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目次 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 1. 生産管理とは・・・・・・・・・・・・・・・ 4 2. ボトルネックへの着目と改善・・・・・・・・ 10 3. 生産計画ルールの見直し・・・・・・・・・・ 15 4. 外注の協力体制の重要性・・・・・・・・・・ 20 5. 作業改善によるムダの発見・・・・・・・・・ 25 6. 5Sの実行と定着・・・・・・・・・・・・・ 28 7. 作業標準の重要性・・・・・・・・・・・・・ 32 8. まとめ 生産管理実践のポイント・・・・・・ 35 【コラム】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37 インダストリー4.0 で中小製造業の生産管理はどう変わる? 【刊行記念対談会】・・・・・・・・・・・・・・・ 40 「内製化の徹底」による生産性向上に向けた コンクリート製品製造業 I 社の取組み ===================================================== 株式会社みどり合同経営 執筆者 澤田兼一郎 (中小企業診断士) 犬飼あゆみ (中小企業診断士) アドバイザー MAB コンサルティング代表 阿部守 (中小企業診断士・一級建築士) 監修者 藤井一郎(中小企業診断士) 今日から実践!基本からの生産管理 ◇中小製造業の生産管理のポイント◇

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目次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21. 生産管理とは・・・・・・・・・・・・・・・ 42. ボトルネックへの着目と改善・・・・・・・・ 103. 生産計画ルールの見直し・・・・・・・・・・ 154. 外注の協力体制の重要性・・・・・・・・・・ 205. 作業改善によるムダの発見・・・・・・・・・ 256. 5Sの実行と定着・・・・・・・・・・・・・ 287. 作業標準の重要性・・・・・・・・・・・・・ 328. まとめ 生産管理実践のポイント・・・・・・ 35【コラム】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37インダストリー4.0で中小製造業の生産管理はどう変わる?

【刊行記念対談会】・・・・・・・・・・・・・・・ 40「内製化の徹底」による生産性向上に向けた

コンクリート製品製造業 I社の取組み

=====================================================株式会社みどり合同経営

執筆者 澤田兼一郎 (中小企業診断士)

犬飼あゆみ (中小企業診断士)

アドバイザー MABコンサルティング代表 阿部守

(中小企業診断士・一級建築士)

監修者 藤井一郎(中小企業診断士)

今日から実践!基本からの生産管理

◇中小製造業の生産管理のポイント◇

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そこで、“今日から実践!基本からの生

産管理”という方針で編集を行い、次の内

容について解説しました。

・ボトルネックへの着目と改善

・生産計画ルールの見直し

・外注との協力体制の重要性

・作業観察によるムダの発見

・5Sの実行と定着

・作業標準の有効性と活用

それぞれの内容ごとに実践事例を紹介

し、改善手法を適用する時のポイントが読

むだけでご理解いただけ、改善のイメージ

を描いていただけるように心掛けました。

特に「ボトルネックへの着目と改善」に

ついては、一般的な生産管理の教科書では

あまり取り上げられていませんが、とても

有効で即効性がある実践的な手法ですの

で、紹介しています。逆に、QC7つ道具

は、中小企業でもすでに広く浸透し、使わ

れていますので今回は省きました。

近年は、アベノミクス効果もあり、円高

から円安に振れたことなど、国内製造業の

業績が回復傾向にあります。しかしなが

ら、当たり前のことですが、外部環境に関

わらず、常に生産性を高めること、原価低

減、在庫管理や外注管理の徹底と工夫は、

事業活動が続く限り取り組んでいく必要が

あります。

皆様ご存じのとおり、昨今のトヨタの業

績回復につながった要因は、徹底した生産

管理を継続してきたものです。それなくし

て、円安局面になったからといって、業績

回復にはなりません。また、何も製造業だ

けではなく、継続した生産管理のしくみを

持つことは、建設業やサービス業など製造

業という業種を超え、業績向上に応用でき

ます(在庫管理や外注管理をイメージして

もらえると良くわかります)。そこで、“今

日から実践!”を中小製造業の経営者や製

造に関わる方に加えて、建設業やサービス

業の他業種の経営者、地域金融機関の方に

も是非ご一読頂き、生産管理の基本知識の

確認と実践への活用のために、ご参考にし

て頂けたら幸いです。

2

はじめに

本書は、私どもみどり合同経営がお届け

しているメールマガジンの 2014年 2月号

~2015年 9月号に連載させていただいた

「今日から実践!基本からの生産管理」を

ベースに編集したものです。

テーマは、中小製造業の生産管理です。

生産管理には、工程管理、動作分析、品質

管理、資材購買管理などの分野があり、そ

れぞれに多くの原理原則や改善手法があり

ます(下表の 25項目ご参照ください)。そ

れらを活用することで、生産性改善、品質

向上、コストダウンに大きな効果をもたら

します。

本書では、このような多くの原理原則や

改善手法の中から中小企業に特に必要とさ

れるものを優先的に取り上げてみました。

まず、中小製造業の特徴としては、

・下請けでの生産を行っていることが多い

・見込生産でなく受注生産で短納期を求め

られることが多い

・現場にはパートさんや派遣社員さんが多

く、社員教育が十分にはできていない

ということがあります。

そのために、生産改善の手法としては、

以下のような視点が大切になります。

(ご参考) 生産管理の原理原則・改善手法 (一般的な生産管理テキストより著者作成)

1. 生産管理とは

2. 生産管理の基本

3. 生産活動の形態

4. 工程管理

5. 生産計画

6. 進度管理

7. トヨタ生産方式(カンバン方式)

8. 制約理論(TOC)による生産方式

9. 運管管理とレイアウト

10. 在庫管理と保管

11. 5S

12. 作業改善

13. 作業標準化

14. 設備保全

15. 原価計算とスループット会計

16. 品質管理とは

17. QC7つ道具

18. QC7つ道具の使い方

19. QC的問題解決

20. 品質保証と ISO

21. クレーム対応

22. 資材・購買管理

23. 外注管理

24. サプライチェーンマネジメント

25. 商品企画・商品開発

は、本書にて取り上げている内容

・理論よりも実践的な内容

(感覚的にも理解できる内容)

・短期間で効果を出せる方法

(改善効果がわかりやすい方法)

・大きな投資を必要としない改善手法

(現場ですぐに実践できる手法)

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■生産管理のいろいろな手法

QC活動、JIT、かんばん方式、シックス

シグマ、TQC、TPM、TOC・・・・読者

の皆さんも、このような名前を聞いたこと

があると思いますし、取り組んでいらっし

ゃる方もおられると思います。多くの会社

が工場の問題を解決するために、このよう

な改善活動に取り組んでいます。

これらは、とても効果的な手法ではあり

ますが、この手法を導入しなければ改善で

きない訳ではありませんし、導入した工場

がすべてうまくいっている訳でもありませ

ん。大切なのは、生産管理の考え方をきち

んと理解した上で、手法を上手に使う事で

す。

本書では、読むだけで生産管理の考え方

が理解でき、「やってみようかな」と思っ

ていただけるように、テーマごとに、基本

的な考え方と実践事例をご紹介してまいり

ます。さっそく具体的なテーマに入ってい

きましょう。

生産性を上げるために

まずは生産性とは何かを考えてみます。

■生産性とは

「生産性」とは、投入量と産出量の比

率で、それによって生産現場の効率を表す

ことができます。投入量に対して産出量の

割合が大きいほど生産性が高くなります。

一般的には、従業者数を投入量とし、生産

数量(または金額)を産出量として測った

「労働生産性」を指します。しかし、パー

ト作業者さんが多い現場や残業が多い現

場、掛け持ちでいろいろな仕事をする方の

多い現場では、従業者数を用いると正確に

評価できませんから、投入量に作業時間を

用いて生産性を確認すると良いでしょう。

つまり、

生産性=「生産量(または金額)」/「作

業時間」 ということになります。

■生産性を上げるためにはどうしたら良い

でしょうか。

生産性を上げるためには、産出量を上げ

るか、投入量(作業時間)を減らすしかあ

りません。売上が伸びている時期は、投入

量の増加を抑えながら産出量を増やせば、

生産性は向上します。しかし、売上が伸び

ない時はどうすれば良いのでしょうか。工

場の生産量は、お客様からの注文量によっ

て決まりますから、必要以上に製品を生産

しても無駄になるだけです。この場合は、

生産性を上げるためには作業時間を減らす

しかないのです。

具体的に生産性を上げるための手順につ

いて考えてみましょう。

(1) 現在の生産性を確認してみましょ

う。

みなさんの職場が工場であれば、月間や

週間の生産数は把握されているはずです

し、作業時間も記録されているはずです。

まずは、現在の生産性を確認してみましょ

う。産出量は、生産数量でも良いし、生産

金額でもかまいません。まずは、現状を把

握することが大切です。そして、可能であ

4

1. 生産管理とは

工場長の悩みを解決する生産管理

工場の生産工程は、「ふたを閉めてスイ

ッチを入れたら、予定の時間に計画した量

だけおいしいごはんが炊き上がる」という

ような単純なものではありません。

お客様の求めるいろいろな種類の注文、

納期、コストに工場の持つ技術・ノウハウ

を駆使して対応しなければなりません。し

かも、他社との競争、海外との競争にさら

され、お客様の要求も厳しくなるばかりで

す。そのため、工場の責任者は日々悩んで

いるのです。

■工場でよくあるいろいろな問題

・現場の整理整頓が行き届いていない。

・不良品が発生する。

・計画通りの生産ができていない。

・納期に遅れる。

・設備の故障やライントラブルが起こる。

・生産コストが下がらない。

読者のみなさんの工場でもこのような問

題が生じていますでしょうか。

■生産管理とは

このような問題を解決するのが、生産管

理です。生産とは、「所定の品質・コス

ト・数量の製品を所定の期間に製作するこ

と」です。つまり、求められる品質

(Quality)、コスト(Cost)、納期

(Delivery)を満たすことが必要です。そ

して、生産管理とは、このような生産活動

を計画・調整して最適化を図ることなので

す。

ラーメン屋でも、おいしくなければお客

様は来てくれませんし、価格が高すぎて

も、待ち時間が長すぎてもお客様は満足し

てくれません。つまり、生産管理とは、工

場のいろいろな問題を解決して、おいしく

て安くて早い商品をつくるために役立つも

のなのです。

■生産の要素とは

そして、その生産活動は、人(Man)、機

械(Machine)、材料(Material)、作業方

法(Method)から構成されます。料理で

言えば、経験豊富なシェフ、良く切れる包

丁や手入れの行き届いた鍋、安くて新鮮な

素材、そして調理方法ということですね。

これらを工夫することで、「おいしく・安

く・早い」が実現できるのです。

生産の要素(4M)

人(Man)

機械(Machine)

材料(Material)

作業方法(Method)

