技術開発ニュース153 - chuden.co.jp · results of research ctivities 研究成果...

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Results of Research Activities 研究成果 27 技術開発ニュース No.153 2015-8 はじめに 1 変圧器を電源に接続すると、変圧器に流入する励磁電 流は直ちに定常状態にならずに過渡現象を生じ、その大 きさは定格負荷電流の数倍にもなるため、系統電圧が低 下する。この電流は励磁突入電流と呼ばれている。第1に励磁突入電流波形および励磁突入現象の電圧波形の一 例を示す。 電圧低下や保護装置の誤動作を防止するため、励磁突 入現象を抑制する、あるいはこの現象が発生しても保護 装置が誤動作しない設備設計や運用を行っている。こう した対策を立てるため、変圧器の励磁突入現象を正確に シミュレーションすることが重要となる。 そこで、本研究では、励磁突入現象のシミュレーショ ンを正確に行うため、励磁突入現象に及ぼす影響の大き い残留磁束に着目し、変圧器端子電圧の実測データを用 いて残留磁束の最大値のレベルを評価した。 研究の背景 2 励磁突入現象のシミュレーションの際には、残留磁束 の最大値を定常時の最大磁束の80%程度とすることが 一般的である。しかしながら、変圧器を停止する際に実 際に測定すると、残留磁束の最大値が80%近くに達する ものはごく一部の変圧器のみである。残留磁束を大きく 想定するほど、励磁突入電流が大きくなり、その抑制の ための設備対策や運用対策の規模が大きくなってしま う。そこで、(一財)電力中央研究所および東北電力(株) と共同で、変電所で実際に運用されている変圧器等にお ける残留磁束実測結果を評価した。 研究の概要 3 変圧器鉄心の磁束と変圧器の端子電圧の間には(1式の関係がある。 ) 1 ( dt d N e ここで、 e:変圧器端子電圧(V)、φ:変圧器鉄心の磁束 Wb)、 N:コイル巻数である。このため、鉄心の磁束は端 子電圧を積分することで計算により求めることができる。 変圧器励磁突入現象シミュレーションの精度向上 フィールドデータ分析に基づく残留磁束最大値の評価 Improvement to the Accuracy of a Transformer Magnetizing Inrush Simulation Evaluation of the Residual Flux Maximum Based on the Field Data Analysis (電力技術研究所 流通G 送変電T変電所の変圧器を課電する際に大電流が流れる励磁突 入現象により系統電圧の低下や保護装置の誤動作を引き 起こす可能性がある。その現象をシミュレーションするに は変圧器鉄心の残留磁束を想定する必要がある。そこで、 実際に運用されている変圧器等での実測結果から、残留磁 束を決定付ける要因とその最大値について評価した。 (Transmission and Substation Team, Power System Group, Electric Power Research and Development Center) Transformer energization may cause the RMS voltage to drop or a malfunction of the protection device. It is necessary to assume a value for the residual flux of the iron core in the transformer to simulate the phenomenon. The factor which determines the residual flux is estimated from the practical measurement results of the transformer in the field, and the maximum of the residual flux was evaluated. 1図 変圧器課電時の励磁突入電流と電圧波形 -2500 -2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500 -0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 変圧器励磁電流(A時間[s] abc定格負荷電流 レベル 210 215 220 225 230 -0.02 -0.01 0.00 0.01 0.02 変圧器端子電圧(kV時間(sabc電圧低下 2図 変圧器停止時の電圧波形と磁束波形 -120000.00 -80000.00 -40000.00 0.00 40000.00 80000.00 120000.00 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 abbcca-300 -200 -100 0 100 200 300 -0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 abbcca電圧(V) 磁束(Wb) 時刻 t(s) 時刻 t(s) (a)遮断器開放前後の電圧波形(実測値) (b)遮断器開放前後の磁束波形(電圧実測値より計算) 遮断器開放

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Page 1: 技術開発ニュース153 - chuden.co.jp · Results of Research ctivities 研究成果 技術開発ニュース No.153No.153 /2015- 8 28 第2図は実測した電圧波形とそれを積分して求めた磁

