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116 ソシオロゴス NO.39 / 2015 脱「魔女」化する「占い・おまじない」 ――90 年代『マイバースデイ』を中心として―― 橋迫 瑞穂 本稿は、1980 年代に少女たちのあいだで受容された「占い・おまじない」ブームが、90 年代におい てどのように変化してきたのかを、代表的な少女向けの「占い・おまじない」雑誌『マイバースデイ』 を素材として明らかにすることを目的とする。筆者がすでに別の機会に明らかにしたように、80 年代の 「占い・おまじない」は、少女たちに白魔女という理想像と、それに向かって努力する存在である「魔女」 のモデルを提示し、学校での人間関係に向き合う努力に指針を与えるものであった。しかし、90 年代に 入ると「占い・おまじない」のこのような性格は失われ、代わって、学校生活における人間関係を分析し、 そのなかでの自己の位置を見極める「地図」の役割を担うようになった。一方、そのような役割とは分 離した形で「精神世界」について言及する記事も見られるようになる。こうして「占い・おまじない」は、 90 年代においてその役割が分化していったのである。 1 はじめに P・L・バーガーは『故郷喪失者たち――近 代化と日常意識』のなかで、近代以前の社会に おける人びとは、私的領域、公的領域といった 分化したひとつの「世界」ではなく、統合され た「世界」に生きていたと述べた上で、世界の 統合的な意味秩序をあらわす型やシンボルが、 かつては宗教的なものであったとしている。だ が近代において、宗教は社会の意味を統一する 「包含的な天蓋」の役割から後退し、「世俗化」 した。さらに、近代科学などが「神秘・魔術・ 権威」といった宗教性の信憑性をも下落させる ようになる。その結果、「世界」は複数形になり、 人びとは期待といった幻想を排除しつつ、「過 去の経験の記憶と将来の計画」に基づく「社会 の地図」を自身で作成し、そのなかに自己を位 置づけなければならなくなった。こうした「地 図」を作成するような人々の思考のありかたは きわめて社会学的なものであり、バーガーはそ れ を「 一 般 的 な『 社 会 学 』」 と 表 現 し て い る。 そして、「異様に未確定」なアイデンティティ を生きねばならなくなった近代人の状況を、 バーガーは「安住の地の喪失」(homelessness) と呼ぶ(Berger et al.1973=1977: 70-94)。ただ し、宗教は社会から退場したのではなく、私的 領域のなかで選択されるものへと変化したとも 指摘している。 だが、今日の日本社会では、広い意味で宗教 に類する文化が、バーガーのいう「地図」を提 供する役割を担うようになったとする立場があ る。芳賀学と弓山達也は、現代日本社会におけ る宗教に近しい若者文化の一つの現れとして 80 年代の「占い・おまじない」ブームを取り 上げている。そして、そのブームを代表するも のとして、少女向けの占い雑誌『マイバースデ

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116 ソシオロゴス NO.39 / 2015

脱「魔女」化する「占い・おまじない」――90 年代『マイバースデイ』を中心として――

橋迫 瑞穂

本稿は、1980 年代に少女たちのあいだで受容された「占い・おまじない」ブームが、90 年代におい

てどのように変化してきたのかを、代表的な少女向けの「占い・おまじない」雑誌『マイバースデイ』

を素材として明らかにすることを目的とする。筆者がすでに別の機会に明らかにしたように、80 年代の

「占い・おまじない」は、少女たちに白魔女という理想像と、それに向かって努力する存在である「魔女」

のモデルを提示し、学校での人間関係に向き合う努力に指針を与えるものであった。しかし、90 年代に

入ると「占い・おまじない」のこのような性格は失われ、代わって、学校生活における人間関係を分析し、

そのなかでの自己の位置を見極める「地図」の役割を担うようになった。一方、そのような役割とは分

離した形で「精神世界」について言及する記事も見られるようになる。こうして「占い・おまじない」は、

90 年代においてその役割が分化していったのである。

1 はじめに

P・L・バーガーは『故郷喪失者たち――近

代化と日常意識』のなかで、近代以前の社会に

おける人びとは、私的領域、公的領域といった

分化したひとつの「世界」ではなく、統合され

た「世界」に生きていたと述べた上で、世界の

統合的な意味秩序をあらわす型やシンボルが、

かつては宗教的なものであったとしている。だ

が近代において、宗教は社会の意味を統一する

「包含的な天蓋」の役割から後退し、「世俗化」

した。さらに、近代科学などが「神秘・魔術・

権威」といった宗教性の信憑性をも下落させる

ようになる。その結果、「世界」は複数形になり、

人びとは期待といった幻想を排除しつつ、「過

去の経験の記憶と将来の計画」に基づく「社会

の地図」を自身で作成し、そのなかに自己を位

置づけなければならなくなった。こうした「地

図」を作成するような人々の思考のありかたは

きわめて社会学的なものであり、バーガーはそ

れを「一般的な『社会学』」と表現している。

そして、「異様に未確定」なアイデンティティ

を生きねばならなくなった近代人の状況を、

バーガーは「安住の地の喪失」(homelessness)

