水耕栽培液中のno3 -とnh4 +の比率が洋種ナバナの成育 と...

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水耕栽培液中のNO3 -とNH4 +の比率が洋種ナバナの成育 と窒素代謝に及ぼす影響 誌名 誌名 植物環境工学 ISSN ISSN 18802028 著者 著者 藤井, 琢馬 名田, 和義 平塚, 伸 巻/号 巻/号 31巻2号 掲載ページ 掲載ページ p. 101-107 発行年月 発行年月 2019年6月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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水耕栽培液中のNO3 -とNH4 +の比率が洋種ナバナの成育と窒素代謝に及ぼす影響

誌名誌名 植物環境工学

ISSNISSN 18802028

著者著者藤井, 琢馬名田, 和義平塚, 伸

巻/号巻/号 31巻2号

掲載ページ掲載ページ p. 101-107

発行年月発行年月 2019年6月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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植物環境工学 (J.SHITA)31(2):101-107. 2019. 101

水耕栽培液中の NOs―と NH4十の比率が

洋種ナバナの成育と窒素代謝に及ぼす影響

藤井琢馬・名田和義*•平塚伸

三重大学大学院生物資源学研究科 514-8507 三重県津市栗真町屋町 1577

Effects of Ratios of N03 -to NH4 + in the Nutrient Solution on

Growth and Nitrogen Metabolism in Rapeseed Plants

Takuma FUJII, Kazuyoshi NADA* and Shin HIRATSUKA

Graduate School of Bioresources, Mie University, Tsu, Mie 514-8507, Japan

Abstract

To determine the optimal ratio of nitrate (N03) to ammonium (NH4) for a nitrogen fertilizer treatment of rapeseed, plants were cultivated hydroponically in five nutrient solu-tions that varied in terms of the N03:NH4 ratio. The pH of each nutrient solution was 6.2 -6.3 throughout the cultivation period. The treated plants were analyzed regarding their fresh weight, photosynthetic parameters, cation and anion concentration, photosyn-thetic pigment concentration, and nitrogen metabolism. Plant growth and photosynthetic activities were significantly inhibited by the treatment with NH4 alone. Additionally, growth, photosynthetic activities, and chlorophyll concentration were greater for the plants cultivated in three nutrient solutions supplemented with both N03 and NH4 than for the plants grown in nutrient solution with N03 alone. Moreover, the highest values for the analyzed parameters were obtained when N03:NH4 ratio was 1:1. The nitrate reductase activity of plants treated with N03 alone was significantly lower than that of the plants treated with both NQ3 and NH4. Thus, the application of N03 alone resulted in limited growth and etiolated leaves. These findings indicated the optimal N03:NH4 ratio for culti-vating rapeseed plant is 1:1.

Keywords: green and yellow vegetables, nitrate reductase, nitrogen application, prefer-ence for nitrate

緒 ――[

ナバナはアブラナ科野菜の一種であり,三重県では抽苔前

後の若い茎葉を食用として利用する葉茎タイプの洋種ナバナ

(セイヨウアブラナ, Brassicanapus)の生産量が全国ーであ

2018年12月208受付

2019年 1月30日受理

*Corresponding author: K皿uyoshiNada([email protected])

る1l_1989年に三重県園芸農産物ブランド化推進事業の指

定を受けて以来,採種と種子配布,栽培技術の普及が県下

統一的に行なわれるようになり,「三重なばな」として積極的

な産地拡大が図られてきた 2)_ 洋種ナバナはビタミン,ミネラ

ル,食物繊維などを豊富に含み,食品成分データベース 3)に

よるとビタミンCおよびカルシウムにおいては新鮮重 100g当た

りでそれぞれ 110および97mg含まれる,栄養価の高い緑

黄色野菜である.近年消費者の健康志向が高まる中で,栄

養価や抗酸化力など,ナバナの品質に影響を及ぽす栽培上

の要因,特に施肥条件を明らかにし,さらなる収量と品質を

向上させることはその生産振興を図る上で非常に重要であ

-33-

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102 藤井・名田・平塚

る.しかしながら.洋種ナバナの施肥体系は,油料植物として

のセイヨウアブラナを基本としており丸緑黄色野菜としての最

適な施肥条件を検討した例は少ない.小田原ら 5)は洋種ナ

バナの施肥条件において.窒素施与量を調査しているが,そ

れ以上の詳細な情報は示されていない.

