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Sysmex Journal Web Vol.9 No.3 2008 Web 公開日:2008 12 25 価値ある髄液検査にせまる 宿 谷 賢 一,下 澤 達 雄 東京大学医学部附属病院 検査部:東京都文京区本郷 7-3-1(〒 113-8655Key Words 脳脊髄液,CSF は じ め に 2002 年に日本臨床衛生検査技師会髄液検査法編集 ワーキンググループ ( 委員長:大田喜孝 ) より「髄 液検査法 20021) が出版され,実質上の髄液一般検 査のガイドラインになっている。 本書が発刊され,すでに 6 年が経過し,髄液一般 検査は着実に標準化に向かっている。また,日々の研 鑽により,白血球の分類だけでなく白血病細胞や癌細 胞などの鑑別が可能となり,髄液一般検査のレベルは 向上した。しかし,未だにメランジュールの使用や細 胞数の単位に /3mm 3 を用いるなど,ガイドラインの 方法に準じて検査されてない施設があり,細胞鑑別な どの技術的な施設間差が生じているのが現状である。 髄液一般検査は,髄膜炎・脳炎の診断のため,日 常検査として 24 時間対応可能でなければならず,ま た,脳腫瘍,髄膜白血病などの検査方針や治療効果 の把握のため重要な検査の一つとして位置づけられ ている。しかしながら,髄液一般検査の実施件数は, 血液・尿検査とは比較にならないほど少数のため, 各医療機関の検査室では,検査技術の精度を維持す ることが難しく,かつ,スタッフへの教育が問題に なっている。今後は,より一層の標準化を進めるう えで,検査方法のみでなく,各個人の力量を踏まえ た教育方法の確立が必要になる。 本稿では,「髄液検査法 20021) に準じて髄液検 体の取り扱い,細胞の算定と分類,および化学的検 査について解説するとともに,当検査部で実施して いる教育を目的とした実例と工夫を加えて紹介する。 髄液採取法と取り扱い 髄液の採取は,腰椎穿刺法,後頭下穿刺 ( 大槽穿 ) ,脳室穿刺 ( 脳室ドレナージ ) などがある 2) 。プ ラスチック ( ポリプロピレン ) 製の滅菌スピッツ 2 3 本に分けて採取し,多くの細胞が含まれている 最初の 1 本目を一般検査に用いる。検体量は再検量 を踏まえて 1mL あれば十分である。禁忌事項として, 抗凝固剤は使用してはならない。血液が混入した場 合などに,ヘパリン添加により血液凝固阻止が実施 されることがあるが,ヘパリンは細胞数算定時に使 用するサムソン液と反応し,多量の微細粒子が発生 するので注意を要する。これはヘパリンのアミノ酸 ( セリン,グリシン ) がサムソン液中の酢酸に反応 し,凝集結晶化するためと考えられる。 髄液細胞は髄液中の蛋白量が低いため,室温保存 では 2 時間後に細胞の約 30%が変性・崩壊する。好 中球が変性する速度はリンパ球に比べて速い。した がって,保存する場合は 4 ℃が望まれ,採取から 1 時間以内に検査を実施する。 検査実施にあたり,検査結果の保証の一つとして, 採取時間および検査開始時間を明確に記録する。肉 眼的観察は重要な検査事項であり,正常の髄液は無 色透明であることから,混濁や着色を確認した場合 は病的変化の可能性がある。肉眼観察を加えること で,出血の有無や細胞の増多の程度を推定でき,細 胞算定時に有用な所見になる。 日光微塵の観察は,髄液の入ったスピッツを光にかざし ながら軽く振って細胞の微細粒子の有無を見る。血性髄液 の場合は,遠心上清のキサントクロミーの有無を確認する。 総 説

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Sysmex Journal Web Vol.9 No.3 2008

価値ある髄液検査にせまる

宿 谷 賢 一,下 澤 達 雄

7-3-1 113-8655

Key Words 脳脊髄液,CSF

総 説

■は じ め に2002

( )

2002

6

/3mm3

24

2002

Web 2008 12 25

■髄液採取法と取り扱い (

) ( )

( ) 2

3

1

1mL

( )

2 30

4

1

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■サムソン液希釈後の安定性

24 ( 図1) 120

( 図2)

24 120

表1.サムソン

図1.サムソン液で希釈直後と 24 時間後の経時変化

■細胞数算定

2002

表1,2

■細 胞 分 類2

希釈方法

図2.サムソン液で希釈直後と 120 時間後の経時変化

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表2.細胞数算定法

 1 .単核球 ( 図3)

( 図4)

1.5 2

( 図5)

N/C

 2 .多核球 ( 図6)

( 図7)

 3 .その他の成分 (図8~ 10 )

( 図8)

N/C

( 図9)

( 図 10 )

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図9.白血病細胞(×400 倍,サムソン液)

図7.好酸球(×400 倍,サムソン液)

図5.組織球(×400 倍,サムソン液)

図3.リンパ球(×400 倍,サムソン液)

図 10.ヘマトイジン結晶(×400 倍,サムソン液)

図8.腺癌細胞(×400 倍,サムソン液)

図6.好中球(×400 倍,サムソン液)

図4.単球(×400 倍,サムソン液)

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■細胞分類の工夫と教育方法

表3

( 図 11 12 )

■化学的検査法

LD CK

( Nonne-Apelt )

( Pandy )

表3.サムソン希釈検体

図 11.計算盤の方法(×400 倍,サムソン液)

 1 .蛋白

0.2 0.6 ( )

15 45mg/dL 50mg/dL

( Guillain-Barre )

 2 .糖

60 80

50

80mg/dL

 3 .LDLD

LD

LD

による遠心鏡検法

図 12.尿沈渣の方法(×400 倍,サムソン液)

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( LD4 LD5 ) ( LD2 LD3)

 4 .CKCK CK-BB

■内部精度管理における標準作業手順書

( Standard

Operation Procedure SOP ) SOP

ISO15189

■ま と め

Key Words Cerebrospinal Fluid, CSF

Realities of Valuable Cerebros

Kenichi SHUKUYA and Ta

Clinical Laboratory, The University of Tokyo Hospita

) ( )

. 2002. : ( )

; 2002. 107p.

) . . Medical

Technology. 2003 ; 31 ( 5 ) : 472-475.

) , , . .

. :

Yearbook2008. 2008 ; 140 : 187-189

) . .

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Yearbook2008. 2008 ; 140 : 65-71

) , , .

. . 2008 ; 57 ( 7 ) :

979-981.

) . . Medical Technology. 2003 ;

31 ( 5 ) : 476-483.

) , , .

. . 2008 ; 36 ( 8 ) : 742-747.

) . .

ISO15189 . :

Yearbook2008. 2008 ; 140 : 226-229

pinal Fluid Examination

tsuo SHIMOSAWA

l, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8655