鉱業収益の地元還元へ向けた アルゼンチン鉱業州の...

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21 鉱業収益の地元還元へ向けた アルゼンチン鉱業州の取り組み —鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金— サンティアゴ事務所 副所長 縫部 保徳 はじめに アルゼンチン共和国は南米大陸南東部に位置する連邦共和制国家である。同国の鉱業生産額は1996年以降、2009年 を除いて増加基調を保っており、外貨獲得の手段として鉱業開発に期待される部分は大きく、2011年11月に再選を果 たしたCristina Fernández de Kirchner大統領は鉱業振興を標榜している。 アルゼンチン鉱業法では鉱物資源の所有権は基本的に州に帰属するとされており、鉱物資源ポテンシャルの高い州 は鉱業による利益が少しでも多く地元に還元されるよう様々な施策を行っている。本稿では鉱業収益の地元還元へ向 けた鉱業州の取り組みとして、2012年2月に鉱業州10州が立ち上げた鉱業州連邦機構(OFEMI: Organización Federal de Estados Mineros)、近年設立の動きが加速している州鉱業公社、税率等の変更が議論に上る鉱業ロイヤルティの現状 及び地元コミュニティのインフラ開発を目的として設置されている鉱業信託基金について紹介する。 1. 鉱業州連邦機構(OFEMI) 2012年2月、鉱業が盛んな、または、今後鉱業を州 産業の柱としたい10州(Jujuy州、 Salta州、 Catamarca州、 La Rioja州、San Juan州、Mendoza州、Neuquén州、Río Negro州、Chubut州、Santa Cruz州、図1)が、自然・社 会環境的に持続可能な鉱業普及を目的としてOFEMI を設立した。OFEMI総裁にはJujuy州のEduardo Fellner 知事、副総裁にはCatamarca 州のLucía Corpacci 知事、 事務局長にはSan Juan州のJosé Luis Gioja知事が就任し た。 アルゼンチンにおいて鉱業活動は、鉱業法や鉱業投 資法など連邦法によって規制されている。一方で、鉱 業プロジェクトの認可、運営、管理は鉱業活動の所在 する州によって行われる。そのためプロジェクトが複 数の州にまたがる場合、州によって法規制や各種手続 きが異なることにつながり、民間からの投資を難しく させる一因となっている。 この様な状況を改善するため、OFEMIは活動目標 として、連邦鉱業政策を基にした各州政府間の鉱業施 策の調整を掲げている。この調整機能には州政府間の 過当誘致競争防止効果も期待されている。 OFEMI活動目標のもうひとつの柱は、鉱業活動を 社会的に受容可能にする紛争解決メカニズムの構築で ある。近年、アルゼンチンで開発・生産が行われてい る大規模プロジェクトのほとんど全てが建設開始段階 または生産開始段階で社会的な非難を浴び、鉱山開発 促進を妨げる一因となっている。特に、環境影響リス ク評価においては、リスクそのものやリスク管理及び 防止対策についての理解がなかなか得られない状況で ある。このためOFEMIは地域コミュニティへの適切 な境域の実施を決定した。 2012年3月には、OFEMI加盟の10州が以下を主要目 的とする鉱業州連邦合意(Acuerdo Federal Minero)に調 印、彼らの今後の政策目標を明確にした。 ・鉱物資源所有権とそれを管理する権利を州政府に認 める連邦鉱業政策の確立 OFEMIを連邦鉱業政策立案と施行に関する諮問機 関とする ・州内のサプライチェーン構築と人的・物的資源の強 ・州政府と連邦政府間の連絡体制構築及び環境機関と 一体となった環境保護活動の推進 ・経済活動と地元文化の融和 ・州鉱業公社を通じた鉱業収益への州政府寄与の拡大 ・連邦政府及び州政府を通じたインフラ整備基金の創 ・住民参加や鉱業関連規則の調整などを促す州政策実 現に向けた環境作り 5372013.1 金属資源レポート

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鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み—鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金—

サンティアゴ事務所副所長 縫部 保徳

はじめにアルゼンチン共和国は南米大陸南東部に位置する連邦共和制国家である。同国の鉱業生産額は1996年以降、2009年

を除いて増加基調を保っており、外貨獲得の手段として鉱業開発に期待される部分は大きく、2011年11月に再選を果たしたCristina Fernández de Kirchner大統領は鉱業振興を標榜している。アルゼンチン鉱業法では鉱物資源の所有権は基本的に州に帰属するとされており、鉱物資源ポテンシャルの高い州

