル5「総合」レベル6「評価」

。 、に当てはまるものと考えられる 本調査でも

レベルⅡ、Ⅲの平均得点はレベルⅠに比べて

低くなっており『声とことばの会』と同様の

結果といえるのではないだろうか。

(ウ) 下学年児童の聴覚提示による文章を理解

する力の測定

前述の理解度テストを使って、下学年児童

の聴覚提示による文章を理解する力の測定を

試みた。9番の問題が下学年児童には難しい

と予想されたので、自由記述回答から四者択

一の選択肢法に改変した。

①実施方法

課題文の提示と理解度テストの実施は前述

の調査と同様に行った。

②調査期間

2002年3月

③被験者

小学校2年生 128名

④結果と考察

は、理解度テストの結果をグラフに表図13

したものである。以前(1999)上学年児童につ

いて実施したものと今回実施したものとを重

ねている。レベルが上がると理解度は下がっ

ている。また、レベルⅠ、Ⅱともに4年生よ

りも低くなっている。レベルⅢが4年生より

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も高得点になったのは、9番の問題の改変に

よるものと考えられる。

(エ) 聴覚提示による理解力の弱さに要因があ

る児童の困り感

理解度テストの得点が6点以下の児童を理

解度テスト低得点群、7点以上の児童をそれ

以外の群として、両群のIQと学力について

比較してみた。

IQは、教研式新学年別知能検査の結果を

利用した。学力は教研式学力検査の国語と算

数の結果を利用した。IQと理解度テスト得

点の相関を求めたところ弱い相関があった(r

=.35(p<.001) 。また、IQと学力(国語・算)

数 は 国語・算数ともに強い相関があった(国) 、

語:r=.49(p<.001)、算数:r=.48(p<.001) 。)

このことを分かりやすくするために、理解

度テスト低得点群とそれ以外の群の知能テス

トと国語学力テストと算数学力テストの結果

を箱ひげ図に表した( 、 、 。図14 図15 図16)

箱ひげ図の横の線は上から、最大値、上側

、 、 、 。ヒンジ 中央値 下側ヒンジ 最低値を表す

上側ヒンジと下側ヒンジの差(箱の縦方向の

長さ)からなる箱の中に全データの50%が存

在することになる。

理解度の低い群とその他の群を比べてみる

、 、と 知能に比べて国語や算数での得点が低く

ばらつきも大きいことが分かる。持っている

知能が、学習に十分に生かされにくいと言え

るのではないだろうか。

図13 理解度テストの結果

理解度テスト

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

レベルⅠ レベルⅡ レベルⅢレベル

正解率

2年

4年

5年

6年

図14 理解度別に見た知能テストIQ

図15 理解度別に見た国語学力テスト

図16 理解度別に見た算数学力テスト

その他の群低い群

70

60

50

40

30

20

10

国語偏差値

その他の群低い群

70

60

50

40

30

20

10

算数偏差値

10716有効数 =

その他の群低い群

160

140

120

100

80

60

40

知能IQ

低い群 その他の群

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このことからも聴覚提示による理解力の弱

い児童は、学習面でかなりの困難を感じてい

ると言える。これらの児童には、視覚に訴え

るものを多く用意することが支援として考え

られる。

(オ) 聴覚提示の理解力の弱さが困り感の要因

となっている児童への支援

、 、具体的な支援としては 視覚優位であれば

手順を板書すること( )や絵カードの利図17

用等が有効である。図工の作品の制作手順を

過程ごとの実物とともに提示すると、児童の

困り感が軽減する。これらのことは他の児童

にとっても有効で、聴覚提示の理解度が高い

児童でも、視覚的に示された手順を確認しな

がら、作業を進めていく姿が観察される。

図17 手順を板書することによる支援

また全体指導が口頭であった場合、なかな

か、その指示通りに行動できない児童には、

文字や文で示した方が早く、指示通りに行動

できることがある。その場合、メモ用紙を準

備しておいて、その場で、紙に書いて示すこ

とも有効である。予め予想されることをカー

ドに書いて持っておくと、書くことに時間を

、 。取られず すぐに提示できて効果的であった

カードの例を示す( 。図18)

