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学校教育学研究, 2014, 26, pp 57-61 実行委員会形式の学校行事が中学生の学校生活に関す る スキルに及ぼす影響 一過程及び効果に関する実証的研究一 弥壽子 ( 兵庫教育大学) 本研究の目的は, 中学生によ る実行委員会形式の学校行事運営 を通し て, 中学生の学校生活, コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン等 に関 するスキルがどのよう に変化するかを明らかにすることである。 調査では, 中学 2 年生291人を対象として, 学校行事 ( 別校外学習) の前後に, 「学校生活スキル尺度」 のう ちの 「自己学習スキル」 「集団活動スキル」 「同輩とのコ ミ ュニケーショ ンスキル」 の 3 つの下位尺度と , 中学生用社会的スキル尺度, 行事参加後の意見な どについて質問紙調査を行い, 実行委員 の経験 と の関連性 を分析 し た。 そ の結果, 自己学習スキルでは, 時期の主効果が見 ら れ, 事後が高い値になった。 また集団 活動スキルでは, 群の主効果が見 ら れ, 実行委員の方が高い値にな っ た。 実行委員 と非実行委員 と も に自己学習スキルが事 後に高い値になったことから , 学校行事の準備や経験が生徒全般に好ま しい影響を与えたと考えら れた。 キ ーワ ー ド : 中学生 学校行事 生 き る力 実行委員会 57 山形弥壽子 : 兵庫教育大学大学院 ・ 学校心理 ・ 発達健康教育 コ ース院生, 673-1494 兵庫県加東市下久米942-1 , E-mail : m i [email protected] The Effects of School Events on School Li fe Skill in Junior High School Students: An Empirical Study on the Process and Result Yasuko Yamagata ( yogo m ve sz of eac er d caflon) The present study was designed to investigate to clarify the relation between the experience group leader and his/her li fe skills. Two hundreds ninety-one students at junior high school students took part in the study. Students were assigned to two groups: the leader group (27 students) and follower group (264 students) . Li fe skill was measured by the inventory of Life skill and questionnaire for social skill. The investigation was repeated two times; before and after the school event. Those data was ana- lyzed by two way ANOVAs. Main findings were as follows; 1) As the results of two way ANOVAs on each dependent variables, no significant interaction was found. 2) As to school life skill scores and, significant main effect of research were found. Those findings indicated that students' skills were developed by their participation in the school events. Those findings were discussed from practical viewpoints of school education. Key Words: junior high school students, school events, life skill, social skill, planning committee Yasuko Yamagata : Graduate Student of School Psychology, Developmental Science and Health Education Hyogo University of Teacher Education, 942-1 Shimokume, Kate-city, Hyogo 673-1494 Japan E-mail : m i [email protected] jp

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学校教育学研究, 2014, 第26巻, pp 57-61

実行委員会形式の学校行事が中学生の学校生活に関するスキルに及ぼす影響

一過程及び効果に関する実証的研究一

山 形 弥壽子

(兵庫教育大学)

本研究の目的は, 中学生によ る実行委員会形式の学校行事運営 を通し て, 中学生の学校生活, コ ミ ュ ニケーシ ョ ン等に関

す るスキルが どのよ う に変化す るかを明らかにす るこ と である。 調査では, 中学 2 年生291人を対象と し て , 学校行事 (班

別校外学習) の前後に, 「学校生活スキル尺度」 のう ちの 「自己学習スキル」 「集団活動スキル」 「同輩と のコ ミ ュニケーシ ョ

ンスキル」 の 3 つの下位尺度 と , 中学生用社会的 スキル尺度, 行事参加後の意見な どについて質問紙調査 を行い, 実行委員

の経験と の関連性 を分析 し た。 その結果, 自己学習スキルでは, 時期の主効果が見 ら れ, 事後が高い値にな っ た。 ま た集団

活動スキルでは, 群の主効果が見ら れ, 実行委員の方が高い値になった。 実行委員 と非実行委員 と もに自己学習スキルが事

後に高い値になっ たこ と から , 学校行事の準備や経験が生徒全般に好ま しい影響を与えたと考え ら れた。

キーワ ー ド : 中学生 学校行事 生き る力 実行委員会

57

山形弥壽子 : 兵庫教育大学大学院 ・ 学校心理 ・ 発達健康教育 コース院生, 〒673-1494 兵庫県加東市下久米942-1 ,

E-mail : m [email protected]

