腰椎椎体間固定術術後の骨癒合評価における トモシ...

1
31 30 GE today November 2012 はじめに 腰椎椎体間固定術は、腰椎不安定症を有する脊柱管狭窄症で 広く行われている instrumentation 手術であり、posterior lumbar interbody fusion(PLIF)や transforaminal lumbar interbody fusion (TLIF)などがある。これらは、pedicle screw(PS)と局所骨など を挿入した椎体間 cage を用いて、椎体の安定性を確保することを 目的としている。これらの椎体間骨癒合評価は、単純 X 線や CT を用いて行われている。単純 X 線では側面の動態撮影における椎 体可動性や、pedicle screw 周囲の radiolucent zone の有無について、 CT では multi planar reconstruction(MPR)における cage 内の移植 骨と椎体との骨連続性などが骨癒合判定に用いられている。 我々の施設は、2011年にフラットパネルディテクタ搭載 Discovery XR650 を導入した。本装置で使用できるアプリケーショ ンとして、オートイメージペースト(長尺撮影)、デュアルエナジー サブトラクション及び Volume RAD(トモシンセシス)が使用可能 である。トモシンセシスは、金属デバイスに起因するアーチファ クトが少なく、金属周囲の骨構造などの観察に優れており、整形 外科領域における様々な有用性が報告されている。腰椎椎体間固 定術術後にトモシンセシス及び CT を撮影し、骨癒合判定に関連す る項目について比較検討した。 トモシンセシスの撮影方法と画像評価 対象は、腰椎椎体間固定術術後にトモシンセシス及び CT を撮 影した 5 例である。トモシンセシスは臥位用のテーブルを選択し、 側臥位にて通常の腰椎側面像と同様の体位で行った。トモシンセ シスにおける撮影条件を決定するためのスカウト像は、通常の一 般撮影画像として代用している。 撮影条件は、本装置に導入されている腰椎側面トモシンセシス の撮影条件を改良して使用した(振り角 30°、収集数 60、管電圧 90kV、Dose ratio 4)。画像評価は脊椎外科医3名の合議のもと、3 段階のスコアリングを行った。 まず、PS 挿入部における screw と骨との連続性について、アー チファクトなどの障害陰影がなく評価可能であるものを 3 点。一 部アーチファクトがあるものの評価可能、2 点。評価不能を 1 点 とした。次に椎体間 cage 内の移植骨と椎体との連続性についての 評価も同様に行った。 トモシンセシスとCTの臨床画像 PS 挿入部における screw と骨との連続性及び椎体間 cage 内の移 植骨と椎体の連続性の評価におけるトモシンセシス及び CT のスコ アリングの結果を示す(図1) 。縦軸をスコアとし、5例の平均点 を示す。PS 挿入部では、トモシンセシスと CT の結果はほぼ同等 であったが、椎体間 cage 内の評価はやや CT の方がスコアが高い 結果となった。以下、一部、症例を提示する。 症例 1…70 歳代、女性、3椎間TLIF 術後 PS 挿入部はトモシンセシスで PS 周囲に黒いラインが描出され、 アーチファクトの存在が示唆されたため、2点と評価した。CT で は、ビームハードニングのため、screw 周囲の観察が困難であるた め、1点とした(図2) 。更に、椎体間 cage 内の移植骨は、トモ シンセシスでは、移植骨と椎体の骨癒合の評価が不可能なため1 点とした。CT は、cage 内の移植骨と椎体の連続性が明瞭に評価可 能であったため、3点とした(図3) 症例 2…50歳代、女性、1椎間 TLIF術後 PS 挿入部は、トモシンセシスで PS 周囲に黒いラインが描出さ れたため、2点と評価した。また、CT では、PS 周囲が良好に観 察できたため、3点とした(図4) 。さらに椎体間 cage 内は、ト モシンセシスで移植骨と椎体の骨癒合の評価が不可能なため1点 とした。CT では、移植骨と椎体の連続性が明瞭に評価可能であっ たため、3点とした(図5) トモシンセシスの有用性と課題 脊椎 instrumentation 手術後の CT の問題点として、金属デバイス 腰椎椎体間固定術術後の骨癒合評価における トモシンセシスとCTの比較 札幌医科大学附属病院 放射線部  札幌医科大学医学部 整形外科学講座 高島弘幸      竹林庸雄 によるメタルアーチファクトがあげられる。