韓国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大 - 明治大学...(381)韓...

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1 韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大 BankRestructuringandGrowingRoleof Foreign-OwnedBanksinKorea ShigekoUchikomi じめ 韓 国 は1997年 に通 貨 ・金 融 危 機 に 陥 った ふ,政 府主導の大胆かつ包括的な構造改革の実施に よ り早期 に経済 ・金融の 回復 を実現 し,こ の結 果,そ の構造改革に対 し国際的に高い評価が与え られた。 こケした構造改革は金融部門 と企業部門の改革を中心としていたことから ,韓 国の銀行 業 界 は大 き く変 貌 を遂 げ た 。 また,こ の過 程 で銀 行 部 門 へ の 外 資 の参 入 が 顕 著 に進 ん だ。 そ こで 本 稿 で は,ま ず1990年 代 半 ば 頃 まで の韓 国 の 金 融 自 由化 ・国 際 化 の動 き と そ こで生 じた歪 みが 危 機 を もた らす ま で の経 緯 に つ い て 概 観 した後,金 融構造改革,特 に銀行再編の実態とそのなか にお け る外 資 の役 割 を検 討 し,そ の 成 果 と課 題 につ いて 考 察 して み た い。 1.金 融の自由化 ・国際化の進展 と残 された脆弱性 まず最初に韓国の金融部門を概観すると,韓 国 の金 融部 門 は,銀 行 圏(あ るいは第一金融圏) と第 二 金 融 圏 に大 別 され る。 銀 行 圏 は商 業 銀 行 と特 殊 銀 行(政 府系金融機関)か ら構成 され ,商 業 銀 行 は,全 国 的 に拠 点展 開 す る市 中銀 行,営 業基盤が地域に限定されている地方銀行 ,お よび .外国 銀 行 在 韓 支 店 か ら構 成 され て い る。 第二 金 融 圏 は非 銀 行 預 金 金 融機 関(総 合金融会社,相 貯 蓄 銀 行,信 用 協 同組 合,郵 便 貯 金),保 険会社,証 券会社,投 信会社,そ の他金融機関に分類 され る。 第 二 金 融 圏 が 発 展 した の は,80年 代 に入 って の こ とで あ る。 韓 国 の金 融 部 門 の 中 心 的 存 在 は,商 業 銀行,な か で も市 中銀 行 で あ り,商 業 銀 行(信 託 勘 定 を含 む)の 資産規模は全金融 機 関 の総 資 産 の6割 を超え,市 中銀 行 は そ の うち の8割 を 占め て い る(2004年)。 韓 国 の金 融 シス テ ム の特 徴 の 一 つ は こ の よ うに銀 行 を 中 心 とす る こ とで あ るが,最 近までは, もう一つの特徴 として 「官治金融」 ということが挙げられてきた。政府が銀行の融資活動に対 し て 直 接 的 に介 入 す る な ど,金 融 面 にお いて 政府 の 役 割 が 極 め て大 き か った こと を指 す もの で あ る 以 下,韓 国 の 金 融 自 由化 ・国際 化 の動 き とそ の な か で の政 府 の役 割 の変 化,さ ら に は危 機 に至 る 経緯についてみてゆきたい。

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Page 1: 韓国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大 - 明治大学...(381)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大3 続いて93年 には外貨建て証券の発行が事前承認制から報告制に変更された。また92年1月

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韓国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大

BankRestructuringandGrowingRoleof

Foreign-OwnedBanksinKorea

打 込 茂 子ShigekoUchikomi

は じ め に

韓国は1997年 に通貨 ・金融危機に陥ったふ,政 府主導の大胆かつ包括的な構造改革の実施に

より早期に経済 ・金融の回復を実現 し,こ の結果,そ の構造改革に対 し国際的に高い評価が与え

られた。 こケした構造改革は金融部門 と企業部門の改革を中心としていたことから,韓 国の銀行

業界は大きく変貌を遂げた。また,こ の過程で銀行部門への外資の参入が顕著に進んだ。そこで

本稿では,ま ず1990年 代半ば頃までの韓国の金融自由化 ・国際化の動 きとそこで生 じた歪みが

危機をもたらすまでの経緯について概観 した後,金 融構造改革,特 に銀行再編の実態とそのなか

における外資の役割を検討 し,そ の成果と課題について考察 してみたい。

1.金 融の自由化 ・国際化の進展 と残 された脆弱性

まず最初に韓国の金融部門を概観すると,韓 国の金融部門は,銀 行圏(あ るいは第一金融圏)

と第二金融圏に大別される。銀行圏は商業銀行と特殊銀行(政 府系金融機関)か ら構成され,商

業銀行は,全 国的に拠点展開する市中銀行,営 業基盤が地域に限定されている地方銀行,お よび

.外国銀行在韓支店から構成 されている。第二金融圏は非銀行預金金融機関(総 合金融会社,相 互

貯蓄銀行,信 用協同組合,郵 便貯金),保 険会社,証 券会社,投 信会社,そ の他金融機関に分類

される。第二金融圏が発展 したのは,80年 代に入 ってのことである。韓国の金融部門の中心的

存在は,商 業銀行,な かで も市中銀行であり,商 業銀行(信 託勘定を含む)の 資産規模は全金融

機関の総資産の6割 を超え,市 中銀行はそのうちの8割 を占めている(2004年)。

韓国の金融 システムの特徴の一つはこのように銀行を中心とすることであるが,最 近までは,

もう一つの特徴 として 「官治金融」 ということが挙げられてきた。政府が銀行の融資活動に対 し

て直接的に介入するなど,金 融面において政府の役割が極めて大きかったことを指す ものである。

以下,韓 国の金融自由化 ・国際化の動きとそのなかでの政府の役割の変化,さ らには危機に至る

経緯についてみてゆきたい。

Page 2: 韓国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大 - 明治大学...(381)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大3 続いて93年 には外貨建て証券の発行が事前承認制から報告制に変更された。また92年1月

2『 明大商学論叢』第88巻 第4号(380)