さらに、いつも決まった手順で行われるこ

とが定着しない場合、手順を示すカードを示

すことも効果的である。 は、家庭に持ち図19

帰るプリントの片付けが手順よくできるよう

に支援をする時に示すカードの例である。

図18 個別に支援するためのカードの例1

図19 個別に支援するためのカードの例2

ウ 注意機能の弱さが要因となっている困り

感への支援

(ア) 注意機能の弱さが要因となっている困り

児童の中には注意機能の弱さが要因となっ

て困り感を抱いているものが少なからずいる

と考えらる。

例えば、なかなか物事がはかどらないとい

う困り感は、いろいろなことに注意が向きや

すいということが要因になっていることもあ

るだろう。また、一つのことに集中するとう

まく注意を切り替えていくことが難しい児童

は、一斉授業や集団行動ではたいへんな困り

感を抱くであろう。

そこで、注意機能の特徴を明らかにするこ

とで適切な支援方法が探れるのではないかと

プリントが配られたら

①名前を書く

②折る

③連絡袋に入れる

できたら、カードを先生に返す

名前を書く

おくち

チャック

プリントが配布されたら記名をするように支援するためのカード

しゃべらないで黙っているように支援するためのカード

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考え、日本語版集団式注意機能検査を使って

児童の注意機能を調べることにした。

(イ) 注意機能の測定の方法

児童を対象にした日本語版集団式注意機能

検査は『平成13年度信州大学教育改善推進費

「特別な教育ニーズに基づいた特殊教育の振

興、研究代表者:田巻義孝 』の援助を受けて」

開発されたものである。

日本語版集団式注意機能検査は、注意機能

の諸側面を測定し、その特徴を明らかにしよ

うとする検査である。注意機能は複数の異な

る機能からなるという認知神経心理学の理論

的な枠組に基づいて、4種の機能(選択注意・

持続的注意・反応抑制・分割的注意)に焦点

をあてた4つの下位検査から6指標を得るこ

とができるように構成された。4種の機能を

( )に示す。表3

表3 注意の4つの機能

(ウ) 日本語版集団式注意機能検査の内容

①対象年齢 小学1年生~6年生

②検査時間 45分

③問題の構成

意地悪星人と仲良し星人がUFOに乗って

やって来るという架空の物語を設定して、物

語展開をCDプレーヤーで音声提示しながら

各下位検査を実施する。

a地図探し:選択的注意の測定

・地図探し:地図(5万分の1)にレストラ

ン記号を記載した検査用紙を提示し、制限時

注意の4つの機能

・選択的注意:たくさんの情報から目的に

関連した情報だけを選び出す機能

・持続的注意:一定時間続けて課題に取り

組む機能

・反応抑制:継続して行っている行動を合

図などによって止める機能

・分割的注意:いくつかの課題を並行して

行うときに、それぞれの課題に適度に注

意を振り分ける機能

間(60秒間)内に標的となるレストラン記号

(80個配置)をできるだけ多く見つけ出し、

ペンを使って丸印で囲むように教示する。丸

印をつけられた標的数を得点とする。

・地図統制:30秒間に白紙上のレストラン記

号(80個配置)を丸印で囲む。丸印をつけた

標的数を得点とする。妨害刺激がない条件で

標的を探しマークする能力を判定する。

b音数え:持続的注意の測定

断続的に提示されるコンピューターで作成

された電子的な射撃音を開始・終了の合図で

数える。各試行(1試行20~40秒)で提示さ

れた射撃音(試行内9~15回)の数を終了音

の合図の後に用紙に記入する。提示時間は0.3

秒で提示間隔0.5~5秒の範囲で不規則に変化

する。全部で10試行、行う。各試行で数が正

しい場合1点とし、満点は10点となる。

c指示動作:持続的注意と反応抑制の測定

検査用紙には、足跡が縦方向に14個ずつ配

置してある 20試行ある 開始音→前進音 複。 。 (

数回2~11回)→停止音となっていて被験児

は、各試行の開始音とともにペンを置き前進

音が提示されるたびに次の足跡の中心点まで

線を引いていくように求められる。停止音が

提示された場合には、ペンを動かすことが禁

じられる。得点は停止音の提示回数、分正確

に足跡をつなぎかつ、停止音提示の折り、ペ

ンを動かした形跡が認められない場合に1点

与えられ、20点満点となる( 。図20)

