ゴミ焼却プラントにおける機械的切断技術 ·...

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ゴミ焼却プラントにおける機械的切断技術 加藤 政利* 徳山 文祐** 1.はじめに 一昨年、ゴミ焼却施設等から排出される高濃度のダイ オキシン類が新聞やテレビ等のマスコミで報道され、大き な社会問題となった。旧厚生省はダイオキシン類の削減 を最大の目標として、平成 9 年 1 月に「ごみに係るダイオ キシン類発生防止等ガイドライン」を発表 1) し、同年 5 月 には「ごみ処理広域化計画」の策定を通達した。更に、 平成 12 年 1 月には「ダイオキシン類対策特別措置法」 (以降、特別措置法と記す。)が施行され、ダイオキシン 類の排出基準が大幅に強化された。その結果、排出基 準値を越えかつ耐用年数が経過して更新時期を迎えて いるゴミ焼却施設については、改造または廃止を進めて いる。また、厚生労働省はゴミ焼却プラントや施設の解体 時におけるダイオキシン類の汚染拡大を防ぐとともに、作 業従業員の暴露(人体への二次汚染)を防止することを 前提として、平成 13 年 4 月に「廃棄物焼却施設内作業 におけるダイオキシン類暴露防止対策要網」を発表 2) し、 ダイオキシン類の存在が認められない場合以外はゴミ焼 却施設の解体工事において鋼材の溶断を禁止した。 このような状況の下、全国の地方自治体では特別措置 法に合致しないゴミ焼却施設に対し解体を検討している ものの、これらゴミ焼却施設の大部分は鋼構造(鉄骨)建 物であるため、これまでのようなガス溶断以外の解体工法 が要求されている。 要 旨 近年、国内の地方自治体において、旧ゴミ焼却施設の解体工事が増加している。しかし、一連の解体 作業においては、解体に着手する前に焼却プラント内部を洗浄する必要があり、そのための人通孔を設 けなければならない。そこで本研究では、人通孔の開口方法として当該機器が軽量かつコンパクトで短 時間に開口することが可能な機械的切断方法(チップソーおよびグラインダー)が有効であると判断し、 その切断刃の違いによる鋼材の表面および内部温度の上昇状況を把握するための実験を実施した。 その結果、①鋼板の切断時において広範囲に拡がる温度伝達を抑えるためには、グラインダーよりも チップソーが有効である。②チップソーおよびグラインダーの切断刃に関係なく、鋼板の切断線上の温 度は高温状態になるものの瞬時である。また、この高温に伴う鋼板内部の局部的な組織変化は発生せ ず、大部分の温度は 200℃以下となることから、高温の熱伝達はないものと判断される。③切断刃に水 を噴霧する水冷方式は、鋼板全体の温度上昇を抑制するのに有効である。 しかしながら、ゴミ焼却施設に対する一連の解体作業 において最初に発生するのがゴミ焼却施設内部の焼却 炉や集塵機等(以降、焼却プラントと記す。)の洗浄であ る。そのため、洗浄作業員が焼却プラント内部に入るため には、作業効率の良い位置に人通孔を事前に開口する 必要があり、開口作業に伴う二次汚染を防止することが 最重要課題となってきた。したがって、ゴミ焼却施設の解 体時における作業者への暴露防止対策として、機械的 切断方法 4),5) が挙げられるものの、機械的な切断時にお ける鋼材の温度上昇は予測不能であるばかりか、学術的 な研究報告も見受けられない。 そこで本研究では、焼却プラントにおいてダイオキシン 類の気化を最小限に抑えながら人通孔を開口する一技 術として機械的切断技術を取り上げ、機械的に切断する 際の鋼材表面、切断機と鋼材の接触部(切断境界部)、 およびその鋼材周辺(表面および内部)の温度上昇を実 験的に把握することを目的とした。 表-1 鋼材の機械的性質 σ y :降伏応力, :引張強度,YR:降伏比,EL:伸び, Hv:ビッカース硬度 (荷重:98.067N) σ u 3.2 板 厚 (mm) σ y (N/mm 2 ) σ u (N/mm 2 ) 390 507 76.9 32 Hv 145.6 YR EL (%) (%) 6.0 287 392 73.2 44 111.9 SS400 *建築エンジニアリング部 **環境事業部 13-1

