食品ナノテクノロジープロジェクト · 粒子径数10nm...

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食品ナノテクノロジープロジェクト [食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発] ナノスケール食品素材の加工技術開発及び新機能解明を進めると ともに、生体影響についても科学的に評価します。 Food Nanotechnology Project

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食品ナノテクノロジープロジェクト [食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発]

ナノスケール食品素材の加工技術開発及び新機能解明を進めると ともに、生体影響についても科学的に評価します。 Food Nanotechnology Project

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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目 次 はじめに ..........................................................................................................................................3 研究概要 ..........................................................................................................................................4 I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発 ......................................................................6

I-(1)-1 ナノスケール加工の臼式製粉技術による穀類等の低温超微粉砕化技術の開発 ........... 12 I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発 ........................ 17 I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発 ..................... 23 I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 .................................................................... 26 I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明 ................................................ 30 I-(2) 食品素材の物理化学的特性・加工適性等の解明 ................................................................ 33 I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明 ........................................................................ 37 I-(2)-2 ナノスケール食品分散系の抗酸化性・安定性の評価と制御 ...................................... 42 I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機構の解

析 .......................................................................................................................... 45 I-(2)-4 マイクロ・ナノバブル水の動態解析と特性解明 ....................................................... 50 I-(3) 実験動物等を用いた食品素材の体内動態評価 ..................................................................... 52 I-(3)-1 ナノスケール食品素材の免疫学的安全性の解析と評価 ............................................ 56 I-(3)-2 実験動物および培養細胞を用いたナノスケール食品素材の生体影響評価 ................. 59 I-(3)-3 経口摂取されたナノスケール食品素材の免疫学的応答性の解析 ............................... 61 I-(3)-4 実験動物を用いた抗酸化ナノ食品素材の体内動態評価 ............................................ 66 I-(3)-5 マイクロチップを用いたナノスケール食品素材のバイオアベイラビリティ解析シ

ステムの開発 ......................................................................................................... 67 I-(4) 食品素材の品質安定性の解明 ................................................................................. 69 I-(4)-1 ナノ構造化食品の保存と品質安定性 ....................................................................... 72 I-(4)-2 液体・固体粒子の物性解析とナノスケール界面・構造制御による高機能化 .............. 75 I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析 ......................................... 76 II-(1) 食品素材のナノスケール評価技術の開発 ................................................................ 81 II-(1)-1 食品ナノスケール観察のための走査プローブ顕微鏡用プローブ技術の開発 .............. 84 II-(1)-2 走査型プローブ顕微鏡によるナノスケール食品計測評価技術の開発 ........................ 88 II-(1)-3 走査型プローブ顕微鏡による食品ナノ粒子の動態解析 ............................................ 91 II-(1)-4 マイクロ・ナノ化学システムを用いる単一ナノ粒子分析法の開発 ........................... 94 II-(2) ナノテクノロジーによる食品素材の新機能解明 ............................................................... 97 II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構の解明 .. 100 II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発 ............................. 102 II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法の開発 .. 104

論文 ...................................................................................................................................... 107 その他(書籍など) .................................................................................................................................. 114

~ 付 録 ~ 用語集 ................................................................................................................................................. 116 よくある質問 ............................................................................................................................................. 146

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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はじめに

食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発

(プロジェクトリーダー:杉山滋)

本サイトは、農林水産省委託研究プロジェクト「食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発」

の研究成果を多くの方に知っていただくために開設しました。このプロジェクトは、発展の著しい

ナノテクノロジーを食品に応用したときの新機能や安全性を明らかにするために、平成 19年度から

平成 23年度の 5年間にわたり実施します。

材料系のナノテクノロジーとは違って、このプロジェクトで対象とするサイズはおよそ 100μmか

ら 10nmの範囲で、物質の状態も固体、液体、気体を扱います。このように幅が広いのは、扱う対

象が食品であるためです。従来、食品素材のサイズと物理化学特性(硬さ、溶けやすさ等)や生体

への影響などの関係はほとんど調べられてきませんでした。そのため、このプロジェクトでは微細

加工された食品素材の特性を体系的に研究します。

図 1 食品ナノテクノロジープロジェクトの概略

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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研究概要

ナノテクノロジーは、これまでに工学系の分野で著しく進展しており、カーボンナノチューブなど、

従来にない機能を持つ新しいナノ材料の開発がおこなわれ、その一部は産業化されている。このよ

うな動きは、食品分野にも波及し、近年になってナノテクノロジーに基づいたナノスケール食品素

材開発の動きが進みつつある。ナノスケール食品素材は、体積に対して非常に大きな表面積を持つ

ため、高い物理的・化学的な反応性を有することが期待される。 このような特性は、ナノスケール食品素材の機能性の向上や新たな素材の出現につながり、固体、

液体、気体のそれぞれについて新規な食品産業の創出の可能性が期待される。しかしながら、食品

素材ナノ粒子に関しては、構造、加工適性、物理特性、製造技術、生体影響などにまたがる体系的

な研究がおこなわれた例はなかった。さらに、ナノ粒子の健康への影響についての情報についても、

材料系におけるフラーレン、カーボンナノチューブ、金属ナノ粒子等に関するわずかな例しかなく、

食品素材ナノ粒子の生体への影響に関する検証や試験研究はこれまで充分におこなわれていない。 そこで、本研究プロジェクトでは、超微粒子加工技術の開発を進め、ナノスケール領域における

食品素材の新機能を解明すると同時に、加工のしやすさ(加工適性)と安全性についても科学的に

検証することを目的としている。 また、ナノスケール食品素材粒子の評価や機能解析には、従来の技術に加えて、走査型プローブ

顕微鏡(SPM)などによるナノスケール計測評価技術や、水動態のナノスケールイメージング技術の

応用により、素材本来の水を含んだ状態における表面構造や物性をナノスケールの分解能で計測で

きる技術を開発し、従来技術による評価手法と総合的に組み合わせて、ナノスケール食品素材粒子

の評価をおこなう。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発と生体影響評価

食品素材等を対象にマイクロスケールからナノスケールのサイズの粒子を効率的に製造できる

加工技術を開発する。また、開発された素材の粒子サイズの違いが物理化学特性や生体に及ぼ

す影響を解明する。

I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発 I-(2) 食品素材の物理化学的特性・加工適性等の解明 I-(3) 実験動物等を用いた食品素材の体内動態評価 I-(4) 食品素材の品質安定性の解明

II 食品素材のナノスケール評価技術の開発と新機能の解明

従来の手法では解析困難なナノ領域特有の構造・物性を計測・評価する技術を開発し、ナノ領

域における新機能を解明する。

II-(1) 食品素材のナノスケール評価技術の開発 II-(2) ナノテクノロジーによる食品素材の新機能解

図 2 研究項目とチームの構成

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発(リーダー:中嶋光敏)

目的

穀類等の農水産物、抗酸化物質等を含むエマルション、オゾンや酸素ガス等のマイクロバブル

を、それぞれ固体、液体、気体系の対象食品素材としてナノスケール加工技術開発を推進する。 固体系穀類素材については、粒子径が数μm の効率的微粉砕化技術を開発し、粒子径 100nm程度の超微粉砕技術の基礎を確立する。また水産物のナノスケール加工技術の開発と得られる

水産物の品質・加工特性を解明し、製品開発に役立てる。液体系素材については、ナノスケー

ル加工技術、抗酸化物質等を含む粒径 100nm 程度までの実用的エマルション製造技術を開発し、

粒子径数 10nm 程度のナノエマルションの作製を行う。気体系素材については、オゾンや酸素

等を含む 10μm~1μm のマイクロ・バブルの作製技術を確立し、100nm 程度のナノ・バブル

を製造し、特性を解明する。

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研究内容

I-(1)-1 ナノスケール加工の臼式製粉技術による穀類等の低温超微粉砕化技術の開発 (担当:北村義明)

風味や栄養成分を保持した高品質な穀類微粉体を製造するために、穀類の種皮部を微

研削できるナノスケール低温研削加工技術を開発する。

新たな物理化学的特性を有する穀類微粉体を製造するために、ナノスケール超高速切

削技術を利用してナノ領域の粒径制御が可能な低温超微粉砕技術を開発する。

ナノスケール低温研削加工技術と低温超微粉砕技術を利用して、新規の加工特性を有

する穀類微粉体を開拓する。また、風味が良く優れた栄養機能性を有する新規の加工

食品を開発する。

図 3 低温超微粉砕技術開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発 (担当:岡留博司)

ジェットミル等により、米、小麦、雑豆等の食品として用いられる穀物等の高品質食

品素材のための微粉末化素材を製造する技術を開発する。

乾式粉砕処理での数 µm 以下の微粉末化を目標とし、加えて、原料成分の均一な微粉

末化あるいは、各成分の分離回収技術などを検討する。

図 4 製造技術開発の流れ

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発 (担当:村田裕子)

魚介肉を微粒子化することにより冷凍耐性が付与された加工中間素材の開発を行う。

同時に、微粒子化した魚介肉のゲル形成性などの物理化学特性を評価し、加工適性を

検討する。

図 5 微粒子処理

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 (担当:中嶋光敏)

高圧乳化等の従来のナノ素材化技術の総括を行う。

界面制御技術や高圧乳化等を用いて、抗酸化ナノエマルション等の食品素材の効率的

製造技術を開発する。

図 6 効率的製造技術開発

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I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明 (担当:小林功)

ナノスケールチャネル(NC)アレイの開発と NC 乳化システムのスケールアップによ

り、食品素材の単分散微細エマルションの高効率作製技術を開発する。

計算機手法を利用して NC 構造と NC 乳化プロセスの最適化を図る。

図 7 乳化プロセスの最適化

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(1)-1 ナノスケール加工の臼式製粉技術による穀類等の低温超微粉砕化技術の開発

(担当:北村義明)

目的

ナノスケール粒子を含む穀類全粒の高品質微粉砕物を低コストで生産することを目的とする。

このために、次の2つの技術を開発する。

1.ナノスケール表層研削加工技術

加工品のざらつき感や製パン性に悪影響を及ぼす大フスマ等の粗大画分を減少させる。 穀粒の表層部(種皮、糊粉層、アリューロン層等の一部)を研削してフスマ臭、糠臭の軽

減を図る。

2.低温臼式製粉技術

低温で穀類全粒の微粉砕物を製造する技術を確立し、高品質な加工食品の製造を行 う。 製粉時の粉塵発生が少ない臼式製粉の特徴を活かし、直売場の店舗製粉等に適した卓上型

の装置を開発する。 平均粒径を再現性良く変えることができる特徴を活かし、さまざまな穀粉加工品への適用

を検討する。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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研究内容

製粉前処理技術 米の糊粉層や小麦のアリューロン層などを含む穀類の表層部に局在するタンパク質(加工

適性に関与)、脂質(旨味成分)、ミネラル(骨粗鬆症予防)、食物繊維(3 次機能性)等を含む微

粉砕物を製造するために、表層部に数 10μm の砥粒先端による微細擦過傷(ナノスケール

微研削)をつけて穀粉の粗大画分(大フスマ、糠)を減少させる製粉前処理技術を開発した。

研削時の発熱による異臭(粉焼け臭)の発生は電子冷却で防止した。表層研削加工米(ワンパ

ス型可撓性研削装置による連続処理)、表層研削加工麦(循環型装置によるバッチ処理)を調

製して製粉試験用の原料に供した。

図 8 研削装置

左は小麦用循環式研削装置、右は米用ワンパス型研削装置である。

図 9 表面研削加工麦の研削残渣の粒度分布

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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低温臼式製粉技術 ナノ領域の粒径制御が可能な穀類微粉砕物の製造技術の開発と実用化を図るために、ナノ

スケール超高速切削技術(切削距離 10mm 当たり 300nm の深掘り切削)を開発した。50種以上の微粉砕溝を CAD で設計し、ナノスケール超高速切削技術を用いて、金属表面に

微粉砕溝(磨砕部)を切削加工し、微粉砕臼を製造した。 また、微粉砕臼を組み込んだ低温微粉砕装置を試作し、数 100nm の粒径画分を有する米、

小麦、大麦等の超微粉砕技術を開発した。

図 10 低温微粉砕装置

左は小麦、そば用、右は米用(高トルク型装置)である。

図 11 低温微粉砕装置で得られた粉の粒径分布

パン用小麦(平均粒径 50μm)(左)と大麦(平均粒径 20μm)(右)。赤矢印の範囲がナ

ノサイズ。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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図 12 臼式低温微粉砕化技術(赤)による米粉と市販微粉砕米粉(青)の粒径分布

赤矢印の範囲がナノサイズ

図 13 平均粒径を変えた精米粉(シムスペーサー:10μm 単位)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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図 14 米粉パン試作品

コシヒカリ精米粉(搗精歩留まり 90%) 平均粒径 61μm、損傷澱粉 20%

米粉 80%、グルテン 20%、比容積 3.71

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I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発(担当:岡

留博司)

目的

米、小麦、雑豆等の食品として用いられる穀物等の高品質食品、新規食品素材のための微粉末

化技術を開発する。具体的には、主に乾式の粉砕機を用いて、試料とする穀物等の粉砕挙動を

把握し、数μm 以下の粉末製造を目標として、各粉砕機、さらに試料とする穀物に適応した改

良等を検討して、それらの粉末化した試料を評価する連携機関に供試する。

研究内容

米粉末試料 現在、米を対象に平均粒径が 100μm から 10μm 程度までの微粒子についてはハンマーミ

ルや課題 1-(1)-1 の臼式低温製粉装置等を用いて、さらに細かい 10μm 以下の超微粒子に

ついてはジェットミル等を組み合わせて乾式による微粉砕技術の開発を進めている。 ハンマーミルではスクリーン径を変えることで平均粒径 50μm 以下の米粉を得られるが、

粉体の品温が上昇しやすい。超微粒子作製には図 15 に示すような超音速ジェットミルを

用いており、供給された原料はマッハ 2.5~3.0 の気流を発生させる超音速ノズルにより吸

引・加速され、粒子相互間の衝突で粉砕されると同時にノズル前方に設置した衝突板でも

衝突粉砕される。粉砕された粉体は分級部に導入され、粉体が分級設定粒度になるまで繰

り返し粉砕される。図 16 に 19 年度に共通試料として連携機関へ配布した米粉試料の粒度

分布を示す。

図 15 超音速ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製、IDS-2 型)

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図 16 作製した米粉の粒度分布

作製した米粉試料の糊化特性とデンプンの損傷度

ジェットミルで作製した平均粒径の 10μm 以下の米粉とハンマーミルや臼式低温製粉装

置で粉砕した平均粒径が 100~40μm 程度の米粉の加熱糊化時の糊化特性を比較すると

(図 17)、ハンマーミルや臼式粉砕機で作製した米粉は最高粘度やブレークダウンが大きい

コシヒカリ特有の糊化特性を示しており、また両方とも類似の粘度パターンを示した。一

方、ジェットミルで粉砕した米粉は最高粘度やブレークダウンが著しく低下した。すなわ

ち、乾式粉砕した米粉の糊化特性は平均粒径が 100~40μm の範囲では粉砕機の種類によ

り平均粒径が変動してもあまり変化せず、40μm 以下で著しく変化しており、40μm 以下

では米デンプンの特性が大きく変化することが考えられる。また損傷デンプンも乾式粉砕

した米粉の場合には平均粒径 10μm 以下の損傷度が最も高く、40μm 以下で急激に増加

する傾向が見られた。これより、糊化特性やデンプンの損傷は米粉の粒径をサイズダウン

させるとマイクロスケールの領域で一度著しく変化することが示唆された。今後はナノス

ケール領域での挙動解明に期待したい。

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図 17 平均粒径が異なる米粉の糊化特性(RVA により測定)

図 18 米粉の平均粒径の損傷デンプンの関係

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微粉砕米粉の粉砕方法および粒子径と流動性の関係 微粉砕された米粉は流動性が低下し、食品加工機械を用いる際に機械内部に詰まったり固

着したりといった問題を生じる事が予測される。そこで、粉の流れやすさを比較するため

に Carr の流動性指数を測定した。また、米粉の形状も測定した。 対象とした試料は、ウルチ米精米および玄米ならびにモチ米精米を原料として用い、平均

粒径 3~30 µm の試料をジェットミルで、30~100 µm の試料をハンマーミルにて調製した、

微粉砕米粉である。図 19 は調整された米粉の粒子サイズの分布(粒度分布)を示している。 図 20 は微粉砕米粉の Carr の流動性指数である。一般に、米粉の粒子径が小さくなるほど

流動性が低くなる傾向が見られたが、平均粒径が 3 µm の米粉ではこの傾向からはずれ、

流動性低下が見られなかった。平均粒径 3 µm の米粉は強く凝集し、流動性測定中に顆粒

状になる現象が見られたことから、平均粒径 3 µm の米粉は凝集し大きい粒子として振る

舞うため、見かけの流動性が高くなったと考えられる。また、平均粒径 30 µm 付近の米粉

について比較すると、粉砕方法によって流動性に違いがあった。ハンマーミルで粉砕され

た米粉よりも、ジェットミルで粉砕された米粉のほうが高い流動性を示した。 図 21 は微粉砕米粉の電子顕微鏡像である。米粉の粒径が小さくなるほど粒子の角が取れ、

球形に近かった。この傾向を定量的に示すために、電子顕微鏡画像から粗さ係数を求めた

(図 22)。球形に近いほど粗さ係数の値は小さくなるので、図 22 も、米粉の粒径が小さ

くなるほど、米粉粒子が球形に近づくことを示している。また、平均粒径 30 µm 付近の試

料について比較すると、ハンマーミルで粉砕された米粉がジェットミルで粉砕された米粉

よりも球形に近かった。一般的には粒子形状が不規則になるほど粉の流動性は低下するが、

この結果は逆であった。粒子形状とは別の要因が流動性に影響していると考えられる。 この研究で粉砕した米粉以外に、市販の上新粉と小麦粉についても同じ測定をおこなった

(図 20、図 22)。微粉砕米粉の流動性は上新粉よりも非常に低く、上新粉用の食品加工機

械で微粉砕米粉を加工するとトラブルが発生する可能性がある。

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図 19 米粉の粒度分布(ウルチ玄米の例)

図 20 粉砕方法と粒子径による米粉の流動性指数変化

図 21 電子顕微鏡にて撮影された米粉粒子

0

5

10

15

0.1 1 10 100

ウルチ米(玄米)1

2

35

6

4

相対

粒子

量 [%

]粒子径 [µm]

1 10 10030

40

50

60

70

80

Car

rの流

動性

指数

[Poi

nts]

平均粒径 [µm]

うるち精米粉(ジェットミル ハンマーミル)

うるち玄米粉

モチ精米粉

上新粉

小麦粉(中力粉)

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図 22 粉砕方法と粒子径による米粉粒子の粗さ変化

参考文献

五月女格, 津田升子, 岡部繭子, 大島紗也香, ムハマド シャリフ ホッセン, 板倉真由実, 竹中

真紀子, 岡留博司, 五十部誠一郎:粉砕方法および粒子径が米粉の Carr の流動性指数および噴

流性指数に与える影響, 日本食品工学会誌, 10, 95-106(2009).