は鉱業による利益が少しでも多く地元に還元されるよう様々な施策を行っている。本稿では鉱業収益の地元還元へ向けた鉱業州の取り組みとして、2012年2月に鉱業州10州が立ち上げた鉱業州連邦機構(OFEMI: Organización Federal de

Estados Mineros)、近年設立の動きが加速している州鉱業公社、税率等の変更が議論に上る鉱業ロイヤルティの現状及び地元コミュニティのインフラ開発を目的として設置されている鉱業信託基金について紹介する。

1. 鉱業州連邦機構(OFEMI)2012年2月、鉱業が盛んな、または、今後鉱業を州

産業の柱としたい10州(Jujuy州、Salta州、Catamarca州、La Rioja州、San Juan州、Mendoza州、Neuquén州、Río

Negro州、Chubut州、Santa Cruz州、図1)が、自然・社会環境的に持続可能な鉱業普及を目的としてOFEMI

を設立した。OFEMI総裁にはJujuy州のEduardo Fellner

知事、副総裁にはCatamarca州のLucía Corpacci知事、事務局長にはSan Juan州のJosé Luis Gioja知事が就任した。アルゼンチンにおいて鉱業活動は、鉱業法や鉱業投

資法など連邦法によって規制されている。一方で、鉱業プロジェクトの認可、運営、管理は鉱業活動の所在する州によって行われる。そのためプロジェクトが複数の州にまたがる場合、州によって法規制や各種手続きが異なることにつながり、民間からの投資を難しくさせる一因となっている。この様な状況を改善するため、OFEMIは活動目標として、連邦鉱業政策を基にした各州政府間の鉱業施策の調整を掲げている。この調整機能には州政府間の過当誘致競争防止効果も期待されている。

OFEMI活動目標のもうひとつの柱は、鉱業活動を社会的に受容可能にする紛争解決メカニズムの構築である。近年、アルゼンチンで開発・生産が行われている大規模プロジェクトのほとんど全てが建設開始段階

または生産開始段階で社会的な非難を浴び、鉱山開発促進を妨げる一因となっている。特に、環境影響リスク評価においては、リスクそのものやリスク管理及び防止対策についての理解がなかなか得られない状況である。このためOFEMIは地域コミュニティへの適切な境域の実施を決定した。2012年3月には、OFEMI加盟の10州が以下を主要目的とする鉱業州連邦合意(Acuerdo Federal Minero)に調印、彼らの今後の政策目標を明確にした。・鉱物資源所有権とそれを管理する権利を州政府に認める連邦鉱業政策の確立・OFEMIを連邦鉱業政策立案と施行に関する諮問機関とする・州内のサプライチェーン構築と人的・物的資源の強化・州政府と連邦政府間の連絡体制構築及び環境機関と一体となった環境保護活動の推進・経済活動と地元文化の融和・州鉱業公社を通じた鉱業収益への州政府寄与の拡大・連邦政府及び州政府を通じたインフラ整備基金の創設・住民参加や鉱業関連規則の調整などを促す州政策実現に向けた環境作り

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レポート

鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み─鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金─

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2. 州鉱業公社アルゼンチンの連邦鉱業法(法律第1919号)は、連邦

政府及び州政府による鉱物資源開発を禁じている(第9章)。そのため、各州政府は鉱物資源開発に参画する組織として州鉱業公社を設立し、鉱山開発プロジェクト権益の一部またはロイヤルティを州営鉱業公社に保有させ、鉱業収益が州に還元されるよう図っている。また、州鉱業公社を通じ、環境課題の効率的な管理や鉱業プロジェクトを地域コミュニティのための持続的な活動とすることも狙っている。

州鉱業公社をプロジェクトのパートナーとして迎え入れる民間企業側は、地元コミュニティとの折衝や許認可の取得などについて地元の協力を得やすくなる効果を期待している。この章では既に設立済みの州鉱業公社及び設立が予定されている鉱業公社について、設立目的や関連法及び参画する鉱業プロジェクトを紹介する。また、表1に州鉱業公社とそれらが権益を保有する鉱山及び探鉱開発プロジェクトをまとめた。

図1. OFEMI参加鉱業州(橙色)と主要鉱業プロジェクト

Manantial Espejo (Au, Ag)

Cerro Vanguardia (Au, Ag)

San Jose (Ag, Au)

El Pachon (Cu)

Casposo (Ag, Au)

Gualcamayo (Au)Veladero (Au, Ag)Pascua Lama (Au, Ag)

Agua Rica (Cu, Au, Mo)Bajo de la Alumbrera (Cu, Au)

Salar Hombre Muerto (Li)

El Aguilar (Zn, Pb)Pirquitas (Ag)