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ゴミ焼却プラントにおける機械的切断技術

加藤 政利* 徳山 文祐**

1.は

一昨

オキシ

な社会

を最大

キシン類

には「ご

平成 1

(以降

類の排

準値を

いるゴ

いる。ま

時にお

業従業

前提と

におけ

ダイオ

却施設

このよ

法に合

ものの

物であ

が要求

*建築エ

要 旨

近年、国内の地方自治体において、旧ゴミ焼却施設の解体工事が増加している。しかし、一連の解体

作業においては、解体に着手する前に焼却プラント内部を洗浄する必要があり、そのための人通孔を設

けなければならない。そこで本研究では、人通孔の開口方法として当該機器が軽量かつコンパクトで短

時間に開口することが可能な機械的切断方法(チップソーおよびグラインダー)が有効であると判断し、

その切断刃の違いによる鋼材の表面および内部温度の上昇状況を把握するための実験を実施した。

その結果、①鋼板の切断時において広範囲に拡がる温度伝達を抑えるためには、グラインダーよりも

チップソーが有効である。②チップソーおよびグラインダーの切断刃に関係なく、鋼板の切断線上の温

度は高温状態になるものの瞬時である。また、この高温に伴う鋼板内部の局部的な組織変化は発生せ

ず、大部分の温度は 200℃以下となることから、高温の熱伝達はないものと判断される。③切断刃に水

を噴霧する水冷方式は、鋼板全体の温度上昇を抑制するのに有効である。

じめに

年、ゴミ焼却施設等から排出される高濃度のダイ

ン類が新聞やテレビ等のマスコミで報道され、大き

問題となった。旧厚生省はダイオキシン類の削減

の目標として、平成 9 年 1 月に「ごみに係るダイオ

発生防止等ガイドライン」を発表1)し、同年 5 月

み処理広域化計画」の策定を通達した。更に、

2 年 1 月には「ダイオキシン類対策特別措置法」

、特別措置法と記す。)が施行され、ダイオキシン

出基準が大幅に強化された。その結果、排出基

越えかつ耐用年数が経過して更新時期を迎えて

ミ焼却施設については、改造または廃止を進めて

た、厚生労働省はゴミ焼却プラントや施設の解体

けるダイオキシン類の汚染拡大を防ぐとともに、作

員の暴露(人体への二次汚染)を防止することを

して、平成 13 年 4 月に「廃棄物焼却施設内作業

るダイオキシン類暴露防止対策要網」を発表2)し、

キシン類の存在が認められない場合以外はゴミ焼

の解体工事において鋼材の溶断を禁止した。

うな状況の下、全国の地方自治体では特別措置

致しないゴミ焼却施設に対し解体を検討している

、これらゴミ焼却施設の大部分は鋼構造(鉄骨)建

るため、これまでのようなガス溶断以外の解体工法

されている。

しかしながら、ゴミ焼却施設に対する一連の解体作業

において最初に発生するのがゴミ焼却施設内部の焼却

炉や集塵機等(以降、焼却プラントと記す。)の洗浄であ

る。そのため、洗浄作業員が焼却プラント内部に入るため

には、作業効率の良い位置に人通孔を事前に開口する

必要があり、開口作業に伴う二次汚染を防止することが

最重要課題となってきた。したがって、ゴミ焼却施設の解

体時における作業者への暴露防止対策として、機械的

切断方法4),5)が挙げられるものの、機械的な切断時にお

ける鋼材の温度上昇は予測不能であるばかりか、学術的

な研究報告も見受けられない。

そこで本研究では、焼却プラントにおいてダイオキシン

類の気化を最小限に抑えながら人通孔を開口する一技

術として機械的切断技術を取り上げ、機械的に切断する

際の鋼材表面、切断機と鋼材の接触部(切断境界部)、

およびその鋼材周辺(表面および内部)の温度上昇を実

験的に把握することを目的とした。

σy  :降伏応

Hv:ビッカ

種  類

SS400

ンジニアリング部 **環境事業部

13-1

表-1 鋼材の機械的性質

力, :引張強度,YR:降伏比,EL:伸び,

ース硬度 (荷重:98.067N)

σu

3.2

板 厚(mm)

σy(N/mm2)

