高分解能観察を利用した溶融 zn clarification of …...板製造ライン(cgl:...

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http://support.spring8.or.jp/Report_JSR/PDF_JSR_30A/2018A1551.pdf 2018A1551 BL20XU Zn Clarification of Crystallization and Growth Behavior of Intermetallic Compounds in Molten Zinc Alloys with the Use of Direct Observation Technique 佐々木 a , 翔生 a , 福田 一徳 b , 拓弥 b , 安田 秀幸 c Ryo Sasaki a , Sho Katsura a , Kazunori Fukuda b , Takuya Mori b , Hideyuki Yasuda c a (株)神戸製鋼所, b )コベルコ科研, c 京都大学 a Kobe Steel. Ltd., b Kobelco Research Institute. Inc., c Kyoto University 自動車・建材向けの薄鋼板に防食目的の Zn めっき層を工業的に形成させる、溶融 Zn めっき鋼 板製造ラインCGL: Continuous Galvanizing Lineの溶融 Zn 浴中において発生する固形の金属間化 合物の晶出・成長挙動を把握するために、晶出過程のその場観察を行った。Al, Fe 成分を含む Zn 合金を高真空下で溶融し、等降温速度で冷却する過程において、過飽和となった浴中成分が固形 の晶出物として核生成・成長する過程を、等時間間隔で透過像を撮影した。結果として、溶融 Zn 中における Fe-Al および Fe-Zn 金属間化合物の晶出・成長挙動を直接観察することが可能であり、 これら単独の晶出挙動に加えて、異なる金属間化合物種の溶融 Zn 中における相互作用に関する 知見が得られた。 溶融 Zn めっき、X 線イメージング、Fe-Al 化合物、Fe-Zn 化合物、晶出、成長 自動車および建材向けの鋼板に耐食性を付与する目的で、製鉄所の溶融 Zn めっき鋼板製造ラ インCGLにおいて溶融 Zn めっき鋼板の製造が行われている。 CGL の溶融 Zn 浴は、鋼板FeZn との間の反応を制御する目的で Al が添加されているほかに、鋼板から溶出する Fe 成分も含ま れていることから、主に Zn-Al-Fe 3 成分からなっており、これらの成分が反応することによっ て生じる固形の金属間化合物が存在している。溶融 Zn 浴中における各種の金属間化合物の熱力 学的安定性については、種々の先行研究が行われている[1][2]。これらの金属間化合物が溶融 Zn 浴中に堆積すると、製品や設備に不良を発生させる恐れがあるため、その発生挙動の把握や制御 が重要である。このため、溶融 Zn 中におけるこれら金属間化合物の晶出挙動およびそのメカニズ ムを把握するために、溶融 Zn の冷却過程における晶出物生成および成長挙動のその場観察を試 みた。 晶出過程の X 線イメージング実験は、SPring-8 BL20XU 2 実験ハッチにて実施した。X 線の 上流側から、光源、モノクロメーター、X 線シャッター・スリット、溶解炉・試料、検出器高速 マイクロイメージング装置可視光変換型 CCD カメラ、空間分解能: 0.5 μm/ピクセル、時間分解能: 1-10fpsを配置した。溶解炉および試料はチャンバー内に配置されており、雰囲気制御が可能とな っている。また、本実験では X 線が試料を通過する際の元素や密度に依存する吸収量の差をコン トラストとして検出するイメージングを行っており、チャンバーおよび溶解炉には X 線の光路上 に窓を設け、入射した X 線は主に試料ならびにそれを保持するセルで吸収された後、検出器 に到達するよう設計されている[3]。なお、X 線エネルギーは 15-30 keV の範囲で調整可能である が、Zn 合金の液相と晶出物のコントラストが明瞭に見られる 25 keV を選択した。 試料は、冷却過程において晶出物として Fe-Zn 化合物が発生する各組成の Zn 合金を溶製するこ とで作製したものを用いた1。試料サイズは 8 mm×8 mm、厚さ 0.1 mm とし、 BN および Al 2 O 3 から成る観察用セル内に装入し、試料の厚さ方向が入射 X 線と平行になるように設置した。ター ボ分子ポンプを利用し 0.1 Pa 程度まで減圧した後、昇温を開始した。試料溶解後は冷却速度 6 K/min -35-

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Page 1: 高分解能観察を利用した溶融 Zn Clarification of …...板製造ライン(CGL: Continuous Galvanizing Line)の溶融Zn 浴中において発生する固形の金属間化