と呼ぶ(Berger et al.1973=1977: 70-94)。ただ

し、宗教は社会から退場したのではなく、私的

領域のなかで選択されるものへと変化したとも

指摘している。

だが、今日の日本社会では、広い意味で宗教

に類する文化が、バーガーのいう「地図」を提

供する役割を担うようになったとする立場があ

る。芳賀学と弓山達也は、現代日本社会におけ

る宗教に近しい若者文化の一つの現れとして

80 年代の「占い・おまじない」ブームを取り

上げている。そして、そのブームを代表するも

のとして、少女向けの占い雑誌『マイバースデ

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イ』に取り上げられた西洋占星術に注目してい

る。彼らによれば、占いとは、生得的属性であ

る「誕生時」をもとに、個人が自身の内面や周

囲の人間関係を解釈し、そこで生じる「重い」

関わりを回避しつつ「自己の生き方への確証」

を獲得する支えとなる役割を担うものであっ

た。また、「誕生時」にもとづいて、幸福にな

るための手段を導き出す「おまじない」にも、

同様の役割が見いだされる。こうした働きか

ら、彼らは「占い・おまじない」の役割を「認

識のための『地図』」(芳賀・弓山 1993: 222-

224)と表現するのである。こうした「占い・

おまじない」の示す「地図」はバーガーのいう「地

図」とは異なり人間関係を主題とするものであ

るが、いずれにしても「地図」を作成し、そこ

に自己を位置づけるという手順においては同じ

役割を果たしていると言えるだろう。

しかし、筆者は 80 年代の『マイバースデイ』

の記事を改めて検討することで、「占い・おま

じない」が「認識の地図」を提供するのとは異

なる側面を持っていたことを明らかにした(橋

迫 2014b)。すなわち、権威づけられた占い師

によって示される「占い・おまじない」は、神

秘的な白魔女という理想像を設定し、その理想

を目指して努力するという「魔女」のモデルを

提示するものであった。かつて宗教が「包含的

な天蓋」として社会の意味を統一するシンボル

を示したように、80 年代の『マイバースデイ』

の「占い・おまじない」が示す「魔女」は、少

女たちが直面する現実の社会関係に、その意味

を統一する「天蓋」を示すものであったと考え

られる。だが 90 年代に入り、『マイバースデイ』

はその内容が大きく変化した。では、90 年代

の『マイバースデイ』における「占い・おまじ

ない」とはどのような内容のものであり、読者

である少女たちに対してどのような自己のあり

かたを示すものだったのだろうか。そしてそれ

は、「魔女」のモデルを示してきた 80 年代の「占

い・おまじない」とどのように異なるのだろう

か。このような視点から、本稿は、『マイバー

スデイ』における 90 年代の「占い・おまじない」

の変化に注目し、明らかにすることを目的とす

る 1。

この目的のために、「占い・おまじない」ブー

ムを代表する少女向けの占い雑誌、『マイバー

スデイ』を取り上げる。筆者はすでに、国立国

会図書館分館の国際子ども図書館に所蔵されて

いる、同誌 1979 年創刊号から 2006 年に休刊

されるまでの全冊のうち、80 年代に出版され

たものについて分析を行ってきた。本稿ではそ

れを踏まえた上で、90 年代に発行されたもの

を検討する。『マイバースデイ』は実業之日本

社より刊行された、女子中高生を主な読者層と

する「占い・おまじない」を専門とする雑誌で

あり、全盛期には公称約 40 万人の読者がいた

とされている 2。当初は主に西洋占星術を中心

としたものであったが、次第に多様なトピック

を取り上げるようになった。また、一般的なラ

イフスタイルについての記事を掲載し、さら

に、これらの記事は新学期や卒業式、バレンタ

インデーなどの学校生活に関連する行事にあわ

せて特集が組まれてきた。こうした『マイバー

スデイ』は、これまでさまざまな観点から取り

上げられてきたが、『マイバースデイ』それ自

体が検討の対象とされてきたことはなかった。

同時期には『マイバースデイ』からの派生と

して、より幅広い世代に向けて「占い・おまじ

ない」の情報を専門に掲載した『MISTY』(1989

年)や、社会人の女性に向けた『moniQue』(1989

年)、小学生向けの『プチバースデイ』(1987

年)などが創刊されている。また、学習研究社

より少女向けのファッション誌でありながら

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「占い・おまじない」についても取り上げた雑

誌『Lemon』(1982 年 ) や、 い わ ゆ る オ カ ル

ト雑誌『ムー』の姉妹誌である『Elfin』(1990

年)なども出版されている。そのなかで『マイ

バースデイ』は、中高生を対象として、彼女た

ちの日常である学校生活と「占い・おまじない」

を結びつけてきたということに特徴がある。こ

うした流れは他の雑誌にも見られるが、例えば

『プチバースデイ』が小学校での遊びの一つと

して「占い・おまじない」を示していたのに対

し、80 年代の『マイバースデイ』は「占い・

おまじない」を、中高を中心とする学校生活で

どのように生かすのかについて、正面から取り

組むものであったという違いが見いだされるの

である。ただしこのことは逆に言えば、『マイ

バースデイ』の「占い・おまじない」とは、学

校生活に限定して効果を発揮するものであった

とも言えるだろう。

その『マイバースデイ』は、これまで大きく

二つの観点から言及されてきた 3。一つは、「宗

教ブーム」を取り上げる観点のものである。例

えば、島薗進は「宗教ブーム」を構成する一つ

として、メディアを通して広く大衆に浸透した

ものを「呪術=宗教的大衆文化」と呼び、その

例として『マイバースデイ』を挙げている。こ

うしたものが広まった理由として島薗は、個人

主義的な生活スタイルが広まっていく社会のな

かで「個人的な宗教情報の消費や霊性追求」が

求められていたからであるとしている(島薗

2001: 172-196)4。 もう一つは、 少女文化を

取り上げる観点からのものである。大塚英志は

80 年代の少女文化を論じるなかで、『マイバー

スデイ』で取り上げられた数々のおまじない

グッズに注目している。そして、そこには実現

可能性の乏しい異性との両想いといった事柄に

祈りをささげることで、「ケガレ」のない独自

の世界に生きることを少女たちが望んでいたと

述べている(大塚 1995: 187-212)5。

このように、80 年代の「占い・おまじない」

ブームに関連する形で『マイバースデイ』が注

目されてきたが、それが 90 年代以降どのよう

な変化を遂げてきたかについては、これまでほ

とんど論じられることはなかった。その大きな

理由として、1995 年に起こったオウム真理教

による地下鉄サリン事件の影響が挙げられるだ

ろう。95 年以降、宗教学、宗教社会学におい

て、オウム真理教が出現した背景である「宗教

ブーム」が批判的に検討されるようになった

が、そのなかで「占い・おまじない」ブームは

その一要素として触れられるにすぎなくなる 6。

だが、2000 年代に入ると「占い・おまじない」

は「スピリチュアル・ブーム」を構成する一つ

の要素として、再び議論の対象にもなった(有

元 2011; 橋迫 2012)。ただし、「占い・おまじ

ない」ブームが少女を主役とするのに対し、「ス

ピリチュアル・ブーム」は大人の女性が中心で

あるという違いがある 7。

他方で、一般的な女性誌や、ファッション誌

においても占いやそれに類するものが取り上げ

られており、そうしたものに注目する議論も

行なわれてきた(粟飯原・ガール 1989: 200-

8; 諸富 1993: 55-106)。例えば、牧野智和は、

SNS の広がりや占いを含む「自己啓発本」の潮

流を、自己に対する漠然とした悩みや問いを特

定のものに形づくり、実践可能なものとする知

識や技術(「自己のテクノロジー」)の登場とし

ている。こうした流れを、彼はアンソニー・ギ

デンズの議論(Giddens1992=2005)から「自

己の再帰的プロジェクト」ととらえている(牧

野 2012: 1-12)。その上で牧野は、女性向けの

ライフスタイル誌『an・an』に登場する「女

性の生き方をめぐって発言力を持ち、指導的な

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役割をになう」さまざまな職業、立場からの人

びとを「権能複合体」と呼び、その中に占い師

が含まれていることに言及する。そして、それ

が「自己の再帰的プロジェクト」として「自己

の主体化のための資源」を提供しながらも、あ

くまで「女らしさ」を前提としたジェンダーの

枠内にあることを指摘しているのである(牧野

2012: 135-187)。こうした「占い・おまじない」

のありようは、『マイバースデイ』に近い性質

を持っていると言えるだろう。

ただし、一般的なファッション誌やライフス

タイル誌のなかの「占い・おまじない」は、全

体の記事内容の一部にすぎない。例えば、牧野

が取り上げた『an・an』など定期的に占いの

特集を組むファッション誌、ライフスタイル誌

は存在するが、それも全体から見れば一部分で

あると言えるだろう。ただし、こうした雑誌は

「占い・おまじない」をファッションやライフ

スタイルの延長上に置くことによって、広く女

性の関心をひくものとなっている。それに対し

て、『マイバースデイ』は一貫して「占い・お

まじない」に関する記事が圧倒的な部分を占め

ていたという違いがある。さらに、その読者層

は「占い・おまじない」に関心を持つ女子中高

生を読者層とし、学校生活と組み合わさること

で独自の内容を示すものであった。したがっ

て、本稿で論じる「占い・おまじない」は少女

と学校という結びつきに重点を置くものであ

り、また、あくまでも雑誌という媒体の中にあ

らわれた側面を明らかにするものである。こう

したことから、『マイバースデイ』という雑誌

においての、「占い・おまじない」の変化を検

討するものであることをここでは強調しておき

たい。

この点を注視しつつ、本稿では 2 でこれまで

筆者が行ってきた 80 年代の『マイバースデイ』

についての検討をもとに、「魔女」のモデルに

ついて明らかにする。次に 3 では、90 年代『マ

イバースデイ』とそこに見られる「占い・おま

じない」の内容の変化や特徴を、学校生活と結

びついたものについて整理し、4 では「占い・

おまじない」が示す「精神世界」のありように

ついて検討する 8。その上で、5 では 80 年代

の「占い・おまじない」と比較しつつ、改めて

90 年代の「占い・おまじない」の動向につい

て明らかにする。

2 80 年代の『マイバースデイ』における

「占い・おまじない」

ここではまず、80 年代に出版された『マイ

バースデイ』における「占い・おまじない」の

内容とそれが示す「魔女」のモデルについて、

筆者がこれまで明らかにしてきた特徴をもと

にその要点を挙げることとする(橋迫 2014a;