1960年 代か ら70年 代の韓国では,経 済開発促進のため,戦 略的産業に重点的に資金を配分す

べ く政府が金融部門に強力に介入 した。朝典,商 業,韓 一,第 一,ソ ウルの市中銀行全5行(当

時)は 国有化され,ま た政府系金融機関 も多数設立 された。70年 代になると輸出振興,重 化学

工業化推進のため政府の介入はさらに強まり,金 利は規制され,政 府の方針に基づ く信用割当も

行なわれた。

しか し,こ うした政策 に伴 う資源配分の歪みや経済⑱内外不均衡が70年 代末に顕在化 したこ

とから,1980年 にIMFか ら緊急融資を受けた際のコンディショナ リティによって,80年 代には

政府の介入を弱めて,金 融の自由化を進める政策への転換を余儀なくされた。 こうして金融の規

制緩和は80年 代初頭 より始まり,銀 行経営に対する種々の規制の緩和,国 有化されていた市中

銀行の民営化,金 融市場への参入規制緩和,業 務分野規制緩和,政 策融資の優遇金利の廃止,貸

出金利の原則 自由化,預 金金利の一部自由化などが80年 代に実施 された。

このうち市中銀行の'民営化と新規参入についてみると,81年5月 に韓一銀行,82年8月 にソ

ウル信託銀行('),82年9月 に第一銀行,83年3月 に朝興銀行が,そ れぞれ政府保有株式の売却

によ り民営化 された(2)。民営化 にあたっては,財 閥による機関銀行化を防止すべ く,82年12月

の銀行法改正によって,同 一主体(親 族を含む)に よる市中銀行への出資限度が8%に 定め られ

た(3)。さらに,市 中銀行として新韓銀行,韓 美銀行が新規に設立 され(そ れぞれ82年7月,83

年3月),ハ ナ銀行,ポ ナム銀行が投資金融会社か ら市中銀行に転換 した。

また韓国は,対 外資本取引自由化 に対 して も極めて漸進的なアプローチを採 ってきており,基

本的にその動きは経常収支の動向に左右されてきたが(4;,80年 代前半は資本流入促進措置,後 半

は資本流出促進措置を中心に自由化が進んだ。

90年 代前半になると,ア メリカからの金融 自由化 ・市場開放圧力などもあって,国 内の金融

自由化は一段 と進んだ。 こうした動 きは,預 金金利を含む広範な金利の段階的自由化,金 融業へ

の参入規制の緩和,金 融機関の業務範囲拡大,金 融業務 ・市場の対外開放などを含むものであっ

た。 また,93年8月 には金融実名制が実施 された。こうしたなかで,銀 行の新設や他業態から

銀行への転換が相次いだほか,政 府系金融機関であった韓国外換銀行,国 民銀行,韓 国住宅銀行

が,根 拠法の廃止に伴いそれぞれ89年,95年,97年 に民営化され,市 中銀行に転換 した。

また対外資本取引面でも,ま ず資本流入促進,そ の後は資本流出についても制限を緩和 ・自由

化する政策が継続された。資本流入促進措置についてみると,92年9月 か ら居住者が外国で発

行できる証券の種類が拡大 されるとともに,非 居住者による対内直接投資規制はほぼ廃止された。

(1)76年 にソウル銀行 と韓 国信託 銀行 が合併 して誕 生 した。

(2)池 尾 ほか(2001)。

(3)同 限度 は,94年 に4%に 強 化 され たが,2002年 に は政府保有株 の売却 を円滑 に進め るため10%に 緩

和 され た。 また,地 方銀行 については,15%の 上限が設定 されて いる。

(4)例 え ば経常収支 が悪化 する と,資 本流出規制が強化 され る一方で資本流入規制 は緩和 され,経 常収支

が改善す る と,資 本流 出を促進 し流入を抑制するよ うな措置が採 られ た。

Page 3: 韓国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大 - 明治大学...(381)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大3 続いて93年 には外貨建て証券の発行が事前承認制から報告制に変更された。また92年1月

(381)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大3

続いて93年 には外貨建て証券の発行が事前承認制から報告制に変更された。また92年1月 から,

外国投資家は直接的に韓国株式市場に投資することが,一 定の制限(各 上場企業につき非居住者

全体で発行済み株式の10%の 保有が上限,各 非居住者は同3%が 上限)付 きながら認められた。

非居住者全体の保有上 限は,94年 に12%に,95年 に15%に,96年 に20%に 引上 げられた(5)。

OECD加 盟(96年)に 向けた動きがこうした自由化をさらに加速 した。

ただ し,こ のように金融自由化が進んだといっても,銀 行の融資業務などに対する政府の直接

的な介入は続き,銀 行経営の自由度,自 律性は低いままだった。そ して銀行は融資が回収不能に

なっても政府が救済 して くれるものと期待 し続けた。 こうしたことを背景に,銀 行 ・金融機関の

審査能力は不十分なままであった。 リスク管理体制の未熟さは与信 リスク管理のみな らず為替 リ

スクの管理においても顕著で,外 貨建てで取入れた大量の壷金をヘ ッジすることな く自国通貨建

ての資金運用に回 していた。一方,自 由化と併行 して進める必要のあるプルーデンシャル規制の

強化は行われず,さ らに銀行を監督するのは韓国銀行(中 央銀行),非 銀行金融機関を監督する

のは財政経済省 という分断された監督体制 もそのままであった。そして,財 政経済省による非銀

行金融機関の監督が緩やかなものであり,ま た連結会計 も義務付けられていなかったことから,

金融自由化の流れのなかで,財 閥などが総合金融会社などの非銀行金融機関を設立(あ るいは業

態転換)し て リスクの高い業務を行 う動きがみ られた。総合金融会社 は,英 語ではMerchant

BankingCorporationsと 表記されているように,イ ギ リスのマーチャント・バンクに類似 した

極めて広範囲の業務,す なわち預金の受 け入れ,企 業向け投融資(CPの 割引 も含む),証 券の

引受 ・募集 ・販売,リ ースなどを行っている金融機関である⑥。

さらに,こ うした総合金融会社などを通 じた資金調達の拡大に加えて,金 融自由化により企業

の内外資本市場からの資金調達(7)が可能になり,活 発化 したことは,財 閥にとって銀行借入の重

要性を低下 させるとともに,政 府の財閥に対する経営監視 ・コントロール機能を一段と低下させ

ることになった。 しかし,そ れにもかかわ らず,政 府による経営へのコントロールが引き続き期

待されていたため,銀 行など債権者による経営監視は十分に行われず,ま た系列会社などを通じ

て株式を持ち合う構造から,株 主による経営監視機能 も働かなかった。この結果,コ ーポレー ト・

ガバナ ンスは十分に機能せず,財 閥によるハイ リスク ・ハイリターンの投資や過剰投資を抑制す

ることができなか った。こうしたなかで企業の債務 は急増 し,GDP比 で88年 の132%か ら97

年には190%ま で高まった(資 金循環表ベース)。

また,対 外資本取引自由化措置のなかには銀行や総合金融会社の経営に直接的に大きく影響を

及ぼ したものがあった。94年 に実施された銀行や総合金融会社などの金融機関に対する対外借

(5)そ の後98年5月 には,非 居住者 の保有上限規制 は廃止 された。

(6)総 合金融会社 は,元 々は,外 国の金融機 関 との ジ ョイ ン トベ ンチ ャーの形 で設立 された もので あり,

民間部門へ の外 資の導入 を促 す とともに,包 括的な金融 サー ビスの提供 によ って専業主義 的な金 融 シス

テムの弱 さを補 うこ とを 目的 とした ものであ った。

(7)発 行 され た社債 やCPの 多 くは,非 銀行金融機 関が購入 した。

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4『 明大商学論叢』第88巻 第4号(382)