解析から,(1)温度領域により凝集構造の中で変化す

る部分が異なる可能性があること,(2)昇温によりト

ルエン中ではユニット構造は大きく変化するが階層

的なフラクタル構造はあまり凝集緩和を起こさない

可能性があること,(3)強凝集したそのフラクタル的

構造の凝集緩和は,トルエンの場合,濃度依存性が

顕著である可能性があること,などが明らかとなっ

た.図2にトルエン溶液中で考えられる一次凝集や高

次階層構造に関する凝集緩和挙動について,その概

念図を示す.当該のハンセン溶解度パラメータに依

存し,幾つかの凝集緩和挙動として分別される可能

性がある.本報告書作成の段階では再現性や濃度依

存の系統的な検討が行えておらず,初期的な検討結

果と位置付けるが,本研究分野において有用な情報

であると考えられるため報告する. 図2.トルエン溶液で提案される凝集緩和

今後の課題: トルエン溶液についても濃度依存性の検討が必要であろう.また,ハンセン溶解度パラメータ

との相関について,高温高圧下における凝集緩和挙動に対する系統的な検討も必要であろう.

参考文献: [1] Gray, M. R.; Tykwinski, R. R.; Stryker, J. M.; Tan, X. Energy Fuels 2011, 25, 3125. [2] Beaucage, G. J. Appl. Cryst. 1995, 28, 717. [3] Tanaka, R., Hunt, J. E., Winans, R. E., Thiyagarajan, P., Sato, S., Takanohashi, T. Energy Fuels 2003, 17,

127. [4] Morimoto, M.; Imamura, H.; Shibuta, S.; Morita, T.; Nishikawa, K.; Yamamoto, H.; Tanaka, R.;

Takanohashi, T. Energy Fuels 2015, 29, 5737. [5] Espinat, D.; Rosenberg, E.; Scarsella, M.; Barre, L.; Fenistein, D.; Broseta, D. Structures and

Dynamics of Asphaltenes, Chapter V, Plenum Press, New York, 1998.

http://support.spring8.or.jp/Report_JSR/PDF_JSR_30A/2018A1551.pdf 2018A1551 BL20XU

高分解能観察を利用した溶融 Zn 合金中の 金属間化合物晶出及び成長挙動の解明

Clarification of Crystallization and Growth Behavior of Intermetallic Compounds in Molten Zinc Alloys with the Use of Direct Observation

Technique

佐々木 遼 a, 桂 翔生 a, 福田 一徳 b, 森 拓弥 b, 安田 秀幸 c

Ryo Sasakia, Sho Katsuraa, Kazunori Fukudab, Takuya Morib, Hideyuki Yasudac

a(株)神戸製鋼所, b(株)コベルコ科研, c京都大学 aKobe Steel. Ltd., bKobelco Research Institute. Inc., cKyoto University

自動車・建材向けの薄鋼板に防食目的の Zn めっき層を工業的に形成させる、溶融 Zn めっき鋼

板製造ライン(CGL: Continuous Galvanizing Line)の溶融 Zn 浴中において発生する固形の金属間化

合物の晶出・成長挙動を把握するために、晶出過程のその場観察を行った。Al, Fe 成分を含む Zn合金を高真空下で溶融し、等降温速度で冷却する過程において、過飽和となった浴中成分が固形

の晶出物として核生成・成長する過程を、等時間間隔で透過像を撮影した。結果として、溶融 Zn中における Fe-Al および Fe-Zn 金属間化合物の晶出・成長挙動を直接観察することが可能であり、

これら単独の晶出挙動に加えて、異なる金属間化合物種の溶融 Zn 中における相互作用に関する

知見が得られた。 キーワード: 溶融 Zn めっき、X 線イメージング、Fe-Al 化合物、Fe-Zn 化合物、晶出、成長

背景と研究目的: 自動車および建材向けの鋼板に耐食性を付与する目的で、製鉄所の溶融 Zn めっき鋼板製造ラ

イン(CGL)において溶融 Zn めっき鋼板の製造が行われている。CGL の溶融 Zn 浴は、鋼板(Fe)とZn との間の反応を制御する目的で Al が添加されているほかに、鋼板から溶出する Fe 成分も含ま

れていることから、主に Zn-Al-Fe の 3 成分からなっており、これらの成分が反応することによっ

て生じる固形の金属間化合物が存在している。溶融 Zn 浴中における各種の金属間化合物の熱力

学的安定性については、種々の先行研究が行われている[1][2]。これらの金属間化合物が溶融 Zn浴中に堆積すると、製品や設備に不良を発生させる恐れがあるため、その発生挙動の把握や制御