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程がボトルネックとなり、応援人材を入れ

ても生産スピードが思うように上がってい

ませんでした。

■生産工程をよく見て問題を発見

社長から、現場の状況と悩みを伺った

後、班長さんに工程を案内していただきま

した。そして、事務所に戻ると、早速「ど

うでしょうか?」と聞かれました。

「仕上げ工程の皆さんはあまり仕上げの仕

事をしていませんね」

「ええっ、みんな一生懸命に作業している

じゃないですか」

「そうですか、本当に仕上げの作業をして

いますか?」

そして、改善チームの皆さんに「ほんとで

すか?」を何回か繰り返しました。しばら

く、考えていた班長さんが、「そうだ!み

んな積み重ねばっかりやっている」と答え

てくれました。

「そうです!気づきましたね」

仕上げ工程では、コンベアラインに沿っ

て作業者が並び、一人一人が製品接合部の

パテ埋め、中塗り塗装、仕上げ塗装を個別

に行いながら、製品を流していきます。バ

リ取り後の仕掛品がまとまってどんどん流

れてきます。

まずパテ埋め担当者が、積み重なった仕

掛品の山から 1個取り出してパテ埋め作業

をして中塗り工程に流します。中塗り工程

の手前にはすでに仕掛品が滞留していて置

く場所がありませんから、どんどん作業後

の製品を積み重ねます。結局、中塗り作業

者のところにも積み重なって流れてきます

から、中塗り作業者も 1個ずつばらして作

業して同様に積み重ねて次に送ります。

結局、パテ埋めや塗装作業以外に、必ず

ばらしと積み重ねの作業を行わなければな

らないのです。その時間は、一目見ただけ

で、パテ埋めや塗装作業の 1/3を占めてい

ることが分かりました。

「仕上げラインに仕掛品をどんどん突っ込

むから重ねないといけなくなります」

「そして、重ねるから、ばらさないといけ

なくなります」

「積み重ねが当たり前になっていますよ

ね」

「その結果、大切な仕上げ作業の時間が削

られているのです」

「でも、どんどん流さないと遅れるか

ら・・・」

「場所が狭いから・・・」

「そうですか?」

「どんどん流すから、積み重ねて、余計な

時間がかかるんですよ」

「まあ、まずは、積み重ねを禁止にした

ら、どうなるか確認してみませんか」

ようやく改善チームが問題に気づいてくれ

ました。

■「積み重ね禁止」の効果

さて、その効果について見ていきましょ

う。

D社の工程は、材料切断→加工→接着→

6

れば、過去との対比をしてみましょう。ど

うでしょうか、生産性は上がっています

か?このように生産性に関心を持つことが

生産性を上げる第一歩です。

(2) 作業の内容を見直してみましょ

う。

現在の生産性が分かれば、それを上げる

方法を考えましょう。今回は、需要が一定

だと仮定して考えます。そうすると、生産

性を上げるためには作業時間の短縮が必要

になりますね。とはいっても、急いで手を

動かしましょうとか、走って移動しましょ

うということではありません。作業の中身

をチェックして、価値を生まない間接作業

の削減を考えましょう。

間接作業とは、段取りや運搬、積み替

え、手待ちなどで、それ自体は価値を持た

ない作業のことです。原材料への加工や塗

装などは製品に価値をつける作業ですが、

工場内での運搬は生産上の都合で行ってい

るだけで、製品への付加価値は生みませ

ん。ですから、いつも何気なく行っている

すべての作業を良く見て、価値を生まない

作業をリストアップしてみるのです。で

も、これはとても難しいことです。なぜな

ら、働いている人で、自分が今やっている

作業を価値が無いと思って行っている人は

いるはずがないからです。

ですから、作業時間の短縮に取り組むた

めには、冷静にその作業は必要か、もっと

短縮できないか、という視点で見ることが

大切です。無駄な作業が見つかっても、い

ろいろな制約条件のもとで生産を行ってい

る訳ですから、すべてを無くすことはでき

ないでしょう。何を減らせるか、どうやっ

たら作業時間が短くなるか、みんなで検討

してみましょう。少しでも間接作業を無く

すことが出来れば、確実に生産性が上がっ

ているはずです。

「時間・人」当たりの生産性が倍に

なった D社の取り組み今回は、作業内容の見直しで生産性を倍

にした工場の取組みをご紹介します。

■D社の概要

D社は関西の住宅建材メーカーで、パー

ト従業員を合わせて 100名規模の会社で

す。製品は、すべて受注生産です。出荷

は、受注(材料受入)当日が 1割、翌日 6

割、翌々日 2割、それ以降 1割、と非常に

短納期が求められています。お客様の建築

工事工程に合わせて納入しなければいけな

いからです。

工程は、材料切断→加工→接着→バリ取

り→仕上げ→検査 の流れです。切断加工

から接着までは設備による作業が中心で、

設備台数で生産能力が決まりますが、設備

能力に比較的余裕があります。バリ取り工

程以降はパートさんによる手作業が中心で

す。

住宅建築は、季節による需要変動があり

ます。最初に相談を受けた時の社長の悩み

は、需要期に毎日深夜までの残業が続くこ

とでした。特にパートさんによる仕上げ工

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感した後で、台車は必要最小限だけ残し

て、残りは全部倉庫に持っていき、工場内

もスッキリと広くなりました。

■改善の効果

その他にも、「仕上げ作業をする時に塗

料が揃っていない」ことや「工場内の動線

の問題」など、改善チームからの問題提起

もあり、徐々に改善を進めました。

このような改善を進めた結果、「バリ取

り→仕上げ→検査→梱包」の作業におけ

る、作業者一人・1時間当たりの生産本数

は、改善前の 8本が半年後に 12本、1年

後に 14本、2年後には 16本を超えるまで

になりました。生産性は、なんと倍になっ

ていました。

中小企業で、通常の生産業務や作業者の

教育も行いながらの取り組みですから、時

間はかかりましたが、大幅に「生産性」を

向上させることができました。これまで以

上の受注を受けながら、残業時間を大幅に

減らすことができました。

今回の改善のポイントは、付加価値を生

まない間接作業を減らしたことと、出荷順

番通りに材料を投入して、工場内の仕掛品

を減らしたことです。このような改善方法

は、作業のやり方を変えるだけですから、

大きな設備投資は不要です。皆さんの工場

でも使えるのではないでしょうか。

8

バリ取り→仕上げ→検査→梱包 の流れで

した。

このうち、「バリ取り→仕上げ→検査→

梱包」のラインで、問題と指摘した「積み

重ね作業」を禁止にしてみました。

とは言いましても、作業者ごとに作業ス

ピードが異なりますから、積み重ねないと

手待ちになる状況が生じます。その場合

は、後工程を手伝うようにルール化しまし

た。

その結果、各工程の間での積み重ね・積

み下ろしが無くなって、無駄な作業が削減

され、付加価値を生む作業を行う割合が増

えました。また、積み重ねという状態での

滞留が無くなったため、バリ取りを始めて

から製品が梱包されて出てくるまでの時間

(リードタイム)が短くなりました。

改善チームのメンバーも「なるほど」と効

果を実感してくれました。

■生産順番の問題

さて、「バリ取り→仕上げ→検査→梱

包」の工程はスムーズになりましたが、現

場を見ていると接着後の仕掛品がなかなか

減りません。接着後の仕掛品がたくさん台

車に積まれています。後半の工程がスムー

ズになったので、仕掛が減ることも期待し

ていたのですが、何か別の問題があるよう

です。

「なぜこんなに仕掛品を台車に積んだまま

にしているのですか」

「生産を開始した後に生産の優先順位が変

わるのです」

「ええっ?」

生産途中で、順番を入れ替えているた

め、仕掛品が溜まっているのでした。

状況をよく確認してみると、材料の仕分

け場所が狭いため、当日の生産予定の材料

を取り出しやすいものから順番に投入して

いたことが原因でした。材料が大きく、投

入場所での取り回しが大変なため、とにか

く接着工程まで進めて、サイズが小さくな

った段階で台車に載せて、そこで順番を入

れ替えていたのです。しかし、そのために

工場の中は、仕掛品が積まれた台車で一杯

になっていました。

「材料の投入は、出荷の順番にすることが

原則ですよ!材料投入前に優先順位を決め

ることはできますか」

「お客様の引取と遠方への配送分が優先

になります。自社配送分は翌朝にトラック

が出ますから後回しでも大丈夫です」

「では、その順番で投入しましょう」

「でも、材料置き場は狭いし、一人で優先

順位の通りに材料を取り出すのは大変で

す」

「材料投入係を一人増やしてもやる価値

は十分あると思いますよ。それに、仕掛品

が減れば、材料の仕分け場所を広げること

もできますよね。まずは、試しにやってみ

ましょう」

材料投入作業の手間は増えましたが、生

産の流れがさらにスムーズになり、仕掛品

も減ってきました。改善チームが効果を実

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11

もあります。上の例で説明すると、現在、

A工程が都合の良い順番で製品を生産し

て、そのまま後工程に流すと生産能力は表

のようになっているとします。しかし、C

工程の都合の良い順番で生産すると、各工

程の能力が変わる場合があります。仮に、

C工程の都合の良い順番で生産すること

で、C工程での準備や段取替時間を減らす

ことができ、生産能力を 20個/時間から

25個/時間に上げることができるとしま

す。

そうであれば、C工程の都合に合わせて

生産順番を変更することで、A工程の能力

が 50個/時間から 40個/時間に低下する

としても、生産順番の変更を検討するべき

なのです。C工程の能力向上に伴って工場

全体の生産能力が「20個/時間」から

「25個/時間」に向上するからです。

工場のボトルネックを発見すると、すぐに

設備補強や増員によってボトルネックの能

力を向上させようとする工場もあります

が、その前に、活用されていない能力を発

揮させることが大切なのです。

次に、「ボトルネック」を見つけて改善に

つなげる手順について解説いたします。

ボトルネックに着目して生産性を

上げる手順

■「ザ・ゴール」の教え

ボトルネックに着目した生産性改善の手順

は、ベストセラーとなったゴールドラット

博士の「ザ・ゴール」でも詳しく説明され

ています。同書では、改善の5ステップと

して以下の手順が示されています。

各ステップについて具体的に見ていきまし

ょう。

(1) ボトルネックを見つける

ボトルネックを見つけるためのヒントは、

①どこで仕事が滞留しているか、

②どの工程の稼働率が高いか、

③多くの問題の発生がどこに原因がある

か、

④重要な工程はどれか、

です。

稼働率や仕掛品の状態からボトルネック

を判断します。

(2) ボトルネックを徹底的に活用する

ボトルネック工程では、

①段取り時間の短縮、

②トラブルの削減、

③材料待ち時間の削減、

④歩留まりの向上、

⑤稼働時間の延長を図ります。

こうしてボトルネックの能力を最大限に

改善の 5ステップ

(1)ボトルネックを見つける

(2)ボトルネックを徹底的に活用

する

(3)ボトルネック以外をボトルネ

ックに従わせる

(4)ボトルネックを強化する

(5)惰性に注意しながら繰り返す

10

2. ボトルネックへの着目と改善

ボトルネックの本当の意味

次は、多くの工場での共通の課題「ボト

ルネック」について考えてみましょう。

■ボトルネックとは

X社の工場では、A→B→C→Dの 4つの

工程で製品Xを生産しています。それぞれ

の工程の 1時間当たりの生産能力が下の表

