odnj2015発表資料「組織開発 (od) の倫理」土屋耕治

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組織開発 (OD) の倫理: 現状の理解と今後の展開へ向けて 土屋 耕治 (南山大学) [email protected] OD Network Japan 2015年次大会 2015/08/23, 14:00-15:15@大妻女子大学 F642 (Appendixなどは,HPを参照のこと)

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組織開発 (OD) の倫理: 現状の理解と今後の展開へ向けて

土屋 耕治 (南山大学)[email protected]

OD Network Japan 2015年次大会2015/08/23, 14:00-15:15@大妻女子大学 F642

(Appendixなどは,HPを参照のこと)

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自己紹介

• 土屋耕治 (南山大学人文学部心理人間学科講師)• 専門: 社会心理学,グループ・ダイナミックス,    体験学習。

• 研究: 小集団の力とされる “集団的知能 (collective intelligence)” が発揮される過程に注目し実験を行う

• 実践: Tグループのトレーナーも行いながら,組織開発の実践も経験し,関心を寄せる。

• 倫理に関するお話をするに至った経緯

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本日の内容

• 0. はじめに• 1. 倫理とは• 2. ODの倫理• 3. “OD / HSD (Human Systems Development) の専門家による価値観と倫理の声明”

• 4. 倫理的ジレンマ • 5. ODの価値観と倫理に関する現状と今後に向けて• 6. まとめと考察• 7. ディスカッション

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0. はじめに

• 組織開発 (OD) の社会的認知度の高まりは,専門家の果たす責任が大きくなることも意味している。

• 本発表では,日本におけるODの展開を鑑み,ODの倫理 (ethics) に関する現状を報告し,専門家としての質を担保したり,社会への説明責任を果たしたりしていくために倫理について議論する場が必要であることを示す。

• その上で,現在,ODのハンドブックなどに示されている倫理綱領 (ethical code) を紹介しながら,ODNJが倫理に関してどのような面で貢献できるのかという点について議論をしたい。

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1. 倫理とは

1.1 職業倫理

• 職業倫理 (professional ethics) とは,専門的職業に就く人が,自ら定め,遵守すべき行動規則。

• ODが実践を伴うものであることを考えると,他の対人支援職 (e.g., 慶野, 2008) と同様,倫理について考える場が必要であろう。

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1.2 職業倫理の目的

• Sinclar, Simon, & Pettifor (1996) は倫理規定の主要な目的として,4つを挙げている。

• (a): 集団が専門職としての地位を築くことに寄与する • (b): 個々の専門職業人の助力となり手引として働く• (c): 専門職としての地位を保つための責任を果たす• (d): 個々の専門職業人が倫理的ジレンマを解決する助けとなる道徳規準を与える

• 専門職の社会的地位がある程度確立されてこそ質量ともに安定したサービスが提供されると考えると,専門家,サービスを受ける双方にとって,倫理規定が必須のものであろう (慶野,2008)。

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1.3 倫理の2つの構成要素 (コウリーら,2004)

• 「命令倫理」: • 専門家として最低限の基準に従って行動するレベル。「秘密を守る」など,具体的な行動の基準がこれにあたり,違反すれば何らかの制裁が加えられる可能性がある。

• 「理想追求倫理」: • 基本的人権の尊重,専門家としての資質向上など,専門家として最高の行動基準を目指すレベル。人々の幸福と福祉に貢献するために,専門家として最高の基準を目指し,熟練してもなお自分を高めようとする姿勢が求められている。

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1.4 倫理綱領 (ethical code,倫理コード) の目的に含まれるべきもの (1)

• クライエントにとって最善の利益となるものを提供することによって,彼らの福祉を保護すること。

• いかなる理由であれ,もし,倫理コードに従わないと決定する場合には,必ず自分の行為に合理的な根拠がなければならない。

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1.4 倫理綱領 (ethical code,倫理コード) の目的に含まれるべきもの (2) • さらに,以下の3つの目的を満たすものでなくてはならないとされる。

