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都市とITとが出合うところ 福田知弘 大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 准教授 建築・都市とIT(情報技術)とは一見遠く離れた別々の分野のように思えなくもない。しかし、情報社会の時代となり、 建築・都市とITとは、計画、設計、施工、運用の各フェーズにおいて、互いの存在をますます無視できなくなっている。 本連載では、都市とITとの両者が出合うところや課題について、魅力的な国内外の各地をぶらりと街歩きしながら考えてみよう。 第58回 VRサマーワークショップ イン ウェリントン (1) 冬のサマーワークショップ 2019年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 昨年を振り返れば、VR/AR/MR(人工現実/拡 張現実/複合現実)、BIM、コンピュテーショナルデ ザイン、i-Construction、AI(人工知能)、デジタル ツィンなどの話題と接する機会は明らかに増えたよう に 思 う。 ま た、 継 続 的 に 参 加 し て い る CAAD (Computer-aided Architectural Design)分野の 論文投稿は国際スケールで見てここ数年飛躍的に増え ている。 2018年の夏、恒例のVRサマーワークショップに 参加した。世界各国からの建築・土木・都市計画系 VR研究者による「World16」のメンバーが最先端の VR活用について議論する研究会であり、2008年か ら続いている。 今年は、World16の一人、マーク・アウレル・シ ュナベル(Marc Aurel Schnabel)氏が教鞭をとる、 ビクトリア大学ウェリントン(ニュージーランド)で 開催することになった。南半球で初めてのサマーワー クショップであり(南半球の7月は真冬であるが 笑)、 6か国から約30名が集まって行われた。2回に分けて ご紹介しよう。 ウェリントン ニュージーランドは、日本のような島国であり、二 つの大きな島(北島、南島)と多くの島々からなる。 イギリス連邦王国16ケ国の一国。オーストラリアの すぐ隣にありそうな印象だが、実は2000kmも離れ ている。総人口は約470万人であり、ヒトよりもヒ ツジの方が圧倒的に多い。主要都市は、オークランド、 クライストチャーチ、そして首都ウェリントンである。 ウェリントンは北島の南西端に位置し、北島と南島 を分けるクック海峡に面した天然の良港を有する。緯 度は南緯41度であり、北緯でいえば青森県むつ市、 イスタンブール、ローマの南付近に相当する。人口は 郊外を含めて約40万人である。 今回、ウェリントンに滞在したのは7月上旬。日本 でいえば真冬に当たるが、気温は10℃であり、思っ たほど寒くはなかった。時差は日本より3時間早い(サ マータイムは+4時間)。2018 FIFAワールドカップ の決勝トーナメントの頃であり、日本であれば深夜に キックオフであるが、ウェリントンでは朝6時に始ま るとあって朝食会場は盛り上がっていた。 ウェリントンは、中心部がコンパクトで歩いて観光 できる街。海と山があって自然が豊か。また、世界で も有数のコーヒーの街。フラットホワイトはよくいた だいた。 DAY1 朝から、ビクトリア大学ウェリントンのメイン、ケ ルバーンキャンパスにある、テ・ヘレンガ・ワカ・マ ラエへ。マラエとはニュージーランドの先住民マオリ 族の集会施設であり、大学の施設である。ケルバーン キャンパスのメインストリートにあるゲートをくぐる と、緑あふれる中庭があり、その前面にマラエは建つ。 入り口で靴を脱ぎ、彫刻が施された建物内部に入る。 まず、「ポフィリ」と呼ばれる歓迎の儀式。その中 で執り行われた、ホスト(ビクトリア大学ウェリント ンのメンバー)とゲスト(World16とスポンサー企 業フォーラムエイトのメンバー)の間との挨拶「ホン ギ(額と鼻を軽くこすり合わせる)」は貴重な体験で あった。 そして、フォーラムエイト代表取締役 伊藤裕二氏、 連 載 建築の視点 2 2 MACHINAMI 2019. Jan・Feb

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都市とITとが出合うところ福田知弘 大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 准教授

建築・都市とIT(情報技術)とは一見遠く離れた別々の分野のように思えなくもない。しかし、情報社会の時代となり、建築・都市とITとは、計画、設計、施工、運用の各フェーズにおいて、互いの存在をますます無視できなくなっている。本連載では、都市とITとの両者が出合うところや課題について、魅力的な国内外の各地をぶらりと街歩きしながら考えてみよう。

第58回VRサマーワークショップイン ウェリントン (1)

冬のサマーワークショップ

 2019年もどうぞよろしくお願い申し上げます。 昨年を振り返れば、VR/AR/MR(人工現実/拡張現実/複合現実)、BIM、コンピュテーショナルデザイン、i-Construction、AI(人工知能)、デジタルツィンなどの話題と接する機会は明らかに増えたように 思 う。 ま た、 継 続 的 に 参 加 し て い るCAAD