のとおりだとすると、生産能力が最も低い

C工程(1時間あたり 20個)がこの工場の

ボトルネックとなります。

ボトルネックとは、「全体の結果や性能

を左右する最大の要因」と定義され、生産

工場では、最も能力の低い工程がそれに当

たります。この工場では、A、B、Dの工程

がいくら頑張っても、1時間に 20個以上の

製品を「完成」させることができないこと

がわかります。つまり、「工場の能力はボ

トルネックで決まる」のです。

【製品Xの生産工程】

工程 A工程 B工程 C工程 D工程

生産能力 50個/時間 30個/時間 20個/時間 40個/時間

■ボトルネックの本当の意味

このようなことから「ボトルネック」を

管理して能力を最大化させることの重要性

が広く知られています。しかし、きちんと

実行できている工場は多くありません。

ひとつの理由は、現実の工場では本当の

ボトルネックを特定することが困難だから

です。上の例では製品Xだけを生産してい

るので、簡単にボトルネックを特定するこ

とができましたが、実際にはこのように単

純ではありません。一般的な工場では、多

種多様な製品を作っています。製品によっ

て関わる工程やそこでの生産時間が異なり

ますから、ボトルネックが分かりにくくな

ります。その結果、工場では、どの工程も

忙しくて能力が不足しているように見えま

す。

また、高価な設備を使う工程や技術的に

高度な処理をする工程などを管理者がボト

ルネックだと思い込んでいる、ということ

があります。高価な設備で処理する数量を

増やすことで原価を下げることができると

考えているからです。ところが、いくら高

価な設備での生産数を増やしても、製品が

完成しなければ販売することはできませ

ん。 「工場全体の能力がボトルネックで

決まる」ということは「製品の原価もボト

ルネックの能力で決まる」のです。

さらに、ボトルネックの能力は本来、も

っと高いのにそれが発揮できていないこと

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13

つのロットが大きいのが特徴です。1オー

ダーで、数十万個~数百万個の注文もあ

り、海外への出荷も多くあります。

工程は、材料の受入検査⇒切断⇒加工⇒

研磨⇒化学処理⇒洗浄⇒検査⇒出荷が基本

的な流れです。技術的なポイントは、研磨

工程にあり、この出来栄えが製品の性能を

大きく左右します。

S社の問題は、納期遅れが頻発してお

り、業務担当者が常に納期調整に追われて

いることでした。そこで、社長は、ボトル

ネックの改善によって生産能力を高めるこ

とができるのではないか、そして納期遅れ

が改善できるのではないか、と考えまし

た。

■真のボトルネックは

幹部と各工程のリーダーを集めた会議

で、ボトルネック活用の重要性を説明した

後、「ところで、ボトルネックはどこです

か」と尋ねました。社長を含めて多くのメ

ンバーが「研磨工程」を挙げました。確か

に、研磨工程の前には仕掛品が多く溜まっ

ています。しかし、いろんな話を伺ってい

ると、「あれ?」と感じる問題が出てきま

した。

・ 研磨工程の設備は高価であり、技術的

なポイントでもあるため、研磨工程の稼働

率を高くすることが原価を下げることにつ

ながると考えている。

・ 納期遅れが発生しているのに、研磨工

程の稼働率を重視するため、急ぎの製品が

優先的に生産されていない。

・ 検査で不合格になり、再洗浄を行うロ

ットが多く発生する。

工場全体ではなく、研磨工程での生産性

を高めるために、仕掛を多く溜め、研磨工

程の都合で生産を行っていることが分かっ

てきました。

検査工程は出荷係から優先出荷品の検査

を急がされるために、前工程である洗浄工

程に対して優先的に欲しい製品を督促しま

す。そのために、洗浄工程では、前工程か

ら流れてきた製品と順番の入替が生じてい

ました。このため、切断や研磨を終えてか

ら洗浄するまでに日数を多く経過するロッ

トがあり、汚れが固着して洗浄に予定以上

の時間がかかったり、検査で不合格となっ

て再洗浄になるものが発生する、というよ

うな状況でした。

そこで、もう一度、部分最適ではなく全体

最適が重要であることを説明し、各工程の

生産能力と生産数量を、全員で確認してみ

ました。すると、ボトルネックは、研磨工

程ではなく洗浄工程であることが分かった

のです。

■ボトルネックの活用

ボトルネックである洗浄工程の能力を最大

限に活用するために、S社では、次のよう

な対策を行いました。

・ お昼の休憩を交代制にして、洗浄設備

の稼働時間を長くする。

・ 洗浄機のレイアウトを変更して作業者

の移動距離を短くし、作業 効率を高め

12

引き出します。

ボトルネックの徹底活用というと、時間

短縮やスピードアップばかり考えてしま

い、見落としがちなのが「生産がストップ

している時間」です。たとえば、品種切り

替えのための段取り換えは作業者にとって

は「頑張って作業をしている時間」ではあ

りますが、生産はストップしています。こ

の時間をいかに短くするか、事前にその準

備をしておく(外段取り化)などの工夫を

凝らします。

(3) ボトルネック以外をボトルネックに

従わせる

他の工程は、ボトルネック工程の能力が

最大限発揮できるようにサポートします。

①他の工程の都合でボトルネックの能力

を低下させない、

②ボトルネック工程から出てきたもの

は、留めることなくそのまま流す、

③ボトルネック工程の能力に合わせて材

料を投入することで仕掛を必要以上に増や

さないことが大切です。

ボトルネック工程の前には計画的な在庫

(バッファー)を設置し、それ以外の工程

は稼働率を高めるという考えをやめ、仕掛

在庫を持たないようにします。

(4) ボトルネックを強化する

ボトルネック工程以上の需要が、この先

も継続する見込みがあるなら、設備投資な

どによって、ボトルネック工程の能力を上

げることを検討します。「設備投資をした

ら、設計変更によって必要なくなってしま

った」とならないよう、将来的な設計変更

の可能性はどうか、遊休設備の改造等で済

ませられないかなど、十分に検討すること

が大切です。

(5) 惰性に注意しながら繰り返す

ここまでの取り組みでボトルネックが移

動している場合は、新たなボトルネックを

見つけて、(1)~(4)を繰り返します。

■全体最適の難しさ

この中で、難しいのが「(3)ボトルネッ

ク以外をボトルネックに従わせる」です。

担当者は、これまでの仕事では、自工程の

生産性を上げることで評価されてきたはず

です。ですから、自工程の生産性を最大に

しようとする習慣から抜け出しにくいので

す。工場長は、「部分最適ではなく全体最

適」「工場全体のために」という視点を理

解させることが大切です。

ボトルネックの改善で納期遅れを

解決した S社の取り組み

ボトルネックを改善して生産性を大幅に向

上させた事例をご紹介しましょう。

■S社の概要

S社は、医療機器の部品を製造している

メーカーで、パート従業員を合わせて 150

名規模の会社です。製品はすべて受注生産

ですが、ほとんどがリピートオーダーで

す。製品は、非常に小さいものが多く、1

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15

3. 生産計画ルールの見直し

生産計画の立て方

生産計画の立て方について考えてみましょ

う。

■生産計画とは

生産計画とは、生産品目と生産量、生産

時期を計画するものです。お客様の要求納

期を満たしつつ、製造原価が少なくなるよ

うに、いつ、何を、どれだけ、どのような

体制で生産するかを決めます。

生産計画には、長期の大日程計画と月次

の中日程計画、そして週次や日ごとの小日

程計画があります。大日程計画では生産能

力や設備投資の計画を立て、中日程計画で

は資材調達や人員計画、外注計画を立てま

す。そして、小日程計画で具体的な品目と

数量、そして生産スケジュールを決めるの

です。今回は、この小日程計画について考

えてみます。

■一般的な生産計画の立て方

生産の方式には、受注生産と見込生産が

あります。

受注生産は、文字通り、受注した注文を

生産する方式です。この場合は、注文を受

けたオーダーを納期の早い順に生産しま

す。生産能力に余裕があれば、同じ生産品

目で納期の遅いオーダーをまとめて作るこ

ともありますが、余裕が無ければ、納期の

早い順に作るのが原則です。生産品目の中

には、特殊な加工が必要であったり、外注

工程が必要など、生産期間が均一な商品ば

かりではありません。その場合は、生産期

間の長くかかるものは、長くかかる期間分

だけ、他の商品より早く作り始めます。

見込生産は、注文を予測して生産する方

式です。受注後の納期が短く、受注してか

ら生産したのではお客様の希望納期に間に

合わない場合に行います。注文の予測は、

過去の趨勢や、現在・将来の市場動向、お

客様から頂く予測情報などを元に行いま

す。

■生産計画担当者の悩みと問題点

このような業務を行う生産計画の担当者

は、実はいろいろな悩みを抱えています。

・受注生産の注文が集中して納期に遅れそ

うになる。

・逆に、注文が少なくて工場稼働率が低下

してしまう。

・見込生産の予測がはずれて在庫が増えた

り、不足したりする。

・受注生産品と見込生産品の両方を生産し

ているため、どのような順番で生産すれば

良いか分からなくなる。

・生産計画を立案するのが、「1回/月」な

どのように決まっているため、出荷の情報

や注文の情報にタイムリーに対応できな

い。

14

る。

・ 休止していた古い洗浄設備を活用して

能力を高める。

・ 洗浄工程で、製品の優先順位を変えな

くて済むように、前工程から出荷順に持っ

てくる。

・ 汚れが固着することをできるだけ防ぐ

ように、各工程での滞留時間を短く(仕掛

を少なく)する。

この結果、洗浄工程の能力が高まるとと

もに、工場全体の生産の流れがスムーズに

なりました。その結果、工場全体で生産能

力の 30%アップを実現することができ、納

期遅れも大幅に改善することができまし

た。

S社の問題は、高価な設備で技術的なポ

イントでもある研磨工程をボトルネックだ

と思い込んでいたことでした。真のボトル

ネックを見つけると、このように大きな改

善につなげることができます。みなさんの

工場でも思い込みが生じていないか、もう

一度、確認してみませんか。

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17

ように、住宅の設計に合わせて、加工済の

外壁建材をパーツとして納入するのです。

住宅のモデル(種類)によって外壁の柄

や色が異なるだけでなく、住宅の大きさや

形が個々で異なるため、オーダーの内容は

千差万別です。

A社から外注先に出荷する基材は、100

種類程度ですが、外注先で加工する最終的

な商品の種類は、数万種類と膨大な数にな

ります。

■生産計画担当者の悩み

Bさんは、A社の新任の生産計画担当者

です。外注先からの「早く基材を入れてく

れ」との督促に悩みを抱えていました。

営業からの売上予測情報をもとに生産計

画を立てているにもかかわらず、欠品にな

りそうな綱渡り状態が続いていたからで

す。しかも、欠品になりそうな基材がある

一方で、在庫が多くある基材もありまし

た。A社でも工場での生産品目の急な変更

は、工場管理者から最も嫌がられ、なかな

か受け入れてもらえません。営業・外注先

と工場との間に挟まったBさんの悩みは深

まるばかりでした。

この問題を解決するためには、もっと多

くの基材を生産して在庫を増やせば良いの

ですが、工場の生産は 3交代 24時間体制

でのフル生産状態で、これ以上生産数量を

上げることは不可能でした。「在庫のアン

バランスを無くして解決するしか方法はな