2014b)。

述べたように『マイバースデイ』はライフス

タイルの記事をも掲載してきた。80 年代のラ

イフスタイル関係の記事では、少女たちにとっ

て身近なファッションや小物などを紹介するほ

か、DIY や裁縫、料理のレシピなどの手引きも

取り上げられていた。また、学校生活にかかわ

る悩み事のほか、異性のこと、将来のこと、留

学のことなども定期的に取り上げてきた。この

時期の特徴として、これらのライフスタイル関

係の記事にも占い師が登場したり、コラムを掲

載していることが挙げられる。さらに『マイバー

スデイ』は、学校に関連する行事によって特集

を組んだり、表紙だけでなく記事や付録にも少

女漫画家によるイラストを多用したりすること

によって、誌面に統一性が与えられていた。ま

た、読者投稿欄である「ハローバースデイ」や、

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『マイバースデイ』の会員制度である「MB メ

イト」、占い師の講演会や他の会員との交流を

目的とした「友の会」が、読者同士の結びつき

を促してきたのもこのころの特徴である 9。

では、80 年代の『マイバースデイ』におい

て「占い・おまじない」そのものはどのように

取り上げられていたのだろうか。『マイバース

デイ』では創刊当初から、十二星座ごとの運勢

を詳細に記した「マンスリーホロスコープ」と

「細密研究」が連載されてきた。当初は西洋占

星術を中心に紹介されてきたが、次第に東洋占

星術や超能力、心理テスト、いわゆるオカルト

についての話題といった多様なトピックが取り

上げられるようになる。そのなかで、80 年代

の特徴をなしているのが、魔女や魔法、魔術と

いったテーマを取り上げた記事である。特に、

79 年 12 月号の「魔女っこ入門」から誌面に

登場した西洋占星術研究家のルネ・ヴァンダー

ル・ワタナベは、魔女、魔法、魔術にまつわる

専門的な知識を交えながら、魔女の儀式を思わ

せる複雑な手順を要する「占い・おまじない」

を紹介するようになる。ルネは 80 年代の記事

に毎号のように登場し、「友の会」で講演を行

うなど中心的な役割を担ってきた 10。

こうしたルネの紹介する「占い・おまじな

い」の内容は、大きく分けて二つの特徴を持っ

ている。一つは、「占い・おまじない」を通し

て白魔女という理想像を提示している点であ

る。白魔女の理想像を、もっともよく表してい

るのが 81 年 6 月号の「魔女っこテスト」であ

ろう。ルネによると白魔女とは、「厳しい訓練

を経て大宇宙と小宇宙(自分自身)をすっかり

調和させて生活」することで「幸運体質」を形

成し、そのそばにいるだけで周囲の人びとが幸

せになる存在のことを指す。もう一つの特徴と

は、ルネの「占い・おまじない」が、この白魔

女という理想像に向かって、自分の内面を磨く

努力のいとなみの過程として設定されている点

である。ルネが「占い・おまじない」を実行す

る読者のことを、「魔女っこ」と名づけている

のはその現われである。

こうしたルネの姿勢は他の占い師にも影響を

与え、さらには、「占い・おまじない」が学校

でも実行しやすいものとして紹介されるように

もなる。例えば占い師であるマーク・矢崎治信

は、「ハローバースデイ」の記事の一つとして、

読者からの悩みに答えながら効果的な「占い・

おまじない」を紹介する「マークの『魔女入門』」

の連載を 79 年 11 月号より開始している。マー

クは記事のなかで、学校での人間関係に向き合

う努力の重要性を読者に説き、御札やマスコッ

トなどをそうした努力を後押しするものとして

紹介してきた。また、占い師のエミール・シェ

ラザードは「占い・おまじない」と、「ファン

シーグッズ」を思わせる小物やお菓子、さらに

は少女漫画家によるイラストといったものと融

合し、さらにはプレゼントとすることで、周囲

の人間関係に向き合う手だてとしても提案して

いる 11。

他方で、読者が自ら創作した「占い・おまじ

ない」を紹介したり、それを実行した際の様子

などを、読者投稿欄の「ハローバースデイ」や

特集記事で積極的に報告しあうようになる。そ

うした投稿記事の内容からは、読者が周囲の人

間関係に向き合う努力を重視していたことが読

み取られるのである。

このように『マイバースデイ』の「占い・お

まじない」は、読者である少女たちに、学校で

の人間関係に、軋轢を厭わず積極的、能動的に

かかわり、相手を幸せにしようと努力をする存

在として、「魔女」のモデルを提示するもので

あった。また、「占い・おまじない」は、ルネ

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の影響を受けた占い師によって、実際に学校に

持ち込める身近なものとなるだけでなく、少女

文化と結びつくことで少女らしさを強調する役

割をも果たしてきたのである。こうしたことか

らは、「占い・おまじない」は学校での人間関

係に積極的に向き合うことによって、自己の在

り方を高めるという、いわば修養の場としての

意味を学校に与えてきたと言えるだろう。他方

で、80 年代の『マイバースデイ』は、占い師

を紐帯とした読者同士の緩やかな共同体を誌面

の上で形成する役割を果たしてきたこともうか

がわれるのである 12。

しかし『マイバースデイ』の「占い・おまじ

ない」が「魔女」のモデルを読者に提示してき

たのは、もっぱら 80 年代に限られたことであ

る。では、90 年代の『マイバースデイ』にお

ける「占い・おまじない」とはどのような内容

を持ち、いかなる役割を担うものであったのだ

ろうか。

3 90 年代の『マイバースデイ』と「占い・

おまじない」

3-1 『マイバースデイ』の変化とその様相

90 年代の『マイバースデイ』に見られる最

も大きな変化は、80 年代には区別なく扱われ

てきたライフスタイルの記事と「占い・おまじ

ない」の記事が、独立して提示されるようにな

ることにある。そのことは、目次で両者が分け

て表示されるようになったことや、ライフスタ

イル関連の記事に占い師が登場しなくなったこ

とに現われている。また、「MB メイト」や「友

の会」は継続されるものの、その活動が誌面で

大きく取り上げられることが少なくなっていっ

た 13。さらに、少女漫画家によるイラストも減

少するようになる。

そのなかで 90 年代の「ライフスタイル」の

記事では、学校生活での人間関係に焦点を当て

て、相手に好印象を抱いてもらうことを重視し

た内容のものが見られる。例えば 93 年 2 月号

では「オープンマインドの女の子になろう!」

という題で、「話しかけやすく場を明るくする

魅力がある。自分をもっていて、NO と言うこ

ともできる」女の子を目指すという内容が掲載

されている。また「朝は必ず自分からあいさつ」

