英国におけるロックダウン中のオンライン学習支援...2020/09/30  ·...

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FMMC 研究員レポート September 2020, No.2 - 1 - 英国におけるロックダウン中のオンライン学習支援 一般財団法人マルチメディア振興センター(FMMCロンドン事務所 リサーチャー ザボロフスキ 真幸 はじめに 2020 3 23 日、英国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による全国的なロック ダウンに入ることがジョンソン首相から発表された。当初、少なくとも 3 週間とされたロック ダウンだったが、5 10 日にジョンソン首相がロックダウンの段階的な緩和の計画を発表し、 6 23 日にはイングランドで 7 4 日からの更なるロックダウンの緩和が発表されるまで約 15 週間続いたことになる。 ロックダウン中、義務教育下の子供たちの学習をサポートするために、英国では多くの小・ 中学校で生徒及び保護者とオンラインを介して自宅学習が進められた。教育省は、脆弱な状況 下にある子供たちを対象としたデジタル端末及びドングルの提供を行い、BBC ではテレビ、ウ ェブサイト、アプリ等を介して、国の教育課程に沿った大規模な教育プログラムを提供するな ど、オンライン学習を支援するための様々な取組が実施された。本稿では、英国の教育省のオ ンライン学習支援、また教育省から勧められたオンライン学習リソースをまとめ、英国でどの ようにオンライン学習が進められたかを報告する。 1.教育省によるオンライン学習支援のためのデジタル端末の提供 教育省は、2020 4 21 日、脆弱な状況下にある子供たちを対象に、ロックダウン期間中 のオンライン学習を支援することを目的に、ラップトップ、タブレット、 4G ドングルを提供す ると発表した。 具体的には、 5 月~7 月の間に、デジタル端末を所有していないソーシャルワーカーを必要と する学校児童、ケア・リーバー(社会的養護経験者)、恵まれない状況 1 にある 10 年生(1415 歳)を対象に、デジタル端末が提供され、インターネットにアクセスできないソーシャルワ ーカーがいる中等学校の生徒、ケア・リーバー、恵まれない状況にある 10 年生を対象に 4G ングルが提供された。 地方自治体、アカデミートラスト(中央政府と直接契約を結んで公費で学校を運営する会社)、 その他の関連組織には、恵まれない立場にある生徒を対象とした端末のオンライン注文方法に 関するガイダンスが提供され、地方自治体及びアカデミートラストが必要な端末の推定数をオ ンラインで注文する流れとなった。(保護者、生徒は自ら端末を注文することはできないため、 _ 1 家庭にデジタル端末が無い場合、スマートフォンのみが利用可能な端末である場合、他の複数の家族と 1 のデジタル端末を共有しないといけない場合、自宅に固定ブロードバンド接続が無い場合等。

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FMMC 研究員レポート September 2020, No.2

- 1 -

英国におけるロックダウン中のオンライン学習支援

一般財団法人マルチメディア振興センター(FMMC)

ロンドン事務所 リサーチャー ザボロフスキ 真幸

はじめに

2020 年 3 月 23 日、英国は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による全国的なロック

