非ランダムサンプリングを使用したmri圧縮センシング - 東京...

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非ランダムサンプリングを使用した MRI 圧縮センシング 伊藤 聡志 1 宇都宮大学 大学院工学研究科 知能情報研究部門 1 はじめに 観測対象の信号を圧縮センシングを用いて復元するためには制限等長性が必要とされ,MRI において制 限等長性を簡便に実現する方法としてフーリエ変換行列からランダムに要素を間引く方法が広く検討され ている.このとき,ランダム系列の選び方によって再生像に重畳するアーティファクトの現れ方が異なり, 収集する信号数が同数でもあって再生像の品質が左右される場合がある.特に信号の間引きが一次元方向 に制限される二次元撮像ではその影響が大きい.そこで,本研究では非ランダムな信号間引きを利用して 画像再生を行う方法について検討を行った. 2 スパース化関数を強化する方法 最近,深層学習を利用した MRI の圧縮センシング再構成において等間隔に信号間引きを行っても画像再 生が可能であることが報告されている [1].我々は画質の変動を避ける実用的な見地から,非ランダム間引 きされた信号から画像再生を行う方法を検討してきている.コヒーレントなアーティファクトを除去するた めにはスパース化関数を強化する必要がある.本研究ではスパース化関数に図 1 に示すカーブレット変換 [2] を使用した.カーブレット変換はウェーブレット変換や離散コサイン変換などとは異なり,ラジアル方向 に画像展開が行われ,フーリエ変換基底とのインコヒーレンス性が高い.そのため,折り返しアーティファ クトは多方向に分解されてその成分が抑圧される傾向がある.本研究ではカーブレット変換の基底を変更す るマルチスケール・カーブレット変換とし [3],アーティファクトの除去効果をさらに高める方法をとった. 2 にスパース化関数としてウェーブレット変換,カーブレット変換,マルチスケール・カーブレット 変換を使用し,非ランダム間引きされた信号から再構成された像を示す.ウェーブレット変換を使用した 場合は顕著なアーティファクトが残留しているが,カーブレット変換ではアーティファクトが少なく,特に マルチスケール・カーブレット変換では,殆どのアーティファクトが除去されている.鮮鋭度の高い数値 ファントムで図 2 のような結果が得られたことを考えるとエッジの立ち上がりが数値ファントムより小さ MR 像ではさらにアーティファクトの残留が少なくなる.このように非ランダムな間引き収集を行った 場合でもスパース化関数を強化することにより画像再生の可能性を示すことができた. 3 位相拡散フーリエ変換法を利用した非ランダム間引き再構成 汎用のフーリエ変換映像法に 2 次の位相変調項を導入した位相拡散フーリエ変換法の位相回復処理にアー ティファクトを拡散する効果があることを利用する. 本研究では,位相拡散フーリエ変換法の再生誤差拡散 1 E-mail: [email protected] 1 科学研究費補助金 新学術領域研究「スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成」 最終成果報告会 (2017/12/18-20)

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非ランダムサンプリングを使用したMRI圧縮センシング

伊藤 聡志 1

宇都宮大学 大学院工学研究科 知能情報研究部門

1 はじめに

 観測対象の信号を圧縮センシングを用いて復元するためには制限等長性が必要とされ,MRIにおいて制限等長性を簡便に実現する方法としてフーリエ変換行列からランダムに要素を間引く方法が広く検討されている.このとき,ランダム系列の選び方によって再生像に重畳するアーティファクトの現れ方が異なり,収集する信号数が同数でもあって再生像の品質が左右される場合がある.特に信号の間引きが一次元方向に制限される二次元撮像ではその影響が大きい.そこで,本研究では非ランダムな信号間引きを利用して画像再生を行う方法について検討を行った.

2 スパース化関数を強化する方法 最近,深層学習を利用したMRIの圧縮センシング再構成において等間隔に信号間引きを行っても画像再生が可能であることが報告されている [1].我々は画質の変動を避ける実用的な見地から,非ランダム間引きされた信号から画像再生を行う方法を検討してきている.コヒーレントなアーティファクトを除去するためにはスパース化関数を強化する必要がある.本研究ではスパース化関数に図 1に示すカーブレット変換[2]を使用した.カーブレット変換はウェーブレット変換や離散コサイン変換などとは異なり,ラジアル方向に画像展開が行われ,フーリエ変換基底とのインコヒーレンス性が高い.そのため,折り返しアーティファクトは多方向に分解されてその成分が抑圧される傾向がある.本研究ではカーブレット変換の基底を変更するマルチスケール・カーブレット変換とし [3],アーティファクトの除去効果をさらに高める方法をとった.図 2にスパース化関数としてウェーブレット変換,カーブレット変換,マルチスケール・カーブレット