Results of Research Activities研究成果

27技術開発ニュース No.153/ 2015-8

はじめに1 変圧器を電源に接続すると、変圧器に流入する励磁電流は直ちに定常状態にならずに過渡現象を生じ、その大きさは定格負荷電流の数倍にもなるため、系統電圧が低下する。この電流は励磁突入電流と呼ばれている。第1図に励磁突入電流波形および励磁突入現象の電圧波形の一例を示す。

 電圧低下や保護装置の誤動作を防止するため、励磁突入現象を抑制する、あるいはこの現象が発生しても保護装置が誤動作しない設備設計や運用を行っている。こうした対策を立てるため、変圧器の励磁突入現象を正確にシミュレーションすることが重要となる。 そこで、本研究では、励磁突入現象のシミュレーションを正確に行うため、励磁突入現象に及ぼす影響の大きい残留磁束に着目し、変圧器端子電圧の実測データを用いて残留磁束の最大値のレベルを評価した。

研究の背景2 励磁突入現象のシミュレーションの際には、残留磁束の最大値を定常時の最大磁束の80%程度とすることが一般的である。しかしながら、変圧器を停止する際に実際に測定すると、残留磁束の最大値が80%近くに達するものはごく一部の変圧器のみである。残留磁束を大きく想定するほど、励磁突入電流が大きくなり、その抑制のための設備対策や運用対策の規模が大きくなってしまう。そこで、(一財)電力中央研究所および東北電力(株)と共同で、変電所で実際に運用されている変圧器等における残留磁束実測結果を評価した。

研究の概要3 変圧器鉄心の磁束と変圧器の端子電圧の間には(1)式の関係がある。

  

変圧器励磁突入現象シミュレーションの精度向上

フィールドデータ分析に基づく残留磁束最大値の評価

Accuracy Improvement of a Transformer Magnetizing Inrush Simulation Evaluation of the Residual Flux Maximum Based on the Field Data Analysis

(電力技術研究所 流通G 送変電T)

変電所の変圧器を課電する際に大電流が流れる励磁

突入現象により系統電圧の低下や保護装置の誤動作に

つながる可能性がある。その現象をシミュレーションす

るには変圧器鉄心の残留磁束を想定する必要がある。そ

こで、残留磁束を決定付ける要因とその最大値について、

実際に運用されている変圧器での実測結果から評価し

た。

はじめに

変圧器を電源に接続すると、変圧器に流入する励磁電

流は直ちに定常状態にならずに過渡現象を生じ、その大き

さは定格負荷電流の数倍にもなるため、電圧が低下する。

この電流は励磁突入電流と呼ばれている。第1図に励磁突

入電流波形および励磁突入現象の電圧波形の一例を示す。

第1図 変圧器課電時の励磁突入電流と電圧波形

電圧低下や保護装置の誤動作を防止するため、励磁突

入現象を抑制するような、あるいはこの現象が発生しても

保護装置が誤動作しないような設備設計や運用を行って

いる。こうした対策を立てるためには、変圧器の励磁突入

現象を正確にシミュレーションすることが重要となる。

そこで、本研究では、励磁突入現象のシミュレーショ

ンを正確に行うために、励磁突入現象に及ぼす影響の大き

い残留磁束に着目し、変圧器端子電圧の実測データを用い

て残留磁束の最大値のレベルを評価した。

技術開発ニュース No.153/ 2015-8

(Transmission and Substation Team, Power System Group, Electric Power Research and Development Center)

Transformer energization may cause RMS voltage drops or malfunctions of the protection instrument. It's necessary to assume the residual flux of the iron core in the transformer to simulate the phenomenon. So the factor which determines the residual flux is estimated from practical measurement results of the transformer on the field. And the maximum of the residual flux was evaluated.