入れ上限枠規制の廃止がそれで,中 長期対外借入れには上限枠が韓国銀行の窓口指導という形で

残 ったことから,事 実上は金融機関の短期対外借入れのみを自由化 した ものであった。一方,一

般企業の外国(銀 行および親会社)か らの直接借入れは特定の目的のもののみに制限されたまま

であった。 この結果,94年 以降は金融機関による短期外貨借入れが急増 した。このようにして

自由化 ・国際化の過程で生 じた様々な歪み,不 均衡から,金 融部門は外的ショックに対 し極めて

脆弱になっていった。

さて,90年 代後半頃になると,円 安 ・ウォン高や半導体不況などから輸出の伸びが大き く鈍

化 し,経 常収支赤字が急拡大するともに,景 気が減速 し,97年 に入 ると財閥の経営悪化や破綻

が相次いだ。これに伴 って,こ うした財閥に対 し与信審査を十分にせずに積極的に融資を行な っ

てきた銀行や総合金融会社など金融機関の経営も悪化 した。 しかも,前 述のような対外資本取引

の自由化措置の実施により,縮 合金融会社は短期対外借入れを急増 させる一方で,国 内企業向け

融資だけでなくインドネシアやロシア ・東欧などリスクの高い地域向けの外貨建ての融資や債券

などへの投資を拡大させていた。また,銀 行 も短期外貨借入れを急増 させていた。こうしたなか

で97年 夏以降は財閥の問題だけでなくタイやインドネシアなどの通貨 ・金融危機の影響 も加わっ

て,韓 国の金融 システムに対する不安 も著 しく高まり,韓 国の金融機関は外国銀行か ら短期外貨

借入れのロールオーバーを拒否 され,外 貨資金繰 りが困難 となった。 このため韓国政府は97年

11月,IMFに 支援を要請 した。また,こ の過程でウォン為替相場 も,売 り圧力の強まりに抗 し

きれず,97年ll月 に許容変動幅を拡大(8)したのに続き,同 年12月 には完全変動相場制に移行

した。IMF支 援を中心に584億 ドル(GDP比13%)に のぼる大規模な国際的金融支援策の発表

(12月3日)後 も,外 貨資金繰 りは改善せず,ウ ォンの不安定な状況 も続いたが,98年1月28

日に韓国政府と日米欧民間銀行団との間で民間短期債務繰延べについて合意が成立 したことによっ

て,よ うや く落ち着きを取 り戻 した。

こうしたなかで,韓 国政府は危機の原因とされた経済 ・金融構造の脆弱性を克服すび く,金 融

部門と企業部門の抜本的改革に取 り組むことになった。

2.金 融構造改革

財閥の経営悪化 ・破綻,通 貨危機などにより,国 内金融機関の不良債権は急増 し,金 融機関の

経営 も極めて深刻な状況に陥ったC98年3月 時点での国内全金融機関の不良債権額(FLC基 準

(8)90年3月 に導入 された市場平 均為替相場方 式の もとでの(対 前 日比)許 容変動 幅が,そ れまで の上

下2.25%か ら10.0%に 拡大 された。市場平均為替…相場方式 というの は,ウ ォンの対米 ドル相場 について,

前営業 日の銀行間市場 相場の加重平均値 を基 準相場 として,当 日中の銀行 間市場相場を ここか ら一定 の

変動 帳内に収 める制度 である。 許容 される変 動幅 は,90年3月 当初 は基準 相場 か ら上下0.4%に 設定 さ

れ たが,そ の後段 階的に拡大 されてきた。

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(383)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大5

の無収益貸出額)〔9)は118兆ウォンで,総 貸出に占める比率は17.7%,GDP比 では26.6%に 上 った。

このような危機的状況に直面 した政府 は,総 額165兆 ウォン,GDP比30%に 上る巨額の公的

資金を投入 し,大 胆な金融構造改革を断行 した。 この金融構造改革は,IMF融 資のコンデ ィショ

ナ リティとして合意された包括的経済構造改革プログラムの一環として,企 業構造改革,労 働市

場改革と並行 して実施された。銀行部門の動きを中心にその概要を整理すると以下のとお りであ

る。

(1)金 融 機 関 の整 理 ・統 合

〈第一次金融構造改革〉

喫緊の課題は何よりも,不 健全な金融機関の整理であった。まず金融 システム不安を招かない

ように,97年11月 に預金者保護措置 として,全 ての金融機関の預金を2000年 末まで元利金全

額保証することを打ち出したうえで,政 府は金融機関の再編を急ピッチで推 し進めた。存続不可

能と判断した金融機関は,で きうる限 り速やかに市場から強制的に退出させる一方,存 続可能な'金融機関

については,公 的資金を投入 して資本増強 と不良資産の買取りによって支援 した。不良

債権買取 りのための機関として韓国資産管理公社(KAMCO)が 設立 された(10)。また,98年 の

法改正によって,韓 国預金保険公社(KDIC)と 政府が,金 融機関への資本注入を行うことになっ

た。

銀行部門の動きをみると,97年 末時点では商業銀行26行 のうち,BIS基 準の自己資本比率が

(満たすべき最低水準である)8%を 下回る銀行が14行 あった。 これらの銀行は総資産ベースで

約60%に 上 るシェアを占めていた。このうち債務超過 に陥 っていた第一銀行とソウル銀行が直

ちに国有化された(98年1月)。 第一銀行は,そ の後米国の投資ファンドであるニューブリッジ・

キャピタルに売却 されることが98年12月 に決定 した(出 資比率51%,実 行は99年12月)。 政

府はソウル銀行 も外資に売却 しようとしたが,適 切な買い手をなかなか見つけられなかった。

残 りのBIS自 己資本比率8%未 満の銀行12行 に対 して政府は,経 営健全化計画の提出を命令

し,こ の計画書に基づいて12行 を経営改善が見込める銀行 とほとんど見込めない銀行に分類 し

た。経営改善が見込めないと判断された下位の銀行5行(大 東,東 南,同 和,京 畿,忠 清)は 整

(9)不 良債権の定義は金融構造 改革期 に幾度 か改定,厳 格化 され た。 まず,98年7月 に 「6ヶ月延滞以上 」

の貸 出か ら 「3ヶ月延 滞以上」 の貸出 に変更 され,さ らに99年 末 には,借 り手 の過 去 の返済 実績のみ

な らず将来 の返済能力 を も勘案 するFLC(forwardlookingcriteria)基 準が導入 され,FLC基 準の

無収益 貸 出額(non-performingloans,以 下NPL)が 不 良債権 の公式値 とな った。 そ の後2000年3

月 に,不 良債権 の定義 は さ らに厳格化 され,同 じFLC基 準 で もサ ブスタ ンダー ド以 下貸 出額(sub-

standardandbelowloans,以 下SBL)が 公式 値 と して採 用 された。 これは,金 利 の支払 いがな さ

れていて も,将 来 の リスクが大 きけれ ば,不 良資産 に分 類す る ものであ る。 この結果,例 えば,99年

末 のNPLは66.7兆 ウ ォンであ ったが,SBLベ ースでは88兆 ウォンに増加 した。 ただ し,SBLは99

年末 よ り前 に は遡 れない。一方,NPLは97年 末まで遡及 した計数 が公表 されてい る。 したが って,こ

の計数 はSBLベ ースであれば,よ り多額で あった可能性 が大 きい。

(10)当 初 は,既 存の成業公社 に公的資金管理基金 を設 けて,不 良債権買取 りを業務 に加え る形を取 ったが,

99年 に企業 再生 も業務 に加えてKAMCOと 名称変更 された。

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6『 明大商学論叢』第88巻 第4号 『(384)