変換を使用し,非ランダム間引きされた信号から再構成された像を示す.ウェーブレット変換を使用した場合は顕著なアーティファクトが残留しているが,カーブレット変換ではアーティファクトが少なく,特にマルチスケール・カーブレット変換では,殆どのアーティファクトが除去されている.鮮鋭度の高い数値ファントムで図 2のような結果が得られたことを考えるとエッジの立ち上がりが数値ファントムより小さいMR像ではさらにアーティファクトの残留が少なくなる.このように非ランダムな間引き収集を行った場合でもスパース化関数を強化することにより画像再生の可能性を示すことができた.

3 位相拡散フーリエ変換法を利用した非ランダム間引き再構成

汎用のフーリエ変換映像法に 2次の位相変調項を導入した位相拡散フーリエ変換法の位相回復処理にアーティファクトを拡散する効果があることを利用する. 本研究では,位相拡散フーリエ変換法の再生誤差拡散

1E-mail: [email protected]

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科学研究費補助金 新学術領域研究「スパースモデリングの深化と高次元データ駆動科学の創成」最終成果報告会 (2017/12/18-20)

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アルゴリズムと圧縮センシングを組み合わせ,等間隔に間引いた少数の観測信号から画像再生を行う方法について検討を行った.ρを観測対象とするベクトル,sを観測信号,Φを観測行列,位相拡散フーリエ法の位相拡散項をQ,間引きを行うフーリエ変換行列を Fu,MR画像にスパース性を導入する関数をΨとするとき,ρ = Ψρとして少数の観測信号 sからスパース性を有する ρを復元する問題として考えることができる.

s = FuQρ = (FuQΨ−1)ρ = Φρ

Φ = FuQΨ−1 (1)

一般的なフーリエ変換映像法において観測行列Φは,FuΨ−1であるが,位相拡散フーリエ変換法 [?]の観

測行列はΦ = FuQΨ−1である.位相を拡散する関数Qは,信号のランダム間引きに近い効果があるため,信号の間引きは必ずしもランダムである必要はない.再生像が実関数と仮定できる場合と位相を含む前提で位相画像をスパース化する 2通りの場合を検討した.位相拡散の程度を決定する係数 hと再生像の品質との関係を Fig.1に示す.Fig.2に信号収集率を 33%とした場合の再生像を示す.使用した画像は了解を得たボランティア画像である.スパース化関数には,複素変換であるマルチスケール eFREBAS変換 [5]を使用した.位相の有無により最適な hの値が異なることが示された.被写体が実関数という強い拘束条件が使用できない場合は,位相拡散処理が唯一の誤差軽減機能を有するため,位相拡散係数が大きいほど PSNRが高くなる傾向が示されている.

4 おわりに

 圧縮センシングにより 2次元MR画像を再生する場合の画質安定化とに高画質化について検討を行った.等間隔かつ可変密度な信号間引きを行っても,スパース化関数にマルチスケール・カーブレット変換を使用する方法により高い信号対雑音比の画像が得られる可能性を示した.また,撮像法に位相拡散フーリエ変換法を使用する場合は,等密度等間隔間引きを基本とする方法により画像を再生できる可能性を示した.

References

[1] H. Kerstin et al., On the influence of Sampling Pattern Design on Deep Learning-Based MRI Reconstruction,ISMRM20017, Hawaii, NO.O644, 2017.

[2] E.J. Candes, D.L. Donoho, New Tight Frames of Curvelets and Optimal Representations of Objects withpiecewise C2 singularities. Commun. Pure Appl. Math. vol.57, pp.219–266, 2004.

[3] S. Ito, et al., Compressed Sensing based on Non-randomly Under-sampled Signal using Multi-scale CurveletTransform, 34th Annual Scientific Meeting of ESMRMB, vol.30(Suppl. 1), pp.892–893, Barcelona, Spain,2017

[4] A.A. Maudsley, Dynamic Range Improvement in NMR Imaging Using Phase Scrambling. J. Magn. Reson.,vol.76, pp.287–295, 1988

[5] S. Ito,et al., Compressed Sensing MRI using Higher Order Multi-scale FREBAS for Sparsifying TransformFunction, SPIE Medical Imaging 2015, 9413-16, Orlando, USA, 2015

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