いわゆる五十肩(肩関節周囲炎)の話 内科 大塚伸昭 · 肩 の。...
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いわゆる五十肩(肩関節周囲炎)の話 文責 内科 大塚伸昭
私自身、約 10年前に左肩(この時は 55才)の五十肩に罹患した。昨年は5月から右肩の肩関節周囲炎
(六十肩という事になるが)に罹患した。いずれも完治までには6ヶ月程度はかかった。
私の経験を踏まえて今回は肩の解剖や肩関節周囲炎についてイラストを使って説明する。
肩がどの方向にも動くのは肩甲骨の関節窩が浅いため。逆に脱臼も起こしやすい。
図1
図2
図3
肩甲骨
上腕骨
鎖骨
肩甲骨
上
腕
骨
左図(図1)は肩関節を正面から、右図(図2)
は肩関節を背面から見たイラストである。下図
(図 3)の股関節と比べて分かるように肩関節は
肩甲骨の関節窩(図1の )が小さく上腕骨頭
はかろうじて収まっているだけである。
上腕骨頭
関
節
窩
では何故、このような小さな関節窩に上腕骨頭が
収まり関節がどの方向にも動くかというと、関節
包に包まれて、腱や筋肉が支えているから。
上腕が脱臼しやすい理由は肩のイラストを見れば
理解しやすい。
大
腿
骨
左図(図3)をみると股関節の関節窩は大腿囲骨頭
をすっぽり覆っていることが理解できる。
大腿骨頭
症状は肩関節付近の上腕の痛みから始まる。筋肉痛のような感じである。初めは関節の運動制限は殆ど無い。その後、
強い肩関節の運動制限が起こり(凍結期)、少しでも肩を動かすと痛い。この時期には無理に動かす必要は無い。
何といっても寝ている時が大変!少しでも寝返りをうつと激痛!そのうちに少しずつ肩関節が動くようになる時期が来
る(解凍期)。この時期になれば、無理の無い程度で動かす。私の場合は反対側の腕で五十肩のある腕を少しずつ動か
したが、これが一番効果的だった気がする。頭にも手が届かず、背中にも腕が回らないが、時期が来れば直るので焦る
事は無い。2枚目以降のプリントで詳しく解説するが腱(腱板)の断裂などが原因となっている事もあるので、不安な
人は MRI或いはエコーなどの検査を受けても良い。ステロイドやヒアルロン酸の関節注入もあるが、私の場合には殆ど
効果が無かった(55才頃)。痛○湯などといった漢方の類いの CMがあるが、これと類似の漢方成分を服用したが全く効
果は無かった(笑)。
五十肩(肩関節周囲炎)の症状の始まりと経過について;私自身の経験をふまえてのアドバイス
五十肩は英語では frozen shoulder(凍った肩)
烏口突起
肩関節の解剖と五十肩(肩関節周囲炎)
鎖骨、肩甲骨、上腕骨は靱帯で結合している。
肩甲骨の烏口
(うこう)突起
烏口肩峰靱帯
上
腕
骨
烏口鎖骨靱帯 (うこうけんぽう)
肩
甲
骨
の
肩
峰
肩甲下筋
図1 図2
また、上腕骨と肩甲骨の関節部分
(図 1,図 2の で、囲んだ部分)は
烏口上腕靱帯や,関節上腕靱帯で補強さ
れている。(図1 に靱帯は描いてい
ない。)
烏口上腕靱帯
① ②③
左図(図2)の①②③はそれぞれ
①は上関節上腕靱帯
②は中関節上腕靱帯
③は下関節上腕靱帯
である
五十肩(肩関節周囲炎)の一つの原因は関節包(滑液包)内の炎症
図3
鎖骨
肩甲骨
の部分は烏口上腕靱帯や上、中、下関節上腕靱帯で補強