研究の背景

励磁突入現象のシミュレーションの際には、残留磁束

の最大値を定常時の最大磁束の80%程度とすることが一

般的である。しかしながら、変圧器を停止する際に実際に

測定すると、残留磁束の最大値が80%近くに達するものは

ごく一部の変圧器のみである。残留磁束を大きく想定する

ほど、励磁突入電流が大きくなり、その抑制のための設備

対策や運用対策の規模が大きくなってしまう。そこで、

(一財)電力中央研究所および東北電力(株)と共同で、

変電所で実際に運用されている変圧器と実験場の実規模

変圧器における残留磁束実測結果を評価した。

研究の概要

変圧器鉄心の磁束と変圧器の端子電圧の間には(1)式

の関係がある。

)1(dtdNe

ここで、e:変圧器端子電圧(V)、φ:変圧器鉄心の磁

束(Wb)、N:コイル巻数である。このため、鉄心の磁束

は端子電圧を積分することで計算により求めることがで

きる。

第2図 変圧器停止時の電圧波形と磁束波形

1 2

3

-120000.00

-80000.00

-40000.00

0.00

40000.00

80000.00

120000.00

-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

ab相

bc相

ca相

-300

-200

-100

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200

300

-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

ab相

bc相

ca相

電圧(V)

磁束(Wb)

時刻 t(s)

時刻 t(s)

(a)遮断器開放前後の電圧波形(実測値)

(b)遮断器開放前後の磁束波形(電圧実測値より計算)

遮断器開放

-2500

-2000

-1500

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1500

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2500

-0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

変圧器励磁電

流(A)

時間[s]

a相 b相 c相

定格負荷電流 レベル

210

215

220

225

230

-0.02 -0.01 0.00 0.01 0.02

変圧器端子電圧(kV)

時間(s)

a相 b相 c相

電圧低下

ここで、e:変圧器端子電圧(V)、φ:変圧器鉄心の磁束(Wb)、N:コイル巻数である。このため、鉄心の磁束は端子電圧を積分することで計算により求めることができる。

変圧器励磁突入現象シミュレーションの精度向上フィールドデータ分析に基づく残留磁束最大値の評価Improvement to the Accuracy of a Transformer Magnetizing Inrush SimulationEvaluation of the Residual Flux Maximum Based on the Field Data Analysis

(電力技術研究所 流通G 送変電T) 変電所の変圧器を課電する際に大電流が流れる励磁突入現象により系統電圧の低下や保護装置の誤動作を引き起こす可能性がある。その現象をシミュレーションするには変圧器鉄心の残留磁束を想定する必要がある。そこで、実際に運用されている変圧器等での実測結果から、残留磁束を決定付ける要因とその最大値について評価した。

(Transmission and Substation Team, Power System Group, Electric Power Research and Development Center)

Transformer energization may cause the RMS voltage to drop or a malfunction of the protection device. It is necessary to assume a value for the residual flux of the iron core in the transformer to simulate the phenomenon. The factor which determines the residual flux is estimated from the practical measurement results of the transformer in the field, and the maximum of the residual flux was evaluated.

第1図 変圧器課電時の励磁突入電流と電圧波形

-2500

-2000

-1500

-1000

-500

0

500

1000

1500

2000

2500

-0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

変圧器励磁電

流(A)

時間[s]

a相 b相 c相

定格負荷電流 レベル

210

215

220

225

230

-0.02 -0.01 0.00 0.01 0.02

変圧器端子電圧(kV)

時間(s)

a相 b相 c相

電圧低下

第2図 変圧器停止時の電圧波形と磁束波形

-120000.00

-80000.00

-40000.00

0.00

40000.00

80000.00

120000.00

-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

ab相

bc相

ca相

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300

-0.06 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

ab相

bc相

ca相

電圧(V)

磁束(Wb)

時刻 t(s)

時刻 t(s)

(a)遮断器開放前後の電圧波形(実測値)

(b)遮断器開放前後の磁束波形(電圧実測値より計算)

遮断器開放

Page 2: 技術開発ニュース153 - chuden.co.jp · Results of Research ctivities 研究成果 技術開発ニュース No.153No.153 /2015- 8 28 第2図は実測した電圧波形とそれを積分して求めた磁