ダウンに入ることがジョンソン首相から発表された。当初、少なくとも 3 週間とされたロック

ダウンだったが、5 月 10 日にジョンソン首相がロックダウンの段階的な緩和の計画を発表し、

6 月 23 日にはイングランドで 7 月 4 日からの更なるロックダウンの緩和が発表されるまで約

15週間続いたことになる。

ロックダウン中、義務教育下の子供たちの学習をサポートするために、英国では多くの小・

中学校で生徒及び保護者とオンラインを介して自宅学習が進められた。教育省は、脆弱な状況

下にある子供たちを対象としたデジタル端末及びドングルの提供を行い、BBC ではテレビ、ウ

ェブサイト、アプリ等を介して、国の教育課程に沿った大規模な教育プログラムを提供するな

ど、オンライン学習を支援するための様々な取組が実施された。本稿では、英国の教育省のオ

ンライン学習支援、また教育省から勧められたオンライン学習リソースをまとめ、英国でどの

ようにオンライン学習が進められたかを報告する。

1.教育省によるオンライン学習支援のためのデジタル端末の提供

教育省は、2020年 4月 21日、脆弱な状況下にある子供たちを対象に、ロックダウン期間中

のオンライン学習を支援することを目的に、ラップトップ、タブレット、4Gドングルを提供す

ると発表した。

具体的には、5月~7月の間に、デジタル端末を所有していないソーシャルワーカーを必要と

する学校児童、ケア・リーバー(社会的養護経験者)、恵まれない状況1にある 10 年生(14~

15歳)を対象に、デジタル端末が提供され、インターネットにアクセスできないソーシャルワ

ーカーがいる中等学校の生徒、ケア・リーバー、恵まれない状況にある 10年生を対象に 4Gド

ングルが提供された。

地方自治体、アカデミートラスト(中央政府と直接契約を結んで公費で学校を運営する会社)、

その他の関連組織には、恵まれない立場にある生徒を対象とした端末のオンライン注文方法に

関するガイダンスが提供され、地方自治体及びアカデミートラストが必要な端末の推定数をオ

ンラインで注文する流れとなった。(保護者、生徒は自ら端末を注文することはできないため、

_ 1 家庭にデジタル端末が無い場合、スマートフォンのみが利用可能な端末である場合、他の複数の家族と 1つ

のデジタル端末を共有しないといけない場合、自宅に固定ブロードバンド接続が無い場合等。

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FMMC 研究員レポート September 2020, No.2

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学校に要相談することが勧められた。)注文されたラップトップ、タブレット、4Gドングルは、

教育省と提携する英 Computacenter社2によってセキュリティ及び保護設定がされた後、配送

された。また、教育省は、配布された世帯、子供、若者に関する情報を一元的に記録はしてお

らず、情報は地方自治体及びアカデミートラストによって管理された。

教育省による同取組は、広く利用され、8月に教育省が発表したデータ3によると、地方自治

体、アカデミートラストに対し、合計で 22万を超えるラップトップ及びタブレット、5万を超

える 4Gドングルが提供されたことが明らかになっている。

さらに、教育省はオンライン学習リソースとして、①BBCの教育プログラム「Bitesize Daily」、

②ロックダウン中の学校閉鎖に対応するために、英国中の教師陣によって作成された無料のオ

ンライン授業リソースである「Oak National Academy」を推薦している。以下、教育省が勧め

る二つのオンライン学習リソースをみていくこととする。

2.BBCによる一連の教育プログラム

(1)BBCによる教育番組の提供

ロックダウンが開始してから 4月 3日、BBCは英国の児童が国の教育課程を継続して学ぶ機

会を保証するための取組として、14週間に渡る教育プログラムを提供することを発表した。英

国では、ロックダウンが始まった 3 月 23 日からの 3 週間の間にイースターホリデーを挟んで

おり、英国のほとんどの学校でイースターホリデー開けの 4 月 20 日から学校が再開予定とな

っていた。しかし、ロックダウンが延長されたため、BBC では、新学期が始まる 4 月 20 日か

ら政府が定める教育課程に沿った様々な教育コンテンツをテレビ、オンライン等で配信すると

した。この包括的な取組は、児童の教育の混乱を最小限に抑え、困難な時期に児童に学習習慣

を提供することを目的としており、BBCは、教師、教育プロバイダー、教育省、ウェールズ政

府、スコットランド政府、北アイルランド行政機関と緊密に連携して、国家の教育課程に沿っ

たオンライン学習を提供するとした。具体的なコンテンツは以下のとおり。(全てのコンテンツ

は学年別で提供される)

BBC Bitesizeウェブサイト:政府が定める教育課程に沿って様々な教育マテリアルを提

供する。初等教育段階である KS1(第 1、2学年)と KS2(第 3~6学年)、中等教育段

階である KS3(第 7~9学年)と KS4(第 10、11学年)でコンテンツが分かれている。

(また。イングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズにもよって分か

れている。)各教育課程では学校で取り扱われる授業のリソースが提供されており、英

語、数学、歴史、地理、理科、コンピューター、芸術、体育、音楽、宗教、言語(フラ

ンス語、ドイツ語、スペイン語、中国語)等と幅広い教科がカバーされている。その他、

_ 2 企業及び公共セクター機関向けに情報テクノロジー及び関連サービスを提供する ITサービス会社。 3 https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/912888/De

vices_and_4G_wireless_routers_progress_data_as_of_27_August_2020.pdf

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ポッドキャスト、ビデオ、クイズ、授業など、すべての教育リソースのワンストップシ

ョップになる。(Bitesize 自体は、今回初めて作られたものではなく、20 年以上、教育

課程に沿った無料オンライン学習サポートリソースを提供している。)