(Computer-aided Architectural Design)分野の論文投稿は国際スケールで見てここ数年飛躍的に増えている。 2018年の夏、恒例のVRサマーワークショップに参加した。世界各国からの建築・土木・都市計画系VR研究者による「World16」のメンバーが最先端のVR活用について議論する研究会であり、2008年から続いている。 今年は、World16の一人、マーク・アウレル・シュナベル(Marc Aurel Schnabel)氏が教鞭をとる、ビクトリア大学ウェリントン(ニュージーランド)で開催することになった。南半球で初めてのサマーワークショップであり(南半球の7月は真冬であるが 笑)、6か国から約30名が集まって行われた。2回に分けてご紹介しよう。

ウェリントン

 ニュージーランドは、日本のような島国であり、二つの大きな島(北島、南島)と多くの島々からなる。イギリス連邦王国16ケ国の一国。オーストラリアのすぐ隣にありそうな印象だが、実は2000kmも離れ

ている。総人口は約470万人であり、ヒトよりもヒツジの方が圧倒的に多い。主要都市は、オークランド、クライストチャーチ、そして首都ウェリントンである。 ウェリントンは北島の南西端に位置し、北島と南島を分けるクック海峡に面した天然の良港を有する。緯度は南緯41度であり、北緯でいえば青森県むつ市、イスタンブール、ローマの南付近に相当する。人口は郊外を含めて約40万人である。 今回、ウェリントンに滞在したのは7月上旬。日本でいえば真冬に当たるが、気温は10℃であり、思ったほど寒くはなかった。時差は日本より3時間早い(サマータイムは+4時間)。2018 FIFAワールドカップの決勝トーナメントの頃であり、日本であれば深夜にキックオフであるが、ウェリントンでは朝6時に始まるとあって朝食会場は盛り上がっていた。 ウェリントンは、中心部がコンパクトで歩いて観光できる街。海と山があって自然が豊か。また、世界でも有数のコーヒーの街。フラットホワイトはよくいただいた。

DAY1

 朝から、ビクトリア大学ウェリントンのメイン、ケルバーンキャンパスにある、テ・ヘレンガ・ワカ・マラエへ。マラエとはニュージーランドの先住民マオリ族の集会施設であり、大学の施設である。ケルバーンキャンパスのメインストリートにあるゲートをくぐると、緑あふれる中庭があり、その前面にマラエは建つ。入り口で靴を脱ぎ、彫刻が施された建物内部に入る。 まず、「ポフィリ」と呼ばれる歓迎の儀式。その中で執り行われた、ホスト(ビクトリア大学ウェリントンのメンバー)とゲスト(World16とスポンサー企業フォーラムエイトのメンバー)の間との挨拶「ホンギ(額と鼻を軽くこすり合わせる)」は貴重な体験であった。 そして、フォーラムエイト代表取締役 伊藤裕二氏、

-連 載 - 建築の視点 2

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Page 2: 都市とITとが出合うところy-f-lab.jp/fukudablog/files/1901machinami_FukudaFinal.pdfトークが行われた。さらに、ビクトリア大学ウェリン トン コンピューテーショナル・メディア・イノベー

福田 知弘(ふくだ ともひろ)1971年兵庫県加古川市生まれ。環境設計情報学が専門。大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻博士後期課程修了、博士(工学)。大阪市都市景観委員会 専門委員、神戸市都市景観審議会委員、吹田市教育委員会委員、CAADRIA

(Computer Aided Architectural Design Research In Asia) 学会元会長ほか公職兼務。NPO法人もうひとつの旅クラブ理事。「光都・こうべ」照明デザイン設計競技最優秀賞受賞。主な著書に「はじめての環境デザイン学」など。ふくだぶろーぐは,http://fukudablog.hatenablog.com/

ビクトリア大学ウェリントン 建築・デザイン学部長 マーク・アウレル・シュナベル氏よりオープニング・トークが行われた。さらに、ビクトリア大学ウェリントン コンピューテーショナル・メディア・イノベーションセンター(CMIC)ディレクター 安生健一氏

(Prof. Ken Anjyo) が「CG: Computational Media for Industries(産業分野のためのコンピュータメディア)」と題して基調講演した。ウェリント

ンは映画産業が盛んであり、安生氏は、昨年12月に東京で開催されるSIGGRAPH Asia 2018のカンファレンス・チェアも務められた。マラエの中で行われたこれらのイベントは、普通の会議室とは異なり、神聖な雰囲気の中で行われた。 バスに乗って、建築・デザイン学部があるキャンパス・テアロキャンパスへ。

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