Results of Research Activities 研究成果

28技術開発ニュース No.153/ 2015-8

 第2図は実測した電圧波形とそれを積分して求めた磁束波形の一例であり、磁束波形の収束値が残留磁束である。遮断器開放後、電圧は減衰し、t=0.05sにはノイズ以下まで減衰している。その結果、磁束も徐々に減衰し収束している(t=0.05s以降も続く脈動はノイズである)。電圧が徐々に減衰して零になるのは、停止後の変圧器に電気的に接続されているインダクタンスと対地静電容量の間で共振現象が生じ、抵抗分により減衰するためと考えられる。 電圧減衰の早さを表すため第3図のとおり遮断器開放後の電圧波形のピーク点(絶対値)を用いて指数関数近似を行い、近似式により遮断器開放前の電圧の1/e(eは自然対数)に到達するまでの時間を電圧減衰時定数τとした。

 遮断器開放後の電圧を、減衰する指数関数と正弦波の積であると仮定すると、残留磁束の最大値は電圧減衰時定数τと遮断器開放後の自由振動角周波数ωを用いて(2)式のように表すことができる(1)。

  

第2図は実測した電圧波形とそれを積分して求めた磁束

波形の一例であり、磁束波形の収束値が残留磁束である。

遮断器開放後、電圧は減衰し、t=0.05sにはノイズ以下

まで減衰している。その結果、磁束も徐々に減衰し収束し

ている(t=0.05s以降も続く脈動はノイズである)。電

圧が徐々に減衰して零になるのは、停止後の変圧器に電気

的に接続されているインダクタンスと対地静電容量の間

で共振現象が生じ、抵抗分により減衰するためと考えられ

る。

電圧減衰の早さを表すため第3図のとおり遮断器開放後

の電圧波形のピーク点(絶対値)を用いて指数関数近似を

行い、近似式により遮断器開放前の電圧の1/e(eは自然

対数)に到達するまでの時間を電圧減衰時定数τとした。

第3図 電圧減衰時定数の算出

遮断器開放後の電圧を、減衰する指数関数と正弦波の積

であると仮定すると、残留磁束の最大値は電圧減衰時定数

τと遮断器開放後の自由振動角周波数ωを用いて(2)式の

ように表すことができる(1)。

(2)

1

12max ・・・・・・・

r

(2)式の曲線と、変圧器停止時の実測結果から得られた

電圧減衰時定数と残留磁束の関係を第4図に示す(1)。ここ

で、遮断器開放後の自由振動角周波数ωは実測平均の

180.8(rad/s)とした。

第4図 電圧減衰時定数と残留磁束の関係

技術開発ニュース No.153/ 2015-8

残留磁束の実測結果は遮断器開放位相等によってばら

つくが、最大値は(2)式の曲線と同様に、減衰時定数を

横軸にとると右下がりの傾向があり、(2)式の曲線より

下側に分布している(1)。これより、変圧器停止後の最大

残留磁束は(2)式により概ね表現できたと考えられる。

以上より、変圧器停止回路内のインダクタンスと対地静

電容量によって生じた共振現象が最大残留磁束に深く関

与していることが裏付けられた。しかし、ここで用いた電

圧減衰時定数(τ)は運転開始後の変圧器回路で測定する

必要があることから事前の把握が困難である。そこで、変

電所の設計段階で知ることができて、共振現象に影響を及

ぼすと考えられる変圧器停止回路内の対地静電容量(C)(2)を変圧器毎に確認し、Cと残留磁束(φr)の関係につ

いて調査した(第5図)。第4図でτが最も小さい変圧器は

Cも最小であり、φrは70%(0.7p.u.)を超えていたが、

サージアブソーバ(SA)等の大きなC(0.1μF以上)

が接続されたケースではτも大きくなりΦrは60%を超

えていないことがわかった。

第5図 対地静電容量と残留磁束の関係

まとめ

実際に運用されている変圧器での実測結果を評価した

結果、変圧器停止回路内の対地静電容量に応じて変圧器毎

に最大残留磁束を想定することにつながる知見が得られ

た。今後は対地静電容量の大きいケースにおける最大残留

磁束想定の更なる精度向上について検討し、変圧器励磁突

入現象シミュレーションの精度向上につなげたい。

参考文献

(1)山口 哲一他「電力用変圧器停止時の電圧減衰時定数と残留磁

束の関係」平成26年電気学会電力・エネルギー部門大会 No.302

(2014)

(2)長谷 良秀他「変圧器残留磁束の実態解明と励磁突入電流抑制

法」電気学会論文誌B Vol.133 No.7(2013)

4

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

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0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

残留

磁束

Φr(

p.u.)

