肝癌の手術術式肝癌取り扱い規約によると、肝切除範囲はhrで...

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45 2003年(平成15年)度後期日本消化器外科学会教育集会 肝癌の手術術式 大阪府立成人病センター消化器外科 佐々木   洋  1.肝細胞癌( hepatocellular carcinoma, HCC )の術式 1)切除術式決定に必要な肝の区分け 1.区域と亜区域 切除術式の決定に際しては、できる限り肝の解 剖学に基づいた区分に従って肝切除を行うのが合 理的である。その区分は、癌の進展様式が、経門 脈的な散布であるということを前提に考えれば、 門脈の支配領域に基づいた解剖学区分がもっとも 合理的である。肝実質内では肝動脈、門脈、胆管 の3脈管は、結合組織の鞘(グリソン鞘)に包まれて 一束になって走行しているので、門脈の支配領域 とグリソン系脈管の支配領域は一致する (Glissonean triadまたはportal triadと呼ばれる)。こ の3脈管はグリソン系脈管と呼ばれており、肝門か ら門脈の支配領域の枝分かれに従って、肝内を樹 枝状に分布していき、葉→区域→亜区域に区分さ れている。左右門脈の支配領域の分岐線が、右葉 と左葉の境界線になるが、この線は、ほぼ胆嚢窩 と肝静脈-下大静脈合流部を結ぶ線になり、 Cantlie 1) 線またはRex 2) -Cantlie線と呼ばれている。 さらにグリソン系脈管の枝分かれに従って、右葉 は前区域と後区域に、左葉は内側区域と外側区域 の、計4区域に分類され 3) 、尾状葉と併せて計5区域 に区分されている。さらに前区域、後区域、外側 区域はCouinaudの区域分類 4) に従って、おのおの2 亜区域(subsegment) (内側区域、尾状葉はそのまま 1亜区域とする)に細分され、8亜区域に区分されて いる 5) (図1)。区域枝主分枝からの枝分かれは、必 ずしも2分岐していくのではなく、数本の枝が順次 分岐していく 6) 。従って亜区域区分は、実際は門脈 域1分枝の支配領域を示しているのではなく、3~4 図1 肝区域(文献5より引用) 右 葉 左 葉 後区域(P) 前区域(A) 内側区域(M) 外側区域(L) 下大静脈 肝静脈 門脈 横隔膜面 Healey & Schroy による分類 Couinaud による分類

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Page 1: 肝癌の手術術式肝癌取り扱い規約によると、肝切除範囲はHrで 表し、部分切除=Hr0、亜区域切除=HrS、1区域 切除=Hr1、2区域切除=Hr2、3区域切除=Hr3

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2003年(平成15年)度後期日本消化器外科学会教育集会

肝癌の手術術式

大阪府立成人病センター消化器外科 佐々木   洋 

1.肝細胞癌( hepatocellular carcinoma,HCC )の術式

1)切除術式決定に必要な肝の区分け1.区域と亜区域 切除術式の決定に際しては、できる限り肝の解剖学に基づいた区分に従って肝切除を行うのが合理的である。その区分は、癌の進展様式が、経門脈的な散布であるということを前提に考えれば、門脈の支配領域に基づいた解剖学区分がもっとも合理的である。肝実質内では肝動脈、門脈、胆管の3脈管は、結合組織の鞘(グリソン鞘)に包まれて一束になって走行しているので、門脈の支配領域とグリソン系脈管の支配領域は一致する(Glissonean triadまたはportal triadと呼ばれる)。この3脈管はグリソン系脈管と呼ばれており、肝門から門脈の支配領域の枝分かれに従って、肝内を樹

枝状に分布していき、葉→区域→亜区域に区分されている。左右門脈の支配領域の分岐線が、右葉と左葉の境界線になるが、この線は、ほぼ胆嚢窩と肝静脈-下大静脈合流部を結ぶ線になり、Cantlie1)線またはRex2)-Cantlie線と呼ばれている。さらにグリソン系脈管の枝分かれに従って、右葉は前区域と後区域に、左葉は内側区域と外側区域の、計4区域に分類され3)、尾状葉と併せて計5区域に区分されている。さらに前区域、後区域、外側区域はCouinaudの区域分類4)に従って、おのおの2亜区域(subsegment) (内側区域、尾状葉はそのまま1亜区域とする)に細分され、8亜区域に区分されている5)(図1)。区域枝主分枝からの枝分かれは、必ずしも2分岐していくのではなく、数本の枝が順次分岐していく6)。従って亜区域区分は、実際は門脈域1分枝の支配領域を示しているのではなく、3~4