理 されることになり,不 良債権はKAMCOが 全額買い取 り,債 務超過分はKDICが 補填 し,そ

の優良資産と負債は健全な上位の5銀 行(国 民,住 宅,新 韓,韓 美,ハ ナ)に それぞれ強制的に

継承(P&A)さ れた(98年6月)。P&Aに よって自己資本比率が低下 した,こ れ らの承継銀

行には,資 本注入が行われた。一方,残 りの7行 は,経 営健全化計画について改善策を実施する

条件付でその存続が認められた。韓国外換銀行は独 コメルツ銀行とのジョイント・ベンチャーを

通 じて資本を増強 し,平 和銀行は国際業務か ら撤退 した。その他の5行(商 業,韓 一,朝 典,忠

北,江 原)は,い ずれ も政府主導の合併によって健全化計画を遂行 した。商業銀行 と韓一銀行は

合併 してハ ンビット銀行 となり(99年1月),朝 典銀行は,忠 北と江原の地方銀行2行 と合併 し

た(そ れぞれ99年5月,同 年9月)。

健全な銀行のなかでも,国 民銀行が政府の主導により長期信用銀行を吸収合併 し,ハ ナ銀行が

ボラム銀行を自主的に吸収合併 した(と もに99年1月)。

このような2000年6月 までの動きが,第 一次金融構造改革 と呼ばれるものであるが,こ うし

た金融再編の動きが集中的に生 じたのは98年 から99年 年央にかけてであり,特 に12行 の強制

的な整理 ・再編 によって,韓 国金融界は最大の危機をひとまず乗 り切 ることができた。この第一

次改革の期間中に64兆 ウォンの公的資金が投入された。

〈第二次金融構造改革〉

その後2000年 後半から2001年 にかけて,再 び金融構造改:革は加速する。第二次金融構造改革

である。大手財閥である大宇グループが99年 夏に破綻 したことなどにより,再 び銀行の経営は

大き く悪化 していた。99年 末の資産査定基準の厳格化(FLCの 導入,注9参 照)も 不良債権の

増加につながった。2001年1月 め預金保険の部分的保証制度への復帰を前にして,2000年9月

か ら11月 にかけて政府は再び銀行経営について審査を行 ったが,こ の結果全17銀 行のうち8行

の 自己資本比率が8%を 下回 り,こ のうち5行 が債務超過であることが判明 した。部分的保証制

度復帰を前に金融不安解消のため金融再編は急務であり,2000年 末に債務超過の5銀 行が完全

減資 ・国有化された。このうちハ ンビット,平 和,光 州および慶南の4銀 行は,そ の後2001年4

月にウ リィ金融持株会社として統合 されたω。金融機関が持株会社を設立することはこれまで禁

止されてきたが,規 模と範囲の経済を促進 させるとともに,合 併に消極的な銀行間の統合を促す

手段 として設立が解禁 された(2000年10月 「金融持株会社法」国会通過)こ とを受けたもので

あ った。残 りの済州銀行は国有化後 に,新 韓銀行が設立 した金融持株会社の傘下に入れ られた

(2002年5月)。 自己資本比率8%未 満ながら独自で経営健全化が可能と判定された朝典銀行 と外

換銀行は,そ れぞれ増資や不良資産の処理による経営改善計画を推進するよう命ぜられた。一方,

鮮美銀行は,大 宇破綻の影響に加えて,大 株主であったバンク ・オブ ・.アメリカが経営方針の転

換によ り保有株を処分 したいと通告 してきたことか ら,外 資誘致による資本増強 に動き,結 局

2000年11月,米 投資 ファンドのカーライル ・グループと米投資銀行J,P.モ ルガ ンのコンソー

(11)同 持株会 社には,こ の4銀 行の ほか,9の 子会社 とハ ナロ投資銀行 ヵ∫加 わ った。

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(385)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大7

シアムから資本参加(出 資比率40.7%)を 得た。

一方 ,健 全な銀行において も,2001年 には国民銀行と住宅銀行という2大 銀行が自主的に合

併 して巨大な国民銀行 となり(ll月),新 韓銀行が既存の子会社5社 とともに新韓金融持株会社

を設立 した(9月)。

この第二次金融構造改革においては,健 全行 も含めてすべての商業銀行に対 して不良債権処理

の数値目標(不 良債権比率を2001年6月 末6%以 下,2001年 末5%以 下,2002年 末3%以 下)

が課された。

〈2002年以降〉

その後2002年 以降は,経 済環境が好転するなかで,国 有化銀行の民営化が進むとともに,金

融機関の大型再編 もさらに進展 した。2002年5月 にはウリィ金融持株会社の株式の一部売却が

始 まったほか,同 年12月 にはハナ銀行がソウル銀行を吸収合併 した。ハナ銀行は2002年2月,

ドイツの保険最大手アリアンツか らの資本導入にも成功 した。2003年 には,政 府が80%出 資す

る朝典銀行が新韓金融持株会社 に買収され(8月),外 換銀行が米 ロー ンスター ・ファン ドに買

収された(出 資比率51%,10月)。 さらに2004年 には,米 シティ ・グループが韓美銀行 の全株

式を米カーライル ・グループなどから取得 し,そ の後銀行子会社であるシティバ ンクの韓国法人

と合併 させて,韓 国シティバンクを設立 した(11月)。2005年2月 には,英 スタンダー ド・チャ一

夕ー ド銀行が第一銀行の全株式を米ニューブリッジ ・キャピタルなどから取得 した。

こ の よ うに して,危 機 前 に は26あ った商 業 銀 行 は,現 在 で は14行('2)(10グ ル ー プ)に な り,

そ の多 くに外 資 が導 入 され た。 もは や 官 治 金 融 は過 去 の もの と な った。

非 銀 行 金 融 機 関 に つ い て は,危 機 を 招 いた 主 役 で97年 末 に30社 あ った総 合 金 融 会 社 は,2004

年6月 ま で に22社 が 営 業 認 可 取 消 しに よ って,7社 が合 併 に よ って 解 散 さ れ た 。 この 間 に1社

が 新 設 され,現 在 は2社 が 存 在 す るの み で あ る。 ま た こ の間 に,証 券 会 社12社,投 信 会 社7社

お よ び保 険会 社16社 が,同 様 に認 可 取 消 しや合 併 に よ り解 散 され た(第1表 参 照)。

第1衷 韓 国の金 融機関の数の変化(2004年6月 時点)

整 理 形 態 営業 中の金融機 関数

(A-B+C)

1997年 末の

機 関 数 ㈹ 退 出 合 併 計(B)

新設された

機 関数 ◎

銀 行1

総 合金 融会 社

証 券 会 社2

投 信 会 社

保'険 会 社2

33

30

31

31

45

5

22

7

6

10

9

7

4

1

6

14

29

10

7

16

l

l9.

