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1 抗菌性、生分解性を付与した 医療用生体適合性ポリマー 山形大学 大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻 助教 福島 和樹

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Page 1: 抗菌性、生分解性を付与した 医療用生体適合性ポリ …...0 4 8 16 32 64 125 250 500 所定濃度のポリマー水溶液で, 所定時間処理した後の 大腸菌溶液の濁度

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抗菌性、生分解性を付与した 医療用生体適合性ポリマー

山形大学 大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻

助教 福島 和樹

Page 2: 抗菌性、生分解性を付与した 医療用生体適合性ポリ …...0 4 8 16 32 64 125 250 500 所定濃度のポリマー水溶液で, 所定時間処理した後の 大腸菌溶液の濁度

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研究の背景

細菌感染症 … ガン患者や免疫力の低い幼児・高齢者で重症化

(院内感染,移植片・医療デバイスの汚染)

これまでの対策

耐性菌の出現

抗生物質

細菌

細菌の細胞機能に作用

抗生物質 (低分子化合物)

CDC report ‘Antibiotic Resistance Threats in the U.S. 2013’

一部は効かない 生き残る 増殖する 別の細菌の耐性化

耐性菌発現のメカニズム

抗生物質の限界

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従来技術(1)とその問題点

抗菌ペプチド (両親媒性・カチオン性)

細菌

(細胞膜:負に帯電)

細菌の細胞膜を破壊 (溶菌)

抗菌ペプチド

生体由来で低毒性・分解吸収性 疎水性+カチオン性残基を有する 静電相互作用による細胞の物理的破壊

(溶菌) → 耐性菌発現を抑制

<課題>

↙ 生産性・コスト ↙ プロテアーゼ耐性(生体内での持続性) ↙ 加工性(医療デバイスの表面処理など)

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従来技術(2)とその問題点

カチオン性ポリマー

溶菌機構を示す 生産・加工性に優れる 分子構造の調節・修正が可能

<課題>

↙ 生体適合性・細胞毒性 ↙ タンパク質吸着 ↙ 分解吸収性

Tew et al. PNAS 2002, 99, 5110-5114.

n = 2, 3, or 8

Kuroda et al., JACS 2005, 127, 4128-4129.

Tiller et al., PNAS 2001, 98, 5981-5985.

P1

P2

P3

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従来技術(3)とその問題点

含カチオン生分解性ポリマー

溶菌機構を示す 酵素分解性の主鎖骨格 低い溶血性(細胞毒性)

<課題>

↙ グラム陰性菌・真菌類への活性 ↙ タンパク質吸着 ↙ 生分解速度の制御

Nederberg et al., Nature Chem. 2011, 3, 409-414.

Yang et al., Macromolecules 2013, 46, 8797-8807. 疎水構造が必要

↔ 多すぎると溶血性*増加

P4

P5

(*溶血:赤血球の破壊)

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新技術

抗菌性・血液適合性を付与した生分解性ポリマー

n m

生分解性・酵素分解性

脂肪族ポリカーボネート

→ 酸性分解物を生成しない

⇒ 分解による炎症は軽微

カチオン性側鎖

→ 抗菌活性

エーテル側鎖

→ 血液適合性 ⇒ 溶血性の低減

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新技術の特徴(1)

1級アンモニウム型生分解性ポリマー

1級アンモニウム 表面電位

0

+

pH

親水・カチオン

疎水・中性

0

+

pH

pH依存性なし

4級アンモニウム

中性域のpHではカチオン濃度は4級アンモニウムより少

なく,脱プロトン化した一部は疎水基として作用する

表面電位

PC2PA

1級アンモニウムの側鎖

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新技術の特徴(2)

1級アンモニウム型生分解性ポリマー

1 mm

PC2PA (32 µg/mL) 大腸菌

PC2PA

大腸菌を 所定濃度のポリマー水溶液で24時間処理

ポリマー

大腸菌

水溶性 → 抗生物質と同様に使用可

グラム陰性菌に有効

溶菌効果

→ 耐性菌にも有効

細胞の物理的破壊を確認

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新技術の特徴(3)