といった心得が列挙され、学校での友人やクラ

スメイトから好印象を持ってもらうことが目指

されているのである。

こうした記事のなかには、異性や恋愛につい

て取り上げた記事も見られるようになる。もっ

とも、異性についての記事は 90 年代に入って

ことさら目立つようになったわけではない。例

えば 90 年代に連載が続いた「MB ボーイズ心

理接近チェック」シリーズは、すでに 87 年 4

月号から連載が始まっていた。当初は、異性の

内面性や異性との関係の取り方を正面から取り

上げることが多かったが、90 年代になると手っ

取り早く異性からの好感を得ることをねらいと

した記事が目立つようになる。例えば、96 年

7 月号「視線の流れをチェックしよう!」では、

読者アンケートにもとづいて男の子が重視する

女の子の体のパーツを、胸、脚、顔といったよ

うに紹介するものや、男の子はどのような女の

子とセックスをしたいかの結果が載せられてい

る。このように 90 年代の『マイバースデイ』

におけるライフスタイルの記事をめぐっては、

学校のなかで広く周囲から好感を抱いてもらう

ためのマニュアルの記事や、周囲からの印象を

探るための記事が目立っている。では、90 年

代の『マイバースデイ』では「占い・おまじない」

はどのように取り扱われているのだろうか。

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3-2 目次に見られる「占い・おまじない」

の題の変化

まず、大きな変化として 80 年代は固定した

占い師が定期的に執筆することで、指導的な役

割を果たしていたのに対して、90 年代には多

様な占い師が不定期に記事を掲載するように

なったことがあげられる。そのため占い師に個

別に焦点を当てるだけでは、雑誌の全体像を把

握することが困難になってきた。そうしたなか

で、「占い・おまじない」の記事の題に変化が

見られるようになる。

その変化を確認するために、「魔女・魔法・

魔術」「心理テスト」「ランキング」が表題につ

く見出し記事の件数をグラフに示した。この図

からは、90 年代のはじめを境に、「魔女・魔術・

魔法」といった語に代わって「心理テスト」「ラ

ンキング」といった語が多用されるようにな

り、その記事内容が大きく変化したことが読み

取れる 14。また、「おまじない」は「ランキング」

の記事に連動する形で取り上げられるようにな

る。それに加えて、90 年代からは、「精神世界」

に深く言及した記事も見られるようになるので

ある。そのことに注目しつつ、次に、「心理テ

スト」と「ランキング」としての「占い・おま

じない」、そして「精神世界」を重視する「占い・

おまじない」の三つについて、その内容を順次

見ていくことにしよう。

                    

3-3 「心理テスト」としての占い        

図 1 に 示 し た よ う に、「心 理 テ ス ト」 に 関

す る 記 事 は 80 年 代 の 後 半 か ら 見 ら れ る も

の で あ っ た。 ま た、「 テ ス ト 」 と い う 言 葉

自 体 も、80 年 代 な か ば か ら 見 ら れ る。 た だ

し、それらは先述したルネの「魔女っこテス

ト 」 に 代 表 さ れ る よ う に、 そ れ ぞ れ の 占 い

師の個性が反映されて多様な題名や内容を示                        

すものであった。だが、90 年代からは「心理

テスト」と題した記事がそのほとんどを占める

ようになる。そして、さまざまな占い師が記事

を掲載しているにもかかわらず、その目的や内

容には共通する要素が見いだされるのが 90 年

代における「心理テスト」の特徴である。

図1 見出しに使用された「魔女・魔術・魔法」「心理テスト」「ランキング」の推移

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んて感じで、少しおそれられている可能性も

……。冷静に自分を見つめてね。」とコメント

されている。 

また、バレンタインデーを控えた 2 月号では、

こうした「心理テスト」が数多く掲載されて

いる。例えば、92 年 2 月号ルナ・マリアによ

る「バレンタイン恋の必勝‼心理テスト集」で

は、表題に「成功率をもっとアップさせるため

に、あなたにピッタリのアタック法を教えちゃ

うよ!」とあり、続くページでは「恋を応援し

てくれるのは?」「彼にピッタリのアタック法

は?」といった題で「心理テスト」の記事が 6

つほど掲載され、それによって、効果的かつ効

率的に相手に思いを伝える方法を判断する仕組

みとなっている。

このように、「心理テスト」としての占いは、

自身が周囲からどう見られているかというイ

メージや、周囲の人びとの性格などを、その都

度の場面や親密さの度合いごとに分析するもの

となっており、それによってどのようにふるま

えば好印象を得られるのかを判断するための手

がかりを与えるものとなっている。ここでは、

姫といった非現実的なモチーフはあくまで「心

理テスト」を行うための道具立てに過ぎない。

学校における具体的な場面での振る舞い方と

か、思いの伝え方などが「心理テスト」の対象

として取り上げられているのは内面よりも、自

分がひとからどう見られているかをより現実に

即して判定しようとするねらいがあるためと考

えられる。では次に、「ランキング」としての「占

い・おまじない」の記事を取り上げてみよう。

3-4 「ランキング」としての「占い・おま

じない」

「ランキング」という題の記事も 80 年代に

も見られるが、それは特集の一部として取り上

「心理テスト」の記事は、あらかじめ用意さ

れた選択肢を読者自身が順次たどることで個別

の結果を読み取ることができるチャート式のも

のが目につく。例えば 96 年 11 月号の森井ゆ

うも「プリンセス物語心理テスト」は、読者が

物語の上でお姫様になって物語の進め方を選択

することで、自分をあらわす姫のタイプを判断

するものとなっている。例えば「あなたがおや

ゆび姫でムリヤリ結婚させられそうになったら

嫌なのは a. カエル b. モグラ」といった選択肢

が設けられており、その選択肢をたどると次第

に枝分かれして、最後にさまざまな姫のタイプ

のいずれかにたどりつくようになっている。続

くページには例えば解説があり、「シンデレラ

タイプ」とはどのような性格か、相性の良い異

性はどのようなタイプかなどが示されている。

さらに 90 年代では単に「テスト」と表記さ

れたものでも、その題のなかで「心理」と組み

合わされて表示されるものもある。そのなか

で典型的なのが、95 年 9 月号の東野良軒「MB

おもしろテスト友だち関係心理分析チェック!