The Effects of School Events on School Li fe Skill in Junior High School Students: An Empirical Study on the Process and Result

Yasuko Yamagata( yogo mve sz of 「eac er d caflon)

The present study was designed to investigate to clarify the relation between the experience group leader and his/her li fe skills.

Two hundreds ninety-one students at junior high school students took part in the study. Students were assigned to two groups:

the leader group (27 students) and follower group (264 students) . Li fe skil l was measured by the inventory of Li fe skill and

questionnaire for social skil l. The investigation was repeated two times; before and after the school event. Those data was ana-

lyzed by two way ANOVAs. Main findings were as follows;

1) As the results of two way ANOVAs on each dependent variables, no significant interaction was found.

2) As to school li fe ski l l scores and, signi ficant main effect of research were found. Those findings indicated that students' ski lls

were developed by their participation in the school events.

Those findings were discussed from practical viewpoints of school education.

Key Words: junior high school students, school events, li fe skill, social skil l, planning committee

Yasuko Yamagata : Graduate Student of School Psychology, Developmental Science and Health Education

Hyogo University of Teacher Education, 942-1 Shimokume, Kate-city, Hyogo 673-1494 Japan

E-mail : m i [email protected] jp

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58 学校教育学研究, 2014, 第26巻

問題と目的

中央教育審議会答申 (2013) には, 「青少年の 『生き

る力』 を育むためには , 意識的 に, 目標 を持 っ て体験活

動等にチ ャ レ ン ジす る機会 を創出す る必要があ る。」 と

あ る o

「生きる力」 の捉え方には様々あるが, 門脇 (2002) は 「生き る力の中核は社会力であると 理解せよ」 と提案

し ている。 そ し て, 特に 「 ( 3 ) 自分以外の人のこ と に

関心を持ち , だれと で も親 し く 交わるこ と ができ , 他の

人の立場や心情を理解す るこ と ができ , その人に共感す

るこ と が容易に理解でき る能力」 が最も重要である と 述

べてい る。

しかし, 中央教育審議会答申 (2013) には, 「都市化 ・

過疎化や核家族化が進み, 価値観やラ イ フ ス タ イ ルが多

様化 し , 社会と のつながり が希薄化す る中で , 親戚や異

年齢の子 ども たち , 地域の人たち等 と の 「ナナメ の関係」

が希薄と なり , 子 ども たちの人間関係能力が低下 し てい

る」 と あ る。 実際に, 一緒に遊ぶと言いながら , 同 じ空

間にい て も , それぞれが各自のゲーム機に向かい黙々と

ゲームを し てい たり , ま た, 対戦ゲームを し てい た と し

て も , ゲーム機上のつながり で , 生の対話はそこ には存

在 し ない と いう 風景 を見かけ るこ と があ る。 ま た, こ れ

は子 ど も だけ で な く , 大人の社会で も 同 じ で , 川上

(1999) は 「大人たちの住むそれぞれの地域社会の共同