1 10 100

0.06

0.08

0.10

0.12

粗さ

係数

平均粒径 [µm]

うるち精米粉(ジェットミル ハンマーミル)

うるち玄米粉

モチ精米粉

上新粉

小麦粉(中力粉)

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I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発(担当:

村田裕子)

目的

高鮮度水産物を微細化処理することにより、冷凍耐性のある中間素材の開発を目的とする。こ

のために、次の点を検討する。

1. 冷凍変性の原因となるトリメチルアミンオキシド分解の抑制効果

2. 冷凍耐性を高める ATP の効果

また、微細化した魚介肉のゲル形成性、乳化特性、消化吸収性、呈味性などの加工適性を調べ、

新しい特徴を付与した商品の開発につなげる。

研究内容

高 ATP 含有アジ肉の微細化条件 ATP(アデノシン-3 リン酸)は生きた魚肉(筋肉)中に多く含まれ、死後、鮮度低下に

伴い分解する。また、ATP にはタンパク質の冷凍変性を抑制する作用があると言われてい

る。即殺直後のアジ肉には ATP の ATP および ATP 分解物の総量に占める割合である ATP含有率が 80%以上であった。この高 ATP 含有アジ肉を ATP を保持したカッターミル処理

による微細化の条件を確立した。 微細化処理 80~90 秒間で、粘性のあるペースト状となった。その後、30~60 秒で ATP含有率の低下が見られ、ATP 含量を保持した微細化魚肉はカッターミル処理を 90~120 秒

で終了することが必要であることを確認した。(図 23)この高 ATP 含有微細化物はゲル形

成能が高く、冷凍貯蔵後も筋原繊維タンパク質の溶解度の保持、ゲル形成能の保持など冷

凍耐性も確認した。さらに酸素充填下での微細化効果についても検討中である。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

24

図 23 魚肉の微細化過程における ATP 含有率の変化

*カッターミルを用いて 1500rpm で魚肉を微細化 **矢印で示した時点でペースト状になった

図 24 カッターミル処理したアジ肉

高 ATP 含有(左)と低 ATP 含有(右)の比較。

図 25 凍結保存後のゲルの性状

高 ATP 含有(左)と低 ATP 含有(右)の比較。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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表 1 微細化魚肉のゲル物性

表 2 -20℃で 2.5 ヶ月間凍結貯蔵後の微細化魚肉のゲル形成能

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食品ナノテクノロジープロジェクト

26

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発(担当:中嶋光敏)

目的

高圧乳化等を用いて抗酸化ナノエマルション等の食品素材の製造技術の開発と中課題 I-(2)以降

の課題の供試材料の製造、また製造技術の評価を行う。初期の 2 年は平均粒径が 10μm から数

100nm の粒子開発を目指し、最終目標として 10nm オーダーを目指す。抗酸化物質としては

β-カロテンやリコピン等のカロテノイドを主たる対象とする。乳化技術と安定なナノ粒子が得

られる油相や乳化剤の選定、特に界面特性の解明によりサイズ制御が可能な実用的ナノ分散系

の構築を図る。

研究内容

β-カロテン分散系 分散相に大豆油、連続相に PGE(polyglycerol esters of fatty acid)を用い、予備乳化後に高

圧乳化処理を行い 170~270nm(100MPa)のβ-カロテン分散系を作製した。PGE 重合度

増大により粒径が顕著に減少した(図 26)。PGE 濃度および乳化圧の増加は粒径の減少を

引き起こすことが示された。

図 26 高圧乳化法による 6 種の PGE を用いたβ-カロテン分散系の粒度分布(乳化圧 100MPa)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

27

攪拌下で PGE を溶解した連続相にβ-カロテンを溶解したアセトンを加え、アセトンを蒸

発乾燥する溶媒置換法により平均粒径 33.5~202nm のナノ分散系を得た。PGE 重合度増

大により平均粒径は減少し(図 27)、平均粒径は 4℃で 8 週間安定であった。TEM による

形態観察を行った(図 28)。

図 27 溶媒置換法による 6 種の PGE を用いたβ-カロテンナノ分散系の粒度分布

図 28 溶媒置換法による PGE を用いたβ-カロテンナノ分散系の TEM 画像

分散相にヘキサン、連続相に PGE を用い、予備乳化後に高圧乳化処理を行い減圧下でヘキ

サンを液中乾燥する液中乾燥法により平均粒径 45.6~212nm のβ-カロテンナノ分散系を

得た。ML 型では、重合度の高い PGE において粒径が顕著に減少した(図 29)。

図 29 液中乾燥法による PGE を用いたβ-カロテン分散系の粒度分布

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食品ナノテクノロジープロジェクト

28

高圧乳化法、蒸発乾燥法によりβ-カロテンナノ分散系を作製し、粒径の異なる評価サンプ

ルを I-(2)、I-(3)、I-(4)の研究グループに提供した。 作製した分散系の胃小腸モデル溶液処理後、粒径は PGE 重合度増大に伴いより高い安定性

を示した。β-カロテン保持率は粒径の減少に伴い増大し、MO500(ヘキサグリセリンモ

ノオレエート)・MO750(デカグリセリンモノオレエート)で 85%以上であった。消化液処

理後超遠心し得られたβ-カロテンミセルへのβ-カロテン取り込み率は粒径の減少により

増大し(図 30)、リパーゼならびに胆汁酸がβ-カロテンのミセルへの取り込みに関与して

いることが明らかとなった(図 31)。

図 30 β-カロテンミセル取り込み率への粒径の影響(Control と Digestate)

図 31 β-カロテンミセル取り込み率へのリパーゼおよび胆汁酸濃度の影響

DHA 高含魚油エマルション

マルハニチロホールディングス中央研究所の協力を得て、高圧乳化により DHA22%高含魚

油エマルションを 70 - 400nm の範囲で調製できた。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

29

参考文献

Ai Mey Chuah, Takashi Kuroiwa, Isao Kobayashi, Mitsutoshi Nakajima: Effect of chitosan

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Ai Mey Chuah, Takashi Kuroiwa, Sosaku Ichikawa, Isao Kobayashi, Mitsutoshi Nakajima:

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中嶋光敏: 食品分野におけるナノテクノロジーの応用可能性, 明日の食品産業,37-41(2009)

Li-Jun Yin, Isao Kobayashi, Mitsutoshi Nakajima: Effect of Polyglycerol Esters of Fatty

Acids on the Physicochemical Properties and Stability of β-Carotene Emulsions during

Digestion in Simulated Gastric Fluid, Food Biophysics, 3(2), 213-218(2008)

Neves M, Ribeiro H.S, Kobayashi I, Nakajima M: Encapsulation of lipophilic bioactive

molecules by Microchannel Emulsification, Food Biophysics, 3, 126-131(2008)

Henelyta S. Ribeiro, Boon-Seang Chu, Sosaku Ichikawa, Mitsutoshi Nakajima: Preparation

of nanodispersions containing β-carotene by solvent displacement method, Food

Hydrocolloids, 22, 12-17(2008)

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Agriculture, 88(10), 1764-1769(2008)

Marcos A. Neves, Henelyta S. Ribeiro, Katerina B. Fujiu, Isao Kobayashi, Mitsutoshi

Nakajima: Formulation of Controlled Size PUFA-Loaded Oil-in-Water Emulsions by

Microchannel Emulsification Using β-Carotene-Rich Palm Oil, Industrial Engineering and

Chemistry Research, 47(17), 6405-6411(2008)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明(担当:小林功)

目的

マイクロチャネル(MC)乳化技術のナノスケール化を目的として、サイズと構造が高度に制御

されたナノチャネル(NC)アレイを開発する。そして、NC 乳化による食用油脂または脂溶性

の食品栄養成分を添加した食用油脂を液滴材料とした単分散微細エマルションの精密作製技術

を開発する。また、実験的手法と計算機手法(CFD、数値流体力学)による NC 構造および液

滴作製プロセスの最適化を図るとともに、NC 乳化時における微細空間特性の解明も図る。さ

らに、NC 乳化システムの大型化による単分散微細エマルションの生産性向上を図る。

研究内容

矩形ナノチャネルアレイ 4 列の NC アレイ(矩形 NC:計 4,000 本)が加工された単結晶シリコン製の NC 乳化基板

を開発した。矩形 NC の断面サイズは幅 600~1,000nm、深さ 250nm であったとともに、

矩形 NC のサイズが均一であることがレーザー顕微鏡観察により示された。

図 32 NC 乳化基板の模式図

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食品ナノテクノロジープロジェクト

31

直接 NC 乳化 分散相として精製大豆油を用いた直接 NC 乳化(図 33a)を行った結果、平均液滴径が

920nm で変動係数 6.1%の単分散 O/W 微細エマルション(図 33b、連続相:1.0wt%デカ

グリセリンモノラウレート水溶液)を作製することに成功した。

図 33 直接 NC 乳化の様子(a)、および作製された均一微小油滴(b)

矩形 NC(幅 800nm、深さ 250nm)とテラス(長さ 1,500nm、深さ 250nm)を用いた直

接 NC 乳化の CFD シミュレーションを行った。矩形 NC とテラスを通過した分散相(精

製大豆油)が連続相(水)領域の中で直径約 1,000nm の微小油滴へと自発的に変形するこ

とを示した(図 34)。

図 34 直接 NC 乳化プロセスの CFD 計算結果

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食品ナノテクノロジープロジェクト

32

参考文献

Isao Kobayashi, Marcos A. Neves, Tomoyuki Yokota, Kunihiko Uemura, Mitsutoshi Nakajima:

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and Step Structure, Industrial & Engineering Chemistry Research,48(19),8848-8855(2009)

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Isao Kobayashi, Yoichi Murayama, Takashi Kuroiwa, Kunihiko Uemura, Mitsutoshi Nakajima:

Production of monodisperse water-in-oil emulsions consisting of highly uniform droplets using

asymmetric straight-through microchannel arrays, Microfluidics and Nanofluidics, 7(1),

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会誌, 10(1), 69-75(2009)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(2) 食品素材の物理化学的特性・加工適性等の解明(リーダー:市川創作)

目的

エマルションを主とした液体系、穀類等の微粉体を主とした固体系、並びに、マイクロナノバ

ブル(MNB)の気体系の各ナノスケール食品素材の物理化学的特性の評価法を素材ごとに開発

し、サイズや諸特性の相関関係を個別に明らかにする。 液体系素材については、微粒子のサイズと分布、分散特性、酸化特性、高温安定性、脂質微粒

子からの機能性成分の放出特性等の諸特性を解明する。固体系素材についてはサイズや形状、

物性について評価し、物理化学的特性と加工適性等の解明を図る。気体系素材については、MNB水の解析を行い、サイズ特性、水分子の運動性等の基礎特性を明らかにし、MNB 水の物性解

明を行う。これらの検討により、食品ナノ素材の安定性や機能性等の性能向上を図り、品質制

御等に活用できる基礎的知見を明らかにする。

研究内容

I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明(担当:市川創作) 中課題「(1)食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発」で作製される固体系、液体系、

および気体系ナノスケール食品素材を主な対象として、そのサイズや安定性などの物理化

学的特性を解明し、粒子サイズと諸特性の関係を解析する。

図 35 ナノ食品素材の物理化学特性説明図

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(2)-2 ナノスケール食品分散系の抗酸化性・安定性の評価と制御(担当:安達修二) O/W 型エマルションで油滴を微細化すると,脂質の酸化は促進 それとも遅延? =(機構の解明)⇒ 効率的な酸化抑制法の開発 微粉の気相・液相中での分散特性,含有脂質の酸化特性 =(機構の解明)⇒ 効率的な制御・安定化法の開発

図 36 抗酸化性・安定性

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機構の解

析(担当:上野聡)

目標

食品用の脂溶性物質含有ナノエマルションの実用化のための界面制御

研究課題

滅菌工程・低温保存等に対する安定状態維持(stability)のための技術開発

体内吸収性(bioavailability)の向上のための放出速度制御の技術開発

脂溶性物質の生化学的安定性(酸化安定性の向上など)向上のための物性制御法

の開発

図 37 物理化学特性の解明とナノ領域発現機構の解析

図 38 脂質結晶

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(2)-4 マイクロナノバブル水の動態解析と特性解明(担当:大下誠一)

NMR プロトン緩和時間や 17O 共鳴線幅などから MNB 水の動態解析を行い、バブル

からの気体の溶解過程及び滞留時間を評価する。

MNB 水の特性として、植物細胞の代謝や膜物性に与える影響を評価する。

図 39 水の動態解析と特性解明

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明(担当:市川創作)

目的

食品製造で利用可能な素材を使ったナノからマイクロスケールサイズの加工基盤技術を開発し、

作製したナノスケール食品素材のサイズと物理化学的諸特性との関係解明を目標として研究を

推進している。 食品素材を、エマルションや脂質ベシクル(リポソーム)などの液体系、穀類微粉体などの固体系、

気泡(バブル)の気体系の3つに分類し、各系での粒子や気泡サイズ、微細構造の評価法を検

討している。また、評価した特性と、ナノ素材の加工特性や体内動態との関連についても、プ

ロジェクト内で連携し解明を進めている。

研究内容

脂質ベシクルのサイズ制御 サイズを 50 nm 程度にまで制御した脂質ベシクル(リポソーム)を調製できた。このベシ

クルを蛍光分子で FRET 二重標識し、体内動態評価チームの課題 I-(3)-3 に提供した。その

結果、50 nm 程度の微小なベシクルは消化管よりそのまま吸収される可能性があることが

示唆された。

図 40 サイズ制御したベシクルのサイズ分布の例(上段)と

その電子顕微鏡写真(下段)制御前(a)と後(b)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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ナノサイズベシクルの作製

機能性ナノ素材として、抗酸化・抗アレルギー性フラボノイド hesperetin を担持したナノ

サイズベシクルを調製した。また、hesperetin のベシクル脂質膜―バルク水相の間の分配

係数を求め、ベシクルサイズおよび脂質膜組成によりベシクル分配係数が変化することを

明らかにした。(I-(3)-3 と共同)

図 41 抗酸化・抗アレルギー性フラボノイド hesperetin のベシクル脂質膜

―バルク水相の間の分配係数

サイズおよび脂質膜組成により分配係数が変化していた。

水産物由来の界面活性剤物質

水産物由来のキトサンを原料とした chemo- enzymatic 法による界面活性物質アシル化キ

トサンオリゴ糖の作製法を開発した(図 42)。図 43 に、この方法で作製したアシル化キト

サンオリゴ糖の物性を示す。

図 42 アシル化キトサンオリゴ糖の作製法

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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図 43 アシル化キトサンオリゴ糖による表面張力低下能(左)と集合化によるナノ粒子形成(右)

超遠心粉砕した微細化澱粉 超遠心粉砕した微細化澱粉の粒子のサイズ・形態を評価し、処理時の温度により粒子の形

状が異なり、粒径のばらつき(変動係数)や凝集性に違いがあることを明らかにした(図 44)。

図 44 超遠心粉砕した微細化澱粉粒子の電子顕微鏡写真

(a)粉砕処理前、(b)低温で粉砕、 (c)高温で粉砕。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

40

参考文献

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Ai Mey Chuah, Takashi Kuroiwa, Sosaku Ichikawa, Isao Kobayashi, Mitsutoshi

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Nanofluidics, 6(6), 811-821(2009)

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Chu B.S, Ichikawa S, Kanafusa S, Nakajima M: Stability of protein-stabilised

β-carotene nanodispersions against heating, salts, and pH, Journal of the Science of

Food and Agriculture, 88(10), 1764-1769(2008)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

41

Sugiura S, Kuroiwa T, Kagota T, Nakajima M, Sato S, Mukataka S, Walde P, Ichikawa

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食品ナノテクノロジープロジェクト

42

I-(2)-2 ナノスケール食品分散系の抗酸化性・安定性の評価と制御(担当:安達修二)

目的

O/W 型ナノエマルション系での脂質の酸化速度について定量的に評価する。酵素法により糖ま

たは糖アルコールの特定部位に脂肪酸が結合したエステルを合成し、ナノエマルション系での

安定性の評価に用いる。また、不飽和脂肪酸を付加したエステルや不飽和脂肪酸を含む脂質を

用いたミセル系での酸化や分散安定性に及ぼす粒子径の影響を評価する。

研究内容

ナノエマルションおよび可溶化系での脂質酸化 ナノエマルションおよび可溶化系での脂質酸化:ポリグリセリン脂肪酸エステルとリノー

ル酸メチル(ML)を用いて分散粒子径の異なる O/W 型エマルションおよび可溶化系を調

製し、40℃における ML の酸化反応の速度定数を算出した(図 45)。粒子径が小さくなる

ほど酸化速度定数が低下することを見出し、この現象を乳化剤の疎水部による脂質の希釈

効果により説明した(図 45 内図)。

図 45 可溶化系および O/W 型エマルション系におけるリノール酸メチルの酸化過程

また、酸化に伴う分散粒子径の変化も測定し、可溶化系で特異な現象が見られたが、この

現象は酸化に伴う脂質の可溶化量の変化に起因すると推測している(図 46)。可溶化系で

は、脂質の約 50%が酸化されたときに、急激に合一が起こり、粒子が粗大化した。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

43

図 46 酸化と粒子径変化

粉末化系での脂質酸化 油滴径(0.02~1.0 μm)の異なる O/W 型エマルション(油相は ML)を濃厚なマルトデ

キストリン水溶液と混合したのち、噴霧乾燥により粉末化した。50℃で粉末化 ML の酸化

過程を測定し、エマルション中の ML の重量比が少ない場合には、油滴径が小さいほど酸

化が遅延された(図 47)。酸化速度定数と油滴径の関係を図 47 内図に示す。

図 47 粉末化リノール酸メチルの酸化過程。(内図)油滴径と酸化速度定数の関係。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

44

分散安定性に及ぼす食品高分子の添加の影響 オレイン酸エチルを油相とする O/W 型ナノエマルションに高分子電解質を添加すると分

散粒子が合一し、粒子径の顕著な増大、すなわち分散系の不安定化、が認められた(図 48)。同様に,可溶化系(10 nm 以下)でも、高分子電解質を加えると不安定化して、粒子が合

一した。

図 48 高分子電解質の添加による分散系の不安定化(油滴の合一)

参考文献

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Society, 85(11), 1041-1044(2008)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

45

I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機構

の解析(担当:上野聡)

目的

食品産業において、脂質ナノエマルション粒子を実用化する場合に、脂質粒子の作成法と直結

した物性制御がきわめて重要である。脂溶性機能性物質の可溶化と安定性の向上を中心テーマ

にして、(1)マイクロサイズ、およびナノサイズの O/W エマルションを用いた脂溶性機能性

物質の可溶化と安定性の向上、(2)酸化抑制効果の解明、(3)油相への機能性物質の可溶化

機構の解明と可溶化量の増大について解明する。

図 49 微細脂質粒子の高付加価値化

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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研究内容

エマルションの高温安定性への乳化剤の効果とエマルション結晶化による酸化抑制効果の解明 異なる組成の乳化剤を用いて O/W エマルションを調製し、高圧蒸気滅菌、低温貯蔵、室温