図1 肝区域(文献5より引用)

右 葉 左 葉

後区域(P) 前区域(A) 内側区域(M) 外側区域(L)

下大静脈

肝静脈

門脈

横隔膜面

Healey & Schroyによる分類

Couinaudによる分類

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本の小分枝の支配領域の集合群であり、高崎らが指摘しているように、門脈域1分枝の支配領域の観点からは区域としての意味を持たない7)。亜区域のnumberingは、尾状葉をsegment (S1)とし[本来は亜区域(subsegment)であるが、Couinaudはsegmentという言葉を使っているので、Couinaud分類によるnumberingの際はsegmentという言葉を用いることにする]、外側上亜区域をS2として、時計回りにS8まで番号を付けている。

2.高崎らによる区域分類 高崎らは、肝の脈管をグリソン系脈管の支配区域より、後区域を右区域、前区域を中区域、外側区域と内側区域を併せた左葉を左区域とした3区域に分類した独自の区域分類を提唱している8)(図2)。さらに、これら各区域枝から枝分かれする、

3.尾状葉 肝の背側に位置し、肝門から直接出る細い数本の分枝によって支配されている尾状葉は、2肝葉に含まれない付加的領域である。尾状 “葉”という名前が付いているが、正常肝ではCouinaudが1 seg-ment(亜区域)として扱っているような小さな領域である。しかし肝硬変例では代償性に肥大していることがある。尾状葉は、公文らにより、Spiegel葉、肝部下大静脈部(para-caval portion)、尾状葉突起(caudate process portion) の3領域に分類されている10)(図 3)。

2)切除術式の基本的概念と術名1.基本的概念 切除術式の決定は、HCCの進展様式が経門脈的な転移によるという前提から、門脈の小支配領域を1単位と考え、腫瘍の大きさ、肝機能、腫瘍の存在位置などによってこの小支配領域を何単位切除すべきであるかを基本的な考えとする。このような門脈支配領域に基づいた切除術式を系統的切除と呼んでおり、HCCに対する標準術式となっている。

2.術式名とHr 術式名として、1)部分切除(亜区域に満たない、あるいは門脈支配領域の概念を無視した切除)2)亜区域切除(S1~S8切除)3)区域切除(前、後、内側、外側区域切除)4)2区域切除または葉切除(右2区域切除=右葉切

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数本の小分枝の1支配領域を区画とし、最小の門脈支配領域単位としている9)。 肝の区域を、あくまでグリソン鞘としての分岐形態すなわち門脈の支配領域単位から分類した、独創的かつ合理的な区域の概念である。この区域分類によれば、3区域の体積はほぼ同様であること、3区域の境界にはlandmarkとして右、中肝静脈(中肝静脈と左肝静脈は通常共通幹を形成しており、左肝静脈を中肝静脈の分枝と考えると、主幹が中肝静脈となる)が存在することなど、より区域の概念が明確になると思われる。

図2 高崎らによる肝門部グリソン鞘分岐形態からみた肝区域(文献8より引用)

図3 尾状葉の領域分類(文献10より引用)

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除、左2区域切除=左葉切除、前区域+内側区域切除=中央2区域切除)5) 3区域切除(右3区域切除、左3区域切除)とする。また、前区域のS5と後区域のS6にまたがるHCCの術式として、S5+S6切除という異なった区域の2亜区域を切除する術式名もなり立つ。原発性肝癌取り扱い規約によると、肝切除範囲はHrで表し、部分切除=Hr0、亜区域切除=HrS、1区域切除=Hr1、2区域切除=Hr2、3区域切除=Hr3と記載することが決められている。

3)門脈支配領域の同定1.区域および葉  1区域以上の切除術式では、肝門部で切除予定区域グリソン枝の血流遮断を行えば、非結紮区域との間にdemarcation lineが出現するので、そのlineを目安にする。肝硬変例では、境界線が不明瞭な場合があるが、その際は、切除予定区域門脈枝に色素を注入する場合もある。また、前区域と後区域、前区域と内側区域の境界にはlandmarkとして、それぞれ右肝静脈、中肝静脈が存在しており、肝の離断に際しては、切離面にこれらの肝静脈が露出するように切除する必要がある。ただし、外側区域と内側区域の間は、landmarkとなるような大きな肝静脈は存在せず、門脈臍部が境界となる。