• 1. 健全で倫理的な行為について専門家を教育すること• 2. 専門家としての説明責任 (accountability) を確立する基盤を提供すること:

• 実践家は,自身の行動だけに気を付けていいのではなく,同僚に倫理的行動を促すことも一つの義務である。

• 3. 実践の向上を促す触媒になること。• 単純な答えのでない性質のジレンマについての疑問を考えることで,自分のスタンスがはっきりと見えてくる。

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1.5 倫理綱領の特徴と活用 (1) • 自分の専門分野の倫理コードに明るくなっておく必要がある (コウリーら,2004)。

• ただし,実践でのこれらのコードの適用には困難がつきものである。

• 綱領は,詳細で具体的というより,大まかでおおざっぱ。• こうしたおおざっぱなガイドラインをどう解釈して日々の実務に適用していくかを決めるのは,次の2つ。

• 「倫理的自覚 (ethical awareness)」• 「問題解決技能 (problem-solving skills)」• 専門家としての責任ある行動をとれるようになるマニュアルではない。

• 倫理的責任を果たすのに必要であるが,十分ではない。

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1.5 倫理綱領の特徴と活用 (2) • より具体的には,次のような事柄に直面する可能性がある。• 倫理綱領を拠り所としているだけでは解決できない問題もある。

• さまざまな組織の倫理綱領同士だけでなく,一つの倫理綱領の中でも矛盾が発生する場合がある。

• 一般的に倫理綱領は,過去の事例への反応から生まれるものであり,未来に起きるかもしれない問題を予見して作られたものではない。

• 実践家の個人的な価値観が,倫理綱領における特定の基準と対立する場合がある。

• 同じ職能団体の中であってもさまざまな意見があるため,倫理基準の全てについて全員が同意見というわけではない。

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1.6 周辺領域の職業倫理の特徴 (臨床心理実践の例)

• 臨床心理実践における職業倫理の諸原則 (Pope, Tabachnick, & Keith-Spiegel, 1987; Redlich & Pope, 1980)

• 第1原則: 相手を傷つけない,傷つけるようなおそれのあることをしない。

• 第2原則: 十分な教育・訓練によって身につけた専門的な行動の範囲内で,相手の健康と福祉に寄与する

• 第3原則: 相手を利己的に利用しない• 第4原則: 一人一人を人間として尊重する• 第5原則: 秘密を守る• 第6原則: インフォームド・コンセントを得,相手の自己決定権を尊重する

• 第7原則: 全ての人々を公平に扱い,社会的な正義と公平と平等の精神を具現する

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2. ODの倫理2.1 ODプロフェッショナルにおける

倫理の位置づけ

• 組織開発の倫理に関して,Gallermann, Frankel, & Ladenson (1990) は,次のような図 (Figure 1) と共に,ODの実践家志望者がプロフェッショナルとなっていく過程を描いた。

• プロフェッショナルになる過程の中心に,価値観と倫理を置いている。

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OD-HSD実践家または

実践家志望者

倫理

価値観

望ましい実践のスタンダードの設定とモニター

望ましい実践へ向けた公共の関心の教育

知識を開発し,維持すること

実践と実践家のモニター

OD-HSDプロフェッショナル

プロフェッショナルの教育とトレーニング

ヒューマン・システム (個人,グループ,組織,コミュニティ,社会)

テクノロジー,経済,文化

 Figure 1. OD/HSD (Human Systems Development) の専門家 (プロセス・モデル) Note. プロフェッショナル内外でそれぞれの要素が相互作用する

ダイナミックな過程と理解すること。出典: Gellermann, Frankel, & Ladenson (1990) p16

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2.2 価値観と倫理の関係 (Jamieson & Gellermann, 2014)

• ODは,組織を構成する個人や関係,調整を促進する   価値観に基づいた (values-based) プロセス。

• 価値観 (Values): • 価値観は,“何を大切にするかという基準となるもの”。  例えると,磁北。

• 倫理 (Ethics): • “価値観に基づいて良い行動と悪い行動の基準となるもの”。例えると,方位磁針。

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2.3 OD/HSDの中心的価値観 (NTL Handbook, 2014)