保存という熱的ストレス条件におけるエマルションの状態変化を観察した。その結果、疎

水性領域の大きな乳化剤を用いた場合に、エマルションの滅菌安定性が顕著に向上するこ

とが判明した。 さらに、O/W エマルションの界面に油相成分の界面結晶化を応用したを形成し、それによ

り外部からの酸素や酸化促進物質の侵入を阻害することで、魚油の酸化を遅延させること

ができるかを明らかにした。試料には油相に魚油、パームステアリン(PS)、中鎖脂肪酸

トリアシルグリセロール(MCT)を使用し、乳化剤にはデカグリセリンモノステアレート

(10G1S)、Tween20、水相には蒸留水を使用した。結果として、油相に PS を添加し乳化

剤に 10G1S を用いたエマルションでは、界面の結晶膜により酸素等の侵入が阻害されたと

考えられる。

図 50 魚油の酸化速度制御

ナノ粒子の物性改質機構の解明と脂溶性機能性物質の高度な可溶化 放射光 X 線マイクロビーム回折法を世界で初めてエマルション粒子に適用して、油水界面

における疎水的相互作用による不均一結晶化反応により内部の構造、とくに結晶のテキス

チャーが変化することを明らかにした。右図に、PMF を油相にしてポリグリセリンラウリ

ン酸モノエステルで乳化したエマルションの室温における 2 次元 X 線回折パターンを示す。

5μm のマイクロビームのマッピングパターンにより、ラメラ面が油水界面に平行となっ

ていることがわかる。また端緒的な実験であるが、脂溶性物質のナノ粒子への可溶化に及

ぼす粒径の効果を明らかにするために、高過飽和状態で植物ステロールを可溶化させて高

温でマイクロチャネル法により作成したエマルションを低温で保存した場合に、粒径が減

少すると析出速度が低下することを見出した。

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図 51 PMF を油相にしてポリグリセリンラウリン酸モノエステルで乳化した

エマルションの室温における 2 次元 X 線回折パターン

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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参考文献

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(2)-4 マイクロ・ナノバブル水の動態解析と特性解明(担当:大下誠一)

目的

マイクロ・ナノバブル(以下、MNB)水の動態解析を行い、酸素、キセノン、空気等の単な

る気体溶解水との特性の差異を、バブルの滞留時間や溶解ガス濃度との関係などから明らかに

する。さらに、植物細胞内水の動的状態変化を検証し、細胞の代謝への影響を明らかにする。

研究内容

酸素ナノバブルの存在 MNB 水の生成に株式会社ニクニ製の基本ユニットとマイクロバブル発生装置(株式会社

オーラテック)の2種類を用いた。まず、光学顕微鏡観察により、水中の酸素マイクロバ

ブルの映像を記録した。これにより直径 100μm 程度の酸素マイクロバブルが次第に縮小

して消える映像も記録したが、酸素が水中に溶解してバブル自体が消滅したのか、光学顕

微鏡では確認できないナノバブルとして存在しているのか問題が残った。そこで、動的光

散乱法に基づく粒子径測定装置(Nano-ZS:シスメックス株式会社,測定範囲 0.6~6μm)

による測定を行い、純水製造装置(ミリポア社 DirectQ)による純水と純酸素との組み合

わせで MNB を生成した場合、光強度分布から算出された直径 200nm 前後の粒子が約2週

間滞留するデータが得られた。一方、酸素 MNB 水では、プロトン緩和時間 T1 が常磁性

を有する酸素分子のために短く観察されるが、常磁性緩和剤である Mn2+を添加して酸素

分子の影響をマスクすることにより、酸素バブルの生成に起因する T1 の増大を確認した。

図左に10mMのMn2+溶液とこの溶液に酸素バブルを生成させた場合のT1を、右に10mMの Mn2+溶液とこの溶液に散気管を通して酸素を溶解させたバブルが無い場合の T1 を示

した。溶存酸素濃度は、両者ともほぼ同じレベルである。この結果と粒子径の測定結果に

より、ナノサイズのバブルの存在がほぼ確認された。特に酸素 MNB 水で緩和時間 T1 が

長くなる結果は、酸素ナノバブルと水分子との相互作用により水の動的特性が変化するこ

とを初めて示したもので、酸素 MNB 水の動態変化を解明する基礎データが得られたと考

える。

図 52 Mn2+溶液、酸素バブル水(左)及び酸素溶解水(右)のプロトン緩和時間 T1

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植物細胞内水の動的状態変化 播種後 11 日目に採取したオオムギ子葉鞘細胞から一層に剥離した細胞片(3×10mm,細

胞数 1300~1500)を調製し、20℃で原形質流動速度を比較した結果、蒸留水よりも酸素

MNB 水に浮かべた場合に原形質流動速度が有意に速くなった。これは酸素 MNB 水が植

物細胞の代謝に影響を与えた結果であると考えたが、溶存酸素濃度が蒸留水で 8.6 mg/L、酸素 MNB 水で 41.5 mg/L と大きく違ったことが原因である可能性もある。今後の検討が

必要である。

参考文献

F.Y. Ushikubo, T. Furukawa, R. Nakagawa, M. Enari, Y. Makino, Y. Kawagoe, T. Shiina, S. Oshita: Evidence of the existence and the stability of nano-bubbles in water, Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, 361, 31-37, 2010

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I-(3) 実験動物等を用いた食品素材の体内動態評価(リーダー:山中典子)

目的

食品素材のナノスケール化に伴い、食品としての性質、生体に対する影響が変化する可能性を鑑み、開発

の一部として体内動態、生体影響を、実験動物等を用いて評価する。また、開発される多様な食品素材を

スクリーニング評価できる新しい評価手法の構築を行う。

課題 I-(1)で加工・製造したナノスケール食品素材を対象として、動物試験等を行うことにより、体内に

おける当該食品素材の動態と生体影響を評価し解明する事を目的とする。

研究内容

I-(3)-1 ナノスケール食品素材の免疫学的安全性の解析と評価 (担当:井上正康)

ナノ化食品成分の免疫学的な安全性の解析を行う。

図 53 免疫学的安全性の解析

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I-(3)-2 実験動物および培養細胞を用いたナノスケール食品素材の生体影響評価

(担当:山中典子)

疾患モデル動物等を用いた高リスク群に対する投与試験、機能性を維持した培養細胞を用いた

添加試験等を通してナノスケール食品素材の生体影響評価手法を開発し、評価する。

図 54 疾患モデル動物等の投与試験、培養細胞を用いた添加試験

I-(3)-3 経口摂取されたナノスケール食品素材の免疫学的応答性の解析

(担当:渡辺純) ナノスケール食品素材のアレルゲン性確認する。

図 55 AD マウスモデルを用いた乳児期の抗生物質投与が発症に及ぼす影響の解析

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I-(3)-4 実験動物を用いた抗酸化ナノ食品素材の体内動態評価

(担当:林宏紀)

抗酸化性ナノ食品素材を主な対象として、実験動物を用いて、体内動態の解析と評価

を行う。

血中、組織中の蓄積、ならびに抗酸化性に与える影響の解明を図る。

図 56 体内動態評価

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I-(3)-5 マイクロチップを用いたナノ食品素材のバイオアベイラビリティ解析システムの開発

(担当:佐藤記一)

マイクロチップを用いた腸管吸収や肝臓での代謝を考慮に入れた総合的バイオアッセ

イシステムを開発する。

開発したシステムを用いて、ナノ食品素材の性能を評価する。

マイクロチップ化により、①試料・細胞の消費量削減、②アッセイの省力化、③アッ

セイ時間の短縮 、の実現を目指す。

図 57 バイオアッセイシステム

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I-(3)-1 ナノスケール食品素材の免疫学的安全性の解析と評価(担当:井上正康)

目的

食物は生体異物であると同時に不可欠な生命維持因子であるため、栄養成分の選択的取り入れ

と抗原物質や有毒成分の特異的選別機構を進化させて来た。免疫系はその最大の選別機構であ

り、主に非経口的に接種された高分子性異物が抗原性を発現する。免疫系の主力は腸管粘膜に

あり、自然淘汰の過程で経口由来異物に対する抗原不認識機構が獲得され、対病原体防御系と

して有効に機能する事になった。しかし、鼻腔や呼吸器系粘膜ではこの様な免疫適応が起こっ

ておらず、生体異物や人工的加工食品成分に対して免疫寛容は成立していない。ナノ食品は天

然の食品成分であるが、その飛沫成分が鼻腔・呼吸器粘膜へ直接暴露される。このことは免疫

学的に大きなリスクに繋がる可能性があり、この点を医学的に検討する事が緊急課題である。

本研究ではこの点を明らかにする。

図 58 免疫

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研究内容

マウス脾細胞を用いた In vitro 試験 マウス脾細胞を用いた In vitro 試験を実施(サンプル:玄米および精米、溶媒:蒸留水、

PBS、エタノール、DMSO、曝露濃度:1000μg/mL)した結果、得られた細胞培養上清

にて IgE 量測定を実施したが、コントロール群と比較していずれも影響は見られなかった。

図 59 マウス脾細胞を用いた In vitro 試験

マウス In vivo 試験(マウスにおけるスギ花粉抗原アレルギー試験)

(マウスにおけるスギ花粉抗原アレルギー試験)を実施し、各種マウスの応答性を比較し

た。その結果、BALB/c マウスにおいて、コントロール群と比較して、血中 IgE値が、約 1000

倍の高値を示した。BDF-1マウスにおいて、コントロール群と比較して、約 1500倍の高値

を示した。C57BL/6jマウスにおいては、花粉感作の影響は見られなかった。マウスの種に

よって差があることが判明した。以降、ナノ食品試験には BDF-1マウスを実験に使用した。

図 60 マウス In vivo 試験(マウスにおけるスギ花粉抗原アレルギー試験)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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マウス In vivo 試験(マウスにおける固形ナノ食品アレルギー試験) (マウスにおける固形ナノ食品アレルギー試験)を実施した結果、血中 IgE 値が、BDF-1

マウスにおいて、コントロール群と比較して、約 3倍の高値を示した。また、症状観察で、

精米サンプルにおいて鼻こすり回数が 3倍になった。

図 61 マウス In vivo 試験(マウスにおける固形ナノ食品アレルギー試験)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(3)-2 実験動物および培養細胞を用いたナノスケール食品素材の生体影響評価(担当:

山中典子)

目的

新規ナノスケール食品素材の安全性を確保するために、従来型の食品素材とナノスケール化さ

れた食品素材の生体影響が同等であるかを検証するための技術を開発する。肝臓を中心として

実験動物および培養細胞を用いて生体影響の評価を行う。

研究内容

ラット肝実質細胞由来不死化細胞株 2 株のラット肝実質細胞由来不死化細胞株を得た。薬物代謝酵素の発現状態を検討したと

ころいずれも第 I 相薬物代謝酵素 cytochrome P450(CYP)の多くの分子種、第 II 相酵素の

glutathione S-transferaseα、μ、πを発現しており、この細胞が化学物質の代謝に関す

る試験系に有用であることが示唆された(図 62)。

図 62 R-2 細胞の CYP 発現

β-carotene(b-c)のナノエマルション 高圧乳化法により作製されたβ-carotene(b-c)のナノエマルションおよび予備乳化 b-c につ

いて、SD ラットに肝毒性を有する D-galactosamine(D-Gal)を 200mg/kg 体重で腹腔投与

し、24 時間後に b-c を 0.5mg/100g 体重の割合で強制経口投与して、経時的に血漿および

肝臓の b-c、ビタミン A 濃度を測定した。これらのラットに臨床生化学的変化は見られな

かったが(sub-clinical)、高圧乳化 b-c はより急激に吸収された(図 63)。 同様の投与試験を 800mg/kg 体重の D-Gal を投与したラットについても行った。高圧乳化、

予備乳化に加え、より粒子径の小さいヘキサン溶解 b-c を高圧乳化したものについても解

析した。b-c、ビタミン A の他、ビタミン E 濃度についても測定した。これらのラットは、

48 時間後には死亡するものが多かったが、b-c 投与の有無と死亡率には関連はなかった。

高圧乳化 b-c では血中濃度の初期の上昇は有意に高くなった(図 64)。血漿中のビタミン

A、E 濃度はナノ化されている b-c では高く保たれた(図 65)。肝障害による酸化的ストレ

スに曝された体内では粒子径による b-c の吸収性の違いだけでなく、b-c の腸管粘膜におけ

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るビタミン A への変換量も変化すること、複合的な抗酸化物質の量の変化が観察されるこ

とが明らかになった。 (課題 I-1-(4)と共同で実施)

図 63 sub-clinical ラットの血漿 β-carotene 濃度

図 64 肝障害ラットにおける血漿 β-carotene 濃度

図 65 肝障害ラットにおける血漿レチノール濃度

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I-(3)-3 経口摂取されたナノスケール食品素材の免疫学的応答性の解析(担当:渡辺純)

目的

経口的に摂取されたナノスケール食品素材の安全性をアレルゲン性という観点から評価するこ

とを中心に、消化管免疫系への影響を広く解析するとともに、ナノ食品素材の消化管内動態を

明らかにすることを目的とする。

研究内容

ナノ素材評価のための各種動物モデルの構築 ナノ食品素材の抗原性評価のためのマウス経口感作モデル、アレルゲン性評価のためのア

レルギー性下痢症モデル、機能性評価のためのアトピー性皮膚炎モデル、臭素酸カリウム

誘導腎障害モデルを導入し、種々の評価を可能とした(図 66)。

図 66 各種動物モデルによる評価

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ナノ素材の消化管内動態解析 サイズのそろった蛍光二重標識ベシクルを調製し、図 67に示すCaco-2細胞単層膜を用いた

評価系で吸収性を調べた。その結果、50nm以下のサイズのベシクルは経口摂取した場合、

消化管よりそのまま吸収される可能性があることが示された(図 68)。(課題I-(2)-1と

共同で実施した)。

図 67 Caco-2 細胞単層膜を用いた吸収評価系

図 68 各種サイズのベシクルの Caco-2 細胞単層膜透過性

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フラボノイドは抗酸化性や抗アレルギー性などの機能を有するが、比較的疎水的な物質が

多く、水系への溶解や安定な分散化が容易でないため産業分野での利用が限られている。

そこで、食品中の機能性成分をナノサイズのベシクルに担持させると、水系への分散性安

定性が向上するか、さらには吸収性が向上するか調べた。

カンキツ類に含まれるフラボノイドであるヘスペレチンを高濃度に含む安定なベシクル懸

濁液が作製可能であった(図 69)。さらに、ヘスペレチンを適切な条件でベシクルと共存

させると Caco-2細胞単層膜(図 67)の透過性が向上することがわかった(図 70)。(課

題 I-(2)-1と共同で実施した)

図 69 各種サイズのヘスペレチン担持ベシクル

図 70 ベシクル担持ヘスペレチンの Caco-2 細胞単層膜透過性

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食品ナノテクノロジープロジェクト

64

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食品ナノテクノロジープロジェクト

65

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I-(3)-4 実験動物を用いた抗酸化ナノ食品素材の体内動態評価(担当:林宏紀、稲熊隆博)

目的

野菜に含まれる赤~黄色の色素であるカロテノイド(β-カロテン、リコピン、カプサンチンな

ど)は、体内で活性酸素を消去する抗酸化作用を示すことが明らかとなっている。しかし、カ

ロテノイドは脂溶性であるため食物からの吸収率は低く、吸収性を向上させる方法として油と

の同時摂取などが報告されてきた。また、吸収メカニズムから、カロテノイドを微細化するこ

とで吸収性が向上することも考えられる。本研究ではナノレベルまで微細化したカロテノイド

素材(ナノ化カロテノイド素材)を用い、経口摂取した動物の血中、組織中のカロテノイドの

蓄積、並びに生体内抗酸化性に与える影響について明らかにすることを目的とする。

研究内容

抗酸化性ナノ食品素材を主な対象として、実験動物を用いて、体内動態の解析と評価を行う。 カロテノイドを高圧ホモなどの手法を用いてナノレベルまで微細化し、人工消化によるカ

ロテノイド濃度への影響や、動物に投与し、カロテノイドの粒径が体内動態に与える影響

を明らかにする。

血中、組織中の蓄積、ならびに抗酸化性に与える影響の解明を図る。 動物に投与した後、血液中の濃度の推移や組織中の濃度を把握し、粒径の差がそれら体内

動態に与える影響について明らかにする。また、カロテノイドの抗酸化作用と粒径の関係

性を明らかにするため、粒径の異なるカロテノイドを投与した動物の血液や臓器における

抗酸化活性を測定する。

図 71 体内動態の解析と影響の解明

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(3)-5 マイクロチップを用いたナノスケール食品素材のバイオアベイラビリティ解析

システムの開発(担当:佐藤記一)

目的

新規開発されたナノ食品素材の生体に与える影響をアッセイ可能なマイクロチップシステムを

開発する。マイクロチップ内に各種細胞を培養し、模擬的な腸管や肝臓など各種器官を構築し、

ナノ食品素材を供することにより、腸管吸収やその後の肝臓での代謝を含めた各組織細胞への

影響を総合的にアッセイ可能なデバイスを実現することを目指し、実際のナノ食品素材の分析

に応用する。

研究内容

マイクロ模擬腸管の開発と物質透過性試験 シリコーン樹脂で作製したマイクロチップ内部に腸上皮のモデル細胞 Caco-2 細胞を培養

し、模擬腸管を作製した。ここに薬や食品中の成分などのモデル生理活性物質を投与する

ことにより、物質の透過係数を算出することに成功した。これにより、腸管での物質透過

性を従来よりもごく微量のわずか 6 μL の試料から迅速(透過試験時間 6 分間)に算出する

ことを実現した。 マイクロ肝臓の開発と代謝試験

シリコーン樹脂で作製したマイクロチップ内部に肝臓のモデル細胞 Hep-G2 細胞を培養し

たマイクロキャリアを充填し、ここに薬や食品中の成分などのモデル生理活性物質を投与

することにより、各物質の代謝されやすさを算出することに成功した。 吸収と代謝を考慮に入れたマイクロバイオアッセイ系の開発

前述の腸管と肝臓を接続し、その下流に乳がんのモデル細胞 MCF-7 細胞を培養したシス

テムを一枚のチップ上に構築し、マイクロバイオアッセイモデルを開発した(図 72,図 73)。ここに、抗がん剤やエストロゲン活性物質を添加し、腸管吸収や肝臓での代謝を含めた活

性を求めることに成功した。

図 72 バイオアッセイチップ断面模式図

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食品ナノテクノロジープロジェクト

68

図 73 マイクロチップ内に培養した細胞

参考文献

Yuki IMURA, Yasuyuki ASANO, Kiichi SATO, Etsuro YOSHIMURA: A Microfluidic System

to Evaluate Intestinal Absorption, Analytical Sciences , 25 (12) , 1403-1407(2009)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(4) 食品素材の品質安定性の解明(リーダー:椎名武夫)

目的

課題 I-(1)で作成された固体、液体、気体微粒子について素材の種類、粒径、表面処理等と粒子

の物理的、化学的、熱的特性を評価する。さらに、固体については微粒子を加工した食品素材

の特性評価を行い、用途に応じた最適な粒子条件、原料構成比、製造条件を明らかにする。ま

た、液体・固体のそれぞれの粒子について界面状態とレオロジー特性との関係を明らかにする

とともに、界面の物理化学的性質と吸着層の制御を行うことで、粒子と他の食品成分との相互

作用を改変した新たな食品素材の創出を試みる。気体については、マイクロ・ナノバブル(M

NB)水の青果物および付着微生物への影響、ならびに青果物への残留性について解析を行い、

青果物の品質保持に適したMNB水の製造・処理条件を明らかにする。

研究内容

I-(4)-1 ナノ構造化食品の保存と品質安定性 (担当:清水直人)