1級アンモニウム型生分解性ポリマー

PC2PA

ポリマー

大腸菌

最小発育阻止濃度 (MIC) : 16 μg/mL

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0 2 4 6 8 24 48

濁度

(λ =

59

5 n

m)

処理時間 (時間)

0 4 8 16 32 64 125 250 500

所定濃度のポリマー水溶液で,所定時間処理した後の 大腸菌溶液の濁度 ⇒ 大腸菌の生存・増殖の尺度

ポリマー水溶液の濃度(μg/mL)

P4: 効果なし

P5: 125 μg/mL

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新技術の特徴(4)

血液適合性生分解性ポリマー

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

PET PCME PTMC

PET上の細胞数に対する細胞数

血小板

血管内皮

n

特開2014-161675

PET PCME

10 mm

PCME

血小板粘着を抑制 → 血球細胞には不活性

通常細胞は良好に接着 → 低細胞毒性

n

PTMC

PCME上での血小板粘着は軽微

PTMC 上 で は血小板は粘着する

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新技術の特徴(5)

血液適合性生分解性ポリマー

n PCME

緩やかな酵素分解性

PCME

PTMC

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新技術の特徴(6)

PC2PA-PCME (1:1) 共重合体

PC2PAと同程度の抗菌活性を維持 n m

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0 2 4 6 8 24 48

濁度

(λ =

59

5 n

m)

処理時間 (時間)

0 4 8 16 32 64 125 250 500

MIC = 32 μg/mL (@48h) 16 μg/mL (@24h)

ポリマー水溶液の濃度(μg/mL)

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新技術の特徴(7)

PC2PA-PCME (1:1) 共重合体(PC2PAM)

PC2PAよりも溶血性が低下

n m

0

20

40

60

80

100

0 250 500 750 1000 1250 1500

ヒト赤血球の溶血度

(%

)

ポリマー濃度 (μg/ml)

PEG PEI PC2PA PC2PAM

従来よりも高い 細胞選択性 (= HC50/MIC)

65.4 (PC2PA)

>93.8 (PC2PAM)

0.67 (PEI)

< 10 (P3), > 16 (P5) HC50:溶血度50%の時のポリマー濃度 細胞選択性:正常細胞と細菌細胞の選択性(=安全性)

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新技術の特徴(まとめ) 従来技術(2) 従来技術(3) 新技術

ポリマー P3 P4 PC2PAM

分解吸収性 × ○ ○

生産・加工性 ○ ○ ○

安定性 ○ ○ ○

抗菌活性

グラム陽性 ○ ○ ○

グラム陰性 ○ △ ○

真菌類 ー △ △

溶血性 高 低 低

細胞選択性** 低 低 高

**高い細胞選択性:正常細胞には不活性で大腸菌に高い抗菌活性を示す

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想定される用途

n m

(溶液用途)

抗生物質を補完または代替する抗菌薬

PEIに代わる遺伝子デリバリー用担体

(バルク用途)

生体吸収性材料・組織工学材料の抗菌表面処理

n/m = 1.0 ~ 0.25 ⇒ 水溶性

n/m < 0.25 ⇒ 非水溶性

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実現に向けた課題

• より複数種の細菌類への効果、耐性菌への効果、薬剤耐性の発現について、試験が必要。

• 非水溶系材料の表面抗菌性についてもデータを取得していく。

• 最良の細胞選択性を示す共重合比(n/m)、分子量などの分子構造のパラメータの最適化。

• 実用化に向けて、現行のin vitro実験からin vivo(動物実験)への移行も検討していく。

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本技術に関する知的財産権

発明の名称 :

抗菌性ポリマー及びその製造方法並びに用途

出願番号 :特願2014-097237

出願人 :山形大学

発明者 :

福島和樹、田中賢、佐々木彩乃、佐藤千香子、岸昂平

(参考)特開2014-161675

発明の名称:抗血栓性材料としての生体親和性ポリマー

出願人:山形大学

発明者:田中賢、福島和樹、井上裕人

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お問い合わせ先

山形大学

大学院理工学研究科 機能高分子工学専攻

福島和樹

TEL:0238-26-3759

FAX:同上

e-mail :[email protected]