私ってみんなに好かれてる? キラワレてる?」

という記事であろう。これは、学校で起こりう

る事柄から、自分が周囲からどのように思われ

ているかを判断するものである。例えば Q1 で

は、「あなたのクラスに転校生が 6 人入ること

になりました、友達になりたくないのはどれ」

という質問とともに、「がさつな体育会系の女

の子」「暑苦しい根暗な男の子」といったキャ

ラクターがイラスト付きで示されている。診断

結果によると、どのキャラクターが嫌だと思う

かという点から、自分が周囲からどう見られて

いるかがわかるとある。例えば、「根暗な男の

子」が嫌いという場合は「『みんなの先頭にた

つ元気いっぱいのコ』なんて印象を周囲にあた

えます。その反面、『男まさりで勝気なコ』な

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げられる程度であった。90 年代に入ると、こ

うした「ランキング」の記事は、特集としてま

とまった内容のものが頻繁に提示されるように

なる。そして、そのほとんどが、十二星座のそ

れぞれをランクづけして結果を示したものと

なっている。さらには、人間関係をめぐる具体

的な場面に応じたものが、詳細に取り上げられ

ていることに特徴がある。例えば、占い師モ

ナ・カサンドラによる 96 年 4 月号「Spring ラッ

キー星座ランキング」は、新学期に備えて、「学

校が大好きになるのは?」「先輩、後輩と仲良

くできるのは?」といったテーマが並べられて

おり、それぞれに運の良い星座が表示されてい

る。また、続く「これで学校運のラッキー度U

Pですよん♡」というコラムでは、運気を高め

るための「おまじない」に相当する記事も掲載

されている。例えば、うお座は「手づくり名刺

をもって登校するとラッキー!」などといった

具合である。

ただし、90 年代に入ってからの特集には、

その目次の表題に「ランキング」と表示されて

いない場合でも、その中で提示しているものも

見られるようになる。例えば 95 年 2 月号の鏡

リュウジ、中谷マリによる「バレンタイン恋の

運勢ハッピー予報」は、その月の特集として大

きく取り上げられている。その冒頭では、「バ

レンタイン、ラッキーなのはこの星座!」とい

う題で、「チョコがじょうずにつくれる」「ライ

バルの動きに注意すべき」といったテーマごと

に星座の運勢が「ランキング」形式で様々に紹

介されている。この特集において最も目につく

のが「100 位までランクづけ‼彼とあなたの告

白 OK ♡の確率占い」だろう。これは告白の成

功率について相手と自分の星座で割り出した

ものを、144 マスの図表にして示したものに、

1 位から 100 位までの番号が振られたものと

なっている。

さらに、こうした占いは占い師によるもので

はなく、読者アンケートによって構成された記

事もある。例えば 96 年 11 月号の「12 星座別

人気獲得大作戦‼」という特集では、新学期を

前にしてクラスで人気者となるにはどうしたら

よいかについて、さまざまな占いの結果が掲載

されている。そのなかの記事である、「読者ア

ンケートによりここに決定する独断と偏見のな

んでも星座ランキング」では、相手の星座から

受ける印象が読者アンケートに基づき「ランキ

ング」形式で紹介されている。また、続く「○

○座にひとこと言いたーい、そんなあなたがイ

ヤ‼なんです。」と題する記事では、次のよう

な文章が、十二星座ごとに並べられている。

人の弱点をズバズバ言って傷つけてしまい

がちなのはいて座「あるいて座のコに、テス

トの点数を教えたら、“ 私よりバカだったん

だ ” と言われてすごくくやしかった」(よしっ

ちょ・中 3・. おとめ座)「いて座のコって何

気ない言葉で傷つけるからイヤ」(KIRA・高 3・

おうし座)また平気で約束をやぶったりする、

ちょっといいかげんなところも「バレバレの

ウソをついてヘーキで破ってちょーおしゃべ

りないて座の K、ザケンナ!」(ももいろ子・

高 3・さそり座)(1996 年 11 月号 :16)

記事の最後には「みんなどんなとこがイヤな

のかこれでわかったかな。心当たりのある人

は、そっとまわりの友だちにチェックしてもら

おう」と編集部のコメントが付されている。こ

のように、「ランキング」としての占いは、学

校生活で日常的に直面する場面に応じて、それ

ぞれの星座がどのように見られているのかとい

うことや、異性との関係を発展させたりするた

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めにはどのような注意を払ったらよいかを、類

型的かつ多角的に示すものとなっている。読者

アンケートと組み合わされるようになったの

も、より具体的な内容が求められるようになっ

たためであろう。その一方で「おまじない」は、

予測される事態にどう対応するのかを示す程度

の簡単な内容で、占いに付随するような位置に

置かれるのである。

ここまで見てきたように、90 年代の『マイ

バースデイ』における「占い・おまじない」は、

「心理テスト」や「ランキング」といった形で

学校生活の人間関係を分析し、そのなかで自分

がどのように見られているのかを把握するもの

が見られるようになった。他方で、90 年代の『マ

イバースデイ』は、「精神世界」に言及した「占

い・おまじない」に相当する内容のものも取り

上げるようになる。次に、そうした内容の記事

を見てみよう。

4 「精神世界」と「占い・おまじない」

「精神世界」にまつわる事柄について言及し

た記事は、雑誌の後半に置かれるのが『マイバー

スデイ』の通例である。また、こうした記事は、

一つのテーマに沿って載せられる傾向にあり、

学校生活にまつわる内容のものと同様に、「心

理テスト」と称されることもある。その例とし

て、95 年 5 月号の森井ゆうもによる「逆行催

眠心理テスト」が挙げられる。これは、現在の

自分から子どものころ、さらには転生を待って

いる「霊界時代」にまで遡ることをイメージす

る内容のものとなっている。例えば「前世時代」

という題の記事では、まず「霊界に旅立とう」

としている状態を想像し、そこで手を握ってく

れた相手についての選択肢が示されている。そ

して、選択肢に応じて必要な癒しの方法がわか

るようになっている。

こうした占いでは、将来、大人の女性となっ

た時、どのような生き方があるのかを提示す

るものもある。例えば 93 年 4 月号に掲載され

た鏡リュウジによる「小惑星セレス、パラス、

ジュノーでわかる女性の生き方 3 つの顔!!」

は、小惑星の影響を取り入れた占いの記事であ

る。こうした新しい占いを紹介する理由として

鏡は、「占星学もひとつの学問である以上、日々

発展進歩を遂げて」いるとしたうえで、次のよ

うに述べている。

どうして今までの星だけではだめなので

しょうか。それは、簡単にいえば人間の社会

と意識が時代とともに複雑になっていって、

今までの惑星だけでは足りなくなったからな

のです。たとえば時代とともに女性は男性と

同じように公の顔と私生活の顔などをつかい

分けなければならなくなり、それに対応し

て小惑星を用いるようになってきたのです。

(1993 年 4 月号 : 193)

