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自己集合単分子層(SAM)を用いた 生体分子の非破壊的測定法開発のための 基礎研究 吉田敏研究室 赤野友美

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自己集合単分子層(SAM)を用いた生体分子の非破壊的測定法開発のための

基礎研究

吉田敏研究室

赤野友美

序論

非破壊的測定は、タンパク質の量的変動を、簡便に、かつ正確に観察する手段として、有効であると思われる。

チオールやジスルフィド基を有する分子が金表面に自発的に形成する自己集合単分子膜 (Self-AssembledMonolayers : SAM)は、機能性固体表面の作製に利用できることから、盛んに研究が行われている。

本実験では、健康なヒトのNCAMフラグメント、または統合失調症患者のNCAMフラグメントを結合させたSAMを、FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計、ATR法)で測定する事によって、その違いを観察するための基礎研究を行った。

何故NCAMに着目したのか?

統合失調症患者は、健康な人に比べて、血中のNCAMフラグメントの量が異常であるという報告がある。これより、NCAMの量(NCAMが持つシアル酸の量)に着目した。

また、NCAMフラグメントの量の変化を測定するに

おいて、特定の物質だけでなく、その物質がどう修飾されているかを観測できるFTIRが有効だと考えられたので、測定にはFTIRを用いた。

NCAMについて

「Neural Cell Adhesion Molecule:神経細胞接着分子」の略で、

膜貫通性のイムノグロブリン様タンパク質分子である。

色々な分子形態をとることにより、神経回路の形成に関わる。

シアル酸を持ち、180kDa、140kDa、120kDaの分子量がある。

FTIR(ATR法)について

・FTIRは干渉光の強度変化を

フーリエ変換する赤外分光光度計。

・ATR法 (attenuated total reflection;全反射測定法)は試料表面で全反射する光を測定することによって、試料表面の吸収スペクトルを得る方法である。ATR法の特徴としては、他の表面分析手法に比べて簡便であること,吸収強度が波長に依存していること,試料への光の侵入深さを入射角、プリズムの屈折率を変えることで調整できること、などが挙げられる。

gold plate

SAM及びFTIRを使うメリット

・サンプルが少量で済み、操作が簡略化される。

・FTIRで測ることにより、特定のタンパク質だけでなく、そのまわりの構造も推定できる。

SAMの作成、修飾過程

(3-Mercaptopropionic acid)

(11-Mercaptoundcanoic acid)

(N-hydroxysuccinimide )

(1-ethyl-3-[3-(dimethylamino)propyl]

carbodiimide hydrochloride)

実験方法

ステップ①

金片を1mM 11-MUAに2~3日室温で浸し、

エタノールで5分間洗浄し、FTIRで測定した。

ステップ②

金片を、150mM EDC 50μℓ及び30mM NHS 50μℓが入ったエッペンに浸し、室温で1時間反応させた後、FTIRで測定した。測定前には蒸留水で1分間洗浄した。

ステップ③

測定した金片を、リン酸緩衝液 100μℓ及びH300 (NCAMのN末端から1~300番目のペプチド残基を認識する抗体、rabbit IgG)1μℓを入れたエッペンに浸してよくタッピングし、室温で2時間反応させてから、冷蔵庫に入れて一晩静置した。その後、FTIRで測定した。測定前に蒸留水で1分間洗浄した。

ステップ④

測定した金片を、リン酸緩衝液 100μℓ及びヒトの血清 (千葉県浅井病院から供与;インフォームドコンセント処理済み) 1μℓを入れたエッペンに浸してよくタッピングし、室温で2時間反応させてから冷蔵庫に入れて一晩静置した。その後、FTIRで測定した。測定前に蒸留水で1分間洗浄した。

SAM作成、修飾過程におけるFTIRの比較

1736

1663

1652

16631462

1551

1551

14621045

1736

MUA

血清タンパク質

H300抗体タンパク質

Abs

orb

ance

Wavenumber(cm-1)

EDC,NHS

ステップ①

ステップ②

ステップ③

ステップ④

1551

1659

1045

ステップ④ 血清-ステップ③ H300の差スペクトルA

bsorb

ance

Wavenumber(cm-1)

健康なヒトと統合失調症のヒトでは糖鎖のピーク(1030~1090cm-1

付近)に違いが現れることが分かっているため、糖鎖の吸光度、及び糖鎖/タンパク質の吸光度の有意差検定を行った。

検定はt検定(分散が等しくないと仮定した2標本による検定、危険率5%)で行った。

t検定において、P値(両側) > 0.05となり、有意差は認められなかった。

糖鎖の吸光度

に対するt検定

糖鎖/タンパク質の吸光度

に対するt検定

P(T<=t) 両側 0.761526226 0.437019276

糖鎖/タンパク質の吸光度値の分散

健常者: 0.105589441 患者: 0.006691066

実験操作 ステップ①

金片を1mM 11-MUAに2~3日室温で浸し、

エタノールで5分間洗浄し、FTIRで測定した。

有意差が認められなかった理由として、サンプルごとにタンパク質の吸収強度にバラつきが見られたことが挙げられる。これを改善するためには、高配向性のSAMを得る必要がある。

→ステップ①でのSAM作成における条件を変えた。

1mM MUA

10mM MUA

Wavenumber(cm-1)

1667

1667

1547

1547

SAM作成における11-MUAの濃度の影響A

bsorb

ance

血清-H300のスペクトル

1663

1076

1046

11-MUA:3-MPA=1:10

11-MUA

Wavenumber(cm-1)

1076

1046

1663

1663

SAM作成における3-MPAの影響※

Abs

orb

ance

血清-H300のスペクトル

※Jung Wook Lee a, Sang Jun Sima,∗, Sung Min Choa, Jeewon Lee b

Biosensors and Bioelectronics 20 (2005) 1422–1427

結論と課題

各サンプルを比べてみると、タンパク質の吸収強度に

バラツキが見られた。

↓SAMの改良

・1mM MUAで充分なSAMが得られる。・MUAにMPAを混合しても、タンパク質の吸収強度には影響がなかった。

高配向性のSAMを得るため、昨年の卒論で発表した表面増強法という方法を現在検討中である。