Buenos Aires

a

Rio Gallegos

nEl Altar (Cu, Au)

Martha (Ag, Au)

Salar de Olaroz (Li)Caucharí-Olaroz(Li)

Río Colorado (K)

操業鉱山

探査もしくは建設中のプロジェクト

Sierra Grande (Fe)

Navidad (Ag, Pb, Cu)

Cerro Negro (Au, Ag)

Cerro Moro (Au, Ag)

Lindero (Au)

Cerro Solo (U)

San Jorge (Cu, Au)

Los Azules (Cu, Au, Ag)

Pingüino(Ag, Au, Pb, Zn)

Taca Taca (Cu, Au, Mo)Río Grande(Cu, Au, Ag)

Sal de Vida (Li, K)Salar de Diablillos (Li, Mg, B, K)

Mariana (Li, K)

Jujuy州Jujuy州

Salta州Salta州

Catamarca州Catamarca州La Rioja州La Rioja州

San Juan州San Juan州

Mendoza州Mendoza州Mendoza州

Neuquén州Neuquén州

Río Negro州Río Negro州

Chubut州Chubut州

Santa Cruz州Santa Cruz州

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鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み─鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金─

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2-1. Jujuy州(1)Jujuy Energía y Minería S.E.(JEMSE)

JEMSEは2011年、州法第5675号により裁可された法令第9266-P-2011号により設立された。この鉱業公社は天然資源の探鉱及び開発を同社自身または第三者と共同で行うことを目的としている。2012年6月、Jujuy州でOlarozリチウムプロジェクトを進めるOrocobreは、JEMSEが Olarozプロジェクトの権益8.5%を保有すること及びプロジェクト開発に必要な援助を行うことを骨子とした法的拘束力のある合意を締結したと発表した。JEMSEは建設コストに対する権益見合い分の負担義務があるが、資金はOrocobreがJEMSEに貸付を行う形を取り、JEMSEが受け取るOlarozプロジェクトからの配当収入の33.3%で返済される。2012年11月、Jujuy州でCauchari-Olarozリチウムプロ

ジェクトを進めるLithium Americasは、JEMSEがプロジェクト開発に必要な州政府などとの連絡など、管理サービスを提供し、同プロジェクトの権益8.5%を取得する合意に達したと発表した。JEMSEには権益見合い分のCauchari-Olarozプロジェクトの建設費負担義務がある。その資金はLithium Americasから貸し付けられ、JEMSEが受け取る同プロジェクトからの配当

収入の1/3で返済される。

2-2. Salta州(1)Recursos Energeticos y Mineros de Salta(REMSa)

REMSaは2008年5月8日、La Casualidadと呼ばれた州営公社を改組して設立された。同公社の株式はSalta州が保有し、州経済開発省の管理下にある。主要な業務は、炭化水素及び鉱物資源の探鉱及び開発、天然ガスの分配・配送・取り引き、再生可能資源からのエネルギー生産である。現在は、ガスパイプラインの管理を行うとともに、リチウムを対象とした3地域、4万haの鉱業権を申請中である。2012年9月には、2013年Q1からSQMと共同探鉱実施との報道が流れた。

REMSaはSalta州のリチウム生産企業への権益参入を指向している。現地開発会社への5%以上の株式参加をビジネスモデルとして示している。

2-3. Catamarca州(1)Sociedad Minera Catamarqueña de Economía

Mixta(So.Mi.Ca.DEM)So.Mi.Ca.DEMは1986年7月、州法第4349号に基づき

Catamarca州政府により設立された。同社が他の州鉱業公社と異なるのは、州政府51%、民間企業のMinera

表1. 州鉱業公社と参画プロジェクト

*1 プロジェクトが開発に至った場合*2 Osisko MiningによるFSが完了した場合*3 ロイヤルティ(純売上高の0.75%)*4 ロイヤルティ(粗利益の3.5%)

州 鉱業公社(略称) 参画プロジェクト(鉱種) 保有権益 パートナー企業 備考

Jujuy Jujuy Energía y Minería S.E.(JEMSE)

Salar de Olaroz (Li)Cauchari-Olaroz (Li)

8.5%8.5%

Orocobre, 豊田通商Lithium Americas

Salta Recursos Energeticos y Mineros de Salta(REMSa)

Catamarca Sociedad Minera Catamarqueña de Economía Mixta

(So.Mi.Ca.DEM)

Cerro Atajo (Au) - - So .M i .Ca .DEM の49%出資者はMinera Cerro Atajo S.A.Minas Capillitas (Mn) - -