窒素 (N)は.植物の成育にとって最も重要な肥料成分で

あり,小田原ら 5)によって検討されたように施肥条件としてま

ずN施与方法を確立することが先決である.植物はNを主

に硝酸態 N (NQ3), アンモニア態 N (NH4)の形で吸収す

るが.野菜の多くは NH4をN源とした場合にアンモニア障害

が発生し.成育の低下が引き起こされる 6,1J_Nむまたは

NH虎 N源の場合に成育が良好な作物をそれぞれ好硝

酸性または好アンモニア性作物と呼び,トマト,インゲン.カ

ブ,カラシナ.ホウレンソウ.タマネギなど,多くの野菜類が好

硝酸性作物と考えられている豆そのため,洋種ナバナを含

め.野菜生産現場では主に NQ3がN源として用いられてい

る.一方,永田は, NQ3のみで処方されるホーグランド培養液

で洋種ナバナを水耕栽培したところ,葉の緑色が薄いことを

認めた(未発表).このことは,好硝酸性作物とされる洋種ナ

バナにおいて,硝酸態窒素単用施与が必ずしも最適な施肥

条件ではないことを示唆する.そこで本研究では,洋種ナバ

ナに対して最適な N形態 (NQ3/NH4比)を明らかにするこ

とを目的とした.位田ら 8)が提案した 5段階の NQ3/NH4比

に設定された培養液を用いて洋種ナバナを水耕栽培し,その

初期成育および業の窒素代謝に及ぼす NQ3/NH4比の影響

を調査した.

材料および方法

1. 植物材料

早生系品種の洋種ナバナを,バーミキュライトを培地とした

セルトレイに播種し,ホーグランド液 (1/2倍濃度)を灌液し

て栽培した.その後第 4本葉展開時(播種後 36B)にコ

ンテナ (25L容贔, 37X53X13cm)に移植し, 1コンテナ当

たり 12個体で水耕栽培を開始した.位田ら 8)が提案した培

養液組成に基づき, NQ3/NH4比を 10:0,7:3, 5:5, 3:7およ

び0:10の5段階(総窒素濃度は 12mMで一定)に調製

した培養液を用いて水耕栽培し,それぞれ 10:0区, 7:3区,

5:5区 3:7区 0:10区とした(第 1表) • 10:0区, 7:3区

5:5区, 3:7区, 0:10区の培養液の pHは,それぞれ6.3,

6.2, 6.2, 6.2, 6.2であったまた,培養液は 6日ごとに全量

交換したため,栽培期間中の pHの大きな変動はなかった.

播種後 51日に光合成関連要因を測定し,播種後 53日に

サンプリングを行った.サンプリングについては,各処理区 4

個体を葉,茎および根に分けて新鮮重を測定し,ー30℃で保

存した後凍結乾燥した.凍結乾燥試料は粉砕し,無機塩

濃度測定用試料とした.4個体の完全展開葉から </>l.5cm

のリーフデイスクを, 1個体当たり 3枚採取し,光合成色素濃

度測定用試料として液体窒素で急速冷凍後ー30℃で保存し

たまた,成育阻害が著しかった 0:10区を除いて,硝酸還元

酵素 (NR)およびグルタミン合成酵素 (GS)測定用の試料

として葉身の一部を液体窒素で急速冷凍後ー80℃で冷凍保

存した.