本研究では、CT にお ける PS 挿入部の描出能低下の原因として PS が scan slice 面と異 なる角度の場合に、ビームハードニングが顕著になったことがあ げられる。一方、トモシンセシスはCTと比較し、メタルアーチファ クトが少ないことが知られているが、金属デバイス周囲では X 線 不透過部位にデータ欠損が生じ、黒いラインとなって現れること が明らかとなった。更に、椎体間 cage 内の移植骨と椎体の連続性 を評価することができず、パーシャルボリューム効果が大きいこ とが原因として考えられた。しかし、本研究の結果から、トモシ ンセシスは、椎体間 cage 内の評価は十分ではないが、PS 周囲の radiolucent zone の有無の評価は CT と同等であるため、検査目的 によっては使用が可能であることが示唆された。更に、トモシン セシスは、検査予約などの必要がない通常の X 線撮影に追加して 行うことができることから簡便であり、CT に比べ、被ばく線量を 抑制できる利点もある。更に、今後当院で用いられる椎体間cageは、 PEEK(ピーク:ポリエーテルエーテルケトン) (図6)が多くなる ため、今後はトモシンセシスによる骨癒合評価も可能であると考 えられる。ただし、本研究の問題点として、症例数が少ないこと、 更に、多方向の画像評価はしておらず、トモシンセシスでは側面像、 CT では矢状断像のみの評価というのがあげられる。CT では一度 の撮影で MPR が可能であるが、トモシンセシスの場合、多方向か らの観察が必要な場合には、その方向ごとに撮影しなければなら ない。しかし、そのような多方向のトモシンセシスは、現状では 画像再構成などに時間がかかりすぎるため、今後の改善が期待さ れる。 おわりに 腰椎椎体間固定術術後の骨癒合評価に関して、トモシンセシ スと CT について比較検討した。トモシンセシスは、PS 周囲の radiolucent zone の評価は CT と同等であるが、椎体間 cage 内の移 植骨と椎体の連続性の評価が不可能であった。トモシンセシスは 簡便であり、椎体間 cage が PEEK の場合には、骨癒合評価ツール として有用であることが示唆された。 参考文献 1)塩見 剛:トモシンセシスの原理と応用〜 FPD が生み出した新技術〜 , 医用画像情報学会雑誌 , Vol.24 No.2(2007). 2)油原俊之 , 町田治彦 , 田村美恵子ほか:トモシンセシスの撮影パラメータと膝関節への適応 , 映像情報メディカル , Vol. 10 (2009). 3) James T Dobbins: Digital X-ray Tomosynthesis: Current state of the art and clinical potential, Physics in Medical Biology, Vol. 48 (2003). 販売名称:据置型デジタル式汎用 X 線診断装置 Discovery 医療機器製造販売認証番号:221ACBZX00068000 Discovery XR650 は上記医療機器の類型「Discovery XR650」 図 1:トモシンセシスと CT のスコアリング評価 (左)pedicle screw 挿入部は、トモシンセシスと CTは、ほぼ同等のスコアであった。/(右)椎 体間 cage 内の評価は、トモシンセシスより CT の方が高いスコアであった。 トモシンセシス pedicle screw 挿入部 CT CT トモシンセシス 椎体間 cage 内 score score 図 4:50 歳代、女性、TLIF術後(PS 挿入部) (左)トモシンセシスでは、PS周囲に黒いラインが描出された(矢頭)/(右)CTでは、PS周囲が 良好に観察できた 図 2:70 歳代、女性、TLIF術後(PS 挿入部) (左)トモシンセシスでは、PS周囲に黒いラインが描出された(矢頭)/(右)CTでは、ビームハー ドニングのため、screw 周囲の観察が困難であった(矢印) 図 5:50 歳代、女性、TLIF 術後(椎体間 cage 内) (左)トモシンセシスでは、移植骨と椎体の骨癒合の評価が不可能であった/(右)CTでは、移植 骨と椎体の連続性が明瞭に評価可能であった 図 6:椎体間 cage が PEEK の場合の単純 X 線像 図 3:70 歳代、女性、TLIF 術後(椎体間 cage 内) (左)トモシンセシスでは、移植骨と椎体の連続性の評価が不可能であった/(右)CTでは、cage 内の移植骨と椎体の連続性が明瞭に評価可能であった