• 1. 基本的価値観: • a. 人生と幸福の探求,b. 自由,責任,自己コントロール• 2. 個人・対人的価値観: • a. 人間の可能性とエンパワーメント,b. 尊重,尊厳,品位,価値,基本的人権と他の人間システム,c. 信頼性,一致,正直さ,オープンさ,理解,受容,d. 柔軟さ,変革と予防的行動

• 3. システムの価値観:• a. 学習,開発,成長,変容,b. 全てがWinという態度,協力と協調,信頼,コミュニティと多様性,c. 広がり,システムの事柄への意味ある参加,民主主義,適切な意思決定,d. 効果性,効率,連携

• ※価値観とされるものも変遷してきている

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3. “OD / HSD (Human Systems Development) の専門家による価値観と倫理の声明”

3.1 制定の歴史

• 1980年,倫理綱領がなければプロフェッショナルとは言えないであろうと考え,作成が決断される。

• Gellermannが中心となって作成。• 15カ国から200人を超える人が関与し,様々な意見を元に,修正がくり返される。

• 関連する情報センター (clearinghouse) も設立

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3.2 “OD / HSDの専門家による価値観と倫理の声明”

• 1. 自分自身への責任• e.g., 誠実さと信憑性

• 2. プロフェッショナルの開発と能力への責任• e.g., 自己の行動が引き起こす結果に関する責任,他の専門家との協力体制

• 3. クライエントと重要他者への責任• e.g., クライエントへの正直さ,責任

• 4. 専門的職業への責任• e.g., 専門的知識やスキルの共有の促進

• 5. 社会的責任• e.g., 正義とウェルビーイングの促進

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3.3 アメリカ,OD Networkの倫理の利用の仕方• Organization and Human Systems Development Credo (July 1996)

• 声明の歴史と声明の一部をCREDO (信条) として明示。• 1. 専門家としての私たちの目的は、人間と人間のシステムが相互の利益とウェルビーイングを共に生き,働くプロセスを促進することです。 (以下,略)

• 2. 人間と人間のシステムは,経済的,政治的、社会的、文化的および精神的に相互に依存しており,それらの相互の有効性は,私たちの実践をガイドする主要な価値観を反映した基本的な理念に根ざしていると,私たちは信じています。 (以下, 略)

• 3.私たちは,個人のプロフェッショナルとしての効果性の他に,専門職としての私たちの効果性には,広く共有された特定のモラル-倫理ガイドラインに関与し,それに沿って行動することが求められていると信じています。 (以下, 略)

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3.4 “OD / HSDの専門家による価値観と倫理の声明”の詳細

• 詳細は,Appendixを参照。• 下記のHPにPDFファイルがあります。• →https://kojitsuchiya.wordpress.com/2015/08/21/20150823odethicstsuchiya/

• SlideShare下記の「概要」にリンクを貼りました。

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4. 倫理的ジレンマ (e.g., White & Wooten, 1983)

• 実際のやりとりの中でも,全ての違いを完全に解消するのは難しい。

• コンサルタントとクライエントが,違うものを目指し,スキルや価値の発揮が違うゴールを目指して行われてしまうことがある。

• そうした際に,倫理的ジレンマ (ethical dilemma) と呼ばれる問題が起こる。

• ここでは,役割の葛藤や,曖昧さが,引き起こす代表的な5つのジレンマを紹介する。

• ※倫理綱領の制定と同時期から,話されてきた問題です。

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変革者の役割

クライアント・システムの役割

価値観目標ニーズ

スキル/能力

役割に関する出来事

・役割の葛藤・役割の曖昧さ

倫理的ジレンマ

・不当表示・データの誤用・強制・価値と目標の葛藤・技術的な無能さ

帰結プロセス先行要因

 Figure 2. 倫理的ジレンマの役割に関するエピソード・モデル出典: Wooten, & White (1983)

※ 倫理的ジレンマのプロセス・モデル (NTL Handbook, 2014)

