血清群w髄膜炎菌による 尾内 一信 侵襲性髄膜炎菌感...

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血清群W髄膜炎菌による 侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向 血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策 IMD:Invasive Meningococcal Disease 2017年7月作成

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Page 1: 血清群W髄膜炎菌による 尾内 一信 侵襲性髄膜炎菌感 襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向 血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策。

血清群W髄膜炎菌による侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向

血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策IMD:Invasive Meningococcal Disease

 2000年のHajjにおける血清群W(ST-11)髄膜炎菌による感染に端を発したOutbreakは、今や髄膜炎ベルトのみならず、南アメリカ、イギリス、チリ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアでも報告されている1)。 オーストラリアでは、血清群Cの単価ワクチンを定期接種していた複数の州でも2015年から血清群W遺伝子型ST-11による感染症が急増し、2016年12月より結合型4価髄膜炎菌ワクチンの緊急接種が開始された。 またイギリスでは、2009年以降血清群W遺伝子型ST-11による感染症が増加し、2015年8月に政府は13~18歳の思春期を対象に結合型4価髄膜炎菌ワクチンの緊急接種を開始した。現在は全年齢での血清群Wによる侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)を減少させるために、結合型4価髄膜炎菌ワクチンが定期接種プログラムに組み入れられている。 両国ともに日本からの留学生が多く、寮生活による集団生活や地元の人々と多く触れあう生活によって感染リスクが想定される。予防接種をせずに留学した場合、留学先で予防接種しても充分な抗体価を獲得できるまでは無防備な状態となる。医療従事者は、たとえ留学先が4価髄膜炎菌ワクチンの接種を義務づけていないところでも、現地の疫学情報をタイムリーに把握し、国内でもメナクトラ筋注が接種できることを留学生に伝えるべきである。将来のある若者が、海外でIMDに罹患することがないよう我々も積極的に情報提供していきたい。

 侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)において特に注意したい環境因子は「集団生活」、年齢は「思春期」である。この2つのリスクが重なり、2015年に山口県で発生したOutbreakがみられた。日本で開催された世界スカウトジャンボリーに参加したスコットランド隊、スウェ-デン隊の隊員が帰国後に髄膜炎菌感染症を発症した。分離された血清群Wの遺伝子型は強毒性のST-11であった。これは、イギリスとオーストラリアにおいて接種ワクチンスケジュールの見直しを促した強毒性の遺伝子型ST-11が日本に持ち込まれた事例である。 すでに訪日外国人が2,000万人を超えた日本は、今後も東京オリンピックなどを控え、訪日外国人のさらなる増加が予想されている。海外に行く予定のない子どもでも、髄膜炎菌に感染し、IMDを発症するリスクがあることを医療従事者は強く意識する必要があると思う。IMDは、発症から24時間以内に死亡する可能性がある進行の早い感染症である。幸い、IMDもワクチンで防げる疾患(VPD)であり、日本でも2015年から4価髄膜炎菌ワクチン メナクトラ筋注が接種可能となった。国内のIMDの発症ピークは、10代後半にみられる。これは部活動またその合宿、サマーキャンプなど、狭い空間で多人数が集団生活を送ることによるものであろう。日本では11歳以上13歳未満において2種混合ワクチンが定期接種となっている。小児科医は、このタイミングで保護者にIMDのリスクや、メナクトラ筋注が任意接種で接種可能であることを積極的に説明していくべきであろう。

Expert’s Comment

日本におけるリスク 中野 貴司 先生

川崎医科大学 小児科学 教授

Expert’s Comment

尾内 一信 先生海外におけるリスク

1)Oldfield NJ et al:Emerg Infect Dis 23(6):1009-1011, 2017

川崎医科大学 小児科学 主任教授

SPJP.MENAC.17.07.01392017年7月作成

Page 2: 血清群W髄膜炎菌による 尾内 一信 侵襲性髄膜炎菌感 襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向 血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策。

血清群W髄膜炎菌の81%が強毒性の遺伝子型ST-11でした2015年、血清群W髄膜炎菌によるIMD症例34例のうち、遺伝子型を解析した25例の81%が強毒性のST-11でした。