性がな く な っ た」 と 述べてい る。

中学校学習指導要領解説 特別活動編 (2008) で も

「近年, 都市化, 少子高齢化, 地域社会におけ る人間関

係の希薄化な どが進む中で , 家庭や地域社会において社

会性を身につけ る機会が減少 し てい る。 また, 情報化の

進展により , 間接体験や疑似体験が膨らむ一方, 望ま し

い人間関係 を築 く 力 な どの社会性が身につけ に く く な っ

てい る。 た く ま し く 生き る力 を育成す るためには, 学校

におけ る生徒の望ま しい集団活動や体験的活動 を一層充

実す るこ と が重要である」 と 述べら れている。

体験の重要性は従来から強調 さ れてい る。 例えば, 守

屋 (2000) は, 「体験をする中で, 自分のものと し て, 身に付き , 自分の課題を見つけ るこ と ができ るよ う にな

る」 と し ている。 また, Schulz (2012) も 「各家庭が社

会的な変化のプロ セスに強 く さ ら さ れ, 家庭におい てま

すます成 し遂げら れな く な っ てい る部分 を , 教師が担う

こ と が求めら れるよ う にな っ てい る」 と 述べてい る。

こ の集団活動や体験活動の機会と し て, 種々の学校行

事が挙げら れる。 学校行事は, 望ま しい人間関係を形成

し , 集団への所属感や連帯感を深め, 公共の精神を養い, 協力 してより よい学校生活を築こ う とする自主的, 実践

的な態度を育てるこ と を目標と し ている (中学校学習指

導要領 特別活動編 2008)。

学校行事には, 普段の学校生活では実施でき ない活動

が多 く , 計画的に準備 して, 生徒が前向きに取り 組むよ

う にする と , リ ーダー養成, 集団のルール作り , 生徒相

互の人間関係作り な どに効果をあげるよい機会と な る。

そ して, この活動を通して, 意志決定, 集団活動, コ ミ ュ

ニケ ー シ ョ ンな どのス キルを身 につけ る こ と は , 毎日の

生活におけ る人間関係作り に好影響を及ぼすと考え ら れ

る。

筆者は, かつて, 立候補 し た生徒が実行委員会を組織

し , 生徒が主体と なり , 行事の企画 ・ 運営を行っ た経験

を持つ。 そこ では, 実行委員によ る提案 を学級会で話 し

あう 中で , 学年集団への帰属意識が高まり , お互いに注

意し合え る集団へと変容 し たよう に見受け ら れた。

学級での話 し合いは, 文部科学省が推奨する 「中学生

熟議」 に も あ る よ う に , 他者と協同 し て 「熟考」 し , 「話合い」 をすすめ, 「考えの発展 ・ 統合, 合意形成」 と

い っ た過程 を経る言語活動 を含むこ と から , 子 ども たち

の思考力, 判断力, 表現力等の育成に資するこ とが期待

さ れ, 生き る力 を育むこ と にも つながる。 行事 を通 し て, 各自が自分で考え るこ と によ り , 学級の中で , ま た学年

の中で何をすべきかを考え て行動でき る生徒が増え て く

る。 学年が進むにつれて , さ ら に生徒が主体 と な っ て活

動す る場面が増え , また, お互いに声 を掛け合い, 集団

をよ く し よ う と す る雰囲気が生ま れ, 学校全体が落ち着

い た集団へ と 育 っ て い く 様子が う かがえ た。 軸丸 ら

(2006) も 「意識的かつ積極的に種々の体験を させる こ

と により 他者に出会い, 自己 を見出 し , 世界に日 を向け

て成長 し てい く のであ る」 と 述べてい る。

しかし ながら , 学校現場でのこ のよ う な取り 組みは, 系統立 っ た組織的 な も のにはな ら ず, 指導す る教師の力

量に左右 さ れがちである。 また, 取り 組みの評価や分析

も不十分なため, 一過性のも のと な っ て しまう こ と が多

い。 同 じ学校で も , 学年が異な ればその取り 組みを共有

でき ないこ と や, 知見が蓄積さ れないこ と も少な く ない。

さ ら に, 教師の転任等の移動で教師集団の組織が変われ

ば, 取り 組みの継続性が失われるこ と も ある。

そこ で, 実行委員 を募つて取り 組む学校行事のあり 方

を検討する基礎的情報を得るため, 実行委員会形式の学

校行事の準備や経験が, 学校生活や コ ミ ュ ニケ ーシ ョ ン

に関するスキルに与え る影響について, 質的心理学的な

観点に基づ く 分析を踏まえ, 質問紙調査を実施し , 検証

した。

方法

1 . グル ープイ ン タ ビ ュ ー

( 1 ) 実行委員へのグループイ ン タ ビ ュ ー

1 ) 目的

学校行事におけ る実行委員会の経験が与え る具体的影

響を さ ぐるため, 実行委員会形式で行事に取り 組んだ卒

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実行委員会形式の学校行事が中学生の学校生活に関する関連スキルに及ぼす影響