σu(N/mm2)

390 507 76.9 32

Hv

145.6

YR EL(%) (%)

6.0 287 392 73.2 44 111.9

2.実験計画 2.1 鋼板の選定 本実験に用いる鋼板は、ゴミ焼却施設内の焼却プラン

トを構成している部材として広く使用されている鋼板を考

慮し、200×200mmの正方形鋼板で板厚 3.2mmと 6.0mm

(共に SS400 鋼材) の2種類を用いた。なお、これら鋼材

の機械的性質を表-1に示す。

2.2 切断刃の選定 焼却プラントの開口作業で高熱を発生させないように開

口する方法としてウォータジェットが考えられる。しかし、こ

のウォータジェットは付属機器が大型で運搬効率が悪く、

設置場所の確保が難しいばかりか、高水圧で危険を伴う

作業であることから、焼却プラントにおける人通孔のように

少規模の開口作業としては有効な切断方法ではないと

思われる。

そこで本実験では、軽量かつコンパクトで短時間に開

口することが可能な機械的切断の刃として、チップソーと

グラインダーの 2種類を用意した。この切断機に用いたチ

ップソーとグラインダーの各刃を写真-1に示す。

2.3 実験パラメータおよび実験概要

本実験のパラメータは、①鋼板の板厚の違い(3.2mm と

6.0mm の2種類)、②切断機の違い(チップソーとグライン

ダーの2種類)、③送り方式の違い(自動送りと手動送り

の2種類:実施工時を考慮)、④切断条件の違い(乾式と

水冷式の2種類)の4項目を設定し、表-2のように組合

せた計6体の試験体を用意した。

鋼板の切断は、図-1に示すように片側から 180mm ま

で切断するように計画した。なお、手動送りの場合で切断

機の切断速度に大きな変化が起きた時は、途中で切断

を中止することとした。この実験状況を写真-2に示す。

鋼板の切断速度は、自動送りの場合は約 2.5mm/sec

に設定し、手動送りの場合は職人に委ねた。なお、各鋼

板の切断時間はストップウォッチにより計測した。

切断時の鋼板温度は、鋼板の表面を計測する箔タイプ

の熱電対と、鋼板内部を計測するシースタイプの熱電対

の2種類を図-1に示す位置に設置し、0.5 秒毎に温度

測定を行うことにした。なお、箔タイプの熱電対は-50℃

~500℃の温度を、シースタイプの熱電対は-50℃~

1,200℃の温度を計測することが可能である。

試験体名称 板厚 (t) 刃の種類 送り方式 切断条件

SP32TAD 3.2mmチップソー

自動送りSP60TAD 6.0mm 乾 式

SP32GADグラインダー

SP32GAW 水冷式

SP32TMD チップソー手動送り 乾 式

SP32GMD グラインダー

備 考

鋼種:SS400

3.2mm

(a) チップソーの場合 (b) グラインダーの場合

写真-1 鋼材の機械的切断に用いる切断刃

:熱電対(箔タイプ)

:熱電対(シースタイプ)

10

10

20 20

20

2020

20

⑨,⑪

⑥,

⑤①②

③④

200

200

100

100 100

100

切断線

鋼板(SS400)