Catamarca Catamarca Minera y Energética S.E.(CAMYEN)

Catamarca Yacimientos Mineros Agua de Dionisio(YMAD) Bajo de la Alumbrera 

(Cu, Au, Ag) 20%(NPI)Xs t r a t a Coppe r , Goldcorp,Yamana Gold

Tucumán大学が40%出資者

La Rioja Energía y Minerales S.E.(EMSE)

Los Colorados (U) 22.5%*1 Caudillo Resources

Famatina (Au) 30%*2 Osisko Minerals

San Juan Institute Provincial de Exploraciones y Explotaciones Mineras

(IPEEM)Veladero (Au) 0.75%*3 Minera Argent ina

Gold S.A.

Neuquén Corporación Minera del Neuquén SEP(CORMINE) Andacollo (Au) 3.5%*4 Minera Andacollo

Gold S.A.

Rio Negro Empresa de Desarrollo Hidrocarburifero(EDHIPSA) 詳細不明 10%または

1.5% (NSR)Minera Cielo Azul S.A.

Rio Negro Empresa Minera Rionegrína S.A.(EMIRSA)

出資金の40%は民間から募る

Chubut PETROMINERA CHUBUT S.E.

Santa Cruz Fomento Minero de Santa Cruz S.E.(FOMICRUZ) Cerro Vanguardia (Au) 7.5% AngloGold Ashanti 生産物6.6%の使用収

益権も保有

La Josefina 9% Cerro Cazador S.A. 生産物9%の使用収益権も保有

Lomada de Leiva等 (Au) 10% Patagonia Gold S.A.

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鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み─鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金─

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Cerro Atajo 49%の共同出資の形を取っていることである。このため、両者から役員が派遣されている。同社設立の際にいくつかの鉱業権が同社のものとし

て州議会に認められなかったこと、さらにMinera

Cerro Atajoが約束した投資を履行しなかったことから、州政府にはSo.Mi.Ca.DEMに対する不満がくすぶっていた。また、2002年にはCatamarca州最高裁判所が同社の設立不認可及び同社鉱業権のCatamarca州への返還を裁定した。しかしながら、同社は未だ存続しており、Cerro Atajo金探鉱プロジェクトを保有している状況である。上記のような事情からCatamarca州政府は次に述べるCAMYENを新たに設立、これを通じて鉱業活動を行うことを決定した。

(2)Catamarca Minera y Energética S.E.(CAMYEN)CAMYENはSo.Mi.Ca.DEMからの鉱業権引継ぎ及び

新たな鉱業権益の取得も狙い2012年初頭に設立された。同社は鉱物資源の独自開発及び民間企業と合弁での探鉱、採掘、販売が可能であり、資本金の500万PesoはCatamarca州政府が100%拠出した。

(3)Yacimientos Mineros Agua Dionisio(YMAD)YMADは連邦法第14771号により1959年に設立された。同社がアルゼンチンで最初の州立鉱業公社である。YMAD株式はCatamarca州政府が60%、Catamarca州の隣州Tucumán州のTucumán大学が40%を保有しているため、YMADは州間企業の性質を有する。Catamarca州、Tucumán大学両者とも役員会に代表者を送っているが、役員会会長は連邦政府が任命している。Tucumán

大学が同社に参画しているのは、現在操業中のBajo

de la Alumbrera銅-金鉱山一帯の調査、探鉱を同大学の地質技師が行ったためである。

Minera Alumbrera(Xstrata 50%、Goldcorp 37.5%、Yamana Gold 12.5%)が操業するBajo de la Alumbrera銅-

金鉱山はYMADにより発見された。1994年にYMAD

とMinera Alumbreraは前者のNPI 20%を認めることに合意している。また、YMADは1978年から坑内採掘のFarallon

Negro銀-金鉱山の操業を独自に行っている。Tucumán大学が受ける収益の50%は全国の国立大学

全てに配分される。

2-4. La Rioja州(1)Energía y Minería S.E.(EMSE)

EMSEはLa Rioja州のエネルギー資源及び鉱物資源の探査、開発、加工などを主な目的として、州法8380号により2008年に設立された。同社の鉱区には多数の既知鉱徴地があり、以下に述べる合弁契約を締結しているほか交渉中のプロジェクトもある。入札でパートナー企業を選定する場合もあるが、既往プロジェクトに同社が参入することもある。以下に同社が参画する