続く記事では影響を与える小惑星を割り出し

た上で、「どんな妻、母になるか」とか「どう

いう仕事につくか」などが書かれている。例え

ば「ジュノーがてんびん座」の人は結婚後に家

事をおろそかにしやすいが、それは女性だけの

役割ではないので分担していくとよいというよ

うなアドバイスが付されている。こうした記事

では、80 年代の記事にも見られるように、占

星術についての専門的な知識も示されている。

また 95 年 4 月号には、風水について取り上げ

た小林祥晃による「恋が実る部屋、こわれる部

屋」や、神秘的な力を秘めた石とされるパワー

ストーンについて解説した宮沢みちによる「き

れいだから、好き!パワーストーン」なども掲

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載されてきた。

このように、90 年代の「占い・おまじない」

の記事のなかには、死や霊界といったものや、

西洋占星術のなかでも専門性の高い知識が示さ

れており、「精神世界」について掘り下げた記

事が見られるようになる。そうしたなか、マド

モワゼル愛は 93 年 6 月号から「読めば心が楽

になる大切な 30 のお話」を連載し、その続編

として 96 年 1 月号から「精神世界エッセイ」

と副題をつけた「ハートカプセル」と題するエッ

セイを連載するようになる 15。例えば「ハート

カプセル」の第一回目では、「心はあなたの思っ

ていた方向に動いているのです」という副題が

付されている。その内容としてはまず、「心」

の在り方が悲観的な気持ちに傾く惰性を避け、

「心」の習慣を変える必要があると述べている。

なぜなら、心は明るければ天界へつながり、悲

しい時には幽界につながっているからだと主張

されているのである。ただし、こうした考えに

ついて愛は「こうしたことをこれまでは宗教的

に解釈してきたのですが、これは宗教ではあり

ません。人間の心の働きは無限であって、この

世的なエリア外にも通じるということです。」

と述べている。他にも、95 年 4 月号の「彼の

愛をつかむ告白後の態度について」では、相手

に告白をしたあと、心の揺れを抑えつつ相手の

返事を待つことの大事さを説き、以下のように

述べている。

待てるのは本当の大人だけです。心が貧し

く弱く自己愛にしか関心のない人は待つこと

ができません。反対に言うなら、どんなに貧

しく弱くとも、待つことを知れば私たちは

りっぱな女性になれるのです。育児が子ども

の成長を待ち耐える面が大きいように、それ

は女性に求められる資質でしょう。(中略)

待つことを知った女性ならば、しゃべれない

赤ちゃんがしゃべれるのを楽しみに、歩ける

のを楽しみに、日々変わらぬ笑顔を赤ちゃ

んに投げかけていくのではないでしょうか。

(1995 年 4 月号 : 136)