調製微粉末の保存過程における安定性を解明する。 調製微粉末の糊化特性を評価する。

図 74 保存過程における安定性、糊化特性保存と品質特性に及ぼす影響解明

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(4)-2 液体・固体粒子の物性解析とナノスケール界面・構造制御による高機能化 (担当:松村康生)

ナノ粒子のレオロジー特性の解析

図 75 マイクロ粒子とナノ粒子

界面・構造制御技術による粒子素材の高機能化

図 76 ナノ粒子表面の改質

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I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析 (担当:椎名武夫・中村宣貴)

マイクロ・ナノバブル水の高精度製造・評価技術の開発をおこなう。

図 77 高精度製造評価技術

マイクロ・ナノバブル、以下 MNB 水を対象として、食品製造、特に青果物の洗浄操

作等への利用特性の解明を図る。 固体ナノスケール素材の付着微生物の挙動について検討する。

図 78 MNB 水の利用方法の確立

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(4)-1 ナノ構造化食品の保存と品質安定性(担当:清水直人)

目的

サイズの異なる穀類微粉末(100~1μm の範囲の米粉、最終的には、最小 100nm サイズの米

粉)から製造されるデンプン系食品の保存性や品質安定性に関わる物理化学的特性の測定項目

を整理する。モデルデンプン系食品の加工過程の材料糊化の特性を評価する方法を確立し、製

品デンプン系食品の保存過程における物性変化の測定を行い、微粉末粒子サイズの違いが米粉

加工食品の保存と品質特性に及ぼす影響を解明する。

研究内容

原料微粉末の表面構造 研削方式による粉末は、粒子表面に研削加工された痕跡や、輪郭が尖っている形状である

こと、ハンマーミル方式による粉末の表面には亀裂があり、輪郭は丸みをおびている形状

であることが確認された。ジェットミル方式の微粉末では、対照とした米デンプンに近い

単位(平均粒径 約 2 μm)で原料が砕かれ、粉砕物の分散している様子が観察された(図 79)。

図 79 微粉末粉の表面微細構造

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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成分組成

精米や玄米の水分は、約 14%、製粉後、平均粒径 10 μm 以下の米粉の水分は約 9%で、

平均粒径 100 μm を境に水分が著しく低下することが分かった。次に、タンパク質含量

や、栄養機能性成分(総遊離アミノ酸含量、必須アミノ酸、GABA)を調べ、粒径低下と

ともに水分が低下したのと同じような傾向が示された。

図 80 玄米粉、精米粉の水分

貯蔵性

米粉の水分変動幅は、5.8~13.5%。約 10~12%の水分域の微粉末について、玄米粉の脂肪

酸度増加傾向は、精米粉と比べて大きいことが分かった。玄米粉の反応速度定数は、平均

粒径 10 μm の微粉末が、平均粒径 42 μm の微粉末より高かった。

図 81 米粉の貯蔵性

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食品ナノテクノロジープロジェクト

74

熱重量分析による微粉末測定パラメーター探索

研削方式の微粉末(平均粒径 100 μm)は、ハンマーミル方式の微粉末(平均粒径 91 μm)と比べて、熱重量分析(Thermogravimetric (TG))による重量減が大きく、重量減少

速度に明らかな違いが確認された。ハンマーミル方式と研削方式によって、創出された表

面微細構造が異なり、それぞれの TG 曲線の違いに影響したものと考えられる。

図 82 精米粉の TG 曲線

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食品ナノテクノロジープロジェクト

75

I-(4)-2 液体・固体粒子の物性解析とナノスケール界面・構造制御による高機能化(担当:

松村康生)

目的

液体・固体粒子を対象とし、そのサイズや界面状態がレオロジー特性に与える影響を明らかに

するとともに、界面・構造制御技術を利用して粒子と他の食品成分との相互作用を改変し、新

たな食品素材を創出する。

研究内容

米粉ペーストの物性 水への分散性、吸水性、糊化挙動を観察したほか、米粉に水を加えて練り上げたペースト

を対象としてレオロジー測定を行った。その結果、米粉微粒子は、その粒子径や精米・玄

米の違いに応じて、その性質が大きく変化することが明らかとなった。特に、最少サイズ

である直径数μm のサンプルは、分散性、吸水性に優れ、固くて粘着性の高いペーストを

形成できることから、新たな加工素材としての可能性を提示できたと考えている。また、

これら米粉の食品素材としての利用拡大を図る上では他の原料素材との組合せが避けられ

ないことから、他成分との相互作用についても検討を加えた。その結果、大豆タンパク質

や多糖類と混合することにより、米粉ペーストの物性を大きく改変できることを明らかに

した。また、トランスグルタミナーゼ(TGase)を米粉微粒子に作用させ、そのタンパク

質の架橋重合を観察するとともに、物性にどのような変化がみられるのか検討を加えた。

その結果、TGase は米粉微粒子中の特定のタンパク質にのみ作用し、その物性を改変し得

ることを示した。特に、玄米由来の米粉を用いた場合に物性変化が顕著であった。

図 83 TGase 処理が米粉ペーストの物性(テクスチャープロファイルパラメータ)に与える影響

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析(担当:椎名武夫・中村

宣貴)

目的

ラボ用・実用双方のマイクロ・ナノバブル(MNB)作製装置について、運転操作条件、添加剤、

処理水の理化学性状と生成バブルの粒度分布、安定性との関係を解明し、MNB 水製造条件を

解明する。 また、MNB水による生鮮食品の洗浄等が試みられているが、その効果および青果物代謝への

影響などに関する検討は十分ではない。本研究では、MNB水の青果物に対する殺菌・代謝抑

制の効果ならびに品質制御機構を解析し、洗浄に最適なMNB水の利用法について検討すると

ともに、青果物への気泡の残留性の検証を試みる。

研究内容

粒子径、粒度分布及び安定性の評価方法の確立 マイクロバブル(MB)には、「臨界バブル径」が存在していることを確認できた。これよ

り大きな MB は時間の経過とともに大きくなり、これより小さい MB は収縮していく。収

縮速度はバブル径が小さくなるにつれて速くなった。

作製効率の評価システムの確立 バブル径、ガスホールドアップ、単位体積あたりのバブル数及び界面面積を用い、発生方

式の作製効率を評価した。攪拌方式に比べ、超音波方式の方が MB の作製に有効であるこ

とが明らかになった。発生方式によって、バブル径が同じでも経時的な挙動が違うことが

観察され、MB 特性に及ぼす発生方式の影響が明らかになった。また、目的に応じた適切

な発生方式の選択が重要であることが示唆された。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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界面活性剤及び添加剤の濃度と種類の影響

臨界ミセル濃度(CMC)以下では、界面活性剤濃度の増加に伴い、バブル径が小さくなる

が、CMC 以上では、バブル径と粒度分布にはほとんど差がなかった(図 84)。この結果

は、MB を効率的に作製するためには、界面活性剤濃度を CMC 以上にする必要があるが、

必要以上に添加しても作製効果が向上しないことが示された。また、タンパク質界面活性

剤と比べて、低分子量界面活性剤で作製された MB は、狭い粒度分布と高い安定性を有す

ることがわかった。異なる荷電性の界面活性剤を用いることにより、MB 表面荷電性を制

御することができる。界面活性剤 SDS の場合、NaCl を添加することで、界面活性剤添加

量を低減できる(図 85)。表面張力及びミセルのゼータ電位に及ぼす塩濃度の影響を検討

することにより、塩の作用機構を解明した(図 86)。各種界面活性剤を用いて作製される

MB の粒径分布と安定性を明らかにした(図 87)。

図 84 界面活性剤濃度の影響

図 85 塩添加濃度の影響

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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図 86 塩の作用機構図

図 87 界面活性剤種類の影響

気泡サイズ

保有する微細気泡作製装置を用いて作製した気泡サイズは 30~50 μm 近傍であった。こ

のサイズの気泡(マイクロバブル、以下MB)を含むMB水の体積の経時変化を観察した

結果、MB水中には1%程度のMBが存在すると考えられた。バブルの粒径から、1L中

に 3×107~2×108 個程度の気泡が存在すると考えられる。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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空気マイクロバブル水 空気MB水との混合による液体培地中の生菌数の変化を調査した。その結果、空気MB自

体の殺菌効果は認められなかった(図 88)。一方、空気MB水による前洗浄処理により、

その後の殺菌剤の効果が高まることが示唆された(図 89)。

図 88 ショ糖ラウリン酸エステルの MB 処理が液体培地中の大腸菌(O157:H7 株)の生菌数に及ぼす影響

図 89 殺菌前の洗浄処理方法が殺菌効果に及ぼす影響

塩、クエン酸、L150 をそれぞれ添加した液中でオゾンガスをMB処理することで、液中オ

ゾン濃度が高くなることが確認された(図 90)。また、pH、ガス種、MB処理の有無が青

果物の殺菌に及ぼす影響を調査した結果、低 pH のオゾンMB処理区で最も生菌数が低下

した(表 3)。

図 90 溶液の種類および攪拌の有無が溶液中のオゾン濃度に及ぼす影響

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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表 3 pH、ガス種および溶解方法がレタスの殺菌に及ぼす影響

参考文献

Qingyi Xu, Mitsutoshi Nakajima, Sosaku Ichikawa, Nobutaka Nakamura, Poritosh Roy,

Hiroshi Okadome, Takeo Shiina: Effects of surfactant and electrolyte concentrations on

bubble formation and stabilization, Journal of Colloid and Interface Science, 332(1),

208-214(2009)

Qingyi Xu, Mitsutoshi Nakajima, Sosaku Ichikawa, Nobutaka Nakamura, Takeo Shiina: A

comparative study of microbubble generation by mechanical agitation and sonication,

Innovative Food Science and Emerging Technologies, 9(4), 489-494(2008)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(1) 食品素材のナノスケール評価技術の開発(リーダー:杉山滋)

目的

食品素材のナノ粒子化に伴い、物理化学的、あるいは生物学的な諸性質が従来の性質とは大き

く異なる可能性がある。そのため、食品ナノ粒子の諸性質を含水状態かつナノスケールにおい

て評価するための技術開発が急務である。 本チームは、課題 I-(1)において作製される食品ナノ粒子や食品素材を最終的な対象とし、SPM(走査型プローブ顕微鏡)技術やマイクロ・ナノ化学システムを基幹技術として適用すること

により、その微細構造や微小領域での動態の評価技術、あるいは高効率、高感度な単一粒子解

析技術等を開発し、食品ナノ粒子に固有に見られる諸性質の解明に資する。

研究内容

II-(1)-1 食品ナノスケール観察のための走査プローブ顕微鏡用プローブ技術の開発 (担当:村松宏)

独自の SPM プローブ形成技術を活用し、かさ高い食品試料表面のナノスケール構造

を計測・評価を可能にする。 表面の吸着水の影響を減少させる SPM プローブ技術の開発によって、含水食品試料

表面のナノスケール構造を計測・評価を可能にする。

図 91 SPM プローブ技術の確立

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(1)-2 走査型プローブ顕微鏡によるナノスケール食品計測評価技術の開発 (担当:杉山滋)

SPM の応用により、含水状態で食品素材本来の表面ナノスケール構造を計測・評価す

る技術を開発する。

食品における汎用的な SPM 表面構造観察技術を開発する。

図 92 ナノ表面の汎用計測・評価技術の確立

II-(1)-3 走査型プローブ顕微鏡による食品ナノ粒子の動態解析

(担当:小堀俊郎)

SPM によって、食品ナノ粒子や食品タンパク質のダイナミックな構造変化を捉える技

術を開発する。

食品ナノ粒子とモデル細胞膜との相互作用を評価する技術を開発する。

図 93 超微量分析手法の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(1)-4 マイクロ・ナノ化学システムを用いる単一ナノ粒子分析法の開発

(担当:火原彰秀)

100nm から数μm サイズの固体粒子あるいは液滴を、液体中で単一粒子ごとに分光検

出・解析する手法を開発する。

少量サンプリングした食品ナノ粒子を全数解析できるマイクロ・ナノ化学システムを

開発する。

図 94 液中粒子の汎用計測・評価技術の確立

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(1)-1 食品ナノスケール観察のための走査プローブ顕微鏡用プローブ技術の開発(担

当:村松宏)

目的

食品ナノ構造の解析において、ナノスケール計測が可能な走査プローブ顕微鏡(SPM)は、大気

中・液中においても観察ができる点で有用な手法であるが、一般的な SPM では、10 μm 以上

のかさ高い試料では、探針が底部まで届かなくなるなどの制約がある。また、含水率の高い大

気中の試料では、表面の吸着水によって表面形状を高分解能で観察できない場合がある。本研

究では、このような試料高さの制限や吸着水の影響を改善できる SPM プローブを開発し、食

品試料のナノスケール観察を可能にすることを目的とする。

図 95 ナノ食品観察における SPM の課題と対策

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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研究内容

SPM による立体形状評価技術の開発 食品ナノ構造の解析のための SPM プローブ技術として、アクリル系の光硬化性樹脂を用

いたプローブ作製を行い(図 96)、作製条件として、フェムト秒レーザー光(750 nm)の発

振強度 0.8 W を 30 %まで減衰させた条件で、基本走査速度 0.56 mm/s, 走査密度 10 line/μm, 層間隔 0.5μm で、最下層の 10 μm では、走査速度 1.1 mm/s とする条件が最適で

あることを明らかにした。図 97 は、作製したチップの例を示したもので、200 層の積層

により、チップ高さ 100 μm を実現することができた。

図 96 マイクロ光造形法によるプローブ形成技術

図 97 作製したチップの SEM 写真

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食品ナノテクノロジープロジェクト

86

続いて、プローブ先端の尖鋭化のため、造形時の先端部の断面形状と層間隔を最適化する

ことによって、先端曲率半径 200 nm となるプローブ作製が行えることを示した。さらに、

プローブの基本部分を従来の樹脂により造形し、その上に高精細型の樹脂を用いて先端形

状を形成する2段階形成法も開発した。これによって、曲率半径が 100 nm の先端形状の

形成が可能になった。

図 98 作製したプローブ先端の SEM 写真

SPM による大気中食品試料観察技術の開発

開発したプローブを食品ナノ構造観察に適用し、食品ナノ構造観察技術の開発を進め、か

さ高いサンプルの観察における有用性を確認した。図 99 に玄米数ミクロンタイプの試料

を観察した結果を示す。100 μm のイメージ(a)では、全体の粒子形状を観察することがで

き、10 μm のイメージ(b)では、粒子表面の微少な凹凸の観察を行うことができた。

図 99 玄米微粒子のイメージング結果

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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含水状態のナノ食品サンプルの観察として、炊飯米の断面観察、および、ナノ化米粉の練

粉表面の観察を行った。炊飯米での表面観察が可能であることが示された。さらに、練り

粉についても数μm タイプの試料について観察を行うことができ、図に示すように、粒子

が密にパックしている様子が観察できた。

図 100 練り粉表面のイメージング結果(5 μm エリア)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(1)-2 走査型プローブ顕微鏡によるナノスケール食品計測評価技術の開発(担当:

杉山滋)

目的

大気中や液中で染色などの前処理なしに高分解能計測が可能な走査型プローブ顕微鏡(SPM)を応用し、食品素材本来の微細表面構造を含水状態でナノスケール分解能で計測し、また素材の

物性や成分局在等を解析する技術を開発する。食品素材は、材質、物理特性が非常に多岐にわ

たるため、表面を探針で走査する SPM では、素材に依存して制御条件をその都度決定する必

要が生じる。このことは、計測効率を大きく低下させるため、食品におけるナノインプリンテ

ィング法等を応用し、同一条件での計測を可能とする新たな汎用的 SPM 表面構造観察技術の

開発も行う。

研究内容

SPM を用いて、微細化された食品素材の表面や内部構造、物理特性を汎用的に計測する技術の

確立を目指す。

図 101 研究の概要

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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微粉砕米粉と澱粉粒の形状比較

下記の粒径に差が見られなかったのは、玄米の70%以上が澱粉で構成されていることを

考えると、微粉砕処理によって、お米は澱粉粒単位で粉砕されるためと考えられる。また、

微粉砕処理によって、微粉砕米粉では、コメ澱粉に見られるような角張った構造があまり

見られなかった。これは、米澱粉に損傷を来していることが予想され、実際、澱粉の損傷

度検査により、微粉砕処理した米粉では澱粉に損傷があることが確認されている。

図 102 微粉砕米粉と澱粉粒の AFM 像

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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コメ澱粉の表面形状 コメ澱粉表面において、数 10nm から数 100nm の粒状の構造が観測された。これは、こ

れまで報告されている澱粉粒の構造モデル、ブロックレットモデルにおける、ブロックレ

ットの大きさと同等であることから、そのブロックレットが観測されていると考えられる。

図 103 AFM によるコメ澱粉の表面形状

A は全体像、B は拡大像である。 参考文献

塚本 和己, 大谷 敏郎, 杉山 滋: トウモロコシ澱粉内部構造の AFM 観察, 表面科

学,30(9),484-490(2009)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(1)-3 走査型プローブ顕微鏡による食品ナノ粒子の動態解析(担当:小堀俊郎)

目的 食品素材から調整した食品ナノ粒子を摂取すると、粒子表面と細胞膜との間で接触が起こるが、

その生体への影響は不明である。また、機能成分を内包した機能性ナノ粒子の成分保持性能や

徐放性能は、表面基材の化学的・物理的性質に依存すると考えられる。すなわち、食品ナノ粒

子の表面がその安全性や機能性に関与する可能性がある。従って、食品ナノ粒子の特性評価に

は従来の生物学的、物理化学的測定とともに、その表面微細構造の計測や細胞膜との相互作用

解析も必要である。そこで本研究では、溶液中で高分解能構造観察が可能な走査型プローブ顕

微鏡(SPM)を適用することにより、体内を模倣した環境中でのナノ粒子の動態評価技術を確

立する。そのモデルとしてカゼインミセルの消化に伴う微細構造変化、及び腸管に到達する食

品ナノ粒子と人工細胞膜、あるいは腸管細胞との相互作用に焦点をあてる。

研究内容

カゼインミセルの SPM 構造観察 食品ナノ粒子のモデルとしてカゼインミセルを採用し、大気中及び溶液中での SPM 観察

条件を最適化した。また、カゼインナトリウム塩とキサンタンガムの pH 依存的な相互作

用機構について解析を行った。カゼインナトリウム塩(~10 nm)とキサンタンガムと混合

すると、中性領域、等電点付近、酸性領域の各々において異なる複合体構造を呈すること

がわかった(図 104)。カゼインミセルとキサンタンガムを中性で混合しても相分離を起こ

すため、粒子径もしくは表面物性が両者の結合に影響することが示唆された。

図 104 カゼインナトリウム塩とキサンタンガムの相互作用

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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微粉砕米粉の表面形状解析