8

8

19

2

43

32

37

注1:商 業 銀行だけでな く特殊銀行 も含 む。

注2:外 国会社の支店は含 まない。

出所:韓 国銀行

(12)市 中銀行8行 と地方銀行6行 。

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8『 明大商学論叢』第88巻 第4号(386)

(2》 公的資金の投入

政府は,上 記のような金融再編のため,,巨 額の公的資金を投入 した。公的資金の投入先 は,銀

行のみならず,非 銀行預金金融機関,保 険会社,投 信会社など金融機関全体に及んだ。銀行への

投入分は約45%を 占めた。投入資金はKDICとKAMCOに よる政府保証債の発行,回 収資金の

再投入,財 政資金などによって調達された。97年ll月 か ら2004年6月 までに投入された公的

資金 の総額は,164.5兆 ウ ォン.(GDP比 約30%)に 上 った。 また,こ のうち153.9兆 ウォン

(94%)が2001年 末までの約4年 間に集中的に投入された。使途別にみると,61兆 ウォンが資

本注入 に,39兆 ウォンが不良債権の買取 りに,30.3兆 ウォンが預金保険の支払いに充て られた

(第2表 参照)。

資本注入 は,基 本的に,BIS基 準の自己資本比率が8%を 下回る銀行(不 健全銀行)に 対 して

行われ,注 入に際 しては,モ ラル ・ハザー ドを回避すべ ぐ,経 営健全化計画に基づ く徹底 した人

員削減を義務付 ける一方,経 営陣の交代,減 資などを断行 した6ま た,経 営数値目標(不 良債権

比率,自 己資本比率,ROA,ROEな ど)を 課す形で経営に関与 した。不健全行に対する資本注

入は,KDICお よび韓国銀行による普通株の取得という形で行われた。なお,不 健全行を吸収 し

た健全行に対 しても資本注入 は行なわれたが,こ の場合は優先株の取得という形をとった。資本

注入のための資金は,KDICが 政府保証債を発行 して調達 し,こ の政府保証債は資本注入を受け

る銀行が購入 した。投入 した資金の回収は,政 府保有株の譲渡あるいは市中売却によって行なっ

ている。

不良債権の買取 り・処理については,KAMCOが 時価で買取 り,こ れを直接回収,競 売,資

産担保証券(ABS)発 行,債 権売却などによって回収 ・処理 した。買取 りは,不 健全行のみな

らず健全行を も対象とした一斉買取 り(97年12月 と98年9月 の2回)の ほか,不 健全行に資

第2表 公 的 資 金 投 入 額(1997年ll月 ~2004年6月)

(単位:10億 ウ ォン)

支 援 形 態 金 額

KDIC

資本注入

損失補填

資産買取り

預金の支払い

小計

49,279

18,196

8,753

30,314

106,542

KAMCO 不良債権の買取り 38,981

財政資金

資本注入

劣後債の購入

小計

11,757

6,335

18,092

韓国銀行 資本注入 900

合 計 164,515

出所:韓 国銀行

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(387)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大9

本注入を行 う直前や外資導入,健 全行の自主的合併,健 全行による退出銀行の吸収合併などの場

合に実施された。

預金保険の支払いは,営 業認可を取 り消された総合金融会社,相 互貯蓄銀行,信 用協同組合に

対 して発動された。銀行に対 しては預金保険の支払いは発動 されでいない。98年 に整理 された

地方銀行5行 の優良資産と債務は,健 全行に強制的に継承(P&A)さ れた。

また,金 融機関別にみると,銀 行,保 険会社に対 しては,主 に資本注入 と不良債権の買取りに

よって支援 した。預金保険は発動されていない。一方,総 合金融会社,相 互貯蓄銀行,信 用協同

組合については,存 続不可能な機関を直ちに閉鎖 し,そ の預金を全額保護 した。また,投 信会社

についても,破 綻 した大宇グループ発行の債券 ・CPに 大量投資 していた投信会社が,政 府によ

る元本保証の指導に従い債務超過に陥ったことから,こ れに対 して資本注入を行なった。

③ 金融監督体制の整備㈲

これまzは,金 融機関の業態別に監督機関が異なっていたが,98年4月 に発効 した金融監督

機関設立法により一元的に監督する体制が整 うことになった。 同法 により,金 融監督委員会

(FSC)と その執行機関としての金融監督院(14)(FSS)が,銀 行,非 銀行預金金融機関,保 険会社,

証券会社など,ほ ぼすべての金融機関を監督することにな り,政 府主導の金融構造改革を強力に

推進 した。金融監督委員長は,金 融監督院長 も兼務 している。また,財 政経済省は金融監督に係

わる法律の制定 ・改正を担当し,韓 国銀行 とKDICは 限定的な実地検査機能を有 している。

(4)プ ル ー デ ン シ ャル 規 制 の 強 化 ㈹

98年4月 に 早 期 是 正 措 置 の枠 組 み が 導 入 さ れ,一 定 基 準 を達 成 で き な か った 金 融 機 関 に 対 し,

監 督 当 局 が 経 営 陣 の交 代,減 資,合 併,事 業 移 転 を命 令 で き る よ うに な った。

また,銀 行,総 合 金 融 会 社,証 券 会 社 お よ び保 険 会 社 の資 産 査 定 基 準 は,借 り手 の 過 去 の債務

返 済 実 績 だ け で な く将 来 の 返 済 能 力 を も勘 案 す るFLC(forwardlookingcriteria)基 準 に厳格

化 され た(99年12月31日 実 施)。 現 在,資 産 は,正 常(normal),要 注 意(precautionary),

サ ブ ス タ ンダ ー ド(substandard),回 収 疑 問(doubtful),損 失 見 込 み(estimatedloss)の5

段 階 に 分 類 さ れ て お り,サ ブ ス タ ンダ ー ド以 下 貸 出額(substandardandbelowloans,SBL)

が不 良 債 権 とな る。 貸 倒 れ 引 当基 準 もこ う した資 産 分 類 に基 づ き厳 格 化 され た㈲ 。

99年 の 銀 行 法 の 改 正 に よ って,同 一 主 体 に 対 す る大 口信 用 エ ク ス ポ ー ジ ャー に よ る リス ク を

低 下 させ るべ く,単 一 の 企 業 グル ー プ お よ び単 一 の個 人 ・法 人 へ の与 信 限 度 額(貸 出額 と支 払 保

(13)BankofKorea(2002)。

(14)設 立 は99年1月 。

(15)(4),(5)お よ び(6)項 に つ い て は,韓 国銀 行 のWebサ イ ト,BankofKorea(2002),FSS(2005a)を

参考 に した 。

(16)例 え ば 企 業 向 け貸 出 の場 合,上 記 の 資 産 分 類 に 応 じて,そ れ ぞ れ資 産 額 の0.5%,2%,20%,50%,

100%以 上 の 引 当 が 要 求 さ れ て い る。

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10『 明大商学論叢』第88巻 第4号(388)