業生に フ オー カ ス グルー プイ ン タ ビ ユー (以下 FGI) を

行い , その経験を通 し て感 じたこ と , 考え たこ と な どを

聴き取り , 行事の在り 方, 実行委員会の持ち方について

調査 した。

2 ) 対象およ び調査方法

2012年 3 月にA 市立B 中学校を卒業した生徒 5 人 (男子 2 人, 女子 3 人, 調査時は高校 1 年生) を対象と して, 2012年 9 月に60分程度の面接を行った。 対象者は, 実行

委員長を し た生徒, 複数回実行委員 を し た生徒, 一度だ

け実行委員 を した生徒など, 様々な立場であった。 対象

者には, イ ン タ ビュ ーの目的 , 内容, およ び主旨 を説明

し たのちに実施 し た。 イ ンタ ビュ ーは筆者が担当 し , 匿

名性が守 ら れるこ と , また答え た く ない質問には答え な

く ても よいこ と を説明 し , 開始前にイ ンタ ビュ ーの承諾, 録音 ・ 録画の同意書の提出 を求めた。 会場には, 周囲の

雑音が入り に く い B 中学校パソ コ ンルームを使用 し た。

イ ン タ ビュ ーの活性化 を図 るため, 生徒が作成 し た当時

のしおり や写真な どを用意 し て提示 し た。

最初に 「実行委員会に立候補した時期」 「活動や役割」

「立候補の動機」 「行事を通し て思ったこ と」 な どについ

て , 質問紙で簡単に記述を求めた。

さ ら に, 半構造化形式のイ ン タ ビュ ーを行い , 立候補

の動機, 行事を通し て感 じたこ と , 現在の高校生活な ど

について尋ねた。 イ ンタ ビュ ーの結果は, 安梅 (2003) が示す内容分析法を参考に, 全体の体系的な整理を行い, 重要カ テ ゴリ ーを抽出 し た。 聴き取 っ た内容は, 質問紙

