一般廃棄物焼却施設における高病原性鳥インフルエンザ殺処分鶏の搬送と焼却方法の検討

誌名誌名 鶏病研究会報

ISSNISSN 0285709X

著者著者片岡, まどか澤田, 勝志

巻/号巻/号 50巻3号

掲載ページ掲載ページ p. 151-155

発行年月発行年月 2014年11月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

〈業績ノート〉

…般廃棄物焼却施設における高病原性鳥インフルエンザ殺処分鶏の搬送と焼却方法の検討

片岡まどか・津田勝志I)

何山県津山家畜保健衛生所，〒708-1117岡山賎津山市草加部 547-8

！）向山県美作県民局， 字708-8506岡山県i案山子信山下 53

要約

高病原性潟インフルエンザ発生時における殺処分鶏の焼却処理を想定して，管内 2カ所の一般廃棄物焼却

施設の協力を得て，約 20kgの医療用溌棄物密関容器を投入ホッパまで搬送する方法を検討した。また， A

焼却施設において，模擬処分鶏の試験的焼却を行うとともに，管内 6施設での焼却処理能力を試算した。 A

施設ではゴミクレーン方式と背負子方式を試行し B焼却施設では，瓦揚げ機方式を試行した。試した3つの方法，いずれでも密閉容器の搬送は可能で、あり，管内 6施設で応用できると考えられた。 A焼却施設に

おいて，模擬殺処分鶏 100羽を 4額に分けて投入したが，炉内j鼠度， co濃度および焼却灰の性状に問題は

無く，総焼却量に対し約 21%の割合で焼却処理することが出来た。管内にある 6カ所の焼却施設を利用し

た場合， 1日の焼却可能量は 42.4t （約 21,000羽）であることが判明した。管内の養鶏場の飼養羽数を考慮

すると，速やかな焼却処理を実行するために，管外の焼却施設の活用も検討する必要がある。

キーワード：一般廃棄物捜部施設，高病原性鳥インフルエンザ，殺処分鶏処理

鰭 百

高病原性鳥インフルエンザ等の｛云染病が発生した場合，

本県では殺処分した鶏を医療用廃棄物密閉容器（密賄容器）

に収容し一般廃棄物焼却施設（焼却施設）において焼却

処理することとしている。このため，当家畜保健衛生所（当

所）では県民局とともに管内全6カ所の焼却施設と搬入

方法や焼却方法について，施設毎に協議を進めている。

焼却施設内にゴミクレーンとは別に資材運搬用の巻き上

げ機がある場合は，密閉容器をフレコンパックに詰めるな

どして容易につり上げ投入出来るが，管内の焼却施設には

巻きょげ機は設聾されておらず，密閉容器を数m～10

数mょにある投入ホッパまでどのように運搬するかが大

きな課題となっていた。

また，当所管内では過去に処分鶏の焼却処理の経験がな

く，実際に処分鶏が問題なくスムーズに燃焼するかといっ

た不安も解消されていなかったので，焼却施設の協力を得

て，密閉容器をホッパまで運搬する方法の試行と処分鶏の

試験的焼却を行った。

材料と方法

1. 密閉容器のゴミホッパまでの搬送方法

約20kgの密閉容器をプラットホームからゴミホッパま

で運識する方法として，過去の HPAI発生事例！），調査事

2013年9月2日受付鶏病f!lf報50巻3号， 151～155(2014)