証額の合計)は 大幅に引き下げられた。また,内 部管理の基準やコンプライアンス制度 も,銀 行,

総合金融会社,証 券会社,証 券投資信託会社,保 険会社などに対 し導入された。

(5》'金 融 機 関 の コ ーポ レー ト ・ガ バ ナ ン ス改 善 と透 明 性 強 化

金融機関のコーポレー ト・ガバナンス改善のため,99年 に社外取締役制度 と監査委員会制度

が導入 された。また,外 国か らの投資を促進すべ く,98年 には銀行の取締役への外国人の指名

に対する規制は廃止 され,外 国人による国内銀行の株式保有規制 も緩和 された(後 述)。 さらに,

大 口投資家の登場を奨励することによって銀行経営の説明責任を強化する(と ともに政府保有株

の売却を円滑に進める)た め,2002年4月 の銀行法改正により,銀 行あるいは銀行持ち株会社

発行の株式に係わる単一株主の保有上限規制は4%か ら10%に 引き上げられた(た だ し,議 決権

の行使は4%以 内に制限されている)。

また,市 場規律を強化 し財務情報の透明性を高めるため,金 融機関に係わる会計 ・情報開示の

基準が強化 された。

(6)そ の他の金融再編促進策

さらに,金 融再編を促進すべ く,政 府は様々な改革を実施 した。資産の証券化やモーゲージ担

保証券化会社が導入され,こ れによって金融機関の資金調達能力は拡大 した。金融持 ち株会社の

法的規定も,金 融機関の規模拡大を通 じた競争力の強化と金融再編促進のたあに導入 された。

金融危機後に金融不安を緩和するために採用された全ての預金の全額保証の預金保険制度は,

金融機関 と預金者のモラル ・ハザー ドを回避すべ く,2001年1月 に部分的保証制度に復帰 した。

復帰に際 しては,保 証限度額が危機前の1預 金者当たり2,000万 ウォンから同5,000万 ウォンに

引き上げられた。

以上みてきたように韓国政府は,公 的資金の大量投入によって金融機関の 自己資本の増強 と不

良債権の買取 りを行うとともに,金 融機関の整理 ・統合を強力に主導 した。公的資金投入の際に

は,経 営責任の明確化と徹底 した経営の合理化を断行 した。公的資金の投入は,極 めて広鞭な金

融機関に対 して行なわれた。 これと並行 して,金 融面での脆弱性に対処すべ く,金 融監督体制の

整備,プ ルーデンシャル規制の強化,金 融機関のコーポレー ト・ガバナンス改善 と透明性強化な

ど,本 来は金融 自由化 ・国際化の過程で行 うべきだった制度面での改革 ・整備を実施 した。

金融構造改革は,相 互に関連する企業改革,労 働市場改革 と同時に進められ,こ うした包括的

な取 り組みが早期の金融再生をもたらした。すなわち,政 府は銀行を通 じて企業構造改革も徹底

的に行い,こ れがまた銀行の資産内容の改善につながった。 また,98年 に導入された整理解雇

制は,経 営上の理 由による社員の解雇を容易にしたことから,企 業や銀行の人員削減の推進 と外

資の導入に大 きく寄与 した。

そして外資の導入は,金 融再編を進めるうえで極めて大 きな役割を果たしたが,こ れについて

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(389)韓 国の銀行再編 と外 資系銀行の役割拡大ll

は章 を改 め て み て ゆ き た い。

3.外 資の参入 と外資系銀行 の拡大

韓国では97年 の危機以前は外資の参入には極めて慎重であり,資 本参加については韓美銀行

へのバ ンク・オブ ・アメリカの出資(垂ηと新韓銀行への在 日韓国人の出資など限定的であ った。

84年 に外国銀行の参入規制が緩和 され,さ らに91年 にも一段の規制緩和がなされた(18)ものの,

支店形態での進出にほぼ限 られていた。

しかし危機後は,98年11月 の外国人投資促進法に呼応する形で,金 融部門への外資参入規制

は大きく緩和された。金融業務に携わっている外国企業㈲ で,韓 国内で銀行 ,証 券,保 険など

の金融業務に参入 しようとするものに対 しては,単 一主体による国内金融機関の株式保有上限で

ある4%を 超える投資が容認 され(2。),国内金融機関の株式の10%ま では金融監督委員会(FSC)

に単に申請を行なうだけで保有できることになった。さらに,金 融業務を行なっている外国企業

で,韓 国内での金融機関o,買 収や支店(子 会社)の 開設を希望 しているものは,FSCか ら許可

を得れば,国 内金融機関の株式の25%ま での保有が可能となった。その後,段 階的に33%,100

%ま での保有が,許 可を得れば可能になったω。また銀行の取締役への外国人の就任にかかわる

規制 も廃止 された。

こうした規制緩和などを受けて,金 融改革の過程において外資は,国 有化銀行の売却先として,

また資本基盤の弱い銀行のみならず健全な銀行においても資本基盤の一層の強化を図る手段 とし

て積極的に活用 され,そ のプレゼ ンスを急激に拡大させた。 こうした外資の活用は,銀 行経営を

市場原理に沿ったものにすること,銀 行の リスク管理体制を強化す ることなども目的としていた。

また当初は,外 資が経営権を握 ったのは,米 ニューブリッジ・キャピタルによる第一銀行の買

収(全 株式の51%,99年12月)に とどまっていたが,2003年 以降は米ローンスター ・ファン

ドによる外換銀行買収(全 株式の51%),米 シティ ・グループによる韓美銀行の全株式買収(そ

の後完全子会社である韓国シティ銀行設立),さ らに英スタンダー ド・チャーター ド銀行による

第一銀行の全株式の買収(そ の後SC第 一銀行として完全子会社化)な ど,相 次いで外資が大手

銀行の経営権を掌握あるいは強化 した。この結果,現 時点では7大 銀行(グ ループ)の うち,下

(17)韓 美銀行 は,政 府 の外資誘致策の一環 と して,韓 国の財 閥 とバ ンク ・オ ブ ・ア メ リカの ジ ョイ ン ト・

ベ ンチ ャー として1983年 に設立 された。

(18)国 内銀行 と同一 の基準 と手 続 きで複数支店の開設が認 あ られるこ とにな り,こ れ によ り従来の ホール

セ ール業務へ の特化 か らリテール業 務 にシフ トす ることが可能 にな った。

(19)そ の外 国企業 の総 資産や業務:量が,当 該 業界の平均水 準比 で適 切 と認 あ られ,財 務 内容 もBIS自 己

資本比率や国際的 な格付 け機 関によ る信用格付けか らみて十分健全 と評価 されてい ることが条件 とな る

(Kim(2005))。

(20)外 国人の個人投資家 に対 しては,引 き続 き4%の 保有上 限規制が課 されている。

(21)韓 国の企業 も,外 国企業 と同 じ手続 きに従 えば国内金融機関 の株式 の4%を 超え る保有 が認 め られる

が,そ の上 限はFSCが 外国企業 に対 して認 めた,あ るい は外 国企 業に よって報告 された保有上 限を超

える ことがで きな い(Kim(2005))。

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12『 明大商学論叢』第88巻 第4号(390)

第3表 韓国 の大手銀行 の株主構造

1997年 末 2004年 末

外資保有分 主 要 株 主外 資

保有分1主 要 株 主

な し

(住宅:4L2%)

政 府:22.4% 76.24% BankofNewYork:14.12%

Euro-PacificGrowthFund:4.2E%

INGBankN.v,Amsterdam:4.06%国民銀行な し

(国 民:37.0%)