結合しているが、これらは関節包の一部が索状に肥厚したも
の。関節包の中には関節がスムーズに動かせるように潤滑油の
ような潤滑液が入っている。下図3に関節包を示す。
① 肩峰下包
② 三角筋下包
肩峰皮下包
肩甲下筋の腱下包
関節包には幾つかあるがこのうち左図(図3)の①肩峰下包
(けんぽうかほう)が重要。この肩峰下包の炎症が下を通る
棘上筋(図 4,5の a)に影響を与える。この棘上筋は主に肩を
横に上げる時に働く(上腕の外転)。
図4 図 5
a)棘上筋 a)棘上筋
a)棘上筋
正常 五十肩
肩峰下包
肩峰下包
肩峰下包の炎症
A腱付着部の炎症
B筋肉の炎症
A
上
腕
二
頭
筋
上
腕
二
頭
筋
大胸筋
大胸筋
上
腕
骨
大
結
節
烏口突起 烏口突起
その他、棘上筋の腱が上腕骨に付着する部位付近での炎症
(図 4,5の A)や三角筋の炎症(図4の B)、或いは上腕二頭筋
(長頭)の腱が肩甲骨付近で付着する部位での炎症(図5C)
などが原因となる。
C
上
腕
骨
小円筋
五十肩(肩関節周囲炎)と症状が似ている肩の病気
例えば下記で説明するが棘上筋断裂はスポーツ選手以外でも高齢になると知らないうちに起こっている
事がある。ただ、医学文献を見ると、私くらいの年齢になると(65才)、仮に断裂を手術しても成績が
芳しくないようなので手術前によく説明を受けておいた方が良いと考える。
棘上筋(腱板)断裂 ①
棘上筋 肩甲骨の肩峰
烏口突起
大胸筋 上
腕
骨
左図 の所で腱板断裂が起こる。棘上筋は肩甲骨棘上窩を起始部として
左図上腕骨(大結節)に付着している。何故、高齢になると断裂しやすい?
腱板は血流がそもそも少ないが、動脈硬化などで血流障害が起こるのも一因
高齢になるまで酷使してきたので腱板も変性(くたびれた!)している。
石灰性腱炎(石灰沈着性腱板炎) ②
棘上筋の腱板 付近の石灰化(カルシウム沈着)が起こる事が原因。
急性期は注射器による石灰吸引やステロイド注入が効果的な事もある。
肩峰下インピジメント症候群 ※インピジメント(impingement)は衝突という意味だが語原はラテン語
で「打ち付ける」という意味。 ③
肩峰下包
棘上筋
関節包 関節包
肩甲骨 肩甲骨 上腕骨頭 上腕骨頭
肩峰下包
上左図(図1)は腕を下げた状態。上右図(図2)は腕を横(水平)に上げた状態を示す。図②は肩峰下包
が肩甲骨の肩峰に衝突している所を示す。その他棘上筋腱板が肩峰に衝突しても同様の症状がある。
インピジメント症候群の肩痛は五十肩と違って腕を上げる(挙上)時や腕を下げる(下降)時に強くなるの
が特徴的。
図1 図2
MRIでは棘上筋腱の肥厚が見られる事
もある。ステロイドの肩峰下滑液包
注入も行われるが、難治の場合は
手術(肩峰下除圧術)を行う。
五十肩(肩関節周囲炎)の炎症とは?
炎症というと白血球が沢山肩関節に集まっているのか?と思う人もいるかもしれませんが、病理組織で
は白血球浸潤は殆ど見られず、線維芽細胞の増殖が見られます。線維芽細胞と言えばコラーゲンを思い浮
かべる人もいるかと思います。コラーゲンの源でもあるわけですが、肩では無く皮膚で沢山出来てくれれ
ば肌の張りも艷やかになるだろうに、と考える人がいるかも知れません。しかし、五十肩の線維芽細胞は
繊維化を引き起こす悪役細胞です。残念!
←線維芽細胞(コラーゲンの前駆物質でもあるのだが、、、。)