例2）及び管内の焼却施設の構造を考践して，表1に示す4

案を提案した。

高所作業率による搬送（高所作業家方式）は，一度に大

量の処分鶏の運搬が可能だが，プラットホーム等の高所ー作

業事設置場所に作業率の可動範囲を満たす面積を必要とす

る。瓦揚げ機方式は利用出来る高さに制限があり，設置．と

作動には多少専門的技術が必要で、あるものの簡便な方法で

ある。このような作業用機械は，施設の構造によっては設

置や利用が臨調tなケースも想定されるので，焼却施設に作

業用機械を持ち込まない方法として，既存のパケットの付

いたゴミクレーンを用いるゴミクレーン方式と，背負子を

利用した人力による背負子方式を検討した。

1) A焼却施設での試行

A焼却施設は，写真 lに示すように投入ホッパが4階

部分のプラットホームから約 12mの高さの位設にある。

施設の構造上，高所作業率や瓦揚げ機等の作業用機械の利

用が圏難なことから，ゴミクレーン方式と背負子方式を試

行し所要時間と必要人員を調査した。

2) B焼却施設での試行

B焼却施設は，投入ホッパ室が地上から約 6mの2階部

分と低く，この部屋の窓へのアプローチが比較的容易だ、っ

たため，瓦揚げ機を窓、に設置して搬入を試みた。高所作業

率方式についても利用可能と思われたが， 20昨年の県内

HPAI発生事例にて別の施設で利用した実績があるため今

閣は試行しなかった。また この施設の階段はアップダウ

ンがあり，人力での搬入は A焼却施設よりさらに労力的

mhd

鶏病研究会報

表 1. 殺処分鶏を入れた密閉容器の投入ホッパへの搬送方法とその評価

方 法高所作業車方式 瓦揚げ機方式 ゴミクレーン方式 背負子方式

窓またはゴミ 開いた状態の作業内容 窓から搬入 人力で階段から搬入

ピットから搬入 クレーンの上に積載

条 件 一定面積が必要 高さ制限有り アプローチ方法の確保 十分な通路幅

即応性 ム ム 0 0 運搬効率 0 ム ム ×

労 力小 小 小 大

&11

写真 1. A焼却施設の外観。建物の構造

上，高所作業車は利用しにくい。

に効率が悪いため，背負子方式は行わなかった。

2. 焼却試験

A焼却施設の焼却炉形式はパッチ式スト ーカ炉で，処

理能力は lOt/日である。模擬処分鶏 10羽を収容した密閉

容器 10箱を用い，燃焼中の炉内温度および一酸化炭素濃

度の変化と，焼却後の焼却灰の状況を調査した。

最初に一般廃棄物のみを投入し焼却炉内の温度が

800℃を超え，安定操業している状態の炉内に一般廃棄物

とともに密閉容器を 1～ 3箱ずつ投入した。オベレータ一

室で焼却状況を見ながらオベレーターの判断・指示により

投入した。

成 績

1. 搬送方法の試行

1) A焼却施設での試行

この施設には，図 1に示すように，オペレータ一室前の

ごみピット内に，点検用デッキがある。このデッキに立ち，

手すり越しにゴミクレーンにアプローチすることが出来る

ため，ゴミクレーンへの密閉容器の積載が可能で、あった。

ゴミクレーンのパケットを図2のように開いた状態にし，

左右のツメの上に密閉容器を積み込み，オベレーターのク

152

図 1. A焼却施設の構造。ゴミピット内の点検用デツ

キからゴミクレーンのパケットに積載出来る。

図 2. ゴミクレーン方式。聞いた状態のパケットに l回

4箱の密閉容器が積載可能。

レーン操作によりつり上げ，投入ホッパ横に降ろした。こ

の施設のゴミクレーンは小型なため I固に片側 2箱，計4

箱を積載した。ゴミクレーン方式では，積み込みと荷下ろ

しの作業を各2人で行い，クレーン操作は 1人がオベレー

ター室で行った。4箱搬入の往復所要時間は約 4分であっ

た。

一方，背負子方式では，密閉容器を手に提げて階段を上

ることは困難だ、ったが，背負子方式にすることで，背負う

際と荷下ろしをする際にはそれぞれ補助が必要であったも

のの比較的容易に搬入できた。 この施設の階段幅は約

75cmで十分に通過でき，手すりが設置されているため安

全な搬送が可能であった。4箱搬入の所要人員は介助2人，

運搬4人の計6人，往復所要時間は約 5分であった。

両方式問で， 4箱運搬の人員数と時間に大差はなかった

が，体力的な負担には大きな差があった。

2) B焼却施設での試行

写真 2.瓦揚げ機方式による投入ホッパ室への窓からの

搬入。l回2箱の密閉容器が積載可能。

表 2. 焼却施設における投入ホッパへの一般ゴミ

と模擬殺処分鶏の投入状況

投入時間 一般ゴミ 投入量（kg) 鶏投入量・（kg)

13:31 160

13:3δ 13・：40

13:52

13:57

14: 10

合計

（総焼却量の 21%)