2.亜区域  亜区域を同定する方法として、肝門部、あるいは門脈臍部から、切除予定の亜区域グリソン枝を分離し、その枝の血流遮断あるいは結紮することによって、変色域として同定する方法がある。特に、門脈臍部より分枝するS2、S3、S4枝は、この方法が容易である。一方、右葉系のS5、S6、S7、S8枝は、前後区域分岐のさらに奥で枝分かれしているため、これらの枝の処理を経肝門的に行うことは可能ではあるが、容易ではない。特に、S7あるいはS8枝を分離する際には、肝門からみて手前に位置するS6あるいはS5枝を残して、その奥のS7、S8枝を処理しなければならない。そのために、手前に存在する小分枝を切離したり、肝実質を割って入らなければならない場合がある。 幕内らは、亜区域切除の方法として、エコーガイド下に腫瘍の存在する亜区域門脈枝に色素を注入し、色素に染まった領域を切除する系統的亜区域切除術を開発したが11)、この方法は、エコーの技術に習熟する必要があるが、肝門部からのアプローチよりも簡便で、肝門部の余計な脈管を痛めないという利点がある(図4、図5)。

4)癌の進行度と手術術式 HCCは、2cm以下の小HCCにおいても、腫瘍周囲進展巣や脈管侵襲がみられ、さらに2cmを超え

図4 系統的亜区域(S8)切除の手順(文献11より引用)

染色 マーキング 入墨

片葉阻血 肝離断 離断面

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ると、腫瘍周囲進展巣の頻度が急激に増加するなど、悪性度が高まると言われている。さらに5cmを超えると、大部分のHCCは腫瘍周囲進展巣や脈管侵襲、小転移巣を有している。従って根治的手術のためには、理論上は、小HCCにおいても、坦癌門脈領域を切除する必要があり、腫瘍径が大きくなるにつれて、広範囲な切除が必要になることになる。系統的切除は、HCCの進展様式に基づいて生み出された、理論上合理的な術式と考えられるが、非系統的切除(部分切除)に比し、本当に良好な遠隔成績をもたらしているか否かについては、従来より多くの議論がなされてきた。自験例について、腫瘍径別に、系統的切除例と非系統的切除例について遠隔成績を比較した(図6)。その結果、腫瘍径2cmを超えるHCCについては、系統的、非系統的切除間に、全く差がなく、2cm以下

の小HCCにおいて有意に系統的切除例が良好という結果が得られた。われわれは2cm以下の小HCCにおいてこそ、 surgical marginの確保の意義があることを以前に報告しており12)、むしろ、進展範囲が軽度な初期のstageにおいてこそ、系統的切除や、surgical marginを確保する意義があるのかもしれない。しかしながら、2cm以下HCC例の系統的切除例の肝機能は、非系統的切除例の肝機能に比し有意に良好であり、その影響の方が大きい可能性が高い(図6)。ちなみにわれわれの最近の2cm以下HCCの切除例の検討おいては、肝切除量、切除範囲(系統的切除と非系統的切除)、周術期輸血、surgical marginの各因子は、単変量解析で差がみられたが(図7)多変量解析で独立因子となったものは、肝障害度と周術期輸血のみであり、切除範囲やsurgical marginは独立した予後因子とはならな

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図5 系統的亜区域切除の実際左上:肝動脈造影像 A8領域に腫瘍陰影を認める左下:門脈造影像 P8(S8門脈枝)にエコーガイド下に色素を注入する右上:シェーマ上のP8(S8門脈枝)右下:S8領域が染色されている 腫瘍は一部肝表面に突出している

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図6 腫瘍径別にみた系統的切除と部分切除の遠隔成績

図7 2cm以下HCC切除例における手術因子別の生存率

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かった(表1)。 retrospective な検討で、系統的切除例は部分切除例に比し、遠隔成績が良好であったという報告は

あるが13)、肝機能を含む背景因子が同一でないために、科学的な評価ができない。すなわち、遠隔成績の上で、系統的切除が部分切除に比し確かに優れているというevidenceはない。科学的評価のためには、無作為比較試験(randomized control trial,RCT)が必要であるが、実際上、系統的切除と部分切除のどちらも対等な条件で可能という症例は少なく、このRCTは現実的ではない。