A A

B

B

180 20切断長さ

切断方向

ロール方向

t

t/2

t/2

200

10060 2020

切断方向

表面

裏面

A-A断面

⑤③①

1010 1010

④②

t

t/2 t/2

B-B断面

ロール方向

表面

裏面

200

60100

202010

20⑥

⑤⑦

⑩⑧

t: 鋼板厚さ 【単位:mm】

図-1 試験体の概要および熱電対の設置位置

13-2

表-2 実験パラメータ表

13-3

写真-2 各試験体の切断実験状況

(a) SP32TAD 試験体の場合 (b) SP60TAD 試験体の場合

(c) SP32GAD 試験体の場合 (d) SP32GAW 試験体の場合

(e) SP32TMD試験体の場合 (f) SP32GMD試験体の場合

→ → 自 動自 動 切断方向 切断方向

→ 水 冷 → 切断方向

自 動切断方向自 動

→ → 手 動 手 動切断方向 切断方向

3.実験結果および考察

本実験で行った鋼板の切断時間および図-1で示し

た熱電対により計測した各計測点の温度を表-3に示

す。ここで、同表の①~⑤の温度は切断線上の切断温

度を、⑥~⑪の温度は切断線上の⑤点と垂直方向に伝

達して行く温度分布を把握しようとしたものである。なお、

同表中の値は、各計測点の最高温度を示している。

表-3から、自動送りの場合の切断速度は計画通り

2.53~2.61mm/sec の範囲で切断したことが確認できる。

一方 、手動送 りの場合 、チップソーの切断速度は

3.24mm/sec と比較的高速であるのに対し、グラインダー

の切断速度は 1.71mm/sec と低速であった。これは、グ

ラインダーは刃全体が砥石であるため、鋼板との摩擦抵

抗がチップソーより大きく、自動送りは機械的に切断速

度を調節できたものの、手動送りではこの摩擦抵抗によ

って切断速度に差が生じたものと考えられる。

温度計測の結果から、切断線上(①~⑤)の温度はチ

ップソーの場合、703.8℃~1,052.2℃と高温状態になる

傾向にあるのに対し、グラインダーの場合は 303.8℃~

490.2℃であり、チップソーの約半分になる傾向が見られ

た。一方、垂直方向(⑥~⑪)の温度はチップソーの場

合、20.8℃~42.9℃であるのに対し、グラインダーの場

合は 45.3℃~122.2℃であり、チップソーの約2倍になる

傾向が見られた。なお、グラインダーで水冷式の場合

(SP32GAW)は 22.9℃~39.9℃で、他のグラインダーの

乾式と比較すると約半分となる傾向が見られた。これら

温度計測の結果を経過時間で示したものが、図-2で

ある。ここで切断機の刃の違いによる温度上昇の違いは、

チップソーは刃先でチップ状に削りながら切断するため、

刃先近傍で高温状態になる。一方、グラインダーを用い

た場合は刃全体で粉状に削りながら切断するため、広

範囲に摩擦熱等が伝搬したものと考えられる。

試験体名称 板厚(mm)

切断長さ(mm)

切断時間(sec)

SP32TAD 3.2 180 70.15

SP60TAD 6.0 180 70.10

SP32GAD 3.2 180 71.15

SP32GAW 3.2 180 68.95

SP32TMD 3.2 151 46.60

SP32GMD 3.2 180 105.13

※:熱電対の不調により計測不能

00 10 20 30 40 50 60 70

100

200

300

400

500

600

700

800

⑦⑥⑧⑩,⑪

00 10 20 30 40 50 60 70

100

200

300

400

500

③④

⑦⑥⑧ ⑨,⑩ ⑪

表-3 鋼板の切断時間および各計測点の最高温度

切断速度(mm/sec)