静電容量C(μF)

500kV-1 500kV-2 500kV-3 275 kV 154kV 66kV-1

66kV-2 66kV-3 33kV 275kV-2 275kV-3 500kV-4

0

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80000

120000

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

τ A/e

遮断器開放

電圧(V)

時刻(s)

A

0.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 100

残留

磁束

Φr(

p.u.)

電圧減衰時定数τ(ms)

●500kV-1 ●500kV-2 ●500kV-3 ×275kV ■154kV

◆66kV-1 ◆66kV-2 ◆66kV-3 ▲33kV

計算値

執筆者/三宅勝幸

第2図は実測した電圧波形とそれを積分して求めた磁束

波形の一例であり、磁束波形の収束値が残留磁束である。

遮断器開放後、電圧は減衰し、t=0.05sにはノイズ以下

まで減衰している。その結果、磁束も徐々に減衰し収束し

ている(t=0.05s以降も続く脈動はノイズである)。電

圧が徐々に減衰して零になるのは、停止後の変圧器に電気

的に接続されているインダクタンスと対地静電容量の間

で共振現象が生じ、抵抗分により減衰するためと考えられ

る。

電圧減衰の早さを表すため第3図のとおり遮断器開放後

の電圧波形のピーク点(絶対値)を用いて指数関数近似を

行い、近似式により遮断器開放前の電圧の1/e(eは自然

対数)に到達するまでの時間を電圧減衰時定数τとした。

第3図 電圧減衰時定数の算出

遮断器開放後の電圧を、減衰する指数関数と正弦波の積

であると仮定すると、残留磁束の最大値は電圧減衰時定数

τと遮断器開放後の自由振動角周波数ωを用いて(2)式の

ように表すことができる(1)。

(2)

1

12max ・・・・・・・

r

(2)式の曲線と、変圧器停止時の実測結果から得られた

電圧減衰時定数と残留磁束の関係を第4図に示す(1)。ここ

で、遮断器開放後の自由振動角周波数ωは実測平均の

180.8(rad/s)とした。

第4図 電圧減衰時定数と残留磁束の関係

技術開発ニュース No.153/ 2015-8

残留磁束の実測結果は遮断器開放位相等によってばら

つくが、最大値は(2)式の曲線と同様に、減衰時定数を

横軸にとると右下がりの傾向があり、(2)式の曲線より

下側に分布している(1)。これより、変圧器停止後の最大

残留磁束は(2)式により概ね表現できたと考えられる。

以上より、変圧器停止回路内のインダクタンスと対地静

電容量によって生じた共振現象が最大残留磁束に深く関

与していることが裏付けられた。しかし、ここで用いた電

圧減衰時定数(τ)は運転開始後の変圧器回路で測定する

必要があることから事前の把握が困難である。そこで、変

電所の設計段階で知ることができて、共振現象に影響を及

ぼすと考えられる変圧器停止回路内の対地静電容量(C)(2)を変圧器毎に確認し、Cと残留磁束(φr)の関係につ

いて調査した(第5図)。第4図でτが最も小さい変圧器は

Cも最小であり、φrは70%(0.7p.u.)を超えていたが、

サージアブソーバ(SA)等の大きなC(0.1μF以上)

が接続されたケースではτも大きくなりΦrは60%を超

えていないことがわかった。

第5図 対地静電容量と残留磁束の関係

まとめ

実際に運用されている変圧器での実測結果を評価した

結果、変圧器停止回路内の対地静電容量に応じて変圧器毎

に最大残留磁束を想定することにつながる知見が得られ

た。今後は対地静電容量の大きいケースにおける最大残留

磁束想定の更なる精度向上について検討し、変圧器励磁突

入現象シミュレーションの精度向上につなげたい。

参考文献

(1)山口 哲一他「電力用変圧器停止時の電圧減衰時定数と残留磁

束の関係」平成26年電気学会電力・エネルギー部門大会 No.302

(2014)

(2)長谷 良秀他「変圧器残留磁束の実態解明と励磁突入電流抑制

法」電気学会論文誌B Vol.133 No.7(2013)

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0.1

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残留

磁束

Φr(

p.u.)