いが、どうすれば良いだろう?」と Bさん

は考えました。

■売上予測の問題点

Bさんは、まず、営業の売上予測に問題

があるのではないかと考えました。

営業は、お客様であるハウスメーカーか

ら内示情報を入手しています。ハウスメー

カーからは、数カ月先まで、Xモデル、Y

モデル、Zモデルなどの住宅のタイプ別・

月別に出荷予想棟数が示され、この情報は

毎月更新をされていました。

ハウスメーカーの商品は高額な住宅です

から、施主も慎重に決断しますし、建築の

日程も計画から大きく変わることはありま

せん。したがって内示情報と実際のオーダ

ーは大きくずれることはありませんでし

た。

ところが、営業ではこの貴重な情報が活

用されず、売上予測は営業担当者のカンに

よって作成されていました。

営業では、内示で入手する「○月のXモ

デル△棟」という棟数の情報と、毎日来る

多くの物件の多品種のオーダーを結び付け

て考えることができなかったのです。

そこで、Bさんは過去のモデル毎のオー

ダーを調べ、1棟あたりの平均的な必要基

材数を算出しました。必要基材数はもちろ

ん基材の種類別に算出しました。これをも

とに、過去の内示情報と、外注先への基材

出荷数を比較してみると、あまりずれてい

ない事がわかりました。内示情報を生かし

て確度の高い売上予測情報を得ることがで

きるようになったのです。

次に Bさんが取り組んだのは、基材品種

16

などです。

■見込生産の生産計画の考え方

ここでは、見込生産品の生産計画につい

て考えてみます。見込生産の場合は、予測

がはずれて混乱することが良くあるためで

す。この問題に対して私がお勧めしている

のは、基準在庫に対して出荷した分だけを

生産する補充方式を採用することです。具

体的には以下のような手順で行います。

まず、過去1年間の出荷量データを元

に、月間の平均出荷量を求めます。

そしてこの工場の生産計画立案のタイミ

ングが月に 1回であれば、基準在庫を 1.5

か月分、半月に 1回の生産計画立案であれ

ば、0.8か月分というように定めます。こ

の基準在庫量は、生産が終わった直後の目

標在庫量となります。

平均的な出荷であれば、月に 1回の生産

計画の期間中に 1か月分を出荷してしまい

ますから、生産計画立案時に 0.5か月分の

在庫が残っていることになります。これ

は、出荷の変動に対する余裕分となりま

す。実際の出荷が多ければ、在庫が少なく

なっていますし、出荷が少なければ在庫が

多く残っています。

生産計画を立てる時は、原則としてその

前の 1か月間に出荷した数量をそのまま生

産数とします。半月ごとに生産計画を立て

る場合は、直前の半月間に出荷した量が生

産数となります。

そして生産の順番は、計画立案時に、直

前の出荷数に対する在庫量の余裕が少ない

品目を優先にします。

この補充方式を用いれば、出荷予測が不

要になるため、予測の精度が悪いといっ

て、営業と製造が争うようなこともなくな

ります。

生産計画の立て方を改善して在庫

を減らした A社の事例

生産計画の立て方として補充方式の考え

方を活用して在庫を減らした事例をご紹介

しましょう。

■A社の概要

A社は外壁建材製造会社です。工場で生

産した基材を外注先に出荷し、外注先で塗

装と加工を行ってハウスメーカーに納入し

ています。

ハウスメーカーから A社には、住宅の 1

棟単位でオーダーがきます。住宅工事の現

場では、外壁を取付けるだけで工事が進む

生産計画(補充方式)の策定手順

(1)月間の平均出荷量を求める

(2)生産計画立案のタイミング

を確認する(月に 1回、半月に 1

回など)

(3)基準在庫量を定める。

(4)上記をもとに生産計画を立

てる

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■A社の生産計画の方法と成果

このようにして在庫レベルを設定するこ

とができたので、基本的には使った分だけ

を補充する方式としながら、売上予測も活

用して生産数の微調整を行う生産計画方法

としました。そして、ABC分析の考え方を

取り入れたことで、従来よりも全体の在庫

数を 20%削減し、しかも欠品の危険を無く

すことができました。

Bさんは、目標であった、在庫のアンバ

ランスを無くして解決することができ、し

かも、ルールを明確にするすることで、だ

れでも生産計画を作成することができるよ

うになりました。

みなさんの工場では、生産計画のルール

は決まっていますか。

18

ごとの生産数量決定のルールです。必要な

情報をインプットすれば、生産計画が出来

上がる仕組みを作ることにしました。だれ

でも生産計画が作成できるようにしようと

考えたのです。Bさんが考えた生産数量決

定のルールとは、次の通りです。

■生産計画の検討

内示情報を生かして確度の高い売上予測

ができるようになった Bさんは、生産数量

を決めるために次のように考えました。

・まず、売上予測から翌月・翌々月の出荷

数量を見込み、在庫数量と対比して翌月の

生産数量を算出します。

・A社の工場では多くの品種をロット生産

しているため、次の生産品が入庫されるま

での間、出荷に対応できる在庫を常に持っ

ていなければなりません。

・月に 1回の生産を行う場合は、すべての

品種について、月末時点で翌月使用する分

の在庫(1か月分)があれば良いことにな

ります。

・ところが、ぎりぎりのやりくりを行って

きた A社では、月末に 1か月分の在庫を持

とうとすると、現状より在庫数を大幅に増

やさなければなりません。これでは在庫の

アンバランスをなくして欠品を防ぐという

当初の目的が達成できません。

・月に 2回の生産を行う場合は、月末に翌

月の前半に使用する分の在庫(0.5か月

分)があれば良いことになります。

しかし、この方法ではロットの小さくな

る品種が多く発生し、工場でのジョブチェ

ンジも多くなります。その結果、工場での

生産効率が大きく低下してしまうのです。

■ABC分析の活用

そこで Bさんは、生産している全品種に

ついて、出荷数量での ABC分析を行って

みました。全 100品種のうち、毎月の出荷

量の多い上位 20品種を A、次の 30品種を

B、出荷の少ない 50品種を Cとしまし

た。そして、A・B・Cに分けて月間の生産

回数と目標在庫レベルを変えることにした

のです。

一般的な考え方では、出荷の少ない品種

は在庫を少なくしようとしますが、そうす

ると小ロットでの生産を繰り返さなければ

ならなくなります。また、多く出荷される

品種の在庫を多くすると在庫数がとても多

くなってしまいます。

そこで、Bさんは、A品目については月

2回の生産として在庫目標を 0.7か月分、B

品目については、月 1回の生産で在庫目標

を 1.5か月分、C品目については 1.5か月

に 1回の生産で在庫目標を 2.0か月分とし

ました。

出荷数量の多い品種は限られていること

と、月 2回に分けて生産してもロットの大

きさが大きいので、工場でのジョブチェン

ジの負担は大きくありません。出荷数量の

少ない品種は、在庫を 2か月分持ったとし

ても、全体の在庫数量への影響は軽微で

す。しかも、1.5か月に 1回の生産とする

ことでロットの大きさが大きくなりますか

ら工場の生産効率も上がります。

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21

そして、外注工程に起因する品質不良が

出た場合には、外注先だけに責任を求める

のではなく、一緒に原因究明と解決に取り

組むといったことが大切です。このような

積み重ねが、外注先との信頼関係を築くこ

とにつながり、外注先の QCDのレベルを

上げることにつながります。それは、発注

者にも利益をもたらすことになるのです。

外注先の協力体制を構築してクレ

ームを減らした A社の事例

外注先の協力体制を構築してクレームを

減らした A社の事例をご紹介しましょう。

■A社の概要

A社は先にもご紹介した外壁建材製造会

社です(「生産計画ルールの見直し」ご参

照)。工場で生産した基材を外注先に出荷

し、外注先で塗装と加工を行ってハウスメ

ーカーに納入しています。

ハウスメーカーから A社には、住宅の 1

棟単位でオーダーがきます。住宅工事の現

場では、外壁を取付けるだけで工事が進む

ように、住宅の設計に合わせて、加工済の

外壁建材をパーツとして納入するのです。

住宅のモデル(種類)によって外壁の柄

や色が異なるだけでなく、住宅の大きさや

形が個々で異なるため、オーダーの内容は

千差万別です。A社から外注先に出荷する

基材は、100種類程度ですが、外注先で加

工する最終的な商品の種類は、数万種類と

膨大な数になります。

■不良の内容

Mさんは、A社の外注管理担当者です。

元々は営業担当者ですが、外注先での不良

発生が頻発していたため、外注管理を強化

することになり、営業と外注管理を兼務す

ることになりました。

A社の外注先 T社で塗装と加工を行った

外壁製品は、ハウスメーカーに納入され、

パネルに組み立てられた後、1棟分のパー

ツとして現場に配送されます。

ところが、加工した製品の寸法に誤りが

あると、他のパネル部品と寸法が合わず

に、ハウスメーカーでパネルを組み立てる

ことができません。納品した製品に欠けや

割れの不良があっても同様にパネルを組み

立てることができません。

また、外壁製品には柄が入っています

が、製品の外形寸法が正しくても、切り出

した柄の位置がずれていることがありま

す。そうすると、パネルの組み立て時には

異常に気づきませんが、現場で建物に取り

付けた際に、上下左右に隣接するパネル

外注管理のポイント

(1)外注先のコスト削減や品質向

上に関して指導・協力する。

(2)生産計画を早めに伝えるな

ど、外注先が生産性を高められるよ

うに協力する。

(3)材料支給の場合は、きちんと

品質管理を行った材料を支給する。

20

4. 外注の協力体制の重要性

外注管理で大切なこと

■外注とは

次は、「外注管理で大切なこと」につい

て考えてみましょう。大企業はもちろんの

こと、中小企業でも多くの会社が、工程の

一部や大部分を他の会社に依存する形で経

営を行っています。発注する側が外注先に

「このようなものを作って欲しい」と依頼

して、その要求に応えて物品が納入されま

す。一回の取引で終わることは稀で、繰り

返して取引が継続されることが一般的で

す。製造工場だけでなく、商業やサービス

業でも外注は利用されています。

■外注利用の目的

ではなぜ、自社で全ての工程を行わず

に、外注を利用するのでしょうか。それに

は、いくつかの理由があります。

■外注管理の注意点

このような目的で、外注を利用している

のですから、外注先とは対等なパートナー

であり、自社工程の延長である、という意

識で接することが大切です。

ところが、発注者の中には、発注する側

の立場を利用して、自社の都合を無理に押

しつける会社があります。また、長年の取

引があるということだけで、客観的な品質

評価や価格の見直しを行わずに、取引を継

続している会社もあります。

■外注管理のポイント

外注管理において大切なのは、取引関係

を一歩超えた信頼関係を築くことです。そ

の上で、生産管理と同様に「Q:品質、

C:コスト、D:納期」の視点を大切にす

ることです。外注先と協力して、QCDの

レベルを上げるようにします。これが、

「自社工程の延長」という考え方です。

具体的には、以下のようなことです。

外注利用の目的(主なもの)

(1)生産コストを安くするため(中

小企業に単純作業を委託する場合

など)

(2)自社にない設備や能力を利用

するため(メッキの外注など)

(3)社内の能力と負荷の調整弁と

するため(季節的に需要変動が大き

い場合)