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4.1 不当表示 (Misrepresentation)

• 例,実際の状況に合致しない変革プログラムを提案。目標とニーズの把握が不正確。

• 例,Tグループを勝手に実施した (「覆面チェンジ・エージェント」)。しかし,社長のリーダーシップのコンセプトと違い,クビに。

• これらは,最初の契約のところで起こる問題• →防止のために: • 改革のエフォートのゴールを明確にする。• クライアントの期待する効果を共に探す。• 実践家が介入を遂行する自信 (コンピテンス) を持つ。

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4.2 データの誤用 (Misuse of data)

• 例,集められたデータが,懲罰的に使われる• エントリー,診断のフェイズで起こる問題• 実践家が勢力 (power) を増大させるのに使ってしまうことで起こることもある。

• 不適切なリーク• →防止のために: • データを集める際に,どう使われるのかを合意しておき,適宜ふり返るのがよい。

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4.3 強制 (Coercion)- (1)

• ODの働きかけに参加しなければいけない場合に問題となる• 問題の解決が,自己に依存しているのならば,参加するかどうかは選べるものである

• 働きかけを受けるかどうかをチームが選べるというのが原則• マネイジャーが,このチームにはこの働きかけが必要だと 一方的に決めてはいけない。

• ただ,ODの働きかけを知らないのだから,その特徴,もたらされるものについて教えていくということが義務だ

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4.3 強制 (Coercion)- (2) • 援助職は,過度の操作・依存の可能性は常に持っている• 価値の押し付けの潜在的な可能性がある (Kelman,1969)• (1) 変革しようという試み自体が,変革・操作となる• (2) 決まった公式のようなものがないのだから,上記の操作は避けることができるものだ

• →防止のために: • 選択の自由を確保すること。自由の制限は,倫理的にあいまいにさせ,悪化させる。

• 自分の価値観を自覚すること,そしてそれが影響するという可能性を知っておくこと。

• 変革のエフォートをできるだけオープンに,そして,個人が関わるときは,合意に関して自由であること,十分な知識を与えておくことが大切

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4.3 強制 (Coercion)- (3)

• 例,依存してしまう。本当は,知識とスキルを得て,コンサルタントから独立して,自分でマネイジメントしていくことが目標。

• 依存しなさ過ぎ,という問題もある。• →防止のために: • (1) 依存について,よく話すようにすること。お互いへ 何を期待しているかも話すこと。

• (2) 問題の発見に,両者で向かうこと。クライアントは解決策を欲してしまうため,問題の発見に両者で向かうことで,依存から脱し,問題へのマネイジメントの要求に移っていく。

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4.4 価値と目標の葛藤 (Value and goal conflict)

• 改革の試みの目的が不明瞭だったり,ゴールの達成の仕方に合意がないときに起こる。

• Lippit (1969) の言葉: 「既に変革がどちらにしろ起ころうとしているときに,コンサルタントは最も建設的なやり方で,変革をガイドしようと責任を持てるのだろうか?」

• 例,すでに行われていることを引き継いだり,内部コンサルタントだったりするとき。

• コンサルタントは,応急処置を与えられるだけ (コンサルタントの価値観を譲歩するものではい限り)

• 例,KKKでも,自分たちを心から査定し,コミットしたいというのであれば,助けるべきだ。後に,KKKの目的が,当初話されていたものよりも正直でないことが分かったら,譲歩せずにやめてもいい。

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4.5 技術的な無能さ(Technical ineptness)

• スキルがない,または,クライエントの変革の準備のなさ• 適切な診断による,適切な働きかけができるかということによる

• 働きかけの選択は,コンサルタントの価値観,スキル,能力に関連する

• また,組織の力とも関係する• →防止のために: • 注意深い診断により,組織が準備段階にあるか,スキルや知識があるかということも見ていくことができる。

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• ODの未来に関する議論 (Worley & Feyerherm, 2003) では,現在,ODが,価値観に関する混乱と曖昧さを経験していることが示唆されている。