微粉砕米粉の表面形状を SPM によって大気中で観察した。粒径が大きい(5-100 μm)た

め、粒子全体に渡っての画像化は困難であった。しかし、走査範囲を限定することによっ

て高分解能での画像化が可能となり、その結果、粉砕手法に関わらず米粉表面は比較的平

坦な類似の構造を持つことがわかった(図 105)。 一方、単一の米粉粒子に唾液アミラーゼを作用させて、その分解過程を溶液中で観察した

ところ、表面の層状構造が「はがれる」ように反応が進行することも判明した(図 106A)。

また、溶液中での観察条件を精密化した結果、観察中の溶液置換が可能となり、溶液置換

によって生じる構造変化を経時的に追跡することが可能となった(図 106B)。こうした技

術を、微粉砕米粉等の食品ナノ粒子の特性評価に適用していきたい。

図 105 微粉砕米粉の表面構造

図 106 溶液中での同一視野の連続観察

(A) 唾液アミラーゼによる米粉の消化過程。37 ℃。(B) pH 2 におけるペプシン濃度の変化

に対応した溶液中連続観察。1画像(5 m × 5 μm)当たり 512 ライン、測定時間は約

20分。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

93

参考文献

Toshiro Kobori, Atsuko Matsumoto, Shigeru Sugiyama: pH-dependent interaction between

sodium caseinate and xanthan gum, Carbohydrate Polymers, 75(4), 719-723(2009)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(1)-4 マイクロ・ナノ化学システムを用いる単一ナノ粒子分析法の開発(担当:火

原彰秀)

目的

100nm から数μm サイズの固体粒子あるいは液体粒子(液滴)を単一粒子として分光学的に解

析する手法を開発する。具体的には、粒子分散溶液を搬送して検出点まで流すマイクロ・ナノ

化学システムを用いて、高い検出効率を目指す。また、現在主に濃度定量に用いられている熱

レンズ顕微鏡を改良し、単一粒子を流れの中で解析する手法を開発する。

図 107 熱レンズ顕微鏡によるナノ粒子カウンティングの原理

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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研究内容

熱レンズ顕微鏡によるナノ粒子の計数 単一ナノ粒子計測のためのマイクロ・ナノ流路のデザインおよび流体制御システムを図に

示す。ナノ流路へ試料を導入するために、マイクロ流路を接続して、マクロ空間からマイ

クロ・ナノ空間へ段階的に小さくなっていく構造にした。また、圧力損失が大きく、通常

のポンプでは困難な低流量(pL/分)での送液を可能にするために、空気圧力コントロール

による流体制御システムを新たに開発した。 これらの手法と、開発した熱レンズ顕微鏡を組み合わせて、モデル試料であるポリスチレ

ンナノ粒子を一つ一つ計測した。この原理は熱レンズ効果に基づいており、理想的には励

起光(波長 266 nm)での各ナノ粒子の吸光度に応じて信号強度が大きくなる。ナノ流路

(幅・深さともに約 1000 nm)での測定結果を図 108 に示す。図 109 左より確かにナノ

粒子が測定部を通過したときに、パルス的な信号が観測された。図 105 右より、このパル

ス数はナノ粒子の濃度に比例することから、確かにナノ粒子由来の信号であることがわか

った。また、観測されたパルスの数は、粒子の濃度と流速から計算される導入粒子数(図

中の理論線)とほぼ一致することがわかり、ナノ流路にすることで 100%の検出効率を実

現できることがわかった。今後は、流路構造の最適化により、信号強度のばらつきを抑え

ることを検討するとともに、感度の向上を図る。

図 108 測定システム

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食品ナノテクノロジープロジェクト

96

図 109 信号波形(左)と検量線(右)

参考文献

Yuki IMURA, Yasuyuki ASANO, Kiichi SATO, Etsuro YOSHIMURA: A Microfluidic System

to Evaluate Intestinal Absorption, Analytical Sciences , 25 (12) , 1403-1407(2009)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(2) ナノテクノロジーによる食品素材の新機能解明(リーダー:中西友子)

目的

水及び化合物を含有する食品を対象に①分析手法の開発、②水の構造解析、③化学物質の動態

解析を融合させナノテクノロジーによる食品素材の新機能解明を行う。

研究内容

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構の解明 (担当:中西友子)

ナノレベルリアルタイム分子イメージング法開発により、食品素材中および表面の水、

化学薬品の動態可視化計測技術を開発し食品の安全・評価技術を確立する。

図 110 食品のナノ加工特性・安全性の評価技術の確立

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発 (担当:阿部英幸)

ナノインプリンティング法による食品ナノ構造体の形成法を開発する。

エバネッセント光によるナノ空間領域における水の構造計測技術を開発する。

図 111 水の水素結合状態解析手法が開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法の開発 (担当:田畑仁)

テラヘルツ分光・イメージングの応用により、食品材料の鮮度(含水量等)を包装材

料(ビニール・紙)等を透して、非破壊・非接触に計測・評価する技術開発。 食材状態の評価可能な機能性包装材料形成に向けたナノ構造制御技術の開発。

図 112 食品素材評価用、新規非接触・非破壊評価技術の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構の

解明(担当:中西友子)

目的

ナノレベルリアルタイム分子イメージング法により、穀物・野菜・加工食品を対象とし、食品

のイメージング・計測や蛍光と放射線の両方の測定が可能な「蛍光・アイソトープ顕微鏡」を

開発し、加工適性や安全性の解析評価に適したパラメーター等を抽出することを目的とする。

図 113 ダイズ幼植物への 32P 吸収の連続画像解析

研究内容

元素・化合物のマクロイメージング計測開発 β線放出核種 14C、45Ca、32P などを用いた、植物中の元素ならびに標識化合物の超高感度

で定量的なリアルタイムイメージング装置の開発を行った。放射線を光に変換する各種シ

ンチレータ、イメージングインテンシファイアをはじめとする高感度光検出器や高分解能

化デバイスなどを詳細に検討し、シンチレータには 100μmの CsI シンチレータをファイ

バープレートに蒸着したものと、高感度カメラとしてフォトンカウンティングが可能な

GaAsP イメージングインテンシファイアユニットを採用した。 その結果、感度の高さは、現在、放射線画像を取得するシステムの中で現在最も感度が高

く、解像度も良好と評価されている IP と比較しても、単位時間当たりの検出感度はその

10 倍以上の高感度であった(当初の目標達成)。また食品分析においてより実用性が高い

放射性同位体核種は様々な有機化合物を合成、標識可能な 14C である。14C でラベルしたグ

ルタミン、アラニン、グリシンなどのアミノ酸の植物体への直接吸収を解析した。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

101

食品イメージングならびにミクロイメージング計測開発

ナノサイズに加工した小麦粉などの粒子をラジオアイソトープ標識化合物(たとえば、無

機リン酸でナノ粒子の表面をリン酸化するなどが考えられる)、RI標識を行い、標識粒子

の細胞への取り込みを解析することを検討し、食品の特性の違いによる浸透過程への影響

を評価する為に 6 種類の粒径の異なる精米粉・玄米粉を準備し、32P 水溶液が食品に浸透

していく過程を測定・解析した(図 114)。

図 114 無機リン酸(32P 標識)の米粉の浸透解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

102

II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発(担当:阿部

英幸)

目的

ナノインプリンティング法による食品由来成分(多糖類、タンパク質等)のナノ構造形成を行

い、その表面における水の水素結合状態についてエバネッセント光を励起光源とした光散乱法、

振動分光法等の手法によって明らかにすることを目的とし、マイクロ・ナノサイズの新規食品

素材の機能評価に資することを目的とする。

研究内容

界面近傍ナノ粒子計測システムの構築 半導体レーザ光(波長 532 nm、光出力 50 mW)を厚さ 1 mm のスライドガラスに 60°分

散プリズムを用いて全反射角(80°)で導入し、顕微鏡対物レンズ上部にエバネッセント

光を発生させることにより、界面近傍におけるナノ粒子の運動状態を計測するシステムを

構築した。当該装置は、結像部に CCD カメラおよびフォトンカウンテイング(単一光子

計数)ヘッドを設置しており、CCD カメラの画像から散乱光測定部位を測定可能である。

図 115 エバネッセント光を励起光源とする動的光散乱測定装置

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食品ナノテクノロジープロジェクト

103

ポリスチレン球単分散溶液の測定 上記のシステムを用い、直径 40 nm および 80 nm のポリスチレン球単分散溶液の散乱光

を単一光子計数装置により測定し、光子相関法により散乱光の自己相関係数に減衰定数を

計測した。40 nm と 80 nm の減衰係数の比は 1.8 倍であり、理論比である2から外れてい

るが、これは主に 40nm ポリスチレン球からの散乱光量が少ないことによる計測誤差であ

ると考えられる。また、減衰係数の実測値は理論値のおよそ 0.9 倍の値となっており(80 nmポリスチレン粒子)、これらの粒子径を持つポリスチレン球を局所的な水の粘性測定用プロ

ーブ粒子として利用できる可能性が示唆された。

図 116 エバネッセント光を励起光源とした動的光散乱法により測定した自己相関関数の減衰特性

倍率 60 倍の対物レンズを用い、受光面(結像面)に直径 100μm のピンホールを設置し、

視野範囲を直径 1.6μm 程度に制限して測定。水の粘度ηは水素結合数と正の相関にあり、

減衰係数Γとはη∝1/Γの関係にあることから、Γによって水素結合数の相対比較が可能

である。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法の

開発(担当:田畑仁)

目的

食品素材の品質・衛生管理(汚染、O157 感染など)、産地管理、また加工食品における添加物や

農薬等の混入など、食の安全の確保は社会的な要請である。さらに、ナノ・マイクロスケール

加工に伴う新機能発現、並びに体への負の影響など農水分野のナノテクノロジー技術は、衣食

住という3本柱の1つとして極めて重要な技術であるといえる。 我々は、食品包装材として汎用的に使用されている高分子ポリマーや紙材料に対して透明な特

性(包装材料に吸収されずにそのまま透過する特性)を有するユニークな遠赤外線:テラヘル

ツ波を用いた分光・イメージング手法を利用した非接触・非破壊な食品素材評価技術を開発す

る。特に、センシング感度を向上させるため、金、銀等の金属ナノ粒子(ドット)を利用した

近接場による量子ドット増強テラヘルツ分光を開発する。テラヘルツ波長は、水素結合や分子

間力の結合エネルギーに対応し、種々の有機材料(食品素材)の状態を直接評価可能な新しい

食品素材の非接触評価としての展開が期待される。

図 117 テラヘルツ波の特徴

研究内容

テラヘルツ時間領域分光システム(THz-TDS)の構築 食材の品質評価を行うため、新たに環境可変型テラヘルツ時間領域分光システムの構築を

行った。さらに温度、湿度、また窒素、アルゴンなど品質保持封入ガス雰囲気など、様々

な条件下で食材の品質評価を行うため、環境可変装置を作製し、透過型 THz-TDS システ

ムに組み込んだ。 環境可変装置による環境制御範囲は、温度:室温から 50℃、湿度:5%から 80%、雰囲気:

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食品ナノテクノロジープロジェクト

105

窒素、アルゴンガスなど種々の品質保持封入ガスの選択が可能な食品関連試料計測が可能

な装置への改造を完了(当初目標達成)。測定感度の向上を目指して、信号発生器(エミッ

タ)/検出器(レシーバー)を低温成長 GaAs ダイポールからボウタイ型アンテナへ改造し、

信号検波にはロックイン同期を使用、検出器直後の pre-amp およびインピーダンス整合に

より 1/10 ノイズ低減に成功した。さらに、実用上の障害を鑑み、装置の小型化を目指して

テラヘルツ光源を Ti-Sapphire レーザからファイバレーザ対応に組み替えることにより、

装置サイズの約 1/3 縮小化を達成した。

加工米(精米、玄米)の各種環境下テラヘルツ波スペクトル計測 食品の鮮度、経時変化の指標ともなる水分含量を非接触で計測する基礎データとして、水

蒸気のテラヘルツ波長帯域基礎データの取得を行った。各種環境の THz 波基礎データ取得

を目的として、環境可変装置を用いた THz-TDS による水蒸気測定を実施。環境変化(相

対湿度相対湿度 7% ~85%)に伴う THz スペクトルを測定したところ、水分子の回転振

動に対応するテラヘルツ帯域のスペクトル検出に成功。精米試料は 2THz 付近に吸光度の

ピークを、玄米試料は 1.6TH 付近に吸光度のピークを示した。下図に THz 吸収特性およ

び吸光度データを示す。また粒径の違い(5μ、50μm)による数 THz 程度のスペクトル

シフトは、加工手法、加工度による差異か詳細を検討している。

環境可変装置を含むテラヘルツ波発生領域を覆うテラヘルツボックス全体の乾燥窒素を用

いて湿度を 5%まで低下させた後、テラヘルツ測定を実施した。次に環境可変装置内部のみ

湿度を 80%まで上昇させ、テラヘルツ計測を行い、両者の比から水蒸気の吸収を確認した。

さらに、経口可能素材(コラーゲンなどのタンパク質)と非経口素材(例えばポリエステ

ル、ナイロン、ウレタンなどの化学繊維)との識別を目的とした THz 計測も併せて実施し

た。

図 118 米粉のテラヘルツ吸光特性

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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参考文献

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食品ナノテクノロジープロジェクト

107

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2010 年

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2009 年

五月女格, 津田升子, 岡部繭子, 大島紗也香, ムハマド シャリフ ホッセン,

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食品ナノテクノロジープロジェクト

108

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食品ナノテクノロジープロジェクト

109

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食品ナノテクノロジープロジェクト

110

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食品ナノテクノロジープロジェクト

111

Motoki Matsuda, Yuichiro Otsuka, Shigeki Jin, Jun Wasaki, Jun Watanabe, Toshihiro Watanabe, Mitsuru Osaki: Biotransformation of (+)-catechin into taxifolin by a two-step oxidation: primary stage of (+)-catechin metabolism by a novel (+)-catechin-degrading bacteria, Burkholderia sp. KTC-1, isolated from tropical peat, Biochemical and Biophysical Research Communications, 366(2), 414-419(2008)

Jun Watanabe, Naho Sasajima, Akiko Aramaki, Kei Sonoyama: Consumption of fructo-oligosaccharide reduces 2,4-dinitrofluorobenzene-induced contact hypersensitivity in mice, British Journal of Nutrition, 100(2), 339-346(2008)

Reiko Fujiwara, Jun Watanabe, Kei Sonoyama: Assessing changes in composition of intestinal microbiota in neonatal BALB/c mice through cluster analysis of molecular markers, British Journal of Nutrition, 99(6), 1174-1177(2008)

Hiroshi Takahashi, Chihiro Katagiri, Satoru Ueno, Katsuaki Inoue: Direct observation of fat crystallization in a living fly by X-ray diffraction: Fat crystallization does not cause fly’s instant death, but ice formation does, Cryobiology, 57, 75-77(2008)

Yuya Shinohara, Tadashi Takizawa, Satoru Ueno, Kiyotaka Sato, Isao Kobayashi, Mitsutoshi Nakajima, Yoshiyuki Amemiya: Microbeam X-ray diffraction analysis of interfacial heterogeneous nucleation of n-hexadecane inside oil-in-water emulsion droplets, Crystal Growth & Design, 8(9), 3123-3126(2008)

Satoru Ueno, Takefumi Nishida, Kiyotaka Sato: Synchrotron radiation microbeam X-ray analysis of microstructures and the polymorphic transformation of spherulite crystals of trilaurin,Crystal Growth & Design, 8(3), 751-754(2008)

Hidenori Taguchi, Takeshi Senoura, Shigeki Hamada, Hirokazu Matsui, Yasuo Kobayashi, Jun Watanabe, Jun Wasaki, Susumu Ito: Cloning and sequencing of the gene for cellobiose 2-epimerase form a ruminal strain of Eubacterium cellulosolvens, FEMS Microbiology Letters, 287(1), 34-40(2008)

Li-Jun Yin, Isao Kobayashi, Mitsutoshi Nakajima: Effect of Polyglycerol Esters of Fatty Acids on the Physicochemical Properties and Stability of

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食品ナノテクノロジープロジェクト

112

β-Carotene Emulsions during Digestion in Simulated Gastric Fluid, Food Biophysics, 3(2), 213-218(2008)

Neves M, Ribeiro H.S, Kobayashi I, Nakajima M: Encapsulation of lipophilic bioactive molecules by Microchannel Emulsification, Food Biophysics, 3, 126-131(2008)

Henelyta S. Ribeiro, Boon-Seang Chu, Sosaku Ichikawa, Mitsutoshi Nakajima: Preparation of nanodispersions containing β-carotene by solvent displacement method, Food Hydrocolloids, 22, 12-17(2008)

Marcos A. Neves, Henelyta S. Ribeiro, Katerina B. Fujiu, Isao Kobayashi, Mitsutoshi Nakajima: Formulation of Controlled Size PUFA-Loaded Oil-in-Water Emulsions by Microchannel Emulsification Using β-Carotene-Rich Palm Oil, Industrial Engineering and Chemistry Research, 47(17), 6405-6411(2008)

Qingyi Xu, Mitsutoshi Nakajima, Sosaku Ichikawa, Nobutaka Nakamura, Takeo Shiina: A comparative study of microbubble generation by mechanical agitation and sonication, Innovative Food Science and Emerging Technologies, 9(4), 489-494(2008)

Megumi Nishimukai, Jun Watanabe, Hidenori Taguchi, Takeshi Senoura, Shigeki Hamada, Hirokazu Matsui, Takeshi Yamamoto, Jun Wasaki, Hiroshi Hara, Susumu Ito: Effects of epilactose on calcium absorption and serum lipid metabolism in rats, Journal of Agricultural and Food Chemistry, 56(21), 10340-10345(2008)

Z.Y. Xiao, H. Matsui, N. Hasuike, H. Harima, H. Tabata: Systematic examination of excitonic-related transitions in Zn1-xCoxO: An evidence for II-VI wide-gap semiconductors, Journal of Applied Physics, 103, 43504-43504(2008)

Jun Watanabe, Megumi Nishimukai, Hidenori Taguchi, Takeshi Senoura, Shigeki Hamada, Hirokazu Matsui, Takeshi Yamamoto, Jun Wasaki, Hiroshi Hara, Susumu Ito: Prebiotic properties of epilactose, Journal of Dairy Science, 91(12), 4518-4526(2008)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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Risa Nakazawa, Motohiro Shima, Shuji Adachi: Effect of oil-droplet size on the oxidation of microencapsulated methyl linoleate, Journal of Oleo Science, 57(4), 225-232(2008)

Hidetaka Uehara, Tomomi Suganuma, Satoshi Negishi, Yukinori Uda, Yoshinori Furukawa, Satoru Ueno, Kiyotaka Sato: Physical properties of two isomers of conjugated linoleic acid, Journal of the American Oil Chemists' Society, 85(1), 29-36(2008)

Haruka Imai, Tetsuzo Maeda, Motohiro Shima, Shuji Adachi: Oxidation of methyl linoleate in oil-in-water micro- and nanoemulsion systems, Journal of the American Oil Chemists’ Society, 85(9), 809-815(2008)