BBC Bitesize Daily:5~14 歳までを 6 つのカテゴリーに分け、BBC iPlayer で、毎日

20 分間に及ぶ教育課程に沿ったレッスンを放送する。数学、英語、理科といった教科

に加え、スポーツ、文学等様々なトピックを提供する。

BBC iPlayer(BBC のオンライン視聴サービス):特別にキュレーションされたコンテ

ンツを提供し、教育課程に沿ったビデオやプログラムを提供する。

BBC サウンド:小学校及び中学校の保護者を対象とした家庭学習及び健康に関する二

つの新しい教育ポッドキャストを提供する。

BBC Four:平日の夕方に、全国統一試験である GSSE及び Aレベル関連のプログラム

を提供する。

BBC による教育への一連の取組に対して、トニー・ホール BBC 会長(当時)は、以下のよ

うに語っている。「この包括的な教育パッケージの取組は、BBC がこれまでに行った中でも最

大の教育への取組であり、BBCだけが提供できるものである。子供たちが学習を続けるための

アクセスとサポートを確保するために教師、学校、保護者と協力して国が私たちを必要とする

ときに、BBCがサポートできることを誇りに思っている。」

さらに、デジタル・文化・メディア・スポーツ省のオリバー・ダウデン大臣も、「同取組は、

公共放送ができることで最高の取組であり、学校が閉鎖されている間、英国中の何百万人もの

子供たちに大きな影響を与えるだろう。BBCが政府と緊密に連携して、この困難な時期に子供

たちが確実に教育を受け、情報を得、楽しむことができるように支援できることを嬉しく思う。」

と述べるなど、BBCの取組は高く評価された。

(2)BBCの教育コンテンツの利用動向

4月 20日に放送が開始された「BBC Bitesize Daily」の利用者は、ロックダウン期間中に増

加し続け、BBCが 5月に発表した BBC iPlayerにおける Bitesize Dailyの視聴リクエスト数は、

4月 20日以降、5月時点で 10倍以上に増加した。

英国の緩やかなロックダウン緩和に伴い、政府は 6月 1 日から幼稚園の年長に当たる「レセ

プション」の児童と、小学校の 1年生及び 6年生から授業を再開すると発表した。(しかし、学

校へ子供を登校させるかどうかは保護者が決めてよいこととなり、学校に子供を通わせないと

決めた保護者に対し、ペナルティは課さないとされた。)同状況を受けて、BBC は当初 2 週間

としていた Bitesize Dailyを 7月中旬の学年末まで提供し続けることを発表。結果として、4月

から始まった Bitesize Dailyでは、計 2,000時間のレッスンが提供され、iPlayerでは 7月中旬

に放送が終了した時点で視聴リクエスト数は 550万件となった。また、BBC Bitesize ウェブサ

イトのアクセス数は、前年同期比の 121%増となる週平均 380万人となるなど、BBC Bitesize

は、バーチャルスクールとしてロックダウン中に多くの子供に利用された。

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さらに、ロックダウン中は、Bitesize以外の BBC の子供向けの教育コンテンツの利用も著し