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23

探して、Mさんにその工場の立ち上げ指導

を命じたのでした。

新しい外注先 K社は、外壁建材の取扱い

経験はありますが、ハウスメーカー向けに

膨大な種類の加工をするのは初めての経験

です。この業務を始めるためには設備も導

入しなければなりませんし、品質規格や納

入仕様を元に、作業者の教育もしなければ

なりません。この仕事にMさんは奮い立ち

ました。

Mさんは、この新しい仕事にこれまでの

悩みをぶつけるかのように、不良の出ない

設備や作業方法を考えて、新工場の立ち上

げを行いました。Mさんの検討は、作業の

効率を高めるためのレイアウトや歩留まり

を高める作業方法にまで及びました。実は

この検討には、Mさんが外注先 T社の現場

で作業を見ながら「どうすれば不良を無く

せるか」と考え続けたことが大きく役に立

っていたのです。

新しい外注先 K社の加工業務は、Mさん

の必死の努力もあり、順調に立ち上がりま

した。そうすると徐々に外注先 T社への発

注が減るようになりました。

A社はあらかじめ役割分担を決めて、外

注先 T社にも案内をしていましたので、混

乱はありませんでしたが、やはり外注先 T

社の社長は仕事の減少に落ち着いた気持で

はいられませんでした。T社の社長は、簡

単にできるはずがないと思っていた加工業

務を、思いのほか早く外注先 K社が始めた

こと、そして、その立ち上げをMさんが行

っていたことにも驚いていました。

外注先 T社の社長から K社を見学させて

欲しいとMさんに連絡があったのは、ちょ

うどそんな時でした。

Mさんは、外注先 K社の設備や作業現場

をくまなく案内し、そして、生産性を高め

るためにどのように考えたか、そして不良

が出ないようにどのように工夫したかを丁

寧に説明しました。そして、「T社で何度も

現場を見せていただいていたからここまで

考えることができました」とお礼を述べた

のです。

外注先 T社の対応が変わったのはそれか

らでした。Mさんの仕事を見てMさんへ

の信頼が大きく高まったのです。一方のM

さんも、自分が実際に工場を立ち上げてみ

て、外注先 T社のこれまでの苦労が良くわ

かりました。そのことでお互いの立場を本

当に理解することができ、両者の信頼関係

を築くことができたのです。

その後は、T社長の提案もあり、定期的

に T社と K社、そして他の地域の外注先も

含めた勉強会を始めることになりました。

全員で各工場を順番に視察して、良いとこ

ろは学び、そして良くないところは指摘す

るという勉強会を行いました。

一通りのすべての外注工場の視察を終え

ると、それぞれの外注工場で本格的な不良

削減活動が始まりました。Mさんは各社の

努力をさらに促すように、毎月の各社の不

良率を集計して優秀な外注先を A社で表彰

するようにしたのです。

その結果、不良率はどんどん下がり、A

社はハウスメーカーから改善表彰を受ける

22

と、柄が合わないことになります。したが

って、大至急生産して現場に配送しなけれ

ばなりません。このような不良によってク

レームが生じることがありました。

外注先 T社では、作業者が作業指示書を

見ながら手作業で寸法を入力して切断加工

をしています。建物の屋根近くの外壁には

△形のパーツがありますし、窓の横には凸

型や凹型の形状になることもあります。柄

の位置も指定がありますから、加工は非常

に複雑です。たまに寸法不良が発生するこ

ともやむを得ないという雰囲気もありまし

た。

■外注管理担当者の悩み

もちろんこのような不良が発生すると、

ハウスメーカーの工場から A社に連絡があ

りますから、すぐに代わりの製品を作って

持ち込みます。そして、このような不良が

何回か発生すると、ハウスメーカーの品質

管理課からは、異常報告書が送られてきま

す。そうすると、原因を究明して対策を行

って報告をしなければなりません。

そうすると、外注管理担当者のMさん

は、外注先 T社に赴いて社長と現場の管理

者に「不良が続いています」「不良を減ら

してください」とお願いします。もちろ

ん、外注先の社長も「もっと注意して作業

するようにします」と応えてくれますか

ら、経験の浅いMさんは、言われるまま、

異常報告書に「検査を強化します」と書い

て提出していました。

ところが、不良の真の原因をつかんでい

ませんから効果的な対策もできていませ

ん。注意して作業するのも不良発生の直後

だけですから、忙しくなるとまた不良が発

生します。とうとう、ハウスメーカーから

は「不良の原因は何ですか」「検査は対策

ではありません」「原因に対して対策を行

ってください」と報告書を突き返されるよ

うになり、Mさんは困ってしまいました。

再び外注先 T社に行って相談をしますが、

「そう言われても・・・、私たちにはそれ

以上できません」としか答えてくれませ

ん。

困ったMさんは、現場に入って作業を観

察し、「このやり方をこうしたらどうだろ

うか」「ここをこう変えたらどうだろう

か」と考えて提案するようにしましたが、

外注先の T社長から「そんなことをやって

いたら生産が遅れる」と一蹴されてしまい

ました。

当時は、注文が右肩上がりに増え続け、

残業の連続で生産を続ける外注先 T社に頼

らなければ、製品を納期に間に合わせるこ

とができない状況でもありました。解決で

きない問題を抱えたMさんは、会社に行く

のも嫌になりかけていました。しかし、こ

のように悩み続けるMさんに、ようやく大

きな転機が訪れます。

■Mさんの転機

ハウスメーカーからの注文が右肩上がり

に増え続け、外注先 T社は連日の残業と休

日出勤で生産を続ける状況となっていまし

た。そこで、A社では新しい外注先 K社を

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25

5. 作業改善によるムダの発見

改善の基本は現場の観察

次に、現場観察の重要性について考えて

みましょう。

■改善は「本当の問題」を見つけることか

生産現場における改善では、生産性やサ

ービスの向上を目指して仕事の手順ややり

方を変えていきます。改善の手順として

は、まず「問題」を見つけ、そして「どの

ように変えるか」という解決策を考えるこ

とになります。では、「問題」はどのよう

にして見つければ良いのでしょうか。

「問題がないのが問題だ」という言葉が

ありますが、現場で意見を聞くと、問題が

あるにもかかわらず「問題はありません」

という反応になることがあります。長年、

同じ業務を継続していると、これまでの状

況や作業方法が当たり前となり、「問題に

気づかない」ようになってしまうことが多

いためです。

「問題」とは、現状とあるべき姿とのギ

ャップですから、生産性などのデータを分

析すれば、どこが目標に達していないかは

見つけることができます。しかし、これは

「結果として表れている問題」です。この

問題を解決するためには、その裏にある

「本当の問題」を見つけなければならない

のです。

■現場観察の重要性

改善活動において難しいのが、この「本

当の問題」を見つけることです。データを

分析するだけでは、「本当の問題」は分か

らないからです。そこで重要なのが現場の

観察です。現場を観察する際には、「なぜ

このようにしているのか」「なぜこうなっ

ているのか」を考えながら冷静に観察する

ことが大切です。先入観を持たずにじっく

りと現場を観察することで、無駄な作業や

動作、手待ち、トラブルの種などを感じる

ことができるのです。

しかし、それですぐに「本当の問題」が

特定できる訳ではありません観察できるの

は、目の前の現象であり事実だけです。そ

こで、「これが本当の問題かな?」と感じ

たことをデータに取り、そして分析し、さ

らにあるべき姿を描いてみます。このよう

に問題意識を明確にした上で、再度観察す

ることで、「本当の問題」が見えてくるの

です。

■現場観察の工夫

現場を観察する時は、単に目で見るだけ

でなく、写真やビデオで撮影することも効

果的です。現場を離れてから落ち着いて見

直すと新たな発見があったり、ビデオ撮影

をすれば、仕事の流れを再確認したり作業

時間の測定も行いやすくなります。さら

24

までになりました。そして、Mさんは、い

つのまにか各外注工場の経営者や現場責任

者から慕われる存在になっていました。こ

のような結果を出すことができたのは、外

注管理担当者のMさんが単に「不良を無く

して下さい」という態度から、本当に外注

先の苦労を理解し、そして一緒に品質向上

と生産性向上をするためにどうすれば良い

かを考えるようになったからです。そうす

ることで、外注先も心を開き、協力体制を

築くことができたのです。

外注管理のポイントは「自社の工程の延

長として考えること」とは良く言われるこ

とですが、本当にその意味を分かっている

外注管理担当者は多くありません。A社の

事例を見てもそのことが良く分かります。

外注先を本気で支援して信頼関係を築き、

良きパートナーとなることが、発注する企

業にも大きなメリットをもたらすのです。

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27

時間になっていたのです。

そこで、工場長は、各工程の作業者の人

数を作業負荷に合わせて調整しました。そ

して、常に他の工程を見ながら、相互に応

援をする体制にしました。その結果、工程

間の負荷バランスが取れるようになり、す

べての作業者がほぼ 80%の実作業時間割合

となりました。

さらに次の問題として、テーブル上では

もっと多くの製品が生産できるにもかかわ

らず、これまでは、テーブルの回転数を高

めようとして、少量の製品しか生産してい

なかったことが分かりました。テーブル上

に余裕のスペースが残されていたのです。

工場長は、この部分も改善できると考

え、テーブルの面積いっぱいに製品を生産

できるように、型枠組立の方法を変更しま

した。その結果、各工程での作業時間が伸

びたため、テーブルの回転数は、少なくな

りましたが、生産数数量を多くすることが

できました。このような改善の結果、生産

性が約 30%向上したのです。

現場の観察は改善の基本ですが、気にな

ることが見つかれば、実際に時間測定など

を行って、問題を定量的に把握することが

大切です。そうすることで、関係者に問題

の存在を納得させることができ、改善への

協力を得ることができます。さらに、改善

した場合の効果を予測することもできま

す。現場を観察して、問題があるかな、と

感じたら時間測定を行ってみましょう。改

善のヒントが見つかるはずです。

26

に、自分で実際に作業を行ってみることで

問題に気づくこともあります。

■問題発見力を高めるために

「本当の問題」を見つける力を高めるため

には、多くの現場を見ること、そして「何

が問題か」を考えることの経験の積み重ね

が重要です。一見、問題のなさそうな現場

でも「問題がない」ことはありません。

「現場は問題の宝庫」です。先入観を取り

払って「何が問題か?」を冷静に観察して

みましょう。

次は、生産現場の観察で問題を見つけた

Z社の事例をご紹介します。

生産工程の時間測定で問題を見つ

けた Z社の取り組み

■Z社の概要

Z社は建設資材メーカーです。顧客の注

文に応じてオーダーメードでコンクリート

製の資材を生産しています。

生産工程は、

(1)型枠組立、

(2)部材セット、

(3)鉄筋セット、

(4)コンクリート成形、

(5)乾燥、

(6)脱型の順番です。

各工程は、ライン上を循環するテーブル

の上で行われます。つまり、テーブルがラ

イン上を移動しながら生産が進みます。(1)