5)肝機能と切除術式 前述したように、癌の手術は本来、癌の進行程度によって決められるものであるが、HCCの場合は、癌の進行度よりも、肝機能(肝障害度)によっ

肝癌の手術術式

腹水�

血清総ビリルビン値� 非手術�

非手術�核出術�小範囲の肝部分切除�ICG15分値�

部分切除� 核出術�亜区域切除�Couinaudの1区域�程度の切除�

右前区域切除�右後区域切除�左葉切除�

中央2区域切除�S8+S7切除�S5+S6切除�

右葉切除�3区域切除�

なしあるいはコントロール可� コントロール不可�

正常� 1.1~1.5mg/dL 1.6~1.9mg/dL 2.0mg/dL

正常� 10~19% 20~29% 30~39% 40%≦�

図8 肝機能と手術術式(文献14より引用)

因子�

年齢�

性(男/女)�

ウィルスマーカー(HBV/HCV)�

肝障害度(A/B+C)�

切除量(>100g / ≤100g)�

周術期輸血(なし/あり)�切除範囲�

(Hr(S+1+2)/ HrO)�Surgical margin�(≥5mm / <5mm)�

0.18�

0.31�

0.21

0.24

0.30

0.02

0.55

0.04

P値� Ex(係数)�

1.02�

1.43�

0.63�

0.59�

0.85�

0.63�

0.75�

0.72

95%下側~95%上側�

0.97~1.06�

0.85~2.41�

0.27~0.1.50�

0.38~0.92�

0.49~1.46�

0.40~0.98�

0.43~1.31�

0.43~1.21

表1 2.0cm以下HCC切除例における予後因子の多変量解析

 臨床所見,血液生化学所見により3度に分類する。各項目別に重症度を求め,そのうち2項目以上が該当した肝障害度をとる。�

註:2項目以上の項目に該当した肝障害度が2カ所に生じる場合には高い方の肝障害度をとる。�

  たとえば,肝障害度Bが3項目,肝障害度Cが2項目の場合には肝障害度Cとする。�

腹  水�血清ビリルビン値(mg/dl)�血清アルブミン値(g/dl)�ICG R15(%)�プロトロンビン活性値(%)�

項 目�肝障害度�

な い�2.0未満�3.5超�15未満�80超�

A

治療効果あり�2.0~3.0�3.0~3.5�15~40�50~80

B

治療効果少ない�3.0超�3.0未満�40超�50未満�

C

表2 肝障害度(文献5より引用)

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て決定されることも多い。肝機能と至適切除範囲あるいは切除術式について多くの検討がなされてきた。現在では、肝機能に相応した切除範囲といった適応基準がほぼ確立している。腹水の有無、血清ビリルビン値、血清アルブミン値、ICG15分値、プロトロンビン活性値の5項目を用いた肝障害度が、肝癌取り扱い規約に定められている5)(表2)。切除例の大部分は肝障害度のもっとも軽度な肝障害度Aに属し、中等度肝障害を示す肝障害度Bは部分切除の適応であり、高度肝障害を示す肝障害度Cは一般に手術適応がない。治療によっても改善しない腹水、黄疸例は手術不能である。

図9 肝炎ウイルス別の肝細胞癌術後無再発生存率

○……HB-related HCC●……HC-related HCC

血液検査の中で、もっとも重みのある検査項目は総ビリルビン値であり、2.0 mg/dl以上は手術不能であり、1.5 mg/dlを超えると広範囲切除は不可である。日本で切除術式決定にもっともreliableな血液検査項目はICG-15分値である。術式決定のおおよその目安として、幕内らは、ICG-15分値が、10%未満;3区域切除あるいは右葉切除、10~19%;1区域切除あるいは左葉切除、20~29%;亜区域切除、30~39%部分切除、40%以上;核出術という基準を提唱している14)(図8)。どの施設の術式決定の基準も、この基準から大きくはずれることはないと思われる。我々の施設において、ICG15分値

ICG R15 percentage of systematic hepatectomy

<10%

n

107 72.9%10-19% 285 55.4%20-29% 185 51.4%30%< 91 23.1%

表3 肝細胞癌根治例におけるICG15分値と系統的切除例の頻度

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と系統的切除の頻度をみると、ICG-15分値が20~30%では、約50%、30%以上では約20%の症例のみが、系統的切除を受けていたに過ぎなかった(表3)。しかしながら、最近では、肝機能不良例に対する肝切除の適応はせばめられつつあり、ICG-15分値が40%以上、さらには30%台であっても、肝切除よりも経皮的治療あるいはTAEをfirst linetherapyにしている施設が増加している。 この幕内らの基準は実質切除肝容量については考慮されていない。例えば右葉切除といっても、腫瘍が大きい場合には切除する非癌部容量が少ないが、小さな腫瘍であれば切除非癌部容量が多く