1) Government of Western Australia, Department of Health, Kalgoorlie targeted Men W vaccination program, 8 December 2016  (2017年6月14日アクセス:http://healthywa.wa.gov.au/News/Meningococcal-W-vaccination)2) Government of Western Australia, Department of Health, Free meningococcal vaccines for WA teenagers, 30 January 2017  (2017年6月14日アクセス:http://healthywa.wa.gov.au/News/Free-meningococcal-vaccines-for-WA-teenagers)

Australian Government, Department of Health, Australian Meningococcal Surveillance Programme, 1 July to 30 September 2016(2017年6月14日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/cda-cdi4004r.htm)より作図

n=25

#:Australian Government, Department of Health, Invasive Meningococcal Disease National Surveillance Report - With a focus on MenW - May 2017 ‒(2017年6月14日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/5FEABC4B495BDEC1CA25807D001327FA/$File/15-May-2017-IMD-Surveillance-report.pdf)

Australian Government, Department of Health, Meningococcal W Disease(2017年3月31日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/ohp-meningococcal-W.htm)

● IMDの血清群別症例数および罹患率の推移(2002~2016年)

● 日本で開催された国際的イベントに関連し、発生したIMD症例(2015年)

● 西オーストラリア州における血清群Wアウトブレイクへの対応

● 血清群W髄膜炎菌における遺伝子型(2015年)

● 外国人入国者数の推移および訪日外国人旅行者数の目標

1) 法務省:平成28年における外国人入国者数及び日本人出国者数等について(速報値)  (2017年6月14日アクセス:http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00063.html)より作図2) 首相官邸, 第2回 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議, 資料1  (2017年6月14日アクセス:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/dai2/siryou1.pdf)より作図

人数

6,000(万人)

外国人入国者数1)

東京オリンピック開催

訪日外国人旅行者数の目標2)

5,500

4,5004,0003,500

1,5002,0002,5003,000

1,000500

0

5,000

2005 2010 2015 2016 2020 2030(年)

6,000万人

4,000万人

19,688,247人

23,218,853人(前年比:17.9%増加)

● 日本からの留学者数の推移 ● 2015年度 主な留学先

文部科学省, 日本人の海外留学状況, 平成29年3月(2017年6月14日アクセス:http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/__icsFiles/afieldfile/2017/04/04/1345378_1_1_1.pdf)より作図、抜粋

NHS England and Public Health England 2016, Meningococcal chapter 22 of the Green Book(2017年6月14日アクセス:https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/554011/Green_Book_Chapter_22.pdf)より改変

NHS England and Public Health England 2015(2017年6月14日アクセス:https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/437901/150622_ACWY_bipartite_letter.pdf)

JCVI(Joint Committee on Vaccination and Immunisation):予防接種に関する合同委員会

海外留学者数

国・地域

カナダアメリカ

オーストラリアイギリス

中国

留学者数

8,189人18,676人

8,080人6,281人5,072人

90,000

36,30242,320

53,991

65,37369,869

81,219 84,456(人)

60,000

70,000

80,000

50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

0

生後2ヵ月

1歳

14歳前後

初回/追加接種初回免疫※1

初回免疫(MenC)/追加接種(Hib)

追加接種

接種ワクチン多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回※2

生後4ヵ月 初回免疫※1 多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回※2

Hib/MenC結合体ワクチン1回追加接種 多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回

4価髄膜炎菌ワクチン1回

JCVIが、すべての14~18歳の青年に対する4価髄膜炎菌ワクチン接種の必要性を勧告。JCVIの勧告を受け入れ、髄膜炎菌結合体ワクチン緊急接種プログラムを導入。14~18歳の青年には、従来の髄膜炎菌C型(MenC)結合体ワクチンに代わり、4価髄膜炎菌ワクチンを定期接種することとした。JCVIの勧告を受け入れ、2016年内に生後3ヵ月でのMenC結合体ワクチン1回を定期接種から除外することとした。

2015年2月2015年8月

2016年7月

4価髄膜炎菌ワクチン無料接種(2017年4月~)2)単回接種(2016年12月12日~)1)

対象:15~19歳対象:0~4歳または15~19歳

2016年血清群W髄膜炎菌症例#

108例2015年 34例2014年 17例

20102009 2011 2012 2013 2014 2015(年)