このように、愛のエッセイは「精神世界」に

深く言及するなかで、それが現状をそのままに

受け止める「心」の在り方と密接に結びついて

いることを主張してきたことに特徴がある。そ

してそうした「心」の在り方こそが、大人の女

性へと成長を遂げる必要な資質であると愛は言

うのである。ただし愛のエッセイはあくまで読

み物として提示されるものであり、具体的な「占

い・おまじない」の行い方や、その内容を紹介

するものではない。

5 脱「魔女」化する「占い・おまじない」

とその様相

以上、ここまで『マイバースデイ』の 90 年

代の記事を中心に整理してきた。ここからは、

80 年代における「占い・おまじない」のあり

ようと比較しつつ、90 年代の特徴についてあ

らためて検討していきたい。

みてきたように、80 年代の『マイバースデ

イ』における「占い・おまじない」は、神秘的

な力を身に付けて周囲を幸せにする白魔女の理

想像をもとに、その理想像に向かって努力する

存在として、「魔女」のモデルを読者に提示す

るものであった。述べたように、80 年代に入

り多様な占い雑誌が発刊されてきたが、そのな

かで『マイバースデイ』が大きく支持を得てき

たのも、独自の「魔女」のモデルを読者に示し

てきたからであると言えるだろう。さらに『マ

イバースデイ』は、占い師と読者による緩やか

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な共同体をも形成してきた。それに対して 90

年代の『マイバースデイ』では、ライフスタイ

ルの記事において、学校で周囲から好印象を受

けるための記事が優勢となる。また、90 年代

の『マイバースデイ』における「占い・おまじ

ない」では、周囲からどのように見られている

のかを判断する、「心理テスト」と題された占

いと、学校の人間関係で遭遇する場面について

十二星座ごとに運勢の良いものを提示する「ラ

ンキング」としての占いが、それぞれの場面に

応じて効果的、効率的な「おまじない」ともに

紹介されるようになる。

このような特徴から理解されるように、80

年代の「占い・おまじない」は「魔女」のモデ

ルを提示し、そこに向かって努力することで望

ましい自己が獲得されるという考え方が示され

た。さらには、その努力のための空間として、

学校という場を意味づけする役割も担ってきた

のである。こうした役割は、学校という限定さ

れた場であるが、少女たちにとっては切実で重

要な意味を持つ「世界」に対して、一つの統一

された意味、すなわち「天蓋」に相当する意味

を与えるものであったと言えるだろう。だが、

90 年代にはこうした「魔女」のモデルは後退

し、「占い・おまじない」は「天蓋」を担う役

目から降りていった。だが、「占い・おまじない」

は誌面から後退したのではなく、学校という空

間のなかでの人間関係を、その場面や状況に応

じてさまざまな角度から分析するツールへと変

化した。そのことからは、「占い・おまじない」

の目的がそれに依拠して分析される人間関係、

すなわち他者からの視線という指標によって左

右されるものであり、少女が自己を状況依存的

に位置づけるためのものになったと言えるだろ

う。誌面を通した占い師や読者同士のつながり

が強調されなくなったのも、こうした現実での

人間関係を重視するようになった変化と関連し

ていることが推測される 16。

こうした変化からは、「占い・おまじない」

を「認識のための『地図』」とみる芳賀、弓山

の見方は、90 年代の「占い・おまじない」に

おいてこそ強く見られるものであったと指摘さ

れる。ただしその「地図」とは、学校という限

定された空間での人間関係を、さまざまな角度

から逐次、分析することに重きを置くもので

あった。言い換えれば、ここでは「地図」その

ものをいわばフェティッシュに描くことが目的

とされているのであった。そして、そのよう

な「地図」によって確定される自己とは、学校

での異性や友人を参照点としながら、辛うじて

局所的に把握されるだけの存在にすぎないので

ある。しかしだからと言って、90 年代の「占

い・おまじない」が少女たちにとって些末なも

のとなったとは言えないだろう。むしろ、学校

で少女たちが抱く不安に対し、自己を位置づけ

る「地図」を示すことで対処する役割へと「占

い・おまじない」が変化したと言える。ただし、

みてきたように、ここでの「地図」を提供して

いるのは、バーガーのいう「一般的な『社会

学』」ではなく、「占い・おまじない」なのであ

る。だが、こうした 90 年代の『マイバースデイ』

にみられる「占い・おまじない」の特殊な役割

からは、学校という限定された空間の中で、「安

住の地の喪失」と呼べるような不安を少女たち

が抱えていたことを浮き彫りにする 17。

他方でこうした動向は、少女たちのあいだか

ら「占い・おまじない」の魅力が失われていく

可能性があったことがうかがわれる。なぜな

ら、学校における自己の位置を把握する「地図」

が手に入れられるならば、それは必ずしも「占

い・おまじない」による必要はないからである。

整理したように、90 年代の『マイバースデイ』

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における「ライフスタイル」の記事には、学校

のなかで自身がどのように見られているのかを

探る内容のものが掲載されるようになった。手

段は異なるが、それは「占い・おまじない」と

ライフスタイルの記事との役割において、大き

な差異は認められないのである。90 年代の「占

い・おまじない」が神秘性を強調しなくなった

のも、「魔女」のモデルが脱落しただけでなく、

人間関係を分析する機能がより重視されるよう

になったからにほかならならい 18。このことは、

「占い・おまじない」の情報を得る手段が雑誌

からウェブに移行しただけでなく、2000 年代

に入って『マイバースデイ』をはじめとする占

いの専門誌が相次いで休刊、廃刊するに至った

一つの要因として考えることができるのではな

いだろうか 19。

しかし、だからと言って「占い・おまじな

い」が魅力を失ったわけではない。見てきたよ

うに、90 年代の『マイバースデイ』に登場し

た「精神世界」に言及する記事では、女性とし

ての多様な生き方や成長するための「心」構え

がしばしば言及されている。そのことで、90

年代の『マイバースデイ』は少女たちに、学校

の外側にも目を向けさせていた。「スピリチュ

アル・ブーム」へと接合するこうした動向とは、

「魔女」のモデルは登場しないものの、90 年代

でもいわゆる魔術的なものが「占い・おまじな

い」に見いだされるものであると言える。これ

は、個人が自身の宗教性やスピリチュアリティ

を選び取ろうとする「個人の再聖化」といった

観点からとらえられるだろう 20。ただし、こう

した内容のものは、冒頭で挙げた他の占い雑誌

にも見られるものであり、必ずしも『マイバー

スデイ』に独自の傾向とは言えない。そして、

ここで「占い・おまじない」が示す女性として

の将来像は、あくまで「妻」や「母」といったジェ

ンダーの枠組みを前提としているのである。

おわりに 

以上、見てきたように、80 年代の「占い・

おまじない」は「魔女」のモデルを提示し、学

校という空間に対して、努力によって自己を獲

得する場としての意味を与えるものであった。

それに対して、90 年代の「占い・おまじない」は、

一方で学校での人間関係をその都度の場面に応

じて分析するための道具を提供するものと、他

方で学校とは離れた形で「精神世界」を追求す

ることで、大人の女性としての将来を考えるも

のとに分化していった。このように、90 年代

の『マイバースデイ』における「占い・おまじ

ない」は 80 年代とは異なる様相を示すように

なったが、それでもなお、学校生活から離脱す

る方向性を示したり、変革をもたらそうとした

りする方向性を示すことはなかった。この点

で、「占い・おまじない」は「宗教ブーム」と

いう基盤を共有しながらも、現実世界の変革を

暴力という形でもたらそうとしたオウム真理教

とは、対極に位置すると言えるだろう。

冒頭でも述べたように、2000 年代に入って

大人の女性たちの間に広まった「スピリチュア

ル・ブーム」において、再び「占い・おまじない」

も注目を集めている 21。そこでは、「精神世界」

に深く言及した書籍などが登場しているだけで

なく、「占い・おまじない」に関する専門的な

書籍なども紹介されるようにもなった。また、

占い師による教室も開設されるに至っている22。このように、80 年代の「魔女」、90 年代の「精

神世界」への関心、さらには 2000 年代以降の

「スピリチュアル・ブーム」という流れの中に

は、一貫して、個人的なレベルで宗教的なもの

を選び取ろうとする動きが継続してみられるの

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である。こうした流れのなかで、新たに魔女や

魔術といったものの存在が注目されていること

も強調しておきたい。そのさい、ジェンダーの

視点をどうとらえるかが、一つのカギになると

思われる。

注1 本稿で採用する脱「魔女」という表現は、『マイバー

スデイ』に限定的な意味において使用している。2 読者数に関しては、国立国会図書館インターネッ

ト資料保存事業における「第 86 回常設展示占いあ

れこれ」(2010)を参照されたい。3 一般に、伝統的な占いは、超越性を象徴する天体

や植物などが示す予兆を読み取り、天候や災厄と

いった未来の出来事を予測するものとされてきた

(板橋 2001)。他方、まじないはそうした災厄を予

防する技法として受け止められてきたという違い

がある(神崎 1999)。重要なのは、伝統的な占い

やまじないは、社会や集団に関する事柄を対象と

している点である。それに対し、近年の占いとま

じないは個人を重視するものとなった。『マイバー

スデイ』において両者は混交して提示されており、

内容からその両者の役割を区別することは難しい。

このことから、本稿では「占い・おまじない」と

一体的に表記する。4 島薗進は 1980 年代から 90 年代の「宗教ブーム」

を構成する要素として他に、新新宗教の発展、拡

大と、「霊性」(Spirituality)を重視する世界観を共

有しつつも、個人主義をとる人々から支持を集め

てきた新霊性運動の出現を挙げている。このなか