く増加し、BBCの未就学児向けテレビチャンネル「CBeebies」及び 6歳~12歳向け「CBBC」

における BBC iPlayer上のリクエスト数は、4月から 6月までの間に 81%増となる週平均 3,800

万件となり、iPlayerの全体リクエスト数の 4分の 1を子供向け番組が占めるようになった。

その他、CBBCのウェブサイトの利用者数は、前年同期比 57%増となる週平均 50万人以上、

CBeebies のウェブサイトでは、週平均 30 万人以上が利用した。CBeebies ラジオは、未就学

児の視聴者を多く獲得し、前年同月比の同じ時間枠と比べて 151%増の視聴者数となった。

BBC Children’s and Educationのソフィー・ジェイコブ代表代理は、「これらの数値は、すべ

ての年齢層の視聴者が困難な時期に BBCを利用していることを反映しているだけではなく、視

聴者が望むすべての方法でコンテンツを利用できるようにする必要性を示している。私たちの

若い視聴者は、常に進化しており、私たちも同時に進化し続けることが非常に重要である。」と

述べ、BBCのコンテンツを多様な視聴者にリーチするために、コンテンツの提供方法も幅広い

選択肢を与えることの重要性を強調した。

3.Oak National Academy

オンライン授業及びリソースのハブである「Oak National Academy」は、COVID-19のパン

デミック中の学校閉鎖に対応して、英国の教師、学校、教育機関のグループによって設立され、

2020年 4月 19日に公開された。同ウェブサイトでは、小学校の生徒に 1日 3時間相当、中学

校の生徒に 1日 4時間相当の授業を提供し、レッスンは、教師の授業、ビデオ、クイズ、ワー

クシートの組み合わせによって作成されている。

Oak National Academyは、ロックダウン期間から夏休みに入るまでの期間である 4月 20日

~7 月 12 日までに 1,500 万時間のビデオ素材を含む 2,000 万弱のレッスンを提供した。また、

Oak National Academyが公表したデータによると、Oak National Academyユーザー数は、470

万人以上4となり、毎日平均 22万ユーザーが利用したことが明らかになっている。さらに、Oak

National Academyのアセンブリー(全校集会)の動画では、キャサリン妃(ケンブリッジ公爵

夫人)がスピーチを行い、当日のユーザー数は、通常より 5万人以上多くなった。

ユーザー動向では、初等教育段階である KS1(第 1、2学年)で 24%、(第 3~6学年)で 53%、

中等教育段階である KS3(第 7~9学年)、KS4(第 10,11学年)でそれぞれ 15%が Oak National

Academyを利用した。高学年になるほど、科目の選択、または特定の学習に対してカリキュラ

ムがより具体的になることから、カリキュラムに合わないという理由でリソースにアクセスす

るユーザーが少なくなった。

一方、教師による Oak National Academy利用の主な理由は、仕事量の削減のため(33%)、

教育及び学習の質の向上(27%)、計画の複雑さを軽減するため(16%)、より効果的なカリキ

ュラムの導入のため(13%)となった。

Oak National Academyは、需要の高さから、ロックダウン後も運営を継続することを発表。

_ 4 この数は、端末ごとに計算されているため、世帯内の複数の人が 1つの端末で Oakを使用した場合、総数は

増える可能性があるとされた

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教育省からは Oak National Academyに 2020/21の運営継続のために 430万ポンドの資金を提