症例数

200(例)

150

100

50

08月7月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月

症例数

罹患率

血清群800(例)

700

600

500

0

400

300

200

100

4.0(人口10万人対)

3.5

2.5

1.5

0

1.0

0.5

2.0

3.0

20032002 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016(年)

2.8

3.5

2.01.9

1.5 1.4 1.31.2

1.0 1.1 1.0

0.6 0.7 0.8

1.1

世界スカウトジャンボリー(山口県)に関連したスコットランド隊員およびスウェーデン隊員の髄膜炎菌感染症事例について(2017年6月14日アクセス:http://www.nih.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrs/5878-pr4272.html)

日本で開催された国際的イベントに関連してIMDが発生、遺伝子型ST-11の血清型W髄膜炎菌が報告されました

日本からの留学者数も増加しており、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、中国に多くの学生が留学しています

近年、日本への外国人入国者数は急増しています

日本で開催された世界スカウトジャンボリー参加者のスコットランド隊のスカウト3名とその親類1名、スウェーデン隊のスカウト1名が髄膜炎菌感染症を発症しました。

▼ 本症例から遺伝子型ST-11の血清群W髄膜炎菌が分離されました。

● 血清群W髄膜炎菌によるIMDの累積発症例数(毎年7月~翌年6月)

● 髄膜炎菌結合体ワクチンの定期接種プログラム導入までの流れ

● 髄膜炎菌ワクチンの定期接種スケジュール(2017年3月)

イギリスでは、血清群W髄膜炎菌によるIMDが継続的に増加しています2009年から血清群Wの流行が起こり、血清群W髄膜炎菌によるIMDの継続的な増加が緊急の課題となっていました。

オーストラリアでは、近年、血清群W髄膜炎菌によるIMDが急増し、強毒性のST-11が多く認められました血清群W髄膜炎菌によるIMD症例は、2014年に17例でしたが、2015年には34例、2016年においては108例に急増しました#。

西オーストラリア州では、4価髄膜炎菌ワクチンの単回接種を無料で実施しました

※1:多成分髄膜炎菌B型ワクチンの製品概要では、1歳未満の幼児に対して合計3回の投与が推奨されているが、JCVIは初回接種(生後2ヵ月、4ヵ月)および追加接種(生後12~13ヵ月)によって乳児および幼児に対する血清群B型髄膜炎菌のIMDを十分に予防できるとの見解を示している。

※2:他の定期接種ワクチンと同時接種する際には、有害事象に対する予防薬としてパラセタモール(アセトアミノフェン)の併用投与が推奨されている。

2014~2015年2013~2014年2012~2013年2011~2012年2010~2011年2009~2010年2008~2009年2007~2008年

対 策

血清群W髄膜炎菌への対応として、髄膜炎菌結合体ワクチンを定期接種プログラムに導入しました

対 策

その他19%

ST-1181%

不明XYWCBA

Page 3: 血清群W髄膜炎菌による 尾内 一信 侵襲性髄膜炎菌感 襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向 血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策。

血清群W髄膜炎菌の81%が強毒性の遺伝子型ST-11でした2015年、血清群W髄膜炎菌によるIMD症例34例のうち、遺伝子型を解析した25例の81%が強毒性のST-11でした。

1) Government of Western Australia, Department of Health, Kalgoorlie targeted Men W vaccination program, 8 December 2016  (2017年6月14日アクセス:http://healthywa.wa.gov.au/News/Meningococcal-W-vaccination)2) Government of Western Australia, Department of Health, Free meningococcal vaccines for WA teenagers, 30 January 2017  (2017年6月14日アクセス:http://healthywa.wa.gov.au/News/Free-meningococcal-vaccines-for-WA-teenagers)

Australian Government, Department of Health, Australian Meningococcal Surveillance Programme, 1 July to 30 September 2016(2017年6月14日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/cda-cdi4004r.htm)より作図

n=25

#:Australian Government, Department of Health, Invasive Meningococcal Disease National Surveillance Report - With a focus on MenW - May 2017 ‒(2017年6月14日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/5FEABC4B495BDEC1CA25807D001327FA/$File/15-May-2017-IMD-Surveillance-report.pdf)