Takashi Kobayashi, Takemasa Matsuo, Yukitaka Kimura, Shuji Adachi: Thermal stability of immobilized lipase from Candida antarctica in glycerols with various water contents at elevated temperatures, Journal of the American Oil Chemists' Society, 85(11), 1041-1044(2008)

Chu B.S, Ichikawa S, Kanafusa S, Nakajima M: Stability of protein-stabilised β-carotene nanodispersions against heating, salts, and pH, Journal of the Science of Food and Agriculture, 88(10), 1764-1769(2008)

Sugiura S, Kuroiwa T, Kagota T, Nakajima M, Sato S, Mukataka S, Walde P, Ichikawa S: Novel method for obtaining homogeneous giant vesicles from a monodisperse water-in-oil emulsion prepared with a microfluidic device, Langmuir, 24(9), 4581-4588(2008)

Isao Kobayashi, Yoshihiro Wada, Kunihiko Uemura, Mitsutoshi Nakajima: Drop generation via symmetric and asymmetric through-hole arrays micromachined in stainless steel plates, Microfluidics and Nanofluidics, 5(5), 677-687(2008)

Takashi Kuroiwa, Yohei Noguchi, Mitsutoshi Nakajima, Seigo Sato, Sukekuni Mukataka, Sosaku Ichikawa: Production of chitosan oligosaccharides using chitosanase immobilized on amylose-coated magnetic nanoparticles, Process Biochemistry, 43(1), 62-69(2008)

Y. Hotta, T. Kanki, N. Asakawa, H. Tabata, T. Kawai: Cooperative Dynamics of an Artificial Stochastic Resonant System, Applied Physics Express, 1(8), 88002-88002(2008)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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その他(書籍など)

2009 年

「フードナノテクノロジー」(中嶋光敏、杉山滋 監修)、 (2009)、CMC出版

第 1編 総論

第 1章 フードナノテクノロジー概論 ......(中嶋光敏,大谷敏郎)

第 2章 食品ナノテクノロジープロジェクト ......(杉山 滋,大谷敏郎)

第 2編 食品のナノスケール計測技術

第 1章 ナノテクノロジー応用による食品計測評価技術 ...... (杉山 滋,塚本

和己,若山純一,大谷敏郎)

第 2章 食品ナノスケール観察のための走査プローブ顕微鏡技術 ...... (村松

宏)

第 3章 食品ナノスケール観察のための走査型電子顕微鏡技術 ...... (塚本和

己)

第 4章 食品ナノスケール観察のための透過型電子顕微鏡技術 ...... (市川創作,

行弘文子)

第 5章 マイクロ・ナノ化学システムによるナノ粒子分析法 ...... (火原彰秀)

第 6章 食品中の水のイメージング ...... (中西友子,田野井慶太朗)

第 7章 原子間力顕微鏡による食品の相互作用評価 ...... (小堀俊郎)

第 3編 食品のナノスケール加工技術

第 1章 抗酸化ナノ食品素材の製造 ...... (Marcos A. Neves,中嶋光敏,小林

功)

第 4 章 ナノ精度加工技術とマイクロチャネル乳化システム ...... (小林 功,

中嶋光敏)

第 5章 穀類の臼式製粉による低温微粉砕技術 ...... (堀金 彰,北村義明,堀

田 滋)

第 6章 ジェットミル等による穀類の微粉砕 ...... (岡留博司)

第 7章 マイクロ・ナノバブル水の製造と利用 ...... (許 晴怡,中村宣貴,椎

名武夫)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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第 4編 食品のナノスケール評価技術

第 1章 ナノスケール食品素材の作製と特性評価 ...... (市川創作)

第 2章 ナノスケール食品の抗酸化性の評価 ...... (安達修二)

第 3章 ナノ粒子の構造発現と制御技術 ...... (佐藤清隆,上野 聡,有馬哲史,

榊 大武)

第 4章 穀類およびデンプン素材微粒子の特性解析 ...... (松村康生)

第 5章 微粉砕穀類の品質と利用特性 ...... (清水直人)

第 6章 マイクロ・ナノバブル水の動的特性評価 ...... (大下誠一)

第 7章 ナノスケール食品素材のリスク評価 ...... (山中典子)

第 8章 ナノスケール食品の免疫学的安全性の解析 ...... (佐藤英介,井上正康)

第 9章 食品素材のナノスケール化が経口摂取した際の生体応答性に及ぼす影

響 ...... (渡辺 純)

第 11章 マイクロチップを用いたナノスケール食品のバイオアベイラビリティ評

価技術 ...... (佐藤記一)

第 5編 ナノテクノロジーの食品への応用

第 1章 食品会社はナノテクノロジーに何を期待するか ...... (稲熊隆博)

「ぶんせき」社団法人日本分析化学会の機関誌、(2009年 9月号)

特集 バイオイメージング技術の最先端

「AFM・SNOM によるバイオイメージングとプローブ技術」 ......(村松宏)

2008 年

「食品技術総合事典」(食品総合研究所 編)、 (2008)、朝倉書店

1.9 乳化分散 ......(小林功)

1.10 食品ナノバイオテクノロジー ......(若山純一・杉山滋)

1.12 食品マイクロエンジニアリング...... (中嶋光敏)

3.7 生体ナノ計測...... (小堀俊郎)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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用語集

A - Z ATP(アデノシン-3 リン酸)

ATP とはアデノシン-3 リン酸のことで、生きた魚肉(他の動物筋肉にも同様に存在)中

に多く含まれ、すべての生物のエネルギー伝達物質として、代謝、筋肉運動に関与してい

る。死後、鮮度低下に伴い分解する。 【出現ページ】

I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発

Carr の流動性指数 Carr の流動性指数は、Ralph. L. Carr Jr. *1 により提唱された指標であり、粉体の流動性

を点数化し粉体を取り扱う機械の仕様 (振動ホッパーが必要かどうか等) を決めるために

使われている。Carr の流動性指数は、粉体の圧縮度、安息角、スパチュラ角、凝集度もし

くは均一度を測定し、それぞれの項目の測定結果に対して 0 点から 25 点(凝集度について

は 0 点から 15 点)の点数を付与し全ての点数を合計したものであり、点数が大きくなるほ

ど流動性がよくなるとされている。 *1 R. L. Carr, Jr.; Evaluating flow properties of solids. Chem. Eng.‐New York, 18, 163

‐168 (1965). 【出現ページ】

I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発

CMC(臨界ミセル濃度) ミセルを形成するためには、界面に界面活性剤が一定量以上存在する必要があるが、その

際の最低限の濃度を臨界ミセル濃度 (Critical Micelle Concentration, CMC) と呼ぶ。 【出現ページ】

I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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IgE

哺乳類にのみ存在する糖タンパク質であり、免疫グロブリンの一種である。 1966 年、日本人である石坂公成はジョンズホプキンス大学(アメリカ)においてブタクサ

に対してアレルギーをもつ患者の血清から IgE を精製した。IgE の'E'というアルファベッ

トはこの抗体が紅斑(Erythema)を惹起するということに由来している。 アレルギー疾患を持つ患者の血清中では濃度が上昇しマスト細胞や好塩基球の細胞内顆粒

中に貯蔵される生理活性物質の急速な放出(脱顆粒反応)を誘起する。これらのことから

IgE はヒスタミンなどと並んでアレルギー反応において中心的な役割を果たす分子の一つ

として数えられる。 【出現ページ】

I-(3)-1 ナノスケール食品素材の免疫学的安全性の解析と評価

IP(Imaging Plate) 放射線の定量的な観測に用いるフィルム状の検出器。 従来の X 線フィルムと比べて解像度は劣るが、読取装置を用いて画像を生成することがで

きる。使用前に初期化することにより繰り返し使用することができる。 【出現ページ】

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

RI(ラジオアイソトープ)標識 放射性同位元素を用いた目印となる物質。 ラジオアイソトープから放出される放射線を検出することにより、その元素の分布状態と

動きを観測することができるので、その元素を含む化合物の動態を観察することができる。 【出現ページ】

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

MB(マイクロ・バブル) 直径が数 10μm 程度以下の気泡のことをいう。マイクロ・バブル(MB)を含む水を MB水と呼ぶ。 【出現ページ】

I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発 I-(2)-4 マイクロ・ナノバブル水の動態解析と特性解明 I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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MNB(マイクロ・ナノバブル) 直径が数 100nm から数 10μm 程度以下の気泡のことをいう。マイクロ・ナノバブル(MNB)

を含む水を MNB 水と呼ぶ。 【出現ページ】

I-(2) 食品素材の物理化学的特性・加工適性等の解明 I-(2)-4 マイクロナノバブル水の動態解析と特性解明 I-(4) 食品素材の品質安定性の解明 I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析

MC(マイクロチャンネル)乳化技術 独特な構造を持つマイクロチャネルアレイを用いて単分散エマルション(平均液滴径 1~200 μm)を作製可能な乳化技術。本乳化技術の液滴化プロセスは非常にマイルドである。 【出現ページ】

I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明

NMR(Nuclear Magnetic Resonance) 核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)分光法の略。 核磁気共鳴によって原子の化学結合の状態を知ることができるため、特定の物質の存在な

どを分析する手法として用いられる。また、医療の世界では、人体の内部を画像化する方

法として、MRI(Magnetic Resonance Imaging、NMR を利用して画像化する技術)がよ

く使われている。 【出現ページ】

I-(2) 食品素材の物理化学的特性・加工適性等の解明

NC(ナノスケールチャンネル) 幅、深さ、長さのうちの少なくとも一辺の大きさが 1000 nm 未満の微小流路。複数のナノ

スケールチャネルが規則的に配列されたものがナノスケールチャネルアレイである。 【出現ページ】

I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明

NC(ナノスケールチャンネル)乳化システム ナノスケールチャネルアレイが加工された乳化基板が組み込まれた装置のこと。 【出現ページ】

I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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O/W 型(水中油滴)エマルション

水中に油滴が微粒子状で分散しているもの。 【出現ページ】

I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明 I-(2)-2 ナノスケール食品分散系の抗酸化性・安定性の評価と制御 I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析

PGE(Polyglycerol ester of fatty acids) ポリグリセリン脂肪酸エステル(Polyglycerol ester of fatty acids)の略称。 食品用乳化剤の一つであり、グリセリン分子が持つ 3 つのヒドロキシ基のうち 1 つないし

2 つに脂肪酸がエステル結合した分子構造を持つ。 【参考】

重合度(Polymerization degree):重合体を構成する単量体の個数。

【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発

SEM(走査型電子顕微鏡) 観察の対象とする試料に、細く絞った電子線を照射しつつ走査し、表面から発生する二次

電子や反射電子を検出して、表面の像を得る顕微鏡。 通常、表面を導電性薄膜で被覆し、真空中で観察を行う。 【出現ページ】

II-(1)-1 食品ナノスケール観察のための走査プローブ顕微鏡用プローブ技術の開発

SPM(走査型プローブ顕微鏡) 先端が尖った微小な探針(先端径 20nm 程度)により、物体の表面を走査し、その情報を

得る顕微鏡の総称。 3次元形状を観察する AFM(原子間力顕微鏡)、光の情報を高分解能で取得する SNOM(走

査型近接場光学顕微鏡)、微小なトンネル電流を測定する STM(走査型トンネル顕微鏡)

など、計測対象により様々な種類の SPM が開発されている。 【出現ページ】

研究概要 II-(1) 食品素材のナノスケール評価技術の開発 II-(1)-1 食品ナノスケール観察のための走査プローブ顕微鏡用プローブ技術の開発 II-(1)-2 走査型プローブ顕微鏡によるナノスケール食品計測評価技術の開発 II-(1)-3 走査型プローブ顕微鏡による食品ナノ粒子の動態解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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TG(Thermogravimetry:熱重量測定) 物質を加熱または冷却したとき、あるいは一定の温度に保持した時の物質の質量変化を温

度または時間の関数として測定する技法である。TG によって物質の物理・化学的性質を

調べることができる。

【出現ページ】 I-(4)-1 ナノ構造化食品の保存と品質安定性

TGase(トランスグルタミナーゼ)

トランスグルタミナーゼ(TGase)は、タンパク質中のグルタミン残基の γ-カルボキシル

基と一級アミンのアシル転移を触媒する酵素である。アミンが他のタンパク質分子に含ま

れるリジンである場合には、この酵素の作用によりタンパク質がイソペプチド結合を介し

て架橋される。 TGase は動植物中に広く存在するが、現在では Streptoverticillium sp など、微生物起源

の酵素が食品産業で広く使用されている。 【出現ページ】

I-(4)-2 液体・固体粒子の物性解析とナノスケール界面・構造制御による高機能化

TMAO(トリメチルアミンオキシド) マダラなどの魚肉に多く含まれる水溶性の成分。鮮度低下に伴い、酵素、微生物により魚

臭の成分や、タンパク質を変性させる成分に分解される。 【出現ページ】

I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発

TEM(Transmission Electron Microscope) 透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)の略称。 観察試料に電子線を照射し、透過してきた電子線の像を観察する。電子線を利用するため、

ナノメートルサイズの構造体の観察が可能である。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

121

ア行

アレルゲン性 アレルギー症状を引き起こす原因となる物質をアレルゲンという。 アレルゲンを含む食品素材をナノスケールに加工すると、アレルギーを引き起こしやすい

程度(これをアレルゲン性という)が変化する可能性が十分考えられる。 このため、ナノスケール化食品素材のアレルゲン性評価は、その安全性という観点から重

要と考えられる。 【出現ページ】

I-(3)-3 経口摂取されたナノスケール食品素材の免疫学的応答性の解析

粗さ係数 (Roughness coefficient)

粗さ係数は顆粒などの流動性を評価するため、粒子形状の粗さを評価するために提唱され

た指標である*2。粗さ係数が小さいほど球形に近く滑らかな粒子であり、大きいほどゆが

んでザラザラした粒子であると言える。一般的には、粗さ係数が小さいほど粒子の流動性

は高い。粗さ係数は次の手順で求める。

粒子の SEM 画像を撮影する。 粒子の投影輪郭を抽出する。

重心点からの距離と位相で輪郭を表現する(輪郭関数)。 輪郭関数を高速フーリエ変換し、以下のようにフーリエ級数で表す。

( ) ∑ ∑= =

+=N

n

N

nnn nBnAR

0 0sincos θθθ

上式のフーリエ係数から以下の粗さ係数 Pjkが求める。

( ) ( )∑=

++

=k

jnnnjk BA

BAP 22

20

202

1

y

R

R

θ [rad]0 π 2π

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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j と k の決定方法は評価対象や項目に応じて決定する必要がある。粒子全体の球形からの乖

離を評価したい場合は j=1 とし、粒子表面の細かい凹凸に着目する場合は適宜 j を大きく

する。k の値はフーリエ係数へのノイズの影響を考慮し適宜決定する。 *2 R. Ehrlich, B. Weinberg; An exact method for characterization of grain shape. J.

Sediment. Petrol., 40, 205‐212 (1970). 【出現ページ】

I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発

胃小腸モデル(Gastrointestinal digestion model)

ヒトの胃腸消化管を模擬した体外(in vitro)モデル系。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 イメージインテンシファイア

極微弱な光を増強してコントラストのよい画像を得るための光学素子。 微小な光電子増倍管の後ろに蛍光面が設置された構造になっており、光を千倍から一万倍

に増幅できる。イメージングインテンシファイアと CCD カメラを組み合わせた構造の高

感度カメラも市販されている。 【出現ページ】

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

インピーダンス整合 電気・磁気的信号の検出において、入ってくる(送られてきた)信号と、受け取る側の、

回路特性(例えば電気抵抗値)を合致させること。これにより、雑音を押さえて感度を上

げること(S/N 比向上)が可能となる。 【出現ページ】

II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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エバネッセント光 通常の光と違って遠くまで伝播しない光のこと。 例えば、電磁波(光)が屈折率 n1 の領域1から屈折率 n2 の領域2へ伝搬する時、領域1

および2の境界面への電磁波の入射角 θ について、θ>sin-1(n2/n1)が成り立つ場合、電

磁波は全て境界面で反射される(全反射)。この時、境界面から領域2の方向に、界面から

の距離 d に対して指数関数的に強度が減少する非伝搬性の電磁場が形成される。この電磁

場をエバネッセント光(場)という。光強度 I(d)は次の式で表される。

ここで、λ は入射電磁場の波長である。1/β を浸透深さという。可視光領域の電磁波であれ

ば、入射角を調節することにより浸透深さを数 10nm 程度にすることが可能である。エバ

ネッセント場は非伝搬性の電磁場であるが、物質との相互作用により伝搬性の光に変換さ

れることから、局所的な照明光として利用される。 【出現ページ】

II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

エマルション 互いに混じり合わない 2 種の液体で、一方が他の液体中に微粒子状で分散しているも

の。水中に油滴の分散する牛乳、油中に水滴の分散するバターなど。乳濁液。 【出現ページ】

I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発 I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明 I-(2) 食品素材の物理化学的特性・加工適性等の解明 I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明 I-(2)-2 ナノスケール食品分散系の抗酸化性・安定性の評価と制御 I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析 I-(3)-2 実験動物および培養細胞を用いたナノスケール食品素材の生体影響評価 I-(3)-4 実験動物を用いた抗酸化ナノ食品素材の体内動態評価

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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オゾン

オゾンは、3つの酸素原子から構成される酸素の同素体である。常温では気体であり、強

い刺激臭を持つ。オゾンの酸化力はフッ素に次いで強く、産業的には、オゾンガスもしく

はオゾン水として、殺菌、脱臭、脱色などの目的で用いられる。 日本においては、食品添加物として認可されており、既存添加物名簿に掲載されている。

なお、日本における作業環境中のオゾンの許容濃度は 0.1ppm とされている(日本産業衛

生学会による勧告値)。 【出現ページ】

I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発 I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の特性機構の解析と利用法の開発

Page 125: 食品ナノテクノロジープロジェクト · 粒子径数10nm 程度のナノエマルションの作製を行う。気体系素材については、オゾンや酸素 等を含む10μm~1μm

食品ナノテクノロジープロジェクト

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カ行

カーボンナノチューブ 炭素原子のみでできていて、その炭素原子が蜂の巣状につながったグラフェンシートが丸

まってできた直径数 nm の極めて細いチューブ。 軽量で強度が高く、また電気特性においても電気の流しやすさを制御できるため、様々な

分野への応用が期待されている。 【出現ページ】

研究概要

界面 界面とは、気体と液体、液体と液体、液体と固体、固体と固体、固体と気体のように、二

つの相が互いに接触している境界面。 界面では光線が反射、屈折、散乱、ならびに吸収を起こす。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析 I-(4) 食品素材の品質安定性の解明 I-(4)-2 液体・固体粒子の物性解析とナノスケール界面・構造制御による高機能化 I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析 II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

界面制御技術(Interface control technology)

油水界面に吸着する乳化剤の分子量、重合度、表面電位等を制御する技術のこと。 界面制御技術の利用により、最終的に得られるエマルションの粒子径および安定性の制御

が可能である。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発

攪拌方式 機械攪拌による MB の作製方式。界面活性剤を使用することによって、比較的安定な MBが作製されるが、超音波方式と比べて MB 作製効率や MB の安定性が劣る。 【出現ページ】