図20 指示動作検査用紙

通常音

停止音

誤答

正答

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d二重課題:持続的注意と分割的注意の測定

前述の地図探しと音数えを同時に課す。60

秒のうちに標的の旗記号(80個)をできるだ

、け多く見つけ出して丸印で囲むことと同時に

開始音の後に断続的に提示される射撃音の数

を数えて、終了音提示後にその数を解答欄に

。 ( )記入するよう求める 検査の刺激音 4~8

は4試行聴覚提示される。

地図探しは正しく丸印がつけられた標的数

が得点となる。音数えは、数が正しい場合に

1点与え、4点満点となる。

④手続き

学級単位で実施する。CDで提示する。検

査用紙の冊子、赤色のボールペン1本を各自

に配布し、実施についての教示の後、地図探

、 、 、 。し 音数え 指示動作 二重課題の順で行う

(エ) 下学年児童の注意機能検査の測定

前述の日本語版集団式注意機能検査を使っ

て、下学年児童の注意機能の測定を試みた。

①対象 小学校3年生児童 130名

②調査期間 2003年9月

(オ) 結果と考察

各児童の検査の得点を出し、評価点への換

算をした。そして、標準点に比べて得点が低

い児童の学習や行動の様子を担任に聞き、担

任とともに支援方法を考え、実施した。

(カ) 標準点に比べて得点が低い児童への支援

a持続的注意機能の低い児童への支援

、 。B児は 持続的注意機能の弱さがみられる

学級では、行動が指示に遅れることが多く、

。聴覚提示による文章理解テストの得点も低い

また、自分から進んで「はい」と挙手し指名

されたものの、何を言うのだったか分からな

くなってしまうことが多いなどの様子が見ら

れる。そして、これらのことは、持続的注意

機能の弱さが要因となっているのではないか

と考えられる (知能、学力については省略)。

注意が持続するための支援が必要だが1対

。1で向き合って何度も繰り返すと指示が通る

b分割的注意機能の低い児童への支援

C児は、特に二重課題の得点が低い。学習

面や行動面では、2つのことを一度に要求さ

。れるような課題にはとまどう様子が見られる

聴覚提示による理解度テストの得点も低い

が、聴覚提示によって測定される注意機能が

低くなっている。口頭での指示を理解して行

動するというより、周りの様子を見ながら行

。動することが多いのではないかと推察される

(知能・学力については省略)

課題のステップを細かくして、一つずつ、

確実に行えるように支援する必要がある。

c選択的注意機能の低い児童への支援

を見るとD児は、特に選択的注意機能図23

が弱いことが分かる。また、視覚面での弱さ

があると考えられる。この児童は、視覚提示

されたもののうちどれに注意を向けてよいか

に困難を感じるようで、個別にカードなどを

各下位検査の評価点の分布

0

5

10

15

20

地図探し

地図統制

音数え

指示動作

二重課題(地図)

二重課題(音)

各下位検査の評価点の分布

0

5

10

15

20

地図探し

地図統制

音数え

指示動作

二重課題(地図)

二重課題(音)

図21 持続的注意機能の低い児童の得点分布

図22 分割的注意機能の低い児童の得点分布

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渡して注意を向けるものを限定すると効果が

あった。

注意機能が低い児童への支援をまとめる。

持続的注意機能の弱い児童には注意が持続す

るように個別にスモールステップの課題を用

意したり、励ましを与えたりすることが効果

的である。分割的注意機能の弱い児童には一

度に複数の指示を出さないで、一つずつ確実

に課題が行えるように支援する必要がある。

3 まとめと今後の課題

本研究では、困り感の要因を考えることで

その有効な支援方法を探ろうとした。困り感

の要因として診断のおりた軽度発達障害、聴

覚提示による理解力の弱さ、注意機能の弱さ

を取り上げた。その結果、ある要因からくる

一つの困り感に対して有効に働く支援方法が

各下位検査の評価点の分布

0

5

10

15

20

地図探し

地図統制

音数え

指示動作

二重課題(地図)

二重課題(音)

図23 選択的注意機能の低い児童の得点分布

あることがわかった。一方、その支援方法が

他の多くの児童に有効に働くことも検証する

ことができた。児童の困り感の度合いはまち

まちで、表面に現れる困り感の質と量も違っ

ている。だからこそ、一人一人の、その時そ

の時の困り感を適切に見立てることが必要で

。 、 、ある そして 一つの支援方法にとらわれず

児童の困り感を見取り、支援方法を考えてい

くことが大切である。

、 、今回は 下学年児童を対象に困り感を考え

その支援の方法を探っていったが、上学年に

なると、困り感も異なった形で表れることが

予想される。今後は、下学年での支援につい

てさらに研究を深めるとともに、上学年児童

にも対象を広げて研究をしていきたい。

図24 困り感と支援

見立て

軽度発達障害 注意機能

聴覚提示の理解力

教育的支援困り感

児童教師

*1:特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議 『今後の特別支援教育の在り方につい【引用文献】 、

て(最終報告 、平成15年3月、p37)』

*2:佐藤 暁 『月刊実践障害児教育4月号 、学習研究社、2003、p44、 』

*3:佐藤 暁 『月刊『実践障害児教育10月号 、学習研究社、2003、p46、47、 』

*4:氏原寛他 『心理臨床大事典 、培風館、1994、p1141、 』

*5:安達 潤 『特別支援教育ほっかいどう NO.1 、北海道特別支援センター、2003、p10、 』

Bloom他(編 ・梶田叡一他(訳 『教育評価法ハンドブック 、第一法規、1973【参考文献】 ) )、 』

声とことばの会(代表 高橋俊三)、小中高校生の聞き取り能力に関する調査報告書、1994

熊谷信順・尾山貴美 『文章理解における黙読と音読の効果 、山口大学教育学部研究論叢第44、 』

巻第3部、1994

今田里佳他 『児童を対象とした集団式注意機能検査の試み 、教育心理学研究、2003、 』