なり、実際の非癌部肝容量に大きな差がでる。残肝容量が小さいと危惧されるときは、CT等によって癌部を除いたvolumetryを行う必要がある。山中らは、ICG-15分値に、癌を除いた肝切除量、年齢を加味した重回帰式を作成し、予後得点を算出することによって、切除術式の安全性を客観化した15)。 Y=-84.6+0.933X1+1,11X2+0.999X3(X1:肝切除容量の率、X2:ICG15分値、X3:年齢) Yが50点以下であれば安全域という式で、実質肝切除容量を因子に加えた点で、非常に有用性のある指標である。しかし現在では、高齢者の手術

肝癌の手術術式

図11 日本における肝離断法の内訳(文献31より改変)

図12 腹腔鏡下肝切除図10 斜め胴切り開胸開腹法   (文献23より引用)

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は若年者とほぼ同様に安全に施行されるようになっており、年齢の因子が当時と同様の重みを持つかどうかについて考慮の余地がある。実際に、高齢者肝癌の切除例は若年者のそれに比し術後の合併症等に差がないことから、同等に手術を行ってよいという報告もある16)。 しかしながら、より小範囲な切除を余儀なくされる肝硬変合併例や、門脈支配領域の境界線上に存在する腫瘍においては、これら定型的な切除が不可能な場合が多い。その際には、門脈の支配領域を無視した非系統的切除すなわち肝の部分切除にならざるを得ない。兼松らは、高度肝障害のために解剖学的な切除が困難な症例に対し、小範囲の部分切除による肝切除 (limited resection) の概念を導入した17)。癌の進行度よりも肝機能の程度によって切除範囲を決定する術式であるが、現在では小HCCで高度肝硬変例では経皮的治療が選択される傾向がある。

6)背景肝の肝炎ウィルスと手術術式 HCCは15%がB型肝炎、75%がC型肝炎を併存している。B型肝炎関連HCCとC型肝炎関連HCCの臨床および病理学的背景の差として、C型肝炎関連HCC患者は、B型肝炎関連HCC患者に比し、高齢で、肝機能不良例が多いが、腫瘍径が小さい等が挙げられている18-20)。肝切除後の長期予後の違いについては、未だ一定の見解がないが、われわれの術後長期観察例の無再発生存率の検討によると(図9)、B型肝炎関連HCCとC型肝炎関連HCC共に、術後3年までは、B型,C型共に同様の再発率を示し、B型肝炎例では、それ以降再発率は著明に低下したのに対し、C型肝炎例では、術後7年以上の長期にわたって再発が継続した。われわれは、肝硬変合併例は、非合併例に比し有意に、長期にわたり再発が続くことを指摘21)したが、これらの症例の大部分はC型肝炎例であった。このことは、C型肝炎関連HCCは、B型肝炎関連HCCに比し、多中心性発生の頻度が高いことを示している。従って背景肝のウィルスの違いによって、切除戦略を変える必要がある22)。すなわちB型肝炎例では、現

存する癌の徹底的な根治をめざし、担癌門脈支配領域を中心に系統的切除をめざす。一方、C型肝炎例では将来的な多中心性による再度発癌と、再発時の治療も視野に入れた肝機能温存に配慮する。

7)切除の実際1.皮膚切開  標準皮膚切開は施設により異なっており、golden standardはない。我々は、リンパ節郭清を要する肝門部胆管癌や胆管細胞癌では、左右肋骨弓下切開に剣状突起に至る正中切開を加えた、いわゆる“メルセデス切開”を行うが、右葉側の切除の大部分の症例は長めの右肋骨弓下切開で開腹している。左葉切除や内側区域切除では、右肋骨弓下切開線を短めにした “メルセデス切開”を行い、外側区域切除は原則として正中切開で行う。 正中から右第9肋間に向かって切り上げ、右第9肋間で開胸を加える、いわゆるJ字型(逆L字型)切開を標準切開にしている施設もある。この切開法の利点として、横隔膜下ドーム付近の視野が良好であること、胸腔内で肝右葉を挙上できることなどが挙げられる。また、左側肝の切除に際して、メルセデス切開と類似の切開法で、左右肋骨弓下切開の代わりに横切開を行う逆T字型切開も広く行われている。さらに、右葉背側部に位置するHCCに対して部分切除を行う際には、右胸腹連続斜切開法(斜め胴切り開胸開腹法)が有用である23)(図10)。この切開法は、左半側臥位で、腫瘍の直上の肋間(通常は第7肋間ぐらいになる)から連続して上腹部を臍に向かって切開する方法で、右葉背側部の腫瘍を直視でき、仰臥位では視野の不良な、副腎、右肝静脈根部、右側短肝静脈を良好な視野のもとで安全に処理できるというmeritがある。demeritとして、開胸になる、視野の展開に限界がある、肝門部の処理がしにくい、などが挙げられる。