I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析

Page 126: 食品ナノテクノロジープロジェクト · 粒子径数10nm 程度のナノエマルションの作製を行う。気体系素材については、オゾンや酸素 等を含む10μm~1μm

食品ナノテクノロジープロジェクト

126

カゼインミセル

牛乳の主要タンパク質成分である α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼインからなる球状の複

合体。 中心部は α-カゼイン、β-カゼインが疎水的相互作用によりサブミセルを形成している。一

方、周縁部では電荷を帯びた κ-カゼインとリン酸と結合しているため、カゼインミセル全

体として負電荷を帯びている。 これによりカゼインミセルは牛乳中で可溶化すると共に、カゼインミセル同士の静電反発

のために安定して分散できる。直径はカルシウム含有量等によって変化するが、100~300 nm 程度である。 【出現ページ】

II-(1)-3 走査型プローブ顕微鏡による食品ナノ粒子の動態解析

活性酸素 酸素分子から派生する、酸化力が強い物質の総称で、体中では細菌に対する攻撃やエネル

ギー産生に関与しているが、過剰に存在すると生活習慣病や老化の原因となる。 【出現ページ】

I-(3)-4 実験動物を用いた抗酸化ナノ食品素材の体内動態評価

カッターミル フードカッターの工業用の大型のもの。撹拌刃で高速に肉などを砕く機械。機種により、

温度上昇を抑える冷却機能を有するものがある。 【出現ページ】

I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発

ガスホールドアップ MB の作製において、MB 分散液に占める MB(気層)の割合をいう。便宜上、液層と MB層が2層に分かれて存在するときの、全体容積に対するバブル層の容積として示す。 【出現ページ】

I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

127

環境可変型テラヘルツ時間領域分光(THz-TDS)システム

食品や医薬・農薬品また生体関連試料を常態で計測するために温度や湿度等の環境が制御

可能であるシステムで、2系統のビームを利用してテラヘルツ波の時系列変化を計測する

システム。 【出現ページ】

II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

乾式粉砕処理 穀類等の食品素材の粉砕方法には乾式と湿式があり、前者は原料をそのまま粉砕する方法

で、後者は加水などにより原料の水分を調製しながら粉砕する方法である。 【出現ページ】

I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発

緩和時間(プロトン緩和時間) 水素原子核が吸収したエネルギーを放出する過程を示す時定数でスピン-格子緩和(縦緩

和)時間という。 【出現ページ】

I-(2)-4 マイクロ・ナノバブル水の動態解析と特性解明

キサンタンガム キサンタンガムは植物病原菌である Xanthomonas campestris が産生する陰イオン性の天

然高分子である。 キサンタンガムは熱水、冷水ともに容易に溶解し、他の高分子にはないレオロジー特性(粘

性、チキソトロピー)を持つ。そのため増粘剤や安定剤として幅広く食品用途に利用され

ている。 【出現ページ】

II-(1)-3 走査型プローブ顕微鏡による食品ナノ粒子の動態解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

128

凝集

一般には、原子や分子、粒子がなど集まる現象を意味する。 食品関連分野では、液体や気体媒体中に分散している液滴や固体粒子などの分散体が集ま

った塊(かたまり)、すなわち、凝集体を形成する現象が重要である。 【出現ページ】

I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明

共鳴線幅 核磁気共鳴における吸収帯の幅で、半分の高さにおける幅(半値幅)が一般に用いられる。 【出現ページ】

I-(2) 食品素材の物理化学的特性・加工適性等の解明 吸着層

2つの相(固相、液相、気相)の界面に吸着される物質が形成する層である。層は一つの

場合もあるが、多層の吸着が見られることも多い。 【出現ページ】

I-(4) 食品素材の品質安定性の解明

金属ナノ粒子/量子ナノドット 数 nm~数 10nm サイズの大きさの粒子を示し、これらは量子サイズ効果により本来の材

料とは異なる物性(光学特性など)を示す。この性質を利用して、分析などに利用される。 【出現ページ】

研究概要 II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

蛍光・アイソトープ顕微鏡 被写体の蛍光像とアイソトープ像とを同時に撮影するために開発された顕微鏡。 【出現ページ】

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

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食品ナノテクノロジープロジェクト

129

ゲル

ここでは、魚肉をすりつぶしたもの、あるいは細かく砕いたものを加熱し、肉片を結着さ

せたものを指す。カマボコと同様なのでカマボコゲルとも言う。 【出現ページ】

I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発

減衰係数/減衰定数 一般的に、ある物理量が時間とともに減少する度合いを表す。 ここでは、自己相関関数の変化を指数関数で表現した場合の指数(定数部分)を減衰係数

(減衰定数)としている。 【出現ページ】

II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

抗原不認識機構 自分に害を及ぼさない「自己」「非自己」抗原に対しては、免疫システムが反応しない「免

疫寛容」があり、その抗原を認識しないシステムを言う。 【出現ページ】

I-(3)-1 ナノスケール食品素材の免疫学的安全性の解析と評価

抗酸化 活性酸素の発生を抑え害を防止する事。 【出現ページ】

I-(1) 食品素材のナノスケール加工基盤技術の開発 I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明 I-(3)-2 実験動物および培養細胞を用いたナノスケール食品素材の生体影響評価 I-(3)-3 経口摂取されたナノスケール食品素材の免疫学的応答性の解析 I-(3)-4 実験動物を用いた抗酸化ナノ食品素材の体内動態評価

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食品ナノテクノロジープロジェクト

130

光子相関法

動的光散乱法で粒子径を導く方法のひとつ。 ナノ粒子からの散乱光のように微弱な光強度の計測においては、光電子増倍管や APD(ア

バランシェフォトダイオード)など光子により生成した電子(光電子)を電流パルスとし

て増幅し、光の強度を電流パルスの数として計測する光子計数法(フォトンカウンティン

グ法)が用いられる。ある時間幅の中で観測される光子数 m(t)について、次の式で計算さ

れる関数を2次の相関関数(自己相関関数)g(2)(τ)という。

ここで、<>は時間 t についての平均を表す。レーザー光の場合、m(t)は平均値と分散が

等しいポワソン分布をしており、g(2)(τ)=1が成り立つ。また、光の干渉効果を表す1

次の相関関数g(1)(τ)についてもレーザー光の場合g(1)(τ)=1が成り立つが、ブラウ

ン運動をしている粒子からの散乱光については下記の関係式が成り立つ。

したがって、光子数 m(t)を計測し、その自己相関関数g(2)(τ)から光の1次の相関関数g

(1)(τ)を求めることが可能となる。これが、光子相関法である。g(1)(τ)と粒子の運動

との関係は、空間内に分布する粒子からの散乱光の電界強度の総和(干渉)の時間変化(動

的構造因子)について、観測範囲が十分に狭く、粒子が拡散係数 D のブラウン運動をして

いる場合、次の式で表される。

ここで、q(散乱ベクトル)は、入射光と散乱光の進行方向のなす角を θ として、次の式で

与えられる。

ここで、n は粒子がある空間の屈折率、λ は入射光の波長である。このように、g(1)(τ)から物質の拡散係数を求める方法が動的光散乱法である。 測定系の光学特性や物質の粒径分布を考慮すると、g(2)(τ)はより一般的な形として次の

形となる。

ここで、ai は定数、Γi の定義された用語はないが、一般的な意味において減衰係数(時定

数)という。Γiは測定系の特性によっては必ずしも D・q2に等しいとは限らないが、粒子

の運動状態を表す指標となる。 拡散係数 D については次の Einstein-Stokes の式によって、粒子の半径r、溶媒の粘度 ηと下記の関係がある。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

131

ここで、T は絶対温度、kB はボルツマン定数である。すなわち、T および η が既知であれ

ば、光子相関法で求めたg(1)(τ)から散乱粒子の半径rを求めることが可能となる。 【出現ページ】

II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

糊化 デンプンを水中で加熱するとデンプン粒は除々に膨潤を始め、次第に透明度が増大し、粘

度が上昇する。この現象を糊化という。示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter(DSC))を用いた場合では、吸熱曲線での吸熱ピークが現れる点と定義される。 【参考】 糊化エンタルピー

デンプンはアミロースの周囲をアミロペクチンが取り囲むようにミセルを形成してい

る。生のデンプンと糊化デンプンとでは水分子との相互作用によるミセルの状態が大

きく異なる。それに対応してそれぞれのエンタルピーレベルを示し、両者の差が糊化

エンタルピー変化である。DSC 吸熱曲線の面積から評価される。

【出現ページ】 I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発 I-(4)-1 ナノ構造化食品の保存と品質安定性

サ行

ジェットミル

高速気流を利用する粉砕機で、ローターを高速回転させて発生する渦流を利用して粉砕す

る渦流式とノズルから高速気流を噴射させて粉砕する高速気流噴射式がある。 【出現ページ】

I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発 I-(4)-1 ナノ構造化食品の保存と品質安定性

Page 132: 食品ナノテクノロジープロジェクト · 粒子径数10nm 程度のナノエマルションの作製を行う。気体系素材については、オゾンや酸素 等を含む10μm~1μm

食品ナノテクノロジープロジェクト

132

自己相関関数

データ列{xi}(i=1,2,…n)について、次の式で与えられる R(k)を(光学的な意味での)自

己相関関数という。

自己相関関数については、統計学、情報工学でそれぞれ異なる定義がなされている。 【出現ページ】

II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

常磁性緩和剤 不対電子を含む原子または分子で核の緩和に寄与する。分子状酸素は最も身近な常磁性緩

和剤である。特にプロトン緩和は常磁性物質の影響を強く受ける。 【出現ページ】

I-(2)-4 マイクロ・ナノバブル水の動態解析と特性解明

上新粉 上新粉とは粳米を洗米し乾燥した後、製粉された米粉で、和菓子などに使用されている。 【出現ページ】

I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発

蒸発乾燥法(Emulsification-evaporation method) 本手法は乳化操作およびエマルション液滴内部の溶媒蒸発の操作から構成される。まず、

疎水性の機能性食品成分を有機溶媒(ヘキサン等)に溶解させた試料を高圧乳化により処

理する。その後、エマルション液滴内部の有機溶媒を蒸発除去し、数 10nm サイズのナノ

分散系を作製する。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発

消化液処理(Digestion fluid treatment) 試料を胃腸モデル消化液と混合する処理。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

133

ベシクル/脂質ベシクル(リポソーム)

脂質分子の膜で囲われ、内部に微小な水相を保持した大きさが数 10nm から数 10μm 程度

の閉鎖小胞構造体を指す。 リポソーム(liposome)とも呼ばれ、生理活性成分のキャリアー(担体)として利用・検討

されている。 【出現ページ】

I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明 I-(3)-3 経口摂取されたナノスケール食品素材の免疫学的応答性の解析

シンチレータ

電離放射線を可視光に変換する材料。 発光した光をシンチレーション光と言い、光電子増倍管等と組み合わせることにより測定

する。固体だけでなく液体やガスも存在する。 【出現ページ】

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

振動分光法 分子は、構成原子、立体構造および分子間相互作用によって特徴付けされる分子に特徴的

な複数の振動状態(振動モード)を持つ。ある振動モードに対する振動数を ν とすると、

分子振動によって双極子モーメントが変化する場合には振動数 ν の光を吸収するが、変化

しない場合であっても照射された光の振動数±ν の振動数の光が散乱される(ラマン散乱)。

分子振動の振動数は赤外・近赤外領域にあり、分子による光吸収やラマン散乱の強度を光

の振動数(波数)、波長毎に計測した振動スペクトルを測定することにより、分子種の同定

や分子間相互作用を解析するのが振動分光法である。 【出現ページ】

II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

134

ゼータ電位(ζ電位)

液中の微細物質表面の荷電状態を示す指標。微細粒子は、表面をとりまく反対荷電の粒子

を伴って移動するが、その移動面(滑り面)における電位をゼータ電位(ζ 電位)と呼ぶ。 【出現ページ】

I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析

水動態 水の動く状態。食品中の水の動態を観察することにより食品素材の浸透や拡散を観察する。 【出現ページ】

研究概要 II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

損傷デンプン 割れや傷がある澱粉粒のこと。 【出現ページ】

I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発

Page 135: 食品ナノテクノロジープロジェクト · 粒子径数10nm 程度のナノエマルションの作製を行う。気体系素材については、オゾンや酸素 等を含む10μm~1μm

食品ナノテクノロジープロジェクト

135

タ行

単分散 粒子のサイズ分布が狭いこと。 【出現ページ】

I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明 II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

超音波方式 超音波を用いた MB の作製方式。界面活性剤を使用することによって、比較的安定な MBが作製される。攪拌方式と比べて高い MB 作製効率と MB 安定性が得られる。 【出現ページ】

I-(4)-3 マイクロ・ナノバブル水の高精度製造と特性機構の解析

超微粒子 直径が 100nm 以下の微小な粒子。 【出現ページ】

研究概要

低温臼式製粉技術・低温臼式粉砕機 上下2枚の金属臼の間に米、小麦、そばなどの穀類などを供給して一回挽きで微粉砕する

製粉方法。 熱伝導率の良い金属臼を電子冷却することにより、粉砕部の温度上昇が少なく粉焼け臭が

発生しにくい。また、臼の狭い隙間で製粉が行われるため、酸化による異臭が発生しにく

い。上下臼の間隔は、0.01mm 単位で調整でき、平均粒径の異なる全粒粉を再現性良く製

造できる。製造された穀粉は、十割そば、小麦全粒粉パン、米粉パン等に利用できる。 【出現ページ】

I-(1)-1 ナノスケール加工の臼式製粉技術による穀類等の低温超微粉砕化技術の開

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食品ナノテクノロジープロジェクト

136

低温成長 GaAs ダイポール

代表的な 3-5 族化合物半導体である GaAs を比較低低温(~200℃)で成長させることで適

当な電気伝導性を有した薄膜結晶に、対抗電極をパターンしたもの。 テラヘルツ波の発生、および検出器として用いられる。 【出現ページ】

II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

テラヘルツ波/テラヘルツ分光・イメージング 周波数が 100GHz(0.1x1012Hz)から 100THz の波長を有する電磁波をテラヘルツ波とい

う。 この電磁波を用いて、物質の状態を計測することをテラヘルツ分光、物質の形状を計測す

ることをテラヘルツイメージングという。 【出現ページ】

II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

動的光散乱法 ブラウン運動をする粒子の集合体により散乱される光強度の経時変化を捉えて粒子径や分

布を求める方法。 【出現ページ】

I-(2)-4 マイクロ・ナノバブル水の動態解析と特性解明

等電点 アミノ酸は両性電解質であり、溶液の pH に応じた電荷を持つ。 タンパク質は20種類のアミノ酸の組合せで構成されるため、タンパク質全体の電荷は含

まれるアミノ酸によって決定されるが、タンパク質の電荷が全体として打ち消される pHのことを等電点という。 【出現ページ】

II-(1)-3 走査型プローブ顕微鏡による食品ナノ粒子の動態解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

137

ナ行

ナノインプリンティング法 ナノメートルサイズの凹凸によって形成される構造を、金型(モールド)によって高分子

材料などの表面に効率的に形成する手法。 【出現ページ】

II-(1)-2 走査型プローブ顕微鏡によるナノスケール食品計測評価技術の開発 II-(2) ナノテクノロジーによる食品素材の新機能解明 II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

ナノ流路/マイクロ流路 ガラス・シリコン・プラスチックなどの基板上に、電子線リソグラフィー・光リソグラフ

ィーおよびドライエッチング・湿式エッチングなどの先端加工技術により作製した幅 10~1,000nm 程度の流路構造のことをナノ流路と呼ぶ。 幅 1μm(1,000nm)~数 100μm の流路をマイクロ流路とよぶ。 広義には、深さのみ 10~1,000nm で、幅 1μm~数 100μm の流路構造をナノ流路と呼ぶこ

ともある。 【出現ページ】

II-(1)-4 マイクロ・ナノ化学システムを用いる単一ナノ粒子分析法の開発

ナノレベルリアルタイム分子イメージング法 ナノレベルの分子イメージングを実時間で行う測定法。 ラジオアイソトープを用い、ナノレベルのイメージング評価を行う。 【出現ページ】

研究概要 II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

2 次元 X 線回折パターン 測定試料から得られた X 線回折線を、入射光に垂直な面内で2次元的に展開して得た回折

パターン。 【出現ページ】

I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

138

乳化圧 乳化時に印可する圧力。 【参考】

予備乳化法(Pre-emulsification) ミキサー等の攪拌機を用いて乳化を行う手法。本手法によって得られるサンプル

はプリミックスとも呼ばれる。 高圧乳化法(High-pressure homogenization)

ナノ素材化技術の一つであり、高い圧力(10~150 MPa 程度)を印可して乳化操

作を行うで液滴を微細化する手法である。通常は、予備乳化法により作製された

プリミックスを供給試料として用いる。

【出現ページ】 I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 I-(3)-2 実験動物および培養細胞を用いたナノスケール食品素材の生体影響評価

乳化剤

乳化能を持つ物質。 一般には両親媒性物質である場合が多い。食品用、化粧品用、工業用といった用途に合わ

せて様々な種類の乳化剤が存在する。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析

熱レンズ顕微鏡 マイクロチップ上の流路に試料粒子を流し、対物レンズで励起光を試料溶液に集光すると、

粒子が光を吸収して熱が放出され、溶媒の屈折率が変化して凹レンズに相当する効果が生

じる。これを熱レンズ効果と称する。このとき、検出光を入射しておくと、熱レンズによ

り光の強度が変化するため、ピンホールを介した検出器で光の強度変化を測定すれば、試

料粒子が通過したことを検出できる。 励起光の減少分を測定する通常の分光光度法に比べ、熱レンズ顕微鏡配置でプローブ光の

増減を測定する方が、原理的に 100 倍以上高感度である。 【出現ページ】

II-(1)-4 マイクロ・ナノ化学システムを用いる単一ナノ粒子分析法の開発

Page 139: 食品ナノテクノロジープロジェクト · 粒子径数10nm 程度のナノエマルションの作製を行う。気体系素材については、オゾンや酸素 等を含む10μm~1μm

食品ナノテクノロジープロジェクト

139

ハ行

ハンマーミル 回転するハンマーによる機械的衝撃で粉砕する装置。 【出現ページ】

I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発 I-(4)-1 ナノ構造化食品の保存と品質安定性

光硬化性樹脂

光エネルギーによって、液状から固体に変化する合成有機材料を光硬化性樹脂。 光硬化性樹脂内にレーザー光の微少なスポットを走査させることで、立体的な形成物を高

精度に作製することもできる。 【出現ページ】

II-(1)-1 食品ナノスケール観察のための走査プローブ顕微鏡用プローブ技術の開発

ファイバープレート 数 μm の光ファイバを束にした光学デバイス。ファイバーオプティクプレートとも呼ばれ

る。 【出現ページ】

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明

フォトンカウンティング 微弱光において光の数を計測すること。電子増倍機能を有する機器により計測する。 【出現ページ】

II-(2)-1 水動態のナノスケールイメージング技術の開発と食品素材の機能発現機構

の解明 II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

不均一結晶化反応

結晶化する物質以外に、容器の壁や不純物、あるいは結晶核形成を促進する反応性の何ら

かの物質によって引き起こされる結晶化の反応。 【出現ページ】

I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析

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食品ナノテクノロジープロジェクト

140

フラーレン

炭素原子からなる球状分子。 炭素数 60 個で形成され、サッカーボールと同様の構造をした C60がよく知られている。 【出現ページ】

研究概要

フラボノイド 化学構造としてフラバンを基礎骨格とした有機化合物の総称。 植物などに含まれ、抗酸化性や抗アレルギー性などの生理活性を有する物質が多く存在す

る。 【出現ページ】

I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明 I-(3)-3 経口摂取されたナノスケール食品素材の免疫学的応答性の解析