プロジェクトの概要を記す。Los Coloradosプロジェクト:Caudillo Resources S.A.と

EMSEがウランを対象とした合弁探鉱契約を締結している。同プロジェクトが開発に至った場合、Caudillo

Resources S.A.はプロジェクトの権益77.5%を取得し、EMSEの権益は残りの22.5%となる。

Famatinaプロジェクト:金の探鉱・開発を対象としたプロジェクト。Osisko Miningと合弁探鉱契約を締結した。FSの完了によりOsisko MiningはFamatinaプロジェクトの権益70%を取得でき、EMSEの権益は30%となる。Osisko Miningは開発コストのすべてを手当てし、開発コストのEMSE権益分は同社配当収入の25%で返済される。同契約の中でEMSEはプロジェクトに必要な許認可を取得することになっている。

2-5. San Juan州(1)Institute Provincial de Exploraciones y

Explotaciones Mineras(IPEEM)IPEEMはSan Juan州鉱業省直轄の機関であり、民間企業に探鉱権・採掘権を譲渡することを目的としてSan Juan州内の鉱業権をまとめるために1989年に設立された(州法第6029号)。IPEEMはVeradero金鉱山周辺の鉱区を保有しており、Minera Argentina Gold S.A.と2000年に探鉱及び採掘のための合弁契約を締結した。現在はVeladero金鉱山純売上高の0.75%をロイヤルティとして同社が受け取っている。

IPEEMは複数の鉱業権を保有しており、民間企業に対し探鉱、採掘のオプション権を付与するビジネスモデルであるが、法的には研究所(Institute)扱いでその活動に制限があることからSan Juan州政府は新たな州鉱業公社設立を検討しているとされる。

2-6. Neuquén州(1)Corporación Minera del Neuquén S.E.P.

(CORMINE)CORMINEはNeuquén州が100%管理運営する鉱業公

社で1975年に設立され100以上の鉱業権を保有していたが、2001年に閉鎖された。しかし、2008年、州政府は民間企業と共同で鉱業開発を行うために同社の活動再開を決定した。

CORMINEはAndacollo地域の金鉱床探査・開発について、Minera Andacollo S.A.と使用権契約を1998年に締結している。同契約の契約期間は20年間で、10年間の延長オプションがある。同契約にはMinera

Andacolloの粗利益の3.5%のロイヤルティ払いも定められている。

2-7. Rio Negro州(1)Empresa de Desarrollo Hidrocarburifero

Provincial S.A.(EDHIPSA)EDHIPSAは炭化水素及び鉱物資源の開発と販売の

ために設立された州営企業である。州政府は同社の活

(540)2013.1 金属資源レポート

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鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み─鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金─

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動のため、石油・ガスロイヤルティ収入の2%を同社の資本とすることを決定した。同社はMinera Cielo

Azul S.A.と合弁探鉱契約を締結しており、Minera

Cielo Azul S.A.が探鉱投資額の5%を州信託基金に拠出することとなっている。Minera Cielo Azul S.A.のプロジェクトが生産に至った場合、EDHIPSAはNSR1.5%のロイヤルティ、またはプロジェクト権益10%を取得するオプション権を保有する。

(2)Empresa Minera Rionegrína S.A.(EMIRSA)2012年6月、Rio Negro州政府は新たな州鉱業公社

EMIRSAを設立した。EMIRSAは州政府100%出資でスタートしているが、株式の40%は民間投資家へ開放する計画がある。同社の目的は、鉱物資源探鉱・開発及び関連製品の工業化や販売である。同社の正式な活動はまだ始まっていないが、州政府には鉱物胚胎ポテンシャルの高い地域を対象として、採掘オプション権付き合弁探鉱契約の入札を実施する意向があるとされる。

2-8. Chubut州(1)Petrominera Chubut S.E.

Petrominera Chubut S.E.は、石油・天然ガス及び鉱物資源の探鉱、開発、販売などを同社自身または第三者と共同で行うことを目的として、州法第129号により1989年に設立された。同社はChubut州の鉱物及び石油・天然ガス探鉱、生産の許認可を行っている。

Chubut州には、鉱業プロジェクトでのシアン化合物使用の禁止や露天採掘の禁止を定める反鉱業法があり、現時点で民間企業と合弁でプロジェクトを実施している例はない。

2-9. Santa Cruz州(1)Fomento Minero de Santa Cruz(FOMICRUZ)

FOMICRUZは1988年、Santa Cruz州の鉱物資源探査及び開発を通じて同州の鉱業活動促進を目指す州法第2057号により設立された。同社定款によれば、FOMICRUZの事業は鉱物、石油、天然ガス資源の調査、探鉱、開発、売買とされており、これらの活動は同社自身または民間企業と提携して実施することができる。