2.グリソン系脈管の処理 肝門部から離れた領域の部分切除や支配門脈枝に色素を注入して切除域を決定する亜区域切除術においては、基本的にグリソン系脈管の処理は不

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要である。しかしながら、区域切除や葉切除の場合には、肝実質の離断に先立って、グリソン系脈管の処理をすることが望ましい。その理由は、肝実質切離時の、出血量の減少を計ると共に、術中操作による門脈系を介しての癌細胞の肝内散布を予防することが挙げられる。肝外のグリソン系脈管の処理法として、肝動脈、門脈、胆管を別々に処理する個別処理法と高崎らの提唱したグリソン一括処理法24)がある。実際上、肝内の区域枝より末梢の枝はグリソン一括処理になる。HCCはリンパ節郭清の必要がないので、肝門部のグリソン鞘の中を割って、グリソン系脈管を剥離して別々に処理する必要はない。特に肝機能不良例の場合は、グリソン鞘を剥離することは術後の腹水貯留を増大させるので、できるかぎりno touchが望ましい。左右の第1枝、特に、右第1枝の処理については、グリソン鞘の径が大きいため、一括処理ではすっぽ抜けたり、ゆるんだりすることがある。それを防ぐためには、1. 肝門側を2重結紮し、その内1本は刺通結紮とする。2. 切り代を十分取って切離するために、切除肝側は、前区域枝、後区域枝のレベルで結紮する。3. それでも切り代が十分取れないときは、 肝門側のみ結紮後、肝実質離断を先行し、グリソン鞘を十分に剥離して十分な切り代を確保した後に、切除側の結紮を行う。 一方で、個別処理法は、胆管細胞癌や肝門部胆管癌のように肝十二指腸靱帯のリンパ節郭清を要する場合に行われる。確実な脈管処理ができることから、HCCにおいても、基本的にこの方法を行っている施設もある。われわれも、葉切除の際には、以前は、左右第1枝の脈管は一括処理で行っていたが、現在では、グリソン系脈管の確実な処理のために、個別に処理を行っている。特に、肝門部にせり出した腫瘍で肝門部でグリソン系脈管が左右に伸展されている場合には、3脈管の中でも、anomaly が多く、最も高位で分岐し、左右分岐部の最内側を走行する胆管に十分に注意する必要がある。このようなHCCでは、個々の脈管を確認しながら、確実に個別に処理する方法が安全である。

肝癌の手術術式

3.肝実質の離断と肝静脈系の処理 A.血流遮断 肝実質の離断に際して、最も重要なことは出血のコントロールである。 グリソン系の出血は、肝への流入血流の遮断によってコントロール可能である。部分切除や、亜区域切除などのように肝門部で切除予定領域のグリソン束を露出させない切除術式では、肝十二指腸靱帯で全ての肝流入血流を遮断するいわゆるPringle法25)を行う。区域切除、葉切除等では、肝切除に先立って切除側のグリソン系脈管を結紮するが、肝離断時には、Pringle法を併用することによって、残存側肝離断面からの出血もコントロールできる。連続的血流遮断と15分遮断、5分解放の間欠的遮断では、間歇的な遮断の方が、肝に及ぼすdamageが小さいことが、RCTによるstudyで確認されている26)。遮断時間については、10分遮断、5分解放がbestという報告や27)、30分以上の遮断も問題なしという報告もあり、未だ議論のあるところであるが、15分遮断、5分解放の間欠的遮断が一般的である。連続遮断は正常肝の肝切除では127分の報告があり、間欠的遮断ではtotalのクランプ時間が正常肝で322分28)、障害肝で204分の報告があるが、遮断時間は基本的には肝機能に依存する29)。肝切除時の肝血流遮断は必ずしも必要ではなく、肝血流遮断時の肝阻血と、肝血流遮断なしの際の出血量の増加によるdamageのどちらを優先するかは、case by caseである。例えば、生体肝移植のドナー肝の切除では、できる限り移植肝の阻血を防ぐために、血流遮断なしで肝切除を行うのが一般的である。 また、幕内らは片側グリソン系脈管のみ血流遮断を行う片側Pringle法を推奨している30)。これは、肝切除を行う側のグリソン鞘のみのクランプを行う方法で、この方法により、対側肝の肝血流は常に温存されると同時に、腸管の血流うっ滞を防止できるmeritがあり、長時間の遮断が可能である。ただ、肝門部で左右グリソン鞘を分ける操作に時間を要することや、非クランプ側の肝動脈からクランプ側肝動脈への側副血行路が形成されるために、全肝クランプに比し、やや阻血効果が劣るという欠