Australian Government, Department of Health, Meningococcal W Disease(2017年3月31日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/ohp-meningococcal-W.htm)

● IMDの血清群別症例数および罹患率の推移(2002~2016年)

● 日本で開催された国際的イベントに関連し、発生したIMD症例(2015年)

● 西オーストラリア州における血清群Wアウトブレイクへの対応

● 血清群W髄膜炎菌における遺伝子型(2015年)

● 外国人入国者数の推移および訪日外国人旅行者数の目標

1) 法務省:平成28年における外国人入国者数及び日本人出国者数等について(速報値)  (2017年6月14日アクセス:http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00063.html)より作図2) 首相官邸, 第2回 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議, 資料1  (2017年6月14日アクセス:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/dai2/siryou1.pdf)より作図

人数

6,000(万人)

外国人入国者数1)

東京オリンピック開催

訪日外国人旅行者数の目標2)

5,500

4,5004,0003,500

1,5002,0002,5003,000

1,000500

0

5,000

2005 2010 2015 2016 2020 2030(年)

6,000万人

4,000万人

19,688,247人

23,218,853人(前年比:17.9%増加)

● 日本からの留学者数の推移 ● 2015年度 主な留学先

文部科学省, 日本人の海外留学状況, 平成29年3月(2017年6月14日アクセス:http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/__icsFiles/afieldfile/2017/04/04/1345378_1_1_1.pdf)より作図、抜粋

NHS England and Public Health England 2016, Meningococcal chapter 22 of the Green Book(2017年6月14日アクセス:https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/554011/Green_Book_Chapter_22.pdf)より改変

NHS England and Public Health England 2015(2017年6月14日アクセス:https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/437901/150622_ACWY_bipartite_letter.pdf)

JCVI(Joint Committee on Vaccination and Immunisation):予防接種に関する合同委員会

海外留学者数

国・地域

カナダアメリカ

オーストラリアイギリス

中国

留学者数

8,189人18,676人

8,080人6,281人5,072人

90,000

36,30242,320

53,991

65,37369,869

81,219 84,456(人)

60,000

70,000

80,000

50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

0

生後2ヵ月

1歳

14歳前後

初回/追加接種初回免疫※1

初回免疫(MenC)/追加接種(Hib)

追加接種

接種ワクチン多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回※2

生後4ヵ月 初回免疫※1 多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回※2

Hib/MenC結合体ワクチン1回追加接種 多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回

4価髄膜炎菌ワクチン1回

JCVIが、すべての14~18歳の青年に対する4価髄膜炎菌ワクチン接種の必要性を勧告。JCVIの勧告を受け入れ、髄膜炎菌結合体ワクチン緊急接種プログラムを導入。14~18歳の青年には、従来の髄膜炎菌C型(MenC)結合体ワクチンに代わり、4価髄膜炎菌ワクチンを定期接種することとした。JCVIの勧告を受け入れ、2016年内に生後3ヵ月でのMenC結合体ワクチン1回を定期接種から除外することとした。

2015年2月2015年8月

2016年7月

4価髄膜炎菌ワクチン無料接種(2017年4月~)2)単回接種(2016年12月12日~)1)

対象:15~19歳対象:0~4歳または15~19歳

2016年血清群W髄膜炎菌症例#

108例2015年 34例2014年 17例

20102009 2011 2012 2013 2014 2015(年)

症例数

200(例)

150

100

50

08月7月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月

症例数

罹患率

血清群800(例)

700

600

500

0

400

300

200

100

4.0(人口10万人対)

3.5

2.5

1.5

0

1.0

0.5

2.0

3.0

20032002 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016(年)

2.8

3.5

2.01.9

1.5 1.4 1.31.2

1.0 1.1 1.0

0.6 0.7 0.8

1.1

世界スカウトジャンボリー(山口県)に関連したスコットランド隊員およびスウェーデン隊員の髄膜炎菌感染症事例について(2017年6月14日アクセス:http://www.nih.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrs/5878-pr4272.html)

日本で開催された国際的イベントに関連してIMDが発生、遺伝子型ST-11の血清型W髄膜炎菌が報告されました

日本からの留学者数も増加しており、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、中国に多くの学生が留学しています