~(6)の各工程にテーブルが配置され、その

上で各工程の作業が行われます。各工程の

作業が終わると、6つのテーブルが同時に

1工程ずつ次に進む生産方式です。早く作

業が終わった工程があっても、作業中の工

程があれば、テーブルは、次の工程に進む

ことができません。

(6)脱型を終えたテーブルは、(1)型枠組立

に進み循環するようになっています。テー

ブルは非常に大きいので、型枠組立では、

複数の製品が生産できるように行います。

Z社の工場に赴任した新工場長は、工程

の流れと作業者の動きを見て、工場の生産

性が低いのではないか、と感じました。し

かし、どこをどのように改善すれば良いか

すぐには判断ができませんでした。また、

現場の作業者に改善の指示をするにしても

根拠を示すことが必要だと感じていまし

た。そこで、まず、工程毎の作業時間測定

を行ってみました。

■時間測定の結果

時間測定をしてみると、工程毎の作業負

荷のバラツキが大きく、作業者の待ち時間

が多く発生していることが分かりました。

テーブルのセットが完了してから各工程の

作業が終わり、1工程進むまでの間の実作

業時間割合は、(3)鉄筋セットが 85%であ

るのに対して、(1)型枠組立は 50%でし

た。ほとんどの場合、(3)鉄筋セットの工程

が終わるのを待ってから、全体が 1工程進

むことになっていました。そして、(1)型枠

組立工程の作業者は平均して半分が手待ち

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29

ダ。

③ 「整理・整頓」しても生産量が増える

訳ではない(生産の作業をした方が良

い)。

④ 整理されてなくても俺には必要なもの

の置き場が分かるから困らない。

⑤ 他の仕事で忙しくて「整理・整頓」を

やっている時間がない。

これでは、5S活動は進みません。「5S活

動を行う」と宣言したのにこの状態では、

見て見ぬふりをする現場、問題を叱れない

現場になってしまいます。これでは、取り

組む意味がありません。このような意識

は、以下のような考え方と同じことです。

① 私は、5Sの効果を認めませんし、大事

だとも思っていません。

② 私は、ルールを守りません。

③ 仕事はきちんとやって成果も出してい

ますから余計なことはしなくても良いので

す。

④ 自分さえ仕事が出来れば良いので、他

の人の仕事のしやすさは気にしません。

⑤ 今後も、ものを探す無駄な時間を使い

続け、まわりにも不快な環境を与え続けま

す。

これでは安全・快適・効率的な現場にな

りません。こうならないためには、現場の

全員に対して、「会社が 5S活動を行う意

義」を理解してもらうことが大切です。

■5S活動定着のポイント

5S活動を定着させるためには、管理者自

らが率先して 5Sを行う、あきらめずに継

続する、組織全体として良い習慣づくりを

目指す、ルール違反などの行動は相互に注

意しあって改善する ということが必要で

す。5S活動は掛け声だけでは進みません。

管理者があきらめた時点で活動は終わって

しまうのです。

本来、「当たり前」であるはずの 5Sがで

きていない職場では、「決められたルール

が守られない」訳ですから、どんなに新し

い経営戦略や改善活動に取り組んでもきち

んと実行することができません。ですか

ら、改善効果を上げることができないので

す。常に原点にかえり、基本を徹底するこ

とが大切です。

また、5S活動は生産現場だけのものでは

ありません。事務作業や店舗作業などにお

いても基本となる大切な活動です。

現場に任せて 5S 活動を定着させた K社の取り組み現場に任せて 5S活動を定着させた K社

の事例をご紹介しましょう。

■K社の概要

K社は食品メーカーです。野菜を原料と

するお菓子の生産を行っています。原料受

入から各種の工程を経て、袋詰めの最終製

品が出来あがります。製品は、取引先への

出荷の他、工場での直売も行っており、で

きたての新鮮さが人気となっています。

28

6. 5Sの実行と定着

本当は難しい生産現場の 5S次に 5S活動の取り組み方について考え

てみましょう。

■生産現場で大切な 5S活動

5Sとは、ご存じのように 整理・整頓・

清掃・清潔・しつけ のことです。一般的

に「整理整頓」は、片付けの意味で一体と

して用いられることが多く、個々の言葉の

意味を深く考えることはあまりありませ

ん。しかし、5S活動では以下のように考え

ます。

整理 必要なものと不要なものを分け

て不要なものを捨てること

整頓 必要な物を決められた場所に置

いてすぐ使える状態にして

おくこと

掃除 職場をきれいにして気持ちよく

働ける環境にすること

清潔 整理・整頓・清掃の状態が維持

されていること

しつ

決められたルールを守りこれを

習慣化すること

このように、意味を明確にすることで、

活動が行いやすくなるのです。では、な

ぜ、多くの生産現場で 5S活動が行われて

いるのでしょうか。それは、5S活動が「当

たり前のことが、当たり前にできる職場」

づくりにつながるからです。そしてその結

果、(1)安全な職場、(2)快適な職場、

(3)効率的な職場を実現することができ

るからです。

■難しい生産現場の 5S

整理・整頓・清掃・清潔・しつけ と言

えば、「当たり前」のことで、今さら言わ

れなくても、と感じます。しかし、現実に

はこれが出来ていない現場は多くありま

す。

例えば、5Sというスローガンを掲げてい

るだけの会社、管理者は言うだけで行動せ

ず社員の自主活動に任されていて実行され

ていない会社、一時的には積極的に取り組

んだもののマンネリ化している会社などで

す。

簡単に思える 5S活動ですが、「できそう

でできない」どころが、難しいところなの

です。5S活動が進まない現場の管理者が良

く言う言葉に「なんで当たり前のことがで

きないのだろう」というのがあります。そ

の原因は、「人は安易な方向に流されやす

いから」であり、「管理者自身が本気にな

っていない」からです。5S活動が進まない

現場では、以下のような意識が隠れている

ことがよくあります。

① いまさら「整理・整頓」なんてやって

いられない。

② どうせすぐに汚くなるからやってもム

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引いたり、表示を行ったりするとともに全

社員に周知するようにしました。3ヶ月ほ

どで、活動が定着し、コンサルタントのサ

ポートが無くても自主的に活動できるよう

になりました。

工場内の整理・整頓・清掃も自然にでき

るようになり、その結果、立ち入り検査で

の指摘もなくなりました。

■5S活動成功のポイント

K社の 5S活動成功のポイントは、活動

の開始に当たって、活動の目的とポイント

をプロジェクトメンバーが十分に理解した

ことです。

5S活動は単に掃除をすることではなく、

整理・整頓・清掃を進めた上で、乱れな

い・汚れない仕組みを作ることだ、という

ことです。

そして、社長が、具体的な活動はメンバ

ーに任せながらも、活動時間や設備改善費

用などについて全面的に支援をしたことが

大きな要因です。

プロジェクトメンバーは、お菓子工場と

いう特性上、昔から小学生の工場見学を定

期的に受け入れてきましたが、工場内の整

理・整頓・清掃が十分にはできていないこ

とに、実は残念な思いをもっていました。

また、工場直売品を購入するためにお客様

が来社されるのに汚れた工場では恥ずかし

いという思いもありました。このことも 5S

活動に熱心に取り組むエネルギーになりま

した。

5S活動を成功に導くには、メンバーの強

い気持ちと 整理・整頓・清掃のできた状

態を維持するための仕組み作りが大切なの

です。

30

■社長の悩み

当社は食品工場であるため、衛生管理が

非常に重要です。生協向けの OEM製品の

生産も行っているため、立ち入り検査もあ

り、各種の指摘を受けることがありまし

た。現場では以下のような問題を抱えてお

り、社長も特に衛生管理につながる 5Sの

強化が課題だと考えていました。

(1)原料として使用する野菜の投入時に

付着している泥・埃が飛散する。

(2)動線が隔離されておらず、原料投入

場で靴に付着した泥が生産ラインに持込ま

れる。

(3)皮むき後の皮や原料の余りが生ごみ

として大量に発生し、臭気が問題になる。

(4)養分を含んだゆで汁が床にあふれ

る。

(5)油で揚げるため、フライヤーや付近

の床が油で汚れる。

(6)自動で選別した不良品が床に飛び散

ることがあり、汚れの元になっている。

■5S活動の開始

そこで、社長は 5S活動に取り組むこと

を決断し、工場長をリーダーに任命し、各

工程の責任者を集めてプロジェクトを結成

しました。

さらに、パートを含めた全社員に対して

5Sについての勉強会を行いました。社長自

ら 5S活動に取り組む必要性と目的を説明

し、外部のコンサルタントが 5S活動の進

め方と、陥りがちな問題について解説を行

いました。

そして、プロジェクトメンバーを中心に

活動を始めました。活動時間は、就業時間

内に 5S活動時間を設けて行いました。

(1) 現場の確認

まず、プロジェクトメンバーで原料倉庫

や事務所、休憩室も含めて工場全体を見て

回り、「これは必要なものか」「なぜ、ここ

に置いてあるのか」「本来、ここにあるべ

きものか」「なぜ、汚れているのか」「この

場所の管理者はだれか」というように、気

になる点をひとつずつ確認していきまし

た。そして、問題点を記録して写真撮影を

行いました。

(2) 重点管理

指摘事項の中から、優先的に解決すべき

事項をピックアップして、「どのように解

決すべきか」をメンバーで検討して、対象

区域で業務を行う社員の協力も得て順番に

対策を実行していきました。原料投入機の

改良など、費用の掛かる改善もありました

が、社長の承認を得て行いました。

(3) 定期巡回

5Sプロジェクトメンバーは、2週間に 1

回の現場巡回を継続して、新たな問題箇所

を見つけると解決対象リストに追加してい

きました。

(4) 定着活動

一旦整理された箇所が再び元の状態に戻

らないように、通路や置き 場のラインを

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確認しながら作業することなどありえませ

ん。

つまり、作業標準書で大切なのは、作業

標準書の作成を通じて、関係者で作業を分

析しながら最適な作業方法を定めること、

そして作成を通じてその作業方法をしっか

りと頭に入れ、体に覚えさせることなので

す。つまり、何をもとに作成するか、どう

やって作成するか、だれが作成するか、と

いうような作成の過程が一番重要なので

す。

このポイントを理解して作成すれば、作

業標準書はとても有効なツールです。次回

は、作業標準書の作成を通じて新人を育成

した R社の事例をご紹介します。

作業標準書の作成を通じて新人を

育成した R社の事例

作業標準書の作成を通じて新人を育成し

た事例をご紹介しましょう。

■R社の概要

R社は、関東地方に立地する社員 10名

の製造業です。主な業務は、建材製品のラ

イン塗装で、取り扱う素材は、セメント系

のボード類や金属製の部材などです。その

他にボード類の切断加工も行っています。

■社長の悩み

現社長は、先代社長の死亡により 22歳

で代表となり、社員管理、人材採用、育成

で多くの苦労を経験してきました。10年ほ

ど前に高校新卒者 2名を採用しましたが、

3年目に会社に来なくなってしまうなどの

経験もありました。そして、それ以後は経

験者の中途採用か人員不足を派遣社員で補

う体制で業務を続けてきました。

ところが、アルバイトとして R社の仕事

を手伝っていた大学生 D君が、卒業を機に

入社することになったのです。アルバイト

の時は、梱包作業など簡単な仕事をするだ

けですが、社員となるからには、主要な生

産業務を担当してもらわなければなりませ

ん。R社の社風は、「見て覚えろ」という雰

囲気であり、育てるという意識がなかった

ため、このままでは入社する D君もかつて

の新入社員と同じように辞めてしまうので

はないかと、社長は危機感を持ったので

す。

そこで、D君に指導役の先輩をつけ、マ

ンツーマンで指導をする体制としました。

ところが、教える先輩も新入社員の指導を

した経験がありません。「教えてもわかっ

てくれない」という不満を漏らすようにな

りました。D君もなかなか仕事を覚えられ

ないと悩んでいました。

■作業標準書の作成

R社も作業標準書は備えていましたが、

文章ばかりで理解しにくい上に、改訂も行

われていませんでした。そこで、先輩とD

君に、共同で作業標準書を作成させるよう

にしたのです。先輩は作業を教えながら、

D君は作業を教わりながら、その都度、作

業中の写真を撮影して作業標準書を作成し

ていきました。2人で確認しながらの作成

ですから、わからないところはすぐに確認

32

7. 作業標準の重要性

作業のポイントを確認するための

作業標準書の重要性

次に、作業標準書の重要性について考え

てみましょう。

■作業標準書とは

作業標準書は現場で行う作業の内容を記

述した書類です。作業標準書の目的として

は、以下のことが挙げられます。

・安全、品質、生産効率において最適な作

業方法を決める。

・作業標準書に従うことで作業者によるば

らつきをなくす。

・生産の工夫やノウハウを作業標準書とし

て文章で残す。

・作業改善のたたき台とする。

・新人への教育用資料とする。

■多くの工場での問題点

この作業標準書は、多くの工場で整備され

ていますが、実際にはきちんと活用できて

いる工場は多くありません。それは、以下

のような理由があるからです。

・最新の内容に更新されておらず、内容が

古くなっている。

・作成した人にしか内容が良くわからな

い。

・項目を箇条書きしただけで良くわからな

い。

・文章だけで書いてあるので理解しにく

い。

・用語が難しく新人が読んでもわからな

い。

・現状の作業方法と異なっていて、どちら

が正しいかわからない。

・作業によって作業標準書が整備されてい

ない作業がある。

さらに、ISO活動の一環で作業標準書を

整備する工場もありますが、整備しただけ

で満足している工場もあります。