Upload: others

Post on 07-Apr-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 腰椎椎体間固定術術後の骨癒合評価における トモシ …/media/Downloads/JP/...3) James T Dobbins: Digital X-ray Tomosynthesis: Current state of the art and clinical

3130 GE today November 2012

はじめに

 腰椎椎体間固定術は、腰椎不安定症を有する脊柱管狭窄症で

広く行われている instrumentation 手術であり、posterior lumbar

interbody fusion(PLIF)や transforaminal lumbar interbody fusion

(TLIF)などがある。これらは、pedicle screw(PS)と局所骨など

を挿入した椎体間 cage を用いて、椎体の安定性を確保することを

目的としている。これらの椎体間骨癒合評価は、単純 X 線や CT

を用いて行われている。単純 X 線では側面の動態撮影における椎

体可動性や、pedicle screw 周囲の radiolucent zone の有無について、

CT では multi planar reconstruction(MPR)における cage 内の移植

骨と椎体との骨連続性などが骨癒合判定に用いられている。

 我々の施設は、2011 年にフラットパネルディテクタ搭載

Discovery XR650 を導入した。本装置で使用できるアプリケーショ

ンとして、オートイメージペースト(長尺撮影)、デュアルエナジー

サブトラクション及び Volume RAD(トモシンセシス)が使用可能

である。トモシンセシスは、金属デバイスに起因するアーチファ

クトが少なく、金属周囲の骨構造などの観察に優れており、整形

外科領域における様々な有用性が報告されている。腰椎椎体間固

定術術後にトモシンセシス及び CT を撮影し、骨癒合判定に関連す

る項目について比較検討した。

トモシンセシスの撮影方法と画像評価

 対象は、腰椎椎体間固定術術後にトモシンセシス及び CT を撮

影した 5 例である。トモシンセシスは臥位用のテーブルを選択し、

側臥位にて通常の腰椎側面像と同様の体位で行った。トモシンセ

シスにおける撮影条件を決定するためのスカウト像は、通常の一

般撮影画像として代用している。

 撮影条件は、本装置に導入されている腰椎側面トモシンセシス

の撮影条件を改良して使用した(振り角 30°、収集数 60、管電圧

90kV、Dose ratio 4)。画像評価は脊椎外科医 3 名の合議のもと、3

段階のスコアリングを行った。

 まず、PS 挿入部における screw と骨との連続性について、アー

チファクトなどの障害陰影がなく評価可能であるものを 3 点。一

部アーチファクトがあるものの評価可能、2 点。評価不能を 1 点

とした。次に椎体間 cage 内の移植骨と椎体との連続性についての

評価も同様に行った。

トモシンセシスとCTの臨床画像

 PS 挿入部における screw と骨との連続性及び椎体間 cage 内の移

植骨と椎体の連続性の評価におけるトモシンセシス及び CT のスコ

アリングの結果を示す(図1)。縦軸をスコアとし、5例の平均点

を示す。PS 挿入部では、トモシンセシスと CT の結果はほぼ同等

であったが、椎体間 cage 内の評価はやや CT の方がスコアが高い

結果となった。以下、一部、症例を提示する。

症例 1…70 歳代、女性、3椎間TLIF 術後

 PS 挿入部はトモシンセシスで PS 周囲に黒いラインが描出され、

アーチファクトの存在が示唆されたため、2点と評価した。CT で

は、ビームハードニングのため、screw 周囲の観察が困難であるた

め、1点とした(図2)。更に、椎体間 cage 内の移植骨は、トモ

シンセシスでは、移植骨と椎体の骨癒合の評価が不可能なため1

点とした。CT は、cage 内の移植骨と椎体の連続性が明瞭に評価可

能であったため、3点とした(図3)。

症例 2…50 歳代、女性、1椎間 TLIF 術後

 PS 挿入部は、トモシンセシスで PS 周囲に黒いラインが描出さ

れたため、2点と評価した。また、CT では、PS 周囲が良好に観

察できたため、3点とした(図4)。さらに椎体間 cage 内は、ト

モシンセシスで移植骨と椎体の骨癒合の評価が不可能なため1点

とした。CT では、移植骨と椎体の連続性が明瞭に評価可能であっ

たため、3点とした(図5)。

トモシンセシスの有用性と課題

 脊椎 instrumentation 手術後の CT の問題点として、金属デバイス