で、組織を形成する新新宗教と、大衆に広く浸透

した「呪術 = 宗教的大衆文化」は対照的な存在と

して位置づけられている(島薗 2001: 172-196)。5 他にも、『マイバースデイ』をはじめ、当時、数

多く出版されていた女性向けの占い雑誌を分析、

検討した芳賀の議論が挙げられる(芳賀 1994: 67-

72)。6 オウム真理教と『マイバースデイ』の双方に言及

していたものとして、例えば弓山達也による「青

年層における宗教情報の伝達について」という題

の報告書が挙げられる。これは、「宗教と社会」学

会第 3 回学術大会で行われた「情報時代は宗教を

変えるか?」というテーマのシンポジウムでのも

のであり、若者の間に広まる宗教観とメディアの

関係性について、大学で行ったアンケートをもと

に分析したものである。そのなかで、『マイバース

デイ』が「おまじない」の内容を標準化し、流布

させる機能を果たしてきたと言及されている。な

お、このシンポジウムの冒頭で弓山は、オウム真

理教が宗教と情報化を論じる上で重要な手がかり

であることも指摘している(弓山 1996: 25-45)。7「スピリチュアル・ブーム」とは、「精神世界」に

関与するグッズやセッションが商品としてやりと

りされるブームの広まりを指す。有元裕美子はこ

れを「スピリチュアル市場」と名づけ、「占い・お

まじない」も含めて量的な分析を行っている(有

元 2011)。また、「スピリチュアル・カウンセラー」

を名乗る江原啓之が、メディアでどのように受容

されてきたのかを検討した堀江宗正による議論も

参照されたい(堀江 2005: 50-74)。さらに、ブー

ムで注目を集めた西洋占星術研究家の鏡リュウジ

について、橋迫(2012)を参照されたい。8 雑誌を分析する方法として、今回は言葉をカテ

ゴリー化して分析する手法(牧野 2013)ではな

く、主に雑誌の目次や文脈に注目して論じる方法

をとった。その理由として、『マイバースデイ』は、

記事の文脈に踏み込まないとその変化が見出しに

くいことが挙げられる。9 MB とは my birthday の略である。なお、2012 年

に発刊された『マイバースデイ』の復刻版によれば、

第 1 期の会員数は約 3 万人であり、第 1 回の「読

者の会」には 600 人ほどが集まったとされている。

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130 ソシオロゴス NO.39 / 2015

10 ルネは本名を渡辺幸次郎といい、彼が創設した「ル

ネ・ヴァン・ダール公式研究所」の HP によれば、

1942 年生まれの西洋占星術家である。『マイバー

スデイ』の他、著作活動や、テレビに出演するな

どしていた。なお、ルネは 2011 年 11 月に没して

いる。11 占星術家であるマーク・矢崎はルネに先駆けて『マ

イバースデイ』に登場しているが、88 年 10 月号

に掲載された「マークの魔女入門特集」のなかで、

読者からの質問に答える形でルネの著作に影響を

受けて執筆活動をはじめたことや、ルネを先生と

思っていると答えるなど、ルネからの影響を受け

ていることがうかがわれる。また、東洋占星術も

専門とするエミールは、ルネと一緒に記事に誌面

に登場しており、同じくルネの影響を受けている

ことがうかがわれる。両者について詳しくは橋迫

(2014a; 2014b)を参照されたい。12 こうした『マイバースデイ』の特徴は、修養を

重視し関連する書籍を出版してきた実業之日本社

の姿勢とも関連していると思われる。詳しくは馬

静による議論(馬静 2006)を参照されたい。また、

実業之日本社は近代における「少女」像の確立に

影響を与えた雑誌『少女の友』も出版してきた(今

田 2007)。13 80 年代の『マイバースデイ』において中心的な

占い師として人気を集めたルネは、90 年代以降、

先に触れた占い専門誌『MISTY』に活動の重点を移

すようになる。14 また、それまで『マイバースデイ』のマスコッ

ト で あ っ た 魔 女 を 模 し た「マ イ ビ ー ち ゃ ん」 が

1989 年 5 月号から別のキャラクターに変更されて

いる。15 マドモワゼル愛は、西洋占星術を主な専門とす

る男性の占い師であり、『マイバースデイ』には

80 年代から記事を掲載したり、「友の会」に参加

をしてきた。現在も、執筆活動やラジオ出演など

の活動を行っている。16 こうした 90 年代の「占い・おまじない」は、「心

理主義化」(森 2000)に近い働きを担っているよ

うにも見える。しかし、90 年代の「占い・おまじ

ない」は自己の内面や、「自己実現」といったもの

に踏み込むものではないという違いが指摘される。

また浅野智彦は 90 年代から 2000 年代にかけての

若者に対する意識調査から、若者の関係性が希薄

化したのではなく、関係性のなかで友人を場面に

よって選ぶ「多チャンネル化」「状況志向」を示す

ようになったとしている(浅野 2006: 233-260)。17 さらに浅野は、若者からは「友人関係をうまく

マネージメント」するために、「今おかれている関

係がどのようなものであるのか、そこで共有され

ている情報は何なのか」を見極める「繊細さ」が

見いだされるとしている(浅野 2006: 233-260)。18 こうした例として、2000 年代に入って急速に普

及したケータイが挙げられる。例えば土井隆義は

『友だち地獄――「空気を読む」世代のサバイバル』

(土井 2008)のなかで、2000 年代から若者のあい

だに急速に普及したケータイについて注目してい

る。なかでも土井はメール機能に注目し、そこで

若者が重視しているのはその内容ではなく、やり

とりすることそのものであると指摘する。その上

で、ケータイとは身体に寄り添って自分の内面を

外的世界と媒介する、いわばナビーゲートツール

であると述べている(土井 2008: 140-176)。こう

した若者にとってのケータイのありようは、学校

を中心とする人間関係のなかで、自らの居場所を

判断しようとする 90 年代の『マイバースデイ』に

見られる「占い・おまじない」に類似していると

言えるのではないだろうか。19 現在『マイバースデイ』はウェブにホームペー

ジを開いている。後続サイトについては「説話社

ハッピーウェブ」(2015)を参照されたい。20 島薗進は現代日本社会において、「個人のスピリ

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ソシオロゴス NO.39 / 2015 131

チュアリティが尊ばれる動向」と「宗教復興勢力

が集団的な宗教性を尊ぶ動向」が両極を向いてい

ると指摘した上で、両者には共通して個人が新た

に宗教性やスピリチュアリティを獲得しようとす

る「個人の再聖化(宗教化)」が見いだされると述

べている。詳しくは島薗(2007: 301-304)を参照

されたい。21 ただし、「スピリチュアル・ブーム」から若者が

完全に撤退したわけではない。詳しくは堀江によ

る議論(堀江 2010)を参照されたい。22 こうしたものとして、例えば鏡リュウジが『朝

日カルチャーセンター』で開講しているものや、

原宿にある占いの館『塔里木』の教室などが挙げ

られる。また、「説話社ハッピーウェブ」も 2015

年 3 月から「ちえの樹」という教室を開講する予

定である。

文献

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132 ソシオロゴス NO.39 / 2015

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鈴木正崇,2006,「占いの世相史」新谷尚紀・岩本通弥編『都市の暮らしの民俗学③――都市の生活リズム』

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(はしさこ みずほ、立教大学社会学部、[email protected]

(査読者 堀江宗正、牧野智和)

“Fortune-telling & charm goods” Breaking way from the Ideal Model of “Witch”:

Through the analysis of the magazine “My Birthday” in 90’sMizuho HASHISAKO

 This paper is aimed at investigating what happened between the boom of fortune-telling and charm among girls in 1980s

and its deterioration in 2000s in Japan, through analyzing the articles of “My Birthday”, which is well known as a representa-

tive “fortune-telling & charm” magazine for girls. As I have already made clear at another paper, fortune-telling and charm in

80s showed girls the ideal model of “Witch” and encouraged them to face up positively to their school lives, by cultivating their

character aiming at the model. But fortune-telling and charm in 90s was changed to be a“map” with which they could make

sure how to find out their standpoint in school. Thus fortune-telling and charm has already been changed to be a mere convenient

tool to give girls information with which they could survive their hard school life. But on the other hands, fortune-telling and

charm has become to describe about “spiritual world”.