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点がある。 肝流入血流はPringle法によりコントロールできるため、肝離断時の出血は大部分が肝静脈系からの出血である。従って肝離断時の出血量を減らすためには、肝静脈系の血管処理と肝静脈系出血のコントロールをいかにうまく行うかにかかっている。そのためには、肝切除時に中心静脈圧を上昇させないという麻酔科の協力も必要である。肝静脈系の血流遮断は、outflow blockを起こして肝内血流がうっ滞し、むしろ肝切離面からの出血が増加することが多いので、通常行わない。

B.肝の離断法 肝の離断法として、古典的なペアン鉗子で肝実質を破砕し、残った脈管を結紮切離して肝離断を進める用手的方法(crushing clamp method)を初め、にあげるような方法がある31)(図11)。現在最も多くの施設で用いられている肝離断法は、CUSA(Cavitron Ultrasonic Surgical Aspirator、Cavitron 社製超音波外科吸引装置の略)を用いる肝離断である。われわれは、199 7年末までは、肝表面をmicrowave coagulator(マイクロ波凝固装置)を用いて焼灼の後、crushing clamp methodによって肝切除

を行ってきたが、1998年より、bipolar scissors(Power Star®) のみによる肝離断を行っている32)。部分切除例において、microwave coagulator+crushing clamp methodとbipolar scissorsの間で無作為比較試験(RCT)中である。基本的には、一つの方法に習熟すればどの方法によっても大きな差はないと考えられる。 

C.Anterior approach  巨大な肝癌の肝切除の際には、巨大な肝癌そのものが、背側の視野を妨げるために、肝の脱転や、右副腎との遊離、短肝静脈の処理等が困難であったり、リスクを伴う場合がある。そこで、肝の脱転や肝背側の血管処理に先だって肝離断を行う方法が、Anterior approachである33)。肝の前面から、背面に向かって肝離断を進めていき、下大静脈の前面に達してから、肝を左右に割って、短肝静脈の処理や、冠状間膜の切離を行う。その際に、下大静脈前面にテープを挿入して、肝を下大静脈から浮かせることによって、下大静脈の損傷を防ぐ新しい試み(hanging maneuver )34)が、普及しつつある。

表4 胆管細胞癌におけるリンパ節転移の有無と再発様式

Pt No.

1234

56789

1011

n

----

+++++++

v

-+++

/++++++

i m

+-++

/++-+++

p n

-+++

/-++-++

ly

++--

/++++-+

H r

02

2+2+

2+22

2+2+2+2+

LND

not donedonedonedone

donedonedonedonedonedonedone

Rec.site*1

liverliverliverliver

NED*4

liver / LN / PP

skin / Pliver / LN / P

liver*5

liver / lung

SAR*2

14.22.5

44.44.2

-3.83.83.23.5

11.94.5

*1; LN, lymph node metastasis: P, peritonitis and/or pleuritis *2; SAR, Survival After Recurrence (months)*4; NED, no evidence of disease (died of other cause) *5; local recurrence at the surgical margin of bile duct

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8)特殊な切除術式1.尾状葉単独切除 尾状葉は、その前面に左右肝葉が被さっており、すぐ腹側にグリソン系脈管群、背側に下大静脈、頭側には肝静脈根部が存在する。肝門部胆管癌においては、尾状葉胆管枝への進展があることから、全尾状葉を含めた片葉切除が標準術式となっている。尾状葉の中でも、Spiegel葉や尾状葉突起など外に飛び出した領域に存在するHCCでは、左右肝葉や周囲の脈管が切除を妨げることは少ないので、単独切除は容易である。しかしながら、傍下大静脈部の切除となると、左右肝葉や脈管が周囲を取り囲んでいるために、悪視野のもとで、これらの脈管を避けながら、単独切除を行う35)

ことは容易ではない。従って、傍下大静脈部のHCCの切除では、通常、傍下大静脈部に被いかぶさっている肝葉を合併切除する。しかしながら肝機能不良例では、尾状葉だけを切除する必要性が生じる。その切除法としては、高山らのhigh dorsalresection36)や小菅らのanterior transhepatic approach37)