2.57

2.57

2.53

2.61

3.24

1.71

各 計 測 点 の 最 高 温

518.9

182.5

213.1

255.1

1,027.8

324.6

①[内部

196.8

206.9

214.0

303.8

428.4

490.2

②[表下部

112.1

164.9

170.0

255.6

387.3

463.4

③[内部

203.0

204.0

345.6

289.9

420.7

④[表下部

703.8

1,052.2

236.9

207.2

220.4

⑤[内部

41.1

42.7

115.2

33.3

30.6

122.2

⑥[表上部

42.9

41.0

106.6

39.9

32.3

111.9

⑦[表下部

33.3

33.1

67.9

25.7

25.0

79.4

⑧[内部

29.7

30.1

54.9

23.7

22.9

60.7

⑨[表上部

29.8

30.2

51.2

23.9

23.2

57.7

⑩[表下部

27.4

28.0

45.3

22.9

20.8

45.9

⑪[内部

※ ※

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1,100

0 10 20 30 40 50 60 70 80

②③

⑦⑥⑧ ⑨,⑩⑪

8 00 10 20 30 40 50 60 70 8

100

200

300

400

500

②③

⑦⑥

⑧ ⑩⑨ ⑪

0 0

鋼板切断の経過時間【sec】鋼板切断の経過時間【sec】 鋼板切断の経過時間【sec】

(a) SP32TAD 試験体の場合 (b) SP60TAD 試験体の場合 (c) SP32GAD 試験体の場合

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1,100

0 10 20 30 40 50 60

※④, ⑤は計測不能

⑦⑥ ⑧ ⑨, ⑩⑪

800 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110

100

200

300

400

500

600

③⑤

⑦⑥⑧ ⑨

⑪⑩

0

鋼板切断の経過時間【sec】鋼板切断の経過時間【sec】 鋼板切断の経過時間【sec】

(d) SP32GAW試験体の場合 (e) SP32TMD 試験体の場合 (f) SP32GMD試験体の場合

図-2 鋼板の表面または内部温度と経過時間との関係

13-4

3.1 鋼板切断時の温度分布

本実験で得られた鋼板切断時の温度分布を図-3に

示す。なお、同図の最高温度は、同一試験体内の切断

線上で、表-3に示す①~⑤の中で最も温度の高い値

を採用した。また、温度分布を予測するための統計処理

を行う際、切断線上を原点とすると曲線近似が困難であ

るため、切断刃近傍として切断線から 0.001mm離れた

位置を最高温度とした。

同図から、チップソーの場合は累積近似で処理すると

決定係数はR2=0.9988~0.9999 となり、各式で切断時

の温度分布を予測することができる。グラインダーの場

合は対数近似で処理するとR2=0.9854~0.9983 となり、

各式で切断時の温度分布を予測することができる。

3.2 鋼板の硬度分布

実験終了後の鋼板を用いた硬度試験6)結果を図-4

に示す。同図中、(a)はチップソーを用いた場合を、(b)

はグラインダーを用いた場合の硬度分布を示している。

なお、硬度試験を行った試験片は冶金分析を行う試験

体(抜取り位置は図-5参照) と同一である。

同図から、切断刃の違いに関係なく、全ての試験体に

おいて切断面近傍の硬度が局部的に高くなるものの、

その他の位置はほぼ一定になる傾向が確認できた。な

お、同図中(a)のSP60TAD試験体は他の試験体の硬

度に比べて低くなる傾向にあるものの、実験前の硬度

(Hv) とほぼ同値(表-1参照)であり、切断による影響

ではないと判断できる。

切断線からの距離【D (mm)】

0 10 20 30 40 50

50

100

150

200

250

300

350

400

切断線からの距離【D (mm)】

0 10 20 30 400

100

200

300

400

500

600

700

800

T ()

切断線からの距離【D (mm)】

0 10 20 30 400

50

100

150

200

250

300

350

400

T=-27.42 Ln( D )+111.41R2=0.9917

T ()

T=-27.878 Ln( D )+156.93R2=0.9854

T ()

T=84.589 D-0.3068

R2=0.9999

050 50

(a) SP32TAD 試験体の場合 (b) SP32GAD 試験体の場合 (c) SP32GAW 試験体の場合

切断線からの距離【D (mm)】

0 10 20 30 40 50

100

200

300

400

500

600

700

800

0

900

1,000

1,100

1,200

T=95.796 D-0.3456

R2=0.9994

T ()

板厚の

中心線

99 (単位:mm)

10 20 10 1020 10 55 5

切断面

4

100

150

200

SP60TAD

SP32TMDSP32TAD

(Hv)

切断線からの距離【D (mm)】

0 10 20 30 40 50

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1,000

1,100

1,200

T=78.136 D-0.3709

R2=0.9988

T ()

切断線からの距離【D (mm)】

0 10 20 30 40 50

50

100

150

200

250

300

350

400

450

500

550

600

T=-41.592 Ln( D )+204.74R2=0.9983

T ()

0 0

(d) SP60TAD 試験体の場合 (e) SP32TMD 試験体の場合 (f) SP32GMD試験体の場合

図-3 鋼板の表面または内部温度と切断線からの距離との関係(温度分布)

板厚の

中心線

99 (単位:mm)

10 20 10 1020 10 55 5

切断面

4

100

150

200SP32GAWSP32GAD

SP32GMD

(Hv)