腰椎椎体間固定術術後の骨癒合評価におけるトモシンセシスとCTの比較札幌医科大学附属病院 放射線部  札幌医科大学医学部 整形外科学講座

高島弘幸      竹林庸雄

によるメタルアーチファクトがあげられる。本研究では、CT にお

ける PS 挿入部の描出能低下の原因として PS が scan slice 面と異

なる角度の場合に、ビームハードニングが顕著になったことがあ

げられる。一方、トモシンセシスは CT と比較し、メタルアーチファ

クトが少ないことが知られているが、金属デバイス周囲では X 線

不透過部位にデータ欠損が生じ、黒いラインとなって現れること

が明らかとなった。更に、椎体間 cage 内の移植骨と椎体の連続性

を評価することができず、パーシャルボリューム効果が大きいこ

とが原因として考えられた。しかし、本研究の結果から、トモシ

ンセシスは、椎体間 cage 内の評価は十分ではないが、PS 周囲の

radiolucent zone の有無の評価は CT と同等であるため、検査目的

によっては使用が可能であることが示唆された。更に、トモシン

セシスは、検査予約などの必要がない通常の X 線撮影に追加して

行うことができることから簡便であり、CT に比べ、被ばく線量を

抑制できる利点もある。更に、今後当院で用いられる椎体間cageは、

PEEK(ピーク:ポリエーテルエーテルケトン)(図6)が多くなる

ため、今後はトモシンセシスによる骨癒合評価も可能であると考

えられる。ただし、本研究の問題点として、症例数が少ないこと、

更に、多方向の画像評価はしておらず、トモシンセシスでは側面像、

CT では矢状断像のみの評価というのがあげられる。CT では一度

の撮影で MPR が可能であるが、トモシンセシスの場合、多方向か

らの観察が必要な場合には、その方向ごとに撮影しなければなら

ない。しかし、そのような多方向のトモシンセシスは、現状では

画像再構成などに時間がかかりすぎるため、今後の改善が期待さ

れる。

おわりに

 腰椎椎体間固定術術後の骨癒合評価に関して、トモシンセシ

スと CT について比較検討した。トモシンセシスは、PS 周囲の

radiolucent zone の評価は CT と同等であるが、椎体間 cage 内の移

植骨と椎体の連続性の評価が不可能であった。トモシンセシスは

簡便であり、椎体間 cage が PEEK の場合には、骨癒合評価ツール

として有用であることが示唆された。

参考文献

1)塩見 剛:トモシンセシスの原理と応用〜 FPD が生み出した新技術〜 , 医用画像情報学会雑誌 , Vol.24 No.2(2007).

2)油原俊之 , 町田治彦 , 田村美恵子ほか:トモシンセシスの撮影パラメータと膝関節への適応 , 映像情報メディカル , Vol. 10 (2009).

3) James T Dobbins: Digital X-ray Tomosynthesis: Current state of the art and clinical potential, Physics in Medical Biology, Vol. 48 (2003).

販売名称:据置型デジタル式汎用 X 線診断装置 Discovery 医療機器製造販売認証番号:221ACBZX00068000

Discovery XR650 は上記医療機器の類型「Discovery XR650」

図 1:トモシンセシスと CT のスコアリング評価(左)pedicle screw 挿入部は、トモシンセシスと CT は、ほぼ同等のスコアであった。/(右)椎

体間 cage 内の評価は、トモシンセシスより CT の方が高いスコアであった。

トモシンセシス

pedicle screw 挿入部

CT CTトモシンセシス

椎体間 cage 内

scor

e

scor

e

図 4:50 歳代、女性、TLIF 術後(PS 挿入部)(左)トモシンセシスでは、PS 周囲に黒いラインが描出された(矢頭)/(右)CT では、PS 周囲が

良好に観察できた

図 2:70 歳代、女性、TLIF 術後(PS 挿入部)(左)トモシンセシスでは、PS 周囲に黒いラインが描出された(矢頭)/(右)CT では、ビームハー

ドニングのため、screw 周囲の観察が困難であった(矢印)

図 5:50 歳代、女性、TLIF 術後(椎体間 cage 内)(左)トモシンセシスでは、移植骨と椎体の骨癒合の評価が不可能であった/(右)CT では、移植

骨と椎体の連続性が明瞭に評価可能であった

図 6:椎体間 cage が PEEK の場合の単純 X 線像

図 3:70 歳代、女性、TLIF 術後(椎体間 cage 内)(左)トモシンセシスでは、移植骨と椎体の連続性の評価が不可能であった/(右)CT では、cage

内の移植骨と椎体の連続性が明瞭に評価可能であった