子宮内膜症性卵巣囊胞に対し腹腔鏡下囊胞内容吸引術を施行 …...図3...
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緒 言子宮内膜症性卵巣囊胞摘出術は,妊孕性温存
を考慮した場合の基本術式である.しかしその一方,卵巣予備能の低下をきたす可能性がある.特に両側囊胞,巨大囊胞,多房性囊胞,囊胞摘出既往のある症例では,術後の卵巣予備能低下のリスクが高い〔1―3〕.このような症例に限定し,当科では囊胞内容吸引術の適応を考慮している.2010年6月から2012年10月までに,9例の腹腔鏡下子宮内膜症性卵巣囊胞内容吸引術を施行した.本稿では,不妊症例に施行した2例の治療内容と経過を示し,囊胞内容吸引術の有用性を検討する.
症 例腹腔鏡下子宮内膜症性卵巣囊胞内容吸引術を
施行した9症例の一覧を表1に示す.年齢は24歳から32歳まで,治療時点で挙児希望のない症例が4例,不妊症例が5例である.囊胞摘出術
の既往が3例にあった.囊胞は,両側性囊胞が7症例,サイズは10cm前後とかなり大きいものが多く,多房性囊胞も含まれる.挙児希望のない症例では,術後 LEPまたはジェノゲストを使用し,3例は囊胞再発を認めず,1例は囊胞4cmで維持できている.不妊症例のなかから2症例を提示する(症例
7,8).【症 例7】31歳,未経妊,既婚.既往歴:26歳,右側子宮内膜症性卵巣囊胞に対し腹腔鏡下卵巣囊胞摘出術.現病歴:腹部圧迫感のため前医を受診,両側子宮内膜症性卵巣囊胞を指摘され,手術目的に当科受診.経過:当院でMRIゼリーを施行.右側に長径6cm,左側に10cm大の子宮内膜症性卵巣囊胞を認めた(図1).患者には3年間の不妊があっ
〔一般演題/症例3(感染)〕
子宮内膜症性卵巣囊胞に対し腹腔鏡下囊胞内容吸引術を施行した9例
健保連大阪中央病院婦人科
竹谷 朱,佐伯 愛,奥 久人,橋田 修,大野木 輝錢 鴻武,竹谷 俊明,川又 靖貴,松本 貴
表1 当科で子宮内膜症性囊胞に対し吸引術を施行した9症例
症例
年齢
経妊
挙児希望
手術既往 囊胞 術後経過
1 24 1P なし なし 両側(右10cm 左12cm) LEP内服 再発なし
2 26 0G なし なし 両側(右4cm 左13cm) LEP内服 囊腫4cm
3 32 0G なし なし 両側多房性(右9cm 左6cm) ジェノゲスト内服 再発なし
4 26 0G なし なし 両側(右10cm 左10cm) LEP内服 再発なし
5 27 0G あり なし 右側11cm 2期的に囊腫摘出 転居
6 26 0G あり なし 両側(右6cm 左6cm) 2期的に囊腫摘出 転居
7 31 0G あり あり 両側(右6cm 左10cm) ART
8 29 0G あり あり 両側多房性(右8cm 左4cm) ART→妊娠
9 31 0G あり あり 右側多房性7cm ART
日エンドメトリオーシス会誌 2013;34:141-144 141
た.卵巣囊胞摘出術も検討したが,囊胞摘出の既往,両側の囊胞でサイズも大きいことから,術後の卵巣予備能の低下が危惧された.患者には強い挙児希望があり,相談をしたうえで,妊娠を治療の第一義とするために囊胞内容吸引術を選択した.さらに術後早期に ARTを含めた不妊治療が開始できるよう,術前にあらかじめ専門病院を受診し,その治療準備も行った.術式:両側子宮内膜症性卵巣囊胞内容吸引術,骨盤内癒着剥離術(図2①―④).骨盤内を占拠する囊胞があり,まずその囊胞を穿刺吸引し,生理食塩水で十分に内腔を洗浄した.吸引後に,囊胞は左側の囊胞であることが確認でき,子宮前面との癒着や右囊胞,後腹膜との癒着を剥離した.続いて,右の囊胞に対して同様に吸引,洗浄し,周囲との癒着剥離を行った.次にダグラス窩の癒着を剥離し,不妊治療の際,採卵に問題ない状態までダグラス窩を開放した.最後に両側卵巣をダグラス窩に位置させて終了した.術後経過:早期に ARTを開始,現在術後3ヵ月目で治療を継続している.