静電容量C(μF)

500kV-1 500kV-2 500kV-3 275 kV 154kV 66kV-1

66kV-2 66kV-3 33kV 275kV-2 275kV-3 500kV-4

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τ A/e

遮断器開放

電圧(V)

時刻(s)

A

0.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 100

残留

磁束

Φr(

p.u.)

電圧減衰時定数τ(ms)

●500kV-1 ●500kV-2 ●500kV-3 ×275kV ■154kV

◆66kV-1 ◆66kV-2 ◆66kV-3 ▲33kV

計算値

執筆者/三宅勝幸

第2図は実測した電圧波形とそれを積分して求めた磁束

波形の一例であり、磁束波形の収束値が残留磁束である。

遮断器開放後、電圧は減衰し、t=0.05sにはノイズ以下

まで減衰している。その結果、磁束も徐々に減衰し収束し

ている(t=0.05s以降も続く脈動はノイズである)。電

圧が徐々に減衰して零になるのは、停止後の変圧器に電気

的に接続されているインダクタンスと対地静電容量の間

で共振現象が生じ、抵抗分により減衰するためと考えられ

る。

電圧減衰の早さを表すため第3図のとおり遮断器開放後

の電圧波形のピーク点(絶対値)を用いて指数関数近似を

行い、近似式により遮断器開放前の電圧の1/e(eは自然

対数)に到達するまでの時間を電圧減衰時定数τとした。

第3図 電圧減衰時定数の算出

遮断器開放後の電圧を、減衰する指数関数と正弦波の積

であると仮定すると、残留磁束の最大値は電圧減衰時定数

τと遮断器開放後の自由振動角周波数ωを用いて(2)式の

ように表すことができる(1)。

(2)

1

12max ・・・・・・・

r

(2)式の曲線と、変圧器停止時の実測結果から得られた

電圧減衰時定数と残留磁束の関係を第4図に示す(1)。ここ

で、遮断器開放後の自由振動角周波数ωは実測平均の

180.8(rad/s)とした。

第4図 電圧減衰時定数と残留磁束の関係

技術開発ニュース No.153/ 2015-8

残留磁束の実測結果は遮断器開放位相等によってばら

つくが、最大値は(2)式の曲線と同様に、減衰時定数を

横軸にとると右下がりの傾向があり、(2)式の曲線より

下側に分布している(1)。これより、変圧器停止後の最大

残留磁束は(2)式により概ね表現できたと考えられる。

以上より、変圧器停止回路内のインダクタンスと対地静

電容量によって生じた共振現象が最大残留磁束に深く関

与していることが裏付けられた。しかし、ここで用いた電

圧減衰時定数(τ)は運転開始後の変圧器回路で測定する

必要があることから事前の把握が困難である。そこで、変

電所の設計段階で知ることができて、共振現象に影響を及

ぼすと考えられる変圧器停止回路内の対地静電容量(C)(2)を変圧器毎に確認し、Cと残留磁束(φr)の関係につ

いて調査した(第5図)。第4図でτが最も小さい変圧器は

Cも最小であり、φrは70%(0.7p.u.)を超えていたが、

サージアブソーバ(SA)等の大きなC(0.1μF以上)

が接続されたケースではτも大きくなりΦrは60%を超

えていないことがわかった。

第5図 対地静電容量と残留磁束の関係

まとめ

実際に運用されている変圧器での実測結果を評価した

結果、変圧器停止回路内の対地静電容量に応じて変圧器毎

に最大残留磁束を想定することにつながる知見が得られ

た。今後は対地静電容量の大きいケースにおける最大残留

磁束想定の更なる精度向上について検討し、変圧器励磁突

入現象シミュレーションの精度向上につなげたい。

参考文献

(1)山口 哲一他「電力用変圧器停止時の電圧減衰時定数と残留磁

束の関係」平成26年電気学会電力・エネルギー部門大会 No.302

(2014)

(2)長谷 良秀他「変圧器残留磁束の実態解明と励磁突入電流抑制

法」電気学会論文誌B Vol.133 No.7(2013)

4

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

残留

磁束

Φr(

p.u.)