このような問題が生じる原因は、作業標

準書の本当の目的や効果をよく理解してい

ないからです。

■作業標準書の目的

作業標準書の本来の目的は、書類の体裁

を整えるためではありません。作業の安

全・品質・効率を高め、より良い製品を生

産するためです。

「作業標準書は事務所に置かずに現場に

置け」ということも良く言われますが、一

般的には作業中に作業標準書を確認するこ

となどほとんどありません。たまにしか生

産しない製品であれば、作業標準書を確認

することもあるでしょうが、通常の製品に

ついては、書いてある作業内容は全て頭に

入っていて、その通りに作業していること

が当然だからです。いちいち作業標準書を

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8. 生産管理実践のポイント

まとめとして生産管理を実践するための

ポイントについて考えてみましょう。ここ

まで、生産管理を実践するために、問題の

見つけ方と解決の方法を事例でご紹介して

きました。

■実践時に発生しやすい問題

コンサルティングの現場では、「話は分

かるけど、ウチではできない。」という声

を良く伺います。 現場の方は実は問題を

良く分かっておられ、原因も掴んでおられ

ることが多いものです。そして、対策のア

イデアもお持ちです。

でも「現実には難しい」となることが多

いのです。それは、対策を行いたけど、

「お金が・・・」、「人が・・・」、「場所

が・・・」、「協力者が・・・」といったよ

うに、対策を実行するのに乗り越えなけれ

ばならない抵抗や障害があるからです。

逆に言うと、だからこれまでその問題が

解決されないままであった、とも言えま

す。みなさんの工場でも同じようなことが

あるのではないでしょうか。生産管理を実

践して生産性の向上につなげるためには、

原因と対策を見つけるだけでなく、このよ

うな障害を取り除いて、実行の環境を整え

ることが大切なのです。

■実践のポイント

この実行の環境を整えるポイントとなるの

が、現場でのコミュニケーションとリーダ

ーの決断です。

(1)コミュニケーション

一人で頑張るのではなく、みんなで取り

組むことが解決への近道 です。

・会議などを通じで問題や解決策への共

通認識をつくります。

・解決方法の実施に当たって、障害がな

いか、また他業務への

悪影響が無いかを検討して、あれば、そ

の対策も確認します。

(2)決断

そして、問題の解決に向けてリーダーを

はじめとする関係者が本気であることを確

認します。この 2つを行うためには、問題

が解決されないことの損失と解決策がもた

らす良い状態のイメージをきちんと説明し

て共有してもらうことが大切です。このよ

うにして生産管理を実践して少しでも効果

が出てくれば、協力者が増えて活動に弾み

がつきます。

前出の5Sを定着させた KS社の事例で

は、社長が実行を決断してプロジェクトを

結成し、さらに勉強会で共通認識を図りま

した。そして、時間内に5S活動の時間を

確保する、設備投資も実施するなど、本気

であることを示しました。その結果、全員

34

できますし、作業の理解も進みます。

最初は、作業標準書の作成に時間がかか

るため、育成が遅れることも懸念しました

が、ひとつひとつの作業をきちんとマスタ

ーしながら育成を進めていくことができ、

振り返ってみれば、スムーズに作業の習得

が進みました。

■育成スケジュールとのリンク

R社の業務には、多くの種類の作業があ

りますが、習得すべき作業をスケジュール

表に落とし込み、そのスケジュールに沿っ

て作業標準の作成と習得を進めていきまし

た。その結果、習得した作業は全てわかり

やすい作業標準を揃えることもできまし

た。そして、それが、D君の自信にもつな

がったのです。

入社 3年目となった D君は、今では、不

良が発生した場合の原因を追究して作業の

改善を行い、作業標準の改訂まで自力でで

きるようになりました。すでに出来あがっ

た作業標準を見せながら指導をしていたと

したら、短期間でここまで成長させるは難

しかったと、社長は感じています。

■作業標準書作成過程の重要性

このように作業標準の作成が人材育成に

効果的であることがおわかりいただけたと

思います。

作業標準は、整備することが目的ではな

く、作成の過程を大切にすることが重要な

のです。

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【コラム】

インダストリー4.0で中小製造業の生産管理はどう変わる?

近年、インダストリー4.0という言葉をよく耳にします。ドイツ発の第 4次産業革命であ

るインダストリー4.0が製造現場に与える最大のインパクトは「スマート工場」の実現とい

われています。スマート工場では、工場の生産ラインや設備類がインターネットにつながり

相互に通信してデータを共有することで、機械設備やロボット同士が自ら「考えて(つま

り、スマートになって)」連携しながら動く工場のことです。生産ラインの状況を監視(モ

ニタリング)して生産の進捗状況を管理したり、1つの生産ラインで複数の製品をつくり分

けたり、製品をお客様ごとに要望に沿って自由にカスタマイズすることができるようになる

など、状況に合わせた複雑な動作に対応することが可能になります。また、スマート工場で

は、生産ラインや設備類のみならず、部品や半製品が「考える」ことも意味します。たとえ

ば、部品一つひとつにセンサーが搭載され、機械に対し「自分をどう加工して、どんな製品

にしてほしいか」を伝えます。本文でも取り上げた「作業標準」を部品自体がもつことで、

部品が機械設備に指示し、機械設備は他の部品との順番等を自ら「考え」作業します。

中小企業にとって、インダストリー4.0はまだまだ先の話とお感じになるでしょうか。そう

でもないかもしれません。そこで、中小製造業のものづくりや生産管理がどう変わるかを考

えていくために、まずはインダストリー4.0を理解するための 3つのキーワードをみていき

ましょう。

1. 徹底した顧客志向(製品とサービスのパッケージ化)

たとえば建設機械を製造するあるメーカーでは、全世界で稼働している自社の建設機械を

GPSシステムと通信ネットワークを使って、車両の情報を監視しています。盗難などの事件

に巻き込まれていないか、ムダで非効率な稼働がないか、車両に不具合や消耗したパーツが

ないかなど、各車両に装着したセンサーから集めたデータを、オペレーションセンターでモ

ニタリングします。そして、これらのデータを活用したサービスの提供として、たとえば建

設機械の稼働データから、顧客がこれを利用して作業員の勤怠管理や車両の稼働状況を管理

できるようなシステムを提案したり、顧客への省エネ運転指導サービスを実施したりしてい

ます。また、故障の予兆を把握してメンテナンスアドバイスを提供するということも可能に

なります(メンテナンスに必要となる部品はスマート工場がオンラインで自動的にサプライ

ヤーへ発注します)。

これらのすべてのデータが蓄積され、新製品での機能追加や新サービスの開発に活用され

ます。つまりインダストリー4.0では、顧客に製品だけを提供するのではなく、製品とサー

36

が本気で取り組むことにつながり、成果が

出て活動に弾みがついたのです。

どんな時代でも、問題の先送りは企業に

悪影響を与えるだけで良い結果をもたらす

ことはありません。どんな現場にも障害は

ありますが、できることから着実に取り組

んでいきましょう。

本書が、皆様の生産管理の実践に少しで

もお役にたち、品質・コスト・納期のレベ

ルアップにつながれば、望外の喜びです。

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いようになるかもしれません。しかし、そのような仕組みを作るのは私たち人間であり、そ

れは当然ですが、今回お話してきた生産管理の基本的な考え方に基づいて行われるもので

す。そのため、生産管理の基本や考え方を理解しておく重要性はますます高まっているもの

と思います。

38

ビスをパッケージにしてタイムリーに提供するもので、顧客中心主義を徹底的に実践するこ

とに役立てられます。

2. 外部との連携

今後、スマート工場が、自社の生産設備の状況を外部(極端な話、全世界へ)オープンに

していく動きが活発になると思われます。たとえば、スマート工場では、機械の稼働状況を

リアルタイムで周囲に知らせることができます。キャパに余裕がある場合には、この情報を

公開したほうが稼働率向上のために有効ですし、委託側もロットと希望納期に対応可能なサ

プライヤーをただちに探すことができるというメリットがあります。これにより、これまで

の大手と下請部品メーカーとの関係は、よりフラットでオープンなものになっていくと思わ

れます。

また、資金力が限られる中小企業にとっては、外部資源の活用も重要なテーマですが、た

とえば自社で設備投資をするよりも、他社と生産キャパシティを共有することで、コストを

節約するという点にも活用できるでしょう。

3. 人と機械の共存

スマート工場の実現には、雇用消失を不安視する声と、少子高齢化による労働力不足の解

消策として期待視する声の両方が聞かれます。当然、スマート工場にも人間は必要です。た

だし、ありきたりの現場作業の価値は、スマート工場化が進むにつれ今後失われていく可能

性が高いといわれています。では、スマート工場での人間の役割は何でしょうか。

スマート工場をつくるために重要なことは、工場の設備や部品をインターネットにつなぐこ

とだけではなく、ベテラン作業者のもつノウハウや勘・コツ・経験の情報入力です。職人技

をもつベテラン作業者の動作を「行動パターン」として機械に学習させることで、機械があ

る程度の判定能力をもつようになります。機械が判定を誤った場合には、ベテラン作業者が

改めて情報を修正し、機械はこの修正もパターンとして記憶します。このようにして、機械

がベテラン作業者の「思考パターン」まで学習できるようになると、人間は繰り返し作業か

らしだいに解放されます。インダストリー4.0では人間と機械のコラボレーションを掲げて

いますが、このような点をみると、スマート工場化は大手だけの話ではなく、むしろ職人技

をもつ(そして人手不足に悩まされている)中小製造業にこそ、その意義があるとも感じま

す。

インタストリー4.0により、中小製造業においても生産管理が大きく変わっていくことは

間違いないと思います。たとえば、生産計画はある程度、生産ライン自体が考えて動くよう

になるかもしれませんし、作業標準は部品自体に記録されているので、現場に貼り出されな

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福田康伴(ふくだや

すとも)

・株式会社イズコン

代表取締役

【㈱イズコン会社概要】

コンクリート製品製造業。

前身は 1817年スタートの黒瓦(大津瓦)

の製造業で、1950年出雲製瓦株式会社と

してに会社組織となり、今年創業 199 年

になる。島根県出雲市に本社を置き、現

在、コンクリート製品製造業として山陰

地方 No.1企業であり、営業エリアは、島

根、鳥取、広島、関西、福岡にわたる、中

堅優良企業である。

戦略の表出化と管理部長(当時)の共に信じ

る想いが社長のリーダーシップ発揮の後押

しに

澤田:コンサルのご契約を頂いた時がまさ

に社長がご指摘されているような状況でし

た。そうした中でも、弊社としては、当時専

務であった福田社長のご決断があったから

こそコンサルティングをスタートできたと

考えておりますが、社長の中でのきっかけ

はあったのでしょうか?

福田社長:そうですね、あと 1年遅れていた

ら手遅れだったかもしれないと思っていま

す。当時の私はそれまでの様々な経験を通

じて、取り組みたいことは明確にありまし

た。しかし、その裏付けとなる数値面での根

拠に乏しく、組織を引っ張っていくための

確固たる自信が欠如しており、リーダーシ

ップを発揮するどころか、どちらかという

と後ろ向きの姿勢になっていました。そん

なときに、金融機関からの紹介でみどり合

同経営さんとの出会いがありました。

みどり合同経営さんには、経営再建にあ

たり、数値面における多くの視点や、全社員

からのヒアリングによる問題点の洗い出し

をしていただきました。そして、それらを解

決していくための具体策の考察と、それを

具現化することで再生可能となる数値的な

裏付けを整理し、示していただきました。そ

れを受けて、私自身が確立していくべき経

営の形や自分がリーダーとして取り組んで

いくイメージが見えてきたことが大きな転

換点であったと思います。また、現常務(当

時の管理部長)がともに信じ、後押ししてく

れたことも大きな力となりました。

組織改革~経営理念と経営方針の共有化に

よる一体感の形成

澤田:社長に就任されて以降、会社としての

戦略方針の中で「内製化の徹底」ということ

が常に柱としてあったと思います。そのた

めの組織改革、製造改革、営業改革を進めて

こられました。まず、組織をどのように変え

ようとしたのでしょうか。

福田社長:はい、内製化という自社製品の充

実による経営再建を進めることが、私の経

営方針の最も重要なところでした。

当時は、受注製品を安易に外注し、結果と

40

「内製化の徹底」による生産性向上に向けたコンクリート製品製造業 I社の取組み

(組織・製造・営業をドラスチックに変えた社長の意思決定における想いとは)

☆☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――☆☆

今回、これまでメールマガジンでご案内してまいりました内容を小冊子にまとめさせていた

だきました。その記念と致しまして、現在、我々がお手伝いをさせていただきながら、生産

性の改善等を進めている株式会社イズコンの福田社長様と、支援において数々のアドバイス

をいただいております阿部守先生にお話を伺う機会をいただきました。イズコン様で生産性

の改善をどのように進めてきたのか、現場での苦労話も交えながら、またその背景にある会

社全体の戦略について、じっくりお話を伺いました。

☆☆―――――――――――――――――――――――――――――――――――――☆☆

社長就任時に感じていた課題について

澤田:社長になられて 3年が経過します。社

長になられてから様々な取組みをされてお

られますが、社長になって何が最初に問題

だと思いましたか?