【症 例8】29歳,未経妊,既婚.既往歴:23歳,両側子宮内膜症性卵巣囊胞摘出術.現病歴:不妊症のため前医を受診し,両側子宮内膜症性卵巣囊胞,両側卵管水腫を指摘された.
AMHは5.4pMと低値.体外受精の方針となり,排卵誘発を行うも採卵ができず,囊胞がさらに増大したため,手術目的に当科に紹介受診.経過:当院でMRIゼリーを施行.右側に長径8cm,左側に4cm大の多房性である子宮内膜症性卵巣囊胞を認めた(図3).囊胞摘出術の既往,囊胞が両側性でさらに多房性であることを考慮し,囊胞内容吸引術の方針とした.術式:両側子宮内膜症性卵巣囊胞内容吸引術,骨盤内癒着剥離術.術後経過:術後すぐに不妊治療を開始し,IVF―ETにより妊娠に至る.
考 察妊孕性を温存させる症例において,子宮内膜
症性卵巣囊胞摘出術は基本術式である.しかし両側性囊胞や囊胞再発症例では,卵巣予備能への影響が特に懸念され,推奨としない海外のガイドラインもある〔1―3〕.同様に多房性囊胞やサイズが大きな囊胞も卵巣予備能の低下が危惧される.だがなかには不妊治療の際,囊胞のため採卵自体が困難である症例,破裂を繰り返す症例など,外科的処置を選択せざるを得ない症例が少なからず存在する.そのような症例に対し,可能な限り卵巣予備能の低下を回避する手技として,当科では囊胞内容吸引術の適応を考慮している.囊胞内容吸引術は,卵巣予備能への影響を最小限に抑える手技として報告されている〔4―6〕.当科の手術内容は前述したとおり
図1 MRI:T2強調画像矢状断/脂肪抑制 T1強調画像横断:子宮の右に長径6cm,左に10cm大の囊胞を認める.
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だが,この手術は,あくまでも妊娠の成立を第一義としたものである.不妊症例では,基本的には術後に体外授精を計画しているが,その際の採卵を安全,スムーズに施行できるよう工夫
をしている.囊胞内容の吸引だけではなく,採卵の際の直腸穿刺を回避するようにダグラス窩を開放し,卵巣周囲の癒着を剥離しダグラス窩に位置させ採卵しやすくしている.経腟的吸引
図2①(左上)骨盤内を占拠する巨大囊胞.内容を吸引し生食で洗浄.内容吸引後,左側卵巣囊胞と確認.
②(右上)囊胞と周囲との癒着を剥離.同様に右側卵巣囊胞も内容吸引,洗浄し,周囲との癒着を剥離.
③(左下)ダグラス窩の癒着を剥離.④(右下)ダグラス窩に卵巣を位置.
図3 MRI:T2強調画像矢状断/脂肪抑制 T1強調画像横断:子宮右側に長径8cm,左側に4cm大の囊胞を認める.囊胞は多房性.
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ではこのようなことは行えず,また,囊胞内容が粘稠の場合など吸引が不十分になる場合や,ダグラス窩の閉塞症例では穿刺自体ができない症例もある.一方,囊胞内容吸引術の問題点として,第1
に再発しやすい点が挙げられる.今回,薬物療法を術後に使用した4例においては,病変のコントロールは良好だった.薬物治療は,囊胞摘出後の再発を予防する治療として効果が認められているが〔7―8〕,囊胞内容吸引術後も同様にコントロールが可能と考えられる.不妊症例5例に対しては,薬物治療が行えないため早期の再発は必発と考えられる.そのため積極的な妊娠を計画する必要性を術前に十分に説明し,すぐに不妊治療(基本的には体外授精)に移行する準備をしたうえで手術に臨んでいる.また,妊娠に至る前に再発した場合は再手術を行う可能性を念頭において管理しているが,その場合には卵巣囊胞摘出術が適応になると考えられる.それをどのような症例にどのタイミングで行うべきかは,今後も検討が必要である.第2の問題点として,確定診断ができないこ
とが挙げられる.画像,経過からの術前評価は十分に行う必要がある.また,術後も所見を定期的に観察する必要性を理解してもらい,通院を継続している.このように囊腫内容吸引術は,術後の経過観察,治療(不妊治療や薬物治療)が必須であることを前提に選択されるものであり,この点を患者が十分理解し,それが可能で
あることが適応の1つである.問題点を十分注意し,患者の理解が得られれ
ば,囊胞内容吸引術は選択肢になるものと考える.
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