FOMICRUZは現在操業中のCerro Vanguardia金鉱山の権益を7.5%保有しており、州鉱業公社の成功モデルと見られている。以下ではFOMICRUZがCerro

Vanguardia金鉱山の権益を保有するに至った経緯をまとめる。1990年、FOMICRUZは、現在のCerro Vanguardia金鉱山が含まれる地域を対象として、商業採掘オプションを含む調査・探鉱に関する投資計画提案と財務的・法的・技術的バックグラウンド情報を要求する最初の入札を実施した。1992年にはCerro Vanguardia鉱徴地北部及び東部を対象とした入札も実施した。これらの

入札は、応札企業の技術力審査後、開発スケジュール案及び応札額が審査され、Minorco及びPérez Companc

(アルゼンチン財閥系)の合弁企業Minera Mincorp S.

A.が落札した。1994年、Minera Mincorp S.A.とFOMICRUZは合弁企業MINCRUZ UTEを 設 立 し、Cerro Vanguardia一 帯514km2の鉱業権をMINCRUZ UTEに移譲することに合意した。1996年、生産開始段階に入り、Minera

Mincorp S.A.とFOMICRUZの協議の結果、FOMICRUZ

がMINCRUZ UTEを再編したCerro Vanguardia S.A.の7.5%株主となること、精錬鉱物の使用収益権6.6%を得ることが決められた。2002年にはAnglo GoldがPérez

Compacの株式を買収、現在のCerro Vanguardia金鉱山への出資割合はAngloGold Ashanti 92.5%、FOMICRUZ

7.5%となっている。Cerro Vanguardia金鉱山以外にもFOMICRUZは民間

企業と合弁契約を締結している。2007年に入札が行われたLa Josefina金-銀プロジェクトではCerro Cazador

S.A.(加Hunt Miningのアルゼンチン子会社)と採掘オプションを含む探鉱オプション契約を締結している。同契約でFOMICRUZには精錬鉱物の使用収益権9%とともに、最大49%までプロジェクト権益を増やせるオプション権(当初は9%)が認められている。2011年に合意したPatagonia Gold S.A.とのJV探鉱では、元々Patagonia Goldが保有していた2プロジェクトとFOMICRUZが保有していた8プロジェクトを対象としている。Patagonia Goldは5年間で500万US$を拠出、FOMICRUZはプロジェクト権益10%を保有する。FOMICRUZにはプレFSまで資金負担義務はなく、同社の権益分10%に相当するFS及び建設費用についてはロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を上乗せした額を開発後の配当収入の50%をもって返済する。

FOMICRUZは上記以外にも独自の鉱業権を保有しており、今後もマイナー権益でプロジェクトへ参入するビジネスモデルを継続するとしている。

3. 鉱業ロイヤルティアルゼンチンの鉱業税制には連邦レベルと州レベルの2段階が存在する。連邦政府から課せられるのは所得税(法人所得税、純利益の35%)、付加価値税(IVA、21%)、個人資産税(各年度の12月31日付財務諸表における株式保有率に対応する価格の0.5%)、輸出税(10%または5%)である。州政府は鉱業ロイヤルティ及び総売上税(総売上高の1%)を徴収している。現在の鉱業活動に対する全税負担は総売上げの52%に達するとされ、43%が連邦政府、6%が州政府、残り3%が市町村に配分されている。州自身の収入となる鉱業ロイヤルティは、連邦の鉱業投資法(法律第24196号)により坑口価格(boca mina)の3%が上限とされているが、課税ベースや税率については各州が独自に決定している。税率の上限が定められているにも関わらず、最近ではロイヤルティ税率

(541)2013.1 金属資源レポート

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鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み─鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金─

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変更について言及する州知事が出てくるなど、今後の議論の行方を注視していく必要がある。表2にOFEMI

に参加する鉱業10州の鉱業ロイヤルティの課税ベース及びその税率に加え、鉱業ロイヤルティ収入の州と地方の分配状況についてまとめた。多くの州で坑口価格の3%が設定されているのが現

状であるが、鉱山会社の同意の下、2011年7月にSan

Juan州が操業コストを控除していた坑口価格から純売上高に課税ベースを変更、同州の鉱業ロイヤルティ収入は約30%増加したとされる。これに追随する形で、Salta州やChubut州でも同様の課税ベース変更に向けた折衝を開始、Jujuy州でもSalar de Olarozリチウムプロジェクトでは鉱業ロイヤルティの課税ベースを純売上高にすることで合意したとされる。