近年、日本への外国人入国者数は急増しています

日本で開催された世界スカウトジャンボリー参加者のスコットランド隊のスカウト3名とその親類1名、スウェーデン隊のスカウト1名が髄膜炎菌感染症を発症しました。

▼ 本症例から遺伝子型ST-11の血清群W髄膜炎菌が分離されました。

● 血清群W髄膜炎菌によるIMDの累積発症例数(毎年7月~翌年6月)

● 髄膜炎菌結合体ワクチンの定期接種プログラム導入までの流れ

● 髄膜炎菌ワクチンの定期接種スケジュール(2017年3月)

イギリスでは、血清群W髄膜炎菌によるIMDが継続的に増加しています2009年から血清群Wの流行が起こり、血清群W髄膜炎菌によるIMDの継続的な増加が緊急の課題となっていました。

オーストラリアでは、近年、血清群W髄膜炎菌によるIMDが急増し、強毒性のST-11が多く認められました血清群W髄膜炎菌によるIMD症例は、2014年に17例でしたが、2015年には34例、2016年においては108例に急増しました#。

西オーストラリア州では、4価髄膜炎菌ワクチンの単回接種を無料で実施しました

※1:多成分髄膜炎菌B型ワクチンの製品概要では、1歳未満の幼児に対して合計3回の投与が推奨されているが、JCVIは初回接種(生後2ヵ月、4ヵ月)および追加接種(生後12~13ヵ月)によって乳児および幼児に対する血清群B型髄膜炎菌のIMDを十分に予防できるとの見解を示している。

※2:他の定期接種ワクチンと同時接種する際には、有害事象に対する予防薬としてパラセタモール(アセトアミノフェン)の併用投与が推奨されている。

2014~2015年2013~2014年2012~2013年2011~2012年2010~2011年2009~2010年2008~2009年2007~2008年

対 策

血清群W髄膜炎菌への対応として、髄膜炎菌結合体ワクチンを定期接種プログラムに導入しました

対 策

その他19%

ST-1181%

不明XYWCBA

Page 4: 血清群W髄膜炎菌による 尾内 一信 侵襲性髄膜炎菌感 襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向 血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策。

血清群W髄膜炎菌の81%が強毒性の遺伝子型ST-11でした2015年、血清群W髄膜炎菌によるIMD症例34例のうち、遺伝子型を解析した25例の81%が強毒性のST-11でした。

1) Government of Western Australia, Department of Health, Kalgoorlie targeted Men W vaccination program, 8 December 2016  (2017年6月14日アクセス:http://healthywa.wa.gov.au/News/Meningococcal-W-vaccination)2) Government of Western Australia, Department of Health, Free meningococcal vaccines for WA teenagers, 30 January 2017  (2017年6月14日アクセス:http://healthywa.wa.gov.au/News/Free-meningococcal-vaccines-for-WA-teenagers)

Australian Government, Department of Health, Australian Meningococcal Surveillance Programme, 1 July to 30 September 2016(2017年6月14日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/cda-cdi4004r.htm)より作図

n=25

#:Australian Government, Department of Health, Invasive Meningococcal Disease National Surveillance Report - With a focus on MenW - May 2017 ‒(2017年6月14日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/5FEABC4B495BDEC1CA25807D001327FA/$File/15-May-2017-IMD-Surveillance-report.pdf)

Australian Government, Department of Health, Meningococcal W Disease(2017年3月31日アクセス:http://www.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/ohp-meningococcal-W.htm)

● IMDの血清群別症例数および罹患率の推移(2002~2016年)

● 日本で開催された国際的イベントに関連し、発生したIMD症例(2015年)

● 西オーストラリア州における血清群Wアウトブレイクへの対応

● 血清群W髄膜炎菌における遺伝子型(2015年)

● 外国人入国者数の推移および訪日外国人旅行者数の目標

1) 法務省:平成28年における外国人入国者数及び日本人出国者数等について(速報値)  (2017年6月14日アクセス:http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00063.html)より作図2) 首相官邸, 第2回 明日の日本を支える観光ビジョン構想会議, 資料1  (2017年6月14日アクセス:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/dai2/siryou1.pdf)より作図

人数

6,000(万人)

外国人入国者数1)

東京オリンピック開催

訪日外国人旅行者数の目標2)