(a) チップソーを用いた場合 (b) グラインダーを用いた場合

図-4 実験終了後の試験体を用いた鋼板の硬度分布

13-5

4.冶金分析について

本研究の特徴は、ゴミ焼却施設の解体における初期

段階において、洗浄作業員が焼却プラント内部に入る

ための人通孔を機械的に切断する際、焼却プラント内

部に残留するダイオキシン類の気化を低減することであ

る。しかし、ダイオキシン類の溶融温度3)は 196.5℃ 以

上であるのに対し、本実験の温度計測結果では切断線

上で瞬間的に最大 303.8℃~1,052.2℃に達している。

そこで本研究では、実験終了後の鋼板を用いた顕微

鏡による組織撮影6)および画像分析6)を行い、一般的

に知られている金属の特徴から鋼板の切断挙動を把握

するとともに、鋼板の切断面が持続的な高温状態になら

ず瞬時であることを検証する。

4.1 顕微鏡による組織撮影計画

切断刃の違いによる鋼板の抵抗と切断面(切欠き面)

近傍の組織変化を把握するため、投影機によるマクロ組

織(倍率;×5~50)と光学顕微鏡によるミクロ組織(倍

率;×100~500)を写真撮影することにした。なお、硬度

分布と整合させるため、同一試験片の断面を使用する

こととした。

この顕微鏡による撮影面は、図-5に示す試験箇所の

断面とし、各組織の撮影箇所は図-6に示す通りであ

る。

4.2 顕微鏡による組織撮影結果

顕微鏡による組織の写真撮影結果を写真-3~6に

示す。ここで、写真-3は 3.2mm の鋼板を、写真-4は

6.0mm の鋼板をチップソーで切断した場合の組織を示

している。また、写真-5は 3.2mm の鋼板をグラインダー

で切断した場合の組織を、写真-6は 3.2mm の鋼板を

水冷しながらグラインダーで切断した場合の組織を示し

ている。なお、各写真内の写真(a)はマクロ組織を示し、

写真(b)は写真(a)内の□で囲んだ範囲のミクロ組織を

示している。画像分析(c)は写真(b)における鋼板のメタ

ルフローを 5~10 層ごとにまとめて図化した画像分析結

果を示している。

各写真内の写真(a)から、全ての試験体において切

断面近傍はせん断切断のように上面の一部が大きく湾

曲し、下面にはバリが付いていることが確認できる。また、

この切断面近傍では、少し黒墨んだ色の変化が見られ

るものの、特に大きな変化は認められない。

各写真内の写真(b)から、チップソーで切断した場合

の切断面は、針状の集まりとなり、引き千切られたような

形跡を残している。これは、チップソーの切断機構に依

存していると思われる。なお、どの試験体においてもメタ

ルフローを鮮明に確認することができ、切断時の摩擦熱

等による溶融や再結晶化は認められなかった。また、切

断面近傍ではメタルフローの間隔が密になっていること

から、図-4に示した硬度分布においても、切断面近傍

の硬度が他に比べて高くなる傾向を示したものと思われ

る。

各写真内の画像分析(c)から、写真-3、4のチップソ

ーで切断した場合、切断面近傍のメタルフローは切断

面にほぼ平行となるまで大変形している。一方、写真-

5、6のグラインダーで切断した場合、メタルフローの傾き

はチップソーに比べて緩やかであった。

200

200

100

50 100

100

切断線

切断方向

ロール方向

鋼板(SS400)

50

分析箇所[断面]