静電容量C(μF)

500kV-1 500kV-2 500kV-3 275 kV 154kV 66kV-1

66kV-2 66kV-3 33kV 275kV-2 275kV-3 500kV-4

0

40000

80000

120000

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

τ A/e

遮断器開放

電圧(V)

時刻(s)

A

0.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 100

残留

磁束

Φr(

p.u.)

電圧減衰時定数τ(ms)

●500kV-1 ●500kV-2 ●500kV-3 ×275kV ■154kV

◆66kV-1 ◆66kV-2 ◆66kV-3 ▲33kV

計算値

執筆者/三宅勝幸

第2図は実測した電圧波形とそれを積分して求めた磁束

波形の一例であり、磁束波形の収束値が残留磁束である。

遮断器開放後、電圧は減衰し、t=0.05sにはノイズ以下

まで減衰している。その結果、磁束も徐々に減衰し収束し

ている(t=0.05s以降も続く脈動はノイズである)。電

圧が徐々に減衰して零になるのは、停止後の変圧器に電気

的に接続されているインダクタンスと対地静電容量の間

で共振現象が生じ、抵抗分により減衰するためと考えられ

る。

電圧減衰の早さを表すため第3図のとおり遮断器開放後

の電圧波形のピーク点(絶対値)を用いて指数関数近似を

行い、近似式により遮断器開放前の電圧の1/e(eは自然

対数)に到達するまでの時間を電圧減衰時定数τとした。

第3図 電圧減衰時定数の算出

遮断器開放後の電圧を、減衰する指数関数と正弦波の積

であると仮定すると、残留磁束の最大値は電圧減衰時定数

τと遮断器開放後の自由振動角周波数ωを用いて(2)式の

ように表すことができる(1)。

(2)

1

12max ・・・・・・・

r

(2)式の曲線と、変圧器停止時の実測結果から得られた

電圧減衰時定数と残留磁束の関係を第4図に示す(1)。ここ

で、遮断器開放後の自由振動角周波数ωは実測平均の

180.8(rad/s)とした。

第4図 電圧減衰時定数と残留磁束の関係

技術開発ニュース No.153/ 2015-8

残留磁束の実測結果は遮断器開放位相等によってばら

つくが、最大値は(2)式の曲線と同様に、減衰時定数を

横軸にとると右下がりの傾向があり、(2)式の曲線より

下側に分布している(1)。これより、変圧器停止後の最大

残留磁束は(2)式により概ね表現できたと考えられる。

以上より、変圧器停止回路内のインダクタンスと対地静

電容量によって生じた共振現象が最大残留磁束に深く関

与していることが裏付けられた。しかし、ここで用いた電

圧減衰時定数(τ)は運転開始後の変圧器回路で測定する

必要があることから事前の把握が困難である。そこで、変

電所の設計段階で知ることができて、共振現象に影響を及

ぼすと考えられる変圧器停止回路内の対地静電容量(C)(2)を変圧器毎に確認し、Cと残留磁束(φr)の関係につ

いて調査した(第5図)。第4図でτが最も小さい変圧器は

Cも最小であり、φrは70%(0.7p.u.)を超えていたが、

サージアブソーバ(SA)等の大きなC(0.1μF以上)

が接続されたケースではτも大きくなりΦrは60%を超

えていないことがわかった。

第5図 対地静電容量と残留磁束の関係

まとめ

実際に運用されている変圧器での実測結果を評価した

結果、変圧器停止回路内の対地静電容量に応じて変圧器毎

に最大残留磁束を想定することにつながる知見が得られ

た。今後は対地静電容量の大きいケースにおける最大残留

磁束想定の更なる精度向上について検討し、変圧器励磁突

入現象シミュレーションの精度向上につなげたい。

参考文献

(1)山口 哲一他「電力用変圧器停止時の電圧減衰時定数と残留磁

束の関係」平成26年電気学会電力・エネルギー部門大会 No.302

(2014)

(2)長谷 良秀他「変圧器残留磁束の実態解明と励磁突入電流抑制

法」電気学会論文誌B Vol.133 No.7(2013)

4

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

残留

磁束

Φr(

p.u.)