• そうした中,実践家は,一般的に合意された倫理基準よりも,個人の持つ価値や倫理の枠組みに頼っているという見方もある。

5. ODの価値観と倫理に関する現状と今後に向けて (1)

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5. ODの価値観と倫理に関する現状と今後に向けて (2)

• 倫理的コンピテンスを伸ばしていくことが大切だ,という議論がある (DeVogel, 1992)。

• 1. 自分自身の信念,価値観,倫理,倫理的挑戦に関して明確に理解し,"十分に考えた上での直観" を持つ。

• 2. 経験を反省し,創りあげた知識によって未来の行動を考えられる。

• 3. 必要であれば,価値観や倫理を利用可能な状態にできる,つまり,倫理的意思決定のモデルを提示できる。

• ※倫理綱領がないことで,ODの実践家が,自己の関心にのみ依拠して判断をしてしまうというリスクも指摘されている (Egan & Gellermann, 2005)。

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6. まとめと考察 (1) • 社会の中で専門職としての地位を築き,よりよい実践のために,職業倫理は必要とされている。

• ODは価値観に基づくプロセスを重視しており,ODの倫理は価値観との関連で位置づけられる。

• ただし,ODの価値観に関しては,様々なものが時代と共に変遷してきたという経緯もある。

• 倫理綱領の詳細で特徴的であるのは,システム全体に関する配慮と言え,これは自己の価値観などがあらゆる働きかけに表れてくることへの警笛であろう。

• 倫理において言及されることのある「目的は手段を正当化しない」という言葉と考え合わせると,正確な情報提供に基づく自己決定権の保証というのは,とても大切になると考えられる。

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6. まとめと考察 (2) • 実践家同士は,ともすると競合関係であるが,コミュニティとしての裾野を広げ,相互研鑽をしていくことが,適切な形でODが社会に根付くことにつながるだろう。

• 例,スーパーバイズ,事例検討会• 現在日本では明確な資格があるわけではないため,倫理綱領の設定と運用 (例,倫理違反への対応) に関しては,慎重に行っていくべきであろう。

• まずは,倫理が議論の触媒として機能し,自分の価値観を知り,将来のジレンマを回避する助けとしていくということがよいのかもしれない。

• ODの倫理を考えていくことは,ODの適用範囲の境界線も意識することになり,それは適切な実践へもつながるだろう。

• 適切なアセスメント,停止条件,方法・プロセスの倫理性

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7. ディスカッション

• ODの倫理に関する今後の展開において,何を考慮に入れる必要があるのか。

• ODNJというコミュニティが果たす役割とは何なのか。

• 具体的には,ODの実践が持つ潜在的な問題,課題,そして,そういった事柄への対処や仕組みに,倫理という側面からODNJが貢献できる可能性はあるか。

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主要引用文献など• Anderson, D. L. (2013). Organization development: The process of leading

organizational change. Sage Publications.

• Corey, G., Corey, M. S., & Callanan, P. (2003). Issues and Ethics in the Helping Professions, Sixth Edition. Pacific Grove: Brooks/Cole, a division of Thomson Learning.              (コウリー, G.・コウリー, M. S.・キャラナン, P. 村本詔司 (監訳) (2004). 援助専門家のための倫理問題ワークブック 創元社).

• Cummings, T., & Worley, C. (2014). Organization development and change (10th edition). Cengage learning.

• Gellermann, W., Frankel, M. S., & Ladenson, R. F. (1990). Values and ethics in organization and human systems development: Responding to dilemmas in professional life. Jossey-Bass.

• Jones, B. B., & Brazzel, M. (Eds.). (2014). The NTL handbook of organization development and change (2nd edition): Principles, practices, and perspectives. John Wiley & Sons.

• 慶野遥香. (2008). 心理専門職の職業倫理の現状と展望. 東京大学大学院教育学研究科紀要, 47, 221-229.

• White, L. P., & Wooten, K. C. (1983). Ethical dilemmas in various stages of organizational development. Academy of Management Review, 8(4), 690-697.