供することが発表されている。

4.英国のオンライン学習動向

ここまで、オンライン学習支援の取組を見てきたが、実際にどのように学校と子供、保護者

がオンラインを介して自宅学習を進めてきたかその実態を見ていきたい。英教育慈善団体の

「Sutton Trust」が 2020年 4月に発表した「COVID-19とソーシャルモビリティインパクトブ

リーフ」は、ロックダウン中の英国学校のオンライン学習提供状況及び学生の学習動向につい

て詳細を示している。

図①では、ほとんどの学校がオンライン学習プラットフォームを介してオンライン学習を進

めたことが明らかになっている。オンライン学習プラットフォームとは、オーディオ、動画及

びテキストコンテンツをプラットフォーム上で提供できると共に、学生及び保護者と連絡を取

り合う場所ともなり、自宅学習の指示、課題の受理、追跡するシステムが一元化されたポータ

ルのことで、各学校の利用割合は最も高くなった。続いて、「学校のウェブサイトを介して自宅

学習の指示を行う」、「メールを介して自宅学習の指示を行う」となった。

一方、低所得世帯の割合が高い地域では、物理的なワークシートまたはワークブックを介し

て自宅学習を進めた割合が、他の地域と比べて非常に高いことが明らかになっている。(低所得

世帯の割合が最も高い地域における公立学校で、物理的なワークシートまたはワークブックを

介して自宅学習を進めた割合は、48%であったのに対して、低所得世帯の割合が最も低い地域

では 22%となった。)調査では、生徒の多くがオンラインで提供されるコンテンツにアクセス

できない可能性が指摘された。また、相当数の私立学校は、ライブビデオ会議(28%)とオン

ラインチャット(25%)を提供する割合が高く、公立学校との違いが明らかになった。

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図①5 ロックダウン中のオンライン学習方法

020406080100

1st Qtr 2ndQtr 3rdQtr 4thQtr

EastWestNorth

(出所)COVID-19とソーシャルモビリティインパクトブリーフ報告書を基に作成

また、ロックダウン期間中の子供がオンライン学習に費やした一日当たりの時間は、小学生

で 3時間が最も多く(27%)、続いて 4時間(24%)、2時間(23%)、5時間以上(11%)とな

った。中学生では、4時間(28%)、3時間(24%)、5時間以上(19%)、2時間(15%)とな

った。

インターネット接続のある端末へのアクセスについては、低所得世帯の割合が最も高い地域

では、教師の 15%が学校の 3分の 1以上が十分なアクセスができないと考えていると回答した

一方、低所得世帯の割合が最も低い地域の学校の教師は 2%にとどまった。

また、各世帯のインターネット接続のある端末数に関して、中央値の世帯は 4 台のインター

ネット接続端末があると回答している。

調査では、オンライン学習では、地域間、また世帯間での格差が広がることを指摘し、政府

がすべての子供が必要なリソースを確保できるように支援する必要性、教師向けのオンライン

学習のトレーニング、ガイダンスを提供することが求められた。また、低所得地域の生徒に対

しては、追加の 1対 1または小グループのオンライン授業へのアクセスが必要であるとも指摘

された。

_ 5 FSM:Free School Mealフリー・スクール・ミールとは、生活保護や失業保険など政府から補助を受けてい

る世帯の給食費が無料になる制度。同図では、FSM Q1を最も裕福な地域(低所得世帯の割合が低い)FSM

Q4を最も貧しい(低所得世帯の割合が高い)としている。

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5.結び

英国では、ほとんどの小中学生が 3 月後半から夏休みに入るまでの期間、オンライン学習を

自宅で行うことになったことに対して、教育省の動きの他にも、デジタル・文化・メディア・

スポーツ省(DCMS)及び内務省がオンラインで安全を確保するためのガイダンスを発表して

いる。その中には、セキュリティ及びプライバシー設定の確認、不適切なコンテンツのブロッ

ク、フィルタリングの設定、詐欺メールやテキストの注意喚起といった項目が保護者及び子供

の世話をする人に向けて詳しく言及され、オンライン学習を行う子供たちの安全を守る方法が

示された。

一方、オンライン学習に欠かすことのできない通信接続を提供し、ネットワークトラフィッ

クの増加を維持し支えた、英国の主要な電気通信事業者は、DCMS省とパンデミック状況下で

の脆弱な消費者を支援及び保護するために、消費者への公正かつ適切なサポートの提供、既存

の全固定ブロードバンドサービスのデータ許容量の上限の取り払い、固定ブロードバンド及び

固定電話の優先修理が実行できない場合に、脆弱な顧客または自宅待機をしている顧客に対し、

可能な限り通信方法の代替手段を提供することを保証するといった、一連の措置に合意した。

また、BT は、教育省とのパートナーシップにより、脆弱な状況下にある子供たちを対象に、6

か月間無料の Wi-Fi アクセスを提供、ボーダフォンは、月額契約顧客及び脆弱な立場にある顧

客に対し、無制限のモバイルデータを 30日間無料で提供、O2はすべての月額契約顧客に対し、

国内の音声通話の上限をなくし、無制限の音声通話を提供すると発表した。さらに、O2やテス

コモバイルは、古いまたは未使用のスマートフォンの寄付を促す取組を実施するなど、ロック

ダウン期間中にオンライン学習を含む自宅でのコネクティビティを維持する様々な取組が実施

された。

そのような中、Sutton Trust 調査の結果にもあったように、多くの公立学校はオンライン学

習プラットフォームを介して生徒及び保護者と連絡を取り合い、自宅学習を進めた。筆者の小

学生の子供も、教師からオンライン学習プラットフォームを介して、毎朝課題が届けられ、そ

の課題を写真、動画等で当日提出し、担任の教師から課題に対するコメントを貰うという流れ

をとっていた。学校によっては、毎日ではなく 1週間に 1度課題を提出するなど、程度の違い

はあれ、ほとんどの学校がオンライン学習プラットフォームを使用していた。学校側も、オン

ラインで提出された課題を毎日確認、コメントをしており、授業の動画を作成するなどオンラ

イン授業は決して楽なものではない印象を受けた。また、BBC の Bitesize Daily 及びウェブサ

イトのコンテンツは、学校の授業に合わせて当日の課題として参照するように勧められるなど、

積極的に利用されたことも印象に残っている。

英国、日本を含めパンデミックの第 2波が懸念されている。また、ロックダウンとなり学校

閉鎖となった時に、オンライン学習がライブビデオ会議、オンラインチャットの使用といった

更に、インタラクティブな授業になることを期待する。同様に、インターネットへのアクセス

方法を持たない世帯に対して端末、無料データの配布が更に進むことを願っている。今後の英

国のオンライン学習動向に、引き続き注視していきたい。