よる尾状葉単独切除法がある。

2.鏡視下肝切除 鏡視下肝切除は、外側区域やS6の先端部など適応部位が限られている38)。腫瘍底面のsurgicalmarginが得にくい、気腹下でのCO2塞栓の可能性、術中の急な出血に対し即座に対応できないことによる危険性、等に問題があるが、手術創部が小さいため、術後の疼痛が少なく、入院日数も短縮されるなど、患者のQOLやcosmeticな面からmeritがある。今の時勢に適応した術式であるので、今後さらに適応拡大していく可能性はある(図12)。

3.血管合併切除A.全肝血流遮断(Total hepatic vascular exclusion,THVE)下肝切除

 肝静脈根部やIVCを合併切除する必要のある時には、肝流入血管の遮断だけでは、IVCや肝静脈側からの出血を制御できない。そのために、Pringle法による肝血流遮断に加えて、同時に肝部

下大静脈の頭尾側でIVCをクランプする手技をTHVEという。1966年Heaneyら39)によって最初に臨床報告され、Bithmuthら40)によって適応拡大されてきた。クランプの部位は、頭側は、横隔膜下、尾側は腎静脈流入部の直上で行う。心嚢を切開し、横隔膜上心嚢内でクランプせざるを得ない場合があるが、その際は下横隔静脈からIVCへの血液流入により多量の出血を引き起こすことがあるので、下横隔静脈の結紮が必要である。THVEの間、下大静脈血流は遮断されたままになるので、長期の遮断は困難であり、30分以内にとどめるべきである。最近では従来のTHVE下の肝切除例の多くは、より簡便なPringle法のみで切除可能になっている。Belghitiら41)は、肝切除に際し、Pringle法と、THVEのcontrolled studyの結果、Pringle法の方が、術中の血行動態が安定し、術後の合併症が少なかったと報告している。

B.体外循環あるいは人工心肺下肝切除 HCCにおいては、脈管への直接浸潤例はほとんどないので、肝静脈 / IVC系の切除再建例のほとんどは、腫瘍栓例である。肝静脈主枝内の腫瘍栓であれば、Pringle法のみ、あるいはTHVE下に、腫瘍栓の存在する肝静脈を含めた葉切除、肝静脈壁のパッチ再建や端々吻合で対応可能である42)。しかしながら、下大静脈さらには右心房に進展した腫瘍栓となると、その進展度に従い、IVC、右心房壁の切除再建が必要となり、その際、体外循環さらには人工心肺といった大がかりな装備が必要となる43)。このような進行肝癌に対し、肝上部下大静脈を離断し、肝全体を半ば腹腔外に出して手術を行うaggressiveな術式もある44)。

2.胆管細胞癌 (cholangiocellular carcinoma, CCC) に対する手術術式

1)CCCは進展様式がHCCとは非常に異なっているので、術式に対する基本的概念を変えなければならない。Stage Iを除いては、再発の頻度が高く予後不良である。一般に肝機能良好例が多いので、広範囲切除が可能なことが多い。葉切除

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または区域切除のような広範囲肝切除+広範囲の系統的なリンパ節郭清が基本術式となっている。2)グリソン鞘の結合織内のリンパ管や神経周囲組織を介して進展するために、肝動脈、門脈、胆管を露出して、これらの脈管周囲の結合織はすべて切除する必要がある。従って、肝門部の脈管処理は、グリソン一括処理ではなく、個別処理(controlled method)が必要である。3) 最大の予後因子はリンパ節転移であり45)、リンパ節転移陽性例は、陰性例に比し有意に予後不良である(図13)。手術成績の検討から、どの領域であれ、1個でもリンパ節転移があれば、肝切除の意味がないとういうimpactのある報告もある。リンパ節転移の有無別に再発様式を検討してみると、リンパ節転移陰性例では、その初回再発部位が、ほとんど残肝であるのに対し、リンパ節転移陽性例は、早期に再発し、その初回再発部位は、残肝、リンパ節、胸腹膜、遠隔臓器と多彩であった(表4)。このことは、リンパ節転移陽性例は、すでにsystemic diseaseであることの裏付けの一つである。従って、リンパ節転移

が陽性例は、系統的なリンパ節郭清は無意味と考え、肝切除+リンパ節のpickingに止め、術後の全身化学療法を治療の中心にすべきであり、むしろ、リンパ節転移陰性例にこそ、微小転移を取り除く意味で広範囲リンパ節郭清が必要であると考えられる。

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図13 胆管細胞癌におけるリンパ節転移の有無別無再発生存率

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肝癌の手術術式

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