2. 光合成関連要因の測定

洋種ナバナの完全展開葉を開放型の小型同化箱

(PLC-4, 島津製作所,日本;測定面積 6.25cm2, 同化箱容

量 2.5x8.0x0.7cm)を用い,同化箱内の C伍濃度および相

対湿度を携帯型光合成測定装置 (LCA-4,島津製作所)

で測定した.同化箱に流入する空気は大気とし,水蒸気吸

着剤を用いて相対湿度を 30%に調節し,空気流入量は400

mLminー1に設定した.光源にメタルハライドランプ (LS-

M180, SUMITA)を用い,光ファイバーを通して光合成有効

光量子束密度 1,100μmo!m -2 sー1の光を測定葉面に照射し

た.得られた測定値から,みかけの光合成速度,呼吸速度お

よび気孔伝導度 (gs)を求めた.みかけの光合成速度に呼

吸速度を加算し,真の光合成速度 (PG)を算出したま

た,ガス交換測定と同じ葉を対象に,クロロフィル蛍光測定器

(PAM-2000, Walz, ドイツ)を用いて光化学系 2(PS2)

の最大量子収率 (FV/FM)を測定した.

3. 無機塩濃度の測定

凍結乾燥粉末試料を蒸留水で抽出し撹拌後, 45℃・90

分間振とうさせた後, 4℃・ 10,000xgで20分間遠心分離

Table 1 Composition of nutrient solutions for the experiment.

(mM)

Ca(NQ3)2 MgS04 NaH2P04 N03: NH4 KN03 NH晶 P04 NaN03 NH4Cl

・4H20・7H20・2H心

1 1 0 1.6 1 1 1.6 0.4

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Treatment

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水耕栽培液中の NQ3―と NH/の比率が洋種ナバナの成育と窒素代謝に及ぽす影孵 103

し,上澄み液を 0.45mmメンプレンフィルター (コスモナイスフ (100 mM Tris-HCI pH 7.6, 1 mM EDTA. 1 mM MgC'2,

ィルターW,ミリポア)でろ過して高速液体クロマトグラフィー lOmMメルカプトエタノール)を加えて抽出し, 13,000rpm

(HPLC)の注入試料とした.HPLCにおいて,カチオン分析 で25分間遠心分離した上澄み液を分析混合液 (0.25M

では,カラム (Shim-packIC-C3, 島津ジーエルシー)を40 イミダゾールーHCI緩衝液 pH7.5,0.3 Mグルタミン酸ーNa

℃に保持し,移動相には 2.5mMシュウ酸を用い,流速は 1.0 pH 7.0, 30 mM ATP-Na pH 7.0, 0.5 M MgSO.)を加えて,

mLmin-1としたまた,ア ニオン分析ではカラム (IC 25℃で 5分間インキュベートしたまた,プランクには, ATP-

I-524A, Shodex)を40℃に保持し,移動相には 1.2mMフ Naの代わりに蒸留水を加えた分析混合液を用いたインキュ

タル酸水素カリウムを用い,流速は 1.5mLmin-1とした試料 ベートしたサンプル液にヒドロキシルアミン塩酸塩 (1Mヒドロ

液を 20mL注入し,電気伝磁度検出器 (CDD-lOAVP, キシルアミンおよび lMHCI)を加えてさらに 15分間インキュ

島津製作所)を用い,クロマ トパック (C-R8A,島津製作 ベートした後,速やかに,酸性 FeCh溶液 (2%(w/v)トリク

所)により定龍したイオンクロマトグラフ用標準試科(島津 ロロ酢酸および 3.5% (w/v)FeCh)を加えて 15分間 4,000

製作所)を HPLCにかけ,検温線を作成し, これを基に葉, rpmで遠心分離した.分光光度計 (UV-1200,島津製作

茎,根中の無機塩濃度 (mgg―1DW)を求めた. 所)を用いて,プランクに対する吸光度を 540nmで測定し,

4. カロテンおよびクロロフィル濃度の測定 LI 0D540 g―1FWmin―1で表した.