政 府:15.2%

ウ リィ銀行8.E% サムス ン生 命

保険:6,6%

ll.54% ウ リィ金 融 持 株 会 社:100%

一KDIC:789%

ハ ナ銀行

21.f% 教保生 命保険:

7.7%

6831% Temasek:9.89%

Templeton:5.43%

Allianz:5.17%

新韓銀行

23.9% 在 日韓 国 人:

23.4%

62.9% 新 韓 金 融 持 株 会 社:100%

一韓 国 国 民 年 金 基 金:5 .1i%

BNPParibas:4.25%

Euro-PacificGrowthFund:3.94%

韓面外換銀行 2.7%

韓 国 銀 行:

47.9%

71.0% LoneStarFund:50.53%

CommerzBank:14.61%

韓 国 輸 出入 銀 行:13.87%

韓国 シテ ィバ ンク29.4% BankofAmer

ica:18.6%

99.91% Citigroup:99.91%

SC第 一銀行0ユ% 六字生命保険:

49%

100% StandardCharteredBank:100%

注1:ポ ー トフォ リオ投資分 も含む。

出所:1997年 末 についてはKim(2005)、2004年 末については各銀行Webサ イ ト

位3行 が単一の外資に経営権を握 られている。さらに,第1位 の国民銀行,第3位 のハナ銀行,

第4位 の新韓銀行(新 韓金融持株会社(22))についても,外 資全体による株式保有年率はいずれも

6割 か ら8割 近 くに達 している(第3表 参照)。7大 銀行のうち外資の株式保有比率が低いのは,

国有のウリィ銀行(ウ リィ金融持株会社)の みである。また,外 資保有比率の上昇に伴 って,外

資が役員を派遣するケースも近年急増 している。 このように現在では,韓 国の大手銀行のほぼ全

てが 「外資系」の銀行 にな っている。

なお,98年 以降あまり動きの見 られなか った外国銀行在韓支店においても,2004年 には支店

ネ ットワークの拡大が行われた(Kim(2005))。2004年 末時点で,37の 外国銀行が49の 支店

を営業 している。

(22)そ の傘下 に朝典 銀行 も入 って いる。

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(391)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大13

4.銀 行経 営の改善状況 と新たな拡大分野

韓国の銀行危機は極めて深刻であったが,上 述のような徹底 した構造改革の実施により銀行は

早期の回復を成 し遂げた。

銀行の不良債権の総額および総貸出残高に占める比率は,98年3月 末時点にはFLC基 準の

NPLベ ースで86兆 ウォン,16.8%で あったが,.そ の後大宇グループ破綻による新規発生の著増

などがあった ものの99年 末には現行のFLC基 準のSBLベ ースで61兆 ウォン,12.9%に 減少し,

その後 も2000年 末に42兆 ウォン,8%,2001年 末には19兆 ウォン,3.4%と 急速に減少 した。

その後は緩やかな減少傾向が続き,2005年 末には10兆 ウォン,1.2%と なった(第4表 参照)。

こうした不良債権の減少には,KAMCOに よる買取 りが(特 に99年 までは)大 きく寄与 したと

いえるが㈱,銀 行自体ももちろん直接償却,市 場での売却,証 券化,回 収などにより全力で不良

債権の処理を推 し進めた。また景気回復に伴 う正常債権化や新規発生の減少も寄与 した。

銀行は,不 良債権の処理を進める一方で,新 たな収益源として個人向け貸出や中小企業向け貸

出を急激に拡大させた。こうしたリテール業務重視戦略へのシフ トは1① 財閥への貸出の比率が

高かった銀行ほど危機による経営悪化が深刻で,危 機後も経営が健全だった銀行は従来か らリテー

ル分野を中心にしていたこと,② 危機前にリテール分野を担っていた地方銀行,中 小傘融機関,

総合金融会社などの整理 ・淘汰が進んだこと,③ 財閥などは過剰債務圧縮を迫 られていたこと,

③政府の内需拡大策による後押 しがあったこと,な どを背景としていた。現在では,銀 行の貸出

全体に占める大企業向け貸出の比率は5%程 度に低下する一方,個 人向け貸出が50%程 度,中 小

企業向け貸出が45%程 度を占めている(BankofKorea(2005))。 利鞘の厚い個人向け貸出,

第4表 銀行1の 財務指標 の推移

不 良 債 権 BIS自 己資本ROA(%) ROE(%)

金額(兆 ウオン) 比率(%) 比率(%)

1999年 61.0 12.90 11.85 一 〇.8

一14.4

・2000 42.1 8.00 10.5E 一 〇.6

一11.(

2001 18.8 3.41 11.68 0.7 12.8

2002 15.1 2.3i 11.33 0.6 10.9

2003 18.7 2.63 ll.20 0.2 3.4

2004 13.9 1.90 12.08 0.9 15.2

2005 9.7 1.22 (9月)12.80

注1:商 業銀行のみ ならず特殊銀行 も含 む。

出所:金 融監督院

(23)KAMCOに よ る銀 行 部 門 か らの 不 良 債 権 の買 取 り額 は,危 機 発 生 直 後 の97年ll月 か ら98年3月 ま

で の期 間 は8.4兆 ウ ォ ン,大 宇 破 綻 の あ った98年4月 か ら99年 末 ま で の 期 間 は44.1兆 ウ ォ ン(98年4

月 時 点 の 銀 行 の不 良債 権 残 高 の50.5%に 相 当)と 多 額 で あ った が,2000年 以 降 は銀 行 か ら の買 取 り額

は縮 小 し,2000年4.4兆 ウ ォ ン(年 初 の不 良 債 権 残 高 の7.2%),2001年4.9兆 ウ ォ ン(同11.6%),2002

年0.2兆 ウ ォ ン(同1.1%)と な って い る。

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14『 明大商 学論 叢』第88巻 第4号(392)