静電容量C(μF)

500kV-1 500kV-2 500kV-3 275 kV 154kV 66kV-1

66kV-2 66kV-3 33kV 275kV-2 275kV-3 500kV-4

0

40000

80000

120000

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

τ A/e

遮断器開放

電圧(V)

時刻(s)

A

0.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 100

残留

磁束

Φr(

p.u.)

電圧減衰時定数τ(ms)

●500kV-1 ●500kV-2 ●500kV-3 ×275kV ■154kV

◆66kV-1 ◆66kV-2 ◆66kV-3 ▲33kV

計算値

執筆者/三宅勝幸

(2)式の曲線と、変圧器停止時の実測結果から得られた電圧減衰時定数と残留磁束の関係を第4図に示す(1)。ここで、遮断器開放後の自由振動角周波数ωは実測平均の180.8(rad/s)とした。

 残留磁束の実測結果は遮断器開放位相等によってばらつくが、最大値は(2)式の曲線と同様に、減衰時定数を横軸にとると右下がりの傾向があり、(2)式の曲線より下側に分布している(1)。これより、変圧器停止後の最大残留磁束は(2)式により概ね表現できたと考えられる。 以上より、変圧器停止回路内のインダクタンスと対地静電容量によって生じた共振現象が最大残留磁束に深く関与していることが裏付けられた。しかし、ここで用いた電圧減衰時定数(τ)は運転開始後の変圧器回路で測定する必要があることから事前の把握が困難である。そこで、変電所の設計段階で知ることができて、共振現象に影響を及ぼすと考えられる変圧器停止回路内の対地静電容量(C)(2)を変圧器毎に確認し、Cと残留磁束(φr)の関係について調査した(第5図)。第4図でτが最も小さい変圧器はCも最小であり、φrは70%(0.7p.u.)を超えていたが、サージアブソーバ(SA)等の大きなC(0.1μF以上)が接続されたケースではτも大きくなりφrは60%を超えていないことがわかった。

まとめ4 実際に運用されている変圧器等での実測結果を評価し、変圧器停止回路内の対地静電容量に応じて変圧器毎の最大残留磁束を想定した。今後は最大残留磁束想定の更なる精度向上について検討し、変圧器励磁突入現象シミュレーションの精度向上につなげたい。

参考文献(1) 山口 哲一他「電力用変圧器停止時の電圧減衰時定数と残留

磁束の関係」平成26年電気学会電力・エネルギー部門大会 No.302(2014)

(2) 長谷 良秀他「変圧器残留磁束の実態解明と励磁突入電流抑制法」電気学会論文誌B Vol.133 No.7(2013)

執筆者/三宅勝幸

第3図 電圧減衰時定数の算出

0

40000

80000

120000

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

τ A/e

遮断器開放

電圧(V)

時刻(s)

A

第4図 電圧減衰時定数と残留磁束の関係

0.001

0.01

0.1

1

0.1 1 10 100

残留

磁束

Φr(

p.u.)

電圧減衰時定数τ(ms)

●500kV-1 ●500kV-2 ●500kV-3 ×275kV ■154kV

◆66kV-1 ◆66kV-2 ◆66kV-3 ▲33kV

計算値

第5図 対地静電容量と残留磁束の関係

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

残留

磁束

Φr(p.u.)

静電容量C(μF)

500kV-1 500kV-2 500kV-3 275 kV 154kV 66kV-1

66kV-2 66kV-3 33kV 275kV-2 275kV-3 500kV-4