修正を加えた Nagataら9)の手順に従ってクロロフィルおよ

びBーカロテンi農度を分析した.ー30℃で凍結保存したリーフ 士口租 果

デイスクの入ったマイクロチュープに液体窒素を流し込み凍結

させ,電動ミキサー (23M,アズワン)で磨砕した そこに抽 培養液の NQ3/NH4比によって,特徴のある外観症状が

出溶液 (アセトン /n-ヘキサン; 4:6, v/v)を加え撹拌した 見られた.7:3区, 5:5区, 3:7区では健全な成育を示した

後,4℃ ・10,000xgで5分間遠心分離した得られた上澄 が, 10:0区 (N伍単用)では地上部が黄化し,以前 NQ3

み液を回収し,抽出溶液(アセトン)で定容後,速やかに分 単用区で観察された症状と一致した(未発表).また,0:10区

光光度計 (UV-1200,島津製作所)で 663,645, 505およ (NH4単用)では芯葉が枯死し,下位葉では葉脈間にクロロ

び453nmの吸光度を測定した.Nagataら9)が示した式に シスが見られ,葉縁部が枯死した.

従い濃度 (mg100 mL-1)を換算し,葉面積当たりの濃度 第 1囮に培養液の NQ3/NH4比が洋種ナバナの新鮮重に

(mgm―2)を求めた 及ぽす影響を示す.10:0区から 5:5区まで NH4の比率が高

5. 硝酸還元酵素 (NR)活性の測定 まるとともに新鮮重が高くなる傾向が認められ, N伍単用より

NR活性は, Mengら10)の方法を一部修正して行った もNO此 NH4を混用する方が成育が促進された. 一方

-80℃で凍結保存したサンプルを氷中で磨砕し,抽出緩衝液

(25mMリン酸カリウム pH7.5,5mMシステイン,5mM

EDTA-Na)を加えて抽出し, 4℃, 4,000rpmで 15分間遠

心分離した上澄み液を採取し,分析混合液 (0.1M KN03

リン酸緩衝液および0.2mgmL―1NADH)を加えて, 25℃で

30分間インキュベートしたまた, プランクには, 0.2mgmL―1

NADHの代わりにリン酸緩衝液を加えた分析混合液を用い

た.インキュベートしたサンプル液に 1%(w/v)スルファニルアミ

ド (3NHCI溶解)および0.2% N-1ーナフチルエチレンジア

ミンを加えてさらに 15分間インキュベートした後, 5分間 4,000

rpmで遠心分離した遠心分離した後上澄み液を速やか

に分光光度計 (UV-1200,島津製作所)で 540nmの吸

光度を測定した.N02―の標誰液の吸光度より作成した検量

ppmN02―g-1FWmin―1で表した

6. グルタミン合成酵素 (GS)活性の測定

GS活性は,Mengら10)の方法を一部修正して行った.

-80℃で凍結保存した試料を氷中で磨砕し,抽出緩衝液

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10:0 7:3 5:5 3:7 0:10

N03/NH4 ratio

線より溶液の N02―濃度求め,新鮮重当たりに換算 して Fig. 1 Effect of the NQ3 to NH4 in the nutrient

solution on fresh weights. Different letters indicate significant differences among treatments in total fresh weight at P < 0.05 as determined by the Tukeyー応amertest.

-35-

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104 藤井 ・名田 ・平塚

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10:0 7:3 5:5 3:7 0:10 NO/NH4 ratio

Fig. 2 Effect of the NQ3 to NH4 in the nutrient solution on gross photosynthetic rate (PG), stomata! conductance (gs) and maximum quantum yield of photosystem 2 (FV /FM).

Different letters indicate significant differences among treatments at P < 0.05 as determined by the Tukey-I<ramer test.

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N03/NH4 ratio

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NOiNH4 ratio

Fig. 3 Effect of the NQ3 to NH4 in the nutrient solution on anion concentration. Different letters indicate significant differences among treatments in total anion concentration at P < 0.05 as determined by the Tukey-Kramer test.

NH直用 (0:10区)において, NQ3を与えた区に比較して

新鮮重が有意に低下した.

第 2図に培養液の NQ3/NH4比が洋種ナバナの光合成パ

ラメーターに及ぽす影響を示す.PGは, 10:0区に比べ N03

とNH戊混用した区で有意に増加したが, 0:10区では,有

意に低下した.gsおよびFV/FMは, 10:0区に比較して

NO此 NH4を混用した区では有意差はなかったが,0:10区

では PGと同様に有意に低下した.