5,500

4,5004,0003,500

1,5002,0002,5003,000

1,000500

0

5,000

2005 2010 2015 2016 2020 2030(年)

6,000万人

4,000万人

19,688,247人

23,218,853人(前年比:17.9%増加)

● 日本からの留学者数の推移 ● 2015年度 主な留学先

文部科学省, 日本人の海外留学状況, 平成29年3月(2017年6月14日アクセス:http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/__icsFiles/afieldfile/2017/04/04/1345378_1_1_1.pdf)より作図、抜粋

NHS England and Public Health England 2016, Meningococcal chapter 22 of the Green Book(2017年6月14日アクセス:https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/554011/Green_Book_Chapter_22.pdf)より改変

NHS England and Public Health England 2015(2017年6月14日アクセス:https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/437901/150622_ACWY_bipartite_letter.pdf)

JCVI(Joint Committee on Vaccination and Immunisation):予防接種に関する合同委員会

海外留学者数

国・地域

カナダアメリカ

オーストラリアイギリス

中国

留学者数

8,189人18,676人

8,080人6,281人5,072人

90,000

36,30242,320

53,991

65,37369,869

81,219 84,456(人)

60,000

70,000

80,000

50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

0

生後2ヵ月

1歳

14歳前後

初回/追加接種初回免疫※1

初回免疫(MenC)/追加接種(Hib)

追加接種

接種ワクチン多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回※2

生後4ヵ月 初回免疫※1 多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回※2

Hib/MenC結合体ワクチン1回追加接種 多成分髄膜炎菌B型ワクチン1回

4価髄膜炎菌ワクチン1回

JCVIが、すべての14~18歳の青年に対する4価髄膜炎菌ワクチン接種の必要性を勧告。JCVIの勧告を受け入れ、髄膜炎菌結合体ワクチン緊急接種プログラムを導入。14~18歳の青年には、従来の髄膜炎菌C型(MenC)結合体ワクチンに代わり、4価髄膜炎菌ワクチンを定期接種することとした。JCVIの勧告を受け入れ、2016年内に生後3ヵ月でのMenC結合体ワクチン1回を定期接種から除外することとした。

2015年2月2015年8月

2016年7月

4価髄膜炎菌ワクチン無料接種(2017年4月~)2)単回接種(2016年12月12日~)1)

対象:15~19歳対象:0~4歳または15~19歳

2016年血清群W髄膜炎菌症例#

108例2015年 34例2014年 17例

20102009 2011 2012 2013 2014 2015(年)

症例数

200(例)

150

100

50

08月7月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月

症例数

罹患率

血清群800(例)

700

600

500

0

400

300

200

100

4.0(人口10万人対)

3.5

2.5

1.5

0

1.0

0.5

2.0

3.0

20032002 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016(年)

2.8

3.5

2.01.9

1.5 1.4 1.31.2

1.0 1.1 1.0

0.6 0.7 0.8

1.1

世界スカウトジャンボリー(山口県)に関連したスコットランド隊員およびスウェーデン隊員の髄膜炎菌感染症事例について(2017年6月14日アクセス:http://www.nih.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-iasrs/5878-pr4272.html)

日本で開催された国際的イベントに関連してIMDが発生、遺伝子型ST-11の血清型W髄膜炎菌が報告されました

日本からの留学者数も増加しており、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、中国に多くの学生が留学しています

近年、日本への外国人入国者数は急増しています

日本で開催された世界スカウトジャンボリー参加者のスコットランド隊のスカウト3名とその親類1名、スウェーデン隊のスカウト1名が髄膜炎菌感染症を発症しました。

▼ 本症例から遺伝子型ST-11の血清群W髄膜炎菌が分離されました。

● 血清群W髄膜炎菌によるIMDの累積発症例数(毎年7月~翌年6月)

● 髄膜炎菌結合体ワクチンの定期接種プログラム導入までの流れ

● 髄膜炎菌ワクチンの定期接種スケジュール(2017年3月)

イギリスでは、血清群W髄膜炎菌によるIMDが継続的に増加しています2009年から血清群Wの流行が起こり、血清群W髄膜炎菌によるIMDの継続的な増加が緊急の課題となっていました。