114

68

67

58

299

766

20 (1箱）

60 (3箱）

60 (3箱）

60 (3箱）

200

炉内温度適正温度800～100ゲむ以上

官，．

第 50巻 2014 年

写真2のように，密閉容器を 2箱並べて台車に載せ，ゴ

ム製のベルトで保定し投入ホッパ室へと搬入した。瓦揚

げ機方式で，積み込みと荷下ろしの作業を各2人で行い，

2箱ずつ搬入した。4箱搬入の所要時間は， 2往復で約 4

分であった。

2.焼却試験

ホッパへの投入状況を表2に示すように，最終的に約

200kgの模擬処分鶏（密閉容器を含む）を焼却するのに

766kgの一般廃棄物を用いており，総焼却量に対する模擬

処分鶏の割合は約 21%であった。

図3に示ように，密閉容器の投入による炉内の温度低下

は認められず，一酸化炭素濃度についても通常運転時と変

化はなく，模擬処分鶏投入による異常は認められなかった。

炉内温度は，密閉容器がプラスチック製であることからか，

若干上昇する傾向が認められた。また，焼却灰については，

処分鶏の焼却残涯は確認されず通常運転時の焼却灰と変化

がないことから，密閉容器に入れた模擬処分鶏は問題なく

完全に燃焼したものと考えられた。

考 察

今回，ゴミクレーンのパケット，背負子および瓦揚げ機

を利用した搬送方法を検証し，いずれの方法も実行可能で

あることが確認できた。ゴミクレーン方式については，ご

みピット内に A焼却施設のようなデッキが無い施設では，

荷台が長いタイプのトラックを活用すればプラットホーム

側からゴミクレーンのパケ ットに積み込むことが可能と思

われる。兵庫県の調査事例2）で報告のある密閉容器をフレ

コンパックで梱包して吊り上げる方法については，吊り上

げ高さの不足により管内の焼却施設では応用出来ないと考

えられた。背負子方式については労力がかかるため，作業

者の休息、時聞を考慮する と効率が悪く，頻回運搬が必要な

大規模施設には適さないが，他の方式が利用できない小規

模施設では有用である。以上のことから，今回試行した 3

ー骨 司F 唱・ ・温p ・占p 唱・ 噌・

A A 叩由L

I L へJ J~J\....J\、／、 ： 、弓F 弓r 弓r 『r円r 円F 、;r •r

14:30 15:00

図 3 A焼却施設で、モニターされた模擬殺処分鶏の燃焼状況

153

と同様に，物理的に投入が可能なストーカ炉であれば焼却

施設の処理能力の 20%程度は処分鶏を焼却することが可

能と考えられる。当所管内6カ所の焼却施設（すべてストー

カ式）の処理能力から処分鶏の 1日の焼却可能量を推計し

たところ，表4に示すように， l日に約 42.4トン（1羽当

たりの体重を 2kgとすると， 1Bに約 2.1万羽程度）が焼

却可能と推計された。ただし当初管内の養鶏場の飼養規

模は約 50羽～約 100万羽と様々であり，大規模養鶏場が

複数存在するため，速やかな焼却処理実行のために管外の

焼却施設の活用も検討する必要がある。

今回の実証試験を通じて焼却施設側，関係機関の理解を

深め，殺処分鶏の焼却処理に対する不安を低減させること

ができた。今後ふ市町村および焼却施設との連携を強化

し一層の事前防疫体制の強化に努めていきたい。

最後に，今回の調査にご協力を頂いた管内焼却施設およ

び管内市町村の関係各位に深謝します。

鶏 病研究会報

管内 6焼却施設での搬入方法

瓦揚げ接

ゴミクレーン

高所作業主存＋瓦揚げ機

台準（ホッパとどットが同じ階）

ゴミクレーン

表 3.

焼却施設名

A

B

c D

E

管内6焼却施設をすべて利用した場合の殺処分鶏

焼却可能量の推計値

表 4

献

問山県： ~i病原性，烏インフルエンザl坊疫対応に関する報告

書（2007)三木i盗広ら：お病際性おインフルエンサ。発生に備えた焼却i

処分体制の繋備．負（H51ill兵庫県家蕊保健衛生所業績発表会（2009)中野有紀ら： i潟病係性烏インフルエンザ防疫に係る死亡鶏

焼却試験について．平成20年度三議県家畜保健衛生所業績発表会集録（2008)

文

1)

3)

2) つの方式は，高所作業車方式とあわせて，表3のとおり当

所管内 6カ所の焼却施設での応用が可能と考えられた。

また，今回の焼却試験では，総焼却量の約 21%の処分

鶏を焼却しでも問題はなかった。焼却施設の構造等により

一概には言えないが，過去の県内発生事例I）や調査事例2.3)

（処理能力の 20%)2.0 22.0 8.0 2.8 2.6

5.0 42.4

処理能力（t／日）焼却施設名

ABCDE

154-

第 50巻 2014 年

Evaluation of Burn up Work of Killed Hens in Incineration Facilities

Madoka Kataoka and Katsushi Sawada1l

Tsuyama livestock hygiene service center

Kusakabe 547-8, Tsuyamashi, Okayama, 708-1117

ll Mimasaka Prefecture Bureau

Sange 53 Tsuyamasi, Okayama, 708-8506

Summary

We plan to dispose of poultry carcasses infected with highly-pathogenic”avian-influenza virus by plac-

ing them in airtight 20-kg medical-waste containers and burning them in garbage incineration facilities. Methods of trans降portingcontainers to the injection hopper・inA and B facilities and burning rate with wastes garbage in A facility are studied. Moreover, we estimated the capability of six incineration facili-ties in our jurisdiction to dispose of poultry carcasses. The garbage cran巴systemand the manpower syシtem with crates (back-pack methods) were tried in facility A, and the tile winch was tried in facility B. All three methods were capable of carrying carcasses to the hopper, and we think that these methods are usable at the six incineration facilities in our jurisdiction. One hundred poultry carcasses were burned in four steps in facility A, and no problems were observed in the combustion temperature, CO concentra-tion, and incineration ashes. We found that we could dispose of poultry carcasses at up to 21 % of the total amount of incinerated garbage. We also found that we could dispose of 42.4 t of poultry carcasses (about 21,000 birds) in the six incineration facilities in our jurisdiction. However, given the number of bird farms

in our jurisdiction, we must also consider the practical use of waste incineration facilities in other jurisdic-tions in order to perform thermal disposal promptly.

(J. Jpn. Soc. Poult. Dis., 50, 151…155, 2014)

Key words : disposal of poultry carcasses, general waste incineration facility, highly pathogenic avian influenza

-155-