硝酸イオン (NOり 濃度は茎において最も高く, 葉と根で

はほぽ同様の値となった (第3図).また,培蓑液の NH4の

割合が高まるほどN03―濃度は低下し, 0:10区ではほとんど

検出されなかったこのことから,施用 N形態として, NH4の

割合を高めることは植物体の硝酸低減に効果的であることが

明らかとなった.硫酸イオン (sol―) およびリン酸イオン

(PO/―)濃度は N03/NH4比による一定の傾向は認められ

なかったアンモニウムイオン (NH4+)涙度は, 10:0区から

3:7区までほぽ同様の値となった (第 4図).しかし,0:10区

において地上部 (葉,茎) では NH/i農度が顕著に高く,

根においても NH4十の菩積が認められたカルシウムイオン

(Ca2+), マグネシウムイオン (Mg2+)濃度は葉で最も高く,ま

た,処理区間で比較すると10:0区で最大となり,培墜液の

NH, の割合が高まるほど減少する傾向にあった.N比施与

の増加によるCa2+.Mg2+ i農度の減少は, Zhangら11)のキャ

ベツにおける報告と一致する結果であった

第 5圏に培養液の N03/NH,比が洋種ナバナのクロロフィ

ルおよびBカロテン涙度に及ぼす影響を示す.色素含緻は,

10:0区と比較して, NO此 NH,を混用した植物体で有意に

増加したまた, 0:10区の色素含鼠は,10:0区と同等の値と

なった.

第 6図に培養液の N03/NH,比が洋種ナバナの業におけ

るNRおよび GS活性に及ぼす影椰を示す.NR活性が最も

高かったのは 5:5区だった. 続いて,7:3区と3:7区が高かっ

たが,この2処理区間にほとんど差はなかった.10:0区は最

も低い値となり,ほとんど検出できなかった.

一方,NH4を混用するとGS活性は高まる傾向にあった

が,各処理間で有意な差はなかった.

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水耕栽培液中の NQ3―と NH4十の比率が洋種ナバナの成育と窒素代謝に及ぼす影響 105

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Fig. 4 Effect of the NQ3 to NH4 in the nutrient solution on cation concentration. Different letters indicate significant differences among treatments in total cation concentration at P < 0.05 as determined by the Tukey-Kramer test.

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ー 10:0 7:3 5:5 3:7 0:10 N03/NH4 ratio

Fig. 5 Effect of the NQ3 to NH4 in the nutrient solution on photosynthetic pigment concentration. Different letters indicate significant differences among treatments at P < 0.05 as determined by the Tukey-Kramer test.

考察

好硝酸性作物とされてきた洋種ナバナは, NH4の単用では

成育が著しく低下したが, N伍の単用でも葉が黄化するととも

に新鮮重が低下し,物質生産上あまり好ましくない結果となっ

た(第 1固). 一方 NO此 NH4を混用した場合には NQ3

単用区に比較して成育が旺盛となった.N伍単用に比較し

てNO此 NH4を混用した方が成育が旺盛であることは,多

くの植物でも報告されているが 7.11.12)_ 本研究の結果は,洋

種ナバナは,但野• 田中 6)が定義した好硝酸性作物の典型

的なタイプには当たらないことを示唆したまた,洋種ナバナ

の成育面からみると,最も新鮮重の高かった NQ3/NH4比

1:1 (5:5区)が最適な比率であるといえる.

N伍単用区で成育が低下した原因は,光合成色素濠度

が低下し(第 5図),光合成速度が低下した(第 2図)こと

であると考えられる.N伍単用で葉色が薄くなる現象は,トウ

モロコシやセリで認められており 1i,洋種ナバナも同様のタイプ

である.葉の黄化の原因として,培養液 pH上昇に伴う鉄欠

乏の可能性が考えられるが,本研究における 10:0区の培養

液pHは6.3前後で栽培期間をとおして安定していたことか

ら,その可能性はないと考えられる.一方,光合成色素合成

は窒素代謝活性の影孵を大きく受けることから,本研究では

葉の NRおよびGS活性を調査した(第 5屈).その結果,

-37-

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106 藤井・名田・平塚

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Fig. 6 Effect of the N03 to NH, in the nutrient solution on activity of nitrate reductase (NR) and glutamine synthetase (GS) in rapeseed leaf. Different letters indicate significant differences among treatments at P < 0.05 as determined by the Tukey-Kramer test.