4. 鉱業信託基金鉱業収益の地元還元策のひとつとして、鉱業プロジェクトの所在する地域のインフラ開発振興を目的とした信託基金が創設されている。鉱業信託基金の創設はSan Juan州において最も進んでおり、鉱山の売上げの一定割合を自主的な寄付金として拠出するよう州政府とプロジェクト側が合意する形が取られている。以下では主要な鉱業信託基金の概要を紹介する。

4-1. San Juan州San Juan州では鉱業プロジェクトの所在する地域の

インフラ開発のため、各プロジェクトを保有する企業と信託基金創設のための協定を締結している。信託基金へは各プロジェクトの売上げの一定割合が拠出され

表2. OFEMI参加州の鉱業ロイヤルティ

*1 Olarozプロジェクトでは課税ベースを純売上高とすることで合意。*2 郡に配分されたロイヤルティ収入は州政府監督の下、インフラ開発プロジェクトへの支出に限定される。また、配分を受ける郡はPuna地

域に限定される。*3 新規プロジェクトは課税ベースを純売上高とするため交渉中。*4 操業・生産の直接経費は控除される(州法第5031号)。*5 開発途上郡(Antofagasta de la Sierra, Santa María, Tinogasta, Belén, Andalgalá, Pomán, Ambato, Paclin, Fray, Mamerto, Esquiú, Valle

Viejo, Capital Capayán, Santa Rosa, El Alto, Ancast, La Paz)*6 インフラプロジェクトのみに使途が限定される。鉱山会社は州議会の認可を得たインフラ事業を実施することによりロイヤルティ払いが減

免される。*7 売上げが90万Peso(約20万US$)以下の鉱山は鉱業ロイヤルティ支払い免除。*8 製錬をRio Negro州で行う場合。*9 製錬をRio Negro州外で行う場合。*10 Catriel, Allen, Contralmirante Cordero, Compo Grande, Cerventas, Cinco Saltos, Cipolletti, Fernández Oro, General Roca*11 Chubut州内で製錬を行う場合。*12 Chubut州外で製錬を行う場合。

州 課税ベース 税率 根拠法 ロイヤルティ収入の配分

Jujuy 坑口価格*1 3% 州法第4693/93号、第5363/10号

30%:鉱山の位置する郡*2

20%:鉱山周辺の郡*2

20%:州鉱業政策の強化20%:Susques郡鉱工業地区開発10%:コミュニティの小規模鉱業振興

Salta 坑口価格*3 3% 州法第6294/84号、第7692号 12%:鉱山の位置する郡88%:州政府

Catamarca 坑口価格*4 3% 州 法 第4757/93号、 第5041号、第5128号

35%:鉱山の位置する郡(鉱山が1つの郡のみに収まる場合は25%が位置する郡、10%が開発途上郡)*5

65%:州政府(内訳;25%:鉱山包含郡以外の郡、5%:鉱業振興信託基金、35%:州一般財源)

La Rioja 坑口価格 3% 州法第7277号 特定の規定なし。

San Juan 純売上高 3% 州 法 第7281号、 第7029号、 第7182号

55%:州一般財源33%:鉱山の位置する郡12%:鉱業特定財源(Dirección de Minería)*6

Mendoza 坑口価格 3% 州 法 第6090号、 第7024号、 第7018号、第8127号

50%:鉱山の位置する郡50%:鉱業振興信託基金

Neuquén 坑口価格 3% 州法第2148号 鉱業ロイヤルティも含めた州歳入の15%を全ての郡へ交付

Rio Negro 坑口価格*7 2%*8

3%*9 州法第3900号3.5%:高収益郡*10

6.5%:州法添付の分配チャートに従い上記以外の郡に配分。90%:州政府

Chubut 総売上高*11

坑口価格*12 3% 導入に向けた議論中

Santa Cruz 坑口価格 3% 州法第1992号 特定の規定なし。

(542)2013.1 金属資源レポート

レポート

鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み─鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金─

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ることとなっており、2009年から2011年までに7,300万Pesoが拠出されている。

(1)Gualcamayo信託基金(Fedeicomiso Gualcamayo)この信託基金はGualcamayo金鉱山を操業する

Minas Argentinas S.A.(Yamana Gold)、San Juan州政府、Gualcamayo金鉱山のあるJachal郡により2009年に設立された。Jachal郡のインフラ開発を目的としており、San Juan銀行が被信託者として管理を行っている。本信託基金はMinas Argentinas S.A.からの拠出金で賄われており、拠出額は操業1年目及び2年目は総売上高の1%、3年目以降は同1.5%と定められている。