中小 企 業 向 け貸 出の 増 大 は,銀 行 の 収 益 拡 大 を支 え て い く こと に な った。

銀 行 の 収 益 は,企 行 平 均 で99年 に はROA-0,8%,ROE-14.9%で あ った が,上 述 した よ う

な不 良 債 権 処理 額 の 減 少 や リテ ー ル貸 出 増 の 効 果,さ らに は人 員 ・店 舗 の大 幅 な リス トラの 効 果

な どか ら2001年 に企 行 ベ ー スで 黒 字 に転 換 し,2004年 に はROAO.9%,ROE15.2%を 記録 す る

ま で に 改 善 した 。 国 内 商 業 銀 行 ベ ー スで は,ROA,ROEは それ ぞ れ ボ トム で あ る98年 の 一3.3

%,一52.f%か ら,2004年 に は0.9%,18%に 回復 した。 銀 行 の 従 業 員 数 は97年 の14万5,530

人 か ら2002年 に は 約6割 の8万9,470人 ま で 減 少 し,そ の 後 は 僅 か な が ら増 加 基 調 に転 じて

2004年 に は8万9,960人 と な って い る。 ま た,BIS自 己 資 本 比 率 は,企 行 ベ ー ス で97年 末 に は

7.04%と8%を 下 回 って い た が,2005年9月 末 に は12.8%と,欧 米 の 優 良 銀 行 並 み の 水 準 ま で に

回復 して い る。

銀 行 の信 用 格 付 け も大 き く改 善 した 。 大 手 銀 行 の 格 付 け(S&P)は,危 機 前 の概 ねBBB程

度 か ら危 機 直 後 には 平 均B+~BB一 と投 資不 適 格 レベ ル に ま で 低 下 した が,そ の 後 は財 務 内 容 の

改 善,リ ス ク管 理 体 制 や コ ー ポ レー ト ・ガ バ ナ ンス の 強 化 な どを 反 映 して 回 復 に転 じ,2005年

末 時 点 で は大 手7行(グ ル ー プ)の う ち1行 がA+,5行 がA一,1行 がBBBと な って い る。

な お,残 され た リス ク要 因 と して,財 閥 な ど企業 改 革 が 不 十 分 で あ る こ とや個 人 向 け 貸 出 増 大

に伴 う資 産 の質 の 低下 懸 念 な どが 指 摘 され て い るが,早 目の 対 応 な ど に よ り現 在 ま で の と こ ろ深

刻 な 問 題 に は な ってい な い ⑳ 。

5.外 資参入 の成果 と課題

このように韓国の銀行は鮮やかに復活を遂げた。 これについては,政 府 による資金の投入や大

胆な改革の主導が成果を挙げたと評価できるが,外 資の積極的な導入な しにはこうした早期の回

復は見込 めなか ったであろう。外資の導入は,資 本のみならず,そ れに付随 して新たな人的資本1

の流入,経 営手法やリスク管理体制の改善,コ ーポレー ト・ガバナンスの強化をもた らしたと考

えられる。外資の参入は,一 般的に金融システムの効率性,安 定性を高める効果があるといわれ

ている㈲。 これについては韓国の場合,危 機後の外資系銀行と歯内銀行のパ フォーマンスにそれ

ほど明確な差が認められなかったとの実証分析もあるものの,外 資の参入が金融危機後の再編過

程におけるもので特殊要因 も多 く本格的な活動開始からまだ 日が浅いこと,ま た大手銀行は今や

ほとんどが外資系 となってしまい残る1行 は国有であることなどから,国 内銀行との単純な比較 ・

(24)た だ し,急 速 に拡大 させた個人 向 け貸 出の うち,ク レジ ッ トカー ドロー ンの延滞率 が2000年 半 ばの

7%程 度 か ら急上昇 し2003年 半 ば には16%を 超え た ことは一時大 きな問題 とな ったが,そ の後 は審査

体 制 の強化 な どを反 映 して急速 に低下 し,2005年 半 ばには同カー ドロー ンの延滞率 は5%程 度 に落 ち着

いて きている。 同カー ドロー ンの個人 向け貸 出に占める シェア も,2001年 頃の15%程 度か ら2005年 半

ば には6%程 度 に低 下 した。 また,個 人 向け貸 出の6割 程 度の シェアを 占ある住宅 ロー ンの延滞率 は概

ね低水準(最 近 は2%程 度)で 推移 して いる(BankofKorea(2005)な ど)。

(25)打 込(2004)な ど。

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(393)韓 国の銀行再編と外資系銀行の役割拡大15

分析による検証は難 しいといえる。また,外 資と一言で言っても,シ ティ・グループやスタンダー

ド・チャーター ド銀行のように銀行の全株式を買収 してグローバル戦略の一環 として韓国銀行市

場に本格的に参入 しているケース,グ ローバル金融機関が戦略的な資本提携の形で経営権 は握ら

ずに参入 しているケース,特 定の投資ファン ドが経営権を握 っているケース,さ らには多 くの外

国人投資家がポー トフォリオ投資として保有 しているケースなど様々であり,一 概 には論 じられ

ない。ポー トフォリオ投資の場合には,短 期的な高収益を求ある傾向が強いと考えられよう。

しか し,外 資なしの金融再生は難 しかったとはいえ,外 資系銀行のプレゼンスが大きくなった

結果,い くつかの懸念や問題 も指摘されている⑳。まず第一は,銀 行経営上の重要な意思決定が,

外国企業あるいは親銀行によって自国の状況のみならずグローバルな環境を反映 して行なわれる

ようになることである。ただし,こ れについては良い面 と悪い面 とがある(例 えば,自 国以外の

経済 ・金融 ショックの影響を受けやす くなる一方,自 国の経済 ・金融動向やショックから影響さ

れる度合いが低下する)と 考えられる。

第二は,銀 行監督当局が,国 内金融システムの安定のために外資系銀行に対 して協力を求めて

も,協 力を得られないケースがあったことである⑳。 このためFSSは2005年2月,銀 行の公共

的な役割に鑑みて,外 資系銀行の経営に対する影響力を強めるべ く,銀 行の取締役(社 外取締役

も含む)に 占める外国人の比率が半分を超えないことと,取 締役は韓国内に居住するという条件

を導入することを決定 した。

第三は,韓 国シティバンクやSC第 一銀行のように,韓 国国内の銀行が外国の金融グループの

完全子会社 となって韓国の証券取引所か ら上場廃止 されると,韓 国国内への情報開示が大幅に少

なくなるともに,市 場規律が働かな くなるという問題である。これについては,一 定の経営情報

の国内への定期的な開示を促す措置が必要 と考えられている。

第四は,民 間投資ファン ドなどの国際的な投資家による投資については,短 期的な投資め成果,

短期的な市場価値の最大化を追求する傾向があり,こ れが韓国金融 システムの安定性を損なう惧

れがあるとの指摘である。こうした批判は,米 国の投資ファンドであるニューブリッジ ・キャピ

タルが第一銀行の株式を英スタンダー ド・チャ一夕ー ド銀行に売却 し多額のキャピタルゲインを

上げたこと,ま た同様に米国の投資ファンドであるローンスターが外換銀行の株式の売却 を計画

していると伝え られることなどを受けたものである。このため,外 資を誘致する必要がある場合

には,民 間投資ファンドよりもグローバルバンクのような長期戦略に基づく投資家の方が望まし

いとする声が高まっている。ただし,民 間投資ファンドにしても,危 機的な状況において リスク

を取って資金を投入 し,買 収 した銀行を再生 させ,リ スク管理体制を改善するなど,金 融システ

ムの安定化,効 率化に大きく貢献 したことを忘れるべきではないであろう。

(26)Kim(2005),Domanski(2005)な ど。

(27)例 え ば,2004年 初 めに当局 は,債 務超過 に陥 ったLGカ ー ド(韓 国最 大手の カー ド会社)の 乗務 を

継続 させ るべ く,同 社 の資本増強 のため低利の貸 出を行 な うよ う外 資系銀 行数 行(国 民銀行,外 換銀行

な ど)に 要請 したが,外 資系銀行 は こうしたガ イ ドライ ンに従 わなか った。

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16『 明大商学論叢』第88巻 第4号(394)

このように外資の参入にはベネフィットのみな らずコス トや リスクも伴 う。 もはや外資系銀行

のプレゼ ンスが極めて大きくなっている韓国においては,金 融監督当局がコス トを最小化する一

方でベネフィット.を最大化するような先見性を持った継続的な取 り組みを行 っていくことが不可

欠である。

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