GS活性は NQ3/NH4比を変えてもあまり差がなかったが,

NR活性は NO此 NH4の混用区に比較して, N03単用区で

顕著に低下し,このことが光合成色素濃度低下の直接的な

原因となったと考えられる. 一般に硝酸同化系の追伝子群の

発現は, NQ3(または亜硝酸)により活性化され,窒素同化

産物(グルタミンあるいはその代謝産物)により抑制され

る13.14)が本研究の結果は硝酸同化におけるこの一般論と

一致しないこの原因について明確なことはわからないが,成

育初期の Nむ単用区では豊富な NO叶こよってNR活性が

急激に高まり,これによりグルタミンなどの窒素同化産物が葉

内に過剰に蓄積されることが予想される.グルタミンは NRの

追伝子発現を強く抑制することが知られているので直フィー

ドバック阻害により NR活性が低下したと推察した.

緑黄色野菜としての品質面を考えると, NQ3とNH4を混用

することによってクロロフィルとBカロテン浪度が増加,また,

硝酸塩濃度が低下したことは,外見的および栄養機能的な

品質が高まったということができる(第 3および5図) • NOぶ

NHd昆用の 3処理区の中で,光合成色素濃度に処理間差

はほとんどないが,成育面での結果を考慮すると,洋種ナバ

ナの最適な N03/NH4比は 1:1であると判断したここで設定

した培養液組成は,水耕栽培による洋種ナバナの施肥条件

を検討する上で,極めて重要な情報である.Morenoら15)は

水耕栽培したプロッコリーにおいて,培養液への NaCl添加

が,収盤増と品質向上が見込める栽培技術であると提案し,

その実用化に向けて知見を蓄積している本研究において

洋種ナバナの水耕栽培に適した培養液が判明したことで洋

種ナバナにおいても Morenoら15)が行っているような収量性

および品質向上のための新たな施肥体系開発が可能とな

る. 一方,本研究の結果は,水耕栽培によるものであり,土耕

栽培される洋種ナバナ栽培現場にそのまま適用できるわけで

はない.水耕栽培で明らかになった洋種ナバナの肥科反応性

を土耕栽培現場で実証試験するような丁寧な検討が必要で

あり,このことは今後の課題としたい.

摘 要

洋種ナバナの窒素施肥における最適な硝酸態窒素

(NQ3)とアンモニア態窒素 (NH4)の比率を明らかにする目

的で,異なる 5段階の N03/NH4比に設定された培蓑液

(pHは6.2~ 6.3)を用いて,洋種ナバナを水耕栽培し,成

育光合成光合成色素漉度および窒素代謝に及ぼす影押

を調査した各処理において,培養液 pHは成育期間をとお

して変動はなかった.N比単用処理では,成育が著しく低下

し明らかな生理障害が認められた.NQ3を施与した 4処理

区において, NO逹単用した区よりも N03とNH4を混用した

区の方が成育が旺盛で,光合成速度,クロロフィルおよびB

カロテン濃度も高くなった.これらのパラメーターが最も高くなっ

たのは, NQ3とNH戊 1:1で混用した区であった.N伍単用

区の硝酸還元酵素 (NR)活性は極めて低く,このことが成

育停滞,光合成色素の低下の原因となったと考えられた以

上より,洋種ナバナの栽培には, N03/NH4を1:1で混用する

ことで成育,品質ともに向上することが明らかとなった

1)

引用文 献

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Page 8: 水耕栽培液中のNO3 -とNH4 +の比率が洋種ナバナの成育 と ...水耕栽培液中のNQ3―と NH/の比率が洋種ナバナの成育と窒素代謝に及ぽす影孵

水耕栽培液中の NOぷと NH/の比率が洋種ナバナの成育と窒素代謝に及ぼす影響 107

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