が重要である。このため、溶融 Zn 中におけるこれら金属間化合物の晶出挙動およびそのメカニズ

ムを把握するために、溶融 Zn の冷却過程における晶出物生成および成長挙動のその場観察を試

みた。 実験:

晶出過程の X 線イメージング実験は、SPring-8 BL20XU 第 2 実験ハッチにて実施した。X 線の

上流側から、光源、モノクロメーター、X 線シャッター・スリット、溶解炉・試料、検出器(高速

マイクロイメージング装置可視光変換型 CCD カメラ、空間分解能: 0.5 μm/ピクセル、時間分解能: 1-10fps)を配置した。溶解炉および試料はチャンバー内に配置されており、雰囲気制御が可能とな

っている。また、本実験では X 線が試料を通過する際の元素や密度に依存する吸収量の差をコン

トラストとして検出するイメージングを行っており、チャンバーおよび溶解炉には X 線の光路上

に窓(穴)を設け、入射した X 線は主に試料ならびにそれを保持するセルで吸収された後、検出器

に到達するよう設計されている[3]。なお、X 線エネルギーは 15-30 keV の範囲で調整可能である

が、Zn 合金の液相と晶出物のコントラストが明瞭に見られる 25 keV を選択した。 試料は、冷却過程において晶出物として Fe-Zn 化合物が発生する各組成の Zn 合金を溶製するこ

とで作製したものを用いた(表 1)。試料サイズは 8 mm×8 mm、厚さ 0.1 mm とし、BN および Al2O3

から成る観察用セル内に装入し、試料の厚さ方向が入射 X 線と平行になるように設置した。ター

ボ分子ポンプを利用し 0.1 Pa程度まで減圧した後、昇温を開始した。試料溶解後は冷却速度 6 K/min

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~約 40 K/min の範囲で降温し、晶出過程を観察した。なお、温度測定は R 熱電対を用い、観察セ

ルに極力近づけた状態で測定した。

合金 Zn Al(重量%) Fe(重量%) a Bal. 0.09 0.13 b Bal. 0.10 0.15

結果および考察: 図 1 に合金 a(0.09%Al-0.13%Fe)と合金 b(0.10%Al-0.15%Fe)のサンプルにおける凝固直前の X線透過像を示す。母相の溶融 Zn より X 線を透過しにくい針状の Fe-Zn 金属間化合物は暗色のコ

ントラストとして観察され、合金 a では冷却速度によって晶出物の個数に変化は見られなかった

が、合金 b では冷却速度が速くなるほど晶出物の個数も増加する傾向が見られた。このことか

ら、Fe-Zn 系の金属間化合物の晶出挙動は溶融 Zn めっき浴中の Al または Fe の添加量に大きく

依存することが示唆された。

各条件での X 線透過像から晶出物の短辺と長辺の長さを測定したところ、晶出してから一定時

間後の長辺の長さは冷却速度が 12 K/min と 40 K/min の結果では差異は見られなかったことから、

晶出物の長辺の長さは冷却速度に依らず一定の成長速度になることが明らかとなった。一方、短

辺の長さは冷却速度に依存し、冷却が早いほど短くなる傾向が見られた。図 2 に、合金 b におけ

る晶出物の形状を四角柱と仮定して求めた体積の晶出してからの時間変化を示す。長辺の長さは

冷却速度に影響されなかったが、短辺の長さは冷却速度に依存していたことから、合金 b の組成

で晶出する Fe-Zn 化合物は冷却速度が速いほど晶出物の体積は小さくなることが明らかとなった。

表 1.供試材組成と狙いの金属間化合物

図 1.合金 a および b における各冷却速度での凝固直前の X 線透過像

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今後の課題:

熱力学的に同じ化合物が晶出する領域において、同じ形状の晶出物が観察されたにも関わらず

合金組成によって異なる挙動が確認されており、晶出物の組成がわずかに異なる可能性があるた

め、同じ化合物が晶出する領域の別組成にて追加実験を行いAlと Feの影響をそれぞれ把握する。 参考文献: [1] J. Nakano et al., CALPHAD 31(2007), 125-140. [2] 山口周,ふぇらむ,Vol.19(2014) No.8, 548-552. [3] 安田秀幸 その他,Spring-8 利用者情報, 16(2011)No.1, 10-16.

図 2.合金 b における晶出物の冷却速度ごとの体積の時間変化

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