のフ ェ イ ス シート の作成及び質問紙の尺度の検討に活用

し た。

( 2 ) 教諭へのイ ン タ ビ ュ ー

該当学年の教論にイ ンタ ビュ ーを行い , 学校行事に関

わる生徒の意識や行動の変化 , 立候補を募つて実行委員

会を組織す るこ と の有用性について質問 し た。 また, そ

の当時の生徒に対 し て どんな言葉かけや働きかけ を し た

かな どを聴き取 っ た。 イ ン タ ビュ ーの内容は, 指導内容

を反映する ものと と らえ , 質問紙によ る調査結果の分析

の際に活用 し た。

( 3 ) 結果

安梅 (2003) の内容分析法に従い, 全体の体系的な整

理を行 っ て , 重要カ テ ゴリ ーを抽出 し た と こ ろ , 「立候

補の理由」 「活動を通して起きた自分の変化」 「物事に対

する自分の姿勢」 「活動を通して変化 した他の実行委員」

「実行委員以外の生徒の変化」 と い う 5 つの コ ア カ テ ゴ

リ が抽出 さ れた。

立候補の動機は, 最初は 「目立ち たかっ た」 「友達に

誘われて何と な く 」 な どが多 かっ たが, 実行委員経験 を

重ねるう ちに, 「行事で失敗を経験 し , 次こ そ成功させ

てやる と 思 っ た」 「やっ てい る う ち に今ま での自分 じ や

ない自分に気づいた」 「前の実行委員がかっ こ よかっ た

59

から , 自分 も やっ てみた く な っ た」 な ど, 取り 組みと と

も に自分の考えが変わっ てい つたという 意見が出た。 ま

た , 最初は協力的で なかっ た ク ラ ス メ イ ト も , 回 を重ね

るう ちに, 気を遺っ て く れるよ う にな っ たと の意見も あっ

た。 また , 話 し合いの中で , 「 と にか く 自分の頭で考え

ろ」 と 言われたので , 「自分たちで と こ と ん意見 を出 し

て , ぶつかり 合いながら も行事 を進めてい っ たのが良い

経験となった」 という 意見があった。 教諭へのイ ンタ ビュー

で も , 「自分たちで考え , 自分たちで動 く 」 と いう こ と

を徹底させ, 話し合いの時間を重視し , 生徒が主体になっ

て動 く よ う に指導するよ う 心がけ たと いう 話があっ た。

ま た, 「普段は教師の指導になかなか従え ない生徒も , 生徒同士の関係性の中で協力 し よう とする姿勢が見ら れ

た」 と いう 意見があり , 実行委員 も , それ以外の生徒も

学年集団と し て, と も に成長 し てい つた過程がう かがえ

た。

2 . 生徒に対する質問紙調査

( 1 ) 目的

中学生が行事 を体験す るこ と によ っ て, その行事の前

後で, 学校生活や, 学年集団, 学級集団に対する意識や

行動がどう 変化するかを明らかにするこ と を目的と し た。

( 2 ) 手続き

質問紙調査の実施については, 学級担任の教諭に教示

文を 「調査の手引き」 と し て提示 し , ク ラ スごと に実施

するよ う 依頼 し た。

( 3 ) 対象および調査方法

班別校外学習の前後で生徒の意識や行動がどのよう に

変化 したかを調査するために, 校外学習前の2012年12月

に, A 市立B 中学校 2 年生 8 ク ラ ス (男子156人, 女子

135人, 計291人) を対象に, 質問紙調査を行った。

さ らに, 同行事後の2013年 2 月に第 2 回質問紙調査を

行った。 (図 1 参照)以上の調査については, 無記名であ るも のの, 各生徒

に個別の ID を割り当てた。 従って, 各自の各調査結果

を対応 させるこ と が可能で , 個々の変化 を分析でき る。

図 1 全体の研究デザイ ン

使用 し た尺度は, 学校生活スキル尺度 (飯田 ・ 石隈

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60 学校教育学研究, 2014, 第26巻

2002) のう ち , 個人で行う 学習のために用いら れるスキ

ルである 「自己学習スキル (14項目)」, 集団活動の際必

要と さ れるスキルである 「集団活動スキル (12項目)」 , 同年代の友人や異性 と の コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ンに関す る ス

キルであ る 「同輩 と の コ ミ ュ ニケ ーシ ョ ンス キル ( 7 項

目)」 の 3 つの下位尺度, 計33項目と , 中学生用社会的

スキル尺度 (戸 ケ崎, 1997) 21項目」 と し た。

さ ら に, FGI で得ら れた意見を参考に し , 事後調査に

班別学習の印象, 影響等を調べるため, 「班別学習に参

加 し て楽 しかった」 「班別学習で , 自分の役割をき ち ん

と 果たせた」 「班別学習の中で, 自分が成長 し たと 思う

と こ ろがある」 「班別学習の後, 家での手伝い を さ ら に

するよう になった」 「班別学習で新 しい友だちが出来た」

「班別学習で , 友だちの新 しい良い面 を発見でき た」 の

6 項目 を追加 し た。 選択肢につい ては, 「 ま っ た く あて

はま ら ない ( 1 点)」 「ややあてはま ら ない ( 2 点)」 「や

やあてはま る ( 3 点)」 「 と ても よ く あてはま る ( 4 点)」までの 4 件法を用いた。 また, 上記の尺度の結果に関連

す る要因 と し て, 実行委員の経験等を調べた。 (表 1 参照)