オーストラリアでは、近年、血清群W髄膜炎菌によるIMDが急増し、強毒性のST-11が多く認められました血清群W髄膜炎菌によるIMD症例は、2014年に17例でしたが、2015年には34例、2016年においては108例に急増しました#。

西オーストラリア州では、4価髄膜炎菌ワクチンの単回接種を無料で実施しました

※1:多成分髄膜炎菌B型ワクチンの製品概要では、1歳未満の幼児に対して合計3回の投与が推奨されているが、JCVIは初回接種(生後2ヵ月、4ヵ月)および追加接種(生後12~13ヵ月)によって乳児および幼児に対する血清群B型髄膜炎菌のIMDを十分に予防できるとの見解を示している。

※2:他の定期接種ワクチンと同時接種する際には、有害事象に対する予防薬としてパラセタモール(アセトアミノフェン)の併用投与が推奨されている。

2014~2015年2013~2014年2012~2013年2011~2012年2010~2011年2009~2010年2008~2009年2007~2008年

対 策

血清群W髄膜炎菌への対応として、髄膜炎菌結合体ワクチンを定期接種プログラムに導入しました

対 策

その他19%

ST-1181%

不明XYWCBA

Page 5: 血清群W髄膜炎菌による 尾内 一信 侵襲性髄膜炎菌感 襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向 血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策。

血清群W髄膜炎菌による侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向

血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策IMD:Invasive Meningococcal Disease

 2000年のHajjにおける血清群W(ST-11)髄膜炎菌による感染に端を発したOutbreakは、今や髄膜炎ベルトのみならず、南アメリカ、イギリス、チリ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアでも報告されている1)。 オーストラリアでは、血清群Cの単価ワクチンを定期接種していた複数の州でも2015年から血清群W遺伝子型ST-11による感染症が急増し、2016年12月より結合型4価髄膜炎菌ワクチンの緊急接種が開始された。 またイギリスでは、2009年以降血清群W遺伝子型ST-11による感染症が増加し、2015年8月に政府は13~18歳の思春期を対象に結合型4価髄膜炎菌ワクチンの緊急接種を開始した。現在は全年齢での血清群Wによる侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)を減少させるために、結合型4価髄膜炎菌ワクチンが定期接種プログラムに組み入れられている。 両国ともに日本からの留学生が多く、寮生活による集団生活や地元の人々と多く触れあう生活によって感染リスクが想定される。予防接種をせずに留学した場合、留学先で予防接種しても充分な抗体価を獲得できるまでは無防備な状態となる。医療従事者は、たとえ留学先が4価髄膜炎菌ワクチンの接種を義務づけていないところでも、現地の疫学情報をタイムリーに把握し、国内でもメナクトラ筋注が接種できることを留学生に伝えるべきである。将来のある若者が、海外でIMDに罹患することがないよう我々も積極的に情報提供していきたい。

 侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)において特に注意したい環境因子は「集団生活」、年齢は「思春期」である。この2つのリスクが重なり、2015年に山口県で発生したOutbreakがみられた。日本で開催された世界スカウトジャンボリーに参加したスコットランド隊、スウェ-デン隊の隊員が帰国後に髄膜炎菌感染症を発症した。分離された血清群Wの遺伝子型は強毒性のST-11であった。これは、イギリスとオーストラリアにおいて接種ワクチンスケジュールの見直しを促した強毒性の遺伝子型ST-11が日本に持ち込まれた事例である。 すでに訪日外国人が2,000万人を超えた日本は、今後も東京オリンピックなどを控え、訪日外国人のさらなる増加が予想されている。海外に行く予定のない子どもでも、髄膜炎菌に感染し、IMDを発症するリスクがあることを医療従事者は強く意識する必要があると思う。IMDは、発症から24時間以内に死亡する可能性がある進行の早い感染症である。幸い、IMDもワクチンで防げる疾患(VPD)であり、日本でも2015年から4価髄膜炎菌ワクチン メナクトラ筋注が接種可能となった。国内のIMDの発症ピークは、10代後半にみられる。これは部活動またその合宿、サマーキャンプなど、狭い空間で多人数が集団生活を送ることによるものであろう。日本では11歳以上13歳未満において2種混合ワクチンが定期接種となっている。小児科医は、このタイミングで保護者にIMDのリスクや、メナクトラ筋注が任意接種で接種可能であることを積極的に説明していくべきであろう。