(2)Lama信託基金(Fedeicomiso Lama)この信託基金はSan Juan州内にPascua Lama金-銀プ

ロジェクトを保有するBarrick GoldとSan Juan州政府によって設立された。本基金は2006年にPascua Lamaプロジェクトの環境レポートが認可された際に取り決められた。総額7,000万US$をBarrick Goldが拠出する。7,000万US$のうち、6,250万US$がPascua Lamaプロジェクトの位置する地域のインフラ開発に、750万US

$がSan Guillermo生物圏保護地区に使用される予定である。San Juan銀行が被信託者として信託基金の管理を行う。

(3)Casposo信託基金(Fedeicomiso Casposo)この信託基金はCasposo金-銀鉱山を操業するTroy

Resources Argentina Ltd.及びSan Juan州によって設立された。Casposo鉱山は2011年Q1に生産を始めた鉱山である。Casposo鉱山が位置するCalingasta郡のインフラ開発が目的とされ、特に上水、道路、保健、教育分野が重視される。Troy Resources Argentina Ltd.が鉱山操業1~2年目は総売上高の1%、3年目以降は同1.5%を資金として拠出する。州政府代表、州鉱業大臣、San

Juan州鉱業協会、Troy Resources Argentina Ltd.で構成される委員会が被信託者として信託基金の管理を行う。

(4)Rajo Argenta信託基金(Fideicomiso Rajo Argenta)この信託基金はMinas Argentinas S.A.とSan Juan州政府によって2011年に設立された。Gualcamayo金鉱山周辺のJachal郡及びIglesia郡のインフラ開発を目的とし、上水、保健、教育、農業、鉱業を重点分野とする。2011年のMinas Argentinas S.A.拠出額は565万US$で、Gualcamayo金鉱山純売上高の1.5%をベースに算出された。Yamana Goldはこの信託基金がJachal郡及びIglesia郡のインフラ改善に限定して使われるとされたことから、基金設立に応じたとされる。信託基金を管理するのは州政府代表、鉱業大臣、Minas Argentinas

S.A.で構成される委員会である。

(5)鉱業開発のための特別信託基金(Fondo Especial para el Desarrollo Minero)この信託基金はSan Juan州で活動を行う探鉱及び鉱山開発企業が資金を拠出し、2009年にスタートした。2011年末までに3,000万Pesoが拠出されている。拠出金は、鉱業関連企業がサプライヤーから受け取る請求の0.4%を留保し賄われる。この信託基金の主要目的のひとつとして鉱業分野の人材育成がある。

4-2. Rio Negro州(1)鉱業活動助成及び促進のための信託基金(Fondo

Fiduciario de Asistencia y Desarrollo de la Actividad Minera)この信託基金は、Rio Negro州における鉱業活動の振興、監査や規制の強化、資金調達のための組織作り、労働者への教育プログラムの整備などを目的として掲げ、州法第76/2011号により2011年に創設された。期間は10年間。Rio Negro州のカノン税や鉱区税など鉱業運営収入の全てと鉱業ロイヤルティ収入の12.5%がこの信託基金へ割り当てられる。Rio Negro Fiduciaria

S.A.が被信託者となっている。

まとめ鉱物資源の所有権が州に帰属するアルゼンチンでは、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金が鉱業収益の地元還元策の柱である。州鉱業公社には州が100%を出資して設立されたも

のと、第三者からの出資も合わせて設立されたものがある。鉱業開発プロジェクトに州鉱業公社が関与する場合、少数株主として参入するケースと、NPIやNSR

と言ったロイヤルティを保有するケースがある。合弁企業の選定は入札や民間企業からの直接のオファーなどにより決定される。州鉱業公社権益見合い分の開発投資資金は鉱山操業開始後の配当収入により返済されるケースがほとんどである。鉱業ロイヤルティは連邦の鉱業投資法で坑口価格の3%が上限と定められているが、課税ベースと税率はそれぞれの州が決定している。現時点では坑口価格の3%を設定している州が多いが、2011年7月に課税ベースを純売上高に変更したSan Juan州ではロイヤルティ収入が30%増加したと言われ、それに習ってSalta州、Jujuy州、Chubut州など課税ベースの変更を試みている州がある。鉱業信託基金は鉱山の位置する地域のインフラ開発を目的として州政府と鉱山会社の合意によって設置されており、San Juan州においてその動きが進んでいる。

*1Peso=0.20635US$(2012年12月4日、Financial Times HP)

(2012.12.5)

(543)2013.1 金属資源レポート

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鉱業収益の地元還元へ向けたアルゼンチン鉱業州の取り組み─鉱業州連邦機構、州鉱業公社、鉱業ロイヤルティ、鉱業信託基金─