行事に関わる活動については, 実行委員は, 行事の目

標の決定, 各係の役割分担や注意事項の確認, 学年集会

の運営な ど全体のために活動を行っ た。 一方, 非実行委

員は, 班の係の分担 , 班別行動のコ ース計画な どを行 っ

た。 (表2 参照)

表 1 調査項目

スキル等 自己学習スキル (14) 集団活動スキル (12) 同輩と のコ ミ ュ ニケ ーシ ョ ンスキル ( 7 ) 社会的スキル (21 ) FGl によ る追加項目 ( 6 )

関連要因 実行委員経験 生徒会役員 学級委員長 部長 ・

副部長 部活参加

表 2 班別校外学習の内容

実行委員

n = 27 班別学習の全体目標決め ・ 各係の役割分担及び注

意事項の確認

見学 コ ース設定の資料作成 ・ しおり の作成

学年集会での行事説明等

非実行委員

n = 264 班を編制 し各係の役割を分担

見学 コ ースの経路計画

公共交通機関等の利用方法 ・ 運賃 ・ 時刻の確認

新聞や紀行文の作成

また, 学校生活スキル尺度及び社会的スキル尺度の調

査対象に対する使用可能性を確認するために, 両スキル

について , 主因子法 ・ バリ マ ツク ス回転によ る因子分析

を実施した。

さ らに, 実行委員 (n=27) と非実行委員 (n=264) の

行事前後の変化については, 2 要因混合分散分析を行っ

た。 有意水準は 5 % と した。

結果および考察

学校生活スキル尺度については, 各項目は, ほぼ飯田 ・

石隈と同様に分類さ れたので, 飯田 ・ 石隈 (2002) の下

位尺度 を使用 し た。 社会的 スキル尺度について も , ほぼ

戸 ケ崎の分類と同様であっ たので, 戸 ケ崎 (1997) の尺

度を使用 した。 各下位尺度の回答者数 (n) , 得点の平均

値 (M) , 標準偏差 (SD) を表 3 に示す。 各下位尺度の

信頼性 を検討 し た と こ ろ , 社会的 ス キル を 除き , α= .816~ .875 と なり , 信頼性が確認 さ れた。 社会的スキル

については, α=.642と なり , 信頼性は高 く はなかっ た。

< 表3 参照>

表 3 学校生活スキル及び社会的スキルの平均値と 標準偏差

スキル n M SD a 自己学習

集団活動

コ ミ ュ ニケ ーシ ョ ン

社会的

5

9

1

7

8

8

9

8

2

2

2

2

38.51

37.64 20.57 66.43

9

9

0

9

8

3

4

7

7

5

4

7

875

816

838

642

分散分析の結果, 行事前後の自己学習スキルにおいて

は, 交互作用は認めら れなかっ たが, 時期の主効果が認

めら れ, 事後が高い値と なっ た。 (F(1, 273) = 6.37, p <.05) (図 2 ) 。 コ ミ ュ ニケーシ ョ ンスキルも交互作用は

認めら れず, 実行委員 ・ 非実行委員 と も に向上す る傾向

があっ たが (p= .062) , 時期の主効果は認めら れなかっ

た。 集団活動スキルは, 交互作用及び時期の主効果は認

めら れなかっ たが, 群の主効果が見 ら れ, 実行委員の方

が高い値と なった (F(1, 276) = 4.44, p<.05) ) (図 3 )。

社会的スキルについては, 交互作用 も 主効果も 認めら れ

なかっ た。 群と時期の交互作用が認めら れず, 「実行委

員の方がよ り 向上す る」 こ とは確認でき なかっ た。

p< .05図 2 行事前後の自己学習スキル合計点の変化

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実行委員会形式の学校行事が中学生の学校生活に関する関連スキルに及ぼす影響

p<. 05

図 3 行事前後の集団活動スキル合計点の変化

実行委員と非実行委員 を比べた場合, 学校行事への関

わり の強 さから , 実行委員の方がスキルの向上がよ り 大

きい と予想 し ていたが, いずれの尺度の変化について も , 両者の間に有意な差は見 ら れなかっ た。 その中で自己学

習スキルは, 実行委員 , 非実行委員にかかわらず得点が

向上 した。 こ れについては, 非実行委員の学校行事への

関わり が小 さ く なかったこ と が考え ら れる。 具体的には, 非実行委員も, 行事の前には役割分担の話し合いを持ち, 見学コ ースの経路計画を練っ たり , 見学施設について事