Expert’s Comment

日本におけるリスク 中野 貴司 先生

川崎医科大学 小児科学 教授

Expert’s Comment

尾内 一信 先生海外におけるリスク

1)Oldfield NJ et al:Emerg Infect Dis 23(6):1009-1011, 2017

川崎医科大学 小児科学 主任教授

SPJP.MENAC.17.07.01392017年7月作成

Page 6: 血清群W髄膜炎菌による 尾内 一信 侵襲性髄膜炎菌感 襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向 血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策。

血清群W髄膜炎菌による侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)の動向

血清群W髄膜炎菌をカバーできる4価髄膜炎菌ワクチンによる対策IMD:Invasive Meningococcal Disease

 2000年のHajjにおける血清群W(ST-11)髄膜炎菌による感染に端を発したOutbreakは、今や髄膜炎ベルトのみならず、南アメリカ、イギリス、チリ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアでも報告されている1)。 オーストラリアでは、血清群Cの単価ワクチンを定期接種していた複数の州でも2015年から血清群W遺伝子型ST-11による感染症が急増し、2016年12月より結合型4価髄膜炎菌ワクチンの緊急接種が開始された。 またイギリスでは、2009年以降血清群W遺伝子型ST-11による感染症が増加し、2015年8月に政府は13~18歳の思春期を対象に結合型4価髄膜炎菌ワクチンの緊急接種を開始した。現在は全年齢での血清群Wによる侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)を減少させるために、結合型4価髄膜炎菌ワクチンが定期接種プログラムに組み入れられている。 両国ともに日本からの留学生が多く、寮生活による集団生活や地元の人々と多く触れあう生活によって感染リスクが想定される。予防接種をせずに留学した場合、留学先で予防接種しても充分な抗体価を獲得できるまでは無防備な状態となる。医療従事者は、たとえ留学先が4価髄膜炎菌ワクチンの接種を義務づけていないところでも、現地の疫学情報をタイムリーに把握し、国内でもメナクトラ筋注が接種できることを留学生に伝えるべきである。将来のある若者が、海外でIMDに罹患することがないよう我々も積極的に情報提供していきたい。

 侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)において特に注意したい環境因子は「集団生活」、年齢は「思春期」である。この2つのリスクが重なり、2015年に山口県で発生したOutbreakがみられた。日本で開催された世界スカウトジャンボリーに参加したスコットランド隊、スウェ-デン隊の隊員が帰国後に髄膜炎菌感染症を発症した。分離された血清群Wの遺伝子型は強毒性のST-11であった。これは、イギリスとオーストラリアにおいて接種ワクチンスケジュールの見直しを促した強毒性の遺伝子型ST-11が日本に持ち込まれた事例である。 すでに訪日外国人が2,000万人を超えた日本は、今後も東京オリンピックなどを控え、訪日外国人のさらなる増加が予想されている。海外に行く予定のない子どもでも、髄膜炎菌に感染し、IMDを発症するリスクがあることを医療従事者は強く意識する必要があると思う。IMDは、発症から24時間以内に死亡する可能性がある進行の早い感染症である。幸い、IMDもワクチンで防げる疾患(VPD)であり、日本でも2015年から4価髄膜炎菌ワクチン メナクトラ筋注が接種可能となった。国内のIMDの発症ピークは、10代後半にみられる。これは部活動またその合宿、サマーキャンプなど、狭い空間で多人数が集団生活を送ることによるものであろう。日本では11歳以上13歳未満において2種混合ワクチンが定期接種となっている。小児科医は、このタイミングで保護者にIMDのリスクや、メナクトラ筋注が任意接種で接種可能であることを積極的に説明していくべきであろう。

Expert’s Comment

日本におけるリスク 中野 貴司 先生

川崎医科大学 小児科学 教授

Expert’s Comment

尾内 一信 先生海外におけるリスク

1)Oldfield NJ et al:Emerg Infect Dis 23(6):1009-1011, 2017

川崎医科大学 小児科学 主任教授

SPJP.MENAC.17.07.01392017年7月作成