福田社長:業界全体が公共投資の削減とリ

ーマンショックや長期化する円高による景

気の落ち込みにより需要減の中で公共は受

注量の減少し、民需製品はダンピング受注

が当たり前となり、売上の減少と不採算受

注による赤字体質がマンネリ化していまし

た。そのような状況下、会社としての経営理

念、経営方針が明確ではなく、トップの考え

や思いも社員に全く伝わっていないと感じ

ていました。また、経営判断に必要な、経営

計画や営業資料、原価試算などに一貫性と

正確性、スピード感がなく、毎年生じる計画

とのズレに対し何の対応も出来ないままで

した。

さらにこのような中、営業と製造部門の

運営については、個々の担当役員がつまら

ない誇りと過去からの慣例に基づいた自分

勝手な考えのもとで、業務を行っていたた

め、組織が縦割りで連携に欠け、互いの欠点

探しと業績不振に対する責任のなすり合い

をしているような状態でした。そのため、我

が社の再生に対する考えもまちまちで、根

本的な問題にたどり着けず、偏った考えや

限られた知識に基づいて、不採算部門の廃

止や人員カット、経費節減など、モチベーシ

ョンが更に低下する後ろ向なものばかりが

取り上げられていたように思います。結果

として業績は低迷し、社員は昇給無、賞与無

で、多くの不満を抱えていたと感じます。

そのような中で私自身も、何が問題か客

観的にわかってはいたものの、利益をだす

ための経営方針と具体的な対策について、

自信をもって人に説得するだけのものがな

く、なかなか踏み切れないという気持ちが

強かったですね。

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る人を増やしてくれ」と工場から要望が出

てくるような状況です。

阿部先生:要因分析が十分でないと、原因が

特定できず効果的な改善ができない、とい

うことになります。これには少し時間がか

かるとは思いますが、繰り返し言い続けて

いくしかありません。ただ、何年間か継続的

に研修講師をさせていただいている中で最

近感じるのは、従業員さんの発言が積極的、

前向きになってきたことです。従業員さん

の本音としてはどうなのでしょうか。

阿部守(あべまもる)

・MAB コンサルティ

ング代表

・中小企業診断士

・一級建築士

大手建材メーカーの新規事業部門にて、

研究開発・商品企画・商品開発・設計 生

産管理・品質管理・外注管理・施工指導・

技術営業・ルート営業 システム構築な

ど、幅広く経験 、数多くの実践経験に裏

付けられた本質を突くコメントには定評

がある 。

福田社長:ありがとうございます。先生にそ

ういっていただけると嬉しいです。とはい

え従業員はまだ「やらされ感」が大半かもし

れません。ですから根本である経営理念と

経営方針および内製化を進めていくための

意識改革に力を注いでいます。

大きな進歩としては、現場の改善につい

て、社長直轄の定期的な製造会議の場を設

け、生産(生産量、生産性)、品質、コスト、

安全というトータルな生産管理を意識しな

がら、関係者が常に協議できるようになっ

たことです。会議では、データや写真に基づ

いた状況報告と結果報告を求め、改善策を

議論するようにしています。意識、考察力、

手段の引き出しすべてにおいてまだまだ弱

いのは明らかですが、それ以前のつまらな

い伝統や慣習、数値的な裏付けのない発言

に比べ、前向きで客観的な発言が多くなっ

てきたのは事実だと感じています。そして

良いと思ったことは即行動する組織へと、

少しずつですが向かっているように思って

います。

良いものを生産する意識の徹底、職場環

境整備や3Sの徹底など、基本的なことを

とにかくトップダウンで徹底的にやってい

くことで、ボトムアップ的な改善も進んで

きたように感じています。

営業改革~内向きだった目線を顧客目線へ

澤田:内製化を進めていく上で、営業戦略を

変えていくことにも取り組まれました。そ

れについても少しお話いただけますか?

福田社長:内製化を進めていく上では、生産

と営業の両面からの強化が何よりも大切で

あり、特に営業強化なくして「ものづくり」

はできないので、安定的な受注確保を第一

において多様な営業推進に取り組みました。

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して付加価値が上がらない状況になってい

ました。そこで、受注製品は原則外注するこ

となく自社生産する(外注禁止)ということ

を徹底しました。社内で反対意見が多かっ

た中で、内製化を図り自社生産量を増やす

ことが収益確保と会社の再建につながるこ

とを、みどりさんの支援のもと、数字で具体

的(全社・部門別)に示し、取組に対する理

解を図りました。

このように意識をかえ、これを実行して

いくための組織改革としては次の 3 点を実

行しました。

①明確な経営理念と経営方針を掲げ、目

指すべき姿とその実現のために何をどの

ように取り組むのかを全社員で共有する

ことを第一とした。

②一体感のある組織、そして硬直化した

組織の活性化や次世代の部門リーダー育

成を目的とし、4名の若手執行役員を登用

することで、活力と連携のとれる組織転

換を図った。

③生え抜きで実行力のある営業統括の常

務を専務に昇格させることで、社内外か

ら見たイズコンの一体感を高めた。

阿部先生:特に若手の登用については、とて

も思い切った人事という印象があります。

澤田:製造部門の責任者にも若手を登用さ

れましたね。新しい体制で進めてこられた

製造改革とはどのようなものでしたか。

製造改革~伝統や慣習に基づく発言から、

データや事実に基づく議論で、製造会議も

活発に。

福田社長:製造部門については、組織、意識、

管理のすべての面で改革が必要と感じてい

ました。

そこで、定年延長していたベテラン工場長

を退任させ、すべての工場において若手の

工場長を登用しました。そして、外注禁止を

言い続け、内製化のためのあらゆる取組み

を行ってきたつもりです。特に、阿部先生の

ご指導のもと、製造管理研修を恒久化させ

て、スタッフの知識と意識の強化・育成を図

ったことは、内製化の進展に、意義が大きか

ったと思います。

また、先生の研修をうけて、生産工程の見

える化と共有を図りました。具体的には、手

書きから社内ネットワークシステム活用に

よる見える化と共有化を行い、営業からの

信頼向上と生産アップにつなげました。も

ともと営業サイドからは、「受注しても作っ

てもらえない」という製造部に対する不信

感が強く存在しましたので、管理の一元化

と見える化を進め、営業サイドの理解を高

めることに注力しました。その結果、最近で

は、営業からの不満は少なくなってきたと

感じます。

ただし、細かい部分になると、まだまだだ

と感じています。たとえば、製品の手直し作

業は、阿部先生の研修でもご指摘いただい

た「付加価値を生まない間接作業」の代表例

ですが、いまだに忙しくなると「手直しをす

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もっと繰り返し言わないとダメだなと思い

ます。言うのは簡単ですが、実際にやらせる

のは大変です。本当は部長さんたちが言え

る立場になってくれたらよいと思っていま

す。

すぐにはそんなに変われませんが、少しず

つは変わっています。実行力のない会社に

先はありません。実行力のある会社にする

ために、さらに邁進していきたいと思って

います。

澤田:福田社長、阿部先生、ありがとうござ

いました。弊社としましても、イズコン様が

将来も長きにわたり成長できる企業になる

よう、阿部先生とともにご支援を続けてい

きたいと思います。

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それまでは利益率の高い自社オリジナル製

品主体の営業(設計折込営業)をしていまし

たが、JIS製品などの汎用性が高く販売価格

の低い製品の受注にも力を入れ、それを原

則として自社生産したということも一例で

す。そのほか、新規市場の開拓として、大手

の OEM受注にも舵を切りました。大手同業

メーカーの中で中国地区において生産拠点

をもたないメーカーからの委託生産を行う

ことですが、ここでも内製化にこだわりま

した。これは単に生産量を確保するのみで

なく、全国大手メーカーとタイアップする

ことで営業方法や生産管理など多くのこと

を学べる機会にもなりました。

澤田:営業の方とのお話の際に、社長はこと

あるごとに「お客様の目線やニーズ」を視点

に話をされていると感じます。当初は顧客

志向から少し外れていた印象がありますが、

これもここ数年間で大きく変わったことの

1つだと思います。

福田社長:内向きだった目線や比較の物差

しを、顧客の目線やニーズ、同業他社の優秀

な取組み、社会の一般的な常識などに照ら

し合わせることで、井の中の蛙にならない

ように、わが社の常識は世間の非常識であ

ることなどを理解させ、様々なことに取り

組みました。元来社員もそのような風土と

なることを望んでいたのか、意見も出てく

るようになり、全体的に風通しの良い組織

になってきたと感じています。

今後の更なる成長に向けて~

澤田:聞いているとスムーズに変わってき

た印象になりますが、横でご支援してきた

立場で見ていると、社長のぶれない信念に

根負けして変わってきた印象がありますね。

この3年間で業績、財務体質も健全企業

となりました。最後に、社長が考えている今

後の展開について教えてください。

福田社長:今後は、公共工事の仕事は減少す

るため、民間工事での仕事をいかに取って

いくのかということに尽きると思っていま

す。その上で、喫緊の課題は営業力の強化で

す。たとえば、電気自動車の充電器に関連し

た仕事がきています。充電器の基礎部分に、

当社の製品が使用されるのです。社内では、

「こんなチマチマした仕事はやりたくない」

という声もありますが、私はそうは思いま

せん。今後、サービスエリアなどに充電機が

増えていくでしょうから、他のメーカーが

やらない間につながりを作っておきたいと

思っています。この案件をもってきた社内

の営業担当者には「これは重要だ」と強く言

っています。そういう嗅覚を養っていくよ

うな人材育成が必要だと感じています。

みどり合同経営さんにお世話になって3

年以上たち再建はできましたが、本当の成

果を出すには、5年かかると思っています

し、5年後には本当の結果を出すことを目標

にしてやっています。

先日、会議で何度も説明してきた経営方

針について営業に質問してみましたが、全

くといっていいほど答えられませんでした。

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◇◇◇著者経略歴◇◇◇

澤田兼一郎

・中小企業診断士

・㈱みどり合同経

専務取締役

犬飼あゆみ

・中小企業診断

第二地方銀行勤務後、株式会社みどり合同経営

入社。中小企業を中心に、経営計画や事業計画

の実行性を高める、現場主義のコンサルティン

グを実施。 特に、中小建設業、製造業の経営

管理体制の構築、実行力を高めていく組織再構

築等のノウハウ等について評価を受ける。

自動車メーカーの購買(部品調達)にて勤務

後、株式会社みどり合同経営入社。

企業評価における事業 DD のスペシャリス

ト。また、事業 DDでの経営課題の洗い出し

をもとに、事業計画や経営計画(利益計画&

行動計画)を策定し、その実行支援を行う。

「今日から実践!基本からの生産管理 ~中小製造業の生産管理のポイント~ 」

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2016年 2月 1日 第 1版 第 1刷 【非売品】

著者 中小企業診断士 澤田兼一郎 ・ 中小企業診断士 犬飼あゆみ

アドバイザー MABコンサルティング代表 中小企業診断士/一級建築士 阿部守

監修者 中小企業診断士 藤井一郎

発行所 株式会社みどり合同経営 http://ct.mgrp.jp/

〒101-0046 東京都千代田区神田多町 2丁目 1番地

TEL 03-3258-5271 FAX 03-3258-5279

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本書の一部あるいは全部について、株式会社みどり合同経営から文書による承諾を得ずに、いかな

る方法においても無断で複写、複製することは禁じられています。

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