前に調べたり , また行事の後には行事 を テーマ と し た新

聞や紀行文 を作成 し た (表 2 参照) 。 し たがっ て, こ れ

らの活動が非実行委員の自己学習スキル向上につながっ

たのではないかと考え ら れる。 一方, 実行委員は, 全体

計画の策定, 役割分担や活動の計画, 学年集会での説明

等, 自主性が求めら れる活動に, 長期にわたり 従事 し て

おり , 自己学習スキルの向上は当然のこ と と考えら れる。

体験や集団活動が学習に寄与する可能性があるこ とは, 複数の調査で示 さ れている。 例えば, 中央教育審議会答

申 (2013) には, 「全国学力 ・ 学習状況調査においては, 自然の中で遊んだこ と や自然観察を し たこ と があ る児童

生徒の方が, 理科の平均正答率が高 く , 自然の中での集

団宿泊活動を長い日数行 った小学校の方が, 国語 ・ 算数

の主に 「活用」 に関する問題の平均正答率が高い傾向に

あっ た。 PISA 調査 (OEc D 生徒の学習到達度調査) に

おい て も ク ラ ブ活動 な どの様々な学校の活動が行 われて

い るほど読解力の得点が高い と いう 結果と な っ てい る。」

と あるよ う に, 集団活動 を行う こ と が学力向上につなが

る可能性があ る と 考え ら れる。

一方スキルについ ては, 一般的 に, 学年が上がるにつ

れて低下する傾向がある (飯田他, 2008) と さ れてい る。

しかし , 本研究では自己学習スキルの得点において時期

の主効果が見ら れ, 行事後に上昇 し ており , コ ミ ュニケー

シ ョ ンスキルも 上昇の傾向が見 ら れた。 し たがっ て , 学

校行事が生徒のスキル向上に好ま しい影響 を及ぼし てい

るこ と が示唆さ れる。 飯田ら (2008) は, 介入を しない

61

限り スキル実行に対す る自己評価は低下す るので , スキ

ル低下を予防するために, 積極的な予防 ・ 開発教育が必

要である と し ており , 学校行事 を活用す るこ と はスキル

低下予防に効果を上げら れるのではないかと考え ら れる。

学校行事については, 授業時間確保のために, ま た, 保護者の経済的負担 を減らすために, と もすれば縮小傾

向にある。 しかし , 生徒に好影響を及ぼすこ と を考え る

と , 今日の日本社会において, 学校行事の果たす役割は

大きい と考え ら れる。

今後は, 実行委員会形式によ る行事の有効性の継続的

調査を通し て, 実行委員会形式の効果をより 詳細に検証

する予定である。

引用文献

安梅勅江 (2001) . ヒ ュ ーマ ンサー ビス におけ る グルー

プイ ンタ ビュ ー法 科学的根拠に基づ く 質的研究法の

展開 医歯薬出版株式会社

安梅勅江編著 (2003) . ヒ ュ ーマ ンサービスにおけ る ク

ルー プイ ン タ ビュ ー法 n /活用 事例編 一科学的根拠

に基づ く 質的研究法の展開 医歯薬出版株式会社

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付記

本研究 を進めるにあたり , ご指導いただいた兵庫教育

大学大学院の浅川潔司教授, 西岡伸紀教授に厚 く お礼申

し上げます。

(2013. 8 .30受稿, 2013.11.18受理)