温度計測位置

4.3 溶接熱による組織変化の確認 本研究では、溶接等の高熱における組織変化を確認する

ため、本実験ではSP32TMD試験体の一部に隅肉溶接を施し、

マクロ組織およびミクロ組織の画像を撮影した。その結果を

図-5 実験終了後における鋼板の冶金分析箇所

写真-7に示す。

同写真(b)から、溶接金属に隣接するボンド近傍では溶接

熱7)(1,300~1,500℃の範囲に加熱)によりフェライトの成長

過程である針状フェライトが表われている。同写真(c)から、

熱影響部7)(HAZ:900~1,100℃の範囲に加熱)は結晶粒が

微細となっている。一方、同写真(d)に示す母材の組織は、

写真-3~6の組織と比較しても特に変化は認められない。

よって、機械的切断による高温の熱伝達は起こらず、結晶変

切断面

マクロ組織撮影範囲 ミクロ組織撮影範囲

上面

下面

図-6 顕微鏡による写真撮影箇所

化は発生しなかったものと考えられる。

13-6

切断面

切断面近傍のメタルフローはほぼ垂直

拡大

(a) マクロ組織(×10) (b) ミクロ組織(×143) (c) ミクロ組織の画像分析

切断面

切断面近傍のメタルフローはほぼ垂直

拡大

(a) マクロ組織(×8) (b) ミクロ組織(×143) (c) ミクロ組織の画像分析

切断面

メタルフローの変形が緩やか

拡大

(a) マクロ組織(×10) (b) ミクロ組織(×143) (c) ミクロ組織の画像分析

切断面

メタルフローの変形が緩やか

拡大

(a) マクロ組織(×10) (b) ミクロ組織(×143) (c) ミクロ組織の画像分析

写真-3 SP32TAD 試験体の組織および画像分析結果

写真-4 SP60TAD 試験体の組織および画像分析結果

写真-5 SP32GAD 試験体の組織および画像分析結果

写真-6 SP32GAW 試験体の組織および画像分析結果

13-7

溶着金属

母材

HAZ

5.

本研

人通

験的

ける温

その

①:鋼

広範

ンダー

ソーの

が有効

②:チ

鋼板

瞬時

組織

ら、高

の気化

り方式

③:切

囲へ

お、回

で切

かに少

(c) 熱影響部(細粒領域)(b) 熱影響部(溶接部に隣接)

(d) 母材部

(a) マクロ組織(×9) (b) 熱影響部(溶接部に隣接)のミクロ組織(×140)

(c) 熱影響部(細粒領域)のミクロ組織(×140) (d) 母材のミクロ組織(×140)

まとめ 究では、焼却プ

孔を開口するた

に判断するととも

度状況を組織変

結果、以下に示

板の切断時にお

囲に拡がる高い温

のように摩擦熱

ように刃先で削

である。 ップソーおよびグ

の切断線上の瞬

である。また、この

変化は発生せず

温の熱伝達はな

を低減すること

の違いによる温

断刃に水を噴霧

拡がる高い温度

収した水の処理

断した場合に発

ない。

写真-7 隅肉溶接を施した試験体の組織画像(SP32TMD 試験体の一部)

ラント内部に洗浄作業員が入る

めの有効な機械的切断方法を実

に、冶金分析結果から鋼板が受

化の比較等から考察した。 すことが明らかとなった。 ける切断線上から鋼板周辺へと

度伝搬を抑えるためには、グライ

が多く発する切断刃よりも、チップ

りながら切断してゆく切断刃の方

ラインダーの切断刃に関係なく、

間温度は高温状態になるものの

高温に伴う鋼板内部の局部的な

、大部分は 200℃以下となることかいものと判断され、ダイオキシン類

が可能であると思われる。なお、送

度変化は特に大差はなかった。 する水冷式は、鋼板全体の広範

伝搬を抑えるのに有効である。な

が必要となるが、ウォータジェット

生する回収水量と比較するとはる

【謝 辞】 本研究を遂行するにあたり、(株)日鐵テクノリサーチか

ずさ事業所の榎戸氏、兼松氏ならびに(株)日鐵テクノリ

サーチ関西事業所の長尾氏、小林氏には多大なる御

協力を頂きました。ここに記して感謝の意を表します。 【参考文献】 1) ごみ処理に係るダイオキシン類削減対策検討会

編:ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドラ

イン-ダイオキシン類削減プログラム-、1997.1

2) 厚生労働省編:廃棄物焼却施設内作業におけるダ

イオキシン類暴露防止対策要網、2001.4

3) 酒井伸一:ダイオキシン類のはなし、日刊工業新聞

社、1998.7

4) 徳山文祐、加藤政利:環境問題を考慮した鋼構造

建物の解体技術に関する実験的研究(その1)、日本建

築学会大会学術講演梗概集(北陸)、構造Ⅲ, pp.947

~948, 2002.8

5) 加藤政利、徳山文祐:環境問題を考慮した鋼構造

建物の解体技術に関する実験的研究(その2)、日本建

築学会大会学術講演梗概集(北陸)、構造Ⅲ, pp.949

~950, 2002.8

6) 加藤政利、中村雄治、松尾 彰、緒方雄二、勝山

邦久、橋爪 清:鋼構造建物の発破解体時における鋼

板の切断挙動に関する研究、鋼構造論文報告集、

Vol.6, No.24, pp.31~38, 1999.12

7) 溶接学会編:溶接・接合技術、産業出版、1994.7

13-8