ブレークダウン 糊化曲線における最高粘度と最低粘度の差のこと。 【出現ページ】

I-(1)-2 ジェットミル等による食品素材からの微粉体素材の製造技術の開発

ブロックレット/ブロックレットモデル 澱粉粒は年輪のような同心円の層状構造を持っており、最近の電子顕微鏡や原子間力顕微

鏡観測の結果から、更にその層は 10~500 nm の大きさをもつブロックレットという塊が

多数集まって形成されていると考えられている。 ブロックレットモデルは、いくつかあるデンプンの構造モデルのうちの一つで、現在最も

支持されているモデルである。 ただし、ブロックレットの内部構造や、層内、層間のブロックレット間がどうなっている

など未だわかっていない点が多く残されている。 【出現ページ】

II-(1)-2 走査型プローブ顕微鏡によるナノスケール食品計測評価技術の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

141

分散相

エマルションに分散している微小液滴の素材。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明

分配係数 平衡状態にある隣接する2つの相の間で、着目する物質が各相にそれぞれどの程度分配し

て存在するかを、各相の着目物質の濃度の比として表したもの。 例えば、水と油の2相が隣接する系に、どちらの相にも溶解する物質を添加して平衡化し、

各相の濃度を求めてその比を求めたものが分配係数となる。 【出現ページ】

I-(2)-1 ナノ食品素材の物理化学特性の解明

放射光 X 線マイクロビーム回折法 放射光源から得られる強力な X 線を数 μm 程度の細いビームに絞り込み、その細いビーム

を使って試料の局所的な微細構造を解析する方法。 【出現ページ】

I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析

ボウタイ型アンテナ 電極が蝶ネクタイ(ボウタイ)の形状をした金属パターンを有するアンテナ。 【出現ページ】

II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

保持率(Emulsifier) 供給物質があるプロセスを経た後に保持されている割合。 ここでは、ナノ分散系に内包されている機能性脂質である β-カロテンの量が胃腸消化によ

って変化した割合を示す指標として用いられている。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

142

マ行

マイクロ・ナノ化学システム

小さなチップ上に、μm・nm サイズの流路と分析システムを搭載し、マイクロ・ナノ空間

に特有の性質を利用して、化学反応、分離、精製、検出などを行なう装置。 【出現ページ】

II-(1) 食品素材のナノスケール評価技術の開発 II-(1)-4 マイクロ・ナノ化学システムを用いる単一ナノ粒子分析法の開発

水の構造

常温では、水分子(H2O)が水素結合(-OH…O)によって会合し、液体状態の水として

存在している。水の構造を規定している水素結合は、極めて短い時間で生成と消滅が繰り

返されているが、液体中には氷類似の四面体構造を持つ分子集団と比較的自由な(水素結

合が緩い)分子が混在していると考えられている。水素結合数は、温度や溶解している化

学物質との相互作用により変化し、水素結合数と粘度との間には正の相関がある。水素結

合状態は、水を含む系全体の物理化学的特性に影響を与えることが多く、タンパク質から

惑星の構造に至る広範な空間的尺度において影響を与えていることが知られている。また、

ナノ領域の空隙にある水は通常の水と異なる特性を有することが知られており、ナノ構造

を人為的に構築することにより、物質中の水の状態を改変する試みがなされている。水素

結合状態を直接測定する手法としては、水分子の振動スペクトルや X 線吸収分光法が提案

されている。 【出現ページ】

II-(2) ナノテクノロジーによる食品素材の新機能解明 II-(2)-2 エバネッセント光による水のナノスケール構造解析手法の開発

免疫 免疫とは「自己」と「非自己」を区別して「非自己」を排除するシステムであり、特に生

体内で病原体や生体異物を認識して排除することにより生体を病気から保護する多数の機

構が集積した一大機構。 【出現ページ】

I-(3)-1 ナノスケール食品素材の免疫学的安全性の解析と評価

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食品ナノテクノロジープロジェクト

143

ヤ行

薬物代謝酵素

医薬品や食品成分など、外から生体に入った物質を体内で体外に排泄することのできる形

に変化させる様々な酵素。 物質を反応しやすい形に変える第I相酵素と、第I相酵素の作用を受けた物質を水溶性の

物質に変えて尿や胆汁に排泄しやすくする第 II 相酵素がある。 これらの反応は、生体外来の物質を解毒、代謝する主要な経路であるが、反応しやすい形

になった物質によっておこる二次的な毒性の原因になることもある。 【出現ページ】

I-(3)-2 実験動物および培養細胞を用いたナノスケール食品素材の生体影響評価

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食品ナノテクノロジープロジェクト

144

ラ行 ラメラ面

脂質や高分子などの長鎖状分子の間で働く分子間相互作用の異方性によって形成された、

長い分子同士が横に並んだ分子面。 【出現ページ】

I-(2)-3 高機能物性を有するナノ食品素材の物理化学特性の解明とナノ領域発現機

構の解析

量子ドット増強テラヘルツ分光 量子ドット(直径数 nm 程度の微粒子)に電磁波(テラヘルツ波)を照射し特異なプラズ

マ振動を励起することで信号増強を行うことで、微弱な信号検出を可能とする。 【出現ページ】

II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

レーザー顕微鏡 レーザー光を試料に照射し、その透過光または散乱光をもとに画像を得る装置のこと。 【出現ページ】

I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明

冷凍変性 冷凍(凍結)により、あるいは冷凍保管中に魚肉タンパク質などが変化して、品質が劣化

すること。 【出現ページ】

I-(1)-3 ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発

レオロジー 物質の流動と変形を扱う科学。物質に変形を与えた時に発生する応力を測定する、あるい

は逆に物質に力を与えた時に発生する変形を測定し、粘度、弾性率などの力学的特性値を

算出する。 【出現ページ】

I-(4) 食品素材の品質安定性の解明 I-(4)-2 液体・固体粒子の物性解析とナノスケール界面・構造制御による高機能化

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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連続相

エマルションの分散している微小液滴の周囲に存在する液体。 【出現ページ】

I-(1)-4 抗酸化ナノ食品素材の製造技術の開発 I-(1)-5 ナノスケールチャネルの製作と微細空間特性の解明

ロックイン同期 信号の入力と検出の位相(タイミング)を合わせることにより、無秩序な信号ゆらぎ・雑

音(ホワイトノイズなど)の成分を取り除いて S/N 比を高めること。 【出現ページ】

II-(2)-3 ナノスケール食品素材評価のための量子ナノドット増強テラヘルツ分光法

の開発

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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よくある質問

食品のナノテクノロジーに関する一般的な質問を集めました。答えることが難しい質問も含まれていま

すが、発展中の科学技術である食品ナノテクノロジーの現状の姿を理解していただくため、そのような

質問に対しても率直に答えています。

定義

Q.ナノとは何ですか? 国際単位系(SI)では、基本単位(例えば、m;長さ、s;時間、A;電流、など)の前

に、文字 n(読みはナノ)を付けると、10-9(10 億分の 1)を表す接頭辞(補助的な単位)

となります。基本単位だけでは非常に大きな数値や非常に小さな数値を扱わなければいけ

ない場合があるので、その不便さを解消するために接頭辞を用いてもよいことになってい

ます。 転じて、日常生活で非常に小さいことを表すときにも使われることがあります。

【接頭辞の例】

10-12: p(ピコ)

10-9 : n(ナノ)

10-6 : μ(マイクロ)

10-3 : m(ミリ)

103 : k(キロ)

106 : M(メガ)

109 : G(ギガ)

1012 : T(テラ)

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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Q.ナノテクノロジーとは何ですか? ナノスケールのような小さな世界では、私たちが通常目にするミリメートルからメート

ルスケールの大きな世界とは、かなり違った現象が見られます。本プロジェクトで新たに

開発した低温製粉装置を使って製粉した微細小麦全粒粉(120)で、非常に滑らかな食感で

おいしい超多加水全粒粉パンを作ることができました。また、10 ミクロン程度に微細化し

た魚肉を使用して、魚肉加工品の粘性を向上させるなどの新しい技術も生まれています。 微細化することで現れる様々な性質を私たちの生活に役立てるために、微小世界におけ

る物理化学法則の解明、物質の微細化・加工技術や微細化した物質(ナノ粒子)の利用技

術の開発、さらに安全性確認なども含めて、総合的にナノテクノロジーと呼んでいます。

ナノテクノロジーは狭い分野に限定されるのではなく、あらゆる産業や科学分野の発展に

欠かせない基盤技術だと認識されています。

図 119 低温製粉装置とそれで製粉した小麦全粒粉の粒度分布

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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Q.ナノ食品とは何ですか?具体的な例を挙げて説明してください。 食品に限らず、「ナノ」という言葉を使って売り出している製品について、下記のウェブ

サイトがリストを作成しています。

独立行政法人産業総合研究所・化学物質リスク管理研究センター

ナノテクノロジー消費者製品一覧(注)

The Woodrow Wilson International Center for Scholars

Nanotechnology Consumer Products Inventory

Nanotechnology Product Directory

これらのページを見ると、現状は、ナノテクノロジーを使って高機能を付加したサプリメ

ントなどが多いようです。詳細はこれらのページをご覧ください。

(注)このリストに関して、次の注意書きが付いています。 DISCLAIMER(免責事項):このインベントリーは(独)産業技術総合研究所(AIST)化

学物質リスク管理研究センター(CRM)が編集したものです。この中でとりあげた商品等

は、ナノテクノロジーの日本社会への浸透度合いを測るための情報提供のみが目的であり、

これらの製品やサービス、あるいはそれらを製造・販売している企業を推薦したり批判し

たりすることを意図したものではありません。また、製造・販売元へのリンクを張ってあ

りますが、それらのリンク先における記述内容の正確さや、製品やサービスに起因する利

便性や安全性にはなんら責任を負いません。製品やサービスに関する商標や写真を利用し

ていますが、それらの使用は製品を特定することのみを目的としたものです。

Q.食品のナノ加工とは具体的には何をするのですか? 食品素材をナノサイズ化して、新たな特性をもつ食品ないし食品素材を創造することを

目指します。但し、本プロジェクトの研究では、食品の場合にはナノサイズまでの微細化

をしなくとも、すでに 20 〜 30 μm 程度のサイズで、新たな性質をもつ食品が開発でき

ることがわかってきました。例えば、30 μm 程度の全粒粉を使用したパンでは、前記の

ように極めて滑らかな食感を持つ全粒粉パンが製造できます。そのため、本プロジェクト

では、ナノ領域だけでなく、数十μm 程度の範囲までも研究対象とします。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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Q.従来の食品の中にナノ食品と言ってもよい物はなかったのですか?

例えば、牛乳の脂肪球の大きさは 100 nm〜10μm、同じく牛乳のカゼインミセル(牛

乳のタンパク質の 80%を占めるカゼインからなる球状粒子)の大きさは数 nm〜300 nm程度で、天然のナノ食品といって良いでしょう。また、シクロデキストリンという天然の

環状分子は、香辛料などの揮発成分を保持する目的で広く使用されています。

Q.無機材料のナノテクノロジーと、食品のナノテクノロジーの違いは何ですか? 無機材料のナノテクノロジーは、すでに90年代から実用化され、半導体及びそれを利

用したコンピュータ、携帯電話、映像機器などの電子機器類、各種センサ類などがすでに

実用化され、日常生活中で使用されています。 一方、食品分野でのナノテクノロジーは、まだ歴史が浅いですが、ここ数年の間に鮮度

や風味を保つための容器や包装材料、ナノサイズ化による吸収率向上を狙ったサプリメン

ト等が市販されています。また、マイクロレベルですが、食品の風味保持や食感向上を狙

った製品開発も進行中です。

メリット・デメリット

Q.食品をナノ化するメリットは何ですか?

腸管における吸収性の向上が期待されています。例えば、通常サイズでは大半が消化され

ずに排出されてしまう有用成分のナノサイズ化による吸収向上、疾病などによって吸収力

が低下した方への栄養補給等が考えられます。さらに、微細化による食感の変化、鮮度の

維持、栄養成分の維持、乳濁飲料の透明化、などを利用した新規食品の開発の可能性もあ

り、一部では商品化された例もあります。

Q.そもそもヒトの消化器系が食品をナノ化するシステムだという見方ができます。まえ

もってナノ加工した食品と、そうでない食品を食べたときに、人体に違いは生じるの

でしょうか?

通常食品の場合には、経口摂取した後、ゆっくりと消化が進み、腸管で吸収されること

になります。ナノ食品の消化吸収についての研究データはまだ少ないですが、消化された

のと同程度のサイズの食品が腸に到達するため、吸収率は通常食品に比べて高くなること

が予想されます。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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Q.食品をナノ化することで発生する危険はありませんか?

この問題の結論を出すには、今後の研究を待たないとなりません。しかし、現時点では、

上記の消化器系のナノ化プロセス後と同等程度のサイズの食品分子を吸収することになり

ますから、適切な摂取量を守れば、食品のナノ化そのもので直接の危険が発生することは

考えにくいです。

規制

Q.食品で使用される「ナノテク」や「ナノ」という言葉に、法律的な問題や規制はない

のですか? ナノテクあるいはナノという言葉に関して、現在、国内の法的規制や食品表示の義務は

ありません。また、外国においてもほぼ同様です。 一方、台湾にはナノマーク制度があり、200 以上の製品が認定されているとのことです

が、その大半は工業製品と思われます。

歴史・現状

Q.「ナノテクノロジー」を初めて提唱した人は誰ですか?

1959 年にリチャード・ファインマン教授がアメリカ物理学会の講演で、ナノの世界では

マクロな世界とは違った性質が現れ、その研究は人類にとって有用であると主張しました。

1974 年に谷口紀男教授が国際生産技術会議で、「ナノテクノロジー」という言葉を使って、

2000 年には加工精度が 1nm 程度になり、そのための総合的な技術開発が必要であると提

案しました。エリック・ドレクスラー教授は、1986 年の著書「Engine of Creations (創造

する機械)」で自己複製可能な分子ナノテクノロジーの概念を発表し、専門家でない人たち

にも衝撃を与えました。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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Q.ナノテクノロジーを推進した技術にはどのような物がありますか?

ナノテクノロジーは様々な技術の集合で、どれが特別重要かを決めるのは困難です。こ

こでは、原子レベルの構造を観察したり、操作したりすることができる、走査型プローブ

顕微鏡(SPM)について簡単に紹介します。 ゲラルド・ビニッヒ博士とハインリッヒ・ローラー博士が 1981 年に走査型トンネル顕微

鏡(STM)を発明し、物体表面の原子配列を見ることができるようになりました。STM は探

針を走査しながら物体表面の間のトンネル電流を計測して、物体の表面形状を原子レベル

で測定します。ゲラルド・ビニッヒ博士は、トンネル電流の代わりに原子間力を用いた、

原子間力顕微鏡(AFM)を 1986 年に発明し、金属以外の物質も観察できるようにしました。

STM や AFM のように、探針を走査して物体表面の形状や状態を計測する顕微鏡を総称し

て、SPM と呼んでいます。 ナノテクノロジーが意識されてから発見された物質として、フラーレン(1984 年にハロル

ド・クロトー教授、リチャード・スモーリー教授、ロバート・カール教授が発見した炭素

60 個からなる球形の分子)やカーボンナノチューブ(1991 年に飯島澄男博士が発見した

グラファイトを丸めた直径数 nm の筒状分子)があります。これらの分子は現在 SPM を

用いて観察できるようになりました。 1989 年にドン・アイブラー博士が STM を使って Xe 原子を 1 個ずつ移動させ思い通りに

並べることに成功しました。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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Q.ナノテクノロジーに日本はどの程度研究費を使っていますか?

総務省による平成 20 年科学技術研究調査のデータを基に、日本における研究主体と研究

分野別に使用された研究費を図 120 に示しました。第3期科学技術基本計画(平成 18 年

度から 22 年度)では、「ナノテクノロジー・材料」(9270 億円)が「ライフサイエンス」

(2 兆 6900 億円)、「情報通信」(3 兆 1510 億円)、「環境」(1 兆 770 億円)と並んで、重

点推進 4 分野に指定されていますが、他の 3 分野に比べると研究費は少なめです。特に、

「ナノテクノロジー」(2260 億円)に限定すると、その少なさが目立ちます。しかし、将

来の科学技術インパクトと社会経済インパクトはともに高いと判断されているため、今後

も重点的に研究開発資源が配分されると思われます。

図 120 平成 20 年科学技術研究調査に基づく特定目的別使用研究費

Q.ナノテクノロジーを使った食品にはどのような物がありますか?

ナノサイズ化されたアスタキサンチンやココア、乳酸菌や海藻抽出物、様々なビタミン

類、ヒアルロン酸やコラーゲン等に加え、主にサプリメント用途で、プラチナ、金、マグ

ネシウム、カルシウム、銅、イリジウム等も使用されています。現時点では、食品への用

途はまだ少なく、過半数はサプリメント製品です。以下で、ナノサイズ食品などの例が見

られます。

http://www.nanotechproject.org/inventories/consumer/ http://staff.aist.go.jp/kishimoto-atsuo/nano/index.htm

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食品ナノテクノロジープロジェクト

153

未来

Q.ナノテクノロジーによって、これまで食品として利用できなかった資源が食品になる

可能性がありますか?

ナノサイズ化による吸収率向上等により、これまで利用できなかった資源が食用になる

可能性はあります。ただし、これまで食経験がなかった食材を、食用とする場合には、そ

の安全性等について充分な検討を行なう必要があります。また、新規食品の場合には、食

品衛生法などに照らして認可を得るなどを手続きが必要です。

Q.ナノテクノロジーによって、これまでの食材がよりおいしく安全に食べられる可能性

がありますか?

賞味期間の延長や風味の維持・向上を目的に、ナノテクノロジーを応用した容器・包装

の開発が進められており、その一部は実際に利用されています。食品そのものでは、まだ

試験段階ですがナノ及びマイクロテクノロジーによって食品の食感が向上したり、保存期

間の延長が可能になった例もあります。ただし、食品は、多種多様な材料から構成されて

いますので、上記の例が全ての食品にあてはまる訳ではなく、それぞれ個別の検討が必要

でしょう。

Q.ナノ食品を食べ続けると、味覚が変化するなど、人体に影響は出ませんか?

味覚は、舌の味覚受容細胞を食品が刺激することによって感知しますが、このとき細胞

は分子レベルの物質を受容していますので、味覚に関しては、ナノサイズ化されていても

通常の食品と変わるところはないと思われます。

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食品ナノテクノロジープロジェクト

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農林水産省委託研究プロジェクト

「食品素材のナノスケール加工及び評価技術の開発」

http://nfri.naro.affrc.go.jp/yakudachi/foodnanotech/

平成 22 年 8 月 20 日作成